しかしながら、発明者が鋭意研究を重ねた結果、次のことが判明した。図17は、シングルゾーンJTE構造におけるJTE領域のアクセプタのドーズ量(以下、アクセプタドーズ量とする)と耐圧(素子耐圧)との関係を示す特性図である。図18は、ダブルゾーンJTE構造におけるJTE領域のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を示す特性図である。図18には、内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量に対する外側JTE領域104bのアクセプタドーズ量の比(以下、JTE領域のアクセプタドーズ比(=外側JTE領域104bのアクセプタドーズ量/内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量)とする)が異なる複数の試料について、それぞれ内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量と耐圧との関係を示す。図18の注釈に示す「1:x」とは、内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量を1としたときの外側JTE領域104bのアクセプタドーズ量の比率xである(=内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量:外側JTE領域104bのアクセプタドーズ量)。
図17に示すように、シングルゾーンJTE構造113では、耐圧の変動幅(縦軸)に対してJTE領域104のアクセプタドーズ量の変動幅(横軸)が狭い。すなわち、製造時のJTE領域104のアクセプタドーズ量のばらつきの範囲に対して、所定耐圧を確保可能なJTE領域104のアクセプタドーズ量の適正範囲が狭すぎるという問題がある。一方、図18に示すように、ダブルゾーンJTE構造114では、各試料ともに、内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量に対して耐圧のピークが2つ確認される。JTE領域のアクセプタドーズ比を小さくするほど、高ドーズ量側の耐圧のピークが高ドーズ量側にシフトするため、所定耐圧を確保可能な内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量の適正範囲が広くなる。しかしながら、JTE領域のアクセプタドーズ比を小さくするほど、耐圧の2つのピーク間での耐圧の落ち込みが大きくなり、当該ピーク間において所定耐圧を確保しにくくなる。
このようにダブルゾーンJTE構造114では、内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量の適正範囲と耐圧とがトレードオフの関係にある。このため、JTE領域のアクセプタドーズ比を過度に小さくした場合、通常であれば所定耐圧を確保可能な内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量の適正範囲内において、耐圧が低下する(落ち込む)範囲があらわれる。この耐圧が低下する範囲で所定耐圧を確保することができない虞があり、所定耐圧を確保可能な内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量の適正範囲が狭くなるという問題がある。また、JTE領域のアクセプタドーズ比を過度に大きくした場合、シングルゾーンJTE構造113に近づくため、所定耐圧を確保可能な内側JTE領域104aのアクセプタドーズ量の適正範囲が狭くなるという問題がある。
このようなダブルゾーンJTE構造114における問題は、3つのJTE領域を同心円状に並列に配置したJTE構造(不図示)や、4つ以上のJTE領域を同心円状に並列に配置したマルチゾーンJTE構造(不図示)とすることで改善される。しかしながら、3つ以上のJTE領域を同心円状に並列に配置したJTE構造とする場合、3つ以上のJTE領域をそれぞれ異なるイオン注入によって異なるアクセプタドーズ量で形成することとなるため、ダブルゾーンJTE構造114を形成する場合よりもイオン注入工程が多く、製造コストが増大するという問題がある。
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、耐圧構造としてシングルゾーンJTE構造を備えた半導体素子、または、JTE領域を設けない半導体素子において、耐圧を向上させることができ、かつ所定耐圧を安定して確保することができる半導体素子および半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体素子は、電流が流れる活性領域の外側に周辺耐圧構造部を有する半導体素子であって、次の特徴を有する。第1導電型のドリフト層の一方の主面の、前記活性領域と前記周辺耐圧構造部との境界付近の表面層に、第2導電型半導体領域が設けられている。前記第2導電型半導体領域は、前記活性領域の周囲を囲む同心円状に設けられている。前記第2導電型半導体領域を覆う絶縁膜が設けられている。そして、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域を覆う部分のうちの第1部分と前記第1部分以外の第2部分とは、前記第2導電型半導体領域に対する位置が異なる。前記第1部分は、前記第2部分よりも単位面積当たりの電荷密度の絶対値が高い。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記絶縁膜は、均一な正または負の電荷密度を有する。前記第1部分の厚さが前記第2部分の厚さよりも厚いことで、前記第1部分と前記第2部分との電荷密度差を生じさせることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1部分は、前記絶縁膜に注入された窒素、リンまたは砒素をイオン化してなる正の固定電荷で構成されていることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第2導電型はp型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の外周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第2導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の内周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1部分は、前記絶縁膜に注入されたボロン、アルミニウムまたはガリウムをイオン化してなる負の固定電荷で構成されていることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第2導電型はp型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の内周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第2導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の外周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体素子は、電流が流れる活性領域の外側に周辺耐圧構造部を有する半導体素子であって、次の特徴を有する。前記周辺耐圧構造部において、第1導電型のドリフト層の一方の主面を覆う絶縁膜が設けられている。そして、前記絶縁膜のうちの第1部分と前記第1部分以外の第2部分とは、前記活性領域と前記周辺耐圧構造部との境界に対する位置が異なる。前記第1部分は、前記第2部分よりも単位面積当たりの電荷密度の絶対値が高い。前記絶縁膜は、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜またはポリイミド膜である。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1部分は、前記絶縁膜に注入されたボロン、アルミニウムまたはガリウムをイオン化してなる負の固定電荷で構成されていることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記活性領域側の部分であり、前記第2部分は、前記絶縁膜の、前記第1部分よりも外側の部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1部分は、前記絶縁膜に注入された窒素、リンまたは砒素をイオン化してなる正の固定電荷で構成されていることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1導電型はp型であり、前記第2部分は、前記絶縁膜の、前記活性領域側の部分であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2部分よりも外側の部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子は、上述した発明において、前記第1部分と前記第2部分との電荷密度差の絶対値は、6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下であることを特徴とする。
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、電流が流れる活性領域の外側に周辺耐圧構造部を有する半導体素子の製造方法であって、次の特徴を有する。まず、第1導電型のドリフト層の一方の主面の、前記活性領域と前記周辺耐圧構造部との境界付近の表面層に、前記活性領域の周囲を囲む同心円状に第2導電型半導体領域を形成する領域形成工程を行う。次に、前記第2導電型半導体領域を覆うように絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を行う。次に、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域を覆う部分のうちの第1部分に不純物をイオン注入するイオン注入工程を行う。次に、前記不純物を電気的に活性化し、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域に対する位置が前記第1部分と異なる前記第1部分以外の第2部分よりも前記第1部分の単位面積当たりの電荷密度の絶対値を高くする活性化工程を行う。
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、電流が流れる活性領域の外側に周辺耐圧構造部を有する半導体素子の製造方法であって、次の特徴を有する。まず、第1導電型のドリフト層の一方の主面の、前記活性領域と前記周辺耐圧構造部との境界付近の表面層に、前記活性領域の周囲を囲む同心円状に第2導電型半導体領域を形成する領域形成工程を行う。次に、化学気相成長により、前記第2導電型半導体領域を覆うように、不純物を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を行う。次に、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域を覆う部分のうちの第1部分の厚さよりも、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域に対する位置が前記第1部分と異なる前記第1部分以外の第2部分の厚さを薄くする除去工程を行う。次に、前記不純物を電気的に活性化し、前記第2部分よりも前記第1部分の単位面積当たりの電荷密度の絶対値を高くする活性化工程を行う。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記除去工程では、前記絶縁膜の、前記第1部分以外の部分をすべて除去して、前記第1部分のみを残す。そして、前記除去工程の後、前記ドリフト層および前記第2導電型半導体領域を覆う熱酸化膜を形成する工程を、さらに含むことを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記不純物は窒素、リンまたは砒素であり、前記活性化工程では、前記不純物を電気的に活性化して正の固定電荷にすることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第2導電型はp型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の外周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第2導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の内周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記不純物はボロン、アルミニウムまたはガリウムであり、前記活性化工程では、前記不純物を電気的に活性化して負の固定電荷にすることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第2導電型はp型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の内周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第2導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2導電型半導体領域の外周側を覆う部分であることを特徴とする。
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、電流が流れる活性領域の外側に周辺耐圧構造部を有する半導体素子の製造方法であって、次の特徴を有する。まず、前記周辺耐圧構造部において、第1導電型のドリフト層の一方の主面を覆うように絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を行う。次に、前記絶縁膜のうちの第1部分に不純物をイオン注入するイオン注入工程を行う。次に、前記不純物を電気的に活性化し、前記絶縁膜の、前記活性領域と前記周辺耐圧構造部との境界に対する位置が前記第1部分と異なる前記第1部分以外の第2部分よりも前記第1部分の単位面積当たりの電荷密度の絶対値を高くする活性化工程を行う。前記絶縁膜形成工程後、前記第1導電型のドリフト層の一方の主面または他方の主面に電極を形成する電極工程をさらに含む。前記電極工程で行うアニールによって前記活性化工程を行う。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記不純物はボロン、アルミニウムまたはガリウムであり、前記活性化工程では、前記不純物を電気的に活性化して負の固定電荷にすることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第1導電型はn型であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記活性領域側の部分であり、前記第2部分は、前記絶縁膜の、前記第1部分よりも外側の部分であることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記不純物は窒素、リンまたは砒素であり、前記活性化工程では、前記不純物を電気的に活性化して正の固定電荷にすることを特徴とする。
また、この発明にかかる半導体素子の製造方法は、上述した発明において、前記第1導電型はp型であり、前記第2部分は、前記絶縁膜の、前記活性領域側の部分であり、前記第1部分は、前記絶縁膜の、前記第2部分よりも外側の部分であることを特徴とする。
上述した発明によれば、絶縁膜の第2部分よりも第1部分の単位面積当たりの電荷密度の絶対値を高くすることで、周辺耐圧構造部におけるドリフト層の一方の主面側の領域の外周側(チップ外側)の部分のドーズ量を内周側(活性領域側)の部分のドーズ量よりも低くすることができる。これにより、シングルゾーンJTE構造を構成する第2導電型半導体領域(JTE領域)や、JTE領域を設けない場合の周辺耐圧構造部におけるドリフト層をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることができる。これにより、シングルゾーンJTE構造とした場合には、所定耐圧を確保可能なJTE領域のドーズ量の適正範囲をダブルゾーンJTE構造の内側JTE領域と同程度に広げることができ、かつダブルゾーンJTE構造において生じていた2つの耐圧ピーク間での落ち込みを抑制することができる。また、JTE領域を設けない場合には、JTE領域のドーズ量の適正範囲によらず、本発明のシングルゾーンJTE構造を備えた場合と同様に耐圧を向上させることができる。
本発明にかかる半導体素子および半導体素子の製造方法によれば、耐圧構造としてシングルゾーンJTE構造を備えた半導体素子において、JTE領域のドーズ量のばらつきによらず安定して耐圧を向上させることができるという効果を奏する。また、本発明にかかる半導体素子および半導体素子の製造方法によれば、JTE領域を設けない半導体素子において、JTE領域のドーズ量のばらつきによる悪影響を受けずに安定して耐圧を向上させることができるという効果を奏する。
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体素子および半導体素子の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度(高ドーズ量)および低不純物濃度(低ドーズ量)であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる半導体素子の構造について、炭化珪素(SiC)半導体を用いて作製(製造)された耐圧1700VクラスのJBS(Junction Barrier Schottky:接合障壁ショットキー)構造のダイオードを例に説明する。図1は、実施の形態1にかかる半導体素子の構造を示す断面図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる半導体素子は、n+型カソード層1となるn+型炭化珪素基板のおもて面上にn-型ドリフト層2となるn-型炭化珪素エピタキシャル層を堆積してなるエピタキシャル基板(半導体チップ)を備える。チップ中央部には、ダイオードの素子構造が形成された活性領域11が設けられ、チップ外周部には、活性領域11の周囲を囲むようにエッジ終端構造部(周辺耐圧構造部)12が設けられている。
活性領域11は、オン状態のときに順方向電流が流れる領域である。エッジ終端構造部12は、n-型ドリフト層2のチップおもて面側の電界を緩和し耐圧を保持する領域である。活性領域11において、n-型ドリフト層2の、n+型カソード層1側に対して反対側(チップおもて面側)の表面層には、JBS構造(ダイオードの素子構造)を構成する複数のp+型ウェル領域3が所定の間隔で選択的に設けられている。これら複数のp+型ウェル領域3のうち、最も外側(チップ外側)のp+型ウェル領域(以下、最外周p+型ウェル領域とする)3aは、活性領域11とエッジ終端構造部12との境界付近に、活性領域11の周囲を囲む同心円状(例えばリング状や略矩形環状)の平面パターンで設けられている。
エッジ終端構造部12において、n-型ドリフト層2のチップおもて面側の表面層には、p-型ウェル領域(第2導電型半導体領域)4およびn++型チャネルストッパー領域5がそれぞれ選択的に設けられている。p-型ウェル領域4は、最外周p+型ウェル領域3aの外側に、最外周p+型ウェル領域3aに隣接して設けられ、シングルゾーンJTE構造を構成する。また、p-型ウェル領域4は、最外周p+型ウェル領域3aの周囲を囲む同心円状の平面パターンで設けられている。p-型ウェル領域4の幅(内側から外側へ向う方向の幅)は例えば20μm以上300μm以下程度であり、その深さは例えば0.5μm以上1μm以下程度であってもよい。p-型ウェル領域4は、最外周p+型ウェル領域3aにかかる電界を緩和する機能を有する。n++型チャネルストッパー領域5は、p-型ウェル領域4よりも外側に、p-型ウェル領域4と離して設けられている。
n-型ドリフト層2のチップおもて面側の表面には、活性領域11全体にわたってショットキー電極6となるおもて面電極が設けられている。ショットキー電極6は、n-型ドリフト層2とのショットキー接合を形成し、アノード電極として機能する。具体的には、ショットキー電極6は、後述する保護絶縁膜7を深さ方向に貫通するコンタクトホールを介してn-型ドリフト層2のチップおもて面側の表面全面を覆い、p+型ウェル領域3(最外周p+型ウェル領域3aも含む)に接する。ショットキー電極6は、保護絶縁膜7上に延在していてもよい。保護絶縁膜7は、エッジ終端構造部12全体にわたってn-型ドリフト層2のチップおもて面側の表面上に設けられ、p-型ウェル領域4およびn++型チャネルストッパー領域5を覆う。保護絶縁膜7は、最外周p+型ウェル領域3aの外側の端部上に延在していてもよい。
保護絶縁膜7は、例えば、酸化シリコン(SiO2)膜、窒化シリコン(Si3N4)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜またはポリイミド(polyimide)膜などの単層膜、もしくはこれらを2つ以上積層させてなる積層膜である。保護絶縁膜7の内部には、p-型ウェル領域4を覆う部分7aに、活性領域11と離して、正の電荷を帯びた領域(以下、正電荷領域(第1部分)とする)8が選択的に設けられている。正電荷領域8は、保護絶縁膜7中に導入した例えば窒素(N)やリン(P)、砒素(As)などのn型不純物(ドーパント)を電気的に活性化し、n型不純物から自由電子を脱離させることでn型不純物(第15族元素)を正にイオン化してなるドナー(正の固定電荷)で構成される。すなわち、正電荷領域8の電荷密度は、保護絶縁膜7の、正電荷領域8以外の部分(第2部分)の電荷密度(≒0/cm2)よりも相対的に高くなっている。
具体的には、正電荷領域8は、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの外周端7bから内側に、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの内周端7cに達しない幅で設けられている。保護絶縁膜7中に導入したn型不純物から脱離した自由電子はショットキー電極6などを介して素子外部に排除され、保護絶縁膜7中には正イオン化したn型不純物が残る。保護絶縁膜7中の正イオン化したn型不純物はp-型ウェル領域4中の負電荷であるアクセプタを補償し、p-型ウェル領域4の、正電荷領域8に覆われた外周側の部分(以下、外側JTE領域とする)4bの実効的な負電荷面密度が減少する。このため、外側JTE領域4bの実効的な負電荷面密度は、p-型ウェル領域4の、正電荷領域8に覆われていない内周側の部分(以下、内側JTE領域とする)4aの負電荷面密度よりも低くなる。すなわち、シングルゾーンJTE構造を構成するp-型ウェル領域4は、ダブルゾーンJTE構造と同様に機能する。保護絶縁膜7に注入されるn型不純物のドーズ量(すなわち正電荷領域8の電荷密度)は、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の0.5倍以上程度であることが好ましい。その理由は、次の通りである。
保護絶縁膜7に注入されるn型不純物のドーズ量をp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の0.5倍以上程度とすることで、内側JTE領域4aのアクセプタドーズ量に対する外側JTE領域4bの実効的なアクセプタドーズ量の比(以下、JTE領域のアクセプタドーズ比(=外側JTE領域4bの実効的なアクセプタドーズ量/内側JTE領域4aのアクセプタドーズ量)とする)が0.5以上になる。これによって、次の効果が得られるからである。上述したようにp-型ウェル領域4はダブルゾーンJTE構造と同様に機能する。このため、従来のダブルゾーンJTE構造114(図18,19(b)参照)のように耐圧のピークが2つ生じるが、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5以上とすることで2つのピーク間での耐圧の落ち込みを抑制することができる。具体的には、JTE領域のアクセプタドーズ比を調整するにあたって、正電荷領域8の電荷密度を深さ方向に一様に例えば6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下程度としてもよい。
また、正電荷領域8は、後述する保護絶縁膜7への1回のイオン注入において、単位面積当たりの正の電荷密度が内側から外側(横方向)へ向うにしたがって増加する電荷密度(空間電荷)分布となる平面パターン(以下、空間変調パターンとする)で設けられていることが好ましい。すなわち、正電荷領域8は、外側へ向うにしたがって正電荷となるn型不純物のドーズ量を増加させる平面パターンで設けられていることが好ましい。その理由は、上述したような耐圧の2つのピークが生じることを抑制し、所定耐圧以上を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の適正範囲においてほぼ一定の耐圧を安定して確保することができるからである。正電荷領域8の空間変調パターンについては後述する。保護絶縁膜7の表面には、ポリイミドからなるパッシベーション膜9が設けられている。パッシベーション膜9は、ショットキー電極6上に延在していてもよい。n+型炭化珪素基板の裏面(チップ裏面)には、n+型炭化珪素基板とのオーミック接合を形成する裏面電極10が設けられている。裏面電極10は、カソード電極として機能する。
次に、正電荷領域8の空間変調パターン(平面パターン)について説明する。図2〜4は、実施の形態1にかかる半導体素子の正電荷領域の空間変調パターンの一例を示す平面図である。図2〜4においてハッチングで示す部分が正電荷領域8である。また、図2〜4には、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aを図示し、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7a以外の部分や、活性領域11、パッシベーション膜9を図示省略する。図2に示すように、正電荷領域8の空間変調パターンは、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの内周端7c側から外周端7bへ向うにしたがって幅(ストライプ幅)w1を広くした環状の複数の正電荷領域8を、活性領域11を囲む同心円状に複数配置してなるストライプ状であってもよい。この場合、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aにおいて、正電荷領域8以外の部分は、内周端7c側から外周端7bへ向うにしたがって幅(ストライプ幅)w2を狭くした同心円状に配置されていてもよい。
また、図3に示すように、正電荷領域8の空間変調パターンは、正電荷領域8の内側の部分を、活性領域11の外周に沿う方向に正電荷領域8と保護絶縁膜7の正電荷領域8以外の部分とを交互に繰り返し配置した櫛歯状としてもよい。この場合、正電荷領域8の内側の櫛歯状の部分8aは、外側から内側に向うにしたがって幅w3を狭くした台形状や三角形状としてもよい。また、図4に示すように、正電荷領域8の空間変調パターンは、正電荷領域8の内側の部分を所定パターンのドット状としてもよい。この場合、正電荷領域8の内側のドット状の部分8bは、ドットをランダムに配置してもよいし、規則的に配置してもよい。また、正電荷領域8の内側のドット状の部分8bは、内側から外側へ向うにしたがってドット同士の間隔を狭くしたり、ドットの表面積を大きくしたりしてもよい。このように、正電荷領域8の空間変調パターンは、内側から外側へ向うにしたがって保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aに対する正電荷領域8の占有面積が小さくなるように設定すればよい。なお、正電荷領域8を空間変調パターンとしない場合、例えば正電荷領域8の平面パターンを略矩形状とするなどにより、正電荷領域8の電荷密度分布は横方向に一様となる。
次に、実施の形態1にかかる半導体素子の製造方法について、上述した耐圧1700VクラスのJBS構造のダイオードを作製(製造)する場合を例に説明する。図5〜7は、実施の形態1にかかる半導体素子の製造途中の状態を示す断面図である。まず、出発基板としてn+型カソード層1となるn+型炭化珪素基板を用意し、このn+型炭化珪素基板のおもて面上にn-型ドリフト層2をエピタキシャル成長させる。これにより、n+型炭化珪素基板のおもて面上にn-型ドリフト層2を堆積してなるエピタキシャル基板(半導体ウエハ)が作製される。n+型炭化珪素基板の比抵抗は、例えば20mΩcm程度であってもよい。n-型ドリフト層2の厚さおよび不純物濃度は、それぞれ例えば15μm程度および6×1015/cm3程度であってもよい。
次に、フォトリソグラフィおよびイオン注入を繰り返し行い、n-型ドリフト層2のウエハおもて面側の表面層に、活性領域11のp+型ウェル領域3と、エッジ終端構造部12のp-型ウェル領域4およびn++型チャネルストッパー領域5とを順次形成する。p+型ウェル領域3、p-型ウェル領域4およびn++型チャネルストッパー領域5を形成する順序は種々変更可能である。p-型ウェル領域4の幅(内側から外側へ向う方向の幅)は、例えば100μm程度であってもよい。また、p-型ウェル領域4を形成するにあたって、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量が例えば1.2×1013/cm2以上3.6×1013/cm2以下程度となるようにイオン注入条件および活性化アニール条件を調整する。
次に、一般的な方法により、エッジ終端構造部12におけるウエハおもて面上に保護絶縁膜7を形成する。次に、ウエハ裏面(n+型炭化珪素基板の裏面)に裏面電極10を形成する。次に、保護絶縁膜7および活性領域11におけるウエハおもて面上に、正電荷領域8の形成領域に対応する部分を開口したレジストマスク41を形成する。すなわち、上述した正電荷領域8の空間変調パターン(図2〜4参照)とほぼ同様の開口パターンを有するレジストマスク41を形成し、保護絶縁膜7を選択的に露出する。ここまでの状態が図5に示されている。次に、このレジストマスク41をマスクとして、保護絶縁膜7にn型不純物を選択的にイオン注入42する。ここまでの状態が図6に示されている。
保護絶縁膜7へのイオン注入42は、例えば、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの外周端7bから内側に50μmの幅までの部分に、活性領域11の周囲を囲む同心円状にn型不純物を注入する。このとき、イオン注入42したn型不純物が保護絶縁膜7のみに注入されるように(すなわち保護絶縁膜7を貫通しないように)、イオン注入42の加速エネルギーを種々調整する。図6において、保護絶縁膜7の表面近傍の点線は、イオン注入42されたn型不純物を表している。保護絶縁膜7にイオン注入42するn型不純物(ドナー)のドーズ量は、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の0.5倍以上程度であり、具体的には例えば6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下程度であってもよい。次に、レジストマスク41を除去する。
次に、一般的な方法により、活性領域11におけるウエハおもて面上にショットキー電極6を形成する。このショットキー電極6を形成する際のアニールによって、保護絶縁膜7中のn型不純物が電気的に活性化されて正の電荷を帯び、保護絶縁膜7の正の電荷を帯びた部分が正電荷領域8となる。また、このアニール時、外側JTE領域4bのアクセプタは、保護絶縁膜7中の正イオン化したn型不純物により補償される。これにより、外側JTE領域4bの実効的な負電荷面密度は、アニール前のp-型ウェル領域4(すなわち保護絶縁膜7中の正イオン化したn型不純物の影響を受けない内側JTE領域4a)の負電荷面密度よりも低くなる(内側JTE領域4aの負電荷面密度>外側JTE領域4bの実効的な負電荷面密度)。例えば、保護絶縁膜7にイオン注入42するn型不純物のドーズ量がp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の0.5倍である場合、外側JTE領域4bのアクセプタドーズ量は内側JTE領域4aのアクセプタドーズ量の0.5倍となり、JTE領域のアクセプタドーズ比は0.5となる。ここまでの状態が図7に示されている。
保護絶縁膜7へのn型不純物のイオン注入42は、保護絶縁膜7の形成後、裏面電極10の形成前に行ってもよい。この場合、裏面電極10を形成する際のアニールによって、保護絶縁膜7中に正電荷領域8が形成され、かつ外側JTE領域4bのアクセプタが保護絶縁膜7中の正イオン化したn型不純物により補償される。次に、保護絶縁膜7上に、例えばポリイミドからなるパッシベーション膜9を形成する。保護絶縁膜7がポリイミドからなる場合には、パッシベーション膜9を形成する工程を省略してもよい。その後、半導体ウエハをチップ状に切断(ダイシング)することで、図1に示すダイオードが完成する。
以上、説明したように、実施の形態1によれば、保護絶縁膜の、JTE領域(p-型ウェル領域)を覆う部分の外周側に選択的にn型不純物を注入し電気的に活性化させて正電荷領域を形成することにより、正電荷領域の形成時に正イオン化したn型不純物によってJTE領域の、正電荷領域に覆われた外周側の部分(外側JTE領域)のアクセプタが補償される。これにより、外側JTE領域の実効的な負電荷面密度を、JTE領域の、正電荷領域に覆われない内周側の部分(内側JTE領域)の負電荷面密度よりも低くすることができる。これによって、シングルゾーンJTE構造を構成するJTE領域をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることができ、ダブルゾーンJTE構造の内側JTE領域と同程度にJTE領域のアクセプタドーズ量の適正範囲を広げることができる。すなわち、従来のシングルゾーンJTE構造よりも所定耐圧を確保可能なJTE領域のアクセプタドーズ量の範囲を広げることができる。したがって、JTE領域のドーズ量のばらつきによらず安定して高耐圧を確保することができる。また、シングルゾーンJTE構造を構成するJTE領域をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることで、ダブルゾーンJTE構造とした場合と同様に2つの耐圧ピークが生じるが、ダブルゾーンJTE構造とする場合よりも2つのピーク間での耐圧の落ち込みを抑制することができる。したがって、ダブルゾーンJTE構造とする場合よりも安定して高耐圧を確保することができる。
また、通常、炭化珪素層(または炭化珪素基板)へのイオン注入はイオン注入時のダメージ(欠陥)を低減するために500℃以上の高温度で行うため、イオン注入時の昇温・降温に時間がかかるという問題がある。この問題は例えば炭化珪素層へのイオン注入を室温で行うことで解消することができるが、この場合、イオン注入した不純物の活性化率が低下するという新たな問題がある。それに対して、実施の形態1によれば、炭化珪素層への1回のイオン注入によりシングルゾーンJTE構造を構成するJTE領域を形成した後、保護絶縁膜への1回のイオン注入およびその後の電極形成時のアニールにより当該JTE領域をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させる。この保護絶縁膜へのイオン注入は室温で行うことができるため、炭化珪素層への2回以上のイオン注入により形成されるダブルゾーンJTE構造や3つ以上のJTE領域からなるJTE構造に比べてイオン注入時間を短縮することができ、スループットを向上させることができる。また、保護絶縁膜にイオン注入された不純物は、裏面電極の1200℃程度のシンタリング(アニール)や、ショットキー電極形成時の500℃程度のアニールにより電気的に活性化させることができるため、活性化率が低下することを回避することができる。また、保護絶縁膜にイオン注入した不純物は、既存の製造工程に含まれる電極形成時のアニールによって電気的に活性化させるができるため、ダブルゾーンJTE構造を形成する場合と同程度の工程数で耐圧構造を形成することができる。したがって、不純物濃度の異なる3つ以上のJTE領域を同心円状に配置したJTE構造を形成する場合よりも工程数を低減することができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる半導体素子の構造について説明する。図8は、実施の形態2にかかる半導体素子の構造を示す断面図である。実施の形態2にかかる半導体素子が実施の形態1にかかる半導体素子と異なる点は、正電荷領域に代えて、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aに、活性領域11と近接して、負の電荷を帯びた領域(以下、負電荷領域(第1部分)とする)18を設けた点である。負電荷領域18は、保護絶縁膜7中に導入した例えばボロン(B)やアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などのp型不純物(ドーパント)を電気的に活性化し、p型不純物からホール(正孔)を離すことでp型不純物(第13族元素)を負にイオン化してなるアクセプタ(負の固定電荷)で構成される。すなわち、負電荷領域18の電荷密度は、保護絶縁膜7の、負電荷領域18以外の部分(第2部分)の電荷密度(≒0/cm2)よりも相対的に低くなっている。
具体的には、負電荷領域18は、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの内周端7cから外側に、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの外周端7bに達しない幅で設けられている。保護絶縁膜7中に導入したp型不純物から離れたホールはショットキー電極6などを介して素子外部に排除され、保護絶縁膜7中には負イオン化したp型不純物(負電荷)が残る。この保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物と、p-型ウェル領域4の、負電荷領域18に覆われた内周側の部分(内側JTE領域)14a中の負電荷であるアクセプタとが足し合わさって、内側JTE領域14aの実効的な負電荷面密度が増加する。このため、内側JTE領域14aの実効的な負電荷面密度は、p-型ウェル領域4の、負電荷領域18に覆われていない外周側の部分(外側JTE領域)14bの負電荷面密度よりも高くなる。すなわち、実施の形態1と同様に、シングルゾーンJTE構造を構成するp-型ウェル領域4をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることができる。
保護絶縁膜7に注入されるp型不純物のドーズ量(すなわち負電荷領域18の電荷密度)は、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と同じか、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量以下程度であることが好ましい。その理由は、実施の形態1と同様にJTE領域のアクセプタドーズ比(=外側JTE領域14bのアクセプタドーズ量/内側JTE領域14aの実効的なアクセプタドーズ量)が0.5以上となり、実施の形態1と同様の効果を得ることができるからである。具体的には、耐圧1700Vクラスである場合、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量は、例えば6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下程度である。負電荷領域18の電荷密度の絶対値は、深さ方向に一様に例えば6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下程度であってもよい。
また、負電荷領域18は、後述する保護絶縁膜7への1回のイオン注入において、単位面積当たりの負の電荷密度が内側から外側へ向うにしたがって低減する電荷密度(空間電荷)分布となる平面パターン(空間変調パターン)で設けられていることが好ましい。すなわち、負電荷領域18は、外側へ向うにしたがって負電荷となるp型不純物のドーズ量を減少させる平面パターンで設けられていることが好ましい。その理由は、実施の形態1において正電荷領域を空間変調パターンとする理由と同様である。負電荷領域18の空間変調パターンは、例えば、実施の形態1において、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aにおける正電荷領域以外の部分(ハッチングされていない部分)と同様の空間変調パターンであってもよい(図2〜4参照)。なお、負電荷領域18を空間変調パターンとしない場合、例えば負電荷領域18の平面パターンを略矩形状とするなどにより、負電荷領域18の電荷密度分布は横方向に一様となる。
実施の形態2にかかる半導体素子の製造方法は、実施の形態1にかかる半導体素子の製造方法において正電荷領域を形成するタイミングで、正電荷領域に代えて負電荷領域18を形成すればよい。負電荷領域18の形成方法以外の工程は、実施の形態1にかかる半導体素子の製造方法と同様である。負電荷領域18を形成するには、保護絶縁膜7に選択的にp型不純物をイオン注入すればよい。具体的には、負電荷領域18を形成するにあたって、まず、保護絶縁膜7上に、負電荷領域18の形成領域に対応する部分を開口したレジストマスク(不図示)を形成する。すなわち、上述した負電荷領域18の空間変調パターンとほぼ同様の開口パターンを有するレジストマスクを形成し、保護絶縁膜7を選択的に露出する。
次に、このレジストマスクをマスクとして、保護絶縁膜7にp型不純物を選択的にイオン注入する。保護絶縁膜7へのイオン注入は、例えば、保護絶縁膜7の、p-型ウェル領域4を覆う部分7aの内周端7cから外側に例えば50μmの幅までの部分に、活性領域11の周囲を囲む同心円状にp型不純物を注入する。このとき、イオン注入したp型不純物が保護絶縁膜7のみに注入されるように(すなわち保護絶縁膜7を貫通しないように)、イオン注入の加速エネルギーを種々調整する。保護絶縁膜7にイオン注入するp型不純物のドーズ量は、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と同じか、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量以下程度であり、例えば6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下程度であってもよい。次に、レジストマスクを除去する。
その後、ショットキー電極6または裏面電極10を形成するためのアニールによって、保護絶縁膜7中のp型不純物が電気的に活性化されて負の電荷を帯び、保護絶縁膜7の負の電荷を帯びた部分が負電荷領域18となる。また、このアニール時、保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物により、内側JTE領域14aの実効的な負電荷面密度が増加し、アニール前のp-型ウェル領域4(すなわち保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物の影響を受けない外側JTE領域14b)の負電荷面密度よりも高くなる(内側JTE領域14aの実効的な負電荷面密度>外側JTE領域14bの負電荷面密度)。例えば、保護絶縁膜7にイオン注入するp型不純物のドーズ量がp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と同じである場合、内側JTE領域14aの実効的なアクセプタドーズ量は外側JTE領域14bのアクセプタドーズ量の2倍となり、JTE領域のアクセプタドーズ比は0.5となる。
以上、説明したように、実施の形態2によれば、保護絶縁膜の、JTE領域(p-型ウェル領域)を覆う部分の内周側に選択的にp型不純物を注入し電気的に活性化させて負電荷領域を形成することにより、負電荷領域の形成時に負イオン化したp型不純物によってJTE領域の、負電荷領域に覆われた内周側の部分(内側JTE領域)の実効的な負電荷面密度が高くなる。これにより、内側JTE領域の実効的な負電荷面密度を、JTE領域の、負電荷領域に覆われない外周側の部分(外側JTE領域)の負電荷面密度よりも高くすることができる。これによって、シングルゾーンJTE構造を構成するJTE領域をダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることができるため、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3にかかる半導体素子の構造について説明する。図9は、実施の形態3にかかる半導体素子の構造を示す断面図である。図10〜12は、実施の形態3にかかる半導体素子の製造途中の状態を示す断面図である。実施の形態3にかかる半導体素子の製造方法が実施の形態1にかかる半導体素子の製造方法と異なる点は、電気的な活性化によって正の固定電荷となるn型不純物を含む保護絶縁膜27を、熱CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)により形成する点である。この熱CVDにより形成した保護絶縁膜27中のn型不純物を電気的に活性化させることで正電荷領域28が形成される。正電荷領域28の配置および電荷密度は、実施の形態1と同様である。
具体的には、まず、実施の形態1と同様に、エピタキシャル基板(半導体ウエハ)の形成から、p+型ウェル領域3、p-型ウェル領域4およびn++型チャネルストッパー領域5の形成までの工程を順に行う。次に、原料ガスとして例えばシラン(SiH4)ガス、酸素(O2)ガスおよび窒素(N2)ガスを用いて、熱CVDにより、ウエハおもて面上に保護絶縁膜27を堆積する。この保護絶縁膜27中の窒素(n型不純物)のドーズ量は、ガス分圧や炉内の温度を最適化することにより調整する。窒素ガスに代えて、電気的な活性化により正の電荷となるリンや砒素などの第15族元素を含むホスフィン(PH3)ガスやアルシン(AsH3)ガスなどを用いてもよい。ここまでの状態が図10に示されている。
次に、保護絶縁膜27をパターニングして選択的に除去し、保護絶縁膜27の、p-型ウェル領域4を覆う部分27aの外周端27b側を内周端27cに達しない幅で残す。例えば、保護絶縁膜27の、p-型ウェル領域4を覆う部分27aの外周端27bから内側に例えば50μmの幅の部分までを、活性領域11の周囲を囲む同心円状に残す。p-型ウェル領域4上に残る保護絶縁膜27の平面パターンは、実施の形態1の正電荷領域の空間変調パターンと同様であってもよい。次に、ウエハおもて面を熱酸化し、ウエハおもて面の、保護絶縁膜27以外の部分に、例えば25nm程度の厚さの薄い熱酸化膜17を形成する。熱酸化膜17は、ウエハおもて面を保護する保護膜である。ここまでの状態が図11に示されている。
次に、ウエハ裏面(n+型炭化珪素基板の裏面)に裏面電極10を形成する。この裏面電極10を形成する際のアニールによって、保護絶縁膜27中のn型不純物が電気的に活性化され正の電荷を帯び、p-型ウェル領域4上に残る保護絶縁膜27全体が正電荷領域28となる。また、このアニールによって、実施の形態1と同様に、保護絶縁膜27中の正イオン化したn型不純物がp-型ウェル領域4中のアクセプタを補償し、外側JTE領域24bの実効的な負電荷面密度が内側JTE領域24aの負電荷面密度よりも低くなる。ここまでの状態が図12に示されている。次に、熱酸化膜17を選択的に除去して、エッジ終端構造部12に熱酸化膜17を残す。次に、実施の形態1と同様に、ショットキー電極6の形成以降の工程を順に行うことで、図9に示すダイオードが完成する。
ショットキー電極6を形成する際のアニールによって保護絶縁膜27中のn型不純物を電気的に活性化してもよい。この場合、裏面電極10、保護絶縁膜27、熱酸化膜17およびショットキー電極6の順に形成すればよい。また、熱酸化膜17に代えて、保護絶縁膜27の、正電荷領域28となる部分以外の部分の厚さを正電荷領域28の厚さよりも薄く残すことで基板おもて面を保護してもよい。すなわち、保護絶縁膜27の、外側JTE領域24bを覆う部分の厚さをそれ以外の部分の厚さよりも厚くする。この保護絶縁膜27の厚い部分が正電荷領域28となり、保護絶縁膜27の厚い部分中の正イオン化したn型不純物による外側JTE領域24bのアクセプタへの補償効果が得られる。この場合、保護絶縁膜27の薄い部分中の正イオン化したn型不純物によって内側JTE領域24aのアクセプタも補償されるが、JTE領域のアクセプタドーズ比が0.5以上となるようにp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と保護絶縁膜27の厚さとを適宜設定すればよい。
以上、説明したように、実施の形態3によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態3によれば、電気的な活性化によって正の固定電荷となるn型不純物を含む保護絶縁膜を熱CVDにより形成することで、保護絶縁膜中全体に均一にn型不純物を分散させることができる。これにより、均一な電荷密度分布を有する正電荷領域を形成することができる。また、実施の形態3によれば、均一な電荷密度分布を有する正電荷領域を形成することができるため、横方向に所定の電荷密度分布を有する正電荷領域を、空間変調パターンに基づいて制御性良く形成することができる。
(実施の形態4)
次に、実施の形態4にかかる半導体素子の構造について説明する。図13は、実施の形態4にかかる半導体素子の構造を示す断面図である。実施の形態4にかかる半導体素子が実施の形態2にかかる半導体素子と異なる点は、電気的な活性化によって負の固定電荷となるp型不純物を含む保護絶縁膜を、熱CVDにより形成する点である。この熱CVDにより形成した保護絶縁膜中のp型不純物を電気的に活性化させることで負電荷領域38が形成される。エッジ終端構造部12において、基板おもて面の、負電荷領域38以外の部分は、熱酸化膜17で覆われている。負電荷領域38の配置および電荷密度は、実施の形態2と同様である。熱酸化膜17の厚さは、実施の形態3と同様である。
実施の形態4にかかる半導体素子の製造方法は、実施の形態3にかかる半導体素子の製造方法において正電荷領域を形成するタイミングで、正電荷領域に代えて負電荷領域38を形成すればよい。負電荷領域38の形成方法以外の工程は、実施の形態3にかかる半導体素子の製造方法と同様である。負電荷領域38を形成するには、まず、熱CVDによりウエハおもて面上に保護絶縁膜を堆積する。このとき、原料ガスとして、シランガス、酸素ガスに加えて、ボロン(B)やアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などの第13族元素を含むジボラン(B2H6)ガスやトリメチルアルミニウム(TMAl)ガス、トリメチルガリウム(TMGa)ガスなどを用いる。
次に、熱CVDにより形成した保護絶縁膜をパターニングして選択的に除去し、保護絶縁膜の、p-型ウェル領域4を覆う部分の内周端側を外周端に達しない幅で残す。例えば、保護絶縁膜の、p-型ウェル領域4を覆う部分の内周端から外側に例えば50μmの幅の部分までを、活性領域11の周囲を囲む同心円状に残す。p-型ウェル領域4上に残る保護絶縁膜の平面パターンは、実施の形態2の負電荷領域の空間変調パターンと同様であってもよい。その後、裏面電極10またはショットキー電極6を形成する際のアニールによって、保護絶縁膜中のp型不純物が電気的に活性化され、p-型ウェル領域4上に残る保護絶縁膜全体が負電荷領域38となる。また、このアニールによって、実施の形態2と同様に、保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物と内側JTE領域34a中のアクセプタとが足し合わさって、内側JTE領域34aの実効的な負電荷面密度が外側JTE領域34bの負電荷面密度よりも高くなる。
また、熱酸化膜17に代えて、熱CVDにより形成した負の固定電荷となるp型不純物を含む保護絶縁膜の、負電荷領域38となる部分以外の部分の厚さを負電荷領域38の厚さよりも薄く残すことで基板おもて面を保護してもよい。すなわち、当該保護絶縁膜の、内側JTE領域34aを覆う部分の厚さをそれ以外の部分の厚さよりも厚くする。この保護絶縁膜の厚い部分が負電荷領域38となり、内側JTE領域34aの実効的な負電荷面密度が高くなる。この場合、保護絶縁膜の薄い部分中の負イオン化したp型不純物によって外側JTE領域34bの実効的な負電荷面密度も高くなるが、JTE領域のアクセプタドーズ比が0.5以上となるようにp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と保護絶縁膜の厚さとを適宜設定すればよい。
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態2と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態4によれば、電気的な活性化によって負の固定電荷となるp型不純物を含む保護絶縁膜を熱CVDにより形成することで、保護絶縁膜中全体に均一にp型不純物を分散させることができる。これにより、均一な電荷密度分布を有する負電荷領域を形成することができる。また、実施の形態4によれば、均一な電荷密度分布を有する負電荷領域を形成することができるため、横方向に所定の電荷密度分布を有する負電荷領域を、空間変調パターンに基づいて制御性良く形成することができる。
(実施の形態5)
次に、実施の形態5にかかる半導体素子の構造について説明する。図14は、実施の形態5にかかる半導体素子の構造を示す断面図である。実施の形態5にかかる半導体素子が実施の形態2にかかる半導体素子と異なる点は、JTE構造を構成するp-型ウェル領域を設けていない点である。すなわち、保護絶縁膜7の内部に選択的に設けられた負電荷領域18は、エッジ終端構造部12におけるn-型ドリフト層2を選択的に覆う。具体的には、負電荷領域18は、n-型ドリフト層2の、最外周p+型ウェル領域3aとn++型チャネルストッパー領域5とに挟まれた部分を、最外周p+型ウェル領域3aとの境界7dからn++型チャネルストッパー領域5に達しない幅で覆う。負電荷領域18の電荷密度は、例えば、実施の形態1の正電荷領域の電荷密度と同様にすればよい。
保護絶縁膜7中に負電荷領域18を形成することで、保護絶縁膜7中には実施の形態2と同様に負イオン化したp型不純物(負電荷)が残る。このため、保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物が、n-型ドリフト層2の、負電荷領域18に覆われた部分(以下、内側エッジ領域とする)32aの正電荷であるドナーを補償し、内側エッジ領域32aの実効的な正電荷面密度が低下する。すなわち、内側エッジ領域32aの実効的な負電荷面密度が、エッジ終端構造部12におけるn-型ドリフト層2の、内側エッジ領域32aよりも外側の部分(以下、外側エッジ領域とする)32bの負電荷面密度よりも高くなる。これにより、n-型ドリフト層2の、最外周p+型ウェル領域3aとn++型チャネルストッパー領域5とに挟まれた部分に、ダブルゾーンJTE構造の2つのJTE領域に相当する不純物濃度差をつけることができる。
実施の形態5にかかる半導体素子の製造方法は、実施の形態2にかかる半導体素子の製造方法において、JTE構造を構成するp-型ウェル領域の形成工程を省略すればよい。このため、実施の形態5においては、ショットキー電極6または裏面電極10を形成するためのアニール時、実施の形態2と同様に保護絶縁膜7中に負電荷領域18が形成されるとともに、保護絶縁膜7中の負イオン化したp型不純物により内側エッジ領域32aのドナーが補償され減少する。これによって、内側エッジ領域32aの実効的な負電荷面密度が増加し、外側エッジ領域32bの負電荷面密度よりも高くなる。したがって、n-型ドリフト層2の、最外周p+型ウェル領域3aとn++型チャネルストッパー領域5とに挟まれた部分を、ダブルゾーンJTE構造と同様に機能させることができる。
また、実施の形態5に実施の形態4を適用し、熱CVDにより形成した保護絶縁膜からなる負電荷領域18を形成してもよい。
説明したように、実施の形態5によれば、JTE領域を設けない場合においても、保護絶縁膜中に負電荷領域を設けることで、エッジ終端構造部におけるn-型ドリフト層にダブルゾーンJTE構造の2つのJTE領域に相当する不純物濃度差をつけることができる。これにより、実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
(実施例1)
次に、上述した実施の形態1にかかる半導体素子について、p-型ウェル領域4(JTE領域)のアクセプタドーズ量と耐圧(素子耐圧)との関係について検証した。図15は、実施例1にかかる半導体素子におけるJTE領域のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を示す特性図である。まず、上述した実施の形態1にかかる半導体素子の製造方法にしたがい、正電荷領域8の平面パターンの異なる2つのJBS構造のダイオードを作製した(以下、実施例1A,1Bとする)。実施例1A,1Bは、それぞれp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の異なる複数の試料を作製している。そして、これら複数の試料についてそれぞれ耐圧を測定した。p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を図15に示す。図15の横軸は、正電荷領域8を形成するアニール前(すなわち正電荷領域8の形成時に正イオン化したn型不純物により補償される前)のp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量(以下、単にp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量とする)であり、素子完成時の内側JTE領域4aのアクセプタドーズ量である。図15の縦軸は耐圧である。
実施例1Aは、実施の形態1に例示した上記諸条件で作製した。すなわち、実施例1Aは、単位面積当たりの正の電荷密度が内側から外側(横方向)へ向うにしたがって増加する空間変調パターンで設けられた正電荷領域8を備える。実施例1Bは、横方向に一様な電荷密度分布で設けられた正電荷領域8を備える。すなわち、実施例1Bの正電荷領域8は空間変調パターンを有していない。実施例1Bの、正電荷領域8の電荷密度分布以外の構成は実施例1Aと同様である。実施例1A,1Bともに、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5とした。すなわち、保護絶縁膜7に注入されるn型不純物のドーズ量を、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の0.5倍にしている。
比較として、従来のシングルゾーンJTE構造113を備えたJBS構造のダイオード(以下、従来例1Aとする、図19(a)参照)のJTE領域(p-型ウェル領域)104のアクセプタドーズ量と耐圧との関係についても図15に示す。図15に示す従来例1Aの特性は図17と同様である。従来例1Aは、保護絶縁膜中に正電荷領域を備えない構成であり、保護絶縁膜以外の構成は実施例1Aと同様である。従来のダブルゾーンJTE構造114を備えたJBS構造のダイオード(以下、従来例1Bとする(図19(b)参照))の内側JTE領域(p-型ウェル領域)104aのアクセプタドーズ量と耐圧との関係は図18に示す。
図15に示す結果より、従来例1Aでは、耐圧1700V以上(横点線より上部分)を確保可能なJTE領域104のアクセプタドーズ量の範囲は1.2×1013/cm2以上2.0×1013/cm2以下であった。一方、実施例1A,1Bにおいて、耐圧1700V以上を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲は1.2×1013/cm2以上3.6×1013/cm2以下であり、従来例1Aよりもp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の適正範囲を広げることができることが確認された。
また、実施例1Bにおいては、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量に対して耐圧のピークが2つ確認されたが、2つのピーク間において耐圧を1700V以上にすることができることが確認された。図示省略するが、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも小さくした場合、従来例1Bと同様に(図18参照)、2つのピーク間において耐圧が1700V以下となることが確認されている。このため、JTE領域のアクセプタドーズ比は0.5以上であることが好ましい。JTE領域のアクセプタドーズ比が0.5である場合に、保護絶縁膜7に注入されるn型不純物のドーズ量の範囲は6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下となる。
また、図示省略するが、実施例1A,1Bにおいて、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも大きくするほど、従来例1Bと同様に(図18参照)、所定耐圧を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲が狭くなる。具体的には、p-型ウェル領域4を形成するためのイオン注入の、耐圧1700V以上を確保するために要するアクセプタドーズ量の範囲の下限値はJTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも大きくしても1.2×1013/cm2で一定に維持されるのに対し、上限値はJTE領域のアクセプタドーズ比を大きくするほど3.6×1013/cm2から低下する。このため、JTE領域のアクセプタドーズ比は可能な限り0.5に近いことが好ましい。
また、実施例1Aのように正電荷領域8を空間変調パターンとすることで、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量2×1013/cm2付近での耐圧低下を抑制することができることが確認された。すなわち、2つのピーク間での耐圧の落ち込みを抑制し、所定耐圧を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲においてほぼ一定の耐圧を安定して確保することができることが確認された。例えば、実施例1Aにおいては、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量が1.3×1013/cm2以上3.4×1013/cm2以下の範囲で1900V以上の耐圧を確保することができた。すなわち、定格耐圧1700Vに対して耐圧のマージンを200V確保することができ、このマージン分のドリフト抵抗を低減させることによりオン電圧の低減につなげることができる。
(実施例2)
次に、上述した実施の形態2にかかる半導体素子について、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係について検証した。図16は、実施例2にかかる半導体素子におけるJTE領域のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を示す特性図である。まず、上述した実施の形態2にかかる半導体素子の製造方法にしたがい、負電荷領域18の平面パターンの異なる2つのJBS構造のダイオードを作製した(以下、実施例2A,2Bとする)。実施例2A,2Bは、それぞれp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の異なる複数の試料を作製している。そして、これら複数の試料についてそれぞれ耐圧を測定した。p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を図16に示す。図16の横軸は、負電荷領域18を形成するアニール前(すなわち負電荷領域18の形成時に負イオン化したp型不純物により実効的な負電荷面密度が高くなる前)のp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量(以下、単にp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量とする)であり、素子完成時の外側JTE領域14bのアクセプタドーズ量である。図16の縦軸は耐圧である。
実施例2Aは、実施の形態2に例示した上記諸条件で作製した。すなわち、実施例2Aは、単位面積当たりの負の電荷密度が内側から外側へ向うにしたがって減少する空間変調パターンで設けられた負電荷領域18を備える。実施例2Bは、横方向に一様な電荷密度分布で設けられた負電荷領域18を備える。すなわち、実施例2Bの負電荷領域18は空間変調パターンを有していない。実施例2Bの、負電荷領域18の電荷密度分布以外の構成は実施例2Aと同様である。実施例2A,2Bともに、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5とした。すなわち、保護絶縁膜7に注入されるp型不純物のドーズ量を、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と同じにしている。比較として、従来のシングルゾーンJTE構造113を備えたJBS構造のダイオード(以下、従来例2Aとする、図19(a)参照)のJTE領域104のアクセプタドーズ量と耐圧との関係についても図16に示す。従来例2Aは、保護絶縁膜中に負電荷領域を備えない構成であり、保護絶縁膜以外の構成は実施例2Aと同様である。
なお、実施例2A,2BのJTE構造は、実施例1A,1BのJTE構造と同条件にした。すなわち、内側JTE領域14aおよび外側JTE領域14bのアクセプタドーズ量がそれぞれ実施例1A,1Bの内側JTE領域4aおよび外側JTE領域4bのアクセプタドーズ量と同じになるように、p-型ウェル領域4および負電荷領域18の形成条件を調整した。具体的には、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量は、実施例1A,1Bの同ドーズ量の0.5倍である。保護絶縁膜7にイオン注入するp型不純物のドーズ量は、実施例1A,1Bにおいて保護絶縁膜7にイオン注入するn型不純物のドーズ量と同じである。従来例2Aでは、JTE領域(p-型ウェル領域)104のアクセプタドーズ量を実施例2A,2Bのp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と同じにした。このため、従来例2Aでは、所定耐圧を確保可能なJTE領域104のアクセプタドーズ量の範囲は従来例1Aの同アクセプタドーズ量の0.5倍となっている。実施例2A,2Bのp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係、および、従来例2AのJTE領域104のアクセプタドーズ量と耐圧との関係を図16に示す。
図16に示す結果より、従来例2Aでは、耐圧1700V以上(横点線より上部分)を確保可能なJTE領域104のアクセプタドーズ量の範囲は、6×1012/cm2以上1×1013/cm2以下であった。一方、実施例2A,2Bにおいては、耐圧1700V以上を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲は、6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下であり、従来例2Aよりもp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の適正範囲を広げることができることが確認された。
また、実施例2Bにおいては、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量に対して耐圧のピークが2つ確認されたが、2つのピーク間において耐圧を1700V以上にすることができることが確認された。図示省略するが、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも小さくした場合、従来例1Bと同様に(図18参照)、2つのピーク間において耐圧が1700V以下となることが確認されている。このため、JTE領域のアクセプタドーズ比は0.5以上であることが好ましい。JTE領域のアクセプタドーズ比が0.5である場合、保護絶縁膜7に注入されるp型不純物のドーズ量の範囲は6×1012/cm2以上1.8×1013/cm2以下となる。
また、図示省略するが、実施例2A,2Bにおいて、JTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも大きくするほど、従来例1Bと同様に(図18参照)、所定耐圧を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲が狭くなる。具体的には、p-型ウェル領域4を形成するためのイオン注入の、耐圧1700V以上を確保するために要するアクセプタドーズ量の範囲の下限値はJTE領域のアクセプタドーズ比を0.5よりも大きくしても6×1012/cm2と一定に維持されるのに対し、上限値はJTE領域のアクセプタドーズ比を大きくするほど1.8×1013/cm2から低下する。このため、JTE領域のアクセプタドーズ比は可能な限り0.5に近いことが好ましい。
また、実施例2Aのように負電荷領域18を空間変調パターンとすることで、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量1×1013/cm2付近での耐圧低下を抑制することができることが確認された。すなわち、実施例1Aと同様に、2つのピーク間での耐圧の落ち込みを抑制し、所定耐圧を確保可能なp-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の範囲においてほぼ一定の耐圧を安定して確保することができることが確認された。例えば、実施例2Aにおいては、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量が6.5×1012/cm2以上1.7×1013/cm2以下の範囲で1900V以上の耐圧とすることができた。すなわち、定格耐圧1700Vに対して耐圧のマージンを200V確保することができ、このマージン分のドリフト抵抗を低減させることによりオン電圧の低減につなげることができる。
(実施例3)
次に、上述した実施の形態3にかかる半導体素子について、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係について検証した。まず、上述した実施の形態3にかかる半導体素子の製造方法にしたがい、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の異なる複数のJBS構造のダイオードを作製した(以下、実施例3とする)。これら複数の試料についてそれぞれ耐圧を測定した結果、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係について、実施例1Aと同様の結果が得られることが確認された(図15参照)。
(実施例4)
次に、上述した実施の形態4にかかる半導体素子について、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係について検証した。まず、上述した実施の形態4にかかる半導体素子の製造方法にしたがい、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量の異なる複数のJBS構造のダイオードを作製した(以下、実施例4とする)。これら複数の試料についてそれぞれ耐圧を測定した結果、p-型ウェル領域4のアクセプタドーズ量と耐圧との関係について、実施例2Aと同様の結果が得られることが確認された(図16参照)。
以上において本発明は種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。例えば、上述した各実施の形態では、JBS構造のダイオードを例に説明しているが、本発明はpinダイオードや、ショットキーバリアダイオード、MOSFET、JFET、IGBT、BJT(Bipolar Junction Transistor:バイポーラジャンクショントランジスタ)、GTOなど様々な半導体素子に適用可能である。この場合、エッジ終端構造部の耐圧構造は上述したJBS構造のダイオードと同様であるため、活性領域に形成される素子構造を種々変更すればよい。また、本発明は、様々な耐圧クラスの半導体素子に適用可能である。また、本発明は、シリコン(Si)を用いた半導体素子にも適用可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。この場合、実施の形態1,3では、正電荷領域に代えて、当該正電荷領域と同じ配置および電荷密度で負電荷領域を形成すればよい。実施の形態2,4では、負電荷領域に代えて、当該負電荷領域と同じ配置および電荷密度で正電荷領域を形成すればよい。実施の形態5では、負電荷領域に代えて、実施の形態1の正電荷領域と同じ配置および電荷密度で正電荷領域を形成すればよい。