自動車、自動二輪車、農業機械、船舶等のレシプロエンジンは、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すために、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、型鍛造または鋳造によって製造できる。特に、高強度と高剛性がクランク軸に要求される場合、それらの特性に優れることから、鍛造によって製造された鍛造クランク軸が多用される。
一般に、鍛造クランク軸の製造は、ビレットを原材料とし、ビレットは、断面が丸形または角形で全長にわたって断面積が一定である。鍛造クランク軸の製造工程は、予備成形、型鍛造、バリ抜きおよび整形の各工程を含む。通常、予備成形工程は、ロール成形と曲げ打ちの各工程を含み、型鍛造工程は、荒打ちと仕上げ打ちの各工程を含む。
図1A〜1Fは、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。図1Aはビレット、図1Bはロール荒地、図1Cは曲げ荒地、図1Dは荒鍛造材、図1Eは仕上げ鍛造材、および、図1Fは鍛造クランク軸をそれぞれ示す。
図1Fに例示するクランク軸1は、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、および、8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8から構成される。アーム部A1〜A8は、ジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ。また、クランク軸1は、8枚の全てのアーム部A1〜A8にカウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を有する。このようなクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載され、4気筒−8枚カウンターウエイトである。
4つのピン部P1〜P4は、いずれも、ジャーナル部J1〜J5に対して偏心している。ピン部P1〜P4の位相は、クランク軸1の長手方向の中央のジャーナル部J3を中心に面対称となるように適宜設定される。このため、中央のジャーナル部J3と繋がるアーム部(A4、A5)は、ジャーナル部J3を中心に面対称となる。すなわち、2つのアーム部(A4、A5)は、いずれも、同一のジャーナル部J3と繋がるとともに同位相のピン部(P2、P3)と繋がる。
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8およびウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部Pおよびこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
図1に示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、図1Aに示すビレット2を加熱炉(例えば誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉)によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールによりビレット2を圧延して絞りつつその体積を長手方向に配分し、中間素材であるロール荒地3を成形する(図1B参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール荒地3を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下してその体積を配分し、更なる中間素材である曲げ荒地4を成形する(図1C参照)。
続いて、荒打ち工程では、曲げ荒地4を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、クランク軸(最終製品)のおおよその形状が造形された荒鍛造材5を成形する(図1D参照)。さらに、仕上げ打ち工程では、荒鍛造材5を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造し、最終製品のクランク軸と合致する形状が造形された仕上げ鍛造材6を成形する(図1E参照)。これら荒打ちおよび仕上げ打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から、余材がバリとして流出する。このため、荒鍛造材5および仕上げ鍛造材6は、いずれも、周囲にバリ(5a、6a)が大きく付いている。
バリ抜き工程では、例えば、仕上げ打ちによって得られたバリ6a付きの仕上げ鍛造材6を上下から金型で挟み込んで保持した状態で、刃物型によってバリ6aを打ち抜き除去する。これにより、図1Fに示す鍛造クランク軸1とほぼ同じ形状のバリ無し鍛造材が得られる。整形工程では、バリ無し鍛造材の要所を上下から金型で僅かにプレス圧下し、最終製品の寸法形状に矯正する。ここで、バリ無し鍛造材の要所は、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、さらにはアーム部Aおよびウエイト部Wが該当する。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
図1A〜1Fに示す製造工程は、図1Fに示す4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、様々なクランク軸に適用できる。例えば、一部のアーム部Aにウエイト部Wを設けるクランク軸、より具体的には、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸にも適用できる。4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸では、例えば、先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8、および、中央の2枚のアーム部(第4アーム部A4、第5アーム部A5)にウエイト部(W1、W4、W5、W8)を一体で設ける。また、残りのアーム部、具体的には、第2、第3、第6および第7のアーム部(A2、A3、A6、A7)は、ウエイト部を有さず、その形状が小判状となる。以下では、ウエイト部を一体で有するアーム部を「ウエイト付きアーム部」、ウエイト部を有さないアーム部を「ウエイトなしアーム部」ともいう。
前記図1A〜1Fに示す製造工程は、その他に、3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、8気筒エンジン等に搭載されるクランク軸であっても、適用できる。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
ところで、近年、特に自動車用のレシプロエンジンには、燃費の向上のために軽量化が求められている。このため、レシプロエンジンに搭載されるクランク軸にも、軽量化の要求が著しくなっている。鍛造クランク軸の軽量化を図る従来技術としては、下記のものがある。
特許文献1および2には、ジャーナル部側の表面に穴部が成形されたアーム部が記載され、このアーム部を有するクランク軸の製造方法も記載されている。アーム部の穴部は、ジャーナル部の軸心とピン部の軸心とを結ぶ直線(以下、「アーム部中心線」ともいう)上に成形され、ピン部に向けて大きく深く窪む。このような同文献に記載されたアーム部は、穴部の体積分が軽量化される。アーム部の軽量化は、アーム部と対をなすウエイト部の重量軽減につながり、ひいては鍛造クランク軸全体の軽量化につながる。また、同文献に開示されたアーム部は、アーム部中心線を間に挟むピン部近傍の両側部で厚みが厚く維持されていることから、剛性(ねじり剛性および曲げ剛性)も確保される。
このように、アーム部のピン部近傍の両側部で厚みを厚く維持しながら、アーム部のジャーナル部側の表面に凹みを持たせれば、軽量化と剛性確保を同時に図ることができる。
ただし、そのような独特な形状のアーム部を有する鍛造クランク軸は、従来の製造方法では製造することが困難である。型鍛造工程において、アーム部表面に凹みを成形しようとすれば、当該凹み部位の金型の型抜き勾配が逆勾配になり、成形された鍛造材が金型から抜けなくなる事態が生じるからである。
そのような事態に対処するため、特許文献1および2に記載された製造方法では、型鍛造工程ではアーム部のジャーナル部側表面に凹みを成形することなくアーム部を小さく成形することとしている。また、バリ抜き工程の後に、アーム部のジャーナル部側の表面にパンチを押し込み、そのパンチの痕跡によって凹みを成形することとしている。
以下に、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置について、図面を参照しながら説明する。
1.クランク軸の形状
本実施形態が対象とする鍛造クランク軸は、回転中心となるジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心したピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐアーム部と、を有する。また、鍛造クランク軸は、アーム部のうちの全部または一部にウエイト部を一体で有する。このような鍛造クランク軸として、例えば、図2A〜2Dおよび図3A〜3Cに示す鍛造クランク軸を採用できる。
図2A〜2Dは、本発明で採用できる整形後のクランク軸(最終製品)について、ウエイト付きアーム部のピン部側表面の形状例を示す模式図である。そのうち図2Aは斜視図、図2Bはピン部側表面を示す図、図2Cは側面を示す図、図2DはA−A断面図である。図2A〜2Dでは、クランク軸のウエイト付きアーム部の1つを代表的に抽出して示しており、残りのアーム部を省略する。また、図2Cは、図2Bの破線矢印で示す方向からの投影図である。
ウエイト付きアーム部Aは、ピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側領域Atに、凹みを有する。また、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)がピン部P側に膨らみ、それらの両側部(Ac、Ad)の厚みは、凹みの厚みと比べ、厚肉である。ここで、側部とは、アーム部Aの幅方向(ピン部の偏心方向と直角な方向)の側面およびその周辺部分を意味し、換言すると、アーム部Aの幅方向の端部を意味する。
このようなアーム部Aは、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みが厚く維持されるとともに、ピン部P側の表面に凹みが成形されている。このため、アーム部Aのピン部P側表面の凹みによって軽量化を図ることができる。加えて、アーム部Aのジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚み維持により、剛性の確保を図ることができる。
続いて、アーム部Aのジャーナル部J側表面の形状について、その好ましい態様を説明する。
図3A〜3Cは、本発明で採用できる整形後のクランク軸について、好適なアーム部のジャーナル部側表面の形状例を示す模式図であり、図3Aは斜視図、同図3Bはジャーナル部側表面を示す図、図3CはB−B断面図である。
ウエイト部Wの有無に依拠することなく、アーム部Aは、ジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側の領域Asに凹みを有するのが好ましい。また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)がジャーナル部J側に膨らみ、それらの両側部(Aa、Ab)の厚みは、凹みの厚みと比べ、厚肉であるのが好ましい。
このようなアーム部Aは、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みが厚く維持されるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形される。このため、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚み維持によって剛性を確保しながら、ジャーナル部J側表面の凹みによってさらに軽量化を図ることができる。
続いて、整形前のアーム部の形状について、図面を参照しながら説明する。
図4A〜Cは、整形前のウエイト付きアーム部について、ピン部側表面の形状例を示す模式図であり、図4Aはピン部側表面を示す図、図4Bは側面を示す図、図4CはC−C断面図である。同図では、クランク軸のアーム部のうちで、ウエイト部を一体で有するアーム部を1つだけ抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。なお、図4Bは、図4Aの破線矢印で示す方向からの投影図である。
ウエイト付きアーム部Aは、整形前に、ピン部P側表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側領域Atに、整形後の形状と合致する凹みを持つ。その凹みはジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の領域まで滑らかに広がっている。これにより、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みは、整形後の厚みよりも薄い。
また、ウエイト付きアーム部Aは、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周に、それぞれ第1余肉部(Aca、Ada)を有する。その第1余肉部(Aca、Ada)は、両側部(Ac、Ad)の外周から突出する。同図に示す第1余肉部(Aca、Ada)は、板状であり、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周に沿って設けられる。第1余肉部(Aca、Ada)の厚みは、その根元の両側部(Ac、Ad)の厚みと比べ、同程度であるかまたは薄い。
このような形状の整形前のウエイト付きアーム部は、ピン部P側表面の凹みに対応する部位および第1余肉部(Aca、Ada)に対応する部位のいずれでも、逆勾配にならない。
図5Aおよび5Bは、整形前のアーム部について、ジャーナル部側表面の形状例を示す模式図であり、図5Aはジャーナル部側表面を示す図、図5BはD−D断面図である。
前記図3A〜3Dに示す整形後のアーム部Aは、ウエイト部の有無に依拠することなく、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みが厚く維持されるとともに、ジャーナル部J側の表面に凹みが成形される。このような場合、整形前のアーム部Aは、ジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側領域に、整形後(最終製品)の形状と合致する凹みを持つのが好ましい。その凹みはピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の領域まで滑らかに広がっている。これにより、整形前のピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みは、整形後の厚みよりも薄い。
また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の外周には、第2余肉部(Aaa、Aba)をそれぞれ設けるのが好ましく、第2余肉部(Aaa、Aba)は、両側部(Aa、Ab)の外周から突出する。同図に示す第2余肉部(Aaa、Aba)は、板状であり、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の外周に沿って設けられる。第2余肉部(Aaa、Aba)の厚みは、その根元の両側部(Aa、Ab)の厚みと比べ、同程度であるかまたは薄い。
このような形状の整形前のアーム部は、ジャーナル部J側表面の凹みに対応する部位および第2余肉部(Aaa、Aba)に対応する部位のいずれでも、逆勾配にならない。
2.鍛造クランク軸の製造装置
図6A〜6Dは、本発明の鍛造クランク軸の製造装置の構成例を示す模式図であり、図6Aは斜視図、図6Bは押し当て位置の場合の上面図、図6Cは退避位置の場合の上面図、図6Dは要部を拡大して示す斜視図である。図6A〜6Dには、バリ無し鍛造材91と、金型のうちの下型の一部を構成するボトム側部材11と、第1工具20と、第1治具30とを示す。図6Aには、さらに、下型の一部を構成するトップ側部材12と、第2工具40と、第2治具50とを示す。なお、図6Bおよび6Cでは、バリ無し鍛造材91を想像線で示す。
図6A〜6Cでは、バリ無し鍛造材91のうちで、1つのピン部Pと、そのピン部Pと繋がる2つのウエイト付きアーム部Aと、その2つのウエイト付きアーム部Aと繋がるジャーナル部Jの一部とを抽出して示す。図6Dでは、図6A〜6Cと比べ、バリ無し鍛造材91の一部を省略する。また、図6A〜6Dでは、製造装置が備える複数の第1工具のうちの2つの第1工具20を示し、他の第1工具の図示を省略する。その2つの第1工具は、同一のピン部Pと繋がる2つのウエイト付きアーム部Aのピン部P側表面にそれぞれ押し当てられる。
第1工具20は、ウエイト付きアーム部Aのピン部P側の表面のうちでジャーナル部J近傍の両側部の領域を少なくとも除く表面に押し当てられる。例えば、第1工具20の先端面20aは、アーム部Aのピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部(Aa、Ab)の内側領域Atに押し当てられる。
上下で一対の金型は、上型と下型とで構成できる。同図では、図面の理解を容易にするため、上型の図示を省略するとともに、下型を構成する一部の部材のみを図示する。
上型および下型には、バリ無しの鍛造材の形状を矯正する整形加工とともに突出する余肉部を変形させるため、それぞれ型彫刻部11aが彫り込まれている。同図の下型を構成するボトム側部材11の型彫刻部11aは、下型の型彫刻部の一部を構成する。
上型および下型の型彫刻部には、クランク軸(最終製品)の形状のうちの一部を除いた部分の形状が反映されている。具体的には、第1工具20を収容するため、金型(上型および下型)に工具用開放部が設けられる。このため、型彫刻部には、アーム部のピン部側表面における凹み形状が反映されない。
また、アーム部のジャーナル部側表面に凹みを形成する場合(前記図3A〜3C参照)、型彫刻部には、アーム部のジャーナル部側表面における凹み形状が反映されない。この凹み形状を型彫刻部に反映すると、型彫刻部の一部が逆勾配となるからである。この場合、第2工具40を収容するため、金型(上型および下型)に工具用開放部を設けてもよい。
金型(上型および下型)には、第1治具30を収容するため、それぞれ溝状の治具用開放部11c(図6B参照)が設けられる。
第1工具20を退避位置から押し当て位置まで案内するため、第1工具20の上面20bおよび下面20cの両方には、第1案内方向(図6Bおよび6Cの実線矢印参照)に沿って延びる凸部20dが設けられる。また、金型を構成するボトム側部材11の工具用開放部の底面には、第1工具20の凸部20dを受け入れるため、溝状の凹部11dが設けられる(図6D参照)。このため、第1工具20が退避位置から押し当て位置まで移動する際、工具用開放部(金型)の凹部11dの両側面および第1工具20の凸部20dの両側面20eに沿って第1工具20が移動する。すなわち、工具用開放部(金型)の凹部11dの両側面とともに、第1工具20の上面20bおよび下面20cに設けられた凸部の両側面20dが案内面(第1案内面)として機能する。
このような本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、上下で一対の金型により、整形加工とともに、ウエイト付きアーム部において、第1余肉部を変形させてジャーナル部近傍の両側部の厚みを増加させる加工を施す。このため、得られるクランク軸のウエイト付きアーム部において、ジャーナル部近傍の両側部の厚みを厚く維持しつつ、ピン部側表面に凹みを持たせることができる。したがって、軽量化と剛性確保を同時に図ることができる。
第1余肉部を変形させてジャーナル部近傍の両側部の厚みを増加させる加工では、金型によって第1余肉部をピン部側表面に向けて折り曲げればよい。また、金型によって第1余肉部を押し潰し、ピン部側に張り出させてもよい。このため、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、軽量化と剛性確保を同時に図ったクランク軸を、多大な力を要することなく簡便に得ることができる。
第1余肉部を変形させる際に、第1工具をウエイト付きアーム部のピン部側表面に押し当てるので、ピン部側の表面の凹み等が保持される。これにより、ピン部側表面で、具体的には、ジャーナル部近傍の両側部やその内側領域で、形状を精密に成形できる。このように第1工具は、押し当てによる保持を目的とし、アーム部のピン部側表面に押し込まれることがない。このため、第1工具の押し当てに要する力は、小さくて済む。
また、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、第1工具20の上面20bおよび下面20cのいずれか一方または両方に、第1案内面を設ける。このため、第1工具20の側面形状を平面とする必要がなく、例えば、面取りや丸みを付けることによって適宜形状を変更できる。これにより、第1工具20の幅を小さくできるので、第1工具20が第1治具30や金型と干渉するのを防止でき、第1工具20の可動範囲を十分に確保できる。このため、鍛造材の搬入および搬出を円滑に行うことができる。
本発明の鍛造クランク軸の製造装置は、図6Aに示すような同一のピン部Pと繋がる2つのウエイト付きアーム部Aのピン部P側表面にそれぞれ押し当てる場合に限定されない。例えば、同一のピン部Pと繋がる2つのアーム部の一方がウエイトなしアーム部であり、他方のウエイト付きアーム部Aのピン部P側表面にのみ第1工具を押し当てる場合にも適用できる。この場合、同一のピン部Pと繋がる2つのアーム部の間には、1つの第1工具が配置され、その1つの第1工具を第1治具が保持する構成となる。
同一のピン部Pと繋がる2つのアーム部Aがいずれもウエイト部Wを一体で有する場合、2つの第1工具20が互いに干渉し、第1工具20の可動範囲が不十分となりがちである。これを防止して第1工具20の可動範囲を十分に確保するため、同一のピン部Pと繋がる2つのウエイト付きアーム部Aのピン部P側表面にそれぞれ押し当てられる2つの第1工具20において、上面20bおよび下面20cのいずれか一方または両方に、第1案内面20eをそれぞれ設けるのが好ましい。
ここで、図6A〜6Dに示す構成と異なり、第1工具20を第1治具30に固定し、その第1治具を第1案内方向に沿って移動させるのに伴って第1工具を移動させる構成とすることもできる。しかし、上記構成では、複数の第1工具20で第1案内方向が異なるので、第1治具30を移動させる方向もそれぞれ異なる。このため、第1治具30および駆動装置(図示なし)が干渉して可動範囲が不十分となるおそれがある。
第1治具30および駆動装置(図示なし)が干渉するのを防止するとともに、第1治具30を移動させる方向を統一する観点から、ピン部の偏心方向(図6Bおよび6Cのハッチングを施した矢印参照)に沿って移動可能な第1治具30を備えるのが好ましい。この場合、第1治具30は、第1案内面による第1案内方向と角度を有する第1揺動方向(図6Bおよび6Cの破線矢印参照)に第1工具20を揺動可能に保持する。
このような第1治具30を備えれば、偏心方向に沿って第1治具を移動させることにより、第1案内方向に沿って第1工具20を移動させることができる。このため、鍛造材との干渉を防止しながら、アーム部とその隣のアーム部との間に配置できる。また、第1治具30が偏心方向に沿って移動するので、第1治具30の移動を駆動する機構を共通化でき、製造装置の設備構成を簡素化できる。その結果、第1工具の可動範囲を確保しながら、より狭小なスペースに第1工具20を配置可能となる。第1揺動方向は、第1案内方向に応じて適宜設定することができる。
同一のピン部Pと繋がる2つのウエイト付きアーム部Aのピン部P側表面に2つの第1工具20を押し当てる場合、それら2つの第1工具20を単一の第1治具30で、それぞれ、揺動可能に保持するのが好ましい。これによっても、製造装置の構成を簡素化でき、第1工具20の可動範囲をより十分に確保できる。
鍛造材91は、図5Aおよび5Bに示すような第2余肉部(Aaa、Aba)を有するのが好ましい。この場合、金型は、整形加工および第1余肉部(Aca、Ada)を変形させる加工に加え、第2余肉部(Aaa、Aba)を変形させ、アーム部のピン部近傍の両側部で厚みを増加させる加工をさらに施すのが好ましい。これにより、得られる鍛造クランク軸において、前記図3A〜3Cに示すように、剛性を確保しながら、さらに軽量化を図ることができる。
第2余肉部を変形させてピン部近傍の両側部の厚みを増加させる加工では、金型によって第2余肉部をジャーナル部側表面に向けて折り曲げればよい。また、金型によって第2余肉部を押し潰し、ジャーナル部側に張り出させてもよい。これにより、軽量化と剛性確保を同時に図ったクランク軸を、多大な力を要することなく簡便に得ることができる。
鍛造材が第2余肉部を有する場合、本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置は、アーム部のジャーナル部側の表面に押し当てられる第2工具40を備えるのが好ましい。
図7A〜7Dは、第2工具の構成例を示す模式図であり、図7Aは斜視図、図7Bは要部を拡大して示す斜視図、図7Cは押し当て位置の場合を示す上面図、図7Dは退避位置の場合を示す上面図である。図7A〜7Dには、金型のうちの下型の一部を構成するトップ側部材12と、第2工具40と、第2治具50とを示す。また、図7Aには、被加工材のバリ無し鍛造材91の一部を示す。前述の第1工具20については、図示を省略する。
第2工具40は、アーム部のジャーナル部側の表面のうちでピン部近傍の両側部の領域を少なくとも除く表面に押し当てられる。例えば、第2工具40の先端面40aは、アーム部Aのジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側の領域Asに押し当てられる(図5Aおよび5B参照)。
第2工具40を収容するため、金型(上型および下型)に工具用開放部12bが設けられる。また、第2治具50を収容するため、それぞれ溝状の治具用開放部12cが金型(上型および下型)に設けられる。
第2工具40を退避位置から押し当て位置まで案内するため、第1工具と同様に、同図に示す第2工具40の上面40bおよび下面には、それぞれ、第2案内方向(図7Cおよび7Dの実線矢印参照)に沿って延びる凸部40dが設けられる。また、金型を構成するトップ側部材12には、第2工具40の凸部40dを受け入れるため、溝状の凹部12dが設けられる。このため、第2工具40が退避位置から押し当て位置まで移動する際には、金型を構成するトップ側部材12の凹部12dの両側面および第2工具40の凸部40dの両側面40eに沿って第2工具40が移動する。すなわち、金型を構成するトップ側部材12の凹部12dの両側面とともに、第2工具40の上面40bおよび下面に設けられた凸部40dの両側面40eが案内面(第2案内面)として機能する。
このような第2工具40を備えれば、ジャーナル部側表面の凹みが第2工具の押し当てによって保持される。このため、アーム部のジャーナル部近傍の両側部において、形状を精密に成形できる。
また、第2工具40の上面40bおよび下面のいずれか一方または両方に第2案内面を設けることにより、前述の第1工具と同様に、第2工具40が第2治具50や金型と干渉するのを防止でき、第2工具の可動範囲を十分に確保できる。このため、鍛造材の搬入および搬出を円滑に行うことができる。
第1治具と同様に、第2治具50および駆動装置(図示なし)が干渉するのを防止するとともに、第2治具50を移動させる方向を統一する観点から、ピン部の偏心方向(図7Cおよび7Dのハッチングを施した矢印参照)に沿って移動可能な第2治具50をさらに備えるのが好ましい。この場合、第2治具50は、前記図6A〜6Dに示す第1治具と同様に、第2案内面による第2案内方向と角度を有する第2揺動方向(図7Cおよび7Dの破線矢印参照)に第2工具40を揺動可能に保持する。
第2揺動方向は、第2案内方向に応じて適宜設定することができ、例えば、第2工具が押し当てられるアーム部の部位に沿うような方向とすることができる。
同一のジャーナル部Jと繋がるとともに同位相のピン部と繋がる2つのアーム部のピン部側表面に2つの第2工具40をそれぞれ押し当ててもよい。この場合、図7A〜図7Dに示すように、それら2つの第2工具を単一の第2治具で、それぞれ、揺動可能に保持するのが好ましい。これによっても、製造装置の構成を簡素化でき、第2工具の可動範囲をより十分に確保できる。
また、第2工具は、例えば、図1Fに示す4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸において、第1〜第3および第6〜第8のアーム部のジャーナル部側の表面に押し当ててもよい。この場合、ジャーナル部を介して隣り合うアーム部の間に1つの第2工具を配置し、その1つの第2工具を第2治具が保持する構成を採用できる。
3.鍛造クランク軸の製造方法
続いて、上述の本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置を使用する方法、すなわち、上述の本実施形態の鍛造クランク軸の製造装置を用いる鍛造クランク軸の製造方法について説明する。
製造工程は、従来と同様の構成とすることができ、例えば、予備成形、型鍛造、バリ抜きおよび整形の各工程で構成できる。この場合、前記図4A〜4Cに示すようなバリ無し鍛造材を得るため、型鍛造工程では、ウエイト付きアーム部において、第1余肉部を有するバリ付き鍛造材を成形する。第1余肉部は、ジャーナル部近傍の両側部それぞれの外周に設けられ、その両側部の外周から突出する。また、バリ付き鍛造材に、前述の第2余肉部を成形してもよい。第2余肉部は、アーム部のピン部近傍の両側部それぞれの外周に設けられ、その外周から突出する。
前述の通り、整形前のウエイト付きアーム部は、ピン部P側表面の凹みに対応する部位および第1余肉部(Aca、Ada)に対応する部位のいずれでも、逆勾配にならない。また、整形前のアーム部は、ジャーナル部J側表面の凹みに対応する部位および第2余肉部(Aaa、Aba)に対応する部位のいずれでも、逆勾配にならない。このため、型鍛造を支障なく行え、バリ付きの鍛造材を得ることができる。続いて、バリ抜き工程で、バリ付き鍛造材からバリを除去すれば、バリ無し鍛造材を得ることができる。
整形工程では、前記図6A〜6Dに示すような鍛造クランク軸の製造装置を用いる。先ず、金型の上型および下型を離間させるとともに、第1工具を退避位置に配置する。そして、バリ無しの鍛造材を搬入し、上型と下型の間に配置する。
続いて、第1工具を押し当て位置に移動させることにより、鍛造材に、具体的には、アーム部のピン部側の表面に第1工具を押し当てる。この状態で、上型と下型とが近接するように移動させ、より具体的には、上型を下死点まで移動させ、鍛造材を金型で僅かにプレス圧下する。これにより、鍛造材に整形加工が施され、最終製品の寸法形状に矯正される。その際、第1余肉部を変形させてアーム部のジャーナル部近傍の両側部の厚みを増加させる。
整形加工および第1余肉部への加工が完了した後、上型と下型とを離間させ、より具体的には、上型を上死点まで移動させる。そして、第1工具を退避位置まで移動させた後、加工済みの鍛造材を搬出する。これにより、前記図2A〜2Dに示すようなクランク軸を得ることができ、軽量化と剛性確保を同時に図ることができる。
バリ無し鍛造材が第2余肉部を有する場合、鍛造クランク軸の製造装置がアーム部のジャーナル部側表面に押し当てられる第2工具を備えてもよい。第2工具は、第1工具に倣って、押し当て位置または退避位置に配置すればよい。これにより、前記図3A〜3Cに示すようなクランク軸を得ることができ、剛性を確保しながらさらに軽量化を図ることができる。