<本発明に係る車両の制動制御装置の全体構成>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置BCSについて説明する。以下の説明で、同一の記号が付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一の機能を発揮するものである。従って、重複説明は、省略されることがある。
制動制御装置BCSを備える車両には、制動操作部材BP、制動操作量センサBPA、コントローラECU、マスタシリンダMC、ストロークシミュレータSSM、シミュレータ遮断弁VSM、加圧ユニットKAU、切替弁VKR、マスタシリンダ配管HMC、ホイールシリンダ配管HWC、及び、加圧シリンダ配管HKCが備えられる。さらに、車両の各々の車輪WHには、ブレーキキャリパCP、ホイールシリンダWC、回転部材KT、及び、摩擦部材MSが備えられている。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが配置される。そして、ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CPには、ホイールシリンダWCが設けられている。キャリパCPのホイールシリンダWC内の液圧が調整(増加、又は、減少)されることによって、ホイールシリンダWC内のピストンが回転部材KTに対して移動(前進、又は、後退)される。このピストンの移動によって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられ、押圧力が発生する。回転部材KTと車輪WHとは、固定シャフトDSを介して固定されている。このため、上記押圧力にて生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(制動力)が発生される。従って、車輪WHに要求される制動力(要求制動力)は、上記押圧力の目標値に応じて達成される。
制動操作量センサ(単に、操作量センサともいう)BPAは、制動操作部材BPに設けられる。操作量センサBPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量Bpaが検出される。具体的には、操作量センサBPAとして、マスタシリンダMCの圧力を検出する液圧センサ、制動操作部材BPの操作変位を検出する操作変位センサ、及び、制動操作部材BPの操作力を検出する操作力センサのうちの少なくとも1つが採用される。即ち、操作量センサBPAは、マスタシリンダ液圧センサ、操作変位センサ、及び、操作力センサについての総称である。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダMCの液圧、制動操作部材BPの操作変位、及び、制動操作部材BPの操作力のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。操作量Bpaは、コントローラECUに入力される。
コントローラ(電子制御ユニット)ECUは、マイクロプロセッサ等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUは、制動操作量Bpaに基づいて、加圧ユニットKAU、遮断弁VSM、及び、切替弁VKRを制御する。具体的には、プログラムされた制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTR、遮断弁VSM、切替弁VKRを制御するための信号(Sux等)が演算され、コントローラECUから出力される。
コントローラECUは、操作量Bpaが所定値bp0以上になった場合に、遮断弁VSMを開位置にする駆動信号Vsmを出力するとともに、切替弁VKRが加圧シリンダ配管HKCとホイールシリンダ配管HWCとを連通状態にする駆動信号Vkrを、各電磁弁VSM、VKRに出力する。この場合、マスタシリンダMCはシミュレータSSMに連通状態にされ、加圧シリンダKCLはホイールシリンダWCと連通状態にされる。
コントローラECUは、操作量Bpa、回転角Mka、及び、押圧力Fpa(例えば、加圧シリンダKCLの液圧)に基づいて、電気モータMTRを駆動するための駆動信号(Sux等)を演算し、駆動回路DRVに出力する。ここで、制動操作量Bpaは制動操作量センサBPA、実回転角Mkaは回転角センサMKA、実押圧力Fpaは押圧力センサFPAによって検出される。電気モータMTRで駆動される加圧ユニットKAUによって、ホイールシリンダWC内の制動液の圧力が制御(維持、増加、又は、減少)される。
マスタシリンダMCは、制動操作部材BPと、ブレーキロッドBRDを介して、機械的に接続されている。マスタシリンダMCによって、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)が、制動液の圧力に変換される。マスタシリンダMCには、マスタシリンダ配管HMCが接続され、制動操作部材BPが操作されると、制動液は、マスタシリンダMCからマスタシリンダ配管HMCに排出(圧送)される。マスタシリンダ配管HMCは、マスタシリンダMCと切替弁VKRとを接続する流体路である。
ストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMが、制動操作部材BPに操作力を発生させるために設けられる。マスタシリンダMC内の液圧室とシミュレータSSMとの間には、シミュレータ遮断弁(単に、遮断弁ともいう)VSMが設けられる。遮断弁VSMは、開位置と閉位置とを有する2位置の電磁弁である。遮断弁VSMが開位置にある場合には、マスタシリンダMCとシミュレータSSMとは連通状態となり、遮断弁VSMが閉位置にある場合には、マスタシリンダMCとシミュレータSSMとは遮断状態(非連通状態)となる。遮断弁VSMは、コントローラECUからの駆動信号Vsmによって制御される。遮断弁VSMとして、常閉型電磁弁(NC弁)が採用され得る。
シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCから制動液がシミュレータSSMに移動され、流入する制動液によりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
≪加圧ユニットKAU≫
加圧ユニットKAUは、電気モータMTRを動力源として、加圧シリンダ配管HKCに制動液を排出(圧送)する。そして、この圧力によって、加圧ユニットKAUは、摩擦部材MSを回転部材KTに押し付け(押圧)して、車輪WHに制動トルク(制動力)を付与する。換言すれば、加圧ユニットKAUは、回転部材KTに摩擦部材MSを押し付ける力(押圧力)を電気モータMTRによって発生する。
加圧ユニットKAUは、電気モータMTR、駆動回路DRV、動力伝達機構DDK、加圧シャフトKSF、加圧シリンダKCL、加圧ピストンPKC、及び、押圧力センサFPAにて構成される。
電気モータMTRは、加圧シリンダKCLがホイールシリンダWC内の制動液の圧力を調整(加圧、減圧等)するための動力源である。電気モータMTRとして、3相ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRは、U相、V相、W相に夫々対応した、3つのコイルCLU、CLV、CLWを有し、駆動回路DRVによって駆動される。電気モータMTRには、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaを検出する回転角センサMKAが設けられる。回転角Mkaは、コントローラECUに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動するためのスイッチング素子(パワー半導体デバイス)等が実装された電気回路基板である。具体的には、駆動回路DRVには3相ブリッジ回路が形成され、駆動信号(Sux等)に基づいて、電気モータMTRへの通電状態が制御される。駆動回路DRVには、電気モータMTRへの実際の電流Ima(各相の総称)を検出する電流センサ(例えば、電流センサ)IMAが設けられる。各相の電流(検出値)Imaは、コントローラECUに入力される。
動力伝達機構DDKは、電気モータMTRの回転動力を減速し、且つ、直線動力に変換して加圧シャフトKSFに出力する。具体的には、動力伝達機構DDKには、減速機(図示せず)が設けられ、電気モータMTRからの回転動力が減速されてねじ部材(図示せず)に出力される。そして、ねじ部材によって、回転動力が加圧シャフトKSFの直線動力に変換される。即ち、動力伝達機構DDKは、回転・直動変換機構である。
加圧シャフトKSFには加圧ピストンPKCが固定される。加圧ピストンPKCは、加圧シリンダKCLの内孔に挿入され、ピストンとシリンダとの組み合わせが形成されている。具体的には、加圧ピストンPKCの外周には、シール部材(図示せず)が設けられ、加圧シリンダKCLの内孔(内壁)との間で液密性が確保される。即ち、加圧シリンダKCLと加圧ピストンPKCとによって区画され、制動液が充填された加圧室Rkcが形成される。
加圧シリンダKCL内にて、加圧ピストンPKCが中心軸方向に移動されることによって、加圧室Rkcの体積が変化される。この体積変化によって、制動液は、制動配管(流体路)HKC、HWCを介して、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で移動される。加圧シリンダKCLからの制動液の出し入れによって、ホイールシリンダWC内の液圧が調整され、その結果、摩擦部材MSが回転部材KTを押圧する力(押圧力)が調整される。
例えば、押圧力センサFPAとして、加圧室Rkcの液圧Fpaを検出する液圧センサが、加圧ユニットKAU(特に、加圧シリンダKCL)に内蔵される。液圧センサ(押圧力センサに相当)FPAは、加圧シリンダKCLに固定され、加圧ユニットKAUとして一体となって構成される。押圧力の検出値Fpa(即ち、加圧室Rkcの液圧)は、コントローラECUに入力される。以上、加圧ユニットKAUについて説明した。
切替弁VKRによって、「ホイールシリンダWCがマスタシリンダMCと接続される状態」と、「ホイールシリンダWCが加圧シリンダKCLと接続される状態」とが、切り替えられる。切替弁VKRは、コントローラECUからの駆動信号Vkrに基づいて制御される。具体的には、制動操作が行われていない場合(「Bpa<bp0」の場合)には、ホイールシリンダ配管HWCは、切替弁VKRを介して、マスタシリンダ配管HMCと連通状態にされ、加圧シリンダ配管HKCとは非連通(遮断)状態にされる。ここで、ホイールシリンダ配管HWCは、ホイールシリンダWCに接続される流体路である。制動操作が行われると(即ち、「Bpa≧bp0」の状態になると)、切替弁VKRが駆動信号Vkrに基づいて励磁され、ホイールシリンダ配管HWCとマスタシリンダ配管HMCとの連通は遮断され、ホイールシリンダ配管HWCと加圧シリンダ配管HKCとが連通状態にされる。
<コントローラECUにおける処理>
図2の機能ブロック図を参照して、コントローラ(電子制御ユニット)ECUでの処理について説明する。なお、上記の如く、同一記号の構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一の機能を発揮する。
コントローラECUでは、制動操作部材BPの操作量Bpaに基づいて、電気モータMTRの駆動、及び、電磁弁VSM、VKRの励磁が行われる。スイッチング素子SUX、SUZ、SVX、SVZ、SWX、SWZ(単に、「SUX〜SWZ」とも表記)によって、駆動回路DRV(3相ブリッジ回路)が形成される。電気モータMTRの駆動は、駆動回路DRVによって実行される。具体的には、コントローラECUによって、スイッチング素子SUX〜SWZを駆動するための信号Sux、Suz、Svx、Svz、Swx、Swz(単に、「Sux〜Swz」とも表記)が演算される。また、コントローラECUによって、電磁弁VSM、VKRを駆動するための信号Vsm、Vkrが決定される。
コントローラECUは、指示押圧力演算ブロックFPS、車輪スリップ制御ブロックFSC、指示電流演算ブロックIMS、押圧力フィードバック制御ブロックFFB、目標電流演算ブロックIMT、スイッチング制御ブロックSWT、及び、電磁弁制御ブロックSLCにて構成される。
指示押圧力演算ブロックFPSでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CFpsに基づいて、指示押圧力Fpsが演算される。ここで、指示押圧力Fpsは、加圧ユニットKAUによって発生される液圧(押圧力に相当)の目標値である。具体的には、演算特性CFpsにおいて、制動操作量Bpaがゼロ(制動操作が行われていない場合に対応)以上から所定値bp0未満の範囲では指示押圧力Fpsが「0(ゼロ)」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では指示押圧力Fpsが操作量Bpaの増加にしたがって「0」から単調増加するように演算される。ここで、所定値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する値である。
車輪スリップ制御ブロックFSCでは、車輪スリップ制御用の目標値である、調整押圧力Fscが演算される。ここで、「車輪スリップ制御」は、車両の4つの車輪WHのスリップ状態を独立、且つ、別個に制御して、車両の安定性を向上するものである。即ち、車輪スリップ制御は、アンチスキッド制御(Antilock Brake Control)、トラクション制御(Traction Control)、及び、車両安定化制御(Electronic Stability Control)のうちの少なくとも1つである。従って、車輪スリップ制御ブロックFSCでは、アンチスキッド制御、トラクション制御、及び、車両安定化制御のうちの少なくとも1つを実行するための調整押圧力Fscが演算される。
車輪スリップ制御ブロックFSCでは、アンチスキッド制御用の調整押圧力Fscが演算される。具体的には、各車輪WHに設けられる車輪速度センサVWAの取得結果(車輪速度Vwa)に基づいて、車輪ロックを防止するようアンチスキッド制御を実行するための調整押圧力Fscが演算される。例えば、車輪速度Vwaに基づいて、車輪スリップ状態量Slp(車輪の減速スリップの状態を表す制御変数)が演算される。そして、車輪スリップ状態量Slpに基づいて、調整押圧力Fscが決定される。
同様に、車輪スリップ制御ブロックFSCでは、車輪速度センサVWAの取得結果(車輪速度Vwa)に基づいて、車輪スピン(過回転)を抑制するようトラクション制御を実行するために調整押圧力Fscが演算される。具体的には、車輪スリップ状態量Slp(車輪の加速スリップの状態を表す制御変数)に基づいて、調整押圧力Fscが決定される。
さらに、車輪スリップ制御ブロックFSCでは、操舵角センサSAA、及び、車両挙動センサ(ヨーレイトセンサYRA、横加速センサGYA)の取得結果(操舵角Saa、ヨーレイトYra、横加速度Gya)に基づいて、車両の安定性を維持するよう車両安定化制御の実行するための調整押圧力Fscが演算される。具体的には、操舵角Saa、ヨーレイトYra、横加速度Gya、及び、車両速度Vxaに基づいて、車両の過度なアンダステア、及び、オーバステアのうちの少なくとも一方を抑制するよう、調整押圧力Fscが決定される。
指示押圧力演算ブロックFPSからの指示押圧力Fpsと、車輪スリップ制御ブロックFSCからの調整押圧力Fscが、調整演算(加算演算)によって調整され、目標押圧力Fptが演算される。ここで、目標押圧力Fptは、押圧力の最終的な目標値であり、車輪WHに対する要求制動力に対応している。具体的には、指示押圧力Fpsから調整押圧力Fscが加算されて、目標押圧力Fptが決定される。例えば、車輪スリップ制御ブロックFSCにて、アンチスキッド制御が実行される場合には、車輪ロックを回避するよう、指示押圧力Fpsを減少して調整する調整押圧力Fsc(負の値)が演算される。また、車輪スリップ制御ブロックFSCにて、オーバステアを抑制する車両安定化制御が実行される場合には、車両の旋回外側前輪に対応した押圧力が増加するよう、指示押圧力Fpsを増加して調整する調整押圧力Fsc(正の値)が決定される。
指示電流演算ブロックIMSでは、目標押圧力Fpt、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CImsに基づいて、電気モータMTRの指示電流Imsが演算される。ここで、指示電流Imsは、電気モータMTRを制御するための電流の目標値である。演算特性CImsでは、目標押圧力Fptが「0」から増加するに従って、指示電流Imsが「0」から単調増加するように、指示電流Imsが決定される。
押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、押圧力の目標値(例えば、目標液圧)Fpt、及び、押圧力の実際値(液圧検出値)Fpaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償電流Ifpが演算される。指示電流Imsに基づく制御だけでは、押圧力に誤差が発生するため、押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、この誤差を補償することが行われる。押圧力フィードバック制御ブロックFFBは、比較演算、及び、補償電流演算ブロックIFPにて構成される。
比較演算によって、押圧力の目標値Fpt(車輪WHの要求制動力に対応)と、実際値Fpa(実際に発生されている制動力に対応)とが比較される。ここで、押圧力の実際値Fpaは、押圧力センサFPA(例えば、加圧シリンダKCLの液圧を検出する液圧センサ)によって検出される検出値である。比較演算では、目標押圧力(目標値)Fptと、実押圧力(検出値)Fpaとの偏差(押圧力偏差)eFpが演算される。押圧力偏差eFpは、制御変数として、補償電流演算ブロックIFPに入力される。
補償電流演算ブロックIFPには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、押圧力偏差eFpに比例ゲインKpが乗算されて、押圧力偏差eFpの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが微分されて、これに微分ゲインKdが乗算されて、押圧力偏差eFpの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが積分されて、これに積分ゲインKiが乗算されて、押圧力偏差eFpの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、補償電流Ifpが演算される。即ち、補償電流演算ブロックIFPでは、指示押圧力Fpsと実押圧力Fpaとの比較結果(押圧力偏差eFp)に基づいて、実押圧力(検出値)Fpaが目標押圧力(目標値)Fptに一致するよう(即ち、偏差eFpが「0(ゼロ)」に近づくよう)、所謂、押圧力に基づくPID制御が実行される。
目標電流演算ブロックIMTでは、指示電流Ims、補償電流(押圧力フィードバック制御による補償値)Ifp、及び、回転角Mkaに基づいて、電流の最終的な目標値である目標電流(目標電流ベクトル)Imtが演算される。目標電流Imtは、dq軸上のベクトルであり、d軸成分(「d軸目標電流」ともいう)Idtと、q軸成分(「q軸目標電流」ともいう)Iqtとで形成される。目標電流Imtは、目標電流ベクトル(Idt、Iqt)とも表記される。目標電流Imtの演算方法については後述する。
目標電流演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、押圧力の増減方向)に基づいて、目標電流Imtの符号(値の正負)が決定される。また、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、押圧力の増減量)に基づいて、目標電流Imtの大きさが演算される。具体的には、制動圧力を増加する場合には、目標電流Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向に駆動される。一方、制動圧力を減少させる場合には、目標電流Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。さらに、目標電流Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、目標電流Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、目標電流Imt(Idt、Iqt)に基づいて、各スイッチング素子SUX〜SWZについてパルス幅変調を行うための駆動信号Sux〜Swzが演算される。目標電流Imt、及び、回転角Mkaに基づいて、U相、V相、W相の夫々の電圧の目標値Emt(各相の目標電圧Eut、Evt、Ewtの総称)が演算される。各相の目標電圧Emtに基づいて、各相のパルス幅のデューティ比Dtt(各相のデューティ比Dut、Dvt、Dwtの総称)が決定される。ここで、「デューティ比」は、一周期に対するオン時間の割合であり、「100%」がフル通電に相当する。そして、デューティ比(目標値)Dttに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する各スイッチング素子SUX〜SWZをオン状態(通電状態)にするか、或いは、オフ状態(非通電状態)にするかの駆動信号Sux〜Swzが演算される。駆動信号Sux〜Swzは、駆動回路DRVに出力される。
6つの駆動信号Sux〜Swzによって、6つのスイッチング素子SUX〜SWZの通電、又は、非通電の状態が、個別に制御される。ここで、デューティ比Dtt(各相の総称)が大きいほど、各スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がコイルに流される。したがって、電気モータMTRの回転動力が大とされる。
駆動回路DRVでは、各相に電流センサIMA(各相の電流センサIUA、IVA、IWAの総称)が備えられ、実際の電流Ima(各相の実電流Iua、Iva、Iwaの総称)が検出される。各相の検出値Ima(総称)は、スイッチング制御ブロックSWTに入力される。そして、各相の検出値Imaが、目標値Imtと一致するよう、所謂、電流フィードバック制御が実行される。具体的には、各相において、実電流Imaと目標電流Imtとの偏差に基づいて、デューティ比Dtt(各相のデューティ比Dut、Dvt、Dwtの総称)が、個別に修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
電磁弁制御ブロックSLCにて、操作量Bpaに基づいて、電磁弁VSM、VKRを制御するための駆動信号Vsm、Vkrが演算される。操作量Bpaが所定量bp0未満の場合(特に、「Bpa=0」の場合)が、非制動操作時に対応し、シミュレータ遮断弁VSMが開位置にされるよう、駆動信号Vsmが決定される(例えば、遮断弁VSMがNC弁である場合には、駆動信号Vsmは非励磁を指示)。同時に、「Bpa<bp0」の場合には、「マスタシリンダMCとホイールシリンダWCとが連通され、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとが遮断される状態(非励磁状態という)」になるよう、駆動信号Vkrが演算される。
操作量Bpaが増加され、操作量Bpaが所定量bp0以上となった時点以降が、制動操作時に対応し、該時点(制動操作開始時点)で、遮断弁VSMが閉位置から開位置へと変更されるよう、駆動信号Vsmが決定される。遮断弁VSMがNC弁である場合には、制動操作開始時点で、駆動信号Vsmとして、励磁指示が開始される。また、制動操作開始時点にて、「マスタシリンダMCとホイールシリンダWCとが遮断され、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとが連通される状態(励磁状態という)」になるよう、駆動信号Vkrが決定される。
<スイッチング制御ブロックSWTでの処理>
図3の機能ブロック図を参照して、スイッチング制御ブロックSWTでの処理について説明する。スイッチング制御ブロックSWTでは、目標電流Imt、実電流Ima、及び、回転角Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路BRGを構成する、6つのスイッチング素子SUX〜SWZの駆動信号Sux〜Swzが決定される。スイッチング制御ブロックSWTは、第1変換演算ブロックIHA、目標電圧演算ブロックEDQ、第2変換演算ブロックEMT、目標デューティ演算ブロックDTT、及び、駆動信号演算ブロックSDRにて構成される。電気モータMTRは、所謂、ベクトル制御で駆動される。
第1変換演算ブロックIHAにて、実電流Ima、及び、回転角Mkaに基づいて、変換実電流Ihaが演算される。変換実電流Ihaは、実電流Imaが3相−2相変換され、さらに、固定座標から回転座標へ変換されたものである。変換実電流Ihaは、dq軸(ロータ固定座標)におけるベクトルであり、d軸成分(「d軸実電流」ともいう)Ida、及び、q軸成分(「q軸実電流」ともいう)Iqaにて形成される。
先ず、第1変換演算ブロックIHAでは、実電流Imaが、3相−2相変換される。実電流Imaは、ブリッジ回路BRGの各相(U相、V相、W相)の総称であり、具体的には、U相実電流Iua、V相実電流Iva、及び、W相実電流Iwaにて構成される。3つの信号を同時に扱うためには、3次元の空間での計算が必要となる。計算を容易化するため、理想的な3相交流では「Iua+Iva+Iwa=0」が成立することを利用し、3相の実電流Ima(Iua、Iva、Iwa)が、2相の実電流Ina(Iα、Iβ)に変換される。3相から2相への変換は、「クラーク(Clarke)変換、又は、αβ変換」と称呼される。
3相の実電流(検出値)Iua、Iva、Iwaは、クラーク変換によって、2相の実電流Iα、Iβに変換される。即ち、対称3相交流(120度ずつ位相をずらした3相交流)の実電流Iua、Iva、Iwaが、それと等価な2相交流の実電流Iα、Iβに変換される。
さらに、第1変換演算ブロックIHAでは、回転角Mkaに基づいて、固定座標(静止座標)から回転座標への座標変換が行われ、変換実電流Ihaが演算される。変換後の実電流Ihaは、d軸成分(d軸実電流)Ida、及び、q軸成分(q軸実電流)Iqaにて形成される。即ち、クラーク変換された電流値Inaはロータを流れる電流であるため、ロータ固定座標(回転座標であり、dq軸座標)に座標変換される。ここで、固定座標から回転座標への変換が、「パーク(Park)変換」と称呼される。回転角センサMKAからのロータ回転角Mkaに基づいて、固定座標から回転座標(dq軸座標)への変換が実行され、座標変換後の実電流Iha(Ida、Iqa)が決定される。
目標電圧演算ブロックEDQにて、目標電流ベクトルImt(Idt、Iqt)、及び、パーク変換後の実電流Iha(Ida、Iqa)に基づいて、目標電圧ベクトルEdqが演算される。ベクトル制御では、「目標電流のd軸、q軸成分Idt、Iqt」が、「実電流のd軸、q軸成分Ida、Iqa」に一致するように、所謂、電流フィードバック制御が実行される。従って、目標電圧演算ブロックEDQでは、「d軸、q軸目標電流Idt、Iqt」、及び、「d軸、q軸実電流Ida、Iqa」の偏差(電流偏差)に基づいて、PI制御が行われる。PI制御では、P制御(比例制御であり、目標値と実施値との偏差に応じて、該偏差に応じて制御)と、I制御(積分制御であり、該偏差の積分値に応じて制御)とが並列に行われる。
具体的には、目標電圧演算ブロックEDQでは、目標電流Imtと変換実電流Ihaとの偏差に基づいて、該電流偏差が減少するよう(即ち、偏差が「0」に近づくよう)、目標電圧Edqが決定される。目標電圧Edqは、dq軸におけるベクトルであり、d軸成分(「d軸目標電圧」ともいう)Edt、及び、q軸成分(「q軸目標電圧」ともいう)Eqtにて構成されている。
第2変換演算ブロックEMTにて、目標電圧ベクトルEdq、及び、回転角Mkaに基づいて、最終的な目標電圧Emtが演算される。目標電圧Emtは、ブリッジ回路BRGの各相の総称であり、U相目標電圧Eut、V相目標電圧Evt、及び、W相目標電圧Ewtにて構成される。
先ず、第2変換演算ブロックEMTでは、回転角Mkaに基づいて、目標電圧ベクトルEdqが、回転座標から固定座標に逆座標変換されて、2相の目標電圧Eα、Eβが演算される。該変換が、「逆Park(パーク)変換」と称呼される。そして、空間ベクトル変換によって、2相の目標電圧Eα、Eβが、3相の目標電圧Emt(各相の電圧目標値Eut、Evt、Ewt)に逆変換される。
目標デューティ演算ブロックDTTにて、各相の目標電圧Emtに基づいて、各相のデューティ比(目標値)Dttが演算される。デューティ比Dttは、各相の総称であり、U相デューティ比Dut、V相デューティ比Dvt、及び、W相デューティ比Dwtにて構成される。具体的には、演算特性CDttに従って、各相の電圧目標値Emtが「0」から増加するに伴って、デューティ比Dttが「0」から単調増加するように演算される。
駆動信号演算ブロックSDRにて、デューティ比Dttに基づいて、ブリッジ回路BRGの各相を構成する、スイッチング素子SUX〜SWZを駆動するための信号Sux〜Swzが決定される。各駆動信号Sux〜Swzに基づいて、各スイッチング素子SUX〜SWZのオン/オフが切り替えられ、電気モータMTRが駆動される。
<3相ブラシレスモータMTR、及び、駆動回路DRV>
図4の電気回路図を参照して、3相ブラシレスモータMTR、及び、その駆動回路DRVについて説明する。3相ブラシレスモータMTRは、U相コイルCLU、V相コイルCLV、及び、W相コイルCLWの3つのコイル(巻線)を有する。ブラシレスモータMTRでは、回転子(ロータ)側に磁石が、固定子(ステータ)側に巻線回路(コイル)が配置され、回転子の磁極に合わせたタイミングで、駆動回路によって転流が行われ、回転駆動される。
電気モータMTRには、電気モータMTRの回転角(ロータ位置)Mkaを検出する回転角センサMKAが設けられる。回転角センサMKAとして、ホール素子型のものが採用される。また、回転角センサMKAとして、可変リラクタンス型レゾルバが採用され得る。回転角Mkaは、コントローラECUのスイッチング制御ブロックSWTに入力される。
駆動回路DRVは、3相ブリッジ回路(単に、ブリッジ回路ともいう)BRG、及び、安定化回路LPFにて構成される。駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動する電気回路であり、スイッチング制御ブロックSWTによって制御される。
ブリッジ回路BRGは、6つのスイッチング素子(パワートランジスタ)SUX、SUZ、SVX、SVZ、SWX、SWZ(「SUX〜SWZ」とも表記)にて形成される。駆動回路DRV内のスイッチング制御ブロックSWTからの各相の駆動信号Sux、Suz、Svx、Svz、Swx、Swz(「Sux〜Swz」とも表記)に基づいて、ブリッジ回路BRGが駆動され、電気モータMTRの出力が調整される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、目標電流Imtに基づいて、各スイッチング素子についてパルス幅変調を行うための指示値(目標値)が演算される。目標電流Imtの大きさ、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比(一周期に対するオン時間の割合)が決定される。併せて、目標電流Imtの符号(正、又は、負)に基づいて、電気モータMTRの回転方向が決定される。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(バッテリィBATの電圧)、及び、デューティ比Dttによって最終的な出力電圧が決まるため、電気モータMTRの回転方向と出力トルクが決定される。
さらに、スイッチング制御ブロックSWTでは、デューティ比(目標値)Dttに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成する各スイッチング素子をオン状態(通電状態)にするか、或いは、オフ状態(非通電状態)にするかの駆動信号Sux〜Swzが演算される。これらの駆動信号Sux〜Swzによって、スイッチング素子SUX〜SWZの通電、又は、非通電の状態が制御される。具体的には、デューティ比Dttが大きいほど、スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流が電気モータMTRに流され、その出力(回転動力)が大とされる。
3相ブリッジ回路(インバータ回路ともいう)BRGの入力側には、安定化回路LPFを介して、蓄電池BATが接続され、ブリッジ回路BRGの出力側には電気モータMTRが接続されている。ブリッジ回路BRGでは、スイッチング素子を直列接続した上下アーム構成の電圧型ブリッジ回路を1つの相として、3つの相(U相、V相、W相)が形成されている。3つの相の上アームは、蓄電池BATの陽極側に接続された電力線PWLと接続される。また、3つの相の下アームは、蓄電池BATの陰極側に接続された電力線PWLと接続される。ブリッジ回路BRGでは、各相の上下アームは、蓄電池BATと並列に電力線PWLに接続されている。
6つのスイッチング素子SUX〜SWZは、電気回路の一部をオン又はオフできる素子である。例えば、スイッチング素子SUX〜SWZとして、MOS−FET、IGBTが採用される。ブラシレスモータMTRでは、回転角(ロータ位置)の検出値Mkaに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成するスイッチング素子SUX〜SWZが制御される。そして、3つの各相(U相、V相、W相)のコイルCLU、CLV、CLWの電流の方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、電気モータMTRが回転駆動される。即ち、ブラシレスモータMTRの回転方向(正転方向、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。ここで、電気モータMTRの正転方向は、加圧ユニットKAUによる液圧(結果として、押圧力)Fpaの増加に対応する回転方向であり、電気モータMTRの逆転方向は、液圧Fpaの減少に対応する回転方向である。
ブリッジ回路BRGと電気モータMTRとの間の実際の電流Ima(各相の総称)を検出する電流センサIMA(総称)が、3つの各相(U相、V相、W相)に設けられる。具体的には、U相実電流Iuaを検出するU相電流センサIUA、V相実電流Ivaを検出するV相電流センサIVA、及び、W相実電流Iwaを検出するW相電流センサIWAが、各相に設けられる。検出された各相の電流Iua、Iva、Iwaは、スイッチング制御ブロックSWTに、夫々、入力される。
そして、スイッチング制御ブロックSWTにおいて、上述した電流フィードバック制御が実行される。実際の電流Imaと目標電流Imtとの偏差に基づいて、デューティ比Dttが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、実際値Imaと目標値Imtとが一致するように(即ち、電流偏差が「0」に近づくように)制御される。結果、高精度なモータ制御が達成され得る。
駆動回路DRVは、電力源(蓄電池BAT、発電機ALT)から電力の供給を受ける。供給された電力(電圧)の変動を低減するために、駆動回路DRVには、安定化回路LPFが設けられる。安定化回路LPFは、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて構成され、所謂、LC回路である。
<目標電流演算ブロックIMTでの第1処理例>
図5のフロー図、及び、図6の特性図を参照して、目標電流演算ブロックIMTでの第1処理例について説明する。第1処理例では、電圧制限円Cvsの中心Pcn(idc、0)が、電流制限円Cisの外側に位置する場合に対応する。先ず、図5のフロー図を参照して、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合における、処理の流れについて説明する。
ステップS110にて、指示電流Ims、補償電流Ifp、回転角Mka、及び、電流制限円Cisが読み込まれる。ここで、電流制限円Cisは、電気モータMTRのq軸電流とd軸電流との電流特性(dq軸平面)において、スイッチング素子SUX〜SWZ(駆動回路DRVの構成要素)の許容電流(通電し得る最大電流)iqmに基づいて予め設定されている。即ち、電流制限円Cisは、駆動回路DRVの諸元(特に、スイッチング素子SUX〜SWZの電流定格値iqm)から定まる。ここで、所定値iqmが、「q軸最大電流」と称呼される。
ステップS120にて、指示電流Ims、及び、押圧力フィードバック制御に基づく補償電流Ifpに基づいて、押圧力フィードバック制御に基づいて補償された指示電流(補償指示電流)Imrが演算される。具体的には、指示電流Imsに、補償電流Ifpが加算されて、補償指示電流Imrが決定される(Imr=Ims+Ifp)。
ステップS130にて、回転角センサMKAの検出値(回転角)Mkaに基づいて、電気モータMTRの電気角速度ωが演算される。具体的には、回転角(機械角)Mkaが、電気角θに変換され、電気角θが、時間微分されて、電気角速度ωが決定される。ここで、「機械角Mka」は、電気モータMTRの出力軸の回転角度に相当する。また、「電気角θ」は、電気モータMTRにおける磁界の一周期分を2π[rad]として、角度表記したものである。なお、回転角センサMKAによって、電気角θが、直接、検出され得る。
ステップS140にて、電気モータMTRの電気角速度θに基づいて、電圧制限円Cvsが演算される。具体的には、電圧制限円Cvsは、電気モータMTRのdq軸電流特性(Idt−Iqt平面)において、「電源電圧(即ち、蓄電池BAT、発電機ALTの電圧)Eba、相インダクタンス(即ち、コイルCLU、CLV、CLWのインダクタンス)L、及び、鎖交磁束数(即ち、磁石の強さ)φにおける各々の所定値」と、「回転角Mkaから演算される電気モータMTRの電気角速度ω」と、に基づいて演算される。電気モータMTRの回転速度dMkが大きいほど、電圧制限円Cvsの半径は小さくなり、回転速度dMkが小さいほど、電圧制限円Cvsの半径は大きくなる。
ステップS150にて、電流制限円Cis、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、dq軸電流平面上において、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの交差する点Pxa(Idx、Iqx)、Pxb(Idx、−Iqx)が演算される。ここで、値Idx、Iqx(又は、−Iqx)は、交点Pxa、Pxbのdq軸上の座標を表す、変数である。また、交点Pxa(Idx、Iqx)は、電気モータMTRの正転方向に対応し、交点Pxb(Idx、−Iqx)は、逆転方向に対応する。交点Pxa、Pxbは、総称して、「交点Px」ともいう。
電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとが重なる領域が、実際に、電流フィードバック制御によって達成可能な電流の範囲(「通電可能領域」という)である。従って、通電可能領域外の指示が行われても、電流フィードバック制御において、この指示は、実際には達成され得ない。なお、回転速度dMkが小さい場合(例えば、電気モータMTRが停止している場合)には、交点Px(Pxa、Pxbの総称)が存在しない場合がある。
ステップS160にて、「交点Pxa(Idx、Iqx)、Pxb(Idx、−Iqx)が、dq軸電流平面において、第1、第4象限に存在するか、否か」、又は、「電流制限円Cisが電圧制限円Cvsに含まれるか、否か」が判定される。ここで、「第1象限」は、d軸電流、及び、q軸電流が、共に正符号の領域である。また、「第4象限」は、d軸電流が正、且つ、q軸電流が負の領域である。交点Px(Pxa、Pxbの総称)が、第1、第4象限に存在し、ステップS160が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS180に進む。一方、交点Pxが第2、第3象限にあって、ステップS160が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS170に進む。また、電流制限円Cisが電圧制限円Cvsに含まれて、交点Pxが存在しない場合には、ステップS160が肯定され、処理は、ステップS180に進む。
ステップS170にて、補償指示電流Imr、及び、交点Pxaの座標(Idx、Iqx)に基づいて、「補償指示電流Imrが、交点Pxaのq軸座標Iqx(変数)以上であるか、否か」が判定される。「Imr≧Iqx」であり、ステップS170が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS210に進む。一方、「Imr<Iqx」であり、ステップS170が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS215に進む。なお、ステップS170は、電気モータMTRの正転駆動に対応しており、補償指示電流Imrは「0」よりも大きい値である。
ステップS180にて、補償指示電流Imr、及び、電流制限円Cisに基づいて、「補償指示電流Imrが、電流制限円Cisのq軸交点iqm以上であるか、否か」が判定される。「Imr≧iqm」であり、ステップS180が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS230に進む。一方、「Imr<iqm」であり、ステップS180が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS240に進む。
ステップS210では、d軸目標電流Idtが交点d軸座標Idx(変数)に、且つ、q軸目標電流Iqtが交点q軸座標Iqx(変数)に決定される。ステップS215では、補償指示電流Imr、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、電圧制限円d軸座標Ids(変数であり、単に、制限円d軸座標ともいう)が演算される。具体的には、制限円d軸座標Idsは、電圧制限円Cvsと、「Iqt=Imr」との交わる点のd軸座標である。即ち、電圧制限円Cvs上において、q軸目標電流Iqtに補償指示電流Imrが代入された場合のd軸目標電流Idtの値(座標)である(後述する式(2)参照)。そして、ステップS220では、d軸目標電流Idtが電圧制限円d軸座標Idsに、且つ、q軸目標電流Iqtが補償指示電流Imrに一致するように決定される。
ステップS230では、d軸目標電流Idtが「0」に、且つ、q軸目標電流Iqtがq軸最大電流iqm(所定値)に決定される。ステップS240では、d軸目標電流Idtが「0」に、且つ、q軸目標電流Iqtが補償指示電流Imrに一致するように決定される。
≪第1処理例における、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの相互関係≫
次に、図6の特性図を参照して、第1処理例の各ステップでの処理について説明する。上記の様に、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合が想定されている。従って、補償指示電流Imrは、q軸において、正の値として演算される。なお、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、補償指示電流Imrは、q軸において、負の値として決定され、交点Pxaに代えて、交点Pxbに基づいて、目標電流Imtが決定される。
電流制限円Cisは、駆動回路DRV(特に、ブリッジ回路BRG)を構成する、スイッチング素子の最大定格値(定格電流iqm)に基づいて決定される。ここで、最大定格値は、スイッチング素子(パワーMOS−FET等)に流し得る電流、印加可能な電圧、電力損失等の最大許容値として定められている。
具体的には、電流制限円Cisは、dq軸電流特性(Idt−Iqt平面)において、原点O(「Idt=0、Iqt=0」の点)を中心とする円として表現される。さらに、電流制限円Cisの半径は、スイッチング素子SUX〜SWZの許容電流値iqm(所定値)である。即ち、電流制限円Cisは、q軸と点(0、iqm)で交わり、d軸と点(−iqm、0)で交わる。電流制限円Cisは、dq軸電流特性において、式(1)にて決定される。
Idt2+Iqt2=iqm2 …式(1)
さらに、電圧制限円Cvsは、電気モータMTRのdq軸電流特性において、式(2)にて決定される。
{Idt+(φ/L)}2+Iqt2={Eba/(L・ω)}2 …式(2)
ここで、「Eba」は電源電圧(即ち、蓄電池BAT、発電機ALTの電圧)、「L」は相インダクタンス、「φ」は鎖交磁束数(磁石の強さ)である。また、「ω」は、電気モータMTRの電気角速度である。なお、電気角速度ωは、電気モータMTRの電気角θ(電気モータMTRの磁界の一周期分を2π[rad]として表記した角度)の時間変化量であり、回転角Mkaから演算される。
電圧制限円Cvsは、中心Pcn(idc、0)の座標が(−(φ/L)、0)であり、半径が「Eba/(L・ω)」の円として表現される。電源電圧Ebaは所定値(定数)であり、回転速度dMkが大きいほど、「ω」は大となる。このため、回転速度dMkが速いほど、電圧制限円Cvsの半径は小さくなり、回転速度dMkが遅いほど、電圧制限円Cvsの半径が大きくなる。第1処理例では、中心Pcnが電流制限円Cisの外側にあることを想定している。従って、「(φ/L)>iqm」の関係が成立している。
回転速度dMk(即ち、電気角速度ω)が相対的に大きい場合が、電圧制限円Cvs:aにて図示される。この状態では、電流制限円Cisと電圧制限円Cvs:aとの相互関係において、電流制限円Cisと電圧制限円Cvs:aとは、点Pxa:a、Pxb:aにて交差する。この状態では、交点Pxa:aは第2象限にあり、交点Pxb:aは第3象限にあるため、ステップS160の処理は否定される。
次に、ステップS170の処理にて、補償指示電流Imrの値が、q軸目標電流Iqt(q軸成分)として参酌される。例えば、「Imr=iq1(>Iqx)」であり、ステップS170の「Imr≧Iqx」が満足されると、ステップS210にて、「Idt=Idx、Iqt=Iqx」が演算される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:1(原点Oから交点Pxa:aに向かうベクトル)が演算される。
一方、「Imr=iq2(<Iqx)」であり、ステップS170の「Imr≧Iqx」が否定されると、ステップS215にて、電圧制限円Cvs:a上において、「Iqt=iq2」であるときのd軸座標が、電圧制限円d軸座標Ids(変数)として演算される。次に、ステップS220にて、「Idt=Ids、Iqt=Imr(=iq2)」が演算される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:2が演算される。
電気モータMTRへの通電において、電流フィードバック制御において、実際に流し得るdq軸の電流は、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとが重複する領域(網掛けで示す、通電可能領域)である。そして、通電可能領域の境界上にある、交点Pxa:aは、出力(単位時間当たりの仕事量であり、仕事率)が最大となる点である。このため、回転速度dMkが相対的に大きく、且つ、補償指示電流Imrが相対的に大きい場合には、電気モータMTRの出力(仕事率)が最大化されるよう、目標電流Imtとして、ベクトルImt:1が決定される。
回転速度dMkが相対的に小さい場合が、電圧制限円Cvs:bにて図示される。この状態では、電流制限円Cisと電圧制限円Cvs:bとの相互関係において、電流制限円Cisと電圧制限円Cvs:bとは、点Pxa:b、Pxb:bにて交差する。この状態では、交点Pxa:bは第1象限にあり、交点Pxb:bは第4象限にあるため、ステップS160の処理は肯定される。
次に、ステップS180の処理にて、補償指示電流Imrの値が、q軸目標電流Iqt(目標電流Imtのq軸成分)として参酌される。例えば、「Imr=iq3(>iqm)」であり、ステップS180の「Imr≧iqm」が満足されると、ステップS230にて、「Idt=0、Iqt=iqm」が演算される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:3(原点Oから点(0、iqm)に向かうベクトル)が演算される。一方、「Imr=iq1(<iqm)」であり、ステップS180の「Imr≧iqm」が否定されると、ステップS240にて、「Idt=0、Iqt=Imr(=iq1)」が演算される。
回転速度dMkが相対的に小さい場合には、弱め磁束制御は不要であり、「Idt=0」とされる。d軸電流とq軸電流とは、トレードオフ関係にある。このため、d軸目標電流Idtが「0」にされることによって、電気モータMTRへの通電において、トルク方向に作用するq軸目標電流Iqtが最大限に利用され得る。
また、回転速度dMkが相対的に小さい場合には、通電可能領域の境界上にある、点(0、iqm)が出力最大の点になる。このため、補償指示電流Imrが、q軸最大電流iqmを超えて、指示される場合には、補償指示電流Imrは、q軸最大電流iqmに制限される。一方、補償指示電流Imrが、q軸最大電流iqm未満である場合には、補償指示電流Imrの制限は行われず、そのまま、目標電流Imtとされる。
回転速度dMkがさらに小さく、電気モータMTRが略停止している場合が、電圧制限円Cvs:cにて図示される。この状態では、電流制限円Cisは、電圧制限円Cvs:cに包含され、交点Pxは存在しない。従って、ステップS160の処理は肯定される。交点が点Pxa:b、Pxb:bである場合と同様に、ステップS180にて、「Imr≧iqm」か、否かが判定され、判定結果に基づいて、「Idt=0、Iqt=iqm(ステップS230の処理)」、又は、「Idt=0、Iqt=Imr(ステップS240の処理)」が演算される。
<目標電流演算ブロックIMTでの第2処理例>
図7のフロー図、及び、図8の特性図を参照して、目標電流演算ブロックIMTでの第2処理例について説明する。第2処理例においても、第1処理例と同様に、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合について説明する。
第1処理例は、電圧制限円Cvsの中心Pcnが、電流制限円Cisの外側に位置する場合に対応するが、第2処理例は、電圧制限円Cvsの中心Pcm(ide、0)が、電流制限円Cisの内側に位置する場合に対応する。先ず、図7のフロー図を参照して、処理の流れについて説明する。
ステップS310にて、指示電流Ims、補償電流Ifp、回転角Mka、及び、電流制限円Cisが読み込まれる。電流制限円Cisは、駆動回路DRVの諸元に基づいて予め設定されている(式(1)参照)。電流制限円Cisは、電気モータMTRのdq軸電流特性(Idt−Iqt平面)において、スイッチング素子SUX〜SWZの定格電流iqmから定まっている。
ステップS320にて、指示電流Imsに、補償電流(押圧力フィードバック制御に基づく補償電流)Ifpが加算されて、補償指示電流(押圧力フィードバック制御に基づいて補償された後の指示電流)Imrが演算される。ステップS330にて、回転角(機械角)Mkaから電気角θが求められ、これが時間微分されて、電気角速度ωが演算される。ステップS340にて、電気角速度ω、及び、式(2)に基づいて、電圧制限円Cvsが演算される。
ステップS350にて、電流制限円Cis、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、dq軸電流特性において、交点Px(Pxa、Pxbの総称)が演算される。第1処理例で説明した各状態に加え、回転速度dMkが非常に大きい場合には、電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに包含され、交点Pxが存在しない場合がある。
ステップS360にて、「交点Pxa(Idx、Iqx)、Pxb(Idx、−Iqx)が、dq軸電流平面において、第1、第4象限に存在するか、否か」、又は、「電流制限円Cisが電圧制限円Cvsに含まれるか、否か」が判定される。交点Pxが、第1、第4象限に存在し、ステップS360が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS400に進む。一方、交点Pxが第2、第3象限にあって、ステップS360が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS370に進む。また、電流制限円Cisが電圧制限円Cvsに含まれて、交点Pxが存在しない場合には、ステップS360が肯定され、処理は、ステップS400に進む。
ステップS370にて、「電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれるか、否か」、又は、「交点Pxのd軸座標Idxが値ide以下であるか、否か」が判定される。ここで、値ideは、電圧制限円Cvsの中心Pcmのd軸座標であり、「中心d軸座標」と称呼される。中心d軸座標ideは、相インダクタンスLと、鎖交磁束数φとの関係から予め定まった所定値であり、具体的には、「φ/L」に等しい。「電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれる」、又は、「Idx≦iqe」であり、ステップS370が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS390に進む。一方、「電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれていない」、且つ、「Idx>iqe」であり、ステップS370が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS380に進む。
ステップS380にて、補償指示電流Imr、及び、交点Pxa(Idx、Iqx)に基づいて、「補償指示電流Imrが、交点q軸座標Iqx以上であるか、否か」が判定される。「Imr≧Iqx」であり、ステップS380が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS410に進む。一方、「Imr<Iqx」であり、ステップS380が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS415に進む。なお、指示電流Imrは、電気モータMTRが正転方向に駆動されるよう、「0」より大きい値である。
ステップS390にて、補償指示電流Imr、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、「補償指示電流Imrが、電圧制限円Cvsのq軸交点Iqp以上であるか、否か」が判定される。ここで、値Iqpが、「電圧制限円最大値」と称呼される。「Imr≧Iqp」であり、ステップS390が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS430に進む。一方、「Imr<Iqp」であり、ステップS390が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS435に進む。
ステップS400にて、補償指示電流Imr、及び、電流制限円Cisに基づいて、「補償指示電流Imrが、電流制限円Cisのq軸交点iqm以上であるか、否か」が判定される。「Imr≧iqm」であり、ステップS400が肯定される場合(「YES」の場合)には、処理は、ステップS450に進む。一方、「Imr<iqm」であり、ステップS400が否定される場合(「NO」の場合)には、処理は、ステップS460に進む。
ステップS410では、d軸目標電流Idtが交点d軸座標Idx(変数)に、且つ、q軸目標電流Iqtが交点q軸座標Iqx(変数)に決定される。ステップS415では、補償指示電流Imr、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、電圧制限円d軸座標Ids(電圧制限円Cvs上において、「Iqt=Imr」である場合のd軸座標)が演算される。そして、ステップS420では、d軸目標電流Idtが制限円d軸座標Idsに、且つ、q軸目標電流Iqtが補償指示電流Imrに一致するように決定される。
ステップS430では、d軸目標電流Idtが中心d軸座標ide(所定値)に、且つ、q軸目標電流Iqtが電圧制限円最大値Iqp(変数)に決定される。ステップS435では、ステップS415と同様に、補償指示電流Imr、及び、電圧制限円Cvsに基づいて、電圧制限円d軸座標Idsが演算される。そして、ステップS440では、d軸目標電流Idtが制限円d軸座標Idsに、且つ、q軸目標電流Iqtが補償指示電流Imrに一致するように決定される。ステップS450では、d軸目標電流Idtが「0」に、且つ、q軸目標電流Iqtがq軸最大電流iqmに決定される。ステップS460では、d軸目標電流Idtが「0」に、且つ、q軸目標電流Iqtが補償指示電流Imrに一致するように決定される。
≪第2処理例における、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの相互関係≫
次に、図8の特性図を参照して、第2処理例の各ステップでの処理について説明する。第1処理例の説明と同様に、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合が想定され、補償指示電流Imrは、q軸において、正の値として演算される。
電流制限円Cisは、第1処理例と同様に、ブリッジ回路BRGを成すスイッチング素子の定格電流iqmに基づいて決定される。具体的には、電流制限円Cisは、dq軸電流特性において、原点O(0、0)を中心とし、且つ、半径iqmの円として決定されている(式(1)参照)。従って、電流制限円Cisは、q軸と点(0、iqm)にて交差する。
電圧制限円Cvsは、電気モータMTRのdq軸電流特性において、電源電圧Eba、相インダクタンスL、鎖交磁束数φ、及び、電気角速度ωに基づいて決定される(式(2)参照)。電圧制限円Cvsにおける状態変数は、電気角速度ωであり、これは回転角Mkaから演算される。
電圧制限円Cvsは、中心Pcm(ide、0)の座標が(−(φ/L)、0)であり、半径が「Eba/(L・ω)」の円である。回転速度dMkが速いほど、電圧制限円Cvsの半径は小さくなり、回転速度dMkが遅いほど、電圧制限円Cvsの半径が大きくなる。第2処理例では、中心Pcmが電流制限円Cisの内側にあることを想定している。従って、「(φ/L)<iqm」の関係が成立している。
回転速度dMkが非常に大きい場合が、電圧制限円Cvs:dにて図示される。この状態では、電流制限円Cisと電圧制限円Cvs:dとの相互関係において、電圧制限円Cvs:dは、電流制限円Cisに包含され、交点Pxは存在しない。ステップS360の判定が否定され、ステップS370の判定が肯定され、ステップS390の判定処理が実行される。補償指示電流Imrが、電圧制限円最大値Iqp以上である場合には、処理は、ステップS430に進む。ステップS430にて、d軸目標電流Idtが中心d軸座標ideにされ、q軸目標電流Iqtが電圧制限円最大値Iqpに制限される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:4(原点Oから点Rに向けたベクトル)が演算される。
一方、補償指示電流Imrが、電圧制限円最大値Iqp未満である場合(例えば、「Imr=iq4(<Iqp)」の場合)には、処理は、ステップS390からステップS435に進む。ステップS435にて、電圧制限円Cvs:d上において、「Iqt=iq4」であるときのd軸座標が、電圧制限円d軸座標Ids(変数)として演算される(即ち、ステップS215と同様の処理)。そして、ステップS440にて、d軸目標電流Idtが制限円d軸座標Idsにされ、補償指示電流Imrは制限されず、そのまま、q軸目標電流Iqtとして決定される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:5が演算される。
回転速度dMkが、電圧制限円Cvs:dの状態から僅かに小さくなった場合が、電圧制限円Cvs:eにて図示される。この状態では、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの相互関係において、電圧制限円Cvs:eは、電流制限円Cisには包含されず、交点Pxa:e、Pxb:eが存在する。しかし、交点Pxa:eのd軸座標Idxは、中心Pcmのd軸座標ideよりも小さい。この状態では、電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれる場合と同様に、ステップS360の判定が否定され、ステップS370の判定が肯定され、ステップS390の判定処理が実行される。そして、補償指示電流Imrが、電圧制限円最大値Iqp以上である場合には、処理は、ステップS430に進む。ステップS430にて、d軸目標電流Idtが中心d軸座標ideにされ、q軸目標電流Iqtが電圧制限円最大値Iqpに制限される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:6(原点Oから点Sに向けたベクトル)が演算される。なお、電圧制限円最大値Iqpは、交点Pxa:eのq軸座標Iqxよりも大きい(Ipq>Iqx)。従って、交点Pxa:eにて制御されるよりも、点S(ide、Iqp)にて制御される方が、電気モータMTRの出力がより増大される。
一方、補償指示電流Imrが、電圧制限円最大値Iqp未満である場合には、処理は、ステップS390からステップS435に進み、制限円d軸座標Idsが演算される。そして、ステップS440にて、d軸目標電流Idtが制限円d軸座標Idsにされ、補償指示電流Imrは制限されず、そのまま、q軸目標電流Iqtとして決定される。
さらに、回転速度dMkが、電圧制限円Cvs:eの状態から僅かに小さくなった場合が、電圧制限円Cvs:fにて図示される。この状態では、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの相互関係において、電圧制限円Cvs:fは、電流制限円Cisには包含されず、交点Pxa:f、Pxb:fが存在する。交点Pxa:fのd軸座標Idxは、中心Pcmのd軸座標ideよりも大きい。この状態では、ステップS360の判定が否定され、ステップS370の判定が否定され、ステップS380の判定処理が実行される。そして、補償指示電流Imrが、交点q軸座標Iqx以上である場合には、処理は、ステップS410に進む。ステップS410にて、d軸目標電流Idtが交点d軸座標Idxにされ、q軸目標電流Iqtが交点q軸座標Iqxに制限される。即ち、目標電流Imtとして、ベクトルImt:7(原点Oから点Pxa:fに向けたベクトル)が演算される。ステップS410では、ステップS210と同様の処理が成される。
一方、補償指示電流Imrが、交点q軸座標Iqx未満である場合には、処理は、ステップS380からステップS415に進み、制限円d軸座標Idsが演算される。そして、ステップS420にて、d軸目標電流Idtが制限円d軸座標Idsにされ、補償指示電流Imrは制限されず、そのまま、q軸目標電流Iqtとして決定される。ステップS415、S420では、ステップS215、S220と同様の処理が成される。
回転速度dMkが相対的に小さくなった場合が、電圧制限円Cvs:g、及び、電圧制限円Cvs:hにて図示される。電圧制限円Cvs:gは、電圧制限円Cvs:bに対応し、電圧制限円Cvs:hは、電圧制限円Cvs:cに対応している。従って、第1処理例と同様に、これらの状態では、ステップS400の「Imr≧iqm」が満足されると、ステップS450にて、「Idt=0、Iqt=iqm」が演算される。一方、ステップS400の「Imr≧iqm」が否定されると、ステップS460にて、「Idt=0、Iqt=Imr」が演算される。なお、ステップS450がステップS230に相当し、ステップS460がステップS240に相当する。
電気モータMTRへの通電において、電流フィードバック制御によって、実際に流し得るdq軸の電流は、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとが重複する領域(通電可能領域)である。そして、通電可能領域の境界上にある、交点Pxは、出力(単位時間当たりの仕事量)が最大となる点である。このため、第1の処理例と同様に、第2の処理例でも、回転速度dMkが相対的に大きく、且つ、補償指示電流Imrが相対的に大きい場合には、電気モータMTRの出力が最大化されるよう、目標電流Imtとして、ベクトルImt:7が決定される。
回転速度dMkが相対的に小さい場合には、弱め磁束制御は不要であり、「Idt=0」とされる。d軸電流とq軸電流とは、トレードオフ関係にある。このため、d軸目標電流Idtが「0」にされることによって、電気モータMTRへの通電において、トルク方向に作用するq軸目標電流Iqtが最大限に利用され得る。
回転速度dMkが相対的に小さい場合には、通電可能領域の境界上にある、点(0、iqm)が出力最大の点になる。このため、補償指示電流Imrが、q軸最大電流iqmを超えて、指示される場合には、補償指示電流Imrは、q軸最大電流iqmに制限される。一方、補償指示電流Imrが、q軸最大電流iqm未満である場合には、補償指示電流Imrの制限は行われず、そのまま、目標電流Imtとされる。
回転速度dMkが非常に大きく、電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれる場合、又は、電圧制限円Cvsと電流制限円Cisとの交点Pxのd軸座標Idxが、電圧制限円Cvsの中心Pcmのd軸座標ideよりも小さい場合には、「中心Pcmを通り、q軸に平行な直線Lcm(「q軸平行線」という)」と電圧制限円Cvsとの交点R、Sが出力最大の点になる。このような状況では、交点Pxに基づいて目標電流Imtが決定されるのではなく、q軸平行線Lcmと電圧制限円Cvsとの交点(例えば、点R、S)に基づいて目標電流Imtが決定される。結果、電気モータMTRが効率的に駆動され得る。
<作用・効果と、他の実施形態>
本発明に係る車両の制動制御装置BCSについて纏める。目標電流ベクトルImtの決定に際して、d軸、q軸電流特性(Idt−Iqt特性)において、駆動回路DRVの諸元(例えば、スイッチング素子の許容電流)から定められる電流制限円Cisと、回転角Mkaに基づいて決定される電圧制限円Cvsとの相互関係が参酌される。具体的には、dq軸電流特性上に、電圧制限円Cvsが作製され、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとの相互関係に基づいてd軸、q軸目標電流Idt、Iqtが決定される。ここで、電流フィードバック制御によって、電気モータMTRに実際に流せる電流は、相互関係において、電流制限円Cisと電圧制限円Cvsとが重なる範囲(通電可能領域)である。万一、通電可能領域を外れて制御された場合には、電気モータMTRの駆動において非効率的であり、時には、スイッチング素子に過負荷(定格電流を超えた電流)が掛かる場合が生じ得る。
電圧制限円Cvsは、電気角速度ωの影響を受ける。このため、相互関係は、回転速度dMkに応じて変化する。電圧制限円Cvsと電流制限円Cisとが交わる場合には、電圧制限円Cvsと電流制限円Cisとの交点Pxa、Pxb(総称として、交点Px)に基づいてd軸、q軸目標電流Idt、Iqtが演算される(図6、8参照)。これは、交点Pxにて、電気モータMTRの出力(単位時間の仕事量、仕事率)が最大となることに因る。交点Pxによって、目標電流ベクトルImt(Idt、Iqt)が決定されることにより、効率的な電気モータMTRの駆動(高速回転の維持、高トルクの出力)が達成され得る。
回転速度dMkが小であり、電流制限円Cisが電圧制限円Cvsに含まれる場合には、通電可能領域は、電流制限円Cisと一致する。この場合、電流制限円Cisにおいて、q軸電流Iqtが最大となる点(0、iqm)に基づいて、d軸目標電流Idtが「0」にされて、q軸目標電流Iqtが演算される。dq軸電流にはトレードオフ関係が存在するが、これにより、電気モータMTRは、十分なトルクを出力することが可能となる。
さらに、相互関係において、「電圧制限円Cvsが電流制限円Cisに含まれる場合」、又は、「交点Pxのd軸座標Idxが、電圧制限円Cvsの中心Pcmのd軸座標ideよりも負側に存在する場合」には、電圧制限円Cvsにおいてq軸電流Iqtが最大となる頂点R、Sに基づいてd軸、q軸目標電流Idt、Iqtが演算される(図8参照)。これは、頂点R、Sにて、電気モータMTRの出力(単位時間の仕事量)が最大となることに因る。なお、頂点R、Sは、「中心Pcmを通過するq軸に平行な直線Lcm(q軸平行線)」と電圧制限円Cvsとの交点である。
次に、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(効率的な電気モータMTRの駆動、トレードオフの両立)を奏する。
上記実施形態では、式(2)を用いて、電圧制限円Cvsが演算されることが例示された。電圧制限円Cvsの演算において、電気モータMTRに電流が流されることに起因する電圧降下が考慮され得る。電圧降下は、d軸電流においては、「(R・Iqa)/(L・ω)」として考慮され、q軸電流においては、「(R・Ida)/(L・ω)」として考慮される。具体的には、式(3)にて、電圧制限円Cvsが演算される。
{Idt+(φ/L)+(R・Iqa)/(L・ω)}2+{(R・Ida)/(L・ω)−Iqt}2={Eba/(L・ω)}2 …式(3)
ここで、「Eba」は電源電圧(即ち、蓄電池BAT、発電機ALTの電圧)、「L」は相インダクタンス、「φ」は鎖交磁束数(磁石の強さ)、「R」は配線・巻線抵抗である。また、「ω」は、電気モータMTRの電気角速度であり、回転角Mkaに基づいて演算される。さらに、「Ida」はd軸実電流、「Iqa」はq軸実電流であり、電流センサIMAの検出値Imaに基づいて演算される(図3参照)。
式(3)では、d軸、q軸実電流Ida、Iqaに基づいて、電圧降下が考慮された。d軸、q軸実電流Ida、Iqaに代えて、前回の演算周期のd軸、q軸目標電流Idt[n-1]、Iqt[n-1]が採用される。即ち、前回の演算周期のd軸、q軸目標電流Idt[n-1]、Iqt[n-1]に基づいて電圧降下が考慮され、今回の演算周期のd軸、q軸目標電流Idt[n]、Iqt[n]演算され得る。ここで、記号末尾の[n]は今回演算周期を表し、[n-1]は前回演算周期を表す。具体的には、式(4)にて、電圧制限円Cvsが演算される。
{Idt[n]+(φ/L)+(R・Iqt[n-1])/(L・ω)}2+{(R・Idt[n-1])/(L・ω)−Iqt[n]}2={Eba/(L・ω)}2 …式(4)
式(3)、又は、式(4)に示すように、電圧降下が考慮されることにより、より高精度な電気モータMTRの駆動が達成され得る。
上記実施形態では、電気モータMTRの電気角速度ωの演算において、電気モータMTRの回転角Mka(機械角)に基づいて電気角θが演算され、電気角θが時間微分されて、電気角速度ωが演算された。即ち、「Mka→θ→ω」の順にて、電気角速度ωが決定された。これに代えて、回転角Mkaに基づいて回転速度dMkが演算され、回転速度dMkに基づいて演算され電気角速度ωが演算され得る。即ち、「Mka→dMk→ω」の順で、電気角速度ωが決定され得る。しかし、何れの場合であっても、dq軸電流特性における電圧制限円Cvsは、回転角センサMKAによって検出される回転角Mkaに基づいて演算される。
上記実施形態では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示された。この場合、摩擦部材MSはブレーキパッドであり、回転部材KTはブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパCPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材MSはブレーキシューであり、回転部材KTはブレーキドラムである。
上記実施形態では、加圧ユニットKAUによって、1つの車輪WHに制動力が付与されるものが例示された。しかし、加圧ユニットKAUによって、複数の車輪WHの制動力が発生され得る。この場合、流体路HWCに、複数のホイールシリンダWCが接続される。
さらに、加圧シリンダKCLとして、2つの加圧ピストンによって区画された、2つの液圧室を有するものが採用され得る。即ち、加圧シリンダKCLに、タンデム型の構成が採用される。そして、一方の液圧室に、4つの車輪WHのうちの2つのホイールシリンダWCが接続され、他方の液圧室に、4つの車輪WHのうちの残りの2つのホイールシリンダWCが接続される。これにより、加圧シリンダKCLを液圧源とした、所謂、前後型、又は、ダイアゴナル型の流体構成が形成され得る。
上記実施形態では、電気モータMTRの回転動力が、制動液を介して、ホイールシリンダWCの液圧に変換され、車輪WHに制動力が発生される、液圧式の制動制御装置の構成が例示された。これに代えて、制動液が用いられない、電気機械式の制動制御装置が採用され得る。この場合、KAUは、キャリパCPに搭載される。さらに、押圧力センサFPAとして、液圧センサに代えて、推力センサが採用される。例えば、推力センサは、図1の「(FPA)」にて示すように、動力伝達機構DDKと加圧ピストンPKCとの間に設けられ得る。
さらに、前輪用として、制動液を介した液圧式の加圧ユニットが採用され、後輪用として、電気機械式の加圧ユニットが採用された、複合型の構成が形成され得る。