JP6653120B2 - Ikaros阻害に基づく抗炎症薬 - Google Patents

Ikaros阻害に基づく抗炎症薬 Download PDF

Info

Publication number
JP6653120B2
JP6653120B2 JP2015043590A JP2015043590A JP6653120B2 JP 6653120 B2 JP6653120 B2 JP 6653120B2 JP 2015043590 A JP2015043590 A JP 2015043590A JP 2015043590 A JP2015043590 A JP 2015043590A JP 6653120 B2 JP6653120 B2 JP 6653120B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
ikaros
inflammatory
cells
gene
expression
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2015043590A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2016088926A (ja
JP2016088926A5 (ja
Inventor
木下 茂
茂 木下
真由美 上田
真由美 上田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Senju Pharmaceutical Co Ltd
Original Assignee
Senju Pharmaceutical Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Senju Pharmaceutical Co Ltd filed Critical Senju Pharmaceutical Co Ltd
Publication of JP2016088926A publication Critical patent/JP2016088926A/ja
Publication of JP2016088926A5 publication Critical patent/JP2016088926A5/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6653120B2 publication Critical patent/JP6653120B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
  • Medicines Containing Antibodies Or Antigens For Use As Internal Diagnostic Agents (AREA)
  • Pharmaceuticals Containing Other Organic And Inorganic Compounds (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)

Description

本発明は抗炎症薬に関する。
アレルギー疾患(例えば、花粉症、アレルギー性結膜炎、ぜんそく、アトピー性皮膚炎、クローン病、潰瘍性大腸炎)などの炎症性疾患は、罹患率が増加の一途を示している。他方、現在の炎症制御技術は、非ステロイド系消炎薬(NSAIDs)のほか、リンパ球等の免疫細胞を標的としたステロイド薬または免疫抑制薬が主であり、その副作用、例えば、感染症の誘発が問題となっている。
これまでに、特許文献1〜3にあるように、IKAROSに関する研究がなされている。また、TLR3や炎症に関する研究としては非特許文献1〜18がある。
特許第3562528号公報 特表平10−507070公報 特表平11−512284公報
Nakamura N, Tamagawa-Mineoka R, Ueta M, Kinoshita S, Katoh N. Toll-Like Receptor 3 Increases Allergic and Irritant Contact Dermatitis. J Invest Dermatol. 2014 Sep 17. doi: 10.1038/jid.2014.402. Ueta M, Sotozono C, Koga A, Yokoi N, Kinoshita S. Usefulness of a New Therapy Using Rebamipide Eyedrops in Patients with VKC/AKC Refractory to Conventional Anti-Allergic Treatments. Allergol Int. 2014 63:75-81 Ueta M, Mizushima K, Naito Y, Narumiya S, Shinomiya K, Kinoshita S. Suppression of polyI:C-inducible gene expression by EP3 in murine conjunctival epithelium. Immunol Lett. 2013 Sep 12. pii: S0165-2478(13)00121-1. Ueta M, Sotozono C, Yokoi N, Kinoshita S: Rebamipide Suppresses PolyI:C-Stimulated Cytokine Production in Human Conjunctival Epithelial Cells. J Ocul Pharmacol Ther. 2013 Sep;29(7):688-93. Ueta M, Kinoshita S: Ocular surface inflammation is regulated by innate immunity. Prog Retin Eye Res. 2012; 31(6): 551-575. Ueta M, Matsuoka T, Sotozono C, Kinoshita S: Prostaglandin E2 Suppresses Poly I: C-Stimulated Cytokine Production Via EP2 and EP3 in Immortalized Human Corneal Epithelial Cells. Cornea. 2012; 31(11): 1294-1298. Ueta M, Tamiya G, Tokunaga K, Sotozono C, Ueki M, Sawai H, Inatomi T, Matsuoka T, Akira S, Narumiya S, Tashiro K, Kinoshita S: Epistatic interaction between Toll-like receptor 3 (TLR3) and prostaglandin E receptor 3 (PTGER3) genes. J Allergy Clin Immunol. 2012; 129(5): 1413-1416.e11. Ueta M, Matsuoka T, Yokoi N, Kinoshita S: Prostaglandin E2 suppresses polyinosine-polycytidylic acid (polyI:C)-stimulated cytokine production via prostaglandin (EP) 2 and 3 in human conjunctival epithelial cells. Br J Ophthalmol. 2011; 95(6): 859-863. Ueta M, Matsuoka T, Yokoi N, Kinoshita S: Prostaglandin E receptor subtype EP3 downregulates TSLP expression in human conjunctival epithelium. Br J Ophthalmol. 2011; 95(5): 742-743. Ueta M, Mizushima K, Yokoi N, Naito Y, Kinoshita S: Gene-expression analysis of polyI:C-stimulated primary human conjunctival epithelial cells. Br J Ophthalmol. 2010; 94(11): 1528-1532. Ueta M, Kinoshita S: Innate immunity of the ocular surface. Brain Res Bull. 2010; 81(2-3): 219-228. Ueta M, Uematsu S, Akira S, Kinoshita S: Toll-like receptor 3 enhances late-phase reaction of experimental allergic conjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 2009; 123(5): 1187-1189. Ueta M, Matsuoka T, Narumiya S, Kinoshita S: Prostaglandin E receptor subtype EP3 in conjunctival epithelium regulates late-phase reaction of experimental allergic conjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 2009; 123(2): 466-471. Kaniwa N, Saito Y, Aihara M, Matsunaga K, Tohkin M, Kurose K, Sawada J, Furuya H, Takahashi Y, Muramatsu M, Kinoshita S, Abe M, Ikeda H, Kashiwagi M, Song Y, Ueta M, Sotozono C, Ikezawa Z, Hasegawa R: JSAR research group. HLA-B locus in Japanese patients with anti-epileptics and allopurinol-related Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis. Pharmacogenomics. 2008; 9(11): 1617-1622. Ueta M: Innate immunity of the ocular surface and ocular surface inflammatory disorders. Cornea. 2008; 27(Suppl 1):S31-40. Ueta M, Sotozono C, Inatomi T, Kojima K, Hamuro J, Kinoshita S: Association of Fas Ligand gene polymorphism with Stevens-Johnson syndrome. Br J Ophthalmol. 2008; 92(7): 989-991. Ueta M, Sotozono C, Inatomi T, Kojima K, Tashiro K, Hamuro J, Kinoshita S: Toll like receptor 3 gene polymorphisms in Japanese patients with Stevens-Johnson syndrome. Br J Ophthalmol. 2007; 91(7): 962-965. Ueta M, Hamuro J, Kiyono H, Kinoshita S: Triggering of TLR3 by polyI:C in human corneal epithelial cells to induce inflammatory cytokines. Biochem Biophys Res Commun. 2005; 331(1): 285-294.
本発明者らは、これまでに報告のない上皮細胞におけるIKAROSの発現を見出し、培養ヒト粘膜上皮、培養ヒト表皮においてIKAROSを誘導する方法を見出し、本発明を完成させた。本発明では、炎症状態に免疫細胞だけでなく上皮細胞も関与することに着目し、これを標的とした新規炎症制御方法を開発した。これにより、標的を上皮細胞とすることにより局所投与が容易となり副作用の激減が期待される。したがって、本発明は以下を提供する。
プロスタグランジン(PG)Eは炎症性物質とも言われることがあるが、本発明の結果、上皮における炎症性因子であることが分かったIKAROSを抑制することから、特定の炎症、IKAROS,EP3(PGEレセプター3)、TLR3(Toll−like receptor 3(Toll様受容体−3)の略称;TLR3は、ウイルス由来の二重鎖RNA(dsRNA)を認識し、強い抗ウイルス作用を示すI型インターフェロンの産生を促し、ウイルスからの防御で働く自然免疫系分子の一つである。)関連の炎症(例えば、スティーブンスジョンソン症候群、ぜんそく、接触性皮膚炎、急性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎等)については、阻害剤として機能し、抗炎症薬として使用し得ることが証明された。プロスタグランジン(PG)E2やpolyI:Cとアレルギーとの関係を論じる既存の文献の知見だけでは本発明のIKAROSの発現亢進疾患の治療剤は予想できない。したがって、本発明は、従来技術にはない、特異性の高い抗炎症薬として有用であり得る。したがって、本発明は以下を提供する。
(1)IKAROS(IKZF1)阻害剤を含む、抗炎症薬。
(2)前記IKAROS阻害剤は、PGE、抗IKAROS siRNA、および抗IKAROS抗体からなる群より選択される、項目1に記載の抗炎症薬。
(3)前記抗炎症薬は、上皮組織を標的とするものである、項目1または2に記載の抗炎症薬。
(4)前記炎症は、IKAROSに起因する炎症である、項目1〜3のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(5)前記炎症は、IKAROSの発現亢進に起因する炎症である、項目1〜4のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(6)前記炎症は、IKAROSに起因する上皮が関与する炎症である、項目1〜5のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(7)前記炎症は、上皮においてIKAROSおよびTLR3に関与する炎症である、項目1〜6のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(8)前記炎症は、アレルギー疾患によるものである、項目1〜7のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(9)前記炎症は、スティーブンスジョンソン症候群、ぜんそく、接触性皮膚炎、急性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎からなる群より選択される、項目1〜8のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(10)局所投与剤である、項目1〜9のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(11)前記局所投与剤は、外用剤、点眼剤、点鼻剤または吸引剤である、項目10に記載の抗炎症薬。
(12)前記抗炎症薬は、皮膚または粘膜組織における炎症の処置または予防のためのものである、項目1〜11のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(13)前記粘膜組織は、目、口腔、鼻腔、咽頭、気道、膣、尿道および/または消化管である、項目12に記載の抗炎症薬。
(14)前記抗炎症薬は目における炎症の処置または予防のためのものである、項目1〜13のいずれか1項に記載の抗炎症薬。
(15)以下の(1)〜(3)の工程:
(1)IKAROS遺伝子もしくは該当遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程;
(2)前記細胞におけるIKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を低下させた被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択する工程
を含む、抗炎症性物質のスクリーニング方法。
(16)IKAROSと被検物質とを接触させ、IKAROSと結合能を有する被検物質を抗炎症性物質の候補として選択することを特徴とする、抗炎症性物質のスクリーニング方法。
(17)以下の(1)〜(3)の工程:
(1)被検物質の存在下でIKAROSを炎症性疾患の標的細胞の細胞膜画分と接触させる工程;
(2)細胞膜画分に結合したIKAROS量を測定する工程;および
(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、細胞膜画分に結合するIKAROS量を低下させた被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択する工程
を含む、項目15または16に記載のスクリーニング方法。
(18)抗炎症性物質の候補として選択された被検物質を炎症モデルに適用し、該モデルにおける炎症反応を抑制するか否かを検定することをさらに含む、項目15〜17のいずれか1項に記載の方法。
(19)以下の(1)〜(3)の工程:
(1)炎症性疾患の標的細胞を、IKAROSの存在下および非存在下で被検物質に接触させる工程;
(2)各条件下での前記細胞における炎症反応の程度を測定する工程;および
(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROSの存在下で炎症反応を抑制し、IKAROSの非存在下で炎症反応を抑制しなかった被検物質を、IKAROSの機能を阻害して抗炎症作用を示す物質の候補として選択する工程
を含む、抗炎症性物質のスクリーニング方法。
(20)標的細胞における炎症反応を惹起する工程をさらに含む、項目項目15〜19のいずれか1項に記載の方法。
(21)polyI:C、インターロイキン−Iα(IL−1α)、腫瘍壊死因子(TNF)αまたはH刺激により炎症反応を惹起することを特徴とする、項目15〜20のいずれか1項に記載の方法。
(22)前記細胞が、上皮細胞を含むかまたは上皮に関係することを特徴とする、項目15〜21のいずれか1項に記載の方法。
(23)前記上皮細胞は、皮膚表皮細胞、食道上皮細胞、胃上皮細胞、膣上皮細胞、子宮上皮細胞、胸腺上皮細胞、膀胱上皮細胞、前立腺上皮細胞、乳腺上皮細胞、結膜上皮細胞または角膜上皮細胞ある、項目22に記載の方法。
(24)前記上皮細胞は、皮膚表皮細胞、結膜上皮細胞または角膜上皮細胞である、項目22または23に記載の方法。
(25)前記上皮細胞は、ケラチン5を発現する粘膜上皮細胞である、項目22〜24のいずれか1項に記載の方法。
(26)前記炎症は、IKAROSの発現亢進に起因する炎症である、項目15〜25のいずれか1項に記載の方法。
(27)前記炎症は、IKAROSに起因する上皮が関与する炎症である、項目15〜26のいずれか1項に記載の方法。
(28)前記炎症は、上皮においてIKAROSおよびTLR3に関与する炎症である、項目15〜27のいずれか1項に記載の方法。
(29)polyI:Cを含む、IKAROS遺伝子の発現上昇または誘導のための組成物。
(30)前記IKAROS遺伝子の発現上昇または誘導は上皮細胞におけるものである、項目29に記載の組成物。
(31)IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された、単離細胞。
(31A)前記細胞は、ケラチン陽性である、項目31に記載の単離細胞。
(32)前記IKAROS遺伝子の発現の上昇または誘導は、polyI:Cによるものである、項目31または31Aに記載の細胞。
(33)前記細胞は上皮細胞である、項目31、31Aまたは32に記載の細胞。
(34)IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された、炎症モデル動物。
(35)前記IKAROS遺伝子の発現の上昇または誘導は、polyI:Cによるものである、項目34に記載の動物。
(36)前記炎症モデルは、眼表面における炎症を含む、項目34または35に記載の動物。
(37)前記IKAROS遺伝子の発現の上昇または誘導は、遺伝子改変によるものである、項目34〜36のいずれか1項に記載の動物。
(38)前記遺伝子改変は、IKAROS遺伝子を上皮特異的に発現させるように改変されることを含む、項目34〜37のいずれか1項に記載の動物。
(39)前記動物は皮膚粘膜炎症を生じる、項目34〜38のいずれか1項に記載の動物。
(40)前記動物は、ケラチン5のプロモーターに作動可能に連結されて前記IKAROS遺伝子をコードする核酸配列を含むベクターを含む、項目34〜39のいずれか1項に記載の動物。
(41)前記動物はげっ歯類である、項目34〜40のいずれか1項に記載の動物。
(41A)前記炎症モデル動物は、皮膚組織および粘膜組織からなる群より選択される少なくとも1つに細胞浸潤がみられる、項目34〜41のいずれか1項に記載の動物。
本発明において、上述した1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解することにより、当業者に認識される。
本発明では、上皮細胞のIKAROS(IKZF1)を標的とした新規抗炎症治療法が提供される。
アレルギー疾患などの炎症性疾患は、罹患率が増加の一途を示し、今日の炎症制御方法は、リンパ球等の免疫細胞を標的としたステロイド薬や免疫抑制薬が主であり、その副作用が問題となっているところ、本発明により、炎症病態に免疫細胞だけでなく上皮細胞(体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」をさす)も大きく関与することに着目し、上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法を開発することができ、標的を上皮細胞とすることにより局所投与が容易となり、副作用の激減が期待される。
本発明により、炎症病態の発症に上皮細胞が免疫細胞の上流に位置する因子として関与することに着目し、上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法を開発することができる。標的を上皮細胞として免疫細胞の動態、活性化をコントロールすることにより局所投与が容易となり、副作用の激減が期待されるという実質上のメリットがある。これまで行われてこなかった着目点からの炎症制御モデルも提供される。既存の炎症制御方法とは全くタイプの異なる上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法の開拓は、適切な治療法の提供・健康寿命の延伸による安全安心な社会の実現に資する。さらに、上皮細胞を標的として免疫細胞の動態、活性化をコントロールする新規炎症制御方法の開発は、炎症制御方法の大きな転機につながる。上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法は、制御化合物による局所投与が容易となるため副作用の激減が期待され、今後の炎症治療の大きな担い手となる。
上皮細胞に存在するIKAROSに関連する新規化合物の開拓とともに、その作用メカニズムを分子レベルで解明し、さらなる分子標的ならびに創薬シーズの開拓につなげることができる。また、組織浸透性についての新規評価系を構築し、上皮細胞に選択的に作用する化合物の探索を容易にするものである。作用メカニズムの分子レベルでの解明は、上皮細胞を介した炎症制御機構を明らかにし、アレルギー疾患の予防、医薬や医用品による治療、安全安心な品質(化学材料、化粧品、食品、健康食品)へと繋がる。その結果、適切な治療法の提供・健康寿命の延伸による安心安全社会という観点から将来の人間生活の向上に直接貢献できるとともに、広範囲にわたる産業界(医療系、医薬品系、化学系、食品系など)への波及効果が期待できる。
図1は、ヒト表皮および上皮細胞においてIKAROSを誘導する手法を示す。図1aは10μg/ml polyI:C(ポリI:C)に曝露されたヒト結膜上皮細胞の初代培養細胞におけるIKAROS mRNAの発現の時間経過を示す。左から0時間、1時間、3時間、6時間および10時間を示す。定量データは、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現に対して正規化した。縦軸は、0hrサンプルに対する特定のmRNAの上昇を示す。図1bは、10μg/ml polyI:C(ポリI:C)に10時間曝露されたヒト結膜上皮細胞の初代培養細胞におけるIKAROS mRNAの発現を示す。左は培地であり、右はpolyI:Cを示す。定量データは、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現に対して正規化した。縦軸は、未刺激サンプルに対する特定のmRNAの上昇を示す。データは、3連の実験の代表であり、1群あたり3ウェルで行われた実験からの平均±SEMを示す。図1cは、10μg/ml polyI:C(ポリI:C)に10時間曝露された表皮を構成する細胞の大部分である角化細胞(ケラチノサイト)細胞の初代培養細胞におけるIKAROS mRNAの発現を示す。定量データは、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現に対して正規化した。縦軸は、未刺激サンプルに対する特定のmRNAの上昇を示す。データは、3連の実験の代表であり、1群あたり3ウェルで行われた実験からの平均±SEMを示す。 図2は、IKAROSの過剰発現等における動物の様子を示す。上の写真は、IKAROS(IK1)のトランスジェニックマウス(左)と野生マウス(右)との腹部の比較である。左下パネルは、IKAROS(IK1)のトランスジェニックマウス(上)と野生マウス(下)との顔部の比較である。右下パネルは、IKAROS(IK1)のトランスジェニックマウス(右)と野生マウス(左)との背部の比較である。 図3は、IKAROS mRNAの発現およびその阻害剤での抑制効果を示す。図3aは、初代培養ヒト結膜上皮細胞におけるpolyI:C誘導性(10時間刺激)のIKAROS mRNAの発現上昇、およびその上昇の100μg/ml PGEの添加により有意に抑制されたことを示す(左はコントロール、中央はpolyI:C刺激のみ、右は、polyI:C刺激+100μg/ml PGE添加を示す。)。図3bは、初代培養ヒト角化細胞(ケラチノサイト)細胞におけるpolyI:C誘導性(10時間刺激)のIKAROS mRNAの発現上昇、およびその上昇の100μg/ml PGEの添加により有意に抑制されたことを示す(左はコントロール、中央はpolyI:C刺激のみ、右は、polyI:C刺激+100μg/ml PGE添加を示す。)。 図4は、本発明で作製した発現ベクター(pK5−Ikzfl−2A−EGFP)の構造およひ構築手順を示す。上段に各エレメントの構造を示す。左側にKeratin 5 promoterが描かれ、右側には、Ikzfl−P2A−EGFPの構造を示す。pBSK5(human keratin 5 promoter in pBluescript II KS+)のプロモーター下流に位置する、Spe1およびNotI部位に挿入することで、発現ベクター(pK5−lkzfl−2A−EGFP)を作製したものを下段に示す。 図5は、作製した発現ベクター(pK5−Ikzfl−P2A−EGFP)(配列番号5)の制限マップを示す。左側にベクターのマップを示し、右側はDNA切断パターンを示すブロットである。使用した制限酵素は、図中に示すとおりである。左側から分子量マーカー、レーン1〜7に、SalI、SalI+NotI、SpeI+NotI、Acc65I、EcoRI、BamHIを示す。右側も分子量マーカーである。配列番号5の2223位から2228位にSalI認識配列(GTCGAC)部位が存在する。配列番号5の2229位から16654位にhuman Keratin 5プロモーター領域の配列が存在する。配列番号5の2763位は、Tとなっているが、NCBIデータベースではCである。配列番号5の16655位から16660位にSpeIの認識部位(ACTAGT)が存在する。配列番号5の16667位から18211位にIkzf1アイソフォーム1(DNA(1545bp;NM_001025597)の配列が存在する。配列番号5の18212位から18277位にP2A配列が存在する。配列番号5の18284位から19003位にEGFP(720bp)が存在する。配列番号5の19020位から19309位にbGH polyAが存在する。配列番号5の19310位から19317位にNotI認識配列(GCGGCCGC)が存在する。 図6に、pK5−Ikzfl−2A−EGFPファウンダーマウス選別のためのpCR解析条件の検討結果を示す(条件1)。条件lとして、Keratin5プロモーターに結合するK5p−Flと、bGH polyAの下流に結合するBGH−R3プライマーを設計した。本図では、各プライマー配列およびPCR解析条件が示される。 図7に、pK5−Ikzfl−2A−EGFPファウンダーマウス選別のためのpCR解析条件の検討結果を示す(条件2)。条件2として、Keratin5プロモーター上流部位に結合するK5p−F6と、K5p−R2プライマーを設計した。本図では、各プライマー配列およびPCR解析条件が示される。 図8は、pK5−Ikzfl−2A−EGFPトランスジーンの調製を示す。上段は、トランスジーンの構成であり、下段は、制限酵素による切断パターンを示す。具体的には、発現ベクターを制限酵素SalIおよびNatlで消化した。これにより、プラスミドベクター配列を分離、発現カセット部分(約17.1kbp)を、精製した。下段は切断が正しいことを確認するものである。 図9は、IKAROSおよびGAPDHについてのPCRによる発現を確認した結果を示す。各レーンについては、一番左は空レーン、2番目が分子量ラダーマーカー(各々100bp単位で示される)で500bpの箇所に矢印を付している。左から3番目と4番目とが単核球を示し、それぞれIKAROSのRTあり、RTなしを示す。1つ置いて、左から6番目は再度分子量ラダーマーカーであり、左から7番目と8番目とは結膜上皮を示し、それぞれIKAROSのRTあり、RTなしを示す。1つ置いて、左から10番目は再度分子量ラダーマーカーであり、左から11番目と12番目とが単核球を示し、それぞれGAPDH(28サイクル)のRTあり、RTなしを示す。1つ置いて、左から14番目は再度分子量ラダーマーカーであり、左から15番目と16番目とが結膜上皮を示し、それぞれGAPDH(28サイクル)のRTあり、RTなしを示す。 図10は、IKZF1Tgマウスにおける皮膚組織(耳介)のHE染色写真を示す(実施例5)。左列は野生型、右列はIKZF1トランスジェニックを示す。バーは100μm(上段)または50μm(下段)を示す。 図11は、IKZF1Tgマウスにおける皮膚組織(背部表皮)のHE染色写真を示す(実施例5)。左列は野生型、右列はIKZF1トランスジェニックを示す。上段は50倍、下段は100倍を示す。バーは100μm(上段)または50μm(下段)を示す。 図12は、IKZF1Tgマウスにおける粘膜組織(眼瞼)のHE染色写真を示す(実施例5)。左列は野生型、右列はIKZF1トランスジェニックを示す。上段は50倍、下段は100倍を示す。バーは100μm(上段)または50μm(下段)を示す。 図13は、IKZF1Tgマウスにおける粘膜組織(舌)のHE染色写真を示す(実施例5)。左列は野生型、右列はIKZF1トランスジェニックを示す。上段は50倍、下段は100倍を示す。バーは100μm(上段)または50μm(下段)を示す。 図14は、ヒト結膜組織(スティーブンジョーンズ症候群(SJS)角膜上瘢痕化結膜組織)におけるIKZF1蛋白の発現解析を示す写真を示す(実施例6)。上からHE染色(バーは100μmを示す。)、ヤギ抗IKZF抗体での染色写真(バーは100μmを示す。)、ヤギIgGでの染色写真(バーは100μmを示す。)を示す。(ヤギ抗IKZF抗体では染色されるが、コントロールのヤギIgGでは染色されない。 図15は、ヒト結膜組織(スティーブンジョーンズ症候群(SJS)角膜上瘢痕化結膜組織)におけるIKZF1蛋白の発現解析を示す写真を示す(実施例6)。上からHE染色(バーは100μmを示す。)、ヤギ抗IKZF抗体での染色写真(バーは100μmを示す。)、ヤギIgGでの染色写真(バーは100μmを示す。)を示す。ヤギ抗IKZF抗体では染色されるが、コントロールのヤギIgGでは染色されない。 図16は、ヒトコントロール結膜組織(結膜弛緩症)におけるIKZF1蛋白の発現解析を示す写真を示す(実施例6)。上からHE染色(バーは100μmを示す。)、ヤギ抗IKZF抗体での染色写真(バーは100μmを示す。)、ヤギIgGでの染色写真(バーは100μmを示す。)を示す。ヤギ抗IKZF抗体では染色されるが、コントロールのヤギIgGでは染色されない。 図17は、ヒトコントロール結膜組織(結膜弛緩症)におけるIKZF1蛋白の発現解析を示す写真を示す(実施例6)。上からHE染色(バーは100μmを示す。)、ヤギ抗IKZF抗体での染色写真(バーは100μmを示す。)、ヤギIgGでの染色写真(バーは100μmを示す。)を示す。ヤギ抗IKZF抗体では染色されるが、コントロールのヤギIgGでは染色されない。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
本発明は、少なくとも部分的には、IKAROSが、上皮に関連すること、および結膜炎、皮膚炎等をはじめとする炎症性疾患の増悪に寄与していることの発見に基づく。当該知見は、IKAROSが炎症マーカーとして利用できるだけでなく、炎症性疾患の創薬標的ともなり得ることを示すものである。即ち、IKAROSの既知の阻害薬は炎症性疾患の予防および/または治療に有用であるとともに、IKAROSタンパク質やそれを発現する細胞・動物を用いて、新規なIKAROS阻害薬、ひいては炎症性疾患の予防・治療薬となる物質を探索することもできる。
(IKAROSタンパク質およびこれをコードする核酸)
本明細書において、「IKAROS」(イカロス)とは、「IKZF1」とも呼ばれる公知のタンパク質であり、Genbank Accession No.:NP_001207694(ヒト)<その核酸配列NM_001220765.2>、またはGenbank Accession No.:NP_001020768(マウス)<その核酸配列NM_001025597.2>として知られている、配列番号2または4で表されるヒトまたはマウスIKAROSのアミノ酸配列(その核酸配列は、それぞれ配列番号1または3)、あるいはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本明細書において、タンパク質およびペプチドは、ペプチド表記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
本明細書において、IKAROSはヒトや他の温血動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、好中球など]または組織[例えば、血液など]等から、公知のタンパク質分離精製技術により単離・精製されるものであってよい。IKAROSは、正常なリンパ球生成に不可欠なこのような調節ネットワークの一つである、クルッペルファミリー(Kruppel family)の「ジンクフィンガー」DNA結合性タンパク質である。IKAROSは、造血を起こさせる進化論的に保存された「マスタースイッチ(master switch)」として働き、リンパ球の個体発生および分化の最も初期段階における転写調節を左右する(Georgopolous et al.,1994,Cell,79:143−156;Georgopolous et al.,1992,Science,258:808−812;Hahm et al.,1994,Mol.Cell Biol.,14:7111−7123;Molnar and Georgopolous,1994,Mol.Cell Biol.,14:8292−8303;Wang et al.,1996,Immunity,5:537−549;Winandy et al.,1995,Cell,83:289−299;Molnar et
al.,1996,J.of Immunol.,156:585−592;Sun et al.,1996,EMBO J.,15:5358−5369;Hansen et al.,1997,Eur.J.Immunol,27:3049−3058;Georgopolous et al.,1997,Ann.Rev.Immunol.,15:155−176;Brown et al.,1997,Cell,91:845−854;and Klug et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:657−662)。IKAROS遺伝子のプログラムされた発現と機能は、IKAROSのpre−mRNAの選択的スプライシングによって厳密に制御されており、これにより8種の異なるイカロスアイソフォームが生成される。8種のイカロスアイソフォーム(Ik−1、Ik−2、Ik−3、Ik−4、Ik−5、Ik−6、Ik−7、およびIk−8)は、全て共通のカルボキシ(C)末端ドメインを有しており、このC末端ドメインには転写活性化 モチーフと、IKAROSアイソフォーム同士でのホモ二量体またはヘテロ二量体の形成や他のタンパク質との相互作用に必要な2個のジンクフィンガーモチーフとが含まれる。
本発明で使用される「IKAROS」は、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列に代表され、それらの機能的等価物を含み、代表的には以下の(a)〜(e)が挙げられる:
(a)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列;
(c)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列;
(d)配列番号1または3で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列;
(e)配列番号1または3で示される塩基配列の相補鎖配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列。
具体的には、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるヒトIKAROSタンパク質の他の哺乳動物におけるオルソログのアミノ酸配列、または配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるヒトIKAROSタンパク質もしくはそのオルソログのスプライス改変体、アレル変異体もしくは多型改変体におけるアミノ酸配列が挙げられる。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science,247:1306−1310(1990)を参照)。
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)2.2.26(2011.10.30発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。NCBI BLASTを用いる場合、例えば、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5877(1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら,Nucleic Acids Res.,25:3389−3402(1997))]、Needlemanら,J.Mol.Biol.,48:444−453(1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller,CABIOS,4:11−17(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444−2448(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも 同様に好ましく用いられ得る。
上記(e)におけるストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,6.3.1−6.3.6,1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1%SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
より好ましくは、「配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」として、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と、約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約96%以上、いっそう好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
「配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」は、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、かつ配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の機能を有するタンパク質である。
本発明で用いられるIKAROS等の改変アミノ酸配列は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、IKAROS等のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
ここで「実質的に同質の機能」とは、例えば生理学的に、あるいは薬理学的にみて、その性質が定性的に同じであることを意味し、機能の程度(例、約0.1〜約10倍、好ましくは約0.5〜約2倍)や、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。また、現時点でIKAROSの生体内での詳細な役割は未知であるが、炎症反応を促進する活性を有するタンパク質を、「実質的に同質の機能を有するタンパク質」とみなすことができる。
したがって、本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じである、すなわち実質的に同質の機能を有するが構造が異なる任意のものをいう。従って、「IKAROSまたはその機能的等価物」または「IKAROSおよびその機能的等価物からなる群」という場合は、IKAROS自体のほか、IKAROSのフラグメント、変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、IKAROSが有する生物学的機能を1つ以上有するもの、ならびに、作用する時点においてIKAROSまたはこのIKAROSのフラグメント、変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、IKAROS自体またはIKAROSのフラグメント、変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。「IKAROSまたはその機能的等価物」または「IKAROSおよびその機能的等価物からなる群」としては、IKAROSおよびそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1つの因子が代表例として挙げられる。本発明において、IKAROSの機能的等価物は、格別に言及していなくても、IKAROSと同様に用いられうることが理解される。
ここで、炎症反応の促進活性は、例えば、後述するin vitroもしくはin vivoの炎症モデル(例えば、本発明の細胞または動物モデル)を用いて測定することができる。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなラミニンの鎖は、その活性、例えば、増殖促進または維持の因子として機能する場合、そのフラグメント自体も本発明の範囲内に入ることが理解される。本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
本発明におけるIKAROSタンパク質として、例えば、(i)配列番号2または4で表されるアミノ酸配列中の1〜30個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2または4で表されるアミノ酸配列に1〜30個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2または4で表されるアミノ酸配列に1〜30個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2または4で表されるアミノ酸配列中の1〜30個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失、付加または置換されている場合、その挿入、欠失、付加または置換の位置は、タンパク質が炎症反応を促進し得る限り、特に限定されない。
ここでアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2または4で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変 異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441−9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
IKAROSの好ましい例としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトタンパク質(Genbank Accession No.NP_443204)、あるいは他の哺乳動物におけるそのオルソログ(例えば、マウスIKAROSタンパク質(配列番号4、Genbank Accession No.NP_084072)等)、アレル変異体、多型改変体〔例えば一塩基多型(SNPs)〕などがあげられる。
本発明で使用される「IKAROSをコードする核酸」は、上記(a)〜(e)で示される、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸を表す。具体的には、以下の(f)〜(j):
(f)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(g)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換され、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(h)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(i)配列番号1または3で示される塩基配列、
(j)配列番号1または3で示される塩基配列の相補鎖配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ炎症反応を促進する活性を付与するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
を有する核酸が挙げられる。
なお、ここで遺伝子とは、cDNAもしくはゲノムDNA等のDNA、またはmRNA等のRNAのいずれでもよく、また一本鎖の核酸配列および二本鎖の核酸配列を共に含む概念である。また、本明細書において、配列番号1および配列番号3等に示される核酸配列は、便宜的にDNA配列であるが、mRNAなどRNA配列を示す場合には、チミン(T)をウラシル(U)として解する。
IKAROSをコードする核酸の好ましい例としては、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるヒトIKAROS cDNA(Genbank Accession No.NM_052972)、あるいは他の哺乳動物におけるそのオルソログ(例えば、マウスIKAROS cDNA(配列番号3、Genbank Accession No.NM_029796)等)、アレル変異体、多型改変体〔例えば一塩基多型(SNPs)〕などがあげられる。
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、交換可能で本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本発明のタンパク質(例えばIKAROS)は、目的とする各鎖遺伝子をコードするDNAを、適当なベクター中に組み込み、これを真核生物または原核生物細胞のいずれかに、各々の宿主で発現可能な発現ベクターを用いて導入し、それぞれの鎖を発現させることにより所望のタンパク質を得ることができる。IKAROSを発現させるために用いることができる宿主細胞は特に限定されるものではなく、大腸菌、枯草菌等の原核宿主細胞、および酵母、真菌、昆虫細胞、植物および植物細胞、哺乳動物細胞等の真核生物宿主が挙げられる。目的とするIKAROS等を発現するように構築したベクターを、トランスフォーメーション、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈殿、アグロバクテリウム法、直接マイクロインジェクション等により、上記の宿主細胞中に導入することができる。ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて、本発明で使用するIKAROS等を産生させ、細胞または培地から精製することにより、IKAROS等を得ることができる。精製はサイズ排除クロマトグラフィー、HPLC、イオン交換クロマトグラフィー、および免疫アフィニティークロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、交換可能で本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol..Chem.260:2605−2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。また、任意の実施形態が組み合わせ得ることも理解されるべきである。
(IKAROS(IKZF1)の阻害を通じた抗炎症薬)
1つの局面において、本発明は、IKAROS(IKZF1)阻害剤を含む、抗炎症薬を提供する。本発明が開示される前は、IKAROSが炎症と関与していることは知られておらず、本発明者らが初めてその関与を見出し、IKAROS阻害薬が炎症を抑制乃至消失することを見出したことによって確認したものである。
1つの実施形態では、前記IKAROS阻害剤は、PGE、抗IKAROS siRNA、抗IKAROS抗体等を挙げることができる。特定の実施形態では、IKAROS阻害剤として、polyI:Cの作用を阻害する化合物を用いることもできる。
1つの実施形態では、polyI:Cの作用を阻害する化合物としては、プロスタグランジンE(PGE2)、レバミピド(rebamipide)<第62回日本アレルギー学会秋季学術大会(http://jja.jsaweb.jp/am/view.php?pubdate=20121025&dir=2012a&number=12a_on640O64-4);UetaM, Sotozono C, Yokoi N, Kinoshita S: Rebamipide Suppresses PolyI:C-StimulatedCytokine Production in Human Conjunctival Epithelial Cells. J Ocul PharmacolTher. 2013 Sep;29(7):688-93.およびWO 2013108644)参照。)>のほか、EP3アゴニスト、EP2アゴニストを挙げることができる(参考文献として、Ueta M, Matsuoka T, Yokoi N, Kinoshita S: Prostaglandin E2 suppresses polyinosine-polycytidylic acid(polyI:C)-stimulated cytokine production via prostaglandin(EP)2 and 3 in human conjunctival epithelial cells.Br J Ophthalmol.2011;95(6):859-863.;およびUeta M, Sotozono C,Yokoi N, Kinoshita S: Rebamipide Suppresses PolyI:C-Stimulated Cytokine Production in Human Conjunctival Epithelial Cells. J Ocul Pharmacol Ther.2013 Sep;29(7):688-93を参照のこと。)。理論に束縛することを望まないが、polyI:CはTLR3を介していると考えられ、IPS1をアダプター因子とするMDA5やRIG−1も介している可能性がある。IPS1は、MDA5やRIG−1のアダプター因子で、IPS−1KOマウスでも、結膜上皮におけるpolyI:C誘導性サイトカインが抑制されることが報告されている(Ueta M, Kawai T, Yokoi N, Akira S, Kinoshita S:Contribution of IPS-1 to polyI:C-induced cytokine production in conjunctival epithelial cells. Biochem Biophys Res Commun.2011;404(1):419-423を参照のこと。)。
1つの実施形態では、前記抗炎症薬は、上皮組織ないし上皮細胞を標的とするものである。従来は、上皮細胞は炎症とは無関係であると考えられていたところ、本発明者らはこれについて関係していることを見出したものである。標的を上皮細胞として免疫細胞の動態、活性化をコントロールすることにより局所投与が容易となり、副作用の激減が期待されるという実質上のメリットがある。組織浸透性が乏しく上皮細胞に選択的に作用しやすい化合物が好ましい。本発明に言う上皮細胞は、体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」をさす。外来抗原に対する構造的・機能的なバリアを構成するだけであると考えられてきたが、上皮細胞が炎症の制御に大きく関わっていることが明らかとなってきている。既存の炎症制御方法とは全くタイプの異なる上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法の開拓は、適切な治療法の提供・健康寿命の延伸による安全安心な社会の実現に資するものといえる。
1つの実施形態では、本発明が対象とする炎症は、IKAROSに起因する炎症である。炎症は複雑な経路をたどるとされているが、本発明により、IKAROSが炎症に関与していることが見出されたところ、TLR3、EP3(プロスタグランジンEのタイプ3レセプター)の経路を経由した炎症との連関も本発明で見出され、これらの経路に関する炎症は、特異的な炎症であり、本発明により処置される対象として好ましく利用され得る。
1つの実施形態では、本発明が対象とする炎症は、IKAROSの発現亢進に起因する炎症である。本明細書では「発現亢進」は、通常発現しているレベルよりも有意に高いレベルで発現していることをいう。
別の実施形態では、前記炎症は、IKAROSに起因する上皮が関与する炎症である。より特定の実施形態では、本発明が対象とする炎症は、上皮においてIKAROSおよびTLR3および/またはEP3に関与する炎症である。理論に束縛されることは望まないが、polyI:CはTLR3のリガンドであるので、本発明の標的は、本発明において明らかになった情報に基づけば、IKAROSおよびTLR3に関与する炎症であるともいえるところ、そのようなIKAROSおよびTLR3の両方に関与する炎症が標的となり得ることは知られていなかったといえる。したがって、PGEやpolyI:Cとアレルギーとの関係を論じる既存の文献に知見だけでは今回のIKAROSの発現亢進疾患の治療剤は予想できない。また、TLR3とIKAROSの関連を報告した文献は発明者らの知る限り存在しない。よって、「TLR3が関与する炎症」に関する文献の知見だけでは今回のIKAROS阻害剤による「IKAROSおよびTLR3が関与する炎症」の治療は予想できないといえる。
特定の実施形態では、本発明が対象とする炎症は、アレルギー疾患によるものであり、代表的には、スティーブンスジョンソン症候群、ぜんそく、接触性皮膚炎、急性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎等を挙げることができるがそれらに限定されない。上皮細胞は、外来抗原に対する構造的・機能的なバリアを構成する。しかし、近年、この上皮細胞が炎症疾患の病態に大きく関与することがマウスモデルをもちいて報告されている。NFkBの活性化に必要なNEMO分子を腸管上皮特異的に欠損させたマウスでは、炎症性腸疾患を発症する(Nenci A,et al.Nature 2007,446(7135):557−61)。また、リンパ球増殖因子として同定されたTSLP(Thymic stromal lymphopoietin)は、表皮に発現することによりアトピー性皮膚炎を発症させ(Yoo J,et al.J Exp Med 2005,202:541−9)、気管上皮に発現することにより気管支喘息を発症させる(Zhou B,et al.Nat Immunol 2005,6,1047-1053)。これらから、本発明が標的とする炎症および炎症性疾患については、これらの上皮に関連する疾患が代表例として挙げることができることが理解される。
別の実施形態では、本発明の抗炎症薬は局所投与剤(例えば、外用剤、点眼剤、点鼻剤または吸引剤)として投与することができる。理論に束縛されることを望まないが、標的を上皮細胞として免疫細胞の動態、活性化をコントロールすることができるため、局所投与が容易となった。そして、局所投与が可能となることにより、副作用の激減が期待される。また、上皮細胞を標的とした局所投与のため、効果発現のための制御分子の必要な用量が少量ですむため、少量で効果があると期待される。また、吸収分布代謝***(ADME)の考慮が不要という利点もある。なぜなら、深部組織への到達が不要であるからである。また、上皮細胞表面に長く貯留する制御分子デザインにより、さらに効果発現に必要な投与量を減らすことが可能になり、更なる副作用軽減が期待できる。本発明は、上皮細胞を制御標的としているため、制御化合物の局所投与(塗布剤、経皮投与、点眼、点鼻投与)が可能であり、医薬品開発の最大の障壁となっている副作用の劇的軽減を実現する。免疫細胞を直接抑制制御する従来の炎症制御方法は、免疫不全状態に陥りやすく、感染症を誘発することが多い。しかし、本研究で開発する上皮細胞を介した炎症制御方法は、上皮細胞を介して局所の免疫細胞だけを抑制制御するため、免疫不全状態にはならず、日和見感染の抑制という形でも副作用の軽減が期待できる。上皮細胞による炎症制御機構を介した本発明の炎症制御技術は、従来の炎症制御技術とかわって、今後の炎症治療の大きな担い手となる可能性がある。理論に束縛されることを望まないが、本発明は、はじめから上皮細胞に作用させる目的で局所投与に適した制御分子の創成を目指すものであり、組織で微量作られ局所的作用をもたらす活性を持つ組織ホルモンの受容体であることを考え合わせると、標的の本来の体内での働きと調和したもので、従来の全身投与を目的とした創薬(例えば、各種抗生物質、アトロピン、ステロイド、NSAIDS、β1アゴニスト、β2アゴニスト、PGE1、サラゾスルファピリジン、FK506、シクロスポリン、VEGF抗体、ヘパリン、アドレナリン)とは全く異なるものであるといえる。他方で、現在でも、全身へは使いにくい・使えない(副作用、または効果が期待できない)という理由で、はじめから局所投与を前提に開発されているものもある。その代表は、ボトックス(眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頚、斜視、顔面チック、多汗症、片頭痛)、キサラタン、ヒアルロン酸製剤(関節注射)、フブラストスプレー(創傷治癒)、アプタマー(Macugen:加齢性黄斑症)などがある。本発明は、上皮細胞を標的とした炎症制御技術であるため、はじめから上皮細胞に作用させる目的で局所投与を行うことができることから、薬物動態や全身投与にともなう副作用はあまり考慮する必要がなく、幅広い選択が可能となる。
これまでの炎症制御ターゲットは免疫細胞であったため、全身投与薬剤による感染症の誘発、糖尿病、胃潰瘍、骨粗鬆症や白内障・緑内障などの副作用が避けられない問題となっている。本発明は、上皮細胞を制御標的としているため、制御化合物の局所投与(塗布剤、経皮投与、点眼、点鼻投与)が可能であり、医薬品開発の最大の障壁となっている副作用の劇的軽減を実現するものと考えられる。創薬プロセスの課題の一つに、疾患部位である臓器や組織に出来る限り特異的に作用する化合物デザインの難しさがあるが、上皮細胞標的とした炎症制御方法は、局所投与により直接患部である上皮細胞のみに作用させることが可能であり、ADME(A:吸収、D:分布、M:代謝、E:***)を考慮せずに制御分子をデザインできる大きな利点を有する。
1つの好ましい実施形態では、本発明の抗炎症薬は、粘膜組織における炎症の処置または予防のためのものである。
別の実施形態では、本発明の抗炎症薬は、目または皮膚における炎症の処置または予防のためのものである。
さらなる実施形態では、本発明の抗炎症薬は目における炎症の処置または予防のためのものである。
さらなる実施形態では、本発明の抗炎症薬は外用剤、点眼剤、点鼻剤または吸引剤である。
本発明は、IKAROS阻害剤、例えば、IKAROSの発現を阻害する物質または機能を阻害する物質を含有する、炎症性疾患の予防および/または治療剤を提供する。
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい(例えば、「阻害剤」という場合は、目的とするものを「阻害する」剤であるといえる)。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
(IKAROSの発現を阻害する物質)
本発明において「IKAROSの発現を阻害する物質」とは、IKAROSをコードする核酸(IKAROS遺伝子)の転写レベル、転写後調節のレベル、IKAROSタンパク質への翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、IKAROSの発現を阻害する物質としては、例えば、IKAROS遺伝子の転写を阻害する物質(例、アンチジーン)、初期転写産物からmRNAへのプロセッシングを阻害する物質、mRNAの細胞質への輸送を阻害する物質、mRNAからIKAROSの翻訳を阻害するか(例、アンチセンス核酸、miRNA)あるいはmRNAを分解する物質(例、siRNA、リボザイム)、初期翻訳産物の翻訳後修飾を阻害する物質などが含まれる。いずれの段階で作用するものであっても好ましく用いることができるが、より好ましくは、以下の(1)〜(3)からなる群より選択される物質が例示される。
(1)IKAROS遺伝子の転写産物に対するアンチセンス核酸、
(2)IKAROS遺伝子の転写産物に対するリボザイム核酸、
(3)IKAROS遺伝子の転写産物に対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
ここで転写産物の好ましい例としては、mRNAが挙げられる。
IKAROS遺伝子のmRNAからIKAROSへの翻訳を特異的に阻害する(あるいはmRNAを分解する)物質として、好ましくは、これらのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸が挙げられる。
IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と実質的に相補的な塩基配列とは、投与対象となる哺乳動物におけるIKAROS産生細胞(例、好中球)の生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有する塩基配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAの塩基配列と完全相補的な塩基配列(すなわち、mRNAの相補鎖の塩基配列)と、オーバーラップする領域に関して、約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上の相同性を有する塩基配列である。
本発明における「塩基配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
より具体的には、IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列としては、以下の(k)または(l):
(k)配列番号1で表される塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
(l)配列番号1で表される塩基配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、かつ炎症反応を促進する活性を有するタンパク質をコードする配列と、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列;
が挙げられる。ストリンジェントな条件は、前述のとおりである。
IKAROS遺伝子のmRNAの好ましい例としては、配列番号1で表される塩基配列(Genbank Accession No.NM_052972)を含むヒトIKAROSのmRNA、あるいは他の哺乳動物におけるそれらのオルソログ(例えば、マウスIKAROS(配列番号3、Genbank Accession No.NM_029796)等)、さらにはそれらのスプライス改変体、アレル変異体、多型改変体等が挙げられる。
IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と「相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列の一部」とは、IKAROS遺伝子のmRNAに特異的に結合することができ、且つ該mRNAからのタンパク質の翻訳を阻害(あるいは該mRNAを分解)し得るものであれば、その長さや位置に特に制限はないが、配列特異性の面から、標的配列に相補的もしくは実質的に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは約15塩基以上を含むものである。
具体的には、IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸として、以下の(1)〜(3)のいずれかのものが好ましく例示される:
(1)IKAROS遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸、
(2)IKAROS遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸、
(3)IKAROS遺伝子のmRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体。
(1)IKAROS遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸
本発明における「IKAROS遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2−デオキシ−D−リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D−リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていたりしてよい。
上記の通り、アンチセンス核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNaseHに認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こすことができる。したがって、RNaseHによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、mRNA中の配列だけでなく、IKAROS遺伝子の初期翻訳産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。イントロン配列は、ゲノム配列と、IKAROS遺伝子のcDNA塩基配列とをBLAST、FASTA等のホモロジー検索プログラムを用いて比較することにより、決定することができる。
本発明のアンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてタンパク質:IKAROSへの翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、IKAROSをコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAもしくは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10〜約40塩基、特に約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、それに限定されない。具体的には、IKAROS遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどが、アンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されない。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、IKAROS遺伝子のmRNAや初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるこれらの遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAへの転写を阻害し得るもの(アンチジーン)であってもよい。
アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、天然型のDNAもしくはRNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、−OR(R=CH(2’−O−Me)、CHCHOCH(2’−O−MOE)、CHCHNHC(NH)NH、CHCONHCH、CHCHCN等)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。
RNAの糖部のコンフォメーションはC2’−endo(S型)とC3’−endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的RNAに対して強い結合能を付与するために、2’酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA(LNA)(Imanishi,T.et al.,Chem.Commun.,1653−9,2002;Jepsen,J.S.et al.,Oligonucleotides,14,130−46,2004)やENA(Morita,K.et al.,Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids,22,1619−1621,2003)もまた、好ましく用いられ得る。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、IKAROS遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
(2)IKAROS遺伝子のmRNAに対するリボザイム核酸
IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の他の好ましい例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。IKAROS遺伝子のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98(10):5572−5577(2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res.,29(13):2780−2788(2001)]。
(3)IKAROS遺伝子のmRNAに対するsiRNA
本明細書においては、IKAROS遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature,411(6836):494−498(2001)]、上記のアンチセンス核酸やリボザイムの代替技術として汎用されている。
siRNAは、標的遺伝子のcDNA配列情報に基づいて、例えば、Elbashirら(Genes Dev.,15,188−200(2001))、Teramotoら(FEBS Lett.579(13):p2878−82(2005))の提唱する規則に従って設計することができる。siRNAの標的配列は、原則的には15〜50塩基、好ましくは19〜49塩基、更に好ましくは19〜27塩基の長さを有しており、例えばAA+(N)19(AAに続く、19塩基の塩基配列)、AA+(N)21(AAに続く、21塩基の塩基配列)もしくはA+(N)21(Aに続く、21塩基の塩基配列)であってもよい。
本発明の核酸は、5’または3’末端に、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、通常2〜4塩基程度であり、siRNAの全長として19塩基以上である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的塩基の配列としては、例えばug−3’、uu−3’、tg−3’、tt−3’、ggg−3’、guuu−3’、gttt−3’、ttttt−3’、uuuuu−3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、siRNAは、3’末端に突出部配列(オーバーハング)を有していてもよく、具体的には、dTdT(dTはデオキシリボ核酸のデオキシチミジン残基を表わす)を付加したものが挙げられる。また、末端付加がない平滑末端(ブラントエンド)であってもよい。
また、siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖が異なる塩基数であってもよく、例えば、アンチセンス鎖が3’末端および5’末端に突出部配列(オーバーハング)を有している「aiRNA」を挙げることができる。典型的なaiRNAは、アンチセンス鎖が21塩基からなり、センス鎖が15塩基からなり、アンチセンス鎖の両端で各々3塩基のオーバーハング構造をとる(Sun,X.ら著、Nature Biotechnology Vol 26 No.12 p1379、国際公開第WO2009/029688号パンフレット)。
標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、5’−UTRおよび開始コドンから約50塩基まで、並びに3’−UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。上述の規則その他に基づいて選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16−17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19−21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19−21塩基に相補的な配列およびTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5−25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
siRNAおよび/またはshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、Ambionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)およびpSilencer(登録商標)Expression Vector用インサートデザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)、RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)があるがこれらに限定されない。
siRNAを構成するリボヌクレオシド分子もまた、安定性、比活性などを向上させるために、上記のアンチセンス核酸の場合と同様の修飾を受けていてもよい。但し、siRNAの場合、天然型RNA中のすべてのリボヌクレオシド分子を修飾型で置換すると、RNAi活性が失われる場合があるので、RISC複合体が機能できる最小限の修飾ヌクレオシドの導入が必要である。
当該修飾として具体的には、siRNAを構成するヌクレオチド分子の一部を、天然型のDNAや、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を施したRNAに置換することができる(Usman and Cedergren,1992,TIBS 17,34;Usman et al.,1994,Nucleic Acids Symp.Ser.31,163を参照)。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、siRNAを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2’位の水酸基を、−OR(R=CH(2’−O−Me)、CHCHOCH(2’−O−MOE)、CHCHNHC(NH)NH、CHCONHCH、CHCHCN等)、フッ素原子(−F)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。その他上記(1)に記載されたアンチセンス核酸における修飾方法を用いることができる。あるいは、siRNAにおけるRNAの一部をDNAに置換する化学修飾(2’−デオキシ化、2’−H)を施してもよい。また、糖(リボース)の2’位と4’位を−O−CH−で架橋しコンフォメーションをN型に固定した人工核酸(LNA:Locked Nucleic Acid)を用いてもよい。
また、siRNAを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖は、リンカーを介し、細胞表層に存在する受容体を特異的に認識するリガンド、ペプチド、糖鎖、抗体、脂質や正電荷や分子構造的に細胞膜表層に吸着し貫通するオリゴアルギニン、Tatペプチド、RevペプチドまたはAntペプチドなどと化学結合していてもよい。
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるショートヘアピンRNA(shRNA)を合成し、これを、ダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
本明細書においては、生体内でIKAROS遺伝子のmRNAに対するsiRNAを生成し得るようにデザインされた核酸もまた、IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。そのような核酸としては、上記したshRNAやsiRNAを発現するように構築された発現ベクターなどが挙げられる。shRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖およびアンチセンス鎖を適当なループ構造を形成しうる長さ(例えば5〜25塩基程度)のスペーサー配列を間に挿入して連結した塩基配列を含むオリゴRNAをデザインし、これをDNA/RNA自動合成機で合成することにより調製することができる。shRNAを発現するベクターには、タンデムタイプとステムループ(ヘアピン)タイプとがある。前者はsiRNAのセンス鎖の発現カセットとアンチセンス鎖の発現カセットをタンデムに連結したもので、細胞内で各鎖が発現してアニーリングすることにより2本鎖のsiRNA(dsRNA)を形成するというものである。一方、後者はshRNAの発現カセットをベクターに挿入したもので、細胞内でshRNAが発現しdicerによるプロセシングを受けてdsRNAを形成するというものである。プロモーターとしては、polII系プロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)を使用することもできるが、短いRNAの転写を正確に行わせるために、polIII系プロモーターを使用するのが一般的である。polIII系プロモーターとしては、マウスおよびヒトのU6−snRNAプロモーター、ヒトH1−RNasePRNAプロモーター、ヒトバリン−tRNAプロモーターなどが挙げられる。また、転写終結シグナルとして4個以上Tが連続した配列が用いられる。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなどが用いられる。
上記siRNAは、ヌクレオチド配列の情報に基づいて、例えば394 Applied Biosystems,Inc.合成機等のDNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って化学的に合成することができる。例えば、Caruthers et al.,1992,Methods in Enzymology 211,3−19、Thompson et al.,国際公開99/54459、Wincott et al.,1995,Nucleic Acids Res.23,2677−2684、Wincott et al.,1997,Methods Mol.Bio.,74,59、Brennan et al.,1998,Biotechnol Bioeng.,61,33−45、Usman et al.,1987 J.Am.Chem.Soc.,109,7845、Scaringe et al.,1990 Nucleic Acids Res.,18,5433、および米国特許第6001311号に記載される方法等が挙げられる。具体的には、当業者に公知の核酸保護基(例えば5’末端にジメトキシトリチル基)およびカップリング基(例えば3’末端にホスホルアミダイト)を用いて合成できる。すなわち、5’末端の保護基を、TCA(トリクロロ酢酸)等の酸で脱保護し、カップリング反応を行う。ついでアセチル基でキャッピングを行った後、次の核酸の縮合反応を行う。修飾されたRNAやDNAを含むsiRNAの場合には、原料として修飾されたRNA(例えば、2’−O−メチルヌクレオチド、2’−デオキシ−2’−フルオロヌクレオチド)を用いればよく、カップリング反応の条件は適宜調整できる。また、リン酸結合部分が修飾されたホスホロチオエート結合を導入する場合には、ボーケージ試薬(3H−1,2−ベンゾジチオール−3−オン1,1−ジオキシド)を用いることができる。
あるいは、オリゴヌクレオチドは、別々に合成し、合成後に例えばライゲーションにより一緒につなげてもよいし(Moore et al.,1992,Science 256,9923;Draper et al.国際公開WO93/23569;Shabarova et al.,1991,Nucleic Acids Research 19,4247;Bellon et al.,1997,Nucleosides&Nucleotides,16,951;Bellon et al.,1997,Nucleosides&Nucleotides,Bellon et al.,1997,Bioconjugate Chem.8,204)、または合成および/または脱保護の後にハイブリダイゼーションにより、一緒につなげてもよい。siRNA分子はまたタンデム合成法により合成することができる。すなわち、両方のsiRNA鎖を、切断可能なリンカーにより分離された単一の連続するオリゴヌクレオチドとして合成し、次にこれを切断して別々のsiRNAフラグメントを生成し、これをハイブリダイズさせて精製する。リンカーはポリヌクレオチドリンカーであっても非ヌクレオチドリンカーであってもよい。
合成したsiRNA分子は、当業者に公知の方法を用いて精製できる。例えばゲル電気泳動により精製する方法、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製する方法が挙げられる。
IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の別の好ましい例として、該mRNAを標的とするmicroRNA(miRNA)が挙げられる。miRNAも、上述のsiRNAについて記載した方法に準じて調製することができる。
IKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸は、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で提供されたり、他の分子が付加された形態で提供されうる。付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大させたりするような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
これらの核酸のIKAROS発現阻害活性は、IKAROSをコードする核酸を導入した形質転換体、生体内や生体外のIKAROS遺伝子発現系、または生体内や生体外のIKAROSタンパク質の翻訳系を用いて調べることができる。
本発明におけるIKAROSの発現を阻害する物質は、上記のようなIKAROS遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に限定されず、IKAROSの産生を直接的または間接的に阻害する限り、低分子化合物などの他の物質であってもよい。そのような物質は、例えば、後述する本発明のスクリーニング方法により取得することができる。
(IKAROSの機能を阻害する物質)
本発明において「IKAROSの機能を阻害する物質」とは、いったん機能的に産生されたIKAROSがその機能を発揮するのを阻害する限りいかなるものでもよい。
具体的には、IKAROSの機能を抑制する物質として、例えば、IKAROSに対する抗体が挙げられる。該抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、該抗体は、標的抗原を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab’、F(ab’)等のフラグメント、scFv、scFv−Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
好ましい一実施態様において、IKAROSに対する抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、該抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス−ヒトキメラ抗体などであり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、常法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト−ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、ヒト抗体産生マウスやファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
IKAROSの機能を抑制する別の好ましい物質は、Lipinski’s Ruleに見合った低分子化合物である。そのような化合物は、例えば、後述する本発明のスクリーニング法を用いて取得することができる。
IKAROSの発現もしくは機能を阻害する物質は、IKAROSにより促進される炎症反応を抑制する活性を示すことから、抗炎症剤として、炎症性腸疾患などの炎症性疾患の予防および/または治療に有用である。
従って、IKAROSの発現もしくは機能を阻害する物質を含有する医薬は、炎症性疾患の予防および/または治療剤(抗炎症剤)として使用することができる。
(アンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬)
IKAROS遺伝子の転写産物に相補的に結合し、該転写産物からのタンパク質の翻訳を抑制することができる本発明のアンチセンス核酸や、IKAROS遺伝子の転写産物(mRNA)と相同な(もしくは相補的な)塩基配列を有し、当該転写産物を標的として該転写産物を切断し得るsiRNA(もしくはリボザイム)、さらに該siRNAの前駆体であるshRNAなど(以下、包括的に「本発明の核酸」という場合がある)は、生体内におけるIKAROSの発現を抑制し、炎症反応を抑制するので、抗炎症剤として使用することができる。
本発明の核酸を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
本発明の核酸を上記の抗炎症剤として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明の核酸を、単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
本発明の核酸は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の核酸と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の核酸を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記核酸を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明の核酸は、例えば、投薬単位剤形当たり通常約5〜約500mg、とりわけ注射剤では約5〜約100mg、その他の剤形では約10〜約250mg含有されていることが好ましい。
本発明の核酸を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)等の炎症性腸疾患(IBD)の治療・予防のために使用する場合には、本発明の核酸を1回量として、通常約0.01〜約20mg/kg体重程度、好ましくは約0.1〜約10mg/kg体重程度、さらに好ましくは約0.1〜約5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
なお前記した各組成物は、本発明の核酸との配合により好ましくない相互作用を生じない限り適宜他の活性成分を含有してもよい。
(IKAROSに対する抗体、IKAROSの発現もしくは機能を阻害する低分子化合物等を含有する医薬)
IKAROSに対する抗体や、IKAROSの発現もしくは機能を阻害する低分子化合物は、IKAROSの産生または機能を阻害することができる。したがって、これらの物質は、生体内におけるIKAROSの発現もしくは機能を阻害するので、炎症性疾患の予防および/または治療剤として使用することができる。
上記の抗体や低分子化合物を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
上記の抗体や低分子化合物は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の抗体または低分子化合物もしくはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。抗体や低分子化合物は、投薬単位剤形当たり通常約5〜約500mg、とりわけ注射剤では約5〜約100mg、その他の剤形では約10〜約250mg含有されていることが好ましい。
上記の抗体もしくは低分子化合物またはその塩を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、IBDの治療・予防のために使用する場合には、抗体もしくは低分子化合物を1回量として、通常約0.01〜約20mg/kg体重程度、好ましくは約0.1〜約10mg/kg体重程度、さらに好ましくは約0.1〜約5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
なお前記した各組成物は、上記抗体や低分子化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
上述のIKAROSに対するアンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬や、IKAROSに対する抗体、IKAROSの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬組成物は、抗炎症剤として、炎症性疾患の治療、予防、または進行防止に用いることができる。炎症性疾患として、具体的には、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)等の炎症性腸疾患(IBD)、関節リウマチ(RA)、ベーチェット病、キャッスルマン病等の炎症性の自己免疫疾患などが挙げられるが、これらに限定されず、IKAROSがその病態の増悪に関与しているいかなる炎症も、本発明の対象である炎症性疾患に包含される。
上述のIKAROSに対するアンチセンス核酸、リボザイム核酸、siRNAおよびその前駆体を含有する医薬や、IKAROSに対する抗体、IKAROSの発現もしくは機能を抑制する低分子化合物等を含有する医薬組成物を炎症性疾患の治療または予防に使用する場合には、単独で使用してもよいが、1種または2種以上の抗炎症作用を有する薬剤と併用してもよい。
併用する薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メサラジン、副腎皮質ステロイド(例、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン等)、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs;例、サリチル酸系、アントラニル酸系、アリール酸系、プロピオン酸系、オキシカム系、ピリン系)、抗TNFα抗体(インフルキシマブ、アダリムマブ)、抗リウマチ薬(例、アクタリット等の免疫調節薬、メトトレキサート等の免疫抑制薬、抗TNFα抗体やエタネルセプト等の生物学的製剤)などが挙げられる。
(炎症等の疾病に対する医薬候補化合物または抗炎症剤のスクリーニング)
上述の通り、IKAROSの発現および/または機能を阻害すると、炎症反応が抑制される。従って、IKAROSの発現および/または機能を阻害する化合物は、炎症性疾患の予防および/または治療剤(抗炎症剤)として使用することができる。
したがって、IKAROSを産生するまたはその発現が亢進している細胞は、IKAROS(またはIKAROS遺伝子)の発現量および/または機能を指標とすることにより、抗炎症性物質のスクリーニングのためのツールとして用いることができる。
IKAROSの発現または機能を阻害する化合物をスクリーニングする場合、該スクリーニング方法は、IKAROSを産生する能力を有する細胞を、被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるIKAROSの発現量または機能の程度を比較することを含む。また、IKAROSの機能を阻害する化合物は、精製したIKAROSタンパク質への結合能、IKAROSタンパク質とその結合タンパク質(例えば、IKAROSに対する抗体等)との結合阻害活性を試験することによっても、スクリーニングすることができる。
したがって、1つの局面では、本発明は、以下の(1)〜(3)の工程:(1)IKAROSを産生する能力を有する細胞、例えばIKAROS遺伝子もしくは該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程;(2)前記細胞におけるIKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を低下させた被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択する工程を含む、抗炎症性物質のスクリーニング方法を提供する。
上記のスクリーニング方法において用いられるIKAROSを産生する能力を有する細胞としては、それらを生来発現しているヒトもしくは他の哺乳動物細胞またはそれを含む生体試料(例:血液、組織、臓器等)であれば特に制限はない。非ヒト動物由来の血液、組織、臓器等の場合は、それらを生体から単離して培養してもよいし、あるいは生体自体に被検物質を投与し、一定時間経過後にそれら生体試料を単離してもよい。
また、IKAROSを産生する能力を有する細胞としては、公知慣用の遺伝子工学的手法により作製された各種の形質転換体が例示される。宿主としては、例えば、H4IIE−C3細胞、HepG2細胞、HEK293細胞、COS7細胞、CHO細胞などの動物細胞が好ましく用いられる。
具体的には、IKAROSをコードするDNA(即ち、配列番号1で表される塩基配列または該塩基配列に対し相補性を有する塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同質の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA)を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結して宿主動物細胞に導入することにより調製することができる。
IKAROSをコードする遺伝子の調製方法について、以下に説明する。
IKAROSをコードする遺伝子は、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J.,Frisch E.F.,Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得することができる。すなわち、IKAROSをコードするDNAは、例えば、配列番号1で表される塩基配列に基づいて、適当なオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして合成し、前記したIKAROSを産生する細胞・組織由来のcDNAもしくはcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーション法やPCR法を用いてクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(MolecularCloning)第2版(上記)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM−super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM−K(宝酒造(株))等を用いて、ODA−LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
次いで、得られたIKAROS遺伝子を用いて、通常の遺伝子工学的方法に準じてIKAROSタンパク質を製造・取得することができる。
例えば、IKAROS遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物からIKAROSを取得すればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自律的に複製できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、IKAROSをコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。
例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、タカラバイオ等から市販されている。当該発現ベクターにIKAROSをコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素もタカラバイオ等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、IKAROSをコードするDNAの上流にリボソーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボソーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20,p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms,p202,講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
また、動物細胞発現プラスミド(例:pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージなどのバクテリオファージ;レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどを用いることもできる。プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV−TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF−αプロモーター、CAGプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。
選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、アンピシリン耐性遺伝子(以下、ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
上記したIKAROSをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換することにより、IKAROS発現細胞を製造することができる。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞等を挙げることができる。哺乳動物細胞としては、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、ヒトFL細胞、サルCOS−7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr)細胞と略記)、マウスL細胞,マウスAtT−20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットH4IIE−C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得る。例えば、IKAROSの大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコル,263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法を用いることができる。
上記のようにして得られる形質転換細胞や生来IKAROSを産生する能力を有する哺乳動物細胞または該細胞を含む組織・臓器は、例えば、約5〜20%の胎仔牛血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122巻,501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8 巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
IKAROSタンパク質の取得は、一般のタンパク質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施すればよい。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離などで除去し、培養上清からIKAROSを前記と同様にして精製してもよい。また、IKAROSタンパク質が前記の培養により得られた形質転換体の細胞内に蓄積する場合には、例えば、該形質転換体を遠心分離等で集めた後、細胞を破砕または溶解せしめ、必要であればタンパク質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、若しくは組み合わせることにより精製すればよい。精製されたタンパク質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。
本発明のスクリーニングを実施するに当たり、被検物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
また、IKAROSもしくはIKAROS遺伝子の発現量を低下させる物質、またはIKAROSの機能を低下させる物質を選択する際に、被検物質を接触させない対照細胞を比較対照として用いることもできる。ここで「被検物質を接触させない」とは、被検物質の代わりに被検物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、IKAROSもしくはIKAROS遺伝子の発現量またはIKAROSの機能に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
被検物質の上記細胞との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被検物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被検物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM〜約100μMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分〜約24時間が挙げられる。
IKAROSを産生する細胞が、非ヒト哺乳動物個体の形態で提供される場合、該動物個体の状態は特に制限されないが、例えば、薬剤もしくは遺伝子改変により炎症を誘起した炎症性疾患モデル動物(例えば、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)や2.4.6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)等の薬剤により大腸炎を誘起したマウス、IL−10ノックアウトマウスやIL−2ノックアウトマウス等の遺伝子改変マウス等のIBDモデル動物、コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウス、SKGマウス、PD−1ノックアウトマウス、K/BxNマウス、シノビオリンTgマウス等のRAモデル動物など)であってもよい。使用される動物の飼育条件に特に制限はないが、SPFグレード以上の環境下で飼育されたものであることが好ましい。被検物質の該細胞との接触は、該動物個体への被検物質の投与によって行われる。投与経路は特に制限されないが、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経口投与、気道内投与、直腸投与等が挙げられる。投与量も特に制限はないが、例えば、1回量として約0.5〜20mg/kgを、1日1〜5回、好ましくは1日1〜3回、1〜14日間投与することができる。
あるいは、上記のスクリーニング方法は、IKAROSを産生する能力を有する細胞に代えて、該細胞の抽出液、あるいは該細胞から単離精製したIKAROSに、被検物質を接触させることにより行うこともできる。
したがって別の局面では、本発明は、IKAROSと被検物質とを接触させ、IKAROSと結合能を有する被検物質を抗炎症性物質の候補として選択することを特徴とする、抗炎症性物質のスクリーニング方法を提供する。使用され得るIKAROSは、IKAROSを産生する能力を有する細胞の抽出液、あるいは該細胞から単離精製することができる。
1つの実施形態では、本発明のスクリーニング方法では、以下の(1)〜(3)の工程:(1)被検物質の存在下でIKAROSを炎症性疾患の標的細胞の細胞膜画分と接触させる工程;(2)細胞膜画分に結合したIKAROS量を測定する工程;および(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、細胞膜画分に結合するIKAROS量を低下させた被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択する工程を含む。
特定の実施形態では、本発明では重層結膜上皮細胞を用いた膜透過性・組織浸透性の独自の評価系が利用される。この評価系では、上皮細胞に選択的に作用する化合物を選別することが可能である。
さらなる実施形態では、本発明では炎症の評価系として眼表面炎症を用いることができる。眼表面は、容易に観察できる粘膜組織であり、炎症評価が、肉眼的解析・組織学的解析において比較的容易であるという利点がある。さらに眼表面炎症の治療は、点眼による局所投与が一般的であり、新規化合物の炎症抑制作用を評価する上で、眼表面炎症モデルは、優位である。加えて、本発明では、炎症抑制作用の評価にすぐれたアレルギー性結膜炎マウスモデルを利用することもできる。そのような炎症モデルについては、実施例において例示されているものを利用することができるがそれらに限定されない。
1つの実施形態では、本発明の方法は、上記抗炎症性物質の候補として選択された被検物質を炎症モデルに適用し、該モデルにおける炎症反応を抑制するか否かを検定することをさらに含む。
(IKAROS遺伝子またはIKAROSの発現量の測定)
本発明は、IKAROSを産生する能力を有する細胞における該タンパク質(遺伝子)の発現を、被検物質の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、抗炎症性物質のスクリーニング方法を提供する。本方法において用いられる細胞、被検物質の種類、被検物質と細胞との接触の態様などは、上記と同様である。
IKAROSの発現量は、前記したIKAROSをコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、即ち、配列番号1または3で表される塩基配列もしくはそれと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸(DNA)(以下、「本発明の検出用核酸」という場合がある)を用いて、IKAROS遺伝子のmRNAを検出することにより、RNAレベルで測定することができる。あるいは、該発現量は、前記したIKAROSに対する抗体(以下、「本発明の検出用抗体」という場合がある)を用いて、これらのタンパク質を検出することにより、タンパク質レベルで測定することもできる。
従って、より具体的には、本発明は、
(a)IKAROSを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質をコードするmRNAの量を、本発明の検出用核酸を用いて測定、比較することを特徴とする、抗炎症性物質のスクリーニング方法、および(b)IKAROSを産生する能力を有する細胞を被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下における該タンパク質の量を、本発明の検出用抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、抗炎症性物質のスクリーニング方法を提供する。
すなわち、IKAROSの発現量を変化させる物質のスクリーニングは、以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル(例えば、DSSもしくはTNBS誘起大腸炎モデルなど)非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して被検物質を投与し、一定時間経過した後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)に、血液、あるいは特定の臓器(例えば、脳等)、あるいは臓器から単離した組織または細胞を得る。
IKAROSのmRNAは、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出して定量することができ、あるいは自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、IKAROSのタンパク質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)IKAROS遺伝子を発現する細胞(例えば、IKAROSを導入した形質転換体)を上記の方法に従って作製し、常法に従って培養する際に被検物質を培地もしくは緩衝液中に添加し、一定時間インキュベート後(1日後〜7日後、好ましくは1日後〜3日後、より好ましくは2日後〜3日後)、該細胞培養物中に含まれるIKAROSあるいはそれをコードするmRNAを、上記(i)と同様にして定量、解析することができる。
IKAROS遺伝子(mRNA)の発現レベルの検出および定量は、前記細胞から調製したRNAまたはそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、IKAROS遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中のIKAROS遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、IKAROS遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3(http://primer3.sourceforge.net/)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS−1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System(Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコルに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT−PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のIKAROS遺伝子の領域が増幅できるように、IKAROS遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT−PCR Reagents(Applied Biosystems社製)で該プロトコルに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
被検物質を添加した細胞におけるIKAROS遺伝子の発現が被検物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して2/3倍以下、好ましくは1/2倍以下、更に好ましくは1/3倍以下であれば、該被検物質はIKAROS遺伝子の発現抑制物質として選択することができる。
また、IKAROSの発現量を変化させる物質のスクリーニングは、IKAROS遺伝子の転写調節領域を用いたレポーター遺伝子アッセイで行うことも可能である。ここで、「転写調節領域」とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指し、例えば、(i)5’−レース法(5’−RACE法)(例えば、5’−full Race Core Kit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することが出来る。
IKAROS遺伝子の転写調節領域の下流に機能可能な形でレポータータンパク質をコードする核酸(以下、「レポーター遺伝子」という)を連結して、レポータータンパク質発現ベクターを構築する。該ベクターは当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出されたIKAROS遺伝子の転写調節領域を、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポータータンパク質としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β−ガラクトシダーゼ(GAS)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)等が挙げられる。
調製したIKAROS遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。ベクターに搭載される選択マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、安定な形質転換細胞を得ることができる。あるいは、IKAROS遺伝子の転写調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、宿主細胞内に一過的に発現させてもよい。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
IKAROSのタンパク質量の測定方法としては、具体的には、例えば、
(i)本発明の検出用抗体と、試料液および標識化されたIKAROSとを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたタンパク質を検出することにより試料液中のIKAROSを定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に不溶化した本発明の検出用抗体および標識化された別の本発明の検出用抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のIKAROSを定量する方法等が挙げられる。
IKAROSのタンパク質発現レベルの検出および定量は、IKAROSを認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体としてIKAROSを認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体としてIKAROSを認識する抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコルに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
上記の抗体は、その形態に特に制限はなく、IKAROSを免疫原とするポリクローナル抗体であっても、またモノクローナル抗体であってもよく、さらにはIKAROSを構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体を用いることもできる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley and Sons.Section 11.12〜11.13)。
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はIKAROSの異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体がIKAROSのN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体として該タンパク質のC端部と反応するものを用いることができる。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
本発明の検出用抗体を用いるIKAROSの定量法は、特に制限されるべきものではなく、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明の検出用抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の検出用抗体を反応させた(2次反応)後、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中のIKAROSを定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
本発明の検出用抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
競合法では、試料液中のIKAROSと標識したIKAROSとを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のIKAROSを定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、試料液中のIKAROSと固相化したIKAROSとを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のIKAROSと過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したIKAROSを加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のIKAROSの量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてIKAROSの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書 Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書 Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書 Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書 Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、本発明の検出用抗体を用いることによって、細胞におけるIKAROSの量を感度よく定量することができる。
例えば、上記スクリーニング法において、被検物質の存在下におけるIKAROSの発現量(mRNA量またはタンパク質量)が、被検物質の非存在下における場合に比べて、約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上阻害された場合、該被検物質を、IKAROSの発現阻害物質、従って、抗炎症性物質の候補として選択することができる。
あるいは、上記スクリーニング法において、IKAROS遺伝子を発現する細胞に代えて、IKAROS遺伝子の内在の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を含む細胞を用いることができる。このような細胞は、IKAROS遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子(例、ルシフェラーゼ、GFPなど)を導入したトランスジェニック動物の細胞、組織、臓器もしくは個体であってもよい。かかる細胞を用いる場合には、IKAROSの発現量は、レポーター遺伝子の発現レベルを、常法を用いて測定することにより評価することができる。
(IKAROSの機能の測定)
本発明のスクリーニング方法は、被検物質がIKAROSの機能を阻害するか否かを指標として行うこともできる。
IKAROSは主に好中球から血中に分泌されるタンパク質であるので、IKAROSタンパク質に結合能を有する物質は、IKAROSタンパク質とその結合パートナーであるタンパク質(例えば、標的細胞表面上のIKAROS受容体)との相互作用を遮断することにより、IKAROSの機能を阻害し得ると考えられる。従って、IKAROSへの結合能を指標として、IKAROSの機能阻害物質の候補をスクリーニングすることができる。
例えば、被検物質をウェルプレートの各ウェルに吸着させ、適当な標識剤で標識したIKAROS溶液を各ウェルに添加してインキュベートした後液相を除き、洗浄後に固相に結合した標識量を測定することにより、IKAROSとの結合能を有する被検物質を検出することができる。IKAROSを直接標識する代わりに、標識した抗IKAROS抗体を用いて固相に結合したIKAROSを検出することもできる。あるいは、IKAROSを固定化した担体(例、アフィニティーカラム)に被検物質の溶液を通し、該担体に保持された被検物質を、IKAROSとの結合能を有する物質、即ち抗炎症性物質の候補として選択することもできる。
このようにして得られた候補物質が実際に抗炎症作用を有するか否かは、該候補物質を炎症モデルに適用し、該モデルにおける炎症反応を抑制するか否かを検定することにより確認することができる。そのような炎症モデルとしては、in vivoおよびin vitroのモデルを用いることができる。In vivoモデルとしては、例えばDSS誘起大腸炎モデル(分子量5,000〜10,000のDSSを3〜5%(w/v)含有する水を、非ヒト動物に5〜10日間飲水させることにより調製することができる)、TNBS誘起大腸炎モデル(TNBSを50%エタノールに溶解し、例えば50μg/g体重の量で非ヒト動物に直腸内投与することにより調製することができる)等のIBDモデル、CIAモデル(完全フロイントアジュバントとエマルジョン化したII型コラーゲンで非ヒト動物を免疫することにより調製することができる)、CAIAモデル(II型コラーゲンのCB11内のエピトープを認識するモノクローナル抗体カクテルを非ヒト動物に注射することにより調製することができる)等のRAモデル等を用いることができるが、これらに限定されない。一方、in vitroモデルとしては、炎症性疾患における標的細胞(例えば、IBDにおける腸管上皮細胞、RAにおける滑膜細胞等)の培養系(例えば、Caco−2細胞培養系、RA患者の滑膜組織由来の滑膜線維芽細胞の培養系等)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのin vitroモデルは、必要に応じてTNFα等の炎症性サイトカインやH等の活性酸素、LPS等による刺激、あるいは単球、マクロファージ、好中球等の炎症性サイトカイン産生細胞との複合培養(例えば、トランスウェルTM培養システム等を用い、上部コンパートメントに標的細胞(例、Caco−2細胞)、下部コンパートメントに炎症性サイトカイン産生細胞(マクロファージ様のTHP−1細胞、RAW264.7細胞)をそれぞれ単層培養する培養系)などにより、炎症反応を惹起することができる。
候補物質が抗炎症作用を有するか否かは、上記の炎症モデルにおける炎症反応が候補物質の添加により抑制されたか否かにより判定することができる。例えば、上記の薬剤誘起大腸炎モデル動物であれば、体重の変化(大腸炎発症による体重減少の抑制、あるいは体重減少からの回復の程度等)、大腸長の短縮、大腸炎症部位における上皮の損傷および炎症細胞浸潤の程度などを指標にして、抗炎症効果の有無および/またはその程度を判定することができる。一方、in vitro炎症性腸疾患モデルである腸管上皮細胞の単層培養系を用いた場合、経上皮電気抵抗(TER)値の低下、LDH産生、IL−8発現上昇を指標にして炎症反応の程度を評価することができる。
本発明の別の好ましい態様においては、IKAROSタンパク質とその結合タンパク質(例えば、IKAROS受容体)との結合阻害活性を試験することによって、IKAROSの機能阻害物質をスクリーニングすることができる。IKAROSの受容体やIKAROSと結合する生体物質は未だ同定されていないが、IKAROSが主に好中球から血中に分泌されるタンパク質であることから、炎症性疾患における標的細胞の表面上に発現するタンパク質の中に、IKAROSの生理学的な結合パートナーが存在することが強く示唆される。従って、該標的細胞の膜画分(例えば、腸管上皮細胞の場合、粘膜固有層側の膜画分を常法に従って単離し、これを適当な担体上に固相化し、被検物質の存在下および非存在下で、該固相に標識したIKAROSタンパク質を接触させ、被検物質の非存在下で細胞膜画分に結合したIKAROS量と比較して、被検物質の存在下で細胞膜画分に結合したIKAROS量が有意に低かった場合、該被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択することができる。こうして選択された候補物質が抗炎症作用を有するか否かは、上記と同様の方法で確認することができる。
本発明のさらに別の実施態様においては、上記in vitro炎症モデルを用いて、IKAROSの機能を阻害して抗炎症作用を示す物質を、ワンステップでスクリーニングすることもできる。当該方法は以下の(1)〜(3)の工程:(1)炎症性疾患の標的細胞を、IKAROSの存在下および非存在下で被検物質に接触させる工程;(2)各条件下での前記細胞における炎症反応の程度を測定する工程;および(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROSの存在下で炎症反応を抑制し、IKAROSの非存在下で炎症反応を抑制しなかった被検物質を、IKAROSの機能を阻害して抗炎症作用を示す物質の候補として選択する工程を含む、抗炎症性物質のスクリーニング方法を提供する。
当該方法は、必要に応じて、上記工程(1)と同時もしくはその前後において、炎症を惹起する工程をさらに含み得る。炎症を惹起する方法としては、例えば、polyI:Cのほか、インターロイキン−Iα(IL−1α)、TNFα等の炎症性サイトカインやH等の活性酸素、LPS等による刺激、あるいは単球、マクロファージ、好中球等の炎症性サイトカイン産生細胞との複合培養等が挙げられる。好ましい一実施態様においては、例えば、トランスウェルTM培養システム等を用い、上部コンパートメントに標的細胞(例、Caco−2細胞)、下部コンパートメントに炎症性サイトカイン産生細胞(マクロファージ様のTHP−1細胞、RAW264.7細胞)をそれぞれ単層培養する方法が挙げられる。この場合、下部コンパートメントの培地にIKAROSを添加する。当該培地に、さらにLPS等を添加して炎症を惹起してもよい。被検物質は通常、下部コンパートメントの培地に添加されるが、例えば、腸管吸収されてIKAROSの機能を阻害し得る食品中に含有される成分や、経口投与可能なIKAROS機能阻害薬をスクリーニングすることを目的とする場合等においては、上部コンパートメントの培地に被検物質が添加され得る。
特定の実施形態では、本発明の方法では、標的細胞が、上皮細胞を含むことが好ましい。さらに特定すると、この上皮細胞は、皮膚表皮細胞、食道上皮細胞、胃上皮細胞、膣上皮細胞、子宮上皮細胞、胸腺上皮細胞、膀胱上皮細胞、前立腺上皮細胞、乳腺上皮細胞、結膜上皮細胞または角膜上皮細胞であり、好ましくは、皮膚表皮細胞、結膜上皮細胞または角膜上皮細胞であるが、これらに限定されない。あるいは、この上皮細胞は、ケラチン5を発現する粘膜上皮細胞である。ケラチン5を発現する細胞については、Okuma et al.,Immunity.(2013)38:450−60およびLiang et al.,J Biomed Sci.(2009)16:2を参照されたい。
さらなる実施形態では、本発明のスクリーニングが対象とする炎症は、IKAROSの発現亢進に起因する炎症である。特定の実施形態では、本発明のスクリーニングが対象とする炎症は、IKAROSに起因する上皮が関与する炎症である。特定の実施形態では、本発明のスクリーニングが対象とする炎症は、上皮においてIKAROSおよびTLR3に関与する炎症である。特定の実施形態では、本発明が対象とする炎症は、アレルギー疾患であり、代表的には、スティーブンスジョンソン症候群、ぜんそく、接触性皮膚炎、急性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎等を挙げることができるがそれらに限定されない。
本発明の上記いずれかのスクリーニング方法を用いて得られる、IKAROSの発現または機能を阻害する物質は、炎症性疾患の予防および/または治療用の医薬として有用である。
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物を上述の予防・治療剤として使用する場合、上記IKAROSの発現または機能を阻害する低分子化合物と同様に製剤化することができ、同様の投与経路および投与量で、ヒトまたは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して、経口的にまたは非経口的に投与することができる。
(IKAROS遺伝子の発現上昇・増強・誘導剤)
1つの局面において、本発明は、polyI:Cを含む、IKAROS遺伝子の発現上昇または誘導のための組成物を提供する。polyI:C(「ポリI:C」、「polyI:Cポリヌクレオチド」とも表示される)は、polyI:Cポリヌクレオチドは、イノシン酸残基(I)およびシチジル酸残基(C)を含有する二重鎖ポリヌクレオチド分子(RNAまたはDNAまたはDNAとRNAの組合せのいずれか)であり、炎症性サイトカイン、例えばインターフェロンなどの産生を誘導するものであり、合成二本鎖RNAアナログである。一般に、完全にシトシン含有ヌクレオチドからなる1本のストランドおよび完全にイノシン含有ヌクレオチドからなる1本のストランドで構成されるが、その他の構成も可能である。例として、各々のストランドは、シトシン含有ヌクレオチドとイノシン含有ヌクレオチドの両方を含んでもよい。場合によっては、ストランドのいずれかまたは両方は、1またはそれ以上の非シトシンまたは非イノシンヌクレオチドをさらに含んでもよい。polyI:Cについては、例えば、非特許文献9等を参照されたい。
したがって、本明細書において、「polyI:C」、「ポリI:C」または「polyI:Cポリヌクレオチド」は、二本鎖ポリヌクレオチド分子(RNAまたはDNAまたはDNAとRNAの組合せ)であり、その各々のストランドは、少なくとも6つの隣接するイノシン酸もしくはシチジル酸残基、あるいは任意の順序でイノシン酸およびシチジル酸から選択される6つの隣接する残基(例えばIICIICまたはICICIC)を含み、哺乳類被験体において少なくとも1種類の炎症性サイトカイン、例えばインターフェロンなどの産生を誘導または促進する能力がある。polyI:Cポリヌクレオチドは、一般に約8、10、12、14、16、18、20、22、24、25、28、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、500、1000またはそれ以上の残基の長さを有する。上限は重要であるとは考えない。好ましいpolyI:Cポリヌクレオチドの最小長は、約6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、または30ヌクレオチドであってもよく、最大長は約1000、500、300、200、100、90、80、70、60、50、45または40ヌクレオチドであってもよい。
polyI:Cポリヌクレオチドの各々のストランドは、イノシン酸またはシチジル酸残基のホモポリマーであってもよいか、または、各々のストランドは、イノシン酸およびシチジル酸残基を含有するヘテロポリマーであってもよい。いずれの場合も、ポリマーは、上記のように、6個のI、6個のCまたは6個のI/C残基からなる少なくとも1つの隣接する領域があるならば、1またはそれ以上の非イノシン酸または非シチジル酸残基(例えばウリジン)によって中断されてもよい。一般に、polyI:Cポリヌクレオチドの各々のストランドは、6個のI/C残基につき1以下の非I/C残基、より好ましくは、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28または30個のI/C残基ごとに1以下の非I/C残基を含む。
polyI:Cポリヌクレオチド中のイノシン酸またはシチジル酸(またはその他の)残基は、polyI:Cポリヌクレオチドの炎症性サイトカイン、例えばインターフェロンなどの産生を促進する能力が保持されるならば、当分野で公知のように誘導体化または修飾されてもよい。誘導体または修飾の限定されない例としては、例えばアジド修飾、フルオロ修飾、またはインビボで安定性を向上させるため天然のホスホジエステル結合の代わりにチオエステル(または同様の)結合を使用することが挙げられる。polyI:Cポリヌクレオチドはまた、例えばそのインビボでの分解に対する抵抗性を増強するために、例えば、正に帯電したポリ−リジンおよびカルボキシメチルセルロースとの、または正に帯電した合成ペプチドとの分子の錯体形成により、修飾されてもよい。polyI:Cポリヌクレオチドは、一般に本発明の組成物中に組成物の単位用量あたり約0.001mg〜1mgの量で含まれる。
1つの実施形態では、前記IKAROS遺伝子の発現上昇または誘導は、上皮細胞におけるものである。理論に束縛されることを望まないが、上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法を開発することができることから、標的を上皮細胞とすることにより局所投与が容易となり、副作用の激減が期待される。また、上皮細胞を標的とした細胞モデルが提供されることにより、上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法を開発することができる。標的を上皮細胞として免疫細胞の動態、活性化をコントロールすることにより局所投与が容易な薬剤のスクリーニングのために本発明の細胞は有用であり、副作用の激減が期待されるという実質上のメリットがある。これまで行われてこなかった着目点からの炎症制御モデルも提供される。既存の炎症制御方法とは全くタイプの異なる上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法の開拓は、適切な治療法の提供・健康寿命の延伸による安全安心な社会の実現に資するため、本発明の細胞にはその開発ツールとしての意義がある。さらに、上皮細胞を標的として免疫細胞の動態、活性化をコントロールする新規炎症制御方法の開発は、炎症制御方法の大きな転機につながる。上皮細胞を標的とした新規炎症制御方法は、制御化合物による局所投与が容易となるため副作用の激減が期待され、今後の炎症治療の大きな担い手となる。
本発明の細胞はまた、特に、上皮細胞に選択的に作用する化合物の探索を容易にするものである。作用メカニズムの分子レベルでの解明は、上皮細胞を介した炎症制御機構を明らかにし、アレルギー疾患の予防、医薬や医用品による治療、安全安心な品質(化学材料、化粧品、食品、健康食品)へと繋がる。その結果、適切な治療法の提供・健康寿命の延伸による安心安全社会という観点から将来の人間生活の向上に直接貢献できるとともに、広範囲にわたる産業界(医療系、医薬品系、化学系、食品系など)への波及効果が期待できる。
(IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された細胞)
1つの局面において、IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された細胞を提供する。ここで「IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された」とは、通常の状態で存在する細胞におけるIKAROS遺伝子の発現のレベルよりも上昇または誘導がなされていることをいう。そのようなレベルは細胞のタイプによって変動し得ることが考えられるが、本発明でいう「IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された」は、各々の細胞のタイプに応じてその通常の状態に比べて発現が上昇または誘導されていることをいうことに留意されたい。
本発明の細胞は、単離された細胞であることが好ましい。天然に存在する状態以外に、人工的な環境のもとで、IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された細胞を提供することができたのは初めてである。本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞、組織などをいう。
1つの実施形態では、本発明のIKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された細胞は、polyI:Cによって、IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導されたものである。polyI:Cとしては、(IKAROS遺伝子の発現上昇・増強・誘導剤)に記載される任意の形態が利用され得る。
さらに別の実施形態では、本発明の細胞は上皮細胞である。1つの具体的な実施形態では、本発明の細胞はケラチン5陽性細胞であってもよい。
(IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された動物)
1つの局面において、IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された動物を提供する。ここで「IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された」とは、通常の状態で存在する動物におけるIKAROS遺伝子の発現のレベルよりも上昇または誘導がなされていることをいう。そのようなレベルは動物のタイプによって変動し得ることが考えられるが、本発明でいう「IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された」は、各々の動物のタイプに応じてその通常の状態に比べて発現が上昇または誘導されていることをいうことに留意されたい。
1つの実施形態では、本発明の動物は、炎症モデル動物である。IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された動物として炎症モデルが提供されたものは初めてであり、天然の状態以外でこのようなIKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導されたことにより炎症モデルが提供されたのも初めてである。
1つの実施形態では、本発明のIKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された動物は、polyI:Cによって、IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導されたものである。polyI:Cとしては、(IKAROS遺伝子の発現上昇・増強・誘導剤)に記載される任意の形態が利用され得る。
1つの実施形態では、炎症モデルは、眼表面における炎症を含む。理論に束縛されることは望まないが、本発明で示されたように、polyI:Cを点眼すると眼表面においてIKAROS遺伝子の発現が上昇し、炎症が生じるものと考えられるまた、トランスジェニックマウスは、上皮特異的に発現させることにより皮膚粘膜炎症が生じることも示されている。したがって、理論に束縛されることを望まないが、polyICを他の粘膜または皮膚に適用しても同様に炎症が出るものと理解される。polyICの点眼による炎症は、Tgマウスのものより軽度の可能性があるが、これは、IKAROSの発現量の違いによるものだと考えられる。
別の実施形態では、本発明のIKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された動物は、遺伝子改変によるものである。好ましくは、本発明の遺伝子改変による動物は、ケラチン5のプロモーターに作動可能に連結されて前記IKAROS遺伝子をコードする核酸配列を含むベクターを含む。具体的な実施形態としては、このような遺伝子改変動物(トランスジェニック動物(Tg動物ともいう))は、IKAROSトランスジェニック動物(IKAROS Tgともいう)は、ケラチン5のプロモーターにIKAROS遺伝子を入れたベクターを動物(例えば、マウス)ES細胞に導入して作製することができ、ケラチン5発現細胞特異的なIKAROS過剰発現動物(例えば、マウス)といえる。この動物(例えば、マウス)は、皮膚粘膜に炎症を生じることが見出されており、このような知見は本発明が初めて提供するものである。
1つの好ましい実施形態では、前記炎症モデル動物は、皮膚組織および粘膜組織からなる群より選択される少なくとも1つに細胞浸潤がみられるものである。
本発明の動物は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)があげられ、好ましくはモデル動物、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット等)、霊長類である。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
例えば、本明細書において、当該分野に知られる標準法によって、例えば自動化DNA合成装置(Biosearch、Applied Biosystems等から市販されるものなど)の使用によって、本発明のオリゴヌクレオチドを合成することも可能である。例えば、Steinら(Stein et al.,1988,Nucl.Acids Res.16:3209)の方法によって、ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドを合成することも可能であるし、調節孔ガラスポリマー支持体(Sarin et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7448−7451)等の使用によって、メチルホスホネート・オリゴヌクレオチドを調製することも可能である。
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。該当する場合生物試料等の取り扱いは、厚生労働省、文部科学省等において規定される基準を遵守して行った。
(実施例1:ヒト上皮細胞および表皮細胞におけるIKAROSの発現誘導方法)
本実施例では、ヒト上皮細胞および表皮細胞におけるIKAROSの発現誘導を実証した。以下に実験手法および結果を示す。
(材料および方法)
・培養ヒト結膜上皮細胞
取得方法:手術時に摘出される不要な結膜組織からDsipaseにより結膜上皮層を分離して取得した。
培養方法:分離した結膜上皮層は、0.05% Trypsin-EDTAでバラバラにしたのちに、CnT-20(CELLnTEC社)で培養した。
・培養ヒト表皮細胞
取得方法:Thermoから購入したものを使用した(製品番号C0055C;Human Epidermal Keratinocytes, adult (HEKa))
培養方法:HKGS (GIBCO #S0015)添加のEpiLife(GIBCO)にて培養を行った。
・polyI:C(ポリI:C)(Invivogenから入手した(Poly(I:C) High Molecular Weight Synthetic analog of dsRNA-TLR3 ligand、Catalog # tlrl-pic))。・polyI:C刺激は、最終濃度が表示濃度となるように、ストック溶液を細胞培養液に加えることによって行った。
・mRNAの測定は以下のように行った。手短に述べると、Qiagenから入手したRNeasy Mini Kitと用いて細胞からのRNA抽出を行い、TOYOBOから入手したReverTra Ace, random primer、dNTP、RNase inhibitorを用いてRNAからcDNA転写を行った。このcDNAサンプルを用いた、定量PCRを行った。定量PCRは、Applied BiosystemのStepOne plusを用いて、IKAROSのTaqMan probe (Hs00958474)とTaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mixを用いて行った。
(結果)
結果を図1に示す。図1aに示すように、培養ヒト結膜上皮細胞に10μg/ml polyI:C(ポリI:C)刺激を加えると経時的にIKAROS mRNAが上昇した(グラフ中の数値は以下のとおりである:0時間後 1、1時間後 0.9、3時間後 2.5、6時間後 10.6、10時間後 121.2)。図1bに示すように、培養ヒト結膜上皮細胞において、10μg/ml polyI:C(ポリI:C)刺激10時間後に、IKAROS mRNA発現が数倍以上に上昇した(グラフ中の数値は以下のとおりである:Medium 1, polyIC 8.8)。図1cに示すように、培養ヒト表皮細胞において、10μg/ml polyI:C(ポリI:C)刺激10時間後に、IKAROS mRNA発現が10数倍以上(グラフ中の数値は以下のとおりである:Medium 1, polyIC 11.4)に上昇した。
このように、polyI:C(ポリI:C)刺激により、IKAROSの発現を上昇させることができることが実証された。このように本実施例では、培養ヒト粘膜上皮、培養ヒト表皮においてIKAROSを誘導する方法を見出した。これまで、上皮細胞におけるIKAROSの発現についての報告は皆無であるので、本実施例では、画期的な発見をしたことになる。
(実施例2:IKAROSの強発現による皮膚粘膜炎症)
本実施例では、粘膜上皮および表皮細胞にIKAROSを強発現させると皮膚粘膜炎症を生じることを確認した。また、本発明では、IKAROSトランスジェニックマウスを作製し、皮膚粘膜炎症モデルとして使用できることを実証した。以下に実験手法および結果を示す。
(材料および方法)
(トランスジェニック動物作製)
・トランスジェニックマウスの作製:表皮細胞または粘膜上皮に特異的に発現しているケラチン−5のプロモーターにIKAROSのIk1アイソフォーム(すべてのExon1−7を含むアイソフォーム)をつけた遺伝子をマウス胚に導入し、皮膚粘膜にIKAROSのIk1アイソフォームが強発現するトランスジェニックマウスを作製した。以下に詳述する。
まず、K5−Ikzfl−2A−EGFPトランスジェニックマウス(導入遺伝子:K5−lkzfl−2A−EGFP)を作製した。まず、使用したベクターであるIkzf1遺伝子発現ベクターの構築、およびファウンダーマウス選別のためのPCR条件検討を説明する。
(発現ベクターの構築)
作製した発現ベクター(pK5−Ikzfl−2A−EGFP)の構造および構築手順を、図4に示す。Ikzfl遺伝子のタンパク質コード領域(isoform 1;1545bp)、pocine teschovirus−1 2A(P2A;57bp)、EGFP遺伝子のタンパク質コード領域(720bp)、bGHpolyA signal(bovine growth hormone polyadenylation signal;299bp)を含んだ配列(2663bp)を遺伝子合成により作製した(配列番号5、図5にベクターの模式図を示す)。これを、発明者が作製したpBSK5(human keratin 5 promoter in pBluescript II KS+)のプロモーター下流に位置する、Spe1およびNotI部位に挿入することで、発現ベクター(pK5−lkzfl−2A−EGFP)を作製した(図4)。
作製した発現ベクターの構造を確認するため、制限酵素で消化し、電気泳動パターンを確認した。観察されたDNA切断パターンは、予想されたものと一致した(図5)。さらに、その繋ぎ目部位の塩基配列を決定した(配列番号5)。本発明で使用したpBSK5(human keratin 5 promoter in pBluescriptII KS+)の塩基配列を確認したところ、確認した範囲内で1か所、NCBIのデータベースと相違があった(配列番号5の2763位がTであるが、NCBIデータベースではCであった)。このプラスミドを利用した報告(Tarutani et al.1997,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94 7400−7405)があることから、作製した発現ベクターを、このまま次の工程に使用することとした。
(ファウンダーマウス選別のためのPCR条件検討)
トランスジェニックマウス作製におけるトランスジーン(K5−Ikzfl−2A−EGFP)の導入を確認するためのPCRプライマーを設計し、PCR条件検討を行った。
条件1として、Keratin5プロモーターに結合するK5p−Flプライマーと、bGH polyAの下流に結合するBGH−R3プライマーを設計した(配列番号6および7)。各プライマー配列およびPCR解析条件を図6に示した。条件2として、Keratin5プロモーター上流部位に結合するK5p−F6プライマーと、K5p−R2プライマーを設計した(配列番号8および9)。各プライマー配列およびPCR解析条件を図7に示した。pK5−Jkzfl−2A−EGFP発現ベクターと野生型マウスから精製したゲノムDNAを混合したサンプルを用いて条件設定した結果、1コピーのトランスジーンが挿入された場合にも検出できる感度で、解析条件を設定することができた(図6〜7)。
以上をもって、ベクター(Ikzll遺伝子発現ベクター)が構築され、ファウンダーマウス選別のためのPCR条件検討が確認できた。
(発現ベクターの精製)
受精卵インジェクションに用いる発現カセット(K5−Ikzfl−2A−EGFP)を調製するため、発現ベクター(pK5−lkzfl−2A−EGFP)を制限酔素で消化し、DNA断片を精製した。
(トランスジーンの調製)
発現ベクターを制限酵素SalIおよびNatlで消化した。これにより、プラスミドベクター配列を分離、発現カセット部分(約17.1kbp)を、精製した(図8)。これらの作業により得た直鎖状DNA断片をトランスジーンとし、受精卵インジェクションに必要な量を調製した。
以上から、発現ベクターのトランスジーンとしての精製が完了した。
次に、ベクター導入(DNAインジェクション)を行った。調製したトランスジーン(導入遺伝子:K5−lkzfl−2A−EGFP)を、前核期受精卵にインジエクションし、受容雌マウスに移植した。
(DNAインジェクション)
調製したトランスジーン(4.0〜6.0ng/μl)1〜2 plを、前核期受精卵(BALB/c系統)302個にインジェクションした。トランスジーン注入妊のうち、状態が良好な217個を受容雌マウス9匹に移植した(表1)。
以上から、ベクターがDNAインジェクションによって成功裏に導入されたことが確認される。
(観察)
・作製したトランスジェニックマウスを肉眼にて観察して炎症状態を観察し、適宜写真を撮影した。
(観察結果)
結果を図2に示す。作製されたトランスジェニックマウスを観察したところ、同マウスでは、皮膚粘膜に炎症を自然発症することが肉眼で確認された。具体的には、皮膚粘膜にIKAROSのIK1アイソフォームが強発現するトランスジェニックマウスでは皮膚および眼部において炎症を生じていることが示された。このように、本実施例では、粘膜上皮ならびに表皮細胞にIKAROSを強発現させると皮膚粘膜炎症を生じることが実証された。
(実施例3.polyI:C刺激によって誘導されたIKAROS mRNAを抑制する薬物)
本実施例では、培養ヒト結膜上皮細胞および培養ヒト表皮細胞におけるpolyI:C刺激によって誘導されたIKAROS mRNAの抑制する薬物を探索した。
(材料および方法)
・培養ヒト結膜上皮細胞:実施例1と同様に入手した。
・培養ヒト表皮細胞:実施例1と同様に入手した。
・polyI:C:実施例1と同様に入手した。
・プロスタグランジン(PG)E(PGECayman Chemical #14010)を使用した。)
・実施例1と同様の方法を用いて培養ヒト結膜上皮細胞において、polyI:C誘導性
(10時間刺激)IKAROS mRNA発現上昇を誘導した。そして、polyI:Cのみと、100μg/ml PGEを添加した群とでIKAROSmRNAの発現を比較した。また、培養ヒト表皮細胞においても、polyI:Cのみと、100μg/ml PGEを添加した群とでIKAROSmRNAの発現を比較した。
(結果)
結果を図3に示す。図3に示すように、100μg/ml PGEにより、培養ヒト結膜上皮細胞におけるIKAROS mRNA発現上昇が抑制された(図3a)(グラフ中の数値は以下のとおりである:medium 1、polyI:C 8.8、polyI:C+PGE2 1.9、polyI:C+rebamipide 2.7)。同様に、100μg/ml PGEにより、培養ヒト結膜表皮細胞におけるIKAROS mRNA発現上昇が抑制された(図3b)(グラフ中の数値は以下のとおりである:medium 1、polyI:C 11.4、polyI:C+PGE2 2.7、polyI:C+rebamipide 2.8)。このように、本実施例では、培養ヒト結膜上皮細胞ならびに培養ヒト表皮細胞において、polyI:C刺激によって誘導されたIKAROS mRNAを抑制する薬物があることが実証された。
(実施例4:PCRを用いたIKAROS発現の確認)
本実施例では、生体内の結膜組織においてIKAROSが発現し得るかどうかを確認する実験を行った。
(材料および方法)
手術時に不要になった結膜組織からDispaseを用いて結膜上皮を分離し、QIAGEN
から入手したRNeasy mini kitにてRNA抽出した。またTOYOBOから入手した ReverTra Ace、random primer、dNTP、RNase inhibitorを用いてRNAからcDNA転写を行った。cDNAは、以下の方法および条件にてPCRを実施した。
試薬:TaKaRa Taq CAT#R001B
機器:ABI GeneAmp PCR system9700
・PCR反応液組成
TaKaRaTaq(5units/μl) 0.25μl
10×PCR Buffer 5μl
dNTP Mixture(2.5mM each) 4μl
20μM F-Primer 1.5μl (Final 0.6μM)
20μM R-Primer 1.5μl (Final 0.6μM)
Template 2μl
蒸留水 35.75μl
Total 50μl
・使用したプライマー
GAPDH F 784435 K6148E12(5’- CCATCACCATCTTCCAGGAG-3’;配列番号10)
R 784435 K6148F01(5’- CCTGCTTCACCACCTTCTTG-3’;配列番号11)
(以上の情報は、NM_002046 Homo sapiens glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH), mRNA)から作成し、Fは320−339であり、Rは895−876である。精製物のサイズは575bpである。)
Ikaros F Primer A 768773 K5949A11(GCTGATGAGGGTCAAGACAT;配列番号12)
R Primer C 768773 K5949B01(AGCTTCGGCCACAATATCCA;配列番号13)。
(IKAROSの情報は、FがExon2の情報であり、RはExon6の情報である。これらを使用した場合Ik1は622bpであり、Ik2は361bpの生成物が生じる。)
・PCR条件
95℃ 5min→ 95℃ 30sec →72℃ 7min →10℃∞
57℃ 30sec
72℃ 30sec ×28(GAPDH) or 40(Ikaros) cycle
・電気泳動
1.2%アガロースゲル
Sample 5μ
Marker 100 base ladder。
(結果)
単核球および結膜上皮を用いてIKAROSのRT-PCRを行った結果を図9に示す。示されるように、単核球および結膜上皮のいずれでも、IKAROS mRNA(本実施例のバンドは、IK1およびIK2を示す)の発現が観察された。この結果は、ヒト結膜上皮において、IKAROSが発現しうることを示している。
(実施例5:IKZF1トランスジェニックマウスの組織解析)
本実施例では、実施例2で作製したIKZF1のトランスジェニック(Tg)マウスについてさらに解析を進め、その組織解析を行った。以下のその手順および結果を示す。
(方法)
5週齢の野生型マウス(同じ親から生まれたIKZF1遺伝子が過剰発現していないマウス)1匹、実施例2で作製したIKZF1Tgマウス1匹から各種臓器(皮膚組織(耳介、背部表皮を含む。)、粘膜組織(眼瞼、舌を含む。)を含む。)を摘出し、常法に従いパラフィン包埋後切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)組織を行った後、顕微鏡にて病理学的変化を観察した。以上の実験は、株式会社新薬リサーチセンター 研究本部 非臨床研究部(北海道恵庭市)に委託して行われた。
(結果)
IKZF1Tgマウスの病理組織解析を行ったところ下記所見を認めた(5週齢の野生型マウス1匹、IKZF1Tgマウス1匹のHE組織染色解析結果)。
(1)皮膚組織1(耳介)
IKZF1Tgマウスにおいて軽微な限局性真皮内細胞浸潤を認めた(図10)。
(2)皮膚組織2(背部表皮)
IKZF1Tgマウスにおいて軽微な限局性表皮肥厚ならびに軽微な限局性真皮内細胞浸潤を認めた(図11)。
(3)粘膜組織1(眼瞼)
IKZF1Tgマウスにおいて軽微な限局性眼瞼炎粘膜下細胞浸潤を認めた(図12)。
(4)粘膜組織2(舌)
IKZF1Tgマウスにおいて軽微な限局性糸状乳頭棘細胞層肥厚ならびに軽微な限局性乳頭下細胞浸潤を認めた(図13)。
(結論)
以上から、本実施例で使用されたマウスは、ケラチン5のプロモーターにIKZF1遺伝子を結合させていることから、ケラチン5陽性細胞の特異的にIKZF1を過剰発現させたマウスでは、皮膚粘膜炎症が認められる傾向であったといえる。
(実施例6:ヒト結膜組織におけるIKZF1タンパク質の発現解析)
本実施例では、ヒト結膜組織におけるIKZF1タンパク質の発現解析を行った。以下にその説明を記す。
(方法)
実験用に使用されることに同意してもらったヒト患者から手術時に切除廃棄された眼表面結膜組織を凍結包埋し、切片を作製した。その後、この切片について、HE染色ならびに蛍光免疫染色を行った。蛍光免疫染色では、抗IKZF1抗体としてabcamのGoat polyclonal ab106787を100倍希釈して用い、isotype controlとしてDAKOのGoatIgGを同じ濃度によるように使用した。二次抗体は、Alexa488標識抗Goat IgG抗体を用いた。
(結果)
SJSの結膜組織ならびにコントロール結膜組織(結膜弛緩症)ともに、浸潤細胞に加えて結膜上皮の核が抗IKZF1抗体で染色された。
SJS角膜上瘢痕化結膜組織1(図14)
SJS結膜組織2(図15)
コントロール結膜組織1(図16)
コントロール結膜組織2(図17)
(結論)
ヒトin vivo結膜組織において、ヒト結膜上皮細胞にIKZF1蛋白質の発現が免疫染色にて確認できた。
(実施例7.上皮細胞のIKAROSを標的とした新規抗炎症治療のためのスクリーニング法)
本発明者らは、TLR3が、皮膚炎症ならびに眼表面粘膜炎症を促進することを報告している(Nakamura N, Tamagawa-Mineoka R, Ueta M, Kinoshita S, Katoh N. Toll-Like Receptor 3 Increases Allergic and Irritant Contact Dermatitis. J Invest Dermatol. 2014 Sep 17. doi: 10.1038/jid.2014.402.;およびUeta M, Uematsu S, Akira S, Kinoshita S: Toll-like receptor 3 enhances late-phase reaction of experimental allergic conjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 2009; 123(5): 1187-1189.)。また、上皮細胞においてpolyI:CならびにTLR3によりIFN−beta、TSLP、RANTES、MCP1、IP−1、IL−6、IL−8などの炎症関連物質の発現が上昇することも報告している(Ueta M, Hamuro J, Kiyono H, Kinoshita S: Triggering of TLR3 by polyI:C in human corneal epithelial cells to induce inflammatory cytokines. Biochem Biophys Res Commun. 2005; 331(1): 285-294;Ueta M, Kinoshita S: Innate immunity of the ocular surface. Brain Res Bull. 2010; 81(2-3): 219-228;およびUeta M, Mizushima K, Yokoi N, Naito Y, Kinoshita S: Gene-expression analysis of polyI:C-stimulated primary human conjunctival epithelial cells. Br J Ophthalmol. 2010; 94(11): 1528-1532)。
本発明において、TLR3の刺激により皮膚粘膜上皮細胞にIKAROSの発現が誘導されること、また、IKAROSが上皮細胞に強発現することにより皮膚粘膜炎症が生じることより、上皮細胞で発現上昇したIKAROSが、TLR3によって誘導される皮膚粘膜炎症において重要な役割を担うことが示唆される。以上から、本実施例では、上皮細胞のIKAROSを標的とした新規抗炎症治療に使用し得る薬剤のスクリーニング法を実証することを目的とした実験を行う。
(方法1)
培養上皮細胞を用いたpolyI:C誘導性IKAROS発現の抑制作用を示す薬剤の選択を行う。具体的には、polyI:CでIKAROS発現が誘導されるヒト表皮細胞を用いて、polyI:C誘導性のIKAROS発現を抑制する薬剤の選択を行う。IKAROS発現の抑制作用については、定量PCRで検証する。
(方法2)
上皮特異的IKAROSトランスジェニックマウスを用いて、本マウスの皮膚粘膜炎症を抑制する薬剤を選択する。具体的には、上皮特異的IKAROSトランスジェニックマウスの耳介に、候補薬剤を一定期間塗布し、耳の厚みの減少、ならびに、炎症細胞数を解析し、炎症の抑制作用の有無を検討する。そして、炎症抑制作用のある薬剤を選択する。また、薬剤投与後の耳介におけるIKAROS発現を解析し、IKAROS発現を抑制している薬剤を選択する。
(結果)
方法1〜2のいずれでも、IKAROS発現を調節する薬剤および/または抗炎症剤のスクリーニングすることができることが理解される。
(実施例8:tetOnsystem IKZF1 shRNA発現HaCaT細胞での実験)
本実施例では、tetOnsystem IKZF1 shRNA発現HaCaT細胞を作成し、polyI:CでIKAROSの発現を誘導した状態で、テトラマイシン投与により、IKAROSの発現をノックダウンし、炎症関連物質の変化を解析する。以下にその実験条件を示す。
(材料および方法)
・PolyI:C(ポリリボイノシン酸−ポリリボシチジン酸)
・Knockout Single Vector Inducible RNAi System(Clontech 630933)
・tetOnsystem IKZF1 shRNA発現HaCaT細胞については以下のようにトランスフェクションによる導入により作製する。
すなわち、IKZF1遺伝子にMISSION esiRNA(SIGMA)を用いる。siRNAをLipofectamine RNAiMAX(Life Technologies)を用いてHacaT細胞にトランスフェクションを行う。
・発現の確認については、トランスフェクションした細胞をPolyI:Cで処理し、IKZ1発現を誘導し、PolyI:C処理した細胞より、total RNAを抽出し、qPCRによりIKZF1およびコントロール遺伝子の発現を定量する。
・tetON systemによる誘導型発現ベクターの構築と活性確認は以下のように行う。
・発現ベクター作製は以下のように行う。
IKZF1遺伝子に対する4種類のshRNAを設計し、shRNAをpSingle−rTS−shRNAベクターに組み込むことで作製する。
・発現の確認については、トランスフェクションした細胞をPolyI:Cで処理し、IKZ1発現を誘導し、PolyI:C処理した細胞より、total RNAを抽出し、qPCRによりIKZF1遺伝子発現のノックダウンを一過性発現により検討する。
・IKZF1shRNA発現HaCaT細胞の樹立は以下のようにして行う。
・前工程で得た誘導型shRNA発現ベクターをトランスフェクション用に調製し、HaCaT細胞にトランスフェクションし、限界希釈、薬剤選択培養によりクローンを単離する。
・発現確認については、得られた20クローンについて、PolyI:C処理した細胞におけるIKF1遺伝子の発現をqPCRを用いて検討し、ノックダウンが見られた細胞クローンについて拡大培養および凍結保存を行う。
(結果)
以上から、本実施例の上記実験系により、IKAROS特異的なノックダウンによる炎症抑制機序が明らかとなる。
(実施例9.上皮細胞のIKAROSを標的とした新規抗炎症治療法)
本実施例では、実施例4等の本発明で同定されるようなIKAROS阻害剤を用いて、上皮細胞のIKAROSを標的とした新規抗炎症治療法が実証され得る。以下に炎症効果の確認手法を示す。
(方法1)
培養上皮細胞を用いたpolyI:C誘導性IKAROS発現の抑制作用を示す薬剤の選択を行う。具体的には、polyI:CでIKAROS発現が誘導されるヒト表皮細胞を用いて、polyI:C誘導性のIKAROS発現を抑制する薬剤の選択を行う。IKAROS発現の抑制作用については、定量PCRで検証する。
(方法2)
上皮特異的IKAROSトランスジェニックマウスを用いて、本マウスの皮膚粘膜炎症を抑制する薬剤を選択する。具体的には、上皮特異的IKAROSトランスジェニックマウスの耳介に、候補薬剤を一定期間塗布し、耳の厚みの減少、ならびに、炎症細胞数を解析し、炎症の抑制作用の有無を検討する。
(方法3)急性期Stevens-Johnson症候群の生検時に採取される皮膚組織やアトピー性皮膚炎の生検時に採取される皮膚組織を用いて免疫染色を行い、IKAROSの発現上昇の有無を確認する。
(結果)
方法1〜3のいずれでも、本発明の抗炎症剤の炎症効果を確認することができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明により、これまでの治療剤の標的とは異なる因子であるIKAROSを標的とした、細胞遊走に関連する疾患の予防および/または治療剤が提供される。新たな作用機序を有する治療薬が提供されることにより、既存の治療法では病状回復効果が認められない、または病状回復効果が十分でない細胞遊走に関連する疾患、炎症性疾患、および既存の治療薬を継続使用することで該治療薬について耐性を獲得した炎症性疾患の患者に対してもより良い治療を提供し得る。さらに本発明は、炎症性疾患を未然に防ぐ予防目的、および炎症性疾患が一時寛解した患者が病気の再発を予防する目的にも使用され得る。また、本発明によれば、IKAROSの発現または機能を阻害することで治療または予防作用を発揮する、炎症性疾患の新規予防・治療薬の候補物質をスクリーニングすることが可能である。
配列番号1:IKAROS ヒト核酸配列(NM_001220765.2)
配列番号2:IKAROS ヒトアミノ酸配列(NP_001207694)
配列番号3:IKAROS マウス核酸配列(NM_001025597.2)
配列番号4:IKAROS マウスアミノ酸配列(NP_001020768)
配列番号5:実施例で作製した発現ベクター(pK5−Ikzfl−2A−EGFP)(図5)
配列番号6:K5p−Flプライマー
配列番号7:BGH−R3プライマー
配列番号8:K5p−F6プライマー
配列番号9:K5p−R2プライマー
配列番号10:GAPDH F 784435K6148E12プライマー
配列番号11:GAPDH R 784435K6148F01プライマー
配列番号12:Ikaros F PrimerA 768773 K5949A11プライマー
配列番号13:Ikaros R Primer C 768773 K5949B01プライマー

Claims (11)

  1. PGE2、抗IKAROS siRNA、および抗IKAROS抗体からなる群より選択されるIKAROS(IKZF1)阻害剤を含む、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症薬。
  2. 局所投与剤である、請求項に記載の抗炎症薬。
  3. 以下の(1)〜(3)の工程:
    (1)IKAROS遺伝子もしくは当該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程;
    (2)前記細胞におけるIKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
    (3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROS遺伝子もしくはIKAROSタンパク質またはレポータータンパク質の発現量を低下させた被検物質を、抗炎症性物質の候補として選択する工程
    を含む、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法。
  4. IKAROSと被検物質とを接触させ、IKAROSと結合能を有する被検物質を抗炎症性物質の候補として選択することを特徴とする、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法。
  5. 以下の(1)〜(3)の工程:
    (1)炎症性疾患の標的細胞を、IKAROSの存在下および非存在下で被検物質に接触させる工程;
    (2)各条件下での前記細胞における炎症反応の程度を測定する工程;および
    (3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、IKAROSの存在下で炎症反応を抑制し、IKAROSの非存在下で炎症反応を抑制しなかった被検物質を、IKAROSの機能を阻害して抗炎症作用を示す物質の候補として選択する工程
    を含む、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法。
  6. polyI:C、インターロイキン−Iα(IL−1α)、腫瘍壊死因子(TNF)αまたはH2O2刺激により炎症反応を惹起することを特徴とする、請求項に記載の方法。
  7. 前記細胞が、上皮細胞を含む、請求項3、5または6のいずれか1項に記載の方法。
  8. polyI:Cを炎症反応を惹起する物質として含む、請求項5に記載のスティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法において使用するための組成物。
  9. IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された単離細胞の、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法において使用。
  10. IKAROS遺伝子の発現が上昇または誘導された非ヒト動物の、スティーブンスジョンソン症候群の患者の炎症を治療または予防するための抗炎症性物質のスクリーニング方法において使用するための炎症モデル動物としての使用
  11. 前記炎症モデル動物は、皮膚組織および粘膜組織からなる群より選択される少なくとも1つに細胞浸潤がみられる、請求項10に記載の炎症モデル動物としての使用
JP2015043590A 2014-10-31 2015-03-05 Ikaros阻害に基づく抗炎症薬 Active JP6653120B2 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014223295 2014-10-31
JP2014223295 2014-10-31

Publications (3)

Publication Number Publication Date
JP2016088926A JP2016088926A (ja) 2016-05-23
JP2016088926A5 JP2016088926A5 (ja) 2018-03-22
JP6653120B2 true JP6653120B2 (ja) 2020-02-26

Family

ID=56017549

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2015043590A Active JP6653120B2 (ja) 2014-10-31 2015-03-05 Ikaros阻害に基づく抗炎症薬

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6653120B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN111961702A (zh) * 2020-07-22 2020-11-20 上海珈蓓生物科技有限公司 植提物抗皮肤感染性炎症反应的细胞学评价方法及其应用

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
ATE235550T1 (de) * 1992-09-14 2003-04-15 Gen Hospital Corp Ikaros: ein regulatorisches gen bei der t-zell differenzierung
JPH1029942A (ja) * 1996-04-02 1998-02-03 Yoichi Ichikawa 慢性関節リウマチ治療剤
CA2737219C (en) * 2008-08-11 2017-02-28 Tracy Keller Halofuginone analogs for inhibition of trna synthetases and uses thereof
WO2014004990A2 (en) * 2012-06-29 2014-01-03 Celgene Corporation Methods for determining drug efficacy using cereblon-associated proteins
JP6870988B2 (ja) * 2014-02-24 2021-05-19 セルジーン コーポレイション 神経細胞増幅及び中枢神経系障害治療のためのセレブロンの活性化因子の使用方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2016088926A (ja) 2016-05-23

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5847590B2 (ja) 生体材料およびその使用
JP7175526B2 (ja) 細胞遊走調節に関する疾患の予防・治療剤および肺間質の疾患の疾患活動性判定・予後評価
JP2015173601A (ja) がん幹細胞の増殖抑制物質のスクリーニング方法
WO2006093337A1 (ja) 癌の予防・治療剤
JP5794514B2 (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
JP2011032236A (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
JP2017505763A (ja) 生物学的材料およびその治療用途
EP1923072A1 (en) Prophylactic/therapeutic agent for cancer
JP6653120B2 (ja) Ikaros阻害に基づく抗炎症薬
JP6029019B2 (ja) 細胞接着阻害剤、細胞増殖阻害剤、並びに癌の検査方法および検査用キット
JP6226315B2 (ja) 炎症性疾患の予防・治療剤、並びに炎症性疾患予防・治療薬のスクリーニング方法
WO2009084668A1 (ja) 癌細胞増殖阻害方法、増殖阻害剤及びスクリーニング方法
JP5378202B2 (ja) 脳・神経に特異的あるいは神経分化に特異的なバイオマーカー
JP5669271B2 (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
WO2016031996A1 (ja) 関節炎の予防·治療剤、検査キット、並びに関節炎予防·治療薬のスクリーニング方法
EP2016949A1 (en) Novel use of g-protein-conjugated receptor and ligand thereof
JP2006129724A (ja) ラクリチン活性を有する化合物のスクリーニング方法
WO2011115271A1 (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
JPWO2008102777A1 (ja) インスリン抵抗性改善剤
JP2014014368A (ja) がんに特異的なバイオマーカー
WO2011115268A1 (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
JP5451376B2 (ja) 血球系に特異的あるいは破骨細胞分化に特異的なバイオマーカー
WO2011019065A1 (ja) 腫瘍血管新生阻害剤
JP2011105669A (ja) 抗腫瘍剤および抗腫瘍剤のスクリーニング方法

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20150403

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180205

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20180205

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20181024

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20181211

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190402

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20190529

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20191015

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20191203

A911 Transfer to examiner for re-examination before appeal (zenchi)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A911

Effective date: 20191211

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200106

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200127

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6653120

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R3D04