<本発明に係る車両の制動制御装置の全体構成>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置BCSについて説明する。制動制御装置BCSを備える車両には、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、制御手段CTL、マスタシリンダMCL、ストロークシミュレータSSM、シミュレータ遮断弁VSM、モータ制御装置MCS、加圧ユニットKAU、切替弁VKR、マスタシリンダ配管HMC、ホイールシリンダ配管HWC、加圧シリンダ配管HKCが備えられる。さらに、車両の各々の車輪WHには、ブレーキキャリパCRP、ホイールシリンダWC、回転部材KTB、及び、摩擦部材MSBが備えられている。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBが固定される。回転部材KTBを挟み込むようにブレーキキャリパCRPが配置される。そして、ブレーキキャリパCRPには、ホイールシリンダWCが設けられている。ホイールシリンダWC内の制動液の圧力(液圧)が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBに押し付けられる。回転部材KTBと車輪WHとは、固定シャフトDSFを介して固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(制動力)が発生される。
操作量取得手段(操作量センサ)BPAは、制動操作部材BPに設けられる。操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。具体的には、操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出する液圧センサ、制動操作部材BPの操作変位を検出する操作変位センサ、及び、制動操作部材BPの操作力を検出する操作力センサのうちの少なくとも1つが採用される。即ち、操作量取得手段BPAは、マスタシリンダ液圧センサ、操作変位センサ、及び、操作力センサについての総称である。したがって、制動操作量Bpaは、マスタシリンダMCLの液圧、制動操作部材BPの操作変位、及び、制動操作部材BPの操作力のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。操作量Bpaは、制御手段CTLに入力される。
制御手段(コントローラともいう)CTLは、制動操作量Bpaに基づいて、後述する加圧ユニットKAU、遮断弁VSM、及び、切替弁VKRを制御する。具体的には、制御手段CTLのマイクロプロセッサには、電気モータMTR、遮断弁VSM、切替弁VKRを制御するための制御アルゴリズムが、プログラムされていて、これらを制御するための信号が演算される。
制御手段CTLは、操作量Bpaが所定値bp0以上になった場合に、遮断弁VSMを開位置にする駆動信号Vsmを出力するとともに、切替弁VKRが加圧シリンダ配管HKCとホイールシリンダ配管HWCとを連通状態にする駆動信号Vkrを出力する。この場合、マスタシリンダMCLはシミュレータSSMに連通状態にされ、加圧シリンダKCLはホイールシリンダWCと連通状態にされる。したがって、ホイールシリンダWC内の液圧は、加圧ユニットKAUによって制御される。
マスタシリンダMCLは、制動操作部材BPと、ピストンロッドPRDを介して、接続されている。マスタシリンダMCLによって、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)が液圧に変換される。マスタシリンダMCLには、マスタシリンダ配管HMCが接続され、制動操作部材BPが操作されると、制動液は、マスタシリンダMCLからマスタシリンダ配管HMCに排出(圧送)される。マスタシリンダ配管HMCは、マスタシリンダMCLと切替弁VKRとを接続する流体路である。
ストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMが、制動操作部材BPに操作力を発生させるために設けられる。マスタシリンダMCL内の液圧室とシミュレータSSMとの間には、シミュレータ遮断弁(単に、遮断弁ともいう)VSMが設けられる。遮断弁VSMは、開位置と閉位置とを有する2位置の電磁弁である。遮断弁VSMが開位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは連通状態となり、遮断弁VSMが閉位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは遮断状態(非連通状態)となる。遮断弁VSMは、制御手段CTLからの駆動信号Vsmによって制御される。遮断弁VSMとして、常閉型電磁弁(NC弁)が採用され得る。
シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液がシミュレータSSMに移動され、流入する制動液によりピストンが押される。ピストンは、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
≪モータ制御装置MCS≫
モータ制御装置MCSは、加圧ユニットKAUを駆動する。モータ制御装置MCSは、制御手段CTL、駆動回路DRV、及び、電気モータMTRにて構成される。
制御手段(コントローラともいう)CTLは、マイクロプロセッサ等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。制御手段CTLは、操作量Bpa、回転角Mka、及び、検出液圧(実際の吐出液圧)Pcaに基づいて、電気モータMTRを駆動するための駆動信号(Su1等)を駆動回路DRVに出力する。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動するためのスイッチング素子(パワー半導体デバイス)等が実装された電気回路基板である。具体的には、駆動回路DRVにはブリッジ回路BRGが形成され、駆動信号(Su1等)に基づいて、電気モータMTRへの通電状態が制御される。駆動回路DRVには、電気モータMTRへの実際の通電量(各相の通電量)Imaを取得(検出)する通電量取得手段(電流センサ)IMAが設けられる。各相の通電量(検出値)Imaは、制御手段CTLに入力される。
電気モータMTRは、加圧シリンダKCL(加圧ユニットKAUの一部)がホイールシリンダWC内の制動液の圧力を調整(加圧、減圧等)するための動力源である。例えば、電気モータMTRとして、3相ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRは、3つのコイルCLU、CLV、CLWを有し、駆動回路DRVによって駆動される。電気モータMTRには、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaを取得(検出)する回転角取得手段(回転角センサ)MKAが設けられる。回転角Mkaは、制御手段CTLに入力される。以上、モータ制御装置MCSについて説明した。
≪加圧ユニットKAU≫
加圧ユニットKAUは、モータ制御装置MCSを動力源として、加圧シリンダ配管HKCに制動液を排出(圧送)する。そして、圧送された制動液圧によって、加圧ユニットKAUは、車輪WHに制動トルク(制動力)を付与する。加圧ユニットKAUは、動力伝達機構DDK、出力ロッドSRD、加圧シリンダKCL、加圧ピストンPKC、及び、液圧取得手段PCAにて構成される。
動力伝達機構DDKは、電気モータMTRの回転動力を減速し、且つ、直線動力に変換して出力ロッドSRDに出力する。具体的には、動力伝達機構DDKには、減速機(図示せず)が設けられ、電気モータMTRからの回転動力が減速されてねじ部材(図示せず)に出力される。そして、ねじ部材によって、回転動力が出力ロッドSRDの直線動力に変換される。即ち、動力伝達機構DDKは、回転・直動変換機構である。
出力ロッドSRDには加圧ピストンPKCが固定される。加圧ピストンPKCは、加圧シリンダKCLの内孔に挿入され、ピストンとシリンダとの組み合わせが形成されている。具体的には、加圧ピストンPKCの外周には、シール部材(図示せず)が設けられ、加圧シリンダKCLの内孔(内壁)との間で液密性が確保される。即ち、加圧シリンダKCLと加圧ピストンPKCとによって区画される流体室Rkc(「加圧室Rkc」と称呼する)が形成される。
管継手JNTによって、加圧ユニットKAUの加圧室Rkcは、加圧シリンダ配管HKCに接続されている。管継手JNTとして、フレア式管継手が採用される。フレア式管継手JNTでは、加圧シリンダ配管HKC(パイプ)の端部が、円錐状に広げられように加工(フレア加工)され、フレアナットによって加圧ユニットKAU(特に、加圧シリンダKCL)に固定されて、接続される。
加圧シリンダKCL内にて、加圧ピストンPKCが中心軸方向に移動されることによって、加圧室Rkcの体積が変化される。この体積変化によって、制動液は、制動配管(パイプ)HKC、HWCを介して、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で移動される。加圧シリンダKCLからの制動液の出し入れによって、ホイールシリンダWC内の液圧が調整される。
液圧取得手段(液圧センサ)PCAが、加圧室Rkcの液圧Pcaを取得(検出)するために、加圧ユニットKAU(特に、加圧シリンダKCL)に内蔵される。液圧センサPCAは、管継手JNTに対して、ホイールシリンダWCとは反対側にある加圧シリンダKCLに固定され、加圧ユニットKAUとして一体となって構成される。即ち、液圧センサPCAは、管継手JNTに対して反対側に設けられた、加圧室Rckが吐出する制動液圧(検出液圧)Pcaを、直接検出する。吐出液圧(検出値)Pcaは、制御手段CTLに入力される。以上、加圧ユニットKAUについて説明した。
切替弁VKRによって、ホイールシリンダWCがマスタシリンダMCLと接続される状態と、ホイールシリンダWCが加圧シリンダKCLと接続される状態と、が切り替えられる。切替弁VKRは、制御手段CTLからの駆動信号Vkrに基づいて制御される。具体的には、制動操作が行われていない場合(Bpa<bp0)には、ホイールシリンダ配管HWCは、切替弁VKRを介して、マスタシリンダ配管HMCと連通状態にされ、加圧シリンダ配管HKCとは非連通(遮断)状態にされる。ここで、ホイールシリンダ配管HWCは、ホイールシリンダWCに接続される流体路である。制動操作が行われると(即ち、Bpa≧bp0の状態になると)、切替弁VKRが駆動信号Vkrに基づいて励磁され、ホイールシリンダ配管HWCとマスタシリンダ配管HMCとの連通は遮断され、ホイールシリンダ配管HWCと加圧シリンダ配管HKCとが連通状態にされる。
ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CRPは、車輪WHに設けられ、車輪WHに制動トルクを与え、制動力を発生させる。キャリパCRPとして、浮動型キャリパが採用され得る。キャリパCRPは、2つの摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCRP内にて、ホイールシリンダWCが設けられる。ホイールシリンダWC内の液圧が調整されることによって、ホイールシリンダWC内のピストンが回転部材KTBに対して移動(前進、又は、後退)される。このピストンの移動によって、摩擦部材MSBが回転部材KTBに押し付けられて摩擦力が発生する。
図1では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示されている。この場合、摩擦部材MSBはブレーキパッドであり、回転部材KTBはブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパCRPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材MSBはブレーキシューであり、回転部材KTBはブレーキドラムである。
<制御手段CTLにおける処理の第1実施形態>
図2の機能ブロック図を参照して、制御手段CTLでの処理の第1の実施形態について説明する。ここでは、電気モータMTRとして、ブラシレスモータが採用される例について説明する。
制御手段(コントローラともいう)CTLによって、後述する駆動回路DRVのスイッチング素子SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(単に、「SU1〜SW2」とも表記)を駆動するための信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(単に、「Su1〜Sw2」とも表記)が演算される。制御手段CTLは、指示液圧演算ブロックPCS、指示通電量演算ブロックIMS、液圧フィードバック制御ブロックPFB、指示回転角演算ブロックMKS、回転角フィードバック制御ブロックMFB、操作速度演算ブロックDBP、合成フィードバック通電量演算ブロックIFG、目標通電量演算ブロックIMT、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
指示液圧演算ブロックPCSでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CPcsに基づいて、指示液圧Pcsが演算される。ここで、指示液圧Pcsは、加圧ユニットKAUによって発生される制動液圧の目標値である。具体的には、指示液圧Pcs用の演算特性CPcsにおいて、制動操作量Bpaがゼロ(制動操作が行われていない場合に対応)以上から所定値bp0未満の範囲では指示液圧Pcsが「0(ゼロ)」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では指示液圧Pcsが操作量Bpaの増加にしたがってゼロから単調増加するように演算される。ここで、所定値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する値である。
指示通電量演算ブロックIMSでは、指示液圧Pcs、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CIsa、CIsbに基づいて、加圧ユニットKAUを駆動する電気モータMTRの指示通電量Ims(電気モータMTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。指示通電量Ims用の演算マップは、動力伝達機構DDK等によるヒステリシスの影響を考慮して、2つの特性CIsa、CIsbで構成されている。
ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(状態変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(一周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
≪液圧フィードバック制御ブロックPFB≫
液圧フィードバック制御ブロックPFBでは、液圧の目標値(指示液圧)Pcs、及び、液圧の実際値(検出値)Pcaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRのフィードバック通電量Ipfが演算される。指示通電量Imsに基づく制御だけでは、液圧誤差が発生するため、液圧フィードバック制御ブロックPFBでは、この誤差を補償することが行われる。液圧フィードバック制御ブロックPFBは、比較演算、及び、液圧フィードバック通電量演算ブロックIPFにて構成される。
比較演算によって、液圧の目標値(指示液圧)Pcsと実際値(検出値)Pcaとが比較される。ここで、液圧の実際値Pcaは、液圧センサPCAによって取得(検出)される液圧の検出値(吐出液圧)である。例えば、比較演算では、指示液圧(目標値)Pcsと、吐出液圧(検出値)Pcaとの偏差(液圧偏差)ePcが演算される。液圧偏差ePc(制御変数)は、液圧フィードバック通電量演算ブロックIPFに入力される。
液圧フィードバック通電量演算ブロックIPFには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、液圧偏差ePcに比例ゲインKppが乗算されて、液圧偏差ePcの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、液圧偏差ePcが微分されて、これに微分ゲインKpdが乗算されて、液圧偏差ePcの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、液圧偏差ePcが積分されて、これに積分ゲインKpiが乗算されて、液圧偏差ePcの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、液圧フィードバック通電量Ipfが演算される。即ち、液圧フィードバック通電量演算ブロックIPFでは、指示液圧Pcsと吐出液圧Pcaとの比較結果に基づいて、吐出液圧(検出値)Pcaが液圧の指示液圧(目標値)Pcsに一致するよう(即ち、偏差ePcが「0(ゼロ)」に近づくよう)、所謂、液圧に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。以上、液圧フィードバック制御ブロックPFBについて説明した。
指示回転角演算ブロックMKSでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CMksに基づいて、指示回転角Mksが演算される。ここで、指示回転角Mksは、電気モータMTRの回転角の目標値である。具体的には、指示回転角Mks用の演算特性CMksにしたがって、操作量Bpaの増加にともなって「0(ゼロ)」から、「上に凸」の特性で単調増加するように演算される。指示回転角Mksは、加圧ユニットKAUにおいて、指示液圧Pcsに相当する値として演算される。したがって、指示回転角Mks用の演算特性CMksは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて設定されている。なお、指示回転角Mksは、指示液圧Pcsに相関する値であるため、操作量Bpaに代えて、指示液圧Pcsに基づいて演算され得る。
≪回転角フィードバック制御ブロックMFB≫
回転角フィードバック制御ブロックMFBでは、回転角の目標値(指示回転角)Mks、及び、回転角の実際値(検出値)Mkaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRのフィードバック通電量Imfが演算される。制動液圧とモータ回転角とは、キャリパCRP等の剛性、加圧シリンダKCL等の諸元を介して相関関係があるため、回転角フィードバック制御ブロックMFBは、液圧フィードバック制御を補完するものである。即ち、回転角フィードバック制御ブロックMFBは、液圧フィードバック制御ブロックPFBと同様の構成を備える。回転角フィードバック制御ブロックMFBは、比較演算、及び、回転角フィードバック通電量演算ブロックIMFにて構成される。
比較演算によって、電気モータMTRの回転角の目標値(指示回転角)Mksと実際値(検出値)Mkaとが比較される。ここで、回転角の実際値Mkaは、回転角センサMKAによって取得(検出)される回転角の検出値(実際の回転角)である。例えば、比較演算では、指示回転角(目標値)Mksと、実際の回転角(検出値)Mkaとの偏差(回転角偏差)eMkが演算される。回転角偏差eMk(制御変数)は、回転角フィードバック通電量演算ブロックIMFに入力される。
回転角フィードバック通電量演算ブロックIMFには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、回転角偏差eMkに比例ゲインKmpが乗算されて、回転角偏差eMkの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが微分されて、これに微分ゲインKmdが乗算されて、回転角偏差eMkの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが積分されて、これに積分ゲインKmiが乗算されて、回転角偏差eMkの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、回転角フィードバック通電量Imfが演算される。即ち、回転角フィードバック通電量演算ブロックIMFでは、指示回転角Mksと実際の回転角Mkaとの比較結果に基づいて、実際の回転角(検出値)Mkaが指示回転角(目標値)Mksに一致するよう(即ち、偏差eMkが「0(ゼロ)」に収束するよう)、所謂、回転角に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。以上、回転角フィードバック制御ブロックMFBについて説明した。
操作速度演算ブロックDBPでは、制動操作量Bpaに基づいて、制動操作部材BPの操作速度dBpが演算される。操作速度dBpは、制動操作量Bpaの時間に対する変化量であり、操作量Bpaが時間微分されて演算される。
≪合成フィードバック通電量演算ブロックIFG≫
合成フィードバック通電量演算ブロックIFGでは、液圧フィードバック通電量Ipfと回転角フィードバック通電量Imfとが合成されて、最終的なフィードバック通電量である、合成フィードバック通電量Ifgが演算される。上述したように、液圧フィードバック通電量Ipfと、回転角フィードバック通電量Imfとは、夫々が対応するものであるため、液圧フィードバック通電量Ipfが液圧係数Kpcによって調整され、回転角フィードバック通電量Imfが回転角係数Kmkによって調整され、最終的に、合成フィードバック通電量Ifgが演算される。
先ず、合成フィードバック通電量演算ブロックIFGでは、操作速度dBp、及び、液圧係数の演算特性(演算マップ)CKpcに基づいて、液圧フィードバック通電量Ipfを修正するための係数Kpcが演算される。具体的には、操作速度dBpが、「0(ゼロ)」以上、下方値dbs未満の範囲(「0≦dBp<dbs」の条件)では、液圧係数Kpcは「1」に演算される。操作速度dBpが、下方値dbs以上、上方値dbu未満の範囲(「dbs≦dBp<dbu」の条件)では、操作速度dBpの増加にしたがって、液圧係数Kpcは「1」から「0」に単調減少するように演算される。そして、操作速度dBpが、上方値dbu以上の場合(「dBp≧dbu」の条件)には、液圧係数Kpcは「0(ゼロ)」に演算される。ここで、下方値dbs、及び、上方値dbuは、予め設定された所定値(判定用のしきい値)であり、上方値dbuは下方値dbs以上の値である。換言すれば、下方値dbsは上方値dbu以下の値である。例えば、液圧フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御禁止から制御実行への遷移)のため、上方値dbuは、下方値dbsよりも所定値db0だけ大きい値として設定され得る。なお、上方値dbuは、制動配管内における、制動液の質量、及び、流体抵抗に基づいて予測された、フィードバック制御によって液圧変動の発生の蓋然性が高くなる領域を示す値である。
同様に、合成フィードバック通電量演算ブロックIFGでは、操作速度dBp、及び、回転角係数の演算特性(演算マップ)CKmkに基づいて、回転角フィードバック通電量Imfを修正するための係数Kmkが演算される。具体的には、操作速度dBpが、「0(ゼロ)」以上、下方値dbs未満の範囲(「0≦dBp<dbs」の条件)では、回転角係数Kmkは「0(ゼロ)」に演算される。操作速度dBpが、下方値dbs以上、上方値dbu未満の範囲(「dbs≦dBp<dbu」の条件)では、操作速度dBpの増加にしたがって、回転角係数Kmkは「0」から「1」に単調増加するように演算される。そして、操作速度dBpが、上方値dbu以上の場合(「dBp≧dbu」の条件)には、回転角係数Kmkは「1」に演算される。上記同様、下方値dbs、及び、上方値dbuは、予め設定された所定値(判定用のしきい値)であり、上方値dbuは下方値dbs以上の値である(下方値dbsは上方値dbu以下の値である)。例えば、回転角フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御実行から制御禁止への遷移)のため、上方値dbuは、下方値dbsよりも所定値db0だけ大きい値として設定され得る。ここで、液圧係数Kpcと回転角係数Kmkとの関係は、合計すると「1」にされる(Kpc+Kmk=1)。
そして、合成フィードバック通電量演算ブロックIFGでは、液圧係数Kpc、及び、回転角係数Kmkに基づいて、液圧フィードバック通電量Ipfと回転角フィードバック通電量Imfとが合成されて、合成フィードバック通電量Ifgが演算される。即ち、合成フィードバック通電量の演算では、液圧係数Kpcによって、液圧フィードバック通電量Ipfの影響度(寄与度ともいう)が考慮され、回転角係数Kmkによって、回転角フィードバック通電量Imfの影響度が勘案される。具体的には、「液圧フィードバック通電量Ipfに液圧係数(液圧影響度)Kpcが乗算されたもの」と、「回転角フィードバック通電量Imfに回転角係数(回転角影響度)Kmkが乗算されたもの」とが足し合わされて、合成フィードバック通電量Ifgが演算される(Ifg=(Kpc×Ipf)+(Kmk×Imf))。例えば、「Kpc=0.3、Kmk=0.7」である場合、合成フィードバック通電量Ifgにおいて、液圧フィードバック通電量Ipfの影響度は30%であり、回転角フィードバック通電量Imfの影響度は70%である。
操作速度dBpが小さく、「0≦dBp<dbs」である場合には、「Kpc=1、Kmk=0(液圧フィードバック通電量Ipfの寄与度が100%)」に演算されるため、合成フィードバック通電量Ifgの演算には、回転角フィードバック通電量Imfが採用されず、液圧フィードバック通電量Ipfのみが採用される。フィードバック制御において、回転角Mkaの寄与度はゼロにされ、吐出液圧Pcaの寄与度が全てとされる。即ち、回転角フィードバック制御は禁止され、液圧フィードバック制御のみが実行される。
操作速度dBpが相対的に大きくなり、「dbs≦dBp<dbu」である場合には、操作速度dBpの増加にしたがって、液圧係数Kpcは「1」から減少され、回転角係数Kmkは「0」から増加されて演算される。このため、合成フィードバック通電量Ifgは、係数Kpc、Kmkによって、回転角フィードバック通電量Imf(即ち、回転角Mka)、液圧フィードバック通電量Ipf(即ち、吐出液圧Pca)の影響度が夫々加味されて演算される。即ち、液圧フィードバック制御、回転角フィードバック制御の両者が実行される。
操作速度dBpが極めて大きく、「dBp≧dbu」である場合には、「Kpc=0、Kmk=1(回転角フィードバック通電量Imfの寄与度が100%)」に演算されるため、合成フィードバック通電量Ifgの演算には、液圧フィードバック通電量Ipfが採用されず、回転角フィードバック通電量Imfのみが採用される。フィードバック制御において、吐出液圧Pcaの寄与度はゼロにされ、回転角Mkaの寄与度が全てとされる。即ち、液圧フィードバック制御は禁止され、回転角フィードバック制御のみが実行される。
このように、2つのフィードバック制御ループが、操作速度dBpに基づいて調整されるため、操作速度dBpが遅い通常の制動操作時には、制動液圧に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、制動液圧の精度が確保される。一方、操作速度dBpが過大となる急激な制動操作時には、回転角に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、フィードバック制御に吐出液圧Pcaが採用されない。したがって、加圧ユニットKAUに液圧センサPCAが内蔵されることによって生じる吐出液圧変動(図6を参照)が抑制され得る。また、操作速度dBpが変化する場合には、操作速度dBpの変化にともなって、係数Kpc、Kmkは徐々に変更されるため、2つのフィードバック制御の相互遷移が円滑化され得る。以上、合成フィードバック通電量演算ブロックIFGについて説明した。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Ims、及び、合成フィードバック通電量(補償値)Ifgに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Imsに対して、合成フィードバック通電量Ifgが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Ifg)。
目標通電量演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、液圧の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定される。また、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、液圧の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動液圧を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向に駆動される。一方、制動液圧を減少させる場合には、目標通電量Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子SU1〜SW2についてパルス幅変調を行うための駆動信号Su1〜Sw2が演算される。電気モータMTRがブラシレスモータである場合、目標通電量Imt、及び、回転角Mkaに基づいて、各相(U相、V相、W相)の通電量の目標値Iut、Ivt、Iwtが演算される。各相の目標通電量Iut、Ivt、Iwtに基づいて、各相のパルス幅のデューティ比(一周期に対するオン時間の割合)Dut、Dvt、Dwtが決定される。そして、デューティ比(目標値)Dut、Dvt、Dwtに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成する各スイッチング素子SU1〜SW2をオン状態(通電状態)にするか、或いは、オフ状態(非通電状態)にするかの駆動信号Su1〜Sw2が演算される。駆動信号Su1〜Sw2は、駆動回路DRVに出力される。
6つの駆動信号Su1〜Sw2によって、6つのスイッチング素子SU1〜SW2の通電、又は、非通電の状態が、個別に制御される。ここで、デューティ比が大きいほど、各スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がコイルに流される。したがって、電気モータMTRの回転動力が大とされる。
駆動回路DRVには、各相に通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられ、実際の通電量(各相の総称)Imaが取得(検出)される。各相の検出値(例えば、実際の電流値)Imaは、スイッチング制御ブロックSWTに入力される。そして、各相の検出値Imaが、目標値Iut、Ivt、Iwtと一致するよう、所謂、電流フィードバック制御が実行される。具体的には、実際の各通電量Imaと目標通電量Iut、Ivt、Iwtとの偏差に基づいて、デューティ比Dut、Dvt、Dwtが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
<制御手段CTLにおける処理の第2実施形態>
図3の機能ブロック図を参照して、制御手段CTLでの処理の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、液圧に基づくフィードバックループと、回転角に基づくフィードバックループとの2つが採用され、夫々の影響度(寄与度)が、係数Kpc、Kmkによって調整された。第2の実施形態では、制動液圧とモータ回転角とは相関関係があるため、回転角Mkaに基づいて推定液圧Pmkを演算し、液圧に基づくフィードバック制御が行われる。換言すれば、物理量として制動液圧が採用され、液圧の次元において、フィードバック制御が実行される。なお、同一の符号が付されたものは、同一機能を有するため、説明は省略される。
制御手段CTLは、指示液圧演算ブロックPCS、指示通電量演算ブロックIMS、推定液圧演算ブロックPMK、合成液圧演算ブロックPCG、液圧フィードバック制御ブロックPFB、操作速度演算ブロックDBP、目標通電量演算ブロックIMT、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。ここで、指示液圧演算ブロックPCS、指示通電量演算ブロックIMS、操作速度演算ブロックDBP、及び、スイッチング制御ブロックSWTは、第1の実施形態と同じであるため、説明は省略される。
推定液圧演算ブロックPMKでは、回転角Mka、及び、演算特性(演算マップ)CPmkに基づいて、推定液圧Pmkが演算される。ここで、推定液圧Pmkは、電気モータMTRの回転角Mkaに基づいて演算される、制動液圧の推定値である。具体的には、演算特性CPmkにしたがって、検出された回転角Mkaの増加にともなって「0(ゼロ)」から、「下に凸」の特性で単調増加するように演算される。推定値Pmkは、加圧ユニットKAUにおいて、実際値Pcaに相当する値として演算される。指示回転角Mksの演算特性CMksと同様に、推定液圧Pmkの演算特性CPmkは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて設定されている。
≪合成液圧演算ブロックPCG≫
合成液圧演算ブロックPCGでは、操作速度dBpに基づいて、吐出液圧Pcaと推定液圧Pmkとが合成されて、合成液圧Pcgが演算される。第1の実施形態では、フィードバック通電量の段階で合成演算(吐出液圧Pcaと回転角Mkaとの影響度合いを考慮した演算)が行われるが、第2の実施形態では、制動液圧の段階で合成演算が行われる。具体的には、合成フィードバック通電量演算ブロックIFGにおける、液圧係数Kpc用の演算マップCKpc、及び、回転角係数Kmk用の演算マップCKmkと同一の特性に基づいて、液圧係数Kpc、及び、回転角係数Kmkが演算される。
簡潔に説明すると、「0≦dBp<dbs」である場合には、「Kpc=1、Kmk=0」に演算される。「dbs≦dBp<dbu」である場合には、操作速度dBpの増加にしたがって、液圧係数Kpcは「1」から減少され、回転角係数Kmkは「0」から増加されて演算される。また、「dBp≧dbu」である場合には、「Kpc=0、Kmk=1」に演算される。ここで、「Kpc+Kmk=1」の関係をもつ。
そして、合成液圧演算ブロックPCGでは、液圧係数Kpc、及び、回転角係数Kmkに基づいて、吐出液圧Pcaと推定液圧Pmkとが合成されて、合成液圧Pcgが演算される。即ち、係数Kpc、Kmkによって、吐出液圧Pca、及び、推定液圧Pmkの影響度(寄与度)が勘案される。具体的には、「吐出液圧Pcaに液圧係数(液圧影響度)Kpcが乗算されたもの」と、「推定液圧Pmkに回転角係数(回転角影響度)Kmkが乗算されたもの」とが足し合わされて、合成液圧Pcgが演算される(Pcg=(Kpc×Pca)+(Kmk×Pmk))。例えば、「Kpc=0.3、Kmk=0.7」である場合、合成液圧Pcgにおいて、吐出液圧Pcaの影響度は30%であり、推定液圧Pmkの影響度は70%である。以上、合成液圧演算ブロックPCGについて説明した。
≪液圧フィードバック制御ブロックPFB≫
液圧フィードバック制御ブロックPFBでは、液圧の目標値(指示液圧)Pcs、及び、液圧の合成値(実際値+推定値)Pcgを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRのフィードバック通電量Ifbが演算される。指示通電量Imsに基づく制御だけでは、液圧誤差が発生するため、液圧フィードバック制御ブロックPFBでは、この誤差を補償することが行われる。液圧フィードバック制御ブロックPFBは、比較演算、及び、フィードバック通電量演算ブロックIFBにて構成される。
比較演算によって、液圧の目標値(指示液圧)Pcsと合成値(合成液圧)Pcgとが比較される。ここで、合成液圧Pcgは、液圧センサPCAの検出結果Pcaと、MKAの検出結果Mkaとを合成させた、制動液圧の次元の合成値である。例えば、比較演算では、指示液圧(目標値)Pcsと、合成液圧(合成値)Pcgとの偏差(液圧偏差)ePcが演算される。液圧偏差ePc(制御変数)は、フィードバック通電量演算ブロックIFBに入力される。
フィードバック通電量演算ブロックIFBには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、液圧偏差ePcに比例ゲインKgpが乗算されて、液圧偏差ePcの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、液圧偏差ePcが微分されて、これに微分ゲインKgdが乗算されて、液圧偏差ePcの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、液圧偏差ePcが積分されて、これに積分ゲインKgiが乗算されて、液圧偏差ePcの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、フィードバック通電量Ifbが演算される。即ち、フィードバック通電量演算ブロックIFBでは、指示液圧Pcsと合成液圧Pcgとの比較結果に基づいて、合成液圧Pcgが液圧の指示液圧Pcsに一致するよう(即ち、偏差ePcが「0(ゼロ)」に近づくよう)、所謂、液圧に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。
操作速度dBpが小さく、「0≦dBp<dbs」である場合には、「Kpc=1、Kmk=0」に演算されるため、フィードバック通電量Ifbの演算には、推定液圧Pmkが採用されず、吐出液圧Pcaのみが採用される。即ち、フィードバック制御において、回転角Mkaの影響度はゼロであり、吐出液圧Pcaの影響度が全てとなる。操作速度dBpが相対的に大きくなり、「dbs≦dBp<dbu」である場合には、操作速度dBpの増加にしたがって、液圧係数Kpcは「1」から減少され、回転角係数Kmkは「0」から増加されて演算される。このため、フィードバック通電量Ifbは、係数Kpc、Kmkによって、推定液圧Pmk(即ち、回転角Mka)、吐出液圧Pcaの影響度が夫々加味されて演算される。操作速度dBpが極めて大きく、「dBp≧dbu」である場合には、「Kpc=0、Kmk=1」に演算されるため、フィードバック通電量Ifbの演算には、吐出液圧Pcaが採用されず、回転角Mkaのみが採用される。即ち、フィードバック制御において、吐出液圧Pcaの影響度はゼロであり、回転角Mkaの影響度が全てとなる。
このように、2つの状態変数Pca、Mkaに基づいて演算されるフィードバック通電量Ifbによって、制動液圧に係るフィードバック制御が行われる。ここで、吐出液圧Pcaは、制動液の質量等の影響を受けるが、実際に検出された値であるため、精度は高い。一方、回転角Mkaから推定された推定液圧Pmkは、上記影響は受けないが、推定された値であるため精度は確保され難い。このような特性が考慮されて、吐出液圧Pcaと回転角Mkaとの影響度が、夫々の係数Kpc、Kmkを介して、操作速度dBpに基づいて調整される。具体的には、操作速度dBpが遅い、通常の制動操作時(通常操作時)には、吐出液圧Pcaのみが採用されるフィードバック制御が行われ、制動液圧の精度が確保される。一方、操作速度dBpが過大となる、急激な制動操作時(急操作時)には、回転角Mkaのみが採用されるフィードバック制御が実行される。即ち、フィードバック制御に吐出液圧Pcaが採用されない。操作速度dBpが変化する場合には、操作速度dBpの変化にともなって、係数Kpc、Kmkは徐々に変更されるため、フィードバック制御における2つ状態変数の相互遷移が円滑化され得る。このように、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏する。以上、液圧フィードバック制御ブロックPFBについて説明した。
第1の実施形態と同様に、目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Ims、及び、フィードバック通電量Ifbに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。指示通電量Imsに対して、フィードバック通電量Ifbが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Ifb)。そして、スイッチング制御ブロックSWTでは、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子SU1〜SW2についてパルス幅変調を行うための駆動信号Su1〜Sw2が演算される。
<3相ブラシレスモータMTR、及び、その駆動回路DRV>
図4の回路図を参照して、電気モータMTRとして、U相コイルCLU、V相コイルCLV、及び、W相コイルCLWの3つのコイル(巻線)を有する、3相ブラシレスモータが採用される例について説明する。ブラシレスモータMTRでは、回転子(ロータ)側に磁石が、固定子(ステータ)側に巻線回路(コイル)が配置される。電気モータMTRは、回転子の磁極に合わせたタイミングで、駆動回路DRVによって転流が行われ、回転駆動される。
電気モータMTRには、電気モータMTRの回転角(ロータ位置)Mkaを検出する回転角センサMKAが設けられる。回転角センサMKAとして、ホール素子型のものが採用される。また、回転角センサMKAとして、可変リラクタンス型レゾルバが採用され得る。検出された回転角Mkaは、制御手段CTLに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動する電気回路である。駆動回路DRVによって、制御手段CTLからの各相の駆動信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(「Su1〜Sw2」とも表記)に基づいて、電気モータMTRが駆動される。駆動回路DRVは、6つのスイッチング素子(パワートランジスタ)SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(「SU1〜SW2」とも表記)にて形成された3相ブリッジ回路(単に、ブリッジ回路ともいう)BRG、及び、安定化回路LPFにて構成される。
3相ブリッジ回路(インバータ回路ともいう)BRGの入力側には、安定化回路LPFを介して、蓄電池BATが接続され、ブリッジ回路BRGの出力側には電気モータMTRが接続されている。ブリッジ回路BRGでは、スイッチング素子を直列接続した上下アーム構成の電圧型ブリッジ回路を1つの相として、3つの相(U相、V相、W相)が形成されている。3つの相の上アームは、蓄電池BATの陽極側に接続された電力線PW1と接続される。また、3つの相の下アームは、蓄電池BATの陰極側に接続された電力線PW2と接続される。ブリッジ回路BRGでは、各相の上下アームは、蓄電池BATと並列に電力線PW1、PW2に接続されている。
U相上アームは、還流ダイオードDU1がスイッチング素子SU1に逆並列接続され、U相下アームは、還流ダイオードDU2がスイッチング素子SU2に逆並列接続される。同様に、V相上アームは、還流ダイオードDV1がスイッチング素子SV1に逆並列接続され、V相下アームは、還流ダイオードDV2がスイッチング素子SV2に逆並列接続される。また、W相上アームは、還流ダイオードDW1がスイッチング素子SW1に逆並列接続され、W相下アームは、還流ダイオードDW2がスイッチング素子SW2に逆並列接続される。各相の上アームと下アームとの接続部PCU、PCV、PCWは、ブリッジ回路BRGの出力端(交流出力端)を形成する。これらの出力端には電気モータMTRが接続されている。
6つのスイッチング素子SU1〜SW2は、電気回路の一部をオン又はオフできる素子である。例えば、スイッチング素子SU1〜SW2として、MOS−FET、IGBTが採用される。ブラシレスモータMTRでは、回転角(ロータ位置)Mkaに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成するスイッチング素子SU1〜SW2が制御される。そして、3つの各相(U相、V相、W相)のコイルCLU、CLV、CLWの通電量の方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、電気モータMTRが回転駆動される。即ち、ブラシレスモータMTRの回転方向(正転方向、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。ここで、電気モータMTRの正転方向は、加圧ユニットKAUの吐出液圧Pcaの増加に対応する回転方向であり、電気モータMTRの逆転方向は、吐出液圧Pcaの減少に対応する回転方向である。
ブリッジ回路BRGと電気モータMTRとの間の実際の通電量(例えば、電流値)Ima(各相の総称)を検出する通電量取得手段(電流センサ)IMAが、3つの相毎に設けられる。検出された各相の通電量Imaは、コントローラCTLに入力される。
駆動回路DRVは、電力源(蓄電池BAT、発電機ALT)から電力の供給を受ける。供給された電力(電圧)の変動を低減するために、駆動回路DRVには、安定化回路(ノイズ低減回路ともいう)LPFが設けられる。安定化回路LPFは、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて構成され、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)である。
電気モータMTRとして、ブラシレスモータに代えて、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用され得る。この場合、ブリッジ回路BRGとして、4つのスイッチング素子(パワートランジスタ)にて形成されるHブリッジ回路が用いられる。即ち、ブラシモータのブリッジ回路BRGでは、ブラシレスモータの3つの相のうちの1つが省略される。ブラシレスモータの場合と同様に、電気モータMTRには、回転角センサMKAが設けられ、駆動回路DRVには、安定化回路LPFが設けられる。さらに、駆動回路DRVには、通電量取得手段IMAが設けられる。
<作用・効果>
図5の時系列線図を参照して、本発明に係る制動制御装置の作用・効果について説明する。ここで、運転者は、値bp1に向けて、急激に制動操作量Bpaを増加するような、急操作の状況を想定する。
先ず、制動操作が行われない場合(「Bpa=0」の場合)には、液圧係数Kpcは「1」に設定され、回転角係数Kmkは「0」に設定されている。時点v0にて、運転者は制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作を開始する。時点v0の直後は、制動操作部材の操作速度dBpは未だ小さく、液圧係数Kpcは「1」、回転角係数Kmkは「0」のままである(操作速度dBpは、領域(P)内に留まる)。時間の経過にしたがって、操作速度dBpが急激に増加する。操作速度dBpが下方値(所定のしきい値)dbsを超過した時点(演算周期)v1から、液圧係数Kpcは「1」から減少され始め、回転角係数Kmkは「0」から増加され始める(操作速度dBpは、領域(Q)内で変化する)。そして、操作速度dBpが上方値(所定のしきい値)dbuを超過した時点(演算周期)v2にて、液圧係数Kpcは「0(ゼロ)」にされ、回転角係数Kmkは「1」にされる(操作速度dBpは、領域(Q)から領域(R)に遷移する)。ここで、上方値dbu、下方値dbsは、予め設定された、操作速度dBpに対応するしきい値である。
制動操作部材BPの操作速度dBpが上方値dbu以上の状態が継続される時点v2から時点v3に亘って、液圧係数Kpcは「0」に、回転角係数Kmkは「1」に維持される(操作速度dBpは、領域(R)に維持される)。操作速度dBpが、上方値dbuを下回る時点(演算周期)v3から、操作速度dBpの減少にしたがって、液圧係数Kpcは「0」から徐々に増加され、回転角係数Kmkは「1」から徐々に減少される(操作速度dBpは、領域(Q)内で徐々に変化する)。そして、制動操作量Bpaが概ね値bp1となり、操作速度dBpが下方値dbs未満の条件を満足した時点v4にて、液圧係数Kpcは「1」に、回転角係数Kmkは「0」に戻される(操作速度dBpは、領域(P)内に戻る)。
制動操作部材BPが急操作された状態は、操作速度dBpが上方値dbu以上であることによって判定(領域(Q)から領域(R)に遷移したことの判定)がなされ、液圧係数Kpcが「0」とされ、回転角係数Kmkが「1」とされる(例えば、時点v2〜v3までの期間を参照)。そして、フィードバック通電量Ifbには、加圧ユニットKAUに内蔵された液圧センサPCAよって検出された吐出液圧Pcaが状態変数として採用されない。即ち、フィードバック制御には、回転角Mkaに限って採用される。これは、回転角Mkaから推定される推定液圧Pmkは、制動液の質量等の影響を受けないことに因る。この結果、急操作時における、制動配管HKC、HWC内の制動液の質量、及び、流体抵抗に起因した課題(図6を参照)が解消され得る。
具体的には、加圧ユニットKAUからの吐出液圧Pcaにおいて、不必要な増加・減少による液圧変動が抑制され得る。例えば、不必要な減圧(図6(c)を参照)による液圧増加の遅れが解消され、液圧応答性が向上される。加えて、液圧のオーバシュート(図6(d)(e)を参照)が抑制される。なお、吐出液圧Pcaが採用されないフィードバック制御の実行期間(時点v2〜v3までの期間)は、非常に短時間である。このため、吐出液圧Pcaが採用されないことは、液圧精度の観点においては問題とはならない。
さらに、制動操作部材BPの急操作終了が、操作速度dBpが下方値dbs未満であることによって判定され、液圧係数Kpcが「1」とされ、回転角係数Kmkは「0」とされる(例えば、時点v4の後を参照)。そして、フィードバック通電量Ifbとして、推定液圧Pmkが採用されない、吐出液圧Pcaのみに基づくフィードバック通電量Ifbが演算され、通常操作時における(急操作時ではない)、通常の液圧フィードバック制御(推定値を用いない制御)が実行される。推定液圧Pmkでは推定精度が確保され難い場合があり得るが、吐出液圧Pcaは検出精度が高いことに因る。この結果、加圧ユニットKAUの吐出液圧(液圧センサPCAの検出液圧)Pcaが指示液圧(目標値)Pcsに一致するように(偏差ePcが「0」に収束するように)液圧の微調整が行われ、精度の高い液圧制御が行われる。
吐出液圧Pcaを用いたフィードバック制御による液圧変動の発生の蓋然性は、制動配管内の制動液の質量、及び、流体抵抗に基づいて予測され得る。したがって、上方値dbuは、液圧変動の蓋然性が高くなる領域を示す値である。また、下方値dbsは、その蓋然性が低い領域を示す値である。
上方値dbuは、下方値dbs以上の値として設定される。即ち、上方値dbuが下方値dbsと一致していてもよい。この場合、係数Kpc、Kmkは、操作速度dBpに基づいて、「0」、及び、「1」のうちの何れか一方が選択される。即ち、検出液圧Pcaに基づくフィードバック制御、及び、回転角Mkaに基づくフィードバック制御のうちの何れか一方が、選択的に実行される。この場合においても、「急操作時の液圧変動抑制(昇圧応答性の向上)」、及び、「通常操作時の高精度の液圧制御」という、上記同様の効果を奏する。
上方値dbuは、下方値dbsよりも所定速度(所定値)db0だけ大きい値として設定され得る。この場合、操作速度dBpが所定値db0の範囲に亘って、操作速度dBpの変化(増加、減少)にしたがって、係数(寄与度)Kpc、Kmkが「1」から「0」までの間にて、徐々に変化される。例えば、時点v3〜v4の区間が所定速度db0の範囲に相当し、液圧係数Kpcが「0」から滑らかに「1」にまで増加され、回転角係数Kmkが「1」から滑らかに「0」にまで減少される。上記効果に加え、フィードバック制御に採用される状態変数の遷移が円滑に行われ得る。