以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1〜図6において、X方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向である。X方向及びY方向は水平方向、Z方向は鉛直方向である。X方向は、本実施形態に係る射出成形機1の可動プラテン120や射出装置300の移動方向や型開閉方向と同一方向であり、Y方向は射出成形機1の幅方向である。
まず図1及び図2を参照して、本実施形態に係る射出成形機1の全体の概略構成について説明する。
(射出成形機)
図1は、一実施形態による射出成形機1の型開完了時の状態を示す図である。図2は、一実施形態による射出成形機1の型締時の状態を示す図である。図1〜図2に示すように、射出成形機1は、型締装置100と、エジェクタ装置200と、射出装置300と、移動装置400と、制御装置700とを有する。以下、射出成形機1の各構成要素について説明する。
(型締装置)
型締装置100の説明では、型閉時の可動プラテン120の移動方向(図1および図2中右方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(図1および図2中左方向)を後方として説明する。
型締装置100は、金型装置10の型閉、型締、型開を行う。型締装置100は例えば横型であって、型開閉方向が水平方向である。型締装置100は、固定プラテン110、可動プラテン120、トグルサポート130、タイバー140、トグル機構150、型締モータ160、運動変換機構170、および型厚調整機構180を有する。
固定プラテン110は、フレームFrに対し固定される。固定プラテン110における可動プラテン120との対向面に固定金型11が取付けられる。
可動プラテン120は、フレームFrに対し型開閉方向に移動自在とされる。フレームFr上には、可動プラテン120を案内するガイド101が敷設される。可動プラテン120における固定プラテン110との対向面に可動金型12が取付けられる。
固定プラテン110に対し可動プラテン120を進退させることにより、型閉、型締、型開が行われる。固定金型11と可動金型12とで金型装置10が構成される。
トグルサポート130は、固定プラテン110と間隔をおいて連結され、フレームFr上に型開閉方向に移動自在に載置される。尚、トグルサポート130は、フレームFr上に敷設されるガイドに沿って移動自在とされてもよい。トグルサポート130のガイドは、可動プラテン120のガイド101と共通のものでもよい。
尚、本実施形態では、固定プラテン110がフレームFrに対し固定され、トグルサポート130がフレームFrに対し型開閉方向に移動自在とされるが、トグルサポート130がフレームFrに対し固定され、固定プラテン110がフレームFrに対し型開閉方向に移動自在とされてもよい。
タイバー140は、固定プラテン110とトグルサポート130とを型開閉方向に間隔Lをおいて連結する。タイバー140は、複数本(例えば4本)用いられてよい。各タイバー140は、型開閉方向に平行とされ、型締力に応じて伸びる。少なくとも1本のタイバー140には、タイバー140の歪を検出するタイバー歪検出器141が設けられる。タイバー歪検出器141は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。タイバー歪検出器141の検出結果は、型締力の検出などに用いられる。
尚、本実施形態では、型締力を検出する型締力検出器として、タイバー歪検出器141が用いられるが、本発明はこれに限定されない。型締力検出器は、歪みゲージ式に限定されず、圧電式、容量式、油圧式、電磁式などでもよく、その取付け位置もタイバー140に限定されない。
トグル機構150は、可動プラテン120とトグルサポート130との間に配設され、トグルサポート130に対し可動プラテン120を型開閉方向に移動させる。トグル機構150は、クロスヘッド151、一対のリンク群などで構成される。各リンク群は、ピンなどで屈伸自在に連結される第1リンク152および第2リンク153を有する。第1リンク152は可動プラテン120に対しピンなどで揺動自在に取付けられ、第2リンク153はトグルサポート130に対しピンなどで揺動自在に取付けられる。第2リンク153は、第3リンク154を介してクロスヘッド151に取付けられる。トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させると、第1リンク152および第2リンク153が屈伸し、トグルサポート130に対し可動プラテン120が進退する。
尚、トグル機構150の構成は、図1および図2に示す構成に限定されない。例えば図1および図2では、各リンク群の節点の数が5つであるが、4つでもよく、第3リンク154の一端部が、第1リンク152と第2リンク153との節点に結合されてもよい。
型締モータ160は、トグルサポート130に取付けられており、トグル機構150を作動させる。型締モータ160は、トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させることにより、第1リンク152および第2リンク153を屈伸させ、トグルサポート130に対し可動プラテン120を進退させる。型締モータ160は、運動変換機構170に直結されるが、ベルトやプーリなどを介して運動変換機構170に連結されてもよい。
運動変換機構170は、型締モータ160の回転運動をクロスヘッド151の直線運動に変換する。運動変換機構170は、ねじ軸171と、ねじ軸171に螺合するねじナット172とを含む。ねじ軸171と、ねじナット172との間には、ボールまたはローラが介在してよい。
型締装置100は、制御装置700による制御下で、型閉工程、型締工程、型開工程などを行う。
型閉工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定速度で型閉完了位置まで前進させることにより、可動プラテン120を前進させ、可動金型12を固定金型11にタッチさせる。クロスヘッド151の位置や速度は、例えば型締モータエンコーダ161などを用いて検出する。型締モータエンコーダ161は、型締モータ160の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。
型締工程では、型締モータ160をさらに駆動してクロスヘッド151を型閉完了位置から型締位置までさらに前進させることで型締力を生じさせる。型締時に可動金型12と固定金型11との間にキャビティ空間14が形成され、射出装置300がキャビティ空間14に液状の成形材料を充填する。充填された成形材料が固化されることで、成形品が得られる。キャビティ空間14の数は複数でもよく、その場合、複数の成形品が同時に得られる。
型開工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定速度で型開完了位置まで後退させることにより、可動プラテン120を後退させ、可動金型12を固定金型11から離間させる。その後、エジェクタ装置200が可動金型12から成形品を突き出す。
型閉工程および型締工程における設定条件は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、型閉工程および型締工程におけるクロスヘッド151の速度や位置(速度の切替位置、型閉完了位置、型締位置を含む)は、一連の設定条件として、まとめて設定される。尚、クロスヘッド151の速度や位置などの代わりに、可動プラテン120の速度や位置などが設定されてもよい。また、クロスヘッドの位置(例えば型締位置)や可動プラテンの位置の代わりに、型締力が設定されてもよい。
ところで、トグル機構150は、型締モータ160の駆動力を増幅して可動プラテン120に伝える。その増幅倍率は、トグル倍率とも呼ばれる。トグル倍率は、第1リンク152と第2リンク153とのなす角θ(以下、「リンク角度θ」とも呼ぶ)に応じて変化する。リンク角度θは、クロスヘッド151の位置から求められる。リンク角度θが180°のとき、トグル倍率が最大になる。
金型装置10の交換や金型装置10の温度変化などにより金型装置10の厚さが変化した場合、型締時に所定の型締力が得られるように、型厚調整が行われる。型厚調整では、例えば可動金型12が固定金型11にタッチする型タッチの時点でトグル機構150のリンク角度θが所定の角度になるように、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整する。
型締装置100は、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整することで、型厚調整を行う型厚調整機構180を有する。型厚調整機構180は、タイバー140の後端部に形成されるねじ軸181と、トグルサポート130に回転自在に保持されるねじナット182と、ねじ軸181に螺合するねじナット182を回転させる型厚調整モータ183とを有する。
ねじ軸181およびねじナット182は、タイバー140ごとに設けられる。型厚調整モータ183の回転は、回転伝達部185を介して複数のねじナット182に伝達されてよい。複数のねじナット182を同期して回転できる。尚、回転伝達部185の伝達経路を変更することで、複数のねじナット182を個別に回転することも可能である。
回転伝達部185は、例えば歯車などで構成される。この場合、各ねじナット182の外周に受動歯車が形成され、型厚調整モータ183の出力軸には駆動歯車が取付けられ、複数の受動歯車および駆動歯車と噛み合う中間歯車がトグルサポート130の中央部に回転自在に保持される。尚、回転伝達部185は、歯車の代わりに、ベルトやプーリなどで構成されてもよい。
型厚調整機構180の動作は、制御装置700によって制御される。制御装置700は、型厚調整モータ183を駆動して、ねじナット182を回転させることで、ねじナット182を回転自在に保持するトグルサポート130の固定プラテン110に対する位置を調整し、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整する。
尚、本実施形態では、ねじナット182がトグルサポート130に対し回転自在に保持され、ねじ軸181が形成されるタイバー140が固定プラテン110に対し固定されるが、本発明はこれに限定されない。
例えば、ねじナット182が固定プラテン110に対し回転自在に保持され、タイバー140がトグルサポート130に対し固定されてもよい。この場合、ねじナット182を回転させることで、間隔Lを調整できる。
また、ねじナット182がトグルサポート130に対し固定され、タイバー140が固定プラテン110に対し回転自在に保持されてもよい。この場合、タイバー140を回転させることで、間隔Lを調整できる。
さらにまた、ねじナット182が固定プラテン110に対し固定され、タイバー140がトグルサポート130に対し回転自在に保持されてもよい。この場合、タイバー140を回転させることで間隔Lを調整できる。
間隔Lは、型厚調整モータエンコーダ184を用いて検出する。型厚調整モータエンコーダ184は、型厚調整モータ183の回転量や回転方向を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。型厚調整モータエンコーダ184の検出結果は、トグルサポート130の位置や間隔Lの監視や制御に用いられる。
型厚調整機構180は、互いに螺合するねじ軸181とねじナット182の一方を回転させることで、間隔Lを調整する。複数の型厚調整機構180が用いられてもよく、複数の型厚調整モータ183が用いられてもよい。
尚、本実施形態の型厚調整機構180は、間隔Lを調整するため、タイバー140に形成されるねじ軸181とねじ軸181に螺合されるねじナット182とを有するが、本発明はこれに限定されない。
例えば、型厚調整機構180は、タイバー140の温度を調節するタイバー温調器を有してもよい。タイバー温調器は、各タイバー140に取付けられ、複数本のタイバー140の温度を連携して調整する。タイバー140の温度が高いほど、タイバー140は熱膨張によって長くなり、間隔Lが大きくなる。複数本のタイバー140の温度は独立に調整することも可能である。
タイバー温調器は、例えばヒータなどの加熱器を含み、加熱によってタイバー140の温度を調節する。タイバー温調器は、水冷ジャケットなどの冷却器を含み、冷却によってタイバー140の温度を調節してもよい。タイバー温調器は、加熱器と冷却器の両方を含んでもよい。
尚、本実施形態の型締装置100は、型開閉方向が水平方向である横型であるが、型開閉方向が上下方向である竪型でもよい。竪型の型締装置は、下プラテン、上プラテン、トグルサポート、タイバー、トグル機構、および型締モータなどを有する。下プラテンと上プラテンのうち、いずれか一方が固定プラテン、残りの一方が可動プラテンとして用いられる。下プラテンには下金型が取付けられ、上プラテンには上金型が取付けられる。下金型と上金型とで金型装置が構成される。下金型は、ロータリーテーブルを介して下プラテンに取付けられてもよい。トグルサポートは、下プラテンの下方に配設され、タイバーを介して上プラテンと連結される。タイバーは、上プラテンとトグルサポートとを型開閉方向に間隔をおいて連結する。トグル機構は、トグルサポートと下プラテンとの間に配設され、可動プラテンを昇降させる。型締モータは、トグル機構を作動させる。型締装置が竪型である場合、タイバーの本数は通常3本である。尚、タイバーの本数は特に限定されない。
尚、本実施形態の型締装置100は、駆動源として、型締モータ160を有するが、型締モータ160の代わりに、油圧シリンダを有してもよい。また、型締装置100は、型開閉用にリニアモータを有し、型締用に電磁石を有してもよい。
(エジェクタ装置)
エジェクタ装置200の説明では、型締装置100の説明と同様に、型閉時の可動プラテン120の移動方向(図1および図2中右方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(図1および図2中左方向)を後方として説明する。
エジェクタ装置200は、金型装置10から成形品を突き出す。エジェクタ装置200は、エジェクタモータ210、運動変換機構220、およびエジェクタロッド230などを有する。
エジェクタモータ210は、可動プラテン120に取付けられる。エジェクタモータ210は、運動変換機構220に直結されるが、ベルトやプーリなどを介して運動変換機構220に連結されてもよい。
運動変換機構220は、エジェクタモータ210の回転運動をエジェクタロッド230の直線運動に変換する。運動変換機構220は、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを含む。ねじ軸と、ねじナットとの間には、ボールまたはローラが介在してよい。
エジェクタロッド230は、可動プラテン120の貫通穴において進退自在とされる。エジェクタロッド230の前端部は、可動金型12の内部に進退自在に配設される可動部材15と接触する。エジェクタロッド230の前端部は、可動部材15と連結されていても、連結されていなくてもよい。
エジェクタ装置200は、制御装置700による制御下で、突き出し工程を行う。
突き出し工程では、エジェクタモータ210を駆動してエジェクタロッド230を設定速度で待機位置から突き出し位置まで前進させることにより、可動部材15を前進させ、成形品を突き出す。その後、エジェクタモータ210を駆動してエジェクタロッド230を設定速度で後退させ、可動部材15を元の待機位置まで後退させる。エジェクタロッド230の位置や速度は、例えばエジェクタモータエンコーダ211を用いて検出する。エジェクタモータエンコーダ211は、エジェクタモータ210の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。
(射出装置)
射出装置300の説明では、型締装置100の説明やエジェクタ装置200の説明とは異なり、充填時のスクリュ330の移動方向(図1および図2中左方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(図1および図2中右方向)を後方として説明する。
射出装置300は、フレームFrに対し進退自在なスライドベース301に設置され、金型装置10に対し進退自在とされる。射出装置300は、金型装置10にタッチし、金型装置10内のキャビティ空間14に成形材料を充填する。射出装置300は、例えば、シリンダ310、ノズル320、スクリュ330、計量モータ340、射出モータ350、圧力検出器360などを有する。
シリンダ310は、供給口311から内部に供給された成形材料を加熱する。供給口311はシリンダ310の後部に形成される。シリンダ310の後部の外周には、水冷シリンダなどの冷却器312が設けられる。冷却器312よりも前方において、シリンダ310の外周には、バンドヒータなどの加熱器313と温度検出器314とが設けられる。
シリンダ310は、シリンダ310の軸方向(図1および図2中左右方向)に複数のゾーンに区分される。各ゾーンに加熱器313と温度検出器314とが設けられる。ゾーン毎に、温度検出器314の検出温度が設定温度になるように、制御装置700が加熱器313を制御する。
ノズル320は、シリンダ310の前端部に設けられ、金型装置10に対し押し付けられる。ノズル320の外周には、加熱器313と温度検出器314とが設けられる。ノズル320の検出温度が設定温度になるように、制御装置700が加熱器313を制御する。
スクリュ330は、シリンダ310内において回転自在に且つ進退自在に配設される。スクリュ330を回転させると、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料が前方に送られる。成形材料は、前方に送られながら、シリンダ310からの熱によって徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。その後、スクリュ330を前進させると、スクリュ330前方に蓄積された液状の成形材料がノズル320から射出され、金型装置10内に充填される。
スクリュ330の前部には、スクリュ330を前方に押すときにスクリュ330の前方から後方に向かう成形材料の逆流を防止する逆流防止弁として、逆流防止リング331が進退自在に取付けられる。
逆流防止リング331は、スクリュ330を前進させるときに、スクリュ330前方の成形材料の圧力によって後方に押され、成形材料の流路を塞ぐ閉塞位置(図2参照)までスクリュ330に対し相対的に後退する。これにより、スクリュ330前方に蓄積された成形材料が後方に逆流するのを防止する。
一方、逆流防止リング331は、スクリュ330を回転させるときに、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って前方に送られる成形材料の圧力によって前方に押され、成形材料の流路を開放する開放位置(図1参照)までスクリュ330に対し相対的に前進する。これにより、スクリュ330の前方に成形材料が送られる。
逆流防止リング331は、スクリュ330と共に回転する共回りタイプと、スクリュ330と共に回転しない非共回りタイプのいずれでもよい。
尚、射出装置300は、スクリュ330に対し逆流防止リング331を開放位置と閉塞位置との間で進退させる駆動源を有していてもよい。
計量モータ340は、スクリュ330を回転させる。スクリュ330を回転させる駆動源は、計量モータ340には限定されず、例えば油圧ポンプなどでもよい。
射出モータ350は、スクリュ330を進退させる。射出モータ350とスクリュ330との間には、射出モータ350の回転運動をスクリュ330の直線運動に変換する運動変換機構などが設けられる。運動変換機構は、例えばねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを有する。ねじ軸とねじナットの間には、ボールやローラなどが設けられてよい。スクリュ330を進退させる駆動源は、射出モータ350には限定されず、例えば油圧シリンダなどでもよい。
圧力検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間で伝達される圧力を検出する。圧力検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間の力の伝達経路に設けられ、圧力検出器360に作用する圧力を検出する。
圧力検出器360は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。圧力検出器360の検出結果は、スクリュ330が成形材料から受ける圧力、スクリュ330に対する背圧、スクリュ330から成形材料に作用する圧力などの制御や監視に用いられる。
射出装置300は、制御装置700による制御下で、充填工程、保圧工程、計量工程などを行う。
充填工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を設定速度で前進させ、スクリュ330の前方に蓄積された液状の成形材料を金型装置10内のキャビティ空間14に充填させる。スクリュ330の位置や速度は、例えば射出モータエンコーダ351を用いて検出する。射出モータエンコーダ351は、射出モータ350の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。スクリュ330の位置が設定位置に達すると、充填工程から保圧工程への切替(所謂、V/P切替)が行われる。V/P切替が行われる位置をV/P切替位置とも呼ぶ。スクリュ330の設定速度は、スクリュ330の位置や時間などに応じて変更されてもよい。
尚、充填工程においてスクリュ330の位置が設定位置に達した後、その設定位置にスクリュ330を一時停止させ、その後にV/P切替が行われてもよい。V/P切替の直前において、スクリュ330の停止の代わりに、スクリュ330の微速前進または微速後退が行われてもよい。
保圧工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を前方に押し、スクリュ330の前端部における成形材料の圧力(以下、「保持圧力」とも呼ぶ。)を設定圧に保ち、シリンダ310内に残る成形材料を金型装置10に向けて押す。金型装置10内での冷却収縮による不足分の成形材料を補充できる。保持圧力は、例えば圧力検出器360を用いて検出する。圧力検出器360は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。保持圧力の設定値は、保圧工程の開始からの経過時間などに応じて変更されてもよい。
保圧工程では金型装置10内のキャビティ空間14の成形材料が徐々に冷却され、保圧工程完了時にはキャビティ空間14の入口が固化した成形材料で塞がれる。この状態はゲートシールと呼ばれ、キャビティ空間14からの成形材料の逆流が防止される。保圧工程後、冷却工程が開始される。冷却工程では、キャビティ空間14内の成形材料の固化が行われる。成形サイクル時間の短縮のため、冷却工程中に計量工程が行われてよい。
計量工程では、計量モータ340を駆動してスクリュ330を設定回転数で回転させ、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料を前方に送る。これに伴い、成形材料が徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。スクリュ330の回転数は、例えば計量モータエンコーダ341を用いて検出する。計量モータエンコーダ341は、計量モータ340の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。
計量工程では、スクリュ330の急激な後退を制限すべく、射出モータ350を駆動してスクリュ330に対して設定背圧を加えてよい。スクリュ330に対する背圧は、例えば圧力検出器360を用いて検出する。圧力検出器360は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。スクリュ330が計量完了位置まで後退し、スクリュ330の前方に所定量の成形材料が蓄積されると、計量工程が完了する。
尚、本実施形態の射出装置300は、インライン・スクリュ方式であるが、プリプラ方式などでもよい。プリプラ方式の射出装置は、可塑化シリンダ内で溶融された成形材料を射出シリンダに供給し、射出シリンダから金型装置内に成形材料を射出する。可塑化シリンダ内にはスクリュが回転自在にまたは回転自在に且つ進退自在に配設され、射出シリンダ内にはプランジャが進退自在に配設される。
また、本実施形態の射出装置300は、シリンダ310の軸方向が水平方向である横型であるが、シリンダ310の軸方向が上下方向である竪型であってもよい。竪型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、竪型でも横型でもよい。同様に、横型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、横型でも竪型でもよい。
(移動装置)
移動装置400の説明では、射出装置300の説明と同様に、充填時のスクリュ330の移動方向(図1および図2中左方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(図1および図2中右方向)を後方として説明する。
移動装置400は、金型装置10に対し射出装置300を進退させる。また、移動装置400は、金型装置10に対しノズル320を押し付け、ノズルタッチ圧力を生じさせる。移動装置400は、液圧ポンプ410、駆動源としてのモータ420、液圧アクチュエータとしての液圧シリンダ430などを含む。
液圧ポンプ410は、第1ポート411と、第2ポート412とを有する。液圧ポンプ410は、両方向回転可能なポンプであり、モータ420の回転方向を切り替えることにより、第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液(例えば油)を吸入し他方から吐出して液圧を発生させる。尚、液圧ポンプ410はタンクから作動液を吸引して第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液を吐出することもできる。
モータ420は、液圧ポンプ410を作動させる。モータ420は、制御装置700からの制御信号に応じた回転方向および回転トルクで液圧ポンプ410を駆動する。モータ420は、電動モータであってよく、電動サーボモータであってよい。
液圧シリンダ430は、シリンダ本体431、ピストン432、およびピストンロッド433を有する。シリンダ本体431は、射出装置300に対して固定される。ピストン432は、シリンダ本体431の内部を、第1室としての前室435と、第2室としての後室436とに区画する。ピストンロッド433は、固定プラテン110に対して固定される。
液圧シリンダ430の前室435は、第1流路401を介して、液圧ポンプ410の第1ポート411と接続される。第1ポート411から吐出された作動液が第1流路401を介して前室435に供給されることで、射出装置300が前方に押される。射出装置300が前進され、ノズル320が固定金型11に押し付けられる。前室435は、液圧ポンプ410から供給される作動液の圧力によってノズル320のノズルタッチ圧力を生じさせる圧力室として機能する。
一方、液圧シリンダ430の後室436は、第2流路402を介して液圧ポンプ410の第2ポート412と接続される。第2ポート412から吐出された作動液が第2流路402を介して液圧シリンダ430の後室436に供給されることで、射出装置300が後方に押される。射出装置300が後退され、ノズル320が固定金型11から離間される。
尚、本実施形態では移動装置400は液圧シリンダ430を含むが、本発明はこれに限定されない。例えば、液圧シリンダ430の代わりに、電動モータと、その電動モータの回転運動を射出装置300の直線運動に変換する運動変換機構とが用いられてもよい。
(制御装置)
制御装置700は、図1〜図2に示すようにCPU(Central Processing Unit)701と、メモリなどの記憶媒体702と、入力インターフェース703と、出力インターフェース704とを有する。制御装置700は、記憶媒体702に記憶されたプログラムをCPU701に実行させることにより、各種の制御を行う。また、制御装置700は、入力インターフェース703で外部からの信号を受信し、出力インターフェース704で外部に信号を送信する。
制御装置700は、型閉工程や型締工程、型開工程などを繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。また、制御装置700は、型締工程の間に、計量工程や充填工程、保圧工程などを行う。成形品を得るための一連の動作、例えば計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」又は「成形サイクル」とも呼ぶ。また、1回のショットに要する時間を「成形サイクル時間」とも呼ぶ。
制御装置700は、操作装置750や表示装置760と接続されている。操作装置750は、ユーザによる入力操作を受け付け、入力操作に応じた信号を制御装置700に出力する。表示装置760は、制御装置700による制御下で、操作装置750における入力操作に応じた操作画面を表示する。
操作画面は、射出成形機1の設定などに用いられる。操作画面は、複数用意され、切り替えて表示されたり、重ねて表示されたりする。ユーザは、表示装置760で表示される操作画面を見ながら、操作装置750を操作することにより射出成形機1の設定(設定値の入力を含む)などを行う。
操作装置750および表示装置760は、例えばタッチパネルで構成され、一体化されてよい。尚、本実施形態の操作装置750および表示装置760は、一体化されているが、独立に設けられてもよい。また、操作装置750は、複数設けられてもよい。
(射出装置のノズルの開閉)
図3は、図5に示す揺動レバーを第1方向(例えば時計回り)に揺動させることにより、弁体を図5に示す開放位置から閉塞位置に移動させた状態を示す図である。図4は、図3に示す揺動レバーを第2方向(例えば反時計回り)に揺動させた状態を示す図である。図5は、図4に示す弁体を、成形材料の圧力によって閉塞位置から開放位置に移動させた状態を示す図である。
射出装置300は、ノズル320における成形材料の流路321を開く開放位置(図5参照)と流路321を閉じる閉塞位置(図3、図4参照)との間で移動させられる弁体322を有する。弁体322が閉塞位置にあるとき、弁体322と流路321の壁面との間に、前方に向けて先細り状のくさび形隙間323が形成されてよい。くさび形隙間323における成形材料の圧力が十分に大きくなると、弁体322が成形材料の粘着力に打ち勝って閉塞位置から開放位置に移動させられる。
弁体322の移動方向は、ノズル320の軸方向に直交する方向であってよく、ノズル320の流路321の径方向であってよい。弁体322が閉塞位置から開放位置に移動することで、流路321の径が広くなるため、成形材料がノズル320を通過しやすい。よって、充填工程においてノズル320での成形材料の流動抵抗を低減でき、成形材料の発熱を抑制できる。そのため、冷却工程の時間を短縮でき、成形サイクルを短縮できる。
尚、弁体322の移動方向は、本実施形態ではノズル320の軸方向に直交する方向であるが、従来と同様にノズル320の軸方向であってもよい。
射出装置300は、弁体322を開放位置と閉塞位置との間で移動させる移動機構324を有する。移動機構324は、例えば、ノズル320に対し揺動自在に取り付けられる揺動レバー325と、揺動レバー325を第1方向に揺動させることにより弁体322を開放位置から閉塞位置に移動させる流体圧シリンダ326とを有する。
揺動レバー325は、ノズル320に対し固定される揺動軸371を中心に揺動自在とされ、流体圧シリンダ326の伸縮によって揺動させられる。揺動レバー325は、弁体322と接触するが、弁体322と連結されていない。
流体圧シリンダ326は、シリンダ本体327と、シリンダ本体327の内部に供給される流体の圧力によって移動するピストンロッド328とを有する。ピストンロッド328の基端部は、シリンダ本体327の内部において摺動するピストンに連結される。ピストンは、シリンダ本体327の内部を2つの部屋に区切る。いずれか一方の部屋に圧力を供給することにより、ピストンが移動させられ、ピストンロッド328が移動させられる。
シリンダ本体327は、ノズル320に対し固定される揺動軸372を中心に揺動自在とされる。一方、ピストンロッド328は、ピン373で揺動レバー325と揺動自在に連結される。尚、シリンダ本体327とピストンロッド328との配置は逆でもよい。つまり、シリンダ本体327はピン373で揺動レバー325と連結され、ピストンロッド328は揺動軸372を中心に揺動自在とされてもよい。
図5に示すように弁体322が開放位置にある状態で流体圧シリンダ326を伸ばすと、揺動レバー325が第1方向(例えば時計回り)に揺動させられる。これにより、弁体322は、揺動レバー325に押されて、図3に示すように閉塞位置に移動させられる。
一方、図3に示すように弁体322が閉塞位置にある状態で流体圧シリンダ326を縮めると、揺動レバー325が第1方向とは逆向きの第2方向(例えば反時計回り)に揺動させられる。これにより、揺動レバー325は、図4に示すように元の位置に戻り、弁体322の閉塞位置から開放位置への移動を妨害しなくなる。
その結果、弁体322は、くさび形隙間323における成形材料の圧力によって、図4に示す閉塞位置から図5に示す開放位置へ移動させられる。弁体322の閉塞位置から開放位置への移動は、揺動レバー325の第2方向の揺動と同時に行われてもよいし、揺動レバー325の第2方向の揺動よりも遅れて行われてもよい。
尚、本実施形態では揺動レバー325を第2方向に揺動させて元の位置に戻すため、流体圧シリンダ326の駆動力を利用するが、充填工程において生じる成形材料の圧力を利用することも可能である。この場合、制御装置700は、流体圧シリンダ326に圧力を供給する代わりに、流体圧シリンダ326から圧力を抜き、ピストンによって区画される2つの部屋と外部との流体の出入りを自由とする。例えば、流体圧シリンダ326が空気圧シリンダである場合、ピストンによって区画される2つの部屋を大気開放とする。これにより、ピストンが両方向に自由に移動できる。よって、充填工程において生じる成形材料の圧力を利用して、弁体322を閉塞位置から開放位置に移動させると共に、弁体322で揺動レバー325を押して揺動レバー325を第2方向に揺動させることができる。揺動レバー325を元の位置に戻すために充填工程において生じる成形材料の圧力を利用する場合、揺動レバー325と弁体322とはピンなどで連結されていてもよい。なお、計量工程において生じる成形材料の圧力を利用して、弁体322を閉塞位置から開放位置に移動させてもよい。
制御装置700は、1ショット(例えば計量工程の開始から、次回の計量工程の開始まで)の間に、弁体322を開放位置と閉塞位置との間で往復移動させる。弁体322の位置は、例えば、充填工程や保圧工程では開放位置とされ、計量工程では閉塞位置とされる。計量工程を型開状態で行う場合に、ノズル320から成形材料が漏れるのを防止できる。
以下の説明では、図3〜図5を参照して説明した、弁体322の動作によってノズル320を閉塞する構造を「シャットオフ機構370」と表記する。本実施形態の射出成形機1は、シャットオフ機構370を備えることにより、射出装置300のノズル320が金型装置10にタッチしていない状態でも実成形と同じように背圧を掛けた状態での計量が可能となり、サイクル時間の短縮を図ることができ、特にハイサイクル成形への適用に有利である。
(樹脂溶融状態の評価システム)
図6及び図7を参照して本実施形態に係る樹脂溶融状態の評価システム800について説明する。本実施形態に係る射出成形機1は、射出装置300内の樹脂(成形材料)の溶融状態を評価するための評価システム800を備えている。
図6は、本実施形態に係る樹脂溶融状態の評価システム800の概略構成を示す図である。図7は、図6に示す評価システム800をY軸正方向側から視たときの概略構成を示す図である。図6及び図7に示すように、評価システム800は、射出装置300から排出されるパージ樹脂805を利用して、射出装置300内の樹脂が未溶融状態であるか否かを判定する。なお本実施形態では、「未溶融状態」とは、射出装置300内の樹脂が未溶融樹脂を所定以上含む状態を意味する。未溶融状態と判定するための閾値は、例えば正常な成形品を製造できた成形条件でパージしたときの撮影画像中の、パージ樹脂に対する未溶融樹脂の割合(面積や数など)を予め算出しておき、この割合を閾値とすることができる。また、「未溶融樹脂」とは、粘度が所定以上であり溶融樹脂に対して相対的に硬い状態の樹脂を意味する。
評価システム800は、ハイスピードカメラ801と、ライト802と、暗幕803と、評価装置804とを有する。
ハイスピードカメラ801は、射出装置300のノズル320から排出されるパージ樹脂805を撮影し、撮影した画像データを評価装置804に出力する。ハイスピードカメラ801は、射出成形機1がノズルタッチしていない状態のときに、ノズル320からパージ(排出)されたパージ樹脂805を撮影できる位置に設置されている。ハイスピードカメラ801は、例えば図6に示すように、射出装置300の幅方向の一方側(Y軸正方向側)に配置されている。なお、パージ樹脂805を撮影できれば、例えばシャッターカメラなどハイスピードカメラ801以外の撮影手段(カメラ)を用いてもよい。また、撮像手段は連続する複数枚の画像を撮影するものでもよいし、1枚の画像を撮影するものでもよい。
ライト802及び暗幕803は、ハイスピードカメラ801での未溶融樹脂の撮影をクリアにするために設置されている。ライト802は、ハイスピードカメラ801の撮影範囲のパージ樹脂805を光で照らす位置に設置されており、例えば図6に示すように射出装置300の幅方向のハイスピードカメラ801と同じ側(Y軸正方向側)に配置されている。暗幕803は、ハイスピードカメラ801から視てパージ樹脂805の後方に設置されており、例えば図6に示すように射出装置300の幅方向のハイスピードカメラ801と反対側(Y軸負方向側)に配置されている。
なお、評価システム800は、ライト802及び暗幕803を必ずしも備えていなくてもよい。また、図7では、図示の都合上、ハイスピードカメラ801及びライト802の配置が上記の説明と異なっているが、本実施形態では図6の配置が正しい配置である。
評価装置804は、ハイスピードカメラ801により撮影されたパージ樹脂805の画像データに基づき、射出装置300内の樹脂の溶融状態が、未溶融樹脂を所定以上含む未溶融状態であるか否かを判定する。評価装置804は、画像取得部811と、画像処理部812と、溶融判定部813と、を有する。
画像取得部811は、ハイスピードカメラ801により撮影されたパージ樹脂805の画像データを取得する。
画像処理部812は、画像取得部811により取得されたカメラ画像の中のパージ樹脂805の部分に画像処理(図10参照)を施す。
溶融判定部813は、画像処理部812により画像処理を施された画像を用いて未溶融樹脂の有無を検出し、未溶融樹脂を所定量以上検出したときに射出装置300内の樹脂が未溶融状態であると判定する。
また、評価装置804は、ハイスピードカメラ801、ライト802、制御装置700と電気的に接続されており、ハイスピードカメラ801及びライト802の動作を制御すると共に、制御装置700と協働して射出装置300の動作を制御する。
評価装置804は、物理的には、CPU、メモリ、入力インターフェース、出力インターフェース等を有するコンピュータ装置である。評価装置804は、上述の制御装置700の一部として実装されてもよいし、制御装置700と別の演算装置として実装されてもよい。
また、図6では、評価装置804の構成要素を機能ブロックで示しているが、各機能ブロックは概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。各機能ブロックの全部または一部を、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。各機能ブロックにて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUにて実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
次に図8及び図9を参照して、本実施形態における樹脂溶融状態の評価処理について説明する。図8は、本実施形態における樹脂溶融状態の評価処理を組み込んだ射出成形処理のフローチャートである。図9は、図8中の溶融評価ステップのサブルーチン処理のフローチャートである。図8のフローチャートに示すように、本実施形態では、樹脂溶融状態の評価は、射出装置300が金型装置10にノズルタッチする直前に実施される。
ステップS101では、制御装置700により、操作装置750を介したユーザからの入力情報に基づき、成形に要求されるサイクル時間を達成できる計量時間と射出ボリュームを満足するように、各種成形条件が設定される。成形条件は、例えば、スクリュ回転数、計量ストロークなどである。ステップS101の処理が完了するとステップS102に進む。
ステップS102では、制御装置700により射出装置300のパージ動作が実行される。パージ動作としては任意の周知の手法を適用することができる。例えば、シャットオフ機構370を解放した状態で、スクリュ330の位置を固定しつつ回転させて成形材料を前方に送りノズル320から排出させる。または、スクリュ330の回転により成形材料をシリンダ310の前部に蓄積するにつれてスクリュ330を後退し、その後にスクリュ330を前方に押してシリンダ310内の樹脂をノズル320から排出させる。ステップS102の処理が完了するとステップS103に進む。
ステップS103では、制御装置700により、パージ動作の繰り返し回数が所定の安定パージ回数に到達したか否かが判定される。安定パージ回数としては、例えば、シリンダ310内の成形材料の溶融状態が安定するまでに必要なパージ動作の繰り返し回数を設定することができる。パージ動作が安定パージ回数に到達していない場合には、ステップS102に戻り、成形材料の溶融状態が安定化するまでパージ動作が繰り返される。
ステップS103の判定の結果、パージ動作が安全パージ回数に到達した場合には、シリンダ310内の成形材料の溶融状態が安定化したと判定され、ステップS104にて溶融状態評価処理が実行される。溶融状態評価処理では、図9に示すステップS201〜S208のサブルーチンの各処理が行われる。溶融状態評価処理は、評価装置804により実施される。
まず評価装置804が制御装置700と協働して射出装置300の動作を制御して、シャットオフ機構370が閉塞されて(ステップS201)ステップS101にて設定された成形条件で射出装置300の計量工程が行われる(ステップS202)。また、評価システム800では、評価装置804の制御により、ライト802が点灯され、ハイスピードカメラ801による撮影の準備が行われる(ステップS203)。
次に、シャットオフ機構370が解放されて(ステップS204)、ノズル320からパージ樹脂805が排出され始めると、ハイスピードカメラ801によるパージ樹脂805の撮影が開始される(ステップS205)。ハイスピードカメラ801は、溶融状態評価に必要なショット数だけ撮影を行い、撮影した画像データを評価装置804の画像取得部811に出力する。画像取得部811は、取得した画像データを画像処理部812に出力する。
評価装置804の画像処理部812により、ステップS205にてハイスピードカメラ801により撮影されたパージ樹脂805の画像データには画像処理が施され、画像データからパージ樹脂805の未溶融部分が抽出される(ステップS206)。
ここで図10を参照して、評価装置804の画像処理部812において行われる、パージ樹脂805の撮影画像から未溶融部分を抽出するための画像処理の一例を説明する。図6に示したように、パージ樹脂805の後方には暗幕803が設置されているので、図10(a)に示すように、ハイスピードカメラ801により撮影された生画像Aでは、背景が黒色に統一されて、ライト802により照射されているパージ樹脂805の流れが目立つように撮影されている。パージ樹脂805では光が反射する一方で、背景の暗幕803では光が吸収されるためである。
まず図10(b)に示すように、この生画像Aを二値化して、パージ樹脂の部分の輪郭を抽出した輪郭画像Bを作成する。輪郭画像Bは、例えば生画像Aを、光が最も強い白から最も弱い黒まで間の灰色の明暗も含めて表現するグレースケールに変換し、グレースケール値が所定の閾値より大きい部分(図10(b)では白い部分)を、樹脂が存在する部分としてピクセル座標を記録するなどの手法で作成できる。なお、上記の閾値は、例えば予め官能評価などに基づき設定することができる。
次に図10(c)に示すように、輪郭画像Bを生画像Aに当てはめて、生画像Aからパージ樹脂領域を切り出し、このパージ樹脂領域の縁端部を暗く加工した加工画像Cを作成する。パージ樹脂805の端の部分は、ライト802の光がより多く反射し、この反射により輝度が高い状態となっている。このため、パージ樹脂領域の輪郭からの距離に応じて輝度を下げる処理を行う。例えば、輪郭から近いピクセルほど輝度の下げ幅を大きくする。
次に図10(d)に示すように、加工画像Cを二値化して、未溶融部分が抽出された抽出画像Dを作成する。例えば、加工画像Cの所定閾値より高い部分(図10(d)では白い部分)を未溶融部分として抽出する。加工画像C中の白い部分は黒い部分と比べて輝度が高い部分であり、未溶融部分は溶融部分に比べて密度が高く光に反射しやすいためである。これにより、撮影された生画像Aのパージ樹脂領域の範囲に、どの程度の未溶融部分が入っているかを判定可能となる。
図9に戻り、ステップS207では、評価装置804の溶融判定部813により、ステップS206にて抽出された未溶融部分の面積が所定の許容値より小さいか否かが判定される。この許容値は、例えば正常な成形品を製造できた成形条件でパージしたときの撮影画像中の未溶融部分の面積を予め算出しておき、この値を許容値として設定することができる。
ステップS207の判定の結果、未溶融部分の面積が許容値以上の場合には、溶融判定部813は未溶融樹脂が許容量より多い未溶融状態であると判定し、ステップS208にて制御装置700により成形条件が調整される。例えば、成形条件のうちスクリュ回転数を下げると、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料が前方に送られる際に未溶融樹脂が溶けやすくなる。また、成形条件のうちシリンダ設定温度を上げると、シリンダ310の内部の未溶融樹脂が溶けやすくなる。またスクリュ330に対する背圧を上げると、スクリュ330により前方へ送られる成形材料が受けるせん断応力が高くなり、せん断応力による成形材料の発熱量も高くなるため、未溶融樹脂が溶けやすくなる。このように、未溶融樹脂を溶けやすくして樹脂が未溶融状態から溶融状態になるように、射出装置300の成形条件のパラメータが調整される。成形条件が調整された後にステップS201に戻り、調整後の成形条件を用いて再度溶融状態評価が行われる。
一方、ステップS207の判定の結果、未溶融部分の面積が許容値未満の場合には、溶融判定部813は未溶融樹脂が許容量より少なく、未溶融状態ではないものと判定し、溶融評価処理を終了してメインフローにもどる。
図8に戻り、制御装置700により、射出装置300が金型装置10にノズルタッチされて(ステップS105)、射出装置300から金型装置10内のキャビティ空間14へ溶融状態の樹脂(成形材料)が充填されて、金型での成形が行われる(ステップS106)。ステップS106の処理が完了すると本制御フローを終了する。
なお、ステップS104の溶融状態評価処理では、例えば、射出されたパージ樹脂805の最初から最後までの画像を用いて未溶融状態を評価してもよいし、未溶融樹脂が形成されやすいパージ樹脂805の最後の画像だけを用いて評価してもよい。また、未溶融状態か否かの判定手法としては、上述のように未溶融部分の面積で評価する他にも、例えば図10の抽出画像Dにおける未溶融樹脂の部分の個数を許容値と比較して評価してもよい。また、未溶融状態の判定に用いる許容値は、完全に未溶融樹脂が無い状態を許容値としてもよい。
次に、本実施形態に係る射出成形機1の効果を説明する。本実施形態の射出成形機1は、射出装置300と、この射出装置300の動作を制御し、射出装置300からパージ樹脂805を排出させる制御装置700と、射出装置300から排出されたパージ樹脂805を撮影するハイスピードカメラ801と、このハイスピードカメラ801により撮影されたパージ樹脂805の画像を取得する画像取得部811、及び、この画像に基づき射出装置300内の樹脂が未溶融樹脂を所定以上含む未溶融状態であるか否かを判定する溶融判定部813を有する評価装置804と、を備える。
同様に、本実施形態に係る射出成形機1の射出装置300内の樹脂の溶融状態を評価する評価システム800は、射出装置300から排出されるパージ樹脂805を撮影するハイスピードカメラ801と、このハイスピードカメラ801により撮影されたパージ樹脂805の画像を取得する画像取得部811、及び、この画像に基づき射出装置300内の樹脂が未溶融樹脂を所定以上含む未溶融状態であるか否かを判定する溶融判定部813を有する評価装置804と、を備える。
上述のとおり、従来の未溶融樹脂の判定方法としては、射出装置300の内部の樹脂流路に赤外線温度センサを設け、赤外線温度センサにより計測された樹脂の表面温度を設置温度と比較する手法があった。しかし、この手法では、樹脂内部の温度を計測できないため、内部に未溶融樹脂が形成されている場合には正確な未溶融樹脂の有無の評価ができない可能性があった。
これに対して本実施形態では、上記構成のとおり射出装置300から排出されたパージ樹脂805の画像を利用するので、パージ樹脂805の流れの表面だけでなく内部の未溶融状態も判定でき、未溶融樹脂を精度良く検出できる。また、実際に金型での成形を行う前のパージ段階で樹脂の溶融状態を判定できるので、未溶融樹脂による成形不具合を排除できる。
また、本実施形態の射出成形機1は、射出装置300に設けられ、ノズル320を閉塞してノズル320から樹脂が漏れるのを防止するシャットオフ機構370を備える。評価装置804は、制御装置700によって、シャットオフ機構370によりノズル320を閉塞して、成形時と同様の状態で射出装置300内の樹脂を計量したパージ樹脂805の画像に基づき未溶融状態を判定する。
この構成により、シャットオフ機構370を利用して、実成形時と同様の条件下で生成されたパージ樹脂805を評価に用いることができるので、実際に金型装置10に供給される樹脂に近い状態の樹脂で未溶融状態を判定することが可能となり、未溶融樹脂の検出精度を高くできる。
また、本実施形態の射出成形機1では、評価装置804の溶融判定部813が未溶融状態と判定した場合には、制御装置700は、樹脂が未溶融状態から溶融状態になるように射出装置300の成形条件を調整する。
この構成により、当初(図8のステップS101)は成形条件を大まかに設定し、未溶融状態の判定結果に応じて調整すれば適切な成形条件を得ることができるので、成形条件を容易に設定でき、条件出しに掛かる時間を短縮することができる。
また、本実施形態の射出成形機1では、評価装置804は、ハイスピードカメラ801により撮影された画像の中のパージ樹脂805の部分に画像処理を施す画像処理部812を有する。評価装置804の溶融判定部813は、画像処理部812により画像処理を施された画像を用いて未溶融樹脂の有無を検出し、未溶融樹脂を所定量以上検出したときに未溶融状態と判定する。
この構成により、未溶融樹脂を抽出しやすくなるようにパージ樹脂の画像を加工した上で未溶融状態の判定を行うので、未溶融樹脂の検出精度を高くできる。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
上記実施形態では、評価装置804が未溶融状態の判定に用いるパージ樹脂805の画像を取得する際に、シャットオフ機構370によりノズル320を閉塞することによって、成形時と同様の状態で射出装置300内の樹脂を計量する構成を例示したが、他の手法によって成型時と同条件で樹脂を計量する構成でもよい。例えば、シャットオフ機構370を使用せずノズル320を開放したままで、射出装置300を金型装置10にノズルタッチさせた状態で計量を行う手法によっても、成形時と同様の状態で射出装置300内の樹脂を計量することができる。この手法の場合、計量後にノズルバックしてパージ樹脂805を排出する。
また、上記実施形態では、未溶融状態の評価に用いる画像を取得する際のパージ動作として、シャットオフ機構370によりノズル320を閉塞した後にパージ樹脂805を射出装置300からパージする構成を例示したが、シャットオフ機構370を使用しないでパージ動作を行ってもよい。この場合、図9のフローチャートでは、ステップS201,S202,S204が実行されない。ステップS205では、スクリュ330の回転によりシリンダ310の前部に送り出された成形材料がそのままパージされて撮影される。または、ステップS205では、図8のフローチャートのステップS102の最後のパージ動作にて射出装置300からパージされたパージ樹脂を撮影してもよい。