図1に模式的に示すように、本発明の製造方法により作製される太陽電池100は、
光電変換部50と、光電変換部の第一主面上に、酸化インジウムを主成分とする第一透明電極層6と、めっき層を含む集電極70と、をこの順に有する。また光電変換部の第一主面上における集電極が形成されていない領域(集電極非形成領域ともいう)の略全面に、黒化防止層8と絶縁層9を備える。
本発明の太陽電池は、図2に示すように、第一透明電極層6の第一主面上に黒化防止層8を形成し(図2(a)、黒化防止層形成工程)、前記黒化防止層上にプラズマCVD法により窒化シリコンを主成分とする絶縁層9を形成し(図2(b)、絶縁層形成工程)、めっき法により、前記絶縁層の開口部にめっき層72を形成する(図2(c)、めっき工程)ことにより製造される。
以下、本発明の一実施形態であるヘテロ接合結晶シリコン太陽電池(以下、「ヘテロ接合太陽電池」と記載する場合がある)を例として、本発明をより詳細に説明する。ヘテロ接合太陽電池は、一導電型の単結晶シリコン基板の表面に、単結晶シリコンとはバンドギャップの異なるシリコン系薄膜を有することで、拡散電位が形成された結晶シリコン系太陽電池である。シリコン系薄膜としては非晶質のものが好ましい。中でも、拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン基板の間に、薄い真性の非晶質シリコン層を介在させたものは、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られている。
図3は、本発明の一実施形態に係る結晶シリコン系太陽電池の模式的断面図である。結晶シリコン系太陽電池101は、光電変換部50として、一導電型単結晶シリコン基板1の第一主面(光入射面)上に、導電型シリコン系薄膜3aが形成されている。光電変換部として、一導電型単結晶シリコン基板1の第二主面(裏面)には、導電型シリコン系薄膜3bを有することが好ましい。
光電変換部50の第一主面上における導電型シリコン系薄膜3a上には、第一透明電極層6aが形成されており、第二主面上における導電型シリコン系薄膜3b上には第二透明電極層6bが形成されていることが好ましい。
第一主面上における第一透明電極層6a上には、めっき層72を含む集電極70が形成されている。集電極は、図3に示すように、下地電極層71とめっき層72をこの順に有することが好ましい。
光電変換部の第一主面上(図3では第一透明電極層の第一主面)において、集電極が形成された集電極形成領域と集電極が形成されていない集電極非形成領域とが形成される。集電極が形成されていない領域(集電極非形成領域)には、黒化防止層8、及び、絶縁層9がこの順に形成されている。図3のように下地電極層71とめっき層の間(即ち下地電極層の一部上)にも、開口部を有する黒化防止層および絶縁層が形成されていてもよい。
(光電変換部)
一導電型単結晶シリコン基板1と導電型シリコン系薄膜3a,3bとの間には、真性シリコン系薄膜2a,2bを有することが好ましい。 まず、本発明の結晶シリコン系太陽電池における、一導電型単結晶シリコン基板1について説明する。一般的に単結晶シリコン基板は、導電性を持たせるために、シリコンに対して電荷を供給する不純物を含有している。単結晶シリコン基板は、シリコン原子に電子を導入するための原子(例えばリン)を含有させたn型と、シリコン原子に正孔を導入する原子(例えばボロン)を含有させたp型がある。すなわち、本発明における「一導電型」とは、n型またはp型のどちらか一方であることを意味する。
ヘテロ接合太陽電池では、単結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子・正孔対を効率的に分離回収することができる。そのため、光入射側のヘテロ接合は逆接合であることが好ましい。一方で、正孔と電子とを比較した場合、有効質量および散乱断面積の小さい電子の方が、一般的に移動度が大きい。以上の観点から、ヘテロ接合太陽電池に用いられる単結晶シリコン基板1は、n型単結晶シリコン基板であることが好ましい。単結晶シリコン基板1は、光閉じ込めの観点から、表面にテクスチャ構造を有することが好ましい。
テクスチャが形成された一導電型単結晶シリコン基板1の表面に、シリコン系薄膜が製膜される。シリコン系薄膜の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成条件としては、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用される原料ガスとしては、SiH4、Si2H6等のシリコン含有ガス、またはシリコン系ガスとH2との混合ガスが好ましく用いられる。
導電型シリコン系薄膜3は、一導電型または逆導電型のシリコン系薄膜である。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型が用いられる場合、一導電型シリコン系薄膜、および逆導電型シリコン系薄膜は、各々n型、およびp型となる。p型またはn型シリコン系薄膜を形成するためのドーパントガスとしては、B2H6またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2で希釈された混合ガスを用いることが好ましい。導電型シリコン系薄膜の製膜時に、CH4、CO2、NH3、GeH4等の異種元素を含むガスを添加して、シリコン系薄膜を合金化することにより、シリコン系薄膜のエネルギーギャップを変更することもできる。
シリコン系薄膜としては、非晶質シリコン薄膜、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンとを含む薄膜)等が挙げられる。中でも非晶質シリコン系薄膜を用いることが好ましい。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型単結晶シリコン基板を用いた場合の光電変換部50の好適な構成としては、p型非晶質シリコン系薄膜3a/i型非晶質シリコン系薄膜2a/n型単結晶シリコン基板1/i型非晶質シリコン系薄膜2b/n型非晶質シリコン系薄膜3bの順の積層構成が挙げられる。この場合、前述の理由から、p層側を光入射面とすることが好ましい。
真性シリコン系薄膜2a,2bとしては、シリコンと水素で構成されるi型水素化非晶質シリコンが好ましい。単結晶シリコン基板上に、CVD法によってi型水素化非晶質シリコンが製膜されると、単結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
p型シリコン系薄膜は、p型水素化非晶質シリコン層、p型非晶質シリコンカーバイド層、またはp型非晶質シリコンオキサイド層であることが好ましい。不純物拡散の抑制や直列抵抗低下の観点ではp型水素化非晶質シリコン層が好ましい。一方、p型非晶質シリコンカーバイド層およびp型非晶質シリコンオキサイド層は、ワイドギャップの低屈折率層であるため、光学的なロスを低減できる点において好ましい。
以上のようにして、ヘテロ接合太陽電池101の光電変換部50を形成することができる。
(透明電極層)
ヘテロ接合太陽電池では、光電変換部の第一主面上、即ち、導電型シリコン系薄膜3a上に第一透明電極層6aを備える。また光電変換部の第二主面上、即ち、導電型シリコン系薄膜3b上に第二透明電極層6bを備えることが好ましい。なお、本明細書において「透明電極層」とは、第一透明電極層または第二透明電極層のうち、少なくともいずれか一方を言う。
第一透明電極層は、酸化インジウムを主成分とする。本発明のようにめっき工程により集電極を形成する場合、導電性、光学特性、および長期信頼性の観点から、酸化インジウムを主成分とするインジウム系酸化物が好ましく用いられる。中でも酸化インジウムを主成分とするものがより好ましく、酸化インジウム錫(ITO)やタングステンをドーピング剤として用いたIWOが好ましく用いられる。ここで「主成分とする」とは、含有量が50重量%より多いことを意味し、70重量%以上が好ましく、90%重量以上がより好ましい。
透明電極層には、ドーピング剤を添加することができる。例えば、透明電極層として酸化インジウムが用いられる場合、ドーピング剤としては、亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素等が挙げられる。透明電極層として酸化錫が用いられる場合、ドーピング剤としては、フッ素等が挙げられる。
ドーピング剤は、光入射側透明電極層6aおよび裏面側透明電極層6bの一方もしくは両方に添加することができる。特に、光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することが好ましい。光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することで、透明電極層自体が低抵抗化されるとともに、透明電極層6aと集電極70との間での抵抗損を抑制することができる。
第一透明電極層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよいが、第一透明電極層6aが複数層の場合、少なくとも最表面層として酸化インジウムを主成分とする層を用いればよい。このようにすることでめっき液に対する耐性が向上する。例えば、めっき液のような酸性溶液に対して脆弱である酸化亜鉛を透明電極層として用いる場合は、積層構造として最表面層を酸化インジウム層で覆ったものなどを用いることができる。
光入射側である第一透明電極層6aの膜厚は、透明性、導電性、および光反射低減の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。透明電極層6aの役割は、集電極70へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよく、膜厚は10nm以上であることが好ましい。膜厚を140nm以下にすることにより、透明電極層6aでの光吸収ロスが小さく、透過率の低下に伴う光電変換効率の低下を抑制することができる。
また、透明電極層6aの膜厚が上記範囲内であれば、透明電極層内のキャリア濃度上昇も防ぐことができるため、赤外域の透過率低下に伴う光電変換効率の低下も抑制される。透明電極層の膜厚としては10nm〜140nmが好ましく、20nm〜80nmが更に好ましく、40nmから70nmが特に好ましい。
本発明においては、絶縁層として屈折率が1.8程度と比較的透明電極層の屈折率に近い窒化シリコンを用いているため、透明電極層を例えば20nm〜80nmと薄くした場合であっても、透明電極層が厚い場合と同様の光閉じ込め効果を期待できる。本明細書における膜厚は、光電変換部の表面にテクスチャ構造を有する場合、テクスチャ斜面に対して垂直方向における膜厚を意味する。勿論、光電変換部の表面が平滑な場合には、主面に対して直交する方向の厚みである。
透明電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法等の物理気相堆積法(PVD法)や、有機金属化合物と酸素または水との反応を利用した化学気相堆積(MOCVD)法等が好ましい。いずれの製膜方法においても、熱やプラズマ放電によるエネルギーを利用することもできる。第一透明電極層など、酸化インジウムを主成分とする透明電極層を形成する場合は、スパッタ法が特に好ましい。
透明電極層作製時の基板温度は、適宜設定される。例えば、シリコン系薄膜として非晶質シリコン系薄膜が用いられる場合、200℃以下が好ましい。基板温度を200℃以下とすることにより、非晶質シリコン層からの水素の脱離や、それに伴うシリコン原子へのダングリングボンドの発生を抑制でき、結果として変換効率を向上させることができる。
裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極10が形成されることが好ましい。裏面金属電極10としては、近赤外から赤外域の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀やアルミニウム、銅、金等が挙げられる。裏面金属電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法や真空蒸着法等の物理気相堆積法や、スクリーン印刷等の印刷法等が適用可能である。
(集電極)
透明電極層6a上に、集電極70が形成される。集電極70は、めっき層72を含む。集電極は、第一透明電極層側から、下地電極層71とめっき層をこの順に有することが好ましい。この場合、第一透明電極層よりも低抵抗である下地電極層71を設けることにより、容易にめっきを行うことができる。
また透明電極層6a上の集電極非形成領域上の略全面に黒化防止層と絶縁層を有する。この際、少なくとも黒化防止層が集電極非形成領域の略全面に形成されていればよく、黒化防止層および絶縁層が集電極非形成領域の略全面に形成されていることが好ましい。
ここで「略全面」とは、領域のうちの90%以上を意味する。即ち、光電変換部の第一主面上において、下地電極層非形成領域(集電極非形成領域)の90%以上に層が形成されていることを意味する。中でも、95%以上が好ましく、100%、即ち、下地電極層非形成領域の全面に形成されていることが特に好ましい。
黒化防止層が下地電極層非形成領域にも形成されている場合、絶縁層製膜時のプラズマによる透明電極層の還元を防止できる。また絶縁層が下地電極層非形成領域にも形成されている場合、めっき法によりめっき層が形成される際に、第一透明電極層や、その下に存在する光電変換部をめっき液から化学的および電気的に保護することが可能となる。
また図2に示すように、下地電極層上の一部上に黒化防止層と絶縁層を有していてもよい。即ち下地電極層上に開口部が形成された黒化防止層および絶縁層を有していてもよい。
以下に、集電極として下地電極層とめっき層をこの順に有し、集電極非形成領域上と、集電極形成領域の一部上と、黒化防止層と絶縁層が形成された太陽電池について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
図2に示すように、第一透明電極層6の第一主面上に、下地電極層71が形成され、下地電極層71を覆うように黒化防止層8が形成される(図2(a)、黒化防止層形成工程)。その後、黒化防止層8上にプラズマCVD法により窒化シリコンを主成分とする絶縁層9が形成される(図2(b)、絶縁層形成工程)。その後、下地電極層上の黒化防止層8と絶縁層9に開口部が形成され(図2(b’))、めっき法により、前記黒化防止層8及び絶縁層9の開口部にめっき層72が形成される(図2(c)、めっき工程)。
本実施形態において、下地電極層71とめっき層72との間には、黒化防止層8と絶縁層9が形成され、めっき層72の一部は、下地電極層71に導通されている。ここで「一部が導通されている」とは、典型的には絶縁層に開口部が形成され、その開口部にめっき層の材料が充填されていることによって、導通されている状態である。その他、黒化防止層8と絶縁層9の一部の膜厚が、数nm程度と非常に薄くなることによって、めっき層72が下地電極層71に導通しているものも含む。例えば、下地電極層71の低融点材料がアルミニウム等の金属材料である場合、その表面に形成された酸化被膜(絶縁層に相当)を介して下地電極層71とめっき層72との間が導通されている状態が挙げられる。
下地電極層上の黒化防止層および絶縁層への開口部の形成方法は特に限定されないが、特許文献2に記載のように、下地電極層71上に絶縁層9を形成時もしくは絶縁層製膜後、低融点材料の熱流動開始温度以上に加熱(アニール)する方法が好適に採用される。下地電極層が加熱されることにより、低融点材料が流動状態となり、下地電極層の表面形状に変化が生じ、これに伴って前記下地電極層71上に形成されている黒化防止層8及び絶縁層9に開口(き裂)を生じさせることができる。これにより、アニール後に、めっき法によりめっき層72が形成される。
下地電極層71は黒化防止層8及び、絶縁層9により被覆されているが、黒化防止層8及び絶縁層9に開口部が形成された部分では、下地電極層71が露出した状態である。そのため、下地電極層がめっき液に曝されることとなり、この開口部を起点として金属の析出が可能となる。このような方法によれば、集電極の形状に対応する開口部を有するレジスト材料層を設けずとも、集電極の形状に対応するめっき層をめっき法により形成することができる。
また、レーザー光を下地電極層71上に照射することにより、黒化防止層8及び絶縁層9に開口部を設ける方法、黒化防止層8及び、絶縁層9をパターン形成することにより、開口部を設ける方法などが挙げられる。このような黒化防止層8及び、絶縁層9のパターン形成を行う方法としては、例えばメタルマスクやフォトリソを用いたマスクによるパターニング法が挙げられるが、特にパターン方法は限定されない。また下地電極層上には絶縁層および黒化防止層のいずれか一方のみでもよく、下地電極層上に絶縁層および黒化防止層のいずれも形成されていなくてもよい。
また、下地電極層71を設けず、透明電極層6a上にパターン化した黒化防止層8及び絶縁層9を形成し、めっき法により透明電極層6aをシードとして、直接透明電極層6a上にめっき層72を形成してもよいし、下地電極層71形成領域以外の領域に絶縁層9を形成し、下地電極層71上にめっき層72を形成してもよい(不図示)。
下地電極層71は、インクジェット法、スクリーン印刷法、導線接着法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタ法等の公知技術によって作製できる。下地電極層71は、櫛形等の所定形状にパターン化されていることが好ましい。パターン化された下地電極層の形成には、生産性の観点からスクリーン印刷法が適している。スクリーン印刷法では、金属粒子からなる低融点材料を含む印刷ペースト、および集電極のパターン形状に対応した開口パターンを有するスクリーン版を用いて、集電極パターンを印刷する方法が好ましく用いられる。また、下地電極層の形成方法は印刷法に限定されるものではない。例えば、下地電極層は、パターン形状に対応したマスクを用いて、蒸着法やスパッタ法により形成されてもよい。
(黒化防止層)
第一透明電極層の第一主面上に黒化防止層が形成される(図2(a)、黒化防止層形成工程)。本発明においてはめっき法によりめっき層を形成するが、上述のように第一透明電極層6aとしては、めっき液に対してある程度耐性のある酸化インジウムを主成分とするものを用いる。
ここで第一透明電極層がめっき液に溶解することを抑制するために、集電極形成領域以外の集電極非形成領域に絶縁層9が形成され、絶縁層9としては、透光性や屈折率、膜被覆の緻密性等の観点からプラズマCVD法を用いて形成した窒化シリコン系薄膜が用いられる。
しかしながら、CVD法を用いて窒化シリコン系薄膜を形成する過程で発生する水素プラズマにより、インジウム系酸化物は還元されて透過率が低下するという問題があった。一方で、特許文献4に記載されているように、水素プラズマにより還元されにくい酸化亜鉛を酸化インジウム層上に形成して窒化シリコン層製膜時の水素プラズマによる還元を防止することを試みたところ、還元は防止できたものの、その後、めっき層を形成した際、めっき液による溶解が生じ、太陽電池特性が大幅に低下した。
これに対し、本発明では透明電極層6と絶縁層9の間に所定の黒化防止層8を設けることにより、透明電極層6の還元による透過率の低減防止と、窒化シリコン系薄膜を用いることによる光学的な利点を両立させることができる。
黒化防止層としては、プラズマCVD法により窒化シリコンを主成分とする絶縁層を製膜する際に生じうる水素プラズマから、酸化インジウムを主成分とする第一透明電極層を保護でき、かつ、第一透明電極層をめっき液から保護できるものであればよい。
黒化防止層8の材料としては、透光性絶縁材料が好ましく、例えば、ZrO2、HfO2、SiO2、SiN、AlF3、AlN,Al2O3、BaF2、BeO,BiF3,CaF2、CeF3、LaF3、La2O3、LiF、MgF2、MgO、NaF、Si3N4、YF3、Y2O3等が挙げられる。
ここで、絶縁層9として30〜200nm程度の薄い膜厚を形成する場合、CVD法を用いて絶縁層を形成するためある程度の被覆性、緻密性を確保することができるが、絶縁層9におけるピンホールを完全になくすことは難しく、めっき工程によりピンホール部に望まない金属(ゴースト)の析出がなされてしまう場合がある。これらの金属の析出は、遮光ロスや、金属が結晶シリコン基板へ拡散することによる電気的キャリアの再結合ロスの原因となる可能性があり、できるだけこのようなピンホールは減らさなければならない。
絶縁層9のピンホールにおける金属の析出を防ぐ観点から、黒化防止層は、絶縁性、あるいはめっき工程に対して絶縁性の材料からなることが好ましい。例えば黒化防止層が導電性材料であった場合、めっき工程において黒化防止層を介して電気が流れ、ピンホールにおいてめっきがなされてしまう。これに対し、絶縁性、あるいはめっき工程に対して十分に高抵抗な導電性をもつ材料であった場合は、絶縁層9にピンホールがあったとしても黒化防止層により絶縁性が確保されるため、ピンホールにおけるめっきの析出を抑制できるためである。中でも、不所望な箇所へのめっきの析出をより抑制する観点から、黒化防止層として、絶縁材料を用いることが好ましく、光入射面である第一主面上から光をより多く取り込むため、透光性絶縁材料を用いることがより好ましい。
なお、本明細書においては、体積抵抗率が10−2Ω・cm以下であれば導電性であると定義する。また、体積抵抗率が、102Ω・cm以上であれば、絶縁性であると定義する。
黒化防止層の形成方法としては、黒化防止層製膜時に透明電極層6に還元を引き起こしうる程度の水素プラズマが生じなければ、PVD法、CVD法等どのような形成方法であっても構わない。中でも、ピンホールを抑制するという観点からは、PVD法で形成する方が好ましい。PVD法を用いることで、黒化防止層8と絶縁層9の形成方法が異なるものとなり、ピンホールの形成確率を下げることができると考えられる。
例えば、基板表面に微小な有機系の付着物が付着している場合、プラズマCVD法で黒化防止層8、絶縁層9の両方を形成すると、基板表面で化学反応を起こして膜を形成するCVD法では、有機物の表面で化学反応が阻害され、ピンホールを形成してしまう可能性がある。一方で、黒化防止層8にPVD法を用いれば、物理的に材料を付着させて膜を形成するPVD法により、例えば上述のような微小な有機物上にも膜を形成しやすくなると考えらえる。このような場合は、有機物上にも黒化防止層8が形成されているため、CVD法により絶縁層9を有機物上にも形成しやすくなると考えられる。このように膜形成のメカニズムの異なる方法を併用することにより、例えば絶縁層が30nm〜200nm程度と薄い場合であっても、よりピンホールの形成を防ぐことが可能になると考えられる。
PVD法としては、真空蒸着法、スパッタ法などが挙げられるが、スパッタ法を用いることがより好ましい。また透光性絶縁材料として、PVD法によりZrO2、HfO2、SiO2、SiN、AlF3、AlN,Al2O3、BaF2、BeO,BiF3,CaF2、CeF3、LaF3、La2O3、LiF、MgF2、MgO、NaF、Si3N4、YF3、Y2O3を形成することが好ましい。これにより黒化防止層における光吸収ロス抑制が期待できる。
黒化防止層は、膜厚が3nm以上100nm以下であることが好ましい。これにより、上述のように絶縁層を薄く製膜した場合であっても、不所望な箇所へのめっきの析出を抑制することができる。中でも、反射ロス低減及び被覆性向上の点から膜厚が10nm以上50nm以下がより好ましく、15nm以上40nm以下が特に好ましい。
光電変換部の第一主面上の表面にテクスチャにより形成された凹凸を有する場合は、黒化防止層8は凹凸の傾斜部における膜厚よりも凸部における膜厚の方が厚くなっていることが好ましい。この際、傾斜部における膜厚をd1、凸部における膜厚をd2としたとき、2×d1>d2>d1を満たすことが好ましい。
凹凸の凸部(頂上部付近)では、絶縁層9の膜厚が薄くなる傾向にあり、ピンホールの原因となりうるが、凸部における黒化防止層の膜厚を厚くすることで、ピンホールの形成を抑制でき、それに伴い不所望のめっきの析出を抑制することができる。なお、特に断りのない限り、本明細書において、光電変換部の表面に凹凸が形成されている場合の膜厚とは、上述のように斜辺に垂直な方向の膜厚(d1)を意味するものとする。
凸部における黒化防止層の厚みを厚くする方法としては、例えば、PVD法により黒化防止層を形成する方法などが挙げられる。これは、材料ガスが凹凸表面で反応することにより比較的膜が均一に形成される傾向にあるCVD法等は異なり、スパッタ等のPVD法では物理的に材料粒子が凹凸表面に飛来して付着するため、凹凸の凹部よりも凸部付近に膜が形成されやすいことに起因する。このようにPVD法で形成した黒化防止層8と、CVD法で形成した絶縁層9を組み合わせることにより、よりピンホールの形成を抑制することができると考えられる。
(絶縁層)
黒化防止層8上には、窒化シリコン(SiN)を主成分とする絶縁層9が形成される(図2(b)、絶縁層形成工程)。
ここで、下地電極層71が所定のパターン(例えば櫛形)に形成された場合、光電変換部50の表面上には、下地電極層が形成されている下地電極層形成領域(集電極形成領域)と、下地電極層が形成されていない下地電極層非形成領域(集電極非形成領域)とが存在する。
絶縁層9は、少なくとも下地電極層非形成領域における黒化防止層上の略全面に形成されることが好ましい。この際、黒化防止層上の全面に形成されることがより好ましく、下地電極層非形成領域の全面を覆うように形成されることが特に好ましい。即ち第一透明電極層とめっき液との接触が抑止され、第一透明電極層上への金属層(めっき層)の析出を防ぐことができる。絶縁層9は、下地電極層形成領域上にも形成されていることが好ましく、中でも下地電極層形成領域と下地電極層非形成領域との全体に絶縁層が形成されることがより好ましい。この場合、下地電極層のパターン形状に対応するマスク等を用いることなく絶縁層を形成できるため、生産性の点からも好ましい。
窒化シリコンを主成分とする絶縁層9を用いることにより、絶縁層による光吸収が小さくなり、より多くの光を光電変換部へ取り込むことが可能となる。また絶縁層9は光の吸収率が5%以下の十分な透明性を有するため、絶縁層での光吸収による光学的な損失が小さく、めっき層形成後に絶縁層を除去することなく、そのまま太陽電池として使用することができる。そのため、太陽電池の製造工程を単純化でき、生産性をより向上させることが可能となる。絶縁層9が除去されることなくそのまま太陽電池として使用することもできる。さらには十分な耐候性、および熱・湿度に対する安定性を有するため、モジュール化した際の信頼性を向上させることができる。
絶縁層は、プラズマCVD法により形成される。この場合、ピンホール等の欠陥が少なく、より緻密な構造の膜を形成することができる。この方法により、30〜200nm程度の薄い膜厚の絶縁層を形成した場合も、緻密性の高い構造の膜を形成することができる。絶縁層9に好適な反射防止特性を付与する観点から、膜厚は30nm〜200nmの範囲内で設定されることが好ましく、50nm〜150nmの範囲内で設定されることがより好ましい。
ヘテロ接合太陽電池のように、光電変換部50の表面に透明電極層(一般には屈折率:1.9〜2.1程度)を有する場合、界面での光反射防止効果を高めて太陽電池セル内部へ導入される光量を増加させるために、絶縁層の屈折率は、封止材(例えばEVAであれば屈折率=1.5)と透明電極層との中間的な値であることが好ましい。かかる観点から、絶縁層9の屈折率は、例えば1.55〜1.95が好ましく、1.6〜1.9が好ましく、さらに1.65〜1.85が特に好ましい。
このような屈折率を持つ材料としては、窒化シリコン系薄膜の他に酸化シリコン系薄膜(SiOx)が挙げられる。しかしながら、SiOxで酸素の含有量を減らすことで上述の屈折率を持つものを形成すると、屈折率の上昇に伴って、消衰係数も大きくなり、絶縁層での光吸収ロスが大きくなる。このため、絶縁層9は、屈折率が高く、かつ光吸収ロスの小さい窒化シリコンを主成分とすることが望ましい。また、窒化シリコン形成中に酸素を混合させることで酸化窒化シリコンを形成し、屈折率を所望の範囲に調整さても良い(SiON)。このように本発明では、窒化シリコンが主成分であれば、様々な材料と混合させることで、屈折率の調整を行うことができる。
なお、本明細書における屈折率は、特に断りがない限り、波長550nmの光に対する屈折率であり、分光エリプソメトリーにより測定される値である。また、絶縁層の屈折率に応じて、反射防止特性が向上するように絶縁層の光学膜厚(屈折率×膜厚)が設定されることが好ましい。
例えば、図3に示す結晶シリコン系太陽電池のように、光電変換部50の表面にテクスチャ構造(凹凸構造)を有する場合、テクスチャの凹部や凸部にも精度よく膜形成できる観点からも、絶縁層はプラズマCVD法により形成されることが好ましい。緻密性が高い絶縁層を用いることにより、めっき処理時の透明電極層へのダメージを低減できることに加えて、透明電極層上への金属の析出を防止することができる。このように緻密性が高い絶縁膜は、図3の結晶シリコン系太陽電池におけるシリコン系薄膜3のように、光電変換部50内部の層に対しても、水や酸素などのバリア層として機能し得るため、太陽電池の長期信頼性の向上の効果も期待できる。
窒化シリコン系薄膜の形成方法としては、プラズマCVD法を用いて、例えば基板温度100〜200℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm2が好ましく用いられる。窒化シリコン系薄膜の形成に使用される原料ガスとしては、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルシラン(TMS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、ヘキサメチルジシラン等のシリコン含有ガス、またはシリコン系ガスとH2との混合ガスにNH3、N2等のガスを混合させることが好ましい。更には酸窒化シリコン系薄膜の形成には、上述の混合ガスにN2O等の酸素含有ガスを混合することでSiONを形成することができる。
(光学設計)
上述した第一透明電極層6a、黒化防止層8、絶縁層9それぞれの膜厚は、結晶シリコン系太陽電池の発電に寄与する300nm〜1200nm程度の波長領域の光に対して強く干渉を起こすような膜厚であるため、これらの膜の屈折率、膜厚を全て考慮して光学設計を行う必要がある。光学設計はどのような方法を用いて設計を行ってもよいが、光学シミュレーションにより最適構造を求める方が簡便である。
光学シミュレーションでは、例えば、表面が完全に平坦な太陽電池では、特性マトリックス等を用いて一次元的に計算を行うことができる。また、表面に凹凸構造を持つ太陽電池においては、三次元的に扱い、波動光学を用いて計算を行ってもよいし、光学干渉の部分を一次元計算で求め、コーティングファイルとして三次元のレイ・トレーシング等に導入することで幾何光学的に計算を行ってもよい。
表1(a)及び(b)に、それぞれ黒化防止層8としてSiO2(屈折率:1.5)とHfO2(屈折率2.0)を用いた場合のヘテロ接合太陽電池の短絡電流値の変化率を、シミュレーションにより計算した結果を示す。この計算における各材料の屈折率、及び、消衰係数は、製膜した膜から分光エリプソメトリー(商品名M2000、ジェー・エー・ウーラム社製)を用いて求めたものを使用した。屈折率は波長550nmの値を記載しているが、計算においては300nm〜1200nmのそれぞれの波長における屈折率値を使用した。
また黒化防止層8の屈折率がSiN(屈折率:1.8)と同じであった場合を表1(c)に示す。変化率は、太陽電池の表面構造が封止材(EVA)/透明電極層(ITO)/p型非晶質シリコン系薄膜/真性非晶質シリコン系膜膜/単結晶シリコン基板の場合を基準構造とし、封止材(EVA)/絶縁層9(SiN)/黒化防止層8/透明電極層(ITO)/p型非晶質シリコン系薄膜/真性非晶質シリコン系膜膜/単結晶シリコン基板構造の場合における基準構造からの短絡電流値(Jsc)の変化率(%)を示している。表1においては、縦軸に絶縁層である窒化シリコン層(SiN)、横軸に黒化防止層の厚みを各々示している。
例えば表1(a)に示されているように、黒化防止層8にSiO2を用いて膜厚を71nmとし、絶縁層9であるSiN(屈折率:1.8)の膜厚を141nmとした場合は、基準構造に対して1%の電流の下落が見られることを示している。ただし、この計算においては、櫛電極の遮光ロスを除いた真性の電流を計算しており、実際の太陽電池では、更に櫛電極の遮光ロスも加味する必要がある。
例えば、基本構造では櫛電極は通常Agペーストの印刷により形成されるが、本件のようにめっき法を用いて櫛電極を形成する場合は、電極の電気抵抗率が低いため櫛電極の線幅を細くすることができ、櫛電極の遮光ロスの減少による更なる電流の向上が期待できる。また、表1の計算では、透明電極層の還元による光吸収ロスも考慮していないため、例えば黒化防止層の膜厚が5nm未満の場合に、黒化防止層の被覆が不十分となることにより生じうる第一透明電極層の還元による光吸収ロス等を取り入れていない。
表1の太枠で囲った範囲は、電流の変化率が0%以上の場合を表している。ただし、めっき液からの保護の観点から、絶縁層の膜厚は、被覆が十分となる30nm以上の場合を太枠の下限としている。黒化防止層8の屈折率n2はどのような値でもよいが、表1の(a)、(b)、(c)を各々比較すると、(c)の場合に、電流の低下が少ない範囲がより広範囲に見られていることがら、封止材の屈折率と透明電極層の屈折率の間に設けることが好ましい。すなわち、黒化防止層の屈折率は1.5以上、2.2以下が好ましく、1.6以上2.0以下が更に好ましく、1.7以上1.9以下が特に好ましいと考えられる。
表1(a)のSiO2の場合では、絶縁層であるSiNの膜厚が30nm〜120nmであり、SiO2の膜厚が5nm〜50nmの範囲にあることが好ましいことが分かる。また、表1(b)のHfO2の場合では、SiNの膜厚が30nm〜170nmであり、HfO2の膜厚が5nm〜40nmの範囲で最適である。
更に表1(c)の場合は、絶縁層9の膜厚は30nm〜140nm、黒化防止層8の膜厚は5nm〜140nmで最適であるが、表1(c)からわかるように黒化防止層8と絶縁層9の合計膜厚は150nm程度以下の場合に特に良好な値を示していること分かる。一方で、PVD法を用いて形成する黒化防止層8よりも、CVD法を用いて形成する絶縁層9の方が、緻密な膜ができるため、ある程度絶縁層9の膜厚に厚みがある方が、ピンホール抑制の観点から好ましい。
このため、黒化防止層8の膜厚は3nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が更に好ましい。なお、黒化防止層8の膜厚は被覆率の関係から5nm以上が好ましく、絶縁層9の膜厚はめっき液に対する保護層であるという観点から30nm以上であることが好ましい。即ち、被覆率とめっき液に対する保護の点から30nm以上50nm以下がより好ましいと考えられる。このように、黒化防止層8、及び絶縁層9の屈折率と膜厚は、光学シミュレーションにより適宜設計することができる。
表1から分るように、今回計算した中で黒化防止層の屈折率の最も低いSiO2の場合は、電流の低下が1%以上になる領域が見られるが、屈折率の大きいSiNやHfO2の場合においては、そのように大きく電流が低下する領域は、今回計算した範囲においては見られない。特に黒化防止層8の屈折率が絶縁層9と同じであるSiNの場合は、電流の低下が小さい範囲が広く、特に好ましいことが分かる。
このことから、黒化防止層8の屈折率はある絶縁層9の屈折率と近い値化、それよりも大きい値を持つ方が好ましいことが分かる。このような黒化防止層8の材料としては、ZrO2、HfO2、SiO、SiN、AlF3、AlN,Al2O3、BaF2、BeO,BiF3、CeF3、La2O3、MgO、Si3N4、Y2O3等が挙げられる。
(めっき工程)
絶縁層形成工程後に、下地電極層上にめっき層72がめっき法により形成される(図2(c)、めっき工程)。この際、めっき層として析出させる金属は、めっき法で形成できる材料であれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、錫、アルミニウム、クロム、銀、金、亜鉛、鉛、パラジウム等、あるいはこれらの混合物を用いることができる。中でも、低効率が低く集電極における電気抵抗ロス低減の観点と、材料コストが低いという観点から、銅を用いることが好ましい。
太陽電池の動作時(発電時)には、電流は主としてめっき層を流れる。そのため、めっき層での抵抗損を抑制する観点から、めっき層のライン抵抗は、できる限り小さいことが好ましい。具体的には、めっき層のライン抵抗は、1Ω/cm以下であることが好ましく、0.5Ω/cm以下であることがより好ましい。一方、下地電極層のライン抵抗は、電気めっきの際の下地層として機能し得る程度に小さければよく、例えば、5Ω/cm以下にすればよい。
めっき層は、無電解めっき法、電解めっき法のいずれでも形成され得るが、生産性の観点から、電解めっき法を用が好適である。電解めっき法では、金属の析出速度を大きくすることができるため、めっき層を短時間で形成することができる。
酸性銅めっきに用いられるめっき液16は銅イオンを含む。例えば硫酸銅、硫酸、水を主成分とする公知の組成のものが使用可能であり、これに0.1〜10A/dm2の電流を流すことにより、めっき層である金属を析出させることができる。適切なめっき時間は、集電極の面積、電流密度、陰極電流効率、設定膜厚等に応じて適宜設定される。
めっき層は、複数の層から構成させても良い。例えば、Cu等の導電率の高い材料からなるめっき層を、絶縁層を介して下地電極層上に形成した後、化学的安定性に優れる第二めっき層(保護層)をめっき層の表面に形成することにより、低抵抗で化学的安定性に優れた集電極を形成することができる。
めっき工程の後には、めっき液除去工程を設けて、基板12の表面に残留しためっき液を除去することが好ましい。
以上、ヘテロ接合太陽電池の光入射側に集電極70が設けられる場合を中心に説明したが、図4のように裏面側にも同様の集電極(両面グリッド構造の集電極)が形成されてもよい。この場合、例えば光入射面側と裏面側のめっき層を同時に形成する等により、生産工程を低減できる。
ヘテロ接合太陽電池のように結晶シリコン基板を用いた太陽電池は、電流量が大きいため、一般に、透明電極層/集電極間の接触抵抗の損失による発電ロスが顕著となる傾向がある。これに対して、本発明では、下地電極層とめっき層を有する集電極は、透明電極層との接触抵抗が低いため、接触抵抗に起因する発電ロスを低減することが可能となる。
本発明の太陽電池は、実用に供するに際して、モジュール化されることが好ましい。太陽電池のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、集電極にタブ等のインターコネクタを介してバスバーが接続されることによって、複数の太陽電池セルが、配線材により直列または並列に接続され、封止剤およびガラス板により封止されることによりモジュール化が行われる。
太陽電池モジュールは、太陽電池セルの受光面側に受光面側封止材と受光面側保護材を順に配置し、太陽電池セルの裏面側に裏面側封止材と裏面側保護材を順に配置することにより形成される。この際、受光面側保護材としては、ガラス等の透光性基板を用いることが好ましい。また裏面側保護材としてはAl等の金属箔を有するものが一般的に用いられているが、金属箔を有さないものが好ましい。通常、金属箔を有さない裏面側保護材を用いた場合、湿分が太陽電池に侵入しやすく、長期信頼性が低下する場合があり、特に両面にグリッド状の電極を形成する場合に顕著になる。
一方、例えば、両面グリッド状の集電極を形成する場合であっても、図4に示すように両面に黒化防止層および絶縁層を形成することが好ましい。すなわち、第二透明電極層の第二主面には、裏面電極が形成された裏面電極形成領域と、裏面電極が形成されていない裏面電極非形成領域と、を有するが、少なくとも裏面電極非形成領域の略全面を覆うように、黒化防止層と絶縁層が形成されることが好ましい。これにより、湿分の侵入をより防止でき、長期信頼性を向上させることができる。
以下、図3に示すヘテロ接合太陽電池に関する実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1のヘテロ接合太陽電池を、以下のようにして製造した。
一導電型単結晶シリコン基板として、入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmのn型単結晶シリコンウェハを用い、このシリコンウェハを2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜が除去された後、超純水によるリンスが2回行われた。このシリコン基板を、70℃に保持された5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、ウェハの表面をエッチングすることでテクスチャが形成された。その後に超純水によるリンスが2回行われた。原子間力顕微鏡(AFM パシフィックナノテクノロジー社製)により、ウェハの表面観察を行ったところ、ウェハの表面はエッチングが最も進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
エッチング後のウェハがCVD装置へ導入され、その光入射側に、真性シリコン系薄膜2aとしてi型非晶質シリコンが5nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:120Pa、SiH4/H2流量比:3/10、投入パワー密度:0.011W/cm2であった。なお、本実施例における薄膜の膜厚は、ガラス基板上に同条件にて製膜された薄膜の膜厚を、分光エリプソメトリー(商品名M2000、ジェー・エー・ウーラム社製)にて測定することにより求められた製膜速度から算出された値である。
i型非晶質シリコン層2a上に、逆導電型シリコン系薄膜3aとしてp型非晶質シリコンが7nmの膜厚で製膜された。p型非晶質シリコン層3aの製膜条件は、基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH4/B2H6流量比が1/3、投入パワー密度が0.01W/cm2であった。なお、上記でいうB2H6ガス流量は、H2によりB2H6濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
次にウェハの裏面側に、真性シリコン系薄膜2bとしてi型非晶質シリコン層が6nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコン層2bの製膜条件は、上記のi型非晶質シリコン層2aの製膜条件と同様であった。i型非晶質シリコン層2b上に、一導電型シリコン系薄膜3bとしてn型非晶質シリコン層が4nmの膜厚で製膜された。n型非晶質シリコン層3bの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:60Pa、SiH4/PH3流量比:1/2、投入パワー密度:0.01W/cm2であった。なお、上記でいうPH3ガス流量は、H2によりPH3濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
この上に第一透明電極層6aおよび第二透明電極層6bとして、各々酸化インジウム錫(ITO、屈折率:1.9)が70nmの膜厚で製膜された。ここで酸化錫の混合比は5wt%とした。ターゲットとして酸化インジウムを用い、基板温度:室温、圧力:0.2Paのアルゴン雰囲気中で、0.5W/cm2のパワー密度を印加して透明電極層の製膜が行われた。裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極8として、スパッタ法により銀が500nmの膜厚で形成された。光入射側透明電極層6a上には、下地電極層71およびめっき層72を有する集電極70が以下のように形成された。
下地電極層71の形成には、低融点材料としてのSnBi金属粉末(粒径DL=25〜35μm、融点T1=141℃)と、高融点材料としての銀粉末(粒径DH=2〜3μm、融点T2=971℃)とを、20:80の重量比で含み、さらにバインダー樹脂としてエポキシ系樹脂を含む印刷ペーストが用いられた。この印刷ペーストを、集電極パターンに対応する開口幅(L=80μm)を有する#230メッシュ(開口幅:l=85μm)のスクリーン版を用いて、スクリーン印刷し、90℃で乾燥が行われた。
次にスパッタ法により酸化ハフニウム(HfO2、屈折率:2.0)を第一主面側表面の全面に5nm(d1)製膜した。ターゲットとして酸化ハフニウムを用い、基板温度:室温、圧力:0.5Paのアルゴン雰囲気中で、3.5W/cm2のパワー密度を印加して黒化防止層8の製膜が行われた。
その後、CVD装置に投入され、絶縁層9として窒化シリコン(屈折率:1.8)が、プラズマCVD法により100nmの厚みで光入射面側の全面に形成された。絶縁層9の製膜条件は、基板温度:150℃、圧力50Pa、SiH4/NH3流量比:1/3、投入パワー密度:0.04W/cm2であった。この条件で光入射面側に形成された絶縁層の屈折率は550nmの波長において1.8であった。その後、絶縁層形成後のウェハが熱風循環型オーブンに導入され、大気雰囲気において、180℃で20分間、アニール処理が実施された。
以上のようにアニール工程までが行われた基板12が、めっき槽11に投入された。めっき液16には、硫酸銅五水和物、硫酸、および塩化ナトリウムが、それぞれ120g/l、150g/l、および70mg/lの濃度となるように調製された溶液に、添加剤(上村工業製:品番ESY−2B、ESY−H、ESY−1A)が添加されたものが用いられた。このめっき液を用いて、温度40℃、電流3A/dm2の条件でめっきが行われ、下地電極層71上の絶縁層上に、10μm程度の厚みでめっき層72として銅が均一に析出した。下地電極層が形成されていない領域への銅の析出はほとんど見られなかった。
その後、レーザー加工機によりセル外周部のシリコンウェハが0.5mmの幅で除去され、本発明のヘテロ接合太陽電池が作製された。更に、ヘテロ接合太陽電池を1枚含むミニモジュールを作製し、AM1.5のスペクトル分布を有するソーラーシミュレータを用いて、25℃の下で擬似太陽光を100mW/cm2のエネルギー密度で照射して太陽電池特性の測定を行った。ミニモジュールの構造は、バックシート/封止材(EVA)/配線部材接続済みヘテロ接合太陽電池/封止材(EVA)/ガラスであり、ヘテロ接合太陽電池に貼り付けた配線部材を介して外部の測定器と接続し、前記のソーラーシミュレータを用いて太陽電池特性の測定を行った。
その後、透過型電子顕微鏡(TEM)により太陽電池の断面を観察したところ、黒化防止層の凹凸の凸部の膜厚(d2)は6nmであり、斜辺部の厚み(d1=5nm)よりも厚かった。
(実施例2)
黒化防止層8であるHfO2の膜厚d1が15nmであることを除いて、実施例1と同様にヘテロ接合太陽電池が作製された。同様に凹凸の凸部の膜厚d2は18nmであった。
(実施例3)
黒化防止層8であるHfO2の膜厚d1が30nmであることを除いて、実施例1と同様にヘテロ接合太陽電池が作製された。同様に凹凸の凸部の膜厚d2は35nmであった。
(実施例4)
黒化防止層8であるHfO2の膜厚d1が50nmであることを除いて、実施例1と同様にヘテロ接合太陽電池が作製された。同様に凹凸の凸部の膜厚d2は57nmであった。
(比較例1)
黒化防止層8を形成しなかったことを除いて、実施例1と同様にヘテロ接合太陽電池が作製された。
上記各実施例および比較例のヘテロ接合太陽電池の作製条件および太陽電池特性(開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)および変換効率(Eff)の測定結果を表2に示す。
表2では、比較例1の各パラメータの値で規格化した値を示している。表2からわかるようにHfO2を製膜しなかった比較例1に対して、HfO2を製膜した実施例1〜4における電流値が上昇していることが分かる。これは、比較例1では絶縁層9であるSiNを形成する際に、水素プラズマにより透明電極層6であるITOが還元され、透過率が低下したためと考えられる。一方で、黒化防止層8であるHfO2を形成した実施例1〜4では、ITOの還元が抑制されたことにより、高い電流値を得ることができたと考えられる。
比較例1と比較して、実施例1では5nmの黒化防止層が形成され、完全ではないものの透明電極層が黒化防止層により保護されているため、還元の抑制による電流値に向上が見られている。実施例2〜4ではほぼ完全に透明電極層が黒化防止層により被覆されるため、更なる電流の向上が見られた。
また実施例1〜4を比較すると、黒化防止層の厚みが30nmである実施例3の特性が最も高くなった。これは、今回作成した太陽電池においては、光学的な電流の変化と、黒化防止層8の被覆率向上による還元の吸収ロスの変化のバランスが、黒化防止層の膜厚が30nmである場合に最もよくなったためと考えられる。
以上、実施例を用いて説明したように、本発明によれば、絶縁層の形成時における透明電極層の還元を抑制でき、高出力の太陽電池を提供することが可能となる。