[式(1)で表される化合物]
本発明のトリプチセン骨格(9,10−ジヒドロ−9,10−o−ベンゼノアントラセン骨格)を有する新規化合物は、下記式(1)で表される。
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して置換基、R3はそれぞれ独立してヒドロキシル基、基[−OR4](式中、R4は炭化水素基を示す)又はハロゲン原子、m1はそれぞれ独立して0〜4の整数、m2は0〜2の整数、nは1以上の整数を示し、右側には、「有機化学・生化学命名法 上 改訂第2版」(訳著者:平山健三、平山和雄、発行所:株式会社南江堂)に記載の方法に従って付けたトリプチセン骨格の位置番号を示す)。
前記式(1)において、R1及びR2で表される置換基としては、例えば、基[−R5](式中、Rは炭化水素基を示し、以下同じ)、基[−OR5]、基[−SR5]、基[−(C=O)−R5]、基[−(C=O)−OR5]、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基などが挙げられる。
R5(又は基[−R5])で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−12アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基など);シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基など);アリール基(例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基等のC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基など);アルケニル基(例えば、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基などのC2−12アルケニル基、好ましくはC2−8アルケニル基など);シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基などのC5−10シクロアルケニル基、好ましくはC5−8シクロアルケニル基など);アルキニル基(例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基)、1−オクチニル基などのC2−12アルキニル基、好ましくはC2−8アルキニル基など);及びこれらを組み合わせた基[例えば、アルキルフェニル基(例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのモノ乃至ペンタC1−4アルキル−C6−10アリール基など);アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]などが挙げられる。
基[−OR5]としては、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−12アルコキシ基など);シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など);アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など);アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)などが挙げられる。
基[−SR5]としては、例えば、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など);シクロアルキルチオ基(例えば、シクロヘキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など);アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基など);アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基など)などが挙げられる。
基[−(C=O)−R5]としては、例えば、アシル基(例えば、アセチル基、ベンゾイル基などのC1−8アシル基など)などが挙げられる。
基[−(C=O)−OR5]としては、例えば、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基などのC1−12アルコキシ−カルボニル基など);シクロアルキルオキシキシカルボニル基(例えば、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのC5−10シクロアルキルオキシ−カルボニル基など);アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基などのC6−10アリールオキシ−カルボニル基など)などが挙げられる。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。耐熱性の観点では、フッ素原子などが好ましい。
置換アミノ基としては、例えば、モノ置換アミノ基[例えば、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基などのC1−4アルキルアミノ基など);アルキルカルボニルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基などのC1−4アルキル−カルボニルアミノ基など)など];ジ置換アミノ基[例えば、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1−4アルキルアミノ基など);ビス(アルキルカルボニル)アミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのビス(C1−4アルキル−カルボニル)アミノ基など)など]、好ましくはジアルキルアミノ基などのジ置換アミノ基などが挙げられる。
これらの基R1のうち、基[−R5](例えば、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基、フェニル基などのC6−10アルキル基など)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)が好ましい。
これらの基R2のうち、基[−R5](例えば、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、基[−OR5](例えば、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子など)が好ましい。
基R1の置換数m1は、例えば、0〜3程度の整数、好ましくは0〜2程度の整数、さらに好ましくは0又は1、特に0である。トリプチセン骨格を構成する2つの異なるベンゼン環において、それぞれの置換数m1は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、前記異なるベンゼン環に置換する基R1の種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。m1が2以上である場合、同一のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、基R1の置換位置は、特に制限されず、トリプチセン骨格の5−位乃至8−位、13−位乃至16−位のいずれの位置であってもよく、例えば、5−位、8−位、13−位、16−位などであってもよい。
基R2の置換数m2は、例えば、0又は1であってもよく、好ましくは0である。m2が2である場合、2つの基R2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、基R2の置換位置は、トリプチセン骨格の2−位及び/又は3−位である。
R3で表される基[−OR4]において、R4で表される炭化水素基は、前記R1及びR2の項に例示のR5で表される炭化水素基と同様のものが挙げられ、代表的な基[−OR4]も前記R1及びR2の項に例示の基[―OR5]と同様である。R3で表される基[−OR4]のうち、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルコキシ基など)が好ましく、なかでも直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ基(特に、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基)がさらに好ましい。
2つの基R3は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。また、基R3のうち、調製が容易な点などから、通常、ヒドロキシル基、基[−OR4](特に、基[−OR4])である場合が多い。
メチレン基の繰り返し数nは、例えば、1〜12(例えば、1〜10)程度の整数から選択してもよく、例えば、1〜8(例えば、1〜6)程度の整数、好ましくは1〜4(例えば、1〜3)程度の整数、さらに好ましくは1又は2(特に、1)であってもよい。nが大きすぎると、重合成分として用いる場合などにおいて、得られる樹脂の耐熱性が低下するおそれがある。なお、2つのnは、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である場合が多い。
前記式(1)で表される化合物として、代表的には、基R3が基[−OR4]である化合物、例えば、1,4−ビス(メトキシカルボニルメトキシ)トリプチセン、1,4−ビス(エトキシカルボニルメトキシ)トリプチセン、1,4−ビス[2−(メトキシカルボニル)エトキシ]トリプチセンなどの1,4−ビス(C1−4アルコキシカルボニルC1−4アルコキシ)トリプチセンなど;基R3がヒドロキシル基である化合物、例えば、1,4−ビス(カルボキシメトキシ)トリプチセン、1,4−ビス(2−カルボキシエトキシ)トリプチセンなどの1,4−ビス(カルボキシC1−4アルコキシ)トリプチセンなど;基R3がハロゲン原子である化合物、例えば、1,4−ビス(クロロカルボニルメトキシ)トリプチセン、1,4−ビス(ブロモカルボニルメトキシ)トリプチセン、1,4−ビス[2−(クロロカルボニル)エトキシ]トリプチセンなどの1,4−ビス(ハロカルボニルC1−4アルコキシ)トリプチセンなどが挙げられる。
(式(1)で表される化合物の製造方法)
式(1)で表されるトリプチセン骨格を有する新規化合物は、例えば、下記反応式に従って調製できる。
(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1、R2、R3、m1、m2及びnは前記式(1)と好ましい態様を含めて同じ)。
反応1(第1の反応)
第1の反応では、式(5)で表されるアントラセン類と、式(6)で表されるp−ベンゾキノン類とを反応させて、式(4)で表される化合物を合成する。式(5)で表されるアントラセン類としては、少なくとも9,10−位が無置換であるアントラセン類、例えば、アントラセン、モノ乃至テトラアルキルアントラセン(例えば、2−t−ブチルアントラセン、2,3−ジメチルアントラセンなどのモノ乃至ジC1−4アルキルアントラセンなど)などが挙げられる。式(6)で表されるp−ベンゾキノン類としては、少なくとも5,6−位が無置換であるp−ベンゾキノン類、例えば、p−ベンゾキノン、アルキル−p−ベンゾキノン(例えば、メチル−p−ベンゾキノンなどのC1−4アルキル−p−ベンゾキノンなど)、アルコキシ−p−ベンゾキノン(例えば、メトキシ−p−ベンゾキノンなどのC1−4アルコキシ−p−ベンゾキノンなど)などが挙げられる。これらの式(5)で表されるアントラセン類及び式(6)で表されるp−ベンゾキノン類は、市販品を使用できる。
式(5)で表されるアントラセン類と、式(6)で表されるp−ベンゾキノン類との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.9〜1/1.5(例えば、1/0.95〜1/1.3)、好ましくは1/0.98〜1/1.2(例えば、1/1〜1/1.1)、さらに好ましくは1/1〜1/1.05程度であってもよい。
反応は、通常、溶媒の存在下で行う場合が多い。溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など);ハロゲン化炭化水素類(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類など);エーテル類(例えば、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類、シクロペンチルメチルエーテルなどの脂環族エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類など);スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど);アミド類(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチル−2−ピロリドンなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類(特にハロゲン化芳香族炭化水素類)が好ましい。
溶媒の割合は、前記アントラセン類及びp−ベンゾキノン類を溶解して、反応を効率よく進行できる程度であればよく、特に制限されない。そのため、溶媒の割合は、式(5)で表されるアントラセン類及び式(6)で表されるp−ベンゾキノン類の総量100重量部に対して、例えば、100〜1000重量部程度であってもよい。
反応は、ルイス酸の存在下で行ってもよく、非存在下で行ってもよい。ルイス酸としては、例えば、ハロゲン化金属(例えば、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルト、ハロゲン化銅、ハロゲン化チタンなど)などが挙げられる。これらのルイス酸は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。ルイス酸の割合は、式(5)で表されるアントラセン類1モルに対して、例えば、0.01〜0.1モル、好ましくは0.01〜0.05モル程度であってもよい。
反応温度は、例えば、40〜200℃程度の範囲から選択でき、例えば、100〜180℃、好ましくは110〜150℃、さらに好ましくは120〜140℃程度であってもよい。なお、反応は、溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、例えば、1〜12時間、好ましくは3〜6時間程度であってもよい。反応終了後、反応生成物は、洗浄、抽出、濃縮、ろ過、再沈殿、遠心分離、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよい。
反応2(第2の反応)
第2の反応では、第1の反応で得られた式(4)で表される化合物を、酸触媒の存在下で異性化させて、式(2)で表される化合物を合成する。
酸触媒としては、強酸であればよく、例えば、ハロゲン化水素、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸などの有機酸などが挙げられる。これらの酸触媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの酸触媒のうち、ハロゲン化水素が好ましく、なかでも、塩化水素、臭化水素(特に臭化水素)などが好ましい。なお、酸は、水溶液の形態(例えば、塩化水素酸(塩酸)、臭化水素酸など)で用いてもよい。酸触媒の割合は、式(4)で表される化合物1モルに対して、例えば、0.01〜0.2モル、好ましくは0.1〜0.2モル程度であってもよい。
反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸類が使用できる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、酢酸が好ましい。
溶媒の割合は、特に制限されず、式(4)で表される化合物100重量部に対して、例えば、100〜1000重量部程度であってもよい。
反応温度は、例えば、40〜200℃(例えば、60〜180℃)程度の範囲から選択でき、例えば、80〜150℃、好ましくは100〜120℃程度であってもよい。なお、反応は、溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、例えば、0.25〜3時間、好ましくは0.5〜1時間程度であってもよい。反応終了後、反応生成物は、洗浄、抽出、濃縮、ろ過、再沈殿、遠心分離、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよい。
反応3(第3の反応)
第3の反応では、第2の反応で得られた式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物とを、塩基(捕捉剤又は酸捕捉剤)の存在下で反応させて、式(1)で表される化合物を合成する。
式(3)において、Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子などが挙げられ、特に、臭素原子が好ましい。また、基R3としては、通常、基[−OR4](メトキシ基などのアルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)など)などであることが多い。式(3)で表される化合物として代表的には、ハロアルカン酸アルキルエステル、例えば、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチル、3−ブロモプロピオン酸メチルなどのハロC2−7アルカン酸C1−6アルキルエステルなどが挙げられる。式(3)で表される化合物は、市販品などを使用できる。
式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/1.5〜1/5、好ましくは1/1.8〜1/3、さらに好ましくは1/2〜1/2.5程度であってもよい。
塩基としては、アミン類(例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミンなど)などの有機塩基であってもよいが、通常、無機塩基を用いることが多い。無機塩基としては、例えば、金属炭酸塩、金属重炭酸塩(又は金属炭酸水素塩)、金属水素化物などが挙げられる。これらの塩基は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、無機塩基、なかでも、金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)、金属重炭酸塩(例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなど)が好ましく、特に、炭酸カリウムなどの金属炭酸塩が好ましい。
塩基の割合は、式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、1.5〜5モル、好ましくは1.8〜3モル、さらに好ましくは2〜2.5モル程度であってもよい。
反応は、通常、溶媒の存在下で行うことが多い。溶媒としては、例えば、第1の反応において例示した溶媒と同様の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、エーテル類(テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(DMF、DMAなど)などが好ましく、DMFなどのアミド類が汎用される。
溶媒の割合は、式(2)及び式(3)で表される化合物が溶解できれば特に制限されない。そのため、溶媒の割合は、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の総量100重量部に対して、例えば、100〜1000重量部程度であってもよい。
反応温度は、例えば、40〜200℃(例えば、50〜150℃)程度の範囲から選択でき、例えば、60〜120℃(例えば、65〜100℃)、好ましくは70〜90℃程度であってもよい。また、反応時間は、例えば、1〜12時間、好ましくは4〜6時間程度であってもよい。反応終了後、反応生成物は、洗浄、抽出、濃縮、ろ過、再沈殿、遠心分離、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよい。
このようにして得られる式(1)で表される化合物は、種々の用途、例えば、樹脂(ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂など)の重合成分などとして有効に利用できる。
[ポリエステル樹脂]
前記式(1)で表される化合物は、樹脂の重合成分(単量体又はモノマ−)、例えば、ポリエステル樹脂の重合成分(例えば、ジカルボン酸単位を形成するためのジカルボン酸成分)として利用できる。
(ジカルボン酸単位(A))
第1のジカルボン酸単位(A1)
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸単位(A)とジオール単位(B)とで形成されたポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸単位(A)が、下記式(A1)で表される第1のジカルボン酸単位(A1)を少なくとも含んでいてもよい。
(式中、R1、R2、m1、m2及びnは、好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
前記式(A1)において、基R1及びR2としては、通常、基[−R5]、基[−OR5]、基[−SR5]、基[−(C=O)−R5]、基[−(C=O)−OR5]、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基(例えば、基[−R5]、基[−OR5]、基[−SR5]、基[−(C=O)−R5]、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基)である場合が多い。
代表的な第1のジカルボン酸単位(A1)としては、前記式(1)の項に例示した代表的な化合物などの第1のジカルボン酸成分(A1)に対応するジカルボン酸単位などが挙げられる。これらの第1のジカルボン酸単位(A1)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
このような第1のジカルボン酸単位(A1)を含むことにより、屈折率及び耐熱性を向上しつつ(又は低下することなく)、複屈折を有効に低減できる。通常、芳香族骨格を樹脂に導入すると、屈折率や耐熱性を向上できるものの、複屈折も増加する傾向がある。しかし、本発明では、ベンゼン環骨格を3つも含む第1のジカルボン酸単位(A1)を含むにもかかわらず、意外にも複屈折を有効に低減できるため、高い耐熱性、高い屈折率及び低い複屈折をバランスよく充足できる。
第1のジカルボン酸単位(A1)の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、1〜100モル%(例えば、10〜100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、20モル%以上(例えば、30〜99モル%)、好ましくは40モル%以上(例えば、50〜97モル%)、さらに好ましくは60モル%以上(例えば、70〜95モル%)、特に80モル%以上(例えば、90モル%以上)であってもよく、実質的に100モル%程度であってもよい。第1のジカルボン酸単位(A1)の割合が少なすぎると、耐熱性や屈折率が低下したり、複屈折を低減できないおそれがある。
第2のジカルボン酸単位(A2)
なお、ジカルボン酸単位(A)は、本発明の効果を害しない範囲であれば、さらに他のジカルボン酸単位(第1のジカルボン酸単位の範囲に属さない第2のジカルボン酸単位(A2))を含んでいてもよい。第2のジカルボン酸単位(A2)を形成するための第2のジカルボン酸成分(A2)としては、代表的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、芳香族ジカルボン酸成分(ただし、第1のジカルボン酸成分を除く)などが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸[シュウ酸、アルカンジカルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、などのC1−18アルカン−ジカルボン酸、好ましくはC1−12アルカン−ジカルボン酸など)など];不飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2−10アルケン−ジカルボン酸など);及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、飽和脂環族ジカルボン酸[例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、架橋環式シクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸など)など];不飽和脂環族ジカルボン酸成分[例えば、シクロアルケンジカルボン酸(例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5−10シクロアルケン−ジカルボン酸);架橋環式シクロアルケンジカルボン酸(例えば、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロアルケンジカルボン酸など)など];及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸(ただし、第1のジカルボン酸成分を除く)としては、例えば、アレーンジカルボン酸、ジアリール骨格を有するジカルボン酸、フルオレン骨格を有するジカルボン酸などに大別できる。
アレーンジカルボン酸としては、例えば、ベンゼンジカルボン酸類[例えば、ベンゼンジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸);アルキルベンゼンジカルボン酸(例えば、メチルテレフタル酸、4−メチルイソフタル酸、5−メチルイソフタル酸などのC1−4アルキル−ベンゼンジカルボン酸など)など];多環式アレーンジカルボン酸類{例えば、縮合多環式アレーンジカルボン酸[例えば、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸などの同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸)、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10−18アレーン−ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10−14アレーン−ジカルボン酸など];環集合アレーンジカルボン酸(例えば、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などのビC6−10アレーン−ジカルボン酸など)など};及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
ジアリール骨格を有するジカルボン酸としては、例えば、ジアリールアルカンジカルボン酸(例えば、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6−10アリールC1−6アルカン−ジカルボン酸など);ジアリールケトンジカルボン酸[例えば、4.4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6−10アリール)ケトン−ジカルボン酸など];及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
フルオレン骨格を有するジカルボン酸としては、例えば、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(2−カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC2−6アルキル)フルオレンなど];9−(ジカルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9−(1,2−ジカルボキシエチル)フルオレン、9−(2,3−ジカルボキシプロピル)フルオレンなどの9−(ジカルボキシC2−8アルキル)フルオレンなど];9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC6−10アリール)フルオレンなど];ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシフルオレンなど);9,9−ジアルキル−ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジメチルフルオレンなどの9,9−ジC1−10アルキル−ジカルボキシフルオレンなど);及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
これらの第2のジカルボン酸単位(A2)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの第2のジカルボン酸単位(A2)を用いることにより、耐熱性、屈折率、複屈折などの特性を用途に応じて調整できる。これらの第2のジカルボン酸単位(A2)のうち、低い複屈折が重要な用途では、脂環族ジカルボン酸単位、フルオレン骨格を有するジカルボン酸単位[例えば、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレンなどに由来する単位など]が好ましく、高い屈折率及び耐熱性が重要な用途では、芳香族ジカルボン酸単位を好ましい。なお、ジカルボン酸単位(A)は、脂肪族ジカルボン酸単位を含んでいなくてもよい。
第2のジカルボン酸単位(A2)の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、50モル%以下(例えば、0.1〜50モル%)であってもよく、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下(例えば、5モル%以下)程度であってもよい。
(ジオール単位(B))
第1のジオール単位(B1)
ジオール単位(B)は、例えば、下記式(B1)で表される第1のジオール単位(B1)を含んでいてもよい。
(式中、Zはそれぞれ独立してアレーン環、R6及びR7はそれぞれ独立して置換基、A1はそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、pはそれぞれ独立して0〜4の整数、qはそれぞれ独立して0以上の整数、rはそれぞれ独立して0以上の整数を示す)。
前記式(B1)において、環Zで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環(例えば、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10−16アレーン環)、縮合三環式アレーン環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい環縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環式C10−16アレーン環(好ましくは縮合多環式C10−14アレーン環)が挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビアレーン環(例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC6−12アレーン環など)、テルアレーン環(例えば、テルフェニレン環などのテルC6−12アレーン環など)などが例示できる。好ましい環集合アレーン環は、ビC6−10アレーン環などが挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
2つの環Zの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6−12アレーン環などが好ましく、なかでも、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6−10アレーン環(特にベンゼン環)が好ましい。
なお、フルオレン環の9−位に結合する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがベンゼン環の場合、いずれの位置であってもよく、環Zがナフタレン環の場合、1−位又は2−位のいずれかの位置であってもよく、環Zがビフェニル環の場合、2−位、3−位、4−位のいずれかの位置であってもよい。
R6で表される置換基としては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基など)など]、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)などが挙げられる。これらの基R1のうち、アルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、特にアルキル基(特に、メチル基などのC1−4アルキル基)が好ましい。
基R6の置換数pは、例えば、0〜3程度の整数、好ましくは0〜2程度の整数、さらに好ましくは0又は1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つの異なるベンゼン環において、それぞれの置換数pは、互いに同一又は異なっていてもよい。また、前記異なるベンゼン環に置換する基R6の種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。pが2以上である場合、同一のベンゼン環に置換する2以上の基R6の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、基R6の置換位置は、特に制限されず、例えば、フルオレン環の2−位乃至7−位(2−位、3−位及び7−位など)であってもよい。
R7で表される置換基としては、例えば、基[−R8]、基[−OR8]、基[−SR8]、基[−(C=O)−R8]、基[−(C=O)−OR8](式中、R8はそれぞれ炭化水素基を示す)、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。R8で表される炭化水素基としては、例えば、前記式(1)の項において、R5として例示した炭化水素基と同様の基などが挙げられる。R7で表される基[−R8]、基[−OR8]、基[−SR8]、基[−(C=O)−R8]、基[−(C=O)−OR8]、ハロゲン原子、置換アミノ基としては、例えば、前記式(1)の項において、R1及びR2で表される置換基として例示した基[−R5]、基[−OR5]、基[−SR5]、基[−(C=O)−R5]、基[−(C=O)−OR8]、ハロゲン原子、置換アミノ基と同様の基などがそれぞれ例示できる。
これらの基R7のうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい基R7としては、アルキル基(メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基など)、アリール基(フェニル基などのC6−12アリール基など)、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基など)が挙げられる。
基R7の置換数qは、環Zの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0〜8程度の整数であってもよく、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)程度の整数、さらに好ましくは0〜2程度の整数(例えば、0又は1)、特に0であってもよい。なお、2つの異なる環Zにおいて、基R7の種類及び置換数qは、それぞれ互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換数qが2以上である場合、同一の環Zに置換する2以上の基R7の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。基R7の置換位置は、特に制限されず、環Zと、基[−O−(A1O)r−]及びフルオレン環の9−位との結合位置以外の位置に置換していればよい。
A1で表される直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルキレン基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−3アルキレン基(特に、エチレン基)などが挙げられる。
オキシアルキレン基(OA1)の繰り返し数(付加モル数)rは、0以上の整数であればよく、例えば、0〜15(例えば、1〜10)程度の整数、好ましくは0〜8(例えば、1〜6)程度の整数、さらに好ましくは0〜4(例えば、1〜2)程度の整数、特に0又は1であってもよく、重合反応性の観点から1であるのが好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)r」は、平均値(算術平均値、相加平均値)又は平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様であってもよい。繰り返し数rが大きすぎると、屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。また、2つの繰り返し数rは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、rが2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基(OA1)の種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一又は同程度である場合が多い。また、異なる環Zにエーテル結合(−O−)を介して結合するオキシアルキレン基(OA1)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよいが、通常、同一である。
基[−O−(A1O)r−]の置換位置は、環Zとフルオレン環との結合位置以外の位置であれば、特に限定されず、例えば、環Zがベンゼン環である場合、フルオレン環の9−位に結合するフェニル基の2〜6−位のいずれかの位置であればよい。環Zがナフタレン環である場合、通常、フルオレン環の9−位に対して、1−位又は2−位で結合するナフチル基の5〜8−位のいずれかの位置に置換している場合が多く、フルオレン環の9−位に対して、ナフタレン環の1−位又は2−位が置換し(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5−位、2,6−位(特に、2,6−位)などの関係で置換しているのが好ましい。環Zがビフェニル環である場合、ビフェニル環の2〜6−位及び2’〜6’−位のいずれかの位置に置換していればよいが、例えば、ビフェニル環の3−位又は4−位がフルオレンの9−位に結合していてもよく、ビフェニル環の3−位がフルオレンの9−位に結合する場合、カルボニル基の置換位置は、例えば、ビフェニル環の2−位、4−位、5−位、6−位、2’−位、3’−位、4’−位のいずれの位置であってもよく、好ましくは6−位、4’−位のいずれかの位置(特に、6−位)などに置換していてもよい。ビフェニル環の4−位がフルオレンの9−位に結合している場合、カルボニル基の置換位置は、ビフェニル環の2−位、3−位、2’−位、3’−位、4’−位のいずれの位置であってもよく、好ましくは2−位、4’−位のいずれかの位置(特に、2−位)などに置換していてもよい。
第1のジオール単位(B1)は、第1のジオール成分(B1)に由来(又は対応)する構成単位であり、代表的な第1のジオール成分(B1)としては、例えば、前記式(B1)において、rが1以上(例えば、1〜10、好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3程度)である単位に対応する9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、特に断りのない限り、「(ポリ)アルコキシ」とは、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類としては、例えば、(B1-1)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2−4アルコキシ−フェニル]フルオレンなど};(B1-2)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルキルフェニル]フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2−4アルコキシ−(モノ又はジ)C1−4アルキル−フェニル]フルオレンなど};(B1-3)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールフェニル]フルオレン{例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール−フェニル]フルオレンなど};(B1-4)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[5−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2−4アルコキシ−ナフチル]フルオレンなど}などが挙げられる。
これらの第1のジオール単位(B1)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの第1のジオール単位(B1)のうち、(B1-1)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、(B1-4)9,9−ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンなどが好ましく;なかでも、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至ヘキサ)C2−4アルコキシフェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至ヘキサ)C2−4アルコキシ−ナフチル]フルオレン(特に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[ヒドロキシ(モノ乃至トリ)C2−3アルコキシフェニル]フルオレンなど)に由来する単位が好ましい。
ジオール単位(B)は、このような第1のジオール単位(B1)を必ずしも含んでいなくてもよいが、ポリエステル樹脂の複屈折を大きく増加させることなく、屈折率及び耐熱性を向上できる点から、第1のジオール単位(B1)を含むのが好ましい。第1のジオール単位(B1)の割合は、ジオール単位(B)全体に対して、例えば、10〜100モル%(例えば、30〜99モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、40〜95モル%(例えば、50〜90モル%)、好ましくは55〜85モル%(例えば、60〜80モル%)、さらに好ましくは65〜75モル%程度であってもよい。第1のジオール単位(B1)の割合が少なすぎると、屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸単位(A1)とジオール単位(B1)とを適切に組み合わせることにより、高い耐熱性及び高い屈折率、並びに低い複屈折などの互いに相反する特性を高いレベルで充足できる。そのため、第1のジオール単位(B1)の割合は、第1のジカルボン酸単位(A1)1モルに対して、例えば、0.1〜10モル(例えば、0.2〜5モル)程度の範囲から選択でき、例えば、0.3〜3モル(例えば、0.4〜2モル)、好ましくは0.5〜1モル(例えば、0.55〜0.9モル)、さらに好ましくは0.6〜0.8モル(例えば、0.65〜0.75モル)程度であってもよい。
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸単位(A1)及びジオール単位(B1)のみで形成してもよいが、重合反応性や機械的特性をバランスよく向上(又は改善)する観点から、他の構成単位(又は重合成分)を含んでいてもよい。
第2のジオール単位(B2)
ジオール単位(B)は、第1のジオール単位(B1)に加えて、下記式(B2)で表される第2のジオール単位(B2)を含んでいてもよい。
(式中、A2は直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、sは1以上の整数を示す)。
前記式(B2)において、アルキレン基A2は、前記第1のジオール単位(B1)に記載の基A1と好ましい態様を含めて同様であってもよい。
オキシアルキレン基(OA2)の繰り返し数sは、例えば、1〜10程度の整数であってもよく、例えば、1〜5(1〜3)程度の整数、好ましくは1又は2、さらに好ましくは1であってもよい。繰り返し数sが大きすぎると、屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。
第2のジオール単位(B2)として、具体的には、例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルカンジオールなど);ポリアルキレングリコール(又はポリアルカンジオール)[例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリC2−6アルカンジオール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2−4アルカンジオールなど]などの第2のジオール成分(B2)に由来する構成単位などが挙げられる。
これらの第2のジオール単位(B2)は、単独で又は2種以上組み合わせて利用することもできる。これらの第2のジオール単位(B2)のうち、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど)、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルカンジオール、特に、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−3アルカンジオール(特に、エチレングリコール)に由来する単位が好ましい。
このような第2のジオール単位(B2)を含むことにより、重合反応性を高めるとともに、ポリエステル樹脂の機械的特性(例えば、柔軟性)や成形性などの特性を向上できる。
第1のジオール単位(B1)及び第2のジオール単位(B2)の総量の割合は、ジオール単位(B)全体に対して、例えば、10モル%以上(例えば、30〜100モル%程度)の範囲から選択でき、例えば、50モル%以上(例えば、60〜99.9モル%程度)、好ましくは70モル%以上(例えば、80〜99モル%程度)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、90〜95モル%程度)程度であってもよく、実質的に100モル%[第1のジオール単位(B1)及び/又は第2のジオール単位(B2)のみ]であってもよい。
ジオール単位(B)が第1のジオール単位(B1)及び第2のジオール単位(B2)の双方を含む場合、その割合は、例えば、前者/後者(モル比)=10/90〜99.9/0.1(例えば、20/80〜99/1)程度の広い範囲から選択でき、例えば、30/70〜97/3(例えば、40/60〜95/5)、好ましくは50/50〜90/10(例えば、55/45〜85/15)、さらに好ましくは60/40〜80/20(例えば、65/35〜75/25)程度であってもよい。
(第3のジオール単位(B3))
なお、ジオール単位(B)は、本発明の効果を害しない範囲であれば、さらに、他のジオール単位(第1及び第2のジオール単位の範囲に属さない第3のジオール単位(B3))を含んでいてもよい。第3のジオール単位(B3)としては、例えば、脂環族ジオール[例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5−10シクロアルカンジオールなど);ビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなどのビス(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−10シクロアルカンなど);後述する芳香族ジオールの水添物(例えば、ビスフェノールAの水添物など)など];芳香族ジオール(ただし、第1のジオール成分は除く)[例えば、ジヒドロキシアレーン(例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなど);芳香脂肪族ジオール(例えば、ベンゼンジメタノールなど);ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなど);ビフェノール類(例えば、p,p’−ビフェノールなど)など];及びこれらのジオール成分のC2−4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体[例えば、ビスフェノールA 1モルに対して、2〜10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体など]などの第3のジオール成分(B3)に由来する単位などが挙げられる。
これらの第3のジオール単位(B3)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。第3のジオール単位(B3)の割合は、ジオール単位(B)全体に対して、例えば、50モル%以下(例えば、0.1〜50モル%)であってもよく、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下(例えば、5モル%以下)程度であってもよい。
[ポリエステル樹脂の製造方法及び特性]
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、第1のジカルボン酸成分(A1)を少なくとも含むジカルボン酸成分(A)と、ジオール成分(B)とを反応させればよく、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製でき、溶融重合法が好ましい。なお、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)との使用割合(又は仕込み割合)は、通常、前者/後者(モル比)=例えば、1/1.2〜1/0.8、好ましくは1/1.1〜1/0.9)程度であってもよい。なお、反応において、各ジカルボン酸成分(A)及びジオール成分(B)の使用量(使用割合)は、前記各ジカルボン酸単位及びジオール単位の割合と好ましい態様を含めて同様であってもよく、必要に応じて、各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの第2のジオール成分(B2)は、ポリエステル樹脂中に導入される割合(又は導入割合)よりも過剰に使用してもよい。
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど);アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなど);周期表第13族金属(アルミニウムなど);周期表第14族金属(ゲルマニウムなど);周期表第15族金属(アンチモンなど)などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。代表的な金属化合物としては、例えば、ゲルマニウム化合物(例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム−n−ブトキシドなど);アンチモン化合物(例えば、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなど);チタン化合物(例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなど);マンガン化合物(酢酸マンガン・4水和物など);カルシウム化合物(酢酸カルシウム・1水和物など)などが例示できる。
これらの触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。複数の触媒を用いる場合、反応の進行に応じて、各触媒を添加することもできる。これらの触媒のうち、酢酸マンガン・4水和物、酢酸カルシウム・1水和物、二酸化ゲルマニウムなどが好ましい。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(A)1モルに対して、0.01×10−4〜100×10−4モル、好ましくは0.1×10−4〜40×10−4モル程度であってもよい。
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤(例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物など)や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。熱安定剤の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(A)1モルに対して、0.01×10−4〜100×10−4モル、好ましくは0.1×10−4〜40×10−4モル程度であってもよい。
反応は、空気中で行ってもよく、通常、不活性ガス(例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気中で行ってもよい。また、反応は、減圧下(例えば、1×102〜1×104Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150〜300℃、好ましくは180〜290℃、さらに好ましくは200〜280℃程度であってもよい。
本発明のポリエステル樹脂は、トリプチセン骨格を有する前記第1のジカルボン酸単位(A1)を含むため、高い耐熱性及び高い屈折率を有するとともに、意外にも光学的異方性が少ないため、延伸処理(又は配向処理)しても低い複屈折を示す。そのため、高い耐熱性及び高い屈折率、並びに低い複屈折という互いに相反する特性をバランスよく向上できる。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、100〜250℃(例えば、120〜230℃)程度の範囲から選択でき、例えば、130〜200℃(例えば、135〜190℃程度)、好ましくは140〜180℃(例えば、145〜175℃)、さらに好ましくは150〜170℃(例えば、155〜165℃)程度であってもよい。ガラス転移温度Tgが低すぎると、使用時に樹脂が変形したり、変色(又は着色)したりするおそれがあり、Tgが高すぎると、成形体(例えば、光学レンズなど)表面を平滑に形成できなくなるおそれがある。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、ポリスチレン換算で、例えば、10000〜200000程度の範囲から選択でき、例えば、15000〜100000、好ましくは20000〜80000、さらに好ましくは25000〜60000(例えば、30000〜40000)程度であってもよく、通常、35000〜50000(例えば、40000〜45000)程度であってもよい。また、ポリエステル樹脂の数平均分子量Mnは、ポリスチレン換算で、例えば、5000〜500000(例えば、7000〜300000)程度の範囲から選択でき、例えば、8000〜200000(例えば、10000〜100000)、好ましくは15000〜80000(例えば、18000〜50000)、さらに好ましくは20000〜30000程度であってもよい。ポリエステル樹脂の分子量分布Mw/Mnは、例えば、1〜5(例えば、1.1〜4)、好ましくは1.2〜3(例えば、1.3〜2.8)、さらに好ましくは1.5〜2.5(例えば、1.7〜2.3)程度であってもよい。なお、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で測定できる。
ポリエステル樹脂の屈折率は、温度20℃、波長589nmにおいて、例えば、1.55〜1.8(例えば、1.57〜1.7)、好ましくは1.59〜1.68(例えば、1.6〜1.66)、さらに好ましくは1.61〜1.65(例えば、1.62〜1.64)程度であってもよい。
ポリエステル樹脂のアッベ数は、温度20℃において、例えば、30以下(例えば、17〜28)、好ましくは27以下(例えば、20〜26)、さらに好ましくは25以下(例えば、22〜25)程度であってもよい。
ポリエステル樹脂の複屈折は、ポリエステル単独で形成したフィルムを、延伸倍率3倍で一軸延伸した延伸フィルムの複屈折(3倍複屈折)により評価してもよい。複屈折(3倍複屈折)は、フィルム面内において、延伸方向における屈折率と、この方向に垂直な方向における屈折率との差の絶対値で表される。そのため、延伸温度(ガラス転移温度Tg+10)℃、延伸速度25mm/分の延伸条件で調製した前記延伸フィルムの3倍複屈折は、測定温度20℃、波長600nmにおいて、例えば、100×10−4以下(例えば、0.001×10−4〜50×10−4程度)の範囲から選択でき、例えば、30×10−4以下(例えば、1×10−4〜25×10−4程度)、好ましくは20×10−4以下(例えば、5×10−4〜18×10−4程度)、さらに好ましくは15×10−4以下(例えば、10×10−4〜14×10−4程度)であってもよい。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ガラス転移温度Tg、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、屈折率、アッベ数及び3倍複屈折は、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
[成形体]
本発明の成形体は、前記ポリエステル樹脂を含み、優れた耐熱性及び光学的特性(高屈折率、低複屈折など)を有しているため、光学フィルム(又は光学シート)、光学レンズなどの光学用部材として利用できる。成形体の形状は、特に限定されず、例えば、一次元的構造(例えば、線状、繊維状など)、二次元的構造(例えば、フィルム状、シート状、板状など)、三次元的構造(例えば、凹又は凸レンズ状、棒状、中空状(管状)など)などが挙げられる。
本発明の成形体は、各種添加剤[例えば、充填剤又は補強剤、着色剤(例えば、染顔料など)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤(例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)、耐熱性改良剤(例えば、硫黄化合物、ポリシランなど)、炭素材など]を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
特に、本発明のポリエステル樹脂は、種々の光学的特性に優れているため、フィルム(特に光学フィルム)を形成するのに有用である。そのため、本発明には、前記ポリエステル樹脂で形成されたフィルム(光学フィルム又は光学シート)も含まれる。
このようなフィルムの厚み(平均厚み)は1〜1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1〜200μm、好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜120μm程度であってもよい。
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記ポリエステル樹脂を、慣用の成膜方法、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(又は成形)することにより製造できる。
フィルムは、延伸フィルムであってもよい。本発明のフィルムは、延伸フィルムであっても、低複屈折を維持できる。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
延伸倍率は、一軸延伸又は二軸延伸において各方向にそれぞれ1.1〜10倍(好ましくは1.2〜8倍、さらに好ましくは1.5〜6倍)程度であってもよく、通常1.1〜2.5倍(好ましくは1.2〜2.3倍、さらに好ましくは1.5〜2.2倍)程度であってもよい。なお、二軸延伸の場合、等延伸(例えば、縦横両方向に1.5〜5倍延伸)であっても、偏延伸(例えば、縦方向に1.1〜4倍、横方向に2〜6倍延伸)であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸(例えば、縦方向に2.5〜8倍延伸)であっても横延伸(例えば、横方向に1.2〜5倍延伸)であってもよい。
延伸フィルムの厚み(平均厚み)は、例えば、1〜150μm、好ましくは3〜120μm、さらに好ましくは5〜100μm程度であってもよい。
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(又は未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は、特に制限が無く、一軸延伸の場合、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法ともいわれる)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
[評価方法]
(NMR)
NMRスペクトルは、Bruker BIOSPIN社製「AVANCE III HD(300MHz)」を用いて測定した。
(ガラス転移温度Tg)
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製「EXSTAR6000 DSC6220 ASD−2」)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で、20〜220℃の範囲で測定した。
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー(株)製、「HLC−8320GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnを測定した。
(屈折率nD)
試料を200〜240℃でプレス成形して、厚み200〜300μmのフィルムを成形した。このフィルムを20〜30mm×10mmの短冊状に切り出し、試験片を得た。得られた試験片について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR−M4(循環式恒温水槽60−C3)」)を用いて、測定温度20℃、測定波長589nm(d線)の条件で測定した。
(アッベ数)
屈折率の測定に用いた試験片について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR−M4(循環式恒温水槽60−C3)」)を用いて、測定温度20℃で、接触液にジヨードメタンを使用して、測定波長486nm(F線)、589nm(D線)、656nm(C線)の屈折率nF、nD、nCをそれぞれ測定し、以下の式によって算出した。
アッベ数=(nD−1)/(nF−nC)。
(複屈折(又は3倍複屈折))
試料を200〜240℃でプレス成型して、厚みが200〜600μmのフィルムを成形した。このフィルムを10mm×50mmの短冊状に切り出し、Tg+10℃の温度条件下、25mm/分で延伸倍率が3倍となるように一軸延伸して試験片を得た。延伸した試験片を、大塚電子(株)製「RETS−100」を用いて、測定温度20℃、測定波長600nmの条件下、平行ニコル回転法にてリタデーションを測定し、その値を測定部位の厚みで除することで算出した。
[合成例1]1,4−ジヒドロキシトリプチセンの合成
アントラセン(89.1g、50.0mmol)及びp−ベンゾキノン(54.6g、50.5mmol)をクロロベンゼン(400mL)中で加熱し、還流させて撹拌した。4時間の還流後、室温に冷却して固体をろ別し、500mLの温水で洗浄した。この固体を真空乾燥(80℃、4時間)後に、酢酸(710g)中で還流下、臭化水素酸(20滴)を加えた。冷却後、固体をろ別して真空乾燥し、白色固体(116g、39mmol、収率78%)を得た。
[実施例1]1,4−ビス(メトキシカルボニルメトキシ)トリプチセンの合成
1,4−ジヒドロキシトリプチセン(28.6g、100mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF、250mL)溶液に、55℃で炭酸カリウム(30.45g、220mmol)を加えて30分間撹拌した。その後、ブロモ酢酸メチル(33.7g、220mmol)を80℃で滴下して5時間加熱撹拌し、冷却後に、反応物をろ過して水(1500mL)に加えた。生じた沈殿をろ別して、トルエンで再結晶した(30.6g、収率 71%)。
1H NMR(300MHz、DMSO−d6)δ(ppm)=3.68(s、6H)、4.81(s、4H)、5.94(s、2H)、6.57(s、2H)、7.00(dd、J=3.2、5.3Hz、4H)、7.45(dd、J=3.2、5.3Hz、4H)。
[実施例2]ポリエステル樹脂の合成
反応器に、実施例1で得た1,4−ビス(メトキシカルボニルメトキシ)トリプチセン19.38g、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)13.8g、エチレングリコール(EG)6.42g、酢酸マンガン4水和物7.4mgを加え、240℃まで徐々に加熱して撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するメタノールを除去した後、リン酸トリメチル15.8mg、酸化ゲルマニウム14.1mgを加え、270℃、120Paまで徐々に昇温、減圧し、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合を行った。
得られたペレットを、1H−NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の100モル%が1,4−ビス(メトキシカルボニルメトキシ)トリプチセン由来であり、導入されたジオール単位の70モル%がBPEF由来、30モル%がEG由来であった。
得られたポリエステル樹脂のMwは42900(Mw/Mn=1.9)、Tgは160.2℃、nD(20℃)は1.6327、アッベ数は25、3倍延伸時の複屈折は13×10−4であった。
[比較例1]
1,4−ビス(メトキシカルボニルメトキシ)トリプチセンに代えて、等モル量のテレフタル酸ジメチル(DMT)を用いる以外は、実施例2と同様にして重縮合を行った。
得られたペレットを、1H−NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の100モル%がDMT由来であり、導入されたジオール単位の70モル%がBPEF由来、30モル%がEG由来であった。
得られたポリエステル樹脂のMwは36000(Mw/Mn=2.1)、Tgは143.9℃、nD(20℃)は1.6332、アッベ数は23、3倍延伸時の複屈折は45×10−4であった。