以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
図1は、本発明の実施形態にかかるエアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)はエアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。本実施形態では、エアバッグ装置100を、左ハンドル車における助手席用(前列右側座席)のものとして具現化している。エアバッグ装置100は、インストルメントパネル102の助手席104側における上面部106の内側に設置される。
エアバッグ装置100は、不図示のセンサから衝撃の検知信号を受けると、クッション108(図1(b)参照)が上面部106を開裂して車両後方に膨張展開する。図1(b)はエアバッグ装置100の稼動後の車両を例示した図である。エアバッグ装置100のクッション108は、助手席104の乗員132(図5(a)参照)を車両前方から拘束する。クッション108は袋状であって、インフレータ110(図5(a)参照)からガスを受給して膨張展開する。クッション108は、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
当該エアバッグ装置100のクッション108には、メインバッグ112およびセンタバッグ114の2つの部位が含まれている。メインバッグ112は、助手席104の前側に膨張展開する、容量の大きな部位である。メインバッグ112は、助手席104の乗員132とインストルメントパネル102およびウィンドシールド116との間の空間を埋めるように膨張展開する。これにより、乗員132のインストルメントパネル102への衝突を防ぐ。また、ウィンドシールド116への乗員132の衝突を防ぐことで、併せて乗員132の車外放出をも防ぐ。
センタバッグ114は、メインバッグ112の車内側にて膨張展開する、メインバッグ112よりも容量の小さい扁平な部位である。センタバッグ114は、乗員132(図5(a)参照)から見て、センターコンソール118の手前に膨張展開し、オブリーク衝突時等において乗員132の車内側への移動やセンターコンソール118への衝突を防ぐ。メインバッグ112とセンタバッグ114との下部は、布状のタイパネル120でつながれて一体化されている。
図2は、図1(b)の膨張展開時のクッション108を各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のクッション108を車外側の上方から見て例示した斜視図である。センタバッグ114と、メインバッグ112との間には、谷間128が形成されている。谷間128は、センタバッグ114とメインバッグ112とが車両後方側で分離されている。谷間128は、乗員132(図5(a)参照)の特に頭部E1を拘束する部位である。センタバッグ114は、メインバッグ112から離別しないよう、上部142がテザーベルト122によってメインバッグ112につながれている。テザーベルト122およびタイパネル120は、乗員132の頭部E1が接触し得る位置を避けて配置されていて、谷間128を露出させている。
メインバッグ112の車外側の側面には、2つのベントホール130が設けられている。ベントホール130は、いわゆる排気孔であって、インフレータ110(図5(a)参照)から供給されるガスを外部へ排出する。メインバッグ112の車外側にはサイドウィンドウ等が存在するのみで乗員132(図5(a)参照)は存在しないため、その点においてメインバッグ112の車外側の側面にベントホール130を設けることは有効である。
図2(b)は、図2(a)のクッション108を、車内側上方から見て例示した斜視図である。図2(b)に例示するように、テザーベルト122は、センタバッグ114の上部142と、メインバッグ112の上部144とをつないでいる。テザーベルト122は帯状であって、センタバッグ114の姿勢を支える役割を担う。テザーベルト122は、例えばクッション108と同じ種類の基布から形成されていて、センタバッグ114上の第1接続部124と、メインバッグ112上の第2接続部126とに、それぞれ縫製によって接続されている。
図2(c)は、図2(b)のクッション108を車外側から見て例示した図である。図2(c)に例示するように、本実施形態におけるセンタバッグ114は、車両後方側の後方領域160が、メインバッグ112よりも車両後方(図2(c)中左方)に突出して膨張展開する。したがって、センタバッグ114の車外側の側面は、谷間128から露出している。センタバッグ114は、この車内側の側面部162にて主に乗員132(図5(a)参照)の側頭部E1aを拘束する。センタバッグ114はテザーベルト122によってメインバッグ112に支えられているため、センタバッグ114は側頭部E1aを拘束する反力面として機能することができる。
図3は、図1(b)のクッション108の内部構造を例示した図である。図3(a)は、クッション108を上方から見て、その内部構造を概略的に例示している。クッション108を構成するメインバッグ112およびセンタバッグ114は、ともにハウジング134に収容されていて、このハウジング134から車両後方(図3(a)中下方)へ膨張展開する。ハウジング134は、例えば上方が開口した箱状であって、折り畳まれたクッション108を収容し、インストルメントパネル102(図1(a)参照)の上面部106の内側に設置される。
メインバッグ112には、インフレータ110が接続している。インフレータ110は、ガス発生装置であって、ハウジング134の底面に固定されている。インフレータ110としては、一例として円盤形状のディスク型のものが使用可能であるが、円筒形状のシリンダ型のものを使用してもよい。また現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ110としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
インフレータ110は、不図示のセンサから衝撃の検知信号を受けて稼働し、メインバッグ112にガスを供給する。メインバッグ112とセンタバッグ114とは隔壁部170によって隔てられているが、この隔壁部168にはメインバッグ112とセンタバッグ114とをつなぐ内圧保持機構170が設けられている。本実施形態では、インフレータ110からメインバッグ112へと供給されたガスは、内圧保持機構170を通ってセンタバッグ114に供給される。
図3(b)は、図3(a)の内圧保持機構170を例示した斜視図である。図3(b)に例示するように、内圧保持機構170は、3つの内圧保持ベント170a〜170cを含んで構成されている。各内圧保持ベント170a〜170cは、メインバッグ112からセンタバッグ114へガスを通過可能にするが、センタバッグ114からメインバッグ112へはガスを通過不能にする。これら内圧保持ベント170a〜170cを含んだ内圧保持機構170は、センタバッグ114からメインバッグ112へのガスの漏洩を抑え、センタバッグ114の内圧を高く維持することができる。
図3(b)の内圧保持ベント170a〜170cの構成を説明するために、代表して内圧保持ベント170aを参照する。図4は、図3(b)の内圧保持ベント170aを拡大して例示した図である。図4(a)では、内圧保持ベント170aを分解して例示している。図4(a)に例示するように、内圧保持ベント170aは、孔部172およびパッチ部174を含んで構成されている。
孔部172は、隔壁部168に設けられた、ガスの通過用の孔である。本実施形態では、孔部172は円形に形成されているが、孔部172の形状は適宜変更可能である。隔壁部168は基布等から構成されているが、孔部172の縁等の部位には所定のコーティングや補強布などを設置してもよい。
パッチ部174は、布状の部位であって、例えばクッション108と同じ基布等から構成されている。パッチ部174は、孔部172よりも大きい面積を有していて、孔部172の全体をセンタバッグ114側から覆い、隔壁部168に縫製等によって接続される。このとき、パッチ部174は、少なくとも一部が隔壁部168から離間可能に接続される。例えば本実施形態では、パッチ部174は、上下方向に延びる長辺L1、L2を有する長方形に構成されていて、上下の短辺S1、S2が縫製によって隔壁部168に接続されているが、左右の長辺L1、L2は隔壁部168には接続されていない。
図4(b)は、図4(a)の内圧保持ベント170aのA−A断面図である。A−A断面は、内圧保持ベント170aを水平方向に延びる線分で切断した断面であって、インフレータ110(図3(a)参照)の稼働前の状態を例示している。図4(b)に例示するように、パッチ部174は、インフレータ110からのガス圧を受けていない状態において、隔壁部168に沿って孔部172を塞いでいる。メインバッグ112からガスの圧力がかかると、パッチ部174は長辺L1、L2が隔壁部168に接続されていないため、長辺L1、L2が隔壁部168から離間する。
図4(c)は、図4(b)の内圧保持ベント170aに対し、インフレータ110(図3(a)参照)が稼働した状態を例示している。インフレータ110が稼働してメインバッグ112の内圧がセンタバッグ114の内圧よりも高まると、パッチ部174は孔部172からのガス圧によって、その一部が隔壁部168からセンタバッグ114の内部へ離間する。これによって、パッチ部174と孔部172との間に間隙F1が形成され、ガス(矢印176参照)は孔部172および間隙F1を通ってセンタバッグ114へと供給される。
図5は、図1(b)のクッション108が乗員132を拘束する過程を例示した図である。図5の各図では、図中左側が車両前方となっている。図5(a)は、クッション108の未展開状態を例示した図である。図5(a)に例示するように、クッション108は、折り畳まれた状態でハウジング134に収容されている。
エアバッグ装置100は、不図示のセンサから衝撃の検知信号を受けると、インフレータ110からのガスを受けてクッション108が膨張を開始する。図5(b)は膨張展開したクッション108を例示した図である。クッション108は、ハウジング134の蓋の役割をしているインストルメントパネル102の上面部106を開裂して車両後方に膨張展開する。
図5(b)に例示する乗員132は、図5(a)の乗員132よりもクッション108側へ進入している。車両衝突時のような緊急時には、乗員132は慣性によって車両前方へ移動する。乗員132がシートベルト136を装着していて腰部E5が拘束されている場合には、乗員132は上半身が腰部E5を中心に前屈するような軌道で移動する。
メインバッグ112は、主に乗員132の頭部E1や肩部E3、および胸部E4などを拘束する。膨張展開したメインバッグ112は、ウィンドシールド116とインストルメントパネル102の上面部106に接触している。メインバッグ112は、ウィンドシールド116とインストルメントパネル102に挟まれて膨張展開することで、乗員132が進入した際にも安定した姿勢で乗員132を拘束できる。
センタバッグ114は、メインバッグ112よりも車両後方(図5(b)中、右側)に突出している。オブリーク衝突においては、乗員132は車内側の斜め前方へ、特にシートベルト136に拘束されていない左肩部E3aを前方にして移動することがある。その場合、乗員132は側頭部E1aからセンタバッグ114に接触する。
図6は、図5(b)の乗員132が接触したクッション108の各部の拡大図である。図6(a)では、乗員132がセンタバッグ114に接触した状態における内圧保持機構170を例示している。乗員132がセンタバッグ114に接触した場合、乗員132から受ける荷重によって、センタバッグ114の内圧がメインバッグ112の内圧よりも高くなる場合がある。その場合において、内圧保持機構170はセンタバッグ114の内圧を保持する働きをする。
図6(b)は、図6(a)の内圧保持ベント170aを拡大して例示した図である。パッチ部174は、孔部172よりも面積が大きい。そのため、センタバッグ114の内圧がメインバッグ112の内圧よりも高くなった場合、パッチ部174はガス圧によって孔部172に吸い込まれるようにして隔壁部168に張り付く。図6(c)は、図6(b)の内圧保持ベント170aのB−B断面図である。図6(c)に例示するように、センタバッグ114の内圧によって隔壁部168に張り付いたパッチ部174は、孔部172を塞ぐ。したがって、センタバッグ114からメインバッグ112へのガスの漏洩が抑えられる。これにより、センタバッグ114の内圧は高いまま保持され、センタバッグ114は乗員132の頭部E1を好適に拘束することが可能になる。
再び図5を参照する。図5(c)は、図5(b)の乗員132がさらにクッション108側へ進入した状態を例示した図である。図5(c)に例示するように、乗員132の頭部E1は、側頭部E1aをセンタバッグ114に接触させながら谷間128の内部に案内され、この谷間128によって拘束される。加えて、乗員132の車内側の左肩部E3aが、センタバッグ114の後方領域160の後端部166によって拘束される。後端部166は、上方へ向かうほど次第に車両後方へ突出するよう、直線を描いて傾斜している。後方領域160の後端部166は、左肩部E3aを車両前方から拘束し、メインバッグ112と共に乗員132の上半身を支える。これによって、乗員132の上半身のねじれは相殺される。
これらのように、当該エアバッグ装置100であれば、内圧保持機構170によって、いったんセンタバッグ114に供給されたガスは、メインバッグ112へ漏洩し難くなる。したがって、センタバッグ114に乗員132の側頭部E1aや左肩部E3aが接触した場合にも、センタバッグ114の内圧を高いまま保持し、センタバッグ114によって乗員132をより効率よく拘束することができる。
図7は、図5のクッション108が乗員132を拘束する過程を上方から見て例示した図である。図7(a)〜図7(c)の各図は、図5(a)〜図5(c)の各図に対応している。以下、図7(a)〜図7(c)を参照して、クッション108が乗員132を拘束する過程について説明する。
図7(a)に例示するように、助手席104の乗員132が、シートベルト136を着用して着座していたとする。この場合において車両に衝撃が発生すると、不図示のセンサからエアバッグ装置100に稼働信号が送信され、図7(b)のようにクッション108が膨張展開する。オブリーク衝突においては、乗員132は車内側の斜め前方に移動する。本実施形態では、センタバッグ114がメインバッグ112よりも車両後側に突出していて、乗員132の頭部E1は側頭部E1aからセンタバッグ114の車外側の側面部162に接触する。
図7(c)は、図7(b)の乗員132がさらにクッション108側へ進入した図である。斜め前方へ移動する乗員132の頭部E1が、助手席104の正面に存在するメインバッグ112に接触すると、上から見て頭部E1には首部E2を軸にして時計回りに回転力(矢印で例示する回転140)が生じることがある。そこで本実施形態では、メインバッグ112の車内側に設けたセンタバッグ114の後方領域160を、メインバッグ112よりも車両後方に延長させている。加えて、メインバッグ112とセンタバッグ114との間に谷間128を設けている。
この構成によれば、車内側斜め前方へ移動する乗員132の頭部E1は、側頭部E1aをセンタバッグ114に接触させながら谷間128の内部に入り込むようにして拘束される。特に本実施形態では、内圧保持機構170(図6(a)等参照)によってセンタバッグ114の内圧を高いまま保持して側頭部E1aに接触することができるため、頭部E1に生じる回転140をより効率よく減少または打ち消すことが可能である。この構成によれば、乗員132の頭部E1の回転140の角速度を小さくし、回転140に伴う頭部E1の傷害値を抑えることができる。
また、センタバッグ114の後方領域160は、その後端部166にて乗員132の左肩部E3aを拘束する。乗員132は、車外側の右肩部E3bから車内側の脇腹にかけてシートベルト136によって拘束されているが、左肩部E3aはシートベルト136によっては拘束されていない。そのため、オブリーク衝突においては、乗員は左肩部E3aを車両前方にして車両前方へ向かうことがある。その場合、センタバッグ114の後端部166が左肩部E3aを前方および上方から拘束し、続いてメインバッグ112で右肩部E3bを拘束する。特に本実施形態では、内圧保持機構170(図6(a)等参照)によってセンタバッグ114の内圧を高いまま保持して左肩部E3aを拘束することができる。また、内圧保持機構170は、メインバッグ112からセンタバッグ114へはガスを通過させるため、乗員132がメインバッグ112の車内側付近に接触した場合にはメインバッグ112を僅かながらたわませ、乗員132を谷間128へ効率よく導くことができる。
これらのように、本実施形態では、内圧保持機構170によって内圧を高く保持したセンタバッグ114を利用して、側頭部E1aを拘束して頭部E1の回転140の角速度を小さくすることと共に、左肩部E3aを積極的に拘束して上半身に生じる回転も相殺することができ、乗員132の傷害値をさらに抑えることが可能である。したがって、乗員132の傷害値を効率よく抑えることが可能である。
本実施形態では、図5(b)を参照して説明したように、メインバッグ112はインストルメントパネル102とウィンドシールド116とに挟まれるようにして膨張していて、姿勢が安定している。センタバッグ114は、このメインバッグ112にテザーベルト122を介して支えられているため、センタバッグ114はメインバッグ112からの離間が抑えられている。
図7(b)に例示するように、テザーベルト122の第1接続部124は、センタバッグ114の車両後側の上部142に設けられている。テザーベルト122の第2接続部126は、メインバッグ112の上部144の車内側部分であって、第1接続部124よりも車両前方に設けられている。センタバッグ114は、テザーベルト122によって上部の後方側が車外側前方に引っ張られた状態となり、安定した姿勢で効率よく頭部E1を拘束することができる。
テザーベルト122の長さは、メインバッグ112およびセンタバッグ114が膨張展開して第1接続部124と第2接続部126が互いに離れる方向へ移動するときに緊張する長さに設定している。この緊張したテザーベルト122によって、センタバッグ114は重い乗員132の頭部E1が車外側から接触しても、センタバッグ114はメインバッグ112からあまり離れることなく谷間128の狭隘さが保たれ、頭部E1を拘束できる。
なお、第2接続部126を設ける位置は、適宜変更可能である。例えば第2接続部126は、メインバッグ112の上部144の車幅方向中央部分や車外側部分に設けることも可能である。本実施形態では、第2接続部126をメインバッグ112の車内側部分に設けているため、第2接続部126をメインバッグ112の車外側部分等に設ける場合に比べて、テザーベルト122の全体の長さが短く、テザーベルト122が緊張しやすい。このようにして、第2接続部126の位置を変えることでテザーベルト122の長さを変更でき、テザーベルト122の張力やセンタバッグ114を介して乗員132の頭部E1に加える反力等を適宜変更するも可能である。
上記では、図7(b)等を参照して、乗員132とクッション108との接触は側頭部E1aがセンタバッグ114に接触することから始まると述べた。しかし、乗員132とクッション108との接触は、例えば頭部E1がセンタバッグ114とメインバッグ112とに同時に接触したり、頭部E1が先にメインバッグ112から接触したりするなど、様々である。また、肩部E3(図5(b)等参照)や胸部E4がメインバッグ112等に接触した後に頭部E1がメインバッグ112等に接触する場合もある。しかしながら、いずれの場合においても本実施形態の構成によれば、乗員132の頭部E1を谷間128の内部に案内して有効に拘束することが可能である。
図7(b)では、頭部E1に生じる回転の例として、時計回りの回転140を例示した。しかし、例えば右ハンドル車の助手席においては、頭部E1には上方から見て首を中心に反時計回りの回転が生じる場合もある。この反時計回りの回転に対しても、本実施形態のクッション108によれば谷間128を利用して反時計回りの回転をも減少または打ち消し、そして頭部E1の角速度を小さくすることができる。すなわち、本実施形態のエアバッグ装置100は、頭部E1に生じる時計回りおよび反時計回りのいずれの回転に対しても、同様の効果を得ることができる。
クッション108が乗員132を拘束する過程について、別方向からも説明を試みる。図8は、図5のクッション108が乗員132を拘束する過程を車両前方から見て例示した図である。図8(a)に例示するように、助手席104の乗員132が、シートベルト136を着用して着座していたとする。この場合において車両に衝撃が発生すると、図8(b)のようにメインバッグ112が乗員132の正面に膨張展開し、センタバッグ114が乗員132の車内側(図8(b)中右側)の前方に膨張展開する。
図8(b)に例示するように、着座位置から車内側の斜め前方に移動した乗員132は、センタバッグ114の側面部162に側頭部E1aを接触させる。加えて、シートベルト136に拘束されていない左肩部E3aが、センタバッグ114の後方領域160の後端部166(図5(b)参照)に拘束される。そして図8(c)に例示するように、頭部E1は、センタバッグ114に案内されながら車両前方へ向かって谷間128に入り、谷間128に拘束される。
図9は、図8(c)のクッション108の矢視Aにおける模式図である。図9に例示するように、乗員132の上半身は、車両への衝撃発生時において、主に腰部E5を中心に車両前方へ回転するように動く。この時、乗員132の頭部E1は、着座位置から、車両前方に移動することに加えて、下方に下がるような軌跡156を描く。この頭部E1の軌跡156を鑑みて、本実施形態では、谷間128の深さを配慮している。
図9には、センタバッグ114とメインバッグ112との接続部分158を例示している。この接続部分158は、センタバッグ114とメインバッグ112とが接続している領域の縁であって、谷間128の底を構成する部分でもあり、谷間128の深さを決定している。接続部分158は、縫製されていることや、センタバッグ114とメインバッグ112とが形状的につながっていることなどによって設けられる。本実施形態では、乗員132の頭部E1がこの接続部分158に接触しないよう、谷間128を設定している。接続部分158は、例えば乗員132の肩部E3がセンタバッグ114またはメインバッグ112に拘束された場合において、そこから生じる頭部E1の軌跡156を避けるようにして設けられる。この構成によれば、頭部E1が接続部分158にあたることがなく、より安全性に配慮したクッション108を実現することができる。
本実施形態では、接続部分158に乗員が接触しないようにするために、内圧保持機構170を設ける位置にも配慮を行っている。内圧保持ベント170a〜170cの箇所では、センタバッグ114とメインバッグ112とがつながっているためである。本実施形態では、隔壁部168の一部分(領域169)が、インストルメントパネル102の上方に位置している。内圧保持ベント170a〜170cは、隔壁部168のうち領域169に設けられている。詳細には、インストルメントパネル102の車両前後方向の後端103に接する鉛直線G1に対し、内圧保持ベント170a〜170cは鉛直線G1よりも車両前方に設けられている。この領域169に内圧保持ベント170a〜170cを設けることで、クッション108のうちインストルメントパネル102よりも後方の部位(鉛直線G1よりも後方の部位)であって乗員に接触しやすい部位には、谷間128を好適に設けることが可能になっている。
内圧保持ベント170a〜170cをインストルメントパネル102の上方に位置する程度に車両前方に設けることで、車両後方から進入する乗員132が内圧保持ベント170a〜170cに干渉する機会を減らし、内圧保持ベント170a〜170cの機能およびセンタバッグ114等の乗員拘束力などを好適に保つことができる。なお、内圧保持ベント170a〜170cは、必ずしもすべてをインストルメントパネル102の上方に設けなくてもよい。例えば、頭部E1の軌跡156の範囲に谷間128が確保できれば、内圧保持ベントは鉛直線G1の車両後方にも問題なく配置することができる。また例えば、複数の内圧保持ベントのうち、一部のみがインストルメントパネル102の上方に配置された構成とすることも可能である。
これらのように谷間128は乗員132の頭部E1が接触し得る箇所に設けられているが、その一方で谷間128の下方においてはメインバッグ112とセンタバッグ114が一体化している。このメインバッグ112とセンタバッグ114とが一体化した部位は、例えば乗員132の肩部E3や胸部E4等を好適に拘束することが可能になっている。
以上説明した構成によって、センタバッグ114は乗員132の頭部E1、特に側頭部E1aを好適に拘束することが可能になっている。特に、センタバッグ114は、内圧保持機構170によって内圧を高く保持したまま、頭部E1の重心のやや後方側までも拘束することが可能になっている。そして、メインバッグ112とセンタバッグ114との間の谷間128で、頭部E1の拘束が完了する。加えて、センタバッグ114の後端部166が、乗員132の左肩部E3aを前方および上方から拘束する。これら構成によれば、乗員132の頭部E1に生じ得る回転140および上半身の回転を抑え、乗員132の傷害値を大幅に抑えることが可能である。
(変形例)
図10は、図3(b)の内圧保持機構170の変形例を例示した図である。図10(a)に例示する内圧保持機構200は、チューブ状の構造を有する点で、図3(b)の内圧保持機構170と異なっている。なお、既に説明した構成要素と同様の構成要素については、同じ符号を付することでその説明を省略する。
図10(a)は、内圧保持機構200を例示した斜視図である。図10(a)に例示するように、内圧保持機構200は、チューブ部202を含んで構成されている。チューブ部202は、隔壁部168に形成された孔部204の周囲からセンタバッグ114の内部へ延びている。チューブ部202の先端206は、自由端となっている。孔部204は、図4(a)の孔部172と同様の構成であって、メインバッグ112とセンタバッグ114とをつないでいる。内圧保持機構200もまた、インストルメントパネル102(図9参照)の上方に設けることが可能である。
図10(b)は、図10(a)のC−C断面図である。図10(b)に例示するように、インフレータ110(図3(a)参照)が稼働してメインバッグ112の内圧がセンタバッグ114の内圧よりも高まると、チューブ部202は孔部から204のガス圧によって、隔壁部168からセンタバッグ114の内部へ延びる。ガスは、孔部204およびチューブ部202の内側を通って、センタバッグ114へと供給される。
図10(c)は、図10(b)のセンタバッグ114の内圧がメインバッグ112の内圧よりも高くなった場合を例示している。乗員が接触した際の荷重によってセンタバッグ114の内圧がメインバッグ112の内圧よりも高くなった場合、チューブ部202はガス圧によって孔部204に吸い込まれるようにして隔壁部168に張り付く。隔壁部168に張り付いたチューブ部202は、孔部204を塞ぐ。したがって、センタバッグ114からメインバッグ112へのガスの漏洩が抑えられる。これにより、センタバッグ114の内圧は高いまま保持され、センタバッグ114は乗員132(図7(b)等参照)の頭部E1を好適に拘束することが可能になる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。