JP6910598B2 - 被覆切削工具 - Google Patents
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Description
AlとTiの窒化物からなる硬質皮膜の形成については、実際に市場で販売されている被覆切削工具に物理蒸着法及び化学蒸着法が広く適用されている。一方、AlとCrの窒化物からなる硬質皮膜の形成については、実際に市場で販売されている被覆切削工具に適用されているのは物理蒸着法であり、化学蒸着法は適用されていないのが現状である。
硬質皮膜が、半金属を含む金属元素の総量に対して、Alが60原子%以上、Crが10原子%以上を含み、AlとCrの合計の含有比率が90原子%以上の窒化物であり、
基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、
fcc構造に起因する(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面にピーク強度を有し、
前記結晶面に起因するピーク強度の合計をTA、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面に起因するピーク強度の合計をTBとした場合、TB/TAの値が0.40以上である。
また、この耐久性の向上と成膜の安定性ためには、アルカリガスであるNH3ガスと、ハロゲンガスであるCrCl3ガスやAlCl3ガスが過剰に反応させないこと、すなわち、混合ガス中のNH3ガス量のN2ガスとH2ガスの合計量に対する割合を特定のものとすること、さらに、塩化CrガスはCVD炉内で生成することが必要であることも知見した。
以下では、本発明の一実施形態の被覆切削工具を構成する硬質皮膜の成分組成、組織、結晶構造、特性、及び、製造装置の詳細について説明をする。
まず、本実施形態に係る硬質皮膜の組成について説明する。
本実施形態に係る硬質皮膜は、AlとCrをベースとする窒化物である。AlとCrの窒化物の皮膜は耐摩耗性と耐熱性に優れる膜である。
Alの含有比率が高いと硬質皮膜の耐熱性が高まるとともに工具刃先に潤滑保護皮膜を形成し易くなり、被覆切削工具の耐久性が向上する。これらの効果を十分に再現するために、本実施形態に係る硬質皮膜は、半金属を含む金属元素(以下、金属元素と記載する。)の総量に対して、Alの含有比率が60原子%以上とする。更には、Alの含有比率を70原子%以上とすることが好ましい。但し、Alの含有比率が高くなり過ぎると、脆弱なhcp構造のAlNが多くなり被覆切削工具の耐久性が低下する。そのため、Alの含有比率を90原子%以下とすることが好ましい。
Crの含有比率が少なすぎると脆弱なhcp構造のAlNが増加し過ぎて被覆切削工具の耐久性が低下する。また、工具刃先に潤滑保護皮膜が形成され難くなり、溶着が発生し易くなる。また、そのため、Crの含有比率は10原子%以上とする。更には、Crの含有比率は15原子%以上とすることが好ましい。但し、Crの含有比率が高くなり過ぎると相対的にAlの含有比率が低下して耐熱性が低下する。そのため、Crの含有比率は30原子%以下とすることが好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、硬質皮膜により高い耐熱性を付与するために、AlとCrの合計の含有比率を90原子%以上とする。更には、AlとCrの合計の含有比率を95原子%以上にすることが好ましい。本実施形態に係る硬質皮膜は、AlとCr以外の金属元素、例えば、Ti、Si、Zr、B、Vを含有してもよい。これらの元素は、AlTi系の窒化物やAlCr系の窒化物に一般的に添加されている元素であり、少量の添加であれば被覆切削工具の耐久性を著しく低下させることはない。すなわち、AlとCrの合計の含有比率を90原子%以上とする窒化物において、後述する(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面に起因するピーク強度の合計の相対強度が一定値以上であれば、これらの金属元素を含有しても被覆切削工具の耐久性を著しく低下させることはない。但し、AlとCr以外の金属元素の含有比率が高くなり過ぎると、AlとCrをベースとする窒化物としての基本特性が低下して被覆切削工具の耐久性が低下する。そのため、他の金属元素を含有する場合は、含有比率を10原子%以下とする。
本実施形態に係る硬質皮膜は、不可避不純物として、酸素、炭素及び塩素等の成膜ガスに含まれる成分を、硬質皮膜全体を100質量%としたときに1質量%以下まで含有し得る。本実施形態に係る硬質皮膜は全体として窒化物であるならば、これら不純物に起因するに酸化物、AlとCrをベースとする複合炭化物や複合炭窒化物等を一部に含有してもよい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、fcc構造に起因する(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面にピーク強度を有する。
これらのfcc構造に起因するピーク強度を有するのであれば、一部にhcp構造に起因するピーク強度を有してもよい。但し、hcp構造に起因するピーク強度が大きくなり過ぎると被覆切削工具の耐久性が低下する。
そのため、hcp構造を含有する場合でも、fcc構造に起因するピークの最大ピーク強度に対して、hcp構造に起因するピークの最大ピーク強度を1/10以下にすることが好ましい。
前記化学蒸着法で被覆したAlとCrを主体とする窒化物について、fcc構造の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面に起因するピーク強度の合計をTA、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面に起因するピーク強度の合計をTBとした場合、TB/TAの値が0.40以上となることで、被覆切削工具の耐久性を高めることができる。好ましくはTB/TAの値が0.50以上である。更に好ましくは、TB/TAの値が0.55以上である。低角度側の(111)面、(200)面、(220)面のピーク強度が低すぎても硬質皮膜の基礎特性が低下するため、TB/TAの値は0.70以下であることが好ましい。
なお、窒化アルミクロミウム硬質皮膜のX線回折ピークは、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のX線回折ピークと類似しておりピーク位置が重なる。そのため、本発明に係る硬質皮膜と窒化チタンアルミニウム硬質皮膜を積層、例えば、交互積層させる場合、得られたX線回折ピークを窒化アルミクロミウム硬質皮膜のピークとしてTB/TAの値を算出にすればよい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成される。AlとCrをベースとする窒化物からなる硬質皮膜が基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子となることで、被覆切削工具の耐久性が向上する。
前記柱状粒子の表面側における平均幅が0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。表面側における平均幅が0.1μm以上とすることで被覆切削工具の耐久性がより高まる。また、表面側における平均幅が2.0μm以下とすることで、硬質皮膜の塑性変形が起こり難くなり、また、硬質皮膜から脱落する粒子径が小さくなるため工具摩耗が抑制され易くなる。
本実施形態に係る硬質皮膜のミクロ組織は特段限定されるものではないが、一つの粒子の中に、単相構造と積相構造が併存する結晶粒子が分散している場合がよい。具体的には、例えば、一つの結晶粒子において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物と、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物とが交互に積層した積相構造からなる部分と、Alの含有比率が高いAlとCrの窒化物の単相構造からなる部分とを有する結晶粒子がミクロ組織に分散している場合(後述する実施例1に係る図9、図10を参照)がある。
単相構造の部分は、積相構造の部分に比べて、歪みが少ないと推定される。そのため、単相構造の部分を有することで被覆切削工具の耐久性が向上する。積相構造からなる部分は、単相構造からなる部分に比べて相対的にAlの含有比率が小さくなることで、結晶粒子の全体としてAlの含有量が増加しすぎて脆弱なhcp構造のAlNが増加することが抑制される。そして、このような粒子が存在することにより、硬質皮膜の全体として耐摩耗性と耐熱性が高まり優れた耐久性を発揮することができる。
本実施形態に係る硬質皮膜のミクロ組織は、単相構造のみからなる結晶粒子を有してもよい。また、積層構造のみからなる結晶粒子を有してもよい。単相構造のみからなる結晶粒子と積層構造のみからなる結晶粒子と単相構造と積相構造が併存する結晶粒子とを有してもよい。
積相構造の部分において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物は、Alの含有比率が70原子%以上であることが好ましく、更には80%原子%以上であることが好ましい。但し、Alの含有比率が高くなり過ぎるとhcp構造のAlNが増加するため、Alの含有比率は95原子%以下であることが好ましい。更には、90原子%以下であることが好ましい。
積相構造の部分において、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物は、Alの含有比率が50原子%以下であることが好ましく、更には、40原子%以下であることが好ましい。但し、Alの含有比率が低くなり過ぎると、硬質皮膜の全体で耐熱性が低下するため、Alの含有比率は10原子%以上であることが好ましい。更には、20原子%以上が好ましい。
単相構造の部分は、Alの含有比率が60原子%以上であることが好ましい。更には、Alの含有比率が70原子%以上であることが好ましい。但し、Alの含有比率が高くなり過ぎるとhcp構造のAlNが増加するため、90原子%以下であることがより好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜の平均層厚は、1.0〜15.0μmが望ましい。その理由は、1.0μm未満であると薄いため十分な工具寿命を与えず、一方、15.0μmを超えると厚くなりすぎて切削精度が低下してしまう虞があるためである。膜厚の下限は2.0μmが好ましく、更には3.0μmが好ましく、更には5.0μmがより好ましい。膜厚の上限は12.0μmが好ましく、更には10.0μmが好ましい。
本実施形態の被覆切削工具は、硬質皮膜の基材との密着性をより向上させるため、必要に応じて、工具の基材と硬質皮膜との間に、例えば、窒化物、炭窒化物、炭化物のいずれかからなる中間皮膜を設けてもよい。中間皮膜としては、基材及び硬質皮膜との密着性に優れるAlとTiの窒化物であることが好ましい。
また、本実施形態に係る硬質皮膜の上に、本実施形態に係る硬質皮膜と異なる成分比や異なる組成を有する上層を設けてもよい。上層は、例えば、窒化物、炭窒化物、炭化物やアルミナ等の酸化物で、結合層を介して設けるとよい。このうち、化学蒸着法で成膜する被覆層として一般的に用いられているアルミナは、被覆切削工具の耐熱性を向上させるので好ましい。例えば、一般的に鋳物の切削加工においてはアルミナを設けた被覆切削工具が用いられている。本発明の被覆切削工具も、必要に応じて上層としてアルミナを設ければ耐久性がより向上して好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜は化学蒸着によって成膜されるため引張応力を有しているから、被覆後にブラスト装置等による応力解放となる被覆後の刃先処理を行うことが好ましい。この被覆後の刃先処理を行うことで耐チッピング性が改善し工具寿命に優れる硬質皮膜となる。
本実施形態に係る硬質皮膜は、例えば、内部温度を後述する750℃以上に昇温させた化学蒸着装置(CVD炉)内へ、以下に述べる混合ガスAと混合ガスBを別々に導入し、該装置内で混合することにより、該装置内にあらかじめ載置してあるインサート基材等の工具基体に被覆することができる。
本実施形態において、混合ガスAは、混合ガスa1と混合ガスa2を含む。混合ガスa1は、HClガスとH2ガス(「塩化Crを生成するための混合ガス」または「混合ガスa1を得るための混合ガス」ともいう)と、この2のガスが金属Crと接触することにより生成する塩化Crガス(CrCl3で表現できる成分のみではなくCrとClとが化学的に結合したガスである)を含むガスで、代表的な組成は、体積比で塩化Cr/H2=0.008〜0.140である。一方、混合ガスa2は、AlCl3ガスとH2ガスとを含むガスで、代表的な組成は、体積比でAlCl3/(H2+N2)=0.0006〜0.0300である。
なお、塩化Crガスの体積%及びAlCl3ガスの体積%は、後述するように、これらガスを発生させるために導入するHClガス量から推定した。
混合ガスa1において、塩化Crガスの生成のためのHClガスとH2ガスは加熱されて金属Crと接触されるが、この加熱は、製造装置の説明で後述するように、CVD炉の内部のガス予熱部で行うことが望ましい。また、塩化Crガスを有するようになった混合ガスa1に、この混合ガスa1の温度近くに加熱された混合ガスa2を混合して、混合ガスAを得ることが望ましい。このようにすることにより、AlCl3ガスの影響を受けずに塩化Crガスの生成が容易になされるようになる。
前記ガス予熱部において塩化Crガスを生成させるときの温度は、炉内温度の最低設定温度である750℃程度の塩化Crガスが安定的に発生する温度とする。その理由は、この温度が低すぎると塩化Crガスの発生量が少なくなり、硬質皮膜の全体がAlリッチとなって、hcp構造が増加し易くなるためである。
また、混合ガスa2に含まれるAlCl3ガスは、例えば、H2ガスとHClガスの混合ガスを、金属Alを充填して330℃に保温したAlCl3ガス発生器に導入して生成することができ、混合ガスa1と混合して混合ガスAとするときに予熱される。混合ガスa2の温度は、混合ガスa1の温度との差があまりない方が硬質皮膜が柱状粒子となるために好ましく、混合ガスa1の温度の近傍(例えば、±80℃)がよい。
混合ガスa1に混合ガスa2を混合して得られた混合ガスAにおいて、H2ガスの流量を最も大きくすることが望ましい。さらに、混合ガスa1及び混合ガスa2にはN2ガスやArガスが含まれていてもよい。
混合ガスBは、H2ガス、N2ガス及び及びNH3ガスを含む。この混合ガスBは、N2ガスとH2ガスの合計の体積%をb1、NH3ガスの体積%をb2とした場合、b2/b1の値が0.002以上0.020以下の組成比を有することが、本実施形態に係る硬質皮膜の組成を得るために必要である。この組成比の範囲に混合ガスBの組成比があれば、アルカリガスであるNH3ガスと、ハロゲンガスであるCrCl3ガスやAlCl3ガスが過剰に反応することを抑制することができる。
この混合ガスBも予熱されるが、予熱による温度上昇は抑え、混合ガスAの温度よりも低く予熱して過剰な予熱を避ける。
予熱チャンバー内の混合ガスBを予熱するガス経路を、例えば、予熱チャンバーの高さと同じとすることで、混合ガスBが混合ガスAのように過度に予熱されるのを防いでいる。これにより、混合ガスBに含まれるNH3と混合ガスAに含まれる塩化Crガス、AlCl3ガスとの反応速度を抑え、硬質皮膜が柱状粒子となる。
なお、混合ガスa1を得るための混合ガスのガス経路、混合ガスa2を予熱するガス経路、混合ガスBを予熱するガス経路とは、各混合ガスを炉内へ導入してから予熱が終了するまでの経路をいう。すなわち、後述するように本実施形態で使用されるCVD炉の予熱部のように、成膜中に回転を伴う接続経路及び予熱室(予熱チャンバー)内の経路をいう。
また、混合ガスAと混合ガスBをあらかじめ混合して、1つのノズル穴からCVD炉内(反応容器内)に導入すると、NH3ガスとAlCl3ガスや塩化Crガスとの反応速度が速くなり過ぎて、硬質皮膜において柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難くなる。そこで、混合ガスAと混合ガスBはCVD炉内(反応容器内)に導入する前に混合せず、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴をそれぞれ別にして設けてCVD炉内(反応容器内)に独立に導入する。具体的には、例えば、後述する製造装置において説明するように、混合ガスBのノズル穴は混合ガスAのノズル穴とは噴出方向を変え、さらに、混合ガスAのノズル穴よりも回転軸からの距離が外側に配置するなどして、NH3ガスとAlCl3ガスや塩化Crガスとの反応速度が速くなり過ぎないようにする。
成膜のための反応圧力は3〜5kPaであることが好ましい。その理由は、反応圧力が低すぎると成膜速度が低下し、一方で、反応圧力が高すぎると、反応が促進されて、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難いためである。
また、CVD炉内(反応容器内)温度は750〜850℃が好ましい。その理由は、成膜温度が低すぎると、硬質皮膜中の塩素量が増加し耐摩耗性が低下し、一方で、成膜温度が高すぎると反応が促進され、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難いためである。炉内温度は、770〜820℃がより好ましい。
本発明の一実施形態に用いる化学蒸着装置(CVD炉)は、上述の製造方法を実施するために、炉内(反応容器内)温度は750〜850℃、炉内(反応容器内)圧力は3〜5KPaにできるものであって、以下の特徴的な構成を有している。具体的な構成は、後述する実施例で述べ、ここでは装置として備えるべき事項を中心に説明する。
被覆装置は、混合ガスAの成分である塩化Crガスを生成するための混合ガスと混合ガスa2、及び、混合ガスBの3種の混合ガスそれぞれを独立に予熱し、CVD炉内(反応容器内)に導入する構成を備えている。
(1)塩化Crガスを生成させるための混合ガスを金属Crに接触させて塩化Crガスを含む混合ガスa1を発生させる塩化Crガス発生部、
(2)混合ガスa2を予熱する第1予熱部、
(3)混合ガスBを予熱する第2予熱部、及び、
(4)混合ガスa1と混合ガスa2とを混合し、混合ガスAとする混合部、
とを有している。
なお、予熱部の熱源は、周壁またはその近傍に予熱部用に独立して設けてもよいし、CVD炉の周壁またはその近傍に備えられている熱源(ヒータ)を利用してもよい。また、金属Crはフレーク状などの塩化Crガスが発生しやすい形状とする。
ここで、混合ガスa1を得るガスの経路の長さ、混合ガスa2を予熱する経路の長さ、混合ガスBを予熱するの経路の長さとは、それぞれ、CVD炉のガス導入口からガス予熱部の出口までの長さをいう。すなわち、後述するように実施例で使用されるCVD炉の予熱部のように、成膜中に回転を伴う接続経路及び予熱室(予熱チャンバー)内の経路をいう。
なお、混合ガスAについては、予熱部におけるガス経路が長いため、ほぼ炉内温度程度まで上昇している。一方、混合ガスBについては、予熱部におけるガス経路を短くしているため、温度上昇が抑制されているということができる。
ここで、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴が近すぎると、急激な反応が起こり、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難くなるとともに、硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。一方、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴が離れすぎると、ガス供給が不十分となり膜厚分布が悪くなる。そこで、一例として、図8に示すように、混合ガスAのノズル穴と回転軸(第1のパイプの軸心)からの距離をH1、混合ガスBのノズル穴と回転軸(第1のパイプの軸心)からの距離をH2とした場合、H2/H1は1.5以上であることが好ましい。
さらに、混合ガスAのノズル穴からのガス噴出方向と混合ガスBのノズル穴からのガス噴出方向は30度から90度ずれて配置することが好ましい。
本実施例では、概略模式図として図6、図7及び図8に示す化学蒸着装置(CVD炉)1を用いた。この装置の概要を説明する。
CVD炉1は、円筒形のチャンバー2と、チャンバー2の周壁内部に設けられたヒータ3と、チャンバー2に多数のインサート基材(工具基材)20を設置する複数のインサート設置板4を有する反応容器5と、反応容器5の下部に設けられた接続経路11と予熱部である予熱チャンバー6を有する。
予熱チャンバー6は、
円筒状であってその下部に、ガス経路82から導入された塩化Crガス発生用の混合ガスを接続経路11を経由して予熱チャンバー6の径方向に分散させ、塩化Crガス発生室62(塩化ガス発生部)に導入する空間と、
この空間の直上に設けられ、予熱チャンバー6の外周にその円筒の外周が一致し中心部が円筒状の空間を有し、予熱チャンバー6と同心状の塩化Crガス発生室62と、
塩化Crガス発生室62の中心部の円筒状の空間に予熱チャンバー6と同心状に形成され、ガス経路81から導入された混合ガスa2を予熱する予熱室61(第1予熱部)と、
塩化Crガス発生室62と予熱室61の上部に位置し、後述する混合ガスa1と混合ガスa2とを混合して混合ガスAとする混合室63(混合部)と、
を有している。
また、予熱チャンバー6、すなわち、予熱室61の軸心部には、ガス経路91から導入された混合ガスBがその高さ方向に貫通する経路(第2予熱部)があり、この経路は予熱チャンバー6の上部でパイプ7の中心経路につながっており、これは、予熱部を通過する最短長さ(550mm)となっている。一方、混合室63で混合された混合ガスAの経路は、予熱チャンバー6の上部でパイプ7の2の外側経路につながるよう設けられている。
そして、前記のとおり、混合ガスBはパイプ7の外側経路に導入され、ノズル穴91a、91bから反応容器5内に導入される。他方、ガス経路81、82から導入され予熱室61を貫通する反応ガスAは、パイプ7の中心経路に導入され、ノズル穴83a、83bから反応容器5内に導入される。
ここで、ノズル穴83a、83bとノズル穴91a、91bの位置関係は図8のガス噴出口断面図に示すように、ノズル穴91a、91bは、ノズル穴83a、83bよりもパイプ7の回転軸O1よりも外側に配置されており、ノズル穴91a、91bと回転軸O1からの距離をH2、ノズル穴83a、83bと回転軸O1からの距離をH1としたとき、H2/H1は2となっており、ノズル穴91a、91bの噴出方向とノズル穴83a、83bの噴出方向は90度の角度をなしている。
図7の12に示す、接続経路11と予熱チャンバー6及びパイプ7は、2回転/分の速度で回転するように構成されているが、図6、図7及び図8では、この回転に必要な構成の図示を省略している。
基材として、WC基超硬合金(10質量%のCo、0.6質量%のCr3C2、残部WC及び不可避的不純物からなる)製のミーリング用インサート(三菱日立ツール製のWDNW14520)と、WC基超硬合金(7質量%のCo、0.6質量%のCr3C2、2.2質量%のZrC、3.3質量%のTaC、0.2質量%のNbC、残部WC及び不可避的不純物からなる)製の物性評価用インサート(ISO規格のSNMN120408)を用意した。
実施例1〜3及び比較例1については、中間皮膜として窒化チタン皮膜を形成した。まず、基材を、図6に示すCVD炉1内にセットし、H2ガスを流しながらCVD炉1内の温度を800℃に上昇させた。その後、800℃及び12KPaで、予熱チャンバー6のガス導入口からガス経路81を経て、83.1体積%のH2ガス、15.0体積%のN2ガス、1.9体積%のTiCl4ガスからなる混合ガスを予熱室62に導入し、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから67L/分の流量で反応容器5内に流して表1に示す膜厚の窒化チタン皮膜を形成した。
≪混合ガスa1を得る工程≫
H2ガスを流しながらCVD炉1内の圧力を4KPaに下げた後、図6に示す予熱チャンバー6のガス経路82に、400℃に保温したH2ガスとHClガスの混合ガスを導入した。
800℃に予熱した予熱チャンバー6の塩化Crガス発生室62は、Cr金属フレーク(純度99.99%,サイズ2mm〜8mm)が充填されており、ガス経路82より導入したH2ガスとHClガスの混合ガスと反応し、H2ガスと塩化Crガスの混合ガスである混合ガスa1を生成し、混合室63に導入した。
予熱チャンバー6のガス導入口からガス経路81を経て、H2ガスとAlCl3ガスを混合した混合ガスa2を予熱室62に導入して予熱した。
そして、混合ガスa1と混合ガスa2を混合室63で混合して予熱室の温度である800℃近傍の温度となっている混合ガスAを得た。そして、得られた混合ガスAを、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから反応容器炉内に導入した。混合ガスAの合計流量は48.75L/分であった。
ガス経路91にH2ガスとN2ガス及びNH3ガスからなる混合ガスBを導入し、パイプ7の第2のノズル穴91a、91bから炉内に導入した。混合ガスBの合計流量は30.25L/分であった。
なお、ここで、NH3/(AlCl3+CrCl3)の値が、0.18〜0.39にあると、NH3ガスと、ハロゲンガスであるCrCl3ガスやAlCl3ガスの過剰反応をより一層確実に抑えることができ、AlとCrをベースとする窒化物を有する硬質皮膜を安定的に成膜することができる。
なお、発生した塩化Crガス、AlCl3ガスの量は、塩化Crガス発生室に導入するHClガス量の1/3を塩化Crガス量として混合ガスの組成を求めた。成膜条件を表2に示す。
電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA―8500F)を用いて、加速電圧10KV、照射電流0.05A、及びビーム径0.5μmの条件で、物性評価用インサート(SNMN120408)の断面における窒化アルミクロミウム硬質皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所を測定して、得られた測定値の平均から硬質皮膜の組成を求めた。測定結果を表3に示す。
X線回折装置(PANalytical社製のEMPYREAN)を用いて、管電圧45kV及び管電流40mAでCuKα1線(波長λ:0.15405nm)を物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜の表面に照射して硬質皮膜の結晶構造を評価した。
被覆したミーリング用インサートを、刃先交換式回転工具(ASRT5063R−4)に止めねじで装着し、下記のミーリング条件で硬質皮膜の工具寿命を評価した。硬質皮膜の逃げ面摩耗幅は、倍率100倍の光学顕微鏡で観察することにより測定した。工具寿命は、逃げ面の最大摩耗幅が0.350mmを超えたときの総切削長さとし、それに至る加工時間を工具寿命として5分単位で測定した。加工条件を以下に示す。試験結果を表3に示す。
被削材: S55C(30HRC)
加工方法: ミーリング加工
インサート形状: WDNW140520
切削速度: 150m/分
回転数:毎分758回転
一刃当たりの送り: 2.05mm/tooth
送り速度:1554mm/分
軸方向の切り込み量: 1.0mm
径方向の切り込み量: 40mm
切削方法: 乾式切削
ここで、実施例1について説明を加える。図9、図10は、それぞれ、実施例1に係る硬質皮膜のTEM写真(倍率:2,000,000倍)、その概略模式線図である。図9、図10に示すように、実施例1に係る硬質皮膜は、積相構造からなる部分と単相構造からなる部分を有する結晶粒子が確認され、積層構造からなる部分と単相構造からなる部分を有する結晶粒子を有していうことができる。
図1〜3に実施例1〜3のX線回折パターンをみると、実施例1〜3は、(311)面以降の高角側のピーク強度(カウント値)が大きくなっていることが確認される。TB/TAの値を評価したところ、本実施1〜3はTB/TAの値が0.40以上であり、相対的に高角度側のピーク強度が大きいことが確認された。これにより、実施例1〜3は高角度側のピーク強度が大きく、より優れた耐久性を示したと推定される。図4に比較例1のX線回折パターンを、図5に比較例2のX線回折パターンを示す。比較例1、2は、TB/TAの値が0.2以下であり、相対的に高角度側のピーク強度(カウント値)が小さいことが確認され、十分な耐久性を示さなかったと推定される。
2:チャンバー
3:ヒータ
4:インサート設置板
5:反応容器
5a:反応容器の開口部
6:予熱チャンバー(予熱部)
61:予熱室
62:塩化Crガス発生室
63:混合室
7:パイプ(ガス放出部)
83a,83b,91a,91b,92a,93a:ノズル穴(ガス噴出口)
81:混合ガスa2のガス経路
82:混合ガスa1となる混合ガスのガス経路
84:混合ガスのガス経路
91:混合ガスBのガス経路
92:混合ガスのガス経路
93:混合ガスのガス経路
10:排気パイプ
11:接続経路
12:成膜中回転部
13a:予熱チャンバー内の混合ガスBのガス経路
13b:接続経路内の混合ガスBのガス経路(縦方向)
13c:接続経路内の混合ガスBのガス経路(回転軸方向)
20:インサート基材
31:積層部分
32:単相部分
Claims (2)
- 基材の表面に硬質皮膜を有する被覆切削工具であって、
前記硬質皮膜は、半金属を含む金属元素の総量に対して、Alが60原子%以上、Crが10原子%以上を含み、AlとCrの合計の含有比率が90原子%以上の窒化物であり、
前記硬質皮膜は、基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、
前記硬質皮膜は、fcc構造に起因する(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面にピーク強度を有し、前記結晶面に起因するピーク強度の合計をTA、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面及び(422)面に起因するピーク強度の合計をTBとした場合、TB/TAの値が0.40以上であることを特徴とする被覆切削工具。 - 前記硬質皮膜は、透過型電子顕微鏡を用いたミクロ組織において、相対的にAlの含有比率が高い単相構造の部分と、相対的にAlの含有比率が低い積相構造の部分を有する結晶粒子が分散していることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
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