以下、実施形態に係る鞍乗型車両及びヨー方向振動抑制装置について説明する。以下の実施形態では、鞍乗型車両が自動二輪車である例で説明する。しかしながら、本ヨー方向振動抑制装置を適用可能な鞍乗型車両として、自動二輪車の他、自動三輪車等が考えられる。
図1は自動二輪車10の全体構成を示す側面図である。
自動二輪車10は、車体フレーム11と、前輪20と、後輪22と、ハンドル装置38と、エンジン24とを備える。なお、以下の説明において、上下、前後及び左右について言及する場合、各方向は、次のように定義される。まず、自動二輪車10の前輪20及び後輪22が路面に接地する側が下であり、その反対側が上である。また、自動二輪車10が走行する際の走行方向が前であり、その反対側が後ろである。さらに、ユーザが運転者として自動二輪車10に搭乗した状態で、当該ユーザを基準とする左右が自動二輪車10の左右である。
車体フレーム11は、ヘッドパイプ12と、メインフレーム13と、後部フレーム14とを備える。
ヘッドパイプ12は、自動二輪車10の前側に設けられている。メインフレーム13は、ヘッドパイプ12から左右に分れつつ後方に延在している。後部フレーム14は、メインフレーム13の後端部から後方に延在している。
ヘッドパイプ12には、ステアリングシャフト16が回転可能に挿通されている。ステアリングシャフト16には、アッパーブラケットとアンダーブラケット(共に図示省略)とが支持されている。アッパーブラケットとアンダーブラケットとによって、フロントフォーク17が下方に向けて延在するように支持されている。フロントフォーク17は、伸縮可能に構成されており、路面から車両への衝撃や、加減速による荷重変化を受止める。
フロントフォーク17の下端にアクスルシャフト30を介して、フロントホイール部20aが回転可能に支持されている。フロントタイヤ20bがフロントホイール部20aに装着されている。前輪20は、フロントホイール部20aにフロントタイヤ20bが外嵌めされた構成とされている。
フロントホイール部20aには、ブレーキディスクが装着されており、フロントフォーク17の下端には、ブレーキキャリパとブレーキパッドとが支持されている。ブレーキキャリパとブレーキパッドとによってブレーキディスクを挟持し、これにより、制動力を発生させる。
ハンドル装置38がアッパーブラケット又はフロントフォーク17に備付けられている。このハンドル装置38を操作することで、ステアリングシャフト16、アッパーブラケット、アンダーブラケット及びフロントフォーク17が回転し、これと共に、上記前輪20も回転する。
メインフレーム13の下側には、エンジン24等が搭載されており、メインフレーム13の上側には燃料タンク28等が搭載されている。
一対の後部フレーム14が、メインフレーム13の両側部から斜め上後方に向けて延在している。一対の後部フレーム14は、金属パイプ等の金属製長尺部材によって形成されている。一対の後部フレーム14は、車幅方向に沿う連結部材によって連結されている。一対の後部フレーム14の上側には、運転者が着座するシート29aが設けられ、その後側に同乗者が着座するタンデムシート29bが設けられている。一対の後部フレーム14には、タンデムステップ27が取付けられている。一対の後部フレーム14の間には、バッテリ、電子制御ユニット等が組込まれている。一対の後部フレーム14の後部には、ブレーキランプ等が組込まれる。
メインフレーム13の後部に、スイングアーム15が後下方に向けて延在するように取付けられている。スイングアーム15は、その後端を上下に変位させるようにメインフレーム13に対して揺動可能に支持されている。このスイングアーム15の後端部にアクスルシャフト40を介してリアホイール部22aが回転可能に支持されている。リアタイヤ22bがリアホイール部22aに装着されている。後輪22は、リアホイール部22aにリアタイヤ22bが外嵌めされた構成とされている。
リアホイール部22aには、ブレーキディスクが装着されており、スイングアーム15後端には、ブレーキキャリパとブレーキパッドとが支持されている。ブレーキキャリパとブレーキパッドとによってブレーキディスクを挟持し、これにより、制動力を発生させる。
本自動二輪車10では、ヘッドパイプ12の前方及びメインフレーム13の両側を覆うようにカウル32が設けられている。カウル32は省略されてもよい。
車体10Bは、上記車体フレーム11、ステアリングシャフト16、アッパーブラケット、アンダーブラケット、フロントフォーク17、スイングアーム15等を備えており、上記したように、この車体10Bに、前輪20及び後輪22が回転可能に支持されている。
この自動二輪車10に、ヨー方向振動抑制装置160が組込まれている。ここで、自動二輪車10におけるヨー方向振動は、車体10Bの上下方向のヨー軸A周りの振動をいい、車体10Bのヨー軸Aは、車体10Bの前後方向における重心及び幅方向における重心を通過する軸として捉えることができる。ヨー方向振動抑制装置160は、自動二輪車10におけるヨー方向振動を抑制する装置である。
ヨー方向振動抑制装置160は、車体10Bのヨー軸Aに対して車体10Bの前後方向に沿って離れた位置に設けられている。本実施形態では、ヨー方向振動抑制装置160は、後輪22を回転可能に支持するアクスルシャフト40内に組込まれている。このため、ヨー方向振動抑制装置160は、車体10Bのヨー軸Aに対して車体10Bの前後方向に沿って離れた位置に設けられている。ここでは、ヨー方向振動抑制装置160は、アクスルシャフト40内に収納された形態で組込まれているが、ヨー方向振動抑制装置自体がアクスルシャフトとして用いられてもよい。
図2はヨー方向振動抑制装置160を示す断面図である。
ヨー方向振動抑制装置160は、質量体162と、支持部170と、付勢部180とを備える。
質量体162は、質量を有する物体である。ここでは、質量体162は、質量体本体部163と、摺動部164とを含む。他の例として、質量体は、単一の部材によって形成されていてもよい。
質量体本体部163は、円柱状に形成されており、質量体162の質量の大部分を占める部分である。質量体本体部163は、金属等、なるべく単位体積あたりの質量が大きい物質で構成されることが好ましい。例えば、質量体本体部163の比重は、支持部170の比重よりも大きいことが好ましい。これにより、自動二輪車等において搭載スペースが制約される状況下において、少ないスペースを利用して振動吸収性能を確保することができる。他の例として、質量体本体部は、球体、多角柱形状等であってもよい。質量体本体部163には、質量体162の移動方向に沿って延在する貫通孔163hが形成されている。貫通孔163hは、横断面(軸方向に対して直交する断面)が円形状を示す孔形状に形成されている。
摺動部164は、上記質量体本体部163に設けられている。ここでは、摺動部164は、貫通孔163hの内周部、より具体的には、貫通孔163hの両端部の内周部全周に設けられている。摺動部164の内周部は、貫通孔163hの内周部よりも内周側に(僅かに)突出している。後述するガイドシャフト部176が貫通孔163h内に配設された状態では、摺動部164がガイドシャフト部176の外周面に接触する。この摺動部164のガイドシャフト部176に対する動摩擦係数及び静止摩擦係数(以下、単に摩擦係数という)は、当該ガイドシャフト部176に対する質量体本体部163の摩擦係数よりも小さい。例えば、摺動部164は、金属等の剛体の表面にフッ側樹脂等の滑りやすいコーティング層を形成した部材(例えば、スライドメタルとして用いられる部材)、又は、自身がガイドシャフト部176に対して低摩擦係数である材料で形成された部材である。そして、摺動部164をガイドシャフト部176に接触させた状態で、質量体本体部163が移動経路に沿って往復移動できる。質量体162の質量をなるべく大ききするため、質量体本体部163の貫通孔163hの内径寸法は、上記移動を妨げない範囲で、ガイドシャフト部176の外径寸法と一致していることが好ましい。
支持部170は、ヨー軸Aに対して車体10Bの前後方向に沿って離れた位置で、車体10Bの幅方向に沿った移動経路に沿って往復移動可能に支持する。ここでは、支持部170は、両端が閉じられた筒形状、より具体的には、両端が閉じられた円筒形状に形成されている。質量体162は、支持部170内に配設され、質量体162の長方向に沿って移動可能に支持される。質量体162は、支持部170の内周面によって定義される円柱状の内部空間内で移動可能に支持されるため、質量体162の移動経路は、支持部170の内部空間の軸方向に沿った経路である。
より具体的には、支持部170は、支持本体部171と、ガイド部付蓋部174とを備える。
支持本体部171は、一端が開口し他端が閉じられた筒状、ここでは、円筒状に形成されている。支持本体部171の他端部の底の内側には、ガイドシャフト部176の先端部を受け入れる受凹部171gが形成されている。
支持本体部171の一端部の外周部には、ネジ部172aが形成されると共に、ネジ部172aの内側部分に外周側に向けて張り出すナット座部172bが形成されている。支持本体部171の他端部の外周部には、ネジ部173が形成されている。この支持本体部171の他端部がネジ部173の内部にはその端部から内側に凹む凹部が形成されている。これらのネジ部172a、173を利用して、支持本体部171の両端部が一対のスイングアーム15の後端部に固定される。この状態で、支持本体部171の中間部に、後輪22が回転可能に支持される。別例として、支持本体部のうち閉じられた側の端部にネジ部及びナット座部が形成され、開口する側の端部にネジ部が形成されていてもよい。また、支持部の両端側が開口しており、それぞれ別の蓋によって閉じられる構成であってもよい。
ガイド部付蓋部174は、蓋部175と、ガイド部としてのガイドシャフト部176とを備える。
蓋部175は、支持本体部171の一端側開口を閉じることが可能な形状、ここでは、短円柱状に形成されている。
ガイドシャフト部176は、蓋部175の一端部(支持本体部171の内側に向く端部)から延出する棒状部分であり、上記質量体162の貫通孔163hを貫通して、一対のコイルバネ181、182内に挿入可能に構成されている。ここでは、ガイドシャフト部176は、丸棒状に形成されている。ガイドシャフト部176の長さ寸法は、支持本体部171の中心を通り、その底側の受凹部171gに達することが可能な大きさに設定されている。ガイドシャフト部176は、質量体162を移動経路に沿って移動可能に支持する構成要素の一例である。
そして、ガイドシャフト部176を支持本体部171内に挿入すると共に、蓋部175を支持本体部171の一端側開口内に挿入するように、ガイド部付蓋部174を支持本体部171に組み込むと、蓋部175が支持本体部171の一端側開口を閉じる。また、ガイドシャフト部176が蓋部175から質量体162の貫通孔163hを貫通して、受凹部171gに達する。ガイドシャフト部176の基端部は、蓋部175によって支持本体部171の中心軸上で支持され、ガイドシャフト部176の先端部は、上記受凹部171gに嵌め込まれることによって、支持本体部171の中心軸上で支持される。ガイドシャフト部176が支持本体部171に嵌め込まれた状態で、支持本体部171の一端側開口部に止め輪部材179が内嵌めされ、これにより、ガイドシャフト部176の抜け止がなされる。
ここでは、ガイドシャフト部176は、上記蓋部175と一体形成された部材であるが、別例として、ガイドシャフト部と蓋部とは別々に形成されていてもよい。この場合、ガイドシャフト部の端部を、蓋部に嵌込固定する構成とするとよい。
なお、上記支持部170内には、気体が存在しており、オイル等の液体は封入されていない。本ヨー方向振動抑制装置160では、ヨー方向振動による変位に対する付勢部180の反力が質量体162に伝達されることによって、ヨー方向振動が抑制される。このため、支持部170に対する質量体162の変位の速度を減衰させるオイルは必要ないからである。
支持部170が、アクスルシャフト40として用いられる場合、支持部170は、後輪22を支持可能な程度の強度を保つべく、金属筒により形成される。その他、樹脂等によって形成されていてもよい。
他の例として、支持部が、ガイドレールであり、質量体が、当該ガイドレールに沿って移動可能なガイド溝が形成された構成であってもよい。この場合、ガイド溝内にガイドレールが嵌め込まれた状態で、質量体がガイドレールに沿って往復移動可能に支持される。また、支持部が、長尺棒状部材であり、質量体が、当該長尺棒状部材を挿通可能なガイド孔が形成された構成であってもよい。この場合、長尺棒状部材がガイド孔に挿通された状態で、質量体が長尺棒状部材に沿って移動可能に支持される。
付勢部180は、質量体162を支持部170内における質量体162の移動経路の中間位置に向けて付勢する。付勢部180は、ここでは、2つのコイルバネ181,182を含む。2つのコイルバネ181,182は、支持部170の内部空間において移動経路に沿って質量体162の両側に設けられている。より具体的には、一方のコイルバネ181は、支持部170内において当該支持部170の一端部の蓋部175と質量体162の一端部との間に圧縮状態で設けられている。ここでは、他方のコイルバネ182は、支持部170内において当該支持部170の他端部の底と質量体162の他端部との間に圧縮状態で設けられている。そして、2つのコイルバネ181,182が元の長さに伸長しようとする付勢力によって、質量体162がその移動経路の中間位置に向けて付勢されている。ここでは、2つのコイルバネ181、182は、同じ性能のバネであり、質量体162は、その最大可動範囲(後述する)の中央位置に向けて付勢される。この状態で、ガイドシャフト部176は、質量体162の両端の外方位置で、一対のコイルバネ181、182内に配置された状態となる。
ここで、支持部170の内部空間の長さ寸法をL1、2つのコイルバネ181、182の許容荷重長さをL2とする。許容荷重長さは、コイルバネ181、182が繰返し荷重に耐え得る荷重が加わったときのコイルバネ181、182の長さであり、コイルバネ181、182の性質によっては密着長さであることもあり得る。この場合、質量体162の最大可動範囲の長さL3は、L1からL2を減じた大きさとなる。
コイルバネ181,182の自然長は、支持部170の内部空間の長さ寸法L1から、許容荷重長さL2と、移動経路に沿った質量体162の長さ寸法L4を減じた値よりも大きいことが好ましい。これにより、質量体162が最大可動範囲において最も端に移動した状態で、コイルバネ181,182の端部を支持部170の端部及び質量体162に固定しなくても、コイルバネ181,182から質量体162から離れた状態とならないようにすることができる。
また、本支持部170の内部空間の内周面、質量体162の外周面、一対のコイルバネ181、182の外周面は、質量体162の移動経路に対して直交する横断面において、円形状を呈している。質量体162の外周面の外径R1は、当該質量体162が支持部170の内部空間内を移動できる程度で、当該内部空間の内周面の内径R2と一致している。つまり、ここでの質量体162の外周面の外径R1と内部空間の内周面の内径R2とが一致する場合には、支持本体部171の内部空間の内周面と質量体162の外周面とが密着せず、質量体162が支持部170に対して移動し得る僅かな隙間に応じた寸法差が生じている場合を含む。これにより、質量体162の体積をなるべく大きくして、その質量を大きくできる。質量体162の質量を大きくさせれば、振動吸収性を高めることが可能となる。
また、一対のコイルバネ181、182の外周面の外径R3は、当該内部空間内で伸縮できる程度で、当該内部空間の内周面の内径R2と一致している。ここで、コイルバネ181、182は、支持部170の内部空間内で自由に伸縮でき、かつ、縮むと僅かに拡径する。このため、一対のコイルバネ181、182の外周面の外径R3と内部空間の内周面の内径R2とが一致する場合には、コイルバネ181、182が内部空間内で縮んで僅かに拡径した状態で、支持本体部171の内部空間の内周面とが密着せず、自由に伸縮し得る僅かな隙間に応じた寸法差が生じている場合を含む。バネ定数は、コイルバネ181、182のコイル径及び巻き数が大きくなると小さくなるところ、所望のバネ定数を得ようとする場合に、コイル径を大きくできれば、その分、巻き数を小さくすることができる。結果、コイルバネ181、182の密着長さを短くできる。そして、コイルバネ181、182の密着長さを短くできれば、質量体162が動ける範囲を大きくできる。
図3は、ヨー方向振動抑制装置160の組立例を示す説明図である。同図に示すように、ガイド部付蓋部174のガイドシャフト部176にコイルバネ181及び質量体162を外嵌めした状態で、質量体162及び一方のコイルバネ181を、ガイドシャフト部176と共に、支持本体部171内に挿入することができる。この際、他方のコイルバネ182は、支持本体部171内に挿入されていてもよいし、ガイドシャフト部176の端部に外嵌めされていてもよい。これにより、質量体162及びコイルバネ181を同一直線上に揃えた状態で、支持本体部171内に容易に挿入することができる。また、コイルバネ181をガイドシャフト部176によって、支持本体部171の延長上で案内した状態で、蓋部175を支持本体部171の一端側の開口内に嵌め込むことができるため、当該蓋部175の嵌込作業も容易となる。ガイド部付蓋部174を嵌め込んだ後、支持本体部171の一端側の開口内に止め輪部材179が内嵌め固定される。
自動二輪車10の走行中においてヨー方向振動抑制装置160は次のように動作する。
自動二輪車10の走行中において、ヨー軸A周りの振動f1が生じたとする。この振動f1が生じたとする。すると、質量体162は、振動f1による加振力を受けて、上記移動経路に沿って移動する。質量体162は、付勢部180によって移動経路の中間位置に向けて付勢されているため、質量体162は、当該中間位置を中心として振動する。この質量体162の振動f2は、ヨー軸A周りの振動f1を打消すような動きとなり、ヨー方向振動に対する反力を発生させる。これにより、自動二輪車10の走行中におけるヨー方向の振動が抑制される。
一般的には、上記質量体162の質量を大きくすれば、ヨー軸A周りの振動f1を抑制する効果は高くなる。しかしながら、ヨー方向振動抑制装置160は、自動二輪車10に組付けられるものであるため、スペース上、質量上の制約があり、質量体162の質量を大きくするのにも限界がある。そこで、ヨー軸A周りの振動f1の抑制効果を高めるための構成について検討したところ、下記のように設定すればよいことが判明した。
車体にヨー方向振動抑制装置160を組付けた場合における振動抑制原理モデルにおいて、一般的な自動二輪車10の車体10Bの性能、搭載可能な質量体162の質量等を仮定して、付勢部180のバネ定数kと、車体10Bの車体振幅との関係を検討すると、バネ定数kが大きくなれば、車体振幅は大きくなることが判明した。このため、付勢部180としては、ある程度小さいバネ定数kのものを用いることが好ましい。
また、上記モデルにおいて、バネ定数kと質量体162の動作距離(質量体162の振幅の2倍)との関係を検討すると、バネ定数kが小さくなれば、質量体162の動作距離は大きくなることが判明した。
これらの検討結果から、質量体162の質量を大きくすることに制約がある条件下では、バネ定数kを小さくして、質量体162の動作距離を大きくすることが有効であることがわかる。質量体162の動作距離は、質量体162の最大可動範囲の長さL3から質量体162の長さ寸法L4を減じた長さであるところ、当該長さをなるべく大きくすることが好ましく、例えば、当該長さを、質量体162の長さ寸法L4よりも大きくするとよい。これにより、質量体162を十分に大きな動作距離で振動させることができ、ヨー方向の振動を効果的に抑制することができる。
また、上記付勢部180は、車体10Bのヨー方向振動による車幅方向の加速度に対して、質量体162が上記最大可動範囲の内側で移動するように、質量体162を移動経路の中間位置に向けて付勢する。上記したように付勢部180が2つのコイルバネ181、182を含む構成でいうと、車体10Bのヨー方向振動による車幅方向の加速度によって質量体162が移動したとしても、2つのコイルバネ181、182が許容荷重長さ以上で伸縮する範囲となるように、2つのコイルバネ181、182のバネ定数kが設定されている。なお、車体10Bのヨー方向振動による車幅方向の加速度は、車体10Bの質量、構造等に応じて決まり、実験的、推論的に求められる。そして、当該加速度に対して、動作距離を考慮しながら付勢部180のバネ定数k等を設定することで、上記関係を満たすことができる。これにより、車体10Bのヨー方向振動によって、車体10Bの車幅方向に振動が加わった場合でも、質量体162が最大可動範囲の内側で振動することができ、車体10Bのヨー方向振動を効果的に抑制できる。
また、質量体162の移動経路に沿った固有振動数は、車体10Bのヨー方向振動によって発生する振動数範囲内に設定されている。車体10Bのヨー方向振動によって発生する振動数は、車体10Bの質量、構造等によって決まり、実験的、推論的に求められる。ヨー方向振動抑制装置160における質量体162の固有振動数は、質量体162の質量、付勢部180のバネ定数kを調整することで設定することができる。質量体162の固有振動数を、車体10Bのヨー方向振動の振動数範囲内に設定することで、車体10Bのヨー方向振動を効果的に抑制できる。
図4は、ヨー方向振動抑制装置260の他の一例を示す断面図である。
このヨー方向振動抑制装置260が上記ヨー方向振動抑制装置160と異なるのは、次の点である。
まず、質量体162に対応する質量体262は、質量体本体部263と、摺動部264とを備える。
質量体本体部263は、上記質量体162と対応する構成において、貫通孔163hが省略された構成とされている。このため、質量体262の質量をなるべく大きくできる。
また、摺動部264は、上記質量体本体部263に設けられている。ここでは、摺動部264は、質量体本体部263の外周部、より具体的には、外周部の両端部の内周部全周に設けられている。摺動部264の外周部は、質量体本体部263の外周部よりも外周側に(僅かに)突出している。この摺動部264の支持本体部271の内周面に対する摩擦係数は、当該支持本体部271に対する質量体本体部263の摩擦係数よりも小さい。例えば、摺動部264は、金属等の剛体の表面にフッ側樹脂等の滑りやすいコーティング層を形成した部材(例えば、スライドメタルとして用いられる部材)、又は、自身が支持本体部271の内周面に対して低摩擦係数である材料で形成された部材である。そして、摺動部264を支持本体部271の内周面に接触させた状態で、質量体本体部263が移動経路に沿って往復移動できる。
この質量体本体部263の両端部には、外方に突出してコイルバネ181、182内に配置されるガイド部266が突起状に設けられている。ガイド部266は、コイルバネ181、182のうち質量体262側の端部内に配置される程度の突出寸法に設定されている。
支持部170に対応する支持部270は、支持本体部271と、ガイド部付蓋部274とを備える。
支持本体部271が支持本体部171と異なるのは、底部において受凹部171gが形成される代わりに、開口部271hが形成されている点である。この開口部271hにより、支持本体部271内に空気が容易に出入りでき、質量体262が円滑に移動できる。
ガイド部付蓋部274は、上記蓋部175と同様構成の蓋部275と、ガイド部276とを備える。上記ガイド部付蓋部174と異なるのは、ガイド部としてガイドシャフト部176ではなく、コイルバネ181の外側端部内に配置される程度に短いガイド部276が突起状に設けられている点である。
図5は上記ヨー方向振動抑制装置260の組立例を示す説明図である。同図に示すように、質量体262の両端部のガイド部266にコイルバネ181、182の質量体262側の端部を配置すると共に、ガイド部付蓋部274のガイド部276にコイルバネ181の外側端部を配置し、コイルバネ181、質量体262及びコイルバネ182を一直線状に揃えた状態で、質量体262、コイルバネ181、及びガイド部付蓋部274を、支持本体部271内に嵌め込む作業を行えるため、それらの嵌込作業を容易に挿入することができる。
以上のように構成された自動二輪車10及びヨー方向振動抑制装置160、260によると、車体10Bがヨー方向に振動すると、そのヨー方向の振動に応じて質量体162、262が振動し、もって、車体10Bのヨー方向の振動を吸収して抑制することができる。
特に、質量体162、262の移動経路に沿った質量体162、262の最大可動範囲の長さL3から質量体262の長さL4を減じた長さが、質量体162、262の長さよりも大きいため、質量体162、262を大きく移動させて、車体10Bのヨー方向の吸収でき、当該車体10Bのヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
また、車体10Bのヨー方向振動による車両の幅方向の加速度に対して、質量体162、262がその最大可動範囲の内側で移動するように、付勢部180が質量体162、262を移動経路の中間位置に向けて付勢するため、質量体162、262の移動が最大可動範囲の端で停止されることなく振動でき、車体10Bのヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
また、質量体162、262の移動経路に沿った固有振動数が、車体10Bのヨー方向振動によって発生する振動数範囲内に設定されているため、車体10Bのヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
また、ヨー方向振動抑制装置160、260が後輪22のアクスルシャフト40内に組み込まれているため、車体10Bのヨー方向の振動が駆動輪である後輪側で発生した場合に、車体10Bのヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
また、付勢部180は、支持本体部171、271の内部空間において移動経路に沿って質量体162、262の両側に設けられる一対のコイルバネ181、182を含むため、質量体162、262を左右ほぼ均等な力で付勢しつつ振動を吸収できる。
また、質量体162、262の外径R1を、上記内部空間内を移動できる程度で、内部空間の内周面の内径R2と一致させることで、質量体162、262の体積をなるべく大きくして質量を大きくできる。これにより、振動吸収性を高めることができる。
また、一対のコイルバネ181、182の外周面の外径R3を、内部空間内で伸縮できる程度で、内部空間内の内周面の内径R2と一致させることで、コイルバネ181、182の外径R3を大きくすることができる。これにより、コイルバネ181、182の巻き数を小さくしつつ所望の弾性を得ることが可能となり、コイルバネ181、182の密着長さを短くでき、結果、質量体162、262が動ける範囲を大きくでき、より振動吸収性を高めることができる。
また、一対のコイルバネ181、182の自然長は長く、これを押し縮めて支持本体部171、271内に配設する必要があるところ、質量体162の両端の外方位置で、一対のコイルバネ181、182内に配置されるガイド部として、ガイドシャフト部176(図2に示す場合)又はガイド部266(図4に示す場合)が設けられているため、質量体162の両端部から一対のコイルバネ181、182がその軸方向外周側にずれ難い。このため、一対のコイルバネ181、182を支持本体部171、271の内部空間内に配設することができる。
また、質量体162が支持部170内で移動する際にも、ガイドシャフト部176が質量体162を直線状にガイドするため、質量体162が振れずに円滑に往復移動することができる。
また、ガイドシャフト部176は、質量体162の貫通孔163hを貫通すると共に、一対のコイルバネ181、182内に配設されるため、例えば、ガイドシャフト部176を、一方のコイルバネ181に通し、質量体162の貫通孔163hに通し、さらに必要に応じて、他方のコイルバネ182に通して、これらを直線上に並べた状態で、それらを支持本体部171の内部空間内に配設する作業を実施でき、当該作業を容易に実施できる。
また、質量体262の両端部にガイド部266が設けられ、蓋部275にもガイド部276が設けられているため、質量体262に貫通孔を形成しない構成(図4参照)においても、コイルバネ181、182が軸方向外側にズレないようにでき、一対のコイルバネ181、182を支持本体部271の内部空間内に容易に配設できる。また、質量体262に貫通孔163hを設けずにすむ分、質量体262の質量を大きくでき、振動吸収性を良好にできる。
また、摩擦係数の小さい摺動部164、264を支持部170、270に接触させた状態で、質量体162、262が往復移動するため、質量体162、262が円滑に移動できる。また、狙った固有振動数で、質量体162、262を振動させ易い。
上記実施形態では、質量体162、262が移動する際、その両側の空間の空気は、質量体162、262と支持部170、270との隙間、質量体162とガイドシャフト部176との隙間等を通って行き来する。当該空気の通過を円滑にするため、質量体162、262の外周部又は内部、支持部170、270の内周面、ガイドシャフト部176の外周面等に質量体162、262の移動方向に沿った溝又は孔を形成してもよい。また、支持部170、270に、その内部空間と外部とを連通させる孔を形成してもよい。
本実施形態では、ヨー方向振動抑制装置160が後輪22を支持するアクスルシャフト40内に組込まれているが、前輪20を支持するアクスルシャフト30内に組込まれていてもよい。また、ヨー方向振動抑制装置160は、後部フレーム14、自動二輪車10の他の部位に組込まれていてもよい。例えば、一対の後部フレーム14を連結する車幅方向に沿う連結部材、シート29aの下部等にヨー方向振動抑制装置160が組込まれていてもよい。自動二輪車10のロール運動を抑制しないようにするためには、ヨー方向振動抑制装置160は自動二輪車10のロール軸近くに設けられていることが好ましく。この点からは、ヨー方向振動抑制装置160は、アクスルシャフト30、40内に組込まれていることが好ましい。これにより、操縦性を良好に保つことができる。なお、車体前後方向のロール軸周りに回転する動きがロール(バンク)運動である。
上記実施形態では、付勢部が2つのコイルバネを含む例で説明したが、付勢部は、質量体の一方側にのみ設けられたコイルバネであってもよい。この場合、コイルバネの一端部を支持部の一端部に固定し、他端部を質量体に固定すれば、1つのコイルバネで質量体を移動経路の中間位置に向けて付勢できる。
また、付勢部としては、細長いゴム等が用いられてもよい。
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
以上のように、本明細書は、下記の各態様に係る発明を含んでいる。
第1の態様は、車体に前輪及び後輪が支持された鞍乗型車両であって、質量体と、前記質量体を、前記車体のヨー方向振動のヨー軸に対して前記車体の前後方向に沿って離れた位置で、前記車体の幅方向に沿った移動経路に沿って往復移動可能に支持する支持部と、前記質量体を前記移動経路の中間位置に向けて付勢する付勢部と、を含むヨー方向振動抑制装置を備えるものである。
これにより、鞍乗型車両の車体がヨー方向に振動すると、車体のヨー方向の振動に応じて質量体が振動し、もって、車体のヨー方向の振動を吸収して抑制することができる。
第2の態様は、第1の態様に係る鞍乗型車両であって、前記移動経路に沿った前記質量体の最大可動範囲の長さから前記移動経路に沿った前記質量体の長さを減じた長さが、前記移動経路に沿った前記質量体の長さよりも大きいものである。
これにより、質量体が大きく移動して車体のヨー方向の振動を吸収できるため、車体のヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る鞍乗型車両であって、前記車体のヨー方向振動による車両の幅方向の加速度に対して、前記質量体がその最大可動範囲の内側で移動するように、前記付勢部が前記質量体を前記移動経路の中間位置に向けて付勢するものである。
これにより、車体のヨー方向の振動によって、車体の幅方向に加速度が加わった場合でも、前記質量体がその最大可動範囲の内側に位置するように、前記付勢部が前記質量体を前記移動経路の中間位置に向けて付勢することで、質量体の移動が停止されることなく振動でき、車体のヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
第4の態様は、第1から第3のいずれか1つの態様に係る鞍乗型車両であって、前記質量体の前記移動経路に沿った固有振動数が、前記車体のヨー方向振動によって発生する振動数範囲内に設定されているものである。
これにより、車体のヨー方向振動を効果的に抑制できる。
第5の態様は、第1から第4のいずれか1つの態様に係る鞍乗型車両であって、前記ヨー方向振動抑制装置が後輪のアクスルシャフト内に組込まれているものである。
これにより、車体のヨー方向の振動が、駆動輪側で発生した場合、駆動輪である後輪のアクスルシャフトにヨー方向振動抑制装置が組込まれていると、車体のヨー方向の振動を効果的に抑制できる。
第6の態様は、第1から第5のいずれか1つの態様に係る鞍乗型車両であって、前記支持部は、前記質量体を前記移動経路に沿って移動可能に支持する内部空間を有する支持本体部を含み、前記付勢部は、前記内部空間において前記移動経路に沿って前記質量体の両側に設けられる一対のコイルバネを含むものである。
これにより、質量体の両側の一対のコイルバネによって、質量体を左右ほぼ均等な力で付勢しつつ振動を吸収できる。
第7の態様は、第6の態様に係る鞍乗型車両であって、前記内部空間の内周面、前記質量体の外周面、及び前記一対のコイルバネの外周面は、横断面において円形状を呈する形状に形成され、前記質量体の外周面の外径は、前記内部空間内を移動できる程度で、前記内部空間の内周面の内径と一致し、前記一対のコイルバネの外周面の外径は、前記内部空間内で伸縮できる程度で、前記内部空間の内周面の内径と一致しているものである。
これにより、前記質量体の外周面の外径は、前記内部空間内を移動できる程度で、前記内部空間の内周面と一致しているため、質量体の体積をなるべく大きくして、振動吸収性を高めることができる。また、前記一対のコイルバネの外周面の外径は、前記内部空間内で伸縮できる程度で、前記内部空間の内周面と一致しているため、コイルバネの外径を大きくすることができる。これにより、コイルバネの巻き数を少なくしつつ所望の弾性を得ることが可能となり、コイルバネの密着長さを短くできる。結果、質量体が動ける範囲を大きくできる。
第8の態様は、第6又は第7の態様に係る鞍乗型車両であって、前記質量体の両端の外方位置で、前記一対のコイルバネ内に配置されるガイド部が設けられたものである。
第9の態様は、第8の態様に係る鞍乗型車両であって、前記質量体に、前記移動経路に沿って貫通する貫通孔が形成され、前記ガイド部は、前記貫通孔を貫通すると共に、前記一対のコイルバネ内に挿入されるガイドシャフトとされたものである。
これにより、質量体及び一対のコイルバネと別体とされたガイドシャフトが貫通孔を貫通すると共に、一対のコイルバネ内に挿入されるため、例えば、ガイドシャフトを、一方のコイルバネに通し、質量体の貫通孔に通し、さらに、必要に応じて、他方のコイルバネに通して、これらを直線状に並べた状態で内部空間内に配設する作業を実施でき、当該作業を容易に実施できる。
第10の態様に係るヨー方向振動抑制装置は、質量体と、前記質量体を、鞍乗型車両の車体のヨー方向振動のヨー軸に対して車体の前後方向に沿って離れた位置で、車体の幅方向に沿った移動経路に沿って往復移動可能に支持可能な支持部と、前記質量体を前記移動経路の中間位置に向けて付勢する付勢部と、を備え、前記移動経路に沿った前記質量体の最大可動範囲の長さから前記移動経路に沿った前記質量体の長さを減じた長さが、前記移動経路に沿った前記質量体の長さよりも大きいものである。