以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、油圧式作業機械の一例として、作業装置(フロント作業機)の先端に作業具としてバケットを備える油圧ショベルを例示して説明するが、バケット以外の作業具を備える油圧式作業機械にも本発明を適用することが可能である。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を図1〜図7参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
図1において、油圧ショベル600は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム11、アーム12、バケット(作業具)8)を連結して構成された多関節型の作業装置(フロント作業機)15と、車体を構成する上部旋回体10及び下部走行体9とを備え、上部旋回体10は下部走行体9に対して旋回可能に設けられている。また、作業装置15のブーム11の基端は上部旋回体10の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の一端はブーム11の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の他端にはバケットリンク8aを介してバケット8が垂直方向に回動可能に支持されている。
ブーム11、アーム12、バケット8、上部旋回体10、及び下部走行体9は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、及び左右の走行油圧モータ3b(ただし、一方の走行油圧モータのみ図示)によりそれぞれ駆動される。
ブーム11、アーム12、及びバケット8は、作業装置15を含む平面上で動作し、以下ではこの平面を動作平面と称することがある。つまり動作平面とは、ブーム11、アーム12、及びバケット8の回動軸に直交する平面であり、ブーム11、アーム12、及びバケット8の幅方向の中心に設定することができる。
オペレータが搭乗する運転室16には、作業装置15の油圧アクチュエータ5〜7、及び上部旋回体10の旋回油圧モータ4を操作するための操作信号を出力する操作レバー装置(操作装置)である右操作レバー装置1c及び左操作レバー装置1dと、下部走行体9の左右の走行油圧モータ3bを操作するための操作信号を出力する走行用右操作レバー装置1a及び走行用左操作レバー装置1bとが設けられている。
操作レバー装置1c,1dはそれぞれ前後左右に傾倒可能であり、レバーのそれぞれの方向への傾倒量、すなわちレバー操作量を電気的に検知する図示しない検出装置を含み、検出装置が検出したレバー操作量を操作信号として情報コントローラ200(図2参照)に電気配線を介して出力する。つまり、操作レバー装置1c,1dの前後方向または左右方向に、油圧アクチュエータ4〜7の操作がそれぞれ割り当てられている。
ブーム11の上部旋回体10との連結部近傍と、アーム12のブーム11との連結部近傍と、バケットリンク8aとには、それぞれ、角度検出器13a〜13cが配置されている。角度検出器13a〜13cは、例えば、慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)である。角度検出器13aは水平面に対するブーム11の角度(ブーム角度)を検出するブーム姿勢センサであり、角度検出器13bは水平面に対するアーム12の角度(アーム角度)を検出するアーム姿勢センサであり、角度検出器13cは水平面に対するバケットリンク8aの角度を検出するバケット姿勢センサである。
慣性計測装置は、角速度及び加速度を計測するものである。角度検出器13a〜13cが配置された各被駆動部材8,11,12が静止している場合を考えると、角度検出器13a〜13cに設定されたIMU座標系における重力加速度の方向(つまり、鉛直下向き方向)と、各角度検出器13a〜13cの取り付け状態(つまり、各角度検出器13a〜13cと各被駆動部材8,11,12との相対的な位置関係)とに基づいて、各被駆動部材8,11,12の水平面に対する角度を検出することができる。
なお、角度検出器は慣性計測装置に限られるものではなく、例えば、傾斜角センサを用いても良い。また、各被駆動部材8,11,12の連結部分にポテンショメータを配置し、上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12の相対角度を検出したり、相対角度から各被駆動部材8,11,12の水平面に対する角度を求めたりしても良い。
図2は、油圧ショベルにおける油圧駆動装置の要部を関連構成とともに抜き出して示す図である。なお、図2においては、図示および説明の簡単のため、複数の油圧アクチュエータのうち本願発明に関連の深いブームシリンダ5とアームシリンダ6に関する構成のみを代表して示しており、本願発明に関連の薄いドレン回路やロードチェック弁などについては図示および説明を省略する。
ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、及び左右の走行油圧モータ3bの動作制御は、エンジンや電動モータなどの原動機(本実施の形態では、エンジン14)によって駆動される油圧ポンプ装置2から各油圧アクチュエータ3b,4〜7に供給される作動油の方向及び流量をコントロールバルブ20で制御することにより行う。コントロールバルブ20は、パイロットポンプ29(パイロット油圧源)から電磁比例弁21a,21b,23a,23b,24aを介して出力される駆動信号(パイロット圧)により行われる。操作レバー装置1c,1dから情報コントローラ200に入力される操作信号に基づいてメインコントローラ100で電磁比例弁の制御信号を生成することにより、各油圧アクチュエータ3b,4〜7の動作が制御される。ブーム11はブームシリンダ5の伸縮により上部旋回体10に対して上下方向に回動され、アーム12はアームシリンダ6の伸縮によりブーム11に対して上下及び前後方向に回動され、バケット8はバケットシリンダ7の伸縮によりアーム12に対して上下及び前後方向に回動される。
図2において、油圧駆動装置は、エンジン14によって駆動される固定容量型の第1油圧ポンプ2a及び第2油圧ポンプ2bからなる油圧ポンプ装置2と、エンジン14によって駆動される固定容量型のパイロットポンプ29(パイロット油圧源)と、油圧ショベル600全体の動作を制御するメインコントローラ100と、油圧ポンプ装置2から各油圧アクチュエータ(ここでは、ブームシリンダ5及びアームシリンダ6のみを代表して示す)に供給される圧油の方向及び流量を制御するコントロールバルブ20と、油圧ショベル600の動作に係る種々の情報を演算する情報コントローラ200とから概略構成されている。
コントロールバルブ20は、第1油圧ポンプ2aからの圧油が供給される第1ポンプラインL1と第2油圧ポンプ2bからの圧油が供給される第2ポンプラインL2とからなる2系統のポンプラインから構成されている。第1ポンプラインL1には、ブームシリンダ5に関するブーム1方向制御弁21とアームシリンダ6に関するアーム2方向制御弁22とが接続されており、第1油圧ポンプ2aから吐出された圧油がブーム1方向制御弁21及びアーム2方向制御弁22を介してそれぞれブームシリンダ5及びアームシリンダ6に供給される。また、第2ポンプラインL2には、アームシリンダ6に関するアーム1方向制御弁23とブームシリンダ5に関するブーム2方向制御弁24とが接続されており、第2油圧ポンプ2bから吐出された圧油がアーム1方向制御弁23及びブーム2方向制御弁24を介してそれぞれアームシリンダ6及びブームシリンダ5に供給される。なお、ブーム1方向制御弁21とアーム2方向制御弁22はパラレル回路L1aによって分流可能に接続されている。同様に、アーム1方向制御弁23とブーム2方向制御弁24はパラレル回路L2aによって分流可能に接続されている。
第1ポンプラインL1と第2ポンプラインL2とには、それぞれ個別にリリーフ弁26、27が接続されている。第1ポンプラインL1及び第2ポンプラインL2の圧力が、それぞれ、予めリリーフ弁26、27に設定されたリリーフ圧に達した場合には、リリーフ弁26、27が開口して第1ポンプラインL1又は第2ポンプラインL2の圧油をタンクへ逃がすよう動作する。
ブーム1方向制御弁21は、メインコントローラ100からの指令信号(制御信号)に基づいて制御される電磁比例弁21a、21bによって生成される駆動信号(信号圧)によって動作する。ブーム2方向制御弁24は、電磁比例弁21a,24aによって生成される駆動信号(信号圧)によって動作する。なお、電磁比例弁21aは、ブーム1方向制御弁21とブーム2方向制御弁24とで共用である。また、アーム2方向制御弁22とアーム1方向制御弁23は、電磁比例弁23a、23bによって生成される駆動信号(信号圧)によって動作する。電磁比例弁21a〜24aは、パイロットポンプ29から供給されるパイロット圧油を一次圧として、メインコントローラ100からの指令電流(制御信号)に応じて減圧して生成した信号圧を各方向制御弁21〜24に出力する。
ブームシリンダ5のボトム側の管路には、ブームシリンダ5のボトム側圧力を検出するブームボトム圧力センサ5bが備えられている。なお、本実施の形態では、コントロールバルブ20とブームシリンダ5のボトム側とを繋ぐ配管に圧力センサを設ける場合を例示しているが、例えば、ブームシリンダ5のボトム側、或いは、コントロールバルブ20に直接ブームボトム圧力センサ5bを設けるように構成しても良い。
操作レバー装置1cは、操作レバーの操作量と操作方向に応じた電圧信号をブーム操作信号(操作信号)として情報コントローラ200に出力する。同様に、操作レバー装置1dは、操作レバーの操作量と操作方向に応じた電圧信号をアーム操作信号(操作信号)として情報コントローラ200に出力する。メインコントローラ100は、情報コントローラ200において左右の操作レバー装置1c,1dから送信される操作信号であるブーム操作信号及びアーム操作信号に基づいて算出されるブーム11及びアーム12の目標操作速度を示す情報(ブーム操作速度及びアーム操作速度)と、運転室16に配置されたモード設定スイッチ32から情報コントローラ200に送信される半自動制御有効フラグと、情報コントローラ200から送信される掘削作業における目標面位置及びブーム実速度と、情報コントローラ200において角度検出器13a、13bからそれぞれ送信されるブーム角度信号及びアーム角度信号に基づいて算出されるブーム角度及びアーム角度と、情報コントローラ200においてブームボトム圧力センサ5bから送信されるブームボトム圧の検出値が変換されたブームボトム圧とを入力し、これら入力情報に応じて、各電磁比例弁21a〜24aを駆動する信号を生成してそれぞれへ出力する。
なお、モード設定スイッチ32は運転室内に配置されており、油圧作業機械の作業において、半自動制御を有効にするかを選択可能とするものであって、真:半自動制御有効、偽:半自動制御無効を選択する。また、本実施形態では、第1油圧ポンプ2aおよび第2油圧ポンプ2bとして固定容量型の油圧ポンプを用いる場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、可変容量型の油圧ポンプを用いた構成としても良い。
図3は、メインコントローラ及び情報コントローラの処理内容を示す機能ブロック図である。
図3において、メインコントローラ100は、アクチュエータ制御部110と、制限速度算出部120とを有している。また、情報コントローラ200は、操作レバー装置1c,1dからの操作信号に基づいてアーム12の目標操作速度に係る情報(アーム操作速度)及びブーム11の目標操作速度に係る情報(ブーム操作速度)を算出する操作速度情報算出部210と、ブームボトム圧力センサ5bからの検出信号をブームボトム圧に変換する検出信号変換部220と、油圧ショベル600の掘削作業における目標面位置が記憶された目標面位置記憶部230と、角度検出器13a,13bの検出信号からブーム11及びアーム12の角度情報(ブーム角度及びアーム角度)を算出する作業装置角度算出部240と、角度検出器13aの検出値などからブーム11の実速度を算出するブーム実速度算出部250と、ブーム11及びアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)が記憶されている作業装置質量記憶部260とを有している。
情報コントローラ200の操作速度情報算出部210は、操作レバー装置1c,1dでのアーム引きの操作に基づく操作信号が出力された場合には、その操作信号に応じた正のアーム操作速度を出力し、アーム押しの操作に基づく操作信号が出力された場合には、その操作信号に応じた負のアーム操作速度を出力する。同様に、操作速度情報算出部210は、操作レバー装置1c,1dでのブーム上げの操作に基づく操作信号が出力された場合には、その操作信号に応じた正のブーム操作速度を出力し、ブーム下げの操作に基づく操作信号が出力された場合には、その操作信号に応じた負のブーム操作速度を出力する。なお、ブーム実速度算出部250においても、ブーム上げ方向の速度を正、ブーム下げ方向の速度を負として、ブーム実速度を算出する。操作速度情報算出部210で算出したアーム操作速度及びブーム操作速度はメインコントローラ100のアクチュエータ制御部110に出力されるとともに、ブーム操作速度は制限速度算出部120に出力される。
検出信号変換部220は、ブームボトム圧力センサ5bからの検出信号をブームシリンダ5のボトム側の圧力であるブームボトム圧を示す情報(ブームボトム圧)に変換し、メインコントローラ100のアクチュエータ制御部110及び制限速度算出部120に出力する。
目標面位置記憶部230には、油圧ショベル600の作業装置15によって行う掘削作業における目標面の位置(目標面位置)が予め設定されて記憶されている。目標面とは、油圧ショベル600の稼動する施工現場において最終的に目標とする地形を示す目標地形データ(施工計画に係るデータの一部を抽出した地形データ)に応じて設定されるものであり、例えば、目標地形データのうち油圧ショベル600の周囲の一定の範囲を抽出し、油圧ショベル600の車体座標系(例えば、上部旋回体10の旋回中心上向きにz軸を、z軸と地面との交点に原点を、上部旋回体10の前方方向にx軸を、左方向にy軸を、それぞれ設定した直交座標系)において設定したものである。なお、目標面の位置は、目標地形データに一致する必要はなく、目標地形データの上方に仮の施工目標の面位置として目標面位置を設定しても良い。
作業装置角度算出部240は、角度検出器13a,13bの検出信号からブーム11及びアーム12の角度情報(ブーム角度及びアーム角度)を算出し、メインコントローラ100の制限速度算出部120に出力する。作業装置角度算出部240は、角度検出器13a,13bからの検出信号(角速度信号や加速度信号)を用い、予め保持している機械的なリンク関係の情報に基づいてブーム11及びアーム12のそれぞれのブーム角度及びアーム角度(ブーム11及びアーム12のそれぞれの両端の回動部を結ぶ基準線と水平面との相対角度、或いは、車体座標系におけるxy平面に対する角度)を算出する。
ブーム実速度算出部250は、角度検出器13aの検出信号(角速度信号や加速度信号)を用い、予め保持している機械的なリンク関係の情報に基づいてブーム11の実速度(ブーム実速度)を算出し、メインコントローラ100の制限速度算出部120に出力する。
作業装置質量記憶部260には、ブーム11及びアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)がそれぞれ記憶されている。
メインコントローラ100の制限速度算出部120は、情報コントローラ200からのブーム操作速度、目標面位置、ブーム実速度、ブーム角度、アーム角度、及びブームボトム圧と、予め記憶しているブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)とに応じて、ブーム下げ制限速度を算出し、アクチュエータ制御部110に出力する。
アクチュエータ制御部110は、情報コントローラ200からのブーム操作速度、アーム操作速度、ブームボトム圧、及び制限速度算出部120で演算されたブーム下げ制限速度に基づいて、電磁比例弁23aのアーム引き駆動信号、電磁比例弁23bのアーム押し駆動信号、電磁比例弁21aのブーム上げ駆動信号、電磁比例弁21bのブーム1下げ駆動信号、及び電磁比例弁24bのブーム2下げ駆動信号をそれぞれ算出して出力する。
図4は、アクチュエータ制御部の処理内容を示す機能ブロック図である。
図4において、アクチュエータ制御部110は、アーム駆動部110a、最大値選択部110b、及びブーム駆動部110cを有している。
アーム駆動部110aは、アーム操作速度が正であれば、その大きさに応じた電流をアーム引き駆動信号として出力し、アーム操作速度が負であれば、その大きさに応じた電流をアーム押し駆動信号として出力する。
最大値選択部110bは、ブーム操作速度と、制限速度算出部120からのブーム下げ制限速度とを比較し、値が大きい方の速度、つまり、ブーム下げ速度として大きさが小さい方の速度信号をブーム制御速度としてブーム駆動部110cに出力する。
ブーム駆動部110cは、最大値選択部110bからのブーム制御速度が正であれば、その大きさに応じた電流をブーム上げ駆動信号として出力する。また、ブーム下げ制御速度が負の場合であって、ブームボトム圧が予め定めた値を下回るときは、ブーム下げ制御速度の大きさに応じた電流をブーム1下げ駆動信号として出力する。また、ブーム下げ制御速度が負の場合であって、ブームボトム圧が予め定めた値を上回るときは、ブーム下げ制御速度の大きさと、ブームボトム圧に応じた電流をブーム2下げ駆動信号として出力する。この時、ブーム2下げ駆動信号の大きさは、油圧バルブの通過流量が油圧バルブの前後差圧の1/2乗に比例し油圧バルブの開口面積に比例することを示す関係式であるオリフィスの式を利用して算出する。具体的には、ブーム下げ制御速度をβ´、ブームシリンダボトム面積をS、ブームボトム圧をPとして、バルブの開口面積A=k3×S×β´/√Pを満たすように決定する。なお、ブームボトム圧の予め定めた値との大小関係によって駆動信号を出力する電磁比例弁を切り替えるのは、ブームボトム圧が大きいときには作業装置15に下方からの応力が働いていない場合(例えば、作業装置15のバケット8が接地していない場合)であると判断して、ポンプからの圧油を用いずに自重でブーム下げを行うことを意図した制御である。
図5は、制限速度算出部の処理内容を示す機能ブロック図である。
図5において、制限速度算出部120は、位置エネルギー算出部120a、消費パワー積算部120b、目標消費パワー算出部120c、目標速度算出部120d、及びバケット質量推定部120eを有している。
バケット質量推定部120eは、ブーム操作速度が負の値をとる場合、すなわち、操作レバー装置1c,1dでブーム下げの操作が行われた場合に、ブーム角度、アーム角度、及びブームボトム圧と、ブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)から、バケット8に相当する部分の質量(バケット推定質量)を推定する。
位置エネルギー算出部120aは、ブーム操作速度が負の値をとる場合に、目標面位置、ブーム角度、及びアーム角度と、ブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)と、バケット8の推定質量(バケット推定質量)とから、作業装置15がブーム下げ動作を開始した時点において、作業装置15が目標面に対して保持している位置エネルギーUを算出し、ブーム操作速度がゼロになるまで算出値を保持しつつ出力する。
消費パワー積算部120bは、ブーム実速度をβ´、ブームシリンダボトム面積をS、ブームボトム圧をP、ブーム下げ動作において圧油がコントロールバルブ20を通過する際の消費パワーをWとした時に、W=P×β´×Sの演算を行い、このWを時系列的に積算して消費エネルギーCとして出力する。
目標消費パワー算出部120cは、作業装置15の有する力学的エネルギーとして、位置エネルギー算出部120aから出力された位置エネルギーUと、消費パワー積算部120bから出力された消費エネルギーCの差(すなわち、U−C)である残存エネルギーを入力とし、その値に応じた目標消費パワーWtを演算して目標速度算出部120dに出力する。
図6は、目標消費パワー算出部での目標消費パワーの算出に用いられるルックアップテーブルの一例を示す図であり、横軸に入力値である残存エネルギー(U−C)を、横軸に出力値である目標消費パワーWtをそれぞれ示している。
図6に示すように、残存エネルギー(U−C)が0となるときは目標消費パワーWtを0とし、残存エネルギー(すなわち、位置エネルギーUと消費エネルギーCの差:U−C)が大きいほど目標消費パワーWtを大きくする。なお、残存エネルギー(U−C)と目標消費パワーWtの関係を示すテーブルの形状は直線でなくとも良い。また、適切な定数k2,k3などを用いて、k2×(U−C)や、k3×(U−C)^2といった関係式によって目標消費パワーWtを算出しても良い。
目標速度算出部120dは、目標消費パワー算出部120cが出力した目標消費パワーWtとブームボトム圧Pとから、Wt÷Pの演算を行い、その結果として目標流量Qtを算出する。さらに目標流量Qtと、ブームシリンダのボトム側面積Abmとから、Qt÷Abmの演算を行い、その結果として、ブーム下げ制限速度、すなわち、ブーム下げ目標速度を算出する。なお、ブーム操作速度はブーム上げ操作時を正としており、目標速度算出部120dで算出されるブーム下げ制限速度は、(ブーム下げ制限速度)=−(Wt÷P÷Abm)となる。
図7は、制限速度算出部の処理の流れを示すフローチャートである。
図7において、制限速度算出部120は、まず、位置エネルギー算出部120aにおいて、操作速度情報算出部210から入力されるブーム操作速度が負の値であるかどうか、すなわち、ブーム下げ操作が開始されたかどうかを判定し(ステップS100)、ステップS100での判定結果がNOの場合には、判定結果がYESとなるまで、すなわち、ブーム下げ操作が開始されるまでステップS100の判定を繰り返す。すなわち、制限速度算出部120では、例えば、ブーム上げ動作及びブーム下げ動作によって目標面に対するバケット8の先端の位置を変化させる掘削作業を行う場合であって、オペレータによる操作レバー装置1c、1dの操作によってバケット8が目標面の方向に移動するブーム下げ動作が行われた場合に本実施の形態に係るブーム停止制御の処理を行う。
ステップS100での判定結果がYESの場合、すなわち、ブーム下げ操作が開始されたと判定した場合には、バケット質量推定部120eにおいて、ブーム角度、アーム角度、ブーム設計質量、アーム設計質量、及びブームボトム圧を用いて、ブーム下げ開始の瞬間におけるバケットの質量を推定(算出)する(ステップS110)。バケット質量推定部120eでは、検出信号変換部220で得られたブームシリンダ5のブームボトム圧からブーム11の基端側(上部旋回体10側)の回動中心に働くモーメントを算出し、算出したモーメントとブーム角度及びアーム角度(作業装置15の姿勢とも言える)と予め保持している機械的なリンク関係の情報とを用いて作業装置15の推定質量(作業装置推定質量Mfi)を算出し、作業装置15の推定質量からブーム質量及びアーム質量の設計値(ブーム設計質量Mbm及びアーム設計質量Mam)を減ずることによって、バケット8の推定質量(バケット推定質量Mbc=Mfi−Mbm−Mam)を算出する(質量を推定する)。
次に、位置エネルギー算出部120aにおいて、目標面位置、ブーム角度、アーム角度、ブーム設計質量、アーム設計質量、及びバケット推定質量を用いて、位置エネルギーUを算出する(ステップS120)。位置エネルギー算出部120aでは、ブーム角度及びアーム角度(作業装置15の姿勢)から作業装置15に予め設定した基準点(例えば、バケット8の爪先)の目標面からの高さhを算出し、基準点の目標面からの高さhと作業装置15を構成する各フロント部材の質量(ブーム設計質量Mbm、アーム設計質量Mam、バケット推定質量Mbc)と重力加速度Gとを掛け合わせることにより、オペレータによるブーム下げ操作の開始時において作業装置15が目標面位置に対して保持している位置エネルギーU((Mbm+Mam+Mbc)×G×h)を算出する。
次に、消費パワー積算部120bにおいて、ブーム実速度およびブームボトム圧を用いて、消費パワーWを求め、これを積算して消費エネルギーCを求める(ステップS130)。消費パワー積算部120bでは、ブーム実速度とブームボトム圧とを用いて、オペレータによる連続するブーム下げ操作によって圧油がコントロールバルブ20を通過する際の消費パワーWを算出し、この消費パワーWをブーム下げ操作の開始時から順次積算することによって、連続するブーム下げ操作において作業装置15の動作で消費されるエネルギーC(つまり、ブーム下げ操作が連続して行われた場合のブーム下げ操作開始時からの作業装置15における消費エネルギーC)を算出する。
次に、目標消費パワー算出部120cにおいて、位置エネルギーUと消費エネルギーCの差(残存エネルギー:U−C)を算出して入力し(ステップS140)、その算出結果から目標消費パワーWtを算出する(ステップS150)。目標消費パワー算出部120cでは、位置エネルギーUと消費エネルギーCの差(すなわち、その時点で作業装置15が保持している位置エネルギーに相当する残存エネルギー:U−C)を入力し、残存エネルギー(U−C)と目標消費パワーWtとの関係を予め定めたルックアップテーブル(図6参照)を用いて、目標消費パワーWtを算出する。目標消費パワーWtは、オペレータによるブーム下げ操作によって残存エネルギー(U−C)が0(ゼロ)となる、すなわち、作業装置15の基準点(例えば、バケット8の先端)の目標面位置に対する高さが0(ゼロ)となり目標面位置に対して作業装置15が保持する位置エネルギー(U−C)が0(ゼロ)となるのに要する消費エネルギーに関係するものである。
次に、目標速度算出部120dにおいて、目標消費パワーWtと、ブームボトム圧Pと、ブームシリンダのボトム側面積Abmとを用いて、ブーム下げ制限速度(目標速度)を算出し、出力する(ステップS160)。目標速度算出部120dでは、目標消費パワーWtをブームボトム圧Pで除し、その結果として目標流量Qtを得る。さらに、目標流量Qtをブームシリンダのボトム側面積Abmで除し、その結果として、ブーム下げ制限速度(目標速度)を得る。なお、ブーム操作速度はブーム上げ操作時を正としており、目標速度算出部120dで算出されるブーム下げ制限速度は、(ブーム下げ制限速度)=−(Wt÷P÷Abm)となる。
次に、ブーム下げ操作が継続されているかどうか、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)となっていないかどうかを判定し(ステップS170)、判定結果がYESの場合、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)ではなく、ブーム下げ操作が継続されていると判定した場合には、判定結果がNOになるまでステップS130〜S160の処理を繰り返す。すなわち、制限速度算出部120では、オペレータにより連続でブーム下げ操作が行われている間は、作業装置15のブーム下げ動作で消費される(つまり、コントロールバルブ20での圧油の通過で消費される)消費パワーWの積算による消費エネルギーCの演算(ステップS130)、消費エネルギーCを用いて得られる残存エネルギー(U−C)の演算(ステップS140)、残存エネルギー(U−C)を用いて得られる目標消費パワーWtの演算(ステップS150)、及び、目標消費パワーWtを用いて得られるブーム下げ制限速度(目標速度)の演算・出力(ステップS160)の処理を繰り返すことにより、オペレータによるブーム下げ操作によるブーム下げ速度(言い換えると、バケット8の目標面に向かう速度)を制限する。これにより、ブーム下げ速度は、作業装置15がブーム下げ操作の開始時に有する位置エネルギーUと、ブーム下げ操作の開始時からある時点までに消費される消費エネルギーCとの差(残存エネルギー(U−C))に応じて制限される。
また、ステップS170での判定結果がNOの場合、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)となり、オペレータによるブーム下げ操作が終了したと判定した場合には、それまでに算出した、バケット推定質量、位置エネルギー、消費エネルギー、目標消費パワー、ブーム下げ制限速度などの算出値を0(ゼロ)にリセットし(ステップS180)、ステップS100に戻って、オペレータによるブーム下げ操作を待つ待機状態となる。すなわち、制限速度算出部120では、オペレータがブーム下げ操作をやめ、ブーム下げ動作が一旦停止した場合には処理をリセットし、再度ブーム下げが入力された際のブーム下げ制限速度(目標速度)の算出精度の低下や、ブーム下げ操作以外の操作が入力された際の、目標速度の算出精度の低下を抑制する。
本実施の形態においては、作業装置15が空中でブーム下げ動作を行う際、作業装置15は自重によって動作している。つまり、作業装置15が空中でブーム下げ動作を行う際、作業装置15は位置エネルギーを消費して動作している。ブーム下げ動作で失われた位置エネルギーは、ブーム2方向制御弁24を通過する圧油の圧力損失と流量の積として消費される。消費エネルギーの総和が、作業装置15が動作開始時に目標面に対して保持している位置エネルギーと一致するように、作業装置15を動作させると、バケット先端を目標面で停止させることが出来る。メインコントローラ100では、制限速度算出部120において、位置エネルギーを位置エネルギー算出部120aで演算し、消費エネルギーを消費パワー積算部120bで演算し、これらの差分に応じて、消費エネルギーの総和が位置エネルギーと一致するような消費パワーを目標消費パワー算出部120cで演算し、消費パワーが消費されるようなシリンダ速度を目標速度算出部120dにおいて演算し、アクチュエータ制御部110を通じて、コントロールバルブ20への指令値として出力する。そのため、作業装置15が空中でブーム下げ動作を行う際に、バケット先端を目標面で停止させることができる。また、作業装置15の重量が増加した際には、ブームボトム圧が増大し、目標速度算出部120dから得られる目標シリンダ速度の絶対値(すなわち、ブーム下げ方向の速さ)は小さくなる。作業装置15の重量に応じて、ブーム下げ動作速度が変化することで、作業装置15の重量が変化したときも、バケット先端を目標面で停止させつつ、車体安定性を確保することが出来る。
以上のように構成した本実施の形態の効果を説明する。
油圧式作業機械においては、掘削作業などにおけるオペレータの操作を支援するものとして、作業装置を構成するバケットの先端と目標面との距離に応じて作業装置の動作速度を制限し、また、オペレータによる入力、或いは油圧シリンダに設けられた圧力センサの値からバケットの種別を選択することによって、バケット種別に応じて異なる速度制限で作業装置を動作させ、作業装置のバケットの先端の目標面への侵入を抑制する従来技術が知られている。
しかしながら、バケットの種別について、予め設けられた選択肢からバケット種別が選ばれ、選ばれたバケット種別に応じて速度制限を変化させるような上記従来技術においては、予め設けられた選択肢にないバケットを装着したり、バケット内の土砂等によってバケット部分の重量が連続的に変化したりする場合、すなわち、想定外の状態となった場合には、バケット先端の速度が適切な値から外れてしまい、空中でブームを下げる動作の際などに、バケット先端が目標面に侵入したり、車体の安定性が損なわれたりするおそれがあった。
これに対して本実施の形態においては、操作レバー装置1c,1dから情報コントローラ200に入力される操作信号に応じて流量制御弁の動作を制御する制御信号を出力するメインコントローラ100において、操作レバー装置1c、1dから操作信号の出力が開始された時の作業装置15の姿勢である初期姿勢において、作業装置15が目標面位置に対して保持する初期位置エネルギーを算出し、ブームシリンダ5の負荷とブームシリンダ5の操作速度から算出される消費パワーとに基づいて、操作レバー装置1c、1dからの操作信号に応じたブームシリンダ5の動作による消費エネルギーを積算し、初期位置エネルギーと消費エネルギーの差分に基づいて、作業装置15の動作に際する目標消費パワーを算出し、目標消費パワーとブームシリンダ5の負荷とに基づいて、ブームシリンダ5の制限速度を算出し、操作レバー装置1c、1dからの操作信号に基づくブーム11の操作速度と制限速度とに基づいて、ブームシリンダ5に関わる流量制御弁の動作を制御する制御信号を算出するように構成したので、バケット種類の変更やバケット内の土砂の量等によってバケット部分の重量が変化しても、空中でブーム下げ動作を行う際に、バケット先端が目標面に侵入したり、車体の安定性が損なわれたりすることを抑制することができる。
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図8及び図9を参照しつつ説明する。本実施の形態では第1の実施の形態との相違点についてのみ説明するものとし、図面において第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施の形態は、第1の実施の形態における初期位置エネルギーUと消費エネルギーCの差分(U−C)を、動作途中の位置エネルギーU1と作業装置の運動エネルギーTを用いて数式(U−C=U1+T)と表せることに基づき、この数式を制限速度算出部120の機能に実現させたものである。
図8は、本実施の形態に係る制限速度算出部の処理内容を示す機能ブロック図である。
図8において、制限速度算出部120Aは、目標消費パワー算出部120c、目標速度算出部120d、バケット質量推定部120e、残存位置エネルギー算出部120f、及び運動エネルギー算出部120gを有している。
バケット質量推定部120eは、ブーム操作速度が負の値をとる場合に、ブーム角度、アーム角度、及びブームボトム圧と、ブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)から、バケット8に相当する部分の質量(バケット推定質量)を推定する。
残存位置エネルギー算出部120fは、ブーム操作速度が負の値をとる場合に、目標面位置、ブーム角度、及びアーム角度と、ブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)と、バケット8の推定質量(バケット推定質量)とから、作業装置15がブーム下げ動作中に目標面に対して保持している位置エネルギーを残存位置エネルギーU1として算出し、ブーム操作速度がゼロになるまで算出値を保持しつつ出力する。
運動エネルギー算出部120gは、ブーム11およびアーム12の設計質量(ブーム設計質量及びアーム設計質量)と、バケット8の推定質量(バケット推定質量)と、ブーム実速度とから、作業装置15のブーム下げ動作中の運動エネルギーTを算出して出力する。
目標消費パワー算出部120cは、作業装置15の有する力学的エネルギーとして、残存位置エネルギー算出部120fから出力された残存位置エネルギーU1と、運動エネルギー算出部120gから出力された運動エネルギーTの和(すなわち、U1+T)である残存エネルギーを入力とし、その残存エネルギー(U1+T)の値に応じた目標消費パワーWtを演算して目標速度算出部120dに出力する。
目標速度算出部120dは、目標消費パワー算出部120cが出力した目標消費パワーWtとブームボトム圧Pとから、Wt÷Pの演算を行い、その結果として目標流量Qtを算出する。さらに目標流量Qtと、ブームシリンダのボトム側面積Abmとから、Qt÷Abmの演算を行い、その結果として、ブーム下げ制限速度、すなわち、ブーム下げ目標速度を算出する。なお、ブーム操作速度はブーム上げ操作時を正としており、目標速度算出部120dで算出されるブーム下げ制限速度は、(ブーム下げ制限速度)=−(Wt÷P÷Abm)となる。
図9は、本実施の形態に係る制限速度算出部の処理の流れを示すフローチャートである。
図9において、制限速度算出部120は、まず、位置エネルギー算出部120aにおいて、操作速度情報算出部210から入力されるブーム操作速度が負の値であるかどうか、すなわち、ブーム下げ操作が開始されたかどうかを判定し(ステップS100)、ステップS100での判定結果がNOの場合には、判定結果がYESとなるまで、すなわち、ブーム下げ操作が開始されるまでステップS100の判定を繰り返す。すなわち、制限速度算出部120では、例えば、ブーム上げ動作及びブーム下げ動作によって目標面に対するバケット8の先端の位置を変化させる掘削作業を行う場合であって、オペレータによる操作レバー装置1c、1dの操作によってバケット8が目標面の方向に移動するブーム下げ動作が行われた場合に本実施の形態に係るブーム停止制御の処理を行う。
ステップS100での判定結果がYESの場合、すなわち、ブーム下げ操作が開始されたと判定した場合には、バケット質量推定部120eにおいて、ブーム角度、アーム角度、ブーム設計質量、アーム設計質量、及びブームボトム圧を用いて、ブーム下げ開始の瞬間におけるバケットの質量を推定(算出)する(ステップS110)。バケット質量推定部120eでは、ブームシリンダ5のブームボトム圧からブーム11の基端側(上部旋回体10側)の回動中心に働くモーメントを算出し、算出したモーメントとブーム角度及びアーム角度(作業装置15の姿勢とも言える)と予め保持している機械的なリンク関係の情報とに基づいて作業装置15の推定質量(作業装置推定質量Mfi)を算出し、作業装置15の推定質量からブーム質量及びアーム質量の設計値(ブーム設計質量Mbm及びアーム設計質量Mam)を減ずることによって、バケット8の推定質量(バケット推定質量Mbc=Mfi−Mbm−Mam)を算出する(質量を推定する)。
次に、残存位置エネルギー算出部120fにおいて、目標面位置、ブーム角度、アーム角度、ブーム設計質量、アーム設計質量、及びバケット推定質量を用いて、その時点での残存位置エネルギーU1を算出する(ステップS121)。残存位置エネルギー算出部120fでは、ブーム角度及びアーム角度(作業装置15の姿勢)から作業装置15に予め設定した基準点(例えば、バケット8の爪先)の目標面からの高さhを算出し、基準点の目標面からの高さhと作業装置15を構成する各フロント部材の質量(ブーム設計質量Mbm、アーム設計質量Mam、バケット推定質量Mbc)と重力加速度Gとを掛け合わせることにより、オペレータによるブーム下げ操作中において作業装置15がその時点で目標面位置に対して保持している位置エネルギーを残存位置エネルギーU1=((Mbm+Mam+Mbc)×G×h)として算出する。
次に、運動エネルギー算出部120gにおいて、ブーム設計質量、アーム設計質量、バケット推定質量、及びブーム実速度を用いて、運動エネルギーTを求める(ステップS131)。運動エネルギー算出部120gでは、ブーム実速度Vrbmの2乗と各フロント部材の質量(ブーム設計質量Mbm、アーム設計質量Mam、バケット推定質量Mbc)とを掛け合わせることにより、オペレータによる連続するブーム下げ操作によって作業装置15がその時点で有している運動エネルギーT(=(((Mbm+Mam+Mbc)×Vrbm^2))÷2)を算出する。
次に、目標消費パワー算出部120cにおいて、残存位置エネルギーU1と運動エネルギーTの和(残存エネルギー:U1+T)を算出して入力し(ステップS141)、その算出結果から目標消費パワーWtを算出する(ステップS150)。目標消費パワー算出部120cでは、残存位置エネルギーU1と運動エネルギーTの和(すなわち、作業装置15が保持しているエネルギーに相当する残存エネルギー:U1+T)を入力し、残存エネルギー(U1+T)と目標消費パワーWtとの関係を予め定めたルックアップテーブル(図6において、残存エネルギー(U−C)を残存エネルギー(U1+T)と読み替える)を用いて、目標消費パワーWtを算出する。目標消費パワーWtは、オペレータによるブーム下げ操作によって残存エネルギー(U1+T)が0(ゼロ)となる、すなわち、作業装置15の基準点(例えば、バケット8の先端)の目標面位置に対する高さが0(ゼロ)となることで目標面位置に対する作業装置15が保持する位置エネルギーU1が0(ゼロ)になるとともに、作業装置15のブーム下げの速度(ブーム実速度)が0(ゼロ)となることで作業装置15の運動エネルギーTが0(ゼロ)となり、その結果として残存エネルギー(U1+T)が0(ゼロ)となるのに要する消費エネルギーに関係するものである。
次に、目標速度算出部120dにおいて、目標消費パワーWtと、ブームボトム圧Pと、ブームシリンダのボトム側面積Abmとを用いて、ブーム下げ制限速度(目標速度)を算出し、出力する(ステップS160)。目標速度算出部120dでは、目標消費パワーWtをブームボトム圧Pで除し、その結果として目標流量Qtを得る。さらに、目標流量Qtをブームシリンダのボトム側面積Abmで除し、その結果として、ブーム下げ制限速度(目標速度)を得る。なお、ブーム操作速度はブーム上げ操作時を正としており、目標速度算出部120dで算出されるブーム下げ制限速度は、(ブーム下げ制限速度)=−(Wt÷P÷Abm)となる。
次に、ブーム下げ操作が継続されているかどうか、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)となっていないかどうかを判定し(ステップS170)、判定結果がYESの場合、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)ではなく、ブーム下げ操作が継続されていると判定した場合には、判定結果がNOになるまでステップS121〜S160の処理を繰り返す。すなわち、制限速度算出部120では、オペレータにより連続でブーム下げ操作が行われている間は、作業装置15がその時点で有している残存位置エネルギーU1の演算(ステップS121)、作業装置15がその時点で有している運動エネルギーTの演算(ステップS131)、残存エネルギー(U1+T)の演算(ステップS141)、残存エネルギー(U1+T)を用いて得られる目標消費パワーWtの演算(ステップS150)、及び、目標消費パワーWtを用いて得られるブーム下げ制限速度(目標速度)の演算・出力(ステップS160)の処理を繰り返すことにより、オペレータによるブーム下げ操作によるブーム下げ速度(言い換えると、バケット8の目標面に向かう速度)を制限する。これにより、ブーム下げ速度は、作業装置15がある時点で有する位置エネルギーU1と運動エネルギーとの和(残存エネルギー(U1+T))に応じて制限される。
また、ステップS170での判定結果がNOの場合、すなわち、ブーム下げ操作速度が0(ゼロ)となり、ブーム下げ操作が終了したと判定した場合には、それまでに算出した、バケット推定質量、位置エネルギー、消費エネルギー、目標消費パワー、ブーム下げ制限速度などの算出値を0(ゼロ)にリセットし(ステップS180)、ステップS100に戻って、オペレータによるブーム下げ操作を待つ待機状態となる。すなわち、制限速度算出部120では、オペレータがブーム下げ操作をやめ、ブーム下げ動作が一旦停止した場合には処理をリセットし、再度ブーム下げが入力された際のブーム下げ制限速度(目標速度)の算出精度の低下や、ブーム下げ操作以外の操作が入力された際の、目標速度の算出精度の低下を抑制する。
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
次に上記の各実施の形態の特徴について説明する。
(1)上記の実施の形態では、ブーム11、アーム12、及び作業具(例えば、バケット8)を垂直方向に回動可能に連結して構成され、作業機械(例えば、油圧ショベル600)の車体に垂直方向に回動可能に支持された多関節型の作業装置15と、前記ブーム、アーム、及び作業具をそれぞれ駆動する複数の油圧アクチュエータ(例えば、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7)と、前記複数の油圧アクチュエータをそれぞれ操作するための操作信号を出力する複数の操作装置(例えば、操作レバー装置1c、1d)と、前記複数の操作装置からの操作信号に応じて前記複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の流量および方向をそれぞれ制御する複数の流量制御弁(例えば、コントロールバルブ20)と、前記複数の油圧アクチュエータのうち少なくとも1つの特定のアクチュエータの負荷を検出する油圧センサ(例えば、ブームボトム圧力センサ5b)と、前記複数の操作装置からの操作信号に応じて前記複数の流量制御弁の動作を制御する制御信号を出力するコントローラ(例えば、メインコントローラ100)とを備えた油圧式作業機械において、前記コントローラは、前記作業装置が有する力学的エネルギーを前記作業装置の動作開始時からの残存エネルギーとして算出し、その残存エネルギーに基づいて、前記作業装置の動作に際して前記特定のアクチュエータが消費すべき目標消費パワーを算出し、前記目標消費パワーと前記油圧センサによって検出された前記特定の油圧アクチュエータの負荷とに基づいて、前記特定の油圧アクチュエータの制限速度を算出する制限速度算出部120と、前記特定の油圧アクチュエータに対応する特定の操作装置からの操作信号に基づいて算出された前記特定の油圧アクチュエータの操作速度と前記制限速度算出部で算出された前記制限速度とに基づいて、前記特定の油圧アクチュエータに対応する前記流量制御弁の動作を制御する制御信号を算出するアクチュエータ制御部110とを備えるものとした。
これにより、バケット種類の変更やバケット内の土砂の量等によってバケット部分の重量が変化しても、空中でブーム下げ動作を行う際に、バケット先端が目標面に侵入したり、車体の安定性が損なわれたりすることを抑制することができる。
(2)また、上記の実施の形態では、(1)の油圧式作業機械において、前記制限速度算出部120は、前記特定の操作装置から操作信号の出力が開始された時の前記作業装置の姿勢である初期姿勢において、前記作業装置が目標面位置に対して保持する初期位置エネルギーUを算出する位置エネルギー算出部120aと、前記油圧センサによって検出された前記特定の油圧アクチュエータの負荷と前記特定の油圧アクチュエータの実速度とに基づいて、前記特定の操作装置の操作に応じた前記特定の油圧アクチュエータの動作による消費エネルギーCを積算する消費パワー積算部120bと、前記位置エネルギー算出部で算出された前記初期位置エネルギーと前記消費パワー積算部で積算された前記消費エネルギーの差分(U−C)である前記残存エネルギーに基づいて、前記作業装置の動作に際して前記特定の油圧アクチュエータが消費すべき前記目標消費パワーを算出する目標消費パワー算出部120cと、前記目標消費パワーと前記特定の油圧アクチュエータの負荷とに基づいて、前記特定の油圧アクチュエータの制限速度を算出する目標速度算出部120dとを備えるものとした。
(3)また、上記の実施の形態では、(1)の油圧式作業機械において、前記制限速度算出部120Aは、前記作業装置が目標面位置に対して保持する位置エネルギーU1を算出する残存位置エネルギー算出部120fと、前記作業装置の質量と前記特定の油圧アクチュエータの実速度とに基づいて、前記作業装置の運動エネルギーTを算出する運動エネルギー算出部120gと、前記残存位置エネルギー算出部で算出された前記位置エネルギーと前記運動エネルギー算出部で算出された前記運動エネルギーの和(U1+T)である前記残存エネルギーに基づいて、前記作業装置の動作に際して前記特定の油圧アクチュエータが消費すべき前記目標消費パワーを算出する目標消費パワー算出部120cと、前記目標消費パワーと前記特定の油圧アクチュエータの負荷とに基づいて、前記特定の油圧アクチュエータの制限速度を算出する目標速度算出部とを備えるものとした。
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。