以下、添付図面を参照して、本発明の減速装置の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の減速装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。この実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
<第一の実施形態の減速装置の全体構成>
図1は本発明の第一の実施形態の減速装置の入力軸側の外観斜視図を示し、図2は減速装置の出力部側の外観斜視図を示す。なお、添付の図面及び以下の明細書を通して、同一の構成には同一の符号を附す。
ハウジング1には、入力軸2、出力部3が回転可能に収容される。入力軸2の軸線2aと出力部3の軸線3a1とは一致する。入力軸2を軸線2aの回りを回転させると、出力部3が減速されて軸線3a1の回りを回転する。入力軸2に対する出力部3の減速比は、ハウジング1に収容される第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12(図3参照)の歯数によって決定される。
ハウジング1は、フランジ1a1を有する筒形のハウジング本体1aと、ハウジング本体1aの軸方向の両端部に取り付けられる円盤形の蓋部材1b,1cと、を備える。ハウジング本体1aのフランジ1a1には、相手部品に取り付けるための通し孔が開けられる。蓋部材1b,1cは、ボルト等の締結部材によってハウジング本体1aに固定される。
図3は本実施形態の減速装置の断面斜視図を示し、図4は本実施形態の減速装置の分解斜視図を示す。図3に示すように、減速装置は、ハウジング1と、傾斜カム4が入力軸2に一体に設けられるカム部5と、第一冠ギヤ11と、第一冠ギヤ11を波動運動可能にかつ回転不可能に支持する支持部14と、第二冠ギヤ12と、第二冠ギヤ12に連結される出力部3と、を備える。なお、以下においては、説明の便宜上、入力軸2及び出力部3の軸線2aをX方向に配置したときの方向、すなわち図3に示すX,Y,Z方向を用いて減速装置の構成を説明する。
図4に示すように、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12は円盤形である。第一冠ギヤ11の対向面11a及び第二冠ギヤ12の対向面12aには、放射状に複数の歯が形成される。第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯数は特に限定されるものではない。例えば第一冠ギヤ11の歯数は49、第二冠ギヤ12の歯数は50である。第一冠ギヤ11の歯数と第二冠ギヤ12の歯数とは異なる。歯数が異なるので、第一冠ギヤ11の軸線と第二冠ギヤ12の軸線とを一致させた状態で噛み合わせることはできない。このため、第一冠ギヤ11を第二冠ギヤ12に対して傾斜させて、第一冠ギヤ11の一部を第二冠ギヤ12の一部に噛み合わせる。第二冠ギヤ12の対向面12aは、図3のYZ平面内に配置される。第一冠ギヤ11の対向面11aは、図3のYZ平面に対してZ軸の回りに角度αだけ傾いている。
図3に示すように、カム部5は、ハウジング1に軸線の回りを回転可能に支持される入力軸2と、入力軸2に一体に設けられる円盤形の傾斜カム4と、傾斜カム4と第一冠ギヤ11(正確にいえば、第一冠ギヤ11に一体に固定される内輪部)との間に転がり運動可能に介在する転動体としてのボール6と、を備える(図4も参照)。傾斜カム4は、第一冠ギヤ11を傾けるために設けられる。傾斜カム4のカム面4aは、第一冠ギヤ11と同様にYZ平面に対してZ軸の回りに角度αだけ傾いている。傾斜カム4のカム面4aには、円形のボール転走溝4bが形成される。支持部14の内輪部7にも、傾斜カム4のボール転走溝4bに対向する円形のボール転走溝7bが形成される。ボール転走溝4bとボール転走溝7bとの間には、周方向に転がり運動可能に複数のボール6が配列される。第一冠ギヤ11を第二冠ギヤ12に押し付け、これらの間のバックラッシを無くすために、ボール6には予圧が付与される。ボール転走溝4bとボール転走溝7bとの間の隙間はボール6の直径よりも小さく、ボール6はこれらの間で圧縮される。ボール6はリング形の保持器16に保持される。
入力軸2は、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12を貫通する。入力軸2は中空である。入力軸2の軸方向の両端部は、軸受21,22によって回転可能に支持される。軸受21,22は、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の軸方向の外側に配置される。
図3に示すように、支持部14は、第一冠ギヤ11の半径方向の外側に配置され、第一冠ギヤ11をハウジング1に対して波動運動可能に(言い換えれば、図3に示すように、第一冠ギヤ11の軸線11bが点P1を頂点にした円錐の軌跡を描くように回転可能に)かつ軸線の回りを回転不可能に支持する。第一冠ギヤ11の波動運動は歳差運動とも呼ばれる。
図3に示すように、支持部14は、球形の内周面に外輪スプライン溝10a(図4参照)を有する外輪部10と、外輪部10の内側に配置され、球形の外周面に外輪スプライン溝10aに対向する内輪スプライン溝7a(図4参照)を有する内輪部7と、外輪スプライン溝10aと内輪スプライン溝7aとの間に軸方向の円弧の軌道に沿って転がり運動可能に介在する転動体としてのボール9と、を備える。外輪部10は、ハウジング1と一体である。内輪部7は、ボルト等の締結部材によって第一冠ギヤ11に固定される。ボール9は、保持器8に保持される。支持部14によって、第一冠ギヤ11は、軸線2a上の点P1を中心にしてZ軸の回り及びY軸の回りを揺動可能になる。第一冠ギヤ11の軸線2aの回りの回転運動は、支持部14のスプライン機構によって制限される。
出力部3の内輪3aは、ボルト等の締結部材によって第二冠ギヤ12に固定される。出力部3は、クロスローラ23によってハウジング1に回転可能に支持される。クロスローラ23は、周方向に隣接するローラの軸線が周方向から見て直交するローラ列である(図4参照)。第二冠ギヤ12は、出力部3を介してハウジング1に回転可能に支持される。ハウジング1の蓋部材1cの内周面には、円形のレースウェイ1c1が形成される。出力部3の内輪3aの外周面には、レースウェイ1c1に対向する円形のレースウェイ3bが形成される。レースウェイ1c1とレースウェイ3bとの間に転動体としてクロスローラ23が配置される。出力部3には、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12との噛み合い箇所の反力に起因したモーメントが作用する。クロスローラ23を用いることで、出力部3のモーメント剛性を向上させることができる。なお、入力軸2の一端部を回転可能に支持する軸受22は、出力部3と入力軸2との間に配置される。
図示しないモータ等の駆動源を用いて、カム部5を軸線の回りに回転させると、カム部5の傾斜カム4によって第一冠ギヤ11が第二冠ギヤ12との噛み合い箇所を移動させながら波動運動する。第一冠ギヤ11の波動運動に伴って、第二冠ギヤ12が第一冠ギヤ11に対して歯数差の分だけ相対的に回転する。この実施形態では、例えば第一冠ギヤ11の歯数を49とし、第二冠ギヤ12の歯数を50とする。そして、ハウジング1に対する第一冠ギヤ11の回転は支持部14によって制限され、ハウジング1に対する出力部3の回転は許容される。このため、出力部3が1歯分だけ減速して回転し、1/50の減速比が得られる。ここで、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯数は限定されない。
<第一冠ギヤ及び第二冠ギヤの歯の形状(歯先部及び歯底部が円錐の側面から構成される例)>
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯の形状は、以下のとおりである。図5(a)は、第二冠ギヤ12、及び第二冠ギヤ12に傾斜して噛み合う第一冠ギヤ11を示す。図5(a)に示すように、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12とは1カ所(図5(a)の左端の位置A)で噛み合う。ただし、第一冠ギヤ11にはカム部5から予圧がかかるので、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12の接触箇所は、噛み合い箇所を中心に周方向に複数の歯に広がる。第一冠ギヤ11が傾斜しているので、図5(a)の右側に向かって第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12との間の隙間δが徐々に大きくなる。
図5(a)に示すように、第一冠ギヤ11の直径と第二冠ギヤ12との直径とは等しい。第一冠ギヤ11の歯数と第二冠ギヤ12の歯数が異なっているので、第一冠ギヤ11の歯のピッチと第一冠ギヤ11の歯のピッチとが異なる。
図5(b)は第二冠ギヤ12を示す。第二冠ギヤ12は、傘歯車状であり、円錐形の母体を持つ。第二冠ギヤ12の表面には、波形の歯30が円周方向に連続して形成される。第二冠ギヤ12は、放射状に配置される複数の歯先部31と、放射状に配置される複数の歯底部32と、を円周方向に交互に有する。第二冠ギヤ12の歯先部31は、円錐の側面から構成される凸形状である。第二冠ギヤ12の歯底部32は、円錐の側面から構成される凹形状である。
図5(c)は第一冠ギヤ11を示す。第一冠ギヤ11も、傘歯車状であり、円錐形の母体を持つ。第一冠ギヤ11の表面にも、波形の歯35が円周方向に連続して形成される。第一冠ギヤ11も、放射状に配置される複数の歯先部33と放射状に配置される複数の歯底部34とを円周方向に交互に有する。第一冠ギヤ11の歯先部33は、円錐の側面から構成される凸形状である。第一冠ギヤ11の歯底部34は、円錐の側面から構成される凹形状である。
図6の展開図に示すように、第二冠ギヤ12の歯底部32の半径は、第一冠ギヤ11の歯先部33の半径よりも大きく、第一冠ギヤ11の歯先部33が第二冠ギヤ12の歯底部32に嵌まる。そして、第一冠ギヤ11の歯先部33の頂点と第二冠ギヤ12の歯底部32とが噛み合い位置Aで接触する。第一冠ギヤ11の歯底部34の半径は、第二冠ギヤ12の歯先部31の半径よりも大きく、第二冠ギヤ12の歯先部31が第一冠ギヤ11の歯底部34に嵌まる。第一冠ギヤ11の波動運動に伴い、噛み合い位置Aが移動し、第二冠ギヤ12の歯先部31の頂点と第一冠ギヤ11の歯底部34とが接触するようになる。
図7(a)及び図7(b)は、第二冠ギヤ12及び第一冠ギヤ11の歯に円錐を付記した斜視図を示す。ここでは、歯の形状を分かり易くするために円錐を付記している。図7(b)に示すように、第二冠ギヤ12の歯先部31は、円錐C1の側面の一部から構成される。第二冠ギヤ12の歯底部32も、円錐C2の側面の一部から構成される。同一の円周上において、歯底部32の円錐C2の半径は、歯先部31の円錐C1の半径よりも大きい。複数の歯先部31の円錐C1の頂点は噛み合い中心P2で交わる。複数の歯底部32の円錐C2の頂点も噛み合い中心P2で交わる。図3に示すように、この噛み合い中心P2は入力軸2の軸線2a上に位置し、第一冠ギヤ11の波動運動の中心P1と一致する。
図7(a)に示すように、第一冠ギヤ11の歯先部33は、円錐C3の側面の一部から構成される。第一冠ギヤ11の歯底部34は、円錐C4の側面の一部から構成される。歯底部34の円錐C4の半径は、歯先部33の円錐C3の半径よりも大きい。第一冠ギヤ11の歯のピッチと第二冠ギヤ12の歯のピッチとを異ならせるため、第一冠ギヤ11の歯先部33の円錐C3の半径は、第二冠ギヤ12の歯先部31の円錐C1の半径に等しく、第一冠ギヤ11の歯底部34の円錐C4の半径は、第二冠ギヤ12の歯底部32の円錐C2の半径よりも小さい。第一冠ギヤ11の複数の歯先部33の円錐C3の頂点は、噛み合い中心P2に一致し、第一冠ギヤ11の複数の歯底部34の円錐C4の頂点は、噛み合い中心P2に一致する。
図6の展開図に示すように、第一冠ギヤ11の歯先部33は円弧に形成され、歯底部34も円弧に形成される。第二冠ギヤ12の歯先部31は円弧に形成され、歯底部32も円弧に形成される。厳密にいえば、円錐形の第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯30,35を展開すると楕円になるが、円弧とみなす。上記のように、第一冠ギヤ11の歯先部33の円弧の半径は、第二冠ギヤ12の歯先部31の円弧の半径に等しい。第一冠ギヤ11の歯35のピッチと第二冠ギヤ12の歯30のピッチとを異ならせるために、第一冠ギヤ11の歯底部34の半径は第二冠ギヤ12の歯底部32の半径よりも小さい。
第一冠ギヤ11に予圧をかけない状態では、第一冠ギヤ11の歯先部33が1カ所Aでのみ第二冠ギヤ12に接触する。第一冠ギヤ11に予圧をかけると、第一冠ギヤ11の複数の歯35と第二冠ギヤ12の複数の歯30が接触する。第一冠ギヤ11を波動運動させると、噛み合い位置Aが第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の円周方向に移動し、第二冠ギヤ12が第一冠ギヤ11に対して歯数差の分だけ相対的に回転する。
<第一冠ギヤ及び第二冠ギヤの歯の形状の他の例(歯先部が円錐の側面から構成され、歯底部がトロコイド曲線を用いて生成される例)>
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31及び歯底部34,32が円錐の側面から構成される形状であると、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の製作が容易である。しかし、図8の第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯の展開図に示すように、第一冠ギヤ11の歯先部33(円形で示す)の軌跡を描くと、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12との間に僅かな隙間gが空く。この隙間gは、角度伝達誤差や駆動音の増大を招くおそれがある。この隙間gを埋めて、歯先部33と歯底部32が完全に転がるようにし、角度伝達精度と静音性とを向上させたのがこの例である。ただし、この隙間gは極めて僅かなものであり、隙間gを埋めなくても、インボリュート歯形と同等の角度伝達精度は得られる。
(設計の概要)
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯形曲面の設計は、図9に示すように、まず、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の基準円rc上の歯形曲線を作成することから始まる。作成した歯形曲線は一本の曲線であり、面ではない。第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯形曲面を得るために、基準円の半径rcを変化させて得られる歯形曲線を第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の円錐形の母体に沿って並べる。これにより、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯形曲面が得られる。
(歯形曲線の設計指針)
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31が円錐の側面から構成されるとし、基準円rc上の第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31の曲線を単一Rの円弧とする。このとき、歯先部33,31と歯底部34,32が互いに転がり運動を行うためには、歯底部34,32の歯底曲線は、歯先部33,31が描く軌跡となる。歯先部33,31の単一Rの円弧と歯底部34,32の歯底曲線を滑らかに接続することで、図9に示すように、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の基準円rc上の歯形曲線が得られる。歯形曲線の作成は、下記の順序で行われる。
(i)波動運動(以下、歳差運動という)によって歯先部33,31が通るべき曲線(トロコイド曲線)を求める。
(ii)歯先部33,31の半径を仮定し、歯先部33,31が(i)で求めたトロコイド曲線上を通ったときに描く曲線を求め、これを歯底部34,32の歯底曲線とする。
(iii)歯先部33,31の歯先曲線(円弧)と歯底部34,32の歯底曲線とを互いになめらかに接続するように歯先部33,31の半径を決定する。
(歯先部が通るべきトロコイド曲線の計算)
第一冠ギヤ11は、歳差運動をしながら第二冠ギヤ12に噛み合う。第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12は、円錐形の母体を持ち、これらの歯面は円錐形の母体上にある。したがって、周方向には合同な歯形曲線が並ぶが、半径方向では歯形曲線は相似ではあるが合同ではない。このため、ある基準円rcを定め、この基準円rc上での歯形曲線を求める。
まず、この基準円rcを底面にもつ2つの円錐があり、図10(a)に示すように互いの頂点と母線が接触している状態を仮定し、歳差運動を行う円錐を動円錐、固定された円錐を定円錐とする。ここで、円錐頂点を原点O、底面同士の接触点を点P1、動円錐の底面上の定点を点P2、定円錐の頂点から底面へ下ろした垂線の足をH1、動円錐の頂点から底面へ下ろした垂線の足をH2とする。このとき、動円錐を歳差運動させたときの点P2の描く軌跡が歯の通るべき曲線(トロコイド曲線)となる。いま、図10(b)に示すように、動円錐が定円錐から離れることなく歳差運動を行った場合を考える。この歳差運動が、動円錐が自身の軸OH2回りに−ψだけ回転し、かつ定円錐回りをθ回転するものだとすれば、点P1がOH1回りにθ、点P2がOH2回りに−ψ回転したものとみなせる。ここで、図11に示すように、線分OH2に平行で正規化したベクトルをn、点Oから点P1までのベクトルをp1、点Oから点P2までのベクトルをp2とすれば、p2はp1をn回りにψだけ回転したベクトルとみなせるため、
と表すことができる。ここで、動円錐と定円錐がともに底面半径r
c、底角Φ
cであれば、nとp
1はそれぞれ、
ここまで求めてきたp2は、ψの値を変えることで第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12それぞれの歯先部33,31の中心が通るべき曲線を表すベクトルを表すことができる。まず、第一冠ギヤ11の歯先部33の中心が通るべき曲線を求める。動円錐が第一冠ギヤ11、定円錐が第二冠ギヤ12とみなし、歯数をそれぞれzi,z0とする。また、動円錐の歳差運動のパラメータはθ=θi,ψ=ψiとする。このとき、正転ギヤであれば、図12に示すようにθが1回転する間にψは反対方向に1歯分だけ多く回転し、逆転ギヤであれば、θが1回転する間にψは反対方向に1歯分だけ少なく回転するため、数3が成り立つ。
第二冠ギヤ12の歯先部31の中心が通るべき曲線を求める場合、動円錐を第二冠ギヤ12、定円錐を第一冠ギヤ11とみなし、歳差運動のパラメータはθ=θo,ψ=ψoとすれば、同様にして数5が成り立つ。
このように、組み合わせるギヤの特性によって、数4、数5を選択し、ψについて数1に代入することで、歯先部の中心が通るべき曲線を求められる。このとき、求めた曲線の例を図13に示す。図13において、ベクトルp2が描く軌跡がトロコイド曲線である。p1とp2の回転角と方向は図12と同じである。
(歯底曲線の計算)
次に、歯底曲線を求める。図14に示すように相手側ギヤの歯先部33が描く軌跡が歯底曲線p3となる。すなわち、相手側ギヤの歯先部33の中心が通るべきトロコイド曲線p2を求め、相手側ギヤの歯先部33の半径をもつ円をこのトロコイド曲線p2上で動かしたときに得られる軌跡を計算すればよい。ここで、相手側ギヤの歯先半径をhk、この円をCとする。このとき、図15に示すように、歯底曲線を表すベクトルp3は、p2上に円Cを描いたときの点のうち、p2とp2の方向ベクトルΔp2のどちらにも直交する点P3までのベクトルとなる。したがって、数6と数7の関係が成り立つ。
が成り立つ。なお、式中の正負は、方向ベクトルの向きによって決定される。
(歯先曲線と歯底曲線の接続)
図16(a)は、上記に従って計算した第一冠ギヤ11の歯形曲線(歯先曲線と歯底曲線)を示し、図16(b)は、上記に従って計算した第二冠ギヤ12の歯形曲線(歯先曲線と歯底曲線)を示す。ここでは、歯先曲線と歯底曲線が滑らかに繋がるように歯先曲線の半径を決定する。歯先曲線の半径は、「歯先曲線と歯底曲線が接点をただ一つ持つとき」を条件にして決定する。(歯先曲線の方程式)=(歯底曲線の方程式)を立式し、これが重解を持つときの歯先半径の値を探せばよい。以上により、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯形曲線を生成することができる。
図17は、上記に従って得られた第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯形曲線を示す。図中の黒丸が接触点を示す。(S1)の接触開始時から(S5)の接触終了時に至るまで、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12とが常に接触し、接触点が移動することがわかる。接触点が移動することから、第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12とが互いに転がることがわかる。
なお、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯底部34,32を円錐の側面から構成し、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31をトロコイド曲線を用いて生成することもできる。この場合、基準円rc上の第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯底部34,32の曲線を単一Rの円弧とし、トロコイド曲線を用いて歯先部33,31の歯先曲線を計算すればよい。
<第一冠ギヤ及び第二冠ギヤの歯の形状のさらに他の例(歯すじがヘリカル状である例)>
図18に示すように、第二冠ギヤ12の基準円上の歯形曲線の位相を、基準円の半径を変化させる毎に円周方向にずらすことで、歯すじをヘリカル状にすることができる。図18に示すように、第二冠ギヤ12の外側と内側とでは、歯形曲線の位相が異なる。同様に、第一冠ギヤ11の歯すじも同様にヘリカル状にすることができる。
ヘリカル状の歯すじには、図19に示す対数らせんを採用することができる。対数らせんは、円錐形の母体の母線とのなす角βが常に一定のらせんであり、数9で表すことができる。
ここで、a,bはらせんの巻き方のパラメータである。
<本実施形態の減速装置の効果>
本実施形態の減速装置によれば、以下の効果を奏する。第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31が円錐の側面を基礎とした凸形状であり、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯底部34,32が円錐の側面を基礎とした凹形状であるので、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12のいずれか一方の歯先部33,31を他方の歯底部34,32に円滑に嵌めることができる。また、一方の歯先部33,31と他方の歯底部34,32との噛み合いのほとんどが転がりであるので、歯車の効率を向上させることができる。
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31及び歯底部34,32の円錐の頂点P2が、第一冠ギヤ11の歳差運動の中心P1に一致するので、歯先部33,31と歯底部34,32とを線接触させることができる。歯当たり面積を大きく、噛み合い率を大きくすることができるので、高剛性化、高効率、静音化が実現できる。
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31が、円錐の側面から構成される形状であり、第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯底部34,32が、第一冠ギヤ11の円錐形の母体を第二冠ギヤ12の円錐形の母体に沿って転がしたときに描かれるトロコイド曲線を用いて生成された形状であるので、歯先部33,31と歯底部34,32との噛み合いを完全な転がりにすることができ、さらなる高剛性化、高効率、静音化が実現できる。
第一冠ギヤ11の歯先部33の円錐の半径Rと第二冠ギヤ12の歯先部31の円錐の半径Rとが一致するので、両者の歯先部33,31の製造が容易であり、強度も一致させることができる。
第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯先部33,31及び歯底部34,32の歯すじが、ヘリカル状であるので、歯当たり面積を大きく、噛み合い率を大きくすることができ、さらなる高剛性化、高効率、静音化が実現できる。
<第二の実施形態の減速装置の全体構成>
図20及び図21は、本発明の第二の実施形態の減速装置を示す。図20は減速装置の断面斜視図を示し、図21は減速装置の分解斜視図を示す。上記第一の実施形態の減速装置では、波動運動と回転運動を第一冠ギヤ11と第二冠ギヤ12とに分担し、第一冠ギヤ11を波動運動させ、第二冠ギヤ12を回転運動させる。第二の実施形態の減速装置では、第二冠ギヤ42をハウジング50に固定する。そして、第一冠ギヤ41のみを波動運動及び回転運動させる。第一冠ギヤ41の回転運動は、第一冠ギヤ41の内側に配置した球形のスプラインジョイント44を介して出力部62に伝達される。
この実施形態の減速装置は、ハウジング50と、入力軸61に傾斜カム63が一体に設けられるカム部64と、第一冠ギヤ41と、第一冠ギヤ41に対向する第二冠ギヤ42と、第一冠ギヤ41を波動運動可能に支持するスプラインジョイント44と、スプラインジョイント44のスプライン軸45に回転不可能に連結される出力部62と、を備える。入力軸61を軸線61aの回りを回転させると、出力部62が減速されて軸線61aの回りを回転する。なお、以下においては、説明の便宜上、入力軸61及び出力部62の軸線をX方向に配置したときの方向、すなわち図20に示すX,Y,Z方向を用いて減速装置の構成を説明する。
図21に示すように、第一冠ギヤ41と第二冠ギヤ42とは、互いに対向する。第一冠ギヤ41及び第二冠ギヤ42の対向面には、放射状に複数の歯が形成される。第一冠ギヤ41及び第二冠ギヤ42の歯の形状は、第一の実施形態の第一冠ギヤ11及び第二冠ギヤ12の歯の形状と同一である。第一冠ギヤ41の歯数と第二冠ギヤ42の歯数とは特に限定されるものでない。例えば第一冠ギヤ41の歯数は51、第二冠ギヤ42の歯数は50に設定される。第一冠ギヤ41は第二冠ギヤ42に対して傾斜して、第二冠ギヤ42に噛み合う。図20に示すように、第二冠ギヤ42は、YZ平面内に配置される。第一冠ギヤ41の対向面は、YZ平面に対してZ軸の回りに角度αだけ傾く。
図20に示すように、第一冠ギヤ41は、支持部としての球形のスプラインジョイント44に波動運動可能にかつ軸線61aの回りを回転不可能に支持される。スプラインジョイント44は、第一冠ギヤ41に一体に設けられ、球形の内周面に外輪スプライン溝46aを有する外輪部46と、外輪部46の内側に配置され、球形の外周面に外輪スプライン溝46aに対向する内輪スプライン溝47aを有する内輪部47と、外輪スプライン溝46aと内輪スプライン溝47aとの間に軸方向に円弧の軌道に沿って転がり運動可能に介在する転動体としてのボール48と、を備える。内輪部47のスプライン軸45は、出力部62にキー等を用いて回転不可能に連結される。ボール48は、保持器49に保持される。第一冠ギヤ41の軸線61aの回りの回転運動は、スプラインジョイント44を介して出力部62に伝達される。出力部62は、クロスローラ69によってハウジング50に回転可能に支持される。
カム部64は、ハウジング50に軸線61aの回りを回転可能に支持される入力軸61と、入力軸61に一体に設けられる円盤形の傾斜カム63と、傾斜カム63と第一冠ギヤ41との間に転がり運動可能に介在する転動体としてのボール65と、を備える。入力軸61は、二つの軸受67,68によってハウジング50に回転可能に支持される。
図示しないモータ等の駆動源を用いて、カム部64を軸線61aの回りに回転させると、カム部64の傾斜カム63によって第一冠ギヤ41が第二冠ギヤ42との噛み合い箇所を移動させながら波動運動する。第一冠ギヤ41の波動運動に伴って、第一冠ギヤ41が第二冠ギヤ42に対して歯数差の分だけ相対的に回転する。第二冠ギヤ42はハウジング50に固定されるので、第一冠ギヤ41が回転する。第一冠ギヤ41の回転しながらの波動運動は、歳差運動とも呼ばれる。第一冠ギヤ41の回転運動は、スプラインジョイント44を介して出力部62に伝達される。この実施形態では、第二冠ギヤ42が固定されるので、1/50の減速比が得られる。
<第三の実施形態の減速装置の全体構成>
図22は、本発明の第三の実施形態の減速装置の断面斜視図を示す。この実施形態の減速装置は、第二冠ギヤ72と、第三冠ギヤ73と、第二冠ギヤ72に対向する対向歯71aと第三冠ギヤ73に対向する対向歯71bとを背面合わせで持つ第一冠ギヤ71と、を備える。カム部74a,74bは、第一冠ギヤ71が第二冠ギヤ72に噛み合い、第一冠ギヤ71が第三冠ギヤ73に噛み合うように、第一冠ギヤ71を第二冠ギヤ72及び第三冠ギヤ73に対して傾斜させ、かつ噛み合う箇所が円周方向に移動するように第一冠ギヤ71を波動運動させる。
入力軸75を回転させると、第一冠ギヤ71が波動運動する。入力軸75の回転数は減速されて出力部76に伝達される。減速比は、第一冠ギヤ71、第二冠ギヤ72、及び第三冠ギヤ73の歯数によって決定される。第一冠ギヤ71、第二冠ギヤ72の歯の形状は、第一の実施形態の第一冠ギヤ11、第二冠ギヤ12と同一であり、第一冠ギヤ71、第三冠ギヤ73の歯の形状は、第一の実施形態の第一冠ギヤ11、第二冠ギヤ12と同一である。
図23(a)は第二冠ギヤ72及び第三冠ギヤ73の側面図を示し、図23(b)は第一冠ギヤ71の側面図を示す。第二冠ギヤ72の対向歯72aには、円錐Co1の側面から構成される歯底部72a1が形成される。歯底部72a1の円錐Co1の頂点は、第一冠ギヤ71の波動運動の中心Pで交わる。第二冠ギヤ72の歯先部72a2も、円錐(図示せず)の側面の一部に形成される。歯先部72a2の円錐の頂点もPで交わる。同様に、第三冠ギヤ73の歯底部73a1及び歯先部73a2も、円錐(歯底部73a1の円錐Co2のみを示す)の側面から構成され、円錐の頂点はPで交わる。
図23(b)に示すように、第一冠ギヤ71には、第二冠ギヤ72に対向する対向歯71aと第三冠ギヤ73に対向する対向歯71bとが背面合わせで設けられる。対向歯71aの歯底部71a1及び歯先部71a2は、円錐(歯底部71a1の円錐Co3のみを示す)の側面から構成され、円錐の頂点はPで交わる。対向歯71bの歯底部71b1及び歯先部71b2は、円錐(歯底部71b1の円錐Co4のみを示す)の側面から構成され、円錐の頂点はPで交わる。
図22に示すように、図示しないモータ等の駆動源を用いて、入力軸75を回転させると、第一冠ギヤ71が波動運動する。第一冠ギヤ71の波動運動に伴い、第一冠ギヤ71と第二冠ギヤ72との噛み合い箇所、第一冠ギヤ71と第三冠ギヤ73との噛み合い箇所が円周方向に移動する。そして、第一冠ギヤ71の波動運動に伴い、第一冠ギヤ71が第二冠ギヤ72に対して両者の歯数差の分だけ相対的に回転する。また、第三冠ギヤ73が第一冠ギヤ71に対して両者の歯数差の分だけ相対的に回転する。第三冠ギヤ73の回転数は、第二冠ギヤ72に対する第一冠ギヤ71の相対的な回転数と、第一冠ギヤ71に対する第三冠ギヤ73の相対的な回転数とを合算したものになる。二組のギヤを、互いに打ち消し合う方向に回転させれば、大きな減速比が得られるし、互いに助長する方向に回転させれば、小さな減速比が得られる。
<第三の実施形態の減速装置の歯の設計>
第三の実施形態の減速装置の歯の設計は、第一の実施形態の減速装置の歯の設計と略同一である。ただし、第一冠ギヤ71は、第三冠ギヤ73に向かって凸の円錐形の母体を持ち、第三冠ギヤ73は、第一冠ギヤ71に向かってすり鉢状の円錐形の母体を持つ。このため、図24(a)に示すように、定円錐である第一冠ギヤ71に動円錐である第三冠ギヤ73が覆い被さるような形となる。トロコイド曲線を求めるにあたって、上記の数2を、
に変更する必要がある。ここで、動円錐の底面半径がr
cr、底角がΦ
cr、定円錐の底面半径がr
cf、底角がΦ
cfである。他の数3〜数7は、変更する必要がない。
図25は、求めたトロコイド曲線を示す。図25において、ベクトルp2が描く軌跡がトロコイド曲線である。
なお、本発明は、上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまな実施形態に具現化可能である。
上記実施形態では、減速機を中心に説明したが、入力側と出力側を逆にすることで、軸方向にコンパクトな増速機としても利用できる。例えば、水力発電機のような入力側のパワーの大きい発電機に対して本発明を増速機として利用することで、軸方向のコンパクト化が図れる。