JP6620575B2 - 厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、厚鋼板およびその製造方法に関する。特に、脆性亀裂伝播停止特性(以下、アレスト性ともいう。)に優れた、板厚が70mmを超える厚鋼板およびその製造方法に関する。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ならびに、建築および土木構造物に代表される大型構造物に対しては、破壊に対する安全性を担保する必要がある。特に、脆性破壊がひとたび発生すると高速かつ長範囲にわたって破壊が進むため、環境および経済に甚大な影響を与えうる。
近年、コンテナ船では、10000TEUを超えるような大型船の需要が増加し、高強度化および厚肉化が要求されている。特に、船体上部のアッパーデッキまたはハッチサイドコーミングに使用される鋼材については、脆性破壊が起きたとしても、脆性破壊の進展を停止するアレスト特性が付与された高強度厚肉材の適用が進んでいる。一般的に、強度が高くなり、かつ、板厚が増加すると、脆性破壊の発生および伝播に対する抵抗は小さくなる。そのため、従来使用されていた鋼材よりも高度な鋼材を開発する必要がある。
例えば、特許文献1では、板厚中心部におけるCが0.10%以下、板厚中心部における旧オーステナイト粒のアスペクト比が2.0以上、板厚中心部におけるM−A組織が5.0%以下であることを特徴とする引張強度780MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法が開示されている。
特許文献2では、各組織の面積率および結晶粒径に相当する結晶粒界密度を規定し、さらに1/4t部の{100}面を有する組織分率、1/2t部の{110}面を有する組織分率を規定することで、良好なアレスト特性を担保した高強度厚鋼板が開示されている。
特許文献3では、ミクロ組織および表層で形成される組織の粒径および硬さ、ならびに、中心部の粒径を規定し、さらに各板厚位置での(100)面の面積率を規定することで、良好なアレスト特性を担保した高強度厚鋼板が開示されている。
特許文献4では、ミクロ組織および表層で形成される粗大粒の存在率、ならびに、中心部の粒径を規定し、さらに各板厚位置での(100)面の面積率を規定することで、良好なアレスト特性を担保した高強度厚鋼板が開示されている。
特許文献5では、ミクロ組織および板厚中心部の粒径を規定し、良好なアレスト特性を担保した厚鋼板が開示されている。厚鋼板の製造時には、板厚中心部の温度を制御しながら最適な圧下を与えることを特徴としている。
特許文献6では、表層および板厚中心部の結晶粒径、ならびに、集合組織を規定し、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板が開示されている。
特許文献7では、ミクロ組織および表層の粗大なフェライトを抑制し、さらにセメンタイトのサイズを制御し、また、アレスト特性を満足するため必要な有効結晶粒径の最大値をNi量と板厚とから計算することにより、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板が開示されている。厚鋼板の製造時にも同様に、Ni量と板厚とから必要な圧延温度を規定することを特徴としている。
特許文献8では、焼き戻し時の昇温速度、表面および内部の温度状態、ならびに、焼き戻し温度を規定することで、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献9では、工業的に安定的かつ効率的な製造が可能な厚手高強度鋼板の製造方法であって、加速冷却後から焼き戻しまでの時間を規定することで、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献10では、1次仕上げ圧延および2次仕上げ圧延において、最適な温度で最適な圧下を行うことで、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献11では、比較的低温で圧延し、さらに仕上げ圧延後の鋼板の表面温度を制御して表層の結晶粒を微細化させることで、良好なアレスト特性を担保した厚手高強度鋼板の製造方法が開示されている。
特開2013−95926号公報 国際公開第13/150687号 特開2013−221190号公報 特開2013−221189号公報 特開2012−172258号公報 特開2011−214116号公報 特開2008−248382号公報 特開2011−52244号公報 特開2011−52243号公報 特開2008−261030号公報 特開2015−25205号公報
一般的に、板厚が増加すると板厚中央部の焼入れ性が低下するため、必要な強度が得られない。板厚が70mm以下の領域では、冷却速度を増加させることで焼入れ性不足を補うことができる。しかしながら、板厚が70mmを超えると、板厚中央部の冷却速度は板厚に依存して決まる。そのため、成分を最適化することで強度を担保しつつ、さらに良好なアレスト特性を付与させるためのミクロ組織、ならびに、加熱および圧延条件を見出す必要があった。
アレスト特性の確保に関しては、一般的に、結晶粒の微細化を推進することが望ましいとされている。しかしながら、板厚が70mmを超えると、従来知見されている結晶粒径を実現させるためには、成分および製造条件を調整するだけでアレスト性を確保することは難しく、表層から板厚内部に至るまでのミクロ組織を精緻に制御する必要があった。
本発明は、このような現状に鑑み、高強度かつアレスト性に優れた、板厚が70mmを超える厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記の知見を得るに至った。
まず、鋼板の高強度厚肉化にあたり、成分の見直しを行った。
海洋構造物に用いられる鋼材をベースに、強度を上げる成分および靭性の影響について、板厚が100mmの鋼材を用いて検討した。Ni、MoおよびVについて、添加量および靭性の関係を調査したところ、Niは添加量によらず靭性の低下がみられなかったが、MoおよびVは添加量が多くなると著しく靭性が低下した。このことから、極厚の鋼材に関しては、Niが強度および靭性の向上に最も適した元素であることが分かった。ただし、MoおよびVも、添加量を制限すれば、強度を上昇させるだけでなく、一定の靭性を確保できることが分かった。なお、vTrsが−80℃までを許容値とした場合、V含有量の上限値は0.15%、Mo含有量の上限値は0.35%となる。
次に、板厚が70〜100mmの各種成分が添加された鋼材を用いて、EH47の強度規格を満足するために必要な炭素当量(Ceq.)および各板厚の中心部の強度の関係について、圧延条件およびテンパー条件を変えて調査した。その結果、板厚が70mmの場合にはCeq.を0.40以上とすること、板厚が100mmの場合にはCeq.を0.47以上とすることで、EH47の強度規格を満足できることが分かった。また、Ceq.を0.52以上とすると、必要以上に強度が高くなり、靭性が低下することが分かった。
さらに、本発明者らは、板厚が70mmを超える厚鋼板において、アレスト特性を確保するために、組織およびその粒径に着目した。一般的に、結晶粒径を小さくすれば、アレスト特性は向上すると言われている。また、板厚が70mmを超える厚鋼板では、鋼板内部を急速に冷却することが困難であるため、鋼板内部にフェライト組織が必ず発現する。そこで、フェライト−ベイナイト組織からなる板厚が70mmを超える厚鋼板について、結晶粒径およびフェライト分率の関係について調査した。
図1および図2は、フェライト粒径または有効結晶粒径と、フェライト分率との関係を示す。図1に示すように、板厚が80、90および100mmの厚鋼板では、フェライト分率が小さくなると、フェライト粒径が小さくなる傾向にあることが分かる。よって、鋼板のフェライト組織の部位のみを考えれば、フェライト分率を減少させることで、アレスト特性が向上すると考えられる。しかしながら、フェライト−ベイナイト組織では、ベイナイトの平均粒径はフェライトの平均粒径の3倍程度大きいため、フェライト分率を減少させることは、逆にベイナイト組織を増加させることにつながり、鋼全体としての結晶粒径(有効結晶粒径)は大きくなる。その結果、アレスト特性は低下することになる。図2から分かるように、フェライト分率を減らすことは、アレスト特性の向上にはつながらない。
以上を考慮すれば、ベイナイト組織を微細化することが好ましい。しかし、実際に板厚が70mmを超える厚鋼板を製造する場合には、粗圧延での圧下量を大きく取りオーステナイト粒を微細化し、仕上げ圧延時の圧下量を確保できなくなるので、製造上ベイナイト組織を微細化することは難しい。
そこで、フェライト粒径を小さく確保しつつ、かつ、フェライト分率を一定量確保すれば、有効結晶粒径も小さくなり、アレスト特性の著しい向上が期待できると考えた。
そして、同一組成のスラブを用い、製造条件を変えて板厚が80mmの厚鋼板を作製したところ、フェライト分率、フェライト粒径、および、有効結晶粒径が変わらないにもかかわらず、アレスト特性が大きく異なる場合があった。例えば、1050℃でスラブ加熱を行い、仕上げ圧延を730℃または780℃で行った厚鋼板については、フェライト分率およびフェライト粒径はほぼ変わらなかった。また、有効結晶粒径についても、780℃仕上げ圧延の厚鋼板で、19.0μm(板厚をtとするときの1/4t部、以下、単に「1/4t」とする。)、24.0μm(板厚をtとするときの1/2t部、以下、単に「1/2t」とする。)、730℃仕上げ圧延の厚鋼板で17.6μm(1/4t)、22.8μm(1/2t)とさほど変わらなかった。しかしながら、アレスト特性については、−10℃におけるがKca値がそれぞれ596N/mm1.5、7007N/mm1.5であり、一桁異なる結果となった。そこで、これらの厚鋼板について詳細に調べたところ、厚鋼板の表層部の組織が大きく異なることが判明した。高アレスト特性が得られた730℃仕上げ圧延の厚鋼板では、組織が圧延方向に沿って扁平な組織となっており、この組織が初期段階で厚鋼板に亀裂が入るのを防止しているものと考えられる。
したがって、高強度、かつ、高アレスト特性を有する板厚が70mmを超える厚鋼板とするためには、フェライト分率、フェライト粒径および有効結晶粒径を規定することに加え、厚鋼板の表層部を規定する必要があることが分かった。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、その要旨は、下記に示す厚鋼板およびその製造方法にある。
(1)板厚が70mmを超える厚鋼板であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.040〜0.120%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:1.30〜2.20%、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
Cu:0.05〜1.00%、
Ni:0.05〜1.50%、
Nb:0.005〜0.050%、
Ti:0.005〜0.050%、
sol.Al:0.005〜0.060%、
N:0.001〜0.010%、
Cr:0〜0.50%、
Mo:0〜0.35%、
V:0〜0.15%、
B:0〜0.0030%、
Ca:0〜0.010%、
Mg:0〜0.0050%、
REM:0〜0.0050%、ならびに、
残部:Feおよび不純物であり、
下記式(i)で示されるCeq.が0.400〜0.520であり、かつ、
下記(a)〜(d)を満足する、厚鋼板。
(a)表層5mm以内の組織は圧延方向に伸長した組織を形成し、この組織の平均アスペクト比は1.5以上である。
(b)鋼板内部のミクロ組織はフェライトおよびベイナイトの複合組織を有し、板厚の1/4t部のフェライト分率が5.0〜35.0%、板厚の1/2t部のフェライト分率が3.0〜40.0%であり、かつ、各板厚位置において、フェライトおよびベイナイト以外の組織を合計で5%未満(0%を含む)有する。
(c)板厚の1/4t部の平均フェライト粒径が10.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均フェライト粒径が12.0μm以下である。
(d)板厚の1/4t部の平均有効結晶粒径が22.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均有効結晶粒径が32.0μm以下である。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(i)
(2)前記化学組成が、質量%で、
Cr:0.05〜0.50%、
Mo:0.05〜0.35%、および、
V:0.005〜0.15%、
から選択される1種以上を含有する、前記(1)に記載の厚鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、
B:0.0003〜0.0030%、
を含有する、前記(1)または(2)に記載の厚鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.010%、
Mg:0.0005〜0.0050%、および、
REM:0.0005〜0.0050%、
から選択される1種以上を含有する、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の厚鋼板。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の厚鋼板を製造する方法であって、
前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の組成を有する鋼片を用いて、板厚中心部を1000〜1150℃に加熱し、
板厚中心部が950〜1150℃の温度域において、累積圧下率を15〜60%、各パスの平均圧下率を3.5%以上で再結晶域圧延を行った後、
板厚中心部の温度がAr以上950℃以下で累積圧下率を40%以上、各パスの平均圧下率を5.0%以上で未再結晶域圧延を行い、
さらに、この未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板厚表面でAr−20℃〜Ar+30℃として圧延を完了し、
次いで、加速冷却を開始し、表面温度が550℃以下まで加速冷却を行い、
前記加速冷却終了後、焼戻し処理を行う場合には、350〜650℃の温度で行う、厚鋼板の製造方法。
(6)前記加速冷却終了後、350〜650℃の温度で焼戻し処理を行う、前記(5)に記載の厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、高強度かつアレスト性に優れた、板厚が70mmを超える厚鋼板およびその製造方法を提供することができる。
図1は、フェライト粒径とフェライト分率との関係を示すグラフである。 図2は、有効結晶粒径とフェライト分率との関係を示すグラフである。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
(A)化学組成について
各元素の作用効果と、含有量の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.040〜0.120%
Cは、鋼材の強度を高める元素である。C含有量が0.040%未満では、この効果が得られない。一方、C含有量が0.120%を超えると、強度の上昇により靭性の低下、溶接性の劣化、および、溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)の靭性が劣化する。また、アレスト特性が低下する。したがって、C含有量は0.040〜0.120%とする。C含有量は、0.050%以上であることが好ましく、0.090%以下であることが好ましい。
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸元素および強度に有効な元素である。Si含有量が0.05%未満では、これらの効果が得られない。一方、Si含有量が0.50%を超えると、HAZが硬化することにより靭性が低下する。したがって、Si含有量は0.05〜0.50%とする。Si含有量は0.10%以上であることが好ましく、0.30%以下であることが好ましい。
Mn:1.30〜2.20%
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、鋼材の強度および靭性を高める元素である。Mn含有量が1.30%未満では、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が2.20%を超えると、中心偏析が顕著となり板厚中心部の靭性が顕著に低下する。また、アレスト特性が低下する。したがって、Mn含有量は1.30〜2.20%とする。Mn含有量は1.60%以上であることが好ましく、2.00%以下であることが好ましい。
P:0.020%以下
Pは不純物元素であり、鋼材の機械的特性を低下させ、特に、低温靭性を低下させる。したがって、P含有量は0.020%以下とする。P含有量は0.015%以下であることが好ましく、なるべく低い方がより好ましい。
S:0.010%以下
Sは不純物元素であり、Mnと結合してMnSを形成し、鋼材の低温靭性を低下させる。したがって、S含有量は0.010%以下とする。S含有量は0.005%以下であることが好ましく、なるべく低い方がより好ましい。
Cu:0.05〜1.00%
Cuは、鋼に固溶して靭性を損なわずに強度を高めることができ、アレスト特性を改善する元素である。Cu含有量が0.05%未満では、これらの効果が得られない。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、靭性の低下、および、析出物増加によりアレスト特性の劣化をきたし、さらに、熱間での加工の際、表面に微小な割れを発生させる。したがって、Cu含有量は0.05〜1.00%とする。Cu含有量は0.20%以上であることが好ましく、0.50%以下であることが好ましい。
Ni:0.05〜1.50%
Niは、鋼に固溶して靭性を損なわずに強度を高めることができ、アレスト特性を改善する元素である。Ni含有量が0.05%未満では、これらの効果が得られない。一方、Niは高価な元素であり、過剰添加はコストの上昇を招く。したがって、Ni含有量は0.05〜1.50%とする。Ni含有量は0.30%以上であることが好ましく、1.10%以下であることが好ましい。
Nb:0.005〜0.050%
Nbは、本発明の鋼板において重要な元素である。Nbは、微量の添加により、未再結晶オーステナイト域を拡大し、組織微細化による強度およびアレスト特性の改善に寄与する。さらに、変態強化および析出強化に寄与する。Nb含有量が0.005%未満では、上記効果が得られない。一方、Nb含有量が0.050%を超えると、粗大な析出物が生成し、アレスト特性が劣化するだけでなく、HAZ靭性を著しく劣化させる。したがって、Nb含有量は0.005〜0.050%とする。Nb含有量は0.007%以上であることが好ましく、0.020%以下であることが好ましい。
Ti:0.005〜0.050%
Tiは、本発明の鋼板において重要な元素である。Tiは、TiNを形成し、鋼片の加熱時にオーステナイト粒径が大きくなることを抑制する元素である。オーステナイト粒径が大きくなると、変態後のベイナイトの粒径も大きくなる。そのため、所望のベイナイト粒径を得るために、Ti含有量を0.005%以上とする。Ti含有量が0.050%を超えると、TiCが生成して靭性が低下する。そのため、Ti含有量は、0.050%以下とする。Ti含有量は0.007%以上であることが好ましく、0.020%以下であることが好ましい。
sol.Al:0.005〜0.060%
sol.Alは、鋼の脱酸に必要な元素である。脱酸には、sol.Al含有量が0.005%以上であることが必要とされる。一方、sol.Al含有量が0.060%を超えると、粗大な介在物が増加しアレスト特性が低下するだけでなく、HAZの靭性も低下する。したがって、sol.Al含有量は0.005〜0.060%とする。sol.Al含有量は0.010%以上であることが好ましく、0.050%以下であることが好ましい。
N:0.001〜0.010%
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。N含有量が0.001%未満では、この効果が得られない。一方、N含有量が0.010%を超えると、不純物として存在し、靭性の低下を招きアレスト特性を劣化させる。したがって、N含有量は0.001〜0.010%とする。N含有量は0.002%以上であることが好ましく、0.006%以下であることが好ましい。
Cr:0〜0.50%
Crは、鋼材の強度を高める元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。Cr含有量が0.50%を超えると、鋼材の強度増加に伴う靭性の低下が顕著となる。したがって、Cr含有量は0.50%以下とする。一方、Cr含有量が0.05%未満では、鋼材の強度を充分に高めることができない場合がある。したがって、Cr含有量は0.05%以上であることが好ましい。
Mo:0〜0.35%
Moは、鋼材の強度を高める元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。Mo含有量が0.35%を超えると、鋼材の強度増加に伴う靭性の低下が顕著となる。また、アレスト特性が低下する。したがって、Mo含有量は0.35%以下とする。一方、Mo含有量が0.05%未満では、鋼材の強度を充分に高めることができない場合がある。したがって、Mo含有量は0.05%以上であることが好ましい。
V:0〜0.15%
Vは、炭窒化物を形成し、鋼材を析出強化する作用を有するため、必要に応じて含有させてもよい。V含有量が0.15%を超えると、析出強化に伴う靭性の低下が顕著となる。したがって、V含有量は0.15%以下とする。一方、V含有量が0.005%未満では、鋼材を充分に析出強化できない場合がある。したがって、V含有量は0.005%以上であることが好ましい。
B:0〜0.0030%
Bは、微量の添加で焼入れ性を高める元素であり、必要に応じて含有させてもよい。B含有量が0.0030%を超えると、効果が飽和するとともに、溶接部の靭性を低下させる。したがって、B含有量は0.0030%以下とする。一方、B含有量が0.0003%未満では、焼入れ性を安定して高めることができない場合がある。したがって、B含有量は0.0003%以上であることが好ましい。
Ca:0〜0.010%
Caは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。Ca含有量が0.010%を超えると、HAZ靭性および溶接性が悪化する。そのため、Ca含有量は0.010%以下とする。一方、Ca含有量が0.0005%未満では、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、Ca含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
Mg:0〜0.0050%
Mgは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。Mgが0.0050%を超えると、HAZ靭性および溶接性が悪化する。そのため、Mg含有量は0.0050%以下とする。一方、Mg含有量が0.0005%未満では、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、Mg含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
REM:0〜0.0050%
REMは、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。REMが0.0050%を超えると、HAZ靭性および溶接性が悪化する。そのため、REM含有量は0.0050%以下とする。一方、REM含有量が0.0005%未満では、HAZ靭性を安定して向上させることができない場合がある。したがって、REM含有量は0.0005%以上であることが好ましい。
本発明の厚鋼板は、上記の元素を含有し、残部はFeおよび不純物である化学組成を有する。「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
Ceq.:0.400〜0.520
鋼板の炭素当量Ceq.は、下記式(i)で示される。Ceq.が0.400未満では、板厚中心部まで焼きが入らず、降伏強度440MPa以上の高強度が得られない。また、靭性が低下することもある。一方、Ceq.が0.520を超えると、必要な強度を容易に得ることができるが、靭性の低下および溶接性の低下が起こるとともに、コストも増加する。また、アレスト特性が低下する。したがって、Ceq.は0.400〜0.520とする。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(i)
(B)ミクロ組織
以下に示す(a)〜(d)の組織規定のいずれか一つでも満足しない場合、良好な強度およびアレスト特性が得られない。
(a)表層5mm以内の組織は圧延方向に伸長した組織を形成し、この組織の平均アスペクト比は1.5以上である。
鋼板表層5mm以内のL断面に形成される組織の短軸と長軸の比であるアスペクト比の平均を1.5以上としなければならない。鋼板表層5mm以内のL断面に形成される組織のアスペクト比を1.5以上にすることは、本発明で良好なアレスト特性を得るのに最も重要な因子の一つである。前記アスペクト比が1.5未満の場合、アレスト特性が著しく低下する。前記アスペクト比が1.5以上であると、シアリップの形成が良好となり、アレスト特性が顕著に改善される。本発明の鋼板は、板厚が70mmを超えるため、表層組織は内部組織と異なる傾向がある。特に規定はしないが、表層組織は、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのいずれか1種またはこれらの混合組織で形成されることが好ましい。
(b)鋼板内部のミクロ組織はフェライトおよびベイナイトの複合組織を有し、板厚の1/4t部のフェライト分率が5.0〜35.0%、板厚の1/2t部のフェライト分率が3.0〜40.0%であり、かつ、各板厚位置において、フェライトおよびベイナイト以外の組織を合計で5%未満(0%を含む)有する。
鋼板に良好な強度を付与するために、本発明ではフェライトおよびベイナイトの組織分率を調整する必要がある。本発明の鋼板は、基本的にフェライトおよびベイナイトの複合組織からなる。本発明の鋼板の製造にあたっては、焼戻しを行う場合があるが、ベイナイトおよび焼戻しベイナイト、マルテンサイトおよび焼戻しマルテンサイトを区別せずに扱ってよい。
また、前記組織分率は、アレスト特性にも影響する。EBSDを用いてImage Quality像と15°以上の方位差を有する境界を粒界と定義したGrain Boundary像を重ね合わせてベイナイト組織を評価したところ、ベイナイトに該当する組織はフェライト組織に比べて粗大な結晶粒を呈することが分かった。このことから、フェライトおよびベイナイトの組織分率は、鋼板の後述する有効結晶粒径に影響を与える一つの要素となる。強度を付与するとともに、適切に有効結晶粒径を制御してアレスト特性を向上させるためには、板厚の1/4t部のフェライト分率を5.0〜35.0%、板厚の1/2t部のフェライト分率を3.0〜40.0%とする必要がある。板厚の1/4t部および板厚の1/2t部でそれぞれフェライト組織分率を規定したのは、板厚が70mmを超えると、圧延時のオーステナイト粒径および蓄積される歪み量が、板厚の1/4t部と板厚の1/2t部とで大きく異なるためである。
なお、鋼板内部のミクロ組織は、各板厚位置において、フェライトおよびベイナイト以外の組織を合計で5%未満(0%を含む)有する。フェライトおよびベイナイト以外の組織としては、パーライト、マルテンサイト、島状マルテンサイト(MA)などが挙げられる。
以上、組織分率について示したが、強度およびアレスト特性は各組織の状態にも依存するため、さらに組織について以下の要件を満足する必要がある。
(c)板厚の1/4t部の平均フェライト粒径が10.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均フェライト粒径が12.0μm以下である。
板厚の1/4t部および1/2t部の平均フェライト粒径は、それぞれ10.0μm以下、12.0μm以下としなければならない。フェライト粒径が前記値を超える場合、有効結晶粒径が顕著に微細化されず、良好なアレスト特性が得られない。フェライト粒径は微細化するほどアレスト特性が良好となる。しかしながら、70mmを超える板厚の場合、フェライト粒径の微細化を達成するには、低温で圧下率を高くした圧延を行わなければならず、圧延装置に負担がかかり、製造が困難になるため工業的でない。フェライト粒径の下限値は規定しないが、本発明の製造方法により製造する場合には、1/4t部および1/2t部の平均フェライト粒径は、実質的に3.0μm以上となる。なお、板厚の1/4t部と板厚の1/2t部でそれぞれ平均フェライト粒径を規定した理由は、板厚が70mmを超えると、圧延時のオーステナイト粒径および蓄積される歪み量が、板厚の1/4t部と板厚の1/2t部とで大きく異なるためである。
(d)板厚の1/4t部の平均有効結晶粒径が22.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均有効結晶粒径が32.0μm以下である。
板厚の1/4t部および1/2t部の有効結晶粒径の平均値は、それぞれ22.0μm以下、32.0μm以下としなければならない。有効結晶粒径は、良好なアレスト特性を得るのに最も重要な因子であり、微細化するほどアレスト特性が良好となる。そのため、各板厚位置における平均有効結晶粒径が前記値を超える場合、良好なアレスト特性が得られない。
70mmを超える板厚の場合、有効結晶粒径を微細化するには、低温で圧下率を高くした圧延を行わなければならず、圧延装置に負担がかかり製造が困難になるため工業的でない。平均有効結晶粒径の下限値は規定しないが、本発明の製造方法により製造する場合には、1/4t部および1/2t部の平均有効結晶粒径はそれぞれ、実質的に10.0μm以上、15.0μm以上となる。なお、板厚の1/4t部と板厚の1/2t部でそれぞれ平均有効結晶粒径を規定した理由は、板厚が70mmを超えると、圧延時のオーステナイト粒径および蓄積される歪み量が、板厚の1/4t部と板厚の1/2t部とで大きく異なるためである。
(C)製造方法
加熱温度:1000〜1150℃
加熱温度は、板厚中心部の温度を基準として1000〜1150℃とする。板厚が70mmを超える厚肉材の場合、鋼板の表面と板厚中心部とでは温度差が発生するため、管理温度を表面にしてしまうと、板厚中心部の温度が低下していないにも関わらず次工程に進んでしまう。その結果、必要な強度、靭性およびアレスト特性を満足できない恐れがある。そのため、加熱温度は、板厚中心部の温度を基準とする。加熱温度が1150℃を超えると、加熱γ粒が粗大化するため、アレスト特性を得るための微細な組織を得ることが困難になる。一方、加熱温度が1000℃未満であると、溶体化が不充分となる。好ましい加熱温度範囲は、1000〜1100℃である。
再結晶域圧延:板厚中心部が950〜1150℃の温度域において、累積圧下率が15〜60%、各パスの平均圧下率が3.5%以上
再結晶域圧延の温度域は、板厚中心部の温度を基準として950〜1150℃の範囲とする。板厚中心部の温度を基準とするのは、前記加熱温度において板厚中心部の温度を基準とした理由と同じである。再結晶域圧延の温度域が1150℃を超えると、再結晶による微細なオーステナイト粒が得られず、かえって粗大化する場合がある。一方、再結晶域圧延の温度域が950℃未満であると、オーステナイトの再結晶が顕著に起こらない。また、累積圧下率は15%以上とする。累積圧下率が15%未満であると、鋳造時に生成したポロシティなどの内部欠陥の影響を低減できないだけでなく、製品に必要な鋼材の幅が得られない。再結晶域圧延における累積圧下率が大きいほど、再結晶オーステナイトは微細化するが、次いで行う未再結晶域での累積圧下量を確保できなくなる。そのため、再結晶域圧延における累積圧下率は60%以下とする。また、各パスの平均圧下率は、3.5%以上とする。各パスの平均圧下率が3.5%未満であると、材料内部にひずみが入らず、オーステナイトの再結晶が顕著に起こらない。その結果、微細なオーステナイトが得られないだけでなく、パス数が増加し生産性が低下する。また、各パスの圧下率の上限は特に設けないが、各パスでの圧下率が10%を超えると、再結晶オーステナイトが粗大化する場合がある。そのため、各パスの平均圧下率は、10%以下であることが好ましい。また、各パスの平均圧下率は、4%以上であることが好ましい。
未再結晶域圧延:板厚中心部の温度がAr以上950℃以下、累積圧下率が40%以上、各パスの平均圧下率が5.0%以上
未再結晶域圧延の温度域は、板厚中心部の温度を基準としてAr以上950℃以下とする。板厚中心部の温度を基準とするのは、前記加熱温度において板厚中心部の温度を基準とした理由と同じである。未再結晶域圧延の温度域が950℃を超えると、オーステナイトの扁平が得られず、冷却後に微細な組織が得られない。一方、未再結晶域圧延の温度域がAr点未満であると、フェライトおよびオーステナイトの二相域圧延となり、表層および1/4t部で粗大なフェライトが多数生成し、アレスト特性が得られなくなる。また、累積圧下率が40%未満であると、CR(制御圧延)の効果が不充分となり、微細な組織が得られなくなる。そのため、累積圧下率は40%以上とする。累積圧下率の上限値は特に設けないが、板厚が70mmを超えると、未再結晶域で65%を超える累積圧下率を確保しようとすると、再結晶域圧延での累積圧下率を確保できなくなる。そのため、累積圧下率は65%以下であることが好ましい。また、各パスの平均圧下率は5.0%以上とする。各パスの平均圧下率が5.0%未満であると、鋼板内部まで圧延歪みが導入されず、微細な組織が得られないだけでなく、パス回数が増加し生産性が低下する。
未再結晶域圧延の最終パス開始温度:板厚表面でAr−20℃〜Ar+30℃
未再結晶域圧延の最終パス開始温度は、板厚表面の温度でAr−20℃〜Ar+30℃とする。未再結晶域圧延の最終パス開始温度がAr+30℃を超えると、板厚表面5mm以内にアスペクト比が1.5以上の組織が形成されない。一方、未再結晶域圧延の最終パス開始温度がAr−20℃未満であると、板厚表面5mmを超える領域にもアスペクト比が1.5以上の組織が形成され、アレスト特性が低下する。
加速冷却:未再結晶域圧延完了後に加速冷却を開始し、表面温度が550℃以下まで加速冷却
加速冷却は、未再結晶域圧延の完了後、加速冷却を開始する。強度および靭性向上の観点から、加速冷却は、圧延完了後から20℃以上温度が低下する前に開始することが好ましい。板厚が70mmを超える厚鋼板では、熱伝達が遅延することから、板厚中心部の冷却速度は1〜10℃/s程度にしかならない。しかし、本発明では、鋼板表面の組織状態を制御するため、表面温度の冷却速度を50℃/s以上にすることが好ましい。加速冷却の停止温度は、表面温度が550℃以下とする。加速冷却の停止温度が550℃を超えると、板厚中心部の冷却が不充分となり、強度および靭性が低下する。そのため、室温まで冷却することが望ましい。しかしながら、実際の製造においては、鋼板の脱水素を考慮する必要がある。そのため、加速冷却の停止温度は300〜400℃であることがより好ましい。
焼戻し温度:350〜650℃
加速冷却終了後、焼戻し処理を行う場合には、焼戻し温度は350〜650℃とする。焼戻し温度が350℃未満であると、焼戻しの効果が不充分となる。また、焼戻し温度が350℃以上である場合に得られる効果と同等の効果を得るには、長時間の熱処理が必要なるため、工業的でない。一方、焼戻し温度が650℃を超えると、強度の低下が著しくなり、充分な強度が得られない。また、微細な析出部の生成により組織が硬化し、靭性が低下する恐れがある。焼戻し温度は、400〜550℃であることが好ましい。
以上の工程により得られた本発明の厚鋼板は、板厚が70mmを超える。本発明の厚鋼板は、板厚が70mmを超えても、良好なアレスト特性を有する。板厚の上限は特に設けないが、本発明の厚鋼板は、板厚が120mmであっても、良好なアレスト特性が担保できることが分かっている。
本発明の厚鋼板は、降伏強度(YS)が460MPa以上、引張強度(TS)が570〜720MPa、および、シャルピー衝撃試験において脆性破面が50%になる温度(vTrs)が−40℃以下を満たす。また、本発明の厚鋼板は、アレスト特性の評価指標である−10℃におけるKca値が6000N/mm1.5以上を満たす。
<厚鋼板の製造>
表1に示す化学組成を有する鋼種a〜qを、表2に示す条件で製造することにより、試験No.1〜30の厚鋼板を得た。各厚鋼板の板厚を表3に示す。
Figure 0006620575
Figure 0006620575
<組織の測定方法>
各板厚位置からサンプルを切り出し、ナイタール腐食した組織を光学顕微鏡の500倍で撮影し、フェライトの面積率および結晶粒径、ならびに、表層5mm以内のアスペクト比を測定した。また、有効結晶粒径は、コロイダルシリカで仕上げたサンプルを用いて、1mm×2mmの領域を2μmステップでEBSD測定し、15°傾角を粒界として測定した。結果を表3に示す。
<降伏強度および引張強度試験>
各厚鋼板の1/4t部および1/2t部からそれぞれ、JIS Z 2241(2011)で規定される4号試験片を、圧延方向と平行な方向に採取し、降伏強度(YS)および引張強度(TS)を測定した。結果を表3に示す。なお、降伏強度の目標値は460MPa以上、引張強度の目標値は570〜720MPaとした。
<シャルピー衝撃試験>
各厚鋼板の表面、1/4t部および1/2t部からそれぞれ、JIS Z 2242:2005で規定されるVノッチ試験片を、圧延方向と平行な方向に採取してシャルピー衝撃試験を行い、脆性破面が50%になる温度(vTrs)を測定した。結果を表3に示す。なお、vTrsの目標値は−40℃以下とした。
<アレスト特性評価>
アレスト特性は、−10℃におけるKca値を算出することにより、行った。Kca値は、温度勾配型のESSO試験を実施することにより算出した。具体的には、負荷応力を少なくとも3条件以上として温度勾配型のESSO試験を実施し、負荷応力および脆性亀裂長さから求まるKca値を、脆性亀裂が停止した位置の温度でグラフを描画し、対数近似から−10℃におけるKca値を算出した。結果を表3に示す。なお、−10℃におけるKca値の目標値は、6000N/mm1.5以上とした。
Figure 0006620575
試験No.1〜9の厚鋼板は、本発明で規定される要件を全て満たすため、良好な特性が得られた。
試験No.10の厚鋼板は、C含有量が本発明で規定される範囲を上回る。試験No.12の厚鋼板は、Mn含有量が本発明で規定される範囲を上回る。試験No.16の厚鋼板は、Ceqの値が本発明で規定される範囲を上回る。試験No.17の厚鋼板は、Mo含有量が本発明で規定される範囲を上回る。そのため、焼入れ性が著しく向上し、フェライト生成量が低下し、靭性が低下し、かつ、アレスト特性が低下した。
試験No.11の厚鋼板は、Mn含有量が本発明で規定される範囲を下回る。そのため、焼入れ性が低下し、強度が未達となった。
試験No.13はCu含有量が本発明で規定される範囲を上回る。そのため、Cuチェッキングにより表面の靭性が低下し、また、内部はCu析出により靭性が低下し、さらに、アレスト特性が低下した。
試験No.14の厚鋼板は、Nb含有量が本発明で規定される範囲を上回る。試験No.15の厚鋼板は、Ti含有量が本発明で規定される範囲を上回る。そのため、析出物が増加することにより靭性が低下し、アレスト特性が低下した。
試験No.18の厚鋼板は、加熱温度が本発明で規定される範囲外であるため、初期γ粒径が粗大化し、焼きが入りやすくなったことでフェライト生成量が低下した。また、γ粒が大きいことに起因して平均有効結晶粒径が粗大化し、アレスト特性が低下した。
試験No.19の厚鋼板は、再結晶域での圧延によりγ粒径が微細化したが、未再結晶域での圧延において、累積圧下率が本発明で規定される範囲を下回るため、平均有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.20の厚鋼板は、再結晶域での圧延において、累積圧下率が本発明で規定される範囲を下回る。また、試験No.21の厚鋼板は、再結晶域での圧延において、平均圧下率が本発明で規定される範囲を下回る。そのため、γの微細化が進行せず、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.22の厚鋼板は、未再結晶域での圧延開始温度が本発明で規定される範囲よりも高いため、圧延初期に実質未再結晶域での圧下が行われておらず、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進まなかった。そのため、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.23の厚鋼板は、未再結晶域での圧延終了温度が本発明で規定される範囲よりも低い。そのため、粗大なフェライトが多数生成し、強度が低下するだけでなく、アレスト特性も低下した。
試験No.24の厚鋼板は、未再結晶域での圧延において、累積圧下率が本発明で規定される範囲よりも低いため、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進まなかった。その結果、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.25の厚鋼板は、未再結晶域での圧延において、平均圧下率が本発明で規定される範囲よりも低いため、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進まなかった。その結果、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.26の厚鋼板は、未再結晶域圧延の最終パス開始温度が本発明で規定される範囲よりも高いため、表面の伸長組織が未発達となり、アレスト特性が低下した。
試験No.27の厚鋼板は、未再結晶域圧延の最終パス開始温度が本発明で規定される範囲よりも低いため、表面の伸長組織は発達するが、内部の温度が高い。その結果、オーステナイト内部へのひずみの蓄積が進まなかったため、有効結晶粒径の微細化が達成されず、アレスト特性が低下した。
試験No.28の厚鋼板は、冷却停止温度が本発明で規定される範囲よりも高いため、内部組織に焼きが入らず、強度が低下した。
本発明によれば、高強度かつアレスト性に優れた、板厚が70mmを超える厚鋼板およびその製造方法を提供することができる。本発明の厚鋼板は、大型船の船体上部のアッパーデッキ、または、ハッチサイドコーミングに用いることにより、脆性破壊が発生したとしてもその破壊進展を停止することができ、気温が低い海域で運行される大型船の信頼性を向上させることができる。

Claims (6)

  1. 板厚が70mmを超える厚鋼板であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.040〜0.120%、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:1.30〜2.20%、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下、
    Cu:0.05〜1.00%、
    Ni:0.05〜1.50%、
    Nb:0.005〜0.050%、
    Ti:0.005〜0.050%、
    sol.Al:0.005〜0.060%、
    N:0.001〜0.010%、
    Cr:0〜0.50%、
    Mo:0〜0.35%、
    V:0〜0.15%、
    B:0〜0.0030%、
    Ca:0〜0.010%、
    Mg:0〜0.0050%、
    REM:0〜0.0050%、ならびに、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記式(i)で示されるCeq.が0.400〜0.520であり、かつ、
    下記(a)〜(d)を満足する、厚鋼板。
    (a)表層5mm以内の組織は圧延方向に伸長した組織を形成し、この組織の平均アスペクト比は1.5以上である。
    (b)鋼板内部のミクロ組織はフェライトおよびベイナイトの複合組織を有し、板厚の1/4t部のフェライト分率が5.0〜35.0%、板厚の1/2t部のフェライト分率が3.0〜40.0%であり、かつ、各板厚位置において、フェライトおよびベイナイト以外の組織を合計で5%未満(0%を含む)有する。
    (c)板厚の1/4t部の平均フェライト粒径が10.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均フェライト粒径が12.0μm以下である。
    (d)板厚の1/4t部の平均有効結晶粒径が22.0μm以下、かつ、板厚の1/2t部の平均有効結晶粒径が32.0μm以下である。
    Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(i)
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Cr:0.05〜0.50%、
    Mo:0.05〜0.35%、および、
    V:0.005〜0.15%、
    から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の厚鋼板。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    B:0.0003〜0.0030%、
    を含有する、請求項1または2に記載の厚鋼板。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.010%、
    Mg:0.0005〜0.0050%、および、
    REM:0.0005〜0.0050%、
    から選択される1種以上を含有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の厚鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれか一つに記載の厚鋼板を製造する方法であって、
    請求項1〜4のいずれか一つに記載の組成を有する鋼片を用いて、板厚中心部を1000〜1150℃に加熱し、
    板厚中心部が950〜1150℃の温度域において、累積圧下率を15〜60%、各パスの平均圧下率を3.5%以上で再結晶域圧延を行った後、
    板厚中心部の温度がAr以上950℃以下で累積圧下率を40%以上、各パスの平均圧下率を5.0%以上で未再結晶域圧延を行い、
    さらに、この未再結晶域圧延の最終パス開始温度を板厚表面でAr−20℃〜Ar+30℃として圧延を完了し、
    次いで、加速冷却を開始し、表面温度が550℃以下まで加速冷却を行う、厚鋼板の製造方法。
  6. 前記加速冷却終了後、350〜650℃の温度で焼戻し処理を行う、請求項5に記載の厚鋼板の製造方法。



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