<ガスセンサの構成>
図1ないし図3は、本発明に係るガスセンサの実施の形態の例示である、ガスセンサ100(100A〜100C)を示す図である。
ガスセンサ100(100A〜100C)は、センサ素子101(101A〜101C)と、センサ素子101を含むガスセンサ100の動作を制御するコントローラ140とを、主として備える。
ガスセンサ100は、いわゆる混成電位型のガスセンサである。ガスセンサ100は、概略的にいえば、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質たるセラミックスを主たる構成材料とするセンサ素子101の表面に設けた検知電極10と、該センサ素子101の内部に設けた基準電極20との間に、混成電位の原理に基づいてそれぞれの電極近傍における測定対象たるガス成分の濃度の相違に起因した電位差が生じることを利用して、被測定ガス中の対象ガス成分の濃度を求めるものである。
より具体的には、ガスセンサ100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関の排気管内に存在する排ガスを被測定ガスとし、該被測定ガス中の所定ガス成分(被検ガス成分)の濃度を、好適に求めるためのものである。なお、被検ガス成分が排ガス中の未燃炭化水素ガスである場合、未燃炭化水素ガスには、C2H4、C3H6、n−C8などの典型的な炭化水素ガス(化学式上、炭化水素に分類されるもの)に加えて、一酸化炭素(CO)も含むものとする。ただし、他のガス種が測定対象とされる態様であってもよい。係る場合において、コントローラ140によるガスセンサ100の制御は、内燃機関全体を制御するECU(電子制御装置)150からの制御指示のもとでなされる。
図1ないし図3に示すセンサ素子101(101A〜101C)はいずれも、長尺の板状もしくは棒状をなしており、上述した検知電極10および基準電極20に加えて、基準ガス導入空間30と、ガス導入部40と、内部空所50と、内側ポンプ電極60と、外側ポンプ電極70とを、主に備える。ただし、それぞれのセンサ素子101A〜101Cにおいては、一部の構成要素の配置態様が相異なっている。その詳細については後述する。
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1固体電解質層1と、第2固体電解質層2と、第3固体電解質層3と、第4固体電解質層4と、第5固体電解質層5と、第6固体電解質層6との6つの層を、図面視で下側からこの順に積層した構造を有し、かつ、主としてそれらの層間あるいは素子外周面に他の構成要素を設けてなるものとする。なお、それら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工や電極および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
ただし、ガスセンサ100がセンサ素子101をこのような6つの層の積層体として備えることは必須の態様ではない。センサ素子101は、より多数あるいは少数の層の積層体として構成されていてもよいし、あるいは積層構造を有していなくともよい。
以下の説明においては、便宜上、図面視で第6固体電解質層6の上側に位置する面をセンサ素子101の表面Saと称し、第1固体電解質層1の下側に位置する面をセンサ素子101の裏面Sbと称する。また、ガスセンサ100を使用して被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を求める際には、センサ素子101の一方端部である先端部E1から少なくとも検知電極10を含む所定の範囲が、被測定ガス雰囲気中に配置され、他方端部である基端部E2を含むその他の部分は、被測定ガス雰囲気と接触しないように配置されるものとする。
センサ素子101においては、検知電極10と、基準電極20と、両電極間に存在する固体電解質とによって、混成電位セルである検知セルCsが構成されている。
検知電極10は、被測定ガスを検知するための電極である。検知電極10は、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt−Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。係る検知電極10は、センサ素子101の表面Saに設けられてなる。ただし、図面視左右方向であるセンサ素子101の長手方向(以下、素子長手方向)におけるその具体的な配置位置は、個々のセンサ素子101A〜101Cによって異なっている。これは、検知セルCsが種々の配置位置を取り得ることに伴うものである。検知セルCsの配置位置の詳細については後述する。また、検知電極10は、平面視略矩形状に設けられる。なお、ガスセンサ100が使用される際には、センサ素子101のうち、少なくとも検知電極10が設けられている部分までが、被測定ガス中に露出する態様にて配置される。
検知電極10は、その構成材料たるPt−Au合金の組成を好適に定めることによって、それぞれ所定の濃度範囲について、被検ガス成分に対する触媒活性が不能化されてなる。つまりは、検知電極10での被検ガス成分の分解反応を抑制させられてなる。これにより、ガスセンサ100においては、検知電極10の電位が、被検ガス成分に対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、検知電極10は、被検ガス成分に対しては、それぞれ所定の濃度範囲において電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。
例えば、被検ガス成分が排ガス中の未燃炭化水素ガスである場合、検知電極10は、Au存在比が0.3〜2.5となるように形成されることで、およそ0ppmC〜4000ppmCという未燃炭化水素ガスの濃度範囲において電位の濃度依存性が顕著になるように設けられる。
なお、本明細書において、Au存在比とは、検知電極10を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。本明細書においては、XPS(X線光電子分光法)により得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いてAu存在比を算出するものとする。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
検知電極10を印刷により形成する際に用いる導電性ペーストは、Auの出発原料としてAuイオン含有液体を用い、該Auイオン含有液体を、Pt粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって作製することができる。なお、バインダーとしては、他の原料を印刷可能な程度に分散させることができ、焼成によりすべて焼失するものを適宜選べばよい。
Auイオン含有液体とは、Auイオンを含む塩もしくは有機金属錯体を、溶媒へ溶解させたものである。Auイオンを含む塩としては、例えばテトラクロロ金(III)酸(HAuCl4)、塩化金(III)ナトリウム(NaAuCl4)、二シアノ金(I)カリウム(KAu(CN)2)などを用いることができる。Auイオンを含む有機金属錯体としては、ジエチレンジアミン金(III)塩化物([Au(en)2]Cl3)、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)金(III)塩化物([Au(phen)Cl2]Cl)、ジメチル(トリフルオロアセチルアセトナト)金あるいはジメチル(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)金などを用いることができる。なお、NaやKなどの不純物が電極中に残留しない、取り扱いが容易である、あるいは溶媒へ溶解しやすい、などの観点からは、テトラクロロ金(III)酸やジエチレンジアミン金(III)塩化物([Au(en)2]Cl3)を用いることが好ましい。また、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類の他、アセトン、アセトニトリル、ホルムアミドなどを用いることができる。
なお、混合は、滴下などの公知の手段を用いて行うことができる。また、得られた導電性ペースト中においては、Auはイオン(もしくは錯イオン)の状態で存在しているが、上述した作製プロセスを経て得られたセンサ素子101に備わる検知電極10においては、Auは主として単体あるいはPtとの合金の状態で存在している。
あるいは、検知電極用の導電性ペーストは、Ptの粉末にAuをコーティングしたコーティング粉末をAuの出発原料として作製するようにしてもよい。係る場合、当該コーティング粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって、検知電極用の導電性ペーストを作製する。ここで、コーティング粉末としては、Pt粉末の粒子表面をAu膜にて被覆してなる態様のものを用いるようにしてもよいし、Pt粉末粒子にAu粒子を付着させてなる態様のものを用いるようにしてもよい。
基準電極20は、センサ素子101Aの内部に設けられた、被測定ガスの濃度を求める際に基準となる平面視略矩形状の電極である。基準電極20は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。
より具体的には、基準電極20は、基準ガス導入空間30内であって、センサ素子101を表面Saの側から平面視した場合にセンサ素子101の厚み方向(固体電解質層の積層方向)において検知電極10の下方位置となる位置に設けられる。ただし、素子長手方向におけるその具体的な配置位置は、検知電極10の配置位置に応じて異なっている。これも、検知電極10の場合と同様、検知セルCsが種々の配置位置を取り得ることに伴うものである。
基準電極20は、気孔率が10%以上30%以下であり、厚みが5μm以上15μm以下であるように形成されればよい。また、基準電極20の平面サイズは、検知電極10と同程度でもよいし、検知電極10に比して小さくてもよい。なお、図1ないし図3においては基準ガス導入空間30の図面視下側に基準電極20が形成されているが、これに代わり、基準ガス導入空間30の図面視上側に基準電極20が形成されていてもよい。
基準ガス導入空間30は、センサ素子101の基端部E2側に設けられた内部空間である。基準ガス導入空間30には、被検ガス成分の濃度を求める際の基準ガスとしての大気(酸素)が外部より導入される。
図1ないし図3に例示する場合であれば、センサ素子101の基端部E2の側において第4固体電解質層4の一部が外部と連通する空間とされる態様にて基準ガス導入空間30が設けられてなる。より詳細には、基準ガス導入空間30の図面視上部および下部は第3固体電解質層3と第5固体電解質層5とによって区画されており、側部は第4固体電解質層4によって区画されている。
ガスセンサ100が使用される際、基準ガス導入空間30に備わる基準電極20の周囲は絶えず大気(酸素)で満たされるようになっている。それゆえ、ガスセンサ100の使用時、基準電極20は、常に一定の電位を有してなる。
なお、基準ガス導入空間30は周囲の固体電解質によって被測定ガスと接触しないようになっているので、検知電極10が被測定ガスに曝されている状態であっても、基準電極20が被測定ガスと接触することはない。
基準電極20の電位が一定である一方で、検知電極10の電位は上述のように被検ガス成分の濃度に依存することから、検知セルCsにおいては、検知電極10と基準電極20との間に被検ガス成分の濃度に応じた電位差が生じるようになっている。係る電位差は、ガスセンサ100に備わる電位差計110によって測定される。
なお、図1ないし図3においては検知電極10および基準電極20と電位差計110との間の配線を、簡略化して示しているが、実際のセンサ素子101においては、基端部E2側の表面Saもしくは裏面Sbに図示しない接続端子がそれぞれの電極に対応させて設けられてなるとともに、それぞれの電極と対応する接続端子とを結ぶ図示しない配線パターンが表面Saおよび素子内部に形成されてなる。そして、検知電極10および基準電極20と電位差計110の間は、配線パターンおよび接続端子を通じて電気的に接続されてなる。
以降、電位差計110で測定される検知電極10と基準電極20との間の電位差をセンサ出力EMFもしくは単にEMFとも称する。
センサ素子101はまた、先端部E1において開口するガス導入部40と、係るガス導入部40によって外部空間と連通する内部空所50とを備える。センサ素子101の外部に存在する被測定ガスは、ガス導入部40によって所定の拡散抵抗が付与されたうえで内部空所50へと導入される。図1ないし図3に例示する場合であれば、ガス導入部40と内部空所50とはともに、上部および下部は第4固体電解質層4と第6固体電解質層6とによって区画されており、側部は第5固体電解質層5によって区画されている。
ガス導入部40には、被測定ガスに対し所望の拡散抵抗が付与可能である限りにおいて、種々の構成を適用可能である。図4は、ガス導入部40に採用され得る種々の構成を例示する図である。例えば、図4(a)は、図1に示すセンサ素子101Aのガス導入部40についての平面図である。係るセンサ素子101Aのガス導入部40は、幅方向(厚み方向に垂直な面において素子長手方向と直交する方向)におけるサイズ(幅)が内部空所50のサイズ(幅)よりも小さくなっている。一方、図4(b)に示す平面図は、センサ素子101の幅方向におけるガス導入部40のサイズが内部空所50のサイズと同じ場合を例示している。ガス導入部40のサイズを適宜に定めることで、図4(b)に示す構成によっても、図4(a)に示す構成と同じ拡散抵抗を実現することは可能である。
また、図4(c)は、図2に示すセンサ素子101Bのガス導入部40についての部分図であり、図4(d)は、係るセンサ素子101Bのガス導入部40についての平面図である。係るセンサ素子101Bのガス導入部40は、2つの拡散律速部41(41A、41B)が設けられてなる。図2および図4(c)、(d)に示す場合においては、それぞれの拡散律速部41は、2本の横長の(開口がセンサ素子101の幅方向に長手方向を有する)スリットとして設けられる。
さらに、図4(e)は、図3に示すセンサ素子101Cのガス導入部40についての部分図である。係るセンサ素子101Cのガス導入部40には、センサ素子101Bのガス導入部40に比して開口の厚みが小さい拡散律速部41が備わっている。これはすなわち、センサ素子101Bよりもセンサ素子101Cの方が、ガス導入部40において被測定ガスに付与される拡散抵抗が大きいことを意味している。
なお、図2、図3、および図4(c)〜(e)においてはガス導入部40が2つの拡散律速部41(41A、41B)を備える場合を例示しているが、ガス導入部40に設けられる拡散律速部の数は2つに限られるものではない。また、スリット状の拡散律速部を設ける態様に代えて、ガス導入部40の全体または一部に多孔質の拡散律速部を設けることによって、被測定ガスに所望の拡散抵抗を付与する態様であってもよい。
このように、ガス導入部40の拡散抵抗は、ガス導入部40そのもののサイズによって、あるいは、ガス導入部40内に種々の態様の拡散律速部を設けることによって、所望の値に調整される。
所定の拡散抵抗のもとで被測定ガスが導入される内部空所50には、内側ポンプ電極60が備わっている。内側ポンプ電極60は、少なくとも図面視において内部空所50の天面となる第6固体電解質層6の底部に形成されている。図1ないし図3においては、素子長手方向に沿った4つの面全てに(つまりはトンネル状に)内側ポンプ電極60が設けられる態様を例示している。
内側ポンプ電極60は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとジルコニアとのサーメット電極)として形成される。内側ポンプ電極60は、気孔率が10%以上30%以下であり、厚みが5μm以上15μm以下であるように形成されればよい。
また、センサ素子101の表面Saであって、センサ素子101を該表面Saの側から平面視した場合にセンサ素子101の厚み方向において内側ポンプ電極60の上方位置となる位置には、外側ポンプ電極70が設けられている。
外側ポンプ電極70も、内側ポンプ電極60と同様、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとジルコニアとのサーメット電極)として形成される。外側ポンプ電極70は、気孔率が10%以上30%以下であり、厚みが5μm以上15μm以下であるように形成されればよい。外側ポンプ電極70の平面サイズは、内側ポンプ電極60と同程度とされる。
センサ素子101においては、内側ポンプ電極60と、外側ポンプ電極70と、両電極間に存在する固体電解質とによって、電気化学的ポンプセルである酸素ポンプセルCpが構成されている。酸素ポンプセルCpは、ガス導入部40を通じて内部空所50に導入された被測定ガスに含まれる酸素を素子外部へと汲み出すべく、設けられてなる。具体的には、ガスセンサ100に備わるポンプ電源120によって内側ポンプ電極60と外側ポンプ電極70との間に所定の電圧が印加されると、被測定ガス中の酸素が内側ポンプ電極60においてイオン化されて固体電解質内を移動し、外側ポンプ電極70から素子外部へと排出される。このとき、内側ポンプ電極60と外側ポンプ電極70との間を流れる電流(限界電流)は、被測定ガス中に存在する酸素濃度に比例する。係る電流の値は、ガスセンサ100に備わる電流計130によって測定される。
なお、図1ないし図3においては内側ポンプ電極60および外側ポンプ電極70とポンプ電源120および電流計130との間の配線を、簡略化して示しているが、実際のセンサ素子101においては、基端部E2側の表面Saもしくは裏面Sbに図示しない接続端子がそれぞれの電極に対応させて設けられてなるとともに、それぞれの電極と対応する接続端子とを結ぶ図示しない配線パターンが表面Saおよび素子内部に形成されてなる。そして、内側ポンプ電極60および外側ポンプ電極70とポンプ電源120および電流計130の間は、配線パターンおよび接続端子を通じて電気的に接続されてなる。
以降、電流計130で測定される、内側ポンプ電極60と外側ポンプ電極70との間を流れる電流を、酸素ポンプ電流Ipとも称する。酸素ポンプ電流Ipは、被測定ガス中の酸素濃度の一次関数とみなすことができる。電流計130で測定される酸素ポンプ電流Ipの値は、センサ出力EMFに基づいて算出される被検ガス成分の濃度の補正に用いられる。
センサ素子101はさらに、ヒータ部80を備える。ヒータ部80は、ヒータ81と、ヒータ絶縁層82と、圧力放散孔83とを主として備える。
ヒータ81は、第2固体電解質層2と第3固体電解質層3とに上下から挟まれる態様にて形成されてなる。ヒータ81は、素子長手方向に対して蛇行するように(ミアンダ状に)設けられてなる。また、ヒータ81は、素子長手方向において、少なくとも酸素ポンプセルCpの素子長手方向における存在範囲を含むように、配置されている。換言すれば、センサ素子101を表面Saの側から平面視した場合、ヒータ81は少なくとも酸素ポンプセルCpの下方に存在している。
なお、図2および図3に示すセンサ素子101Bおよび101Cに備わるヒータ81は、図1に示すセンサ素子101Aに備わるヒータ81よりも素子長手方向における存在範囲が広くなっており、素子長手方向における酸素ポンプセルCpの存在範囲と略同一の範囲に設けられた主発熱部81Aに加え、主発熱部81Aよりも発熱能が抑制されてなる副発熱部81Bが備わっている。これは例えば、両者を構成する発熱体のサイズや材質を違えることや、両者の配線密度を違えることなどによって実現される。
第2固体電解質層2および第3固体電解質層3とヒータ81との間には、第2固体電解質層2および第3固体電解質層3とヒータ81との電気的絶縁性を得る目的でヒータ絶縁層82が設けられている。ヒータ絶縁層82は例えばアルミナ等からなる。
ヒータ81は、センサ素子101の裏面Sb(図面視において第1固体電解質層1の下面)に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることより発熱する。なお、係るヒータ電極とヒータ81とは、ヒータ絶縁層82内部およびヒータ絶縁層82から裏面Sbに向けて貫通するスルーホール84内部に配設された図示しないヒータリードによって電気的に接続されてなる。また、ヒータ81への給電は、ECU150からの制御指示のもと、コントローラ140によって制御される。
圧力放散孔83は、第3固体電解質層3を貫通し、ヒータ絶縁層82と基準ガス導入空間30とを連通するように形成されてなる部位であり、ヒータ絶縁層82内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で設けられてなる。
ガスセンサ100においては、被検ガス成分の濃度を求める際、ヒータ81が発熱することによって、センサ素子101の各部が動作に適した温度に加熱、保温されるようになっている。それゆえ、検知セルCsと酸素ポンプセルCpについても、それぞれが好適に動作する温度範囲内の温度に加熱される。ただし、それぞれが好適に動作する温度範囲は異なっている。具体的には、検知セルCsは400℃以上600℃以下、好ましくは450℃以上550℃以下である第1の温度範囲をみたす第1の加熱温度(T1)に加熱される。一方、酸素ポンプセルCpは少なくとも580℃以上850℃以下なる第2の温度範囲をみたす第2の加熱温度(T2)に加熱される。ただし、T1<T2とされる。
ガスセンサ100においては、検知セルCsと酸素ポンプセルCpのそれぞれの配置位置においてそれら第1の温度範囲および第2の温度範囲が好適に実現されるように、検知セルCsと酸素ポンプセルCpとの配置関係、ヒータの存在範囲、検知セルCsとヒータ81との配置関係、さらにはヒータ81による加熱態様が、定められる。
ただし、それらの具体的な態様は一通りに限定されるわけではなく、種々のバリエーションが有り得る。例えば、図1ないし図3に示すセンサ素子101A〜101Cの場合、酸素ポンプセルCpの配置位置と、ヒータ81の素子長手方向における存在範囲が少なくとも酸素ポンプセルCpの素子長手方向における存在範囲を含む点では共通するが、酸素ポンプセルCpと検知セルCsとの距離およびヒータ81の素子長手方向における配置範囲は、相異なるものとなっている。センサ素子101の構成のバリエーションの詳細については後述する。
なお、本実施の形態においては、検知電極10の表面温度によって検知セルCsの温度を評価し、外側ポンプ電極70の表面温度によって酸素ポンプセルCpの温度を評価するものとする。これらの電極の表面温度は、赤外線サーモグラフィにより評価可能である。
センサ素子101はまた、表面保護層90を備える。表面保護層90は、センサ素子101の表面Saにおいて少なくとも検知電極10および外側ポンプ電極70を被覆する態様にて設けられた、アルミナからなる多孔質層である。表面保護層90は、ガスセンサ100の使用時に被測定ガスに連続的に曝されることによる検知電極10および外側ポンプ電極70の劣化を抑制する電極保護層として設けられてなる。ただし、表面保護層90は、検知電極10への被測定ガスの到達と、外側ポンプ電極70からの酸素の排出とを、事実上律速することのない態様(気孔径、気孔率、および厚み)にて、設けられてなる。
図1ないし図3に例示する場合においては、表面保護層90は、検知電極10および外側ポンプ電極70のみならず、センサ素子101の表面Saのうち先端部E1から所定の範囲を除くほぼ全ての部分を覆う態様にて設けられてなる。
以上のような構成を有するガスセンサ100においては、検知セルCsにおけるセンサ出力EMFと、酸素ポンプセルCpを流れる酸素ポンプ電流Ipとが、ガスセンサ100の動作を制御するコントローラ140に出力される。コントローラ140に与えられたそれらの出力値はさらにECU150に与えられ、ECU150がこれらの出力に基づく演算処理を行うことによって、センサ素子101近傍の被検ガス成分の濃度が求められる。すなわち、ECU150は、被検ガス成分の濃度を特定する濃度特定手段としても機能する。
<センサ素子の製造プロセス>
次に、センサ素子101を製造するプロセスについて、その概要を説明する。概略的にいえば、センサ素子101は、その具体的構成の相違によらず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、イットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。
図5は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には、第1固体電解質層1、第2固体電解質層2、第3固体電解質層3、第4固体電解質層4、第5固体電解質層5、および、第6固体電解質層6に対応する6枚のブランクシートが用意される。併せて、表面保護層90を形成するためのブランクシートも用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めその他のための複数のシート穴が、あらかじめ設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が基準ガス導入空間30やガス導入部40および内部空所50を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、検知電極10、基準電極20、内側ポンプ電極60、および外側ポンプ電極70などの電極パターンや、ヒータ81やヒータ絶縁層82を形成するためのパターンや、図示を省略しているヒータリード等の内部配線などを形成するためのパターンなどが印刷形成される。ガス導入部40にスリット状の拡散律速部41を形成する場合には、その形成位置に、後工程(ステップS6)における焼成の際に分解する(当該焼成温度で分解する)低温分解材料を含むペーストによるパターンの形成も行われる。低温分解材料としては、例えば、テオブロミンやカーボンなどが例示される。併せて、第1固体電解質層1に対しては、後工程において積層体を切断するときに切断位置の基準とされるカットマークも印刷される。
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペースト(導電性ペースト等)を、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成する(ステップS6)。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1365℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
<被検ガス成分の濃度の算出>
ガスセンサ100を用いて被測定ガスにおける被検ガス成分の濃度を求める際には、上述したように、センサ素子101のうち先端部E1から少なくとも検知電極10を含む所定の範囲のみを、被測定ガスが存在する空間に配置する一方で、基端部E2の側は当該空間とは隔絶させて配置し、基準ガス導入空間30に対し大気(酸素)を供給する。そして、ヒータ81によりセンサ素子101を加熱し、検知セルCsが第1の加熱温度に加熱され、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱されるようにする。
係る状態においては、上述のように、大気(酸素濃度一定)雰囲気下に配置されてなる基準電極20の電位は一定に保たれている一方で、検知電極10の電位は被測定ガス中の被検ガス成分に対して濃度依存性を有するものとなっていることに起因して、検知電極10と基準電極20との間に、被検ガス成分の濃度に応じた電位差が生じる。そして、係る電位差がセンサ出力EMFとして出力される。
それゆえ、本来的には、被検ガス成分の濃度とセンサ出力EMFの間にはそれぞれ、一定の関数関係(これを感度特性と称する)が成り立つ。よって、原理上は、あらかじめ、それぞれの被検ガス成分の濃度が既知である相異なる複数の混合ガスを被測定ガスに用いてそれぞれについてセンサ出力EMFを測定することで、感度特性を実験的に特定し、ECU150に記憶させておけば、ガスセンサ100を実使用する際には、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度に応じて時々刻々変化するセンサ出力EMFの値を感度特性にあてはめることで、被検ガス成分の濃度を求めることが可能である。
図6は、検知セルCsの感度特性について例示する図である。より詳細には、図6は、図1に示す構成のセンサ素子101Aについて、被検ガス成分としてC2H4を100ppm、300ppm、500ppm、700ppm、1000ppm、2000ppm、4000ppmのいずれかで含み、酸素を10%含み、水蒸気を5%含み、残余が窒素である複数のモデルガスを対象として、第1の加熱温度を470℃、500℃、580℃、640℃の4水準に違えたときの、それぞれの温度での感度特性を示している。図6からは、第1の加熱温度を470℃、500℃の場合にセンサ出力EMFがC2H4の濃度に応じて直線的に変化しており好適に感度特性が得られているのに対し、第1の加熱温度が640℃の場合には低濃度範囲でセンサ出力の濃度依存性が得られていないことがわかる。係る結果は、上述したように、第1の加熱温度を400℃以上600℃以下、好ましくは450℃以上550℃以下である第1の温度範囲から設定することが好ましいことを指し示している。
ただし、図6に示した感度特性は酸素濃度が一定という条件のもとで得られているものの、実際には、検知電極10に生じる混成電位が被測定ガス中の酸素濃度に応じて変化するため、センサ出力EMFの値も、被測定ガス中の酸素濃度に依存して変化する値となっている。図7は、センサ出力EMFの被測定ガス中の酸素濃度に対する依存性について例示する図である。より詳細には、図7は、図1に示す構成のセンサ素子101Aについて、被検ガス成分としてC2H4を1000ppm含み、酸素を1%、5%、10%、20%のいずれかで含み、水蒸気を5%含み、残余が窒素である複数のモデルガスを対象として、第1の加熱温度を500℃としたときの、センサ出力EMFの変化を示している。
被検ガス成分が一定である以上、センサ出力EMFは本来、酸素濃度によらず一定となるべきところ、実際には、図7に示すように、センサ出力EMFは酸素濃度に依存して変化する。それゆえ、ガスセンサ100においては、被検ガス成分の濃度の算出精度を高めるべく、被測定ガス中の酸素濃度に応じた値となる酸素ポンプ電流Ipの値を用いた補正を行うようにする。補正の具体的な方法としては、次の2通りの態様が例示される。
(第1の態様)
これは、上述した感度特性の特定に際し、被検ガス成分の濃度のみならず酸素濃度をいくつかの水準にて違えた複数の混合ガスを使用し、酸素ポンプ電流Ipの値もしくはその値に対応する酸素濃度についても感度特性のパラメータとして含むようにするという態様である。
すなわち、それぞれの被検ガス成分の濃度および酸素濃度が既知である相異なる複数の混合ガスを被測定ガスに用いてそれぞれについてセンサ出力EMFおよび酸素ポンプ電流Ipを測定することで、被検ガス成分の濃度と酸素ポンプ電流Ipとセンサ出力EMFとの関係を示す感度特性マップを実験的に特定し、係る感度特性マップをECU150に記憶させておく。そして、ガスセンサ100を実使用する際には、センサ出力EMFの値と酸素ポンプ電流Ipを感度特性マップにあてはめ、対応する被検ガス成分の濃度値を特定することで、被検ガス成分の濃度を求めることが可能となる。
これにより、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度をほぼリアルタイムで求めることができる。
(第2の態様)
もう一つは、混成電位メカニズムを表す理論式である式(1)と酸素ポンプ電流Ipに基づいて特定される被測定ガス中の酸素濃度の値をもとに、被検ガス成分の濃度を算出するという態様である。
式(1)において、CO2は被測定ガスにおける酸素濃度を表し、Cxは被測定ガスにおける被検ガス成分の濃度を表し、EMIXはセンサ出力EMFを表している。また、Rは気体定数であり、Tは検知セルCsの温度であり、Fはファラデー定数である。その他のパラメータも既知の定数である。被測定ガスにおける酸素濃度は酸素ポンプ電流Ipから求めることができるので、式(1)に基づいてCO2とEMIXとの値からCxの値を算出することで、被測定ガスにおける被検ガス成分の濃度を求めることができる。
<セルおよびヒータの配置と加熱温度>
上述したように、ガスセンサ100においては、検知セルCsと酸素ポンプセルCpとをともに好適に動作させるべく、検知セルCsは第1の温度範囲をみたす第1の加熱温度(T1)に加熱され、酸素ポンプセルCpは第2の温度範囲をみたす第2の加熱温度(T2)に加熱される。これは、検知セルCs、酸素ポンプセルCp、およびヒータ81の配置関係およびヒータ81による加熱態様を好適に定めることで実現されるが、その具体的な態様には種々のバリエーションが有り得る。
以下においては、それらのバリエーションのうち、図1ないし図3に示すセンサ素子101A〜101Cのように、ヒータ81の素子長手方向における配置範囲が、少なくとも酸素ポンプセルCpの素子長手方向における存在範囲を含む構成について、説明を行う。
係る構成は、センサ素子101のなかで最も高温に加熱することが求められる酸素ポンプセルCpの温度を制御しやすいという利点がある。すなわち、図1ないし図3に示すガスセンサ100A〜100Cにおいては、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱されるように、ヒータ81による加熱が制御される。換言すれば、第2の加熱温度がヒータ81の制御対象温度となる。
まず、図1に示すセンサ素子101Aにおいては、ヒータ81との配置関係が異なる2つのゾーンが観念される。一つは、素子長手方向においてヒータ81が配置されている範囲に相当する第1ゾーンZ1である。第1ゾーンZ1は、ヒータ81が発熱することによって相対的に他の部位よりも高温となる。もう一つは、ヒータ81が配置されていない第2ゾーンZ2である。第2ゾーンZ2は、素子長手方向において第1ゾーンZ1に隣接しておりヒータ81の発熱によって加熱されるものの、ヒータ81からは離れているために第1ゾーンZ1よりは低温となる。ただし、ヒータ81の存在する箇所から基端部E2にかけて温度は連続的に低下することから、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2との境界は必ずしも明確なものではない。
第1ゾーンZ1には酸素ポンプセルCpが位置している。第1ゾーンZ1のうち少なくとも酸素ポンプセルCpが存在する領域は、ヒータ81によって第2の加熱温度に加熱される。
これに対し、検知セルCsが好適に動作する温度である第1の加熱温度は、第2の加熱温度よりも低い。それゆえ、検知セルCsは、第2ゾーンZ2内であって第1の加熱温度が実現される位置に配置されている。より詳細には、センサ素子101Aにおいては、基準電極20が、基準ガス導入空間30において圧力放散孔83よりも先端部E1側に位置するように、検知セルCsが配置されている。
なお、ヒータ81によって第1ゾーンZ1が高温に加熱されるほど、あるいは、第1ゾーンZ1が大きいほど、検知セルCsは酸素ポンプセルCpから離隔させる必要がある一方、検知セルCsを過度に酸素ポンプセルCpから離隔させてしまうと、ヒータ81によっていくら加熱を行っても、検知セルは第1の加熱温度に到達しないことになる。これはすなわち、素子長手方向における酸素ポンプセルCpと検知セルCsとの距離(以下、セル間距離)Lが、第1の加熱温度と第2の加熱温度との温度差T2−T1に応じた値となっていることを意味する。ただし、本実施の形態において、セル間距離Lとは、酸素ポンプセルCpと検知セルCsのそれぞれの、素子長手方向における中点位置の間の距離であるとする。
換言すれば、センサ素子101Aは、セル間距離Lが温度差T2−T1に見合うように両セルが配置されることで、一のヒータ81を用いつつも、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱される一方で検知セルCsが第2の加熱温度も低い第1の加熱温度に加熱されるように、構成されている。これにより、係るセンサ素子101Aを備えるガスセンサ100Aによれば、検知セルCsにおけるセンサ出力EMFと、酸素ポンプセルCpにおいて得られる被測定ガス中の酸素の濃度に応じた出力である酸素ポンプ電流Ipとを同時並行的に取得することができるので、センサ出力EMFに基づいて被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を求めるにあたって、被測定ガスの酸素濃度に変動が生じる場合であっても、酸素ポンプ電流Ipの値に基づく補正を行うことで、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を精度よく求めることが可能となっている。
図2に示すセンサ素子101Bの場合も同様に、素子長手方向において主発熱部81Aが配置されている範囲が第1ゾーンZ1となり、基端部E2側のヒータ81が配置されていない範囲が第2ゾーンZ2となるものと観念されるが、センサ素子101Bにおいてはさらに、これら2つのゾーンの間の、副発熱部81Bが配置されている範囲が、第3ゾーンZ3として観念される。第3ゾーンZ3の温度範囲は、第1ゾーンZ1の温度範囲と第2ゾーンZ2の温度範囲の間となる。このことは、センサ素子101Bの方がセンサ素子101Aに比して、ヒータ81の存在する箇所から基端部E2にかけての温度の低下が緩やかであることを意味する。ただし、そうであるがゆえに、第1および第2の加熱温度を同じとする場合、センサ素子101Bにおいては、センサ素子101Aよりも、セル間距離Lを大きくする必要がある。センサ素子101Bにおいては、基準電極20が、基準ガス導入空間30において圧力放散孔83よりも基端部E2側に位置するように、検知セルCsが配置されている。
とはいえ、センサ素子101Bの場合も、セル間距離Lが第2の加熱温度と第1の加熱温度の温度差T2−T1に見合うように両セルが配置されることで、一のヒータ81を用いつつも、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱される一方で検知セルCsが第2の加熱温度も低い第1の加熱温度に加熱されるように構成されている、という点においては、センサ素子101Aと同様である。よって、係るセンサ素子101Bを備えるガスセンサ100Bの場合も、ガスセンサ100Aと同様、検知セルCsにおけるセンサ出力EMFと、酸素ポンプセルCpにおいて得られる被測定ガス中の酸素の濃度に応じた出力である酸素ポンプ電流Ipとを同時並行的に取得することができる。それゆえ、センサ出力EMFに基づいて被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を求めるにあたって、被測定ガスの酸素濃度に変動が生じる場合であっても、酸素ポンプ電流Ipの値に基づく補正を行うことで、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を精度よく求めることが可能となっている。
これに対し、図3に示すセンサ素子101Cの場合、ヒータ81が主発熱部81Aと副発熱部81Bとを有しており、第1ゾーンZ1〜第3ゾーンZ3の3つのゾーンが観念される点では図2に示すセンサ素子101Bと同様であるが、検知セルCsは第2ゾーンZ2よりも高温となる、副発熱部81Bが備わる第3ゾーンZ3に配置されている。これは、第2の加熱温度をセンサ素子101Bよりも低く設定し、主発熱部81Aおよび副発熱部81Bにおける発熱をセンサ素子101Bの場合よりも弱くすることで可能となる。ただし、その一方で、酸素ポンプセルCpにおけるポンピング能は十分に確保される必要があるところ、加熱温度が低くなるとポンピング能は低下する傾向がある。
センサ素子101Cにおいては、このような、酸素ポンプセルCpにおける加熱温度の低減とポンピング能の確保という相反する要請を、ガス導入部40における拡散抵抗を高めることによって、内部空所50に流入する被測定ガスの量を抑制することで、解決している。これは、内部空所50に流入する被測定ガスの量が少ないほど、被測定ガスの酸素濃度の測定のために酸素ポンプセルCpによって汲み出すべき酸素の絶対量が少なくなることから、第2の加熱温度が低く設定されることによってポンピング能が多少弱まっていたとしても、酸素ポンプセルCpは被測定ガス中の酸素を確実に汲み出すことが可能となることに、基づいている。なお、ガス導入部40において被測定ガスに付与される拡散抵抗が大きくなって汲み出すべき酸素の絶対量が少なくなるほど、限界電流である酸素ポンプ電流Ipの値は小さくなるが、酸素濃度の算出に十分である限りにおいては、ガスセンサ100の動作には特段の支障は生じない。また、ガス導入部40において被測定ガスに付与される拡散抵抗が大きいほど、酸素ポンプ電流Ipの値が小さくなるということは、当該拡散抵抗と酸素ポンプ電流Ipの値の間に相関があることを意味している。
例えば、図2に示すセンサ素子101Bと、図3に示すセンサ素子101Cとを対比すると、後者の方が前者よりも拡散律速部41(41A、41B)における開口が狭いことから、被測定ガスに付与される拡散抵抗は大きくなる。それゆえ、両者におけるヒータ81の配置態様は同じであるものの、後者の場合は、前者よりも第2の加熱温度を小さく設定し、かつ、セル間距離Lを前者よりも小さくして検知セルCsを酸素ポンプセルCpに近い第3ゾーンZ3に配置することが可能となっている。なお、第2の加熱温度を小さく設定しセル間距離Lを小さくできるということは、第2の加熱温度と第1の加熱温度との温度差T2−T1を小さくすることができることでもある。
このことはつまり、ガスセンサ100によって被検ガス成分の濃度を求める際の酸素ポンプセルCpの加熱温度である第2の加熱温度が取り得る範囲は、上述した580℃以上850℃以下なる第2の温度範囲から、ガス導入部40の拡散抵抗に応じて定まることを意味する。
図8と図9は、ガス導入部40の拡散抵抗の相違が酸素ポンプセルCpのポンピング能に与える影響を示すための図である。ここで、ポンピング能は、酸素濃度の異なる複数の評価用ガスを対象に酸素ポンプセルCpによる酸素の汲み出しを行ったときの、酸素濃度に対する酸素ポンプ電流Ipの変化の仕方によって評価することができる。
図8は、ガス導入部40の拡散抵抗が250cm−1であるセンサ素子についての結果である。より詳細には、図8(a)、(b)、(c)はそれぞれ、第2の加熱温度を790℃、720℃、650℃としたときの結果である。一方、図9は、ガス導入部40の拡散抵抗が900cm−1であるセンサ素子についての結果である。より詳細には、図9(a)、(b)、(c)はそれぞれ、第2の加熱温度を720℃、650℃、580℃としたときの結果である。いずれの場合も、ポンプ電源120が内側ポンプ電極60と外側ポンプ電極70との間に与える電圧を300mV、400mV、500mVの3水準に違えて評価を行っている。
図8に示す、ガス導入部40の拡散抵抗が相対的に小さい構成においては、第2の加熱温度が700℃を下回る場合に十分なポンピング能が得られていない(酸素ポンプ電流Ipの酸素濃度依存性が十分ではない)のに対し、図9に示す、ガス導入部40の拡散抵抗が相対的に大きい構成においては、第2の加熱温度が580℃の場合でも、十分なポンピング能が得られている。このことは、ガス導入部40の拡散抵抗を高めることで、第2の加熱温度を低減できること、換言すれば、第2の加熱温度はガス導入部40の拡散抵抗に応じて定まることを意味している。
例えば、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗が250cm−1〜500cm−1である場合、第2の加熱温度は700℃〜850℃とする必要があるが、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗が500cm−1〜900cm−1である場合には、第2の加熱温度は580℃〜700℃で十分となる。そして、係る第2の加熱温度と第1の加熱温度との温度差に見合うセル間距離Lにて、検知セルCsが配置されればよいということになる。なお、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗が2000cm−1を上回ると、内部空所50に到達する被測定ガスの絶対量が小さくなりすぎ酸素ポンプ電流Ipが十分に得られなくなるため好ましくない。
以上のように、ガス導入部40が被測定ガスに付与する拡散抵抗の大きさや、ヒータ81と検知セルCsとの配置関係や、第2の加熱温度についてセンサ素子101Bとの相違はあるものの、センサ素子101Cの場合も、セル間距離Lが第2の加熱温度と第1の加熱温度の温度差T2−T1に見合うように両セルが配置されることで、一のヒータ81を用いつつも、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱される一方で検知セルCsが第2の加熱温度も低い第1の加熱温度に加熱されるように構成されている、という点においては、センサ素子101Aおよびセンサ素子101Bと同様である。よって、係るセンサ素子101Cを備えるガスセンサ100Cの場合も、ガスセンサ100Aおよびガスセンサ100Bと同様、検知セルCsにおけるセンサ出力EMFと、酸素ポンプセルCpにおいて得られる被測定ガス中の酸素の濃度に応じた出力である酸素ポンプ電流Ipとを同時並行的に取得することができる。それゆえ、センサ出力EMFに基づいて被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を求めるにあたって、被測定ガスの酸素濃度に変動が生じる場合であっても、酸素ポンプ電流Ipの値に基づく補正を行うことで、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を精度よく求めることが可能となっている。
これに加えて、センサ素子101Cにおいては、被測定ガスに対して付与される拡散抵抗が、酸素濃度の算出に必要な酸素ポンプ電流Ipを得るのに支障のない範囲において大きくなるように、ガス導入部40が構成されている。これにより、センサ素子101Cを備えるガスセンサ100Cにおいては、第2の加熱温度を低く設定し、検知セルCsをガス導入部40の拡散抵抗が小さい場合よりも酸素ポンプセルCpに近付けて配置しつつも、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を、酸素濃度の変動を考慮しつつ精度よく求めることが可能となっている。
第2の加熱温度が低減されるということは、センサ素子101に作用する熱的負荷が低減されるということであるので、センサ素子101Cのようにガス導入部40の拡散抵抗と高める態様は、センサ素子101の耐久性の向上つまりは長寿命化に資するものであるということができる。
なお、図4に例示したように、ガス導入部40の形態には種々のものがあり、ガス導入部40において被測定ガスに対して付与される拡散抵抗を高めるための方策は、必ずしも拡散律速部41を設けることに限られるものでもない。例えば、ガス導入部40自体の形状およびサイズを調整することで、拡散抵抗を高める対応も可能である。よって、あるガス導入部40が拡散律速部41を備えているからといって、必ずしも拡散律速部41を備えていないガス導入部40に比して被測定ガスに付与する拡散抵抗が大きいというわけでもない。
センサ素子101Cと同様の構成を有するセンサ素子において第2の加熱温度をセンサ素子101Bにおいて必要となる加熱温度と同程度とすることはもちろん可能であるが、その場合には、検知セルCsはセンサ素子101Bと同様に配置される必要がある。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサに備わるセンサ素子において、被測定ガス中の検知対象ガス成分を検知するための混成電位セルである検知セルと、被測定ガス中の酸素を汲み出すための酸素ポンプセルとが、一のヒータを用いて加熱しつつもそれぞれが好適に動作する加熱温度に加熱される距離を保って、配置される。係るセンサ素子を備えるガスセンサによれば、検知セルにおけるセンサ出力と、酸素ポンプセルにおいて得られる被測定ガス中の酸素の濃度に応じた出力であるポンプ電流とを同時並行的に取得することができるので、センサ出力に基づいて被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を求めるにあたって、被測定ガスの酸素濃度に変動が生じる場合であっても、ポンプ電流の値に基づく補正を行うことで、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を精度よく求めることが可能となっている。すなわち、本実施の形態に係るガスセンサによれば、被測定ガス中の酸素の影響を好適に排除して、被検ガス成分の濃度を精度よく求めることができる。
なお、被検ガス成分に係る出力を得るための手段と、被測定ガス中の酸素濃度に関する情報を得るため手段とを、別体に設け、後者から得られる情報に基づいて前者の出力を補正して被検ガス成分の濃度を得るという態様も考えられるが、係る場合、両手段の取り付け位置が異なることに起因した被測定ガス雰囲気の違いや、補正のタイムラグの発生などが測定精度に悪影響を与える可能性がある。
本実施の形態に係るガスセンサは、一のガスセンサにおいて一の被測定ガス雰囲気からセンサ出力とポンプ電流という2つの出力を同時並行的に得ることができるという点で、それぞれの出力を別体の手段にて取得する場合に比して、測定精度の点で優れているといえる。
さらに、被測定ガスから酸素を汲み出すために被測定ガスがセンサ素子に備わる内部空所に導入される際の導入路であるガス導入口が被測定ガスに対して付与する拡散抵抗を高めることにより、酸素ポンプセルを動作させる温度を低減させることができる。係る場合、第2の加熱温度を低減することが可能となるので、センサ素子に作用する熱的負荷が低減され、センサ素子の耐久性が向上し、センサ素子が長寿命化する。
<実施例>
ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗の大きさとセル間距離Lとをそれぞれ3水準に違えた9種類のガスセンサ100(サンプル1−1〜1−3、2−1〜2−3、3−1〜3−3)を用意し、酸素ポンプセルCpと検知セルCsの動作の良否をそれぞれに評価した。さらに、それぞれについての評価結果を総合することにより、ガスセンサ100が好適に動作する条件の存在の有無を確認した。
具体的には、図2および図3に示すような、センサ素子101のガス導入部40に2つの拡散律速部41(41A、41B)を有する構成のガスセンサ100を評価の対象とした。センサ素子101の素子長手方向、厚み方向(表面保護層含む)、幅方向のサイズはそれぞれ2.3mm、1.15mm、0.64mmとした。また、酸素ポンプセルCpの素子長手方向におけるサイズは2.3mmとし、検知セルCsの素子長手方向におけるサイズは3.1mmとし、ヒータ81の素子長手方向におけるサイズは9.3mmとした。
拡散律速部41によってガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗の大きさは、250、500、900cm−1の3水準に違えた。
一方、セル間距離Lは2mm、4mm、7mmの3水準に違えた。セル間距離Lがこれらの値に定められた場合、第2の加熱温度T2と第1の加熱温度T1との温度差T2−T1がそれぞれ、100℃、200℃、300℃となることが、あらかじめ確認されている。
表1は、酸素ポンプセルCpの動作の良否についての評価の結果を示している。係る評価は、被検ガス成分としてC2H4を1000ppm含み、酸素を1%、5%、10%、20%のいずれかで含み、水蒸気を5%含み、残余が窒素である複数のモデルガスを用い、第2の加熱温度T2を500℃、600℃、700℃、800℃、850℃の5水準に違えて行った。係る評価の際、それぞれのサンプルについて、センサ素子が配置される箇所における被測定ガスの流速は20m/secとし、被測定ガスの温度は250℃とした。
表1においては、係る評価の結果を、セル間距離Lとこれに対応する温度差T2−T1の条件、および、酸素濃度20%の場合における各サンプルの限界電流値(以下、基準限界電流値と称する)と併せて示している。
評価の基準は、次のようにした。まず、酸素濃度が異なる全ての被測定ガスについて限界電流値が得られた場合、酸素ポンプセルCpは良好に動作していると評価した。表1においては、係る評価が得られた条件(サンプルと第2の加熱温度T2の組み合わせ)についての評価結果の欄に○(丸)印を付している。一方、いずれの被測定ガスについても酸素ポンプ電流Ipの値が限界電流値に到達しなかった場合には酸素ポンプセルCpが良好に動作しなかったと評価した。表1においては、係る評価が得られた条件についての評価結果の欄に×(バツ)印を付している。また、両者の中間の、酸素ポンプセルCpは動作するものの精度が劣る場合については、表1の係る評価が得られた条件についての評価結果の欄に△(三角)印を付している。
表1に示した結果からわかるように、限界電流値の値が小さくなるほど(ガス導入部40における拡散抵抗が大きいほど)、第2の加熱温度T2が小さい場合でも酸素ポンプセルCpは良好に動作した。
なお、サンプル1−1〜1−3の間、2−1〜2−3の間、および、3−1〜3−3の間において、基準限界電流値が同じであり、かつ、酸素ポンプセルCpの動作に対する判定結果が同じであるのは、係る評価は検知セルCsの配置とは無関係であるからである。このうち、基準限界電流値は、ガス導入部40が被測定ガスに対して付与する拡散抵抗の値と相関を有することから、係る拡散抵抗の程度を表すパラメータとして用いることができる。
次に、表2は、検知セルCsの動作の良否についての評価の結果を示している。係る評価は、被検ガス成分としてC2H4を100ppm、300ppm、500ppm、700ppm、1000ppm、2000ppm、4000ppmのいずれかで含み、酸素を10%含み、水蒸気を5%含み、残余が窒素である複数のモデルガスを用い、第2の加熱温度T2を500℃、600℃、700℃、800℃、850℃の5水準に違えて行った。係る評価の際、それぞれのサンプルについて、センサ素子が配置される箇所における被測定ガスの流速は20m/secとし、被測定ガスの温度は250℃とした。
表2においては、係る評価の結果を、セル間距離Lとこれに対応する温度差T2−T1の条件、および、各サンプルの基準限界電流値と併せて示している。なお、第2の加熱温度T2が上述したそれぞれの値である場合の第1の加熱温度T1の値は、温度差T2−T1の値から特定される。
評価の基準は、次のようにした。まず、C2H4の濃度範囲全体に渡ってセンサ出力がC2H4の濃度に対し単調に増加した場合、検知セルCsは良好に動作していると評価した。表2においては、係る評価が得られた条件(サンプルと第2の加熱温度T2の組み合わせ)についての評価結果の欄に○(丸)印を付している。一方、一部であっても、センサ出力がC2H4の濃度に対し変動しないC2H4の濃度範囲が存在する場合、検知セルCsは良好に動作しなかったと評価した。表2においては、係る評価が得られた条件についての評価結果の欄に×(バツ)印を付している。また、両者の中間の、検知セルCsは動作するもののC2H4の濃度に対するセンサ出力の変動が十分ではない場合については、表2の係る評価が得られた条件についての評価結果の欄に△(三角)印を付している。
表2に示した結果からは、検知セルCsを良好に動作させるには、酸素ポンプセルCpが良好に動作する温度である第2の加熱温度T2が大きいほど、セル間距離Lを大きくして第1の加熱温度T1との温度差T2−T1を大きく保つ必要があることがわかる。別の見方をすれば、表2に示した結果は、第1の加熱温度が500℃〜550℃程度となるように検知セルCsが配置されていれば、第2の加熱温度T2によらず、検知セルCsは良好に動作する、ということを示しているともいえる。
表1に示した評価結果と表2に示した評価結果とを総合したのが表3である。
表3においては、係る評価の結果を、セル間距離Lとこれに対応する温度差T2−T1の条件、および、各サンプルの基準限界電流値と併せて示している。
表3のそれぞれの評価結果の欄においては、表1および表2の同じ条件の欄に付された2つの印(○印、×印、△印)のうち、悪い方の評価の印を付している。よって、表3の各評価結果の欄において○印が付されているのは、表1および表2の対応する評価結果の欄の双方において○印が付されている場合にのみである。いずれか一方でも×印が付されていた場合には、表3の評価結果の欄には×印が付されている。表1および表2ともに△印であるか、または、△印と○印とが付されている場合には、表3の評価結果の欄には△印が付されている。これは、表3において○印が付されている条件であれば、ガスセンサ100が良好に動作すること、つまりは、被検ガス成分の濃度を、酸素の影響を補正しつつ精度良く求めることができるということを意味している。
表3をみればわかるように、いくつかの条件においては、評価結果の欄に○印が付されている。このことは、好適な動作温度が相異なる検知セルCsと酸素ポンプセルCpとを一のセンサ素子にともに備え、検知セルCsからのセンサ出力に基づいて求められる被検ガス成分の濃度を、酸素ポンプセルCpから出力されるポンプ電流値に基づいて補正するガスセンサが、所定の条件のもとで実際に実現可能であることを意味している。
より具体的は、基準限界電流値が3mAと相対的に大きい3つのサンプル1−1〜1−3について、つまりは、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗が相対的に小さいサンプルについて、良好に動作すると評価されているのは(評価結果欄に○印が付されているのは)、セル間距離Lが7mmであり温度差T2−T1が300℃であるサンプル1−3の、第2の加熱温度T2が800℃および850℃の場合にのみである。
これに対し、基準限界電流値が1.5mAであるサンプルについては、セル間距離Lが7mmであるサンプル2−3についてサンプル1−3と同じ結果が得られていることに加えて、セル間距離Lが4mmであり温度差T2−T1が200℃であるサンプル2−2の、第2の加熱温度T2が700℃の場合においても、良好に動作すると評価されている。
さらに、基準限界電流値が0.35mAであるサンプルについては、サンプル3−3についてサンプル1−3、2−3と同じ結果が得られ、かつ、サンプル3−2についてサンプル2−2と同じ結果が得られていることに加えて、セル間距離Lが2mmであり温度差T2−T1が100℃であるサンプル3−1の、第2の加熱温度T2が600℃の場合においても、良好に動作すると評価されている。
すなわち、基準限界電流値が小さくなるほど、つまりは、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗が相対的に大きくなるほど、ガスセンサ100が良好に動作すると判断される条件範囲が、第2の加熱温度T2の低温側であって温度差T2−T1が小さい側へと広がっている。
係る結果からは、第1の加熱温度T1を第1の温度範囲において略一定とした場合、第2の加熱温度が第2の温度範囲において取り得る範囲が、ガス導入部40が被測定ガスに与える拡散抵抗に応じて定まること、および、当該拡散抵抗を大きくすることによって、第2の加熱温度T2を下げることができることが、確認される。
また、図10は、表3に示した結果に、T2−T1=50℃の場合および400℃の場合のデータを補充することで作成した、ガスセンサ100の特性図である。図10においては、横軸を温度差T2−T1とし、縦軸を基準限界電流値として、ガスセンサ100が良好に動作する温度差T2−T1の値と基準限界電流値の値との組み合わせに○(丸)印を付し、動作しないと判断される組み合わせに×(バツ)印を付し、両者の中間と判断される組み合わせには△(三角)印を付している。
図10からは、横軸の値をxとし、縦軸の値をyとしたときに、y≦0.015xなる範囲(直線C1以下の範囲)であればガスセンサ100は動作が可能であり、y≦0.0106xなる範囲(直線C2以下の範囲)であればガスセンサ100は良好に動作するといえる。
<変形例>
図1ないし図3に示すガスセンサ100Aないし100Cにおいては、検知電極10がセンサ素子101の表面Saに設けられ、基準電極20がセンサ素子101に備わる基準ガス導入空間30に設けられていたが、検知電極10および基準電極20の配置態様はこれに限られるものではない。図11ないし図13は、検知電極10または基準電極20の配置がガスセンサ100A〜100Cと異なる変形例に係るガスセンサ100(100Dないし100F)について例示する図である。
図11および図12に示すガスセンサ100(100Dおよび100E)においては、センサ素子101(101Dおよび101E)の第3固体電解質層3と第4固体電解質層4との間に、基準ガス導入空間30と連通する基準ガス導入層31を有し、係る基準電極20が、基準ガス導入空間30ではなく基準ガス導入層31に設けられてなる。基準ガス導入層31は例えば、多孔質アルミナなどによって形成される。
具体的には、図11に示すセンサ素子101Dは、図1に示すセンサ素子101Aの構成をベースに基準ガス導入層31を設けたものである。
一方、図12に示すセンサ素子101Eは、図3に示すセンサ素子101Cの構成をベースに基準ガス導入層31を設けたものである。なお、図12に示すセンサ素子101Eにおいては、図3に示すセンサ素子101Cに比してヒータ81の存在範囲が短くなってはいるが、検知セルCsが図面視でヒータ81の上方に配置されている点ではセンサ素子101Cと同様である。これはすなわち、図12に示すセンサ素子101Eの場合も、ガス導入部40における被測定ガスに対する拡散抵抗を高めることによって、検知セルCsが当該位置において第1の加熱温度のもとで動作可能となる程度に第2の加熱温度が低められている、ことを意味する。
また、図13に示すガスセンサ100(100F)においては、図11および図12に示すガスセンサ100(100Dおよび100E)のセンサ素子101(101Dおよび101E)と同様に、センサ素子101(101F)が基準ガス導入層31を有しかつ基準電極20が基準ガス導入層31に設けられてなることに加えて、第4固体電解質層4と第6固体電解質層6の間に、内部空所50とは別個の空所である第2内部空所55が設けられている。第2内部空所55は、第6固体電解質層6を貫通するガス導入孔45を介して外部空間と連通している。さらに、ガスセンサ100Fにおいては、検知電極10が表面Saではなく第2内部空所55内に配置されている。
係る構成を有するガスセンサ100Fにおいては、ガス導入孔45を通じて第2内部空所55に導入された被測定ガスを対象に、被検ガス成分の濃度が求められることになる。
センサ素子101Dないし101Fも、センサ素子101Aないし101Cと同様、セル間距離Lが第2の加熱温度と第1の加熱温度の温度差に見合うように両セルが配置されることで、一のヒータ81を用いつつも、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱される一方で検知セルCsが第2の加熱温度も低い第1の加熱温度に加熱されるように構成されている。よって、図11ないし図13に示すガスセンサ100Dないし100Fの場合も、図1ないし図3に示すガスセンサ100Aないし100Cと同様、検知セルCsにおけるセンサ出力EMFが酸素ポンプセルCpにおける酸素ポンプ電流Ipに基づいて補正することにより、被測定ガスの酸素濃度に変動が生じる場合であっても、被測定ガス中の被検ガス成分の濃度を精度よく求めることが可能となっている。
上述の実施の形態においては、ヒータ81の素子長手方向における配置範囲が、少なくとも酸素ポンプセルCpの素子長手方向における存在範囲を含む構成を対象に、説明を行っているが、ヒータ81と酸素ポンプセルCpとの配置関係が当該構成と異なる場合であっても、検知セルCsが第1の加熱温度に加熱され、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱されるようにセンサ素子101が構成されていれば、ガスセンサ100は良好に動作することが可能である。
上述の実施の形態においては、長尺の板状もしくは棒状のセンサ素子101においてヒータ81が素子長手方向に延在し、ヒータ81と酸素ポンプセルCpとが素子厚み方向において積層されており、酸素ポンプセルCpと検知セルCsとが素子長手方向に離隔して配置されていたが、ヒータ81、酸素ポンプセルCp、および検知セルCsの配置関係はこれに限られるものではない。ヒータ81による加熱によって、検知セルCsが第1の加熱温度に加熱され、酸素ポンプセルCpが第2の加熱温度に加熱されるのであれば、検知セルCsについても素子厚み方向に積層させて配置されてもよい。