以下に、本発明の実施形態に係る苗移植機を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
図1は、実施形態に係る苗移植機1の側面図、図2は、同苗移植機1の平面図である。なお、以下の説明においては、前後、左右の方向基準は、苗移植機1の操縦座席28からみて、走行車体2の走行方向を基準とする。また、以下では、苗移植機1を指して機体と記す場合がある。
苗移植機1は、作業者が搭乗することができ、圃場で作業を行う苗植付部である苗植付部50を後部に取り付け可能な走行車体2を備えている。走行車体2は、走行輪として、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5とを有する。本実施形態に係る苗移植機1は、走行時には前・後輪4,5が共に駆動する四輪駆動車としており、圃場や道路を走行することが可能になっている。また、走行車体2の後部には、苗植付部50が苗植付部昇降機構40によって昇降可能に取付けられている。
走行車体2は、車体の略中央に配置されたメインフレーム7と、このメインフレーム7の上に搭載されたエンジン10と、エンジン10の動力を駆動輪と苗植付部50とに伝える動力伝達装置15とを備える。また、本実施形態に係るこの苗移植機1では、動力源であるエンジン10には、ディーゼル機関やガソリン機関等の熱機関が用いられ、発生した動力は、走行車体2を前進や後進させるために用いるのみでなく、苗植付部50を駆動させるためにも使用される。
また、エンジン10は、走行車体2の左右方向における略中央で、且つ、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方に突出させた状態で配置される。フロアステップ26は、走行車体2の前部とエンジン10の後部との間に亘って設けられてメインフレーム7上に取り付けられており、その一部が格子状になることにより、靴に付いた泥を圃場に落とすことができる。また、フロアステップ26の後方には、後輪5のフェンダを兼ねたリアステップ27が設けられる。リアステップ27は、後方に向うに従って上方に向う方向に傾斜した傾斜面を有し、エンジン10の左右それぞれの側方に配置される。
エンジン10は、フロアステップ26とリアステップ27とから上方に突出しており、これらのステップから突出している部分には、エンジン10を覆うエンジンカバー11が配設される。すなわち、エンジンカバー11は、フロアステップ26とリアステップ27とから上方に突出した状態で、エンジン10を覆っている。
また、走行車体2には、エンジンカバー11の上部に、作業者が着席する操縦座席28が設置され、かかる操縦座席28の前方で、且つ走行車体2の前側中央部に操縦部30が配設される。操縦部30は、フロアステップ26の床面から上方に突出した状態で配置されており、フロアステップ26の前部側を左右に分断している。
操縦部30の前部には、開閉可能なフロントカバー31が設けられる。また、操縦部30の上部には、変速レバー35や副変速レバー38などの操作レバーや計器類、ハンドル32などが配設される。このハンドル32は、作業者が前輪4を操舵操作することにより、操縦部30内の操作装置等を介して前輪4を操舵することができ、図示しないステアリングアームに連動連結している。変速レバー35は、走行車体2の前後進と走行出力を切替操作する。また、副変速レバー38は、走行車体2の走行速度を、走行する場所に応じた速度に切り替えることができる。変速レバー35および副変速レバー38は、機体右側と左側に配設される。
また、フロアステップ26における操縦部30の左右それぞれの側方に位置する部分には、補給用の苗を載せておく予備苗載台65が配置される。この予備苗載台65は、フロアステップ26の床面から突出した支持軸(鉛直軸)によって回転自在に支持され、作業者による手動、あるいは電動モータ等によって回動させることが可能である。
エンジン10の動力を、走行輪4,5を含む走行装置と苗植付部50とに伝える動力伝達装置15は、エンジン10から伝達される駆動力を変速する変速装置としての油圧式無段変速機16と、この油圧式無段変速機16にエンジン10からの動力を伝えるベルト式動力伝達機構17とを有する。油圧式無段変速機16は、いわゆる、HST(Hydro Static Transmission)と云われる静油圧式の無段変速装置である。このため、油圧式無段変速機16は、エンジン10からの動力で駆動する油圧ポンプによって油圧を発生させ、この油圧を油圧モータで機械的な力(回転力)に変換して出力する。これにより、油圧式無段変速機16は、エンジン10で発生する動力を、走行車体2を走行させる力に変換することができる。
また、油圧式無段変速機16は、回転力の方向や回転速度を変更することにより、走行車体2の前後進及び走行速度を変更することが可能である。したがって、変速レバー35を操作して油圧式無段変速機16の出力及び出力方向を変更することにより、走行車体2の前後進及び走行速度を操作することができる。
かかる油圧式無段変速機16は、エンジン10よりも前方で、且つ、フロアステップ26の床面よりも下方に配置されており、本実施形態に係る苗移植機1では、走行車体2の上面から見て、エンジン10の前方に配置されている。
また、ベルト式動力伝達機構17は、エンジン10の出力軸に取り付けたプーリと、油圧式無段変速機16の入力軸に取り付けたプーリと、双方のプーリに巻き掛けたベルトと、さらには、このベルトの張力を調整するテンションプーリとを備える。これにより、ベルト式動力伝達機構17は、エンジン10で発生した動力を、ベルトを介して油圧式無段変速機16に伝達することができる。
さらに、動力伝達装置15は、エンジン10からの駆動力を各部に伝達する伝動装置であるミッションケース18を有する。ミッションケース18は、ベルト式動力伝達機構17を介して油圧式無段変速機16に伝達され、油圧式無段変速機16で変速したエンジン10からの駆動力を各部に伝達することができ、路上走行時や植付時等における走行車体2の作業速度を切り替える副変速機構(図示省略)を内設している。副変速レバー38は、ミッションケース18内の副変速機構を操作することにより、走行車体2の走行速度を切り替えることが可能である。ミッションケース18は、ベルト式動力伝達機構17と油圧式無段変速機16とを介して伝達されたエンジン10からの出力を、当該ミッションケース18内の副変速機構で変速して、前輪4と後輪5への走行用動力と、苗植付部50への駆動用動力とに分けて出力する。
このうち、走行用動力は、一部が左右の前輪ファイナルケース13を介して前輪4に伝達可能であり、残りが左右の後輪ギヤケース22を介して後輪5に伝達可能である。左右それぞれの前輪ファイナルケース13は、ミッションケース18の左右それぞれの側方に配設される。左右の前輪4は、車軸を介して左右の前輪ファイナルケース13に連結されており、かかる前輪ファイナルケース13は、ハンドル32の操舵操作に応じて駆動し、前輪4を転舵させることが可能である。同様に、左右それぞれの後輪ギヤケース22には、車軸を介して後輪5が連結されている。一方、駆動用動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチ(図示省略)に伝達され、かかる植付クラッチの係合時に植付伝動軸(図示省略)によって苗植付部50へ伝達される。
また、走行車体2の後部に設けた苗植付部50を昇降させる苗植付部昇降機構40は、昇降リンク機構41を有する。そして、苗植付部50は、昇降リンク機構41を介して走行車体2に取り付けられる。昇降リンク機構41は、走行車体2の後部と苗植付部50とを連結させる平行リンク機構を備える。かかる平行リンク機構は、上リンク42aと下リンク42bとを有し、これらのリンク42a,42bが、メインフレーム7の後部端に立設した背面視門型のリンクベースフレーム43に回動自在に連結される。そして、リンク42a,42bの他端側が苗植付部50に回転自在に連結されることによって、苗植付部50を昇降可能に走行車体2に連結する。
また、苗植付部昇降機構40は、油圧によって伸縮する油圧昇降シリンダ44を有し、油圧昇降シリンダ44の伸縮動作によって、苗植付部50を昇降させることができる。苗植付部昇降機構40は、その昇降動作によって、苗植付部50を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(植付作業位置)まで下降させたりすることができる。
また、苗植付部50は、苗を植え付ける範囲を複数の区画、あるいは複数の列で植え付けることができる。すなわち、本実施形態に係る苗移植機1は、苗を6つの区画で植え付ける、いわゆる6条植の苗植付部50である。
苗植付部50は、苗植付装置60と、苗載置台51及びフロート47(48,49)を備える。このうち、苗載置台51は、走行車体2の後部に複数条の苗を積載する苗載置部材として設けられており、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面52を有し、それぞれの苗載せ面52に土付きのマット状苗を載置することが可能である。これにより、苗載置台51に載置した苗が植え付けられて無くなるたびに、圃場外に用意している苗を取りに戻る必要が無く、連続した作業を行えるので、作業能率が向上する。また、苗載置台51は、各条毎に苗の残量を検出する苗減少センサ190(図8を参照)を備えており、苗が減少するとブザーやランプなどの報知部材を作動させて作業者に苗の補充の必要があることを報知する。なお、苗載置台51に、ロードセルなどの重量センサ160(図8を参照)を設け、かかる重量センサ160で苗の重量を検出し、苗の重量が所定重量未満になると、苗の補充の必要があることをブザーやランプなどの報知部材を作動させて報知することもできる。
また、苗植付装置60は、苗載置台51の下部に配設されており、当該苗載置台51の前面側に配設される植付支持フレーム55によって支持される。苗植付装置60は、苗載置台51に載置された苗を苗載置台51から取って圃場に植え付ける装置になっており、植付伝動ケース64と植付体61とを有する。このうち、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場に植え付けることができるように構成されており、植付伝動ケース64は、植付体61に駆動力を供給することが可能である。
また、植付伝動ケース64は、エンジン10から苗植付部50に伝達された動力を、植付体61に供給可能に構成されており、植付体61は、植付伝動ケース64に対して回転可能に連結される。また、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場に植え付ける植込杆62と、植込杆62を回転可能に支持すると共に植付伝動ケース64に対して回転可能に連結されるロータリケース63とを有する。ロータリケース63は、植付伝動ケース64から伝達された駆動力によって植込杆62を回転させる際に、回転速度を変化させながら回転させることのできる不等速伝動機構(図示省略)を内装している。これにより、植付体61の回転時には、植込杆62は、ロータリケース63に対する回転角度によって回転速度が変化しながら回転をすることができる。
このように構成される苗植付装置60は、2条毎に1つずつ配設されている。すなわち、複数の苗植付装置60は、それぞれ植付条が割り当てられている。また、各植付伝動ケース64は、2条分の植付体61を回転可能に備えている。つまり、1つの植付伝動ケース64には、2つのロータリケース63が、機体左右方向の両側に連結される。本実施形態に係る苗移植機1が有する苗植付装置60は、この植付伝動ケース64を3つ備えており、6条分の植付体61を備えている。
また、フロート47は、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して整地するものであり、走行車体2の左右方向における苗植付部50の中央に位置するセンターフロート48と、左右方向における苗植付部50の両側に位置するサイドフロート49,49とを有する。
また、各フロート48,49は、圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられる。苗植付装置60は、センターフロート48の上下動を検知する迎角制御用の回動センサ170(図8参照)を備える。苗植付装置60は、植付作業時にはセンターフロート48の前部の上下動が回動センサ170により検知され、その検知結果に応じて制御装置により油圧昇降シリンダ44を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部50を昇降させ、苗の植付深さを常に一定に維持することができる。
また、苗植付部50の下方側の位置における前側には、圃場の整地を行う整地装置80が設けられる。整地装置80は、苗植付面の凹凸を均すことによって、凹凸を検知して苗植付部50が頻繁に昇降動作を繰り返し、結果的に苗の植付深さが不均一になることを防止するものである。かかる整地装置80は、整地装置支持機構84(図3を参照)により走行車体2に支持される。なお、本実施形態においては、整地装置80への動力は後述する駆動モータ870から直接伝達されるようにしているが、エンジン10からの出力を、伝達軸を介して後輪ギヤケース22から伝達する構成も一般的である。
ここで、図3〜図7を参照して本実施形態に係る整地装置80について、より具体的に説明する。図3は、苗移植機1の苗植付部50及び整地装置80の側面図、図4は、同整地装置80の平面図、図5は、同整地装置80の側面図である。また、図6は、同整地装置80が最上方の位置まで上昇した状態の側面図、図7は、最上方の位置まで上昇した同整地装置80を含む苗植付部50の一部を示す側面図である。
整地装置80は、フロート47と同様に、走行車体2の左右方向の中央に設けられたセンターロータ81と、センターロータ81の左右両側でセンターロータ81よりも後方に設けられた一対のサイドロータ82と、センターロータ81の左右両端と一対のサイドロータ82とを連結する一対の連結伝動機構83とを備える(図1、図3および図4)。
そして、図4に示すように、センターロータ81と一対のサイドロータ82の長手方向は、左右方向と平行に配置されており、連結伝動機構83により軸心回りに回転自在に支持される。一対の連結伝動機構83は、センターロータ81と一対のサイドロータ82とを軸心回りに連動させて回転させる。なお、以下ではセンターロータ81とサイドロータ82とを総称してロータ81,82と表す場合がある。
一対の連結伝動機構83には、駆動モータ870(図1、図3、図4および図8を参照)の出力軸と連結する駆動入力部880が設けられ、駆動モータ870からの駆動力が連結伝動機構83に伝達される。これにより、センターロータ81とサイドロータ82とは、ともに駆動モータ870からの出力によって回転可能となる。
整地装置80を走行車体2に支持する整地装置支持機構84は、図4に示すように、一対の第1整地回動アーム810と、これら一対の第1整地回動アーム810,810間に設けられた第2整地回動アーム820と、水平維持機構801と、整地昇降機構800(図3に示す)とを備える。
第1整地回動アーム810及び第2整地回動アーム820は、整地装置80を後方から支持する部材であり、一端が整地支持フレーム830に回転自在に連結され、他端がサイドロータ82に回転自在に連結される。すなわち、整地装置80は、第1、第2整地回動アーム810,820によって植付フレーム55、すなわち苗植付部50に支持されており、昇降リンク機構41によって苗植付部50とともに昇降する。
図4に示すように、第1整地回動アーム810の一端は、整地支持フレーム830の左右端に回転自在に連結される。第1整地回動アーム810は、苗移植機1の側方からみて、整地支持フレーム830から整地装置80に向かって延びている(図3参照)。第1整地回動アーム810の他端は、サイドロータ82の左右方向の外側の端に回転自在に連結されている。こうして、第1整地回動アーム810は、整地装置80のサイドロータ82の左右両端と整地支持フレーム830の左右両端とを連結している。
第2整地回動アーム820は、本実施形態では、一対設けられており、かかる一対の第2整地回動アーム820の他端は、サイドロータ82の左右方向の内側の端に回転自在に連結されている。こうして、サイドロータ82は、第1整地回動アーム810と第2整地回動アーム820により支持されている。
整地昇降機構800は、図3に示すように、略扇形の歯車部材802と、回転駆動源としての昇降モータ804と、吊下げアーム805とを備える。歯車部材802は、苗植付部50の植付フレーム55に固定された支持板806に回転自在に取り付けられる。この支持板806は、植付フレーム55の昇降リンク機構41の下リンクの取付箇所に設けられる。
歯車部材802は、扇形に形成され、円弧状の外縁部に設けられた歯部803よりも回転中心が後方に配置されている。昇降モータ804は、植付フレーム55に固定された前述の支持板806に取り付けられる。昇降モータ804は、支持板806に回転自在に設けられるとともに、歯車部材802の歯部803に噛み合った歯車807を回転させる。このために、昇降モータ804は、歯車807を介して歯車部材802を回転させることができる。
吊下げアーム805は、苗植付部50の植付フレーム55から第2整地回動アーム820を介して整地装置80を吊り下げるもので、棒状に形成される。そして、吊下げアーム805の一端が歯車部材802にスライド自在に取り付けられるとともに、他端が一方の第2整地回動アーム820の中央部に回転自在に取り付けられる。すなわち、整地昇降機構800は、一方の第2整地回動アーム820と連結している。
整地昇降機構800は、昇降モータ804が歯車部材802を回転させることによって吊下げアーム805を昇降させ、第2整地回動アーム820を介して整地装置80を昇降させる。整地昇降機構800は、図5に示す最下方の位置と、図6に示す最上方の位置とに亘って、整地装置80を昇降させることができる。かかる整地昇降機構800は、昇降リンク機構41とは独立しており、整地装置80のみを苗植付部50に対して相対的に昇降させることができる。
なお、整地装置80は、最下方の位置では、苗移植機1の側方からみてフロート47と水平方向に略同高さで並ぶ。また、最上方の位置では、整地装置80は、図7に示すように、苗移植機1の側方からみてフロート47よりも上方に位置する。また、図5に示す最下方の位置よりも若干上方寄りの位置では、整地装置80は、図1に示すように、苗移植機1の側方からみてフロート47と水平方向に並ぶとともにフロート47よりも若干上方に位置する。
図4に示す水平維持機構801は、整地装置80の前後方向の姿勢を水平、すなわち、整地装置80の連結伝動機構83が側方からみて前後方向と平行となるように維持するものである。水平維持機構801は、図3に示すように、接触突起808と、付勢部材としてのコイルばね840と、水平維持部材811とを備える。
接触突起808は、吊下げアーム805の下端部の左右方向の外側の面に取り付けられている。接触突起808は、吊下げアーム805から前方に向かって凸に形成されている。接触突起808は、吊下げアーム805からの前方側の突出量が、上下方向の中央部分が上下両端の突出量よりも大きく形成されており、水平維持部材811が備える後述のローラ813が接触する接触面809が、苗移植機1の側方から見て円弧状に形成されている。なお、接触突起808は、例えば、金属、硬質樹脂、炭素繊維などの硬質材料で構成される。硬質材料とは、炭化物、窒化物、ホウ化物、ある種の酸化物には硬さの非常に高い性質を利用した物質を総称したものをいう。
コイルばね840は、一対の連結伝動機構83のうち、吊下げアーム805と上下方向に重なる一方の連結伝動機構83の前端部に設けられた取付ブラケット850に一端が取り付けられ、他端が吊下げアーム805の上端部に取り付けられる。こうして、コイルばね840は、一方の連結伝動機構83の前端部と吊下げアーム805の上端部とを連結し、一方の連結伝動機構83を介して整地装置80の前端部を上方かつ後方に付勢する。
水平維持機構801の水平維持部材811は、一方の連結伝動機構83に取り付けられる。水平維持部材811は、接触突起808に接触して、サイドロータ82すなわち整地装置80の前後方向の姿勢を水平に維持するものである。水平維持部材811は、図3に示すように、一方の連結伝動機構83の左右方向の内側の一端から上方に突出する突出部材812と、突出部材812の上端に左右方向の軸心を中心として回転自在に設けられたローラ813とを備える。かかるローラ813は、整地装置80が最下方の位置に位置付けられると、外周面が接触突起808の接触面809に接触して、接触面809上を転動する。また、ローラ813は、整地装置80が、図5に示す最下方の位置、または図1に示すように最下方の位置よりも若干上方寄りに位置付けられると、接触突起808の接触面809の中央よりも下方の位置に接触する。さらに、ローラ813は、整地装置80が最上方の位置に位置付けられると、図6に示すように、接触突起808よりも上方に位置付けられる。
苗植付機1の他の構成について、図1および図2に戻って説明する。図1および図2に示すように、苗植付部50の左右両側には、次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する線引きマーカ68が備えられる。線引きマーカ68は、苗移植機1が圃場内における直進前進時に、圃場の畦際で転回した後に直進前進する際の目印を圃場上に線引きする。かかる線引きマーカ68は、マーカモータ69(図8参照)によって作動し、走行車体2が旋回するごとに、左右の線引きマーカ68が入れ替わって作動することができるように構成される。左右の線引きマーカ68の入れ替えは、マーカモータ69が接続されるコントローラ150(図8参照)によって行う。なお、左右の線引きマーカ68の線引き作用部は、図1及び図2に示す通り、円盤の外周部に複数の突起体を設け、回転自在にロッド部に装着したものとすると、圃場面との接地抵抗により確実に圃場面に線を形成することができ、次の植付作業位置での直進作業が行い易くなり、作業能率が向上する。
また、走行車体2における操縦座席28の後方には、施肥装置70が搭載される。施肥装置70は、肥料を貯留する貯留ホッパ71と、貯留ホッパ71から供給される肥料を設定量ずつ繰り出す繰出し装置72と、繰出し装置72により繰り出される肥料を圃場に供給する施肥通路である施肥ホース74と、施肥ホース74に搬送風を供給するブロア73とを有する。また、繰出し装置72には、施肥量調節モータ180(図8参照)が設けられる。
かかる構成により、ブロア73により、施肥ホース74内に所定量供給された肥料を苗植付部50側に移送することができる。さらに、施肥装置70は、苗植付部50の下方に配設されると共に、施肥ホース74によって肥料が移送される施肥ガイド75と、施肥ガイド75の前側に設けられるとともに、施肥ホース74によって移送された肥料を苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込む作溝器76とを有する。
また、本実施形態に係る苗移植機1は、GPS(Global Positioning System)によって苗移植機1の位置情報を取得するGPS制御装置120(図8参照)を備える。図1および図2に示すように、走行車体2には、GPS制御装置120を構成する受信アンテナ121が配設される。この受信アンテナ121は、時間的に所定の間隔でGPS座標を取得することにより、地球上での位置情報を所定間隔で取得することができる。受信アンテナ121を有するGPS制御装置120は位置情報取得装置として設けられる。この受信アンテナ121は、予備苗載台65を支持する支柱である予備苗載台支柱66に連結されるアンテナフレーム124に取り付けられる。
また、図1に示すように、左右の予備苗載台支柱66には、機体前方に突出するように深度センサ114が各々設けられており、圃場の深度を検出可能としている。かかる深度センサ114は、超音波やレーザー光の反射により水面、または土壌表面までの深さを測定するものであり、測定されたその場の深さがコントローラ150に送信される(図8参照)。
なお、深度センサ114は、圃場水面からの反射波を検出しているため、水面が高いほど反射時間は短くなり、コントローラ150は深度が「深い」と判定する。しかし、水面と深度センサ114との距離は、波などの影響を受けて変動するため、その影響を可及的に排除するために、ここでは、0.01秒ごとに20個の検出値を取得し、その中で最大値とその次に大きな値、および最小値とその次に小さな値の4つを捨て、残りの16の検出値の平均を用いて深度を検出している。
次に、苗移植機1の制御系について説明する。図8は、苗移植機1のコントローラ150を中心とした機能ブロック図である。本実施形態に係る苗移植機1は、電子制御によって各部を制御することが可能になっており、苗移植機1は、各部を制御する制御装置としてのコントローラ150を備える。このコントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、苗移植機1を制御するコンピュータプログラムが格納される。例えば、コントローラ150は、圃場情報取得手段としての肥料濃度センサ110や深度センサ130、あるいはGPS制御装置120により取得した圃場情報に基づいて、整地装置80を昇降させる自動昇降処理を行う。
図示するように、コントローラ150には、モータ等のアクチュエータ類や、各部の情報を取得するセンサ類等が接続される。例えば、コントローラ150には、アクチュエータ類として、エンジン10の吸気量を調節するスロットル(図示省略)を作動させることにより、エンジン10の回転数を増減させるスロットルモータ12や、線引きマーカ68を作動させるマーカモータ69、整地装置80のロータ81,82を駆動する駆動モータ870、整地装置80を昇降させる昇降モータ804、施肥量調節モータ180等が接続される。
また、コントローラ150に接続されるセンサ類としては、苗載置台51に設けられ、載置される苗の重量を検出する重量センサ160、苗植付部50の上下回動量を検出する回動センサ170、後輪回転センサ23、作業クラッチセンサ58、深度センサ130、および肥料濃度センサ110が接続される。
肥料濃度センサ110は、左右の前輪4それぞれに設けられ、左右の前輪4間の肥料濃度を検知する。すなわち、図1に示すように、肥料濃度センサ110は、環状の電極板で構成され、前輪4の機体内側または外側で、且つ土壌や水中に近い外周縁部付近に配置される。
後輪回転センサ23は、後輪5の回転速度を検知することにより、走行車体2の車速を検知する車速検知部材として設けられる。作業クラッチセンサ58は、苗植付部50に動力を伝達するクラッチ(図示省略)の接続状態を検知することにより、苗植付部50の作動を検知する作業検知部材として設けられる。深度センサ130は、圃場の深さを測定する深度検出部材として設けられる。
また、苗移植機1は、図8に示すように、それぞれコントローラ150に接続されるGPS制御装置120およびタブレット端末などの情報記憶端末140を備える。
GPS制御装置120は、GPSを用いることにより地球上における苗移植機1の位置情報、あるいは座標情報を取得することができ、GPS制御装置120で取得した位置情報は、コントローラ150に伝達することができる。GPS制御装置120は、このようにGPSを用いることにより苗移植機1の位置情報を取得するため、GPSで使用される人工衛星からの信号を受信する受信アンテナ121を有する(図1および図2を参照)。
情報記憶端末140は、情報を表示する表示部と、各種の入力操作を行う入力操作部と、情報を記憶する記憶部とを有する。このうち、表示部と入力操作部とは、別体で構成されていてもよく、タッチパネル式のディスプレイによって一体で構成されていてもよい。なお、情報記憶端末140は、例えば、走行車体2の操縦座席28の近くに着脱自在に取付可能に構成するとよい。
また、情報記憶端末140の記憶部は、一または複数の圃場の位置情報、及び圃場での以前の作業時における位置情報から導出した所定箇所の地点情報を記憶するとともに、GPS制御装置120で取得した最新の位置情報をコントローラ150を介して記憶することができる。
本実施形態に係る苗移植機1は、上述してきた構成を有し、以下、その作用について説明する。
苗移植機1の運転時は、エンジン10で発生する動力によって、走行車体2の走行と、苗載置台51に載せた苗の植付作業を行う。この植付作業は、回転軸が左右方向になる向きで、苗植付装置60の植付体61全体が回転しながら、植込杆62も回転することにより、苗載置台51に載せられた苗を順次植込杆62で取り、取った苗を徐々に圃場に植え付ける。その際に、苗載置台51を、苗載置台51に載置する1条分の機体左右方向の幅の範囲内で機体左右方向に往復移動させることにより、各苗植付装置60は、苗載置台51においてそれぞれの苗植付装置60に対応する部分から苗を取り出し、圃場に植え付ける。
すなわち、各苗植付装置60は、苗載置台51の所定の条に対応する部分から苗を取り出して、所定の条に苗を植え付ける。植付作業時は、このように苗植付装置60を作動させながら圃場内を走行車体2で走行することにより、複数の列状に苗を植え付ける。このとき、本実施形態に係る苗移植機1は、コントローラ150が、GPS制御装置120が取得した圃場情報としての位置情報が、記憶された地点情報と一致した場合、整地昇降機構800を駆動して整地装置80を昇降させるようにしている。
また、走行車体2の走行時には、エンジン10で発生した動力はベルト式動力伝達機構17に伝達され、ベルト式動力伝達機構17から油圧式無段変速機16に伝達されて、油圧式無段変速機16で所望の回転速度や回転方向、トルクに変換されて出力される。油圧式無段変速機16から出力された動力は、ミッションケース18に伝達され、路上走行時の走行速度に適した回転速度、または苗の植え付け時の走行速度に適した回転速度にミッションケース18内で変速されて、前輪4側や後輪5側に出力される。また、ミッションケース18から出力される動力の一部は、苗植付部50側にも伝達され、苗植付部50での植え付け作業にも用いられる。
なお、本実施形態に係る苗移植機1は、圃場で植え付け作業を行う際には、GPS制御装置120で苗移植機1の位置情報を、所定の時間間隔ごとに取得する。
情報記憶端末140には、通常の植付領域をはじめとする圃場内の所定位置、例えば、圃場の取水口または排水口や出入口などを示す地点情報が記憶されており、コントローラ150は、情報記憶端末140に記憶されている地点情報と、受信アンテナ121で取得した位置情報とを比較し、整地装置80の昇降モータ804や駆動モータ870などを制御するようにしている。
以下、整地装置80の自動昇降処理について、図9〜図11Cを参照しながら説明する。図9〜図11Cは、本実施形態に係る整地装置80の自動昇降処理の一例を示すフローチャートである。なお、自動昇降処理を行う場合、予め、通常の苗植付作業を行う経路を走行し、必要箇所の地点情報を取得し、コントローラ150の記憶部内に記憶させておくものとする。
先ず、GPS制御装置120から取得した位置情報を圃場情報とする場合の第1の自動昇降処理について説明する。
図9に示す第1の自動昇降処理では、コントローラ150は、先ずGPS制御装置120の受信アンテナ121により取得した位置情報が、予め記憶部に記憶されている圃場の取水口または排水口を示す地点情報と一致するか否かを判定する(ステップS100)。
そして、一致すると判定した場合(ステップS100:Yes)、コントローラ150は、整地昇降機構800の昇降モータ804を駆動して、整地装置80を所定高さ上昇させる(ステップS120)。この場合の所定高さ、すなわち整地装置80の上方への移動距離は、例えば1〜2cm程度でよい。
また、ステップS100において、一致しないと判定した場合(ステップS100:No)、コントローラ150は、GPS制御装置120の受信アンテナ121により取得した位置情報が、予め記憶部に記憶されている圃場の出入口を示す地点情報と一致するか否かを判定する(ステップS110)。
そして、一致すると判定した場合(ステップS110:Yes)、処理をステップS120に移し、やはり整地装置80を、例えば1〜2cm程度上昇させる。また、一致しないと判定した場合(ステップS110:No)、コントローラ150は本処理を終える。
なお、ここでは、GPS制御装置120が取得した位置情報が、圃場の取水口、排水口、あるいは出入口を示す地点情報と一致した場合、整地装置80を所定高さ上昇させるようにしたが、整地装置80(センターロータ81およびサイドロータ82)が機能しない程度の十分に高い位置まで上昇させてもよい。
こうして、第1の自動昇降処理によれば、他所よりも圃場面が軟らかい取水口または排水口では、整地装置80と圃場面との接触を弱めたり、あるいは接触を回避することができるため、整地装置80で圃場面を荒らすことを防止できる。したがって、苗の植付深さを大幅に乱すことがなく、植付精度が向上する。
また、圃場の出入口は坂道にさしかかる場所であり、他所よりも比較的浅くなっているため、耕耘作業時には、表土を掘り起こして散らさないようにしているため、結果的に他所よりも浅く、かつ圃場面が固くなっている傾向にある。かかる出入口付近においては、整地装置80を上昇させることにより、圃場面との接触を弱めたり、あるいは接触を回避することができる。したがって、整地装置80で固い圃場の土を散らばらせて、圃場面を荒らすことを防止できる。このように、圃場の出入口付近であっても、苗の植付深さを大幅に乱すことがなくなり、植付精度が向上する。
次に、肥料濃度センサ110から取得した圃場の肥料濃度を圃場情報とする場合の第2の自動昇降処理について、図10A〜図10Cに基づいて説明する。
図10Aに示すように、第2の自動昇降処理では、コントローラ150は、肥料濃度センサ110から取得した肥料濃度(検出値)と基準値とを比較し、検出した肥料濃度が基準値より高いか否かを判定する(ステップS200)。なお、このときの基準値は、実際の苗植付作業に先立って、苗移植機1を圃場全体を通して走行させながら、例えば所定走行距離毎に取得した肥料濃度の平均とすることができる。
そして、コントローラ150は、検出した肥料濃度が基準値より高いと判定すると(ステップS200:Yes)、処理をステップS210に移す一方、検出した肥料濃度が基準値より高くないと判定した場合は(ステップS200:No)、本処理を終了する。
ステップS210では、コントローラ150は、整地装置80を所定高さ下降させる。この場合の所定高さ、すなわち整地装置80の下方への移動距離は、例えば1〜2cm程度でよい。
このように、第2の自動昇降処理では、肥料濃度の高いところでは、整地装置80を下降して圃場面の土をしっかり攪拌して土中に残留していた肥料成分を水中に溶出しやすくしている。
すなわち、例えば肥料成分が残留していた場合、植付けられた苗が成長していく過程で肥料過多になり、他よりも急に成長してしまうことで、圃場内における苗の生育にバラツキが生じるおそれがあるが、上述した制御により、圃場の肥料濃度を均一化させることができるため、苗の生育の安定化を図ることができる。こうして、苗の成長速度にも差が生じにくくなり、苗植付後の追肥や防除などの作業タイミングや収穫時期を揃えることができるため、作業能率や収穫物の品質向上を図ることができる。また、残留している肥料成分を利用できるため、施肥量を節約することも可能となる。
ところで、本実施形態に係る苗移植機1は、整地装置80のロータ81,82を駆動する駆動源として、エンジン10の作動とは関係なく駆動可能な駆動モータ870を備えている。そこで、図10Bに示すように、圃場の肥料濃度に応じて駆動モータ870の出力を変更することもできる。
すなわち、図10Bに示すように、コントローラ150は、検出した肥料濃度が基準値より高いと判定すると(ステップS200:Yes)、処理をステップS220に移す一方、検出した肥料濃度が基準値より高くないと判定した場合は(ステップS200:No)、本処理を終了する。
ステップS220では、コントローラ150は、駆動モータ870の出力を所定回転数高くする。ロータ81,82を高速回転させることで、肥料濃度が高いと判定された場所をしっかり攪拌することで、肥料濃度を均一化させることができる。また、ロータ81,82は、動力伝達経路がエンジン10とは切り離されている駆動モータ870により回転するため、苗移植機1がたとえ低速走行していても、所望する高速回転を維持することができる。また、この場合、必要に応じて整地装置80自体を適宜昇降させて、圃場の表土を含む攪拌程度を調整することも可能である。
次に、図10Cに示す制御について説明する。苗移植機1は、植付作業時には、肥料濃度センサ110により常時肥料濃度を検出している。コントローラ150は、かかる検出結果を解析し、一定期間内に検出した肥料濃度の値にバラツキが大きいか否かを判定する(ステップS300)。ここで、バラツキの許容範囲は、平均肥料濃度を中心として適宜設定しておくものとする。また、一定期間とは、コントローラ150は、肥料濃度を決定するに際し、複数のサンプリングの平均を肥料濃度と決定するが、その肥料濃度を決定するのに必要な複数のサンプリングを得るまでの時間を指す。
コントローラ150は、サンプリングとなる検出した肥料濃度の値にバラツキがあり、それが大きいと判定すると(ステップS300:Yes)、処理をステップS310に移す一方、サンプリングとなる検出した肥料濃度の値のバラツキは大きくないと判定すると(ステップS300:No)、本処理を終了する。
ステップS310では、コントローラ150は、駆動モータ870の出力を所定回転数高くして、ロータ81,82を高速回転させる。こうして、サンプリング結果にバラツキ、ムラが大きい場所をしっかり攪拌することで、苗を植付ける場所付近の肥料濃度を均等にすることが可能となる。
次に、深度センサ130から取得した圃場深度を圃場情報とする場合の第3の自動昇降処理について、図11A〜図11Cに基づいて説明する。
図11Aに示すように、第3の自動昇降処理では、コントローラ150は、深度センサ130から取得した深度(検出値)と基準値とを比較し、検出した深度が基準値より高いか否かを判定する(ステップS400)。このときの基準値についても、実際の苗植付作業に先立って、苗移植機1を圃場全体を通して走行させながら、例えば所定走行距離毎に取得した圃場深度の平均とすることができる。
そして、コントローラ150は、検出した圃場深度が基準値より高いと判定すると(ステップS400:Yes)、処理をステップS410に移す一方、検出した深度が基準値より高くないと判定した場合は(ステップS400:No)、本処理を終了する。
ステップS410では、コントローラ150は、整地装置80を所定高さ下降させる。この場合の所定高さ、すなわち整地装置80の下方への移動距離は、例えば1〜2cm程度でよい。
このように、第2の自動昇降処理では、圃場深度が大きい、つまり深いところでは、整地装置80を下降して整地装置80が圃場面に確実に接地するように制御する。
すなわち、圃場の深いところは、粘性の高い土質である場合が多く、残留した肥料も溶出しにくいため、肥料濃度が高いと推定される。そこで、圃場の深いところについては、圃場面に強くロータ81,82を当てて土を攪拌し、土中に含まれる肥料成分を水中に溶出しやすくする。こうすることで、圃場の肥料濃度を均一化させ、苗の生育の安定化を図ることができる。したがって、圃場の深さの違いによって苗の成長速度に差が生じたりすることが防止され、苗植付後の追肥や防除などの作業タイミングや収穫時期を揃えることができ、作業能率や収穫物の品質向上を図ることができる。また、土壌深さが深くなる部分は、土の粘度が高く、駆動反力により走行車体2が前上がり姿勢になりやすいが、整地装置80を下降させることで圃場面を確実に均すことができ、苗の植付深さを略一定にすることができる。
なお、検出した圃場深度が基準値より高いと判定した場合、センターロータ81の高さのみを変更するようにしてもよい。その場合、整地装置80の連結伝動機構83を支持しているコイルばね840(図3参照)の張力を、例えばモータなどを用いて可変とするように構成しておくとよい。かかる構成としておくことで、コントローラ150は、モータ駆動を制御することで、センターロータ81の高さを可変とすることができる。
また、図11Bに示すように、圃場深度に応じて駆動モータ870の出力を変更することもできる。
すなわち、図11Bに示すように、コントローラ150は、検出した圃場深度が基準値より高いと判定すると(ステップS400:Yes)、処理をステップS420に移す一方、検出した圃場深度が基準値より高くないと判定した場合は(ステップS400:No)、本処理を終了する。
ステップS420では、コントローラ150は、駆動モータ870の出力を所定回転数高くする。ロータ81,82を高速回転させることで、圃場深度が大きく、深いと判定された場所をしっかり攪拌することで土を攪拌し、土中に含まれる肥料成分を水中に溶出しやすくして圃場の肥料濃度を均一化させ、苗の生育の安定化を図っている。
次に、図11Cに示す制御について説明する。苗移植機1は、植付作業時には、深度センサ130により、前述したように0.01秒ごとに20個の検出値を取得して深度を決定している。そこで、コントローラ150は、かかる検出値を解析し、一定期間内に検出した深度の値にバラツキが大きいか否かを判定する(ステップS500)。なお、バラツキの許容範囲は、平均深度を中心として適宜設定しておく。また、一定期間とは、走行車体2が所定距離(例えば1m)移動したとみなされるとき、または所定時間(例えば10秒)経過したときである。
コントローラ150は、サンプリングとなる検出した深度の値にバラツキが大きいと判定すると(ステップS500:Yes)、処理をステップS510に移す一方、サンプリングとなる検出した深度の値のバラツキが大きくはないと判定すると(ステップS500:No)、本処理を終了する。
ステップS510では、コントローラ150は、駆動モータ870の出力を所定回転数高くして、ロータ81,82を高速回転させる。こうして、深度の検出結果にバラツキ、ムラが大きい場所をしっかり攪拌することで、苗を植付ける場所付近の肥料濃度を均等にすることが可能となる。
(変形例)
ここで、整地装置80を構成するロータ81,82の変形例について説明する。図12Aは、整地装置80の変形例に係るロータ構造の一例を示す一部切欠説明図、図12Bは、同ロータ構造の全体を示す説明図である。図12Aに示すように、ロータ81,82を、中心軸(回転軸)81c周りに回転する基部81bと、基部81bから放射状に取付けられた圃場面に食い込む複数の刃部81aとから構成し、かかる刃部81aを、基部81bの軸中心に向けて進退自在に構成している。かかる構成により、ロータ81,82の径を可変にすることができる。なお、刃部81aの進退動作は、例えばモータやアクチュエータなどで行うようにすればよい。例えば、図12Aに示すように、複数の刃部81aを基部81bに摺動自在に設け、スプリング81dにより回転軸81cから遠ざかる側に付勢するとともに、刃部81aをロータ81,82の回転軸81cに引き寄せる引張ワイヤ81eを各々設ける。そして、回転軸81cの外周に、回転軸81cとは独立して回転可能な外周軸81fを設け、この外周軸81fを、図12Bに示す径切替モータ81gを作動させて回転可能とする。こうして、外周軸81fを回転させると、引張ワイヤ81eが引かれたり、緩んだりして刃部81aが摺動し、ロータ81,82の径が変更されるのである(図12A)。なお、図12Bに示すように、通常は外周軸81fが回転軸81cと供回りするよう、外周軸81fに設けたギア機構81hにクラッチ81jを設けておくとよい。そして、例えばソレノイド81kで押し引きしてクラッチ81jを入り切りする。
かかる構成とすることで、例えば苗移植機1が高速走行している場合、あるいは、GPS制御装置120により取得した位置情報から、苗移植機1が圃場の出入口近くにいると判断した場合に、コントローラ150は、ロータ81,82の径を小さく変形する。このように、ロータ81,82の径を可変にすることで、例えば苗植付部50が激しく揺られたとしても、後輪5との干渉を防止することができ、ロータ81,82や後輪5の損傷を未然に防止することができる。
次に、苗移植機1の自動制御処理について説明する。かかる処理は、圃場を上空から撮影した画像データから圃場の深度や波の大きさなどを判断し、それによって苗移植機1の動作を自動制御するものである。図13は、苗移植機1における自動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図13に示すように、苗移植機1を自動制御するに際し、コントローラ150は、先ず圃場を上空から撮影した画像データを取得する(ステップS600)。画像データは、例えば、ドローン(無人飛行体)などを用いて上空から対象となる圃場を撮影したデータであり、好ましくは動画データとする。なお、ドローンで撮影した画像データに代えて、GPS制御装置120を利用して、苗移植機1が位置する座標に応じた画像データを衛星から受信して利用することもできる。
一方、苗移植機1は、情報記憶端末140の記憶部に、予め、圃場の画像マップを表示部に表示させるためのデータを記憶しており、制御部は、かかる画像マップに、取得した画像データを重ねて表示する(ステップS610)。このとき、例えば、水の色を青色、苗の色を緑色などで表示するとともに、水の色については、水深が深いほど濃くなるように表す。
次いで、コントローラ150は、情報記憶端末140の表示部に表示される画像データを、表示される色に基づいて解析する(ステップS620)。すなわち、圃場が深い場合、あるいは圃場面に波がある場合、さらには波によって隣接する苗が倒れている場合は、同じ青色であっても色が変化するため、その変化した色について解析する。具体的には、色が変化した領域の面積を解析する。
そして、コントローラ150は、解析結果から、圃場の水を示す色(青色)が、変化している画素領域の広さが所定範囲以上か否かを判定し(ステップS630)、所定範囲以上でない場合は(ステップS630:No)この処理を終える。
一方、色濃く変化した画素領域の広さが所定範囲以上であると判定した場合(ステップS630:Yes)、コントローラ150は、走行車体2を減速する。すなわち、油圧式無段変速機(HST)16やエンジン10の出力を制御して自動減速処理を行う(ステップS640)。例えば、波が立って隣接する苗が倒れたりした場合、苗を示す緑色の画素で占める領域や水を示す青色の画素で占める領域の面積が変化すると考えられるため、苗の倒れを防止するために大きな波が立たないように減速するのである。
次いで、コントローラ150は、苗植付装置60を下降させて深植えできるようにする(ステップS650)。すなわち、苗植付装置60を作動させるアクチュエータとしての切替バルブ(不図示)を作動させ、苗植付装置60を下降させて苗を深く植え付けるようにし、苗が波などで流されないようにする。
また、コントローラ150は、苗植付装置60の回動検出感度を鈍くする制御を行うか、あるいは、苗植付装置60の回動量検出値の出力ディレータイムを遅くする(ステップS660)。
すなわち、水量が多い場合、センターフロート48が水の抵抗によって頻繁に上下動することがあり、その上下動を回動センサ170が検知することで、苗植付装置60の昇降動作が頻繁に行われる場合がある。あまり頻繁に昇降が繰り返されると、前述したように、かえって苗の植付深さが不均等になるおそれがある。そこで、圃場の水を示す青色が変化している画素領域の広さが所定範囲以上となった場合は回動センサ170の検出感度を鈍くするか、回動検出値の出力ディレータイムを遅く、すなわち、回動センサ170が回動量を検出するタイミングを遅くして、苗植付装置60の昇降頻度を抑制する。
さらに、コントローラ150は、施肥量を増加するように施肥量を制御する(ステップS670)。すなわち、水が多い場合や波が多い場合は、肥料が拡散されたりして薄くなる傾向にあるため、施肥量を増加するものである。ステップS670の処理の後、コントローラ150は、本処理を終了する。
なお、上述してきた自動制御処理において、ステップS640〜ステップS670の順序を適宜入れ替えても構わない。また、いずれかのステップをスキップしても構わない。
次に、苗移植機1のエンジン制御処理について説明する。かかる処理は、苗植付部50にセットされた苗の量に応じてエンジン10の出力を制御するものである。図14は、苗移植機1におけるエンジン制御処理の一例を示すフローチャートである。
すなわち、図14に示すように、苗移植機1のエンジン10の出力を御するに際し、コントローラ150は、先ず、苗載置台51の重量データを取得する(ステップS700)。すなわち、ロードセルなどの重量センサを苗載置台51に設けておき、苗を載置した状態の苗載置台51の重量データを取得する。
そして、取得した重量データ(検出値)が基準値よりも小さくなったか否かを判定し(ステップS710)、小さくないと判定した場合は(ステップS710:No)、本処理を終える一方、小さいと判定した場合は(ステップS710:Yes)、処理をステップS720に移す。そして、ステップS720において、コントローラ150は、エンジン10の出力を小さくし、無駄に燃料を消費することを抑えるようにしている。
以上説明してきた実施形態を通して、以下の苗移植機1が実現する。すなわち、圃場を走行する走行車体2の後部に取り付けられる苗植付部50と、圃場を整地可能であり、苗植付部50の前方に設けられる整地装置80と、整地装置80を上下昇降させる昇降機構800と、圃場に関する圃場情報を取得する圃場情報取得手段としての肥料濃度センサ110やGPS制御装置120や深度センサ130と、これらから取得した圃場情報に基づいて、整地装置80を昇降させる制御装置150とを備える苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、圃場内の各地点における地点情報を予め記憶可能であり、GPS制御装置120が取得した圃場情報としての位置情報が、記憶された地点情報と一致した場合、整地昇降機構800を駆動して整地装置80を昇降させる苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、GPS制御装置120が取得した圃場情報としての位置情報が、圃場の取水口または排水口を示す地点情報と一致した場合、整地昇降機構800を駆動して整地装置80を所定高さ上昇させる苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、GPS制御装置120が取得した位置情報が、圃場の出入口を示す地点情報と一致した場合、整地昇降機構800を駆動して整地装置80を所定高さ上昇させる苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、肥料濃度センサ110が検出した圃場情報としての肥料濃度に応じて整地昇降機構800を駆動して整地装置80を昇降させる苗移植機1。
また、上記構成において、整地装置80を駆動する駆動モータ870をさらに備え、制御装置150は、肥料濃度センサ110が取得した肥料濃度に応じて駆動モータ870の出力を変更し、整地装置80の作動速度を変更する苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、深度センサ130が検出した圃場情報としての圃場深さに応じて整地昇降機構800を駆動して整地装置80を昇降させる苗移植機1。
また、上記構成において、制御装置150は、深度センサ130が検出した圃場深さに応じて駆動モータ870の出力を変更し、整地装置80の作動速度を変更する苗移植機1。
なお、上述してきた実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、表示要素などのスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質など)は、適宜に変更して実施することができる。