特許文献1に記載されたディーゼルエンジンは、燃焼室内の全体にディーゼル燃料を均等に拡散することによって、理論空燃比の混合気の燃焼を成立させる。しかしながら、ディーゼル燃料は気化し難いため、特許文献1に記載されたディーゼルエンジンでは、燃焼室内に、燃料濃度が局所的に濃くなる部分が発生してしまうという問題がある。燃料濃度が局所的に濃くなると、燃焼室内において煤及び一酸化炭素(CO)が発生してしまう。
そこで、本発明は、圧縮着火式エンジンにおいて、煤及びCOの発生を抑制するとともに、燃費を向上させる。
本発明は、上記課題を解決するために、相対的に、自己着火に要する圧力又は温度が高く且つ気化しやすい第1燃料と、相対的に、自己着火に要する圧力又は温度が低く且つ気化しにくい第2燃料とを組み合わせ、エンジンの幾何学的圧縮比を低く抑えるようにした。
ここに開示する圧縮着火式エンジンは、
燃焼室を有するエンジン本体と、
前記燃焼室に、第1燃料としてのナフサを供給するよう構成された第1燃料供給部と、
圧縮着火に至る圧力及び温度の少なくとも一方が前記第1燃料よりも低くかつ、前記第1燃料よりも気化しにくい第2燃料を、前記燃焼室に供給するよう構成された第2燃料供給部と、
排気ガスの一部を排気通路から吸気通路に還流させる排気ガス還流通路と、
前記燃焼室の混合気を火花点火によって強制的に着火させる着火アシスト装置と、
前記第1燃料供給部及び前記第2燃料供給部を、エンジン運転域の全域において前記第1燃料が前記燃焼室に供給され、前記エンジン運転域の中負荷域及び高負荷域において前記第1燃料に加えて前記第2燃料が前記燃焼室に供給され、且つ前記第1燃料の前記燃焼室への供給重量が前記第2燃料の前記燃焼室への供給重量よりも多く、前記第2燃料の前記燃焼室への供給重量が前記燃焼室へ供給する全燃料重量の10%以下となるように制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記燃焼室の開口を開閉する吸気弁がエンジンの吸気下死点後に閉弁し、前記エンジン運転域の低負荷域では前記中負荷域及び高負荷域よりも吸気弁の閉時期が遅くなる吸気遅閉じ制御を実行し、
前記制御部は、前記吸気遅閉じ制御が実行される前記低負荷域において前記着火アシスト装置を作動させ、
前記制御部は、前記第1燃料及び前記第2燃料を前記燃焼室に供給する前記高負荷域において、前記排気ガス還流通路による排気ガスの還流を実行し、
幾何学的圧縮比が13以上18以下に設定されていることを特徴とする。
この構成によると、燃焼室への供給重量は、第2燃料よりも第1燃料の方が多い。第2燃料は「圧縮着火に至る圧力及び温度の少なくとも一方が前記第1燃料よりも低くかつ、前記第1燃料よりも気化しにくい」ということは、相対的に、第1燃料は気化しやすく、第2燃料は圧縮着火しやすいということである。
従って、この圧縮着火式エンジンにおいては、燃焼室への供給重量が多く気化しやすい第1燃料が主になってトルクが生成され、この第1燃料の混合気の着火が圧縮着火しやすい第2燃料によって補完されることになる。端的に言えば、第1燃料がトルク生成のための主燃料となり、第2燃料が着火用燃料になるという位置付けである。
ここに、エンジンの幾何学的圧縮比を高くすると、第1燃料に係る混合気の着火性は良くなるが、その過早着火を招く懸念がでてくる。
そこで、本発明は、圧縮比を高くすることによって第1燃料に係る混合気を着火させるのではなく、この混合気の着火に圧縮着火しやすい第2燃料を利用することで、低圧縮比(幾何学的圧縮比が13以上18以下)を実現している。
従って、第1燃料を過早着火させることなく、燃焼室内に第1燃料が気化した均質な混合気を形成することができるから、煤及びCOの発生の抑制に有利になる。その上で、混合気の着火遅れを圧縮着火しやすい第2燃料によって抑制することができるから、燃費の改善に有利になる。すなわち、第1燃料に係る混合気の着火時期を圧縮着火しやすい第2燃料によってコントロールして、燃焼重心を熱効率が高くなる時期にもってくる、換言すれば、燃焼のピークをエンジンの膨張行程の開始直後付近にもってくることができる。
そうして、エンジンの低負荷域では、吸気遅閉じ制御により、ポンプ損失を抑制して燃費性能を向上させることができ、当該制御によって有効圧縮比が低下しても、火花点火により混合気を確実に着火させることができるから、安価なナフサを燃料として経済性に優れたエンジン運転を安定して行なうことができる。
中負荷域及び高負荷域では、第1燃料(ナフサ)に加えて、第1燃料よりも圧縮着火に至る圧力及び温度の少なくとも一方が低く且つ気化しにくい第2燃料が燃焼室に供給されるから、幾何学的圧縮比が13以上18以下である低圧縮比エンジンにおいても、第2燃料を着火用の燃料として混合気の着火遅れを抑制して燃費を改善することができる。そして、この第2燃料の燃焼室への供給重量は全燃料重量の10%以下となるようにしている。従って、中負荷域及び高負荷域でも、安価なナフサを多量に使用しつつ、上記着火遅れの抑制することができるので、経済性に優れたエンジン運転を安定して行なうことができる。
また、高負荷域では、燃焼室温度が高くなって、第1燃料に係る混合気が過早着火し易くなるところ、当該排気ガス(不活性ガス)の還流により、過早着火が抑えられ、高いエンジントルクが生成できる適正な着火時期とすることができる。
ここに、第1燃料が燃焼室に供給された後に、第2燃料が燃焼室に供給されるようにすることにより、第1燃料によって均質な気化混合気を形成したうえで、その混合気の着火時期を第2燃料によって適切にコントロールすることができる。これにより、第2燃料を第1燃料に係る混合気の圧縮着火に用いることができると共に、第2燃料の供給タイミングを調整することによって、圧縮着火及び燃焼タイミングを調整することが容易になる。
前記第2燃料は、前記第1燃料よりも、沸点が高い構成とすることができる。
こうすることで、第1燃料は、燃焼室内の圧力や温度が低い条件下で気化するため、燃焼室内の圧力が低い吸気行程から燃料供給が可能となり、早目の燃料供給タイミングと気化性能が高いことから、第1燃料は燃料供給量を多くしても、均質な混合気形成が可能となり、煤及びCOが発生することを抑制することが可能になると共に、トルクの向上及び燃費性能の向上を図ることができる。
第2燃料はディーゼル燃料を含む構成とすることができる。第1燃料としてのナフサは、ディーゼル燃料と比較して気化しやすいため、燃焼室内に均質な混合気を形成する上で有利である。ディーゼル燃料は、ナフサと比較して着火しやすいため、混合気は、適切なタイミングで圧縮着火することができる。また、ナフサは比較的安価であるため、ナフサの利用は経済性に優れる。
一実施形態では、前記制御部は、前記第1燃料及び前記第2燃料を前記燃焼室に供給するときは、エンジン運転域の一部領域または全領域において、前記排気ガス還流通路による排気ガスの還流を実行する。
当該排気ガス還流通路による排気ガスの還流は、その熱量による燃焼室内の温度上昇や、不活性ガスとしての燃焼、着火の抑制に機能するため、エンジンの運転領域毎に活用できる。
よって、低負荷側のエンジン運転域において、前記排気ガス還流通路による排気ガスの還流を実行する、としてもよい。
エンジン負荷が低くなるほど、燃焼室温度が低くなるところ、当該排気ガスの還流により、燃焼室内温度を高めて、第1燃料に係る混合気の着火性を高めることができる。また、排気ガスの還流により、燃焼室に導入する空気量を調整して、所期の空燃比にすることが容易になる。
また、高速側のエンジン運転域において、前記排気ガス還流通路による排気ガスの還流を実行する、としてもよい。
エンジン速度が高くなるほど、第1燃料の供給クランク角が長くなり、第1燃料の供給終了時点から圧縮上死点付近までの時間間隔は格段に短くなるため、第1燃料の均質混合気の形成が低下するものの、EGRガス(排気ガス)の還流による第1燃料の気化促進によって均質化の悪化が抑制され、煤の発生が無くなってエンジントルクを高めることができる。このように、ディーゼル燃料主体でEGRガスを還流すると、煤が増大するために、EGRガスの還流は不可能であったが、本件発明では、EGRガスの還流によって、むしろ、エンジントルクを高くできる。
一実施形態では、排気通路には、排気ガスを浄化する三元触媒が配置されており、前記制御部は、前記燃焼室内の空燃比A/Fが前記三元触媒の浄化ウインドウに相当する14.5以上15.0以下の範囲になるように、排気ガスの還流を制御する。この空燃比A/Fは、燃焼室に供給する第1燃料と第2燃料との総重量と、燃焼室に充填する空気の重量との比である。
これにより、従前の圧縮着火式エンジンのような排気ガス中のNOxを高酸素雰囲気下で還元する必要がなくなり、三元触媒による排気ガスの後処理が容易になる。
排気通路に、三元触媒を配設し、前記制御部は、前記三元触媒上流の排気ガスの空燃比(以下、排気ガスの空燃比という)が理論空燃比になるように、前記第1燃料及び前記第2燃料を前記燃焼室に供給する、としてもよい。
排気ガスの空燃比を理論空燃比にすれば、三元触媒によって排気ガスのCO、HC及びNOxを浄化することができ、圧縮着火式エンジンのエミッション性能がさらに向上する。また、排気ガス中のNOxを、NOx吸蔵還元触媒や尿素SCR(選択的触媒還元)システムを用いずに、三元触媒によって浄化することができ、排気後処理のコスト低減に有利になる。
尚、14.5〜15.0の空燃比範囲は、三元触媒の浄化ウインドウに相当するが、理論空燃比にすれば、三元触媒の浄化はより確実なものとなる。
また、従来のディーゼルエンジンでは、過給能力を高めて燃焼時の空燃比をリーンとし、煤やCO、NOxの低減を図る必要があったものの、本構成では、第1燃料の供給により、排気空燃比を理論空燃比とすることができ、三元触媒との組み合わせによって、従来のように過給に頼らなくても、煤やCOの低減とともに、NOxの低減を図ることができる。よって、過給機を装着しない安価なエンジンを提供することも可能である。
一実施形態では、第1燃料供給部は第1燃料をエンジン本体の吸気ポートに噴射し、第2燃料供給部は第2燃料を燃焼室内に直接噴射する。
吸気ポートに第1燃料を噴射すると、第1燃料は吸気流動によって燃焼室内に拡散するから、均質な混合気の形成に有利になる。従って、煤の発生及びCOの発生を抑制することができる。
第2燃料供給部は第2燃料を燃焼室内に直接噴射するから、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、燃焼室内に第2燃料を供給することができ、混合気を適切なタイミングで圧縮着火及び燃焼させることができる。
以上に説明したように、本発明に係る圧縮着火式エンジンによれば、煤及びCOの発生を抑制することができるから、排気エミッションの改善に有利になるとともに、エンジンの低負荷域、中負荷域及び高負荷域の全域において安価なナフサを燃料として多量に使用して、経済性に優れたエンジン運転を安定して行なうことができる。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は、エンジンシステムの概略構成を示している。図2は、エンジンシステムの制御に係る構成を例示している。エンジンシステムは、四輪車両に搭載される。ここに開示するエンジンシステムは、例えば大型トラック等の大型車両に適している。但し、ここに開示するエンジンシステムは、車両の大きさに関わらず、様々な四輪車両に広く適用することが可能である。
エンジンシステムは、圧縮着火式エンジンとしてのディーゼルエンジン1を備えている。ディーゼルエンジン1の作動によって、車両が進む。
このエンジンシステムは、ディーゼルエンジン1に、ディーゼル燃料(つまり、軽油又は軽油を主成分とした燃料)と、ディーゼル燃料とは特性が相違する異種燃料とを供給するよう構成されている。異種燃料は、圧縮着火に至る圧力及び温度の少なくとも一方がディーゼル燃料よりも高くかつ、沸点がディーゼル燃料よりも低い特性を有している。異種燃料は、ディーゼル燃料よりも気化しやすく、ディーゼル燃料よりも着火しにくい。異種燃料は第1燃料に相当し、ディーゼル燃料は第2燃料に相当する。異種燃料は、主にトルク生成用の燃料である。ディーゼル燃料は、主に着火用の燃料である。
異種燃料は、具体的にはナフサである。このエンジンシステムに使用可能なナフサは、軽質ナフサ、重質ナフサ、及び、ホールレンジナフサを含む。軽質ナフサ、重質ナフサ、及び、ホールレンジナフサは、沸点範囲が相違する。また、ナフサに、原油あるいは重油を少量混入した変成ナフサを、このエンジンシステムに使用してもよい。
前記の異種燃料は、ナフサ以外に、ガソリンとしてもよい。また、異種燃料は、一種類の燃料とは限らず、二種類以上の燃料を混合した燃料としてもよい。例えばナフサとガソリンとの混合燃料、ナフサと他の燃料との混合燃料、又は、ガソリンと他の燃料との混合燃料を、異種燃料として使用してもよい。
以下においては、ディーゼル燃料とナフサとをディーゼルエンジン1に供給するエンジンシステムの説明をする。
<エンジンシステムの構成>
ディーゼルエンジン1は、複数のシリンダ11a(図1においては、一つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。ディーゼルエンジン1の各シリンダ11a内には、ピストン14が、シリンダ中心軸に沿って往復動するよう嵌挿されている。ピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。ピストン14の頂面にはリエントラント形の燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。ディーゼルエンジン1は、その幾何学的圧縮比が13以上18以下に構成されている。
シリンダヘッド12には、シリンダ11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されている。吸気ポート16には、燃焼室14aの開口を開閉する吸気弁21が配設されている。排気ポート17には、燃焼室14aの開口を開閉する排気弁22が配設されている。
ディーゼルエンジン1は、吸気弁21を駆動する動弁機構として、バルブタイミングを可変にする吸気S-VT(Sequential-Valve Timing)71を備えている(図2参照)。吸気S-VT71は、液圧式又は電動式といった、公知の様々な構成を採用することができる。ディーゼルエンジン1は、運転状態に応じて、吸気弁21のバルブタイミングを変更する。
シリンダヘッド12には、第1燃料供給部としてのナフサ用インジェクタ19と、第2燃料供給部としてのディーゼル燃料用インジェクタ18とが取り付けられている。
ナフサ用インジェクタ19は、吸気ポート16の中に、ナフサを噴射するよう構成されている。つまり、ナフサ用インジェクタ19は、ナフサを噴射する噴孔が、各シリンダ11aの吸気ポート16の中に臨むように配設されている。ナフサ用インジェクタ19には、第1燃料タンク191に貯留しているナフサが、図示を省略するナフサ供給経路を通じて供給される。
ディーゼル燃料用インジェクタ18は、燃焼室14aの中に、ディーゼル燃料を直接噴射するよう構成されている。つまり、ディーゼル燃料用インジェクタ18は、ディーゼル燃料を噴射する噴孔が、シリンダヘッド12の底面からシリンダ11aの中に臨むように配設されている。図例では、ディーゼル燃料用インジェクタ18を、シリンダ11aの中心軸上に配設しているが、ディーゼル燃料用インジェクタ18の配設位置は、適宜の位置にすることができる。ディーゼル燃料用インジェクタ18には、第2燃料タンク181に貯留しているディーゼル燃料が、図示を省略するディーゼル燃料供給経路を通じて供給される。
シリンダヘッド12にはまた、着火アシスト装置が取り付けられている。着火アシスト装置は、ディーゼルエンジン1が特定の運転状態にあるときに、混合気の着火をアシストする。着火アシスト装置は、具体的には、火花点火により混合気を着火する点火装置20である。点火装置20は、詳細な図示は省略するが、電極が、燃焼室14a内に臨んで配設されている。着火アシスト装置は、点火装置に代えて、シリンダ11a内の空気を暖めることによって燃料の着火性を高めるグロープラグとしてもよい。
ディーゼルエンジン1の一側面には、吸気通路30が接続されている。吸気通路30は、各シリンダ11aの吸気ポート16に連通している。吸気通路30は、各シリンダ11aに、空気及びEGRガスを導入する。ディーゼルエンジン1の他側面には、排気通路40が接続されている。排気通路40は、各シリンダ11aの排気ポート17に連通している。排気通路40は、各シリンダ11aから既燃ガスを排出する。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、空気を過給するターボ過給機61が配設されている。
吸気通路30の上流端部には、空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、シリンダ11a毎に分岐する独立通路を構成する。各独立通路の下流端が各シリンダ11aの吸気ポート16に接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、ターボ過給機61のコンプレッサ61aと、コンプレッサ61aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。インタークーラ35は、空冷式又は水冷式に構成すればよい。スロットル弁36は、基本的には全開状態であるが、例えば大量のEGRガスを吸気通路30に還流するときには、吸気通路30に負圧を発生させるために絞られる。
排気通路40の上流側の部分は、排気マニホールドによって構成されている。排気マニホールドは、シリンダ11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された複数の独立通路と、複数の独立通路が集合する集合部と、を有している。
排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
排気浄化装置41は、三元触媒41aを有している。三元触媒41aは、排気ガス中の、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に浄化する。三元触媒41aは、炭化水素を水と二酸化炭素とに酸化し、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、窒素酸化物を窒素に還元する。三元触媒41aは、排気ガスの空燃比(空気と燃料との重量比)が、理論空燃比にあるときに十二分に排気ガスを浄化できるが、空燃比が14.5〜15.0の略理論空燃比の浄化ウインドウにあるときでも、排気ガスを浄化することが可能である。
排気浄化装置41は、三元触媒41aに加えて、排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するパティキュレートフィルタを有するようにしてもよい。
吸気通路30と排気通路40との間には、排気ガス還流通路51が介設している。排気ガス還流通路51は、排気ガスの一部を吸気通路30に還流する。排気ガス還流通路51の上流端は、排気通路40における排気マニホールドとタービン61bとの間の部分(つまりタービン61bよりも上流側部分)に接続されている。排気ガス還流通路51の下流端は、吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり、コンプレッサ61aよりも下流側部分)に接続されている。排気ガス還流通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設されている。
ターボ過給機61は、吸気通路30に配設されたコンプレッサ61aと、排気通路40に配設されたタービン61bとを有している。コンプレッサ61aとタービン61bとは互いに連結されており、コンプレッサ61aとタービン61bとは一体に回転する。コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと排気浄化装置41との間に配設されている。タービン61bが排気ガス流により回転することによって、コンプレッサ61aが回転し、空気を圧縮する。
排気通路40には、タービン61bをバイパスする排気バイパス通路65が接続されている。排気バイパス通路65には、排気バイパス通路65を流れる排気量を調整するためのウエストゲート弁65aが配設されている。ウエストゲート弁65aは、無通電時には全開状態(ノーマルオープン)となるように構成されている。
<エンジンの制御装置の構成>
図1及び図2に示すように、ディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御装置(及び制御部)を構成する。PCM10には、図2に示すように、様々なセンサの検出信号が入力される。ここに含まれるセンサは、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、三元触媒41aの上流側と下流側の排気通路に取り付けられ、排気中の酸素濃度を検出するO2センサSW6、排気通路40におけるタービン61bよりも上流側における排気圧力を検出する排気圧力センサSW7、吸気通路30内に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサSW8、EGR弁51aの開度を検出するEGR弁開度センサSW9、吸気弁21の位相角を検出する吸気弁位相角センサSW10、及び、ウエストゲート弁65aの開度を検出するウエストゲート弁開度センサSW11である。
PCM10は、これらのセンサSW1〜SW11の検出信号に基づいて種々の演算を行うことにより、ディーゼルエンジン1や車両の状態を判定すると共に、ディーゼル燃料用インジェクタ18、ナフサ用インジェクタ19、点火装置20、吸気S-VT71、スロットル弁36、EGR弁51a、及び、ウエストゲート弁65aそれぞれのアクチュエータへ制御信号を出力する。
<エンジンの制御>
PCM10によるディーゼルエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルクを決定し、ディーゼル燃料用インジェクタ18及びナフサ用インジェクタ19に、目標トルクに対応する燃料の噴射を実行させることである。
PCM10はまた、ディーゼルエンジン1の運転状態に応じて、シリンダ11a内へ導入する空気量を調整する。具体的にPCM10は、スロットル弁36やEGR弁51aの開度の制御(つまり、EGR制御)、及び/又は、吸気S-VT71による吸気弁21のバルブタイミングの制御(つまり、吸気遅閉じ制御)を行うことにより、空気量を調整する。吸気弁21を圧縮行程の中期(圧縮行程のクランク角180°を三等分した前期、中期、後期とした場合の中期)の、吸気下死点後60°〜120°の範囲内で閉弁(吸気弁21のリフト高さが0.4mmm時点を閉弁時期と定義)する遅閉じ制御を行うと、ポンプ損失を増やすことなく、シリンダ11a内へ導入する空気量を調整することができる。また、EGRガスを還流させると、シリンダ11a内へ導入する空気量を調整することができる他に、シリンダ11a内の温度を高めて(吸気遅閉じ制御による有効圧縮比の低下に伴って、圧縮上死点付近でのシリンダ11a内の温度上昇が不足するものの、これを補完して)混合気の着火性を高めることができる。さらには、シリンダ11a内の温度が高くなる高負荷域において、EGRガスを還流させると、EGRクーラ52内を流通した低温の不活性ガスが燃焼室14aに還流されるため、混合気(ナフサ)の過早着火が抑えられ、高いエンジントルクが生成できる適正な着火時期で混合気を着火させることができる。
PCM10はさらに、O2センサSW6が検出した排気中の酸素濃度と、エアフローセンサSW8が検出した吸気流量とに基づいて、空気量及び燃料量の調整を行う空燃比フィードバック制御を行う。PCM10は、燃焼室14a内の混合気の空燃比(つまり、燃焼室14a内の空気(A)と燃料(F)との重量比(A/F))を理論空燃比にして燃焼室14aから排出する排気ガスの空燃比を理論空燃比 にする。
なお、A/F=14.5〜15.0は、三元触媒41aの浄化ウインドウに相当する空燃比であるため、燃焼室14a内の空燃比を略理論空燃比(14.5〜15.0)にし、燃焼室14aから排出する排気ガスの空燃比を14.5〜15.0の範囲にしてもよい。ここでいう燃料量は、ディーゼル燃料及びナフサの両方を含む全燃料量である。このエンジンシステムは、ディーゼルエンジン1の運転域の全域に亘って、空燃比フィードバック制御を行う。このことによってエンジンシステムは、ディーゼルエンジン1の運転域の全域に亘って、三元触媒41aを利用した排気ガスの浄化を行う。
(燃料噴射制御)
次に、PCM10が実行する燃料噴射制御について説明をする。前述したように、このエンジンシステムは、主にトルク生成用のナフサと、主に着火用のディーゼル燃料とをディーゼルエンジン1に供給する。ナフサの供給重量と、ディーゼル燃料の供給重量とを比較したときに、ナフサの供給重量の方が、ディーゼル燃料の供給重量よりも多い。ディーゼル燃料は、燃焼室14aに供給する全燃料量に対して、重量比で10%以下にする。ディーゼル燃料は、例えば、全燃料重量に対して5%としてもよい。
ナフサは、ディーゼル燃料よりも沸点が低いため、燃焼室14a内において気化しやすい。そこで、ナフサによって燃焼室14a内に、均質かつ、理論空燃比に近い混合気を形成する。これによって、煤の発生を抑制すると共に、COの発生を抑制する。
一方で、ナフサは、圧縮着火に至る圧力及び温度の少なくとも一方がディーゼル燃料よりも高い。つまり、ナフサは、着火性が低い。前述したように、ディーゼルエンジン1は、幾何学的圧縮比が13以上18以下の低い圧縮比に構成されており、燃料の着火には不利である。
そこで、このエンジンシステムでは、着火性に優れたディーゼル燃料を、燃焼室14a内に供給する。ディーゼル燃料は、着火用燃料として機能するから、混合気は、所定のタイミングで確実に圧縮着火することができる。ナフサ及びディーゼル燃料を含む混合気が、燃焼する。
図3は、所定のエンジン回転数における、ナフサ及びディーゼル燃料の噴射タイミングを例示している。吸気ポート16に取り付けられたナフサ用インジェクタ19は、吸気弁21が開いている吸気行程期間に、吸気ポート16内にナフサを噴射する。ナフサの噴射タイミングは、吸気行程の中期から前期の期間内に設定すればよい。ここで、吸気行程の前期及び中期はそれぞれ、吸気行程を、前期、中期及び後期の三つの期間に三等分したときの、前期及び中期とすればよい。吸気行程の中期から前期の期間は、シリンダ11a内の吸気流動が高くなる。この期間にナフサを噴射することによって、吸気流動を利用して、ナフサを、燃焼室14a内の全体に拡散させることができると共に、混合気を均質化することが可能になる。
燃焼室14a内に臨んで取り付けられたディーゼル燃料用インジェクタ18は、圧縮行程期間に、燃焼室14a内にディーゼル燃料を噴射する。ディーゼル燃料の噴射タイミングは、圧縮上死点付近、具体的には、圧縮上死点前30〜10°CAの期間内に設定すればよい。こうすることで、圧縮上死点付近において混合気が圧縮着火し、燃焼を開始することができる。この燃焼の燃焼重心が、圧縮上死点後5〜10°CAとなるようにすれば、ディーゼルエンジン1の熱効率が高まる。また、前述したように、ディーゼルエンジン1の幾何学的圧縮比が低いため、ディーゼル燃料を噴射する前に、ナフサを含む混合気が過早着火してしまうことを回避することができる。ディーゼル燃料の噴射タイミングを調整することによって、混合気が圧縮着火するタイミングを調整することができる。
ここに、本実施形態では、図4に示すエンジン1の運転域の中負荷域(S1域)及び高負荷域(S2域)において、ディーゼル燃料を着火用燃料として使用する。低負荷域(P域)並びにエンジン1の冷間時又は強制始動時(CS域)では、ディーゼル燃料は供給せず、ナフサ燃料が100%となるようにして、着火アシスト装置によって燃料を着火させる。
エンジン負荷が低いとき及びエンジン冷間時は、燃焼室温度が低いため、ディーゼル燃料を供給しても所期の着火性を得ることが難しい。また、上述の吸気遅閉じ制御によりエンジンの有効圧縮比が低くなり、燃料の着火性が悪くなる。
そこで、低負荷域(P域)並びにエンジン1の冷間時又は強制始動時(CS域)では、ディーゼル燃料を使用せず、着火アシスト装置によって燃料を着火させるものである。ディーゼル燃料を供給して着火アシスト装置を作動させるようにしてもよい。
(EGR制御)
PCM10は、上述の如く、燃焼室14aの空燃比A/Fを略理論空燃比にするために、並びに、燃料の着火性高めるために、ナフサ及びディーゼル燃料の両方を燃焼室14aに供給するときは、少なくとも低負荷側の運転域において、EGR弁51aを制御して、排気通路40から排気ガスの一部を吸気通路30に還流させる(EGR)。
図4に示すエンジン1の運転域において、中負荷域(S1域)及び高負荷域(S2域)がナフサ及びディーゼル燃料の両方を燃焼室14aに供給する運転域であり、その少なくとも低負荷側の運転域である中負荷域(S1域)において、EGRを実行するものである。
本実施形態では、PCM10は、図4に示すエンジン1の低負荷域(P域)、中負荷域(S1域)及び高負荷域(S2域)において、EGRを実行する。エンジン負荷が高い運転域では低い運転域に比べてEGR率(還流排気ガス量と吸入空気量の総量に占める還流排気ガス量の割合)を低くする。具体的には、低負荷域(P域)及び中負荷域(S1域)では、EGR率が40%となるようにEGR弁51aが制御され、高負荷域(S2域)では、EGR率が30%〜0%の範囲で負荷が高くなるほどEGR率が低くなるようにEGR弁51aが制御される。
(吸気遅閉じ制御)
PCM10は、燃焼室14aの空燃比A/Fを略理論空燃比にするために、上述のEGR制御に加えて、エンジン低負荷域(P域)において、吸気S-VT71による吸気遅閉じ制御を実行する。
ここに、スロットル弁36は、基本的にはEGRのために、吸気負圧を得るべく、閉じ方向に制御される。すなわち、空燃比A/Fを略理論空燃比にするための手段(新気導入量を少なくする手段)として、スロットル制御を利用することも可能であるが、そのスロットル制御により、ポンプ損失が大きくなる。
そこで、本実施形態では、当該空燃比制御において、吸気弁21の遅閉じ制御(圧縮行程での開弁期間が長くなる制御)を行なうようにしている。
図5において、仮想線は、吸気弁21の基準となるバルブタイミングを示しており、本実施形態では、その閉時期は吸気下死点後30°CAである。PCM10は、エンジン負荷が低くなるほど、吸入空気量が少なくなるように吸気弁21の閉時期を遅らせる。図5の実線は、吸気弁21の閉時期を吸気下死点後90°CAとなるように遅らせたバルブタイミングを示す。尚、吸気弁21の閉弁時期は、吸気弁21のリフト量が0.4mmに低下した時点と定義する。
<エンジン制御の具体例>
図6に示すように、各センサSW1〜SW11の検知信号が読込まれ、エンジン1の運転状態がCS域(冷間時又は強制始動時)にあるか否かを判別される(S1,S2)。
エンジン1の運転状態がCS域にあるときは、ステップS3に進んで、ウエストゲート弁65aが開とされる。これにより、排気ガスはタービン61bをバイパスして三元触媒41aに送られる。従って、排気ガスからタービン61bに熱が奪われることが避けられ、排気ガスの熱による三元触媒41aの早期昇温に有利になる。続くステップS4において、燃焼室14aに供給される燃料がナフサ100%となり且つ空燃比が理論空燃比以下(A/Fが15以下のリッチ)となるように、吸気行程の所定タイミングでナフサ用インジェクタ19が駆動される。続くステップS5において、圧縮上死点近傍の所定のタイミングで燃料が着火するように点火装置20を作動される。
ステップS2において、エンジン1の運転状態がCS域にないときは、ステップS6に進んでエンジン1の運転状態がP域(低負荷域)にあるか否かが判別される。
エンジン1の運転状態がP域にあるときは、ステップS7に進んで、EGR率が40%になるように、EGR弁51aの開度が制御される。続くステップS8において、吸気弁21の閉時期が所定の遅閉じタイミングとなるように、吸気S-VT71が駆動される。続くステップS9において、燃焼室14aに供給される燃料がナフサ100%となり且つ空燃比が理論空燃比(A/F=14.7付近)となるように、吸気行程の所定タイミングでナフサ用インジェクタ19が駆動される。続くステップS10において、圧縮上死点近傍の所定のタイミングで燃料が着火するように点火装置20を作動される。
ステップS6において、エンジン1の運転状態がP域にないときは、ステップS11に進んでエンジン1の運転状態がS1域(中負荷域)にあるか否かが判別される。
エンジン1の運転状態がS1域にあるときは、ステップS12に進んで、EGR率が40%になるように、EGR弁51aの開度が制御される。また、吸気弁21のバルブタイミングは基準タイミング(図5の仮想線)となるように制御される。続くステップS13において、ナフサが燃焼室14aに供給される燃料総量の95%となり且つ空燃比が理論空燃比となるように、吸気行程の所定タイミングでナフサ用インジェクタ19が駆動される。続くステップS14において、ディーゼル燃料が燃焼室14aに供給される燃料総量の5%となり且つ空燃比が理論空燃比となるように、圧縮行程後半の所定タイミングでディーゼル燃料用インジェクタ19が駆動される。
ステップS11において、エンジン1の運転状態がS1域にないときは、エンジン1の運転状態がS2域(高負荷域)にあるときである。このときはステップS15に進んで、EGR率が30%以下になるように、EGR弁51aの開度が制御される。また、吸気弁21のバルブタイミングは基準タイミング(図5の仮想線)となるように制御される。続くステップS13において、ナフサが燃焼室14aに供給される燃料総量の95%となり且つ空燃比が理論空燃比となるように、吸気行程の所定タイミングでナフサ用インジェクタ19が駆動される。続くステップS14において、ディーゼル燃料が燃焼室14aに供給される燃料総量の5%となり且つ空燃比が理論空燃比となるように、圧縮行程後半の所定タイミングでディーゼル燃料用インジェクタ19が駆動される。
<制御例>
図7は、幾何学的圧縮比が16のエンジン1において、エンジン回転数1500rpmでの、低負荷域(P域)、中負荷域(S1域)、及び高負荷域(S2)での燃焼制御に関する主な諸元の一例を示す。なお、ここで示す数値は、例示であり、仕様に応じて変更可能である。また、各数値は、基準値を示しており、実用上は多少のばらつきを含み得る。
低負荷域では、EGR率が40%とされ、比較的多量のEGRガスが燃焼室に導入される。吸気弁の閉時期(IVC)は、吸気遅閉じ制御が行われ、吸気下死点後の90°CAとされている。吸気遅閉じ制御による有効圧縮比の低下も加わって、安定した圧縮着火が困難なことから、着火アシスト装置による強制的な着火が行われ、燃料には、安価であることに加え、均質な混合気が形成でき、エミッションの低減に有利なナフサのみが用いられる。
中負荷域では、EGR率は、低負荷域と同じ40%とされ、比較的多量のEGRガスが燃焼室に導入される。吸気弁の閉時期(IVC)は、基準の設定に戻され、吸気下死点後の30°CAとされている。安定した圧縮着火が可能なことから、着火アシスト装置は使用せず、圧縮着火によって燃焼が行わる。主燃料であるナフサに、5%のディーゼル燃料を加えることで、安定した圧縮着火が行えるようにしている。そして、EGRクーラ52により冷却された比較的低温の不活性ガス(EGRガス)が燃焼室に導入されるため、混合気着火後の急峻な燃焼の立ち上がりが抑制され、燃焼騒音の増大や、熱負荷の増大が抑制される。
高負荷域では、EGR率は30%とされ、効率的な燃焼を実現するため、空気量を相対的に増加させている。吸気弁の閉時期(IVC)は、中負荷域と同様に、吸気下死点後の30°CAとされ、安定した圧縮着火が可能なことから、圧縮着火によって燃焼が行われる。燃料には、中負荷域と同様に、5%のディーゼル燃料と95%のナフサが用いられる。そして、EGRクーラ52により冷却された比較的低温の不活性ガス(EGRガス)が燃焼室に導入されるため、混合気(ナフサ)の過早着火が抑制され、高いエンジントルクが生成できる着火時期とすることができる。
また、エンジン高速域でも、EGR率は30%とされ、効率的な燃焼を実現するため、空気量を相対的に増加させている。吸気弁の閉時期(IVC)は、高速域で吸気充填量が多くできるタイミングとされており、吸気下死点後の45°CA程度とされている。高速域では、吸気行程から圧縮行程までのクランク角経過時間が低速域に対して短くなるため、クランク角で見た場合の、吸気ポート16を介してのナフサ供給期間が長くなる一方、ナフサ供給終了時点から圧縮上死点付近までの時間間隔は格段に短くなり、ナフサの均質混合気の形成が低下するものの、EGRガスの還流によるナフサの気化促進によって均質化の悪化が抑制され、煤の発生が無くなってエンジントルクを高めることができる。なお、高速域においても5%のディーゼル燃料と95%のナフサが用いられるが、エンジン速度とナフサの供給から圧縮上死点付近までの時間間隔との兼ね合いから、最適な着火時期が得られない場合は、100%のナフサを供給して、着火アシスト装置による強制的な着火を行っても良い。
このように、高速域でEGRガスを還流した場合は、主体燃料がディーゼル燃料の場合は煤が増大するためEGRガスの還流が不可能であったものの、ナフサ主体の燃料供給においては、EGRガスの還流が効果的である。
図8は、図7に示す制御諸元に係る実施例と従来例(ディーゼル燃料100%)の、図示平均有効圧(IMEP)と図示燃料消費率(gross ISFC)の関係を示す。実施例は、空燃比を略理論空燃比にしているため、低負荷、中負荷及び高負荷のそれぞれにおいて、リーン運転である従来例よりも図示燃料消費率が低下している。すなわち、ここに開示するエンジンシステムは、従来のディーゼルエンジンシステムよりも、エンジントルク及び燃費性能が向上している。
図9は、上記実施例及び従来例の、図示平均有効圧(IMEP)と、NOx排出量との関係を例示している。従来例は、エンジン負荷が高くなると、燃焼室からのNOx排出量が増えている。これに対し、実施例は、三元触媒41aよりも下流の、テールパイプにおける排出量を示しているが、燃焼室14aから排出される排気ガスの空燃比を理論空燃比にすると共に、三元触媒41aによってNOxを浄化しているため、NOxの排出量は、実質的にゼロである。すなわち、ここに開示するエンジンシステムは、エミッション性能が、従来のディーゼルエンジンシステムよりも向上している。
図10は、上記実施例の筒内圧力のクランク角度に対する変化を示す。同図によれば、ディーゼル燃料を着火用燃料としたIMEP=852(中負荷域)のケース及びIMEP=1440(高負荷域)のケースのいずれも、圧縮上死点後の20゜CA付近までに筒内圧力のピークが出ている。ディーゼル燃料による着火によって熱効率が高くなるタイミングで燃料(ナフサ及びディーゼル燃料)が燃焼することがわかる。
以上説明したように、このエンジンシステムは、トルク生成用のナフサと、着火用のディーゼル燃料とをディーゼルエンジン1に供給する。気化性能に優れたナフサによって、燃焼室14a内の全体に、均質かつ理論空燃比に近い混合気を形成することによって、煤及びCOの発生を抑制することができる。また、燃焼室14a内の混合気について、ナフサ及びディーゼル燃料の両方を含む燃料と空気との重量比(A/F)を、略理論空燃比にすると共に、燃焼室14aから排出される排気ガスの空燃比を、理論空燃比にすることによって、排気通路40に設けた三元触媒41aを利用して、排気ガスを浄化することができる。従来のディーゼルエンジンにおいて必要であったNOx浄化用の後処理システムを省略することができ、エンジンシステムの簡略化、及び、低コスト化が実現する。また、リーン運転をしていた従来のディーゼルエンジンに対し、前記のエンジンシステムは、混合気の空燃比を略理論空燃比にしているため、エンジントルクを向上させることができる。
なお、ここに開示する発明は、前記の構成に限定されない。例えば、燃料の総噴射量が少ない低負荷域や軽負荷域においては、混合気の空燃比を、理論空燃比よりも大幅に燃料リーン(例えばA/F=30〜45)にしてもよい。空燃比を30〜45程度にすれば、燃焼室14a内においてNOxが生成することを抑制することができる。また、ナフサ(第1燃料)は燃焼室に直接噴射するようにすることもできる。
また、前記の構成においては、ターボ過給機61を装着しているが、必ずしもターボ過給機を装着しなくて良い。すなわち、従来のディーゼルエンジンでは、過給機を装着して燃焼時の空燃比をリーンとし、煤やCOを低減するとともに、高コストな選択還元型触媒を用いてNOxの低減を図る必要があったものの、あるいは、複数の過給機を装着して格段に過給圧を高め、燃焼時の空燃比を大幅にリーンとしつつ、エンジン本体の圧縮比も下げて燃焼温度を下げ、煤やCO、NOxの低減を図る必要があったものの、本発明においては、第1燃料の供給により、混合気の空燃比を14.5〜15.0の範囲とすることができるため、三元触媒41aとの組み合わせにより、過給に頼らなくても、煤やCOの低減とともに、NOxも十二分に浄化できるため、過給機を装着しない安価なエンジンを提供することもできる。