<ガス拡散電極基材>
一般にマイクロポーラス層を設けない電極基材もガス拡散電極基材と呼ばれることが多いが、本発明においては、これらを区別するため、便宜上、マイクロポーラス層を設けない基材を単に「電極基材」と称し、電極基材にマイクロポーラス層を設けたものを「ガス拡散電極基材」と称することとする。
〔電極基材〕
電極基材は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高い面内方向のガス拡散性、面直方向のガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する液水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すための高い導電性が必要である。
このため、本発明における電極基材として、炭素繊維織物、炭素繊維不織布、炭素繊維抄紙体(いわゆるカーボンペーパー等)などの炭素繊維を含む多孔体、発砲焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔体を用いることが好ましく、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含む多孔体を用いることが好ましい。中でも、コストが安いこと、凹部や空隙の形成が容易であること、等の点で炭素繊維不織布が好ましい。
本発明における電極基材に用いられる多孔体の基材孔径は、35μm以上であることが好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。基材孔径が35μm以上であれば、マイクロポーラス層が配置されていても、ガスの拡散と排水で高い性能が得られる。特に40μm以上でその傾向が顕著になる。また、基材孔径が100μm以下であれば、ドライアウトを防止しやすい利点がある。本発明において基材孔径は、水銀圧入法により測定される値をいう。これは、例えば、PoreMaster(Quantachrome社製)などを用いて測定でき、本発明においては、水銀の表面張力σを480dyn/cm、水銀と炭素繊維不織布との接触角を140°として計算した値を用いる。横軸が孔径(D)、縦軸が容積差(dV)とした時のピークを基材孔径とした。
本発明における電極基材は、マイクロポーラス層が配置されていない面に非貫通の凹部が存在するか、または、電極基材内部に空隙を有するものである。凹部の形状は、表面に分散した穴状のもの、連続した溝状のもの、等を例示することができるが、特に限定されるものではない。表面に分散して形成した穴状非貫通孔であることが好ましい。非貫通とは、電極基材の一方の面に開口部を有し、かつ他面まで達していないことを意味する。非貫通の凹部とすることで、貫通させた場合よりドライアップを抑制することができる。
非貫通の凹部は、電極基材の基材孔面積よりも大きい開口面積を有することが好ましい。ここで、電極基材の基材孔面積とは、前述した電極基材の基材孔径を直径とする円の面積をいう。本発明でいう凹部の開口面積は、電極基材表面の凹凸の影響を排除するため、電極基材を厚み方向に1MPaで加圧した際の電極基材の厚み(以下、単に「加圧時厚み」ということがある。)と同じ厚みになるまで電極基材の凹部形成面をトリミングしたと仮定した場合の開口面積をいう。加圧時厚みは、2.5cm×2.5cmにカットした電極基材を、表面が3cm以上×3cm以上で厚みが1cm以上の金属板で挟み、電極基材に対して1MPaの圧力を付与して求める。また、凹部の開口面積は、レーザー顕微鏡等で電極基材を観察し、形状解析アプリケーションを用いて加圧時厚みに相当する高さにおける各々の凹部の断面積を計測することで求めることができる。
凹部の開口面積は、排水性を確保する観点から、1000μm2以上であることが好ましく、2000μm2以上であることがより好ましい。また、セパレータとの接触面積を確保し、十分な導電性や熱伝導性を持たせる観点から、100mm2以下であることが好ましく、1mm2以下であることがより好ましい。
凹部が非貫通孔である場合の横断面形状(電極基材表面と平行な面で切ったときの断面形状)としては、例えば円形、楕円形、四角形、三角形、多角形、星型等が挙げられる。
凹部の縦断面形状(電極基材表面と垂直な面で切ったときの断面形状)も特に限定されず、深さ方向で径が変化しない略長方形であっても、深さ方向で径が変化する略台形、略三角形、略円弧形であってもよい。深くなるにつれて径が小さくなる逆台形または弓形等に構成すると、排水効率を向上できる点で好ましい。孔形成の容易性の点で、このような凹部は、深さ方向の断面が上弦の弓形であることが好ましい。すなわち、凹部が非貫通孔である場合には、略球面状の断面の孔とすることが好ましい。
凹部の深さは特に限定されないが、排水性を確保する観点から、電極基材の加圧時厚みに対して5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、凹部の深さの絶対値は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更に好ましい。
凹部の深さの上限は特に限定されず、電極基材の厚みに応じて適宜設定され得るが、電極基材の強度を確保する観点や、ガス供給の均一性を保つ観点から、電極基材の加圧時厚みに対して80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。また、電極基材自体の厚みが厚くなると燃料電池が大型化してしまうため、電極基材はその機能を発揮する限りにおいて薄い方が好ましく、一般的には50μm〜500μm程度である。本発明において電極基材の厚みは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、140μm以下であることがさらに好ましい。また、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。電極基材の厚さが50μm以上であると、マイクロポーラス層を配置した場合でも面内方向のガス拡散がより向上し、セパレータのリブ下にある触媒へもガスの供給がより容易にできるため、低温、高温のいずれにおいても発電性能がより向上する。また、電極基材の機械強度がより向上し、電解質膜、触媒層をより好ましく支えることができる。一方、電極基材の厚さが300μm以下であると、排水のパスが短くなるため、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制できるとともに、導電のパスが短くなり、導電性がより向上し、高温、低温のいずれにおいても発電性能がより向上する。本願発明のマイクロポーラス層を配置した場合でも高い性能が得られるという効果をより発揮できるという点で、特に200μmであることが好ましい。ここで、電極基材の厚さは、面圧0.15MPaで加圧した状態で、マイクロメーターを用いて求めることができる。
凹部の深さは、開口面積同様、加圧時厚みまで電極基材の凹部形成面をトリミングしたと仮定した場合の深さをいう。このような凹部の深さは、レーザー顕微鏡等で観察し、形状解析アプリケーションを用いて、当該凹部の非開口面から電極基材の加圧時厚みに相当する高さだけ開口面側に存在する平面を想定し、凹部のうちこの平面より非開口面側に存在する部分の深さを計測することで求めることができる。
本発明における電極基材の凹部はマイクロポーラス層が配置されていない面に存在する。そして、凹部は上述したように非貫通孔であることが好ましく、非貫通孔は電極基材表面に分散して形成されていることが好ましい。分散して形成されている、とは、電極基材の表面に、複数の凹部が、開口部の周が互いに接することなく配置されている状態を言う。凹部の配置パターンは特に限定されないが、凹部が面内に略均一に分布するように形成されていることが好ましい。
電極基材表面に対する凹部の面積率は、1.5%〜60%であることが好ましい。凹部の面積率が1.5%以上であることにより、十分な排水性を確保することができ、また60%以下であることにより、導電性や熱伝導性に優れたものとすることができる。凹部の面積率は、3%以上であることがより好ましく、また、40%以下であることがより好ましい。ここで、凹部の面積は、前記の通り加圧時厚みまで電極基材表面をトリミングしたと仮定した場合の面積である。凹部の面積率は、レーザー顕微鏡等で電極基材の凹部形成面を観察し、形状解析アプリケーションを用いて、一定視野内の各凹部の面積の総和を視野面積で除して求めることができる。
凹部が非貫通孔の場合、単位面積当たりの凹部(非貫通孔)の数は30個/cm2〜5000個/cm2が好ましく、100個/cm2〜1500個/cm2がより好ましい。
また、本発明における電極基材は、上記した非貫通の凹部ではなく、電極基材内部に空隙を有するものであっても良い。この場合、平均空隙径は20μm以上であることが好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。平均空隙径が20μ以上であると気体のより高い透過性が期待できる。特にマイクロポーラス層が配置されている場合に、その効果が顕著である。平均空隙径の上限は特に限定されないが、電極基材の厚みよりも小さいことが好ましい。また、導電性を向上させるために、平均空隙径は、600μm未満であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
ここで、平均空隙径は、次の方法により求めた値を用いた。走査型電子顕微鏡などの顕微鏡を用いて電極基材の断面(表面を形成する面と垂直の方向)の空隙を1000倍以上に拡大して写真撮影を行った後、無作為に異なる30箇所の空隙を選んでそれぞれの空隙の最大内接円の直径を計測し、その平均値を平均空隙孔として求めた。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
また、より効果を発揮させることを目的に、非貫通の凹部を有し、かつ、電極基材内部に空隙を有していても良い。
以下、電極基材として特に炭素繊維を含む多孔体を用いる場合について説明する。
炭素繊維を含む多孔体に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられる。中でも、機械強度に優れることから、PAN系、ピッチ系炭素繊維が本発明において好ましく用いられる。
本発明における炭素繊維は、単繊維の平均直径が3〜20μmの範囲内であることが好ましく、5〜10μmの範囲内であることがより好ましい。平均直径が3μm以上であると、細孔径が大きくなり排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。一方、平均直径が20μm以下であると、水蒸気拡散性が小さくなり、ドライアップを抑制することができる。また、異なる平均直径を有する2種類以上の炭素繊維を用いると、電極基材の表面平滑性を向上できるために好ましい。
ここで、炭素繊維の単繊維平均直径は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その直径を計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
本発明における炭素繊維は、多孔体の構造により適宜変えることができるが、抄紙体の場合は、単繊維の平均長さが3〜100mmの範囲内にあることが好ましく、5〜15mmの範囲内にあることがより好ましい。平均長さが3mm以上であると、電極基材が機械強度、導電性、熱伝導性が優れたものとなり好ましい。一方、平均長さが20mm以下であると、抄造の際の繊維の分散性が優れ、均質な電極基材が得られるために好ましい。また、炭素繊維不織布の場合は、20mmを超えることが好ましく、50mm以上であることがより好ましく、70mm以上であることがさらに好ましい。20mmを越えることによって、炭素繊維同士の絡合により強度を向上させることができる。また、150mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましい。150mm以下とすることにより、生産性に優れた不織布を得ることができる。かかる平均長さを有する炭素繊維は、連続した炭素繊維または炭素繊維前駆体を所望の長さにカットする方法などにより得られる。
ここで、炭素繊維の平均長さは、製造時の切断繊維長を基に各工程での伸張、収縮を換算して繊維の繊維長とするか、あるいは、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で炭素繊維を50倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その長さを計測し、その平均値を求めたものを用いることができる。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。なお、炭素繊維における単繊維の平均直径や平均長さは、通常、原料となる炭素繊維についてその炭素繊維を直接観察して測定されるが、電極基材を観察して測定しても良い。
また、炭素繊維を含む多孔質体、特に炭素繊維不織布は、曲率半径が1mm以下の湾曲部を有する炭素繊維を含むことが好ましい。一般に、炭素繊維の導電性や熱伝導性は、繊維断面方向よりも繊維軸方向で優れている。曲率半径が小さい湾曲部を有する繊維は一定面積内の繊維長が長くなり、電極基材に高い導電性と熱伝導性を付与することが期待できる。本発明における電極基材は、曲率半径が、500μm以下の湾曲部を有する炭素繊維を含むことがより好ましく、曲率半径が200μm以下の湾曲部を有する炭素繊維を含むことがさらに好ましい。
このような湾曲部を有する炭素繊維を含むことは、電極基材表面の炭素繊維を観察することで確認できる。炭素繊維の曲率半径は、光学顕微鏡や電子顕微鏡により炭素繊維不織布表面の炭素繊維を観察し、炭素繊維の湾曲部で任意の3点をとり、その3点の外接円の半径として求めることができる。本発明においては、光学顕微鏡や電子顕微鏡で炭素繊維不織布表面の1.5mm×1.5mmの面積を観察したときに、このような曲率半径の湾曲部を有する炭素繊維が10本以上確認できることが好ましく、30本以上確認できることがより好ましい。また、光学顕微鏡や電子顕微鏡で炭素繊維不織布表面の1.5mm×1.5mmの面積を観察し、この視野を0.3mm×0.3mmの25個の領域に区切ったときに、このような曲率半径の湾曲部が確認できる領域が5以上あることが好ましく、10以上あることがより好ましい。
炭素繊維を含む多孔体からなる電極基材においては、炭素繊維同士の接点にバインダーとして炭化物が付着していると、炭素繊維同士の接点で接触面積が大きくなり、優れた導電性と熱伝導性を得ることができる。このようなバインダーを付与する方法としては、炭化処理後の多孔体にバインダー溶液を含浸またはスプレーし、不活性雰囲気下で再度加熱処理してバインダーを炭化する方法が挙げられる。この場合、バインダーとしては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂といった熱硬化性樹脂を用いることができ、中でも、炭化収率が高い点でフェノール樹脂が特に好ましい。また、後述するように、熱可塑性樹脂を炭素繊維前駆体不織布等に混綿しておく方法も好ましい。導電性を向上するため、このバインダーにさらにカーボンブラックなどを添加することもできる。
また、炭素繊維を含む多孔体からなる電極基材においては、凹部における壁面を構成している炭素繊維のうち、少なくとも一部の炭素繊維が凹部の高さ方向に配向していることが好ましい。凹部の壁面を構成している炭素繊維とは、繊維の少なくとも一部が凹部の内壁面に露出している炭素繊維である。そして、当該炭素繊維が凹部の高さ方向に配向している、とは、凹部を高さ方向に3等分したときに、炭素繊維が2つの等分面(電極基材表面と平行な平面)の両方を貫通していることを意味する。
凹部の高さ方向に配向している炭素繊維が存在することは、レーザー顕微鏡等で電極基材表面を観察し、形状解析アプリケーションを用いて、凹部の1/3深さの等分面と凹部内壁面との交線、および凹部の2/3深さの各等分面と凹部内壁面との交線の両方を共に横切る炭素繊維が観察されることにより確認することができる。また、電極基材の凹部を含む任意の断面を走査型電子顕微鏡等で観察し、凹部の深さの1/3と2/3の位置で当該凹部を横切る電極基材表面と平行な2直線を描画した上で、当該2直線の両方と交わる炭素繊維が観察されることによっても確認することができる。このような炭素繊維は、一つの凹部中に2本以上存在することが好ましく、5本以上存在することがさらに好ましい。
一般に、凹部を形成すると、凹部を形成しない場合よりもガス供給側の部材(例えばセパレーター)との接触面積が小さくなり、導電性や熱伝導性が低下する。ところが、炭素繊維は、繊維断面方向よりも繊維軸方向の導電性、熱伝導性が優れているため、凹部の壁面を構成している炭素繊維が凹部の高さ方向に配向している場合、電極基材の厚み方向の導電性、熱伝導性が向上し、凹部形成による導電性や熱伝導性の低下を補うことができる。
このような炭素繊維は、同様に、凹部を高さ方向に4等分した場合における3つの等分面の全てを貫通していることが好ましく、5等分した場合における4つの等分面の全てを貫通していることがより好ましい。凹部の壁面を構成している炭素繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維は、少なくとも凹部の開口部から底部まで、壁面に沿って連続するものであることが好ましい。
また、凹部の高さ方向に配向している炭素繊維は、凹部の底面まで連続していると、凹部の高さ方向への導電性、熱伝導性を向上させる効果が高くなるため好ましい。当該炭素繊維が凹部の底面まで連続している、とは、凹部の壁面を構成している炭素繊維の電極基材底面側の先端が屈曲もしくは湾曲し、当該炭素繊維の少なくとも一部が凹部底面にも露出している状態を指す。なお、凹部が球面状である場合等、凹部中において壁面と底面が区別できない場合は、凹部の最深部を底面と考える。電極基材の断面を観察したときに、凹部の一の壁面を構成している炭素繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維が、凹部の底面まで連続するとともに、さらに他の壁面をも構成していることが好ましい。すなわち、凹部内の2箇所で壁面を構成し、かつ底面まで連続している炭素繊維が存在することが好ましい。
本発明においては、凹部の壁面を構成している全ての炭素繊維が凹部の高さ方向に配向している必要は無く、このような炭素繊維が存在していればよい。また、一つひとつの凹部にこのような炭素繊維が確認できることが好ましいが、このような炭素繊維が確認できない凹部が存在することをもって本発明の範囲外とするものではない。
さらに、炭素繊維を含む多孔体からなる電極基材においては、平面視において凹部の周縁部に繊維断面が観察されないことが好ましい。電極基材は一般に、面内方向の透気性が厚み方向の透気性より大きい傾向にある。凹部の周縁部に繊維断面が存在するということは、その部分で繊維軸方向の導電や熱伝導が期待できないことを意味する。前述したように、炭素繊維は繊維軸方向に優れた導電性と熱伝導性を有するため、繊維断面がないということは、これらの性能をより向上することができる。
凹部の周縁部に繊維断面が観察されないことは、光学顕微鏡、電子顕微鏡等で電極基材の表面観察を行うことで確認できる。ここで、全ての凹部においてその周縁部に繊維断面が観察されないことが最も望ましいが、凹部の周縁部に繊維断面が観察されない繊維の数が、凹部の周縁部に繊維断面が観察される繊維の数よりも多い場合であっても良い。
繊維断面が観察されない繊維の数は、周縁部を構成する繊維の70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
本発明における電極基材として炭素繊維を含む多孔質体を用いる場合、その目付は特に限定するものではないが、10g/m2以上が好ましく、20g/m2以上がより好ましい。10g/m2以上とすることで、導電性を向上させることができ、また機械強度が向上し製造工程での搬送性や電解質膜や触媒層の支持性を良好にすることができる。一方、120g/m2以下であることが好ましく、60g/m2以下であることがより好ましい。120g/m2以下とすることにより、電極基材の面直方向のガス透拡散性がより向上し、得られるガス拡散電極基材の面直方向のガス拡散性がより大きなものとなり、高温、低温のいずれにおいても発電性能がより向上する。ここで目付とは、重量を面積で除したものである。
また、見かけ密度は0.2〜1.0g/cm3であることが好ましい。0.3〜0.9g/cm3がより好ましく、0.4〜0.8g/cm3がさらに好ましい。0.2g/cm3以上とすることで、導電性を向上させることが可能となるとともに、電極基材として付与される圧力によっても構造が破壊され難い。また、1.0g/cm3以下とすることで、気体や液体の透過性を向上させることができる。ここで、見かけ密度は、目付を厚みで除したものである。
以下、電極基材として特に炭素繊維不織布を用いる場合について説明する。
炭素繊維不織布は、乾式のパラレルレイドウエブまたはクロスレイドウエブ、エアレイドウエブ、押出法のスパンボンドウエブ、メルトブローウエブ、エレクトロスピニングウエブ等を用い、これらのウエブを機械的な交絡、加熱融着、バインダー接着、等の手段によってシート化したものを用いることができる。
炭素繊維不織布は、少なくとも一部の炭素繊維が厚さ方向へ配向していることが好ましい。前記したように、炭素繊維は繊維軸方向の導電性は、繊維断面方向の導電性よりも優れていることから、厚さ方向へ炭素繊維が配向していると、より高い導電性を得ることができる。炭素繊維不織布においては、炭素繊維の少なくとも一部が、表面から他方の表面まで連続していることがより好ましい。一方の表面から他方の表面まで連続しているとは、一方の表面と他方の表面の間で繊維の切断が確認できないことを言い、イオンビームやカミソリでカットして観察することや、X線等をもちいた透過像で断面方向の繊維を評価すること等で確認することができる。炭素繊維は、少なくとも一部の繊維が一方の表面から他方の表面まで連続していればよいが、連続する繊維の存在する頻度が高いほど高い導電性を得やすいことから、表面から見て1mm2(1mm×1mm)の範囲で複数の繊維が連続していることが好ましく、0.1mm2(0.3mm×0.3mm)の範囲で複数の繊維が連続していることがより好ましい。
また、炭素繊維不織布においては、少なくとも一部の炭素繊維が相互に交絡していることが好ましい。相互に交絡し、さらに、厚さ方向へ配向しているかどうかは、前述のとおり、イオンビームやカミソリでカットして観察することや、X線等をもちいた透過像で断面方向の繊維を評価すること等で確認することができる。なお、単に繊維同士が交差しているもの、接触しているだけのもの、或いは、他の繊維を介して交絡しているもの、等は本発明における相互に交絡しているものに含まない。
〔マイクロポーラス層〕
本発明のガス拡散電極基材は、電極基材の片面にマイクロポーラス層が配置されたものである。マイクロポーラス層により、電解質膜への水分の逆拡散を促進し、電解質膜を湿潤する機能も有することから、ドライアップを抑制する効果を奏する。
上述したように、本発明者らの検討によると、空隙や孔を形成させた電極基材に常法によりマイクロポーラス層を形成させた場合、期待するようなフラッディングとドライアップの抑制を高いレベルで両立することが困難であるという、新たな課題を生じることがわかった。この理由は幾つか考えられるが、マイクロポーラス層の形成時に樹脂が空隙や孔に流れ込み、これを塞ぐ傾向があることもその理由の1つと考えられる。しかし、マイクロポーラス層に線状カーボンを含むことにより、これを一挙に解決できる。
一般に炭素繊維は、平均直径が3μm以上、平均繊維長もカット長によるが1mm以上となる。本発明における線状カーボンは、これらの一般の炭素繊維とは異なり、例えば、気相成長炭素繊維、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カップ積層型カーボンナノチューブ、竹状カーボンナノチューブおよびグラファイトナノファイバーからなる群より選択される線状カーボンが挙げられる。これらのうち、複数種の線状カーボンを組み合わせて用いてもよい。中でも、アスペクト比を大きくでき、導電性、機械特性が優れることから、気相成長炭素繊維、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが、本発明において用いるに好適な線状カーボンとして挙げられる。かかる線状カーボンの使用により、マイクロポーラス層の前駆体であるカーボン塗液の電極基材へのしみ込みを適度に抑制されると共に、電極基材の凹部や空隙の閉塞も抑制され、面内方向のガス拡散性、排水性が改善されると考えられる。そのため、ドライアップを抑制しながら、フラッディングも抑制することができる。
線状カーボンの平均直径は0.1〜1000nm、平均繊維長は1〜1000μmであることが好ましい。また、平均直径が5〜200nm、平均繊維長が1〜20μmの気相成長炭素繊維が特に好ましい。
また、本発明において線状カーボンのアスペクト比は、30〜5000であることが好ましい。線状カーボンのアスペクト比が30以上とすることで、カーボン塗液中の線状カーボンの絡まりあいにより、カーボン塗液の電極基材への浸み込みや、凹部や空隙の閉塞をより抑制することができる。一方、線状カーボンのアスペクト比を5000以下とすることで、カーボン塗液中での固形分の凝集や沈降を抑制し、より安定した生産を行うことができる。本発明において、線状カーボンのアスペクト比が3000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。また、線状カーボンのアスペクト比が35以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましい。
ここで、線状カーボンのアスペクト比は、平均長さ(μm)/平均直径(μm)を意味する。平均長さは、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に10個の線状カーボンを選び、その長さを計測し、平均値を求めたものである。平均直径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの顕微鏡で、10000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる10個の線状カーボンを選び、その直径を計測し、平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
本発明において、線状カーボンの平均長さは0.1〜30μmの範囲内であることが好ましく、1〜20μmの範囲内であることがより好ましく、2〜15μmの範囲内であることがさらに好ましい。かかる線状カーボンにおいて、その平均長さが0.1μm以上であると、カーボン塗液の粘度がより高くなり、裏抜けや凹部、空隙の閉塞がより抑制される等の効果により、電極基材の面内方向のガス拡散性、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制することができる。
本発明において、マイクロポーラス層は、線状カーボン以外の各種炭素系フィラーをさらに含んでもよい。例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックや、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、薄片グラファイト等が挙げられる。
炭素系フィラーとしてカーボンブラックを用いた場合、線状カーボンに対するカーボンブラックの混合質量比が0.5〜20の範囲内であることが好ましく、1〜19の範囲内であることがより好ましく、2〜10の範囲内であることがさらに好ましい。かかる混合質量比が0.5以上であると、線状カーボンとカーボンブラックを含むマイクロポーラス層の空隙率がより適度な大きさとなるため、水蒸気拡散性がより小さく、ドライアップをより抑制することができる。かかる混合質量比が20以下であると、特定アスペクト比の線状カーボンの配合の効果でマイクロポーラス層の前駆体であるカーボン塗液の電極基材へのしみ込みを適度に抑制し、面内方向のガス拡散性、排水性が改善されるため、フラッディングを抑制でき、さらには、電極基材表層に十分な厚さを有するマイクロポーラス層が形成され、生成水の逆拡散が促進されるため、ドライアップを抑制できる。
本発明において、液水の排水を促進するとの観点から、マイクロポーラス層には線状カーボンと組み合わせて撥水材を含むことが好ましい。中でも、耐腐食性が優れることから、撥水材としてはフッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
マイクロポーラス層は、液水の排出を促進する、水蒸気拡散を抑制するとの観点から、線状カーボンと組み合わせて各種のその他の材料を含むことができる。例えば、マイクロポーラス層の細孔径を大きくし、液水の排水を促進する目的で、消失材を用いることができる。ここで、消失材とは、300〜380℃にて5〜20分間加熱して、撥水材を溶融し、線状カーボン同士のバインダーにしてマイクロポーラス層を形成する際に、焼き飛ぶなどして消失し、空隙を形成する材料を意味する。具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンなどの粒子、繊維などが挙げられる。
本発明において、マイクロポーラス層の空隙率は60〜85%の範囲内であることが好ましく、65〜80%の範囲内であることがより好ましく、70〜75%の範囲内であることがさらに好ましい。空隙率が60%以上であると、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制することができる。空隙率が85%以下であると、水蒸気拡散性がより小さく、ドライアップをより抑制することができる。加えて、導電性が高く、高温、低温のいずれにおいても発電性能が向上する。
かかる空隙率を有するマイクロポーラス層は、後述する製法において、マイクロポーラス層の目付、撥水材、その他材料に対する炭素系フィラーの配合量、炭素系フィラーの種類、および、マイクロポーラス層の厚さを制御することにより得られる。中でも、撥水材、その他材料に対する炭素系フィラーの配合量、炭素系フィラーの種類を制御することが有効である。ここで、撥水材、その他材料に対する炭素系フィラーの配合量を大きくすることにより高空隙率のマイクロポーラス層が得られ、撥水材、その他材料に対する炭素系フィラーの配合量を小さくすることにより低空隙率のマイクロポーラス層が得られる。
ここで、マイクロポーラス層の空隙率は、イオンビーム断面加工装置を用いた断面観察用サンプルを用い、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、断面を1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、空隙部分の面積を計測し、観察面積に対する空隙部分の面積の比を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
マイクロポーラス層の目付は10〜35g/m2の範囲内であることが好ましい。30g/m2以下であることがより好ましく、25g/m2以下であることがさらに好ましい。また、14g/m2以上であることがより好ましく、16g/m2以上であることがさらに好ましい。マイクロポーラス層の目付が10g/m2以上であると、電極基材表面をより覆うことができ、生成水の逆拡散がより促進され、ドライアップをより抑制できる。また、マイクロポーラス層の目付が35g/m2以下とすることで、凹部や空隙の閉塞を抑制し、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制できる。
また、セパレータとガス拡散電極基材間の電気抵抗を低減することができるとの観点から、マイクロポーラス層の一部が電極基材に含浸していることが好ましい。
〔その他〕
本発明のガス拡散電極基材の目付は、上述した電極基材とマイクロポーラス層からなることから、20〜155g/m2が好ましい範囲である。
本発明において、ガス拡散電極基材の厚みは60〜400μmであることが好ましい。200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。また、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。ガス拡散電極基材の厚さが60μm以上であると、面内方向のガス拡散がより好ましくとなり、セパレータのリブ下にある触媒へもガスを供給がより容易にできるため、低温、高温のいずれにおいても発電性能がより向上する。一方、ガス拡散電極基材の厚さが400μm以下であると、凹部や空隙の効果がより発揮でき、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制できるとともに、導電のためのパスがより短くなり、導電性がより向上し、高温、低温の発電性能がより向上する。かかる厚さを有するガス拡散電極基材は、電極基材の厚さとマイクロポーラス層の厚さを制御することにより得られる。ここで、ガス拡散電極基材の厚みは、面圧0.15MPaで加圧した状態で、マイクロメーターを用いて求めることができる。
本発明のガス拡散電極の面直方向のガス透過抵抗は15〜190mmAqの範囲内であることが好ましく、180mmAq以下であることがより好ましく、170mmAq以下であることがさらに好ましい。面直方向のガス拡散性の指標として面直方向のガス透過抵抗を用いる。ガス拡散電極基材の面直方向のガス拡散抵抗が小さいほど、面直方向のガス拡散性は高い。また、25mmAq以上であることがより好ましく、50mmAq以上であることがさらに好ましい。面直ガス拡散抵抗が15mmAq以上であると、水蒸気拡散性をより小さくし、ドライアップをより抑制することができる。また、面直ガス拡散抵抗が190mmAq以下であると、面直方向のガス拡散性がより向上し、低温から高温の広い温度範囲にわたって高い発電性能をより発現しやすくなる。ガス拡散電極基材の面直ガス透過抵抗は、ガス拡散電極基材から切り出した直径4.7cmの円形のサンプルを用い、マイクロポーラス層側の面からその反対面に空気を58cc/min/cm2の流速で透過させたときの、マイクロポーラス層側の面とその反対面の差圧を差圧計で測定し、面直ガス透過抵抗とした。
<ガス拡散電極基材の製造方法>
次に、本発明のガス拡散電極基材、膜電極接合体および燃料電池の製造方法として、本発明の電極基材として好ましい態様である非貫通の凹部を有する炭素繊維不織布を用いた例について説明する。
〔炭素繊維不織布〕
本発明における非貫通の凹部を有する炭素繊維不織布は、一例として、炭素繊維前駆体繊維不織布の表面を押圧して凹部を形成する工程と、得られた炭素繊維前駆体繊維不織布を炭化処理する工程と、によって製造することができる。
炭素繊維前駆体繊維とは、炭化処理により炭素繊維化する繊維であり、炭化率が15%以上の繊維であることが好ましく、30%以上の繊維であることがより好ましい。本発明に用いられる炭素繊維前駆体繊維は特に限定されないが、ポリアクリロニトリル(PAN)系繊維、ピッチ系繊維、リグニン系繊維、ポリアセチレン系繊維、ポリエチレン系繊維、および、これらを不融化した繊維、ポリビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維などを挙げることがでる。中でも強伸度が高く、加工性の良いPANを不融化したPAN系耐炎繊維を用いることが特に好ましい。繊維を不融化するタイミングは、不織布を作成する前後いずれでもよいが、不融化処理を均一に制御しやすいことから、シート化する前の繊維を不融化処理することが好ましい。
なお、炭化率は、以下の式から求めることができる。
炭化率(%)=炭化後重量/炭化前重量×100
炭素繊維前駆体繊維不織布は、炭素繊維前駆体繊維により形成されたウエブまたはシートである。ウエブとしては、乾式のパラレルレイドウエブまたはクロスレイドウエブ、エアレイドウエブ、湿式の抄造ウエブ、押出法のスパンボンドウエブ、メルトブローウエブ、エレクトロスピニングウエブを用いることができる。また、シートとしては、これらのウエブを機械的に交絡させたシート、加熱して融着させたシート、バインダーで接着させたシート等を用いることができる。溶液紡糸法で得たPAN系繊維を不融化してウエブ化する場合は、均一なシートを得やすいことから、乾式ウエブまたは湿式ウエブが好ましく、中でも工程での形態安定性を得やすいことから、乾式ウエブを機械的に交絡させたシートが特に好ましい。ここで用いる繊維量によって、電極基材の目付や見かけ密度を調整することができる。
炭化後の炭素繊維不織布に高い導電性と熱伝導性を付与するため、炭素繊維前駆体繊維不織布中において、炭素繊維前駆体繊維は、1mm以下の曲率半径を有する湾曲部を含むものであることが好ましい。炭素繊維前駆体繊維不織布は、曲率半径が500μm以下の湾曲部を有するものであることがより好ましく、曲率半径が200μm以下の湾曲部を有するものであることがさらにより好ましい。具体的には、光学顕微鏡や電子顕微鏡で炭素繊維前駆体繊維不織布表面の1.5mm×1.5mmの面積を観察したときに、このような曲率半径の湾曲部を有する炭素繊維前駆体繊維が10本以上確認できることが好ましく、30本以上確認できることがより好ましい。また、光学顕微鏡や電子顕微鏡で炭素繊維前駆体繊維不織布表面の1.5mm×1.5mmの面積を観察したときに、この視野を0.3mm×0.3mmの25個の領域に区切り、このような曲率半径の湾曲部が確認できる領域が5以上あることが好ましく、10以上あることがより好ましい。
1mm以下の曲率半径の湾曲部を有する炭素繊維前駆体繊維を含む炭素繊維前駆体繊維不織布を得る方法としては、押し込み式(スタッフィングボックスを使った)けん縮機等で予めけん縮を付与した炭素繊維前駆体繊維を用いて不織布を構成する方法や、炭素繊維前駆体繊維でウエブを作成した後で、ニードルパンチやウォータージェットパンチといった機械的処理によって繊維を交絡させるとともに繊維を曲げる方法を挙げることができる。けん縮を付与して得たウエブに、更にニードルパンチやウォータージェットパンチ処理を行った炭素繊維前駆体繊維不織布を用いることは、より好ましい方法である。
また、前述のように、炭素繊維不織布の炭素繊維同士の交点に炭化物が付着していると導電性と熱伝導性に優れるため、炭素繊維前駆体繊維不織布はバインダーを含むものであることが好ましい。炭素繊維前駆体繊維不織布にバインダーを含ませる方法は特に限定されないが、炭素繊維前駆体繊維不織布にバインダー溶液を含浸またはスプレーする方法や、予め炭素繊維前駆体繊維不織布にバインダーとなる熱可塑性樹脂製繊維を混綿しておく方法が挙げられる。
炭素繊維前駆体繊維不織布にバインダー溶液を含浸またはスプレーする場合には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂といった熱硬化性樹脂をバインダーとして用いることができ、炭化収率が高いことからフェノール樹脂が好ましい。ただし、バインダー樹脂溶液を含浸した場合は、炭化工程で炭素繊維前駆体繊維とバインダー樹脂の収縮の挙動の差異が生じることによって、炭素繊維不織布の平滑性が低下しやすく、また、バインダーの乾燥時に電極基材表面に溶液が移動するマイグレーション現象も生じ易いため、均一な処理が難しくなる傾向がある。
これに対し、予め炭素繊維前駆体繊維不織布にバインダーとなる熱可塑性樹脂製繊維を混綿しておく方法は、炭素繊維前駆体繊維とバインダー樹脂の割合を不織布内で均一にすることができ、炭素繊維前駆体繊維とバインダー樹脂の収縮挙動の差異も生じにくいことから、最も好ましい方法である。このような熱可塑性樹脂製繊維としては、比較的安価なポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維が好ましい。
バインダーの配合量は、電極基材の強度、導電性、熱伝導性の向上のため、炭素繊維前駆体繊維100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、排水性向上のため、80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
なお、バインダーの付与は、炭素繊維前駆体繊維不織布に凹部を賦形した後に、バインダー溶液を含浸またはスプレーすることにより行うこともできる。また、炭化処理を行った後の電極基材にバインダー溶液を含浸またはスプレーし、再度炭化処理する工程を経ることによっても行うことができる。しかしながら、凹部形成後にバインダーを付与すると、凹部周辺にバインダー溶液が溜まって付着量が不均一になる傾向があるため、凹部の形成前に行うことが好ましい。
バインダーとなる熱可塑性樹脂製繊維や、含浸またはスプレーする溶液に導電助剤を添加しておくと、導電性向上の観点からさらに好ましい。このような導電助剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛等を用いることができる。
凹部を形成させる手段としては、炭素繊維前駆体繊維不織布の表面に凹部を押圧等で賦形し、凹部を有する炭素繊維前駆体繊維不織布を得ることが好ましい。凹部は、炭化後の電極基材にレーザー加工や機械加工を行うことでも形成できるが、凹部の壁面で炭素繊維が切断されることが避けられないため、導電性と熱伝導性をより向上させる点では前記方法が好ましい。
押圧の方法は、炭素繊維の切断を伴わない方法が好ましく、凹部に対応する凸部を有する賦形部材を押し付ける方法や、針状部材により押圧する方法、あるいは水により押圧する方法等を用いることができる。この凸部のパターンや水の処理面積等によって、最終的な電極基材の凹部の面積を調整することができる。
中でも好ましいのは、形成する凹部に対応する凸部を有する賦形部材を前記炭素繊維前駆体繊維不織布の表面に押し付ける方法である。この方法においては、炭素繊維前駆体繊維不織布の表面の一部を賦形部材により物理的に押し込むことで、炭素繊維前駆体繊維の切断を防止しつつ凹部を形成することができる。これにより、凹部の壁面を構成している炭素繊維前駆体繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維が凹部の高さ方向に配向したものとなる。
より具体的な手段は特に限定されないが、エンボス加工が好ましく、凹部に対応する凸形状を形成したエンボスロールとフラットロールで連続プレスする方法や、同様の凸形状を形成したプレートとフラットプレートでバッチプレスする方法を挙げることができる。プレスの際には、次に行う炭化処理において形態が復元する(凹部がなくなる)ことのないように、ロールやプレートは加熱したものを用いることが好ましい。このときの加熱温度は、炭素繊維前駆体繊維の不織布構造体に形成した凹部の形態安定性の点から160℃〜280℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましい。
また、最終的に得られる電極基材の密度や厚みを制御するため、凸部の無いロールやプレートでのプレスを、凹部を形成させる前または後、あるいは両方に実施することも好ましい態様である。
なお、繊維破断を生じることなく凹部を形成するためには、比較的低密度の炭素繊維前駆体繊維不織布を変形させることが好ましいため、凹部を形成する前の炭素繊維前駆体繊維不織布は、見かけ密度が0.02〜0.20g/cm3であることが好ましく、0.05〜0.15g/cm3であることがより好ましい。
また、本発明のガス拡散電極基材の好ましい見かけ密度とするために、炭化前の炭素繊維前駆体繊維不織布の見かけ密度は0.20〜1.00g/cm3にしておくことが好ましい。炭素繊維前駆体繊維不織布の見かけ密度を制御するために、凹部を形成させた後、フラットロールやフラットプレートでプレスして調整することもできるが、凹部の形状を制御するという観点から、凹部部分だけではなく炭素繊維前駆体不織布全体を同時に押圧することによって、炭素繊維前駆体繊維不織布の見かけ密度を0.20〜1.00g/cm3とすることが好ましい。
こうして得られた炭素繊維前駆体繊維不織布は、次に炭化処理する。炭化処理の方法は特に限定されず、炭素繊維材料分野における公知の方法を用いることができるが、不活性ガス雰囲気下での焼成が好ましく用いられる。不活性ガス雰囲気下での焼成は、窒素やアルゴンといった不活性ガスを供給しながら、800℃以上で炭化処理を行うことが好ましい。焼成の温度は、優れた導電性と熱伝導性を得やすいために1500℃以上が好ましく、1900℃以上がより好ましい。一方、加熱炉の運転コストの観点を考慮すると、3000℃以下であることが好ましい。
なお、炭素繊維前駆体不織布が不融化前の炭素繊維前駆体繊維で形成されている場合には、炭化処理前に不融化を行うことが好ましい。このような不融化工程は、通常、空気中で、処理時間を10〜100分、温度を150〜350℃の範囲にする。PAN系不融化繊維の場合、密度が1.30〜1.50g/cm3の範囲となるように設定することが好ましい。
以上、炭素繊維不織布を電極基材として用いる場合の製造方法の一例を示したが、他の態様においても、適宜公知の方法を適用しながら、上記に準じて製造することができる。例えば、凹部を有する炭素繊維からなる多孔質体の場合、公知の方法で炭素繊維前駆体からなる抄紙体や織物を製造し、次いで凹部を形成してから炭素化する方法、或いは、炭素繊維抄紙体や不織布、織物を製造し、次いで凹部を形成させる方法、等が例示できる。
本発明において、排水性を向上する目的で、多孔質体に撥水加工を施すことが好ましい。撥水加工は、多孔質体に撥水材を塗布、熱処理することにより行うことができる。ここで、撥水材としては、耐腐食性が優れることから、フッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。撥水材の塗布量は、多孔質体100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、3〜40質量部であることがより好ましい。撥水材の塗布量が1質量部以上であると、電極基材が排水性に優れたものとなり好ましい。一方、50質量部以下であると、電極基材が導電性の優れたものとなり好ましい。
〔マイクロポーラス層〕
上記によって得られた電極基材の片面に、線状カーボンを含むカーボン塗液を塗布することによって、マイクロポーラス層を形成することができる。
カーボン塗液は水や有機溶媒などの分散媒を含んでも良いし、界面活性剤などの分散助剤を含んでもよい。分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いるのがより好ましい。また、線状カーボン以外の各種炭素系フィラーや撥水材を含有しても良い。
カーボン塗液の電極基材への塗工は、市販されている各種の塗工装置を用いて行うことができる。塗工方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗工、バー塗工、ブレード塗工などが使用できる。以上例示した塗工方法はあくまでも例示のためであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
カーボン塗液の電極基材への塗工後、80〜120℃の温度で塗液を乾かすことが好ましい。すなわち、塗工物を、80〜120℃の温度に設定した乾燥器に投入し、5〜30分の範囲で乾燥する。乾燥風量は適宜決めればよいが、急激な乾燥は、表面の微小クラックを誘発する場合があるので望ましくない。
このようにして、カーボン塗液中の固形分(炭素系フィラー、撥水材、界面活性剤など)が乾燥後に残存し、マイクロポーラス層を形成する。
〔膜電極接合体〕
本発明において、前記したガス拡散電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで膜電極接合体を構成することができる。その際、触媒層側にマイクロポーラス層を配置することで、より生成水の逆拡散が起こりやすくなるのに加え、触媒層とガス拡散電極基材の接触面積が増大し、接触電気抵抗を低減することができる。一方の面に非貫通の凹部を有するか、空隙を有し、もう一方の面にマイクロポーラス層を有する電極基材において、ドライアップの抑制と共に、フラッディングを抑制することができる。
〔燃料電池〕
本発明の燃料電池は、上述の膜接合体の両側にセパレータを有するものである。すなわち、上述の膜電極接合体の両側にセパレータを有することで燃料電池を構成する。通常、かかる膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成する。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いるのが好ましい。かかる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
1.電極基材の構造
(1)基材孔径
PoreMaster(Quantachrome社製)を用いて測定し、水銀の表面張力σを480dyn/cm、水銀と炭素繊維不織布との接触角を140°として計算した。横軸が孔径(D)、縦軸が容積差(dV)とした時のピークを基材孔径とした。
(2)繊維長
製造時の切断繊維長を基に、各工程での伸張、収縮を換算して炭素繊維不織布を構成する繊維の繊維長とした。
(3)厚み、見かけ密度
JIS L1913 6.1(厚さ(A法))に準じて、5cm×5cmの試験片を10枚採取し、全自動圧縮弾性・厚さ測定器((株)大栄科学精機製作所製、型式:CEH−400)を用いて、圧力0.15kPaの加圧下で10秒後における各試験片の厚さを測定した。そして、測定値の平均値を厚さとして求めた後、この厚さと寸法(5cm×5cm)、重量から、少数第3位四捨五入して見かけ密度を求めた。
(4)凹部の形状
凹部の開口面積および深さは、レーザー顕微鏡(VK−9710、株式会社キーエンス社製)で観察し、形状解析アプリケーション(VK−Analyzer Plus、株式会社キーエンス社製)を用いて測定した。1000μm×1400μmの視野で凹凸部の計測解析を行い、凹部の非開口面から電極基材の加圧時厚みに相当する高さだけ開口面側に存在する平面を想定した上で、当該平面における凹部の断面積の平均値を凹部の開口面積、当該平面より非開口面側に存在する部分の深さの平均値を凹部の深さ(絶対値)とした。このとき、高さのしきい値は1MPaで加圧した際の電極基材厚みの値とした。1000μm2よりも小さい面積は微小領域として無視した。また、開口率は、全ての凹部の開口面積の総和の、電極基材の面積に対するパーセンテージとして求めた。
(5)凹部の壁面における炭素繊維の高さ方向への配向性
凹部の壁面を構成している炭素繊維が凹部の高さ方向に配向しているかどうかは、レーザー顕微鏡(VK−9710、株式会社キーエンス社製)で観察し、形状解析アプリケーション(VK−Analyzer Plus、株式会社キーエンス社製)を用いて判断した。1000μm×1400μmの視野を観察し、凹部の1/3深さの等分面と凹部内壁面との交線、および2/3深さの等分面と凹部内壁面との交線を共に横切る炭素繊維が1本でも観察されれば、凹部の高さ方向に配向している繊維があると判断した。
(6)非貫通孔の周縁部への繊維断面の有無
走査型電子顕微鏡で、隣接する20箇所以上の非貫通孔のうち、過半数の非貫通孔において周縁部に繊維断面が観察されなければ、繊維断面がないものと判断した。
(7)非貫通孔の壁面における炭素繊維の高さ方向への配向性
非貫通孔の壁面を構成している炭素繊維が非貫通孔の高さ方向に配向しているかどうかは、レーザー顕微鏡(VK−9710、株式会社キーエンス社製)で観察し、形状解析アプリケーション(VK−Analyzer Plus、株式会社キーエンス社製)を用いて判断した。1000μm×1400μmの視野を観察し、非貫通孔の1/3深さの等分面と非貫通孔内壁面との交線、および2/3深さの等分面と非貫通孔内壁面との交線を共に横切る炭素繊維が1本でも観察されれば、非貫通孔の高さ方向に配向している繊維があると判断した。
(8)平均空隙径
走査型電子顕微鏡((S−4800 株式会社日立製作所製)を用い、イオンビームでカットした電極基材の断面(表面を形成する面と垂直の方向)の空隙を、1000倍以上に拡大して写真撮影を行った。次に、無作為に異なる30箇所の空隙を選んでそれぞれの空隙の最大内接円の直径を計測し、その平均値を平均空隙孔とした。
(9)曲率半径1mm以下の湾曲部を有する炭素繊維の本数
電極基材表面の500μm×500μmの面積を走査型電子顕微鏡で観察した。炭素繊維の湾曲部で3点をとり、その3点の外接円の半径として湾曲部の曲率半径を求めた。曲率半径が1mm以下の湾曲部を有する繊維が10本以上確認できた場合に多数とし、それ以下の場合には実測の本数とした。なお、対象とする炭素繊維上で測定した曲率半径のうち最も小さい曲率半径をその炭素繊維の曲率半径とした。
2.発電性能
フッ素系電解質膜“Nafion”212(デュポン社製)の両面に、白金担持炭素と“Nafion”からなる触媒層(白金量0.2mg/cm2)をホットプレスによって接合し、触媒層被覆電解質膜(CCM)を作成した。
このCCMの両面に2枚のガス拡散電極基材を配して再びホットプレスを行い、膜電極接合体(MEA)とした。この時、ガス拡散電極基材は、マイクロポーラス層を有する面が触媒側と接するように配置した。
ガス拡散電極の周囲にガスケット(厚み70μm)を配したMEAをエレクトロケム社製のシングルセル(5cm2、サーペンタイン流路)にセットした。
(1)加湿条件での電圧
セル温度を60℃、水素と空気の露点を60℃とし、流量はそれぞれ1000cc/分と2500cc/分、ガス出口は開放(無加圧)とし、0.6A/cm2の電流密度で発電させ、そのときの電圧を加湿条件での電圧とした。
(2)低加湿条件での電圧
セル温度を90℃、水素と空気の露点を60℃とし、流量はそれぞれ100cc/分と250cc/分、ガス出口は開放(無加圧)とし、0.6A/cm2の電流密度で発電させ、そのときの電圧を低加湿条件での電圧とした。
[実施例1]
PAN系耐炎糸のけん縮糸を数平均繊維長76mmに切断した後、カード、クロスレヤーでシート化した後、針密度300本/cm2のニードルパンチを行って炭素繊維前駆体繊維不織布を得た。
この炭素繊維前駆体繊維不織布の一方の面に、直径150μm、高さ150μmの円筒状の凸部が分散形成され、該凸部のピッチがMD、CDとも0.5mm、素繊維前駆体繊維不織布の面積に対する凸部の面積比率が3%であるドットパターンの金属製エンボスロールと、金属製のフラットロールを用い、エンボス加工を行った。エンボスロールおよびフラットロールの加熱温度は220℃、線圧は50kN/mとした。
その後、窒素雰囲気下で、室温から3時間かけて1500℃まで昇温して15分間1500℃で加熱して炭化処理を行い、凹部を有する目付31g/m2、厚み121μm、見かけ密度0.256g/cm3の炭素繊維不織布を得た。電池顕微鏡で表面観察したところ、炭素繊維は相互に交絡し、非貫通孔の周縁部に繊維断面はなかった。炭化処理前後の重量変化から求めた炭化率は52%であった。
当該炭素繊維不織布にPTFE樹脂の水分散液(“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD−1E(ダイキン工業(株)製)を用いて、炭素繊維焼成体95質量部に対し、PTFEを5質量部付与した。
次に、炭素繊維不織布の平滑な面(凹部を形成していない面)に、線状カーボンとして、気相成長炭素繊維“VGCF”(登録商標)(昭和電工(株)製、平均直径:0.15μm、平均繊維長:8μm、アスペクト比:50、線状カーボンの一種)7.7重量%とPTFE樹脂(PTFE樹脂を60質量部含む水分散液である“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD−1E(ダイキン工業(株)製)を使用)2.5重量%、界面活性剤“TRITON”(登録商標)X−100(ナカライテスク(株)製)14.0重量%、からなる混合物を、スリットダイコーターを用いて塗布した。カーボン塗液を塗工後、120℃で10分、380℃で10分加熱し、マイクロポーラス層を形成した。このようにして、目付50g/m2、厚み140μm、見かけ密度0.357g/cm3のガス拡散電極基材を得た。
[実施例2]
実施例1において、気相成長炭素繊維“VGCF”(登録商標)の代わりに、気相成長炭素繊維“VGCF−S”(登録商標)(昭和電工(株)製、平均直径:0.10μm、平均繊維長:11μm、アスペクト比:110、線状カーボンの一種)2.3重量%と、アセチレンブラック“デンカブラック”(登録商標)(電気化学工業(株)製、平均粒子径:0.035μm、アスペクト比:1、カーボンブラックの一種)5.4重量%とした以外は、実施例1と同様にして処理し、ガス拡散電極基材を得た。
[実施例3]
実施例2において、気相成長炭素繊維“VGCF―S”(登録商標)の代わりに、多層カーボンナノチューブ(チープ チューブス社製、平均直径:0.015μm、平均繊維長:20μm、アスペクト比:1300、線状カーボンの一種)とした以外は、実施例2と同様にして処理し、ガス拡散電極基材を得た。
[実施例4]
実施例1と同様の数平均繊維長76mmの耐炎糸と、数平均繊維長37mmのナイロンステープルを、それぞれ80重量%と20重量%の割合で混綿した後、カード、クロスレヤーおよび針密度300本/cm2のニードルパンチを行って炭素繊維前駆体繊維不織布を得た。当該炭素繊維前駆体繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、電極基材を得た。
続いて、当該電極基材を用い、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
[実施例5]
繊維長10mmのPAN系耐炎糸を用い、抄造法によって湿式不織布を得た。この湿式不織布に対して、実施例1と同様にエンボス加工、炭化処理を行って炭素繊維抄紙体を得た。次いで、10重量%のフェノール樹脂を含浸し、プレスした後、再度炭化した。当該炭素繊維抄紙体を用いて実施例1と同様にして撥水加工し、電極基材を得た。
続いて、当該電極基材を用い、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
[実施例6]
実施例4と同様にして得た炭素繊維前駆体繊維不織布に、ビーム径が100μmのYAGレーザーを照射し、MD、CDとも0.5mmに一孔の頻度で孔加工を行った。その後、窒素雰囲気下で15分間、1500℃で加熱して炭化処理を行い、電極基材を得た。得られた電極基材に形成された孔は、非貫通孔となっており、基材孔径は40μmだった。
続いて、当該電極基材を用い、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
[実施例7]
極限粘度が0.66のPET(ポリエチレンテレフタレート)成分を紡糸および延伸し、56デシテックス48フィラメントの繊維を得た。これをS撚りで2400T/mで撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った。同様に、Z撚りで2400T/mで撚りをかけ、75℃でスチームセットを行った糸を作製した。タテ糸に、S撚りの糸とZ撚りの糸を交互に配し、ヨコ糸にS撚りの糸を用い、織組織を平織とし、93×64本/2.54cmの織密度で織物を作製し、目付60g/m2の織物(繊維布帛)を製造した。
次に、実施例1と同様の方法で得た炭素繊維前駆体繊維不織布と積層して、炭素繊維前駆体繊維不織布の方向からニードルパンチ(NP)し、炭素繊維前駆体繊維が織物を貫通してもう一方の表面まで貫通させた。このようにして、見かけ密度0.10g/cm3の複合シートを得た。得られた複合シートは、200℃に加熱したプレス機で圧縮し、見かけ密度0.50g/cm3とした。次いで窒素雰囲気中1500℃の温度まで昇温して焼成(1度目の炭素化)してPAN系炭素繊維不織布を得た。
このPAN系炭素繊維不織布に、フェノール樹脂と黒鉛をそれぞれ、40g/m2、15g/m2付与した。
再度1500℃の電気炉において、N2雰囲気下で炭素化処理(2度目の炭素化)を行い、炭素繊維不織布を得た。得られた炭素繊維不織布を、X線CTを用いて観察すると、乾式ウエブを構成していた繊維が一方の表面から他方の表面まで連続していることが確認できた。また、繊維同士が相互に交絡し、さらに、繊維が厚さ方向へ配向していることが確認できた。得られた炭素繊維不織布は、目付64g/m2、厚み163μm、見かけ密度0.392g/cm3、であり、平均空隙径が70μmの空隙を有していた。
この炭素繊維不織布を電極基材として、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材とした。
[比較例1]
実施例4と同様にして、炭素繊維前駆体繊維不織布を得た。得られた炭素繊維前駆体繊維不織布に、YAGレーザーの照射時間を実施例6の10倍とした以外は実施例6と同様にして、電極基材を得た。得られた電極基材に形成された孔は、貫通孔となっていた。
続いて、当該電極基材を用い、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
[比較例2]
実施例1において、線状カーボンの変わりにアセチレンブラック“デンカブラック”(登録商標)(電気化学工業(株)製、平均粒子径:0.035μm、アスペクト比:1、カーボンブラックの一種)を7.7重量%とした以外は、実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
[比較例3]
実施例1において、マイクロポーラス層を形成させない以外は、実施例1と同様にして電極基材を得た。この電極基材をそのままガス拡散電極基材の代わりに用いた。
[比較例4]
凹部を形成させない以外は実施例1と同様にしてガス拡散電極基材を得た。
各実施例、比較例で作成したガス拡散電極の基材の構成および燃料電池の発電性能を表1に示す。