(第1実施形態)
本発明の第1実施形態として、車両Aへアクチュエータ4を適用した場合の構成を図1に示す。図1に示す車両Aは、動力源であるエンジン(ENG)1と、トランスミッション(T/M)2と、トランスファ(T/F)3と、アクチュエータ(ACT)4と、制御装置5と、Frプロペラシャフト6と、Frディファレンシャル機構(Frデフ)7と、右Frドライブシャフト8と、左Frドライブシャフト9と、前輪10と、Rrプロペラシャフト11と、Rrディファレンシャル機構(Rrデフ)12と、Rrドライブシャフト13と、後輪14とを備えている。
なお、トランスファ3にはアクチュエータ4がボルト締結にて取り付けられる。また、トランスファ3の内部には、トランスミッション2に接続される駆動軸(不図示)と、Frプロペラシャフト6に接続される従動軸(不図示)と、駆動軸と従動軸とを回転同期させるコーンシンクロ機構を備えた回転同期装置(不図示)と、アクチュエータ4により軸方向に進行あるいは退行し、さらに駆動軸と従動軸とをスプライン締結にて断接するスリーブ(不図示)とを備えたドグクラッチ機構とが設けられている。
車両Aでは、二輪駆動モードで走行中において、エンジン1で発生した駆動力は、トランスミッション2で増幅あるいは減衰され、トランスファ3を介してRrプロペラシャフト11を通じてRrディファレンシャル機構12へ伝達される。その伝達された駆動力は、Rrディファレンシャル機構12から左右のRrドライブシャフト13へ分配され、左右の後輪14へ伝達される。
車両Aが二輪駆動モードで走行中において、運転手のスイッチ操作等により制御装置5にて四輪駆動モードが選択されると、アクチュエータ4が通電されてトランスファ3内部のスリーブを進行させる。スリーブはコーンシンクロ機構を押圧して回転同期装置を作動させ、駆動軸と従動軸とを回転同期させた後に連結する。これにより、トランスファ3はRrプロペラシャフト11に加えてFrプロペラシャフト6にも駆動力を分配可能となる。そして、Frプロペラシャフト6へ分配された駆動力は、Frディファレンシャル機構7を介し、右Frドライブシャフト8と、左Frドライブシャフト9とへ分配され、左右の前輪11へ伝達される。
さらに、運転手のスイッチ操作等により制御装置5にて前述の四輪駆動モードを終了し、二輪駆動モードが選択されると、アクチュエータ4が通電されて、トランスファ3内部のスリーブを退行させる。そして駆動軸と従動軸との連結が解除され、トランスファ3はRrプロペラシャフト11にのみ駆動力を伝達する。
次に、本発明のアクチュエータ4の構成について図2を参照して説明する。図2に示すように、アクチュエータ4のハウジング40aは有底形状を呈しており、モータ41を支持し、減速軸42及び減速軸42と直角を成す方向に、ウォームホイール43と出力ギヤ44aを軸支している中間軸44を回転可能に軸支する。さらに、開口部40cからトランスファ3(不図示)へ延在する出力ロッド49をその軸方向に進行あるいは退行可能に収容する。
モータ41のモータ軸41aに固定されたモータギヤ41bは、減速軸42に固定された減速ギヤ42aと噛合い、減速軸42の外周に形成されたウォームギヤ42bは、ウォームホイール43の外周に形成されたウォームホイールギヤ43aに噛合う。ウォームホイール43は、後述する待ち機構W1を介して出力ギヤ44aに連結されており、出力ギヤ44aは出力ロッド49のラックギヤ部49aと噛合ってラックアンドピニオン機構を構成する。
よって、モータ軸41aの回転は、モータギヤ41b、及び減速ギヤ42aを介して減速され、減速軸42に伝達される。減速軸42の回転は、減速軸42の外周に形成されたウォームギヤ42aとウォームホイール43の外周に形成されたウォームホイールギヤ43aを介してさらに減速され、ウォームホイール43の回転(紙面に垂直な軸を中心とした回転)に変換される。ウォームホイール43の回転は、待ち機構W1を介して出力ギヤ44aに伝達され、ラックアンドピニオン機構で直動運動に変換され、出力ロッド49を進行、あるいは退行させる。
次に、アクチュエータ4の待ち機構W1の構成について図3及び図4を参照しながら説明する。
図3は、アクチュエータ4の図2のA−Aに沿う断面を矢印方向に見た、A−A線視断面図を示している。
待ち機構W1は、共に中間軸44が貫通して軸支するウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に設けられ、入力プレート(入力回転部材)45と、ブッシュ(回転伝達部材)46と、スパイラルスプリング(弾性部材)47と、出力プレート(出力回転部材)48とを備えている。ウォームホイール43及び出力ギヤ44aは、ハウジング40aとカバー40bに回転可能に軸支された中間軸44により、同軸かつ互いに相対回転可能に軸支される。ウォームホイール43には金属板から成形された入力プレート45が、出力ギヤ44aには金属板から成形された出力プレート48がカシメ固定される。
入力プレート45は、略90度屈曲させられ円弧形状を呈し、その周方向に延びる入力当接部45aが形成され、また、出力プレート48は、略90度屈曲させられ円弧形状を呈し、その周方向に延びる出力当接部48aが形成される。さらに、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の径方向に向かって入力当接部45aが外側になるように近接対向して、中間軸44の周方向においてブッシュ46とスパイラルスプリング(弾性部材)47とに当接可能である。
ブッシュ46は、板状部461と、その回転軸方向に突出したボス部462とを有する。また、ブッシュ46は、入力プレート45及び出力プレート48と同軸で相対回転可能に両者の間でボス部462を中間軸44が貫通して軸支される。図4(a)に示すように、板状部461には、その外径方向に延在する羽根形状の第1当接部461aと、第2当接部461bと、第3当接部461cとが設けられる。第3当接部461cはブッシュ46の周方向において、第1当接部461aと第2当接部461bとの間に位置する。さらに、第3当接部461cの径方向長さは、第1当接部461a及び第2当接部461bの径方向長さよりも短くなっている。その結果、入力プレート45が軸中心に回転する時、入力当接部45aが第3当接部461cの径方向外側を通過可能となる。また、ボス部462には、スパイラルスプリング47が係止される溝形状の係止部462aが設けられる。
スパイラルスプリング47は、断面が矩形のばね鋼を渦巻き状に巻いて形成される。図4に示すように、スパイラルスプリング47は、その外端部において巻き方向と逆側に屈曲させられフック形状となった第1端部47aが設けられ、その内端部において巻き中心方向に屈曲させられフック形状となった第2端部47bが設けられる。また、スパイラルスプリング47は、第2端部47bがブッシュ46の係止部462aに係止されると共に、第1端部47aが入力当接部45a及び出力当接部48aとその周方向軌跡上で当接可能に配置される。ここで、第1実施形態のアクチュエータ4において、出力プレート48は出力当接部48aをただ一つ有する。一方、後述する第2実施形態のアクチュエータ4Bにおいて、出力プレート48は第1出力当接部48c及び第2出力当接部48dを有する(図6示)。これは第1実施形態の構成が第2実施形態の構成と比較して、軽量化の観点で有利であることを示している。
また、スパイラルスプリング47は、待ち機構W1の回転軸の径方向の空きスペースに組み込むことができる。これにより、アクチュエータ4を大型化することなく、弾性部材としての耐久性向上が可能である
次に、図4(a)を参照しながら待ち機構W1の作動開始直前の状態を説明する。
図4(a)は、アクチュエータ4の駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり出力当接部48aが停止した瞬間であり、待ち機構W1の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。
図4(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部461aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、係止部462aに第2端部47bを係止されたスパイラルスプリング47を正転方向へ回転させようとする。そして、スパイラルスプリング47の第1端部47aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−(他端)と当接する。この時、出力当接部48aの逆転方向端部とブッシュ46の第3当接部461cとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは、待ち機構W1が正転方向へ作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向への相対回転角度(=相対回転量)、すなわち、入力当接部45aと出力当接部48aとの正転方向への相対回転角度を制限する角度である。
一方、図4(a)において、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接して押圧する。その押圧力は、スパイラルスプリング47と共に、係止部462aを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部(一端)48a+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部461bとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは、待ち機構W1が逆転方向へ作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度、すなわち、入力当接部45aと出力当接部48aとの逆転方向の相対回転角度を制限する角度である。
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さくなるように設定される。
次に、図4及び図5を参照しながら、待ち機構W1の作動と出力荷重の関係を説明する。図4は、アクチュエータ4の待ち機構W1が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。なお、図4においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。図5は、アクチュエータ4の待ち機構W1が作動した時の出力荷重特性であり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの相対回転角度に対する、出力ロッド49上に発生する荷重特性を示している。
図4(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと出力当接部48aとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W1の作動開始直前の状態を示しており、図5の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、出力当接部48a(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図5の点P0付近の荷重である。
続いて、図4(b)及び図4(c)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W1が作動した様子を示している。
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチ機構を締結するべく、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W1は図4(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図4(b)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461aを押圧しながら正転方向に回転する。このとき、スパイラルスプリング47は、その第1端部47aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図5の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図4(c)に示すように、ブッシュ46の第3当接部461cが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを押圧する状態となる。出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点A100から点A200で示される出力特性である。
一方、図4(d)及び図4(e)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W1が作動した様子を示している。
例えば、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチ機構の締結を解除するべく、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W1は図4(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図4(d)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aを押圧しながら逆転方向に回転し、ブッシュ46の第3当接部461cの径方向外側を通過する。このとき、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接しているので、スパイラルスプリング47は入力当接部45aの逆転方向への回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図5の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図4(e)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部461bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを逆転方向に押圧する状態となる。出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点B100から点B200で示される出力特性である。
なお、本実施形態では、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さく設定されるため、待ち機構W1の作動開始から早期にアクチュエータの最大出力荷重でスリーブを押すことが可能となり、次のような作用効果が得られる。
ドグクラッチ機構の締結動作中において、同期装置が作動して駆動軸と従動軸とを回転同期させる場合は、スリーブが同期装置のコーンシンクロ機構を押す荷重が高いほど、同期完了までの時間が短縮できる。
また、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突してスリーブが停止した場合は、両者のスプラインが互いに押し分ける荷重が高いほど、スプライン同士の噛合い完了までの時間が短縮できる。
さらに、正転方向制限角度αの絶対値を0度よりも大きくすることで、スリーブが進行限界点(進行側スリーブストッパ)に衝突する際の衝撃を緩和することができる。
なお、正転方向制限角度αは、スリーブ及び締結側のスプラインの噛合い開始点から進行限界点まで、待ち機構W1が作動せずにスリーブを前進させるのに必要なウォームホイールの回転角度よりも小さく設定されると良い。これにより、スリーブのスプライン先端と締結側のスプライン先端とが衝突して停止した場合において、スプラインを押し分けるために、アクチュエータ4の最大荷重を確実に出力することができる。
一方、逆転方向制限角度βの絶対値が正転方向制限角度αの絶対値よりも大きく設定されるため、待ち機構W1の作動時にスパイラルスプリング47に蓄えられる弾性エネルギを大きくすることができ、次のような作用効果が得られる。
ドグクラッチ締結解除動作の開始直後において、ドグクラッチの伝達トルクに起因し、スプライン歯面に作用する摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、アクチュエータ4内部では、逆転方向制限角度βに達するまでウォームホイール43と出力ギヤ44aとが逆転方向に相対回転し、スパイラルスプリング47に弾性エネルギが蓄えられる。そして、ドグクラッチの伝達トルクが減少すると同時に、待ち機構W1の動作が終了し、それと共に弾性エネルギが解放されてスリーブを弾き飛ばすように退行させる。これにより、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転して出力ロッドがスリーブを後退させるよりも、相対的に高速でスリーブを退行させることができ、ドグクラッチ締結解除完了までの時間が短縮できる。
なお、逆転方向制限角度βは、スリーブの進行限界点からスリーブ及び締結側のスプラインの噛合い開始点まで、待ち機構W1が作動せずにスリーブを後退させるのに必要なウォームホイール43の回転角度よりも大きく設定されると良い。これにより、ドグクラッチ締結解除動作時に、逆転方向制限角度β付近で待ち機構W1の弾性エネルギが解放されると、スリーブがスプラインの噛合い不能の位置まで弾き飛ばされるように後退し、確実にドグクラッチ締結解除ができる。
また、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βの絶対値を大きく設定する場合は、入力プレートと出力プレートとの相対回転量も大きくなる。この場合は、実施形態1で示したように、スパイラルスプリングを弾性部材として用いることが好ましい。逆に、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βの絶対値が小さくても良い場合は、板ばねを弾性部材として用いた方が軽量化の観点から有利である。
ところで、アクチュエータ4のドグクラッチの断接動作は、ウォームホイール43の回転角度に基づいて制御装置5により制御される。ここで、アクチュエータ4における、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点(退行側スリーブストッパ)への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。よってドグクラッチの断接完了時において、スリーブは、進行限界点、あるいは退行限界点に押しつけられることになる。すなわち、待ち機構W1が作動した状態でアクチュエータ4は動作を停止することになる。これは、図4(b)、あるいは図4(d)の状態を示しており、実際には両者のいずれかの状態からアクチュエータ4は動作を開始する。
例えば、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図4(b)の状態がアクチュエータ4の動作開始位置となる。図4(b)の状態では、スパイラルスプリング47の弾性力が正転方向に付勢されている。つまり、スリーブが進行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が逆転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+とブッシュ46の第1当接部461aとが当接したまま、逆転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの逆転方向端部48a−に第1端部47aが当接しているスパイラルスプリング47は、スパイラルスプリング47の正転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、スパイラルスプリング47の正転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接すると共に、ブッシュ46の第1当接部461が出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接する。すなわち、入力プレート45、スパイラルスプリング47、ブッシュ46、及び出力プレート48が逆転方向に一体回転を開始し、スリーブも退行を開始する。その後、上述したようにスリーブの退行が停止させられると、図4(a)の状態へと遷移する。
一方、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図4(d)の状態がアクチュエータ4の動作開始位置となる。図4(d)の状態では、スパイラルスプリング47の弾性力が逆転方向に付勢されている。つまり、スリーブが退行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が正転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とスパイラルスプリング47の第1端部47aとが当接したまま正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの正転方向端部48+に第1当接部461aが当接しているブッシュ46は、スパイラルスプリング47の逆転方向への付勢力が消滅するまで回転しない。そして、スパイラルスプリング47の逆転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461に当接すると共に、スパイラルスプリング47の第1端部47aが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。すなわち、入力プレート45、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、及び出力プレート48が正転方向に一体回転を開始し、スリーブも進行を開始する。さらに正転方向への回転が進み、上述したようにスリーブの進行が停止させられると、図4(a)の状態へと遷移する。
(第2実施形態)
以下、図6を参照して、第2実施形態のアクチュエータ4Bの構成及び作用について説明する。アクチュエータ4Bは、第1実施形態のアクチュエータ4において、待ち機構W1を、以下に説明する待ち機構W2に置き換えた形態である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
図6(a)に示すように、待ち機構W2の出力プレート48には第1出力当接部48cと同一円周上に第2出力当接部48dが設けられる。また、ブッシュ46はその径方向に延在する第3当接部461fを有し、第2出力当接部48dの逆転方向端部(他端)48d−と円周方向に対向する。なお、図6においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。
図6(a)は、アクチュエータ4Bの駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり第1出力当接部48c及び第2出力当接部48dが停止した瞬間であり、待ち機構W2の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。
図6(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部461aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、係止部462aに第2端部47bを係止されたスパイラルスプリング47を正転方向へ回転させようとする。そして、スパイラルスプリング47の第1端部47aが、停止している第1出力当接部48cの逆転方向端部(他端)48c−と当接する。この時、第2出力当接部48dの逆転方向端部48d−とブッシュ46の第3当接部461dとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは第1実施形態と同様に、待ち機構W2の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
一方、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aに当接して押圧する。その押圧力は、スパイラルスプリング47と共に、係止部462aを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している第1出力当接部48cの正転方向端部(一端)48c+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部461bとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは第1実施形態と同様に、待ち機構W2の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも小さくなるように設定される。
次に、図5及び図6を参照しながら、待ち機構W2の作動と出力荷重の関係を説明する。図6は、アクチュエータ4Bの待ち機構W2が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。
図6(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと第1出力当接部48a及び第2出力当接部48bとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W2の作動開始直前の状態を示しており、図5の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、スパイラルスプリング47、第1出力当接部48a及び第2出力当接部48b(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図5の点P0付近の荷重である。
図6(b)及び図6(c)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W2が作動した様子を示している。
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W2は図6(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図6(b)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部461aを押圧しながら正転方向に回転する。このとき、スパイラルスプリング47は、その第1端部47aが、停止している第1出力当接部48cの逆転方向端部48c−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図5の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図6(c)に示すように、ブッシュ46の第3当接部461dが第2出力当接部48dの逆転方向端部48d−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して第2出力当接部48dを正転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点A100から点A200で示される出力特性である。
一方、図6(d)及び図6(e)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W2が作動した様子を示している。
ウォームホイール43が逆転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W2は図6(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図6(d)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がスパイラルスプリング47の第1端部47aを押圧しながら逆転方向に回転する。このとき、ブッシュ46の第1当接部461aが、停止している第1出力当接部48cの正転方向端部48c+に当接しているので、スパイラルスプリング47は入力当接部45aの回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけスパイラルスプリング47は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図5の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図6(e)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部461bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して第1出力当接部48cを逆転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、スパイラルスプリング47の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図5の点B100から点B200で示される出力特性である。
なお、第2実施形態も第1実施形態と同様に、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。
また、アクチュエータ4Bの動作は、図6(b)、あるいは図6(d)に示す状態から開始する。具体的には、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図6(b)の状態からアクチュエータ4Bは動作を開始し、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図6(d)の状態からアクチュエータ4Bは動作を開始する。なお、それぞれの動作は第1実施形態と同じであるので説明は省略する。
(第3実施形態)
以下、図7及び図8を参照して、第3実施形態のアクチュエータ4Cの構成及び作用について説明する。アクチュエータ4Cは、第2実施形態と同様に、第1実施形態のアクチュエータ4において、待ち機構W1を、以下に説明する待ち機構W3に置き換えた形態である。なお、第3実施形態においても、第1実施形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
図7はアクチュエータ4Cの待ち機構W3の断面を示している。図7に示すように待ち機構W3は、共に中間軸44が貫通して軸支するウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に設けられ、入力プレート(入力回転部材)45と、ブッシュ(回転伝達部材)46と、トーションスプリング(弾性部材)471と、出力プレート(出力回転部材)48とを備えている。
第1実施形態と同様に、入力プレート45は入力当接部45aが形成され、出力プレート48は出力当接部48aが形成される。さらに、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の径方向に向かって入力当接部45aが外側になるように近接対向している。また、入力当接部45a及び出力当接部48aは、中間軸44の周方向においてブッシュ46とトーションスプリング471とに当接可能である。
ブッシュ46は、板状部463と、その回転軸方向に突出し、中間軸44に軸支されるボス部464と、ボス部464を中心とし、板状部463の外縁に沿って形成された円筒部465とを備える。また、ブッシュ46は第1形態と同様に入力プレート45及び出力プレート48と同軸で相対回転可能に両者の間でボス部464を中間軸44が貫通して軸支される。図8(a)に示すように、板状部463には、第1当接部463aと、第2当接部463bと、第3当接部463cとが設けられる。第3当接部463cは、径方向において、第2当接部463bと軸中心の間かつ、出力当接部48aの周方向軌跡上に設けられる。その結果、入力当接部45が当接してブッシュ46を軸中心に回転させるとき、ブッシュ46の第2当接部463bは出力当接部48aの径方向外側を通過可能となる。また、板上部463の周縁にはトーションスプリング471が係止される係止部463dが設けられる。
トーションスプリング471は、断面が円形のばね鋼をらせん状に巻いて形成される。図7及び図8(a)に示すように、トーションスプリング471は、その一端が巻き中心に向かって屈曲させられた第1端部471aが設けられ、その他端が巻き中心の軸方向と平行な方向(図8において紙面に対し垂直な方向)に屈曲させられた第2端部471bが設けられる。また、トーションスプリング471は、第2端部471bがブッシュ46の係止部463dに係止されると共に、第1端部47aが入力当接部45a及び出力当接部48aとその周方向軌跡上で当接可能に、ブッシュ46の円筒部465の内周に沿って配置される。ここで、ブッシュ46の円筒部465は、トーションスプリング471の外径方向への変形を規制し、ばね特性のへたりを防止する。
図8(a)は、アクチュエータ4Cの駆動によりドグクラッチ機構を断接中の出力ロッド49が停止、つまり出力当接部48aが停止した瞬間であり、待ち機構W3の作動開始直前の状態における各部材の当接関係を示している。なお、図8においては、反時計回り方向を正転方向、時計回り方向を逆転方向と定義する。
図8(a)において、入力当接部45aが正転方向(紙面上で反時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの正転方向端部(一端)45a+がブッシュ46の第1当接部463aに当接して押圧する。その押圧力は、ブッシュ46と共に、第2端部471bが係止部463dに係止されたトーションスプリング471を正転方向へ回転させようとする。そして、トーションスプリング471の第1端部471aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部(他端)48a−と当接する。この時、出力当接部48aの逆転方向端部48a−とブッシュ46の第3当接部463cとが正転方向制限角度αを形成する。ここで、正転方向制限角度αは第1実施形態及び第2実施形態と同様に、待ち機構W3の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの正転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
一方、入力当接部45aが逆転方向(紙面上で時計回り)に回転しようとする時、入力当接部45aの逆転方向端部(他端)45a−がトーションスプリング471の第1端部471aに当接して押圧する。その押圧力は、トーションスプリング471と共に、係止部463dを介してブッシュ46を逆転方向へ回転させようとする。そして、ブッシュ46の第1当接部463aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部(一端)48a+と当接する。この時、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とブッシュ46の第2当接部463cとが逆転方向制限角度βを形成する。ここで、逆転方向制限角度βは第1実施形態及び第2実施形態と同様に、待ち機構W3の作動中に発生する、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの逆転方向の相対回転角度(=相対回転量)を制限する角度である。
なお、正転方向制限角度α及び逆転方向制限角度βは絶対値が異なるように設定される。詳しくは、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも大きくなるように設定される。
次に、図8及び図9を参照しながら、待ち機構W3の作動と出力荷重の関係を説明する。図8は、アクチュエータ4Cの待ち機構W3が正転あるいは逆転方向へ作動した時の動作を示している。
図8(a)は、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間、換言すると入力当接部45aと出力当接部48aとの間に相対回転が生じていない、待ち機構W3の作動開始直前の状態を示しており、図9の点P0に相当する。具体的には、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとが一体回転し、ドグクラッチ機構の断接中に出力ロッド49が停止した瞬間の状態である。
また、出力ロッド49が停止することなくドグクラッチ機構を断接する場合は、ウォームホイール43の回転に対し、入力当接部45a(入力プレート45)、ブッシュ46、トーションスプリング471、出力当接部48a(出力プレート48)及び出力ギヤ44aが一体回転する。このため、出力ロッド49に作用する荷重は図9の点P0付近の荷重である。
図8(b)及び図8(c)は、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、ドグクラッチの締結動作中に待ち機構W3が作動した様子を示している。
例えば、ウォームホイール43が逆転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを進行させている最中に、スリーブがコーンシンクロ機構を押圧し回転同期装置が作動、あるいは、スリーブのスプライン先端と締結側(駆動軸または従動軸)のスプライン先端とが衝突した場合は、スリーブの進行が停止させられる。このとき、待ち機構W3は図8(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が逆転方向に回転すると、図8(b)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がトーションスプリング471の第1端部471aを押圧しながら逆転方向に回転する。このとき、ブッシュ46の第1当接部463aが、停止している出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接しているので、トーションスプリング471は、その径方向をブッシュ46の円筒部465の内周に規制されながら、入力当接部45aの回転と共に撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけトーションスプリング471は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を退行させようとする。これは図9の点P0から点B100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が逆転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が逆転方向制限角度βに達すると、図8(c)に示すように、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がブッシュ46の第2当接部463bに当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを逆転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、トーションスプリング471の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図9の点B100から点B200で示される出力特性である。
一方、図8(d)及び図8(e)は、ウォームホイール43が正転方向に回転し、ドグクラッチの締結解除中に待ち機構W3が作動した様子を示している。
例えば、ウォームホイール43が正転方向に回転し、出力ロッド49がスリーブを退行させようとするが、ドグクラッチの伝達トルクに起因するドグ歯面の摩擦抵抗により、スリーブが退行しない場合がある。このとき、待ち機構W3は図8(a)に示す状態となる。ここから、さらにウォームホイール43が正転方向に回転すると、図8(d)に示すように、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部463aを押圧しながら正転方向に回転する。この正転方向の回転動作中において、ブッシュ46の第2当接部463bは、出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接することなく、出力当接部48aの径方向外側を通過する。このとき、トーションスプリング471は、その第1端部471aが、停止している出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接しているので、ブッシュ46の回転と共に、円筒部465によりその径方向を規制されながら撓んで弾性エネルギを蓄える。つまり、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間に相対回転が発生し、その相対回転角度分だけトーションスプリング471は撓み、撓み量に応じた弾性エネルギで出力ロッド49を進行させようとする。これは図9の点P0から点A100の区間で示される荷重特性である。
そして、出力ロッド49が停止したまま、さらにウォームホイール43が正転方向へ回転し、ウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度が正転方向制限角度αに達すると、図8(e)に示すように、ブッシュ46の第3当接部463cが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。つまり、入力当接部45aがブッシュ46を介して出力当接部48aを正転方向に押圧する状態となる。このとき、出力ロッド49に発生する荷重は、トーションスプリング471の撓み量、すなわちウォームホイール43と出力ギヤ44aとの間の相対回転角度に応じた弾性エネルギから、減速機構を介したモータ41の最大出力へと急上昇する。これは図9の点A100から点A200で示される出力特性である。
なお、第3実施形態も第1実施形態及び第2実施形態と同様に、ウォームホイール43の回転可能範囲は、ドグクラッチにおけるスリーブの進行限界点から退行限界点への移動に必要なウォームホイール43の回転範囲よりも大きく設定されている。
また、第3実施形態においては、アクチュエータ4Cの動作は、図8(b)、あるいは図8(d)に示す状態から開始する。
例えば、ドグクラッチを締結の状態から解除する場合には、図8(b)の状態がアクチュエータ4Cの動作開始位置となる。図8(b)の状態では、トーションスプリング471の弾性力が逆転方向に付勢されている。つまり、スリーブが進行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が正転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−とトーションスプリング471の第1端部471aとが当接したまま、正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの正転方向端部48+に第1当接部463aが当接しているブッシュ46は、トーションスプリング471の逆転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、トーションスプリング471の逆転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+がブッシュ46の第1当接部463aに当接すると共に、トーションスプリング471の第1端部471aが出力当接部48aの逆転方向端部48a−に当接する。すなわち、入力プレート45、ブッシュ46、トーションスプリング471、及び出力プレート48が正転方向に一体回転を開始し、スリーブも退行を開始する。その後、上述したようにスリーブの退行が停止させられると、図8(a)の状態へと遷移する。
一方、ドグクラッチを解除の状態から締結する場合には、図8(d)の状態がアクチュエータ4Cの動作開始位置となる。図8(d)の状態では、トーションスプリング471の弾性力が正転方向に付勢されている。つまり、スリーブが退行側スリーブストッパに押しつけられている状態である。ここから、ウォームホイール43が逆転方向に回転を開始すると、入力当接部45aの正転方向端部45a+とブッシュ46の第1当接部463aとが当接したまま正転方向に一体回転を開始する。この時、出力当接部48a及びそれの逆転方向端部48a−に第1端部471aが当接しているトーションスプリング471は、トーションスプリング471の正転方向への付勢力が消滅するまで共に回転しない。そして、トーションスプリング471の正転方向への付勢力が消滅すると、入力当接部45aの逆転方向端部45a−がトーションスプリング471の第1端部471aに当接すると共に、ブッシュ46の第1当接部463aが出力当接部48aの正転方向端部48a+に当接する。すなわち、入力プレート45、トーションスプリング471、ブッシュ46、及び出力プレート48が逆転方向に一体回転を開始し、スリーブも進行を開始する。さらに逆転方向への回転が進み、上述したようにスリーブの進行が停止させられると、図8(a)の状態へと遷移する。
なお、第1実施形態のアクチュエータ4、あるいは、第2実施形態のアクチュエータ4Bにおいて、正転方向をドグクラッチの解除方向に設定し、逆転方向をドグクラッチの締結方向に設定しても良い。この場合、正転方向制限角度αの絶対値が逆転方向制限角度βの絶対値よりも大きくなるように設定すれば、目的の作用効果を得ることができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態で用いたスパイラルスプリング47は弾性部材であれば良い。例えば、板ばねであっても良いし、コイルスプリングでも良い。
以上に説明した本発明のアクチュエータは、上述した車両のトランスファ装置に限らず、車両のフリーハブ装置や各種のドグクラッチ機構に適用しても良い。