ところで、エンジンにおいては、燃焼室で混合気が着火燃焼する高温酸化反応が発生するよりも前に、圧縮行程中に発熱を伴う低温酸化反応が発生することが知られている。本願発明者らが、鋭意研究したところ、ノッキングの大きさと低温酸化反応の反応量との間に関連があることが分かった。具体的には、低温酸化反応が生じやすく、その反応量が大きいほどノッキングが大きくなることが分かった。このため、低温酸化反応の反応量を適切に検出又は推定して、ノッキングの大きさを推定することができれば、該ノッキングの大きさに応じた適切な対策を取ることが可能となる。
低温酸化反応の反応量は、例えば、筒内圧力の変化を検出することによって推定することが可能である。しかしながら、筒内圧力の変化が小さい場合には、低温酸化反応の反応量を精度良く推定することが困難となる。また、低温酸化反応の反応量を十分に推定できる程度に筒内圧力の変化があったとしても、低温酸化反応が、燃焼室内の混合気の着火直前に発生するような場合には、ノッキングの対策が可能な期間が短くなってしまう。これにより、ノッキングの対策を適切に実行できないおそれがある。
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの燃焼室内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定して、ノッキングを適切に抑制できるようにすることにある。
上記課題を解決するために、ここに開示された技術では、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトとを有し、ガソリンを含有する燃料と空気との混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの制御装置を対象として、上記燃焼室内の混合気に点火するように構成された点火プラグと、上記気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段と、クランク角度を検出するクランク角検出手段と、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときにのみ、圧縮行程中期以前において、上記気筒内の混合気が活性化させるべく第1点火を実行し、かつ少なくともエンジン負荷が上記所定負荷以上の高負荷であるときに、上記第1点火とは別に、圧縮上死点の近傍で上記点火プラグによる第2点火を実行するように上記点火プラグを制御する点火制御手段と、上記筒内圧検出手段で検出された、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における上記気筒内の圧力に基づいて、上記第1点火により生じる、上記燃焼室内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定手段と、上記低温酸化反応量推定手段で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときには、上記燃焼室内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制制御手段と、を備える、というものとした。
すなわち、本願発明者らが鋭意検討したところ、点火プラグによる点火によって、燃焼室内の混合気を予め活性化させておくと、低温酸化反応の反応開始時期が早期化されることが分かった。また、燃焼室内の混合気を予め活性化させておくことで、低温酸化反応に基づく筒内圧の変化が大きくなり、低温酸化反応の反応量の推定が容易になることが分かった。
そこで、圧縮行程中期以前に、気筒内の混合気が活性化するように点火プラグによる第1点火を実行することで、燃焼室内の混合気を予め活性化させておく。これにより、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における出来限り早い時期に、推定可能な大きさの低温酸化反応を発生させることができる。この結果、低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することができる。そして、推定された低温酸化反応の反応量に基づいてノッキング抑制制御を実行することで、ノッキングを適切に抑制することができる。
上記エンジンの制御装置において、上記点火制御手段による上記第1点火の点火開始時期は、圧縮行程の期間を3等分したときの、最も進角側の期間内の時期であってもよい。
この構成によると、圧縮行程の出来る限り早い時期に混合気を活性化させることで、活性化された混合気が燃焼室全体に拡散し、圧縮行程後期において低温酸化反応が生じやすい状態にすることができる。これにより、低温酸化反応の反応量をより精度良く推定できるようになり、延いては、ノッキングをより効果的に抑制することができる。
上記エンジンの制御装置において、上記点火制御手段は、上記エンジンの運転状態が、エンジン負荷が上記所定負荷以上の高負荷でありかつエンジン回転数が所定回転数以上の高回転であるときに、上記第1点火を実行するように構成されていてもよい。
すなわち、エンジン負荷が高負荷でありかつエンジン回転数が高回転であるときには、低温酸化反応が発生してから混合気の高温酸化反応が開始するまでの実時間が短い。このため、エンジンの高負荷高回転時には、低温酸化反応自体が小さくなりやすく、さらには、低温酸化反応の反応量を推定してからノッキング抑制制御を実行するまでの実時間が短い。したがって、エンジンの高負荷高回転時には、低温酸化反応を早期に推定する必要性が高い。よって、エンジンの高負荷高回転時に、第1点火を実行するようにすることで、低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することの効果をより適切に発揮することができる。
上記エンジンの制御装置の一実施形態では、上記ノッキング抑制制御は、上記燃焼室内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、上記燃焼室内に冷却媒体を供給する制御である。
すなわち、ノッキングは、燃焼室の外周部等に存在する混合気が局所的に高温となって自着火することによって発生する。そこで、燃焼室内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、燃焼室内に冷却媒体を供給して、燃焼室内に局所的な高温領域が発生するのを抑制する。これにより、ノッキングを適切に抑制することができる。
上記一実施形態において、上記ノッキング抑制制御手段は、上記ノッキング抑制制御において、上記低温酸化反応の反応量が大きいほど、上記冷却媒体の供給量を多くするように構成されていてもよい。
すなわち、低温酸化反応が発生するには、燃焼室内の温度及び圧力の少なくとも一方が高いことが条件となる。このため、低温酸化反応の反応量が大きいということは、混合気の高温酸化反応時に、燃焼室内の、特に外周縁部付近が高温かつ高圧の状態になりやすいことを意味する。そこで、低温酸化反応の反応量が大きいほど、冷却媒体の供給量を多くする。これにより、ノッキングを一層効果的に抑制することができる。
ここに開示された技術の他の態様では、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトとを有し、ガソリンを含有する燃料と空気との混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの制御装置を対象として、上記燃焼室内の混合気に点火するように構成された点火プラグと、上記気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段と、クランク角度を検出するクランク角検出手段と、上記点火プラグによる点火を制御する点火制御手段と、上記筒内圧検出手段で検出された、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における上記気筒内の圧力に基づいて、上記燃焼室内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定手段と、上記低温酸化反応量推定手段で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときには、上記燃焼室内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制制御手段とを備え、上記点火制御手段は、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときには、圧縮行程中期以前において、上記気筒内の混合気が活性化するように上記点火プラグによる第1点火を実行可能に構成されており、さらに上記点火制御手段は、上記第1点火とは別に、圧縮上死点の近傍で上記点火プラグによる第2点火を実行するように構成されており、上記ノッキング抑制制御は、上記燃焼室内の混合気の着火を遅くすべく、上記第2点火の点火開始時期を、上記低温酸化反応の反応量が上記特定反応量未満のときの点火開始時期よりも遅角させる制御である、という構成とした。
この構成によると、第2点火の点火開始時期が遅角されることにより、混合気の着火時期が遅角される。これにより、高温酸化反応時における筒内圧力を低下させることができる。この結果、ノッキングを適切に抑制することができる。
また、第2点火の点火開始時期は圧縮上死点の近傍であるため、低温酸化反応の反応量を出来る限り早期に推定しなければ、ノッキング抑制制御が間に合わなくなるおそれがある。このため、エンジンの燃焼室内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することの効果を一層適切に発揮することができる。
上記他の実施形態では、上記ノッキング抑制制御手段は、上記ノッキング抑制制御において、上記低温酸化反応の反応量が大きいほど、上記第2点火の点火開始時期を大きく遅角させるように構成されていてもよい。
上述したように、低温酸化反応の反応量が大きいときには、混合気の高温酸化反応時に、燃焼室内の、特に外周縁部付近が高温かつ高圧の状態になりやすい。そこで、低温酸化反応の反応量が大きいほど、第2点火の点火開始時期を大きく遅角させることで、混合気の高温酸化反応時における筒内圧力を出来る限り低くする。これにより、ノッキングを一層効果的に抑制することができる。
上記エンジンの制御装置において、上記エンジンは、幾何学的圧縮比が15〜25のエンジンであってもよい。
すなわち、幾何学的圧縮比が15〜25である比較的高圧縮のエンジンでは、エンジンの運転効率が高くなる一方で、特にノッキングが生じやすくなる。このため、エンジンの燃焼室内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定して、ノッキングを適切に抑制できるようにするという効果をより適切に発揮することができる。
ここに開示された技術のさらに別の態様では、燃焼室が形成された気筒と、該気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトとを有し、ガソリンを含有する燃料と空気との混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの制御装置を対象として、上記燃焼室内の混合気に点火するように構成された点火プラグと、上記気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段と、クランク角度を検出するクランク角検出手段と、上記点火プラグによる点火を制御する点火制御手段と、上記筒内圧検出手段で検出された、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における上記気筒内の圧力に基づいて、上記燃焼室内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定手段と、上記低温酸化反応量推定手段で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときには、上記燃焼室内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制制御手段とを備え、上記点火制御手段は、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときには、圧縮行程中期以前において、上記気筒内の混合気が活性化するように上記点火プラグによる第1点火を実行可能に構成されており、上記制御手段は、上記筒内圧検出手段により検出された上記気筒内の圧力に基づいて、上記燃焼室内での熱発生率を推定し、該推定された熱発生率のうち、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における最大値と最小値との差に基づいて上記低温酸化反応の反応量を推定する、という構成とした。
この構成によると、低温酸化反応が発生すると反応熱が発生するため、燃焼室内の熱発生率が上昇する。このため、推定された熱発生率のうち、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における最大値と最小値との差に基づいて低温酸化反応の反応量を推定することで、低温酸化反応の反応量を適切に推定することができる。
本開示に係る技術は、エンジンの制御方法も対象とする。具体的には、燃焼室が形成された気筒と、該燃焼室内に臨む点火プラグと、上記気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトとを有し、ガソリンを含有する燃料と空気との混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの制御方法を対象として、上記気筒内の圧力を検出する筒内圧検出工程と、クランク角度を検出するクランク角検出工程と、圧縮行程中期以前において、上記気筒内の混合気が活性化するように上記点火プラグによる第1点火を実行する第1点火工程と、縮上死点の近傍で上記点火プラグによる第2点火を実行する第2点火工程と、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における上記気筒内の圧力に基づいて、上記第1点火により生じる、上記燃焼室内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定工程と、上記低温酸化反応量推定工程で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときに、上記燃焼室内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制工程と、を含み、上記第1点火工程は、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときにのみ実行される工程であり、上記第2点火工程は、少なくともエンジン負荷が上記所定負荷以上の高負荷であるときに実行される工程である、という構成とした。
この構成でも、圧縮行程中期以前に、気筒内の混合気が活性化するように点火プラグによる第1点火を実行して、燃焼室内の混合気を予め活性化させておくことで、低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することができる。そして、推定された低温酸化反応の反応量に基づいてノッキング抑制制御を実行することで、ノッキングを適切に抑制することができる。
上記エンジンの制御方法において、上記第1点火工程における上記第1点火の点火開始時期は、圧縮行程の期間を3等分したときの、最も進角側の期間内の時期であってもよい。
この構成によると、圧縮行程の出来る限り早い時期に混合気を活性化させることで、活性化された混合気が燃焼室全体に拡散し、圧縮行程後期において低温酸化反応が生じやすい状態にすることができる。これにより、低温酸化反応の反応量をより精度良く推定できるようになり、延いては、ノッキングをより効果的に抑制することができる。
上記エンジンの制御方法において、上記第1点火工程は、上記エンジンの運転状態が、エンジン負荷が上記所定負荷以上の高負荷でありかつエンジン回転数が所定回転数以上の高回転であるときに実行される工程であってもよい。
この構成によると、低温酸化反応自体が小さくなりやすいとともに、低温酸化反応の反応量を推定してからノッキング抑制制御を実行するまでの実時間が短いエンジンの高負荷高回転時に、第1点火を実行するようにすることで、低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することの効果をより適切に発揮することができる。
上記エンジンの制御方法の一実施形態では、上記ノッキング抑制制御は、上記燃焼室内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、上記燃焼室内に冷却媒体を供給する制御である。
この構成によると、燃焼室内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、燃焼室内に冷却媒体を供給することで、燃焼室内に局所的な高温領域が発生するのを抑制することができる。これにより、ノッキングを適切に抑制することができる。
上記エンジンの制御方法の上記一実施形態では、上記ノッキング抑制制御は、上記低温酸化反応の反応量が大きいほど、上記冷却媒体の供給量を多くする制御であってもよい。
この構成によると、燃焼室内の、特に外周縁部付近が高温かつ高圧の状態になりやすいときほど、冷却媒体の供給量が多くなる。これにより、ノッキングをより効果的に抑制することができる。
エンジンの制御方法の他の態様では、燃焼室が形成された気筒と、該燃焼室内に臨む点火プラグと、上記気筒に嵌挿されたピストンの往復動により回転駆動されるクランクシャフトとを有し、ガソリンを含有する燃料と空気との混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの制御方法を対象として、上記気筒内の圧力を検出する筒内圧検出工程と、クランク角度を検出するクランク角検出工程と、圧縮行程中期以前において、上記気筒内の混合気が活性化するように上記点火プラグによる第1点火を実行する第1点火工程と、上記気筒内の圧力に基づいて、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における、上記燃焼室内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定工程と、上記低温酸化反応量推定工程で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときに、上記燃焼室内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制工程とを含み、上記第1点火工程は、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときに実行される工程であり、圧縮上死点の近傍で上記点火プラグによる第2点火を実行する第2点火工程をさらに含み、上記ノッキング抑制制御は、上記燃焼室内の混合気の着火を遅くすべく、上記第2点火工程における上記第2点火の点火開始時期を、上記低温酸化反応の反応量が上記特定反応量未満のときの点火開始時期よりも遅角させる制御である、という構成とした。
この構成によると、第2点火の点火開始時期が遅角されることにより、混合気の着火時期が遅角される。これにより、高温酸化反応時における筒内圧力を低下させることができる。この結果、ノッキングを適切に抑制することができる。
上記エンジンの制御方法の上記他の実施形態において、上記ノッキング抑制制御は、上記低温酸化反応の反応量が大きいほど、上記第2点火工程における上記第2点火の点火開始時期を大きく遅角させる制御であってもよい。
この構成によると、低温酸化反応の反応量が大きいほど、第2点火の点火開始時期を大きく遅角させることで、混合気の高温酸化反応時における筒内圧力を出来る限り低くすることができる。これにより、ノッキングを一層効果的に抑制することができる。
以上説明したように、ここに開示された技術によると、圧縮行程中期以前に、気筒内の混合気が活性化するように点火プラグによる第1点火を実行して、燃焼室内の混合気を予め活性化させておくことで、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における出来限り早い時期に、推定可能な大きさの低温酸化反応を発生させることができる。これにより、エンジンの燃焼室内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することができる。そして、推定された低温酸化反応の反応量に基づいてノッキング抑制制御を実行することで、ノッキングを適切に抑制することができる。
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施形態1)
図1には、本実施形態1に係る制御装置が適用されたエンジン1の構成を示す。本実施形態1のエンジン1は車両の搭載されるエンジンである。このエンジン1は、エンジン本体1aと、エンジン本体1aに燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1aで生成された排気を排出するための排気通路30とを備える。
エンジン本体1aは、直列4気筒式であって、4つの気筒2が図1の紙面と直交する方向に直列に配置されている。エンジン本体1aは上記車両の駆動源として利用される。本実施形態1では、エンジン本体1aは、ガソリンを含む燃料が供給されて駆動される。
エンジン本体1aは、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動(ここでは上下動)可能に嵌装されたピストン5とを有する。
気筒2は燃焼室6が形成された気筒である。詳しくは、気筒2内におけるピストン5の上方に燃焼室6が形成されている。燃焼室6はいわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される燃焼室6の天井面は吸気側および排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン5の上面には、その中心部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹ませたキャビティが形成されている。以下の説明では、ピストン5の位置や混合気の燃焼状態によらず気筒2の内側空間のうちピストン5の上面と燃焼室6の天井面との間に形成される空間を燃焼室6という。
ピストン5は、シリンダブロック4内においてコンロッド8を介してクランクシャフト7と連結されている。クランクシャフト7はピストン5の往復動により回転駆動される。
エンジン本体1aの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、本実施形態1では15〜25(例えば17程度)に設定されている。
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6内で、燃料と空気との混合気が燃焼することにより生成された排気を排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。これら吸気ポート9と排気ポート10とは、気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。
シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
シリンダヘッド4には、燃料を噴射するインジェクタ14が設けられている。インジェクタ14は、噴射口が形成された先端部が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。インジェクタ14は、その先端に複数の噴口を有し、燃焼室の天井面の中央付近からピストン5の冠面に向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射するように構成されている。コーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°〜100°である。なお、インジェクタ14の具体的な構成はこれに限らず、単噴口のものであってもよい。
インジェクタ14は、不図示の高圧ポンプから圧送された燃料を燃焼室6内に噴射する。インジェクタ14の噴射圧は、ノッキングが発生しやすいエンジン高負荷域では、30MPa以上に高められ、インジェクタ14から高圧で燃料が噴射される。なお、この噴射圧は、最大で70MPa程度まで高められるのが好ましい。この場合は、エンジン高負荷域において30MPa〜70MPaの範囲の噴射圧で燃料が噴射される。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火するように構成された点火プラグ13が設けられている。点火プラグ13の先端には、火花を放電して混合気を点火し混合気に点火エネルギーを付与する電極が形成されている。点火プラグ13は、その先端が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように配置されている。エンジン本体1aは、燃焼室6内で混合気を圧縮するとともに、点火プラグ13による点火によって、燃焼室6内で混合気を圧縮着火させるように構成されている。尚、本明細書において、「点火」とは、点火プラグ13による火花放電を意味し、「着火」とは、気筒2内の混合気に火炎が発生した状態を意味する。
上記吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21と、吸気通路20を開閉するためのスロットルバルブ22とが設けられている。本実施形態では、エンジン1の運転中、スロットルバルブ22は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジン1の停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
上記排気通路30には、排気を浄化するための浄化装置31が設けられている。浄化装置31は、例えば、三元触媒を内蔵している。
排気通路30には、排気通路30を通過する排気の一部をEGRガスとして吸気通路20に還流するためのEGR装置40が設けられている。EGR装置40は、吸気通路20のうちスロットルバルブ22よりも下流側の部分と排気通路30のうち浄化装置31よりも上流側の部分とを連通するEGR通路41、および、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42を有する。また、本実施形態1では、EGR通路41に、これを通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ43が設けられており、EGRガスはEGRクーラ43にて冷却された後、吸気通路20に還流される。
図2は、エンジン1の制御系統を示すブロック図である。本実施形態1のエンジン1は、制御装置としてのパワートレイン・コントロール・モジュール100(以下、PCM100という)によって統括的に制御される。PCM100は、周知のように、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
車両には各種センサが設けられている。PCM100はこれらセンサと電気的に接続されており、PCM100には、各センサからの検出信号が入力される。例えば、シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度であるクランク角度を検出するクランク角センサ(クランク角検出手段)SN1が設けられている。また、吸気通路20を通って各気筒2に吸入される空気量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。また、シリンダヘッド4には、燃焼室6内の圧力を検出する筒内圧センサ(筒内圧検出手段)SN3が設けられている。筒内圧センサSN3は、各気筒2にそれぞれ1つずつ設けられている。また、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN4が設けられている。
PCM100は、クランク角センサSN1の検出結果からエンジン本体1aの回転数(エンジン回転数)を算出する。PCM100は、アクセル開度センサSN4の検出結果からエンジン負荷を算出する。
尚、詳しくは後述するが、PCM100には、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧力に基づいて、燃焼室6内での熱発生率を推定する熱発生率推定部(熱発生率推定手段)101と、熱発生率推定部101で推定された推定熱発生率に基づいて、燃焼室6内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定部(低温酸化反応量推定手段)102と、燃焼室6内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制部(ノッキング抑制手段)103と、点火プラグ13による点火タイミングを制御する点火制御部104とを含む。
PCM100は、これらセンサSN1〜SN4等からの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、点火プラグ13、インジェクタ14、スロットルバルブ22、EGRバルブ42等のエンジン1の各部を制御する。
〈燃焼制御〉
図3は、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジン負荷とした制御マップである。エンジン1の運転領域は、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて2つの領域に区画されている。本実施形態では、エンジン負荷が予め設定された基準負荷Tq1未満でありノッキングが生じ難い低負荷領域Bと、エンジン負荷が基準負荷Tq1以上でありノッキングが生じやすい高負荷領域Aとが設定されている。高負荷領域Aでは、ノッキングの発生を抑制するべく、上記ノッキング抑制制御が実施される。本実施形態1では、エンジン本体1aの幾何学的圧縮比が15〜25に設定されており、燃焼室6内の温度が非常に高い温度にまで高められる。このため、特にノッキングが生じやすい。
高負荷領域Aは、さらに、エンジン回転数が予め設定された基準回転数N1未満の高負荷低回転領域A1と、エンジン回転数が基準回転数N1以上の高負荷高回転領域A2とに区画されている。
本実施形態1では、点火プラグ13を用いた点火アシストによる圧縮着火燃焼(SPCCI燃焼、SPCCI:SPark Controlled Compression Ignition)が実施される。この圧縮着火燃焼では、まず、圧縮上死点(TDC)よりも前にインジェクタ14から燃焼室6内に燃料が噴射される。この燃料は圧縮上死点付近までに空気と混合する。燃焼室6に形成されたこの混合気に、圧縮上死点付近において点火プラグ13による第2点火が行われる。これにより、点火プラグ13周りの混合気が強制的に着火される。そして、点火プラグ13周りから周囲に火炎が伝播していき、周囲の混合気が昇温されて着火する。
図4は、通常制御の実施時(後述するノッキング抑制制御を実施しなかったとき)の高負荷低回転領域A1における燃料の噴射タイミングと点火タイミングと熱発生率の一例を示す。図4に示すように、例えば、高負荷低回転領域A1では、吸気行程の中期と後期に1回ずつインジェクタ14から燃料が噴射される。つまり、吸気行程の中期と後期に、燃料噴射Q1a、Q1bが実施される。そして、圧縮上死点(TDC)近傍に設定された点火時期で点火プラグ13により混合気に点火が行われる。燃料噴射Q1aは、要求されるエンジントルクを実現するためのメイン噴射、つまり、エンジントルクを生成するための燃料を噴射するメイン噴射である。一方、燃料噴射Q1bは、着火・燃焼時期を制御するためのサブ噴射である。サブ噴射の噴射量Q1bは、燃料噴射Q1a、Q1bの合計値の5%〜15%程度である。尚、本明細書においては、各行程の前期、中期、及び後期とは、各行程における実施期間(クランク角度での期間)を3等分したときの、最も進角側の期間がそれぞれ前期に相当し、最も遅角側の期間がそれぞれ後期に相当し、前期と後期との間の期間がそれぞれ中期に相当する。
図4に示すように、高負荷低回転領域A1では、熱発生率は、着火によって急上昇する前に僅かに上昇する。すなわち、低温酸化反応した後に高温酸化反応している。低温酸化反応は、火炎を伴わずにわずかな発熱をする反応であり、混合気を燃焼室6内で圧縮することにより発生する。高温酸化反応は火炎を生じさせながら高い熱エネルギーを発する反応であり、混合気が実際に着火することにより発生する。尚、温度を基準にして、低温酸化反応と高温酸化反応とを区別する場合には、例えば、温度が1000K未満の酸化反応を低温酸化反応とみなし、温度が1000K以上になる酸化反応を高温酸化反応とみなすことができる。
図4に示す例では、圧縮行程の後期でかつ着火前の期間において、低温酸化反応により熱発生率が立ち上がる。ここでは、低温酸化反応の段階であることから、熱発生率はあまり上昇しない。点火時期において点火プラグ13の第2点火により点火エネルギーが付与されてからしばらく後のクランク角度にて、混合気が着火して高温酸化反応が開始することに伴い、クランク角度以降、熱発生率は高い値に向けて急激に上昇していく。本実施形態1では、点火時期は、低温酸化反応が発生する時期と略同時期に設定されている。
図5は、基本制御の実施時の高負荷高回転領域A2における燃料の噴射タイミングと点火タイミングと熱発生率の一例を示す。例えば、高負荷高回転領域A2では、吸気行程の前期から後期にかけて1回だけ燃料噴射Q1が実施される。そして、圧縮上死点(TDC)近傍に設定された点火時期で点火プラグ13により混合気に第2点火が行われる。燃料噴射Q1は、要求されるエンジントルクを実現するためのメイン噴射であり、この噴射量は、基本的に、エンジントルクの要求値に対応する量とされる。
図5に示すように、高負荷高回転領域A2における熱発生率は、高負荷低回転領域A1のときとは異なり、低温酸化反応による熱発生率の上昇が明確には見られない。これは、エンジン回転数が高いときには、ピストン5の上昇速度及び燃焼室6内の圧力上昇速度が速いために、燃焼室6の主たる混合気の低温酸化反応が生じる時間が非常に短くなる、あるいは、燃焼室6の主たる混合気が急激に昇温されて低温酸化反応をほとんど生じることなく高温酸化反応を開始するためと考えられる。
〈ノッキング抑制制御〉
次に、高負荷領域Aにおいて実施されるノッキング抑制制御について説明する。
本実施形態1では、まず、低温酸化反応の反応量に基づいてノッキング抑制制御を実行するか否かを判定するようにしている。
すなわち、点火プラグ13による第2点火によって、燃焼室6内の混合気に点火をしたときには、燃焼室6の点火プラグ13近傍で生じた火炎が、気筒2の外周側に向かって伝播する。このとき、燃焼室6の外周縁部付近では、未燃焼の混合気が局所的に圧縮される。これにより、燃焼室6の外周縁部付近は、局所的に高温かつ高圧の状態になる。ノッキングは、高温かつ高圧の状態になった混合気がそれぞれ個別に自着火することにより発生する。
燃焼室6内で低温酸化反応が発生するには、燃焼室6内の温度及び圧力の少なくとも一方が高いことが条件となる。このため、燃焼室6内で低温酸化反応が生じる場合には、高温酸化反応により生じた火炎が燃焼室6の外周部付近の混合気を圧縮したときに、燃焼室6の外周縁部付近が高温かつ高圧の状態になりやすい。よって、燃焼室6内で低温酸化反応が生じたときには、ノッキングが発生しやすくなる。また、低温酸化反応が生じると、その反応熱によって燃焼室6内の温度が昇温されやすくなる。このため、燃焼室6内で低温酸化反応が生じたときには、ノッキングが発生しやすくなる。
低温酸化反応が大きいとき、具体的には、低温酸化反応による熱発生率の上昇が大きいときには、燃焼室6内の温度及び圧力の少なくとも一方がかなり高く、低温酸化反応が活発に発生していることを意味するため、ノッキングが発生しやすい状態にある。一方で、低温酸化反応が全く生じないか、又は、低温酸化反応が生じたとしてもかなり小さい場合には、ノッキングが生じないか、又は、ノッキングが生じたとしても該ノッキングによる騒音の増大やピストン5等の損傷にほとんど影響しないことがある。そこで、本実施形態1では、低温酸化反応量推定部102で推定された低温酸化反応の反応量が予め設定された特定反応量以上であるときに、燃焼室6内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するようにしている。
本実施形態1では、低温酸化反応量推定部102は、低温酸化反応の反応量を、熱発生率推定部101により推定された推定熱発生率に基づいて推定する。熱発生率推定部101は、該推定熱発生率を、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧力に基づいて推定する。
図6は、低温酸化反応による熱発生率の変化の一例を示す図である。圧縮行程後期では、混合気が圧縮される一方で冷却損失が生じるため、低温酸化反応が発生するよりも前の期間では、熱発生率としては僅かに減少傾向になる。低温酸化反応が発生すると、減少傾向にあった熱発生率は、クランク角が増加するに連れて上昇する。そして、図6に示す例では、着火前の低温酸化反応が生じる期間において、熱発生率が極大になった後、僅かに熱発生率が減少する。その後、混合気が着火されて高温酸化反応が生じることで、熱発生率が急激に増加する。
上記のように、圧縮行程後期における低温酸化反応が生じる期間中は、熱発生率は、例えば、極小になった後、極大となるような変化を示す。ここで、熱発生率における極小値から極大値への変化は、低温酸化反応が活発であるほど大きくなる。したがって、推定熱発生率の極小値と極大値との差、すなわち、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における、推定熱発生率の最大値と最小値との差を低温酸化反応の反応量とみなすことができる。
しかしながら、高負荷高回転領域A2のように、低温酸化反応が小さい場合には、熱発生率の変化が小さく、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における、推定熱発生率の最大値と最小値とを精度良く求めることが困難になる。また、高負荷低回転領域A1であっても、例えば、大量のEGRガスを導入するときには、筒内ガスにおけるEGRガスの割合(以下、EGR率という)が高くなり、吸気の酸素濃度が低くなる。これにより、高負荷低回転領域A1であっても、低温酸化反応が小さくなって、熱発生率の変化が小さくなることがある。
また、ノッキング抑制制御は、低温酸化反応の反応量を推定した後に実行される。このため、ノッキング抑制制御を適切に実行するには、低温酸化反応の反応量を出来る限り早期に推定して、低温酸化反応の反応量を推定してからノッキング抑制制御を実行するまでの実時間を出来る限り長く確保する必要がある。エンジン1の運転領域が高負荷高回転領域A2にあるときには、低温酸化反応が発生してから混合気の高温酸化反応が開始するまでの実時間が短いため、特に、低温酸化反応の反応量を出来る限り早期に推定する必要がある。
これに対して、本願発明者らが鋭意研究したところ、圧縮行程中期以前に点火プラグ13による点火(以下、第1点火という)によって、燃焼室6内の混合気を予め活性化させておくと、低温酸化反応の反応開始時期が早期化されることが分かった。
図7は、高負荷高回転域A2における、低温酸化反応による熱発生率の変化をシミュレーションにより算出した結果を示す。図7中の破線は、第1点火を実行しなかった場合の熱発生率の変化であり、図7中の実線は、第1点火を実行した場合の熱発生率の変化である。第2点火の時期は、第1点火の有無に関わらず同じ時期に設定している。
図7の破線に示すように、第1点火を実行しなかった場合、低温酸化反応による熱発生率の変化(増加)の開始時期が遅く、低温酸化反応による熱発生率が圧縮上死点の直前で最大となっていることが分かる。これは、低温酸化反応の反応速度に対して、ピストン5による圧縮速度が速く、低温酸化反応による熱発生率の変化が圧縮上死点の直前になるためと考えられる。一方で、図7の実線に示すように、第1点火を実行した場合には、第1点火を実行しなかった場合よりも進角側の時期に低温酸化反応による熱発生率の変化が発生していることが分かる。また、第1点火を実行した場合には、第1点火を実行しなかった場合よりも低温酸化反応による熱発生率の変化が大きいことが分かる。これは、第1点火により、燃焼室6内の混合気が予め活性化されたためである。より具体的には、燃料の酸化反応は、燃料のHCが熱分解されて低級化が進むことで発生する。第1点火を実行すると、混合気中の燃料の少なくとも一部を予め低級化させておくことができる。これにより、低温酸化反応が促進されて、低温酸化反応が早期に発生するとともに、低温酸化反応の反応量が大きくなる。すなわち、ここでいう、「第1点火による混合気の活性化」とは、「第1点火による混合気中の燃料の熱分解の促進」を意味する。
尚、図7において、第1点火を実行した場合の方が、第1点火を実行しなかった場合と比較して、高温酸化反応の反応開始時期が早くなっていることが分かる。これは、第1点火によって予め混合気を活性化したことで、高温酸化反応も発生しやすくなっているためである。
以上のように、第1点火を実行することで低温酸化反応を早期に発生させるとともに、低温酸化反応の反応量を大きくすることができる。これにより、第1点火を実行することで低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定ことができるようになる。そこで、本実施形態1では、点火制御部104は、低温酸化反応の反応量が小さくなりやすい状態、詳しくは、エンジン1の運転領域(運転状態)が高負荷高回転領域A2にあるとき、又は、エンジン1の運転領域が高負荷領域Aにありかつ上記EGR率が所定値以上であるときには、圧縮行程前期において、気筒2内の混合気が活性化するように点火プラグ13による第1点火を実行する。そして、低温酸化反応量推定部102は、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における、推定熱発生率の最大値と最小値との差を低温酸化反応の反応量として推定する。これにより、低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することができる。尚、上記EGR率の所定値とは、例えば、20%程度である。
尚、低温酸化反応による熱発生率の変化では、熱発生率が極大(最大)となった後に熱発生率が低下せずに略一定の値になることがある。このときには、例えば、略一定となった値を、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における推定熱発生率の最大値とみなして、低温酸化反応の反応量を推定するようにしてもよい。
点火制御部104による第1点火の開始時期は、圧縮行程中期以前の期間の中でも出来る限り早い時期であることが好ましい。これは、圧縮行程の出来る限り早い時期に混合気を活性化させることで、活性化された混合気が燃焼室6全体に拡散させて、圧縮行程後期において低温酸化反応が生じやすい状態にするためである。このため、本実施形態1では、点火制御部104により制御される第1点火の点火開始時期は、圧縮行程の期間、すなわち、ピストン5が圧縮下死点から圧縮上死点まで移動する期間を3等分したときの最も進角側の期間内、言い換えると、圧縮行程前期の期間内の時期であることが好ましい。一方で、混合気を適切に活性化するには、燃焼室6内に混合気がある程度拡散して、点火プラグ13の周辺に混合気が存在していることが好ましい。したがって、第1点火の点火開始時期は、燃料が気化して混合気が点火プラグ13の周辺に存在可能な時期、具体的には、圧縮行程前期の期間内の時期でありかつ圧縮下死点後5°以降の時期であることがより好ましい。
低温酸化反応量推定部102で推定された、低温酸化反応の反応量は、PCM100のノッキング抑制部103に入力される。ノッキング抑制部103は、推定された低温酸化反応の反応量が、上記特定反応量以上、詳しくは、騒音の増大やピストン5等の損傷に影響を与えるような反応量以上であるときには、ノッキング抑制制御を実行する。
本実施形態1では、ノッキング抑制部103はノッキング抑制制御として、燃焼室6内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、燃焼室6内に冷却媒体を供給する。具体的には、ノッキング抑制部103は、燃焼室6内に、冷却媒体としての燃料を追加噴射するように、インジェクタ14を制御する。
追加噴射を行う時期(クランク角度)は、予め実験等によって設定される。具体的には、ノッキング抑制制御(ここでは、燃料の追加噴射)を実行しなかったときの燃焼期間(高温酸化反応が生じる期間)を検出又は推定し、その半分の期間を求める。次に、得られた燃焼期間の半分以下のクランク角度を待機角度として設定して、PCM100に記憶させておく。次いで、点火プラグ13による点火時期から上記待機角度後の時期を追加噴射Q2の実施時期として設定する。そして、ノッキング抑制部103は、当該実施時期に追加噴射Q2を実行するようにインジェクタ14を制御する。
本実施形態1では、上記待機角度は、燃焼が開始してから燃焼重心時期までの期間以下に設定されている。燃焼重心時期は、1燃焼サイクル中に生じる熱発生量の総量の50%の熱発生が生じる時期(クランク角度)である。上記待機角度は、例えば、高温酸化反応が開始してから、1燃焼サイクル中に生じる熱発生量の総量の30%程度の熱発生が生じるまでの時期(クランク角度)であって、圧縮上死点後15°程度である。
本実施形態1では、追加噴射Q2における燃料の噴射量は、低温酸化反応の反応量に応じて設定される。具体的には、ノッキング抑制部103は、低温酸化反応推定部102で推定された低温酸化反応の反応量が大きいほど、燃料の噴射量を多くする。上述したように、低温酸化反応が発生するには、燃焼室6内の温度及び圧力の少なくとも一方が高いことが条件となる。このため、低温酸化反応の反応量が大きいということは、混合気の高温酸化反応時に、燃焼室6内の、特に外周縁部付近が高温かつ高圧の状態になりやすいことを意味する。そこで、低温酸化反応の反応量が大きいほど、追加噴射Q2における燃料の噴射量を多くする。これにより、ノッキングを一層効果的に抑制することができる。一方で、あまり大量の燃料を噴射すると、エミッションが悪化するおそれがあるため、追加噴射Q2における燃料の噴射量の上限は、1燃焼サイクルで燃焼室6に供給される燃料の総量の10%に設定されている。
次に、ノッキング抑制制御を実行する際のPCM100の処理動作について、図8及び図9を参照して説明する。以下に説明する処理動作では、低温酸化反応の反応量を推定する処理動作は低温酸化反応量推定部102により実行され、ノッキング抑制制御はノッキング抑制部103により実行される。また、熱発生率の推定は、熱発生率推定部101により実行される。さらに、点火プラグ13による点火は点火制御部104により実行される。このフローチャートに基づく処理動作は、エンジン1が作動している間は1燃焼サイクル毎に実行される。
まず、ステップS1において、PCM100は、各センサSN1〜SN4からの情報を読み込む。
次のステップS2では、PCM100は、エンジン1の運転領域が高負荷領域Aであるか否かを判定する。エンジン1の運転領域が高負荷領域AであるYESのときには、ステップS3に進む一方で、エンジン1の運転領域が低負荷領域BであるNOのときには、リターンする。
上記ステップS3では、PCM100は、エンジン1の運転領域が高回転領域であるか否かを判定する。エンジン1の運転領域が高回転領域であるYESのときには、ステップS5に進む一方で、エンジン1の運転領域が低回転領域であるNOのときには、ステップS4に進む。
上記ステップS4では、PCM100は、上記EGR率が所定値以上であるか否かを判定する。上記EGR率が所定値以上であるYESのときには、ステップS5に進む一方で、上記EGR率が所定値未満であるNOのときには、ステップS6に進む。
上記ステップS5では、PCM100は、第1点火を実行する。第1点火の点火開始時期は、圧縮行程前期の期間内の時期でありかつ圧縮下死点後5°以降の時期である。ステップS5の後はステップS6に進む。
上記ステップS6では、PCM100は、圧縮行程後期であるか否かを判定する。圧縮行程後期であるか否かは、クランク角センサSN1により検出されるクランク角度により判定する。PCM100は、圧縮行程後期であるYESのときには、ステップS5に進む一方、圧縮行程中期以前であるNOのときには、圧縮行程後期になるまで、このステップS4の判定を繰り返す。
上記ステップS7では、PCM100は、熱発生率を推定する。熱発生率は筒内圧センサSN3の検出結果に基づいて算出する。
続くステップS8では、PCM100は、低温酸化反応の反応量を推定する。低温酸化反応の反応量は、圧縮行程後期でかつ着火前の期間内における、推定熱発生率の最大値と最小値との差を算出することにより推定する。
次のステップS9では、PCM100は、低温酸化反応の反応量が特定反応量以上か否かを判定する。低温酸化反応の反応量が特定反応量以上であるYESのときにはステップS10に進む一方で、低温酸化反応の反応量が特定反応量未満であるNOのときにはリターンする。
上記ステップS10では、PCM100は、ノッキング抑制制御を実行する。このノッキング抑制制御では、上述したように、燃焼室6内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、燃焼室6内に燃料を追加噴射する(追加噴射Q2を実行する)。このステップS10での追加噴射Q2の噴射量は、上記ステップS8で推定された低温酸化反応の反応量に基づいて設定される。ステップS10の後はリターンする。
以上のようにして、低温酸化反応の反応量を推定することで、低温酸化反応の反応量の推定精度を高くすることができる。これにより、ノッキングが発生するおそれがあるか否かの判定精度が高くなるため、ノッキングを効果的に抑制することができる。
図9は、低温酸化反応の反応量に基づいて、ノッキング抑制制御を実行する際のタイムチャートの一例である。ここでは、低温酸化反応の反応量が特に小さくなりやすい高負荷高回転領域A2におけるタイムチャートを示している。
まず、吸気行程において、燃料噴射Q1が実施される。その後、圧縮下死点を通過して圧縮行程に入る。そして、圧縮行程前期の期間内に第1点火が実行される。
第1点火の後、圧縮行程中期を経て圧縮行程後期に入り、ピストン5が圧縮上死点近傍に位置すると、低温酸化反応が発生して熱発生率が上昇する。PCM100は、熱発生率の極小値(圧縮行程後期でかつ着火前の最小値)を示したときの当該熱発生率と、熱発生率が極大値(圧縮行程後期でかつ着火前の最大値)を示したときの当該熱発生率との差から、低温酸化反応の反応量を推定する。
その後、推定された低温酸化反応の反応量が特定反応量以上であるときには、図9に示すように、燃焼室6内の混合気の着火前のクランク角度、特に点火プラグ13による第2点火の点火開始時期よりも前のクランク角度において、ノッキング抑制制御実行フラグが立つ。ノッキング抑制制御実行フラグが立ったときには、PCM100はノッキング抑制制御を実行して、燃焼室6内で混合気の高温酸化反応が生じる期間の前半に、追加噴射Q2を実行する。これにより、燃焼室6内に局所的な高温領域が発生するのが抑制されて、ノッキングが適切に抑制される。
したがって、本実施形態では、点火プラグ13による点火を制御する点火制御部104と、筒内圧センサSN3で検出された、圧縮行程後期でかつ着火前の期間における気筒2内の圧力に基づいて、燃焼室6内での混合気の低温酸化反応の反応量を推定する低温酸化反応量推定部102と、低温酸化反応量推定部102で推定された低温酸化反応の反応量が、予め設定された特定反応量以上であるときには、燃焼室6内でのノッキングを抑制するためのノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制部103とを備え、点火制御部104は、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときには、圧縮行程中期以前において、気筒2内の混合気が活性化するように点火プラグ13による第1点火を実行するため、低温酸化反応を早期に発生させることができるとともに、低温酸化反応の反応量を推定しやすくすることができる。これにより、エンジン1の燃焼室6内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することができる。そして、推定された低温酸化反応の反応量に基づいてノッキング抑制制御を実行することで、ノッキングを適切に抑制することができる。
また、本実施形態1では、ノッキング抑制制御としての燃料の追加噴射における燃料の噴射量は、低温酸化反応の反応量が大きいほど多く設定される。これにより、燃焼室6内の環境(気筒2内の圧力及び温度)に応じてノッキング抑制制御を実行することができる。ノッキングを一層効果的に抑制することができる。
さらに、ノッキング抑制制御としての燃料の追加噴射は、高温酸化反応が生じる期間の前半であるため、追加噴射された燃料も十分に燃焼させることができるようになる。これにより、燃料の追加噴射によって燃焼室6内を冷却したとしても、エンジントルクが低下してしまうことを抑制することができる。
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
実施形態2では、ノッキング抑制制御の内容が実施形態1とは異なる。具体的には、実施形態2では、ノッキング抑制制御として、点火プラグ13による第2点火の点火開始時期を、低温酸化反応の反応量が上記特定反応量未満のときの点火開始時期よりも遅角させる。より詳しくは、点火プラグ13による第2点火の点火開始時期を、圧縮上死点よりも後にする。第2点火の点火開始時期が遅角されることにより、混合気の着火時期が遅角される。これにより、高温酸化反応時における筒内圧力を低下させることができる。この結果、ノッキングを適切に抑制することができる。
本実施形態2では、低温酸化反応量推定部102により推定された低温酸化反応の反応量が、特定反応量以上であるときには、ノッキング抑制部103から点火制御部104にノッキング抑制制御を実行する信号が出力される。ノッキング抑制部103からの信号を受信した点火制御部104は、第2点火の点火開始時期を遅角させる。つまり、本実施形態2では、点火制御部104もノッキング抑制手段を構成する。
図10は、本実施形態2において、低温酸化反応の反応量に基づいて、ノッキング抑制制御を実行する際のタイムチャートの一例である。
図10に示すように、まず、吸気行程において、燃料噴射Q1が実施される。その後、圧縮下死点を通過して圧縮行程に入る。そして、圧縮行程前期の期間内に第1点火が実行される。
第1点火の後、圧縮行程中期を経て圧縮行程後期に入り、低温酸化反応が発生すると、PCM100が低温酸化反応の反応量を推定する。その後、推定された低温酸化反応の反応量が特定反応量以上であるときには、点火プラグ13による第2点火の点火開始時期よりも前のクランク角度において、ノッキング抑制制御実行フラグが立つ。そして、ノッキング抑制制御実行フラグが立ったときには、PCM100は、ノッキング抑制制御を実行して、点火プラグ13による点火開始時期を圧縮上死点よりも後にする。これにより、図10に示すように、ノッキング抑制制御を実行しないとき(熱発生率のグラフに一点鎖線で示す)と比較して、高温酸化反応の開始時期が遅角される。このため、高温酸化反応時における筒内圧力は、ノッキング抑制制御を実行しないときと比較して低くなる。また、高温酸化反応の開始時期が遅角されることで、高温酸化反応による熱発生率の変化が、ノッキング抑制制御を実行しないときと比較して緩慢になる。この結果、燃焼室6内に局所的な高圧領域が発生するのが抑制されて、ノッキングが適切に抑制される。
また、ノッキング抑制制御を実行しないときの第2点火の点火開始時期は、圧縮上死点の近傍であるため、低温酸化反応の反応量を出来る限り早期に推定しなければ、ノッキング抑制制御が間に合わなくなるおそれがある。このため、ノッキング抑制制御として第2点火の点火開始時期を遅角させる場合には、エンジン1の燃焼室6内で発生する低温酸化反応の反応量を早期にかつ精度良く推定することの効果を一層適切に発揮される。
尚、実施形態2における低温酸化反応の反応量の推定は、上記実施形態1と同じであるため、説明を省略する。
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態1では、追加噴射Q2において燃焼室6に噴射する冷却媒体を燃料としたが、これに限らず、例えば水であってもよい。この場合、水を噴射するためのインジェクタを別途設ける必要がある。
また、上記実施形態2では、点火プラグ13による第2点火の点火開始時期を圧縮上死点よりも後まで遅角させているが、これに限らず、ノッキング抑制制御を実行しないときの第2点火の点火開始時期よりも遅角側でかつノッキングが抑制できるような時期あれば、第2点火の点火開始時期が圧縮上死点よりも前であってもよい。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。