以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
<第1の実施の形態>
[A.工作機械100の構成]
図1を参照して、工作機械100の構成について説明する。図1は、工作機械100の一例を示す図である。
図1には、マシニングセンタとしての工作機械100が示されている。以下では、マシニングセンタとしての工作機械100について説明するが、工作機械100は、マシニングセンタに限定されない。たとえば、工作機械100は、旋盤であってもよいし、その他の切削機械や研削機械であってもよい。
図1に示されるように、工作機械100は、主要な構成として、ベッド12と、サドル18と、コラム21と、主軸頭41と、テーブル26とを有する。
ベッド12は、サドル18やコラム21などを搭載するためのベース部材であり、工場などの据え付け面に設置されている。
ベッド12には、コラム21が取り付けられている。コラム21は、ベッド12に固定されている。コラム21は、全体として、ベッド12の上面に立設される門形形状を有する。
より具体的には、コラム21は、その構成部位として、側部22(22s,22t)と、頂部23とを有する。側部22は、ベッド12の上面から鉛直上方向に立ち上がるように設けられている。側部22sおよび側部22tは、水平方向に平行なX軸方向に間隔を隔てて配置されている。頂部23は、X軸方向に沿って側部22sから側部22tまで延設されている。
なお、工作機械100の機械構成は、基本的には、X軸方向における中心に対して左右対称の構造を有している。本実施の形態において、参照番号に「s」および「t」が付された構成は、その左右対称に対応する一対の部品である。
ベッド12には、サドル18が取り付けられている。サドル18は、ベッド12に対して、X軸方向にスライド移動可能に設けられている。サドル18には、主軸頭41が取り付けられている。主軸頭41は、側部22s、頂部23、側部22tおよびベッド12に囲まれた空間を通って、テーブル26に向けて延出している。主軸頭41は、水平方向に平行であり、X軸方向に直交するZ軸方向にスライド移動可能に設けられている。
主軸頭41は、主軸42と、ハウジング43とを有する。主軸42は、ハウジング43の内部に配置され、Z軸方向に平行な中心軸AX1を中心に、モータ駆動により回転可能に設けられている。このとき、ハウジング43は回転しない。主軸42には、加工対象であるワークを加工するための工具が装着される。主軸42の回転に伴って、主軸42に装着された工具が中心軸AX1を中心に回転する。なお、工作機械100が旋盤である場合には、主軸42には、ワークが装着される。この場合、主軸42の回転に伴って、主軸42に装着されたワークが回転する。
ハウジング43には、主軸42または工具の振動周波数を検知するための加速度センサ110が設けられている。好ましくは、複数の加速度センサ110がハウジング43に設けられ、各加速度センサ110は、主軸42の異なる方向(たとえば、X,Y,Z方向)の振動を検知する。なお、主軸42の振動周波数を検知するためのセンサは、加速度センサ110に限定されず、主軸42の振動周波数を検知することが可能な任意のセンサが用いられ得る。
ベッド12、サドル18および主軸頭41には、サドル18のX軸方向へのスライド移動および主軸頭41のZ軸方向へのスライド移動を可能とするための送り機構や案内機構、駆動源としてのサーボモータなどが適宜、設けられている。
コラム21には、テーブル26が取り付けられている。テーブル26は、コラム21に対して、鉛直方向に平行であり、X軸方向およびZ軸方向に直交するY軸方向にスライド移動可能に設けられている。
テーブル26は、ワークを固定するための装置であり、パレット27と、回転機構部29(29s,29t)とを有する。
パレット27は、金属製の台であり、各種のクランプ機構を用いてワークが取り付けられる。パレット27は、回転機構部29によって、X軸に平行な中心軸AX2を中心に旋回可能に設けられている(a軸旋回)。回転機構部29sおよび回転機構部29tは、X軸方向に間隔を隔てて配置されている。パレット27は、回転機構部29sおよび回転機構部29tの間に装着されている。パレット27は、さらに、パレット27の主面に直交する中心軸を中心に旋回可能に設けられてもよい(b軸旋回)。
コラム21およびテーブル26には、テーブル26のY軸方向へのスライド移動を可能とするための送り機構や案内機構、駆動源としてのサーボモータなどが適宜、設けられている。
サドル18のX軸方向へのスライド移動、主軸頭41のZ軸方向へのスライド移動およびテーブル26のY軸方向へのスライド移動が組み合わさって、主軸42に装着された工具によるワークの加工位置が3次元的に移動する。
工作機械100は、マガジン30と、自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)36とをさらに有する。マガジン30は、主軸42に装着する交換用の工具32を収容するための装置である。自動工具交換装置36は、主軸42およびマガジン30の間で工具を交換するための装置である。
マガジン30は、マガジン本体部31と、柱部材14,16と、台部材33とを有する。
マガジン本体部31は、複数の工具保持部34と、スプロケット35とを有する。工具保持部34は、工具32を保持可能なように構成されている。複数の工具保持部34は、スプロケット35の周囲に環状に配列されている。スプロケット35は、モータ駆動により、Y軸に平行な中心軸AX3を中心に回転可能に設けられている。スプロケット35の回転に伴って、複数の工具保持部34が中心軸AX3を中心に回転移動する。
マガジン本体部31は、柱部材14,16と、台部材33とによって、ベッド12から鉛直上方向に距離を設けた位置に支持されている。
スプロケット35の回転に伴って、特定の工具32を保持する工具保持部34が機械前方の所定位置に割り出される。特定の工具32は、工具搬送装置(図示しない)によってZ軸方向に搬送され、工具交換位置まで移動する。自動工具交換装置36が有するダブルアーム37が旋回することにより、工具交換位置に搬送された特定の工具32と、主軸42に装着された工具とが交換される。主軸42に装着され得る工具32は、たとえば、エンドミルなどのフライスを含む。
[B.再生びびり振動が生じる原理]
工作機械でワークを加工する際、工具32の刃先が微小に振動するびびり振動が生じることがある。びびり振動には、強制びびり振動と、再生びびり振動がある。強制びびり振動は、工作機械が振動源となり発生する振動であり、工具32の振動周波数が工具32の固有振動数に等しくなったときに生じる。再生びびり振動は、工具32の振動周波数と工具32によるワークの切込み深さとの関係が所定の条件を満たしたときに生じる振動である。
本実施の形態に従う工作機械100は、主軸42の回転数を逐次的に調整することで、再生びびり振動を抑制する。この調整処理の理解を容易にするために、まず、図2〜図5を参照して、再生びびり振動が生じる原理について説明する。
図2は、再生びびり振動が生じやすい加工条件の一例を示す図である。より詳細には、図2(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。図2(B)には、今回の切削時における工具32の振動周波数が示されている。図2(C)には、今回の切削時における工具32によるワークの切削厚が示されている。
工具32は、回転しながらワークを繰り返し切削することでワークを加工する。工具32は、ワークの加工中に振動しており、図2(A)に示されるように、ワークの切削面に起伏が生じる。
工具32が次にワークを切削するとき、前回の切削時における切削跡と、今回の切削時における工具32の振動周波数とがずれることがある。このずれを「φ」で表わすと、図2(A)および図2(B)の例では、ずれφは、π/4(=90度)となっている。このようなずれが生じると、ワークの切削厚が切削位置に応じて変動する。図2(C)には、φ=π/4のずれが生じている場合における切削厚の変動が示されている。切削厚が変動すると、工具32が切削中にワークから受ける力が変動し、再生びびり振動が生じやすくなる。特に、φ=π/4となるときが、再生びびり振動が一番生じやすい。
図3は、再生びびり振動が生じにくい加工条件の一例を示す図である。より詳細には、図3(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。図3(B)には、今回の切削時における工具32の振動周波数が示されている。図3(C)には、今回の切削時における工具32によるワークの切削厚が示されている。
図3(A)および図3(B)の例では、工具32の振動周波数は、前回の切削時における切削跡と重なっている。この場合、ずれ「φ」が0となり、ワークの切削厚が一定になる。そのため、工具32が切削中にワークから受ける力が一定になり、再生びびり振動が生じにくくなる。
したがって、ずれ「φ」が0に近付くように主軸42の回転数が調整されると再生びびり振動が生じにくくなる。一方で、ずれ「φ」がπ/4に近付くように主軸42の回転数が調整されると再生びびり振動が生じやすくなる。
典型的には、下記式(2)に示される「k」が整数になるとき、ずれ「φ」が0となる。
k=60・fc/(n0・N)・・・(2)
式(2)に示される「k」は、工具32の第1の刃がワークに接触してから第2の刃がワークに接触するまでの間に工具32の振動によって生じる加工面の波数を表わす。「fc」は、主軸42の振動周波数を表わす。「N」は、工具32の刃数を表わす。「n0」は、主軸42の回転数を表わす。ここでいう回転数とは、単位時間辺り(たとえば、一分間辺り)における主軸42の回転数を意味し、回転速度と同義である。工具32は、主軸42に連動するため、主軸42の回転数は、工具32の回転数と等しい。そのため、主軸42の回転数は、工具32の回転数と同義である。
図4は、「k」が整数となる場合におけるワークWの加工態様を示す図である。図4には、主軸42の軸方向から見た場合における工具32およびワークWの態様が示されている。
図4(A)には、「k」が1である場合におけるワークWの加工態様が示されている。図4(A)に示されるように、「k」が1である場合、工具32の刃32AがワークWに接触してから工具32の刃32BがワークWに接触するまでの間に工具32の振動によって生じる加工面の波数は1となる。
図4(B)には、「k」が2である場合におけるワークWの加工態様が示されている。図4(B)の加工態様における工具32の回転数は、図4(A)の加工態様における工具32の回転数の1/2に相当する。図4(B)に示されるように、「k」が2である場合、ワークWの加工面における波数は2となる。
図4(C)には、「k」が3である場合におけるワークWの加工態様が示されている。図4(C)の加工態様における工具32の回転数は、図4(A)の加工態様における工具32の回転数の1/3に相当する。図4(C)に示されるように、「k」が3である場合、ワークWの加工面における波数は3となる。
図4(A)〜図4(C)に示される加工態様では、ずれ「φ」がいずれも0となるため、再生びびり振動が生じにくい。
図5は、主軸42の回転数とワークWの切り込み深さとの関係において再生びびり振動が生じる範囲と生じない範囲とを示す図である。図5に示されるグラフの横軸は、主軸42の回転数を表わす。図5に示されるグラフの縦軸は、ワークの切込み深さを表わす。ここでいう切込み深さとは、主軸42の軸方向における工具32とワークWとの接触部分の長さのことをいう。
ワークの切込み深さが境界線50よりも小さい範囲は、再生びびり振動が生じにくい加工条件を表わす。以下では、当該範囲を安定範囲Aともいう。
ワークの切込み深さが境界線50よりも大きい範囲は、再生びびり振動が生じやすい加工条件である。以下では、当該範囲を不安定範囲Bともいう。
[C.主軸42の回転数の調整処理]
引き続き図5を参照して、工作機械100による主軸42の回転数の調整処理について説明する。
本実施の形態に従う工作機械100は、主軸42の回転数を逐次的に調整し、主軸42の回転数が安定範囲Aに収まった時点で主軸42の回転数の調整処理を終了する。より具体的には、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えるまでは、工作機械100は、主軸42の回転数を所定量ずつ減少する。主軸42の回転数が安定範囲Aを超えると、工作機械100は、主軸42の回転数の増減を前回の調整とは逆転させるとともに、前回の調整量よりも今回の調整量を少なくする。これにより、主軸42の回転数が安定範囲Aに収まり、工作機械100は、再生びびり振動を抑制することができる。
図5においては、ステップS1〜S4の調整処理が順次実行することで主軸42の回転数を安定範囲AのローブA2に収めている様子が示されている。以下では、主軸42の回転数を安定範囲AのローブA2に収める処理例について説明する。
工作機械100は、ワークの加工を開始すると主軸42の回転数を初期値である「r0」に設定する。その後、工作機械100は、加速度センサ110(図1参照)の出力信号から主軸42の振動周波数を算出し、当該振動周波数に基づいて、工具32に再生びびり振動が生じているか否かを判断する。再生びびり振動の検知方法の詳細については後述する。
回転数「r0」において再生びびり振動が生じている場合、工作機械100は、所定の算出式に従って主軸42の回転数を算出する。一例として、工作機械100は、下記式(3)のTobiasの式に基づいて、新たな主軸42の回転数を算出する。
n=60・fC/{[k]・N}・・・(3)
上記式(3)に示される「n」は、次に設定する主軸42の回転数を表わす。「fC」は、主軸42の振動周波数を表わす。「[k]」は、上記式(2)で算出される「k」の整数部分に1を加えた整数を表わす。「N」は、主軸42に装着されている工具の刃数を表わす。
工作機械100は、加速度センサ110からの出力信号から算出された主軸42の振動周波数を上記式(3)に代入する。その結果、「n=r1」が算出されたとする。これを受けて、ステップS1において、工作機械100は、主軸42の回転数を回転数「r0」(第1回転数)から回転数「r1」(第2回転数)に調整する。その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。次に、工作機械100は、ステップS1での調整処理により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸42の回転数を増加するか減少するかを変える。なお、境界線50は未知であるので、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かについて何らかの方法で判断する必要がある。この判断方法の詳細については後述する。
工作機械100は、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたていないと判断した場合、主軸42の回転数を所定値減少させる。一方で、工作機械100は、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたと判断した場合、主軸42の回転数を所定値増加させる。
図5の例では、ステップS1の調整処理では主軸42の回転数が安定範囲Aを超えていないので、ステップS2において、工作機械100は、主軸42の回転数を所定値減少させる。一例として、工作機械100は、ステップS1での調整量と同じ分だけ回転数を減少させる。その結果、主軸42の回転数は、回転数「r1」から回転数「r2」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。次に、工作機械100は、ステップS2での調整処理により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸42の回転数を増加するか減少するかを変える。図5の例では、ステップS2の調整処理では主軸42の回転数が安定範囲Aを超えていないので、ステップS3において、工作機械100は、主軸42の回転数を前回の調整と同じ分だけ(すなわち、Δr1)減少させる。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。次に、工作機械100は、ステップS3での調整処理により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸42の回転数を増加するか減少するかを変える。図5の例では、ステップS3の調整処理で主軸42の回転数が安定範囲Aを超えているので、ステップS4において、工作機械100は、主軸42の回転数を所定値(たとえば、たとえば、Δr2)増加させる。
安定範囲Aを超えた後の調整量「Δr2」は、安定範囲Aを超える前の調整量「Δr1」よりも少ない。一例として、調整量「Δr2」は、調整量「Δr1」の4分の1である。このように、工作機械100は、主軸42の回転数が安定範囲を超えたことに基づいて、主軸42の回転数の増減を切り換え変えるとともに、主軸42の調整量を前回の調整量よりも小さくする。これにより、工作機械100は、主軸42の回転数を安定範囲Aに短時間でかつ確実に収めることができ、再生びびり振動を早期に抑制することができる。
なお、上述では、主軸42の回転数を減少させる方に回転数の調整が行われることで、主軸42の回転数を安定範囲AのローブA2に収める例について説明を行ったが、主軸42の回転数は、増加させる方に調整されてもよい。回転数が減少させる方に調整されることで、工作機械100は、工具32の摩耗を防ぐことができる。一方で、ローブA1における安定範囲は、ローブA2における安定範囲よりも広いので、工作機械100は、主軸42の回転数を増加させる方に回転数の調整することで、主軸42の回転数を安定範囲Aにより確実に収めることができる。
[D.主軸42の回転数の微調整処理]
上述のように、再生びびり振動が発生した場合には、工作機械100は、主軸42の回転数を、現在の設定値である第1回転数から、上記式(3)に従って算出された第2回転数に変更する。この調整により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えた場合、工作機械100は、主軸42の回転数の増減を前回の調整とは逆転させるとともに、回転数の調整量を「Δr1」から「Δr2」に減少させる。その後、工作機械100は、調整前の第1回転数に向かって主軸42の回転数を所定値「Δr2」ずつ逐次的に調整する。このとき、主軸42の回転数が第1回転数に達しそうなことを示す所定条件(以下、「微調整条件」ともいう。)が満たされたことに基づいて、工作機械100は、主軸42の回転数の調整量を所定値「Δ2」よりも小さくする。すなわち、工作機械100は、微調整条件が満たされるまでは、主軸42の回転数を大まかに調整し、微調整条件が満たされたことに基づいて、回転数の調整量を前回よりも小さくする。
このような微調整処理が行われることで、工作機械100は、主軸42の回転数を安定範囲Aに確実に収めることができる。また、調整の初期段階において主軸42の回転数が大まかに調整されることで、調整処理に要する時間が短縮され、工作機械100は、再生びびり振動をより早期に抑制することができる。また、工作機械100は、主軸42の回転数が再生びびり振動が発生していた調整前の第1回転数に調整されることを防止できる。
上記微調整条件には、様々な条件が採用され得る。以下では、微調整条件1,2に基づいた主軸回転数の調整処理について説明を行う。
(D1.微調整条件1に基づいた調整処理)
図6は、微調整条件1に基づいた主軸回転数の微調整処理を説明するための図である。
本具体例においては、工作機械100は、主軸回転数の増減を逆転させてからの所定値「Δr2」ずつの調整を何回行えば主軸回転数が調整前の第1回転数に達するかを算出し、当該算出した回数(以下、「調整可能回数」ともいう。)が所定の閾回数(所定回数)以下である場合に、主軸回転数が第1回転数に達しそうであると判断し、微調整条件1が満たされたと判断する。当該閾回数には、任意の回数が設定され得るが、以下では、当該閾回数に「1回」が設定されている前提で、微調整条件1に基づいた微調整処理について説明を行う。
図6を参照して、主軸42の回転数「r5」において、再生びびり振動が発生しているとする。これにより、工作機械100は、現在の回転数「r5」(第1回転数)を記憶し、ステップS5における調整処理を実行する。工作機械100は、ステップS5における調整処理により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該回転数が安定範囲Aを超えたと判断した場合、主軸回転数の増減を前回とは逆転させる。図6の例では、ステップS5の調整処理で主軸回転数が安定範囲Aを超えているので、主軸回転数の増減を前回とは逆転させる。また、工作機械100は、主軸42の調整量を「Δ1」から「Δr2」に減少させる。
さらに、工作機械100は、主軸回転数「r6」からの調整可能回数を算出し、当該調整可能回数に基づいて、微調整条件が満たされたか否かを判断する。より具体的には、工作機械100は、回転数「r5」から現在の回転数「r6」を差分し、当該差分結果を調整量「Δr2」で除算した結果を調整可能回数として算出する。図6の例では、回転数「r6」からの調整可能回数として「3回」が算出される。当該調整可能回数は、閾回数である「1回」よりも大きいので、工作機械100は、微調整条件が満たされていないと判断する。その結果、工作機械100は、現在の調整量「Δr2」を維持し、主軸回転数を「Δr2」増加させる。これにより、ステップS6に示されるように、主軸回転数は、「r6」から「r7」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。工作機械100は、ステップS6における調整処理により主軸回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸回転数の増減を前回とは逆転させる。図6の例では、ステップS6での調整処理で主軸回転数が安定範囲Aを超えていないので、主軸回転数の増減を逆転させない。
さらに、工作機械100は、主軸回転数「r7」からの調整可能回数を算出する。図6の例では、主軸回転数「r7」からの調整可能回数として「2回」が算出される。当該調整可能回数は、閾回数である「1回」よりも大きいので、工作機械100は、微調整条件が満たされていないと判断する。その結果、工作機械100は、現在の調整量「Δr2」を維持し、主軸回転数を「Δr2」増加させる。これにより、ステップS7に示されるように、主軸回転数は、「r7」から「r8」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。工作機械100は、ステップS7における調整処理により主軸回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸回転数の増減を前回とは逆転させる。図6の例では、ステップS7の調整処理で主軸回転数が安定範囲Aを超えていないので、主軸回転数の増減を逆転させない。
さらに、工作機械100は、現在の回転数「r8」からの調整可能回数を算出する。図6の例では、主軸回転数「r8」からの調整可能回数として「1回」が算出される。当該調整可能回数は、閾回数の「1回」以下であるので、工作機械100は、微調整条件が満たされたと判断する。その結果、工作機械100は、主軸回転数の調整量を「Δr2」から「Δr3」に下げる。一例として、「Δr3」は、「Δr2」の1/2(=0.5)倍である。これにより、ステップS8に示されるように、主軸42の回転数は、「r8」から「r9」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が収まっていたとする。これにより、工作機械100は、主軸回転数の調整処理を終了する。
このように、工作機械100は、再生びびり振動が発生している場合において、主軸回転数が安定範囲Aを超えない間、所定の調整量「Δr2」ずつ主軸回転数を調整する。この調整過程で、残りの調整可能回数が所定の閾回数以下になったことに基づいて、工作機械100は、微調整条件が満たされたと判断し、主軸回転数の調整量を「Δr2」から「Δr3」に下げる。このような微調整処理が行われることで、工作機械100は、主軸回転数を安定範囲Aに確実かつ早期に収めることができる。
なお、工作機械100は、調整量「Δr2」ずつの調整過程において主軸回転数が安定範囲Aを再び超えた場合には、主軸回転数の増減を前回の調整とは逆転させるとともに、主軸回転数の調整量を「Δr2」から「Δr3」に減少させる。その後、再生びびり振動が継続して発生している場合には、工作機械100は、主軸回転数が安定範囲Aを超えない間、所定の調整量「Δr3」ずつ主軸回転数を調整する。この調整過程で、残りの調整可能回数が所定の閾回数以下になったことに基づいて、工作機械100は、微調整条件が満たされたと判断し、調整量を「Δr3」からさらに下げる。
(D2.微調整条件2に基づいた微調整処理)
次に、図7を参照して、微調整処理の他の例について説明する。図7は、微調整条件2に基づいた主軸回転数の微調整処理を説明するための図である。
上述のように、本実施の形態に従う工作機械100は、再生びびり振動が検知されている間、主軸42の回転数を所定値「Δr2」ずつ調整する。このとき、工作機械100は、主軸42の回転数の増減を逆転させてからの所定値「Δr2」での調整回数が所定回数(たとえば、3回)を超えたことに基づいて、微調整条件が満たされたと判断する。この判断結果に基づいて、工作機械100は、主軸42の回転数の調整量を所定値「Δr2」よりも小さくする。このような微調整処理が行われることで、工作機械100は、主軸42の回転数を安定範囲Aに確実かつ早期に収めることができる。
より具体的には、図7を参照して、主軸42の回転数「r10」において、再生びびり振動が発生しているとする。これにより、工作機械100は、ステップS10における調整処理を実行する。工作機械100は、ステップS10における調整処理により主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断し、当該判断結果に応じて主軸42の回転数を増加するか減少するかを変える。図7の例では、ステップS10の調整処理で主軸42の回転数が安定範囲Aを超えているので、主軸42の回転数の増減を逆転させる。その結果、ステップS11において、工作機械100は、主軸42の回転数を所定値(たとえば、たとえば、Δr2)増加させる。これにより、主軸42の回転数は、「r11」から「r12」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。これにより、ステップS12において、工作機械100は、主軸42の回転数を前回の調整量と同じ分だけ(すなわち、Δr2)増加させる。その結果、主軸42の回転数は、「r12」から「r13」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。これにより、ステップS13において、工作機械100は、主軸42の回転数を前回の調整量と同じ分だけ(すなわち、Δr2)増加させる。その結果、主軸42の回転数は、「r13」から「r14」に調整される。
その後、工作機械100は、再生びびり振動が生じているか否かを再び判断する。その結果、再生びびり振動が継続して発生していたとする。このとき、工作機械100は、調整量「Δr2」での調整が所定回数(たとえば、3回)を超えたと判断し、微調整条件が満たされたと判断する。この判断結果に基づいて、工作機械100は、主軸42の回転数の調整量を前回の調整量「r2」よりも下げる。図7の例では、ステップS14において、主軸42の回転数の調整量は、「Δr2」から「Δr3」に下げられている。その結果、主軸42の回転数は、「r14」から「r15」に調整される。
このように、工作機械100は、再生びびり振動が発生している場合において、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えない間は、前回と同じ分だけ(すなわち、Δr2)主軸42の回転数を増加または減少させ続ける。その後、工作機械100は、「Δr2」での調整回数が所定回数(たとえば、3回)を超えたことに基づいて、当該調整量を「Δr2」から「Δr3」に減少させる。このような微調整処理が行われることで、工作機械100は、主軸42の回転数を安定範囲Aに確実かつ早期に収めることができる。
[E.工作機械100の機能構成]
図8〜図11を参照して、工作機械100の機能について説明する。図8は、工作機械100の機能構成の一例を示す図である。
工作機械100は、制御装置101を含む。制御装置101は、たとえば、NC(Numerical Control)プログラムを実行可能なNC制御装置である。NC制御装置は、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成される。
図8に示されるように、制御装置101は、工作機械100に生じているびびり振動を検知するための振動検知部150と、主軸42の回転数を調整するための調整部160とを含む。以下では、振動検知部150および調整部160の機能について順に説明する。
(E1.振動検知部150)
振動検知部150は、FFT部152と、再生びびり振動検知部154とを含む。
FFT部152は、ワークの加工中において、加速度センサ110(図1参照)からの出力信号を所定のサンプリングレートでサンプリングし、所定時間のサンプリング結果をフーリエ変換する。FFT部152による周波数分解の結果は、再生びびり振動検知部154に出力される。
図9は、FFT部152による周波数分解の結果の一例を示す図である。図9には、FFT部152による周波数分解の結果の一例としてスペクトル70が示されている。
再生びびり振動検知部154は、スペクトル70における信号成分の内、信号強度が最大となる信号成分の周波数を振動周波数として抽出する。その後、再生びびり振動検知部154は、当該振動周波数が所定閾値thを超えている場合に、再生びびり振動を検知する。再生びびり振動検知部154は、再生びびり振動を検知した場合には、そのことを調整部160に出力する。
なお、詳細については「第2の実施の形態」で説明するが、所定の周波数帯域における振動周波数は、強制びびり振動に起因して発生している可能性がある。そのため、再生びびり振動検知部154は、当該所定の周波数帯域を除外した上で、再生びびり振動を検知してもよい。
(E2.調整部160)
再び図8を参照して、調整部は160は、第1調整部162と、第2調整部164と、過度調整判断部166とを含む。
第1調整部162は、主軸42の回転数の1回目の調整を行う。より具体的には、第1調整部162は、再生びびり振動が検知された場合に、所定の算出式に従って主軸42の回転数を算出する。当該算出式には、たとえば、上記式(3)のTobiasの式が採用される。第1調整部162は、上記式(3)に従って算出された回転数を目標回転数として後述のサーボドライバ106(図14参照)に出力する。サーボドライバ106は、当該目標回転数で主軸42が回転するように、主軸42を駆動するサーボモータ107(図14参照)を制御する。
第2調整部164は、主軸42の回転数の2回目以降の調整を行う。より具体的には、第2調整部164は、第1調整部162による回転数の調整後において再生びびり振動が継続して発生している場合に、主軸42の回転数を再調整する。このとき、前回の調整で過度調整が行われたか否かに応じて、第2調整部164は、主軸42の回転数を増加するか減少するかを変える。より具体的には、前回の調整で過度調整が行われた場合には、第2調整部164は、主軸42の回転数の増減を前回の調整とは逆転させるとともに、前回の調整量よりも今回の調整量を少なくする。一方で、前回の調整で過度調整が行われていない場合には、第2調整部164は、前回の調整と同じように主軸42の回転数を調整する。
第2調整部164は、決定した回転数を目標回転数として後述のサーボドライバ106(図14参照)に出力する。サーボドライバ106は、決定した目標回転数で主軸42が回転するように、主軸42を駆動する後述のサーボモータ107(図14参照)を制御する。
第2調整部164は、再生びびり振動検知部154によって再生びびり振動が検知されている間、主軸42の回転数の調整処理を逐次的に実行し、工具32または主軸42に生じている再生びびり振動が検知されなくなった時点で回転数の調整処理を終了する。
好ましくは、第2調整部164は、主軸42の回転数の調整を所定回数(たとえば、10回)実行した後に再生びびり振動が未だに発生している場合には、主軸42の回転数を減少させる方向に安定範囲Aのローブが存在しないものと判断し、主軸42の回転数を増加させる方向に安定範囲Aのローブを探す。そのため、この場合には、第2調整部164は、主軸42の回転数を初期値よりも上げる。これにより、第2調整部164は、初期値よりも大きい方向において安定範囲Aのローブを探すことができる。
他の局面において、第2調整部164は、主軸42の回転数の調整を所定回数(たとえば、10回)実行した後に再生びびり振動が未だに発生している場合、主軸42の切込み深さを現在よりも浅くする。図5の例では、第2調整部164は、主軸42の切込み深さを初期値である「h」よりも下げる。これにより、主軸42の回転数が安定範囲に収まる可能性が上がる。
なお、第2調整部164は、主軸42の回転量の調整量が所定閾値以下になった時点で、主軸42の回転数を減少させる方向に安定範囲Aのローブが存在しないものと判断してもよい。このように判断した場合、第2調整部164は、主軸42の回転数を増加させる方向に安定範囲Aのローブを探してもよいし、主軸42の切込み深さを初期値である「h」よりも下げてもよい。
過度調整判断部166は、第1調整部162または第2調整部164により回転数の過度調整が行われたか否かを判断する。より具体的には、過度調整判断部166は、前回の調整により主軸42の回転数が上述の安定範囲A(図5参照)を超えた場合に、過度調整が行われたと判断する。主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かは、種々の方法で判断される。以下では、図10および図11を参照して、過度調整の判断方法について説明する。
図10は、過度調整判断部166による過度調整の判断方法の一例を説明するための図である。
図10の上のグラフは、主軸42の回転数とワークの切り込み深さとの関係において再生びびり振動が生じる範囲と生じない範囲とを示す。図10の下のグラフは、主軸42の回転数と主軸42の振動周波数との関係を示す。
図10に示されるように、主軸42の振動周波数は、安定範囲AのローブA1〜A3の頂点の前後で大きく変化する。この点に着目して、過度調整判断部166は、主軸42の回転数の調整前後における主軸42の振動周波数の比較結果に基づいて、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断する。
図10の例では、主軸42の回転数が「r2」から「r3」に調整されることにより、主軸42の振動周波数が「Δf1」変化している。過度調整判断部166は、主軸42の振動周波数の変化量「Δf1」が所定閾値以上である場合に、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたと判断し、過度調整が行われたと判断する。一方で、過度調整判断部166は、主軸42の振動周波数の変化量「Δf1」が所定閾値よりも小さい場合に、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えていないと判断し、過度調整が行われていないと判断する。図10の例では、変化量「Δf1」が閾値thよりも大きいので、過度調整判断部166は、過度調整が行われたと判断する。
図11は、過度調整判断部166による過度調整の判断方法の他の例を説明するための図である。
図11に示されるように、上記式(2)の「k」の整数部分(すなわち、[k])は、安定範囲AのローブA1〜A3の頂点の前後で変化する。以下では、「k」の整数部分を次数ともいう。過度調整判断部166は、主軸42の回転数の調整前後において次数が変化したか否かに基づいて、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたか否かを判断する。
図11の例では、主軸42の回転数が「r2」から「r3」に調整されることにより、次数が「m」から「m+1」に変化している(m:整数)。この場合、過度調整判断部166は、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えたと判断し、過度調整が行われたと判断する。一方で、主軸42の回転数の調整前後において次数が変化していない場合には、過度調整判断部166は、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えていないと判断し、過度調整が行われていないと判断する。
[F.工作機械100の制御構造]
図12および図13を参照して、工作機械100の制御構造について説明する。図12は、上述の微調整条件1に基づいた主軸回転数の調整処理を表わすフローチャートである。図13は、上述の微調整条件2に基づいた主軸回転数の調整処理を表わすフローチャートである。図12および図13の処理は、工作機械100の制御装置101がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
(F1.微調整条件1に基づいた調整処理)
まず、図12を参照して、微調整条件1に基づいた調整処理の制御フローについて説明する。
ステップS110において、制御装置101は、上述の調整部160(図8参照)として、加速度センサ110(図1参照)の出力値に基づいて、再生びびり振動が生じているか否かを判断する。再生びびり振動の検知方法については図9で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。制御装置101は、再生びびり振動が生じていると判断した場合(ステップS110においてYES)、制御をステップS120に切り替える。そうでない場合には(ステップS110においてNO)、制御装置101は、図12に示される調整処理を終了する。
ステップS120において、制御装置101は、図12に示される調整処理が開始されてからの1回目の調整であるか否かを判断する。制御装置101は、1回目の調整であると判断した場合(ステップS120においてYES)、制御をステップS122に切り替える。そうでない場合には(ステップS120においてNO)、制御装置101は、制御をステップS130に切り替える。
ステップS122において、制御装置101は、上述の第1調整部162(図8参照)として、所定の算出式に従って主軸42の回転数「n’」を算出する。当該算出式には、たとえば、上記式(3)のTobiasの式が採用される。
上記式(3)に示される「[k]」は、上記式(2)に基づいて算出されてもよいが、下記式(4)に基づいて算出されてもよい。
[k]=[60・fc/(n0・N)]+dir・・・(4)
式(4)に示される「k」は、工具32の第1の刃がワークに接触してから第2の刃がワークに接触するまでの間に工具の振動によって生じる加工面の波数を表わす。「fc」は、主軸42の振動周波数を表わす。「N」は、切削工具の刃数を表わす。「n0」は、主軸42の回転数を表わす。「[60・fc/(n0・N)]」は、「60・fc/(n0・N)」の整数部分を表わす。「dir」は、0または1の値である。主軸42の回転数を上げる場合、「dir」は0に設定される。主軸42の回転数を下げる場合、「dir」は1に設定される。
ステップS124において、制御装置101は、主軸42の回転数の調整量「Δn」を算出する。調整量「Δn」は、ステップS122で算出された回転数「n’」から現在の回転数「n」を減算することにより算出される。
ステップS126において、制御装置101は、上述の調整部160(図8参照)として、主軸42の回転数を現在の設定値である回転数「n」から回転数「n’」に変更する。
ステップS130において、制御装置101は、上述の過度調整判断部166(図8参照)として、主軸42の回転数が前回の調整により安定範囲A(図5参照)を超えたか否かを判断する。当該判断方法については図10および図11で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。制御装置101は、主軸42の回転数が前回の調整により安定範囲Aを超えたと判断した場合(ステップS130においてYES)、制御をステップS132に切り替える。そうでない場合には(ステップS130においてNO)、制御装置101は、制御をステップS136に切り替える。
ステップS132において、制御装置101は、上述の第2調整部164(図8参照)として、下記式(5)に基づいて主軸42の回転数「n’」を算出する。
n’=n−Δn・a・・・(5)
式(5)に示される「n’」は、調整後の回転数を表わす。「n」は、現在の回転数を表わす。「Δn」は、前回の回転数の調整量を表わす。「a」は、0より大きく、1より小さい係数である。係数「a」は、ステップS132の処理が実行される度に小さく設定される。一例として、1回目においては、係数「a」は、1/4に設定される。
ステップS134において、制御装置101は、主軸42の回転数の調整量「Δn」を算出する。調整量「Δn」は、ステップS132で算出された回転数「n’」から現在の回転数「n」を減算することにより算出される。
ステップS135において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、現在の主軸42の回転数「n」を後述の記憶装置120(図14参照)に記憶する。
ステップS136において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸回転数の増減を逆転させてからの逐次調整を何回行えば主軸回転数がステップS135で記憶した回転数に達するかを算出する。一例として、制御装置101は、ステップS135で記憶した回転数から現在の回転数を差分し、当該差分結果を現在の調整量で除算した結果を調整可能回数として算出する。なお、調整可能回数が前回に算出されている場合には、制御装置101は、前回の調整可能回数から1を引いた結果を新たな調整可能回数として算出してもよい。
ステップS137において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、上述の微調整条件1が満たされたか否かを判断する。本例においては、制御装置101は、ステップS136で算出した調整可能回数が所定の閾回数(たとえば、1回)以下である場合に、微調整条件1が満たされたと判断する。制御装置101は、ステップS136で算出した調整可能回数が所定の閾回数以下であると判断した場合(ステップS137においてYES)、制御をステップS138に切り替える。そうでない場合には(ステップS137においてNO)、制御装置101は、制御をステップS140に切り替える。
ステップS138において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸42の回転数の調整量「Δn」を前回の調整量「Δn」よりも小さくする。このとき、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸42の回転数の調整回数「c」を初期化する。調整回数「c」は、たとえば、「1」に初期化される。一例として、制御装置101は、下記式(6)に基づいて、調整量「Δn」を小さくする。
Δn=Δn・b・・・(6)
式(6)に示される左辺の「Δn」は、今回の回転数の調整量を表わす。式(6)に示される右辺の「Δn」は、前回の回転数の調整量を表わす。「b」は、0より大きく、1より小さい係数である。一例として、係数「b」は、1/2(=0.5)である。
ステップS140において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、下記式(7)に基づいて主軸42の回転数「n’」を算出する。
n’=n+Δn・・・(7)
式(7)に示される「n’」は、調整後の回転数を表わす。「n」は、現在の回転数を表わす。「Δn」は、前回の回転数の調整量を表わす。
ステップS142において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸42の回転数の調整回数「c」をインクリメントする。
(F2.微調整条件2に基づいた調整処理)
次に、図13を参照して、上述の微調整条件2に基づいた調整処理の制御フローについて説明する。なお、図13では、ステップS135A,137Aの処理が図12とは異なり、ステップS142の処理が図12から追加されており、ステップS136の処理が図12から削除されている。図13に示される他の処理については図12と同じであるので、以下では、ステップS135A,S137A,S142以外の処理の説明については繰り返さない。
ステップS135Aにおいて、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸42の回転数の調整回数「c」を初期化する。調整回数「c」は、主軸42の回転数の調整回数をカウントするための変数である。調整回数「c」は、たとえば、「1」に初期化される。
ステップS137Aにおいて、制御装置101は、上述の第2調整部164として、上述の微調整条件2が満たされたか否かを判断する。本例においては、制御装置101は、主軸回転数の調整回数「c」が所定回数(たとえば、3回)を超えた場合に、微調整条件2が満たされたと判断する。制御装置101は、主軸回転数の調整回数「c」が所定回数を超えたと判断した場合(ステップS137AにおいてYES)、制御をステップS138に切り替える。そうでない場合には(ステップS137AにおいてNO)、制御装置101は、制御をステップS140に切り替える。
ステップS142において、制御装置101は、上述の第2調整部164として、主軸42の回転数の調整回数「c」をインクリメントする。
[G.工作機械100のハードウェア構成]
図14を参照して、工作機械100のハードウェア構成の一例について説明する。図14は、工作機械100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
工作機械100は、主軸42と、制御装置101と、ROM102と、RAM103と、通信インターフェイス104と、表示インターフェイス105と、サーボドライバ106と、サーボモータ107と、入力インターフェイス109と、加速度センサ110と、記憶装置120とを含む。
制御装置101は、工作機械100の加工プログラム122(NCプログラム)などの各種プログラムを実行することで工作機械100の動作を制御する。制御装置101は、加工プログラム122の実行命令を受け付けたことに基づいて、記憶装置120からROM102に加工プログラム122を読み出す。RAM103は、ワーキングメモリとして機能し、加工プログラム122の実行に必要な各種データを一時的に格納する。
通信インターフェイス104には、LANやアンテナなどが接続される。工作機械100は、通信インターフェイス104を介して、外部の通信機器との間でデータをやり取りする。外部の通信機器は、たとえば、サーバーや、その他の通信端末などを含む。工作機械100は、当該通信端末から加工プログラム122をダウンロードできるように構成されてもよい。
表示インターフェイス105は、ディスプレイ130と接続され、制御装置101などからの指令に従って、ディスプレイ130に対して、画像を表示するための画像信号を送出する。ディスプレイ130は、たとえば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはその他の表示機器である。
サーボドライバ106は、制御装置101から目標回転数の入力を受け、主軸42が目標回転数で回転するようにサーボモータ107を制御する。より具体的には、サーボドライバ106は、サーボモータ107のエンコーダ(図示しない)の出力信号から主軸42の回転数を算出し、当該回転数が目標回転数よりも小さい場合にはサーボモータ107の回転数を上げ、当該回転数が目標回転数よりも大きい場合にはサーボモータ107の回転数を下げる。このように、サーボドライバ106は、主軸42の回転数のフィードバックを逐次的に受けながら主軸42の回転数を目標回転数に近付ける。
入力インターフェイス109は、入力デバイス131に接続され得る。入力デバイス131は、たとえば、マウス、キーボード、タッチパネル、またはユーザーの操作を受け付けることが可能なその他の装置である。
記憶装置120は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。記憶装置120は、本実施の形態に従う加工プログラム122、加工プログラム122で参照される設定値124(たとえば、主軸42の回転数)などを格納する。加工プログラム122および設定値124の格納場所は、記憶装置120に限定されず、制御装置101の記憶領域(たとえば、キャッシュメモリなど)、ROM102、RAM103、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
加工プログラム122は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、本実施の形態に従う制御処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う加工プログラム122の趣旨を逸脱するものではない。さらに、加工プログラム122によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが加工プログラム122の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で工作機械100が構成されてもよい。
[H.利点]
以上のようにして、本実施の形態に従う工作機械100は、主軸42の回転数が安定範囲Aを超えるまでは、主軸42の回転数を所定量ずつ減少する。主軸42の回転数が安定範囲Aを超えると、工作機械100は、主軸42の回転数の増減を前回の調整とは逆転させるとともに、前回の調整量よりも今回の調整量を少なくする。工作機械100は、主軸42の回転数が安定範囲Aに収まった時点で主軸42の回転数の調整処理を終了する。
工作機械100は、このように主軸42の回転数を逐次的に調整することで、主軸42の回転数を安定範囲Aに短時間でかつ確実に収めることができ、再生びびり振動を短時間でかつ確実に抑制することができる。
<第2の実施の形態>
第1の実施の形態に従う工作機械100は、再生びびり振動を抑制するために主軸42の回転数を調整していた。これに対して、第2の実施の形態に従う工作機械100は、再生びびり振動と強制びびり振動との両方を抑制するために主軸42の回転数を調整する。
第2の実施の形態に従う工作機械100のハードウェア構成などその他の点については第1の実施の形態に従う工作機械100と同じであるので、以下では、それらの説明については繰り返さない。
強制びびり振動の周波数は、工具32の刃数と主軸42の回転数とに基づいて算出され得る。より具体的には、強制びびり振動の周波数は、下記式(8)に基づいて算出され得る。
f=n0・N/60・・・(8)
上記式(8)に示される「n0」は、主軸42の回転数を表わす。「N」は、工具32の刃数を表わす。
主軸42の振動周波数が周波数「f」の整数倍に一致するとき、工作機械100は、強制びびり振動が発生していると判断する。一方で、びびり振動が発生している状況下で、主軸42の振動周波数が周波数「f」の整数倍に一致しないときには、工作機械100は、再生びびり振動が発生していると判断する。
図9の例では、周波数「f」の整数倍に一致しない信号成分の信号強度が閾値thを超えているので、工作機械100は、再生びびり振動が発生していると判断する。一方で、周波数「f」の整数倍(たとえば、「m−1」倍、「m」倍、「m+1」倍)における信号成分の信号強度が所定閾値を超えている場合には、工作機械100は、強制びびり振動が発生していると判断する。
強制びびり振動が発生しているということは、工具32の振動周波数が工具32の固有振動数に合致しているということを意味する。主軸42の回転数が変わると、工具32の振動周波数が変わり、工具32の振動周波数が工具32の固有振動数に一致しなくなる。この点に着目して、強制びびり振動が発生している場合には、工作機械100は、主軸42の回転数を逐次的に増加または減少さる。その際、上述の安定範囲A(図5参照)の範囲内で主軸42の回転数を調整する必要がある。工作機械100は、安定範囲Aの範囲内で主軸42の回転数を調整することで、強制びびり振動および再生びびり振動の両方を抑えることができる。
以下では、図15を参照して、強制びびり振動の抑制処理について説明する。図15は、強制びびり振動の抑制処理を説明するための図である。図15には、図5に示されるローブA2の拡大図が示されている。
ステップS20において、工作機械100は、再生びびり振動を抑制するために、主軸42の回転数を「r20」から「r21」に調整したとする。これにより、主軸42の回転数は、安定範囲Aに収まり、再生びびり振動が抑制される。
しかしながら、上述したように、主軸42の振動周波数が上記式(8)に示される周波数「f」の整数倍に一致するときには、強制びびり振動が発生しやすい。そのような強制びびり振動が発生しやすい領域が図15では、不安定範囲Dとして示されている。図15の例では、ステップS20での調整処理により、主軸42の回転数は、不安定範囲Dに属している。
ステップS20において、工作機械100は、再生びびり振動を抑制するための回転数の調整量「Δr3」よりも小さい調整量「Δr4」で主軸42の回転数を再調整する。このとき、工作機械100は、主軸42の回転数を「Δr4」増加してもよいし、主軸42の回転数を「Δr4」減少してもよい。図15の例では、工作機械100は、主軸42の回転数を「Δr4」減少している。調整量「Δr4」が調整量「Δr3」よりも小さく設定されることで、工作機械100は、安定範囲Aの範囲内で主軸42の回転数を微調整することができ、強制びびり振動および再生びびり振動の両方を抑えることができる。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。