本発明は、ベドリズマブなどの抗α4β7抗体を含む療法に反応できる患者の特定に関する。例えばベドリズマブによる治療の初期に、患者から、または患者の生体サンプルから測定した要因によって、患者が治療に反応する可能性が高いかを示す。
一態様では、薬物動態または薬力学的要因によって、患者が、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応するかを示すことができる。治療用mAbのトラフ濃度が高いほど、効能が高いとされているので、mAbのクリアランスの決定因子を理解することによって、投与レジメンを最適化できる。出願者は、問題を特定し、ベドリズマブなどの抗α4β7抗体と、UC患者及びCD患者における薬物動態的要因の特徴付けを行い、抗体のクリアランスなどの抗α4β7抗体の臨床上関連する決定因子を特定し、集団モデリングを用いて、薬物動態と薬力学との関係を説明した。
いくつかの実施形態では、薬物動態的要因は、平均血清中トラフ濃度である。別の実施形態では、薬物動態的要因は、治療用抗体のクリアランスである。一実施形態では、薬力学的要因は、α4β7インテグリンに結合している抗体の量である。別の実施形態では、薬力学的要因は、結合していないα4β7インテグリンの量である。
一実施形態では、炎症性腸疾患(IBD)患者の、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療方法は、IBD患者に抗α4β7抗体を2用量投与することであって、1回目の用量を患者に投与してから約2週間後に、2回目の用量を投与することと、約4週間の期間を置くことと、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度を測定することと、患者の上記抗体の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、患者に、更なる用量の抗α4β7抗体を1回以上投与することを含む。いくつかの実施形態では、時間を置く期間は、2週間または約2〜5週間である。一実施形態では、この方法は、IBD患者にベドリズマブを2用量投与することであって、1回目の用量を患者に投与してから約2週間後に、2回目の用量を投与することと、約4週間の期間を置くことと、患者のベドリズマブの血清中濃度を測定することと、患者の上記抗体の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与することを含む。いくつかの実施形態では、患者の抗α4β7抗体、例えばベドリズマブの血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。一実施形態では、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブに反応する可能性が高い患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超である。別の実施形態では、患者の抗α4β7抗体、例えばベドリズマブの血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μgmlからなる群から選択してよい。
別の実施形態では、炎症性腸疾患(IBD)患者の、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療方法は、IBD患者にベドリズマブを少なくとも1用量投与する工程と、少なくとも2週間の期間を置く工程と、患者のベドリズマブの血清中濃度を測定する工程と、患者の血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、時間を置く期間は、約2〜5週間である。
別の態様では、治療早期における臨床的指標によって、患者が、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応するかを示すことができる。一実施形態では、患者は、粘膜治癒をしていることができる。別の実施形態では、患者は、深い寛解状態であることができる。一実施形態では、本発明の患者治療方法は、例えばMayoスコアから得られる内視鏡サブスコアを測定することを含むことができ、3未満の内視鏡スコアで、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブを継続する。この内視鏡スコアは、2.5未満、2未満、0〜2、1、1以下(≦1)または1未満((<1)であることができる。別の実施形態では、患者の治療方法は、クローン病活動性指標(CDAI)を測定することを含むことができる。別の実施形態では、患者の治療方法は、瘻孔の数、サイズまたは重症度を測定することを含むことができる。一実施形態では、内視鏡スコアは、クローン病単純内視鏡スコア(SES−CD)である。いくつかの実施形態では、SES−CDは、0〜6の範囲、≦6、≦5または4以下(≦4)であることができる。いくつかの実施形態では、SES−CDは、ベースラインから25%、35%、40%、45%、50%、55%、60%または65%低下している。一実施形態では、SES−CDは、ベースラインから50%低下している。いくつかの実施形態では、患者の治療方法は、消化管における潰瘍の量を測定することを含むことができる。いくつかの実施形態では、患者の治療方法は、粘膜治癒を測定することを含むことができる。粘膜治癒のいくつかの実施形態では、潰瘍が減少しているかまたは存在しない。
別の態様では、炎症の測定値によって、患者が、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応するかを示すことができる。炎症の測定値としては、便中カルプロテクチンの量、C反応性タンパク質(CRP)の量及びアルブミンの量が挙げられる。いくつかの実施形態では、この方法は、便中カルプロテクチン濃度を測定することを含む。1500μg/g未満の便中カルプロテクチン濃度で、抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続することができる。便中カルプロテクチン濃度は、1250μg/g未満、1000μg/g未満、750μg/g未満、500μg/g未満、400μg/g未満、300μg/g未満、250μg/g未満、200〜1200μg/g、350〜800μg/g、300〜1000μg/g、<50μg/g、<100μg/g、<150μg/g、<200μg/g、≦250〜499μg/gまたは500〜900μg/gであることができる。
いくつかの実施形態では、便中カルプロテクチンが、ベースライン、すなわち治療前の濃度の50%未満に低下している場合、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続できる。便中カルプロテクチンは、ベースライン、すなわち治療前の濃度のの45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10〜55%、10〜30%、15〜35%、15〜45%もしくは20〜40%に低下していることができる。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている方法は、アルブミン濃度を測定することを含む。3.2g/dL超のアルブミン濃度によって、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続する患者を更に特定する。アルブミン濃度は、3.5g/dL超、4.0g/dL超、4.7g/dL超、3.3〜5.0g/dLの範囲、3.5〜5.0g/dLの範囲、3.8〜5.0g/dLの範囲または4.0〜5.0g/dLの範囲であることができる。
一態様では、本発明は、本明細書に記載されているように測定した要因が療法を継続するメリットがあるか示すとき、適宜に療法を継続するか、中止するか、停止するかまたは止める工程を更に含む治療方法に関する。
一実施形態では、抗α4β7抗体による治療を継続する患者の特定方法は、過去2カ月以内に、抗α4β7抗体を少なくとも1用量摂取した炎症性腸疾患(IBD)患者から得た血清サンプル中の抗α4β7抗体の濃度を測定する工程と、そのサンプルの血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、抗α4β7抗体による治療を継続する患者を特定する工程を含む。患者は、過去1カ月以内に抗α4β7抗体を少なくとも1用量摂取してあってもよい。別の実施形態では、患者は、過去4カ月以内に、抗α4β7抗体を少なくとも2用量摂取してあり、上記の方法は、2回目の用量の投与から4週間後に、例えば、2週目における投与から4週間後に、サンプルの血清中濃度が、少なくとも8μg/mlである場合に、抗α4β7抗体による治療を継続する患者を特定する。患者は、過去3カ月または過去2カ月以内に、抗α4β7抗体を少なくとも2用量摂取してあってよい。いくつかの実施形態では、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。別の実施形態では、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlからなる群から選択してよい。
一実施形態では、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法は、過去4カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量摂取した炎症性腸疾患(IBD)患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、2回目の用量の投与から4週間後に、例えば2週目における投与から4週間後に、サンプルの血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含む。患者は、過去3カ月または過去2カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量摂取してあってもよい。いくつかの実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。別の実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlからなる群から選択してよい。
別の実施形態では、本発明は、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、過去2カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量摂取した炎症性腸疾患(IBD)患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、そのサンプルの血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含む方法に関する。患者は、過去1カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量摂取してあってもよい。いくつかの実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。別の実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlからなる群から選択してよい。
別の態様では、治療の継続には、IBDの寛解を維持することが含まれる。
一実施形態では、本発明は、患者における炎症性腸疾患(IBD)の寛解の維持方法であって、その患者が、過去2カ月内に抗α4β7抗体を少なくとも1用量摂取してあり、その患者から血清サンプルを得ることと、そのサンプル中の抗α4β7抗体の濃度を測定することと、その濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、それ以降、8週間おきに抗α4β7抗体を投与することを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。別の実施形態では、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlからなる群から選択してよい。
一実施形態では、本発明は、患者における炎症性腸疾患(IBD)の寛解の維持方法であって、その患者が、過去2カ月内にベドリズマブを少なくとも1用量摂取してあり、その患者から血清サンプルを得ることと、そのサンプル中のベドリズマブの濃度を測定することと、その濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、それ以降、8週間おきにベドリズマブを投与することを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、少なくとも10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlであってよい。別の実施形態では、患者のベドリズマブの血清中濃度は、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlからなる群から選択してよい。
一態様では、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療の初期における患者の評価によって、患者が深い寛解状態であることが示される。一実施形態では、本発明は、炎症性腸疾患(IBD)患者の、ベドリズマブによる治療方法であって、ベドリズマブを2用量供給することであって、その2回目の用量が、1回目の約2週間後であることと、約4週間置くことと、患者が深い寛解状態である場合に、患者をベドリズマブで治療するのを継続することであって、深い寛解状態を判断することが、その患者の内視鏡サブスコアを測定することを含むことを含む方法に関する。内視鏡サブスコアが0〜1である場合に、患者は深い寛解状態であると判断して、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブを摂取するのを継続できる。この方法は、患者が報告する転帰スコアを判断することを更に含むことができ、深い寛解状態の判断には、内視鏡サブスコアと、患者が報告する転帰スコアの両方が0〜1であることを含む。患者が報告する転帰スコアは、直腸出血サブスコアを含むことができる。患者が報告する転帰スコアは、排便頻度サブスコアを含むことができる。この方法は、便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含むことができる。1500μg/g未満の便中カルプロテクチン濃度で、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続できる。便中カルプロテクチン濃度は、1250μg/g未満、1000μg/g未満、750μg/g未満、500μg/g未満、400μg/g未満、300μg/g未満、250μg/g未満、200〜1200μg/g、350〜800μg/g、300〜1000μg/g、<50μg/g、<100μg/g、<150μg/g、<200μg/g、≦250〜499μg/gまたは500〜900μg/gであることができる。
いくつかの実施形態では、便中カルプロテクチンが、ベースライン、すなわち治療前の濃度の50%未満に低下している場合に、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続できる。便中カルプロテクチンは、ベースライン、すなわち治療前の濃度の45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10〜55%、10〜30%、15〜35%、15〜45%または20〜40%に低下していることができる
一実施形態では、ベドリズマブの血清中トラフ濃度が、少なくとも25μg/ml、少なくとも27μg/ml、少なくとも30μg/ml、少なくとも32μg/mlまたは少なくとも34μg/mlである場合に、ベドリズマブで治療した患者が深い寛解状態であり、ベドリズマブを投与するのを継続できる。
一態様では、本発明は、抗α4β7抗体による治療を継続する患者の特定方法であって、過去4カ月以内に抗α4β7抗体を少なくとも2用量投与した炎症性腸疾患(IBD)患者から得た生体サンプル中の抗α4β7抗体のクリアランスを測定する工程と、その患者におけるクリアランスが0.25L/日未満である場合に、抗α4β7抗体による治療を継続する患者を特定する工程を含む方法に関する。いくつかの実施形態では、患者は、過去2カ月以内に抗α4β7抗体を少なくとも1用量投与されているか、患者は、過去3カ月もしくは過去2カ月以内に抗α4β7抗体を少なくとも2用量投与されているか、または患者は、過去2カ月以内もしくは過去1カ月以内に抗α4β7抗体を少なくとも1用量投与されている。クリアランスは、0.20L/日未満または0.1〜0.2L/日であってよい。
一態様では、本発明は、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、過去4カ月以内にベドリズマブを少なくとも2用量投与されている炎症性腸疾患(IBD)患者から得た生体サンプル中のベドリズマブのクリアランスを測定する工程と、その患者におけるクリアランスが0.25L/日未満である場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含む方法に関する。このクリアランスは、0.20L/日未満または0.1〜0.2L/日であってよい。
いくつかの実施形態では、患者は、過去3カ月または過去2カ月以内にベドリズマブを少なくとも2用量投与されている。
別の態様では、本発明は、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、過去2カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量投与されている炎症性腸疾患(IBD)患者から得た生体サンプル中のベドリズマブのクリアランスを測定する工程と、その患者におけるクリアランスが0.25L/日未満である場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含む方法に関する。このクリアランスは、0.20L/日未満または0.1〜0.2L/日であってよい。いくつかの実施形態では、患者は、過去1カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量投与されている。いくつかの実施形態では、患者は、過去1カ月以内にベドリズマブを少なくとも2用量投与されている。
本発明は更に、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応する患者を特定するために、本明細書に記載の要因を測定するのに用いるアッセイに関する。いくつかの実施形態では、このアッセイは、循環抗α4β7抗体の薬物動態アッセイである。一実施形態では、このアッセイは、例えば、患者が罹患しているIBDに反応するか、またはそのIBDの反応もしくは寛解を維持する能力を予測するために、患者から得た血清サンプル中の抗α4β7抗体の高い陽性レベルまたは持続陽性レベル(少なくとも8μg/ml、10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/mlまたは40μg/mlなど)を測定してよい。一実施形態では、抗α4β7抗体の血清中濃度は、サンドイッチELISAアッセイによって測定してよい。一実施形態では、抗α4β7抗体の血清中濃度は、抗体ブリッジングアッセイで測定してよい。
いくつかの実施形態では、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応する患者を特定するために、本明細書に記載の要因を測定する際に用いるアッセイは、例えば循環リンパ球上のα4β7インテグリンに関する薬力学アッセイである。一実施形態では、低レベルまたは最低限のレベルの遊離α4β7インテグリン(10%未満、7%未満、5%未満または3%未満の遊離α4β7インテグリンなど)によって、抗α4β7抗体の有効性を予測してよい。一実施形態では、遊離α4β7インテグリンは、α4β7インテグリンに結合しているMAdCAMの量によって測定してよい。別の実施形態では、遊離α4β7インテグリンは、α4β7インテグリンに結合している抗α4β7抗体の量によって測定してよい。
いくつかの実施形態では、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療に反応する患者を特定する目的で、本明細書に記載の要因を測定する際に使用するために、アッセイにより、抗α4β7抗体に対する免疫応答を測定する。一実施形態では、抗α4β7抗体に対する免疫応答が低いかまたは存在しないことによって、患者が罹患しているIBDに反応するか、またはそのIBDの反応もしくは寛解を維持する能力を予測してよい。
この方法は、便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含んでよい。1500μg/g未満の便中カルプロテクチン濃度で、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療を継続してよい。ベドリズマブのような抗α4β7抗体に反応する可能性が高い患者から得たサンプルでは、便中カルプロテクチン濃度は、1250μg/g未満、1000μg/g未満、750μg/g未満、500μg/g未満、400μg/g未満、300μg/g未満、250μg/g未満、200〜1200μg/g、350〜800μg/g、300〜1000μg/g、<50μg/g、<100μg/g、<150μg/g、<200μg/g、≦250〜499μg/gまたは500〜900μg/gであってよい。
いくつかの実施形態では、便中カルプロテクチンが、ベースライン、すなわち治療前の濃度の50%未満に低下している場合に、ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療を継続できる。便中カルプロテクチンは、ベースライン、すなわち治療前の濃度の45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10〜55%、10〜30%、15〜35%、15〜45%または20〜40%に低下していることができる。
一態様では、炎症性腸疾患(IBD)のヒト患者の治療方法は、ベドリズマブの2回目の用量の投与から4週間後の時点に、ベドリズマブの血清中濃度が少なくとも8μg/mlであるIBDを有するヒト患者を選択することであって、ベドリズマブの2回目の用量の投与の2週間前に、ベドリズマブの1回目の用量をその対象に投与してあることと、ベドリズマブをIBDを有するヒト患者に投与し、それによって、IBDを有するヒト患者を治療することを含む。一実施形態では、ベドリズマブの1回目の用量は、300mgを含む。一実施形態では、ベドリズマブの2回目の用量は、300mgを含む。一実施形態では、患者に、1回目及び2回目の用量を静脈内投与してある。いくつかの実施形態では、患者は、TNFブロッカーに対して不十分な反応を示したか、TNFブロッカーに対する反応を喪失していたか、またはTNFブロッカーに不耐であった。
本明細書に示されている一実施形態は、炎症性腸疾患(IBD)のヒト患者の、ベドリズマブによる治療に対する反応性を判断するインビトロ法であって、その患者から得た血液サンプルを抗ベドリズマブ抗体と接触させることによって、その血液サンプル中のベドリズマブの濃度を測定することを含み、2回目の用量のベドリズマブを投与してから約4週間後に、そのサンプルを採取し、ベドリズマブの2回目の用量の投与の2週間前に、ベドリズマブの1回目の用量を対象に投与し、血液サンプル中のベドリズマブ濃度が少なくとも8μg/mlであることによって、患者が、ベドリズマブによる治療に対する反応性を持つことが示され、血液サンプル中の濃度が8μg/ml未満であることによって、患者が、ベドリズマブによる治療に対する反応性を持たないことが示される。一実施形態では、この方法は、ベドリズマブを患者に投与することを更に含む。一実施形態では、ベドリズマブの1回目の用量は、300mgを含む。一実施形態では、ベドリズマブの2回目の用量は、300mgを含む。一実施形態では、患者に、1回目及び2回目の用量を静脈内投与してある。いくつかの実施形態では、患者は、TNFブロッカーに対する反応が不十分であったか、TNFブロッカーに対する反応を喪失していたか、またはTNFブロッカーに不耐であった。
本発明は、炎症性腸疾患(IBD)患者の、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療方法と、ベドリズマブのような抗体による治療を継続する患者の特定方法と、患者におけるIBDの寛解状態の維持方法に関する。
ベドリズマブのような抗α4β7抗体による治療を受ける全ての炎症性腸疾患患者が、その治療に反応するわけではなく、治療に完全には反応しない患者もいる。これらの疾患の罹患率により、抗α4β7抗体療法に反応する患者と、反応しない患者を迅速に特定する必要がある。続いて、反応者に対しては、その療法を継続でき、非反応者に対しては、代わりの療法を開始できる。本願は、抗α4β7抗体による治療中の早い段階に、患者の抗α4β7抗体の血清中濃度及び/またはクリアランス速度を割り出し、それを用いて、治療に反応しており、追加用量の抗α4β7抗体に反応し続ける患者と、非反応者とを特定または選択できるという驚くべき発見に関する。
α4β7インテグリンに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体のベドリズマブは、中度〜重度の活動期潰瘍性大腸炎(UC)患者及びクローン病(CD)患者の治療に適応されている。ベドリズマブは、ナタリズマブ及び腫瘍壊死因子−α(TNF−α)アンタゴニストを含め、炎症性腸疾患(IBD)の治療用に現在市販されている他の生物学的薬剤の作用機序とは異なる新しい腸管に選択的な作用機序を有する。ベドリズマブは、細胞表面に発現するα4β7に結合することによって、メモリー腸ホーミングTリンパ球のサブセットと、内皮細胞に発現する粘膜アドレシン細胞接着分子−1(MAdCAM−1)との相互作用をブロックする。その結果、これらの細胞の炎症腸組織への遊走が阻害される。
UCとCDの治療に用いられる他の治療用モノクローナル抗体の薬物動態は、すでに報告されている。抗薬剤抗体の存在、性別、体格、免疫抑制剤の併用、疾患のタイプ、アルブミン濃度及び全身性炎症の程度を含むいくつかの要因は、これらの抗体のクリアランスの加速と関連付けられている。更に、薬剤投与量とは対照的に、これらの薬剤の多くで、効能と暴露との一貫した関係が観察されており、薬剤のトラフ濃度が高いほど、効能が高くなっている。薬剤クリアランスの差は、この観察の重要な説明であり得る。したがって、治療用抗体におけるクリアランスの決定因子への理解を深めることにより、薬剤レジメンを最適化し得る。
過去の研究で、ベドリズマブの単回投与薬物動態、薬力学(α4β7受容体の飽和)、安全性及び忍容性を、0.2〜10mg/kgの投与範囲にわたり、健常なボランティアで調べた(静脈内[IV]注入)(非公開データ)。ベドリズマブの血清中濃度は、ピーク濃度に到達後、約1〜10ng/mLに達するまで、概ね双指数関数的に低下した。その後、濃度は、非線形的に低下したようであった。ベドリズマブの多回投与薬物動態と薬力学を、CD患者では0.5mg/kg及び2mg/kgのIV注入後、UC患者では2mg/kg、6mg/kg及び10mg/kgの注入後に調べた。ベドリズマブの薬物動態は、UC患者においては、2〜10mg/kgの投与範囲でIV注入後、概ね線形であった。多回投与後、ベドリズマブの1回目の用量の投与後に、α4β7受容体の迅速かつほぼ完全な飽和が達成された。
ベドリズマブによる誘導・維持療法の効能と安全性は、、GEMINI1試験(ClinicalTrials.gov番号NCT00783718)のUC患者、ならびにGEMINI2試験(ClinicalTrials.gov番号NCT00783692)及びGEMINI3試験(ClinicalTrials.gov番号NCT01224171)のCD患者で示された。誘導・維持療法でのUC患者及びCD患者におけるベドリズマブの暴露と反応(効能)との関係は、他で示されてきている。
定義
本明細書で使用する場合、抗体の「トラフ」血清中濃度とは、次の投与の直前の濃度を指す。
「臨床的寛解」または「寛解」とは、本明細書で潰瘍性大腸炎の対象に関して用いる場合、完全Mayoスコアが2ポイント以下で、個別のサブスコアに、1ポイントを超えるものがないことを指す。クローン病の「臨床的寛解」は、クローン病活動性指標(CDAI)スコアが150ポイント以下であることを指す。「ハーベイ・ブラッドショウ指標」(HBI)は、データ収集目的で、CDAIを簡易化したものである。この指標は、全体的な健康状態、腹痛、1日当たりの液状便数、腹部腫瘤、ヘマトクリット、体重、下痢を制御するための投薬及び合併症の存在を含む臨床パラメーターのみからなり、必要なのは、1日分の日誌の記入のみである。寛解を測定する方法として、磁気共鳴エンテログラフィ(MREn)が評価されている。
「内視鏡寛解」とは、本明細書で使用する場合、内視鏡スコアが低い状態を指す。潰瘍性大腸炎における内視鏡スコアを評価するための方法の例は、軟性S状結腸鏡検査である。潰瘍性大腸炎における内視鏡スコアは、Mayoサブスコアであることができる。クローン病における内視鏡スコアを評価するための方法の例は、大腸内視鏡検査である。クローン病における内視鏡スコアは、クローン病単純内視鏡スコア(SES−CD)であることができる。SES−CDには、潰瘍のサイズ、潰瘍面の量、罹患面の量、消化管が狭窄しているか、及び消化管の狭窄の程度などの指標を含めることができる。
「臨床反応」とは、本明細書で潰瘍性大腸炎の対象に関して用いる場合、完全Mayoスコアが3ポイント以上低下し、ベースラインから30%低下すること(または、受診時に、完全Mayoスコアを付けなかった場合には、部分的Mayoスコアが2ポイント以上低下し、ベースラインから25%以上低下すること)に、直腸出血サブスコアが1ポイント以上(≧1)低下するか、または絶対直腸出血スコアが1ポイント以下(≦1)であることを伴うことを指す。「臨床反応」とは、本明細書でクローン病の対象に関して用いる場合、CDAIスコアがベースライン(0週目)から70ポイント以上低下することを指す。「臨床反応」及び「反応」という単語は、例えば、いずれの形容詞も付されていない単独の状態では、本明細書においては同義的に用いる。
「内視鏡反応」とは、本明細書で使用する場合、内視鏡スコアがベースライン(例えば、スクリーニング時または最初の投与の直前)から低下した割合を指す。クローン病では、内視鏡反応は、クローン病単純内視鏡スコア(SES−CD)によって評価できる。
「ベースライン」は、本明細書で用いる場合、治療の1回目の投与前に測定されるパラメーター値を説明するものである。「ベースライン」とは、1回目の投与後まで変化がほとんど予測されず、1回目の投与後に得られる測定値を、このベースライン値と比較して、投与による変化を示すことができるときに、最初の治療の同日、前日、前週、すなわち、1回目の投与前の時点に得たサンプルの測定値を指すことができる。
「粘膜治癒」とは、本明細書で用いる場合、本明細書で潰瘍性大腸炎の対象に関して用いる場合、Mayo内視鏡サブスコアが1以下であることを指す。クローン病に関しては、「瘻孔治癒」により、瘻孔が閉鎖するかまたは消失する。クローン病の別の観点では、粘膜治癒とは、粘膜、例えば消化管の創傷の量または重症度の改善を指す。例えば、粘膜治癒とは、消化管における1つまたは2つ以上の潰瘍の量、サイズまたは重症度の低下を指すことができる。別の例では、粘膜治癒とは、壁厚、腸壁コントラストの増大、壁浮腫、潰瘍及び腸周囲血管増生からなる群から選択した1つ以上のパラメーターの低下を指す。このような粘膜治癒は、SES−CDスコアまたは磁気共鳴活動性指標(MaRIA)スコアとして表すことができる。クローン病における完全粘膜治癒には、潰瘍がないことが含まれる。
「MaRIAスコア」は、例えば、磁気共鳴エンテログラフィによって測定した場合の、結腸及び回腸末端(例えば、回腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸及び直腸)の各セグメントの各種粘膜治癒パラメーターのスコアの和である。
「コルチコステロイド(CS)非投与下寛解」とは、本明細書で使用する場合、経口コルチコステロイドをベースラインで用いた患者のうち、コルチコステロイドの使用を停止したとともに、52週目に臨床的寛解状態にある患者を指す。
「European Quality of Life−5 Dimension(EQ−5D)ビジュアルアナログスケール(VAS)」とは、本明細書で使用する場合、患者において一般的健康関連クオリティ・オブ・ライフ(HRQOL)を測定する目的で用いる有効な手段(ahrq.gov/rice/eq5dproj.htm、“U.S.Valuation of the EuroQol EQ−5D(商標)Health States”、2012年8月8日にアクセス、Bastida et al.BMC Gastroenterology 10:26−(2010)、Konig et al.European Journal of Gastroenterology&Hepatology 14:1205−1215(2002))である質問書を指し、移動性、セルフケア、日常の活動、痛み/不快感及び不安感/抑うつという5つの項目を含む。患者は、各項目について、現在抱えている健康問題のレベルを、「当てはまらない」、「どちらかというと当てはまる」または「非常に当てはまる」として選択し、それぞれ1、2または3にスコア化する。個々のスコアから、複合的なEQ−5Dスコアを計算して、全体的なHRQOLを評価できる。EQ−5Dビジュアルアナログスケール(VAS)スコアは、20cmの視覚的な縦方向のスケールを用いて、全体的な健康状態を自分で採点するものであり、スコア0を最低とし、考え得る最高の健康状態を100とする。EQ−5DとEQ−5D VASは、多くの研究で、GI疾患患者においてHRQOLを測定するための有効かつ信頼できる手段であることが示されている。EQ−5Dスコアの≧0.3ポイントの低下は、患者のHRQOLの臨床的に有意義な改善を表す。EQ−5D VASスコアの7ポイント以上の向上は、患者のHRQOLの臨床的に有意義な改善を表す。
「Inflammatory Bowel Disease Questionnaire」((IBDQ)質問書」(Irvine Journal of Pediatric Gastroenterology&Nutrition 28:S23−27(1999))は、成人の炎症性腸疾患患者、潰瘍性大腸炎患者またはクローン病患者のクオリティ・オブ・ライフを評価するために使用するものであり、腸システム(10個の質問)、情緒機能(12個の質問)、社会的機能(5個の質問)及び全身的機能(5個の質問)という4つの分野のHRQOLに関する32個の質問を含む。患者は、過去2週間の症状とクオリティ・オブ・ライフを思い出すことを求められ、7ポイントのリッカート尺度で、各項目のランク付けを行う(スコアが高いほど、クオリティ・オブ・ライフクオリティ・オブ・ライフが高いとみなす)。各項目のスコアを合計することによって、合計IBDQスコアを算出し、この合計IBDQスコアは、32〜224の範囲である。170超のIBDQ合計スコアは、寛解状態にある患者の健康関連クオリティ・オブ・ライフ(HRQoL)の特徴である。
本明細書で使用する場合、「誘導療法」は、初期段階の療法であり、患者に対して、比較的集中的な治療剤投与レジメンを実施する。その治療剤、例えば抗体は、その薬剤に対して免疫寛容を誘導したり、または臨床反応を誘導して、疾患の症状を改善したりするなどの特定の目的に適する有効量の薬剤を迅速に与える方法で投与する(参照により、本明細書に援用される、WO2012/151247及びWO2012/151248を参照されたい)。
本明細書で使用する場合、「維持療法」は、誘導療法の後のものであり、誘導療法によってもたらした反応を、安定レベルの治療剤、例えば抗体で継続させる方法で実施する。維持レジメンは、症状の再燃または疾患、例えばIBDの再発を防ぐことができる(参照により、本明細書に援用される、WO2012/151247及びWO2012/151248を参照されたい)。維持レジメンは、患者に利便性(例えば、簡潔な投与レジメンまたは受診頻度の低下)をもたらすことができる。
細胞表面分子「α4β7インテグリン」、すなわち「α4β7」は、α4鎖(CD49D、ITGA4)とβ7鎖(ITGB7)とのヘテロ二量体である。それぞれの鎖は、変わりのインテグリン鎖とヘテロ二量体を形成して、α4β1またはαEβ7を形成できる。ヒトα4及びβ7遺伝子(GenBank(National Center for Biotechnology Information、メリーランド州ベセスダ)、それぞれRefSeq受託番号NM_000885及びNM_000889)は、Bリンパ球及びTリンパ球、特にメモリーCD4+リンパ球によって発現される。多くのインテグリンで典型的なように、α4β7は、休止状態または活性化状態のいずれでも存在できる。α4β7のリガンドとしては、血管細胞接着分子(VCAM)、フィブロネクチン及び粘膜アドレシン(MAdCAM(例えばMAdCAM−1))が挙げられる。α4β7インテグリンは、粘膜アドレシン細胞接着分子−1(MAdCAM−1)(腸間膜リンパ節及びGI粘膜の内皮に発現する)との接着相互作用を通じて、リンパ球のGI粘膜及び腸管関連リンパ組織(GALT)への輸送を仲介する。
「抗体」という用語は、本明細書では、最も広い意味で使用し、具体的には、完全長モノクローナル抗体、免疫グロブリン、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの完全長抗体、例えばそれぞれ異なる抗原またはエピトープに対する抗体から形成される多特異性抗体(例えば、双特異性抗体)、ならびにヒト抗体、ヒト化抗体、及びヒト以外の種に由来する抗体を含む個別の抗原結合断片(dAbs、scFv、Fab、F(ab)’2、Fab’を含む)及び組み換え抗原結合体(モノボディ及びディアボディ)を網羅する。
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、モノクローナル抗体の生成中に発生し得る考え得る変異体(このような変異体は概して、少量で存在する)を除き、同一であり、及び/または同じエピトープに結合する。異なる決定因子(エピトープ)に対する様々な抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の1つの決定因子に対するものである。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られたという、抗体の特徴を示しており、モノクローナル抗体をいずれかの特定の方法によって生成する必要があるものとして解釈すべきではない。例えば、本発明に従って用いるモノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に説明されたハイブリドーマ法によって作製しても、組み換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)によって作製してもよい。「モノクローナル抗体」は、例えばClackson et al.,Nature,352:624−628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)に記載されている技法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。
抗体の「抗原結合断片」は少なくとも、抗α4β7抗体の重鎖及び/または軽鎖の可変領域を含む。例えば、ベドリズマブの抗原結合断片は、配列番号2のヒト化軽鎖配列の20〜131番目のアミノ酸残基を含む。このような抗原結合断片の例としては、当該技術分野において知られているヒト化抗体のFab断片、Fab’断片、scFv及びF(ab’)2断片が挙げられる。本発明のヒト化抗体の抗原結合断片は、酵素による切断または組み換え技法によって作製できる。例えば、パパインによる切断を用いてFab断片を、またはペプシンによる切断を用いてF(ab’)2断片を生成できる。抗体は、天然の終止部位の上流に1つ以上の終止コドンが組み込まれた抗体遺伝子を用いて、様々なトランケート型で作製できる。例えば、F(ab’)2断片の重鎖のCHIドメインとヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように、F(ab’)2断片の重鎖をコードする組み換えコンストラクトを設計できる。一態様では、抗原結合断片は、α4β7インテグリンが、そのリガンドの1つ以上(例えば、粘膜アドレシンMAdCAM(例えばMAdCAM−1)、フィブロネクチン)に結合するのを阻害する。
「Fc受容体」または「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合する受容体を説明する目的で使用する。一態様では、FcRは、天然型配列のヒトFcRである。別の態様では、FcRは、IgG抗体に結合するFcR(γ受容体)であり、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIというサブクラスの受容体を含む(これらの受容体の対立遺伝子変異体及び選択的スプライシング体も含む)。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)とFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれ、これらは、主にそれらの細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)をその細胞質ドメインに含む。阻害受容体FcγRIIBは、免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)をその細胞質ドメインに含む。(M.Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203−234(1997)での考察を参照されたい。)FcRは、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991)、Capel et al.,Immunomethods 4:25−34(1994)及びde Haas et al.,J.Lab.Clin.Med.126:33−41(1995)で考察されている。今後同定されるものを含め、他のFcRも、本明細書における「FcR」という用語に含まれる。この用語には、母性IgGの胎児への移行(Guyer et al.,J.Immunol.117:587(1976)及びKim et al.,J.Immunol.24:249(1994))と、免疫グロブリンG(IgG)及びアルブミンの血清における存続の調節(Rath et al.,J.Clin.Immunol.33 Suppl 1:S9−17(2013)によって考察)を担う胎児性受容体FcRnも含まれる。
「超可変領域」という用語は、本明細書で使用する場合、抗体のアミノ酸残基のうち、抗原の結合を担うとともに、各鎖の「可変ドメイン」で見られるアミノ酸残基を指す。超可変領域は概して、「相補性決定領域」、すなわち「CDR」のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン内の24〜34番目の残基(L1)、50〜56番目の残基(L2)及び89〜97番目の残基(L3)と、重鎖可変ドメイン内の31〜35番目の残基(H1)、50〜65番目の残基(H2)及び95〜102番目の残基(H3)、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethersda, Md.(1991))及び/または「超可変ループ」の残基(例えば、軽鎖可変ドメイン内の26〜32番目の残基(L1)、50〜52番目の残基(L2)及び91〜96番目の残基(L3)と、重鎖可変ドメイン内の26〜32番目の残基(H1)、53〜55番目の残基(H2)及び96〜101番目の残基(H3)、Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901−917(1987))を含む。「フレームワーク領域」、すなわち「FR」残基は、この段落で定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。超可変領域またはそのCDRは、一方の抗体鎖から別の抗体鎖または別のタンパク質に移して、その得られる(複合)抗体または結合タンパク質に、抗原結合特異性を付与することができる。
「単離」抗体は、その天然の環境の成分から同定及び分離し、ならびに/または回収した抗体である。特定の実施形態では、抗体は、(1)ローリー法によって測定した場合に、タンパク質の95重量%超、あるいは99重量%超まで、(2)スピニングカップ配列決定装置の使用によって、少なくとも15残基のN末端もしくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度まで、または(3)SDS−PAGEによって、クマシーブルーもしくは銀染色を用いて、還元条件もしくは非還元条件まで、均質になるまで精製される。単離抗体には、組み換え細胞内のインサイチュー抗体が含まれる。その抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないことになるからである。しかしながら、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
「治療」とは、治療的な処置と予防または防止対策の両方を指す。治療を必要とする個体には、すでに疾患に罹患している個体と、疾患またはその再発を予防すべき個体が含まれる。したがって、本発明における治療対象の患者は、疾患に罹患していると診断されていても、疾患に対する素因を有するかまたは疾患を罹患しやすくてもよい。「患者」及び「対象」という用語は、本明細書では同義的に使用する。
抗α4β7抗体によるIBDの治療
一態様では、本発明は、対象におけるIBDの治療方法であって、本明細書に記載の抗α4β7抗体を対象に、例えばヒトにおけるIBDを治療するのに有効な量で投与することを含む方法に関する。そのヒト患者または対象は、成人(例えば18歳以上)、思春期または小児であってよい。IBDを罹患している対象のIBDを治療するために、本明細書に記載されているように、抗α4β7抗体を含む医薬組成物を使用することができる。
抗α4β7抗体は、α4鎖上(例えば、ヒト化MAb21.6(Bendigら、米国特許第5,840,299号)、β7鎖上(例えば、FIB504もしくはヒト化誘導体(例えば、Fongら、米国特許第7,528,236号))のエピトープ、またはα4鎖とβ7鎖との会合によって形成されるコンビナトリアルエピトープに結合できる。一態様では、この抗体は、α4β7複合体上のコンビナトリアルエピトープに結合するが、α4鎖とβ7鎖が相互に会合していなければ、α4鎖またはβ7鎖上のエピトープに結合しない。α4インテグリンとβ7インテグリンとの会合は、例えば、両方の鎖に存在する残基であって、併せてエピトープを構成する残基を近接させることによって、または一方の鎖、例えば、α4インテグリン鎖またはβ7インテグリン鎖上に、適切なインテグリンパートナーの非存在下またはインテグリン活性化の非存在下では、結合する抗体に接近できないエピトープ結合部位を立体構造的に暴露することによって、コンビナトリアルエピトープを作ることができる。別の態様では、抗α4β7抗体は、α4インテグリン鎖とβ7インテグリン鎖の両方に結合するので、α4β7インテグリン複合体に対して特異的である。このような抗体は、α4β7に結合できるが、例えば、α4β1には結合できず、及び/またはαEβ7には結合できない。別の態様では、抗α4β7抗体は、Act−1抗体と同じまたは実質的に同じエピトープに結合する(Lazarovits,A.I.et al.,J.Immunol.,133(4):1857−1862(1984)、Schweighoffer et al.,J.Immunol.,151(2):717−729,1993、Bednarczyk et al.,J.Biol.Chem.,269(11):8348−8354,1994)。マウスAct−1モノクローナル抗体を産生するマウスACT−1ハイブリドーマ細胞系は、ブダペスト条約に基づき、2001年8月22日に、Millennium Pharmaceuticals,Inc.,40 Landsdowne Street,Cambridge,Mass.02139,U.S.A.,の代わりに、the American Type Culture Collection,10801 University Boulevard,Manassas,Va.20110−2209,U.S.A.に、受託番号PTA−3663で寄託された。別の態様では、抗α4β7抗体は、米国特許出願公開第2010/0254975号に示されているCDRを用いたヒト抗体またはα4β7結合タンパク質である。
一態様では、抗α4β7抗体は、α4β7がそのリガンド(例えば、粘膜アドレシン、例えば、MAdCAM(例えば、MAdCAM−1)、フィブロネクチン及び/または血管アドレシン(VCAM))の1つ以上に結合するのを阻害する。霊長類MAdCAMが、PCT公開第WO96/24673号(その教示の全体は、参照により、本明細書に援用される)に記載されている。別の態様では、抗α4β7抗体は、VCAMの結合を阻害することなく、α4β7のMAdCAM(例えばMAdCAM−1)及び/またはフィブロネクチンへの結合を阻害する。
一態様では、治療で用いる抗α4β7抗体は、マウスAct−1抗体のヒト化型である。ヒト化抗体の好適な調製方法は、当該技術分野において周知である。概して、ヒト化抗α4β7抗体は、マウスAct−1抗体の3個の重鎖相補性決定領域(CDR1(配列番号4)、CDR2(配列番号5)及びCDR3(配列番号6)のCDR)と、好適なヒト重鎖フレームワーク領域とを含む重鎖を含むことになり、マウスAct−1抗体の3個の軽鎖CDR(CDR1(配列番号7)、CDR2(配列番号8)及びCDR3(配列番号9))と、好適なヒト軽鎖フレームワーク領域とを含む軽鎖も含むことになる。ヒト化Act−1抗体は、アミノ酸置換を含むかまたは含まない、コンセンサスフレームワーク領域を含むいずれかの好適なヒトフレームワーク領域を含むことができる。例えば、フレームワークアミノ酸の1つ以上を、別のアミノ酸(マウスAct−1抗体における対応する位置のアミノ酸など)と置き換えることができる。ヒト定常領域またはその一部が存在する場合には、その領域は、対立遺伝子変異体を含め、ヒト抗体のκもしくはλ軽鎖及び/またはγ(例えば、γ1、γ2、γ3、γ4)、μ、α(例えば、α1、α2)、δもしくはε重鎖に由来することができる。エフェクター機能を調整する目的で、特定の定常領域(例えばIgG1)、その変異体または一部を選択することができる。例えば、変異させた定常領域(変異体)を融合タンパク質に導入して、Fc受容体への結合及び/または補体を固定する能力を最小限にすることができる(例えば、Winter et al.,GB2,209,757B、Morrison et al.,WO 89/07142、Morgan et al.,WO94/29351,Dec.22,1994を参照されたい)。Act−1抗体のヒト化型は、PCT公開第WO98/06248号及びWO07/61679(そのそれぞれの教示の全体は、参照により、本明細書に援用される)で説明された。
一態様では、抗α4β7抗体は、ベドリズマブである。ベドリズマブ(MLN0002、ENTYVIO(商標)またはKYNTELES(商標)ともいう)は、ヒトリンパ球インテグリンα4β7に対するヒト化免疫グロブリン(Ig)G1 mAbである。ベドリズマブは、α4β7インテグリンに結合し、α4β7インテグリンがMAdCAM−1に接着するのをアンタゴナイズし、その結果、腸ホーミング白血球のGI粘膜への遊走を阻害する。ベドリズマブは、中度〜重度の活動期UCまたはCDの成人患者のうち、腫瘍壊死因子(TNF)ブロッカーもしくは免疫調節剤との反応が不十分であったか、腫瘍壊死因子(TNF)ブロッカーもしくは免疫調節剤に対する反応を喪失していたか、腫瘍壊死因子(TNF)ブロッカーもしくは免疫調節剤に不耐であったか、コルチコステロイドとの反応が不十分であったか、コルチコステロイドに不耐であったか、またはコルチコステロイドへの依存性を示した患者に適応されるインテグリン受容体アンタゴニストである。UCでは、ベドリズマブは、臨床反応を誘導及び維持し、臨床的寛解を誘導及び維持し、粘膜の内視鏡的外観を改善し、及び/またはコルチコステロイド非投与下寛解を実現するためのものである。CDでは、ベドリズマブは、臨床反応をもたらし、臨床的寛解を実現し、及び/またはコルチコステロイド非投与下寛解を実現するためのものである。いくつかの実施形態では、コルチコステロイド非投与下寛解は、ベドリズマブによる治療の継続中に、漸減レジメンを通じて実現する。
別の態様では、治療で用いるヒト化抗α4β7抗体は、配列番号1の20〜140番目のアミノ酸を含む重鎖可変領域と、配列番号2の20〜131番目のアミノ酸または配列番号3の21〜132番目のアミノ酸を含む軽鎖可変領域とを含む。所望される場合、好適なヒト定常領域(複数可)が存在することができる。例えば、ヒト化抗α4β7抗体は、配列番号1の20〜470番目のアミノ酸を含む重鎖と、配列番号3の21〜239番目のアミノ酸を含む軽鎖とを含むことができる。別の例では、ヒト化抗α4β7抗体は、配列番号1の20〜470番目のアミノ酸を含む重鎖と、配列番号2の20〜238番目のアミノ酸を含む軽鎖とを含むことができる。ベドリズマブのヒト化軽鎖(例えば、Chemical Abstract Service(CAS、American Chemical Society)登録番号943609−66−3)であって、2個のマウス残基がヒト残基に置き換わっている軽鎖は、別のヒト化抗α4β7抗体LDP−02の軽鎖よりもヒト化されている。加えて、LDP−02は、ベドリズマブにおいてはやや親水性のヒドロキシル含有トレオニン114と、潜在的に内向きの疎水性バリン115残基と置き換えられている若干疎水性の柔軟なアラニン114と親水性部位(アスパルテート115)とを有する。
ヒト化抗α4β7抗体配列に対する更なる置換は、例えば、重鎖及び軽鎖フレームワーク領域に対する変異(配列番号10の2番目の残基におけるイソロイシンのバリンへの変異、配列番号10の4番目の残基におけるメチオニンのバリンへの変異、配列番号11の24番目の残基におけるアラニンのグリシンへの変異、配列番号11の38番目の残基におけるアルギニンのリシンへの変異、配列番号11の40番目の残基におけるアラニンのアルギニンへの変異、配列番号11の48番目の残基におけるメチオニンのイソロイシンへの変異、配列番号11の69番目の残基におけるイソロイシンのロイシンへの変異、配列番号11の71番目の残基におけるアルギニンのバリンへの変異、配列番号11の73番目の残基におけるトレオニンのイソロイシンへの変異、またはこれらのいずれかの組み合わせ、重鎖CDRのマウスAct−1抗体のCDR(CDR1(配列番号4)、CDR2(配列番号5)及びCDR3(配列番号6))との置換、ならびに軽鎖CDRのマウスAct−1抗体の軽鎖CDR(CDR1(配列番号7)、CDR2(配列番号8)及びCDR3(配列番号9))との置換など)であることができる。
本発明は、第1の態様では、炎症性腸疾患(IBD)患者の、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療方法を提供する。この態様では、この方法は、患者の薬物動態要因を割り出すことを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、抗体のクリアランスが低い患者の治療を選択することを含む。この方法は、患者から得た生体サンプル、例えば、血液、血清、血漿、便、腸液、唾液、炎症性滲出液中の抗α4β7抗体の濃度を1度、例えば、その抗体を少なくとも1回事前投与してから少なくとも1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後または6週間後に測定することを含む。この測定は、クリアランスの尺度(「低い」状態は、様々な方法によって定義される)と、本明細書に記載の、クリアランスの尺度を得る結果基準をもたらす。クリアランスの尺度は、サンプル中の抗α4β7抗体の濃度の測定に起因してよく、単独で用いても、本明細書に記載されているように、抗α4β7抗体が身体(例えば血液量)から排除される速度の計算で用いてもよい。この計算は、事前投与における抗α4β7抗体の量、患者の大きさ、血液量の大きさ、抗α4β7抗体の事前投与日と、測定用のサンプルを得る日との間の日数、または薬物動態モデル、例えば、本明細書に記載されているようなモデルからの知見に基づいてよい。いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体の血清中濃度の測定は、クリアランスの指標であってよい。クリアランスは、薬力学的要因、臨床的要因、炎症もしくはは免疫応答要因のような他のパラメーターの影響を受けたり、または他のパラメーターによって更に示されたりすることがあり、他のパラメーターの測定を抗α4β7抗体の測定と組み合わせて用いてよい。クリアランスの尺度は、単独で、または1つ以上の他のパラメーターの測定と組み合わせて用いて、抗α4β7抗体による治療に対する反応を予測するか、抗α4β7抗体治療に反応している患者を特定するか、抗α4β7抗体によって更なる治療を行う患者を選択するか、または治療中における抗α4β7抗体の有効性をモニタリングしてよい。例えばサンプル採取時点の患者における抗α4β7抗体の低いクリアランスまたは十分な量によって、抗α4β7抗体の更なる投与が、IBDの治療効果をもたらすことが示される。いくつかの実施形態では、誘導の終了時に、低いクリアランスが示されるか、測定されるか、または算出される方法は、反応または寛解を維持し、コルチコステロイド非投与下寛解を実現し、粘膜の内視鏡的外観を改善するために、患者を更に治療することを更に含む。好ましくは、抗体のクリアランスが低い患者は、a)抗体、例えばベドリズマブのクリアランス速度が、約0.25L/日未満、0.20L/日未満、0.1〜0.2L/日、0.15L/日未満もしくは0.1.L/日未満であること、ならびに/またはb)抗体、例えばベドリズマブの血清中濃度が、少なくとも8μg/ml、10μg/ml、12μg/ml、14μg/ml、17μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/ml、40μg/mlであるか、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg mlの範囲であることによって特徴付けてよい。
一実施形態では、炎症性腸疾患(IBD)患者の、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療方法は、2回目の用量のベドリズマブを摂取してから4週間後の時点に、IBDを有するかまたはIBDに罹患している2人以上の患者のグループからIBDを有するヒト患者を選択する工程を含み、ベドリズマブの1回目の用量は、2回目の用量の投与の2週間前に対象に投与し、血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである。具体的には、患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。いくつかの実施形態では、患者は、血清中ベドリズマブの測定のためのサンプル採取の約2週間前、約3週間前、約4週間前、約5週間前または約6週間前に、ベドリズマブを事前摂取してある。このような患者を患者グループから選択したら、その患者にベドリズマブを投与して、IBDを治療する。
別の態様では、本発明は、炎症性腸疾患(IBD)患者の、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、ベドリズマブを用いる方法は、IBD患者にベドリズマブを2用量投与する工程であって、1回目の用量を患者に投与してから約2週間後に、2回目の用量を投与する工程と、少なくとも2週間、少なくとも3週間、約4週間または5週間の期間を置く工程と、患者のベドリズマブの血清中濃度を測定する工程と、患者の血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合に、患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与する工程を含む。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってもよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。
あるいは、少なくとも1用量の抗α4β7抗体、例えばベドリズマブをIBD患者に投与し、少なくとも約2週間、または任意に応じて、2〜5週間の期間を置いてから、患者のベドリズマブの血清中濃度を測定し、患者の血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合に、患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与してもよい。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。
別の態様では、本発明は、ベドリズマブによる治療を継続する患者(例えば、粘膜治癒をしている患者)の特定方法を提供する。この方法は、過去4カ月以内(例えば、過去3カ月以内、過去2カ月以内)にベドリズマブを少なくとも2用量摂取したIBD患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、サンプルの血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含んでよい。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。いくつかの実施形態では、患者は、血清中ベドリズマブの測定のためのサンプル採取の約4週間前に、ベドリズマブの最後の事前用量、例えば2回目の用量を摂取してある。別の実施形態では、患者は、血清中ベドリズマブの測定のためのサンプル採取の3〜8週間前に、最後の事前用量を摂取してある。
あるいは、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法は、過去1カ月または2カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量摂取したIBD患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、サンプルの血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含んでよい。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。いくつかの実施形態では、患者は、血清中ベドリズマブの測定のためのサンプル採取の約2週間、約3週間、約4週間、約5週間または約6週間前に、ベドリズマブの事前用量を摂取してある。
あるいは、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブを少なくとも1用量、IBD患者に投与してよく、少なくとも約2週間、または任意に応じて2〜5週間の期間を置いてから、患者のベドリズマブの血清中濃度を測定し、患者の血清中濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合に、患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与する。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってよい。
ベドリズマブは、静脈内注射、皮下注射または注入の1つ以上などのいずれかの好適な方法によって投与してよい。いくつかの実施形態では、ベドリズマブは、50mg、100mg、180mg、300mgまたは600mgの用量で投与する。いくつかの実施形態では、ベドリズマブは、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、4.0mg/kgまたは5.0mg/kgの用量で、108mg、216mg、160mgまたは165mgの用量で、例えば皮下投与する。ベドリズマブは、1日1回、週に1回、月に1回または年に1回投与してよい。ベドリズマブ投与レジメンには、初期、すなわち誘導期と、維持期があってよい。誘導期は、多量を1回または2回以上、例えば2回、3回または4回投与すること、または各投与間に長期間を置かずに(わずか1週間、2週間、3週間または4週間の投与間隔などで)投与することであってよい。例えば、誘導レジメンでは、2回投与してよく、そのうちの1回が0日目(0週目)、もう1回が2週目(14日目)であってよい。維持期、例えばIBDの寛解を維持するための維持期では、誘導期よりも少ない用量、または誘導期よりも長い間隔で投与してよい。いくつかの実施形態では、ベドリズマブを0週目、2週目及び6週目に投与してから(誘導)、それ以降は、4週間おきまたは8週間おきに投与する(維持)。他の療法に不応なIBD患者には、維持療法の開始前に、もっと長い誘導期間、例えば、8週間、10週間または12週間が必要となり得る。一実施形態では、ベドリズマブを0週目、2週目及び6週目に静脈内投与してから、それ以降は、8週間おきに静脈内投与する。いくつかの実施形態では、ベドリズマブを1回以上投与してから、少なくとも1カ月、少なくとも6カ月または少なくとも1年後に、再度ベドリズマブを1回以上投与する。いくつかの実施形態では、300mgのベドリズマブを0週目、2週目及び6週目に静脈内注入によって投与してから、それ以降は、4週間の間隔または8週間の間隔で投与してよい。いくつかの実施形態では、300mgのベドリズマブを0週目、2週目及び6週目に静脈内注入によって投与してから、2週間、3週間または4週間の間隔で、108mgのベドリズマブを皮下投与してよい。抗α4β7インテグリン抗体を用いる治療方法は、米国特許公開第2005/0095238号、WO2012151248及びWO2012/151247に記載されている。
いくつかの実施形態では、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法は、臨床的尺度を含んでよい。臨床的尺度は、粘膜治癒であってよい。ベースラインから低下した内視鏡スコア、例えば、ベースラインよりも25%低いか、35%低いか、40%低いか、45%低いか、50%低いか、55%低いか、60%低いか、65%低いかまたは75%低い内視鏡スコアによって、粘膜治癒を示してもよい。潰瘍性大腸炎では、4未満、3未満、≦1または0〜2の内視鏡スコアが、治療を継続する患者を特定する助けとなり得る。クローン病では、粘膜治癒をしている患者、すなわち、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続する候補者は、内視鏡反応、内視鏡寛解、MaRIAスコアの改善、潰瘍の軽減及び粘膜治癒パラメーター、例えばMREnパラメーターの改善からなる群から選択した評価をされていてよい。一実施形態では、MaRIAスコアは、各セグメントの計算値の和であり、各セグメントについて計算される和は、(1.56×壁厚(mm))+(0.02×相対的コントラスト上昇値(RCE)、例えば静脈内投与後のガドリニウムとのコントラスト)+(5×浮腫)+(10×潰瘍))である。いくつかの実施形態では、内視鏡反応は、SES−CDスコアがベースラインから約25%低下、約40%低下、約50%低下、約60%低下または約75%低下することによって達成される。いくつかの実施形態では、内視鏡寛解は、≦6、≦5、≦4または≦3のSES−CDスコアによって達成される。いくつかの実施形態では、粘膜治癒は、<14、<13、<12、<11、<10、<9、<8、<7、<6、<5または<4のMaRIAスコアによって達成される。いくつかの実施形態では、潰瘍の軽減は、潰瘍のサイズの縮小、潰瘍面の割合の低下、罹患面の割合の低下及び消化管の狭窄の軽減からなる群から選択する。いくつかの実施形態では、潰瘍のサイズは、直径2cm未満、直径0.5〜2cm、直径0.1〜0.5cmまたは直径<0.2cmである。いくつかの実施形態では、潰瘍面は、30%未満、10〜30%、10%未満または0である。いくつかの実施形態では、罹患面は、75%未満、50%〜75%、50%未満、25%未満または非罹患状態である。いくつかの実施形態では、壁厚は、ベースラインから約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約20%〜40%または45%超減少している。いくつかの実施形態では、腸壁コントラスト(RCE)は、ベースラインから約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約20%〜40%または40%超低下している。いくつかの実施形態では、壁浮腫は、ベースラインから約25%、約40%、約50%、約60%、約70%、75%超または約70%〜90%軽減している。いくつかの実施形態では、腸周囲血管増生は、ベースラインから約25%、約30%、約40%、約50%、約60%、約50%〜70%、約75%または75%超減少している。
一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者のSES−CDは、治療の開始から6週目、10週目、12週目、14週目、22週目または26週目において、≦4である。一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者は、治療の開始から6週目、10週目、12週目、14週目、22週目または26週目において、内視鏡反応を有しているか、またはSES−CDが≧50%低下している。一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者は、治療の開始から6週目、10週目、12週目または14週目において、臨床的寛解をしているか、またはCDAIスコアが≧70もしくは≧100ポイント低下している。一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者のMaRIAスコアは、全体において、または各セグメントベースで、治療の開始から6週目には<15、10週目には<12、12週目には<10または14週目<7である。一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者には、治療の開始から14週目、22週目または26週目において、潰瘍がない。一実施形態では、ベドリズマブに対する反応性を持つクローン病患者には、治療の開始から14週目、22週目、26週目または30週目において、瘻孔がない。ベドリズマブに対する反応性を持つ患者は、治療を継続してよく、例えば、ベドリズマブによる維持レジメンを継続してよい。一実施形態では、維持レジメンは、2週間おきのベドリズマブの投与を含む。一実施形態では、維持レジメンは、4週間おきのベドリズマブの投与を含む。一実施形態では、維持レジメンは、6週間おきのベドリズマブの投与を含む。一実施形態では、維持レジメンは、8週間おきのベドリズマブの投与を含む。
別の態様では、本発明は、患者における炎症性腸疾患の寛解維持方法に関する。この患者は、過去2カ月、過去3カ月または過去4カ月内に、ベドリズマブを少なくとも1用量摂取してあってよい。この方法は、その患者から血清サンプルを得る工程と、そのサンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、その濃度が、少なくとも約8μg/ml、約10μg/ml、約12μg/ml、約14μg/ml、約17μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約30μg/ml、約35μg/mlまたは約40μg/mlである場合、それ以降に、8週間おきにベドリズマブを投与する工程を含んでよい。患者の血清中濃度は、約12〜25μg/ml、約15〜17μg/ml、約17〜25μg/ml、約12〜40μg/mlまたは約17〜40μg/mlであってもよい。患者の血清中濃度、例えば血清中トラフ濃度は、17μg/ml超、25μg/ml超または35μg/ml超であってもよい。いくつかの実施形態では、患者は、血清中ベドリズマブの測定のためのサンプル採取の約2週間、約3週間、約4週間、約5週間または約6週間前に、ベドリズマブの事前用量を摂取してある。
本発明の更に別の態様では、IBD患者のベドリズマブによる治療の継続方法は、ベドリズマブを2用量供給する工程であって、その2回目の用量の投与が、1回目の約2週間後である工程と、約4週間置く工程と、患者が深い寛解状態である場合に、患者のベドリズマブによる治療を継続する工程を含む。深い寛解状態は、患者の内視鏡サブスコアを測定することによって判断してよく、内視鏡サブスコアが0〜1であることとして定義する。この方法は、患者が報告する転帰スコア(例えば、0〜1のサブスコア)を判断する工程を更に含んでよい。患者が報告する転帰は、直腸出血サブスコア(例えば0)及び/あるいは排便頻度サブスコア(例えば、低下もしくは変化なし、または0もしくは1)を含んでよい。
本発明は、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、過去4カ月以内(例えば、過去3カ月以内、過去2カ月以内)にベドリズマブを少なくとも2用量投与したIBD患者から得た生体サンプル中のベドリズマブのクリアランスを測定する工程と、その患者におけるクリアランスが、0.25L/日未満、0.20L/日未満または0.1〜0.2L/日である場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する工程を含む方法にも関する。この生体サンプルは、いずれかの生体サンプル、例えば、血清、血漿、唾液、尿または便であってよい。任意に応じて、この方法は、抗α4β7抗体を測定することを更に含んでよい。抗α4β7抗体、例えば抗ベドリズマブ抗体に対する免疫応答が低いかまたは存在しないこと、例えば、≦50、≦125または≦575の力価によって、ベドリズマブによる治療を継続する患者を更に特定してよい。
患者が抗α4β7抗体による治療に反応するか、または患者の抗α4β7抗体による治療を継続するかの判断方法は、アルブミン濃度を測定することを更に含んでよい。治療用抗体による療法では、アルブミン濃度は、胎児性FcRに結合する能力のようなクリアランス活性の反映であることができる。血清中アルブミンレベルが低いケースでは、抗α4β7抗体のクリアランスは、高いことができる。その結果、血清中アルブミンレベルの高い患者は、抗α4β7抗体による治療に反応しないことがあり、または、抗α4β7抗体による治療に反応するまで時間がかかることがある。約3.0g/dL超、約3.2g/dL超、約4.0g/dL超、約4.7g/dL超、約5.0g/dL超、3.3〜5.0g/dLの範囲、3.5〜5.0g/dLの範囲、3.8〜5.0g/dLの範囲または4.0〜5.0g/dLの範囲のアルブミン濃度によって、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療を継続する患者を更に特定してよい。アルブミン濃度の測定には、患者の体重の測定を伴ってもよい。高体重、例えば、90kg超、100kg超、110kg超または120kg超で、低アルブミンレベル、例えば、4.2g/dL未満、4.0g/dL未満、3.5g/dL未満または3.2g/dL未満の患者は、抗α4β7抗体のクリアランスが高いことがあるので、抗α4β7抗体による療法に反応しないことがあるか、または、治療の継続には、より多い用量またはより高い頻度での抗α4β7抗体の投与を必要とすることがある。
クリアランス、例えば、線形クリアランス、例えば、単位時間当たりに薬剤が排出された血液の量は、当業者に知られているいずれかの適切な手段によって算出/推定/抽出してよい。例えば、クリアランスは、集団アプローチまたはベイズ法、例えば、完全ベイズマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によって推定してよい。線形クリアランスの薬物動態モデルを作成する方法の1つは、実施例に記載されている。血清中トラフ濃度、例えば、新たな投与を行う前、例えば、1日前、2日前、3日前、4日前、または最大で1週間前の抗α4β7抗体の血清中濃度、ピーク血清中濃度、1回以上のサンプル採取で測定した平均血清中濃度または濃度時間曲線下面積などの抗α4β7抗体暴露測定基準をモデルに入力して、クリアランスを割り出す。
あるいは、ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、IBD患者から得た生体サンプル中のベドリズマブのクリアランスを測定する工程を含む方法は、過去1カ月または2カ月以内にベドリズマブを少なくとも1用量投与した患者で行うことができ、その患者におけるクリアランスが、0.25L/日未満、0.20L/日未満、0.1〜0.2L/日、0.15L/日未満または0.1.L/日未満である場合に、ベドリズマブによる治療を継続する患者を特定する。生体サンプルは、いずれかの生体サンプル、例えば、血清、血漿、唾液、尿または便であってよい。
この方法は、内視鏡サブスコアを測定することを更に含んでよい。抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによる治療は、約3未満、約2.5未満、約2未満、約0〜2または1以下の内視鏡サブスコアで継続してよい。
好中球細胞質タンパク質のカルプロテクチンの便レベルは、潰瘍性大腸炎における内視鏡活性と相関する。典型的には、非罹患対象の便中カルプロテクチンレベルは、50μg/g未満となる。50μg/g超であるが、150μg/g未満の便中カルプロテクチンレベルは、粘膜炎症の可能性のサインであり得、150μg/g超の便中カルプロテクチンレベルは通常、活動性炎症のサインである。本明細書に記載されている方法は、便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含んでよい。便中カルプロテクチンのレベルが高いほど、再発リスクが高くなる。ベドリズマブによる治療は、1500μg/g未満、1250μg/g未満、1000μg/g未満、750μg/g未満、500μg/g未満、400μg/g未満、300μg/g未満、250μg/g未満、200〜1200μg/g、350〜800μg/g、300〜1000μg/g、<50μg/g、<100μg/g、<150μg/g、<200μg/g、≦250〜499μg/gまたは500〜900μg/gの便中カルプロテクチン濃度で継続してよい。あるいは、便中カルプロテクチンは、ベースライン、すなわち治療前の濃度の約50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10〜55%、10〜30%、15〜35%、15〜45%または20〜40%まで低下していてもよい。便サンプルにおける便中カルプロテクチンは、PHICALテストキット(Calpro、ノルウェー、リサケル)を用いて測定することができる。
薬物動態アッセイ及び薬力学アッセイ
抗α4β7抗体、例えばベドリズマブの血清中濃度は、当業者に知られているいずれかの適切な手段によって測定してよい。一態様では、ベドリズマブの血清中濃度は、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイによって測定する。別の態様では、薬力学アッセイの使用の際に、MAdCAM−1−Fcのα4β7発現末梢血液細胞への結合が、血液中の抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによって阻害されることを、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブによるα4β7飽和の程度の尺度として用いる。
一実施形態では、血清中の抗α4β7抗体量は、薬物動態アッセイで測定することができる。マイクロタイタープレート、容器、またはビーズなどの固定化相を、抗α4β7抗体に特異的に結合する試薬でコーティングする。患者のサンプル、例えば血清(抗α4β7抗体を含むこともあれば、含まないこともある)と、固定化した試薬を接触させる。インキュベートと洗浄を行った後、コーティング試薬と複合化した抗α4β7抗体を、その捕獲抗体に結合する試薬と接触させ、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの標識を用いて検出してよい。この結合試薬は、抗α4β7抗体のFc部分に結合する抗ヒト抗体、例えば、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)のようなHRP基質の添加により、例えば分光光度計によって測定できる着色のようなシグナルの蓄積を可能にできる。
いくつかの実施形態では、コーティング試薬は、抗α4β7抗体、例えば、その可変領域または1つ以上のCDR(重鎖CDR3(配列番号6)など)を含む一部分に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体である。このアッセイで用いる抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、抗α4β7抗体のα4β7インテグリン結合部分に対して特異的であることができ、すなわち、その結合部分に結合できるが、抗α4β7抗体のFc部分に対しては特異的ではなく、すなわち、そのFc部分には結合しない。このアッセイで用いる抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、抗α4β7抗体の重鎖及び/または軽鎖の可変領域、例えば、配列番号1の20〜140番目のアミノ酸、配列番号2の20〜131番目のアミノ酸及び配列番号3の21〜132番目のアミノ酸からなる群から選択した領域に対して特異的であることができ、すなわち、その領域に結合できる。このアッセイで用いる抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、抗α4β7抗体の抗原結合断片に対して特異的であることができ、すなわち、その抗原結合断片に結合できる。抗イディオタイプ抗体は、抗α4β7抗体またはそのα4β7インテグリン結合部分(1つ以上のCDRを含む抗体断片など)を用いて、免疫プロセスから単離でき、組み換え法によって単離または生成されたものとして使用できる。いくつかの実施形態では、抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、重鎖CDR3(配列番号6)を含む免疫原に対して生起される。別の実施形態では、抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、抗α4β7抗体の重鎖及び/または軽鎖の可変領域、例えば、配列番号1の20〜140番目のアミノ酸、配列番号2の20〜131番目のアミノ酸及び配列番号3の21〜132番目のアミノ酸からなる群から選択した領域を含む免疫原に対して生起される。いくつかの実施形態では、抗イディオタイプ抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗イディオタイプ抗体のscFv断片をアッセイで用いる。別の実施形態では、完全な抗イディオタイプ抗体をアッセイで用いる。
抗イディオタイプ抗α4β7抗体の生成は、下記の一般的な方法で行うことができる。タンパク質、例えば、抗α4β7抗体、またはそのα4β7インテグリン結合部分もしくはこの部分を含む融合タンパク質で、好適な動物(例えば、マウス、ラット、ウサギまたはヒツジ)を免疫することは、注射用に調製した免疫原によって、反応を誘導する形で、例えば、アジュバント、例えば、完全フロイントアジュバントを用いて行うことができる。他の好適なアジュバントとしては、TITERMAX GOLD(登録商標)アジュバント(CYTRX Corporation、カリフォルニア州ロサンゼルス)とミョウバンが挙げられる。重鎖のCDR(CDR3など)を含む断片のような小ペプチド免疫原を、それよりも大きい分子(キーホールリンペットヘモシアニンなど)に結合できる。マウスに対して、数多くの部位、例えば、腹膜(i.p.)、尾根部もしくはフットパッド、または組み合わせた部位、例えば、i.p.と尾根部で、数多くの形式の注射、例えば、皮下注射、静脈内注射または筋内注射を行うことができる。ブースター注射は、同じまたは異なる免疫原を含むことができ、更に、アジュバント、例えば不完全フロイントアジュバントを含むことができる。概して、モノクローナル抗体が望ましい場合、不死化細胞系(例えば、SP2/0、P3X63Ag8.653などの骨髄腫細胞系またはヘテロミエローマ)に由来する好適な細胞を抗体産生細胞と融合することによって、ハイブリドーマを作製する。抗体産生細胞は、対象の抗原で免疫した動物の末梢血液、または好ましくは、脾臓もしくはリンパ節から得ることができる。抗体を産生する細胞は、好適な方法、例えば、ヒト抗体産生細胞とヘテロミエローマの融合、すなわちトリオーマ、またはエプスタインバーウイルスへの感染による、活性化ヒトB細胞の不死化を用いて作製できる。(例えば、米国特許第6,197,582号(Trakht)、Niedbala et al.,Hybridoma,17:299−304(1998)、Zanella et al.,J Immunol Methods,156:205−215(1992)、Gustafsson et al.,Hum Antibodies Hybridomas,2:26−32(1991)を参照されたい。)融合または不死化した抗体産生細胞(ハイブリドーマ)は、選択培養条件を用いて単離でき、限界希釈によってクローニングできる。所望の特異性を持つ抗体を産生する細胞は、好適なアッセイ(例えば、ELISA(例えば、マイクロタイターウェルに固定化した免疫原を用いるもの)を用いて同定できる。
抗α4β7抗体または抗イディオタイプ抗α4β7抗体は、生細胞、例えば、培養細胞において、各鎖をコードする核酸配列を発現させることによって作製してよい。様々な宿主−発現ベクター系を用いて、本発明の抗体分子を発現させてよい。このような宿主−発現系は、対象のコード配列を生成させてから精製できるビヒクルを表しているが、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換またはトランスフェクションすると、抗α4β7抗体をインサイチューで発現できる細胞も表している。このようなものとしては、抗体コード配列を含む組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌(例えば、E.coli、B.subtilis)のような微生物、抗体コード配列を含む組み換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、Saccharomyces、Pichia)、抗体コード配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系、組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))で感染させたか、もしくは抗体コード配列を含む組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞系、または哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)もしくは哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含む組み換え発現コンストラクトを有する哺乳動物細胞系(例えば、COS細胞、CHO細胞、BHK細胞、293細胞、3T3細胞、NS0細胞)が挙げられるが、これらに限らない。例えば、ヒトサイトメガロウイルスに由来する主要前初期遺伝子プロモーターエレメントのようなベクターと併せた、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)のような哺乳動物細胞が、抗体に有効な発現系である(Foecking et al.,Gene 45:101(1986)、Cockett et al.,Bio/Technology 8:2(1990))。
細菌系では、発現させる抗体分子の意図する用途に応じて、多くの発現ベクターを有益に選択できる。例えば、抗体分子の医薬組成物の生成のために、このようなタンパク質を大量に産生させるときには、精製しやすい高レベルの融合タンパク質産物の発現を駆動するベクターが望ましいことがある。このようなベクターとしては、融合タンパク質が産生されるように、lac Zコード領域とインフレームで、抗体コード配列を個別にベクターにライゲーションできるE.coli発現ベクターpUR278(Ruther et al.,EMBO J.2:1791(1983))、pINベクター(Inouye&Inouye,Nucleic Acids Res.13:3101−3109(1985)、Van Heeke & Schuster,J.Biol.Chem.24:5503−5509(1989))などが挙げられるが、これらに限らない。pGEXベクターを用いて、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として、外来ポリペプチドを発現させてもよい。概して、このような融合タンパク質は、溶解性があり、マトリックスグルタチオン−アガロースビーズへ吸着及び結合させてから、遊離グルタチオンの存在下で溶離することによって、溶解細胞から容易に精製できる。pGEXベクターは、トロンビンまたはXa因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計されており、クローン化標的遺伝子産物をGST部分から放出できるようになっている。昆虫系では、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして用いて、外来遺伝子を発現させる。このウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞で増殖する。抗体コード配列は、ウイルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)に個別にクローニングして、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置いてよい。
別の実施形態では、コーティング試薬は、抗体のリガンド(MAdCAMもしくはそのα4β7インテグリン結合断片、またはMAdCAMのα4β7−インテグリン結合断片を含む融合タンパク質であって、免疫グロブリンG定常ドメインのような、MAdCAM以外のタンパク質と融合しているタンパク質など)である。MAdCAM試薬と融合タンパク質の例は、PCT公開WO9624673及び米国特許第7,803,904号(それらの教示の全体は、参照により、本明細書に援用される)に記載されている。
HAHAアッセイ
ヒト抗抗α4β7抗体活性(HAHA)は、抗薬剤抗体(ADA)、すなわち、抗α4β7抗体に特異的な抗体(抗ベドリズマブ抗体)を検出及び/または測定することによって割り出すことができる。例えば、スクリーニング及び力価測定アッセイ、確認アッセイ、ならびに中和アッセイを用いる数多くの選択肢がある。まず、例えば1:5及び1:50の希釈度のスクリーニングサンプルにおいて、血清サンプルを測定できる。陽性サンプルを特異性に関して確認し、力価測定をし、抗α4β7抗体、例えばベドリズマブ活性を中和する能力に関して調べることができる。
スクリーニングアッセイでは、プレートを抗α4β7抗体でコーティングするブリッジングELISAを利用できる。固定化した抗α4β7抗体は、試験サンプル中のADAを捕獲し、ビオチンにコンジュゲートした抗α4β7抗体に、そのADAを結合させ、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)−標識ストレプトアビジンによってタグ付けしてから、TMBなどの酵素基質で検出する。例えば、Spectramaxなどのマイクロプレートリーダーと、SOFTMAX Pro3.1.2などの解析ソフトウェアで測定した場合の陽性着色によって、サンプルにおけるADAの存在が示される。このアッセイのカットポイントは、例えば、ビオチン−アビジン−HRPベースのブリッジングアッセイでは、正常なヒト血清サンプルをネガティブコントロールとして用いることによって定めることができる。10個のネガティブコントロール血清の平均吸光値をネガティブコントロールの標準偏差の1.65倍に加えて、カットポイントを定めることができる。すなわち、カットポイントは、約5%の偽陽性率を可能にできる。1μg/mLのベドリズマブの存在下では、低い力価反応は干渉されて、検出不可能になり得るが、1μg/mL超のベドリズマブ濃度では、高レベルの免疫原性が検出可能である。例えば、標準的なアッセイ感度は、0.5μg/mlのベドリズマブの存在下においては、0.44ng/mlであることができるが、アッセイの感度は、180ng/mlであることができる。これらの理由から、血清サンプルは、抗α4β7抗体の最後の用量の投与から4週間後超、8週間後超、12週間後超または16週間後超に採取できる。事前投与とサンプル採取との間の期間が長くなるほど、血清中薬剤レベルは典型的に、干渉レベル未満になり得る。
別のアッセイ方法では、ストレプトアビジンコーティングプレート、ストレプトアビジンコーティング容器に固定したビオチン標識抗α4β7抗体、ブリッジの固定化側用のビーズまたはマイクロタイタープレート、及びブリッジの逆側用の重金属(ルテニウム、オスミウムまたはレニウムなど)標識(例えば、スルホタグを介した標識)抗α4β7抗体を使用する。ブリッジ複合体は、段階的添加と、溶解の間または溶解時の洗浄によって、プレート上に構築でき、そのブリッジの両側を希釈血清サンプルと接触させてから、プレートに移す。この方法を用いるアッセイの一例の感度は、3.90ng/mlの抗抗α4β7抗体である。電気化学発光(ECL)によって、例えば、Meso Scale Discovery Sector Imager 6000(メリーランド州ロックビル)で、重金属標識ブリッジ複合体、例えば、ルテニウム標識複合体を検出すると、HRP法よりも感度が高くなり得、及び/または血清中の抗α4β7抗体の量に対する寛容性が高くなり得る。したがって、血清中薬剤レベルが低下した後の遅延サンプルを待つ必要性がなくなる。いくつかの実施形態では、酸、例えば、酢酸または低pHグリシンで血清サンプルを前処理して、患者由来の抗抗α4β7抗体から抗α4β7抗体を放出してから、ブリッジング抗α4β7抗体と接触させると、血清中の薬剤からの干渉を軽減できる。例えば、血清に5μg/mlのベドリズマブが存在する際には、標準的なアッセイ感度は、3.90ng/mlであり得るが、このアッセイの感度は、10ng/mlであり得る。
一実施形態では、患者から得た血清サンプル中の抗ベドリズマブ抗体を検出するアッセイは、標準的な希釈係数(1:5、1:25、1:50及び/または1:125など)によって血清を希釈することと、酢酸で処理することと、ビオチン標識ベドリズマブとルテニウム標識ベドリズマブとの間に、血清由来抗ベドリズマブ抗体とのブリッジを形成させるのに十分な時間、酸を中和するための高pH試薬(高濃度トリスバッファーなど)と、ビオチン標識ベドリズマブと、ルテニウム標識ベドリズマブと含むアッセイ組成物と、酸で処理した希釈サンプルとを合わせることと、その複合体をストレプトアビジンコーティングプレートに移すことと、プレートを洗浄して、抗体ブリッジによって複合体化されたルテニウムのみが存在するようにすることを含む。結合したルテニウム標識複合体の検出と、マイクロプレートリーダーでの電気化学発光によるサンプルの測定は、トリプロピルアミンなどのリード液を加え、電圧を印加して、抗体ブリッジを介してプレートに複合体化されたルテニウム標識を刺激することによって行うことができる。
最初のスクリーニングアッセイの後、過剰な非標識抗α4β7抗体を用いて特異性を確かめる確認アッセイで、サンプルを更に試験できる。確認された陽性サンプルは、HAHAが抗α4β7抗体、例えばベドリズマブの細胞への結合を中和する能力に関して更に評価できる。免疫血清が標識ベドリズマブのα4β7インテグリン発現細胞系RPMI8866への結合を阻害する能力をフローサイトメトリーによって割り出すように、競合的フローサイトメトリーベースのアッセイを設計した。
その結果によって、陰性(陽性HAHAサンプルはない)、陽性(少なくとも1つの陽性HAHAサンプルがある)、一過性陽性(少なくとも1つの陽性HAHAサンプルがあり、連続的な陽性HAHAサンプルはない)及び持続性陽性(少なくとも2個以上の連続的な陽性HAHAサンプルがある)という免疫原性状態の分類を示すことができる。陰性患者は、抗α4β7抗体に反応する可能性が高く、その抗体による治療を継続できる。持続性陽性患者は、抗α4β7抗体のクリアランスが高い可能性が高く、抗α4β7抗体治療に反応しないことがある。陽性患者は、抗α4β7抗体のクリアランスが高いことがあり、抗α4β7抗体に反応しないことがある。陽性患者は、抗α4β7抗体の追加の投与から2週間後、3週間後、4週間後、5週間後または6週間後に、追加の血清サンプルを採取して、持続性陽性なのか、一過性陽性なのか割り出すことができる。一過性陽性患者は、抗α4β7抗体による治療に反応する可能性が高く、これらの患者の治療は、継続することができる。
免疫原性レベルの力価も割り出してよい。力価の分類には、≧5(低い)、≧50、≧125、≧625及び≧3125(高い)が含まれる。陽性サンプルにおける力価の高い患者は、抗α4β7抗体のクリアランスが高いことがあり、抗α4β7抗体による治療に反応しないことがある。陽性サンプルにおける力価の低い患者は、抗α4β7抗体による治療に反応することがある。
下記の実施例を参照することによって、本発明について更に深く理解するであろう。しかしながら、実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。全ての引用文献及び引用特許は、参照により、本明細書に援用される。
実施例1:薬物動態モデリングと薬力学モデリング
この実施例では、UC患者及びCD患者におけるベドリズマブ療法の包括的な集団薬物動態解析及び薬力学解析を報告する。我々の目的は、(1)最長で52週間、ベドリズマブ300mgを繰り返しIV注入した患者におけるベドリズマブの薬物動態を特徴付け、(2)患者におけるベドリズマブのクリアランスの臨床上関連する決定因子を特定し、(3)MAdCAM−1を薬力学的評価項目として用いて、患者におけるベドリズマブの薬物動態と薬力学との関係を説明することであった。
材料と方法
試験設計とサンプル採取
健常なボランティアにおける第1相試験、活動期UC患者における第2相試験(NCT01177228)、中度〜重度の活動期UC患者における第3相試験(GEMINI1[NCT00783718])、ならびに中度〜重度の活動期CD患者における第2相試験及び第3相試験(GEMINI2[NCT00783692]及びGEMINI3 [NCT01224171])という5つの無作為化プラセボ対照臨床試験から得たベドリズマブの血清中濃度を用いて、解析を行った(表S1)。第2相試験と第3相試験の試験設計と臨床データは、すでに報告されている。全ての試験プロトコールと同意書は、試験現場で、企業内治験審査委員会または倫理委員会から承認を得たとともに、医薬品臨床試験の実施基準及びDeclaration of Helinskiの原則に従って、試験を行った。全ての患者が、試験への参加前に、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
薬物動態解析、薬力学解析(MAdCAM−1)及び抗薬剤抗体(ADA)解析のための血液サンプル採取時点の詳細は、表S1に示されている。第1相試験と第2相試験では、薬物動態及び薬力学用の広域サンプリングを用いたのに対し、第3相試験では、スパースサンプリングを使用した。GEMINI3では、薬力学用サンプルは採取しなかった。
アッセイ
1:100の希釈度における検出下限が0.00125μg/mLで、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて、ベドリズマブの血清中濃度を割り出した。アッセイの正確性は、変動係数(CV)が10.1%、サンプル内精度が1.8%〜3.0%のCV範囲、サンプル間精度が4.0%〜16.0%のCV範囲であった。
末梢血清中のベドリズマブによるα4β7インテグリンの飽和を定量するために、MAdCAM−1−Fc結合干渉フローサイトメトリーアッセイを行った。この薬力学アッセイでは、MAdCAM−1−Fcのα4β7発現末梢血液細胞への結合が、血液中のベドリズマブによって阻害されることを、ベドリズマブによるα4β7の飽和の程度の尺度として用いる[1]。Millennium Pharmaceuticals,Inc.(通称Takeda Pharmaceuticals International,Co.)によって開発されたアッセイでは、サンプル内の全体的なばらつきが6%のCVであり、同一対象におけるばらつきが20%のCVであったことが示された。
有効なビオチン化ブリッジングELISAと、2つの血清希釈液(1:5及び1:50)を用いて、抗薬剤抗体(ADA)、すなわち、抗α4β7抗体に特異的な抗体(抗ベドリズマブ抗体)の存在を割り出した。プレートを抗α4β7抗体でコーティングする。固定化した抗α4β7抗体が、試験サンプル中のADAを捕獲する。洗浄後、結合した複合体が、ビオチンにコンジュゲートした抗α4β7抗体を捕獲し、再度洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを捕獲する。TMB基質とともにインキュベートすると、陽性着色によって、サンプル中のADAの存在が示される。陽性とスクリーニングされた全てのサンプルを更に希釈して、標準的な技法を用いて、最終的なADA力価を割り出した。両方のスクリーニング希釈液が陰性であった場合には、サンプルを陰性とみなした。いずれかの診察時に、その抗体が検出されたら、患者をADAに対して陽性として分類し、検出されなかった場合には、陰性として分類した。
データの組み立て
投与、共変量及び薬物動態−薬力学データをマージし、R,Version 2.10.1以上(www.r-project.org)を用いて、集団解析のためにフォーマットした。欠落していたベドリズマブ血清中濃度測定値、または付随の観察時点、投与時点、投与量もしくは投与間隔が不明か欠落していたいずれの値も、解析から除外した。MAdCAM−1測定値も同様に処理した。定量限界(BLQ)未満として報告された全てのベドリズマブサンプル(n=3189)は、集団薬物動態モデルの作成中には評価しなかった。BLQの観察物の半分超(n=1722)は、1回目のベドリズマブの投与の前に得たサンプルであった。
集団薬物動態データセットに存在する共変量は、血清中C反応性タンパク質(CRP)、血清中アルブミン、便中カルプロテクチン、体重、疾患活動性(クローン病活動性指標[CDAI]、完全Mayoスコア、部分的Mayoスコア)、Mayo内視鏡サブスコア、年齢、性別、ADAの状態(陽性または陰性)、事前のTNF−αアンタゴニスト療法の状態(ナイーブまたは不適格)、肥満度指数(BMI)、血清中グロブリン、診断(CDまたはUC)、リンパ球数及び併用療法の使用(メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリンまたはアミノサリシレート)であった。併用療法の開始日及び終了日をデータセットに投入して、併用治療の時間依存的効果を評価した。データが欠落した共変量は、残りの利用可能なデータ(例えば、残りの値の中央値)に基づき、様々な補完方法を用いて補完した。集団薬物動態データセットに存在する共変量には、10%超の値が欠落しているものはなかった。
集団薬物動態モデルの作成
非線形混合効果モデリングアプローチ(NONMEM 7,Version 7.2、ICON Development Solutions、米国メリーランド州エリコットシティー)を用いて、反復測度に対する集団薬物動態解析を行った[13]。η−ε間相互作用を考慮した条件付一次近似(FOCEI)法と、広域サンプリングした第1相及び第2相データを用いて、ベイズ集団薬物動態モデルを作成した。続いて、ベースモデルから得られた結果を、フル共変量モデルにおいて、GEMINI1、2及び3から得られる第3相疎データに適合させた集団薬物動態モデルパラメーターのサブセットに選択的に通知する事前情報として用いた。完全ベイズマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いて、フル共変量モデルを第3相データに適合させた。推定の不確実性の尺度としての95%ベイズ確信区間(CDI)とともに、全てのパラメーター推定値を報告した。
固定効果パラメーター(共変量係数及び構造モデルパラメーター)と変量効果パラメーターを含む集団パラメーターを推定した。フルブロック共分散行列とともに、線形クリアランス(CLL)、中央コンパートメント分布容積(Vc)及び最大消失速度(Vmax)の指数関数的分散モデルを用いて、個人間変量効果分布をモデル化した一方で、残差変量効果は、比例モデルによって記述した。
段階的な仮説検証ではなく、パラメーター推定を重視する共変量モデリングアプローチを集団薬物動態解析で実施した[14]。まず、探索的グラフィック、科学的重要性及び機械的妥当性に基づき、事前定義した共変量パラメーターの関係を特定した。続いて、予測因子における相関または共線性を回避するように、注意して、フル共変量モデルを構築し、相関係数が約0.35超の共変量を潜在的予測因子としては同時に含めなかった。フルモデルの構築は、対象の共変量効果の定量化をサポートするために、試験設計と共変量データの的確性を評価することによっても導いた。
パラメーターの臨床的関連性に関する推定は、得られたパラメーター推定値と、フルモデルの推定精度(95%ベイズCDI)の指標に基づいていた。薬物動態のばらつきの解釈のためのコンテクストを提供する効能関連の臨床評価項目の暴露−反応関係がない中では、典型的な集団値の±25%超という共変量効果サイズを臨床的に有意義な変化として提示した。
モデリング仮定には、薬物動態/薬力学(該当する場合)パラメーターの対数変換を含めた。生理学的関係が推測によって分からないこれらのケースでは、対数領域において加法モデルを用いて、連続共変量の効果をモデル化した一方で、カテゴリー共変量の効果を同様に記述した。
式中、モデルパラメーター(TPV)の典型的な値は、m個の個別の連続共変量(cov
mi)とp個の個別のカテゴリー共変量カテゴリーの関数として記述されており、θ
nは、共変量が基準共変量値と等しい(cov
mi=ref
m)個体の典型的な対数変換薬物動態パラメーター値を記述する推定パラメーターであり、θ
(m+n)及びθ
(p+m+n)は、共変量とパラメーターとの関係の程度を記述する推定パラメーターである。
最終的な集団薬物動態モデル及びパラメーター推定値を予測チェック方法によって調べた。この方法は、事後予測チェックと似ているが、パラメーターの不確実性は、個人間及び残差分散に対して無視可能であると仮定する。分位点−分位点プロットを用いて、オリジナルデータセットの500個のモンテカルロシミュレーション複製データを、観察したベドリズマブデータセットにおける同じ暴露測定基準の分布と比較した。
集団薬物動態−薬力学モデルの作成
非線形混合効果モデリングアプローチ(NONMEM、Version7.2)を用いて、反復測度に対する集団薬物動態−薬力学解析を行った。逐次的アプローチを用いて薬物動態−薬力学データをモデル化し、その際、集団薬物動態モデルから得た個々の予測ベドリズマブ血清中濃度を用いて、薬力学反応を駆動した。薬力学評価は、高レベルのα4β7インテグリン(CD4+CD45ROhigh)を発現するリンパ球によるMAdCAM−1の結合の割合に基づいていた。直接効果シグモイドEmaxモデルを選択して、ベドリズマブがMAdCAM−1のα4β7への結合に対して及ぼす効果について、暴露と反応との関係を特徴付けた。形式的な共変量モデリングまたはモデル評価は行わなかった。
結果
薬物動態解析集団
試験集団は、評価可能なベドリズマブ血清サンプル18427個を提供した2554人の個体(第1相試験の87人の健常なボランティア、第2相試験の46人の患者(UC)、ならびに第3相のGEMINI1試験の891人の患者(UC)、GEMINI2試験の1115人の患者(CD)、及びGEMINI3試験の415人試験の患者の(CD)を含む)から構成されていた。
薬物動態解析集団のデモグラフィック及びその他の特徴が表1にまとめられている。解析集団は、年齢範囲が18〜78歳、ベースライン体重の範囲が28〜170kgの1290人の男性と1264人の女性から構成されていた。合わせて1530人の個体がCD、937人がUC、87人が健常なボランティアであった。
GEMINI1のUC患者及びGEMINI2のCD患者のベドリズマブの血清中トラフ濃度−時間の中央値(四分位範囲)プロファイルが図1に示されている。
集団薬物動態モデリングの結果
ベイス薬物動態モデル
平行な線形消失と非線形消失を有する2コンパートメントモデルによって、ベドリズマブ薬物動態を記述した。2コンパートメントモデルにより、1コンパートメントモデルよりも適合度基準が有意に向上した。平行な線形消失と非線形消失のモデルの方が線形モデルよりも向上したからである。ベドリズマブの集団薬物動態モデルが、図2に図式的に示されている。
共変量薬物動態モデル
体重とBMI、性別と体重、CRPとアルブミン、CRPと便中カルプロテクチン、CRPとグロブリン、アルブミンとグロブリン、完全Mayoスコアと部分的Mayoスコア、Mayo内視鏡サブスコアと完全Mayoスコア、及びMayo内視鏡サブスコアと部分的Mayoスコアという共変量間に、強い相関関係が確認された。したがって、性別、CRP、完全Mayoスコア、Mayo内視鏡サブスコア、グロブリン及びBMIをフル共変量モデルから除外した。以下で説明するように、集団薬物動態モデルが決定したら、探索的ポストホック形式で、性別、CRP及び内視鏡サブスコアがベドリズマブの薬物動態に及ぼす効果を独立して評価した。
体格の関数として、ベドリズマブ薬物動態の変化を示すために、体重を選択し、基準体重70kgの相対成長モデルを用いて記述した。アルブミン、便中カルプロテクチン、部分的Mayoスコア、年齢及びCDAIスコアという他の連続共変量は、基準値(典型的には、データの観察中央値に近い値)によって正規化された関数として、モデルに組み込んだ。事前のTNF−αアンタゴニスト療法の状態、ADAの状態、併用療法の使用及びIBDの診断というカテゴリー共変量は、各効果のオンオフスイッチとして機能する別個の二値(0,1)共変量を持つ関数としてモデルに組み込んだ。時間依存的共変量は、体重、アルブミン、便中カルプロテクチン及び併用療法の使用であった。UC患者とCD患者に関する別個のCLLパラメーターをモデル化することによって、IBDの診断が線形クリアランス(CLL)に及ぼす効果を調べ、IBDの診断が中央コンパートメント分布容積(Vc)に及ぼす効果は、IBDをVcの予測因子として共変量モデルに含めることによって評価した。
薬物動態モデルの最終結果
最終的な集団薬物動態モデルから得た典型的な薬物動態パラメーター及び分散パラメーター推定値、ならびに95%CDIが、基準共変量値(表2の脚注に列挙されている)に関して、表2に示されている。
薬物動態パラメーター推定値と、重複している95%CDIによって、UC患者とCD患者において、CLLが同じであったことが示された。線形消失期のベドリズマブの半減期は、典型的な基準患者において25.5日であり、個々の推定値は、14.6〜36.0日の範囲であった(第5及び第95パーセンタイル)。分散パラメーター推定値は、中程度〜高程度の未解明の個人間ばらつきを示していた。CLLの典型的な値は、UC患者では0.159L/日、CD患者では0.155L/日であった。UC患者及びCD患者におけるCLLの個々の推定値は、図3に示されているように、広範囲に分布していた。比例残差分散推定値(このモデルにおける未解明の変量残差のばらつき)は、比較的小さかった。個人間分散と相関関係の推定値が、表S2に示されており、個人間変量効果の標準偏差及び縮減推定値が、表S3に示されている。
最終的な集団薬物動態モデルから得た適合度プロットが、図4及び9に示されている。診断プロットによって、このフル共変量薬物動態モデルが、観察データと整合していたことと、系統的バイアスがあまり見られなかったことが示された。様々な共変量値を持つ基準個体におけるCLLの相対的変化が、図5に示されている。共変量がCLLに及ぼす効果の点推定値及び95%CDIが、表S4に示されている。
概して、95%CDIは狭く、各共変量がベドリズマブCLLに及ぼす効果が明確に定義されたことを示している。アルブミン及び体重の効果のみが、代表的範囲の極値において、臨床的に有意義である可能性があった(25%超の効果サイズ)。アルブミンレベルが4.7g/dLの患者の典型的なCLL値は、基準患者(アルブミン、4g/dL)の約0.8倍、アルブミンレベルが3.2g/dLの患者は、約1.3倍であった(図5)。40kgの患者の典型的なCLL値は、基準患者(体重70kg)の約0.8倍であった。体重範囲のもう一方の限界値では、120kgの患者のCLLは、基準患者よりも1.2倍高かった(図5)。血清中アルブミン濃度が4.0g/dLの120kgの患者は、臨床的有意性について予め定めた基準よりも高いクリアランスを有する可能性が19%であった。共変量値及びカテゴリーの代表的範囲にわたり評価したところ、便中カルプロテクチン、CDAIスコア、部分的Mayoスコア、年齢、事前のTNF−αアンタゴニスト療法の状態、ADAの状態及び併用療法の使用がベドリズマブCLLに及ぼす効果は、臨床上関連するものではないとされた。共変量効果サイズが、典型的な基準値から±25%未満であったからである(表S4)。加えて、これらの共変量効果の95%CDIは通常狭く、無効果値を含んでいた。
最終モデルから得た全ての共変量と推定値に固定した薬物動態パラメーター(個人間分散は、最推定した)によって、最終的な集団薬物動態モデルを再度実施し、性別がCLL及びVcに及ぼすあらゆる残りの効果を定量化した。この解析の結果により、ベドリズマブ薬物動態の他の予測因子に関して調節した後、女性患者では、男性患者と比べて、典型的なCLL値が約10%低くなり、Vcが約6%低くなることが示唆されている。しかしながら、これらの効果は、臨床上関連するものではないとされた。共変量効果サイズが、典型的な基準値(男性患者)から±25%未満であったからである。性別効果を加えることによって、CLLでは約4.2%、Vcでは6.0%の未解明の個人間ばらつきが説明された。
最終的な集団薬物動態モデルを再度実施して、CRPがCLLに及ぼすいずれかの残りの効果も推定した。結果によって、ベドリズマブ薬物動態の他の予測因子に関して調節した後、CRPがCLLに及ぼす効果が、臨床上関連しないことが示唆された。0.46〜93mg/dLのベースラインCRP値の範囲にわたって評価した(第2.5及び第97.5パーセンタイルを観察した)ところ、共変量効果サイズが、典型的な基準値(CRP、11mg/dL)から、±25%未満であったからである。CRP効果を加えることによって、CLLにおける<1%の未解明の個人間ばらつきが説明された。
UC患者では、最終的な集団薬物動態モデルから得たCLLの個々の推定値を、6週目における内視鏡サブスコアによってプロットすることによって、Mayo内視鏡サブスコアの効果を図によって評価した(図6)。この解析から、6週目(誘導治療の終了時)には、内視鏡サブスコアが3の患者は、内視鏡サブスコアが0の患者よりもCLLが平均で25%高かった。
薬物動態モデル評価
予測チェック方法と、事後確率分布から抽出した95%ベイズCDIによって、最終的な集団薬物動態モデル及びパラメーター推定値を評価した。予測チェックの基本前提は、観察データセットから抽出したモデル及びパラメーターによって、元の観察データと同等のシミュレートデータを作成しなければならないことである。予測チェックプロットによって、観察データとシミュレートデータは、全体的によく一致していることが示された(図10、11及び12)。95%ベイズCDI(表2、S2及びS4)を評価することによって、パラメーター推定値の精度を評価した。全体的に、構造的薬物動態モデルパラメーター、共変量効果及び分散パラメーターは、精度が良好であると推定された。
薬物動態−薬力学解析集団
ベドリズマブ集団薬物動態−薬力学データセットは、合計2442個の評価可能なMAdCAM−1観察記録を提供した593人の個体から構成されていた。この解析集団は、297人のUC患者と296人のCD患者(第2相試験、ならびにGEMINI1及び2由来)から構成されていた。
解析中、MAdCAM−1(ベドリズマブによってブロックされていない遊離α4β7受容体)の対数変換値をモデル化した。GEMINI1及び2のUC患者及びCD患者における観察MAdCAM−1測定値(遊離α4β7受容体の割合)と観察ベドリズマブ血清中濃度をプロットしたものが、図7に示されている。GEMINI1及び2のUC患者及びCD患者において、治療レジメンごとに、観察MAdCAM−1測定値と時間をプロットしたものが、図8に示されている。遊離α4β7受容体の割合は、1回目の投与後、直ちに低下し、ベドリズマブ300mgの反復IV注入中、維持された。
薬物動態−薬力学モデリング結果
直接効果シグモイドE
maxモデルを構造モデルとして選択して、以下のように、ベドリズマブの薬物動態と薬力学との関係を記述した。
式中、Eoは、ベースラインのMAdCAM−1の結合パーセントであり、Emaxは、最大効果であり、Concは、ベドリズマブの血清中濃度であり、EC50は、最大効果の半値におけるベドリズマブの血清中濃度であり、γは、ヒル係数、すなわち傾き係数である。
ベースラインMAdCAM−1阻害(E0)、最大効果(Emax)、最大効果の半値におけるベドリズマブの血清中濃度(EC50)及びヒル係数、すなわち傾き係数(γ)に関して、モデルをパラメーター化した。構造パラメーター推定値は、表3に示されており、十分な精度で推定した。プラセボ効果をモデル化しようと試みたが、推定された効果は、ごくわずかであった。明らかな効果がないことは、プラセボで治療した患者における観察MAdCAM−1データと整合していた。
ベースモデルにより、診断プロット(図13)の目視確認によって判断したところ、データの妥当な記述が得られたが、モデル中、いくつかの欠陥が見られた。分散パラメーター推定値は、中程度〜高程度の未解明の個人間及び残差ばらつきを示しており、推定値は、E0では、CVが41.8%、Emaxでは0.551(SDロジスティック分布)、指数関数的残留誤差分散(σ2 exp)では、CVが78.3%であった(表3)。
考察
出願人は、健常なボランティア、UC患者及びCD患者にIV投与後に、同一の設計及びサンプル採取スケジュールによる臨床試験で集めたデータを用いて、ベドリズマブの集団薬物動態モデルを作成した。これらの設計の特徴により、UC患者とCD患者のベドリズマブの体内動態及び薬物動態的ばらつきの直接比較が可能になった。これらの2つの疾患の間では、ベドリズマブの推定半減期に差がなく、その推定半減期は、25.5日(14.6〜36.0日の範囲[第5パーセンタイルと第95パーセンタイル])であり、これは、ヒトIgG1(25日)に典型的なものであるとともに、IgG1タイプA2のモノクローナル抗体に典型的なものである。この半減期は実質的に、現在の生物学的なIBD治療剤の値よりも長い。臨床家は、薬剤への暴露を最小限にするのが望ましい状況において、ベドリズマブの比較的長い半減期を認識しているはずである。これに関連する例としては、治療中に腸管感染症を発現する患者、妊娠して、妊娠第三期に薬剤を摂取する女性が挙げられる。
中央コンパートメントに由来する非線形経路(CLNL)及び線形経路(CLL)による平行なクリアランスからなる2コンパートメント薬物動態モデルをベースモデルとして選択した。非線形消失は、ミカエリスメンテン型消失によって最も良く説明された。生理学的には、非線形経路は、受容体媒介エンドサイトーシスのような飽和可能な標的媒介機構によるクリアランスによると考えられている。これに対して、線形経路は、Fc媒介消失のように、治療濃度においては飽和不可能である成分を表している。平行な消失は、体内動態が標的への結合の影響を受け、このケースでは、α4β7インテグリンが循環Tリンパ球に影響を及ぼすモノクローナル抗体に典型的なものである。エファリズマブ、トシリズマブ及びセツキシマブにおいて、同様の効果が報告されている。これに対して、TNF−αアンタゴニストの消失は、線形消失プロセスによって最も良く説明される。IV投与後、UCまたは強直性脊椎炎患者におけるインフリキシマブの消失、及び関節リウマチ患者におけるゴリムマブの消失は、線形消失を有する2コンパートメントモデルに従う。TNF−αは、可溶形態と膜結合形態の両方で存在し、IBD患者において、異常に高濃度で、血清及び腸粘膜に存在する。炎症組織におけるTNF−αの局在化により、薬剤の血漿から標的部位への再分布が遅いために、標的の飽和が迅速に行われるのが難しくなることがある。したがって、治療濃度で標的の飽和を得るのが困難なことがある。更に、異なるコンパートメントにおけるTNF−α濃度のばらつきにより、薬剤が再分配され、TNF−αアンタゴニストの薬物動態及び薬物動態と効能/安全性との関係に影響が及ぶ可能性がある。消失経路におけるこれらの違いの臨床上の意義は、現在のところ理解されていない。
推定ベドリズマブCLL値は、静脈内投与される他のモノクローナル抗体の値と整合している。抗体のクリアランスがIBDのタイプの影響を受け得ることを報告している執筆者もいるが、UC患者及びCD患者におけるベドリズマブの薬物動態では、明らかな差は観察されなかった。最終的な薬物動態モデルから得られた結果によって、血清中アルブミン濃度が4g/dLである40歳の70kgの患者におけるベドリズマブCLLは、UC患者では0.159L/日、CD患者では0.155L/日であったことが示された。
出願人は、内部及び外部共変量(体重、年齢、アルブミン、便中カルプロテクチン、CDAIスコア、部分的Mayoスコア、併用療法の使用、AVAの状態及び事前のTNF−αアンタゴニスト療法の状態)がベドリズマブCLLに及ぼす瀬在的効果を評価した。極値のアルブミンと体重は、薬剤クリアランスに重要な効果を及ぼした。具体的には、アルブミン濃度が低下し、体重が増加すると、クリアランスが上昇した。70kgの患者では、3.2g/dL未満のアルブミン濃度が、ベドリズマブのクリアランスの上昇と関連付けられ、この上昇は、臨床的有意性について予め定めた基準を上回っていた。集団薬物動態解析において、低いアルブミン濃度と他のモノクローナル抗体との同様の関連性が報告されている。この相互作用の機序は、完全には理解されていないが、腸、腎臓近位尿細管及び上気道の血管内皮、単球、マクロファージ、樹状細胞、肝細胞及び上皮細胞を含め、全身における多種多様な細胞と組織で発現するFc受容体(FcRn)は、IgGとアルブミンの分子をタンパク質分解からサルベージして、中心循環系にリサイクルすることによって、IgGとアルブミンのホメオスタシスを促す。FcRnの発現及び/または活性が低下すると、治療用抗体及びアルブミンを含むIgGのサルベージ効率の低下により、アルブミン濃度が低下し、最終結果は、抗体のクリアランスの上昇と、このケースでは、血清中ベドリズマブ濃度の低下であると仮定されている。しかしながら、この仮説は、証明されていない。別の説明は、IBD患者における消化管の炎症により、非従来経路の消失が生じ得る。具体的には、重症の大腸炎という設定では、患者は、大量のタンパク質が管腔から失われるタンパク質漏出性結腸疾患を発現し得る。したがって、アルブミンは、この経路を介する内因性IgG及びモノクローナル抗体の喪失のサロゲートマーカーとして機能し得る。この仮説の裏付けは、インフリキシマブで治療した重症の大腸炎患者における観察(便中で、そのモノクローナル抗体が高濃度で確認された)に由来する。逆に、これらの患者では、血清中薬剤濃度は低かった。治療の成功は、この現象の解決と関連付けられた。便中ベドリズマブ濃度は、GEMINI試験中測定されず、出願人は、この仮説を評価できなかった。
確認された第2の重要な共変量は体重であり、体重は、ベドリズマブのクリアランスと正に相関していた。血清中アルブミン濃度が4.0g/dLである120kgの患者は、臨床的有意性について予め定めた基準よりも高いクリアランスを有する可能性が19%であった。体格の指標は、治療用モノクローナル抗体の薬物動態に影響を及ぼす共変量のうち、最も一般的に認められるものである。体重がベドリズマブの薬物動態に及ぼす影響は、他の治療用モノクローナル抗体の集団解析において報告されているものと整合している。
他の潜在的な共変量がベドリズマブのクリアランスに及ぼす効果は、体重及びアルブミンよりも小さかった。炎症の強度は、他のモノクローナル抗体において、高い薬剤クリアランスの予測因子として確認されている。出願人の解析においては、Mayo内視鏡サブスコアが低いUC患者の平均クリアランスは、内視鏡サブスコアが高い患者よりも低かった。しかしながら、これらの結果は、慎重に解釈しなければならない。粘膜治癒をしているUC患者及びCD患者では、TNF−αアンタゴニストのトラフレベルが高くなることが報告されており、この関係は偶然ではなく、薬剤漏出性腸疾患と、粘膜治癒と、アルブミン濃度との関連性を反映するに過ぎない可能性が高くなるからである。
炎症の強度は、他のモノクローナル抗体において、クリアランスの陽性予測因子として報告されている。既存の最終的な集団薬物動態モデルに存在する他の共変量(アルブミンなど)の効果を考慮後、ポストホック探索的解析によって、ベドリズマブのクリアランスにおける未解明のランダムなばらつきの予測因子として、CRPの効果を推定した。これらの結果によって、CRPがCLLに及ぼす効果は、臨床上関連せず、ベドリズマブのCLLの1%未満の未解明の個人間のばらつきを説明したことが示唆されている。これに対して、高いCRP濃度は、抗TNF−αモノクローナル抗体のクリアランスの向上と強い関連がある。したがって、アルブミンとCRPは強く相関していたので、アルブミンを組み込むことによって、CRPがベドリズマブCLLに及ぼすいずれかの潜在的な効果は、既に考慮されていた。
ADAの惹起が、インフリキシマブのクリアランスを上昇させることが報告されている。今回の解析では、ADAの存在が、ベドリズマブのクリアランスを12%だけ上昇させると推定された。この小さい影響は、GEMINI試験で観察されたADAの発現の低さによると思われる。しかしながら、これらの研究でADAに対して持続性陽性を示した少数の患者では、ベドリズマブトラフ濃度は、定量限界を下回った。モノクローナル抗体に対する患者の感作が、治療失敗の重大な原因であり、この点においては、ベドリズマブも例外ではないと出願人は考えている。
今回の集団薬物動態解析では、疾患活動性、事前のTNF−αアンタゴニスト療法の状態、年齢(18〜78歳)及び併用薬の使用という共変量がベドリズマブの薬物動態に及ぼす臨床的に有意義な影響は示されなかった。事前のTNF−αアンタゴニスト療法の使用との関連性の欠如は、ベドリズマブで治療したUC患者とCD患者において、臨床的寛解または反応の可能性が高いことと関連していた。総合すると、これらの観察によって、事前のTNF−αアンタゴニスト療法の使用がベドリズマブの効能に及ぼす影響は、ベドリズマブCLLに対するいずれの効果とも関係がないことが示唆されている。
チオプリン及びメトトレキサートの同時投与が、トラフ濃度の上昇と薬剤クリアランスの低下と関連付けられるIBD患者及び関節リウマチ患者の両方において、チオプリン及びメトトレキサートがベドリズマブの薬物動態に影響を及ぼさないのは、TNF−αアンタゴニストとは異なる。代謝拮抗剤が生物学的薬剤の濃度を上昇させる機序は、あまり理解されていないが、Fcγの発現の調節が、考え得る説明である。例えば、メトトレキサートは、単球上のFcγ受容体とその他のFc−受容体サブタイプをダウンレギュレートすることが知られている。更に、ADAの惹起を防ぐと、免疫媒介性の薬剤クリアランスを低下させることによって、薬剤暴露が増大する。併用薬がベドリズマブCLLに及ぼす効果がない理由は、現在のところ理解されていない。感度解析を行って、Population Pharmacokinetic Therapeutic Protein−Drug Interaction(PK TPDI)Working Groupによって推奨されているように、ベドリズマブの集団薬物動態データセットにおける併用薬使用の比率が、薬剤相互作用のないことを検出するのに少なくとも80%の指数を得るのに十分であったか確かめた。この解析によって、少なくとも80%の指数を確保するためのサンプルサイズ要件をデータセットが満たしていたことが明らかになったとともに、ベドリズマブCLLが、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサートまたはアミノサリシレートの併用の影響を受けなかったことが確認された。
興味深いことに、治療有効量以下とみなされるベドリズマブ濃度で、α4β7受容体の飽和が維持されたことから、受容体の飽和が、臨床効果のために必要ではあるが十分ではないのではないかという疑問が生じた。集団薬物動態−薬力学モデルから得たEC50推定値は、0.093μg/mLであったことから、約1μg/mLのベドリズマブ血清中濃度で完全飽和に達することが示唆された。暴露−効能結果によって、誘導時の17μg/mL未満(UC患者)及び15μg/mL未満(CD患者)のベドリズマブ濃度が、プラセボと同様の効能と関連付けられることが示された。この矛盾は、MAdCAM−1アッセイで、循環T−細胞においてα4β7飽和が測定されることによって説明されると思われ、または薬剤作用の発現が遅いことによると思われる。MAdCAM−1アッセイは、用量を考慮しておらず、用量選択には使用すべきではない。更に、組織コンパートメントにおける細胞間相互作用に対する効果と区別して、末梢血液におけるα4β7受容体ブロックの相対的な薬力学的寄与を評価するための試験が、研究の優先である。
結論としては、UC患者及びCD患者において、ベドリズマブの薬物動態−薬力学特性を特徴付ける集団モデルの作成は成功した。モデリング結果によって、ベドリズマブの典型的な薬物動態は、UC患者及びCD患者で同様であったことが示唆された。アルブミンと体重が、ベドリズマブのクリアランスの重要な予測因子として確認されたが、これらの共変量の効果は、極値において臨床的に有意義とみなされたにすぎなかった。驚くべきことに、免疫抑制剤の同時投与には、ベドリズマブの薬物動態に対して、臨床上関連する影響がなかった。しかしながら、この所見は、TNF−αアンタゴニストにおける免疫原性の阻止と、薬剤濃度の低下との十分に確立された関係とは対照的である。この解析は、UC患者及びCD患者でベドリズマブによる固定投与を用いることを裏付けた。
実施例2 便中カルプロテクチン評価
好中球細胞質タンパク質のカルプロテクチンの便中レベルは、炎症性腸疾患における炎症の内視鏡重症度と相関しており、<50μg/gは、非罹患集団に典型的な値であり、>50〜<150μg/gは、粘膜炎症の可能性があり、>150μg/gは、活動性炎症であり、高レベルは、再発リスクの向上と関連する。ここでの目的は、中度〜重度の活動期UCの患者において、VDZによる誘導治療が、便中カルプロテクチンレベルを低下させるか判断することである。
GEMINI1第3相臨床試験の盲検誘導部の患者を、便中のfCalについて試験し、カルプロテクチンレベルに対する反応または寛解について調べた。便サンプルは、0週目と6週目に採取した。PhiCalのカルプロテクチンキット(アッセイ感度:9ng/mlの希釈サンプル)を用いて、fCalレベルを測定した。
治療または反応状態ごとの6週目におけるベースラインに対するカルプロテクチンの割合が、図14に示されている。P値は、ウイルコクソンの順位和検定(両側)から、対数変換データに基づいて得たものである。ベースラインと6週目のカルプロテクチン値の両方がある患者のみが、この解析に含まれている。VDZで治療した患者では、fCalの幾何平均が69%低下し、PBOで治療した患者では、32%低下したことが観察された(P=0.0011)。
ベースラインでは、平均fCALレベルは、PBOで治療した患者では2370μg/g、VDZで治療した患者では、2552μg/gであった。
誘導療法に反応した患者では、治療にかかわらず、FCAL濃度が低下した。UCに対するVDZ誘導療法は、6週目のfCalレベル(粘膜炎症のマーカー)をPBOよりも有意に低下させた。反応と寛解の割合は、ベースラインfCal濃度にかかわらず、VDZの方が高かった。
実施例3 潰瘍性大腸炎における臨床転帰の予測因子としての6週目における深い寛解
深い寛解(内視鏡転帰と患者が報告する転帰の組み合わせ)は、潰瘍性大腸炎(UC)患者に対する、新たに発生しつつある治療目標である。しかしながら、現在のところ、UC患者の深い寛解の評価については、標準化された定義は存在しない。6週目及び52週目における深い寛解の評価項目の統計的に有意かつ臨床的に有意義な改善は、GEMINI1集団で、内視鏡Mayoサブスコアと患者が報告する転帰との様々な組み合わせを用いて、既に報告した。この実施例では、出願人は、GEMINI1から得たデータのポストホック解析を用いて、VDZによる深い寛解が、UC患者における臨床転帰と健康関連クオリティ・オブ・ライフ(HRQoL)の予測因子であるかを調べる。
6週目または52週目に深い寛解状態であった維持ITT集団において、52週目に、臨床及びHRQoLの評価項目を評価した。
・臨床的寛解:完全Mayoスコアが≦2ポイントであり、>1ポイントの個別サブスコアがないこと
・粘膜治癒:Mayo内視鏡サブスコアが≦1であること
・コルチコステロイド(CS)非投与下寛解:ベースラインにおいて、経口CSを用いていたが、CSを停止した患者が、52週目に臨床的寛解状態であること
European Quality of Life−5 Dimension(EQ−5D)ビジュアルアナログスケール(VAS):≧7ポイントの上昇は、臨床的に有意義な改善を表す
Inflammatory Bowel Disease Questionnaire(IBDQ)合計スコア:>170のスコアは、寛解状態の患者のHRQoLの特徴を示している。52週目における観察症例を用いて、臨床評価項目を解析し、HRQoL評価項目では、最終観察繰越法を用いて、欠測患者を考慮した。
維持ITT集団における全ての患者に、誘導中、VDZを2回投与し、深い寛解の度合いは、両方の定義を用いたところ、6週目(維持ベースライン)において、治療グループにわたって同程度であった。52週目では、いずれの定義によっても、深い寛解状態であったVDZ治療患者は、PBO治療患者のほぼ3倍であった。
52週目に全ての臨床評価項目を満たした割合は、6週目において深い寛解状態であった患者(定義1または2)の方が、深い寛解でなかった患者よりも高く、その差は、VDZ Q4Wで最も大きかった。6週目において深い寛解状態であった患者は、VDZによる維持治療の方が、PBOによる治療よりも、臨床転帰が改善された(図15A〜15F及び16A〜16F)。定義1においては、PBOによる維持治療後の臨床的寛解は、6週目において深い寛解状態であった患者と、深い寛解でなかった患者において同程度であった。概して、52週目に、HRQoLの臨床的に有意義な改善が報告された割合は、6週目において深い寛解状態であった(定義1または2)患者の方が、深い寛解でなかった患者よりも多かった。IBDQ及びEQ−5D VASは、深い寛解状態であった患者であって、PBOで治療した患者と比べて、深い寛解状態であった患者であって、VDZで治療した患者の方が改善した。6週目において深い寛解状態でなかった患者においても、PBOに無作為に選ばれた患者よりも、VDZによる維持治療を行った患者の方が、臨床転帰とHRQoLの結果が改善した割合が高かった。
結論:いずれの定義を用いたときも、VDZで治療した患者の方が、PBOで治療した患者よりも、52週目において深い寛解状態であった割合が高く、厳格でない方の定義2を用いた場合には、深い寛解状態と分類された患者が多かった。いずれの定義を用いた場合も、6週目において深い寛解状態であった患者の方が、6週目において深い寛解でなかった患者と比べて、52週目において臨床及びHRQoLの評価項目の大半を満たした割合が高かった。VDZで治療した患者の方が、PBOで治療した患者よりも、転帰が改善した。52週目における深い寛解の実現は、治療グループにかかわらず、52週目における臨床転帰とHRQoLの結果の改善と一致した。これらの結果によって、更なる試験での深い寛解モニタリングを用いて、患者の転帰を予測できることが示唆されている。
本発明は次の実施態様を含む。
[1]
炎症性腸疾患(IBD)患者の治療方法であって、
a)患者におけるベドリズマブの濃度を測定する工程であって、少なくとも2週間前に、前記患者に、ベドリズマブの誘導期投与レジメンを実施してある工程と、
b)工程a)におけるベドリズマブの測定によって、低いクリアランスが示される前記患者を選択する工程と、
c)前記選択した患者にベドリズマブを投与し、それによってIBDを治療する工程と、
を含む前記方法。
[2]
前記ベドリズマブの濃度が、血清中濃度である、上記[1]に記載の方法。
[3]
前記血清中濃度が、血清中トラフ濃度である、上記[2]に記載の方法。
[4]
前記血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、前記患者を選択する、上記[3]に記載の方法。
[5]
前記濃度測定値を用いて、クリアランス速度を計算する、上記[1]に記載の方法。
[6]
前記クリアランス速度が0.25L/日未満である場合に、前記患者を選択する、上記[5]に記載の方法。
[7]
IBD患者の治療方法であって、
a)前記IBD患者にベドリズマブを2用量投与する工程であって、前記患者に1回目の用量を投与した約2週間後に、2回目の用量を投与する工程と、
b)前記患者を選択する工程であって、前記2回目の用量の投与から少なくとも2週間後に割り出した場合に、前記患者の血清中濃度が少なくとも8μg/mlである工程と、
c)前記選択した患者にベドリズマブを投与し、それによって、前記IBD患者を治療する工程と、
を含む前記方法。
[8]
IBD患者の治療方法であって、
a)前記IBD患者にベドリズマブを2用量投与する工程であって、前記患者に1回目の用量を投与してから約2週間後に、2回目の用量を投与する工程と、
b)約4週間の期間を置く工程と、
c)前記患者のベドリズマブの血清中濃度を測定する工程と、
d)前記患者の血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、前記患者に、更なる用量のベドリズマブを1回以上投与する工程と、
を含む前記方法。
[9]
前記患者の血清中濃度が、12〜25μg/ml、15〜17μg/ml、17〜25μg/ml、12〜40μg/ml及び17〜40μg/mlからなる群から選択されている、上記[3]または[8]に記載の方法。
[10]
前記ベドリズマブの血清中濃度をサンドイッチELISAアッセイによって測定する、上記[2]、[3]、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[11]
前記患者が粘膜治癒をしている、上記[1]に記載の方法。
[12]
内視鏡サブスコアを測定することを更に含み、3未満の内視鏡サブスコアで、ベドリズマブを継続する、上記[1]、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[13]
2.5未満の内視鏡サブスコアで、ベドリズマブを継続する、上記[12]に記載の方法。
[14]
2未満の内視鏡サブスコアで、ベドリズマブを継続する、上記[12]に記載の方法。
[15]
SES−CDを測定することを更に含み、SES−CDスコア≦6で、ベドリズマブを継続する、上記[1]、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[16]
前記SES−CDスコアが≦4である、上記[15]に記載の方法。
[17]
MaRIAを測定することを更に含み、MaRIAスコア<12で、ベドリズマブを継続する、上記[1]、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[18]
前記MaRIAスコアが<7である、上記[17]に記載の方法。
[19]
便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含む、上記[1]、[7]または[8]のいずれかに記載の方法。
[20]
<1500μg/gの便中カルプロテクチン濃度で、ベドリズマブを継続する、上記[19]に記載の方法。
[21]
前記便中カルプロテクチンが、治療前の濃度の<50%に低下している場合に、ベドリズマブを継続する、上記[19]に記載の方法。
[22]
IBD患者の治療方法であって、
a)前記IBD患者にベドリズマブを2用量投与する工程であって、前記患者に1回目の用量を投与してから約2週間後に、2回目の用量を投与する工程と、
b)前記患者を選択する工程であって、前記2回目の用量の投与から少なくとも2週間後に割り出した場合に、前記患者の便中カルプロテクチン濃度が<1500μg/gである工程と、
c)前記選択した患者にベドリズマブを投与し、それによって、前記IBD患者を治療する工程と、
を含む前記方法。
[23]
前記便中カルプロテクチンが、前記ベースラインの<50%に低下している場合に、ベドリズマブを継続する、上記[22]に記載の方法。
[24]
ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、
a)過去4カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量摂取してあるIBD患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、
b)前記サンプル中の前記血清中濃度が、少なくとも8μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する前記患者を特定する工程と、
を含む前記方法。
[25]
前記患者が、過去3カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量摂取してある、上記[24]に記載の方法。
[26]
前記患者が、過去2カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量摂取してある、上記[24]に記載の方法。
[27]
SES−CDを測定することを更に含み、SES−CDスコア≦6で、ベドリズマブを継続する、上記[24]に記載の方法。
[28]
MaRIAを測定することを更に含み、MaRIAスコア<12で、ベドリズマブを継続する、上記[24]に記載の方法。
[29]
前記ベドリズマブの血清中濃度をサンドイッチELISAアッセイによって測定する、上記[24]に記載の方法。
[30]
前記患者が粘膜治癒をしている、上記[24]に記載の方法。
[31]
前記患者の内視鏡サブスコアが3未満である、上記[24]に記載の方法。
[32]
前記患者の内視鏡サブスコアが2未満である、上記[24]に記載の方法。
[33]
前記患者の内視鏡サブスコアが0〜2である、上記[24]に記載の方法。
[34]
ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、
a)過去2カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも1用量摂取してあるIBD患者から得た血清サンプル中のベドリズマブの濃度を測定する工程と、
b)前記サンプル中の前記血清中濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、ベドリズマブによる治療を継続する前記患者を特定する工程と、
を含む前記方法。
[35]
前記患者が、過去1カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも1用量摂取してある、上記[34]に記載の方法。
[36]
患者における炎症性腸疾患の寛解維持方法であって、前記患者が、過去2カ月内に、ベドリズマブを少なくとも1用量摂取してあり、
a)血清サンプルを前記患者から得ることと、
b)前記サンプル中のベドリズマブの濃度を測定することと、
c)前記濃度が少なくとも8μg/mlである場合に、それ以降、8週間おきにベドリズマブを投与することと、
を含む前記方法。
[37]
前記患者の内視鏡サブスコアを測定することと、
前記患者が深い寛解状態である場合に、前記患者をベドリズマブで治療するのを継続することと、
を更に含む、上記[34]に記載の方法。
[38]
前記内視鏡サブスコアが0〜1である場合に、前記患者が深い寛解状態であると判断し、ベドリズマブの摂取を継続させる、上記[37]に記載の方法。
[39]
患者が報告する転帰スコアを割り出すことを更に含み、深い寛解状態の判断に、前記内視鏡サブスコアと、前記患者が報告する転帰スコアの両方が0〜1であることが含まれる、上記[37]に記載の方法。
[40]
患者が報告する転帰が、直腸出血サブスコアを含む、上記[39]に記載の方法。
[41]
患者が報告する転帰が、排便頻度サブスコアを含む、上記[39]に記載の方法。
[42]
便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含む、上記[37]に記載の方法。
[43]
<1500μg/gの便中カルプロテクチン濃度で、ベドリズマブを継続する、上記[42]に記載の方法。
[44]
前記便中カルプロテクチンが、治療前の濃度の<50%に低下している場合に、ベドリズマブを継続する、上記[42]に記載の方法。
[45]
ベドリズマブによる治療を継続する患者の特定方法であって、
a)過去4カ月以内に、ベドリズマブを少なくとも2用量投与してあるIBD患者から得た生体サンプル中のベドリズマブのクリアランスを測定する工程と、
b)前記患者における前記クリアランスが0.25L/日未満である場合に、ベドリズマブによる治療を継続する前記患者を特定する工程と、
を含む前記方法。
[46]
抗ベドリズマブ抗体を測定することを更に含む、上記[45]に記載の方法。
[47]
≦125の抗ベドリズマブ抗体力価によって、ベドリズマブによる治療を継続する前記患者を更に特定する、上記[46]に記載の方法。
[48]
アルブミン濃度を測定することを更に含む、上記[45]に記載の方法。
[49]
アルブミン濃度>3.2g/dLによって、ベドリズマブによる治療を継続する前記患者を更に特定する、上記[48]に記載の方法。
[50]
便中カルプロテクチン濃度を測定することを更に含む、上記[45]に記載の方法。
[51]
<1500μg/gの便中カルプロテクチン濃度で、ベドリズマブを継続する、上記[50]に記載の方法。
[52]
前記便中カルプロテクチンが、治療前の濃度の<50%に低下している場合に、ベドリズマブを継続する、上記[50]に記載の方法。
[53]
炎症性腸疾患(IBD)のヒト患者の治療方法であって、
a)ベドリズマブの2回目の用量の投与から4週間後の時点に、ベドリズマブの血清中濃度が少なくとも8μg/mlであるIBDを有するヒト患者を選択する工程であって、ベドリズマブの前記2回目の用量の投与の2週間前に、前記対象にベドリズマブの1回目の用量を投与してある工程と、
b)前記IBDを有するヒト患者に、ベドリズマブを投与し、それによって、前記IBDを有するヒト患者を治療する工程と、
を含む前記方法。
[54]
炎症性腸疾患(IBD)のヒト患者の、ベドリズマブによる治療に対する反応性のインビトロ判断方法であって、前記患者から得た血液サンプルを抗ベドリズマブ抗体と接触させることによって、前記血液サンプル中のベドリズマブ濃度を測定することを含み、
ベドリズマブの2回目の用量の投与から約4週間後に、前記サンプルを採取し、
ベドリズマブの前記2回目の用量の投与の2週間前に、前記対象にベドリズマブの1回目の用量を投与してあり、
前記血液サンプル中のベドリズマブ濃度が少なくとも8μg/mlであることによって、前記患者が、ベドリズマブによる治療に対する反応性を持つことが示され、前記血液サンプル中の濃度が8μg/ml未満であることによって、前記患者が、ベドリズマブによる治療に対する反応性を持たないことが示される、前記方法。
[55]
ベドリズマブの前記1回目の用量に、300mgのベドリズマブが含まれる、上記[53]または[54]に記載の方法。
[56]
ベドリズマブの前記2回目の用量に、300mgのベドリズマブが含まれる、上記[53]または[54]に記載の方法。
[57]
前記患者が、前記1回目の用量と前記2回目の用量を静脈内摂取している、上記[53]〜[56]のいずれかに記載の方法。
[58]
ベドリズマブを前記患者に投与することを更に含む、上記[54]に記載の方法。
[59]
前記患者のTNFブロッカーに対する反応が不十分であったか、前記患者がTNFブロッカーに対する反応を喪失していたか、または前記患者がTNFブロッカーに不耐であった、上記[53]〜[58]のいずれかに記載の方法。
[60]
炎症性腸疾患(IBD)患者のコルチコステロイド非投与下寛解の実現方法であって、前記患者が、コルチコステロイドに依存していたとともに、前記方法が、
a)ベドリズマブの2回目の用量の投与から4週間後の時点に、ベドリズマブのクリアランスが低いIBDを有するヒト患者を選択することであって、ベドリズマブの前記2回目の用量の投与の2週間前に、ベドリズマブの1回目の用量を前記対象に投与してあることと、
b)ベドリズマブを前記IBDを有するヒト患者に投与することと、
c)コルチコステロイドが投与されなくなるまで、漸減レジメンによって、コルチコステロイドの量を減らすことと、
を含み、
それによって、前記IBD患者において、コルチコステロイド非投与下寛解を実現する、前記方法。