以下、本発明のチタン焼結体、装飾品および耐熱部品について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<チタン焼結体>
まず、本発明のチタン焼結体の実施形態について説明する。
本実施形態に係るチタン焼結体は、例えば粉末冶金法により製造されたものである。したがって、かかるチタン焼結体では、チタン系粉末(チタンを含む材料で構成された粉末)の粒子同士が焼結することによって構成されている。
そして、本実施形態に係るチタン焼結体は、チタンを含む材料で構成され、酸素含有率が質量比で2500ppm以上5500ppm以下であり、表面のビッカース硬度が250以上500以下である。このようなチタン焼結体は、優れた耐摩耗性を有するものとなる。このため、例えば、摺動部品に適用されたとき、過酷な摺動条件であっても長期にわたって良好な摺動特性を維持し得るチタン焼結体が得られる。また、例えば、装飾品に適用されたとき、表面に優れた耐摩耗性が与えられることによって表面のキズ付きを抑制し優れた美的外観を維持し得るチタン焼結体が得られる。
酸素含有率が前記下限値を下回ると、チタン焼結体中の酸化チタンが著しく減少する。酸化チタンは、チタン焼結体の耐食性を高め、摩耗し難くする作用がある。このため、酸素含有率が前記下限値を下回ると、酸化チタンが特に減少し、それに伴って耐食性が低下することによって耐摩耗性が低下する。一方、酸素含有率が前記上限値を上回ると、チタン焼結体中の酸化チタンが著しく増加する。このため、金属チタン同士の金属結合の割合が減少し、機械的強度が低下する。これにより、例えば摺動面において剥落や亀裂等が発生し易くなり、それに伴って摩擦抵抗が大きくなるため、耐摩耗性が低下する。
また、表面のビッカース硬度が前記下限値を下回ると、チタン焼結体が相手部材と摺動するとき、チタン焼結体の表面が相手部材によって徐々に削られ、摩耗し易くなる。一方、表面のビッカース硬度が前記上限値を上回ると、チタン焼結体の靭性が低下し、摺動時の荷重が極めて大きい場合や、摺動時に過度な衝撃が加わった場合等に、チタン焼結体に亀裂が生じたり壊れたりするおそれがある。
なお、酸素含有率(元素換算濃度)は、好ましくは3000ppm以上5000ppm以下とされ、より好ましくは3500ppm以上4500ppm以下とされる。
一方、表面のビッカース硬度は、好ましくは300以上450以下とされ、より好ましくは350以上400以下とされる。
また、チタン焼結体の酸素含有率は、例えば、原子吸光分析装置、ICP発光分光分析装置、酸素窒素同時分析装置等により測定することができる。特に、JIS Z 2613(2006)に規定された金属材料の酸素定量方法も用いられる。一例を挙げると、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC−300/EF−300が用いられる。
一方、表面のビッカース硬度は、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の試験方法に準じた方法により測定することができる。なお、圧子の試験力は9.8N(1kgf)とし、試験力の保持時間は15秒とする。そして、10か所の測定結果の平均値を表面のビッカース硬度とする。
なお、チタン焼結体中に含まれる酸素の少なくとも一部は、前述したように酸化チタンの状態で存在するのが好ましい。
このとき、チタン焼結体は、いかなる形態の酸化チタンを含んでいてもよいが、酸化チタンを主成分とする粒子(以下、省略して「酸化チタン粒子」という。)を含むことが好ましい。酸化チタン粒子は、チタン焼結体中に分散することによって、マトリックスである金属チタンに加わる応力を分担すると考えられる。このため、酸化チタン粒子を含むことにより、チタン焼結体全体における機械的強度の向上が図られる。また、酸化チタンは金属チタンよりも硬いため、酸化チタン粒子が分散していることにより、チタン焼結体の耐摩耗性をより高めることができる。
なお、酸化チタンを主成分とする粒子とは、例えば、蛍光X線分析法または電子線マイクロアナライザーにより、対象となる粒子の成分分析を行い、最も多く含まれた元素がチタンおよび酸素のうちの一方であり、次いで多く含まれた元素が他方であると分析された粒子のことをいう。
酸化チタン粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.5μm以上20μm以下であるのが好ましく、1μm以上15μm以下であるのがより好ましく、2μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。酸化チタン粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、チタン焼結体の靭性や引張強さ等の機械的特性を損なうことなく、耐摩耗性を高めることができる。すなわち、酸化チタン粒子の平均粒径が前記下限値を下回ると、酸化チタン粒子の含有率によっては、酸化チタン粒子による応力の分担作用が低下するおそれがある。また、酸化チタン粒子の平均粒径が前記上限値を上回ると、酸化チタン粒子の含有率によっては、酸化チタン粒子が亀裂の起点になって機械的強度が低下するおそれがある。
また、酸化チタン粒子の結晶構造は、ルチル型、アナターゼ型およびブルッカイト型のうちのいずれであってもよく、複数の型が混在していてもよい。
なお、酸化チタン粒子の平均粒径は、次のようにして測定される。まず、チタン焼結体の断面を電子顕微鏡で観察し、得られた観察像において100個以上の酸化チタン粒子を無作為に選択する。このとき、酸化チタン粒子か否かは、画像のコントラストおよび酸素の面分析等によって特定することができる。次に、観察像上において選択した酸化チタン粒子の面積を算出し、この面積と同じ面積を持つ円の直径を求める。このようにして求めた円を、その酸化チタン粒子の粒径(円相当径)とみなし、100個以上の酸化チタン粒子についての平均値を求める。この平均値が酸化チタン粒子の平均粒径となる。
次いで、チタン焼結体の結晶組織について説明する。
図1は、本発明のチタン焼結体の実施形態を示す電子顕微鏡像であり、図2は、図1に示す電子顕微鏡像の一部を模式的に描いた図である。なお、図1は、チタン焼結体の切断面を撮像したものであり、図1の上端において左右に延びている濃色の帯は、チタン焼結体の外側の領域である。つまり、濃色の帯の下端がチタン焼結体の表面に相当する。
図2に示すチタン焼結体1は、結晶組織としてα相2とβ相3とを含んでいる。このうち、α相2とは、それを構成する結晶構造が主として六方最密充填(hcp)構造である領域(チタンα相)のことをいう。一方、β相3とは、それを構成する結晶構造が主として体心立方格子(bcc)構造である領域(チタンβ相)のことをいう。なお、図1では、α相2が相対的に淡色を呈する領域として写っており、β相3は相対的に濃色を呈する領域として写っている。
α相2は、相対的に硬度が低く、延性に富んでいるため、特に高温下での強度や耐変形性に優れたチタン焼結体1の実現に寄与する。一方、β相3は、相対的に硬度が高いものの、塑性変形を生じ易いため、全体として靭性に優れたチタン焼結体1の実現に寄与する。
チタン焼結体1の断面では、そのほとんどがこのようなα相2とβ相3とで占められているのが好ましい。α相2とβ相3の合計の占有率(面積率)は、特に限定されないが、95%以上であるのが好ましく、98%以上であるのがより好ましい。このようなチタン焼結体1は、α相2およびβ相3が特性面で支配的になるため、チタンが持つ多くの長所が反映されたものとなる。
なお、α相2とβ相3の合計の占有率は、例えばチタン焼結体1の断面を電子顕微鏡や光学顕微鏡等で観察し、結晶構造の違いに基づく呈色の違いやコントラストに基づいて結晶相を区別するとともに面積を計測することによって求められる。
また、α相2やβ相3以外の結晶組織としては、例えば、ω相、γ相等が挙げられる。
また、チタン焼結体1は、前述したように結晶組織としてα相2とβ相3とを含むとともに、断面においてα相2の占有率(面積率)が70%以上99.8%以下であるのが好ましく、75%以上99%以下であるのがより好ましく、80%以上98%以下であるのがさらに好ましい。このようにα相2が支配的になっていることで、チタン焼結体1の機械的強度を高めつつ、全体が均質になり易いので摩耗し易さの均一性も高めることができる。このため、チタン焼結体1が摺動部品に適用されたとき、摺動面において局所的に摩耗し易い領域が生じることによる連鎖的な摩耗促進の現象が抑えられ、より耐摩耗性に優れたチタン焼結体1が得られる。換言すれば、α相2とβ相3との硬度差が顕在化し難くなるので、摺動面が平滑になり、摺動時に引っ掛かりが生じ難くなるため、摩擦抵抗が小さくなることによって耐摩耗性の向上に寄与することができる。さらには、支配的に存在するα相2は、転位を生じ難いことから摺動によって変性し難く、かつ、耐食性も高い。このため、長期にわたる摺動に曝された場合でも、耐摩耗性を維持することができる。その結果、研磨された研磨面を長期わたって良好に維持することができる。
一方、α相2が上記のような占有率である場合、β相3は、それより占有率が小さくなるが、0.2%以上30%以下程度の面積率で存在しているのが好ましく、1%以上25%以下程度の面積率で存在しているのがより好ましく、2%以上20%以下程度の面積率で存在しているのがさらに好ましい。β相3は、前述したように塑性変形を生じ易いため、α相2同士の滑りを助長する。このため、β相3が前記範囲内の割合で存在していることにより、摺動の際、摺動面に大きな荷重が加わった場合でも、α相2同士の滑りによってその荷重による影響を緩和させることができる。その結果、大きな荷重が加わっても耐摩耗性を低下させ難くなる。
したがって、α相2の占有率が前記下限値を下回ると、α相2とβ相3との比率にもよるが、結晶組織においてα相2が支配的ではなくなるので、摺動面が平滑になり難くなって摺動時の摩擦抵抗が大きくなるおそれがある。また、α相2の占有率が前記上限値を上回ると、α相2やβ相3以外の結晶組織の含有率にもよるが、β相3の占有率が非常に小さくなるので、摺動面に大きな荷重が加わった際にその影響を緩和させることができなくなるおそれがある。
なお、α相2の占有率は、次のようにして測定される。まず、チタン焼結体1の断面を電子顕微鏡で観察し、得られた観察像の面積を算出する。次いで、観察像に写っているα相2の面積の合計を求める。そして、求めたα相2の面積の合計を観察像の面積で除して面積率を求める。この面積率がα相2の占有率となる。
また、チタン焼結体1の断面では、α相2が微細であることも重要な要素の1つである。例えば、断面におけるα相2の平均粒径は、3μm以上30μm以下であるのが好ましく、5μm以上25μm以下であるのがより好ましく、7μm以上20μm以下であるのがさらに好ましい。このような平均粒径のα相2は、微細であることから、より転位が生じ難くなる。このため、チタン焼結体1の硬度をより高めるとともに、摺動面が平滑になり易くなり、摩擦抵抗をより小さくすることができる。加えて、良好に研磨された研磨面については、その状態を長期にわたって維持することができる。
また、α相2の平均粒径が前記下限値を下回ると、α相2の粒径が小さくなり過ぎるため、α相2の占有率を十分に高めることができないおそれがある。加えて、チタン焼結体1の機械的強度を十分に高めることができなくなるおそれがある。一方、α相2の平均粒径が前記上限値を上回ると、α相2内で転位が生じ易くなるため、摺動面が変性し易くなり、長期にわたる摺動に曝された場合に耐摩耗性が低下するおそれがある。加えて、耐摩耗性が低下することによって研磨面がキズ付き易くなり、研磨面を長期にわたって良好に維持することが難しくなるおそれがある。加えて、主にα相2に由来する機械的強度が低下するおそれがある。
なお、α相2の平均粒径は、次のようにして測定される。まず、チタン焼結体1の断面を電子顕微鏡で観察し、得られた観察像において100個以上のα相2を無作為に選択する。次に、観察像上において選択したα相2の面積を算出し、この面積と同じ面積を持つ円の直径を求める。このようにして求めた円を、そのα相2の粒径(円相当径)とみなし、100個以上のα相2についての平均値を求める。この平均値がα相2の平均粒径となる。
チタン焼結体1の構成材料は、チタンを含む材料であり、例えば、チタン単体またはチタン基合金等が挙げられる。
チタン基合金は、チタンを主成分とする合金であるが、チタン(Ti)の他に、例えば、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、ニッケル(Ni)、硫黄(S)等の元素を含む合金である。
このようなチタン基合金は、α相安定化元素とβ相安定化元素とを含むことが好ましい。このようなチタン基合金で構成されたチタン焼結体1は、その製造条件や使用条件が変動したとしても、結晶組織としてα相2とβ相3とを併せ持つことができるので、耐候性に優れたものとなる。このため、チタン焼結体1は、α相2が呈する特性とβ相3が呈する特性とを併せ持つものとなり、とりわけ機械的特性に優れたものとなる。
このうち、α相安定化元素としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、スズ、炭素、窒素、酸素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が組み合わされて用いられる。一方、β相安定化元素としては、例えば、モリブデン、ニオブ、タンタル、バナジウム、鉄等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
チタン基合金の具体的な組成としては、JIS H 4600:2012に60種、60E種、61種または61F種として規定されているチタン合金が挙げられる。具体的には、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−4V ELI、Ti−3Al−2.5V等が挙げられる。この他、航空宇宙材料規格(AMS)に規定されているTi−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo−0.08Si、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo等が挙げられる。また、国際標準化機構(ISO)が策定する規格に規定されているTi−5Al−2.5Fe、Ti−6Al−7Nb等が挙げられる。さらには、Ti−13Zr−13Ta、Ti−6Al−2Nb−1Ta、Ti−15Zr−4Nb−4Ta、Ti−5Al−3Mo−4Zr等が挙げられる。
なお、上述した合金組成の表記は、濃度の大きい成分を左から順に記載したものであり、元素の前にある数字はその元素の濃度を質量%を表すものである。例えば、Ti−6Al−4Vは、6質量%のAlと4質量%のVとを含み、残部がTiおよび不純物であることを表す。なお、不純物は、所定の割合(例えば不純物合計で0.40質量%以下)で不可避的に混入した元素または意図的に添加された元素である。
また、上述した合金組成の主なものの範囲は、下記の通りである。
Ti−6Al−4V合金は、Alを5.5質量%以上6.75質量%以下で含み、Vを3.5質量%以上4.5質量%以下で含み、残部がTiおよび不純物である。不純物としては、例えば、Feが0.4質量%以下、Oが0.2質量%以下、Nが0.05質量%以下、Hが0.015質量%以下、Cが0.08質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。さらには、その他の元素が個々に0.10質量%以下、合計で0.40質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。
Ti−6Al−4V ELI合金は、Alを5.5質量%以上6.5質量%以下で含み、Vを3.5質量%以上4.5質量%以下で含み、残部がTiおよび不純物である。不純物としては、例えば、Feが0.25質量%以下、Oが0.13質量%以下、Nが0.03質量%以下、Hが0.0125質量%以下、Cが0.08質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。さらには、その他の元素が個々に0.10質量%以下、合計で0.40質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。
Ti−3Al−2.5V合金は、Alを2.5質量%以上3.5質量%以下で含み、Vを1.6質量%以上3.4質量%以下で含み、必要に応じてSを0.05質量%以上0.20質量%以下で含み、必要に応じてLa、Ce、PrおよびNdの少なくとも1種を合計で0.05質量%以上0.70質量%以下で含み、残部がTiおよび不純物である。不純物としては、例えば、Feが0.30質量%以下、Oが0.25質量%以下、Nが0.05質量%以下、Hが0.015質量%以下、Cが0.10質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。さらには、その他の元素が合計で0.40質量%以下の割合で含まれることが許容される。
Ti−5Al−2.5Fe合金は、Alを4.5質量%以上5.5質量%以下で含み、Feを2質量%以上3質量%以下で含み、残部がTiおよび不純物である。不純物としては、例えば、Oが0.2質量%以下、Nが0.05質量%以下、Hが0.013質量%以下、Cが0.08質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。さらには、その他の元素が合計で0.40質量%以下の割合で含まれることが許容される。
Ti−6Al−7Nb合金は、Alを5.5質量%以上6.5質量%以下で含み、Nbを6.5質量%以上7.5質量%以下で含み、残部がTiおよび不純物である。不純物としては、例えば、Taが0.50質量%以下、Feが0.25質量%以下、Oが0.20質量%以下、Nが0.05質量%以下、Hが0.009質量%以下、Cが0.08質量%以下の割合で、それぞれ含まれることが許容される。さらには、その他の元素が合計で0.40質量%以下の割合で含まれることが許容される。なお、Ti−6Al−7Nb合金は、細胞毒性が他の合金種に比べて特に低いため、チタン焼結体1が生体適合用途に用いられる場合、特に有用である。
また、チタン焼結体1に含まれる成分は、例えばJIS H 1632−1(2014)〜JIS H 1632−3(2014)に規定されているチタン−ICP発光分光分析方法に準拠した方法により分析することができる。
また、本実施形態に係るα相2の形状は、針状形状ではなく、等方形状あるいはそれに準じた形状であるのが好ましい。このような形状を有することにより、前述したように、チタン焼結体1の疲労強度の低下を抑制することができる。その結果、長期にわたって高い鏡面性を維持し得るチタン焼結体1が得られる。
また、結晶組織の形状を評価する指標としてアスペクト比がある。α相2の平均アスペクト比は、好ましくは1以上3以下とされ、より好ましくは1以上2.5以下とされる。α相2の平均アスペクト比が前記範囲内であることにより、チタン焼結体1の疲労強度および硬度の低下が抑えられる。このため、構造部品として有用なチタン焼結体1が得られる。また、平均アスペクト比を前記範囲内に調整することにより、チタン焼結体1が摺動部品に適用された場合、摺動面に凹凸が生じ難くなる。その結果、摺動面の平滑性をより高めることができ、とりわけ摺動抵抗が小さく耐摩耗性に優れたチタン焼結体1が得られる。アスペクト比が前記上限値を上回ると、α相2の形状異方性が大きくなるので、α相2の粒径によっては摺動面の平滑性が低下し、摺動抵抗が大きくなるおそれがある。
なお、α相2の平均アスペクト比は、次のようにして測定される。まず、チタン焼結体1の断面を電子顕微鏡で観察し、得られた観察像において100個以上のα相2を無作為に選択する。次に、観察像上において選択したα相2の長軸を特定し、さらにこの長軸と直交する方向で最長の軸を短軸として特定する。次いで、長軸/短軸をアスペクト比として算出する。そして、100個以上のα相2についてのアスペクト比を平均し、これを平均アスペクト比とする。
また、チタン焼結体1では、α相2の粒径が揃っていることが好ましい。α相2の形状が前述したような等方形状あるいはそれに準じた形状であることに加え、粒径が揃っていることも奏功し、チタン焼結体1は、疲労強度が高く、かつ長期にわたって優れた耐摩耗性を有するものとなる。
ここで、α相2の粒径を横軸にとり、その粒径に対応するα相2の数を縦軸にとったプロットエリアに、α相2の粒径の測定結果をプロットすると、α相2の粒度分布が得られる。この粒度分布において、小径側からの個数の累積が全体の16%になるときの粒径をD16とし、小径側からの個数の累積が全体の84%となるときの粒径をD84とする。このとき、粒度分布の標準偏差SDは、下記式で求められる。
SD=(D84−D16)/2
このようにして求められた標準偏差SDは、粒度分布の分布幅の目安となる。そして、チタン焼結体1では、α相2の粒度分布の標準偏差SDが5以下であるのが好ましく、3以下であるのがより好ましく、2以下であるのがさらに好ましい。α相2の粒度分布の標準偏差SDが前記範囲内であるチタン焼結体1は、粒度分布が十分に狭く、α相2の粒径が十分に揃っているものとなる。かかるチタン焼結体1は、とりわけ疲労強度が高く、かつ、長期にわたって優れた耐摩耗性を維持し得るものとなる。
また、チタン焼結体1がX線回折法による結晶構造解析に供され、取得されるX線回折スペクトルは、例えばα相に起因する反射強度のピークとβ相に起因する反射強度のピークとを含む。
X線回折法により取得されるX線回折スペクトルは、特に、チタンα相の面方位(100)による反射強度のピークと、チタンβ相の面方位(110)による反射強度のピークと、を含むことが好ましい。その上で、X線回折スペクトルにおいて、チタンβ相の面方位(110)による反射強度のピーク値(ピークトップの値)は、チタンα相の面方位(100)による反射強度のピーク値(ピークトップの値)の5%以上60%以下であるのが好ましく、10%以上50%以下であるのがより好ましく、15%以上40%以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述したα相2が持つ特性とβ相3が持つ特性とがそれぞれ埋没することなく顕在化する。すなわち、α相2は、転位を生じ難いことから摺動によって変性し難く、かつ、耐食性も高い。一方、β相3は、α相2同士の滑りを助長するため、摺動面に大きな荷重が加わった場合でも、α相2同士の滑りによってその荷重による影響を緩和させることができる。よって、これらの機能がそれぞれ顕在化することによって、双方の効果が互いに打ち消し合うことなく相乗効果が得られる。その結果、摺動面に大きな荷重が加わった場合であっても長期にわたって優れた耐摩耗性を維持し得るチタン焼結体1が得られる。
なお、チタンα相の面方位(100)による反射強度のピークは、2θが35.3°付近に位置する。一方、チタンβ相の面方位(110)による反射強度のピークは、2θが39.5°付近に位置する。
また、X線回折装置のX線源には、Cu−Kα線を用い、管電圧を30kVとし、管電流を20mAとする。
また、チタン焼結体1は、相対密度が99%以上であるのが好ましく、99.5%以上であるのがより好ましい。チタン焼結体1の相対密度が前記範囲内であることにより、摺動面に空孔が露出し難くなる。このため、空孔を起点にした摩耗が発生し難くなり、摩擦抵抗が小さくなることによって特に良好な耐摩耗性を示すチタン焼結体1が得られる。
なお、チタン焼結体1の相対密度は、JIS Z 2501:2000に規定された焼結金属材料の密度試験方法に準じて測定された乾燥密度である。
以上のようなチタン焼結体1は、種々の用途に適用可能であり、その用途は特に限定されないが、特に後述する装飾品や摺動部品として有用である。
<チタン焼結体の製造方法>
次に、チタン焼結体1を製造する方法について説明する。
チタン焼結体1の製造方法は、[1]チタン系粉末と有機バインダーとを混合し、混合物を得る工程と、[2]混合物を粉末成形法により成形し、成形体を得る工程と、[3]成形体を脱脂し、脱脂体を得る工程と、[4]脱脂体を焼成し、焼結体を得る工程と、[5]焼結体に熱間等方加圧処理(HIP処理)を施す工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]混合工程
まず、チタン焼結体1の原材料となるチタン系粉末を有機バインダーとともに混練し、混練物(混合物)を得る。
チタン系粉末の平均粒径は、特に限定されないが、1μm以上50μm以下であるのが好ましく、5μm以上40μm以下であるのがより好ましい。
また、チタン系粉末は、チタン単体粉末またはチタン合金粉末である。チタン合金粉末は、単一の合金組成の粒子のみからなる粉末(プレアロイ粉末)であってもよく、互いに組成の異なる複数種の粒子を混合してなる混合粉末(プレミックス粉末)であってもよい。プレミックス粉末の場合、個々の粒子は1種類の元素のみを含む粒子であっても複数の元素を含む粒子であってもよく、プレミックス粉末全体で前述したような組成比を満たしていればよい。
混練物中の有機バインダーの含有率は、成形条件や成形する形状等に応じて適宜設定されるが、混練物全体の2質量%以上20質量%以下程度であるのが好ましく、5質量%以上10質量%以下程度であるのがより好ましい。有機バインダーの含有率を前記範囲内に設定することにより、混練物は良好な流動性を有するものとなる。これにより、成形の際の混練物の充填性が向上し、最終的に目的とする形状により近い形状(ニアネットシェイプ)の焼結体が得られる。
有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
また、混練物中には、必要に応じて、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物中には、チタン系粉末、有機バインダー、可塑剤の他に、例えば、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じて添加することができる。
なお、混練条件は、用いるチタン系粉末の合金組成や粒径、有機バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度50℃以上200℃以下程度、混練時間15分以上210分以下程度とすることができる。
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、後述する成形方法に応じて、混練物ではなく、造粒粉末(混合物)を製造するようにしてもよい。
[2]成形工程
次に、得られた混練物(混合物)を成形して、成形体を製造する。
成形方法としては、特に限定されず、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種粉末成形法を用いることができる。このうち、ニアネットシェイプの焼結体を製造し得るという観点から、金属粉末射出成形法が好ましく用いられる。
また、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いるチタン系粉末の組成や粒径、有機バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200MPa以上1000MPa以下(2t/cm2以上10t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、チタン系粉末の場合の成形条件は、やはり諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、射出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、やはり諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、押出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
このようにして得られた成形体は、チタン系粉末の粒子同士の間隙に、有機バインダーが一様に分布した状態となる。
なお、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分を見込んで決定される。
また、必要に応じて、成形体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。成形体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、成形体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高いチタン焼結体1をより容易に得ることができる。
[3]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、有機バインダーを分解することにより、成形体中から有機バインダーの少なくとも一部を除去して、脱脂処理がなされる。
この脱脂処理は、例えば、成形体を加熱する方法、バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、有機バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度100℃以上750℃以下×0.1時間以上20時間以下程度であるのが好ましく、150℃以上600℃以下×0.5時間以上15時間以下程度であるのがより好ましい。これにより、成形体を焼結させることなく、成形体の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。その結果、脱脂体の内部に有機バインダー成分が多量に残留してしまうのを確実に防止することができる。
また、成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、大気のような酸化性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
一方、バインダーを分解するガスとしては、例えば、オゾンガス等が挙げられる。
なお、このような脱脂工程は、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うことにより、成形体中の有機バインダーをより速やかに、そして、成形体に残存させないように分解・除去することができる。
また、必要に応じて、脱脂体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。脱脂体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、脱脂体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高いチタン焼結体1をより容易に得ることができる。
[4]焼成工程
次に、得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。すなわち、チタン系粉末の粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。その結果、チタン焼結体1が得られる。
焼成温度は、チタン系粉末の組成や粒径等によって異なるが、一例として900℃以上1400℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1300℃以下程度とされる。
また、焼成時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上6時間以下程度とされる。
なお、焼成工程においては、途中で焼結温度や後述する焼成雰囲気を変化させるようにしてもよい。
また、焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、金属粉末の著しい酸化を防止することを考慮した場合、水素のような還元性ガス雰囲気、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が好ましく用いられる。
なお、チタン系粉末からチタン焼結体1を製造する場合、焼成条件等によっては、α相2とβ相3の双方が形成されることがある。特に、チタン系粉末中に前述したβ相安定化元素が含まれている場合には、β相3がより確実に形成される。
一方、各種製造条件を最適化することにより、チタン焼結体1の酸素含有率を調整することができる。例えばチタン焼結体1はチタン系粉末を用いて製造されるが、このチタン系粉末の酸素含有率を適宜変更することにより、チタン焼結体1の酸素含有率を調整することができる。具体的には、溶湯(原料の溶融物)からチタン系粉末を製造する際に、未冷却状態(高温状態)の粉末を水や酸素含有雰囲気に触れさせたり、あるいは触れる時間を長く確保したりすることによって、チタン系粉末の酸素含有率を高めることができる。チタン系粉末に含まれた酸素は、例えば酸化チタンのような状態で存在し、そのままチタン焼結体1に移行し易いため、チタン焼結体1の酸素含有率を高めることができる。
なお、使用するチタン系粉末の酸素含有率は、特に限定されないものの、質量比で300ppm以上5000ppm以下であるのが好ましく、500ppm以上3000ppm以下であるのがより好ましい。このような酸素含有率の合金粉末を用いることにより、チタン系粉末の焼結性を阻害することなく酸素含有率の比較的高いチタン焼結体1を得ることができる。
また、この他に、有機バインダーの分解物から酸素が供給されたり、加熱炉の炉体や雰囲気から酸素が供給されたりすることも、酸素含有率を高める一因である。
また、各種製造条件を最適化することにより、チタン焼結体1においてα相2が占める割合、すなわち、チタン焼結体1の断面においてα相2が占める面積率も調整することができる。例えば、焼成温度が高くなるとβ相3の割合が多くなるため、β相3の割合が目的の範囲内に収まるように焼成温度を調整するとともに、焼成時間が長すぎることによる結晶組織の肥大化を考慮して焼成時間を設定すればよい。
したがって、例えばβ相3をほとんど含まないチタン系粉末を用いてチタン焼結体1を製造する場合、チタン系粉末の組成によっては、焼成温度を高くすればするほどβ相3の割合が高くなる傾向があるので、α相2の面積率が前記範囲内に収まるように焼成温度を調整するともに、焼成温度の調整によって焼結不足や過焼結にならないように焼成時間を設定すればよい。
また、このような製造条件の最適化に伴い、α相2の粒径についても調整することができる。焼成温度を高くしたり焼成時間を長くしたりするほどα相2の粒径が大きくなる傾向があるので、α相2の粒径が前記範囲内に収まるように焼成温度や焼成時間を設定すればよい。
さらに、チタン焼結体1の表面の硬度は、α相2の粒径に依存する傾向が高い。α相2の粒径を小さくすれば硬度が高くなり、α相2の粒径を大きくすれば硬度が小さくなる傾向がある。したがって、α相2の粒径を調整すべく、焼成温度や焼成時間を設定することにより、チタン焼結体1の表面のビッカース硬度を前記範囲内に収めることができる。
なお、α相2の平均粒径が前記範囲内にある場合、α相2の面積率が高くなるにつれて、α相2の形状は等方形状に近づく傾向を示す。これは、β相3の割合が低下することにより、α相2同士が隣接する確率が高くなり、α相2同士が互いに干渉し合うことによって異方的な粒成長が阻害されるためと考えられる。したがって、α相2の粒径とともにアスペクト比についても調整が可能である。
[5]HIP工程
また、このようにして得られた焼結体に対し、さらにHIP処理(熱間等方加圧処理)等を施すようにしてもよい。これにより、焼結体のさらなる高密度化を図り、より機械的特性に優れた装飾品を得ることができる。
HIP処理の条件としては、例えば、温度が850℃以上1200℃以下、時間が1時間以上10時間以下程度とされる。
また、加圧力は、50MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上500MPa以下であるのがより好ましい。
さらに、必要に応じて、得られた焼結体に対し、さらに焼鈍処理、溶体化処理、時効処理、熱間加工処理、冷間加工処理等が施されてもよい。
なお、必要に応じて、得られたチタン焼結体1に例えば研磨処理のような機械加工を施すようにしてもよい。研磨処理としては、特に限定されないが、例えば、電解研磨、バフ研磨、乾式研磨、化学研磨、バレル研磨、サンドブラスト等が挙げられる。これらの研磨処理を施すことにより、チタン焼結体1の表面にさらなる金属光沢を与え、鏡面性を高めることができる。そして、鏡面性の高い表面は、摺動抵抗が小さいので、より耐摩耗性に優れる。
<装飾品>
次に、本発明の装飾品の実施形態について説明する。
本実施形態に係る装飾品としては、例えば、時計ケース(胴、裏蓋、胴と裏蓋とが一体化されたワンピースケース等)、時計バンド(バンド中留、バンド・バングル着脱機構等を含む。)、ベゼル(例えば、回転ベゼル等)、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン、ガラス縁、ダイヤルリング、見切板、パッキンのような時計用外装部品、メガネ(例えば、メガネフレーム)、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアスのような装身具、スプーン、フォーク、箸、ナイフ、バターナイフ、栓抜きのような食器、ライターまたはそのケース、ゴルフクラブのようなスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング(例えば携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ウェラブル端末、モバイル型コンピューター、音楽プレーヤー、カメラ、シェーバー等のハウジング)のような機器用外装部品等が挙げられる。これらの装飾品は、いずれも優れた美的外観が尊ばれることがある。これらの装飾品が少なくとも一部にチタン焼結体1を含むことにより、装飾品の表面に優れた耐摩耗性を与えることができる。これにより、キズや摩耗が抑えられ、長期にわたって優れた美的外観を維持し得る装飾品が得られる。また、それとともに、装飾品の表面には鏡面性を与えることができる。かかる観点からも、本実施形態に係る装飾品は、美的外観に優れる。
図3は、本発明の装飾品の実施形態が適用された時計ケースを示す斜視図であり、図4は、本発明の装飾品の実施形態が適用されたベゼルを示す部分断面斜視図である。
図3に示す時計ケース11は、ケース本体112と、ケース本体112から突出するように設けられ、時計バンドを取り付けるためのバンド取付部114と、を備えている。このような時計ケース11は、図示しないガラス板や裏蓋とともに、容器を構築することができる。この容器内には、図示しないムーブメントや文字盤等が収納される。したがって、この容器は、ムーブメント等を外部環境から保護するとともに、時計の美的外観に大きな影響を及ぼす。
図4に示すベゼル12は、環状をなしており、時計ケースに装着され、必要に応じて時計ケースに対して回転可能になっている。時計ケースにベゼル12が装着されると、ベゼル12が時計ケースの外側に位置するため、ベゼル12が時計の美的外観を左右することになる。
また、このような時計ケース11やベゼル12は、人体に装着された状態で使用されるため、常にキズが付き易い。このため、このような装飾品の構成材料としてチタン焼結体1が用いられることにより、表面の鏡面性が高く美的外観に優れた装飾品が得られる。さらに、長期にわたってこの鏡面性を維持することができる。
加えて、時計ケース11やベゼル12は、表面に付いたキズを消すために研磨処理に供されることがある(オーバーホール)。本実施形態に係るチタン焼結体1を含む時計ケース11やベゼル12は、このような研磨処理に供されたとしても、著しく摩耗したり凹凸を生じさせたりすることが少ないので、研磨処理を施し易いものである。すなわち、このような時計ケース11やベゼル12は、研磨処理に供されたとしても、表面の鏡面性が高く美的外観に優れている状態を維持することができる(研磨によって鏡面性が低下するおそれが少ない)。
<摺動部品>
次に、本発明のチタン焼結体1の適用例として摺動部品について説明する。
摺動部品としては、例えば、電動機用部品、発電機用部品、ポンプ用部品、圧縮機用部品のような産業機械用部品、自動車用部品(例えば、ピストン、タペット、コンロッドのようなエンジン構成部品等)、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機(例えばロケット等)用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、民生ロボット用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫用部品、洗濯機用部品、冷暖房機用部品のような電気機器用部品、工作機械用部品、半導体製造装置用部品、産業ロボット用部品のような装置用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラントに用いられるプラント用部品等が挙げられる。
これらは、いずれも、摺動面に荷重がかかった状態で相手部材と摺動する。したがって、かかる摺動部品の少なくとも一部にチタン焼結体1が用いられることにより、長期にわたって耐摩耗性に優れた摺動部品が実現される。
<耐熱部品>
≪第1実施形態≫
本発明の耐熱部品は、例えば過給機用部品に適用可能である。後述する過給機用部品は、本発明の耐熱部品の第1実施形態であって、前述したチタン焼結体を含む。すなわち、後述する過給機用部品は、その少なくとも一部が前述したチタン焼結体で構成されている。このような過給機用部品は、追加処理を施すことなく(またはより少ない追加処理によって)、高密度で耐摩耗性および耐熱性に優れた耐熱部品となる。
かかる過給機用部品としては、例えば、ターボチャージャー用ノズルベーン、ターボチャージャー用タービンホイール、ターボチャージャー用インペラーホイール、ウェストゲートバルブ、タービンシャフト、ハウジング、ドライブリング、ドライブレバー、ノズルリング、ノズルプレート、ユニゾンリング、アーム、リンク、ロッド等が挙げられる。これらの過給機用部品はいずれも、長期にわたって高温に曝される可能性があるとともに、場合によっては他の部品との間で摺動するため、耐摩耗性が要求される。前述したように、本発明のチタン焼結体は高密度であるため、優れた耐熱性および機械的特性を有する。このため、長期にわたる耐久性に優れた過給機用部品が得られる。
以下、過給機用部品の例として、ターボチャージャー用ノズルベーン(以下、省略して「ノズルベーン」ともいう。)について説明する。ノズルベーンは、可変容量型ターボチャージャーに用いられ、ノズル開度を調整することによって過給圧を制御するための弁体である。
図6は、本発明の耐熱部品の第1実施形態を適用したターボチャージャー用ノズルベーンを示す側面図(翼部を平面視したときの図)であり、図7は、図6に示すノズルベーンの平面図であり、図8は、図6に示すノズルベーンの背面図である。
図6に示すノズルベーン4は、軸部41および翼部42を有している。
軸部41は、その主要部の横断面形状が軸線43を中心軸とする円形をなしている。この軸部41は、その翼部42側(図6にて左側)の部分が図示しないノズルマウントに回動可能に支持され、翼部42とは反対側(図6にて右側)の部分が図示しないノズルプレートに固定される。これにより、軸線43まわりに翼部42を回動させてその角度を変化させることができ、ノズル開度を調整することができる。
また、軸部41の一端面(図6にて右側の端面)には、センター穴44が形成されている。このセンター穴44は、その横断面形状が円形をなし、その中心が軸線43に一致するように形成されている。
また、軸部41の一端側(図6にて右側)の外周面には、軸線43を介して互いに対向する一対の平坦部45(2面カット部)が設けられている(図8参照)。
このような各平坦部45は、図示しないレバープレートに形成された当て付け面に当て付けられた状態で用いられる。軸部41の軸線43まわりの回動角が規制され、ノズルベーン4の軸線43まわりの回動角を高精度に調整することができる。また、各平坦部45は、翼部42の突出方向(翼面)に対して角度θにて傾斜するように形成されている(図8参照)。
一方、軸部41の他端側(図6にて左側の端部)には、翼部42が設けられている。すなわち、翼部42は、軸部41の一方の端部から突出するように設けられている。
また、軸部41の他端側には、軸部41の外側に突出するフランジ部46が形成されている。
このような翼部42は、その平面視にて、図6に示すように、軸部41の軸線43に垂直な方向に延在する帯状をなしている。また、軸部41からの翼部42の突出長さは、一端側(図6にて下側)が他端側(図6にて上側)よりも長くなっている。
また、翼部42の平面視での幅方向(図6にて左右方向)での両端部における縁部には、面取り47、48が施されている。
また、図7、図8に示すように、翼部42は、その厚さ方向に若干湾曲している。また、翼部42は、その厚さが延在方向(突出方向)で各端へ向け漸減している。
以上のようなノズルベーン4は、本発明のチタン焼結体を含んでいる。これにより、ノズルベーン4は優れた耐熱性および機械的特性を有し、耐摩耗性に優れたものとなる。また、ノズルベーン4は複雑な形状であっても寸法精度の高いものとなる。その結果、優れた性能を長期にわたって発揮し得る過給機を実現することができる。
なお、上述したノズルベーン4の形状等は一例であり、限定されるものではない。
≪第2実施形態≫
図9は、本発明の耐熱部品の第2実施形態を適用したターボチャージャー用インペラーホイールを示す正面図である。ターボチャージャー用インペラーホイール(以下、省略して「インペラーホイール」という。)は、ターボチャージャーにおいて排気ガス等の圧力を受けて回転力を発生させる部品である。
図9に示すインペラーホイール5は、ハブ部54と、ハブ部54の外周面に設けられた複数の翼部55と、を有している。
また、ハブ部54は、シャフトを貫通させる貫通孔541を備えている。
複数の翼部55は、インペラーホイール5の回転軸530の方向における長さが互いに異なる長翼部551と短翼部552とを含んでいる。長翼部551および短翼部552は、ハブ部54の外周の周方向において交互に等間隔で配設されている。
また、長翼部551は、図9に示すインペラーホイール5の下端から上端にかけて配設されている。そして、長翼部551は、ハブ部54の外周の周方向に湾曲させた形状をなしている。
一方、短翼部552は、図9に示すインペラーホイール5の下端から上端に向けて配設されているものの、長翼部551よりも短くなるように配設されている。そして、短翼部552も、ハブ部54の外周の周方向に湾曲させた形状をなしている。
このようなインペラーホイール5は、本発明のチタン焼結体を含んでいる。これにより、インペラーホイール5は優れた耐熱性および機械的特性を有し、耐摩耗性に優れたものとなる。また、インペラーホイール5は3次元の複雑な形状であっても寸法精度の高いものとなる。その結果、優れた性能を長期にわたって発揮し得る過給機を実現することができる。
なお、上述したインペラーホイール5の形状等は一例であり、限定されるものではない。
≪第3実施形態≫
本発明の耐熱部品は、例えばジェットエンジン用部品や発電タービン用部品である圧縮機翼に適用可能である。かかる圧縮機翼は、本発明の耐熱部品の第3実施形態であって、その少なくとも一部が本発明のチタン焼結体で構成されている。
図10は、本発明の耐熱部品の第3実施形態を適用した圧縮機翼を示す斜視図である。図10に示す圧縮機翼6は、互いに同心状に設けられた内側リム61および外側リム62と、これらの間に設けられるとともに内側リム61の円周方向に並べられた翼部63と、を備えている。内側リム61および外側リム62は、それぞれ円環の一部を切り出した形状をなしている。すなわち、図10に示す圧縮機翼6は、円環状をなす圧縮機翼全体が複数個のセグメントに分割されてなるもののうち、1つのセグメントに対応するものである。また、翼部63は、湾曲した曲面を含む平板状をなしている。そして、翼部63の翼端(端面)が、内側リム61の外周面と外側リム62の内周面とに結合されている。
このような圧縮機翼6は、ジェットエンジンや発電用ガスタービンを構成する部品の1つであり、翼部63が気体を受けることによって内側リム61のさらに内側に設けられている図示しないタービン軸を回転させる。これにより、ジェットエンジンや発電用ガスタービン内において圧縮機が気体を圧縮することができる。
内側リム61、外側リム62および翼部63は、互いに別の部材であってもよいが、図10に示す圧縮機翼6は、内側リム61と外側リム62と翼部63とが一体になっている。このため、各部の相対的な位置精度が高く、圧縮機翼としての性能に優れている。そして、圧縮機翼6の全体を本発明のチタン焼結体で構成することにより、寸法精度に優れた圧縮機翼6が得られる。
また、一般に圧縮機翼では、空力性能を向上させる必要性から、翼部の形状をより肉薄でかつ湾曲した曲面を含むような三次元形状にすることが求められている。
かかる問題に対し、圧縮機翼6の全体が粉末冶金法で製造された焼結体で構成されていることにより、肉薄でかつ複雑な三次元形状を有する翼部63を含んでいても、寸法精度の高い圧縮機翼6を実現することができる。
また、本発明のチタン焼結体は、高密度で耐熱性に優れているため、圧縮機翼6の機械的特性の向上にも寄与する。すなわち、一般に圧縮機翼は、空気流路を構成する部品であるため、高温下でも振動に対して十分な疲労強度や耐摩耗性等が求められる。
かかる問題に対し、圧縮機翼6は、本発明のチタン焼結体で構成されているため、高密度で耐熱性に優れるとともに十分な耐摩耗性を有している。したがって、長期にわたる耐久性に優れた圧縮機翼6が得られる。
さらには、各種成形法を用いて製造されるため、圧縮機翼6の製造にあたっては、焼結後の後加工がほとんど必要ないか、あるいは加工量を少なく抑えられる。また、前述したように、高密度化が図られているため、HIP処理のような追加処理も不要である。このため、製造コストの低減が図られるとともに、後加工痕がもたらす不具合の発生を最小限に留めることができる。
なお、上述した圧縮機翼の形状等は一例であり、限定されるものではない。例えば、図10に示す圧縮機翼6は、いわゆる静翼であるが、圧縮機翼は動翼であってもよい。
また、本発明のチタン焼結体は、ジェットエンジンや発電用ガスタービンを構成するその他の部品、例えばファンブレード、タービンブレード、ファンディスク、マウント、シャフト、燃焼器、排気口といった圧縮機以外の部位を構成する部品にも適用可能である。
以上、本発明のチタン焼結体、装飾品および耐熱部品について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、チタン焼結体の用途は、装飾品や摺動部品、耐熱部品等に限定されず、その他の任意の構造体(構造部品)であってもよい。この構造部品としては、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機(例えばロケット等)用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、手術用器具、人工骨、人工関節、人工歯、人工歯根、歯列矯正用部品のような医療機器等が挙げられる。
なお、チタン焼結体は、生体適合性が高いため、特に人工骨や歯科用金属部品として有用である。このうち歯科用金属部品は、口腔内に一時的あるいは半永久的に留置される金属部品であれば、特に限定されず、例えば、インレー、クラウン、ブリッジ、金属床、義歯、インプラント、アバットメント、フィクスチャー、スクリュー等のメタルフレームが挙げられる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.チタン焼結体の製造
(実施例1)
<1>まず、ガスアトマイズ法により製造された平均粒径23μmのTi−6Al−4V合金粉末を用意した。
次いで、ポリプロピレンとワックスの混合物(有機バインダー)を用意し、原料粉末と有機バインダーとの質量比が9:1になるように秤量して、チタン焼結体製造用組成物を得た。
次いで、得られたチタン焼結体製造用組成物を混練機で混練し、コンパウンドを得た。そして、コンパウンドをペレットに加工した。
<2>次に、得られたペレットを用いて、以下に示す成形条件で成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・成形方法:金属粉末射出成形法
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
<3>次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で脱脂処理を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・脱脂温度 :520℃
・脱脂時間 :5時間
・脱脂雰囲気:窒素ガス雰囲気
<4>次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。このようにして焼結体を作製した。
<焼成条件>
・焼成温度 :1100℃
・焼成時間 :5時間
・焼成雰囲気:アルゴンガス雰囲気
・雰囲気圧力:大気圧(100kPa)
<5>次に、得られた焼結体に対し、以下に示す処理条件でHIP処理を施した。このようにして、直径5mm×長さ100mmの棒状をなすチタン焼結体を得た。
<HIP処理条件>
・処理温度 :900℃
・処理時間 :3時間
・処理圧力 :1480kgf/cm2(145MPa)
<6>次に、得られたチタン焼結体を切断し、切断面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
(実施例2〜6)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表1に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にしてチタン焼結体を得た。
(比較例1〜4)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表1に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にしてチタン焼結体を得た。
(参考例1)
まず、Ti−6Al−4V合金の溶製材を用意した。
次いで、得られた溶製材を切断し、研磨面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
(実施例7)
Ti−6Al−4V合金粉末に代えて、平均粒径23μmのTi−3Al−2.5V合金粉末を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてチタン焼結体を得た。
そして、得られたチタン焼結体を切断し、切断面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。
(実施例8〜12)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表2に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例7と同様にしてチタン焼結体を得た。
(比較例5〜8)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表2に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例7と同様にしてチタン焼結体を得た。
(参考例2)
まず、Ti−3Al−2.5Vの溶製材を用意した。
次いで、得られた溶製材を切断し、研磨面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。
(実施例13)
Ti−6Al−4V合金粉末に代えて、平均粒径25μmのTi−6Al−7Nb合金粉末を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてチタン焼結体を得た。
そして、得られたチタン焼結体を切断し、切断面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表3に示す。
(実施例14〜18)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表3に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例13と同様にしてチタン焼結体を得た。
(比較例9〜12)
α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比がそれぞれ表3に示す値になるように製造条件を変更した以外は、それぞれ実施例13と同様にしてチタン焼結体を得た。
(参考例3)
まず、Ti−6Al−7Nbの溶製材を用意した。
次いで、得られた溶製材を切断し、切断面にバフ研磨処理を施した。
次いで、研磨面を電子顕微鏡で観察し、α相の平均粒径、α相およびβ相が占める面積率、ならびにα相の平均アスペクト比をそれぞれ求めた。その結果を表3に示す。
2.チタン焼結体の評価
2.1 酸素含有率
まず、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材について、その酸素含有率を酸素窒素同時分析装置(LECO社製、TC−136)により測定した。測定結果を表1〜3に示す。
2.2 ビッカース硬度
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材の表面について、JIS Z 2244:2009に規定の方法に準じてビッカース硬度を測定した。測定結果を表1〜3に示す。
2.3 酸化チタン粒子の平均粒径
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材について、研磨面を電子顕微鏡にて観察した。そして、観察像において酸化チタン粒子を特定し、その平均粒径を算出した。算出結果を表1〜3に示す。
2.4 X線回折法による結晶構造解析
次に、実施例1のチタン焼結体について、以下に示す測定条件により、X線回折法による結晶構造解析を行った。
<X線回折法による結晶構造解析の測定条件>
・X線源 :Cu−Kα線
・管電圧 :30kV
・管電流 :20mA
得られたX線回折スペクトルを図5に示す。
図5から明らかなように、実施例1のチタン焼結体について得られたX線回折スペクトルは、α相(α−Ti)による反射強度のピークと、β相(β−Ti)による反射強度のピークとを含んでいることがわかった。そこで、2θが35.3°付近に位置する面方位(100)α−Tiによる反射強度のピーク値を基準にしたとき、2θが39.5°付近に位置する面方位(110)β−Tiによる反射強度のピーク値の前記基準に対する割合(ピーク比)を算出した。また、これと同様の計算を、実施例2〜18および比較例1〜3、5〜7、9〜11のチタン焼結体ならびに参考例1〜3のチタン溶製材においても行った。ピーク比の算出結果を表1〜3に示す。なお、比較例4、8、12のチタン焼結体では、α相やβ相以外のピークも目立っていたため、ピーク比の算出が困難であった。
2.5 鏡面性
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材について、研磨面を目視にて観察した。そして、研磨面の鏡面性を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1〜3に示す。
<研磨面の鏡面性の評価基準>
◎:研磨面の鏡面性が非常に高い(美的外観が特に良好)
○:研磨面の鏡面性がやや高い(美的外観がやや良好)
△:研磨面の鏡面性がやや低い(美的外観がやや不良)
×:研磨面の鏡面性が非常に低い(美的外観が不良)
2.6 相対密度
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材について、JIS Z 2501:2000に規定の方法に準じて相対密度を算出した。算出結果を表1〜3に示す。
2.7 耐摩耗性
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材について、その表面の耐摩耗性を評価した。具体的には、まず、チタン焼結体の表面にバフ研磨処理を施した。次いで、研磨面について、JIS R 1613(2010)に規定されたファインセラミックスのボールオンディスク法による摩耗試験方法に準じた摩耗試験を行い、円板状試験片の摩耗量を測定した。なお、測定条件は、以下の通りである。
<比摩耗量の測定条件>
・球形試験片の材質:高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)
・球形試験片の大きさ:直径6mm
・円板状試験片の材質:各実施例および各比較例の焼結体ならびに各参考例の溶製材
・円板状試験片の大きさ:直径35mm、厚さ5mm
・荷重の大きさ:10N
・摺動速度:0.1m/s
・摺動円直径:30mm
・摺動距離:50m
そして、参考例1のチタン溶製材について得られた摩耗量を1とし、表1に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた摩耗量の相対値を算出した。
同様に、参考例2のチタン溶製材について得られた摩耗量を1とし、表2に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた摩耗量の相対値を算出した。
さらに、同様に、参考例3のチタン溶製材について得られた摩耗量を1とし、表3に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた摩耗量の相対値を算出した。
次いで、算出した相対値を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1〜3に示す。
<摩耗量の評価基準>
A:摩耗量が非常に少ない(相対値が0.5未満)
B:摩耗量が少ない(相対値が0.5以上0.75未満)
C:摩耗量がやや少ない(相対値が0.75以上1未満)
D:摩耗量がやや多い(相対値が1以上1.25未満)
E:摩耗量が多い(相対値が1.25以上1.5未満)
F:摩耗量が非常に多い(相対値が1.5以上)
2.8 引張強さ
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材等について、その引張強さを測定した。なお、引張強さの測定は、JIS Z 2241(2011)に規定の金属材料引張試験方法に準じて行った。
そして、参考例1のチタン溶製材について得られた引張強さを1とし、表1に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた引張強さの相対値を算出した。
同様に、参考例2のチタン溶製材について得られた引張強さを1とし、表2に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた引張強さの相対値を算出した。
さらに、同様に、参考例3のチタン溶製材について得られた引張強さを1とし、表3に示す各実施例および各比較例のチタン焼結体について得られた引張強さの相対値を算出した。
次いで、得られた相対値を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1〜3に示す。なお、引張強さについては、上記試験体以外に、SUS316L焼結体、ASTM F75(Co−28%Cr−6%Mo合金)の鋳造材および焼結体、ならびにα−Ti焼結体についても、参考例a〜dとして評価した(表1)。また、参考例dについては、その他に、前述した2.1、2.2および2.5〜2.7と同様の評価を行った。
<引張強さの評価基準>
A:引張強さが非常に大きい(相対値が1.09以上)
B:引張強さが大きい(相対値が1.06以上1.09未満)
C:引張強さがやや大きい(相対値が1.3以上1.06未満)
D:引張強さがやや小さい(相対値が1以上1.03未満)
E:引張強さが小さい(相対値が0.97以上1未満)
F:引張強さが非常に小さい(相対値が0.97未満)
2.9 破断時の公称ひずみ(破断伸び)
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材等について、その破断伸びを測定した。なお、破断伸びの測定は、JIS Z 2241(2011)に規定の金属材料引張試験方法に準じて行った。
次いで、得られた破断伸びを以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1〜3に示す。なお、破断伸びについては、上記試験体以外に、SUS316L焼結体、ASTM F75(Co−28%Cr−6%Mo合金)の鋳造材および焼結体、ならびにα−Ti焼結体についても、参考例a〜dとして評価した(表1)。
<破断伸びの評価基準>
A:破断伸びが非常に大きい(0.15以上)
B:破断伸びが大きい(0.125以上0.15未満)
C:破断伸びがやや大きい(0.10以上0.125未満)
D:破断伸びがやや小さい(0.075以上0.10未満)
E:破断伸びが小さい(0.050以上0.075未満)
F:破断伸びが非常に小さい(0.050未満)
2.10 細胞毒性試験
次に、各実施例および各比較例のチタン焼結体ならびに各参考例のチタン溶製材等からなる試験体について、細胞毒性試験を行った。なお、細胞毒性試験は、ISO 10993−5:2009に規定されている細胞毒性試験に準じて行った。具体的には、直接接触法によるコロニー形成法によって、対照群のコロニー数の平均値を100%としたとき、試験体に直接播種した細胞のコロニー数の対照群のコロニー数に対する割合(コロニー形成率[%])を求めた。なお、試験条件は以下の通りである。
・細胞株:V97細胞
・培地:MEM10培地
・陰性対照材料(ネガティブコントロール):高密度ポリエチレンフィルム
・陽性対照材料(ポジティブコントロール):0.1%ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛含有ポリウレタンフィルム
・対照群(コントロール):培地に直接播種した細胞のコロニー数
次いで、得られたコロニー形成率を以下の評価基準に照らして分類することにより各試験体の細胞毒性を評価した。評価結果を表1〜3に示す。なお、細胞毒性試験については、上記試験体以外に、SUS316L焼結体、ASTM F75(Co−28%Cr−6%Mo合金)焼結体、およびα−Ti焼結体についても、参考例a、c、dとして評価した(表1)。
<細胞毒性の評価基準>
A:コロニー形成率が90%以上
B:コロニー形成率が80%以上90%未満
C:コロニー形成率が80%未満
表1〜3から明らかなように、各実施例のチタン焼結体は、耐摩耗性に優れていることが認められた。また、各実施例のチタン焼結体は、相対密度および引張強さが高く、研磨面の鏡面性に優れていることが認められた。
ここで、比較例2のチタン焼結体の断面の電子顕微鏡像を図11に示す。図11からは、比較例2のチタン焼結体では、α相が細長い形状、すなわち異方性の大きい形状をなしていることが認められる。
また、参考例1のチタン溶製材の断面の電子顕微鏡像を図12に示す。図12からは、参考例1のチタン溶製材では、α相の粒径が比較的小さいものの、異方性の大きい形状をなしていることが認められる。