以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
図1Aは従来の液晶表示装置における2層構造の配向膜の断面模式図であり、図1Bは、本発明の液晶表示装置における2層構造の配向膜の断面模式図である。図1Aに示すように、従来の第1の配向膜層(1)と、第1の配向膜層の下層に形成された第2の配向膜層(2)によって構成された配向膜(3)からなる液晶表示装置においては、第1の配向膜層の成分高分子(4)は第1の配向膜層(1)に存在し、第2の配向膜層の成分高分子(5)は第2の配向膜層(2)に存在している。
このような2層構造の光配向膜は、例えば特許文献2に記載されている。このような光配向膜においては、2成分系から成る材料を相分離させて配向膜を2層構造とし、配向安定性の高い光配向成分を液晶層側に配置して、配向安定性が不要である低抵抗成分を基板側に配置することによって、配向安定性と配向膜の低抵抗化によるDC残像の時定数の低減を同時に満たすことが可能となり、その結果、光配向膜の残像特性が大幅に改良されることが示されている。
しかしながら、光配向性の高さはその部分の光反応を伴うものであり、特に光分解型の光配向膜材料ではその部分の化学構造を破壊していくために、配向性の高い配向膜層は必然的に機械的強度の脆弱な配向膜となってしまう。そこで、図1(b)に示すように、本発明では第1の配向膜層(1)と第2の配向膜層(2)の両方に共通して存在する配向膜に共通の成分高分子(6)を導入する。このような共通成分があることで、第1の配向膜層(1)の機械的強度が補強されると共に、第1の配向膜層(1)と第2の配向膜層(2)との間での界面剥離が低減される。
図2に示すように、このような異種高分子のブレンドの相溶性に関しては、各高分子の溶解度パラメータχによって整理することができる。(ここでは単純のため高分子の分子量はすべて同じとする。)ここで、第1の配向膜層の成分高分子(4)の溶解度パラメータをχ1、第2の配向膜層の成分高分子(5)の溶解度パラメータをχ2、とすると、相互溶解性の乏しい(相分離しやすい)高分子ブレンドほどχ1とχ2の差が大きい。したがって、両方の配向膜層に対して溶解性を持つ共通の成分高分子(6)はχ1とχ2の間の溶解度パラメータχ3を持つ必要がある。このような中間的な溶解度パラメータを持つ共通の成分高分子(6)を探す分子設計が必要であるが、簡便な方法として成分高分子(4)と成分高分子(5)を構成する繰り返し単位(図ではそれぞれ白丸、黒丸で略記している)をランダムに混合して合成した成分高分子(6’)は中間的な溶解度パラメータχ4となる。このような3成分系においては成分高分子(1)と成分高分子(2)は相溶性を持たないのに、双方に共通する成分高分子(6’)は双方に溶解性を有する。但し、成分高分子(1)と成分高分子(2)に等しい割合で共通する成分高分子(6’)が溶解するとは限らす、各成分の為す相の成分比となる。このような配向膜は通常の手法によって、液晶表示装置に組み立てることができる。
次に、本配向膜が作製された液晶表示装置について説明する。図3A〜図3Dは、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式図である。図3Aは、本液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。図3Bは、液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。図3Cは、液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図である。図3Dは、図3CのA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
本発明の配向膜は、たとえば、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置に適用される。アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、携帯型電子機器向けのディスプレイ(モニター)、パーソナルコンピュータ用のディスプレイ、印刷やデザイン向けのディスプレイ、医療用機器のディスプレイ、液晶テレビなどに用いられている。
アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、図3Aに示すように、液晶表示パネル101、第1の駆動回路102、第2の駆動回路103、制御回路104、およびバックライト105を有する。
液晶表示パネル101は、複数本の走査信号線GL(ゲート線)および複数本の映像信号線DL(ドレイン線)を有し、映像信号線DLは第1の駆動回路102に接続しており、走査信号線GLは第2の駆動回路103に接続している。なお、図3Aには、複数本の走査信号線GLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル101には、さらに多数本の走査信号線GLが密に配置されている。同様に、図3Aには、複数本の映像信号線DLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル101には、さらに多数本の映像信号線DLが密に配置されている。
また、液晶表示パネル101の表示領域DAは、多数の画素の集合で構成されており、表示領域DAにおいて1つの画素が占有する領域は、たとえば、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLとで囲まれる領域に相当する。このとき、1つの画素の回路構成は、たとえば、図3Bに示すような構成になっており、アクティブ素子として機能するTFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT(対向電極と呼ぶこともある)、液晶層LCを有する。またこのとき、液晶表示パネル101には、たとえば、複数の画素の共通電極CTを共通化する共通化配線CLが設けられている。
また、液晶表示パネル101は、たとえば、図3Cおよび図3Dに示すように、アクティブマトリクス基板(TFT基板)106と対向基板107の表面に配向膜606および705をそれぞれ形成し、それら配向膜の間に液晶層LC(液晶材料)を配置した構造になっている。また、ここでは特に図示していないが、配向膜606とアクティブマトリクス基板106の間、または配向膜705と対向基板107の間に、適宜中間層(例えば位相差板や色変換層、光拡散層等の光学的中間層)を設けてもよい。
このとき、アクティブマトリクス基板106と対向基板107とは、表示領域DAの外側に設けられた環状のシール材108で接着されており、液晶層LCは、アクティブマトリクス基板106側の配向膜606、対向基板107側の配向膜705、およびシール材108で囲まれた空間に密封されている。またこのとき、バックライト105を有する液晶表示装置の液晶表示パネル101は、アクティブマトリクス基板106、液晶層LC、および対向基板107を挟んで対向配置させた一対の偏光板109a、109bを有する。
なお、アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板などの絶縁基板の上に走査信号線GL、映像信号線DL、アクティブ素子(TFT素子Tr)、画素電極PXなどが配置された基板である。また、液晶表示パネル101の駆動方式がIPS方式などの横電界駆動方式である場合、共通電極CTおよび共通化配線CLはアクティブマトリクス基板106に配置されている。また、液晶表示パネル101の駆動方式がTN方式やVA(Vertically Alignment)方式などの縦電界駆動方式である場合、共通電極CTは対向基板107に配置されている。縦電界駆動方式の液晶表示パネル101の場合、共通電極CTは、通常、すべての画素で共有される大面積の一枚の平板電極であり、共通化配線CLは設けられていない。
また、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置では、液晶層LCが密封された空間に、たとえば、それぞれの画素における液晶層LCの厚さ(セルギャップということもある)を均一化するための柱状スペーサ110が複数設けられている。この複数の柱状スペーサ110は、たとえば、対向基板107に設けられている。
第1の駆動回路102は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧ということもある)を生成する駆動回路であり、一般に、ソースドライバ、データドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、第2の駆動回路103は、走査信号線GLに加える走査信号を生成する駆動回路であり、一般に、ゲートドライバ、走査ドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、制御回路104は、第1の駆動回路102の動作の制御、第2の駆動回路103の動作の制御、およびバックライト105の輝度の制御などを行う回路であり、一般に、TFTコントローラ、タイミングコントローラなどと呼ばれている制御回路である。また、バックライト105は、たとえば、冷陰極蛍光灯などの蛍光灯、または発光ダイオード(LED)などの光源であり、当該バックライト105が発した光は、図示していない反射板、導光板、光拡散板、プリズムシートなどにより面状光線に変換されて液晶表示パネル101に照射される。
図4は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置のIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板601などの絶縁基板の表面に、走査信号線GLおよびここでは図示していないが共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層602が形成されている。第1の絶縁層602の上には、TFT素子Trの半導体層603、映像信号線DL、および画素電極PXと、それらを覆う第2の絶縁層604が形成されている。半導体層603は、走査信号線GLの上に配置されており、走査信号線GLのうちの半導体層603の下部に位置する部分がTFT素子Trのゲート電極として機能する。
また、半導体層603は、たとえば、第1のアモルファスシリコンからなる能動層6031(チャネル形成層)の上に、第1のアモルファスシリコンとは不純物の種類や濃度が異なる第2のアモルファスシリコン6032からなるソース拡散層およびドレイン拡散層が積層された構成になっている。またこのとき、映像信号線DLの一部分および画素電極PXの一部分は、それぞれ、半導体層603に乗り上げており、当該半導体層603に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。
ところで、TFT素子Trのソースとドレインは、バイアスの関係、すなわちTFT素子Trがオンになったときの画素電極PXの電位と映像信号線DLの電位との高低の関係によって入れ替わる。しかしながら、本明細書における以下の説明では、映像信号線DLに接続している電極をドレイン電極といい、画素電極に接続している電極をソース電極という。第2の絶縁層604の上には、表面が平坦化された第3の絶縁層605(有機パッシベーション膜)が形成されている。第3の絶縁層605の上には、共通電極CTと、共通電極CTおよび第3の絶縁層605を覆う配向膜606が形成されている。
共通電極CTは、第1の絶縁層602、第2の絶縁層604、および第3の絶縁層605を貫通するコンタクトホール(スルーホール)を介して共通化配線CLと接続している。また、共通電極CTは、たとえば、平面における画素電極PXとの間隙Pgが7μm程度になるように形成されている。配向膜606は以下の実施例に記載された高分子材料が塗布され、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(光配向処理)及び酸化処理が施され、疎水性が維持された状態で配向膜表面の酸素原子割合が高められている。
一方、対向基板107には、ガラス基板701などの絶縁基板の表面に、ブラックマトリクス702およびカラーフィルタ(703R,703G,703B)と、それらを覆うオーバーコート層704が形成されている。ブラックマトリクス702は、たとえば、表示領域DAに画素単位の開口領域を設けるための格子状の遮光膜である。また、カラーフィルタ(703R,703G,703B)は、たとえば、バックライト105からの白色光のうちの特定の波長領域(色)の光のみを透過する膜であり、液晶表示装置がRGB方式のカラー表示に対応している場合は、赤色の光を透過するカラーフィルタ703R、緑色の光を透過するカラーフィルタ703G、および青色の光を透過するカラーフィルタ703Bが配置される(ここでは一つの色の画素について代表して示している)。
また、オーバーコート層704は、表面が平坦化されている。オーバーコート層704の上には、複数の柱状スペーサ110および配向膜705が形成されている。柱状スペーサ110は、たとえば、頂上部が平坦な円錐台形(台形回転体ということもある)であり、アクティブマトリクス基板106の走査信号線GLのうちの、TFT素子Trが配置されている部分および映像信号線DLと交差している部分を除く部分と重なる位置に形成されている。また、配向膜705は、たとえば、ポリイミド系樹脂で形成されており、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(光配向処理)及び酸化処理が施され、疎水性が維持された状態で配向膜表面の酸素原子割合が高められている。
また、図4の方式の液晶表示パネル101における液晶層LCの液晶分子111は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、ガラス基板601、701の表面にほぼ平行に配向された状態であり、配向膜606、705に施された配向規制力処理で規定された初期配向方向に向いた状態でホモジニアス配向している。そして、TFT素子Trをオンにして映像信号線DLに加えられている階調電圧を画素電極PXに書き込み、画素電極PXと共通電極CTとの間の電位差が生じると、図中に示したような電界112(電気力線)が発生し、画素電極PXと共通電極CTとの電位差に応じた強度の電界112が液晶分子111に印加される。
このとき、液晶層LCが持つ誘電異方性と電界112との相互作用により、液晶層LCを構成する液晶分子111は電界112の方向にその向きを変えるので、液晶層LCの屈折異方性が変化する。またこのとき、液晶分子111の向きは、印加する電界112の強度(画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさ)によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える階調電圧を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行うことができる。
図5は、本発明の実施の形態に係る他の液晶表示装置のFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板601などの絶縁基板の表面に、共通電極CT、走査信号線GL、および共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層602が形成されている。第1の絶縁層602の上には、TFT素子Trの半導体層603、映像信号線DL、およびソース電極607と、それらを覆う第2の絶縁層604が形成されている。このとき、映像信号線DLの一部分およびソース電極607の一部分は、それぞれ、半導体層603に乗り上げており、当該半導体層603に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。
また、図5の液晶表示パネル101では、第3の絶縁層605が形成されておらず、第2の絶縁層604の上に画素電極PXと、画素電極PXを覆う配向膜606が形成されている。ここでは図示していないが、画素電極PXは、第2の絶縁層604を貫通するコンタクトホール(スルーホール)を介してソース電極607と接続している。このとき、ガラス基板601の表面に形成された共通電極CTは、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLで囲まれた領域(開口領域)に平板状に形成されており、当該平板状の共通電極CTの上に、複数のスリットを有する画素電極PXが積層されている。またこのとき、走査信号線GLの延在方向に並んだ画素の共通電極CTは、共通化配線CLによって共通化されている。一方、図5の液晶表示パネル101における対向基板107は、図4の液晶表示パネルの対向基板107と同じ構成である。そのため、対向基板107の構成に関する詳細な説明は省略する。
図6は、本発明の実施の形態に係る他の液晶表示装置のVA方式液晶表示パネルの主要部の断面構成の一例を示す模式断面図である。縦電界駆動方式の液晶表示パネル101は、例えば、図6に示すように、アクティブマトリクス基板106に画素電極PXが形成されており、対向基板107に共通電極CTが形成されている。縦電界駆動方式の1つであるVA方式の液晶表示パネル101の場合、画素電極PXおよび共通電極CTは、たとえば、ITOなどの透明導電体によりベタ形状(単純な平板形状)に形成されている。
このとき、液晶分子111は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、配向膜606、705によりガラス基板601、701の表面に対して垂直に並べられている。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、ガラス基板601、701に対してほぼ垂直な電界112(電気力線)が発生し、液晶分子111が基板601、701に対して平行な方向に倒れ、入射光の偏光状態が変化する。またこのとき、液晶分子111の向きは、印加する電界112の強度によって決まる。
したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行う。また、VA方式の液晶表示パネル101における画素の構成、たとえば、TFT素子Trや画素電極PXの平面形状は、種々の構成が知られており、図6に示したVA方式での液晶表示パネル101における画素の構成は、それらの構成のいずれかであればよい。ここでは、その液晶表示パネル101における画素の構成に関する詳細な説明を省略する。なお、符号608は導電層、符号609は突起形成部材、符号609aは半導体層、符号609bは導電層を示す。
本発明の実施の形態は、上記のようなアクティブマトリクス方式の液晶表示装置のうち、液晶表示パネル101、特に、アクティブマトリクス基板106および対向基板107において液晶層LCに接する部分およびその周辺の構成に関する。そのため、従来の技術をそのまま適用できる第1の駆動回路102、第2の駆動回路103、制御回路104、およびバックライト105の構成についての詳細な説明は省略する。
これら液晶表示装置を製造するためには、既に液晶表示装置に用いられている各種配向膜材料や配向処理方法、各種液晶材料等を用いることが可能であり、それらを液晶表示装置に組立加工する際の各種プロセスを適用することも可能である。その一例を図7に示す。まず、アクティブマトリクス基板と対向基板をそれぞれの製造プロセスを経て準備し、配向膜を形成する下地層表面をUV/オゾン法、エキシマUV法、酸素プラズマ法等の各種表面処理方法を用いて清浄化する。
次に、配向膜の前駆体をスクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット等の各種印刷方法を用いて塗布し、所定の条件で均一な膜厚となるようなレベリング処理を施した後、例えば180℃以上の温度で加熱することで前駆体のポリアミドをポリイミドにイミド化反応を行わせる。更に、所望の手段を用いて、偏光紫外線を照射したり適度な後処理をすることにより、ポリイミド配向膜表面に配向規制力を発生させる(光配向)。この偏光紫外線照射や照射後処理の段階で加熱や別の波長の光を照射することも可能である。また、この偏光紫外線照射の前から後のいずれかの段階において、先に説明したような表面処理過程を加えることにより、表面の液晶配向規制力が高く、かつ膜全体の光学的異方性のない光配向膜が形成される。
このようにして形成された配向膜付きのアクティブマトリクス基板と対向基板をその配向規制力の方向が所望の方位となるようにしつつ、一定の間隔を保持して上下2枚貼り合わせ、しかる後、その間隔を保持した部分に液晶を充填し、基板端部を封止することにより、液晶パネルが完成し、そのパネルに偏光板、位相差板等の光学フィルムを貼りつけ、駆動回路やバックライト等を併せて、液晶表示装置を得る。なお、上記の説明ではアクティブマトリクス基板(TFT基板)に形成した配向膜と対向基板(CF基板)に形成した配向膜の両者とも酸化雰囲気に暴露したが、いずれか一方だけであっても残像特性に対する改善効果を得ることができる。但し、両者とも表面処理することにより、より残像特性が改善されることは言うまでもない。
次に、得られた光配向膜が所望の特性を有する膜であり、それを組み立てて得られた液晶表示装置が所望の特性を有する装置となっていることを確認する方法の一例について説明する。
まず、配向規制力の大きさを表す液晶のアンカリング力は次の方法で測定できる。すなわち、2枚一組のガラス基板に配向膜を塗布して光配向処理を行い、その2枚の配向膜の配向方向が平行となるようにして、適当な厚みdのスペーサを介在させて、評価用ホモジニアス配向液晶セルを作製する。これに材料物性が既知のカイラル剤入りネマチック液晶材料(らせんピッチp、弾性定数K2)を封入し、配向を安定化させるために一度液晶等方相に評価用セルを保持した後、室温に戻し、以下の方法でツイスト角φ2を測定する。
次に、空気の圧力または遠心力でセル内の大部分の液晶を除去し、セル内を溶媒洗浄、乾燥させてから、同じ液晶でカイラル剤のないものを封入し、同様に配向を安定化させてから、ツイスト角φ1を測定する。この時、アンカリング強度は次式によって与えられる。
また、ツイスト角は、図8に示すような光学系を用いて測定した。すなわち、可視光源6とフォトマル10を同一直線上にコリメートし、その間に偏光子7、評価用セル8、検光子9の順に配置する。可視光源9にはタングステンランプを用い、まず偏光子7の透過軸と検光子9の吸収軸を評価用セル8の配向膜の配向方向(L−L’)とほぼ平行に合わせる。次に、偏光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。
次に、検光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。以下、同様に偏光子のみの回転、検光子のみの回転を繰り返し、角度が一定になるまで繰り返す。最終的に収束した時点での偏光子の透過軸回転角度φ偏光子と、検光子の吸収軸回転角度φ検光子に対して、ツイスト角φ=φ検光子−φ偏光子と定義する。ここで、測定の読み取り誤差は用いる液晶の屈折率異方性Δnと液晶セルの厚みdとを調節することで低減できる。
次に、得られた光配向膜の機械的強度は以下のような90°ピール強度測定により行った。すなわち、100mm角の素ガラス基板を用意し、この上に所定の基板表面清浄化処理を行った後、配向膜前駆体溶液を塗布し、仮乾燥、熱イミド化反応を行わせた後、最初のピール強度試験を行った(この時の膜強度を初期膜強度とする)。この後、偏光紫外線を照射し、所定の熱処理等を施した後、各処理後の試料のピール強度試験を行った(この時の膜強度を試験後強度とする)。各処理後の膜強度の変化は相対膜強度(試験後強度/初期強度をパーセント表示した値)で表した。なお、これらの試験は室温23℃、湿度30%の定常環境室内に試料を24時間保持した後に行い、測定も同じ環境室内にて行った。
次に、輝度緩和定数は以下の方法で測定できる。先に詳細に述べるような手順によって、配向膜を含む各種液晶表示素子を作製する。この液晶表示装置に、白黒のウィンドウパターンを所定時間連続表示後(これを焼付け時間と称する)、直ちに全画面中間調のグレーレベルの表示電圧に切り替え、ウィンドウパターン(焼き付き、残像ともいう)が消失する時間を計測する。
理想的には配向膜においては、液晶表示装置のいずれの部分にも残留電荷が発生せず、配向規制力方向も乱されることがないため、表示電圧の切り替えと共に、直ちに全画面グレーレベルの表示になるが、駆動の伴う残留電荷の発生や配向規制力方向の乱れ等によって、明領域(白パターンの部分)は実効的な配向状態が理想的なレベルからずれるために、輝度が異なって見えてしまうが、この中間調表示の電圧で更に長時間保持すると、この電圧での残留電荷や配向規制力方向にやがて落ち着くことになり、均一表示に見えてくる。液晶表示素子の面内輝度分布をCCDカメラによって測定し、均一表示になるまでの時間を焼き付き時間とし、この焼き付き時間をもって、その液晶表示素子の輝度緩和定数とした。但し、480時間経過しても緩和しない場合には、そこで評価を打切り、≧480と記載した。
次に、得られた光配向膜が第1の配向膜層と、第1の配向膜層の下層に形成された第2の配向膜層との積層構造であるかは以下の手法で確認した。素ガラス基板上に所定の方法で形成した光配向膜を基板ごと割断し、更にFIB(Focused Ion Beam)エッチング加工によって平坦な膜断面に仕上げた後、1mol/little硝酸銀水溶液に1昼夜浸漬、水洗後、配向膜断面をSEM(Scanning Electron Microscope)観察した。これを図9に示す。
一例として、実施例1の中の図11に示す表1の試料「試料1−3」の断面SEM像を示した。基板(21)の上に配向膜(3)が形成され、基板側から第2の配向膜層(2)、第1の配向膜層(1)が形成されており、第2の配向膜層(2)の方が第1の配向膜層(1)よりも明るいコントラストで映し出されている。第1の配向膜層(1)にあるのは、SEM観察時の試料帯電防止のためのコート層(22)である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
最初に、画素電極とTFTとを備え、画素の上に配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側の最表面上に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜の間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記配向膜は液晶層と接する少なくとも1種類のポリイミドを有する第1の配向膜層と、前記第1の配向膜層の下層に形成された少なくとも1種類のポリイミドを有する第2の配向膜層によって構成され、前記第1の配向膜層は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であることを特徴とする液晶表示装置において、前記第1の配向膜層と前記第2の配向膜層には共通のポリイミド成分を有することを特徴とする液晶表示装置を作製した結果について、図表を用いて説明する。
試験用の配向膜には、以下のようなものを用いた。まず、第1の配向膜層の成分高分子(4)となるポリイミドの前駆体として、(化2)で表される分子骨格の中から、(化3)で示すような化学構造を選んで、既存の化学合成方法に従って、原料となる酸二無水物とジアミンからポリアミド酸を合成した。
また、第2の配向膜層の成分高分子(5)となるポリイミドの前駆体として、(化2)で表される分子骨格の中から、(化4)で示される化学構造を選んだ。
また、配向膜に共通の成分高分子(6’)として、(化2)で表される分子骨格の中から、A1:A2=D1:D2=−CH3:−Hの比率が1:1(これを特性比率とする)となるようにしたランダムコポリマを選んだ。
これらの各ポリアミド酸の分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析) によってポリスチレン換算分子量から求め、それぞれ16000、14000、13000であった。ブチルセロソルブ、N−メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン、等の各種溶媒を混合したものに所定の比率で溶解させた。これを所定の下地基板にフレクソ印刷で薄膜化し、40℃以上の温度で仮乾燥した後、150℃以上のベーク炉にてイミド化を行った。この時の膜厚が概ね100nmとなるように、薄膜化条件は事前に調整した。
次に、偏光した光によって高分子化合物の一部分子骨格が切断されることにより液晶配向規制力を付与するために、紫外線ランプ(低圧水銀灯)とワイヤグリッド偏光子、干渉フィルタにて、偏光化した紫外線(主波長280nm)を集光照射した。しかる後、加熱乾燥等により表面の異物を除去した(これを加熱処理と称する)ものを作製した。この際、照射した偏光紫外線量は20〜2000mJ/cm2の範囲で変化させ、アンカリング力が最大となった時の照射条件をその膜の最適照射光量とした。以降の結果は、この最適照射光量の時の特性を比較検討したものである。
図10の表1には、得られた膜およびその膜を用いたIPS型の液晶表示素子に関しての評価結果(アンカリング力、初期膜強度、相対膜強度、輝度緩和定数)をまとめた。ここで、第1の配向膜層の成分高分子(4)と第2の配向膜層の成分高分子(5)の混合割合は1:1に固定し、共通の成分高分子(6’)を加えなかった場合を比較例とし、共通の成分高分子(6’)の添加量を1〜30%で変化させた時の特性を比較した。これを見ると、液晶配向規制力の大きさを示すアンカリング力は共通の成分高分子(6’)の割合が12%までは1.4〜1.6mJ/m2の範囲でほとんど変化しないが、20%以上では低下が見られる。
これに対して膜強度は、共通の成分高分子(6’)の割合によらず初期膜強度は0.67〜0.74kN/mの範囲でほとんど変化しないが、相対膜強度は比較例が35%と脆弱化しているのに対して、共通の成分高分子(6’)の割合が増えるにつれて増加し、光配向処理に伴う偏光紫外線によるダメージに対する耐性が増加している。更に、液晶表示装置としての輝度緩和定数を比較すると、共通の成分高分子(6’)の割合が1〜20%の範囲では比較例よりも小さな値となり、液晶表示装置の残像特性が改善している。念のため、これら試料が第1の配向膜層と、その下層に形成された第2の配向膜層によって構成されていることは断面SEM観察によって確認した。
以上のことから、液晶層と接する少なくとも1種類のポリイミドを有する第1の配向膜層と、第1の配向膜層の下層に形成された少なくとも1種類のポリイミドを有する第2の配向膜層によって構成され、第1の配向膜層は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であることを特徴とする液晶表示装置において、第1の配向膜層と前記第2の配向膜層には共通のポリイミド成分を有することを特徴とする配向膜を用いる液晶表示装置において、配向膜の機械的強度が高まるのみならず、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
次に、別の特性比率で合成した共通の成分高分子(6’)を用いて、実施例1と同様の手順で配向膜および液晶表示装置を作製し、その特性を比較した結果について、図表を用いて説明する。
すなわち、第1の配向膜層の成分高分子(4)、及び第2の配向膜層の成分高分子(5)は実施例1と同一のものを用い、共通の成分高分子(6’)については特性比率=4:6のものを用いた。それ以外の条件は実施例1と同様である。
図11に示す表2には、得られた膜およびその膜を用いたIPS型の液晶表示素子に関しての評価結果(アンカリング力、初期膜強度、相対膜強度、輝度緩和定数)をまとめた。ここで、第1の配向膜層の成分高分子(4)と第2の配向膜層の成分高分子(5)の混合割合は1:1に固定し、共通の成分高分子(6’)を加えなかった場合を比較例とし、共通の成分高分子(6’)の添加量を1〜30%で変化させた時の特性を比較した。これを見ると、液晶配向規制力の大きさを示すアンカリング力は共通の成分高分子(6’)の割合が20%までは1.4〜1.6mJ/m2の範囲でほとんど変化しないが、20%以上では低下が見られる。実験結果による、より好ましい割合は12%までである。
これに対して膜強度は、共通の成分高分子(6’)の割合によらず初期膜強度は0.67〜0.79kN/mの範囲でほとんど変化しないが、相対膜強度は比較例が35%と脆弱化しているのに対して、共通の成分高分子(6’)の割合が増えるにつれて増加し、光配向処理に伴う偏光紫外線によるダメージに対する耐性が増加している。更に、液晶表示装置としての輝度緩和定数を比較すると、共通の成分高分子(6’)の割合が1〜20%の範囲では比較例よりも小さな値となり、液晶表示装置の残像特性が改善している。
以上のことから、液晶層と接する少なくとも1種類のポリイミドを有する第1の配向膜層と、第1の配向膜層の下層に形成された少なくとも1種類のポリイミドを有する第2の配向膜層によって構成され、第1の配向膜層は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であることを特徴とする液晶表示装置において、第1の配向膜層と前記第2の配向膜層には共通のポリイミド成分を有することを特徴とする配向膜を用いる液晶表示装置において、配向膜の機械的強度が高まるのみならず、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
次に、別の特性比率で合成した共通の成分高分子(6’)を用いて、実施例1と同様の手順で配向膜および液晶表示装置を作製し、その特性を比較した結果について、図表を用いて説明する。すなわち、第1の配向膜層の成分高分子(4)、及び第2の配向膜層の成分高分子(5)は実施例1と同一のものを用い、共通の成分高分子(6’)については特性比率=6:4のものを用いた。それ以外の条件は実施例1と同様である。
図12に示す表3には、得られた膜およびその膜を用いたIPS型の液晶表示素子に関しての評価結果(アンカリング力、初期膜強度、相対膜強度、輝度緩和定数)をまとめた。ここで、第1の配向膜層の成分高分子(4)と第2の配向膜層の成分高分子(5)の混合割合は1:1に固定し、共通の成分高分子(6’)を加えなかった場合を比較例とし、共通の成分高分子(6’)の添加量を1〜30%で変化させた時の特性を比較した。
これを見ると、液晶配向規制力の大きさを示すアンカリング力は共通の成分高分子(6’)の割合が8%までは1.4〜1.6mJ/m2の範囲でほとんど変化しないが、12%以上では低下が見られる。これに対して膜強度は、共通の成分高分子(6’)の割合によらず初期膜強度は0.64〜0.71kN/mの範囲でほとんど変化しないが、相対膜強度は比較例が35%と脆弱化しているのに対して、共通の成分高分子(6’)の割合が増えるにつれて増加し、光配向処理に伴う偏光紫外線によるダメージに対する耐性が増加している。更に、液晶表示装置としての輝度緩和定数を比較すると、共通の成分高分子(6’)の割合が1〜12%の範囲では比較例よりも小さな値となり、液晶表示装置の残像特性が改善している。総合的にみると、共通の成分高分子(6’)の割合が1〜12%の範囲では比較例よりもすぐれた特性を示し、より好ましい範囲は、共通の成分高分子(6’)の割合が1〜12%の範囲である。
以上のことから、液晶層と接する少なくとも1種類のポリイミドを有する第1の配向膜層と、第1の配向膜層の下層に形成された少なくとも1種類のポリイミドを有する第2の配向膜層によって構成され、第1の配向膜層は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であることを特徴とする液晶表示装置において、第1の配向膜層と前記第2の配向膜層には共通のポリイミド成分を有することを特徴とする配向膜を用いる液晶表示装置において、配向膜の機械的強度が高まるのみならず、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
次に、本発明の配向膜は、基板塗布直前の状態において溶媒に均一に溶解させた溶液状態であり、基板塗布後に加熱することで前記溶液状態に相分離状態が発現することを、図表を用いて説明する。
図13に示す表4には、ここで検討した基板塗布後から、熱イミド化反応前までの過程で、仮乾燥条件として種々変化させた加熱条件の一覧を示した。ここでは加熱温度は50〜180℃の範囲で変化させ、加熱時間は1〜5分の間で変化させた。(特に説明しなかったが、実施例1から3においては条件5を標準としている。)
図14に示す表5には、得られた配向膜の断面構造観察結果をまとめた。ここで、図9のように膜全面にわたり均一な二層構造が認められた場合をDL、部分的に二層構造があったり、不鮮明だった場合をMD、全く不鮮明な像しか得られなかった場合をAMと表記した。これを見ると、共通の成分高分子(6’)の比率によって異なるが、加熱温度が70〜150℃の範囲で二層構造が出現しやすく、加熱時間は1分以上で効果があるか、より長い時間の方が二層構造が出現しやすいことがわかる。一方、塗布後直ちにイミド化させた場合はいずれの比率でも二層構造が観察されず、塗布直後の各高分子成分の分布はアモルファス状態であることが推察される。また、180℃以上でも二層構造が見出されておらず、これはこの温度以上では既に熱イミド化反応が進行し、相分離状態を実現させるための各高分子の流動性が確保されないためと推定される。
以上のことから、本発明の配向膜は、基板塗布直前の状態において溶媒に均一に溶解させた溶液状態であり、基板塗布後に加熱することで前記溶液状態に相分離状態が発現することが明らかとなった。