本発明は、結着樹脂を含有するトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、前記トナーの軟化点が115℃以下であり、先端径が50μmのサファイア針を用いて、荷重変動型摩擦磨耗試験機により、ガラス基材上に付着量16g/m2で形成された前記トナーによる像の表面の引っかき試験を行ったときに、臨界荷重が30gf以上である、静電潜像現像用トナーである。このような構成を有する本発明の静電潜像現像用トナーは、低温定着性が向上し、折り部の画像剥がれが抑制される。
特許文献1に記載の技術では、トナーにより形成された画像に対して光を照射し、画像を硬化させている。光硬化により画像の強度が増し、耐引っかき性は向上するものの、画像が硬すぎて柔軟性がなく脆いため、画像を折ると折り部の画像剥がれが発生する問題があった。
一方、本発明のトナーは、荷重変動型摩擦磨耗試験機により、ガラス基材上に付着量16g/m2で形成されたトナーによる像の表面の引っかき試験(以下、単に「引っかき試験」とも称する)を行ったときに、臨界荷重が30gf以上である。この引っかき試験では、いわばトナー同士の接着性を評価していると言え、上記のような臨界荷重を有するトナーは、トナー同士の接着性が強く、画像を折ったときの折り部の画像剥がれが抑制され、画像欠陥が低減される。
また、本発明のトナーは、軟化点が115℃以下であり、低温定着性が向上する。通常、軟化点が低いトナーで形成された画像は常温で脆い傾向にある。そのため、接着性も低くなり、折り強度なども低い(折り部の画像剥がれが発生しやすい)傾向にある。しかしながら、本発明のトナーは軟化点が低いが、該トナーから形成された画像は引っかき試験での臨界荷重が高い。このことは、本発明のトナーおよび形成された画像が高い粘性を有することを意味している。すなわち、本発明のトナーは、単に柔らかいだけでなく、高い粘性を有するため、形成される画像同士の接着性が向上する。これにより、本発明のトナーは、低温定着性が向上しつつ折り部での画像剥がれが抑制された画像を形成することができ、従来のトナーでは得られなかった効果を奏することができる。
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
[トナー]
本発明のトナーは、結着樹脂を含有するトナー粒子を含み、当該トナー粒子は、所望に応じて、着色剤、磁性粉、離型剤、荷電制御剤などの他のトナー構成成分を含有するものとすることができる。また、当該トナー粒子に対して、流動化剤やクリーニング助剤などの外添剤を添加するものとすることもできる。
また、本発明のトナーは、水系媒体中で作製される湿式の製造方法、例えば乳化凝集法などにより得られるものである。
〔結着樹脂〕
本発明に係る結着樹脂に含まれる樹脂は、特に制限されず、非晶性樹脂、結晶性樹脂等が挙げられる。
(非晶性樹脂)
非晶性樹脂としては、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体樹脂などビニル単量体を重合して得られる樹脂が挙げられる。
ビニル単量体としては、下記のものなどを用いることができる。ビニル単量体としては、1種単独でもまたは2種以上を組み合せても使用することができる。
(1)スチレン単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
また、ビニル単量体としては、例えばカルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有する単量体としてはアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、ビニル単量体として、下記式(1)で表される長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることが好ましい。このような単量体を用いることにより、得られる樹脂の弾性が向上し、このような樹脂を含むトナーは、引っかき試験で測定される臨界荷重がより高いものとなる。よって、下記化学式(1)で表される単量体由来の構成単位を含む樹脂がトナー粒子を構成する結着樹脂に含まれることにより、トナー粒子同士の接着性がより高まり、折り部での画像剥がれがより抑制される。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、結着樹脂は下記化学式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位を有する樹脂を含む。
上記化学式(1)中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数5以上の主鎖を有するアルキル基であり、この際、R2は当該主鎖にさらにアルキル基が結合している分岐アルキル基であってもよい。
R2に用いられるアルキル基の例としては、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ラウリル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、イソペンチル基、アミル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、1−メチルヘプチル基、2−プロピルヘキシル基、2−プロピルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、イソノニル基、イソデシル基、トリデシル基、イソステアリル基等が挙げられる。
上記化学式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、たとえば、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−プロピルヘキシル(メタ)アクリレート、1−メチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、6−メチルヘプチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これら単量体は単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−プロピルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
上記化学式(1)中のR2で用いられるアルキル基の炭素数(主鎖および側鎖の合計)の上限は特に制限されないが、22以下であることが好ましい。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」とを総称したもので、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」は「アクリル酸メチル」と「メタクリル酸メチル」とを総称したものである。
加えて、ビニル単量体として、二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることが好ましい。このような単量体を用いることにより、得られる樹脂が架橋構造を有するようになり、樹脂の弾性がさらに向上し、このような樹脂を含むトナーは、引っかき試験で測定される臨界荷重がさらに高いものとなる。よって、二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位を含む樹脂がトナー粒子を構成する結着樹脂に含まれることにより、結着樹脂が強靭になり、折り部での画像剥がれがさらに抑制される。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、結着樹脂は二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位を有する樹脂を含む。
二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエチレングリコールジアクリレート(下記化学式参照)がより好ましく、下記化学式中のnが4〜13であるポリエチレングリコールジアクリレートがさらに好ましい。
上記の化学式(1)で表される長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位や、二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位は、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の非晶性重合セグメントに含まれてもよく、後述の複合粒子の表層を構成する非晶性樹脂に含まれてもよく、特に制限されない。
非晶性樹脂や非晶性重合セグメント中の上記化学式(1)で表される長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の含有量は、特に制限されないが、結着樹脂の全質量に対して、2.0〜13.5質量%であることが好ましく、2.5〜13.5質量%であることがより好ましい。また、非晶性樹脂や非晶性重合セグメント中の二官能(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の含有量は、特に制限されないが、結着樹脂の全質量に対して、0.3〜6.0質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%であることがより好ましい。
(結晶性ポリエステル樹脂)
本発明に係る結着樹脂は、結晶性樹脂を含むことが好ましく、該結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性樹脂との相溶性が比較的高いため、結着樹脂の結着性が向上し、画像を折った際の応力緩和が起こりやすく、折り部での画像剥がれがより抑制される。
結着樹脂に含まれうる結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)と、の重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;およびこれらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂は、融点(Tm)が40〜95℃であることが好ましく、50〜85℃であることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた耐ホットオフセット性が得られる。
なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、以下のようにして測定される値である。
具体的には、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって測定されるものであり、この測定によって得られるDSC曲線に基づいて、第1昇温過程における結晶性ポリエステル樹脂に由来の吸熱ピークトップ温度を、融点とするものである。測定手順としては、測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ダイヤモンドDSCサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。
結晶性ポリエステル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量が、重量平均分子量(Mw)で5,000〜50,000であることが好ましく、数平均分子量(Mn)で1,500〜25,000であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、以下のようにして測定される値である。
具体的には、装置「HLC−8120GPC」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させる。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
結晶性ポリエステル樹脂は、エステル基濃度が0.05mmol/g以上15mmol/g以下であることが好ましく、0.1mmol/g以上12mmol/g以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂との相溶性がより高まり、樹脂同士の結着性が高まることにより、画像を折った際の応力緩和がさらに起こりやすく、折り部での画像剥がれがさらに抑制される。
ここで、エステル基濃度は、結晶性ポリエステル樹脂中のエステル基(エステル結合)の割合である。本発明において、エステル基濃度は下記数式(A)により算出される値である。
数式(A):エステル基濃度=[結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸および多価アルコールに含まれるエステル基となりうる部分のモル数の平均/((多価カルボン酸および多価アルコールの分子量の合計)−(脱水重縮合して分離した水の分子量×エステル基のモル数))]×1000
この結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、用いられる単量体の種類によって制御することができる。
結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度の算出例を以下に示す。
下記式(a)で表わされる多価カルボン酸と下記式(b)で表わされる多価アルコールとにより得られる結晶性ポリエステル樹脂は下記式(c)で表わされる。
式(a):HOOC−R3−COOH
式(b):HO−R4−OH
式(c):−(−OCO−R3−COO−R4−)n−
『結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸および多価アルコールに含まれるエステル基となりうる部分のモル数の平均』とは、結晶性ポリエステル樹脂を形成する多価カルボン酸のカルボキシ基のモル数および多価アルコールのヒドロキシル基のモル数の平均であり、具体的には、式(a)の多価カルボン酸のカルボキシ基のモル数「2」と、式(b)の多価アルコールのヒドロキシル基のモル数「2」との平均「2」である。
また、式(a)の多価カルボン酸の分子量をm1、式(b)の多価アルコールの分子量をm2、式(c)の結晶性ポリエステル樹脂の分子量をm3とすると、『(多価カルボン酸および多価アルコールの分子量の合計)−(脱水重縮合して分離した水の分子量×エステル基のモル数)』は、(m1+m2)−(18×エステル基のモル数の平均「2」)となり、したがって、式(c)の結晶性ポリエステル樹脂の分子量「m3」となる。
以上より、式(c)で表わされる結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、「2/m3」となる。
また、多価カルボン酸を2種以上、または多価アルコールを2種以上併用する場合には、多価カルボン酸のカルボキシ基のモル数および分子量の平均ならびに多価アルコールのヒドロキシル基のモル数および分子量の平均から算出して求める。
本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度および融点、ならびに後述の非晶性樹脂のカルボキシ基濃度を測定するためには、トナー粒子中に含まれる各々の樹脂を抽出する必要がある。トナー粒子中からの樹脂の抽出は、具体的には、以下のようにして抽出することができる。
まず、トナーをメチルエチルケトン(MEK)に常温(20℃以上25℃以下)で溶解させる。ここで、トナー粒子中の非晶性樹脂は、常温ではMEK中に溶解することとなる。したがって、MEK可溶分中には非晶性樹脂が含まれることとなるため、溶解後、遠心分離により分離した上澄み液から非晶性樹脂が得られる。一方、遠心分離後の固形分を65℃で60分間加熱してテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、これを60℃においてガラスろ過器でろ過することにより、ろ液から結晶性ポリエステル樹脂が得られる。なお、当該操作でろ過中に温度が下がると結晶性ポリエステル樹脂が析出してしまうため、保温した状態で操作する。
結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度は、結晶性ポリエステル樹脂の加水分解を行ったのち、P−GC/MSにて測定を行い、多価カルボン酸、多価アルコールそれぞれのモノマー種を特定することにより算出することもできる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより製造することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物等が挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩等などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O−n−Bu)4)、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシドなどが挙げられ、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合温度は特に限定されるものではなく、目的物を得るために適宜調整可能であり、70〜250℃であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5〜10時間とすると好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との質量比(結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂/結晶性ポリエステル樹脂)は、97/3〜60/40であることが好ましく、より好ましくは95/5〜70/30である。この範囲であれば、低温定着性が良好となり、トナーの帯電性も向上する。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)
本発明においては、トナー粒子中、非晶性樹脂の構造を一部含有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。つまり、本発明によれば、結晶性ポリエステル樹脂が、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることがより好ましい。
本発明の好ましい形態においては、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、ポリエステル重合セグメント以外の他の非晶性重合セグメントとが化学結合している樹脂である。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、ドメインマトリクス構造のドメイン相となりうるため、このような形態であれば、トナー粒子内のマトリクス相となりうる非晶性樹脂との密着性が向上し、画像を折った際の応力緩和がより起こりやすく、折り部での画像剥がれがより抑制される。
化学結合している構造についても特に制限はないが、結晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていると好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として前記非晶性重合セグメントを有し、側鎖として前記結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であると好ましい。
より具体的には、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂としては、非晶性重合セグメントであるスチレンアクリル重合セグメントの主鎖に、側鎖である結晶性ポリエステル重合セグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
〈結晶性ポリエステル重合セグメント〉
結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。結晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸および多価アルコールについては、上記の結晶性ポリエステル樹脂と同様であるため、説明を省略する。
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80質量%以上98質量%以下であると好ましく、90質量%以上95質量%以下であるとより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、例えば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定により特定することができる。
〈非晶性重合セグメント〉
非晶性重合セグメントとは、非晶性樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。非晶性重合セグメントは、本発明に係る結着樹脂に非晶性樹脂が含まれる場合に、その非晶性樹脂とハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂との親和性に寄与し得る。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が非晶性重合セグメントを含有することは、例えば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する重合セグメントである。
非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
非晶性重合セグメントは、本発明に係る結着樹脂に非晶性樹脂が含まれる場合、その非晶性樹脂と同種の樹脂で構成されると好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂とマトリクス相となりうる非晶性樹脂との密着性がより向上する。
ここで、「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合が共通に含まれていることを意味する。ここで、「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニルおよびその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数の単量体種の化学構造において、上記化学結合を有する単量体種を構成単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を指す。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成する単量体種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなす。
例えば、スチレン、ブチルアクリレートおよびアクリル酸によって形成される樹脂(または重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレートおよびメタクリル酸によって形成される樹脂(または重合セグメント)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有しているため、これらは同種の樹脂である。
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル重合セグメントが好ましい。
ビニル重合セグメントとしては、ビニル単量体を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン−酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。したがって、以下では、非晶性重合セグメントとしてのスチレンアクリル重合セグメントについて説明する。
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物や、メタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
以下に、スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、本発明で使用されるスチレンアクリル重合セグメントの形成に使用可能なものは以下に限定されない。
先ず、スチレン単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。これらスチレン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、アクリル酸エステル単量体を使用することが好ましい。具体的には、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
これらのアクリル酸エステル単量体またはメタクリル酸エステル単量体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。すなわち、スチレン単量体と2種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、あるいは、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成することのいずれも可能である。
非晶性重合セグメント中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、非晶性重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。
さらに、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物が付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール成分由来のヒドロキシル基[−OH]または多価カルボン酸成分由来のカルボキシ基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシ基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシ基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
非晶性重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン等が挙げられる。
また、乳化重合法で樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であると好ましく、7,000〜50,000であるとより好ましく、8,000〜40,000であるとさらに好ましい。数平均分子量(Mn)は、100〜50,000であると好ましく、1,000〜10,000であるとより好ましい。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、40〜95℃であることが好ましく、50〜85℃であることがより好ましい。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明に係る結着樹脂に含まれるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(a)非晶性重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
この方法では、先ず、上述した非晶性重合セグメントを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体といったビニル単量体)を付加反応させて非晶性重合セグメントを形成する。次に、非晶性重合セグメントの存在下で、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合反応させて結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する。このとき、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させると共に、非晶性重合セグメントに対し、多価カルボン酸または多価アルコールを付加反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が形成される。
上記方法において、結晶性ポリエステル重合セグメントまたは非晶性重合セグメント中に、これらセグメントが互いに反応可能な部位を組み込んでおくと好ましい。具体的には、非晶性重合セグメントの形成時、非晶性重合セグメントを構成する単量体の他に、結晶性ポリエステル重合セグメントに残存するカルボキシ基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応可能な部位および非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物も使用する。すなわち、この化合物が結晶性ポリエステル重合セグメント中のカルボキシ基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応することにより、結晶性ポリエステル重合セグメントは非晶性重合セグメントと化学的に結合することができる。
もしくは、結晶性ポリエステル重合セグメントの形成時、多価アルコールまたは多価カルボン酸と反応可能であり、かつ、非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物を使用してもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
(a)の方法は、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントをグラフト化させた構造のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや、生産工程を簡素化できるため好ましい。また、(a)の方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、本発明で規定するトナーに適したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を確実に形成することができるので好ましい。
その他、(b)結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよいし、(c)結晶性ポリエステル重合セグメントを予め形成しておき、当該結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の融点やエステル基濃度の好ましい範囲は、上記の結晶性ポリエステル樹脂の項で説明した好ましい範囲がそのまま適用される。
〔トナーの構造〕
本発明のトナーは、ドメインマトリクス構造を有することが好ましい。一般的に樹脂の破断は、クレーズ(ひび割れ)が発生し、次にクラック(亀裂)になり破断するという流れで起こる。樹脂内に不連続部分があると、クレーズを停止することができる(局部的応力の緩和ともいう)。トナーがドメインマトリクス構造を有することでドメインが不連続部分となって、局部的応力の緩和を起こすことができ、画像がより割れにくくなり、折り部での画像剥がれがより抑制される。
本発明においては、ドメイン相が結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましく、マトリクス相が非晶性樹脂であることが好ましい。非晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を内部に取り込むことにより、得られるトナー粒子の表面には結晶性ポリエステル樹脂が存在しないか、または存在してもその量が極めて少ないものとなり、その結果、帯電性能の長期安定性が得られる。
一方、非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との親和性が比較的低いものであると、トナー製造時において、結晶性ポリエステル樹脂が非晶性樹脂中に取り込まれにくくなる場合が考えられる。
そこで、本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂の粒子(以下、「結晶性ポリエステル樹脂粒子」とも称する)の表面に、非晶性樹脂(以下、「被覆樹脂」とも称する)が付着されてなるコアシェル構造を有する複合粒子と、非晶性樹脂(以下、「メイン樹脂」とも称する)の粒子とを凝集、融着することによって、トナー粒子を形成することが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂とは馴染みにくいため、トナー粒子製造時に、それぞれがくっつきにくく、また、マトリクス相を形成する非晶性樹脂がドメイン相に含まれる結晶性ポリエステル樹脂をはき出しやすくなる。しかしながら、ドメイン相に含まれるコア粒子が非晶性樹脂である被覆樹脂で被覆されると、ドメイン相とマトリクス相とが馴染みやすくなり、ドメイン相とマトリクス相との密着性が向上し、さらに上記の局部的応力の緩和がより起こりやすくなる。
すなわち、本発明の好ましい一実施形態においては、ドメインマトリクス構造のドメイン相は、結晶性樹脂を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面を被覆する非晶性樹脂を含むシェル部と、からなるコアシェル構造の複合粒子を含む。さらに前記結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。なお、コアシェル構造の複合粒子を含むことは、オスミウム染色したトナー粒子断面を透過型電子顕微鏡により、定法により測定して観察することができる。また、ウルトラミクロトームでトナー粒子の切片を切り出す場合は、切片の厚さは100nmに設定する。
ここで、「コアシェル構造」とは、シェル層がコア粒子を完全に被覆している形態のみならず、コア粒子の一部を被覆しているものであってもよい。また、シェル層を構成するシェル樹脂の一部がコア粒子中にドメインなどを形成しているものであってもよい。さらに、シェル層が組成の異なる樹脂を含む2層以上の多層構造を有するものであってもよい。
以下、コア粒子が結晶性ポリエステル樹脂であり、シェル部が非晶性樹脂である複合粒子の作製方法について具体的に説明する。
複合粒子は、例えば、シード重合法を利用することによって、作製することができる。具体的には、結晶性ポリエステル樹脂粒子をシードとし、この結晶性ポリエステル樹脂粒子表面上にビニル単量体をシード重合させることによって、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面を非晶性樹脂で被覆したコアシェル構造の複合粒子が得られる。
本発明の好ましい一実施形態において、マトリクス相を形成する非晶性樹脂(メイン樹脂)と、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面を被覆する非晶性樹脂(被覆樹脂)とが同じ種類の単量体を用いて形成されるものであることが好ましい。このように、メイン樹脂と被覆樹脂とが同じ単量体を用いて形成されることにより、メイン樹脂と被覆樹脂との親和性をより高いものとすることができ、トナー製造時において結晶性ポリエステル樹脂をより効率的に非晶性樹脂中に導入させることができる。
複合粒子において、シード樹脂としての結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂(被覆樹脂)との質量比(結晶性ポリエステル樹脂/被覆樹脂)は、10/90〜80/20であることが好ましく、50/50〜80/20であることがより好ましい。質量比(結晶性ポリエステル樹脂/被覆樹脂)が上記範囲にあることにより、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面に十分な量の被覆樹脂が付着されることとなり、得られる複合粒子が良好なコアシェル構造を形成することができる。
なお、上記好ましい一実施形態において、シードとしての結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面が被覆樹脂によって完全に被覆されている複合粒子であることが好ましいが、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面の一部が非晶性樹脂によって被覆されている複合粒子であってもよい。また、被覆樹脂が組成の異なる非晶性樹脂を含む2層以上の多層構造を有するものであってもよい。
好ましい一実施形態において、マトリクス相は、カルボキシ基を有する非晶性樹脂を含むことが好ましい。マトリクス相にカルボキシ基を有する非晶性樹脂が含まれることにより、トナー粒子の表面に分極しているカルボキシ基が存在しやすくなる。そして、定着時にトナー粒子間のカルボキシ基による水素結合が働くようになり、トナー粒子同士の接着性がより向上する。これにより、トナー粒子界面の接着性が高くなり、折り部での画像剥がれがより発生しにくくなると考えられる。
マトリクス相に含まれる非晶性樹脂のカルボキシ基濃度は、0.2mmol/g以上1.0mmol/g以下であることが好ましく、0.3mmol/g以上0.85mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、カルボキシ基濃度は、非晶性樹脂中のカルボキシ基の割合であり、非晶性樹脂のカルボキシ基濃度が上記範囲であることにより、トナー粒子同士の接着性がより強くなり、折り部での画像剥がれの発生がより抑制される。また、通紙時のジャムの発生を抑制することができる。
本発明において、カルボキシ基濃度は下記数式(B)により算出される値である。
数式(B):カルボキシ基濃度=[カルボキシ基のモル数/(非晶性樹脂を形成するビニル単量体の分子量×モル分率)の総和]×1000
非晶性樹脂のカルボキシ基濃度は、カルボキシ基を有する単量体の含有比率によって制御することができる。
なお、非晶性樹脂として、カルボキシ基濃度の異なる2種以上の非晶性樹脂を用いる場合においては、カルボキシ基濃度は、各々の非晶性樹脂のカルボキシ基濃度に各々の含有比率(質量比)を乗じた値の総和をいう。
非晶性樹脂のカルボキシ基濃度は、例えば重クロロホルムを用いた13C−NMR(核磁気共鳴)測定によって確認することができる。具体的には、各モノマー由来の炭素原子のピークを帰属し、単量体種、組成比を特定し算出することができる。
なお、被覆樹脂のカルボキシ基濃度や、結着樹脂のカルボキシ基濃度も、上記と同様に、0.2mmol/g以上1.0mmol/g以下であることが好ましく、0.3mmol/g以上0.85mmol/g以下であることがより好ましい。
非晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂)の含有量は上記したとおりである。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂と結晶性ポリエステル樹脂との質量比(結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂/結晶性ポリエステル樹脂)は、97/3〜60/40であることが好ましく、95/5〜70/30であることがより好ましい。この範囲であれば、折り部の画像剥がれがより抑制される。
なお、上述のように、被覆樹脂とマトリクス相とに非晶性樹脂が用いられている場合は、その合計量が上記好ましい範囲内にあればよい。
本発明のトナーにおいて、結着樹脂には、上記で説明した非晶性樹脂、結晶性ポリエステル樹脂以外に、非晶性ポリエステル樹脂等、他の樹脂が含まれていてもよい。
〔離型剤〕
本発明のトナーは、離型剤を含んでもよい。
離型剤としては、具体的には、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィン系ワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
これらのうちでも、低温定着時の離型性の観点から、融点の低いもの、具体的には、融点が40〜90℃のものを用いることが好ましい。
離型剤の含有割合は、トナー粒子中に1〜20質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。トナー粒子における離型剤の含有割合が上記の範囲にあることにより、分離性および定着性が確実に両立して得られる。
〔着色剤〕
本発明のトナーは、着色剤を含んでもよい。着色剤としては、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料等が挙げられる。
カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えばマグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合は、トナー粒子中に1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。この範囲であれば、得られるトナーに所望の着色力が付与でき、着色剤の遊離やキャリアなどへの付着が発生を抑制し、帯電性を維持することができる。
〔荷電制御剤〕
本発明のトナー粒子は、荷電制御剤を含有してもよい。
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩など、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部となる量である。
本発明のトナーがドメインマトリクス構造を有する場合には、荷電制御剤の分散性の観点から特にマトリクスに荷電制御剤が含有されている方が好ましい
〔外添剤〕
本発明のトナーにおいては、トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加してもよい。外添剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば、以下に例示する公知の無機粒子および滑剤等が挙げられる。これら外添剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
無機粒子としては、従来公知のものを使用することが可能で、例えば、シリカ、チタニア(二酸化チタン)、アルミナ、チタン酸ストロンチウム粒子、ハイドロタルサイト等が好ましい。また、必要に応じてこれらの無機粒子を疎水化処理したものも使用することができる。
また、滑剤としては以下のような高級脂肪酸の金属塩がある。すなわち、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウム等の塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、リノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩が挙げられる。
外添剤の添加量(2種以上使用する場合は、その合計量)は、トナー母体粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。
〔トナー粒子の粒径〕
本発明に係るトナー粒子においては、平均粒径が、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、5〜8μmであることがより好ましい。この平均粒径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成などによって制御することができる。体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。
トナー粒子の体積基準のメジアン径は、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、測定試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター株式会社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明のトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.920〜1.000であることが好ましく、0.930〜0.995であることがより好ましい。平均円形度がこの範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。
トナーの平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(y)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
式(y):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)。
〔軟化点〕
本発明のトナーの軟化点は、115℃以下である。軟化点が115℃を超えると、トナーの低温定着性が悪化する。トナーの軟化点は、好ましくは110℃以下である。一方、軟化点の下限は特に制限されないが、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上である。
本発明において、トナーの軟化点は、フローテスターによって測定されるものである。具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、試料(トナー)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(株式会社島津製作所製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、軟化点とされる。
トナーの軟化点は、結着樹脂を構成する樹脂に用いられる単量体の種類や添加量、樹脂の分子量、結着樹脂を構成する樹脂が複数あればその含有割合等を調節することにより制御することができる。
〔臨界荷重〕
本発明のトナーにおいては、先端径が50μmのサファイア針を用いて、荷重変動型摩擦磨耗試験機により、ガラス基材上に付着量16g/m2で形成されたトナーによる像の表面の引っかき試験を行ったときに、臨界荷重が30gf以上である。臨界荷重が30gf未満である場合、画像強度が低く、折り部の画像剥がれがより発生しやすくなる。該臨界荷重は、好ましくは50gf以上150gf以下、より好ましくは50gf以上120gf以下である。該臨界荷重の上限値は特に制限されないが、通常400gf以下である。
該臨界荷重は、結着樹脂を構成する樹脂に用いられる単量体の種類や添加量、樹脂の分子量、樹脂のカルボキシ基濃度やエステル基濃度、結着樹脂を構成する樹脂が複数あればその含有割合等を調節することにより制御することができる。臨界荷重は、以下のような方法により測定することができる。
<臨界荷重の測定方法>
画像形成装置として、市販の複写機「bizhub PRO(登録商標)C6550」(コニカミノルタ株式会社製)において、現像スリーブから直接ガラス基板上に現像転写され、厚みのあるガラス基板が通過できるように現像スリーブから現像転写される側までの距離が変更できるように改造し、かつガラス基板が変形しないように通紙経路を改造したものを用いる。トナーを含む現像剤を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、表面を触らないようにしたスライドガラス(アズワン株式会社製、型番10117102、切削タイプ、表面処理をしていない)に、トナー付着量16g/m2のベタ画像を定着させる。より具体的には、画像定着装置として、市販の複写機「bizhub PRO(登録商標)C6550」において、熱ローラ定着方式の定着手段における定着加熱ローラの表面温度を、別途の低温定着性評価(実施例の方法参照)において得られる最低定着温度+25℃に調整し、熱ローラの回転速度を定着時間が4秒間になるように改造し、また熱ローラの圧力が200kPaになるように改造し、かつガラス基板が変形しないように通紙経路を改造したものを用いる。このような画像定着装置を用い、トナーを含む現像剤を画像定着装置に搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、上記の表面処理をしていないスライドガラスにトナー付着量16g/m2のベタ画像を定着させる。
先端径が50μmのサファイア端子を用いて、以下に示す荷重変動型摩擦磨耗試験機を用い、荷重変動型の引っかき試験を実施する。荷重変動型引っかき試験は、引っかく距離が進むとともに、荷重が増加し、また、ガラス基板を設置する位置によって、開始荷重を変えることができる。トルクの変化から、臨界荷重(ベタ画像の剥離が始まるときの荷重)を判断することができ、引っかき傷部分の剥がれの状態を観察することによっても臨界荷重を判断することができる。本評価では、トルクの変化により、臨界荷重を測定する。
横軸を荷重とし、縦軸を端子にかかるトルクとして、その関係をグラフにすると、端子がトナー画像上を通っているときは、トルクの変化の傾きは15mN/g未満であるが、画像の剥離が始まるとトルクの変化の傾きは15mN/g以上となる。よって、荷重を上げていったときに、初めて傾きが15mN/g以上になる荷重を臨界荷重とする。
装置:HEIDONトライボギア 18L 引掻強度試験機(新東科学株式会社製)
端子:サファイア針 先端径50μm
荷重増加速度:200g/min
引っかき速度:200mm/min。
上記のHEIDONトライボギア 18L 引掻強度試験機を用いる場合は、試料設置部分を改造すれば、200g以上の荷重を用いる場合でも引っかき試験を行うことができる。
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面をシリコーン樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径としては、20〜100μmであることが好ましく、25〜80μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパテック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
[静電潜像現像用トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法としては、特に限定されないが、水系媒体中で作製される湿式の製造方法、例えば乳化凝集法などが挙げられる。
乳化凝集法による本発明のトナーの製造方法は、水系媒体中に結着樹脂の粒子(以下、「結着樹脂粒子」とも称する)が分散されてなる水系分散液と、着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」とも称する)の水系分散液と、混合し、結着樹脂粒子および着色剤粒子を凝集・熱融着させることによりトナー粒子を形成しトナーを作製する方法である。
結着樹脂粒子は、組成の異なる結着樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよく、このような構成の結着樹脂粒子は、例えば2層構造を有するものは、常法に従った重合処理(第1段重合)によって樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法によって得ることができる。
ここに、「水系分散液」とは、水系媒体中に、分散体(粒子)が分散されてなるものであり、水系媒体とは、主成分(50質量%以上)が水からなるものをいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
本発明のトナーの製造方法の一例を具体的に示すと、
(a)水系媒体中に非晶性樹脂の粒子(以下、「樹脂粒子」とも称する)が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(b)水系媒体中に結晶性ポリエステル樹脂の粒子(以下、「結晶性ポリエステル樹脂粒子」とも称する)が分散されてなる水系分散液に、ビニル単量体を添加し、結晶性ポリエステル樹脂粒子をシードとしてビニル単量体によるシード重合を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面に非晶性樹脂(以下、「表層用非晶性樹脂」とも称する)が付着されてなる複合粒子が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(c)水系媒体中に着色剤粒子が分散されてなる水系分散液を調製する工程、
(d)水系媒体中において、樹脂粒子、複合粒子および着色剤粒子を凝集、融着させて会合粒子を形成する工程、
(e)会合粒子を熱エネルギーにより熟成させて形状を制御し、トナー粒子を得る工程
(f)トナー粒子の分散液を冷却する工程、
(g)水系媒体からトナー粒子を濾別し、当該トナー粒子から界面活性剤などを除去する工程、
(h)洗浄されたトナー粒子を乾燥する工程
などの工程からなり、必要に応じて、
(i)乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加する工程
を加えることができる。
(a)樹脂粒子の水系分散液の調製工程
この工程においては、非晶性樹脂による樹脂粒子の水系分散液が調製される。
樹脂粒子の水系分散液は、非晶性樹脂を得るためのビニル単量体を使用してミニエマルション重合法によって調製することができる。すなわち、例えば界面活性剤を含有した水系媒体中にビニル単量体を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤からのラジカルにより当該液滴中において重合反応を進行させる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。これにより、非晶性樹脂による樹脂粒子の水系分散液を調製することができる。
〔界面活性剤〕
この工程において使用される界面活性剤としては、従来公知の種々のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤などを用いることができる。
〔重合開始剤〕
この工程において使用される重合開始剤は、従来公知の種々のものを用いることができる。重合開始剤の具体例としては、例えば過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)が好ましく用いられる。その他、アゾ系化合物(4,4’−アゾビス4−シアノ吉草酸およびその塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩など)、パーオキシド化合物、アゾビスイソブチロニトリルなどを用いてもよい。
〔連鎖移動剤〕
この工程においては、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えば2−クロロエタノール、オクチルメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン、およびスチレンダイマーなどを挙げることができる。
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂の他に、必要に応じて例えば離型剤や荷電制御剤などの他の内添剤が含有されていてもよく、このような内添剤は、例えば、この工程において、予め、非晶性樹脂を形成するためのビニル単量体の溶液に溶解または分散させておくことによってトナー粒子中に導入することができる。
また、このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤粒子の分散液を調製し、凝集・融着工程において樹脂粒子、複合粒子および着色剤粒子と共に当該内添剤粒子を凝集させることにより、トナー粒子中に導入することもできるが、この工程において予め導入しておく方法を採用することが好ましい。
樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で20〜400nmの範囲にあることが好ましい。本発明において、樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて測定される値である。
(b)複合粒子の水系分散液の調製工程
この工程においては、結晶性ポリエステル樹脂粒子の表面にビニル単量体を用いて形成される被覆樹脂(非晶性樹脂)が付着されてなる複合粒子の水系分散液が調製される。
具体的には、結晶性ポリエステル樹脂(好ましくはハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)を合成し、この結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散して結晶性ポリエステル樹脂粒子が分散されてなる水系分散液を得、この水系分散液に、ビニル単量体および重合開始剤を添加し、結晶性ポリエステル樹脂粒子をシードとしてビニル単量体によるシード重合を行うことにより、複合粒子の水系分散液を調製することができる。
結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液は、結晶性ポリエステル樹脂を有機溶媒中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去することにより調製することができる。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。
水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤などが添加されていてもよい。界面活性剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。有機溶媒の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1〜300質量部である。油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
シードとなる結晶性ポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で10〜400nmの範囲にあることが好ましい。本発明において、結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて測定される値である。
シード重合では、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。重合開始剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。
シード重合においては、結晶性ポリエステル樹脂の粘度が高い状態で行われることが好ましく、シード重合の重合温度は、結晶性ポリエステル樹脂の融点+20℃以下であることが好ましく、融点+10℃以下であることがより好ましく、融点以下であることがさらに好ましい。
複合粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で20〜400nmの範囲にあることが好ましい。本発明において、複合粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて測定される値である。
(c)着色剤粒子の水系分散液の調製工程
この工程は、トナー粒子として着色剤を含有するものを所望する場合に必要に応じて行う工程であって、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の水系分散液を調製する工程である。
着色剤粒子の水系分散液は、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加した水系媒体中に着色剤を分散させることにより得られる。着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、使用する分散機としては、特に限定されないが、好ましくは超音波分散機、機械的ホモジナイザー、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザーなどの加圧分散機、サンドグラインダー、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミルなどの媒体型分散機が挙げられる。
着色剤粒子は、分散した状態で体積基準のメジアン径が10〜300nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましく、100〜150nmであることがさらに好ましい。本発明において、着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定される値である。
(d)凝集・融着工程
この工程においては、樹脂粒子、複合粒子および着色剤粒子、ならびに必要に応じてその他のトナー構成成分の粒子を凝集させて、さらに加熱によって融着させる。
具体的には、水系媒体中に上記の粒子が分散されてなる水系分散液中に、臨界凝集濃度以上の凝集剤を加え、非晶性樹脂および被覆樹脂のガラス転移点以上の温度にすることによって凝集、融着させる。
この工程においては、非晶性樹脂および被覆樹脂のガラス転移点未満の状態において、樹脂粒子、着色剤粒子、および複合粒子を水系媒体中で一度に混合してもよいし、樹脂粒子と着色剤粒子とが分散された水系媒体中に凝集剤を添加した後、昇温せずに、複合粒子を添加してもよい。また、樹脂粒子と着色剤粒子とが凝集した凝集粒子が、形成されるべきトナー粒子の粒径の1/4〜1/2の大きさになった時点で、複合粒子を添加し、その後、非晶性樹脂および被覆樹脂のガラス転移点以上に昇温してもよい。このようなタイミングで複合粒子を添加して凝集に供することによって、複合粒子を、形成されるべきトナー粒子の内部により効率的に閉じ込めることができる。
〔凝集剤〕
この工程において使用される凝集剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩や第2族の金属の塩などの金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
(e)熟成工程
この工程は、必要に応じて行われるものであって、当該熟成工程においては、凝集・融着工程によって得られた会合粒子を熱エネルギーにより所望の形状になるまで熟成させてトナー粒子を形成させる熟成処理が行われる。
熟成処理は、具体的には、会合粒子が分散された系を加熱攪拌することにより、会合粒子の形状を所望の円形度になるまで、加熱温度、攪拌速度、加熱時間などにより調整することにより、行われる。
(f)冷却工程
この工程は、トナー粒子の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理の条件としては、1〜20℃/minの冷却速度で冷却することが好ましい。冷却処理の具体的な方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法などを例示することができる。
(g)濾過・洗浄工程
この工程は、冷却されたトナー粒子の分散液から当該トナー粒子を固液分離し、固液分離によって得られたトナーケーキ(ウェット状態にあるトナー粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去して洗浄する工程である。
固液分離には、特に限定されずに、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などを用いることができる。また、洗浄においては、濾液の電気伝導度がたとえば15μS/cm以下になるまで水洗浄することが好ましい。
(h)乾燥工程
この工程は、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する工程であり、一般的に行われる公知のトナー粒子の製造方法における乾燥工程に従って行うことができる。
具体的には、トナーケーキの乾燥に使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
乾燥されたトナー粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。なお、乾燥されたトナー粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、その凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
(i)外添剤の添加工程
この工程は、トナー粒子に対して外添剤を添加する場合に必要に応じて行う工程である。
外添剤の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明のトナーは、結着樹脂が含有されたコア粒子とその外周面を被覆するシェル樹脂よりなるシェル層とからなるコアシェル構造のトナー粒子からなるものであってもよい。このようにシェル層が形成されたトナーによれば、結着樹脂として上記のような複合粒子が用いられた場合、結晶性ポリエステル樹脂がトナー粒子の表面にさらに露出しにくい構造となるため、帯電性能の低下をより抑制することができる。
以下、本発明の代表的な実施形態を示し、本発明につきさらに説明するが、無論、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施例中において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の分子量および融点の測定;樹脂粒子、着色剤粒子、結晶性ポリエステル樹脂粒子、および複合粒子の体積基準のメジアン径の測定;非晶性樹脂のカルボキシ基濃度;結晶性ポリエステル樹脂のエステル基濃度;ならびにトナーの軟化点の測定は、それぞれ上述の通りに行った。
[トナーの作製]
〔離型剤を含有する非晶性樹脂(ビニル樹脂)粒子〔a1〕の分散液〔A1〕の調製〕
(第1段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた溶液を仕込んだ。窒素気流下230rpmの攪拌速度で攪拌しながら、内温を85℃に昇温させた後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し、再度液温を85℃とし、
スチレン(St) 480g
n−ブチルアクリレート(BA) 193g
2−エチルヘキシルアクリレート(2HEA) 82g
メタクリル酸(MAA) 38g
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)(n=9) 23g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、85℃で2時間加熱、攪拌することにより重合を行い、樹脂粒子〔a11〕が分散されてなる水系分散液〔A11〕を調製した。
(第2段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた10Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7gをイオン交換水800mlに溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、上記で調製した水系分散液〔A11〕を全量加えた。
さらに、
スチレン(St) 137g
n−ブチルアクリレート(BA) 55g
2−エチルヘキシルアクリレート(2HEA) 23g
メタクリル酸(MAA) 11g
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)(n=9) 7g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 1.0g
離型剤:ベヘン酸ベヘニル(融点73℃) 190g
を90℃で溶解、混合させた単量体溶液を、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)により1時間混合分散させて、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
次いで、反応容器に、過硫酸カリウム6gをイオン交換水200mlに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃で1時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂粒子〔a12〕が分散されてなる水系分散液〔A12〕を調製した。
(第3段重合)
上記の水系分散液〔a12〕に、過硫酸カリウム11gをイオン交換水400mlに溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下に、
スチレン(St) 240g
n−ブチルアクリレート(BA) 97g
2−エチルヘキシルアクリレート(2HEA) 41g
メタクリル酸(MAA) 19g
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)(n=9) 12g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 6g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、これにより、ビニル単量体を主成分とし、離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔a1〕の水系分散液〔A1〕を調製した。
この水系分散液〔A1〕について、非晶性樹脂粒子〔a1〕の体積基準のメジアン径を測定したところ、200nmであった。
〔非晶性樹脂粒子〔a2〕〜〔a10〕の分散液〔A2〕〜〔A10〕の調製〕
各単量体の添加量を下記表1に示すように変更したこと以外は、上記分散液〔A1〕の調製と同様にして、水系分散液〔A2〕〜〔A10〕を調製した。なお、〔A10〕では、2−エチルヘキシルアクリレートの代わりに、アクリル酸(AA)を使用した。下記表1では、各単量体のモル比、および非晶性樹脂のカルボキシ基濃度も示す。また、表1中の「−」は、その単量体を使用しなかったことを示す。
なお、非晶性樹脂粒子〔a2〕〜〔a10〕の体積基準のメジアン径、および非晶性樹脂の重量平均分子量は、〔A1〕と同様であった。
〔ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液〔C1〕の調製〕
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリッドCPES、c1)の合成
下記の付加重合系樹脂(スチレンアクリル重合セグメント)の原料モノマー、両反応性モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 34質量部
n−ブチルアクリレート 12質量部
アクリル酸 2質量部
重合開始剤(ジーt−ブチルパーオキサイド) 7質量部
さらに、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル重合セグメント)の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
セバシン酸(分子量202.25) 300質量部
1,6−ヘキサンジオール(分子量118.17) 196質量部
次いで、攪拌下で付加重合系樹脂の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。なお、このとき、除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマーに対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。次に200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)を得た。得られたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の重量平均分子量(Mw)は14,000であり、融点(Tm)は66.8℃であった。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)30質量部を溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した。濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換器で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量%のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子(c1)の水系分散液〔C1〕を調製した。
〔ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液〔C2〕〜〔C6〕の調製〕
重縮合系樹脂の原料モノマーの種類および添加量を下記表2のように変更したこと以外は、上記〔ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液〔C1〕の調製〕と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子(c2)〜(c6)の水系分散液〔C2〕〜〔C6〕を調製した。なお、(c2)〜(c6)において、重量平均分子量および分散液中の体積基準のメジアン径は、いずれも(c1)と同じであった。
〔結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液〔C7〕の調製〕
付加重合系樹脂の原料モノマーを使用せず、重縮合系樹脂の原料モノマーの種類および添加量を下記表2のように変更したこと以外は、上記〔ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液〔C1〕の調製〕と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂粒子(CPES、c7)の水系分散液〔C7〕を調製した。なお、(c7)の重量平均分子量(Mw)は35,000であり、分散液中の体積基準のメジアン径は200nmであった。
各ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂のモノマー種および添加量、エステル基濃度、ならびに融点を下記表2に示す。
〔複合粒子の水系分散液〔S1〕の調製〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、シードであるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子(c1)の水系分散液〔C1〕2000質量部とイオン交換水1150質量部とを仕込み、さらに過硫酸カリウム10.3質量部をイオン交換水210質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加した。85℃の温度条件下において、被覆樹脂を形成するビニル単量体として、スチレン(St)390質量部、n−ブチルアクリレート(BA)143質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2HEA)58質量部およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)(n=9)60質量部およびメタクリル酸(MMA)30質量部からなる単量体混合液を2時間かけて滴下した後、85℃で2時間にわたって加熱攪拌することによってシード重合を行った。重合終了後、28℃まで冷却することにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子(c1)を内包する複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕を調製した。
この水系分散液〔S1〕中の複合粒子〔s1〕の体積基準のメジアン径は、270nmであった。
〔複合粒子の水系分散液〔S2〕〜〔S8〕の調製〕
被覆樹脂の樹脂組成が、下記表3に示すモル比となるように単量体の添加量を変更すると共に、用いるシード(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子)の種類を表3に示す通りに変更し、さらに被覆樹脂とシードとの含有比率が質量比で表3に示す通りとなるように水系分散液の添加量を変更したこと以外は、上記〔複合粒子の水系分散液〔S1〕の調製〕と同様にして、複合粒子〔s2〕〜〔s8〕の水系分散液〔S2〕〜〔S8〕を調製した。
水系分散液〔S2〕〜〔S8〕中の複合粒子〔s2〕〜〔s8〕の体積基準のメジアン径は、いずれも複合粒子〔s1〕と同様であった。
なお、下記表3中の「−」は、その単量体を使用しなかったことを示す。
〔着色剤粒子の水系分散液〔Bk〕の調製〕
ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1510質量部に攪拌溶解し、この溶液を攪拌しながら、着色剤であるカーボンブラック「リーガル(登録商標)330」(キャボット社製)を400質量部、徐々に添加し、次いで、クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の水系分散液〔Bk〕を調製した。着色剤粒子分散液〔Bk〕における着色剤粒子の体積基準のメジアン径を測定したところ、120nmであった。
<実施例1>
〔トナー〔1〕の調製〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けたゼブラフラスコに、イオン交換水2500質量部、非晶性樹脂粒子〔A1〕(メイン樹脂)の水系分散液〔A1〕600質量部(固形分換算)、複合粒子〔S1〕の水系分散液〔S1〕300質量部(固形分換算)、および着色剤粒子の水系分散液〔Bk〕500質量部を仕込み、液温を25℃に調整した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物54.3質量部をイオン交換水54.3質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、系の温度を97℃にまで昇温することによって各樹脂粒子と着色剤粒子との凝集反応を開始した。
この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて粒子の体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径が6.3μmになるまで攪拌を継続しながら凝集させた。
その後、塩化ナトリウム23.0質量部をイオン交換水92質量部に溶解させた水溶液を添加し、系の温度を95℃として3時間攪拌を継続し、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で平均円形度が0.910に達した時点で、6℃/分の条件で30℃にまで冷却した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pH10に調整した。その後、系の温度を95℃として1時間攪拌を継続し、平均円形度が0.940に達した時点で、6℃/分の条件で30℃にまで冷却して反応を停止させることにより、トナー粒子の分散液を得た。冷却後のトナー母体粒子の体積基準のメジアン径は6.1μm、平均円形度は0.941であった。
このようにして得られたトナー粒子の分散液を、バスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(松本機械販売株式会社製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離とを繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)を用い、温度40℃および湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.5質量%となるまで乾燥処理し、24℃に冷却することにより、トナー粒子〔1〕を得た。
得られたトナー粒子〔1〕に対して、疎水性シリカ粒子1質量%と疎水性酸化チタン粒子1.2質量%とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させることによって外添剤を添加し、トナー粒子〔1〕を含むトナー〔1〕を得た。
得られたトナー〔1〕について軟化点(Tsp)を測定したところ、100℃であった。
なお、トナー〔1〕において、疎水性シリカ粒子および疎水性酸化チタン粒子の添加によっては、トナー粒子の形状および粒径は、トナー母体粒子から変化しなかった。
<実施例2〜14、比較例1〜5>
〔トナー〔2〕〜〔19〕の調製〕
非晶性樹脂粒子の水系分散液および複合粒子の水系分散液の種類を下記表4に示す通りに変更し、また、それぞれの樹脂の含有比率が質量比で表4に示す通りとなるように水系分散液の添加量を変更したことを除いては、実施例1と同様にして、トナー〔2〕〜〔19〕を得た。
実施例8のトナー〔8〕においては、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c2〕の水系分散液〔C2〕を用いた。
実施例13のトナー〔13〕においては、複合粒子〔c1〕の水系分散液〔S1〕の代わりに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c2〕の水系分散液〔C2〕を用いた。
実施例14のトナー〔14〕においては、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりに、結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c7〕の水系分散液〔C7〕を用いた。
比較例1のトナー〔15〕においては、非晶性樹脂粒子〔a1〕の水系分散液〔A1〕の代わりに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c2〕の水系分散液〔C2〕を用い、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c6〕の水系分散液〔C6〕を用いた。
比較例2のトナー〔16〕においては、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりになるものは加えなかった。
比較例3のトナー〔17〕においては、樹脂粒子〔a11〕の水系分散液〔A11〕の代わりに結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c6〕の水系分散液〔C6〕を用い、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりになるものは加えずに作製した。
比較例4のトナー〔18〕においては、複合粒子〔s1〕の水系分散液〔S1〕の代わりに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子〔c2〕の水系分散液〔C2〕を用いて作製した。
〔現像剤の製造〕
トナー〔1〕〜〔19〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径が60μmのフェライトキャリアを、トナー濃度が6質量%となるように添加し、V型混合機によって混合することにより、現像剤〔1〕〜〔19〕を製造した。
〔シアントナー、シアン現像剤、マゼンタトナー、マゼンタ現像剤の製造〕
後述の評価2の2次色定着性評価に用いるシアントナーおよびマゼンタトナーについては、カーボンブラックの代わりに、C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン、着色剤粒子〔シアン〕)、およびC.I.ピグメントレッド122(ジメチルキナクリドン、着色剤粒子〔マゼンタ〕)を用いたこと以外は、上記〔着色剤粒子の水系分散液の調製〕と同様にして、着色剤粒子〔シアン〕の水系分散液〔シアン〕および着色剤粒子〔マゼンタ〕の水系分散液〔マゼンタ〕を得た。
その後、着色剤粒子〔Bk〕の水系分散液〔Bk〕500質量部の代わりに、着色剤粒子〔シアン〕の水系分散液〔シアン〕400質量部を用いたこと以外は、上記〔トナーの製造例1〕と同様にして、シアントナー〔1〕を得た。また、着色剤粒子〔Bk〕の水系分散液〔Bk〕500質量部の代わりに、着色剤粒子〔マゼンタ〕の水系分散液〔マゼンタ〕400質量部を用いたこと以外は、上記〔トナー〔1〕の調製〕と同様にして、マゼンタトナー〔1〕を得た。トナー〔2〕〜〔19〕についても、上記と同様にして、シアントナー〔2〕〜〔19〕およびマゼンタトナー〔2〕〜〔19〕を得た。
その後、得られたシアントナー〔1〕〜〔19〕およびマゼンタトナー〔1〕〜〔19〕を用い、上記〔現像剤の製造〕と同様にして、シアン現像剤〔1〕〜〔19〕、マゼンタ現像剤〔1〕〜〔19〕を製造した。
[性能評価]
<評価1:荷重変動型引っかき試験>
画像形成装置として、市販の複写機「bizhub PRO(登録商標)C6550」(コニカミノルタ株式会社製)において、現像スリーブから直接ガラス基板上に現像転写され、厚みのあるガラス基板が通過できるように現像スリーブから現像転写される側までの距離が変更できるように改造し、かつガラス基板が変形しないように通紙経路を改造したものを用いた。現像剤として、現像剤〔1〕〜〔19〕を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、表面を触らないようにしたスライドガラス(アズワン株式会社製、型番10117102、切削タイプ、表面処理をしていない)に、トナー付着量16g/m2のベタ画像を定着した。画像定着装置として、市販の複写機「bizhub PRO(登録商標)C6550」において、熱ローラ定着方式の定着手段における定着加熱ローラの表面温度を後述の評価2の低温定着性評価において得られる最低定着温度+25℃に調整し、熱ローラの回転速度を定着時間が4秒間になるように改造し、また熱ローラの圧力が200kPaになるように改造し、かつガラス基板が変形しないように通紙経路を改造したものを用いた。このような画像定着装置を用い、現像剤として現像剤〔1〕〜〔19〕を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、上記の表面処理をしていないスライドガラスに、トナー付着量16g/m2のベタ画像を定着させた。
先端径が50μmのサファイア端子を用いて、以下に示す荷重変動型摩擦磨耗試験機を用い、荷重変動型の引っかき試験を実施した。荷重変動型引っかき試験は、引っかく距離が進むとともに、荷重が増加し、また、ガラス基板を設置する位置によって、開始荷重を変えることができる。トルクの変化から、臨界荷重(ベタ画像の剥離が始まるときの荷重)を判断することができ、引っかき傷部分の剥がれの状態を観察することによっても臨界荷重を判断することができる。本評価では、トルクの変化により、臨界荷重を測定した。
横軸を荷重とし、縦軸を端子にかかるトルクとして、その関係をグラフにすると、端子がトナー画像上を通っているときは、トルクの変化の傾きは15mN/g未満であるが、画像の剥離が始まるとトルクの変化の傾きは15mN/g以上となる。よって、荷重を上げていったときに、初めて傾きが15mN/g以上になる荷重を臨界荷重とした。
装置:HEIDONトライボギア 18L 引掻強度試験機(新東科学株式会社製)
端子:サファイア針 先端径50μm
荷重増加速度:200g/min
引っかき速度:200mm/min。
上記のHEIDONトライボギア 18L 引掻強度試験機を用いる場合は、試料設置部分を改造すれば、200g以上の荷重を用いる場合でも引っかき試験を行うことができる。
<評価1:2次色定着性の評価(折り部での画像剥がれ評価)>
上記の「bizhub PRO(登録商標)C6500」の改造機を用い、現像剤としてシアン現像剤〔1〕〜〔19〕、マゼンタ現像剤〔1〕〜〔19〕を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、A4サイズの上質紙上に、トナー付着量11g/m2で、シアンとマゼンタの2次色ベタ画像を現像した。その後、転写した紙を10℃/10%RHの環境下で、定着用ヒートローラーの温度を160℃とし、定着を行った。定着ベタ画像を折り機で折り、これに0.35MPaの空気を吹きつけ、折り目の状態を、限度見本を参照しながら、以下の5段階で評価した:
ランク5:全く折れ目に剥離無し
ランク4:一部折り目に従い剥離有り
ランク3:折り目に従い細い線状の剥離あり
ランク2:折り目に従い太い剥離有り
ランク1:画像に大きな剥離有り。
ランク5〜3が実用上問題ないレベルであり、ランク2〜1は、実用上問題がある。
<評価2:低温定着性(最低定着温度)の評価>
画像形成装置として、市販の複写機「bizhub PRO(登録商標)C754」(コニカミノルタ株式会社製)において、熱ローラ定着方式の定着手段における定着加熱ローラの表面温度を、120〜200℃の範囲に変更できるように改造したものを用いた。現像剤として現像剤〔1〕〜〔19〕を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、A4サイズの上質紙上に、トナー付着量8mg/cm2のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を135℃から5℃刻みで増加させるよう変更しながら200℃まで繰り返し行った。目視で低温オフセットによる画像汚れが観察されない定着実験のうち、最低の温度を最低定着温度として評価した。最低定着温度が165℃以下であるものを合格と判断した。
各トナーの性状および評価結果を、下記表4に示す。なお、下記表4中の含有樹脂の欄における「−」は、その樹脂を使用しなかったことを示す。また、「totalカルボキシ基濃度」は、メイン樹脂(マトリクス相)のカルボキシ基濃度と被覆樹脂のカルボキシ基濃度との合計を表す。
上記表4から明らかなように、すべての実施例のトナーは、折り部での画像剥がれが抑制され、低温定着性に優れていることがわかる。
一方、比較例1〜4のトナーは、臨界荷重が30gf未満であり、折り部での画像剥がれが多く、実用に適さないことがわかる。比較例5のトナーは、軟化点が高いため低温定着性に劣ることがわかる。