<第1の実施の形態>
以下、転舵制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
<電動パワーステアリング装置の概要>
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、および運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU(電子制御装置)40を備えている。
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cを有している。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確には、ラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cおよびラック軸23からなるラックアンドピニオン機構24によりラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θtaが変更される。転舵輪26,26の転舵角θtaが変更されることにより車両の進行方向が変更される。
操舵補助機構30は、操舵補助力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、ブラシレスモータなどの三相交流モータが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータトルクが操舵補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じて、モータ31を制御する。各種のセンサとしては、たとえば車速センサ410、トルクセンサ420、回転角センサ430、横加速度センサ440およびヨーレートセンサ450がある。車速センサ410は、車速(車両の走行速度)Vを検出する。トルクセンサ420は、コラムシャフト22aに設けられて、ステアリングホイール21を介してステアリングシャフト22に印加される操舵トルクThを検出する。回転角センサ430は、モータ31に設けられて、モータ31の回転角θmを検出する。横加速度センサ440は、車両に働く横加速度LAを検出する。横加速度LAとは、車両を上からみたとき、車両の進行方向に対して直交する左右方向に働く加速度をいう。ヨーレートセンサ450は、ヨーレートYRを検出する。ヨーレートYRとは、車両の重心点を通る鉛直軸まわりの回転角速度(車両の旋回方向への回転角の変化速度)をいう。ECU40は、これらセンサを通じて取得される車速V、操舵トルクTh、回転角θm、横加速度LAおよびヨーレートYRに基づき、モータ31を制御する。
<ECUの概略構成>
つぎに、ECUのハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、ECU40は、インバータ回路41およびマイクロコンピュータ42を備えている。
インバータ回路41は、マイクロコンピュータ42により生成される後述のモータ駆動信号に基づいて、バッテリなどの直流電源から供給される直流電流を三相交流電流に変換する。当該変換された三相交流電流は、各相の給電経路44を介してモータ31に供給される。各相の給電経路44には電流センサ45が設けられている。これら電流センサ45は、各相の給電経路44に生ずる実際の電流値Iを検出する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の給電経路44および各相の電流センサ45をそれぞれ1つにまとめて図示する。
マイクロコンピュータ42は、車速センサ410、トルクセンサ420、回転角センサ430、横加速度センサ440およびヨーレートセンサ450および電流センサ45の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。マイクロコンピュータ42は、これら取り込まれる検出結果、すなわち車速V、操舵トルクTh、回転角θm、横加速度LA、ヨーレートYRおよび電流値Iに基づきモータ駆動信号(PWM駆動信号)を生成する。
正確には、マイクロコンピュータ42は、インバータ回路41のPWM駆動を通じて、モータ電流のベクトル制御を行う。ベクトル制御とは、モータ電流を磁界と平行なd軸成分(界磁電流成分)と、これに直交するq軸成分(トルク電流成分)とに分離し、これら分離した電流をそれぞれ独立に目標制御するものである。ベクトル制御により、モータ31を直流モータと類似の取り扱いとすることができる。
<マイクロコンピュータ>
つぎに、マイクロコンピュータの機能的な構成を説明する。
マイクロコンピュータ42は、図示しない記憶装置に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。図2に示すように、マイクロコンピュータ42は、これら演算処理部として、アシスト指令値演算部51、電流指令値演算部52、モータ駆動信号生成部53およびピニオン角演算部54を備えている。
アシスト指令値演算部51は、車速V、操舵トルクTh、およびピニオン角演算部54により算出される後述のピニオン角θpをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる各種の情報に基づいてアシスト指令値Ta *を演算する。アシスト指令値Ta *は、モータ31に発生させるべき回転力(アシストトルク)を示す指令値である。
電流指令値演算部52は、アシスト指令値演算部51により算出されるアシスト指令値Ta *に基づき電流指令値I*を演算する。電流指令値I*は、モータ31に供給するべき電流を示す指令値である。正確には、電流指令値I*は、d/q座標系におけるq軸電流指令値およびd軸電流指令値を含む。d/q座標系は、モータ31の回転角θmに従う回転座標である。
モータ駆動信号生成部53は、電流指令値I*、実際の電流値I、およびモータ31の回転角θmをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる情報に基づき実際の電流値Iが電流指令値I*に追従するように電流のフィードバック制御を行う。モータ駆動信号生成部53は、電流指令値I*と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすようにモータ駆動信号を生成する。
正確には、モータ駆動信号生成部53は、回転角θmを使用してモータ31の三相の電流値を二相のベクトル成分、すなわちd/q座標系におけるd軸電流値およびq軸電流値に変換する。そして、モータ駆動信号生成部53は、d軸電流値とd軸電流指令値との偏差、およびq軸電流値とq軸電流指令値との偏差をそれぞれ求め、これら偏差を解消するPWMデューティを算出する。モータ駆動信号生成部53により生成されるモータ駆動信号には、当該PWMデューティが含まれる。インバータ回路41を通じて当該モータ駆動信号に応じた電流がモータ31に供給されることにより、モータ31はアシスト指令値Ta *に応じた回転力を発生する。
ピニオン角演算部54は、モータ31の回転角θmを取り込み、この取り込んだ回転角θmに基づきピニオンシャフト22cの回転角であるピニオン角θpを演算する。前述したように、モータ31は減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。このため、モータ31の回転角θmとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用してモータ31の回転角θmからピニオン角θpを求めることができる。さらに、これも前述したように、ピニオンシャフト22cは、ラック軸23に噛合されている。このため、ピニオン角θpとラック軸23の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪26の転舵角θtaを反映する値である。ピニオン角θpは、後述する目標ピニオン角θp *に基づきフィードバック制御される。
<アシスト指令値演算部>
つぎに、アシスト指令値演算部51について詳細に説明する。
図2に示すように、アシスト指令値演算部51は、基本アシスト成分演算部61、目標ピニオン角演算部62、およびピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)63を有している。
基本アシスト成分演算部61は、車速Vおよび操舵トルクThに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を演算する。基本アシスト成分Ta1 *はアシスト指令値Ta *の基礎成分である。基本アシスト成分演算部61は、操舵トルクThと基本アシスト成分Ta1 *との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、基本アシスト成分Ta1 *を演算する。基本アシスト成分演算部61は、操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本アシスト成分Ta1 *の絶対値をより大きな値に設定する。
目標ピニオン角演算部62は、基本アシスト成分演算部61により生成される基本アシスト成分Ta1 *、および操舵トルクThをそれぞれ取り込む。目標ピニオン角演算部62は、基本アシスト成分Ta1 *および操舵トルクThの総和を基本駆動トルク(入力トルク)とするとき、基本駆動トルクに基づいて理想的なピニオン角を定める理想モデルを有している。理想モデルは、基本駆動トルクに応じた理想的な転舵角に対応するピニオン角を予め実験などによりモデル化したものである。目標ピニオン角演算部62は、基本アシスト成分Ta1 *と操舵トルクThとを加算して基本駆動トルクを求め、この求められる基本駆動トルクから理想モデルに基づいて目標ピニオン角θp *を演算する。なお、目標ピニオン角演算部62は、車速V、横加速度LAおよびヨーレートYRをそれぞれ取り込み、目標ピニオン角θp *を演算するに際してはこれら車速V、横加速度LAおよびヨーレートYRをそれぞれ加味する。
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により算出される目標ピニオン角θp *およびピニオン角演算部54により算出される実際のピニオン角θpをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θpが目標ピニオン角θp *に追従するように、ピニオン角のフィードバック制御としてPID(比例、積分、微分)制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角θp *と実際のピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 *の補正成分Ta2 *(補償成分)を求める。
アシスト指令値演算部51は、基本アシスト成分Ta1 *に補正成分Ta2 *を加算することによりアシスト指令値Ta *を演算する。
<目標ピニオン角演算部>
つぎに、目標ピニオン角演算部62について詳細に説明する。
前述したように、目標ピニオン角演算部62は、基本アシスト成分Ta1 *および操舵トルクThの総和である基本駆動トルクから理想モデルに基づいて目標ピニオン角θp *を演算する。当該理想モデルは、ステアリングシャフト22に印加されるトルク、すなわち前述した基本駆動トルクTp *が、次式(A)で表されることを利用したモデルである。
Tp *=Jθp *′′+Cθp *′+Kθp * …(A)
ただし、「J」はステアリングホイール21およびステアリングシャフト22の慣性モーメント、「C」はラック軸23のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール21およびステアリングシャフト22をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。
式(A)から分かるように、基本駆動トルクTp *は、目標ピニオン角θp *の二階時間微分値θp *′′に慣性モーメントJを乗じた値、目標ピニオン角θp *の一階時間微分値θp *′に粘性係数Cを乗じた値、および目標ピニオン角θp *にばね係数Kを乗じた値を加算することによって得られる。
目標ピニオン角演算部62は、式(A)に基づく理想モデルに従って目標ピニオン角θp *を演算する。
図3に示すように、式(A)に基づく理想モデルは、理想EPSモデル71、および理想車両モデル72に分けられる。
理想EPSモデル71は、ステアリングシャフト22およびモータ31など、電動パワーステアリング装置10の各構成要素の特性に応じてチューニングされる。理想EPSモデル71は、加算器73、減算器74、慣性モデル75、第1の積分器76、第2の積分器77および粘性モデル78を有している。
加算器73は、基本アシスト成分Ta1 *と操舵トルクThとを加算することにより基本駆動トルクTp *を演算する。
減算器74は、加算器73により算出される基本駆動トルクTp *から後述する粘性成分Tvi *およびばね成分Tsp *をそれぞれ減算する。ここでは、粘性成分Tvi *およびばね成分Tsp *が減算された基本駆動トルクTp *の値を減算値Tp **とする。
慣性モデル75は、式(A)の慣性項に対応する慣性制御演算部として機能する。慣性モデル75は、減算器74により算出される減算値Tp **に慣性モーメントJの逆数を乗ずることにより、ピニオン角加速度αp *を演算する。
第1の積分器76は、慣性モデル75により算出されるピニオン角加速度αp *を積分することにより、ピニオン角速度ωp *を演算する。
第2の積分器77は、第1の積分器76により算出されるピニオン角速度ωp *をさらに積分することにより、目標ピニオン角θp *を演算する。目標ピニオン角θp *は、理想EPSモデル71に基づくピニオンシャフト22cの理想的な回転角である。
粘性モデル78は、式(A)の粘性項に対応する粘性制御演算部として機能する。粘性モデル78は、第1の積分器76により算出されるピニオン角速度ωp *に粘性係数Cを乗ずることにより、基本駆動トルクTp *の粘性成分Tvi *を演算する。
理想車両モデル72は、電動パワーステアリング装置10が搭載される車両の特性に応じてチューニングされる。操舵特性に影響を与える車両側の特性は、たとえばサスペンションおよびホイールアライメントの仕様、および転舵輪26,26のグリップ力(摩擦力)などにより決まる。理想車両モデル72は、式(A)のばね項に対応するばね特性制御演算部として機能する。理想車両モデル72は、第2の積分器77により算出される目標ピニオン角θp *にばね係数Kを乗ずることにより、基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *を演算する。なお、理想車両モデル72は、ばね成分Tsp *を演算するに際して、車速V、横加速度LAおよびヨーレートYRをそれぞれ加味する。
このように構成した目標ピニオン角演算部62によれば、理想EPSモデル71の慣性モーメントJおよび粘性係数C、ならびに理想車両モデル72のばね係数Kをそれぞれ調整することによって、基本駆動トルクTp *と目標ピニオン角θp *との関係を直接的にチューニングすること、ひいては所望の操舵特性を実現することができる。
本例では、基本駆動トルクTp *から理想EPSモデル71および理想車両モデル72に基づいて目標ピニオン角θp *が設定され、実際のピニオン角θpが目標ピニオン角θp *に一致するようにフィードバック制御される。前述したように、ピニオン角θpと転舵輪26,26の転舵角θtaとの間には相関関係がある。このため、基本駆動トルクTp *に応じた転舵輪26,26の転舵動作も理想EPSモデル71および理想車両モデル72により定まる。すなわち、車両の操舵感が理想EPSモデル71および理想車両モデル72により決まる。したがって、理想EPSモデル71および理想車両モデル72の調整により所望の操舵感を実現することが可能となる。
また、実際の転舵角θtaが、目標ピニオン角θp *に応じた転舵角θtaに維持される。このため、路面状態あるいはブレーキングなどの外乱に起因して発生する逆入力振動の抑制効果も得られる。すなわち、転舵輪26,26を介して操舵機構20に振動が伝達される場合であれ、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp *となるように補正成分Ta2 *が調節される。このため、実際の転舵角θtaは、理想モデルにより規定される目標ピニオン角θp *に応じた転舵角θtaに維持される。結果的にみれば、逆入力振動を打ち消す方向へ操舵補助が行われることにより、逆入力振動がステアリングホイール21に伝わることが抑制される。
ここで前述したように、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じて、確かにステアリングの剛性感(いわゆるしっかり感)は得られる。しかし、運転者の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)である操舵反力(ステアリングを通じて感じる手応え)は目標ピニオン角θp *に応じたものにしかならないため、つぎのようなことが懸念される。たとえば操舵に伴い車両に働く横加速度が増大する場合、運転者は操舵量に応じた横加速度LAを身体に感じるものの操舵反力は変わらないため、運転状況によっては車両との一体感が不足するおそれがある。また、路面状態によっても操舵反力が変わらないため、運転者は操舵反力を通じて路面状態を把握しにくく、また自身のイメージする手応えと実際の手応えとの乖離に違和感を覚えるおそれがある。そこで本例では、こうした懸念を解消する観点に基づき目標ピニオン角演算部62、具体的には理想車両モデル72を構成している。
<理想車両モデル>
つぎに、理想車両モデル72について詳細に説明する。
図4に示すように、理想車両モデル72は、第1の車両反力モデル81、第2の車両反力モデル82、第1の分配ゲイン演算部83、第2の分配ゲイン演算部84、最大値選択部85および補間演算部86を有している。
<第1の車両反力モデル>
第1の車両反力モデル81は、第1のばね反力トルクTsp1 *を演算する。第1のばね反力トルクTsp1 *は、目標ピニオン角θp *に応じた操舵反力成分(ステアリングに作用させるべき反力成分)であって、ステアリングの剛性感(しっかり感)に寄与する。第1の車両反力モデル81は、第2の積分器77により算出される目標ピニオン角θp *を取り込み、この取り込まれる目標ピニオン角θp *にばね係数Kを乗ずることにより、目標ピニオン角θp *に応じた第1のばね反力トルクTsp1 *を演算する。第1のばね反力トルクTsp1 *は、前述したばね成分Tsp *の第1の反力成分である。
<第2の車両反力モデル>
第2の車両反力モデル82は、第2のばね反力トルクTsp2 *を演算する。第2のばね反力トルクTsp2 *は、車両に働く横加速度LAに応じた操舵反力成分であって、実際の車両に生じる反力に近い特性を有するものである。第2のばね反力トルクTsp2 *は、車両との一体感に寄与する。
第2のばね反力トルクTsp2 *は、理論的には次式(B)により求められる。
Tsp2 *=(ζ/ln)・(I/l)・(lr・m・LA+I・γ′) …(B)
ただし、「ζ」はトレール量、「ln」はナックルアーム長、「I」は車両に働くヨー慣性モーメント、「l」はホイールベース、「lr」は車両を横からみたときの前輪軸と車両重心との間の距離、「m」は車両の重量、「LA」は車両に作用する横加速度、「γ′」はヨー角加速度であってヨーレートYRを時間微分することによって得られる。
ここで、式(B)に基づき第2のばね反力トルクTsp2 *を求めることができるものの、本例では式(B)における「I・γ′」を割愛した次式(C)により第2のばね反力トルクTsp2 *を求める。これは、式(B)における「I・γ′」の値はノイズの影響が懸念されるからである。
Tsp2 *=(ζ/ln)・(I/l)・(lr・m・LA) …(C)
したがって、第2の車両反力モデル82は、横加速度センサ440を通じて取得される横加速度LAを式(C)に適用することにより、第2のばね反力トルクTsp2 *を算出することが可能である。第2のばね反力トルクTsp2 *は、前述したばね成分Tsp *の第2の反力成分である。
<第1の分配ゲイン演算部>
図4に示すように、第1の分配ゲイン演算部83は、自身が持つ第1のゲインマップ91を使用して第1の分配ゲインG1を演算する。第1のゲインマップ91は、横加速度LAと第1の分配ゲインG1との関係を車速V(あるいは車速域)ごとに規定する三次元マップである。第1の分配ゲインG1は、第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率を決定するために使用される。
図5のグラフに示すように、横軸に横加速度LAを、縦軸に第1の分配ゲインG1をそれぞれプロットしたとき、第1のゲインマップ91はつぎのような特性を有する。すなわち、横加速度LAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第1の分配ゲインG1はより大きな値に設定される。逆に、横加速度LAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第1の分配ゲインG1はより小さな値に設定される。第1の分配ゲインG1は、「0」〜「1」の範囲の値である。なお、第1のゲインマップ91は車速Vを加味しなくてもよい。
<第2の分配ゲイン演算部>
図4に示すように、第2の分配ゲイン演算部84は、横加速度差分値ΔLAを演算する。横加速度差分値ΔLAは次式(D),(E)により求められる。
ΔLA=│LA−LA′│ …(D)
ただし、「LA」は横加速度センサ440により検出される横加速度、「LA′」はヨーレートYRおよび車速Vに基づく推定横加速度である。
推定横加速度LA′は次式(E)により求められる。
LA′=│YR・V│ …(E)
ただし、「YR」はヨーレートセンサ450により検出されるヨーレート、「V」は車速センサ410により検出される車速である。
第2の分配ゲイン演算部84は、自身が持つ第2のゲインマップ92を使用して第2の分配ゲインG2を演算する。第2のゲインマップ92は、横加速度差分値ΔLAと第2の分配ゲインG2との関係を車速V(あるいは車速域)ごとに規定する三次元マップである。第2の分配ゲインG2も、第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率を決定するために使用される。
図6のグラフに示すように、横軸に横加速度差分値ΔLAを、縦軸に第2の分配ゲインG2をそれぞれプロットしたとき、第2のゲインマップ92はつぎのような特性を有する。すなわち、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第2の分配ゲインG2はより大きな値に設定される。逆に、横加速度差分値ΔLAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第2の分配ゲインG2はより小さな値に設定される。第2の分配ゲインG2は、「0」〜「1」の範囲の値である。なお、第2のゲインマップ92は車速Vを加味しなくてもよい。
<最大値選択部>
図4に示すように、最大値選択部85は、第1の分配ゲイン演算部83から第1の分配ゲインG1を、第2の分配ゲイン演算部84から第2の分配ゲインG2を取り込み、これら取り込まれる第1の分配ゲインG1および第2の分配ゲインG2のうち、値の大きい方を選択する。
<補間演算部>
補間演算部86は、最大値選択部85により選択される第1の分配ゲインG1または第2の分配ゲインG2を使用して、第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率を決定し、当該使用比率に基づき基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *を演算する。基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *は、たとえば次式(F)により求められる。
Tsp *=Tsp1 *・(1−G)+Tsp2 *・G …(F)
ただし、「G」は分配ゲインであって、第1の分配ゲインG1または第2の分配ゲインG2が適用される。
先の式(F)において、分配ゲインG(第1の分配ゲインG1または第2の分配ゲインG2)は、「0」から「1」までの値に設定される。分配ゲインGが「0」であるとき、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が100%となる。分配ゲインGが「1」であるとき、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が100%となる。分配ゲインGが「1」と「0」との間の値であるとき、第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *とは、それぞれ分配ゲインGの値に応じた所定の使用比率で足し合わされる。このようにして、分配ゲインGの値に応じて第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率が調節される。
先の図5のグラフに示されるように、横加速度LAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第1の分配ゲインG1はより大きな値に設定される。このため、車両に働く横加速度LAが大きくなるほど、また車速Vが速いほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率は大きく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率は小さくなる。逆に、横加速度LAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第1の分配ゲインG1はより小さな値に設定される。このため、車両に働く横加速度LAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率は小さく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率は大きくなる。
先の図6のグラフに示されるように、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第2の分配ゲインG2はより大きな値に設定される。このため、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、また車速Vが速いほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率は大きく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率は小さくなる。逆に、横加速度差分値ΔLAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第1の分配ゲインG1はより小さな値に設定される。このため、横加速度差分値ΔLAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率は小さく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率は大きくなる。
補間演算部86は、先の式(F)に示されるように、使用比率がそれぞれ設定された第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *とを足し合わせることにより、基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *を演算する。
<理想車両モデルの作用および効果>
つぎに、理想車両モデル72の作用および効果について説明する。ここでは、車両が乾燥路(ドライ路)を走行している状況と、当該乾燥路に比べて路面摩擦抵抗が小さい低摩擦路(凍結路または圧雪路など)を走行している状況との2つの走行状況に分けて説明する。
<乾燥路>
まず、車両が平坦な乾燥路を走行している場合について説明する。この場合、車両の各タイヤは路面に対してグリップするので、横加速度センサ440を通じて検出される実際の横加速度LAと、先の式(E)により演算される推定横加速度LA′とが理論的には一致する。このため、先の式(D)により演算される横加速度差分値ΔLAは理論的には「0」あるいは図6のグラフに示される「0」近傍の所定値ΔLA0以下の値となる。したがって、最大値選択部85では基本的には第1の分配ゲインG1が選択される。
先の図5のグラフに示されるように、横加速度LAが大きくなるほど、第1の分配ゲインG1はより大きな値に設定される。このため、横加速度LAが大きくなるほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率はより大きく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率はより小さくなる。逆に、横加速度LAが小さくなるほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率はより小さく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率はより大きくなる。
ここで、目標ピニオン角θp *に基づく第1のばね反力トルクTsp1 *は、いわゆるステアリングの剛性感(しっかり感)に寄与する。また、横加速度LAに基づく第2のばね反力トルクTsp2 *は、車両との一体感に寄与する。このため、横加速度LAに応じて第2のばね反力トルクTsp2 *と第1のばね反力トルクTsp1 *との使用比率を調節することにより、その時々の車両の走行状態に応じてステアリングの剛性感と車両との一体感とをそれぞれ好適に得ることができる。
たとえば横加速度LAが大きくなるほど車両との一体感の向上が要求されるところ、横加速度LAの増大に応じて第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が増大される一方、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が減少される。横加速度LAの増大に応じてステアリングの手応えが増していくことにより、横加速度LAの大きさに応じた車両との一体感が得られる。また、身体に感じる横加速度LAとステアリングの手応えとが一致することにより、運転者は車両を運転しやすくなる。
また、横加速度LAが小さくなるほど車両との一体感は問題にならなくなるところ、横加速度LAの減少に応じて第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が減少される一方、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が増大される。これにより、ステアリングの剛性感が手応えとして運転者の手に伝わりやすくなるため、運転者はステアリングを通じてめりはりの利いた手応えを感じることができる。
このように、ステアリングの剛性感と車両との一体感との調和が図られることにより、運転者は車両を運転しやすくなる。
また、前述の式(C)に示されるように、第2のばね反力トルクTsp2 *は、横加速度LAの値に応じた値となる。式(C)からも分かるように、第2のばね反力トルクTsp2 *は、横加速度LAの定数倍とみることができるので、第2のばね反力トルクTsp2 *の値は、横加速度LAが増大するほど大きな値となる。第2のばね反力トルクTsp2 *の値が増大するほど、減算値Tp **、ひいては当該減算値Tp **に基づき慣性モデル75、第1の積分器76および第2の積分器77を通じて算出される目標ピニオン角θp *の値が減少する。
ピニオン角フィードバック制御部63により算出される補正成分Ta2 *についても、目標ピニオン角θp *の減少分に応じて小さくなる。基本アシスト成分Ta1 *に加算される補正成分Ta2 *の値が小さくなる分、アシスト指令値Ta *の大きさ、ひいては電流指令値I*の値が小さくなる。そして、電流指令値I*の値が小さくなる分だけモータ31のモータトルク、ひいてはステアリングに印加される操舵補助力が減少する。すなわち、運転者がステアリングを通じて感じる操舵反力が増大する。横加速度LAの大きさに応じて操舵反力が増すことにより、運転者が身体に感じる横加速度LAと、ステアリングを通じて手に感じる手応えとが調和しやすくなる。したがって、車両に大きな横加速度LAが働いている場合であれ、運転者は車両との一体感を覚えやすくなる。
<低摩擦路>
つぎに、車両が平坦な低摩擦路を走行している場合について説明する。この場合、路面に対する各タイヤのグリップが低下することなどに起因して、横加速度センサ440を通じて検出される実際の横加速度LAと、先の式(E)により演算される推定横加速度LA′とが基本的には不一致となる。たとえば車両の走行状態がオーバーステア(スピンなどを含む。)であるときであれ、車両には横加速度LAが働きにくいため、横加速度センサ440を通じて検出される実際の横加速度LAは、乾燥路を走行するときに比べてより小さな値となる。したがって、先の図5に示される第1のゲインマップ91を通じて演算される第1の分配ゲインG1は、より小さな値となる。
これに対して、ヨーレートYRは、車両挙動に応じた値となる。このため、先の式(E)により演算される推定横加速度LA′は、横加速度センサ440を通じて検出される実際の横加速度LAに対して、より乖離した値となる。したがって、先の式(D)により演算される横加速度差分値ΔLAは、より大きな値となる。ひいては、横加速度差分値ΔLAがより大きな値となることから、先の図6に示される第2のゲインマップを通じて演算される第2の分配ゲインG2も、より大きな値となる。
このように、第1の分配ゲインG1はより小さな値となる傾向であることに対し、第2の分配ゲインG2はより大きな値となる傾向にある。このため、最大値選択部85では基本的には第2の分配ゲインG2が選択される。
先の図6のグラフに示されるように、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど(すなわち、車両が滑る状況であるほど)、第2の分配ゲインG2はより大きな値に設定される。このため、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率はより大きく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率はより小さくなる。ここで、目標ピニオン角θp *に基づく第1のばね反力トルクTsp1 *は、いわゆるステアリングの剛性感(しっかり感)に寄与する。また、横加速度LAに基づく第2のばね反力トルクTsp2 *は、車両との一体感に寄与する。このため、第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率がより大きく、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率がより小さく設定されることにより、車両との一体感はより高まる一方で、ステアリングの剛性感はより減少する。運転者は、剛性感が減少したことを手応えとして感じることにより、本来的に操舵感触としてしっかりとした手応えを感じにくい低摩擦路を走行していることを把握しやすくなる。実際の低摩擦路に即した手応えが得られるため、運転者は違和感なくステアリングを操作することができる。
また前述したように、車両が低摩擦路を走行している場合には車両に横加速度が生じにくいため、実際に検出される横加速度LAはより小さな値となる。ここで先の式(C)に示されるように、第2のばね反力トルクTsp2 *は、横加速度LAの値に応じた値となる。式(C)からも分かるように、第2のばね反力トルクTsp2 *は、横加速度LAの定数倍とみることができるので、第2のばね反力トルクTsp2 *の値は、横加速度LAが減少するほど小さな値となる。このため、先の式(F)により演算される基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *の値は、第2のばね反力トルクTsp2 *の値に応じて、より小さな値となる。そして、理想EPSモデル71の減算器74においては、より小さな値のばね成分Tsp *が基本駆動トルクTp *から減算される。すなわち、減算器74により算出される減算値Tp **は、第2のばね反力トルクTsp2 *がより小さな値となる分、より大きな値となる。ひいては、当該減算値Tp **に基づき演算される目標ピニオン角θp *の値も減算値Tp **に応じて増大する。
ピニオン角フィードバック制御部63により算出される補正成分Ta2 *についても、目標ピニオン角θp *の増加分に応じて大きくなる。基本アシスト成分Ta1 *に加算される補正成分Ta2 *の値が大きくなる分、アシスト指令値Ta *の大きさ、ひいては電流指令値I*の値が大きくなる。そして、電流指令値I*の値が大きくなる分だけモータ31のモータトルク、ひいてはステアリングに印加される操舵補助力が増大する。すなわち、運転者がステアリングを通じて感じる操舵反力が減少する。運転者は、操舵反力が減少したことを手応えとして感じることにより、車両が低摩擦路を走行していることをより把握しやすくなる。
なお、先の図6のグラフに示すように、本例では第2のゲインマップ92の特性として、横加速度差分値ΔLA(絶対値)が「0」を起点として大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第2の分配ゲインG2がより大きな値に設定されるようにしたが、つぎのような特性を第2のゲインマップ92に持たせてもよい。すなわち、横加速度差分値ΔLA(絶対値)が「0」以上、かつ、しきい値としての所定値ΔLA0以下の範囲の値であるとき、第2の分配ゲインG2の値は「0」に設定される。横加速度差分値ΔLA(絶対値)が所定値ΔLA0を超える値であるとき、所定値ΔLA0を起点として、横加速度差分値ΔLA(絶対値)が大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第2の分配ゲインG2はより大きな値に設定される。ここで、しきい値としての所定値ΔLA0は、車両が低摩擦路を走行していること、あるいは車両が滑っている状態であることを判定する際の基準となる値であって、実験などを通じて予め設定される値である。
このように、横加速度差分値ΔLAの「0」近傍に第2の分配ゲインG2の値を「0」とする不感帯を設けることにより、つぎの効果を得ることができる。すなわち、先の式(D)に示されるように、横加速度差分値ΔLAは推定横加速度LA′の値の精度に依存する。特に、横加速度差分値ΔLAの「0」近傍では、推定横加速度LA′の値の精度の影響を受けやすい。このため、横加速度差分値ΔLAが「0」近傍の値であるときには、第2の分配ゲインG2の値を「0」として第1の分配ゲインG1を選択させることにより、適切な操舵反力を付与することに対するより高い信頼性を確保することができる。
ちなみに、前述のように所定値ΔLA0(不感帯)を設定するかどうかに関わらず、横加速度差分値ΔLAの増大に対する第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率(第2の分配ゲインG2)の変化特性についても、要求される仕様などによって適宜変更してもよい。たとえば横加速度差分値ΔLAの増大に対して、第2の分配ゲインG2が直線状に増大してもよいし階段状に増大してもよい。横加速度差分値ΔLAが増大する場合、横加速度差分値ΔLAが増大する前よりも第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が増大すればよい。
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には図1〜図5に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本例は、理想車両モデル72によるばね成分Tsp *の演算方法の点で第1の実施の形態と異なる。
図7に示すように、アシスト指令値演算部51はラック軸力演算部64を有している。ラック軸力演算部64は、電流センサ45を通じて検出される三相各相の電流値I、およびトルクセンサ420を通じて検出される操舵トルクThに基づきラック軸力Tafを演算する。具体的には、ラック軸力演算部64は、電流値Iに基づきモータ31により発生されるアシストトルクを演算し、当該演算されるアシストトルクと操舵トルクThとを合算することによりラック軸力Tafを算出する。ラック軸力Tafとは基本的にはラック軸23の軸方向に加わる力をいうところ、ここではピニオンシャフト22cを回転させようとするトルクとして算出される。また、ラック軸力は、理想的には基本駆動トルクTp *と(=基本アシスト成分Ta1 *+操舵トルクTh)と同じ値となる。
図8に示すように、理想車両モデル72は、目標ピニオン角θp *、車速V、横加速度LAおよびヨーレートYRに加え、さらにラック軸力Tafを加味して基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *を演算する。理想車両モデル72は、第3の分配ゲイン演算部87および補間演算部88を有している。
第3の分配ゲイン演算部87は、自身が持つ第3のゲインマップ93を使用して第3の分配ゲインG3を演算する。第3のゲインマップ93は、横加速度差分値ΔLAと第3の分配ゲインG3との関係を車速V(あるいは車速域)ごとに規定する三次元マップである。第3の分配ゲインG3は、先の補間演算部86により演算される基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp *とラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafとの使用比率を決定するために使用される。なお、説明の便宜上、以下の記載では先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp *の符号「Tsp *」を符号「Tsp3 *」と表記することにより、最終的に演算されるばね成分Tsp *と区別する。
図9のグラフに示すように、横軸に横加速度差分値ΔLAを、縦軸に第3の分配ゲインG3をそれぞれプロットしたとき、第3のゲインマップ93はつぎのような特性を有する。すなわち、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第3の分配ゲインG3はより大きな値に設定される。逆に、横加速度差分値ΔLAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第3の分配ゲインG3はより小さな値に設定される。第3の分配ゲインG3は、「0」〜「1」の範囲の値である。なお、第3のゲインマップ93は車速Vを加味しなくてもよい。
補間演算部88は、第3の分配ゲイン演算部87により演算される第3の分配ゲインG3を使用して、先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *とラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafとの使用比率を決定し、当該使用比率に基づき基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *を演算する。当該最終的なばね成分Tsp *は、先の式(F)と同様の考え方に基づく次式(G)により求められる。
Tsp *=Tsp3 *・(1−G3)+Taf *・G3 …(G)
式(G)において、第3の分配ゲインG3は、「0」から「1」までの値に設定される。第3の分配ゲインG3が「0」であるとき、先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *の使用比率が100%となる。第3の分配ゲインG3が「1」であるとき、ラック軸力Tafの使用比率が100%となる。第3の分配ゲインG3が「1」と「0」との間の値であるとき、先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *とラック軸力Tafとは、それぞれ第3の分配ゲインG3の値に応じた所定の使用比率で足し合わされる。このようにして、第3の分配ゲインG3の値に応じて先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *とラック軸力Tafとの使用比率が調節される。
本実施の形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
前述の通り、たとえば車両が低摩擦路を走行しているとき、そのことを路面情報として運転者に操舵反力として伝えることが要求されることがある。この点、本例によれば、低摩擦路を走行しているとき、仮想的なラック軸力Tafを加味して基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *を演算することにより、運転者に路面情報を操舵反力としてより適切に伝えることが可能である。
先の図9のグラフに示されるように、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、第3の分配ゲインG3はより大きな値に設定される。このため、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、ラック軸力Tafの使用比率はより大きく、先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *の使用比率はより小さくなる。
ここで、ばね成分Tsp3 *は路面状態あるいは車両挙動に応じてステアリングの剛性感と車両との一体感との調和を図る観点に基づき演算される。ラック軸力Tafは操舵機構20に付与される駆動力(=操舵トルクTh+電流値Iに基づくアシストトルク)として演算される。また、走行路の摩擦抵抗が小さくなるほど路面反力はより小さく、路面反力が小さくなるほど操舵トルクThはより小さく、操舵トルクThが小さくなるほどラック軸力Tafはより小さくなる。すなわち、ラック軸力Tafは路面反力が小さくなるほどより小さくなる。逆に、走行路の摩擦抵抗が大きくなるほど路面反力はより大きく、路面反力が大きくなるほど操舵トルクThはより大きく、操舵トルクThが大きくなるほどラック軸力Tafはより大きくなる。すなわち、ラック軸力Tafは路面反力が大きくなるほどより大きくなる。このように、ラック軸力Tafは仮想的にではあるものの路面反力(転舵輪26から操舵機構20への逆入力荷重)を反映する。
このため、ラック軸力Tafの使用比率がより大きく、ばね成分Tsp3 *の使用比率がより小さく設定されることにより、補間演算部88により演算される最終的なばね成分Tsp *は、仮想的にではあるものの路面状態がより強く反映されたものとなる。路面状態がより強く反映された最終的なばね成分Tsp *を使用することにより、路面状態をこれに応じたより適切な操舵反力として運転者に認識させることができる。
たとえば車両が低摩擦路を走行している場合、路面反力が小さくなるほど横加速度差分値ΔLAはより大きな値に、またラック軸力Tafはより小さな値になりやすいところ、当該ラック軸力Tafに応じて最終的なばね成分Tsp *の値もより小さくなる。そして、ばね成分Tsp *の値が減少するほど、減算値Tp **、ひいては目標ピニオン角θp *の値は増大する。また、目標ピニオン角θp *が増加する分、補正成分Ta2 *、アシスト指令値Ta *および電流指令値I*が大きくなる。そして電流指令値I*が大きくなる分、モータ31のモータトルク、ひいてはステアリングに印加される操舵補助力が増大する。すなわち、運転者がステアリングを通じて感じる操舵反力が減少する。運転者は、操舵反力が減少したことを手応えとして感じることにより、車両が低摩擦路を走行していることをより把握しやすくなる。
また、本例のようにラック軸力Tafを使用して目標ピニオン角θp *を演算する場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、ラック軸力Tafは、電流値Iに基づくアシストトルクと操舵トルクThとを合算することにより得られるものであるため、操舵機構20の粘性および慣性を含んでいる。このため、ラック軸力Tafは、転舵輪26からタイロッド25を通じてラック軸23に伝達される純粋な路面情報を反映したものではない。したがって、ラック軸力Tafを使用して目標ピニオン角θp *を演算する場合、操舵機構20の粘性および慣性の影響によって操舵感が低下することが懸念される。
この点、本例では目標ピニオン角θp *を演算する場合、横加速度差分値ΔLAに応じて最終的なばね成分Tsp *におけるラック軸力Tafの使用比率を調節する。たとえば車両が平坦路をグリップ走行している場合、横加速度差分値ΔLAはより小さな値となる。本例では、目標ピニオン角θp *を演算する場合、横加速度差分値ΔLAの減少に応じて最終的なばね成分Tsp *におけるラック軸力Tafの使用比率を減少させる。このため、操舵感に対する操舵機構20の粘性および慣性などの影響が抑制される。したがって、車両が平坦路をグリップ走行しているとき、より適切な操舵感触を付与することができる。ひいては、車両挙動(横加速度差分値ΔLA)に現れる路面情報を運転者へ操舵反力としてより適切に伝えることができる。
なお本例において、ラック軸力演算部64は、三相各相の電流値Iおよび操舵トルクThに基づきラック軸力Tafを演算したが、ヨーレートYRおよび横加速度LAに基づきラック軸力Tafを演算してもよい。また、目標ピニオン角演算部62は、ラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafに代えて基本駆動トルクTp *を使用して目標ピニオン角θp *を演算してもよい。基本駆動トルクTp *もラック軸力を反映する値である。この場合、補間演算部88は、第3の分配ゲインG3を使用して、先の補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *と基本駆動トルクTp *との使用比率を決定し、当該使用比率に基づき最終的なばね成分Tsp *を演算する。
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に具体化した第3の実施の形態を説明する。本例は、理想車両モデル72によるばね成分Tsp *の演算方法の点で第2の実施の形態と異なる。第2の実施の形態では、第1の分配ゲインG1および第2の分配ゲインG2のうち値の大きい方の分配ゲインGを使用して第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率を調節したが、本例では第1の分配ゲインG1に基づき第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率を調節する。本例では、理想車両モデル72がつぎのように構成されている。
図10に示すように、理想車両モデル72は第1の車両反力モデル81、第2の車両反力モデル82、第1の分配ゲイン演算部83、および2つの補間演算部86,88を有している。すなわち、理想車両モデル72は、先の図8に示される第2の分配ゲイン演算部84および最大値選択部85が割愛された構成を有している。第3の分配ゲイン演算部87は、先の式(D),(E)に基づき、横加速度差分値ΔLAを演算する。
補間演算部86は、第1の分配ゲインG1を使用して、第1のばね反力トルクTsp1 *と第1のばね反力トルクTsp1 *との使用比率を決定し、当該使用比率に基づき基本駆動トルクTp *のばね成分Tsp3 *を演算する。補間演算部88は、第3の分配ゲインG3を使用して、補間演算部86により演算されるばね成分Tsp3 *とラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafとの使用比率を決定し、当該使用比率に基づき基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *を演算する。
したがって、本実施の形態によれば第2の実施の形態と同様に運転者に路面状態を操舵反力としてより適切に伝えることができる。たとえば、車両が平坦な乾燥路をグリップ走行しているとき、その路面状態を剛性感に基づく、よりしっかりとした手応えを通じて運転者に伝えることができる。また、車両が低摩擦路を走行しているとき、ラック軸力Taf(路面反力)がより強く反映された操舵反力を通じて路面状態を運転者に伝えることができる。
また、車両が低摩擦路を走行しているときには横加速度LAが発生しにくい。横加速度LAが小さいほどばね成分Tsp3 *における第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が増大する。このため、車両が低摩擦路を走行しているとき、ばね成分Tsp3 *は第1のばね反力トルクTsp1 *を主としたものになりやすい。このばね成分Tsp3 *が最終的なばね成分Tsp *として使用される場合、運転者はより高い剛性感を手応えとして感じる。このため、操舵感触として本来、しっかりとした手応えを感じにくい低摩擦路において、しっかりとした手応えが得られることに対して運転者が違和感を覚えるおそれがある。
この点、本例によれば、横加速度差分値ΔLAの増大に伴いラック軸力Tafの使用比率が増大する。このため、基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *はラック軸力Tafがより反映されたものとなる。この最終的なばね成分Tsp *を使用することにより、路面状態をこれに応じたより適切な操舵反力として運転者に伝えることができる。たとえば車両が低摩擦路を走行しているとき、第1のばね反力トルクTsp1 *を主としたばね成分Tsp3 *の使用比率はより減少される一方、ラック軸力Tafの使用比率はより増大される。このため、運転者は路面反力に応じた操舵反力を手応えとして感じる。
なお、本実施の形態において、第1の分配ゲイン演算部83に代えて第2の分配ゲイン演算部84を設けてもよい。この場合、第2の分配ゲインG2に基づき第1のばね反力トルクTsp1 *と第2のばね反力トルクTsp2 *との使用比率が調節される。
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に具体化した第4の実施の形態を説明する。本例は、目標ピニオン角θp *(最終的なばね成分Tsp *)の演算に際して第2のばね反力トルクTsp2 *を加味しない点で第3の実施の形態と異なる。本例では、理想車両モデル72がつぎのように構成されている。
図11に示すように、理想車両モデル72は、第1の車両反力モデル81、第4の分配ゲイン演算部89、および補間演算部90を有している。
第4の分配ゲイン演算部89は、先の式(D),(E)に基づき、横加速度差分値ΔLAを演算する。第4の分配ゲイン演算部89は、自身が持つ第4のゲインマップ94を使用して第4の分配ゲインG4を演算する。第4のゲインマップ94は、横加速度差分値ΔLAと第4の分配ゲインG4との関係を車速V(あるいは車速域)ごとに規定する三次元マップである。第4の分配ゲインG4は、第1の車両反力モデル81により演算される第1のばね反力トルクTsp1 *とラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafとの使用比率を決定するために使用される。
図12のグラフに示すように、横軸に横加速度差分値ΔLAを、縦軸に第4の分配ゲインG4をそれぞれプロットしたとき、第4のゲインマップ94はつぎのような特性を有する。すなわち、横加速度差分値ΔLAが大きくなるほど、また車速Vが速くなるほど第4の分配ゲインG4はより大きな値に設定される。逆に、横加速度差分値ΔLAが小さくなるほど、また車速Vが遅くなるほど第4の分配ゲインG4はより小さな値に設定される。第4の分配ゲインG4は、「0」〜「1」の範囲の値である。なお、第4のゲインマップ94は車速Vを加味しなくてもよい。
補間演算部90は、第4の分配ゲイン演算部89により演算される第4の分配ゲインG4を使用して、第1の車両反力モデル81により演算される第1のばね反力トルクTsp1 *とラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafとの使用比率を決定し、当該使用比率に基づき基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *を演算する。当該最終的なばね成分Tsp *は、先の式(F)と同様の考え方に基づく次式(H)により求められる。
Tsp *=Tsp1 *・(1−G4)+Taf *・G4 …(H)
式(H)において、第4の分配ゲインG4は、「0」から「1」までの値に設定される。第4の分配ゲインG4が「0」であるとき、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が100%となる。第4の分配ゲインG4が「1」であるとき、ラック軸力Tafの使用比率が100%となる。第4の分配ゲインG4が「1」と「0」との間の値であるとき、第1のばね反力トルクTsp1 *とラック軸力Tafとは、それぞれ第4の分配ゲインG4の値に応じた所定の使用比率で足し合わされる。このようにして、第4の分配ゲインG4の値に応じて第1のばね反力トルクTsp1 *とラック軸力Tafとの使用比率が調節される。
したがって、本実施の形態によれば第3の実施の形態と同様に運転者に路面状態を操舵反力としてより適切に伝えることができる。たとえば車両が乾燥路をグリップ走行しているとき、横加速度差分値ΔLAがより小さな値になるため、基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *は第1のばね反力トルクTsp1 *を主としたものとなる。このため、運転者は剛性感を手応えとして感じる。また、車両が低摩擦路を走行しているとき、横加速度差分値ΔLAがより大きな値になるため、基本駆動トルクTp *の最終的なばね成分Tsp *はラック軸力Tafを主としたものとなる。このため、運転者は実際の路面状態に即したより小さな操舵反力を手応えとして感じる。
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置を車両のステアバイワイヤ方式の操舵装置に具体化した第5の実施の形態を説明する。ステアバイワイヤとはステアリングホイールと転舵輪とを機械的に分離した操舵装置をいう。
図13に示すように、操舵装置100は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ101、回転角センサ102、および反力制御部103を有している。反力モータ101は、操舵反力の発生源である。反力モータ101のトルクは操舵反力としてステアリングシャフトに付与される。回転角センサ102は、反力モータ101の回転角θaを検出する。反力制御部103は、反力モータ101の通電制御を通じて操舵トルクThに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。
また、操舵装置100は、転舵輪を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ104、回転角センサ105、および転舵制御部106を有している。転舵モータ104は転舵力の発生源である。転舵モータ104のトルクは転舵力としてピニオンシャフトを介して転舵軸に付与される。回転角センサ105は転舵モータ104の回転角θbを検出する。転舵制御部106は、転舵モータ104の通電制御を通じて転舵輪を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。
反力制御部103は、目標操舵反力演算部111、目標舵角演算部112、舵角演算部113、舵角フィードバック制御部114、加算器115、および通電制御部116を有している。
目標操舵反力演算部111は、操舵トルクThに基づき目標操舵反力T*を演算する。なお、目標操舵反力演算部111は、車速Vを加味して目標操舵反力T*を演算してもよい。目標舵角演算部112は、目標操舵反力T*および操舵トルクThに基づきステアリングホイールの目標舵角θ*を演算する。舵角演算部113は、回転角センサ102を通じて検出される反力モータ101の回転角θaに基づきステアリングホイールの実際の舵角θsを演算する。舵角フィードバック制御部114は、実際の舵角θsを目標舵角θ*に追従させるべく舵角θsのフィードバック制御を通じて舵角補正量Tδを演算する。加算器115は、目標操舵反力T*に舵角補正量Tδを加算することにより最終的な目標操舵反力T*を算出する。通電制御部116は、最終的な目標操舵反力T*に応じた電力を反力モータ101へ供給する。これにより、反力モータ101は最終的な目標操舵反力T*に応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
転舵制御部106は、ピニオン角演算部117、ピニオン角フィードバック制御部118、および通電制御部119を有している。ピニオン角演算部117は、回転角センサ105を通じて検出される転舵モータ104の回転角θbに基づきピニオンシャフトの実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。ピニオン角フィードバック制御部118は、目標舵角演算部112により演算される目標舵角θ*を目標ピニオン角として取り込む。ピニオン角フィードバック制御部118は、実際のピニオン角θpを目標舵角θ*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値Tθ *を演算する。通電制御部119は、ピニオン角指令値Tθ *に応じた電力を転舵モータ104へ供給する。これにより、転舵モータ104はピニオン角指令値Tθ *に応じた角度だけ回転する。すなわち、ステアリングホイールが操作された分だけ転舵輪は転舵する。
こうした操舵装置100の構成を前提として、先の第1〜第4の実施の形態における目標ピニオン角演算部62の演算機能が目標舵角演算部112に、またピニオン角フィードバック制御部63の演算機能が舵角フィードバック制御部114に適用することができる。ここではまず、操舵装置100に第1の実施の形態を適用した場合について説明する。
この場合、反力制御部103における目標舵角演算部112は、先の目標ピニオン角演算部62(図2参照)と同様の機能的な構成を有している。先の目標ピニオン角演算部62が基本アシスト成分Ta1 *を取り込むのに対し、本例の目標舵角演算部112は目標操舵反力T*を取り込む。目標舵角演算部112が操舵トルクTh、車速V、ヨーレートYR、および横加速度LAを取り込むことについては、先の目標ピニオン角演算部62と同じである。また、先の目標ピニオン角演算部62が目標ピニオン角θp *を演算するのに対し、本例の目標舵角演算部112は目標舵角θ*を演算する。取り込む信号の一部、および生成する信号が異なるだけであって、目標舵角演算部112の内部的な演算処理の内容は、先の目標ピニオン角演算部62と同じである。
また、反力制御部103における舵角フィードバック制御部114は、先のピニオン角フィードバック制御部63と同様の機能を有している。先のピニオン角フィードバック制御部63がピニオン角θpのフィードバック制御の実行を通じて基本アシスト成分Ta1 *に対する補正成分Ta2 *を演算するのに対し、本例の舵角フィードバック制御部114は舵角θsのフィードバック制御の実行を通じて舵角補正量Tδを演算する。フィードバック制御の対象が異なるだけであって、舵角フィードバック制御部114の内部的な演算処理の内容は、先のピニオン角フィードバック制御部63と同じである。
さて、ステアバイワイヤ方式の操舵装置100では、ステアリングホイールと転舵輪とが機械的に分離されているため、タイヤからの路面反力(ラック軸力)が操舵反力としてステアリングホイールに直接伝わることがない。このため、路面の滑りやすさなどの路面情報がステアリングホイールに手応えとして伝わりにくい。
この点、操舵装置100に第1の実施の形態を適用する場合、たとえば車両が平坦な乾燥路をグリップ走行しているとき、横加速度LAの増大に伴い、ばね成分Tsp *における第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が増大される一方、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が減少される。ここで、第1のばね反力トルクTsp1 *はステアリングの剛性感に寄与し、第2のばね反力トルクTsp2 *は車両との一体感に寄与する。このため、目標舵角θ*は、第2のばね反力トルクTsp2 *をより強く反映したものとなる。そして反力モータ101は、当該目標舵角θ*が反映されたトルクを操舵反力として発生させる。したがって、横加速度LAの増大に応じてステアリングの剛性感がより減少する一方、車両との一体感がより増大する。横加速度LAの大きさに応じた車両との一体感が得られる。
また、車両が圧雪路などの低摩擦路を走行しているとき、横加速度LAが生じにくい。また、横加速度差分値ΔLAの増大に伴い、ばね成分Tsp *における第2のばね反力トルクTsp2 *の使用比率が増大される一方、第1のばね反力トルクTsp1 *の使用比率が減少される。このため、ステアリングの剛性感に寄与する第1のばね反力トルクTsp1 *が目標舵角θ*に反映されにくい。反力モータ101は当該目標舵角θ*が反映されたトルクを操舵反力として発生させる。運転者は剛性感が減少したことを手応えとして感じることにより、本来的に操舵感触としてしっかりとした手応えを感じにくい低摩擦路を走行していることを認識しやすくなる。
つぎに、第2〜第4の実施の形態のいずれか一を本例の操舵装置100に適用する場合について説明する。
この場合、図13に示されるように、反力制御部103にラック軸力演算部64を設ける。目標舵角演算部112は、ラック軸力演算部64により演算されるラック軸力Tafを加味して目標舵角θ*を演算する。そして、車両が低摩擦路を走行しているとき、横加速度差分値ΔLAの増大に伴いばね成分Tsp *におけるラック軸力Tafの使用比率が増大される。このため、目標舵角θ*は、ラック軸力Tafをより強く反映したものとなる。したがって、反力モータ101はラック軸力Tafをより強く反映したトルクを操舵反力として発生させる。このため、運転者は車両が滑りやすい低摩擦路を走行していることを操舵反力として認識しやすくなる。
以上のように、操舵装置100に第1〜第5の実施の形態のいずれの形態を適用する場合であれ、反力モータ101を通じてラック軸力Taf(路面反力)に応じた操舵反力をステアリングに付与することができる。このため、運転者に路面状態を操舵反力としてより適切に伝えることができる。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1〜第4の実施の形態では、トルクセンサ420はコラムシャフト22aに設けたが、インターミディエイトシャフト22bあるいはピニオンシャフト22cに設けてもよい。操舵トルクThが検出できるのであれば、操舵機構20の適宜の箇所に設けることが可能である。
・第1〜第4の実施の形態では、ピニオン角フィードバック制御部63において、ピニオン角θpに対してPID制御を行うようにしたが、PI制御を行ってもよい。第5の実施の形態における舵角フィードバック制御部114についても同様である。
・第1〜第4の実施の形態では、転舵輪26,26の転舵角θtaに対応するピニオン角θpについてフィードバック制御を行うようにしたが、インターミディエイトシャフト22bの回転角についてフィードバック制御を行うようにしてもよい。また、モータ31の出力軸の回転角についてフィードバック制御を行ってもよい。インターミディエイトシャフト22bおよびモータ31の出力軸の回転角は、いずれも転舵角θtaを反映する値であるため、これら回転角のフィードバック制御を通じて、間接的に転舵角θtaのフィードバック制御を行うことができる。また、転舵輪26,26の転舵角θtaを検出し、この転舵角θtaに対して直接フィードバック制御を行うようにしてもよい。この場合、目標ピニオン角演算部62は目標転舵角演算部として機能し、ピニオン角フィードバック制御部63は転舵角フィードバック制御部として機能する。同様に、第5の実施の形態では、舵角θsのフィードバック制御を行うようにしたが、反力モータ101の回転角θaのフィードバック制御を行ってもよい。
・第1〜第4の実施の形態では、理想EPSモデル71は、基本アシスト成分Ta1 *および操舵トルクThの総和に基づいて目標ピニオン角θp *(理想的なピニオン角)を求めるようにしたが、操舵トルクThのみに基づいて目標ピニオン角θp *を求めるようにしてもよい。
・第1〜第4の実施の形態では、基本アシスト成分演算部61は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を求めるようにしたが、操舵トルクThのみに基づいて基本アシスト成分Ta1 *を求めるようにしてもよい。また、基本アシスト成分演算部61は、位相補償制御およびトルク微分制御の少なくとも一方の制御を実行するようにしてもよい。位相補償制御は、アシスト勾配に基づいてトルクセンサ420により検出される操舵トルクThの位相を変化させてもよい。トルク微分制御は、基本アシスト成分Ta1 *の微分値が大きいほど基本アシスト成分Ta1 *の値を大きくすることが望ましい。
・第1〜第4の実施の形態では、コラムシャフト22aに操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置10を例に挙げたが、たとえばピニオンシャフト22cあるいはラック軸23に操舵補助力を付与するタイプの電動パワーステアリング装置に具体化してもよい。