本発明は、結晶性樹脂および非晶性樹脂を含有する結着樹脂を含み、コアシェル構造を有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、水系媒体中、前記結晶性樹脂の粒子およびビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂の粒子を、前記結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱し、凝集融着させてコア粒子を形成し、コア粒子を含有する分散液を得る第1の工程と、前記第1の工程により得られた前記分散液に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物に由来する構成単位およびビスフェノールAエチレンオキサイド付加物に由来する構成単位を含む非晶性ポリエステル樹脂粒子を添加し、前記結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)以上の温度で、前記コア粒子の表面にシェル層を形成し、コアシェル構造を有する粒子を含有する分散液を得る第2の工程と、前記第2の工程により得られた前記分散液を、Rc−25℃未満の温度まで冷却する第3の工程と、前記第3の工程により得られた前記分散液を、温度域T1で30分以上維持する第4の工程と、を含み、前記温度域T1が、下記数式(I)を満たす、静電荷像現像用トナーの製造方法である。
本発明において、トナーは、下記で説明する第1の工程〜第4の工程を含む製造方法により得ることができる。なお、本発明でいう「トナー母体粒子」とは、少なくとも結着樹脂を含有し、必要に応じて着色剤、離型剤等を含有してなり、かつ外添剤を含まない粒子であって、電子写真方式の画像形成に使用されるトナーの母体を構成するものである。トナー母体粒子は、そのままでもトナーとして使用することができるが、通常、外添剤を添加して使用する。
本発明者らは、良好な低温定着性および優れた耐熱保管性を有し、高画質化を達成できるトナーを得るためには、結晶性樹脂をトナー母体粒子中に十分に微分散させると共に、当該結晶性樹脂をトナー母体粒子表面に露出させないことが重要であることを見出した。そして、結晶性樹脂の分散状態は、結晶性樹脂を含む結着樹脂粒子の分散液を適当な条件にて熱処理すると共に、適当な結着樹脂の組成とすることによって制御できることを見出した。
具体的には、本発明に係る製造方法によれば、結晶性樹脂およびビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂を含むコア粒子を、特定の非晶性ポリエステル樹脂で被覆し、コアシェル構造を有する粒子を作製する。これにより、本発明では、コア粒子中に含まれる結晶性樹脂の露出を抑制できる。また、上記トナー母体粒子を含む分散液の温度を制御し、結晶性樹脂を結着樹脂中に十分に相溶させた後、結晶核生成が支配的に起こる温度領域まで冷却することで、微細な結晶核を生成できる。その後、所定の温度で熱処理して結晶成長を行うことで、結晶核が微分散した状態で結晶化が進行する。その結果、本発明によれば、低温定着性を確保しつつ、さらなる耐熱保管性の向上および高画質化を実現することができる静電荷像現像用トナーの製造方法が提供される。
上述の特許文献2には、トナーの製造時、加熱処理工程を経ることで、相溶している結晶性樹脂の再結晶化が起こり、トナーの耐熱保管性が向上することが示されている。しかしながら、本発明者らは、特許文献2に記載の方法では、十分な低温定着性が得られないことを見出した。この理由は、乾式において加熱処理を行うと、トナー中の水分吸着状態の変化によるTgの増大や、トナー粒子中における結晶性樹脂のドメイン径の増大などが起こるためであると考えられる。また、本発明者らは、特許文献2の技術では、高画質化を達成できないことを見出した。そして、この理由は、結晶性樹脂がトナー粒子(トナー母体粒子)表面に露出することに起因すると考察した。
また、特許文献3に記載の方法によれば、上述のように、低温定着性および耐熱保管性を両立できることが示されている。しかしながら、本発明者らは、特許文献3に記載の方法により得られたトナーを用いて形成される画像では、画質が低下することを見出した。この理由は、結晶性樹脂を結晶化させるための加熱処理を行う際に、トナー粒子(トナー母体粒子)間での凝集・融着が発生するためであると考えられる。より詳細には、結晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出しているため、結晶性樹脂の結晶化度の向上を目的としたアニール工程で、トナー母体粒子間における凝集・融着が発生し、トナー母体粒子の粒度分布均一性が低下し、粗大粒子が生じることで、画質が低下すると考察される。
これに対して、本発明に係る製造方法では、結晶性樹脂を含むコア粒子と、当該コア粒子を被覆するシェル層とからなるコアシェル構造を有するトナー母体粒子を製造する(第1の工程、第2の工程)。そして、シェル層の形成時において、水系媒体中、特定の単量体に由来する構成単位を有する非晶性ポリエステル樹脂をコア粒子に被覆する。このとき、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(以下、単に「BPA−PO」とも称する)に由来する構成単位およびビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(以下、単に「BPA−EO」とも称する)に由来する構成単位を含む非晶性ポリエステル樹脂粒子は、適度な極性(親水性)を有するため、水系媒体中では、コア粒子の表面に局在化しやすくなる。これにより、コア粒子を構成する結晶性樹脂がコア粒子中に完全に内包されるため、結晶性樹脂のトナー母体粒子表面への露出が抑制される。
ここで、本発明に係る製造方法では、以下で詳説するように、結晶化を促進する熱処理工程(第4の工程)を行う。しかし、結晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出していた場合、相溶化状態から結晶状態への状態変化がトナー母体粒子表面においても発生してしまう。そうすると、この際にトナー母体粒子同士が融着・固定化されてしまい、粗大粒子が生じ、画質が低下する原因となっていると推測される。これに対し、本発明に係る製造方法により得られるトナーでは、上記のように結晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出することなく、コア粒子内に内包されているため、このような画質の低下が発生せず、高画質化を達成できると推測される。また、トナー表面への結晶性樹脂の露出が抑制されることにより、結晶性樹脂がトナー母体粒子表面にて他の結着樹脂に相溶化することに起因する耐熱保管性の低下も抑制できる。
さらに、本発明に係るトナーの製造方法では、コアシェル構造を有するトナー母体粒子を含む分散液を、結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)−25℃未満まで冷却することで(第3の工程)、結晶性樹脂は、微細な結晶核を生成する。続いて、上記分散液を所定の温度で熱処理して結晶成長を行うことで、結晶核が微分散した状態で結晶化を進行させることができる(第4の工程)。
一般的に、結晶性樹脂の結晶化(再結晶化)のメカニズムは、非晶状態から非常に小さい結晶核が生成し、その核が結晶成長する2段階で進行するといわれている。この結晶核が生成する速度と、結晶が成長する速度との和が、全体の結晶化速度を決定する。この際、結晶性樹脂の結晶化が最も進行しやすい温度であって、温度に対する全体の結晶化速度を求めたときに全体の結晶化速度が最大になる温度が再結晶化温度(Rc(℃))である。ここで、結晶核生成速度が最大になる温度領域は、結晶成長速度が最大になる温度領域よりも低温側にあることが知られている。本発明では、はじめに、コアシェル構造を有するトナー母体粒子を形成する際、まず、結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱することでコア粒子を形成する(第1の工程)。かような温度に加熱することで、結晶性樹脂が非晶状態となり、ビニル樹脂と相溶しやすくなる。次いで、上記コア粒子を含む分散液を結晶性樹脂の再結晶化温度以上の温度でシェル層を形成する(第2の工程)。かような温度でシェル層を形成することで、結晶性樹脂が再結晶化する際の相転移に起因するトナー母体粒子の変形を抑制できる。そして、上記第1および第2の工程を経て、結晶核生成が支配的に起こる温度領域であるRc−25℃を下回る温度まで冷却することで、細やかな結晶核の生成を促すことができると考えられる(第3の工程)。その後、多数の微細な結晶核を起点に、結晶成長速度がより大きくなる温度領域であるRc−25℃以上、かつRc+2℃以下の温度で熱処理を行うことで(第4の工程)、上記第3の工程で結晶化せずに結着樹脂中に相溶した状態にある結晶性樹脂が微分散した状態で結晶成長して結晶化が進む。
本発明では、上記数式(I)に示される温度条件で熱処理を行い、当該熱処理を所定の時間以上行うことにより、結晶性樹脂の結晶化が十分に進行する結果、優れた低温定着性が得られるだけでなく、耐熱保管性も向上すると考えられる。一方で、上記熱処理温度がRc−25℃未満である(すなわち、第3の工程の後、熱処理を行わない)と、結晶性樹脂の結晶化が十分に進行せず、良好な耐熱保管性が得られない。また、熱処理温度をRc+2℃超とすると、結晶性樹脂の融点近傍となってしまうため、一部結晶化していた結晶性樹脂が溶融してしまい、同じく、良好な耐熱保管性を得ることができない。さらに、上記数式(I)に示される温度条件に維持する時間を30分未満とすると、結晶性樹脂の結晶化が十分に進行せず、良好な耐熱保管性が得られない。
以下、本発明のトナーの製造方法について、詳細に説明する。
<<トナー(静電荷像現像用トナー)の製造方法>>
本発明に係るトナーは、結着樹脂として、結晶性樹脂と非晶性樹脂(ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂と、BPA−POに由来する構成単位およびBPA−EOに由来する構成単位を含む非晶性ポリエステル樹脂)とを含む。本明細書において、「結着樹脂が結晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が結晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。また、本明細書において、「結着樹脂が非晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が、非晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂における非晶性重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。
本発明に係る製造方法により製造されるトナー(本明細書中、単に「本発明に係るトナー」とも称する)のトナー粒子(トナー母体粒子)は、コアシェル構造を有する。ここでいう「コアシェル構造」とは、コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備える多層構造である。また、コアシェル構造の断面は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の公知の観察手段によって確認できる。
上記コアシェル構造において、コア粒子は、結着樹脂として、結晶性樹脂と、ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂とを含む。また、シェル層は、結着樹脂として、BPA−POに由来する構成単位およびBPA−EOに由来する構成単位を含む非晶性ポリエステル樹脂を含む。
図1に示されるように、本発明のトナーの製造方法は、(a)準備工程から(e)外添剤の添加工程までを含むことが好ましい。これらの中で、第1の工程〜第4の工程は必須の工程である。なお、第1の工程〜第4の工程は、(b)トナー母体粒子の製造工程にて行われる。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
(a)準備工程
本発明において、(a)準備工程(単に「工程(a)」とも称する)は、トナー母体粒子を製造するための各分散液を調製する工程である。より具体的に、工程(a)は、(a−1)結晶性樹脂粒子分散液の調製工程、(a−2)ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂粒子(以下、「ビニル樹脂粒子」とも略記する)分散液の調製工程、および(a−3)非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製工程、を含む。さらに必要に応じて、(a−4)着色剤粒子分散液の調製工程を含んでもよい。以下、各分散液の好適な構成および調製方法について、説明する。
(a−1)結晶性樹脂粒子分散液の調製工程
本工程では、結晶性樹脂と、水系媒体とを含む分散液を調製する。本工程で調製される分散液に含まれる結晶性樹脂は、コア粒子を形成する。
[結晶性樹脂]
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)で測定した示差熱量曲線において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSC測定において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。なお、DSC測定は、示差走査熱量計(島津製作所製)を用い、この装置の検出部の温度補正にはインジウムと亜鉛との融点を用い、熱量の補正にはインジウムの融解熱を用いる。
本発明に係る結晶性樹脂の融点(Tm(℃))は、十分な低温定着性と耐熱保管性とを得る観点から、50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。なお、融点(Tm)は、実施例に記載の方法で測定する。2種類以上の結晶性樹脂を用いる場合には、同じ配合比の試料を同様の方法で測定して求めた融点を用いるものとする。
本発明に係る結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)は、十分な低温定着性と耐熱保管性とを得るとともに、高温高湿保管による定着性能の変動を抑制する観点から、45〜85℃であることが好ましく、55〜75℃であることがより好ましい。なお、本発明でいう「再結晶化温度」とは、結晶性樹脂の結晶化が最も進行しやすい温度であって、実施例に記載の方法で測定する。2種類以上の結晶性樹脂を用いる場合には、同じ配合比の試料を同様の方法で測定して求めた再結晶化温度を用いるものとする。
また、上記融点(Tm)、再結晶化温度(Rc)は、当業者であれば、樹脂の組成によって制御することが可能である。
本発明において、結着樹脂中の結晶性樹脂の含有量は1〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが特に好ましい。結着樹脂中の結晶性樹脂の含有量が1質量%以上であると、低温定着性の効果が効率よく得られ、40質量%以下であれば耐熱保管性および画質が良好となる。また、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の含有量は、十分な低温定着性および耐熱保管性およびを得ると共に、高画質化するという観点から、1〜40質量%の範囲内にあることが好ましく、1〜30質量%の範囲内にあることがより好ましく、5〜15質量%の範囲内にあることが特に好ましい。この範囲であれば、結着樹脂に含まれる非晶性樹脂中、特に、コア粒子中において、結晶性樹脂を均一に分散させることができる。
本発明において、結晶性樹脂は、上記定義した通りであれば特に限定されず、例えば、結晶性樹脂による主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂が上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、本発明でいう結晶性樹脂に該当するものとする。本発明に係る結晶性樹脂の例としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリアセタール樹脂、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリフェニレンサルファイド樹脂、結晶性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、結晶性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。なかでも、結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂を含むと好ましい。熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂が融解して非晶性樹脂の可塑化剤として働き、低温定着性を向上させる効果が高いからである。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸(2価以上のカルボン酸)と多価アルコール(2価以上のアルコール)との脱水縮合反応による公知の合成法により得ることができる。結晶性ポリエステル樹脂については特に制限はなく、本技術分野における従来公知の結晶性ポリエステル樹脂が用いられうる。なお、結晶性ポリエステル樹脂は、一種でもそれ以上の種類を用いてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂の形成に用いられる多価カルボン酸および多価アルコールの例としては、特に制限されないが、以下が挙げられる。
(多価カルボン酸)
上記多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。また、2価のカルボン酸以外の多価カルボン酸を用いてもよい。さらに、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。上記多価カルボン酸は、単独でもまたは2種以上を混合して用いてもよい。
(多価アルコール)
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオールを挙げることができる。また、2価のアルコール以外の多価アルコールを用いてもよい。さらに、これらの誘導体を用いてもよい。上記多価アルコールは、単独でもまたは2種以上を混合して用いてもよい。
また、上記多価カルボン酸の価数、上記多価アルコールの価数の選択などによって一部枝分かれや架橋などを有していてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を製造することができる。必要に応じて反応系内を減圧にし、重縮合の際に発生する水やアルコールを除去しながら反応させてもよい。
製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物等が挙げられる。入手容易性等を考慮すると、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩や、テトラノルマルブチルチタネート(チタンテトラノルマルブトキサイド)、テトライソプロピルチタネート(チタンテトライソプロポキシド)、テトラメチルチタネートなどを用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重縮合(エステル化)の条件は特に限定されるものではないが、150〜250℃で、0.5〜15時間維持することが好ましい。重縮合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
<ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂>
本発明においては、結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましく、さらに、結晶性ポリエステル樹脂の構造と非晶性樹脂の構造とを含有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が有する非晶性樹脂の部分は、結着樹脂に含まれる非晶性樹脂との相溶性が高い。その結果、トナー母体粒子中にハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が均一に分散しうるため、低温定着性が向上する。
すなわち、本発明において、トナー母体粒子の好ましい形態は、コアシェル構造を有し、コア粒子は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含み、当該コア粒子は、シェル層により被覆される。かような構成により、トナー母体粒子表面にハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が露出しにくくなるため、耐熱保管性も向上するのみならず、高画質な画像が得られる。
本発明の好ましい形態において、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合した樹脂である。すなわち、結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含んでいると好ましい。化学的に結合している構造について、特に制限はないが、結晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていると好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として非晶性重合セグメントを有し、側鎖として結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であると好ましい。
より好ましくは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性重合セグメントであるスチレンアクリル重合セグメントの主鎖に、側鎖である結晶性ポリエステル重合セグメントが化学的に結合した樹脂である。以下、かような構造を有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂について説明する。
≪結晶性ポリエステル重合セグメント≫
結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造を有する分子鎖を指す。
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、同様の多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。なお、結晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分については、上記の結晶性ポリエステル樹脂の構成成分として例示した「多価カルボン酸」と「多価アルコール」の項目の内容と同様であるため、説明を省略する。
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80〜98質量%であることが好ましく、90〜95質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
≪非晶性重合セグメント≫
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントの他に、非晶性重合セグメントを含む。かような非晶性重合セグメントを含むグラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
非晶性重合セグメントとは、非晶性樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性樹脂を構成するものと同じ化学構造を有する分子鎖を指す。非晶性重合セグメントは、コア粒子に含まれる非晶性樹脂と、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂との親和性に寄与し得る。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が非晶性重合セグメントを含有することは、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、ガラス転移点(Tg)を有する重合セグメントである。
非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して、2〜20質量%であることが好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル重合セグメントが好ましい。
ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン−酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。スチレンアクリル重合セグメントを有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、コア粒子中、共に含まれるビニル樹脂(特に、スチレンアクリル樹脂)との親和性が高く、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を微分散させることができるため、低温定着性が向上する。以下、非晶性重合セグメントとしてのスチレンアクリル重合セグメントについて説明する。
〔スチレンアクリル重合セグメント〕
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物や、CH2=C(CH3)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
以下に、スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、本発明で使用されるスチレンアクリル重合セグメントの形成に使用可能なものは以下に限定されない。
(スチレン単量体)
スチレン単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。これらスチレン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
((メタ)アクリル酸エステル単量体)
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体を使用することが好ましい。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」とを総称したものである。上記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
スチレンアクリル重合セグメント中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、非晶性重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。
さらに、スチレンアクリル重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物が付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール成分由来のヒドロキシル基[−OH]または多価カルボン酸成分由来のカルボキシル基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、スチレンアクリル重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
スチレンアクリル重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、スチレンアクリル重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等;過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン等が挙げられる。
また、乳化重合法で樹脂粒子を形成する場合は、水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられる。上記重合開始剤は、一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法)
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されない。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(I)非晶性重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法;
(II)結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法;
(III)結晶性ポリエステル重合セグメントを予め形成しておき、当該結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
これらの中でも、(I)の方法は、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントをグラフト化させた構造のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや、生産工程を簡素化できるため好ましい。また、(I)の方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、結晶性が向上する結果、低温定着性および耐熱保管性をより向上させることができる。
結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリット結晶性ポリエステル樹脂)は、低温定着性及び光沢度安定性の観点から、数平均分子量(Mn)が2,000〜10,000の範囲内にあることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が5,000〜50,000の範囲内にあることが好ましい。なお、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、実施例で示す測定方法により求めることができる。
[結晶性樹脂粒子分散液の調製方法]
結晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、特に制限されないが、当該結晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒(溶剤)の使用量(2種類以上使用する場合はその合計使用量)は、樹脂100質量部に対して、1〜1000質量部であると好ましい。さらに、油相液中には、カルボキシル基をイオン解離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
(水系媒体)
本発明に係る水系媒体とは、水の含有量が50質量%以上の媒体をいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましい。水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
(分散安定剤)
分散安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えばドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル等のノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を用いることができる。これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(その他の添加物−樹脂微粒子)
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
このような油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイザーなどの超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、結晶性ポリエステル樹脂粒子または後述する非晶性樹脂粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。あるいは、エバポレータ等の装置を用いて減圧しながら除去することができる。
結晶性樹脂粒子分散液における結晶性樹脂粒子(油滴)の平均粒径は、体積基準のメジアン径で60〜1000nmであると好ましく、80〜500nmであるとより好ましい。なお、体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさにより制御することができる。
結晶性樹脂粒子分散液における結晶性樹脂粒子の含有量は、分散液全体を100質量%として10〜50質量%の範囲が好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(a−2)ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂粒子(ビニル樹脂粒子)分散液の調製工程
本工程では、ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂と、水系媒体とを含む分散液を調製する。本工程で調製される分散液に含まれるビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂は、コア粒子を形成する。ここで、「主成分」とは、非晶性樹脂の中で最も含有割合が高い樹脂であることを意味する。コア粒子を形成する非晶性樹脂全体に対する、ビニル樹脂の含有量は、50〜100質量%であると好ましく、80〜100質量%であるとより好ましく、100質量%であると特に好ましい。すなわち、コア粒子を形成する非晶性樹脂は、ビニル樹脂のみからなると特に好ましい。また、トナー母体粒子を構成する非晶性樹脂全体(コア粒子中およびシェル層中の非晶性樹脂の合計)に対する、ビニル樹脂の含有量は、50〜96質量%であると好ましく、55〜95質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であると特に好ましい。さらに、結着樹脂中のビニル樹脂の含有量は、50〜90質量%であることが好ましく、55〜85質量であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、熱定着時の可塑性が向上する。
また、「非晶性樹脂」とは、DSCにより得られる吸熱曲線において、ガラス転移点(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の前述の明確な吸熱ピークがない非晶性を示す樹脂をいう。非晶性樹脂が含まれることにより、適度な定着強度および画像光沢が得られるとともに温湿度の変動環境下においても良好な帯電性が得られるという利点がある。
また、非晶性樹脂に含まれるビニル樹脂以外の樹脂としては、上記特性を示すものであれば特に制限されないが、例えば、非晶性ポリエステル樹脂、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
[ビニル樹脂]
ビニル樹脂は、ビニル化合物を重合したビニル樹脂であれば特に制限されず、例えば、アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル樹脂(スチレンアクリル樹脂)、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低温定着性と耐熱性とを両立する観点や、熱定着時の可塑性に優れるという観点から、ビニル樹脂は、スチレン−アクリル酸エステル樹脂(スチレンアクリル樹脂)であると好ましい。スチレンアクリル樹脂で用いられるスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、上述のスチレンアクリル重合セグメントに用いられる単量体と同様であるため、ここでは説明を省略する。
ビニル樹脂の製造方法は、特に限定されないが、樹脂の単量体を重合開始剤とともに水系媒体中に添加し、単量体を重合反応させて、樹脂粒子の分散液を得る乳化重合法を用いると好ましい。
乳化重合法では、以下のシード重合が好ましい。具体的には、ビニル樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。次に、当該基礎粒子が分散している分散液中に、ビニル樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。
また、例えば、3段階で重合反応させる場合、第1段重合により樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液中にさらに樹脂の単量体、重合開始剤、および必要に応じて離型剤を添加して、第2段重合を行う。第2段重合により調製した分散液中にさらに樹脂の単量体と重合開始剤を添加して第3段重合を行う。第2段および第3段の重合時には、先の重合により生成された分散液中の樹脂粒子をシード(種)として、この樹脂粒子に新たに添加した単量体をさらに重合させることができ、樹脂粒子の粒径等の均一化を図ることができる。また、各段階の重合反応の際、異なる単量体を用いることにより、樹脂粒子の構造も多層構造とすることができ、目的の特性を有する樹脂粒子を得やすい。
また、重合の際に、溶液(反応液)を加熱することが好ましい。加熱条件は特に限定されるものではないが、通常60〜100℃程度である。
重合反応に使用できる重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、上述のスチレンアクリル重合セグメントの形成に用いられる重合開始剤と同様であるため、ここでは説明を省略する。
重合開始剤の添加量は、目的の分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体の添加量に対して、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることができる。
(連鎖移動剤)
重合反応時には、樹脂粒子の分子量を制御する観点から、連鎖移動剤を添加することができる。使用できる連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸エステル;およびスチレンダイマーなどを用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
連鎖移動剤の添加量は、目的の分子量や分子量分布によって異なるが、重合性単量体の添加量に対して、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることができる。
(界面活性剤)
重合反応時には、分散液中の樹脂粒子の凝集等を防ぎ、良好な分散状態を維持する観点から、界面活性剤を添加することができる。
界面活性剤としては、例えばドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム)、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル等のノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、定着性と耐熱保管性との両立の観点から、30〜70℃の範囲内にあることが好ましい。なお、ガラス転移点は、実施例で示す測定方法によって求めることができる。
ビニル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20,000〜150,000の範囲内にあることが好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、5,000〜20,000の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内とすることにより、定着性や耐ホットオフセット性を向上できる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、実施例で示す測定方法により求めることができる。
[ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂粒子(ビニル樹脂粒子)分散液の調製方法]
本発明において、ビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂粒子(ビニル樹脂粒子)を水系媒体中に分散させる方法としては、特に制限されない。例えば、(i)溶剤を用いることなく、水系媒体中においてビニル樹脂の分散処理を行う方法、(ii)ビニル樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法、(iii)水系媒体中で上記単量体の乳化重合を行い、重合反応後の液をそのまま分散液として用いる方法などが挙げられる。工程の簡素化の観点からは、上記(iii)の方法が好ましい。
また、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。なお、分散安定剤、界面活性剤および樹脂微粒子の具体例および好適な例は、上述の「水系媒体」、「分散安定剤」、「界面活性剤」および「その他の添加物−樹脂微粒子」の項目に記載したとおりである。
ビニル樹脂粒子分散液におけるビニル樹脂粒子(油滴)の平均粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmであると好ましく、80〜500nmであるとより好ましい。なお、この体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。
ビニル樹脂粒子分散液におけるビニル樹脂粒子の含有量は、分散液全体を100質量%として10〜50質量%の範囲が好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(離型剤(ワックス))
ビニル樹脂分散液は、ビニル樹脂粒子に加え、離型剤をさらに含んでいてもよい。本発明に用いられる離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1、18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、脂肪酸ポリグリセリンエステルなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
また、離型剤の融点は、好ましくは40〜160℃である。融点を上記範囲内にすることにより、トナーの耐熱保管性が確保されるとともに、低温で定着を行う場合でもコールドオフセット等を起こさずに安定したトナー画像の形成が行える。また、トナー母体粒子中の離型剤の含有量は、1〜30質量%が好ましい。
(a−3)非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製工程
本工程では、非晶性ポリエステル樹脂と、水系媒体とを含む分散液を調製する。本工程で調製される分散液に含まれる非晶性ポリエステル樹脂は、シェル層を形成する。
[非晶性ポリエステル樹脂]
非晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分を原料として重縮合反応によって得られたものであって、明確な融点を有さず、比較的高いガラス転移点(Tg)を有する樹脂である。このことは、非晶性ポリエステル樹脂について、示差走査熱量測定(DSC)を行うことによって確認できる。また、非晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体は、結晶性ポリエステル樹脂を構成する単量体とは異なるため、たとえば、NMR等の分析によっても結晶性ポリエステル樹脂と区別することができる。
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、30〜80℃であることが好ましく、40〜64℃であることがより好ましい。なお、ガラス転移点は、実施例で示す測定方法によって求めることができる。
結着樹脂中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、7〜15質量%であることがより好ましい。この範囲であれば、耐熱保管性が向上する。また、シェル層を形成する結着樹脂中、非晶性ポリエステル樹脂の含有量は多いほど好ましく、80〜100質量%であると好ましく、90〜100質量%であるとより好ましく、100質量%であると特に好ましい。すなわち、第2の工程において、非晶性ポリエステル樹脂からなるシェル層を形成すると好ましい。かような形態であると、コア粒子中の結晶性ポリエステル樹脂がトナー母体粒子表面に露出することを抑制できる。
本発明において、シェル層を構成する非晶性ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分として、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(BPA−PO)と、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(BPA−EO)とを含む。すなわち、シェル層を構成する非晶性ポリエステル樹脂は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物に由来する構成単位と、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物に由来する構成単位と、を含む。
多価アルコール成分としてBPA−POおよびBPA−EOを含むことにより、適度な極性(親水性)を有するため、水系媒体中、コア粒子の表面に局在化しやすくなる結果、コア粒子中に含まれる結晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出することを抑制できる。多価アルコール成分としてBPA−POを含まない場合、非晶性ポリエステル樹脂の親水性が高くなりすぎてしまい、コア粒子とシェル層との親和性が低下し、画質や耐熱保管性が低下する。一方で、多価アルコール成分としてBPA−EOを含まない場合、非晶性ポリエステル樹脂の親水性が低下し、トナー母体粒子の表面に局在化できなくなり、画質や耐熱保管性が低下する。なお、非晶性ポリエステル樹脂がBPA−POおよびBPA−EOに由来する構成単位を含むこと、およびその含有割合は、たとえば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
多価アルコール成分中のBPA−EOの含有量は、多価アルコール成分の全モル数に対して10〜95モル%であることが好ましく、15〜85モル%であることがより好ましく、20〜50モル%であると特に好ましい。すなわち、非晶性ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成する全アルコール構成単位中、BPA−EOに由来する構成単位を10〜95モル%含んでいると好ましく、15〜85モル%含んでいるとより好ましく、20〜50モル%含んでいると特に好ましい。BPA−EOに由来する構成単位を10モル%以上含んでいると、十分な親水性を有する非晶性ポリエステル樹脂が得られ、当該樹脂がトナー母体粒子の表面に局在化することができるようになるため、耐熱保管性や画質が向上する。一方、95モル%以下であると、非晶性ポリエステル樹脂とコア粒子との親和性が適度に得られるため、被覆性が向上し、耐熱保管性や画質が向上する。
また、かような観点から、非晶性ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成する全アルコール構成単位中、BPA−POに由来する構成単位を5〜90モル%含んでいると好ましく、15〜85モル%含んでいるとより好ましく、50〜80モル%含んでいると特に好ましい。
さらに、極性(親水性)制御の容易性を考慮すると、非晶性ポリエステル樹脂を構成するアルコール構成単位は、BPA−EOに由来する構成単位およびBPA−POに由来する構成単位からなる(BPA−EOに由来する構成単位およびBPA−POに由来する構成単位の和が100モル%である)と特に好ましい。
また、非晶性ポリエステル樹脂は、BPA−POに由来する構成単位と、BPA−EOに由来する構成単位とを、5:95〜90:10(モル比)で含んでいると好ましく、15:85〜85:15(モル比)で含んでいるとより好ましく、50:50〜80:20(モル比)で含んでいると特に好ましい。このような範囲であれば、非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層が適度な極性(親水性)を有することから、トナー母体粒子の表面に局在化し、コア粒子中の結晶性樹脂の露出を抑制できる。その結果、画質や耐熱保管性をバランスよく向上できる。
非晶性ポリエステル樹脂の多価アルコール成分は、上記のBPA−POおよびBPA−EOを含んでいれば、他の多価アルコール成分を含んでもよい。他の多価アルコール成分としては、たとえば、上記結晶性ポリエステル樹脂の多価アルコール成分として挙げた多価アルコールの他、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水素添加ビスフェノールA、1,3,5−ベンゼントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン、ソルビトール、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,4−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−ブチン−1,4−ジオール、9−オクタデセン−7,12−ジオール等が挙げられる。これら他の多価アルコールは単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
多価アルコール成分におけるBPA−POおよびBPA−EOの合計の含有量は、好ましくは50構成モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。多価アルコール成分におけるBPA−POおよびBPA−EOの合計の含有量が上記範囲であることにより、本発明の効果がより効率よく得られる。
<多価カルボン酸成分>
非晶性ポリエステル樹脂の多価カルボン酸成分としては、不飽和脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、およびこれらの誘導体を用いると好ましい。非晶性ポリエステル樹脂を形成することができるのであれば、飽和脂肪族多価カルボン酸を併用してもよい。
上記不飽和脂肪族多価カルボン酸としては、たとえば、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、3−ヘキセンジオイック酸、3−オクテンジオイック酸、炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、4−ペンテン−1,2,4−トリカルボン酸、アコニット酸などの不飽和脂肪族トリカルボン酸;4−ペンテン−1,2,3,4−テトラカルボン酸などの不飽和脂肪族テトラカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸等が挙げられる。また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
上記芳香族多価カルボン酸としては、たとえば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−フェニレン二酢酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、ヘミメリット酸などの芳香族トリカルボン酸;ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸;メリト酸などの芳香族ヘキサカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。
飽和脂肪族多価カルボン酸の例としては、上述した結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸としての飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合(エステル化)させる方法が挙げられる。重縮合の際の温度、時間、用いられる触媒等は、上記の結晶性ポリエステル樹脂の場合と同様であるため、ここでは説明を省略する。
<ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂>
本発明においては、非晶性ポリエステル樹脂として、非晶性ポリエステル重合セグメントと、ビニル重合セグメントとが化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。すなわち、非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、ビニル重合セグメントとが化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。かような形態の非晶性ポリエステル樹脂を用いることにより、コア粒子に含まれるビニル樹脂との親和性を高めることができる。その結果、コア粒子に対してシェル層をより均一に被覆することができ、画質や耐熱保管性が向上できる。非晶性ポリエステル樹脂は、これらのセグメントを含むものであれば、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれの形態であってもよいが、グラフト共重合体であることが好ましい。より詳細には、非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、ビニル重合セグメントと、が化学的に結合したグラフト共重合体構造を有するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。かようなハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含むことにより、ビニル樹脂を含むコア粒子と、シェル層との間の親和性を適度に高くすることができる。したがって、シェル層のコア粒子への付着がより容易になり、トナーの耐熱保管性がより向上する。
≪非晶性ポリエステル重合セグメント≫
非晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した非晶性ポリエステル樹脂と同様の多価カルボン酸成分および多価アルコール成分との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂に由来する部分である。非晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の具体例については、上記非晶性ポリエステル樹脂と同様であるため、ここでは説明を省略する。
非晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して60〜95質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、たとえば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
≪ビニル重合セグメント≫
ビニル重合セグメントは、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されない。コア粒子中に含まれるビニル樹脂として、スチレン−アクリル酸エステル樹脂(スチレンアクリル樹脂)を用いる場合、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のビニル重合セグメントは、スチレンアクリル重合セグメントであると好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂と、コア粒子中のビニル樹脂との親和性がより向上し、トナー粒子の形状制御が容易であるという利点がある。
ビニル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、コア粒子に含まれるビニル樹脂との親和性がより高くなり、最終的に得られるトナーが、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性が共に向上したものとなる。
ビニル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)を構成する単量体の具体例、好ましい単量体比等は、上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を構成するビニル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)に係る説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
(ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明に係る結着樹脂に含まれるハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記非晶性ポリエステル重合セグメントと、ビニル重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されない。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、上記(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法)に記載の(I)〜(III)の方法において、「結晶性ポリエステル重合セグメント」を「非晶性ポリエステル重合セグメント」と読み替えたものを例示できる。なかでも、(I)の方法は、ビニル重合セグメントに非晶性ポリエステル重合セグメントがグラフト化した構造であるハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや生産工程を簡素化できるため好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂(ハイブリット非晶性ポリエステル樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、2,000〜150,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。また、非晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、1,000〜30,000であることが好ましく、5,000〜25,000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、実施例で示す測定方法により求めることができる。
[非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製方法]
非晶性ポリエステル樹脂粒子を水系媒体中に分散させる方法としては、特に制限されないが、上記(a−1)の項中の[結晶性樹脂粒子分散液の調製方法]に記載した方法と同様の方法を用いることができる。
非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における非晶性ポリエステル樹脂粒子(油滴)の平均粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmが好ましく、80〜500nmがより好ましい。なお、体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。
非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における非晶性ポリエステル樹脂粒子の含有量は、分散液全体を100質量%として10〜50質量%の範囲が好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
(a−4)着色剤粒子分散液の調製工程
本工程は、任意で行われる工程であり、着色剤と、水系媒体とを含む分散液を調製する工程である。
[着色剤]
本発明において、着色剤としては、カラートナーの着色剤に用いられる公知の無機または有機着色剤が用いられる。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料および染料が含まれる。上記着色剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、およびフェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物が含まれる。
顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、および中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料、が含まれる。
染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
[着色剤粒子分散液の調製方法]
着色剤粒子分散液に用いられる水系媒体は上記(a−1)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂粒子などが添加されていてもよい。
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a−1)において説明したものを用いることができる。
着色剤粒子分散液における着色剤の含有量は、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。このような範囲であると、より優れた色再現性確保の効果がある。
着色剤粒子分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径で、10〜300nmであると好ましい。なお、この体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。
(b)トナー母体粒子の製造工程(単に「工程(b)」とも称する)
(b)トナー母体粒子の製造工程は、第1の工程〜第4の工程を含む(図1)。ここで、「トナー母体粒子の製造工程が第1の工程〜第4の工程を含む」とは、工程(b)の中で行われる操作の中に、第1の工程〜第4の工程の要件(定義)をそれぞれ満たす操作があれば、当該工程(b)は、第1の工程〜第4の工程を含むと定義する。
本発明において、トナー母体粒子を製造する方法としては、例えば、凝集・融着法(乳化凝集法)、懸濁重合法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法、その他の公知の方法などを挙げることができる。なかでも、粒径の均一性、形状の制御性、コアシェル構造形成の容易性の観点から、凝集・融着法を用いることが好ましい。また、凝集・融着法によれば、凝集時に使用したイオンにより、製造されたトナー母体粒子(特に、コア粒子)中で結晶性樹脂の動きが阻害され、より結晶性樹脂の表面露出が抑制できる。よって、耐熱保管性が確保され、また、さらなる高画質化を達成できる。
以下では、凝集・融着法によってトナー母体粒子を製造する工程を説明する。
《第1の工程:コア粒子形成工程》
第1の工程は、水系媒体中で結晶性樹脂の粒子およびビニル樹脂を主成分として含む非晶性樹脂の粒子(ビニル樹脂粒子)を、凝集させると同時にこれら粒子を融着させ、コア粒子(コア部)を形成し、当該コア粒子を含有する分散液を得る工程(コア部凝集・融着工程)である。このときさらに、必要に応じて着色剤粒子および/または離型剤粒子を凝集させてもよい。
この工程では、まず、上記(a)準備工程にて作製した、結晶性樹脂粒子の分散液(好ましくは結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)およびビニル樹脂粒子分散液と、必要に応じて着色剤粒子分散液とを混合する。次に、結晶性樹脂の融点(Tm)以上に混合液(混合液に含まれる各樹脂の粒子)を加熱する。このとき、臨界凝集濃度以上の凝集剤を添加すると好ましい。上記加熱操作により、結晶性樹脂粒子およびビニル樹脂粒子と、必要に応じて添加される着色剤粒子とが凝集すると同時に粒子同士が融着してコア粒子が形成される。このとき、結晶性樹脂の融点(Tm)以上とすることにより、定着時にトナーの可塑化を阻害すると考えられる原料の結晶性樹脂由来の粗大な結晶性部位が消滅する。また、結晶性樹脂が非晶状態となり、ビニル樹脂と相溶しやすくなることにより、トナー母体粒子の形状制御性を高めることができる。かような形状制御性の向上効果を十分に得るために、加熱温度は、結晶性樹脂の融点(Tm)+3℃以上であるとより好ましい。他方、加熱温度の上限は特に制限されないが、製造時の反応(熱凝集)制御性の確保や過剰な熱エネルギー付与抑制の観点からは、結晶性樹脂の融点(Tm)+15℃以下が好ましく、融点(Tm)+10℃以下がより好ましく、融点(Tm)+5℃以下が特に好ましい。
より詳細には、結晶性樹脂粒子分散液、ビニル樹脂粒子分散液および必要に応じて界面活性剤(例えばドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩)を混合する。その後、凝集性付与のために、予め水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を該混合液に加えて、pHを9〜12に調整しておくことが好ましい。
次いで、必要に応じて着色剤粒子分散液を添加し、塩化マグネシウム等の凝集剤を、25〜35℃で5〜15分間かけて撹拌しながら添加することが好ましい。凝集剤の使用量は、結着樹脂粒子および着色剤粒子の固形分全量に対して、5〜20質量%であることが好ましい。その後、通常30分以内、好ましくは10分以内、より好ましくは1〜6分間放置し、30〜90分間かけて70〜95℃まで昇温することが好ましい。このような方法により、凝集した樹脂粒子および着色剤粒子を融着させることができる。
本工程で用いられる凝集剤は、特に制限されるものではないが、アルカリ金属塩、2価の金属塩、3価の金属塩等の金属塩が挙げられる。
金属塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等の1価のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、硫酸マグネシウム等の2価の金属塩、鉄、アルミニウム等の3価の金属塩等が挙げられる。なかでも、より少量で凝集させることができることから、2価の金属塩が好ましい。これら凝集剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
また、凝集工程においては、凝集剤を添加した後、加熱により速やかに昇温させることが好ましく、昇温速度は0.8℃/分以上とすることが好ましい。昇温速度の上限は、特に限定されないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、凝集用分散液が結晶性樹脂およびビニル樹脂のガラス転移点以上の温度に到達した後、当該凝集用分散液の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5〜7.0μmになるまで保持して、融着を継続させる(第1の熟成工程)。
《第2の工程:シェル層形成工程》
第2の工程は、上記の第1の工程により得られた分散液に、シェル層を形成する非晶性ポリエステル樹脂粒子をさらに添加し、コア粒子(コア部)を形成する結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)以上の温度で、コア粒子の表面にシェル層(シェル部)を形成する非晶性ポリエステル樹脂を凝集、融着させ、コアシェル構造を有する粒子を含有する分散液を得る工程(シェル部凝集・融着工程)である。これにより、コアシェル構造を有するトナー母体粒子が得られる。
具体的には、コア粒子を含む分散液中に、シェル層を形成する非晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液をさらに添加することで、上記で得られたコア粒子の表面に、シェル層を形成する非晶性ポリエステル樹脂を凝集、融着させる。そして、凝集した粒子の大きさが目標の大きさになった時に、塩化ナトリウム水溶液等の塩を添加して凝集を停止させる。その後、コア粒子表面へのシェル層の凝集、融着をより強固にし、かつ粒子の形状が所望の形状になるまで、さらに反応系の加熱処理を行う(第2の熟成工程)。
本発明では、この加熱処理において、結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)以上の温度に制御する。これにより、結晶性樹脂が再結晶化する際の相転移(ここでは、溶融状態から結晶状態への相変化)に起因するトナー母体粒子の変形を抑制することができる。また、上記のような加熱を行うことにより、粒子の成長(結晶性樹脂粒子、ビニル樹脂粒子、非晶性ポリエステル樹脂、および必要に応じて添加される着色剤粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナーの耐久性を向上させることができる。ここで、上記分散液の加熱温度が結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)未満であると、結晶性樹脂が結着樹脂中で完全な相溶状態にならず、冷却して再結晶化する際に微分散化されないため、良好な低温定着性が得られない。
上記分散液の加熱温度は、結晶性樹脂の再結晶化温度以上の温度であれば特に制限されないが、結晶性樹脂の融点(Tm)以上であると好ましく、結晶性樹脂の融点(Tm)+3℃以上であるとより好ましい。かような加熱温度とすることにより、結晶性樹脂を十分に相溶させた後、微分散化された結晶状態を形成することで低温定着性を向上させることができる。
また、耐久性向上効果を十分に得るために、再結晶化温度(Rc)+3℃以上が好ましく、再結晶化温度(Rc)+5℃以上がより好ましい。他方、加熱温度の上限は特に制限されないが、製造時の反応(熱凝集)制御性の確保や過剰な熱エネルギー付与抑制の観点からは、再結晶化温度(Rc)+20℃以下が好ましく、再結晶化温度(Rc)+15℃以下がより好ましく、再結晶化温度(Rc)+10℃以下が特に好ましい。
また、加熱温度の上限は、融点(Tm)+15℃以下が好ましく、融点(Tm)+10℃以下がより好ましく、融点(Tm)+5℃以下が特に好ましい。
結晶性樹脂の再結晶化温度以上の温度に加熱する時間は、特に限定されないが、例えば、トナー母体粒子の平均円形度が、以下の範囲となるまで加熱すると好ましい。
すなわち、上記加熱処理は、トナー母体粒子の平均円形度が、0.91以上となるまで行うと好ましい。さらに、転写効率の向上や帯電安定性の観点から、該平均円形度は、0.920〜0.995であることが好ましく、0.930〜0.975であることがより好ましい。なお、平均円形度は、実施例に記載の方法で測定する。
加熱の手段としては、ヒーターなどの公知の加熱装置を用いることができる。
《第3の工程:Rc−25℃未満まで冷却する工程》
第3の工程は、上記第2の工程で得られた分散液を冷却する工程である。具体的には、結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)以上の温度に加熱された上記分散液を、Rc−25℃未満の温度まで冷却する。本工程を行うことにより、結晶性樹脂の結晶核形成を行うことができる。
第3の工程において、上記分散液の温度が、冷却開始時の温度以下に維持されていれば、上記第3の工程の開始から終了までの上記分散液の温度変化の態様は限定されない。なお、第2の工程においてRc以上の温度に加熱する工程を2回以上行う場合は、最後の加熱の後、冷却を開始する時点を、冷却開始とする。また、第3の工程の終了は、分散液の温度がRc−25℃未満となった時点とする。
温度変化の態様として、例えば、上記分散液の温度は、Rc−25℃未満の温度まで昇温なく一定の速度で冷却してもよく、降温速度を変化させてもよい。また、冷却、昇温、再冷却を繰り返してもよい。ただし、製造効率の観点から、温度を上下に振るスキームではなく、Rc−25℃未満の温度まで、降温だけの温度変化であることが好ましい。すなわち、冷却開始時の温度から、Rc−25℃未満の温度まで、昇温なく冷却することが好ましい。
冷却温度(冷却到達温度)は、Rc−25℃より低ければ特に限定されない。他方、冷却温度(冷却到達温度)の下限温度も特に限定されないが、その後の熱処理工程(第4の工程)で加熱に必要な熱量が増えてしまうことを抑制する観点から、Rc−60℃以上が好ましく、Rc−30℃以上がより好ましい。
このとき、降温速度(冷却速度)は、特に限定されないが、結晶ドメインの存在位置を制御する(より詳細には、過度の結晶ドメインの成長によって結晶性樹脂がトナー母体粒子の表面にブリードアウトすることを抑制する)ことで、より低温定着性に優れたトナーを得るという観点から、分散液の冷却速度は、2℃/分以上であると好ましい。すなわち、第3の工程では、2℃/分以上の降温速度で分散液をRc−25℃未満まで冷却することが好ましい。当該降温速度は3℃/分以上であるとより好ましく、5℃/分以上であると特に好ましい。
他方、降温速度が速すぎると、結晶核形成が十分でなく、結晶化の進行が遅くなるため、生産性の観点から、40℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、25℃/分以下であることが特に好ましい。
なお、降温速度とは、第2の工程で加熱された分散液の温度t1(℃)から冷却到達温度t2(℃)までの温度区間(ただし、t2<t1である)を冷却するのに要した時間m1(分)から、下記式で求められる平均降温速度である:
上記分散液は、上記の降温速度を実現可能な公知の冷却装置を用いて冷却することができる。例えば、反応容器の外浴を急速に冷却してもよいし、分散液を熱交換器に通してもよいし、分散液中に冷却されたイオン交換水を投入してもよい。生産効率の観点からは、熱交換器を用いて冷却を行うことが好ましい。
《加熱工程》
後述するように、上記第3の工程でRc−25℃未満まで冷却した分散液を、第4の工程では、Rc−25℃以上(Rc+2℃以下)の温度で維持する。
したがって、第3の工程と、第4の工程との間で、上述した第3の工程でRc−25℃未満に冷却された分散液を、少なくともRc−25℃以上まで加熱する工程(加熱工程)が行われる。この加熱工程における当該昇温速度は特に制限されないが、2.0℃/分未満であると好ましく、1.5℃/分以下であるとより好ましく、1.3℃/分以下であると特に好ましい。他方、昇温速度の下限も特に制限されないが、0.1℃/分以上であると好ましく、0.2℃/分以上であるとより好ましく、0.5℃/分以上であると特に好ましい。
なお、昇温速度とは、昇温開始温度t3(℃)から昇温到達温度(Rc−25℃)までの温度区間(ただし、t3<Rc−25である)を昇温するのに要した時間m2(分)に基づき、下記式で求められる平均昇温速度である:
なお、ここでいう昇温開始温度(t3)は、上記の第2の工程でいう冷却到達温度(t2)とは等しい温度である。加熱工程における加熱の手段としては、ヒーターなどの公知の加熱装置を用いることができる。
《第4の工程:熱処理工程》
第4の工程は、上述した第3の工程で冷却された分散液を、温度域T1で30分以上維持する工程(以下、単に「熱処理工程」ともいう)であり、このとき、当該温度域T1は、下記数式(I)を満たす。
すなわち、第3の工程でRc−25℃未満に冷却された分散液を加熱して液温がRc−25℃に到達する時点で、第4の工程が始まる。
第4の工程では、分散液の温度を、温度域T1にて連続的に30分以上維持する。本工程において、「温度域T1で維持する」とは、温度域T1内の温度を、連続的に維持することと定義する。すなわち、分散液の液温が、Rc−25℃に到達した後に変動した場合であっても、温度域T1を外れない範囲内であれば、その工程は、第4の工程に属する。
すなわち、第4の工程の間、分散液の温度がT1の範囲内に維持されていればよく、第4の工程の開始から終了までの分散液の温度変化の態様は限定されない。例えば、分散液の温度は、第4の工程の間、Rc−25℃以上かつRc+2℃以下の範囲内であれば、一定の温度に保持されていても、一定の速度で上昇又は降下し続けてもよく、あるいは、上昇と降下を繰り返す等、絶えず変化していてもよい。生産性の観点から、温度を変化させる態様ではなく、一定の温度に保持する態様や、昇温または降温し続ける態様を含むことが好ましい。さらに、結晶成長を促進するという観点から、一定の温度に保持する態様が特に好ましい。
第4の工程の温度変化の態様としては、以下が例示される。
例えば、図2の(i)に示すように、第4の工程の開始温度(Rc−25℃)から、分散液を、任意の速度でRc+2℃を超えない範囲(上記温度域T1内)で所定の温度taまで昇温させて、次に一定の温度(所定の温度ta)を保持し、その後任意の速度で、第4の工程の終了温度(Rc−25℃)まで降温させる形態(以下、単に「形態(i)」とも称する)であってもよい。
また、図2の(ii)に示すように、第4の工程の開始温度(Rc−25℃)から、分散液を、任意の速度でRc+2℃を超えない範囲(上記温度域T1内)で所定の温度tbまで昇温させて、次に任意の速度でRc+2℃を超えない範囲(上記温度域T1内)でさらに所定の温度tc(ここで、tb<tcである)まで昇温させて、その後任意の速度で、第4の工程の終了温度(Rc−25℃)まで降温させる形態(以下、単に「形態(ii)」とも称する)であってもよい。
さらに、図2の(iii)に示すように、第4の工程の開始温度(Rc−25℃)から、分散液を、任意の速度でRc+2℃を超えない範囲(上記温度域T1内)で所定の温度tdまで昇温させて、次に必要があれば任意の速度でRc−25℃を下回らない範囲(上記温度域T1内)で所定の温度te(ここで、td>teである)まで降温させ、その後任意の速度でさらに第4の工程の終了温度(Rc−25℃)まで降温させる形態(以下、単に「形態(iii)」とも称する)であってもよい。
また、図2の(iv)に示すように、第4の工程の開始温度(Rc−25℃)から終了温度(Rc−25℃)まで、分散液を、任意の速度でRc+2℃を超えない範囲(上記温度域T1内)で昇温と、Rc−25℃を下回らない範囲(上記温度域T1内)で降温と、を繰り返す形態(以下、単に「形態(iv)」とも称する)であってもよい。
本発明の効果をより発揮する観点から、上述した形態(i)および形態(ii)がより好ましく、形態(i)が特に好ましい。
第4の工程では、結晶成長段階として、上記温度域T1で30分以上を連続的に維持する。すなわち、熱処理時間(m3)を30分以上とする。このようにすることで、結晶成長が十分に進行することから、トナーの耐熱保管性が向上する。なお、上記熱処理時間(m3)は、分散液の温度が温度域T1の範囲に維持されている時間を指す。
第4の工程の開始時から少なくとも30分以上維持した後に、分散液の液温がRc−25℃を下回った時点で、第4の工程が終了する。このため、ここでいう第4の工程での「維持」の開始温度および終了温度は、共にRc−25℃(温度域T1の下限値)である(図2参照)。
なお、第4の工程では、上記温度域T1での少なくとも下限域(Rc−25℃)に到達後、さらに上記形態(i)〜(iii)に示すように、上記温度域T1中の所定の温度(上記ta、tbまたはtd)に到達するまでの昇温速度は特に制限されるものではないが、2℃/分未満(平均速度)が好ましく、1℃±0.2℃/分(=0.8〜1.2℃/分の範囲)(平均速度)とするのが特に好ましい。同様に、第4の工程では、所定の温度(上記ta、tbまたはtd)から上記形態(i)〜(iii)を経て所定の温度(上記ta、tcまたはte)に到達後、さらに上記温度域T1の下限域(Rc−25℃)に到達するまでの降温速度は特に制限されるものではないが、生産性の観点から、3℃/分以上(平均速度)が好ましく、5℃±0.2℃/分(=4.8〜5.2℃/分の範囲)(平均速度)とするのが特に好ましい。
熱処理時間(m3)として、30分以上とすることにより、結晶性樹脂の結晶化が概ね完了し、所期の目的効果が得られる。また、結晶化を十分に進行させ、低温定着性や耐熱保管性を向上させるという観点から、熱処理時間(m3)は、40分以上であると好ましく、45分以上であるとより好ましく、60分以上であると特に好ましい。他方、上記熱処理時間(m3)は、300分以下であると好ましく、240分以下であるとより好ましく、180分以下であると特に好ましく、120分以下であると最も好ましい。かような範囲とすることで、過度の結晶ドメインの成長(結晶ドメイン径の増大)やこれに伴う結晶性樹脂のブリードアウトが生じにくいため、低温定着性に優れ、定着性能の変動の少ないトナーが得られる。
さらに、特に好ましい形態(i)において、分散液について「一定の温度(所定の温度ta)を保つ」時間として、耐熱保管性向上の観点から、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、60分以上が特に好ましい。他方、上記時間の上限としては特に限定されず、例えば300分以下が好ましく、240分以下がより好ましい。なお、上記温度域T1内の分散液の温度(液温)の振れ幅は、特に形態(i)の一定の温度taを保つ際に、ta±2℃の範囲内(ただし上記温度域T1の上下限範囲内)であると好ましい。
さらに、結晶ドメインのさらなる微分散化の観点から、上記温度域T1は、下記数式(II)を満たすことが好ましい。温度域T1を数式(II)の範囲とすることで、結晶ドメインの過度な増大やこれに伴う結晶性樹脂のトナー表面への露出を抑制し、画質をより向上させることができる。
さらにまた、結晶化していた結晶性樹脂の溶融を抑制し、良好な耐熱保管性を得るという観点から、上記温度域T1は、Tm−3℃以下であると好ましく、Tm−10℃以下であるとより好ましい。
また、水系媒体中で熱処理工程が行われることにより、媒体を用いないで乾式で熱処理した場合と比較して、樹脂粒子中の水分子の吸着状態が変化することを抑制することができる。その結果、結着樹脂のガラス転移点の上昇を抑制することができるため、得られるトナーの低温定着性が向上しうる。また、水系媒体を用いることにより、樹脂粒子中の水分量の変動による結晶ドメインの過度の増大に起因する低温定着性の低下を抑制できる。
上述した第1の工程から第4の工程までを含む本発明の製造方法を行うことにより、結晶性樹脂を結着樹脂中に微分散させた状態で結晶成長を効果的に進行させることができる。その結果、最終的に得られるトナーは、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性に優れ、かつ高画質化を実現することができる。
(c)冷却工程
冷却工程では、上述した第4の工程により得られたトナー母体粒子の分散液を冷却する。
冷却温度は、25〜35℃の範囲内とすることができ、降温速度は1〜20℃/分の範囲内とすることができる。冷却方法は特に限定されず、反応容器の外部から冷媒を導入して冷却することもできるし、冷水を直接反応系に投入して冷却することもできる。
(d)ろ過、洗浄、乾燥工程
本工程では、上記(c)冷却工程で冷却した後のトナー母体粒子の分散液をろ過してトナー母体粒子を固液分離し、得られたウェット状のトナーケーキ(ケーキ形状のトナー母体粒子の集合体をいう。)を洗浄して、界面活性剤、凝集剤等を除去する。
固液分離の方法としては、遠心分離法、ヌッチェ等を使用する減圧ろ過法、フィルタープレスを使用するろ過法等を使用することができる。
ろ過洗浄後は、得られたトナーケーキを乾燥する。乾燥には、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機等を使用することができる。
(e)外添剤の添加工程
本工程は、乾燥処理したトナー母体粒子表面へ必要に応じて外添剤を添加、混合してトナーを作製する工程である。外添剤の添加により、トナーの流動性や帯電性が改良され、また、クリーニング性の向上等が実現される。なお、外添剤は、シリカ、チタニア(酸化チタン)等の無機微粒子;数平均一次粒径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子等;公知のものを用いることができる。
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
以上、本発明に係る製造方法は、(a)準備工程から(e)外添剤の添加工程までを含むことが好ましい。そして、本発明に係る製造方法により得られる静電荷像現像用トナーは、特に画質の向上という観点から、その平均粒径が小さいほど好ましい。具体的には、トナー(トナー粒子)の平均粒径は、特に制限されないが、体積基準のメジアン径で、3〜8μmであることが好ましく、4〜7μmであることがより好ましい。トナーの体積基準のメジアン径が上記の範囲であることにより、細線やドットなどの画質が向上する。また、トナー流動性も確保できる。トナーの体積基準のメジアン径は、上記コア粒子およびシェル層の凝集・融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、または融着時間、さらには樹脂成分の組成等によって制御することができる。なお、トナーの体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。
[現像剤]
本発明の製造方法により製造される静電荷像現像用トナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面をシリコーン樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの平均粒径は、体積基準のメジアン径で20〜100μmの範囲内にあることが好ましく、25〜80μmの範囲内にあることがより好ましい。なお、キャリアの体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定される。
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。また、特記しない限り、各操作は室温(25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行われる。
<各種特性の測定方法>
≪結晶性樹脂の融点(Tm)の測定≫
結晶性樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。具体的には、結晶性樹脂の試料3.0mgをアルミニウム製パンKITNo.B0143013に封入し、熱分析装置 Diamond DSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させた。1回目と2回目の加熱時には、10℃/分の昇温速度で室温(25℃)から150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/分の降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持した。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を結晶性樹脂の融点(Tm(℃))として測定した。
≪結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)の測定≫
再結晶化温度(Rc)は、示差走査熱量測定(DSC)により、上記の結晶性樹脂の融点の測定と同装置、同サンプル封入方法にてサンプルセットを行った後に、結晶性樹脂を10℃/分の昇温速度で室温(25℃)から100℃まで昇温し、1分間保持し、0.1℃/分の降温速度で0℃まで降温し、降温時に得られた測定曲線における発熱ピークのピークトップの温度を再結晶化温度(Rc)として求めた。このとき降温速度を0.1℃/分とする理由は、できるだけ降温速度を遅くして得られた再結晶化温度と本発明のトナーの製造方法で得られるトナーの性能との相関が高く、降温速度が0.1℃/分であると、十分な相関が得られるからである。
≪非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)の測定≫
非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)にしたがって測定した。測定には、DSC−7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラー(パーキンエルマー社製)等を用いて行った。
≪結晶性樹脂および非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定≫
結晶性樹脂および非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めた。
各樹脂の試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製した。GPC装置HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)およびカラムTSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−m3連(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/分で流した。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出した。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
≪各種粒子の体積基準のメジアン径の測定≫
トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定した。また、結晶性樹脂粒子、非晶性樹脂粒子、着色剤粒子、コア粒子、トナー粒子、およびその他の添加剤粒子等のそれぞれの体積基準のメジアン径についても、上記と同様にして測定した。
具体的には、試料(例えば、トナー母体粒子)0.02gを、20mLの界面活性剤溶液(トナー母体粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、1分間の超音波分散処理を行い、トナー母体粒子の分散液を調製した。このトナー母体粒子の分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入した。この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。
そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径として求めた。
≪キャリアの体積基準のメジアン径の測定≫
キャリアの体積基準のメジアン径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置HELOS(SYMPATEC社製)により測定した。
≪トナー母体粒子の平均円形度の測定≫
トナー母体粒子の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)を用い、所定数(実施例ではHPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数を4000個とした)のトナー母体粒子における、粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長L1と、粒子投影像の周囲長L2とから、下記式から算出した円形度Cの総和を、当該所定数で除することにより求めた。なお、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)と同様の装置、例えば、FPIA−2100(Sysmex社製)等を用いて測定を行うこともできる。またHPF検出数は、3000〜10000個の適正濃度範囲であれば、十分な再現性が得られる。
<トナーおよび現像剤の作製>
[結晶性ポリエステル樹脂1の合成およびその分散液1の調製]
(結晶性ポリエステル樹脂1の合成)
両反応性単量体を含む、下記のスチレン・アクリル重合セグメント(StAc)の原料単量体およびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 36.0質量部
n−ブチルアクリレート 13.0質量部
アクリル酸 2.0質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 7.0質量部。
また、下記の結晶性ポリエステル重合セグメント(CPEs)の原料単量体を、窒素ガス導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
テトラデカン二酸 440質量部
1,4−ブタンジオール 153質量部。
次いで、撹拌下でスチレン・アクリル重合セグメント(StAc)の原料単量体を90分間かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の原料単量体を除去した。なお、このとき除去された原料単量体の量は、上記の仕込みの原料単量体に対してごく微量であった。その後、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O−n−Bu)4)を0.8質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂1(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂1は、重量平均分子量(Mw)が24,500、融点(Tm)が75.5℃、再結晶化温度(Rc)が70.6℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1の調製)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂1 100質量部を、400質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解させ、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液638質量部と混合した。得られた混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(株式会社日本精機製作所製)によりV−LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去し、固形分量が13.5質量%の結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1を調製した。当該分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
[コア粒子用ビニル樹脂粒子分散液1の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ラウリル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 480.0質量部
n−ブチルアクリレート 250.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部。
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル樹脂粒子分散液(1−a)を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製したビニル樹脂粒子分散液(1−a)を固形分換算で80質量部と、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を90℃にて溶解させた混合液とを添加した。
スチレン(St) 285.0質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 95.0質量部
メタクリル酸(MAA) 20.0質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤) 1.5質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃) 190.0質量部。
循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック社製)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル樹脂粒子分散液(1−b)を調製した。
(第3段重合)
上記第2段重合により得られたビニル樹脂粒子分散液(1−b)にさらにイオン交換水400質量部を添加し、よく混合した後、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、82℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(St) 454.8質量部
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA) 143.2質量部
メタクリル酸(MAA) 52.0質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8.0質量部。
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、コア粒子用ビニル樹脂分散液1を調製した。当該分散液中のビニル樹脂1の重量平均分子量(Mw)は31,000であり、ガラス転移点(Tg)は49℃であった。また、分散液中のビニル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が230nmであった。
[コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂c1の合成およびその分散液C1の調製]
(コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂c1の合成)
下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 36.9質量部
フマル酸 77.4質量部。
撹拌下で、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O−n−Bu)4)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて8時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
次いで、200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂c1を得た。得られたコア粒子用非晶性ポリエステル樹脂1は、重量平均分子量(Mw)が29,000、ガラス転移点(Tg)が50℃であった。
(コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液C1の調製)
上記コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂c1 256.8質量部、ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃)43.2質量部を、1200質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液1914質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(株式会社日本精機製作所製)によりV−LEVEL 300μAで60分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%のコア粒子用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液C1を調製した。当該分散液中の非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が235nmであった。
[シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1の合成およびその分散液S1の調製]
(シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1の合成)
両反応性単量体を含む、下記のスチレン・アクリル重合セグメント(StAc)の原料単量体およびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 80.0質量部
n−ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部。
また、下記の非晶性ポリエステル重合セグメント(APEs)の原料単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 200.0質量部
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 85.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部。
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O−n−Bu)4)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1(ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂)を得た。得られたシェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1は、重量平均分子量(Mw)が25,000であり、ガラス転移点(Tg)が60℃であった。
(シェル層用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液S1の調製)
上記シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1 100質量部を、400質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解させ、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液638質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(日本精機製作所製)によりV−LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%のシェル層用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液S1を調製した。当該分散液中の非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
[シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s2〜s5の合成およびその分散液S2〜S5の調製]
非晶性ポリエステル樹脂の単量体の種類および添加量を表1に示すように変更したこと以外は、上記[シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s1の合成およびその分散液S1の調製]と同様にして、シェル層用非晶性ポリエステル樹脂s2〜s5の合成およびその分散液S2〜S5の調製を行った。なお、表1中、「PO/EOモル比」は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(BPA−PO)と、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(BPA−EO)とのモル比を示す。
[着色剤粒子分散液の調製]
ラウリル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
[実施例1]
(トナー1の製造)
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、コア粒子用ビニル樹脂粒子分散液1 285質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1 40質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩を樹脂比で1質量%(固形分換算)およびイオン交換水2000質量部を投入した。室温(25℃)下、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、着色剤粒子分散液30質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃(結晶性ポリエステル樹脂1のTm+4.5℃)まで昇温し、液温が80℃に到達した後、粒径の成長速度が0.01μm/分となるように撹拌速度を調整し、コールターマルチサイザー3(コールター・ベックマン社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.7μmになるまで成長させた(以上、第1の工程)。
次いで、シェル層用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液S1 37質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、分散液(反応液)の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解させた水溶液を添加して、粒径の成長を停止させた。次いで、昇温して80℃(結晶性ポリエステル樹脂1のRc+9.4℃)の状態で撹拌し、平均円形度が0.970になるまで粒子の融着を進行させた(以上、第2の工程)。
次いで、得られたトナー母体粒子の分散液を、Rc(70.6℃)における降温速度(冷却速度)が5.0℃/分になるように調整しながら、分散液の温度をRc−30℃(40.6℃)まで冷却した(第3の工程)。その後、Rc−25℃(45.6℃)まで5分かけて昇温した(加熱工程)。
分散液の温度がRc−25℃に到達後、昇温速度が1.0℃/分になるように調整しながらRc−10℃(60.6℃)まで昇温し、60分間温度を保持した。その後、Rc−25℃(45.6℃)まで降温速度が5.0℃/分になるように調整しながら冷却した(以上、第4の工程:熱処理工程)。
その後、上記分散液を30℃まで冷却した。
次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(個数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(個数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部およびゾルゲルシリカ(数平均一次粒子径=110nm、)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー1を得た。なお、当該トナー1の体積基準のメジアン径は、5.6μmであった。
[実施例2〜3]
(トナー2〜3の製造)
実施例1のトナー1の製造において、シェル層用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の種類を表2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー2〜3を製造した。
[実施例4]
(トナー4の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第4の工程における保持温度をRc−10℃(60.6℃)からRc−25℃(45.6℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー4を製造した。具体的には、第4の工程の前に行われる加熱工程によって分散液の液温をRc−25℃(45.6℃)とした後、そのまま液温を78分間保持することで、第4の工程を行った。
[実施例5]
(トナー5の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第4の工程における保持温度をRc−10℃(60.6℃)からRc+2℃(72.6℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー5を製造した。具体的には、第4の工程において、分散液の温度がRc−25℃に到達後、昇温速度が1.0℃/分になるように調整しながらRc+2℃(72.6℃)まで昇温し、その温度を46分間保持した。その後、Rc−25℃(45.6℃)まで降温速度が5.0℃/分になるように調整しながら冷却した。
[実施例6]
(トナー6の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第4の工程における保持時間(すなわち、分散液温度がRc−25℃〜Rc+2℃の範囲内にある時間)を78分間から40分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー6を製造した。具体的には、Rc−10℃(60.6℃)における保持時間を60分間から22分間に変更したこと以外は、実施例1と同様に第4の工程を行った。
[実施例7]
(トナー7の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第1の工程において用いたコア粒子用ビニル樹脂粒子分散液1および結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1の量を、以下の表2に記載の量となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー7を製造した。
[比較例1]
(トナー8の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第1の工程において用いたコア粒子用ビニル樹脂粒子分散液1を、コア粒子用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液C1に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー7を製造した。
[比較例2〜3]
(トナー9〜10の製造)
実施例1のトナー1の製造において、シェル層用非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の種類を表2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー9〜10を製造した。
[比較例4]
(トナー11の製造)
実施例1のトナー1の製造において、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を添加せず、コア粒子用ビニル樹脂分散液1の量を、以下の表2に記載の量となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー11を製造した。
[比較例5]
(トナー12の製造)
実施例1のトナー1の製造において、加熱工程および第4の工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてトナー12を製造した。すなわち、第3の工程にて分散液を冷却した後、さらに冷却を継続した。
[比較例6]
(トナー13の製造)
実施例1のトナー1の製造において、加熱工程および第4の工程を行わず、第3の工程にて分散液をRc−30℃(40.6℃)まで冷却した後、その温度を78分間保持したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー13を製造した。
[比較例7]
(トナー14の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第4の工程における保持温度をRc−10℃(60.6℃)からRc+7℃(77.6℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー14を製造した。具体的には、第4の工程において、分散液の温度がRc−25℃に到達後、昇温速度が1.0℃/分になるように調整しながらRc+7℃(77.6℃)まで昇温し、その温度を40分間保持した。その後、Rc−25℃(45.6℃)まで降温速度が5.0℃/分になるように調整しながら冷却した。
[比較例8]
(トナー15の製造)
実施例1のトナー1の製造において、第4の工程における保持時間(すなわち、分散液温度がRc−25℃〜Rc+2℃の範囲内にある時間)を78分間から25分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー15を製造した。具体的には、Rc−10℃(60.6℃)における保持時間を60分間から7分間に変更したこと以外は、実施例1と同様に第4の工程を行った。
上記各トナーの結着樹脂の組成、第4の工程における保持温度および維持時間、ならびに得られたトナー粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)を、以下の表2に示す。なお、第4の工程に係る「保持温度」は、上記形態(i)(図2中(i))における温度taを示し、「時間」は、第4の工程全体に要した時間(すなわち、分散液温度がRc−25℃〜Rc+2℃の範囲内にある時間)を示す。
[現像剤1〜15の作製]
上記で作製したトナー1〜15に対し、シリコーン樹脂を被覆したキャリア(体積基準のメジアン径=60μmのフェライトキャリア)が、二成分現像剤におけるトナー含有量(トナー濃度)が6質量%となるよう添加して混合することにより、現像剤1〜16を作製した。
<トナーの評価>
[低温定着性の評価]
市販の複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)を、定着用ヒートローラーの表面温度を100〜210℃の範囲内で変更できるように改造し、上記各トナーから製造した現像剤をそれぞれ装填した。
各現像剤について、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下にて、A4サイズの普通紙mondi Color Copy 90g/m2(mondi社製)上に対し、トナー付着量が11.3g/m2のベタ画像を出力する定着実験を行った。このとき、設定する定着温度は、100℃から200℃まで5℃間隔で変更しながら上記定着実験を繰り返し行った。
各定着温度の定着実験において得られたプリント物を、上記ベタ画像に荷重をかけるように折り機で折り、0.35MPaの圧縮空気を吹き付けた。折り目部分を、下記評価基準にしたがってランク評価した。結果を表3に示す。
(評価基準)
ランク5:全く折れ目なし
ランク4:一部折れ目に従った剥離あり
ランク3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり
ランク2:折れ目に従った太い線状の剥離あり
ランク1:折れ目に従った大きな剥離あり。
ランク3以上の定着実験のうち、最も定着温度の低い定着実験における定着温度を定着下限温度とし、この定着下限温度が160℃以下を合格とした。
[耐熱性(耐熱保管性)]
トナー2gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めてタップデンサーKYT−2000(セイシン企業製)で室温にて600回振とうした。その後、蓋を取った状態で50℃、80%RHの環境下に24時間放置した。次いで、48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないようにトナーを注意しながらのせて、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にセットした。押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定した。結果を表3に示す。下記式によって算出されるトナー凝集率が20質量%以下を合格とした。
[画質]
市販の複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)を準備し、上記各トナーから製造した現像剤をそれぞれ装填した。
各現像剤について、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下にて、階調率32段階の階調パターンを出力し、この階調パターンの粒状性について、以下のように評価した。ここで、階調パターンの粒状性の評価は、階調パターンのCCDによる読み取り値にMTF(Modulation Transfer Function)補正を考慮したフーリエ変換処理を施し、人間の比視感度にあわせたGI値(Graininess Index:画像ノイズ尺度)を測定して、最大GI値を求めることにより行った。結果を表3に示す。なお、GI値は、日本画像学会誌39(2)、84・93(2000)に掲載されている値である。また、最大GI値は小さいほど評価が良好であることを意味し、ここでは最大GI値が0.20以下を合格とした。
上記表3より、本発明に係る製造方法により得られたトナーは、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性に優れ、また、高画質化を実現することができることが示された。