以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
図1は、実施形態における圧延システムの構成を示す図である。図2は、前記圧延システムにおける、図1より詳細な圧延機の構成を示す図である。図3は、ロールギャップ指令の適切性を説明するための図である。図3A、図3Cおよび図3Eは、ロールギャップ指令値を示し、図3B、図3Dおよび図3Fは、実績のロールギャップ指令値を示す。各図の横軸は、経過時間であり、各図の縦軸は、ロールギャップ長Sの目標値を基準(0)としたロールギャップの位置である。
実施形態における圧延システムは、圧延対象である圧延材を自動的に所定の目標の厚み(板厚)となるように圧延するシステムであり、圧延機と、前記圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値(設定値)となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御装置とを備える。前記圧延機の板厚制御装置は、前記圧延材の厚みが目標値となるように、前記圧延材を圧延する一対のワークロールにおけるロールギャップ長を制御するギャップ制御部と、前記ギャップ制御部がロールギャップ指令値を所定の基準値から所定の制御量で変更することで前記ロールギャップ長を制御するように、前記ワークロールのミル定数を調整するミル定数調整部とを備える。
このような圧延システムSは、より具体的には、例えば、図1に示すように、圧延機1と、板厚制御部2と、第1速度計4と、第1厚み計5と、第2速度計6と、第2厚み計7と、第1デフレクタロール8と、第2デフレクタロール9とを備え、例えば第1および第2リールR1、R2に巻回された帯状の圧延材WKを、第1および第2リールR1、R2間に配設された圧延機1によって圧延する。この圧延システムSによって製造される圧延製品の板厚は、任意であって良いが、近年の薄物化に鑑み、好適には、例えば数百ミクロンメートル以下や100μm以下等の領域である。
圧延機1は、一対のワークロールの間に圧延材WKを通し、前記一対のワークロールから力を受けて変形することでその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形する装置である。圧延機1は、複数のパスそれぞれに対応する前記一対のワークロールを複数備え、圧延材WKを前記複数の一対のワークロールにおける各間(各パス)を順次に通過させることによって順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するタンデム型圧延機であって良いが、本実施形態では、前記一対のワークロールを1個備え、圧延材WKを前記一対のワークロールの間に、正方向およびその逆方向に1または複数回通過させることによって各回(各パス)で順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するリバース型圧延機である。すなわち、複数回のパスを実施する一対のワークロールは、異なっても同一であっても良い。
本実施形態では、より具体的には、圧延機1は、例えば、図1および図2に示すように、圧下装置13と、圧下装置13によりその間に力を加えながら圧延材WKを通して圧延材WKを圧延する一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2と、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2それぞれを支持する一対の第1および第2バックアップロール12−1、12−2と、圧下装置13によって調整された、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2におけるロールギャップ長を測定するロールギャップ長測定部14と、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2のうちの少なくとも一方に、本実施形態では第1ワークロール11−1に、軸に向かう力を第1ワークロール11の外側からかける力印加部15と、第1ワークロール11−1および第1バックアップロール12−1を収容し、支持する上部ハウジングHSaと、第2ワークロール11−2および第2バックアップロール12−2を収容し、支持する下部ハウジングHSbと、これら一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2、一対の第1および第2バックアップロール12−1、12−2、圧下装置13、ロールギャップ長測定部14、力印加部15、上部ハウジングHSaおよび下部ハウジングHSbを収容する圧延機ハウジングHSとを備える。なお、図1に示す例では、1つのワークロール11は、1つのバックアップロール12によって支持されるが、複数のバックアップロール12によって支持されても良い。すなわち、圧延機1は、縦型ミルやクラスタ型ミル等の複数段型圧延機であっても良い。
圧下装置13は、板厚制御部2に接続され、板厚制御部2の制御に従って、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2のうちの一方を他方に対して近接移動または離間移動することによって、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2の間における隙間の長さ(ロールギャップ長)を調整しながら、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2を圧下する装置である。圧下装置13は、本実施形態では、高応答性の観点から、例えば、第2ワークロール11−2を収容する下部ハウジングHSbをシリンダロッドで前記接移動または離間移動することによって前記ロールギャップ長を調整する油圧圧下装置である。ロールギャップ長測定部14は、板厚制御部21に接続され、その測定したロールギャップ長を板厚制御部2へ出力する。ロールギャップ長測定部14は、例えば、本実施形態では、圧下装置13のシリンダロッドの位置を検出する位置センサを備えて構成される。圧下装置13によって第2ワークロール11−2を第1ワークロール11−1に当接させて、いわゆるガタ殺しした際の前記位置センサのセンサ出力を零(0)に校正することによって、前記位置センサのセンサ出力がロールギャップ長となる。力印加部15は、例えば、本実施形態では、板厚制御部2に接続され、板厚制御部2の制御に従って、第1バックアップロール12−1に下方向に圧力をかけるバランス圧調整シリンダを備えて構成され、バランス圧調整シリンダで第1バックアップロールに下方向に圧力をかけることで、第1ワークロール11−1に、軸に向かう力を第1ワークロール11−1の外側からかける。このような力印加部15では、第1バックアップロール12−1にかけられる下方向の圧力が大きくなると、ワークロール11のミル定数が大きくなり、一方、第1バックアップロール12−1にかけられる下方向の圧力が小さくなると、ワークロール11のミル定数が小さくなる。
第1デフレクタロール8は、圧延機1に対し一方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。第2デフレクタロール9は、圧延機1に対し他方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。
第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの移動速度を測定する装置である。第1速度計4は、板厚制御部2に接続され、その測定した圧延材WKの移動速度を板厚制御部2へ出力する。第1速度計4は、本実施形態では、例えば、第1デフレクタロール8の回転速度を測定するパルスジェネレータである。第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの移動速度を測定する装置である。第2速度計6は、板厚制御部2に接続され、その測定した圧延材WKの移動速度を板厚制御部2へ出力する。第2速度計6は、本実施形態では、例えば、第2デフレクタロール9の回転速度を測定するパルスジェネレータである。
第1厚み計5は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第1厚み計5は、板厚制御部2に接続され、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御部2へ出力する。第1厚み計5は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたX線透過型厚み計である。第2厚み計7は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第2厚み計7は、板厚制御部2に接続され、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御部2へ出力する。第2厚み計7は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたX線透過型厚み計である。
ここで、第1および第2速度計4、6で圧延材WKの速度を計測することで、サンプリング時間間隔が予め既知であるので、板厚制御部2は、第1および第2厚み計5、7で計測された厚みに対する圧延材WKにおける長手方向の位置を求めることができ、第1および第2厚み計5、7で計測された厚みと圧延材WKにおける長手方向の位置とを互いに対応付けることができる。すなわち、板厚制御部2は、圧延材WKの板厚をその長手方向でトラッキングできる。
なお、第1および第2速度計4、6は、それぞれ、パルスジェネレータに限定されるものではなく、他の速度計であっても良い。例えば、第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良く、第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良い。特に、マスフロー板厚制御の場合では、板速度の検出精度が板厚精度に影響するので、第1および第2速度計4、6は、それぞれ、検出精度のより高いレーザドップラ速度計が好適である。第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、X線透過型厚み計に限定されるものではなく、他の厚み計であっても良い。例えば、第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、レーザ型厚み計や接触式厚み計等であっても良い。
図1に矢符(→)で示す正方向(図1では紙面の左側から右側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ロールギャップ長測定部14、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第1リールR1は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第1デフレクタロール8は、第1リールR1から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第1速度計4は、入側速度計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの移動速度(入側板速度)を測定し、この測定した入側板速度を板厚制御部2へ出力する。第1厚み計5は、入側厚み計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの厚み(入側板厚)を測定し、この測定した入側板厚を板厚制御部2へ出力する。ロールギャップ長測定部14は、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2におけるロールギャップ長を測定し、この測定したロールギャップ長を板厚制御部2へ出力する。第2デフレクタロール9は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第2リールR2の方向に変更する。第2リールR2は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第2速度計6は、出側速度計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの移動速度(出側板速度)を測定し、この測定した出側速度を板厚制御部2へ出力する。第2厚み計7は、出側厚み計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの厚み(出側板厚)を測定し、この測定した出側板厚を板厚制御部2へ出力する。
一方、図1に矢符(→)で示す前記正方向に対し逆方向(図1では紙面の右側から左側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ロールギャップ長測定部14、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第2リールR2は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第2デフレクタロール9は、第2リールR2から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第2速度計6は、入側速度計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板速度を測定し、この測定した入側板速度を板厚制御部2へ出力する。第2厚み計7は、入側厚み計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板厚を測定し、この測定した入側板厚を板厚制御部2へ出力する。ロールギャップ長測定部14は、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2におけるロールギャップ長を測定し、この測定したロールギャップ長を板厚制御部2へ出力する。第1デフレクタロール8は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第1リールR1の方向に変更する。第1リールR1は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第1速度計4は、出側速度計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板速度を測定し、この測定した出側板速度を板厚制御部2へ出力する。第1厚み計5は、出側厚み計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板厚を測定し、この測定した出側板厚を板厚制御部2へ出力する。
板厚制御部2は、圧延機1によって圧延される圧延材WKの厚みが圧延終了後の目標値(最終目標値)となるように圧延機1を制御する装置であり、板厚制御装置の一例に相当する。本実施形態では、板厚制御装置2は、フィードフォワード板厚制御またマスフロー板厚制御によって圧下装置13を介してワークロール11のロールギャップ長を調整することで圧延機1を制御する。この際に、本実施形態では、板厚制御部2は、ロールギャップ指令値を所定の基準値から所定の制御量で変更することで前記ロールギャップ長を制御するように、ワークロール11のミル定数を調整する。板厚制御部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、記憶素子(ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等)およびその周辺回路を備えるマイクロコンピュータを備えて構成され、前記記憶素子に記憶されたプログラムの実行によって前記CPUに制御部21、ギャップ制御部22およびミル定数制御部23を機能的に備える。なお、板厚制御部21は、PLC(Programmable Logic Controller)を備えて構成されても良い。
制御部21は、圧延システムSの各部1、2、4〜9を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、圧延システムSの全体制御を司るものである。
ギャップ制御部22は、フィードフォワード板厚制御またはマスフロー板厚制御によって圧延機1におけるワークロール11のロールギャップ長を制御するものである。
フィードフォワード板厚制御は、入側板厚に基づいて出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式である。このようなフィードフォワード板厚制御では、ロールギャップ指令値を△Sとし、入側板厚偏差を△Hとし、圧延機1のミル定数をMとし、圧延材WKの塑性定数をmとし、制御ゲインをCとした場合、一般に、次式(1)によって制御が実施される。
△S=C×(m/M)×△H ・・・(1)
一方、マスフロー板厚制御は、入側板速度、出側板速度および入側板厚に基づいて出側板厚推定値を求め、出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式である。このマスフロー板厚制御は、入側板巾W1に対する出側板巾W2の広がりが無視できる板厚、すなわち、W1=W2が成り立つ板厚において好適に利用できる。このようなマスフロー板厚制御は、入側板厚をHとし、出側板厚をhとし、出側板速度をV1とし、出側板速度をV2とし、制御ゲインをCとした場合、一般に、次式(2)によって制御される。
△S=C×{(M+m)/M}×{H×(V1/V2)−h} ・・・(2)
ミル定数制御部23は、ギャップ制御部22がロールギャップ指令値△Sを所定の基準値Refから所定の制御量dSで変更することでロールギャップ長を制御するように、力印加部によってワークロール11のミル定数を調整するものである。より具体的には、ミル定数制御部23は、ロールギャップ長測定部14で測定されたロールギャップ長Sから目標値を減算した減算値を実績のロールギャップ指令値△Scとして求め、この求めた実績のロールギャップ長指令値△Scが、前記所定の基準値Refを含む所定の基準範囲(αないしβの範囲、α≦Ref≦β)における上限値βを上回る場合には、ワークロール11のミル定数Mが大きくなるように、力印加部15によってワークロール11に外側からかけられる力の大きさを調整して前記ワークロール11のミル定数Mを調整し、前記求めた実績のロールギャップ指令値△Scが、前記所定の基準値Refを含む所定の基準範囲(αないしβの範囲)における下限値αを下回る場合には、前記ワークロール11のミル定数Mが小さくなるように、力印加部15によってワークロール11に外側からかけられる力の大きさを調整して前記ワークロール11のミル定数Mを調整する。
前記所定の基準値Refは、前記所定の時間間隔Tcで繰り返し実行される板厚制御における1回の板厚制御でロールギャップ指令値△Sを加減する制御量(変更量)dS、ロールギャップ指令値△Sに含まれる誤差εおよびロールギャップ指令値△Sが当該所定の基準値Refに到達するまでの時間Tref等を考慮することによって、予め適宜に設定される。
例えば、前記制御量dSが例えばロールギャップ長の検出精度(前記ロールギャップ長測定部14としての位置センサの検出精度)等の圧延システムSの仕様によって1μmである場合に(dS=1μm)、図3Cに示すように、前記所定の基準値Refが1μmに設定されると(Ref=1μm)、図3Dに示すようにロールギャップ指令値△Sは、1回の板厚制御で前記所定の基準値1μmに到達する。例えば、前記所定の時間間隔Tcが圧延システムSの仕様によって0.001秒である場合には(Tc=0.001秒)、ロールギャップ指令値△Sは、0.001秒(=0.001×1)で前記所定の基準値1μmに到達する(Tref=0.001秒)。しかしながら、ロールギャップ指令値△Sは、この基準値1μmに収束させるために前記制御量1μmで振動する可能性があるので、±100%(=(±1/1)×100)の誤差εを含むことになってしまう(ε=100%)。
一方、この誤差εを低減するために、図3Eに示すように、前記所定の基準値Refが30μmに設定されると(Ref=30μm)、図3Fに示すように、ロールギャップ指令値△Sは、この基準値30μmに収束させるために、±約3.3%(=(±1/30)×100)の誤差εを含むことになり(ε=±約3.3%)、前記誤差εは、図3Cおよび図3Dの場合に較べて、顕著に低減される。しかしながら、ロールギャップ指令値△Sは、30回の板厚制御で前記所定の基準値30μmに到達することになり、上述の例では、ロールギャップ指令値△Sは、前記所定の基準値30μmに到達するまでに、0.03秒(=0.001×30)の時間が掛かってしまう(Tref=0.03秒)。
このように前記制御量dSにおいてロールギャップ指令値△Sに含まれる誤差εとロールギャップ指令値△Sが当該所定の基準値Refに到達するまでの時間Trefとは、いわゆるトレードオフの関係にある。このため、本実施形態では、圧延システムSで許容される前記誤差εの範囲で、最も前記時間Trefが短くなるように、前記所定の基準値Refは、予め設定される。上述の例のように、前記制御量dSが1μmである場合(dS=1μm)には、前記所定の基準値Refは、10μmや12μmや15μm等に、予め適宜に設定される。例えば、図3Aに示すように、前記所定の基準値Refが10μmに設定されると(Ref=10μm)、図3Bに示すように、前記誤差εは、±10%(=(1/10)×100)となって、図3Cおよび図3Dに示す前記所定の基準値Refが1μmに設定される場合に較べて良好となり、前記時間Terfは、0.01秒(=0.001×10)となって、図3Eおよび図3Fに示す前記所定の基準値Refが30μmに設定される場合に較べて良好となる。このように前記所定の基準値Refが設定される。
このような観点から、前記基準範囲の下限値αおよび上限値βそれぞれも予め設定され、上述の例では、例えば、α=10μmであってβ=15μmに設定される。
なお、本実施形態では、ミル定数制御部23は、前記ロールギャップ長測定部で測定されたロールギャップ長から前記目標値を減算した減算値を実績のロールギャップ指令値として求める実績値演算部の一例に相当するが、ロールギャップ長測定部14が前記実績値演算部として機能し、その測定したロールギャップ長から前記目標値を減算した減算値を実績のロールギャップ指令値として求め、この求めた実績のロールギャップ指令値を板厚制御部2へ出力しても良い。また、本実施形態では、ミル定数制御部23および力印加部15が、前記ギャップ制御部がロールギャップ指令値を所定の基準値から所定の制御量で変更することで前記ロールギャップ長を制御するように、前記ワークロールのミル定数を調整するミル定数調整部の一例に相当する。
次に、本実施形態の動作について説明する。図4は、前記圧延システムにおけるミル定数の調整に関する動作を示すフローチャートである。
このような圧延システムSでは、電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。そして、例えば、プログラムの実行によって、板厚制御部2の前記CPUには、制御部21、ギャップ制御部22およびミル定数制御部23が機能的に構成される。
そして、圧延材WKの板厚制御では、例えば、フィードフォワード板厚制御を用いる場合では、ギャップ制御部22は、所定の制御間隔(サンプリング間隔)で繰り返し、前記入側厚み計で測定された入側板厚に基づく入側板厚偏差△Hを用いて上述の式1に従ってロールギャップ指令値△Sを求め、この求めたロールギャップ指令値△Sを圧下装置13へ出力する。また例えば、マスフロー板厚制御を用いる場合では、ギャップ制御部22は、所定の制御間隔(サンプリング間隔)で繰り返し、前記入側厚み計、前記入側速度計、前記出側厚み計および前記出側速度計それぞれで測定された入側板厚H、入側速度V1、出側板厚hおよび出側速度V2を用いて上述の式2に従ってロールギャップ指令値△Sを求め、この求めたロールギャップ指令値△Sを圧下装置13へ出力する。なお、この場合における前記式1および式2における圧延機1のミル定数Mは、後述のようにミル定数制御部23で力印加部15を介して調整されたワークロール11のミル定数の値である。
このようなフィードフォワード板厚制御やマスフロー板厚制御の実行中に、所定の制御間隔(サンプリング間隔)で繰り返し、以下のミル定数の調整に関する動作が実行される。
より具体的には、図4において、板厚制御部2は、制御部21によって、ロールギャップ長測定部14で測定されたロールギャップ長Sをロールギャップ長測定部14から読み込み、ミル定数制御部23によって、ロールギャップ長測定部14で測定されたロールギャップ長Sから前記目標値を減算した減算値を実績のロールギャップ指令値△Scとして求める(S11)。
次に、板厚制御部2は、ミル定数制御部23によって、処理S11で求めた実績のロールギャップ指令値△Scが、前記所定の基準値Refを含む所定の基準範囲内か否かを判定する(α≦△Sc≦βか、S12)。上述の例では、α=10μm、β=15μmである。
この処理S12における判定の結果、実績のロールギャップ指令値△Scが前記所定の基準範囲内である場合(α≦△Sc≦β、Yes)には、ワークロール11のミル定数Mを調整する必要がないので、板厚制御部2は、処理を処理S11に戻す。一方、前記処理S12における判定の結果、実績のロールギャップ指令値△Scが前記所定の基準範囲内ではない場合(α>△Scまたは△Sc>β、No)には、板厚制御部2は、ミル定数制御部23によって、処理S11で求めた実績のロールギャップ指令値△Scが、前記所定の基準範囲における上限値を超えるか否かを判定する(S13)。
この処理S13における判定の結果、実績のロールギャップ指令値△Scが前記上限値βを超える場合(△Sc>β、Yes)には、ワークロール11のミル定数Mを大きくしてロールギャップ指令値△Sを小さくする必要があるので、板厚制御部2は、次に、処理S14を実行した後に処理S16を実行する。一方、前記処理S13における判定の結果、実績のロールギャップ指令値△Scが前記上限値βを超えない場合、すなわち、実績のロールギャップ指令値△Scが前記下限値αを下回る場合(α>△Sc、No)には、ワークロール11のミル定数Mを小さくしてロールギャップ指令値△Sを大きくする必要があるので、板厚制御部21は、次に、処理S15を実行した後に処理S16を実行する。
この処理S14では、ミル定数制御部23は、ワークロール11のミル定数Mを、予め設定されたミル定数の変更量△Mだけ大きくなるように(M←M+△M)、力印加部15に対してワークロール11に外側からかけられる力の大きさを調整する第1制御信号を力印加部15へ出力して前記ワークロール11のミル定数Mを調整する。この第1制御信号を受信すると、力印加部15は、前記第1制御信号に従った大きさの力でワークロール11に外側から前記力をかける。これによって前記ワークロール11のミル定数Mが前記ミル定数の変更量△Mだけ大きくなり、この結果、ロールギャップ指令値△Scが前記ミル定数の変更量△Mに応じて量だけ小さくなる。前記ミル定数の変更量△Mは、前記所定の時間間隔Tcで繰り返し実行される板厚制御における1回の板厚制御でワークロール11のミル定数を加減する量であり、予め適宜に設定される。
前記処理S15では、ミル定数制御部23は、ワークロール11のミル定数Mを、前記ミル定数の変更量△Mだけ小さくなるように(M←M−△M)、力印加部15に対してワークロール11に外側からかけられる力の大きさを調整する第2制御信号を力印加部15へ出力して前記ワークロール11のミル定数Mを調整する。この第2制御信号を受信すると、力印加部15は、前記第2制御信号に従った大きさの力でワークロール11に外側から前記力をかける。これによって前記ワークロール11のミル定数Mが前記ミル定数の変更量△Mだけ小さくなり、この結果、ロールギャップ指令値△Scが前記ミル定数の変更量△Mに応じて量だけ大きくなる。
前記処理S16では、板厚制御部2は、制御部21によって、板厚制御の続行か否かを判定する。この判定の結果、例えば、稼働停止指示の受け付け等の板厚制御を続行しない場合には、板厚制御部2は、本処理を終了し、一方、前記判定の結果、板厚制御を続行する場合には、板厚制御部2は、処理を処理S11に戻す。
このようにワークロール11のミル定数Mが調整され、ロールギャップ指令値△Sを前記所定の基準値Refから所定の制御量dSで変更することで前記ロールギャップ長が制御される。一例では、フィードフォワード板厚制御において、出側板厚偏差△hが5μmであって、ワークロール11のミル定数Mが200ton/mmであって圧延材WKの塑性定数mが200ton/mmである場合には、ロールギャップ指令値△Sは、10μm(=((200+200)/200)×5)であり、適切である。複数のパスを実施した結果、出側板厚偏差△hが1μmになって、ワークロール11のミル定数Mが200ton/mmままであって圧延材WKの塑性定数mが1000ton/mmになった場合には、ロールギャップ指令値△Sは、6μm(=((200+1000)/200)×1)であり、適切ではなくなる。このため、上述の動作によって、ワークロール11のミル定数Mを111.1ton/mmに調整すると、約10μm(=((111.1+1000)/111.1)×1)となり、適切となる。
以上説明したように、本実施形態における板厚制御装置の一例としての板厚制御部2およびこれに実装された板厚制御方法は、ワークロール11のミル定数Mを調整できるので、ロールギャップ指令値△Sが不適切な値に設定され得る場合に、ワークロールのミル定数Mを調整することで、不適切なロールギャップ指令値△Sを回避できるから、ロールギャップ指令値△Sをより適切な値に設定できる。
上記板厚制御装置および板厚制御方法は、実績のロールギャップ指令値△Scに応じてワークロール11のミル定数Mを調整するので、適切なロールギャップ指令値△Sを維持できる。
本実施形態によれば、ワークロール11の外側から力をかけることでワークロール11のミル定数Mを調整する圧延機1の板厚制御装置2が提供できる。
そして、本実施形態によれば、このような板厚制御装置および板厚制御方法を備えた圧延システムSが提供される。この圧延システムSは、上記板厚制御装置および板厚制御方法を備えるので、ロールギャップ指令値△Sをより適切な値に設定できる。
なお、上述の実施形態では、ワークロール11のミル定数Mは、力印加部15によってワークロール11の外側から力をかけることで調整されたが、互いにミル定数Mの異なる複数のワークロール11が予め用意され、圧延材WKの種類やパス(パスを重ねると圧延材WKが硬くなる)等に応じて、前記複数のワークロール11から選択されたワークロール11を圧延機1に取り付けることで、前記ワークロール11のミル定数Mが調整されても良い。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。