次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。初めに、図1及び図2を参照して、内燃機関100の概要について説明する。図1は内燃機関100の吸気、排気及び燃料供給の流れを模式的に示す図である。図2は、ECU90の構成を示す機能ブロック図である。
第1実施形態の内燃機関100は、車両等に搭載されたディーゼルエンジンであって、4つの気筒30を有する直列4気筒エンジンとして構成されている。この内燃機関100は、エンジン本体10と、制御装置であるECU(Engine Control Unit)90と、を備えている。
エンジン本体10は、外部から空気を吸入する吸気部2と、燃焼室3を有する図略のシリンダと、燃料の燃焼によって燃焼室3内に発生する排気ガスを外部に排出する排気部4と、を主要な構成として備えている。
吸気部2は、吸気の通路である吸気管21を備える。また、吸気部2は、吸気管21において吸気が流れる方向の上流側から順に配置された、過給機22と、スロットル弁27と、吸気マニホールド28と、を備える。
吸気管21は、吸気の通路であって、過給機22と、スロットル弁27と、吸気マニホールド28と、を接続するように構成されている。吸気管21の内部には、外部から吸入された空気を流すことができる。
過給機22は、図1に示すように、タービン23と、シャフト24と、コンプレッサ25と、を備えている。シャフト24の一端はタービン23と接続され、他端はコンプレッサ25と接続されている。タービン23は、排気ガスを利用して回転するように構成されている。シャフト24を介してタービン23と連結されているコンプレッサ25は、タービン23の回転に伴って回転する。コンプレッサ25の回転により、図略のエアクリーナにより浄化された空気を圧縮して強制的に吸入することができる。
スロットル弁27は、ECU90からの制御指令に従って、その開度を調節することにより、吸気通路の断面積を変化させる。これにより、スロットル弁27を介して、吸気マニホールド28へ供給する空気量を調整することができる。
吸気マニホールド28は、吸気管21から供給された空気をエンジン本体10のシリンダ数に応じて分配し、それぞれのシリンダの燃焼室3へ供給することができるように構成されている。
なお、過給機22のコンプレッサ25の下流側に、過給機22によって吸入された圧縮空気を冷却水又は流動空気(即ち、風)と熱交換させることで冷却させる図略のインタークーラを設置しても良い。
燃焼室3では、吸気マニホールド28から供給された空気を圧縮し、高温になった圧縮空気に燃料を噴射することにより、燃料を自然着火燃焼させ、ピストンを押して運動させる。こうして得られた動力は、クランク軸等を介して、動力下流側の適宜の装置へ伝達される。
内燃機関100には、エンジン本体10が燃料の燃焼により過熱状態にならないようにするための図略の冷却水循環システムが設けられている。この冷却水循環システムは、冷却水を、エンジン本体10のシリンダヘッド等に形成された冷却ジャケット(図略)等に還流させ、エンジン本体10の冷却ジャケット等と熱交換させるように構成されている。
続いて、本実施形態の内燃機関100において燃料の供給及び噴射を行う構成について簡単に説明する。図1に示すように、内燃機関100は、燃料を貯留するための燃料タンク81と、燃料フィルタ82と、燃料ポンプ83と、コモンレール84と、インジェクタ85と、を備えている。
燃料ポンプ83によって吸い込まれた燃料は、燃料フィルタ82を通過し、これにより、燃料に混入しているゴミ及び汚れが取り除かれる。その後、燃料はコモンレール84へ供給される。コモンレール84は、高圧で燃料を蓄え、複数のインジェクタ85に分配して供給する。
インジェクタ85は、各気筒30の燃焼室3に燃料を噴射するための燃料噴射バルブ(図略)を備える。燃料噴射バルブがECU90の指示に応じたタイミングで開閉することにより、インジェクタ85が燃焼室3に燃料を噴射する。ECU90は、内燃機関100の運転状態、アクセル開度等に応じた燃料噴射量に基づいて、インジェクタ85内の燃料噴射バルブの開閉を制御する。
燃焼室3で燃料が燃焼することによって発生した排気ガスは、排気部4を介して、燃焼室3からエンジン本体10の外へ排出される。
排気部4は、排気ガスの通路である排気管41を備える。また、排気部4は、排気管41において排気ガスが流れる方向における上流側から順に配置された、排気マニホールド42と、排気ガス浄化装置であるDPF(Diesel Particulate Filter)60と、を備えている。
排気管41は、排気ガスの通路であって、排気マニホールド42と、DPF60と、を接続するように構成されている。排気管41の内部に、燃焼室3から排出された排気ガスを流すことができる。
排気マニホールド42は、各燃焼室3で発生した排気ガスをまとめて、当該排気ガスを過給機22のタービン23に供給するように排気管41へ導く。排気マニホールド42には、排気ガスの温度を検出する排気ガス温度センサ71が設けられている。排気ガス温度センサ71が検出した排気温度はECU90へ出力される。なお、当該排気ガス温度センサ71を排気マニホールド42に設ける構成に限定せず、例えば、DPF60の入口に配置しても良い。
また、エンジン本体10はEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置50を備えており、排気ガスの一部を、図1に示すように、当該EGR装置50を介して吸気側へ還流させることができる。これにより、例えば内燃機関100の高負荷運転時における最高燃焼温度を下げることができるので、NOx(窒素酸化物)の生成量を低減することができる。
DPF60は、図1に示すように、排気管41の出口に設けられている。DPF60は、細長く形成された略円筒状の中空のケーシングと、酸化触媒(DOC:Diesel Oxdation Catalyst)61と、スートフィルタ62と、を備えている。
酸化触媒61及びスートフィルタ62は、ケーシングの内部に配置されている。また、スートフィルタ62は、ケーシングの内部で排気ガスが流れる方向において、酸化触媒61の下流側に配置される。排気管41からDPF60に導入された排気ガスは、スートフィルタ62により浄化された後、内燃機関100の外へ排出される。
スートフィルタ62は、例えばウォールフロー型のフィルタやハニカム構造のフィルタから構成される。スートフィルタ62は、酸化触媒61で処理された排気ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する。
スートフィルタ62におけるPMの堆積量が所定量以上になった場合、スロットル弁27の開度を調整するとともに、インジェクタ85からの燃料のアフタ噴射等により排気ガス温度を上昇させ、堆積されたPMの強制燃焼によってスートフィルタ62を再生させる。
酸化触媒61は、白金等で構成されており、排気ガスに含まれる一酸化炭素、一酸化窒素などの酸化を促進することができる。酸化触媒61の作用によって、排気ガス中の一酸化窒素は、不安定な二酸化窒素に酸化される。そして、二酸化窒素が一酸化窒素に戻るとき放出された酸素は、下流側のスートフィルタ62で捕捉されたPMの酸化のために供給される。また、酸化触媒61は、排気ガス中の未燃炭化水素HCの酸化反応を促進することによって当該未燃炭化水素HCを除去する。
一般的に、エンジン本体10のローアイドル運転時は、排気ガスの温度が低いので、酸化触媒61の温度が活性化温度に達しない。従って、ローアイドル運転時が継続すると、排気ガス中の未燃炭化水素HC等の酸化反応が促進されず、当該未燃炭化水素HCが酸化触媒61に吸着され溜まり込んでいく。
ローアイドル運転が相当の時間継続して未燃炭化水素HCがある程度吸着された後に、急加速等により排気ガスが急増すると、酸化触媒61に吸着された未燃炭化水素HCが一気に大量放出され、これにより、酸化触媒61が過昇温して溶損してしまう可能性がある。
この事情を考慮して、本実施形態のECU90は、エンジン本体10の運転時に、ローアイドル運転中、又は、未燃炭化水素HCの吸着量が所定以上である場合における急加速に対して、オペレータにより操作されたアクセル開度に対する応答性を低下させるように当該アクセル開度を補正している。
図1及び図2に示すECU90は、エンジン本体10又はその近傍に配置されている。このECU90は公知のコンピュータとして構成されており、主として、各種演算処理や制御を実行するCPUと、記憶部91としてのROM及びRAMと、から構成される。
ECU90は、エンジン本体10の状態に関する情報を検出する様々なセンサからの検出値に基づいて、エンジン本体10の回転数、吸気量、燃料噴射量等の情報を得ることができる。
ECU90は、図2に示すように、記憶部91以外に、HC吸着量推定部(吸着量推定部)92と、要求アクセル開度検出部93と、アクセル開度補正部94と、アクセル開度制御部95と、を備える。
記憶部91は、内燃機関100の運転の制御に関して、予め設定された様々な情報を記憶している。記憶部91に記憶される情報としては、例えば、アクセルなまし率αの算出マップ等を挙げることができる。
HC吸着量推定部92は、酸化触媒61に吸着される未燃炭化水素HCの吸着量を推定する。この推定は、例えば以下のような方法で行うことが考えられる。即ち、HC吸着量推定部92は、要求アクセル開度検出部93から検出された要求アクセル開度に基づく内燃機関100の負荷、及び、図略の回転数検出部から検出された内燃機関100の回転数等に基づいて内燃機関100の運転状態を求め、この運転状態に基づいて、内燃機関100のHC排出量を算出する。そして、HC吸着量推定部92は、上記のHC排出量と、酸化触媒61の温度と、排気ガス温度センサ71から検出された排気温度等に基づいて、HCの吸着量を求める。ただし、上記のHC排出量は、内燃機関100の負荷及び回転数に基づくマップにより求めることもできる。また、排気温度は、排気ガス温度センサ71から取得することに代えて、内燃機関100の負荷及び回転数に基づくマップにより求めることもできる。
要求アクセル開度検出部93は、例えば図略のアクセルポジションセンサから構成されており、オペレータが指示するアクセルの開度を検出する。以下の説明では、オペレータの指示等により要求されたアクセルの開度を、要求アクセル開度と呼ぶことがある。
アクセル開度補正部94は、エンジン本体10の運転状態に応じて、記憶部91で記憶されたマップ又は計算式を用いて、要求アクセル開度検出部93で検出された要求アクセル開度の変化に対する応答性を低下させるように補正して補正値を得る。
アクセル開度制御部95は、要求アクセル開度検出部93又はアクセル開度補正部94から制御用アクセル開度を取得して、インジェクタ85の燃料噴射バルブの開閉等を制御する。具体的に説明すると、アクセル開度制御部95は、例えば、アクセル開度補正部94で要求アクセル開度を補正した場合、補正後の要求アクセル開度に一致するように、実際のアクセル開度を制御する。一方、アクセル開度補正部94で要求アクセル開度を補正していない場合、当該要求アクセル開度に一致するように、実際のアクセル開度を制御する。
次に、本実施形態のECU90において、ローアイドル運転中に、当該内燃機関100が搭載された車両のアクセルがオペレータにより操作された場合において、当該アクセル開度に対して行われる補正について説明する。なお、以下の説明においては、アクセル開度の変化に対する応答性を低下させるように補正を行う制御を、アクセルなまし制御と呼ぶことがある。
先ず、ECU90が行う具体的な処理について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、ローアイドル運転継続時間カウントアップ処理で用いるフローチャートである。図4は、ローアイドル運転中に加速された時に実行するアクセルなまし制御で用いるフローチャートである。
図3に示すフローは、エンジン本体10の運転時に常時実行される。このフローがスタートすると、ECU90は先ず、エンジン本体10の回転数が所定以下であるか否かを判定する(ステップS101)。
ステップS101の判断で、回転数が所定より大きい場合は、ECU90は、内燃機関100がローアイドル運転ではないと判定し、ローアイドル運転の継続時間に対するカウント値をゼロにリセットして(ステップS102)、ステップS101に戻る。一方、回転数が所定以下である場合、ECU90は、燃料の噴射量指示値が所定以下であるか否かを判定する(ステップS103)。
ステップS103の判断で、燃料の噴射量指示値が所定以下である場合、ECU90は、内燃機関100がローアイドル運転であると判定し、ローアイドル運転の継続時間のカウント値に1を加算して(ステップS104)、ステップS101に戻る。一方、燃料の噴射量指示値が所定より大きい場合、ECU90は、内燃機関100がローアイドル運転ではないと判定し、上記のカウント値をゼロにリセットして(ステップS102)、ステップS101に戻る。
図4に示すフローは、図3のフローと並行して、エンジン本体10の運転時に常時実行される。このフローがスタートすると、ECU90は先ず、HC吸着量推定部92で推定されたHC吸着量が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS201)。
ステップS201の判断で、HC吸着量が所定の閾値以上である場合、アクセルなまし制御を実行する必要があることを意味する。そこで、ECU90は、この場合は、アクセルなまし制御を実行する旨を内部処理のために記憶する(ステップS202)。ただし、ステップS202の処理は省略しても良い。その後、ECU90は、要求アクセル開度検出部93で検出された要求アクセル開度がゼロ以外であるか否か等に基づいて、アクセル操作の有無を判定する(ステップS203)。
ステップS203の判断で、アクセル操作がある場合、アクセル開度補正部94は、ローアイドル運転継続時間及び要求アクセル開度等に基づいて、当該要求アクセル開度を補正する(ステップS204)。その後、アクセル開度制御部95は、アクセル開度補正部94で補正された要求アクセル開度を制御用アクセル開度として取得し(ステップS205)、取得した制御用アクセル開度に基づいて実際のアクセル開度を制御する(ステップS206)。その後、ステップS201に戻る。
ステップS203の判断で、アクセル操作がない場合、アクセル開度を0%とし(ステップS207)、ステップS206に進む。
一方、ステップS201の判断で、HC吸着量が所定の閾値未満である場合、ECU90は、エンジン本体10のローアイドル運転の継続時間がカウントアップされているか否か(即ち、ローアイドル運転中であるか否か)を判定する(ステップS208)。この判定は、図3のフローで説明したカウント値がゼロであるか否かに基づいて行うことができる。
ステップS208の判断で、ローアイドル運転の継続時間がゼロである場合、アクセルなまし制御を実行する必要がないことを意味する。そこで、ECU90は、この場合は、アクセルなまし制御を実行しない旨を内部処理のために記憶する(ステップS209)。ただし、ステップS209の処理は省略しても良い。その後、ECU90は、アクセル操作の有無を判定する(ステップS210)。
ステップS210の判断で、アクセル操作がある場合、アクセル開度制御部95は、要求アクセル開度検出部93により検出された要求アクセル開度をそのまま制御用アクセル開度として取得する(ステップS211)。そして、アクセル開度制御部95は、取得した制御用アクセル開度に基づいて実際のアクセル開度を制御する(ステップS206)。その後、ステップS201に戻る。
ステップS210の判断で、アクセル操作がない場合、ECU90はアクセル開度が0%であるとして(ステップS207)、ステップS206に進む。
一方、ステップS208の判断で、ローアイドル運転中である場合、アクセルなまし制御を実行する必要があるので、上述のステップS202〜ステップS207の処理を行う。
以下、上述のフローを実行することによる効果を説明する。図5は、アクセルなまし制御を示す概念図である。
図5は、オペレータが、長時間のローアイドル運転の後のタイミングである時刻t1と、短時間のローアイドル運転の後のタイミングである時刻t2と、において、アクセルを0%から100%まで急激に開く操作を行った場合の各値の変化をグラフで示している。5つのグラフの横軸は何れも時間であり、時刻は上下のグラフで対応している。
オペレータは、時刻t1において、アクセルを0%から100%まで急激に開く。この時刻t1では、長時間のローアイドル運転により、酸化触媒61へのHC吸着量が相当に大きくなっている。
時刻t1での急加速操作において、上記のアクセルなまし制御が行われる。それまで長時間のローアイドル運転が行われていたため、要求アクセル開度の上昇に対して補正後のアクセル開度(制御用アクセル開度)の上昇は鈍く、これに伴って、エンジン回転数の上昇も緩やかである。
従って、酸化触媒61に対するHC吸着量は、アクセルなまし制御がない場合よりも、ある場合の方が、ゆっくり低下し、これはHCの放出が緩やかになっていることを示している。従って、酸化触媒61の過大な温度上昇が起こらなくなっている。
オペレータは、しばらくした後にアクセルを0%に戻し、時間が少し経過したタイミングである時刻t2において、アクセルを再び100%まで急激に開く。
この急加速操作に対してもアクセルなまし制御が行われるが、時刻t2までのローアイドル運転は短時間であったため、アクセル開度の補正は実質的に殆ど行われない。従って、制御用アクセル開度は、要求アクセル開度とほぼ同様に変化する。しかしながら、時刻t2では酸化触媒61に対するHC吸着量が少なかったため、酸化触媒61の過大な温度上昇は起こらない。
このように、本実施形態のECU90は、オペレータの操作により入力されたアクセル開度を補正することによって、制御用アクセル開度の急激な変化を回避することができる。これにより、排気ガスの急増を回避できるので、酸化触媒61に吸着された未燃炭化水素HCは、一気に大量放出されずに徐々に放出されることになる。従って、酸化触媒61の過昇温を回避することができる。
続いて、検出されたアクセル開度を補正する2つの例について、図6及び図7を参照して説明する。
第1の補正の例は、図6に示すアクセルなまし率αを用いるものである。このアクセルなまし率αは、図5の1番上のグラフに示す要求アクセル開度の上昇に対し、上から2番目のグラフにおける制御用アクセル開度の上昇をどれだけ鈍らせるかに対応するものである。アクセルなまし率αが大きくなるほど、制御用アクセル開度の上昇の傾きが水平に近くなる(言い換えれば、上昇が緩やかになる)。
図6に示すアクセルなまし率αの算出マップは、ローアイドル運転継続時間と、要求アクセル開度検出部93で検出された要求アクセル開度と、に応じてアクセルなまし率αを決定するためのものである。この算出マップは、図6に示すように、ローアイドル運転継続時間と、アクセル開度と、の組合せになまし率αを対応付けた2次元のテーブルとして表現することができる。
図6に示すように、アクセルなまし率αは、ローアイドル運転継続時間が増加するのに従って増大するように、かつ、検出されたアクセル開度が大きくなるのに従って増大するように設定されている。
即ち、ローアイドル運転継続時間が少ない場合、酸化触媒61に吸着される未燃炭化水素HCの量がまだ少ない可能性が高く、アクセル開度の変化によって、未燃炭化水素HCが大量に放出されるおそれが低い。また、オペレータが操作されたアクセル開度が小さい場合、排気ガスの増加量が限られているので、未燃炭化水素HCが大量に放出される可能性も低い。このような場合、アクセル開度に対するなまし率αを小さい値又はゼロに設定することによって、オペレータにより操作されたアクセル開度に対して速やかに応答するようにすることができる。
一方、ローアイドル運転継続時間が長く、かつ、検出されたアクセル開度が大きい場合、アクセル開度に対するなまし率αを大きく設定することで、制御用アクセル開度が変化する勾配を小さくすることができる。この結果、未燃炭化水素HCが一気に大量放出されることを回避できる。
第2の補正の例は、図7に示すアクセルなまし率β及びローアイドル継続時間補正係数を用いるものである。
図7に示すアクセルなまし率βのベースマップは、エンジン本体10の目標回転数と、エンジン本体10の目標負荷率と、に応じてアクセルなまし率βを決定するためのものである。このベースマップは、図7に示すように、目標回転数と、目標負荷率と、の組合せになまし率βを対応付けた2次元のテーブルとして表現することができる。なお、当該目標回転数及び目標負荷率は、要求アクセル開度に基づいて算出することができる。
図7に示すように、アクセルなまし率βは、目標回転数の増加に伴って増大するように、かつ、目標負荷率の増大に伴って増大するように設定されている。
即ち、目標回転数及び目標負荷率が小さい場合、排気ガスの増加量が限られているので、未燃炭化水素HCが大量に放出される可能性が低い。このような場合、アクセル開度に対するなまし率βを小さい値又はゼロに設定することで、自然なアクセル操作感を実現できる。
一方、目標回転数及び目標負荷率が大きい場合、排気ガスの増加量も大きいと考えられる。従って、この場合は、アクセル開度に対するなまし率βを大きく設定することで、制御用アクセル開度の変化勾配を小さくすることができる。この結果、未燃炭化水素HCが一気に大量放出されることを回避できる。
ローアイドル継続時間補正係数は、図7に示すように、ローアイドル継続時間に対応付けて設定することができる。即ち、ローアイドル継続時間が大きければ大きい程、当該ローアイドル継続時間補正係数が大きくなる。
このように、アクセル開度の補正を、排気ガスの増加量を一層よく反映している目標回転数及び目標負荷率に基づいて行うことで、適切な補正を実現することができる。
以上に説明したように、本実施形態のECU90は、酸化触媒61を備えた内燃機関100に備えられている。ECU90は、要求アクセル開度検出部93と、アクセル開度補正部94と、アクセル開度制御部95と、を備える。要求アクセル開度検出部93は、要求アクセル開度を検出する。アクセル開度補正部94は、内燃機関100がローアイドル運転された後に、要求アクセル開度検出部93で検出された要求アクセル開度の上昇に対する応答性を低下させるように、要求アクセル開度を補正する。アクセル開度制御部95は、アクセル開度補正部94により補正された要求アクセル開度に基づいて、アクセル開度を制御する。
これにより、ローアイドル運転が継続した後、要求されたアクセル開度の上昇に対する応答性を低下させることができるので、実際のアクセル開度が急激に変化することによって排気ガスが急増するのを防止できる。この結果、酸化触媒61に吸着された未燃炭化水素HCが一気に大量放出されることによる酸化触媒61の過昇温を回避することができる。
また、本実施形態のECU90において、アクセル開度補正部94は、ローアイドル運転の継続時間に応じて、要求アクセル開度の補正の有無及び補正の程度を異ならせる。
これにより、時間を計測する簡単な処理で、アクセルに関する操作フィーリングの低下を抑制しつつ、酸化触媒61の過昇温を効果的に防止することができる。
また、本実施形態のECU90は、酸化触媒61に吸着される未燃炭化水素HCの吸着量を推定するHC吸着量推定部92を備える。アクセル開度補正部94は、HC吸着量推定部92で推定された前記吸着量に応じて、要求アクセル開度の補正の有無を異ならせる。
これにより、酸化触媒61への未燃炭化水素HCの吸着量を考慮することができるので、操作フィーリングを維持しつつ、酸化触媒61の過昇温を確実に回避することができる。
また、本実施形態のECU90において、アクセル開度補正部94は、HC吸着量推定部92で推定された吸着量が所定未満である場合は、内燃機関100がローアイドル運転されているときに、要求アクセル開度を補正する(図4のステップS201、S208、S202)。アクセル開度補正部94は、HC吸着量推定部92で推定された吸着量が所定以上である場合は、内燃機関100がローアイドル運転されているか否かに関係なく、要求アクセル開度を補正する(図4のステップS201、S202)。
即ち、未燃炭化水素HCの吸着量は、酸化触媒61の状態や運転条件等により変動する。この点、上記の構成では、推定された未燃炭化水素HCの吸着量が所定以上である場合には、内燃機関100が現在ローアイドル運転されているか否かに関係なく、アクセル開度の急激な変化を抑制することができる。この結果、酸化触媒61の過昇温を一層確実に回避することができる。
また、上述の第1の補正の例では、ECU90が備える記憶部91は、アクセル開度補正部94が用いるなまし率αのマップを記憶する。なまし率αは、ローアイドル運転の継続時間が増大するのに従って増大し、かつ、要求アクセル開度検出部93で検出されたアクセル開度が増大するのに従って増大するように設定されている。
これにより、ローアイドル運転の継続時間及び検出されたアクセル開度に応じて適切ななまし率αを設定することができる。
また、第2の補正の例では、ECU90が備える記憶部91は、アクセル開度補正部94が用いるなまし率βのマップと、時間補正係数のマップと、を記憶する。なまし率βは、要求アクセル開度検出部93で検出されたアクセル開度に応じた内燃機関100の目標回転数及び目標負荷率に基づいて設定される。時間補正係数は、ローアイドル運転の継続時間に基づいて設定される。
これにより、内燃機関の運転状態を適切に反映した補正を行うことができる。
次に、第2実施形態を説明する。図8は、第2実施形態のアクセルなまし制御におけるアクセルの変化率制限を示すグラフである。図9は、第2実施形態の状態遷移時間ベースマップを示す図である。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
本実施形態のECU90においては、酸化触媒61に吸着された未燃炭化水素HCの推定量が所定以上である場合、又は、ローアイドル運転中で、アクセルが操作されたとき、当該アクセル開度の変化率を制限するように、要求アクセル開度に対するアクセルなまし制御を行っている。即ち、オペレータの操作により入力された要求アクセル開度に制御アクセル開度が達する時間を遅らせている。
具体的には、アクセル開度補正部94は、図8のグラフのaで示すように、要求アクセル開度検出部93で検出された要求アクセル開度を目標として、所定の状態遷移時間を掛けて直線的に変化する制御用アクセル開度を得るようにアクセル開度を補正する。
上記の状態遷移時間は、例えば、図9に示す状態遷移時間ベースマップ及びローアイドル継続時間補正係数を用いて算出することができる。
図9に示す状態遷移時間ベースマップは、エンジン本体10の目標回転数と、目標負荷率と、に応じて状態遷移時間を決定するためのものである。この状態遷移時間ベースマップは、図9に示すように、目標回転数と、目標負荷率と、の組合せに状態遷移時間を対応付けた2次元のテーブルとして表現することができる。
図9に示すように、状態遷移時間は、目標回転数の増加に伴って増大するように、かつ、目標負荷率の増大に伴って増大するように設定されている。
即ち、目標回転数及び目標負荷率が小さい場合、排気ガスの増加量が限られているので、未燃炭化水素HCが大量に放出される可能性が低い。このような場合、アクセル開度に対する状態遷移時間を小さい値又はゼロに設定することができる。
一方、目標回転数及び目標負荷率が大きい場合、排気ガスの増加量も大きいと考えられるので、アクセル開度に対する状態遷移時間を大きく設定する。これにより、制御用アクセル開度の変化勾配が小さくなるので、未燃炭化水素HCが一気に大量放出されることを回避できる。
ローアイドル継続時間補正係数は、図9に示すように、ローアイドル継続時間に対応付けて設定することができる。即ち、ローアイドル継続時間が大きければ大きい程、当該ローアイドル継続時間補正係数が大きくなる。
具体的な算出例としては、要求アクセル開度に対応する目標回転数が2000/min、目標負荷率が100%、ローアイドル継続時間が5時間であった場合、図9のマップを参照して、アクセル開度の状態遷移時間は、5×0.5=2.5秒と計算することができる。即ち、制御用アクセル開度を図8の要求アクセル開度と同様に変化させずに、当該制御用アクセル開度が要求アクセル開度に達するまでの時間を2.5秒遅らせる。
このように、オペレータの操作により入力された要求アクセル開度に対して、エンジン本体10の制御用アクセル開度の変化率を制限することにより、排気ガスの急増を回避できる。この結果、大量の未燃炭化水素HCが一気に放出されることによる酸化触媒61の過昇温を防止することができる。
要求アクセル開度に対してどのように補正を行うかは任意であり、例えば、図8のグラフのaに代えて、b又はcのような曲線的な変化を示すように補正することもできる。図8のb又はcで示す補正は、要求アクセル開度と現在アクセル開度との差を所定の値(なまし値)で除して、現在アクセル開度と加算した値を制御アクセル開度とすることにより実現することができる。このなまし値は、状態遷移時間に応じて定められる。この場合、要求アクセル開度に対する応答性をあまり低下させずに、排気ガスの急増を緩和することができる。
また、要求アクセル開度に対する補正は、図8のグラフのdで示すように行うこともできる。図8のdで示す補正は、要求アクセル開度と現在アクセル開度との差に対し、時間に応じて増加するように設定された変化量の関数を乗じて、現在アクセル開度と加算した値を制御アクセル開度とすることにより実現することができる。この変化量の関数は、0以上1以下の値をとり、状態遷移時間が経過した時点で1となるように定められる。
なお、図8の下部のdの部分で示した式は、変化量の関数を適宜定めることにより、dだけでなくa〜cの全てのアクセル開度曲線を実現することができる。
以上に説明したように、本実施形態のECU90は、要求アクセル開度検出部93で検出されたアクセル開度に達するまでの状態遷移時間と、時間補正係数と、を記憶する記憶部91を備える。状態遷移時間は、内燃機関100の目標回転数及び目標負荷率に基づいて設定される。時間補正係数は、ローアイドル運転の継続時間に基づいて設定される。アクセル開度補正部94は、要求アクセル開度検出部93で検出されたアクセル開度に対して、状態遷移時間と時間補正係数とに基づく変化率を実現するように、アクセル開度を補正する。
これにより、制御用アクセル開度の変化率を制限することで、酸化触媒61に吸着された未燃炭化水素HCが一気に大量放出されることを回避することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
図2において、HC吸着量推定部92を省略することもできる。言い換えれば、図4のフローにおいてステップS201の判断を省略し、ステップS208の判断だけでアクセルなまし制御を行うか否かを決定するように変更することもできる。
HC吸着量推定部92が推定したHC吸着量の大小に応じて、要求アクセル開度の補正の程度を変化させるように構成することもできる。例えば、図6のマップに代えて、要求アクセル開度とHC吸着量との組合せで決まるようにアクセルなまし率αのマップを定めることが考えられる。
ECU90は、未燃炭化水素HCの推定吸着量が所定以上である場合、又は、ローアイドル運転中において、アクセル開度の変化量が所定以上である場合、上述のアクセルなまし制御を実行し、そうでない場合、実行しないように構成されても良い。
なまし率αは、例えば、アクセル開度の変化量に基づいて設定されても良い。
なまし率β及び状態遷移時間を求めるための目標負荷率の代わりに、燃料噴射量、吸気量等を用いることができる。
要求アクセル開度の補正に関する情報(例えば、なまし率α,β、状態遷移時間、ローアイドル継続時間補正係数等)は、マップ等に代えて、例えば所定の計算式により取得するように変更することもできる。
ECU90は、車両用の内燃機関100に代えて、他の用途の内燃機関に用いることもできる。