(第1実施形態)
内燃機関の制御装置の第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。本実施形態は、内燃機関としてディーゼル機関を採用している。
図1に示すように、内燃機関には、複数の気筒10Aが内部に形成された機関本体10を有している。機関本体10には、吸気通路11と排気通路12とが連結されている。吸気通路11は、機関本体10に連結された吸気マニホールド11Aと、吸気マニホールド11Aの吸気上流側の端部に連結された吸気管11Bとからなる。吸気マニホールド11Aは、吸気下流側の端部が気筒10Aの数に合わせて分岐した形に形成されており、各気筒10Aと繋がっている。排気通路12は、機関本体10に連結された排気マニホールド12Aと、排気マニホールド12Aの排気下流側の端部に連結された排気管12Bとからなる。排気マニホールド12Aは、排気上流側の端部が気筒10Aの数に合わせて分岐した形に形成されており、各気筒10Aと繋がっている。
各気筒10Aには、気筒10A内に燃料を噴射する燃料噴射弁13がそれぞれ設けられている。各燃料噴射弁13には、燃料供給系14を通じて燃料が供給される。燃料供給系14は、燃料噴射弁13がそれぞれ接続されているコモンレール14Aを有している。コモンレール14Aには、燃料供給通路14Bの一端が連結されている。燃料供給通路14Bの他端には燃料が貯留されている燃料タンク14Cが連結されている。燃料供給通路14Bの経路上には燃料ポンプ14Dが配設されている。燃料ポンプ14Dの駆動により、燃料タンク14C内の燃料が加圧されてコモンレール14Aに供給される。吸気通路11を流れる吸気は各気筒10Aに導入され、燃料噴射弁13から気筒10A内に噴射された燃料と混合気を形成する。混合気は各気筒10A内で燃焼し、燃焼によって生成された排気は排気通路12に排出される。
内燃機関には、過給器15が設けられている。過給器15は、吸気通路11に配設されているコンプレッサー16と排気通路12に配設されているタービン17とを有している。コンプレッサー16は、コンプレッサーハウジング16Aと、該コンプレッサーハウジング16Aに収容されているコンプレッサーホイール16Bとからなる。タービン17は、タービンハウジング17Aと、該タービンハウジング17Aに収容されているタービンホイール17Bとからなる。コンプレッサー16とタービン17とは、ベアリング18を介して連結されている。ベアリング18は、コンプレッサーハウジング16Aとタービンハウジング17Aに連結されているベアリングハウジング18Aと、ベアリングハウジング18Aの内部に回転可能に支持されている回転軸18Bとからなる。回転軸18Bは、その一端がコンプレッサーホイール16Bに連結されており、その他端がタービンホイール17Bに連結されている。コンプレッサーホイール16Bとタービンホイール17Bとは回転軸18Bを回転中心として一体に回転可能である。
排気通路12を流れる排気はタービンホイール17Bを回転させる。この回転により、コンプレッサーホイール16Bは回転し、吸気通路11を流れる吸気を下流側に圧送する。過給器15には、タービン17に流入する排気の流れを制御するアクチュエータ19が設けられている。アクチュエータ19を制御することにより、過給器15による吸気の過給圧を調節できる。
吸気通路11には、コンプレッサー16よりも上流側に、吸気に含まれる異物を取り除くエアクリーナ20が設けられている。また、吸気通路11には、コンプレッサー16よりも下流側に、該コンプレッサー16によって圧縮された空気を冷却するためのインタークーラ21が設けられている。インタークーラ21は、吸気通路11に配設されている熱交換部21Aを有している。熱交換部21Aには、供給通路21B及び排出通路21Cの一端がそれぞれ連結されている。供給通路21B及び排出通路21Cの各他端は、ラジエータ21Dに連結されている。供給通路21Bには、その経路上に駆動ポンプ21Eが設けられている。インタークーラ21の内部には冷却水が充填されている。
駆動ポンプ21Eが駆動されると、ラジエータ21Dから供給通路21Bに流れた冷却水が熱交換部21Aに供給される。熱交換部21Aでは、冷却水と吸気通路11を流れる吸気との熱交換が行われ、吸気は冷却される。吸気からの受熱により温度の高くなった冷却水は、排出通路21Cを通じてラジエータ21Dに流れ、該ラジエータ21Dにおいて外気と熱交換することにより、その熱を放出する。放熱により温度の低下した冷却水はラジエータ21Dから排出され、供給通路21Bを通じて再度熱交換部21Aに供給される。インタークーラ21では、このように冷却水を循環させることにより、吸気を冷却する。
吸気通路11における、インタークーラ21よりも下流側には、吸気の温度を検出する吸気温度センサ30が設けられている。吸気温度センサ30は、吸気マニホールド11Aに配設されており、該吸気マニホールド11A内の吸気の温度を検出する。吸気温度センサ30によって、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも下流側の下流側吸気温度が検出される。吸気マニホールド11Aには、該吸気マニホールド11A内の吸気の圧力を検出する吸気圧センサ22も設けられている。
内燃機関には、電子制御装置40が設けられている。電子制御装置40には、吸気温度センサ30や吸気圧センサ22などの各種センサからの出力信号が入力される。また、各種センサとして、機関回転速度NEを検出する回転速度センサ23、運転者のアクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダルセンサ24、及びイグニッションスイッチ25等の出力信号も入力される。電子制御装置40は、吸気圧センサ22等の出力信号に基づいて過給器15のアクチュエータ19を制御することにより過給圧を調節する。また、吸気温度センサ30によって検出される吸気温度に基づいて駆動ポンプ21Eを制御することによりインタークーラ21の駆動量を制御する。なお、この駆動量は、吸気の冷却能と言い換えることができ、駆動量が大きいときほど吸気からの受熱を大きくできる。
電子制御装置40は、燃料噴射弁13の駆動態様を制御して、該燃料噴射弁13から段階的に燃料を噴射させるようにもしている。この噴射態様は、主噴射と、該主噴射に先立って少量の燃料を噴射するパイロット噴射とを含んでいる。パイロット噴射を実行することにより、気筒10A内には主噴射に先立って吸気と燃料との混合気が生成される。この混合気は、主噴射の実行前に圧縮着火して筒内温度を上昇させる。この予熱により、主噴射における着火遅れを抑制できる。電子制御装置40は、内燃機関の燃焼に関するパラメータである主噴射の燃料噴射量Qmや噴射時期、パイロット噴射の燃料噴射量Qpや噴射時期などを制御している。電子制御装置40は、アクセルペダルセンサ24等の出力信号に基づいて機関負荷KLを算出する。そして、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて、主噴射における燃料噴射量Qmや、パイロット噴射における燃料噴射量Qp及び噴射時期を算出する。電子制御装置40は、主噴射における噴射時期を、機関回転速度NE及び機関負荷KLに加えて、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも上流側の上流側吸気温度の推定情報に基づいて算出する。
電子制御装置40は、ソフトウェア及びハードウェアのうち少なくとも一方で構成されている機能部として、図1に示すように、主噴射の噴射時期の制御量であるベース噴射時期ftmbsを算出するベース算出部41と、ベース算出部41によって算出されたベース噴射時期ftmbsを補正する補正部42とを有している。
ベース算出部41では、機関回転速度NEと燃料噴射量Qmとに基づいて主噴射のベース噴射時期ftmbsを算出する。図2に示すように、ベース噴射時期ftmbsは、機関回転速度NEが高いときほど、及び燃料噴射量Qmが多いときほど遅角側になるように算出される。機関回転速度NEが高いときほど、及び燃料噴射量Qmが多いときほど、気筒10A内の吸気の温度上昇速度が増大するため、燃料を気筒10A内に噴射してから着火温度に達するまでの時間(以下「着火遅れ時間」という。)が短くなる。このようにベース噴射時期ftmbsを設定することにより、主噴射における燃焼開始時期を、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qmによる着火遅れ時間を考慮して目標時期(例えば、クランク角で、ピストンの圧縮上死点後(ATDC)5°)に制御することが可能になる。
図1に示すように、補正部42は、下流側温度算出部42A、上流側温度算出部42B、補正値算出部42C、及び補正実行部42Dを有している。
下流側温度算出部42Aは、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも下流側の下流側吸気温度の推定値である推定下流側吸気温度ethiabsを算出する。この推定下流側吸気温度ethiabsが下流側推定値である。下流側吸気温度は、吸気通路11に導入される外気の温度、すなわち、コンプレッサー16よりも上流側の上流側吸気温度と、内燃機関の機関本体10の温度、すなわち機関回転速度NE及び燃料噴射量Qmとに相関するパラメータである。内燃機関の機関本体10の温度が高ければ、該機関本体10に連結されている吸気通路11を通じた吸気の受熱量が多くなり、下流側吸気温度は高くなる。また、上流側吸気温度が高いときには、受熱前の吸気の温度が既に高い状態になっている。そのため、吸気通路11から受ける熱量が同じである場合には、上流側吸気温度が低いときと比較して上流側吸気温度が高いときの方が下流側吸気温度は高くなる。
上流側吸気温度、過給圧、及びインタークーラ21の駆動量、機関回転速度NE、及び燃料噴射量Qm等についてそれぞれ所定の基準値が設定されている。そして、これら各パラメータが基準値と一致しているときの内燃機関の運転状態である基準状態において、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qmのみを変化させたときの機関回転速度NE及び燃料噴射量Qmと下流側吸気温度との関係を示したマップが下流側温度算出部42Aに予め記憶されている。このマップは、基準状態において予め実験やシミュレーションを行うことによって求めることができる。この基準状態において設定されている上流側吸気温度を基準上流側吸気温度ETHASDとする。この基準上流側吸気温度ETHASDが、上流側吸気温度について予め設定されている基準値である。基準上流側吸気温度ETHASDは、予め電子制御装置40に記憶されている。下流側温度算出部42Aでは、図3に示すように、予め記憶されているマップに基づいて、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qmから推定下流側吸気温度ethiabsを算出する。この推定下流側吸気温度ethiabsは、基準上流側吸気温度ETHASDの外気が吸気通路11のエアクリーナ20に取り込まれているときの状況において、ある機関回転速度NE及びある燃料噴射量Qmで内燃機関を運転した場合に想定される下流側吸気温度の推定値である。このように、推定下流側吸気温度ethiabsは、上流側吸気温度が予め設定されている基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として算出される。推定下流側吸気温度ethiabsは、機関回転速度NEが高いときほど、及び燃料噴射量Qmが多いときほど高くなるように算出される。
上流側温度算出部42Bは、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも上流側の上流側吸気温度の推定値である推定上流側吸気温度ethaesを算出する。上流側温度算出部42Bは、次式(1)に基づいて算出される。なお、吸気温度センサ30によって検出された下流側吸気温度を実下流側吸気温度ethiaとする。
ethaes=ethia−ethiabs+ETHASD…式(1)
ところで、実下流側吸気温度ethiaは、上流側吸気温度、および内燃機関の機関本体10の温度だけではなく、過給圧やインタークーラ21の駆動量の影響も反映している。すなわち、実下流側吸気温度ethiaは、過給圧が高いときほど、及びインタークーラ21の駆動量が低いときほど高い温度になる。上述したように、推定下流側吸気温度ethiabsは、過給圧やインタークーラ21の駆動量が所定の基準値で一定となっている基準状態において算出される値であり、過給圧やインタークーラ21の駆動量の変化の影響は反映されていない。そのため、実下流側吸気温度ethiaから推定下流側吸気温度ethiabsを減算した差Δeth(=ethia−ethiabs)には、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれはもちろん、基準状態における過給圧(以下「基準過給圧」という。)と実際の過給圧(以下「実過給圧」という。)とのずれや、基準状態におけるインタークーラ21の駆動量(以下「基準駆動量」という。)と実際のインタークーラ21の駆動量(以下「実駆動量」という。)とのずれの影響も反映されている。すなわち、上記差Δethは、実過給圧が基準過給圧と同じであって、且つ実駆動量が基準駆動量と同じである場合においては、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれを反映した値になると言える。そのため、実過給圧が基準過給圧と同じであって、且つ実駆動量が基準駆動量と同じである場合には、上記式(1)により、この差Δeth(=ethia−ethiabs)と基準上流側吸気温度ETHASDとを加算することにより算出される推定上流側吸気温度ethaesは、実際の上流側吸気温度に等しいとみなすことができる。また、実過給圧や実駆動量がそれぞれの基準値からずれている場合には、推定上流側吸気温度ethaesは、過給圧の影響やインタークーラ21の駆動量の影響を反映した上で推定される温度になるため、実際の上流側吸気温度と等しくなるとは限らず、実際の上流側吸気温度よりも高い値、もしくは低い値になることもある。
補正値算出部42Cでは、図4に示すように、上流側温度算出部42Bによって算出された推定上流側吸気温度ethaesに基づいて、噴射時期の補正値ftmcmを算出する。推定上流側吸気温度ethaesは、上述したように、下流側吸気温度の推定値である推定下流側吸気温度ethiabsと、吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaとに基づいて算出されている。そのため、補正値算出部42Cにおいて算出される補正値ftmcmは、推定下流側吸気温度ethiabsと実下流側吸気温度ethiaとに基づいて算出されたものとなる。
上流側吸気温度が高いときほど気筒10A内に導入される吸気の温度が高くなる。気筒10A内に導入される吸気の温度が高いときほど、気筒10A内の吸気の温度も高くなり、噴射された燃料の着火遅れ時間が短くなる。補正値算出部42Cによって算出される補正値ftmcmは、正負両方の値をとる。補正値ftmcmはその数値が「0」よりも大きいときには、その値が大きくなるほど噴射時期がより遅角側になるように補正度合いを大きくすることを意味している。また、その数値が「0」よりも小さいときには、その数値が小さくなるほど(絶対値が大きくなるほど)噴射時期がより進角側になるように補正度合いを大きくすることを意味している。推定上流側吸気温度ethaesが基準上流側吸気温度ETHASDと等しいときには、吸気の温度による着火遅れ時間への影響は上述した基準状態で想定されるものと同じであり、吸気の温度に応じた噴射時期の補正は必要ない。そのため、補正値ftmcmは「0」に設定される。一方、推定上流側吸気温度ethaesが基準上流側吸気温度ETHASDよりも高くなるほど、着火遅れ時間は短くなる。そのため、補正値ftmcmを「0」よりも大きい値にして噴射開始時期を遅らせることにより目標時期において着火するように噴射時期を調節する。また、推定上流側吸気温度ethaesが基準上流側吸気温度ETHASDよりも小さくなるほど、着火遅れ時間は長くなる。そのため、補正値ftmcmを「0」よりも小さい値にして噴射開始時期を早くすることにより早期に燃料を噴射して目標時期において着火するように調節する。推定上流側吸気温度ethaesは実過給圧や実駆動量の影響も反映されており、この推定上流側吸気温度ethaesに基づいて補正値ftmcmを算出することにより、吸気の温度変化の影響を燃料噴射時期に適切に反映させて補正を行うことができる。
補正実行部42Dでは、次式(2)に基づいて、ベース算出部41によって算出されたベース噴射時期ftmbsを補正値算出部42Cによって算出された補正値ftmcmによって補正し、実噴射時期ftmfinを算出する。なお、実噴射時期ftmfinが大きいときほど、噴射時期は遅角側に設定されることになる。
ftmfin=ftmbs+ftmcm…式(2)
電子制御装置40は、補正実行部42Dによって実噴射時期ftmfinを算出すると、これに基づいて燃料噴射弁13の駆動を制御する。内燃機関の制御装置は、ベース算出部41、及び補正部42を有する電子制御装置40と、検出部としての吸気温度センサ30とによって構成されている。
次に、内燃機関の制御装置によって実行される、主噴射の噴射時期の算出制御に係る一連の処理の流れについて説明する。この制御は、内燃機関の制御装置によって所定の周期で繰り返し実行される。
図5に示すように、内燃機関の制御装置はこの一連の処理を開始すると、まずベース算出部41によって、図2に示すマップに基づき、主噴射のベース噴射時期ftmbsを算出する(ステップS500)。このマップは、基準状態において燃料噴射量Qm及び機関回転速度NEのみを変数として予め実験やシミュレーションを行うことにより求められたものであり、上流側吸気温度が予め設定されている基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提としたものである。その後、補正部42によって、ステップS501〜S503の処理を実行し、ベース噴射時期ftmbsを補正する。
ステップS501の処理では上流側吸気温度の推定情報を取得する。以下、この取得処理に係る一連の処理の流れについて説明する。図6に示すように、この一連の処理では、まず電子制御装置40によって、内燃機関が始動されてから所定時間経過しているか否かを判定する(ステップS600)。電子制御装置40によって、イグニッションスイッチ25がOFFからONに切り替えられてからの時間をカウントすることにより、内燃機関が始動されてからの経過時間を算出することができる。なお、このカウントは、イグニッションスイッチ25がONからOFFに切り替えられたときにリセットされる。上記所定時間としては、内燃機関の運転状態を安定させるために必要な時間を設定すれば良く、例えば、内燃機関を始動してから暖機が完了するまでの時間を設定することができる。内燃機関が始動されてから所定時間経過していると判定したときには(ステップS600:YES)、検出部である吸気温度センサ30によって実下流側吸気温度ethiaを検出する(ステップS601)。実下流側吸気温度ethiaを検出すると、電子制御装置40の下流側温度算出部42Aにより、推定下流側吸気温度ethiabsを算出する(ステップS602)。この処理では、図3に示すマップに基づき、機関回転速度NEが高いときほど、及び燃料噴射量Qmが多いときほど高い温度になるように推定下流側吸気温度ethiabsを算出する。ステップS603の処理では、上流側温度算出部42Bが、実下流側吸気温度ethia、推定下流側吸気温度ethiabs、及び基準上流側吸気温度ETHASDに基づいて、上記式(1)から推定上流側吸気温度ethaesを算出する。こうして推定上流側吸気温度ethaesを算出すると、この一連の処理を終了する。
一方、ステップS600の処理において、電子制御装置40によって内燃機関が始動してから所定時間経過していないと判定したとき(ステップS600:NO)には、内燃機関の運転状態が安定していないおそれがある。そのため、基準状態における実験やシミュレーションに適合させて算出されるパラメータを用いて上流側吸気温度を推定すると、実際の上流側吸気温度から大きく乖離した値になるおそれがある。そのため、この場合には、吸気温度センサ30によって実下流側吸気温度ethiaを検出し(ステップS604)、上流側温度算出部42Bは、この実下流側吸気温度ethiaと同じ温度になるように推定上流側吸気温度ethaesを算出する(ステップS605)。こうして推定上流側吸気温度ethaesを算出すると、この一連の処理を終了する。
こうしてステップS501に係る一連の処理を終了すると、次に、図5に示すステップS502の処理に移行し、補正値算出部42Cが、図4に示すマップに基づいて噴射時期の補正値ftmcmを算出する。補正値算出部42Cでは、推定下流側吸気温度ethiabsと実下流側吸気温度ethiaとに基づいて算出された推定上流側吸気温度ethaesから補正値ftmcmが算出される。その後、ステップS503の処理に移行し、補正実行部42Dが、上記式(2)に基づいて、ベース噴射時期ftmbsを補正値ftmcmによって補正し、実噴射時期ftmfinを算出する。これにより、上流側の吸気温度の推定情報を考慮して主噴射における燃料噴射時期が設定される。内燃機関の制御装置は、実噴射時期ftmfinを算出すると、この一連の処理を終了する。以降は、この一連の処理を再度実行するまで、今回の処理におけるステップS503の処理において算出された実噴射時期ftmfinで主噴射を実行するように燃料噴射弁13の駆動が制御される。
本実施形態にかかる内燃機関の制御装置の作用効果について説明する。
(1)本実施形態では、吸気マニホールド11Aに設けられている吸気温度センサ30によって実下流側吸気温度ethiaを検出する。実下流側吸気温度ethiaは、実際の上流側吸気温度と相関する温度である。また、上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として、推定下流側吸気温度ethiabsを算出する。実下流側吸気温度ethiaと推定下流側吸気温度ethiabsとのずれは、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれを反映している。そのため、これら実下流側吸気温度ethiaと推定下流側吸気温度ethiabsとに基づいて、推定上流側吸気温度ethaesを算出することにより、推定上流側吸気温度ethaesに、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度とのずれを反映させることができる。そして、推定上流側吸気温度ethaesから補正値ftmcmを算出し、この補正値ftmcmによって、上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として算出されるベース噴射時期ftmbsを補正する。したがって、本実施形態によれば、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度とのずれに基づいて主噴射におけるベース噴射時期ftmbsを補正することができる。
このように、本実施形態では、実下流側吸気温度ethiaと推定下流側吸気温度ethiabsとに基づいて、上流側の吸気温度の情報を取得している。そのため、コンプレッサー16よりも上流側に設けられている吸気温度センサが故障した場合や、コンプレッサー16よりも上流側に吸気温度センサが設けられていない場合でも、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも下流側の吸気温度の情報はもちろん、上流側の吸気温度の推定情報も考慮して主噴射の噴射時期を制御することができる。したがって、コンプレッサー16よりも上流側の吸気温度の推定情報を考慮することなく内燃機関の主噴射の噴射時期を制御する場合に比べて、制御の精度を向上させることができる。
(2)吸気温度センサ30は、吸気マニホールド11Aに設けられており、気筒10Aに近い位置での吸気温度の検出が可能である。吸気温度センサ30の検出値を用いて算出された推定上流側吸気温度ethaesには、過給圧やインタークーラ21の駆動量の影響も反映されており、気筒10A内に導入される吸気温度に即した態様で噴射時期の補正が行われる。このため、主噴射の噴射時期を制御する上で、その構成が適切になる。
(3)内燃機関の始動直後は、その運転状態が安定しないため、基準状態における実験やシミュレーションに適合させて算出されるパラメータを用いて上流側吸気温度を推定すると、実際の上流側吸気温度から大きく乖離した値になるおそれがある。本実施形態では、内燃機関が始動されてから所定時間経過するまでは、吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaと同じ温度になるように推定上流側吸気温度ethaesを設定している。そのため、推定上流側吸気温度ethaesが実際の上流側吸気温度から大きく乖離することが抑えられる。したがって、内燃機関の運転状態が安定しない場合において、主噴射の噴射時期の制御精度が低下することを抑制できる。
(第2実施形態)
内燃機関の制御装置の第2実施形態について、図7〜図9を参照して説明する。本実施形態では、主噴射の噴射時期の算出制御が第1実施形態と異なっている。そのため、以下では、第1実施形態と異なる構成について説明し、第1実施形態と同様の構成については共通の符号を付してその詳細な説明は省略する。
図7に示すように、内燃機関の制御装置は、主噴射の噴射時期の算出制御に係る一連の処理を開始すると、ベース算出部41によって、図2に示すマップに基づき、主噴射のベース噴射時期ftmbsを算出する(ステップS700)。この処理は、第1実施形態におけるステップS500の処理と同様である。その後、補正部42によって、ステップS701〜S703の処理を実行し、ベース噴射時期ftmbsを補正する。
ステップS701の処理では上流側吸気温度の推定情報を取得する。以下、この取得処理に係る一連の処理の流れについて説明する。この一連の処理では、図8に示すように、まず吸気温度センサ30によって実下流側吸気温度ethiaを検出する(ステップS800)。実下流側吸気温度ethiaを検出すると、電子制御装置40の下流側温度算出部42Aにより、図3に示すマップに基づき、推定下流側吸気温度ethiabsを算出する(ステップS801)。ステップS801の処理において推定下流側吸気温度ethiabsを算出すると、次に、ステップS802の処理に移行する。この処理では、実際の下流側吸気温度と、上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として算出された下流側吸気温度の推定値とのずれを示す指標として、実下流側吸気温度ethiaから推定下流側吸気温度ethiabsを減算した差Δeth(=ethia−ethiabs)を算出する。こうして差Δethを算出すると、この一連の処理を終了する。差Δethには、上述したように、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれはもちろん、基準過給圧と実過給圧とのずれや、インタークーラ21の基準駆動量と実駆動量とのずれの影響も反映されている。そのため、実過給圧が基準過給圧と同じであって、且つ実駆動量が基準駆動量と同じである場合には、この差Δethは、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度との差に等しいとみなすことができる。このように、差Δethは、実際の上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDからどの程度ずれているのかを反映しており、この差Δethには、上流側の吸気温度の推定情報が含まれている。なお、実過給圧や実駆動量がそれぞれ基準値からずれている場合には、差Δethは、過給圧の影響やインタークーラ21の駆動量の影響を反映した上で算出されるため、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度との差に等しくなるとは限らず、その差よりも大きい値、もしくは小さい値になることもある。
ステップS701に係る一連の処理を終了すると、次に、補正値算出部42Cは、図9に示すマップに基づき、差Δethに基づいて主噴射のベース噴射時期ftmbsの補正値ftmcmを算出する(ステップS702)。図9に示すように、差Δethが「0」のときには、補正値ftmcmは「0」に設定される。これは、差Δethが「0」のときには、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度とが同じになっていると判断できるためである。この場合には、吸気の温度による着火遅れ時間への影響は基準状態で想定されるものと同じであり、吸気の温度に応じた噴射時期の補正は必要ない。一方、差Δethが「0」よりも高くなるほど、補正値ftmcmを「0」よりも大きい値にする。これは、基準上流側吸気温度ETHASDよりも実際の上流側吸気温度が高く、着火遅れ時間が短いときに、噴射開始時期を遅らせることにより目標時期において着火するように噴射時期を調節するためである。また、差Δethが「0」よりも小さくなるほど補正値ftmcmを「0」よりも小さい値にする。これは、基準上流側吸気温度ETHASDよりも実際の上流側吸気温度が低く、着火遅れ時間が長いときに、噴射開始時期を早くして早期に燃料を噴射することで目標時期において着火するように調節するためである。差Δethは上述したようには実過給圧や実駆動量の影響を反映しており、実際に気筒10A内に導入される吸気の温度を反映した値になっている。そのため、この差Δethに基づいて補正値ftmcmを算出することにより、吸気通路11を流れる吸気の温度変化の影響を燃料噴射時期に反映させて補正を行うことができる。
その後、ステップS703の処理に移行し、補正実行部42Dが、上記式(2)に基づいて、ベース噴射時期ftmbsを補正値ftmcmによって補正し、実噴射時期ftmfinを算出する。これにより、上流側の吸気温度の推定情報を考慮して主噴射の噴射時期が設定される。内燃機関の制御装置は、実噴射時期ftmfinを算出すると、この一連の処理を終了する。以降は、この一連の処理を再度実行するまで、今回の処理におけるステップS703の処理において算出された実噴射時期ftmfinで主噴射を実行するように燃料噴射弁13の駆動が制御される。
本実施形態によれば、上記(2)と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を得ることができる。
(4)本実施形態では、吸気マニホールド11Aに設けられている吸気温度センサ30によって実下流側吸気温度ethiaを検出する。実下流側吸気温度ethiaは、実際の上流側吸気温度と相関する温度である。また、上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として推定下流側吸気温度ethiabsを算出する。そして、実下流側吸気温度ethiaから推定下流側吸気温度ethiabsを減算した差Δeth(=ethia−ethiabs)を算出する。差Δethには、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれが反映されている。そして、差Δethから補正値ftmcmを算出し、この補正値ftmcmによって、上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDと一致していることを前提として算出されるベース噴射時期ftmbsを補正する。これにより、基準上流側吸気温度ETHASDと実際の上流側吸気温度とのずれに基づいて主噴射におけるベース噴射時期ftmbsを補正することができる。
このように、本実施形態では、実下流側吸気温度ethiaから推定下流側吸気温度ethiabsを減算した差Δethに基づいて、上流側の吸気温度の情報を取得している。そのため、コンプレッサー16よりも上流側に設けられている吸気温度センサが故障した場合や、コンプレッサー16よりも上流側に吸気温度センサが設けられていない場合でも、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも下流側の吸気温度の情報はもちろん、上流側の吸気温度の推定情報も考慮して主噴射の噴射時期を制御することができる。したがって、コンプレッサー16よりも上流側の吸気温度の推定情報を考慮することなく内燃機関の主噴射の噴射時期を制御する場合に比べて、制御の精度を向上させることができる。
上記実施形態は以下のように変更して実施することができる。
・内燃機関の制御装置は、下流側温度算出部42Aによって算出された推定下流側吸気温度ethiabsと、吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaとに基づいて噴射時期を補正する補正部42に代えて、次のような補正部を備えていてもよい。
すなわち、補正部は、検出部である吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaから上流側吸気温度の推定値を算出する上流側温度算出部を有している。吸気通路11に取り込まれた吸気は、所定の温度変化を経てコンプレッサー16よりも下流側の吸気通路11に流れる。この温度変化量は、機関回転速度NE、燃料噴射量Qm、過給圧、及びインタークーラ21の駆動量によって変わる。上流側温度算出部には、機関回転速度NE、燃料噴射量Qm、過給圧、及びインタークーラ21の駆動量を変化させたときの吸気の温度変化量が予めマップとして記憶している。上流側温度算出部は、吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaから、上記マップに基づいて現在の運転状態における温度変化量を算出し、この温度変化量の分だけ逆算して上流側吸気温度の推定値を算出する。この算出された上流側吸気温度の推定値(以下「上流側推定値」という)は、吸気温度センサ30によって検出された実下流側吸気温度ethiaに基づいて算出されており、実際の上流側吸気温度と略等しい温度になる。補正部は、基準上流側吸気温度ETHASDと上流側推定値とに基づいて、例えば、上流側推定値から基準上流側吸気温度ETHASDを減算することにより、実際の上流側吸気温度と基準上流側吸気温度ETHASDとのずれを算出する。そして、このずれが「0」よりも大きいときには、その数値が大きくなるほど(絶対値が大きくなるほど)補正値ftmcmが「0」よりも大きくなるように算出し、このずれが「0」よりも小さいときには、その数値が小さくなるほど(絶対値が大きくなるほど)補正値ftmcmが「0」よりも小さくなるように算出する。そして、上記式(2)に基づいて、ベース噴射時期ftmbsを補正値ftmcmによって補正し、実噴射時期ftmfinを算出する。こうした構成であっても、吸気通路11における、コンプレッサー16よりも下流側の吸気温度の情報はもちろん、上流側の吸気温度の推定情報も考慮して主噴射の噴射時期を制御することができる。したがって、コンプレッサー16よりも上流側の吸気温度の推定情報を考慮することなく内燃機関の主噴射の噴射時期を制御する場合に比べて、制御の精度を向上させることができる。
・第1実施形態における取得処理に係る一連の流れでは、内燃機関の運転状態が安定しているか否かを判定するために、ステップS600の処理において、内燃機関が始動されてから所定時間経過しているか否かを判定するようにしていたが、この構成は変更可能である。例えば、ステップS600の処理に代えて、機関回転速度が所定回転速度以上であるか否かの判定を行うようにしてもよい。この判定では、所定回転速度として、例えばアイドル回転速度を設定することができる。こうした構成によっても、内燃機関の運転状態が安定しているか否かを判定することができる。また、取得処理において、内燃機関が始動されてから所定時間経過しているか否かの判定と、機関回転速度が所定回転速度以上であるか否かの判定の両方を行うようにしてもよい。こうした場合には、両方の判定において肯定判定になった場合に、ステップS601の処理に移行するようにしてもよいし、いずれか一方の処理において肯定判定になった場合に、ステップS601の処理に移行するようにしてもよい。
・第1実施形態において、ステップS600の処理を省略してもよい。すなわち、取得処理では、内燃機関の運転状態が安定しているか否かを判定せずに、ステップS601の処理から開始するようにしてもよい。
・内燃機関の制御装置が制御する燃焼パラメータとして、主噴射における噴射時期を例に説明したが、他の燃焼パラメータを制御するものであってもよい。例えば、パイロット噴射における噴射時期、パイロット噴射における噴射量、燃料噴射弁13の噴射圧などを制御してもよい。パイロット噴射における噴射時期は、上述した実施形態と同様に、推定された上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDよりも高いときほど遅角側に補正する。また、上述したように、パイロット噴射は、気筒10A内に主噴射に先立って燃料を噴射し、主噴射の実行前に圧縮着火することで筒内温度を上昇させる。推定された上流側吸気温度が高いときには、気筒10A内の吸気の温度も高くなるため、この予熱量は少なくてすむ。したがって、推定された上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDよりも高いときほどパイロット噴射の噴射量が少なくなるように補正してもよい。また、吸気の温度が高いときほど吸気の密度は疎になる。そのため、所望の空燃比に制御する上では、吸気の温度が高いときには噴射圧を下げて燃料噴射量を低下させることが望ましい場合もある。したがって、噴射圧を制御するときには、推定された上流側吸気温度が基準上流側吸気温度ETHASDよりも高いときほど噴射圧を低下させるようにすればよい。
・吸気温度センサ30は、吸気通路11における、過給器15のコンプレッサー16よりも下流側の下流側吸気温度を検出することができるのであれば、吸気マニホールド11Aではなく、吸気管11Bに設けられていてもよい。
・上記実施形態では、内燃機関の制御装置をディーゼルエンジンに適用した例について説明したが、内燃機関の制御装置をガソリンエンジンに適用することも可能である。ガソリンエンジンに適用した場合には、上述したパラメータとして点火プラグの点火時期を採用してもよい。すなわち、吸気の温度が高いときにはノッキングの抑制のため、点火時期を遅角させるように補正するものであってもよい。