JP6520598B2 - 高強度低合金鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、高強度低合金鋼材、特に、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れ、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材に関する。
近年、軽量化、機能等の観点から引張強さが1000MPaを超えるような高強度鋼材が使用される傾向にある。しかし、鉄鋼材料は引張強さが1000MPaを超えると、水素脆化が深刻な問題となる。水素脆化とは、鉄鋼材料中に水素が侵入することにより機械特性が元の値よりも劣化する現象である。なお、水素はその原子半径が全元素中最小であることから鉄鋼材料中への侵入は不可避である。
そこで、耐水素脆化特性を向上させた鉄鋼材料およびその製造方法に関して様々な技術が開示されている。
特許文献1に、高価な元素である、MoおよびNiを必須元素、Vを任意元素として含有し、Ms点近傍の低温域で恒温変態させたベイナイト主体の金属組織を有する耐水素脆化特性に優れた高強度鋼に関する技術が開示されている。
特許文献2に、Caを含有させてアルミナ系の介在物を減らすとともに、必要に応じてMo、NiおよびV等の高価な元素を含有させ、焼戻し下部ベイナイト組織を冷間伸線した、遅れ破壊を起こしにくい鋼線に関する技術が開示されている。
特許文献3に、Vを必須元素、Mo、Ni等を任意元素として含有させた鋼を900〜1000℃に加熱して焼入れした後、550〜650℃で焼戻すことにより、微細な析出物を生成させて水素トラップ効果を付与した、耐水素脆化特性に優れた高強度鋼に関する技術が開示されている。
特許文献4に、0.05〜0.3%のVを必須元素、Mo、Ni等を任意元素として含有し、旧オーステナイト粒を伸長化させた延性に優れるベイナイト主体の組織を素地とする、耐遅れ破壊特性に優れる高強度PC鋼棒に関する技術が開示されている。
特開平7−188840号公報 特開平7−292442号公報 特開2002−194481号公報 特開平9−078192号公報
特許文献1で開示された高強度鋼は、高価な元素であるMoおよびNiをそれぞれ、質量%で、0.3%以上および0.1%以上含有させる必要がある。しかも、この特許文献1の実施例で具体的に示された「発明鋼」1〜9におけるMoおよびNiの含有量はそれぞれ、質量%で、0.56〜0.96%および0.29〜0.55%であり、いずれも極めて高価な鋼である。
特許文献2で開示された鋼線は、確かに遅れ破壊を起こしにくい。しかし、特許文献2の技術は所望の高強度と耐水素脆化特性を確保するために、溶製時にCaの添加が必須でる。
特許文献3で開示された高強度鋼は、確かに耐水素脆化特性に優れている。しかし、特許文献3の高強度鋼は、現在高強度材に求められている良好な強度、伸びおよび耐水素脆化特性という三つの重要な特性のうち、伸びの確保という点で、改善の余地がある。
特許文献4で開示された高強度PC鋼棒は、確かに耐水素脆化特性に優れている。しかし、特許文献4の技術は素地を旧オーステナイト粒を伸長化させた延性に優れるベイナイトを主体とした組織にするために、700〜900℃という低温での熱間圧延を行う必要があり、相応の設備が必要とされる。
本発明は、高価な合金元素の含有量が低く、しかも引張強さが1300MPa以上、かつ伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れる、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記の課題を解決するために低合金設計で鋼材の耐水素脆化特性を向上させる手法について鋭意研究を重ねた結果、下記の重要な知見を得た。
化学組成が、質量%で、Cの含有量が0.55%を超えるとともにVの含有量が0.30%を超え、金属組織が、ベイナイトで、該ベイナイトは、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が10%以下であり、旧オーステナイト粒はJIS G 0551(2013)に規定の粒度番号6.0以上である鋼材は、Mo、Ni等の高価な元素の含有量が低い場合にも、十分な耐水素脆化特性と良好な伸びを有するので、引張強さが1300MPa以上の高強度部品として好適に用いることができる。
図1は、各種ベイナイトにおいて、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する状況を模式的に説明する図である。図中の(a)、(b)および(c)にはそれぞれ、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が80%、5%および0%(セメンタイトはラス界面には析出せず内部にだけ析出している状態)の場合を例示した。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記に示す高強度低合金鋼材にある。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.55%を超えて0.70%未満、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.30〜1.0%、
Cr:0.5〜1.5%、
V:0.30%を超えて1.0%以下、
Al:0.005〜0.10%、
N:0.0030〜0.030%、
Mo:0〜0.30%未満、
Ti:0〜0.10%、
Nb:0〜0.10%、
残部がFeおよび不純物であり、
不純物としてのP、SおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
金属組織が、ベイナイトで、該ベイナイトは、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が10%以下であり、旧オーステナイト粒はJIS粒度番号が6.0以上である、
引張強さが1300MPa以上の、
高強度低合金鋼材。
(2)質量%で、V:0.50〜1.0%を含有する、上記(1)に記載の高強度低合金鋼材。
(3)質量%で、Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、上記(1)または(2)に記載の高強度低合金鋼材。
(4)質量%で、Ti:0.005〜0.10%およびNb:0.005〜0.10%から選択される1種以上を含有する、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の高強度低合金鋼材。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。
各種ベイナイトにおいて、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する状況を模式的に説明する図である。図中の(a)、(b)および(c)はそれぞれ、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が80%、5%および0%の場合を示す。 実施例で耐水素脆化特性の評価のために用いた切欠き付引張試験片の形状を示す図である。図中の数値は寸法(単位:mm)を示す。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成について:
C:0.55%を超えて0.70%未満
Cは、本発明において重要な元素であり、強度を向上させるとともに金属組織をベイナイトにするために不可欠な元素である。また、微細な析出物を生成させるのに必要な元素であり、鋼材に水素トラップ効果を付与するために必要な元素である。加えて、Cには、焼入れ性を向上させてMs点を低下させる作用もあり、所望の金属組織が得やすくなるため、製造面でも有効な元素である。さらにCには、同じ強度でも吸蔵水素濃度を低減する作用があるので、Mo、Ni等の高価な元素の含有量を低くしても、耐水素脆化特性を向上させることができる。引張強さで1300MPa以上の高強度の確保、所望の金属組織に制御しやすいMs点の確保、優れた耐水素脆化特性の確保という3つの効果を安定して得るためには、Cは0.55%を超えて含有させなくてはならない。一方、Cの含有量が増えて0.70%以上になると、粒界セメンタイトの生成が促進され、析出したセメンタイトがベイナイトのラス界面を被覆する割合が10%以下である特定のベイナイト(以下、「特定ベイナイト」という。)以外のベイナイトが生じるので、所望の金属組織の確保が難しくなって十分な耐水素脆化特性が得られず、さらに、靱性の劣化も著しくなる。したがって、Cの含有量を0.55%を超えて0.70%未満とする。C含有量の望ましい下限は0.60%、また望ましい上限は0.65%である。
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸作用を有し、強度および焼入れ性の向上作用もある。強度の向上は1300MPa以上の引張強さの確保に有効であり、また、焼入れ性の向上は、所望の金属組織が得やすくなるため製造の観点から有利である。これらの効果を得るには、Siの含有量は0.05%以上とする必要がある。一方、0.50%を超えてSiを含有させてもその効果は飽和することに加え、靱性の劣化が生じる。したがって、Siの含有量を0.05〜0.50%とする。Si含有量の望ましい下限は0.10%、また、望ましい上限は0.30%である。
Mn:0.30〜1.0%
Mnは、焼入れ性と強度を向上させる作用を有する。強度の向上は1300MPa以上の引張強さの確保に有効であり、また、焼入れ性の向上は、所望の金属組織が得やすくなるため製造の観点から有利である。また、Mnには、Sと結合して硫化物を形成し、Sの粒界偏析を抑制して耐水素脆化特性を向上する効果もある。これらの効果を得るには、Mnの含有量は0.30%以上とする必要がある。一方で、Mnを過剰に含有させると粒界に偏析し、粒界割れ型の水素脆性破壊を促進する。したがって、Mnの含有量を0.30〜1.0%とする。Mn含有量の望ましい下限は0.60%、また、望ましい上限は0.90%である。
Cr:0.5〜1.5%
Crは、強度を向上させるのに有効な元素である。加えて、Crは、Cの拡散を妨げ炭化物の成長を抑制して、特定ベイナイトの形成を促進する。これらの効果を得るためには、Crを0.5%以上含有させる必要がある。一方で、Crを過剰に含有させると靱性の劣化が生じる。したがって、Crの含有量を0.5〜1.5%とする。Cr含有量の望ましい下限は0.8%、また、望ましい上限は1.2%である。
V:0.30%を超えて1.0%以下
Vは、本発明において最も重要な元素であり、Cおよび/またはNと結合して形成された微細な析出物(炭窒化物、炭化物および窒化物であり、以下、まとめて「炭窒化物」という。)が水素トラップ効果を発揮することで、耐水素脆化特性を大幅に向上する元素である。焼戻しを行わないベイナイト素地で、この効果を十分に確保するためには、Vを0.30%を超えて含有させる必要がある。しかしながら、1.0%を超える量のVを含有させると、析出物の量とサイズが増大し、靱性を劣化させ、耐水素脆化特性を低下する。したがって、Vの含有量を0.30%を超えて1.0%以下とする。Vには、オーステナイト化熱処理時において、既に析出していたVの炭窒化物が旧オーステナイト粒を微細化し、耐水素脆化特性を向上させる作用もある。上記の作用は、オーステナイト化熱処理時の高温において、オーステナイト中にVの炭窒化物が完全には固溶せずに残った状態で得られる。そのためのV含有量の望ましい下限は0.50%であり、より望ましい下限は0.80%である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸作用を有する元素である。この効果を十分に確保するためにはAlを0.005%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.10%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがって、Alの含有量を0.005〜0.10%とする。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(所謂「sol.Al」)での含有量を指す。
N:0.0030〜0.030%
Nは、上記したVの微細な炭窒化物を生成させるのに必要な元素であり、鋼材に水素トラップ効果を付与するために必要な元素である。この効果を得るには、Nの含有量は0.0030%以上とする必要がある。一方、0.030%を超えてNを含有させてもその効果は飽和することに加え、靱性の劣化が生じる。したがって、Nの含有量を0.0030〜0.030%とする。N有量の望ましい下限は0.010%、また、望ましい上限は0.025%である。
Mo:0〜0.30%未満
Moは、Fe炭化物の安定性を高めて、耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてMoを含有させてもよい。しかしながら、本発明では、C等の他の元素の含有量および金属組織を適正化することで良好な耐水素脆化特性を確保することができるし、Moが非常に高価な元素であるため、Moの多量の含有は経済性を大きく損なうことになる。したがって、含有させる場合のMo含有量を0.30%未満とする。Mo含有量の上限は、0.20%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Mo含有量の下限は、0.05%であることが望ましく、0.10%であることが一層望ましい。
Ti:0〜0.10%
Tiは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてTiを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のTi含有量の上限を0.10%とする。Ti含有量の上限は、0.06%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Ti含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
Nb:0〜0.10%
Nbは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のNbを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のNb含有量の上限を0.10%とする。Nb含有量の上限は、0.06%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Nb含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
上記のTiおよびNbを複合して含有させる場合の合計量は、0.08%以下であることが望ましい。
本発明の高強度低合金鋼材は、上述の各元素と、残部がFeおよび不純物とからなり、不純物としてのP、SおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下およびO:0.010%以下である化学組成を有する。
ここで「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
P:0.030%以下
Pは、不純物として含有され、粒界に偏析して靱性および/または耐水素脆化特性を低下させる。Pの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Pの含有量を0.030%以下とする。Pの含有量は極力低いことが望ましい。
S:0.030%以下
Sは、不純物として含有され、Pと同様に粒界に偏析して耐水素脆化特性を低下させる。Sの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Sの含有量を0.030%以下とする。Sの含有量は極力低いことが望ましい。
O:0.010%以下
O(酸素)は、不純物として含有され、Alと結びついて酸化物を形成する。その含有量が多くなって0.010%を超えると、酸化物が過剰に形成されて靱性が低下する等の問題が生じる。したがって、Oの含有量を0.010%以下とする。Oの含有量は極力低いことが望ましい。
(B)金属組織について:
上記(A)項で述べた化学組成を有する高強度低合金鋼材は、金属組織が、ベイナイトで、該ベイナイトは、既に述べた特定ベイナイトである。また、旧オーステナイト粒は、JIS粒度番号が6.0以上である。
金属組織がベイナイトであっても、旧オーステナイトのJIS粒度番号が6.0未満だと、粒界強度の低下が著しく、引張強さが1300MPa以上の高強度の場合には十分な耐水素脆化特性が得られない。
旧オーステナイト粒度番号は大きければ大きいほど(つまり、旧オーステナイト粒径は小さければ小さいほど)望ましいが、工業的な製造ではJIS粒度番号12.5程度がその上限になる。
金属組織が、ベイナイトであっても、該ベイナイトが、特定ベイナイトでなければ、引張強さが1300MPa以上の高強度の場合には十分な耐水素脆化特性が得られない。
引張強さが1300MPa以上の高強度の場合に、より一層良好な耐水素脆化特性を得るためには、特定ベイナイトは、セメンタイトがラス界面を被覆する割合が少なければ少ないものであることが望ましく、0%のものが最も望ましい。
(C)鋼材の強度について:
本発明に係る高強度低合金鋼材は、前記(B)項で述べた金属組織を有し、引張強さが1300MPa以上必要とされる部品に用いる。なお、鋼材の引張強さの上限は2000MPaであることが望ましく、1800MPaであればより望ましい。
上記の鋼材は、(A)項で述べた化学組成を有する鋼を用いて所定の形状に加工したものに、例えば、下記のように特定の温度域で等温保持して等温変態させることによって製造することができる。
すなわち、鋼材の化学組成に応じた条件でオーステナイト化し、フェライトとパーライトの析出を阻止して、オーステナイト組織のまま、400℃以下で350℃以上に保った塩浴または鉛浴の中に急冷し、そのまま上記の浴中に保持して、この温度で等温変態を終了させ、その後室温まで冷却することによって、先に述べた金属組織と引張強さを付与させることができる。上記のようにして製造された鋼材は、10%以上という大きな伸びも併せて具備する。なお、鋼材の伸びの上限は20%程度である。
オーステナイト化温度が950℃を超えると、JIS粒度番号6.0以上の旧オーステナイト粒が得難くなることがあるので、オーステナイト化温度は950℃以下とすることが望ましい。但し、V含有量が0.5%以上の場合には、オーステナイト化温度が950℃を超えても1050℃以下であれば、JIS粒度番号6.0以上という所定の旧オーステナイト粒を得ることが可能である。一方、オーステナイト化処理時に完全にオーステナイト化するために、オーステナイト化温度は850℃以上とすることが望ましい。
前記の浴温が400℃を超えると、ベイナイト変態しても、セメンタイトはラス界面に析出する量が増え、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が10%を超えるうえに、1300MPa以上の強度を得るのが難しくなる。
なお、前記温度範囲の浴中での保持により、オーステナイトのほとんどは数分で特定ベイナイトに変態するが、鋼材のサイズまたは/および含有元素の影響から、一部組織のベイナイト変態が遅れる場合がある。そのため、浴中での保持時間は30分以上とするのが望ましく、60分以上とするのがより望ましい。また、上限は80分程度とするのが望ましい。浴中に保持して等温変態を終了させた後に室温まで冷却する際の冷却速度については、特に制限がない。
フェライトとパーライトの析出が阻止でき、しかも、400℃以下で350℃以上の温度域でオーステナイトからの変態を完了させることができる連続冷却処理によっても、先に述べた金属組織、引張強さおよび伸びを有する鋼材を製造することができることは勿論である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Oを溶製し、鋳型に鋳込んで得たインゴットを1250℃に加熱した後、熱間鍛造により直径25mmの丸棒とした。
表1中の鋼A〜Iは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、一方、鋼J〜Oは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
Figure 0006520598
上記のようにして得た直径25mmの丸棒を表2に示す温度で45分保持してオーステナイト化してから、表2に示す条件にて鉛浴中で保持して等温変態熱処理を行った。なお、等温変態熱処理後は、大気中で放冷した。鋼Aについては、試験番号11として、直径25mmの丸棒を950℃で45分保持してオーステナイト化してから油焼入れし、460℃で60分焼戻し処理することも行った。
上記の等温変態熱処理した各鋼の丸棒ならびに、鋼Aについては油焼入れままの丸棒および油焼入れ−焼戻し処理した丸棒を用いて、以下に示す各種の調査を行った。
〈1〉金属組織:
等温変態熱処理した直径25mmの丸棒を長手方向にその中心線をとおって切断(以下、「縦断」という。)して試験片を採取し、JIS G 0551(2013)に則って旧オーステナイト粒度番号を調査した。具体的には、上記試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、上記JISの附属書JAに記載の、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液によってエッチングして旧オーステナイト粒界を現出し、倍率200倍で10視野光学顕微鏡観察して、上記JISの附属書Cに記載の切断法により旧オーステナイト粒度番号を測定した。また、鋼Aの油焼入れままの丸棒を縦断して採取した試験片を用いて、上述の方法で旧オーステナイト粒度番号を調査した。
さらに、等温変態熱処理および油焼入れ−焼戻し処理した直径25mmの丸棒を縦断して試験片を採取した。次いで、上記試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、2%ナイタールでエッチングして組織観察を行った。
具体的には、等温変態熱処理を行った各試験片は、先ず、倍率200倍で10視野光学顕微鏡観察して、金属組織を判定した。次いで、走査型電子顕微鏡により倍率10000倍で10視野観察し、光学顕微鏡観察で判定したベイナイト中での特定ベイナイト(析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が10%以下であるベイナイト)の面積率を求めた。一方、油焼入れ−焼戻し処理した試験片は、倍率200倍で10視野光学顕微鏡観察し、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなり、そこにはベイナイトは含まれないことを確認した。
〈2〉機械的特性:
等温変態熱処理および油焼入れ−焼戻し処理した直径25mmの丸棒のR/2部(「R」は丸棒の半径を表す。)から、長手方向に平行部の直径が6mmで標点距離が40mmの丸棒引張試験片を切り出し、室温で引張試験して、引張強さおよび伸びを求めた。なお、伸びが10%以上の場合に、大きい伸びを有するとしてこれを目標とした。
〈3〉耐水素脆化特性:
上記〈2〉の調査で1300MPa以上の引張強さおよび10%以上の伸びが得られた直径25mmの各丸棒のR/2部から、長手方向に図2に示す形状の切欠き付引張試験片を切り出し、引張強さの70%の応力を負荷した陰極チャージ下での定荷重試験を200時間行った際の破断の有無で、耐水素脆化特性を調査した。その際、試験片内部に1ppmの濃度で水素が吸蔵されるように陰極水素チャージの電流密度を調整した。なお、試験片内部に吸蔵される水素量は、3%NaCl溶液を用いて0.8〜1.5mA/cm2の電流密度で陰極水素チャージを72時間行った時に、昇温脱離装置により10℃/分で昇温した際に350℃までに放出される水素量を用いた。
表2に、上記の各調査結果をまとめて示す。なお、耐水素脆化特性の欄は、上記試験を200時間行って破断しなかったものを「○」、破断したものを「×」とした。
Figure 0006520598
表2から、本発明で規定する化学組成と金属組織の条件を満たす本発明例の試験番号1〜9は、1300MPa以上という高い引張強さを有するにもかかわらず、いずれも伸びは14%を超え、しかも陰極チャージ下での定荷重試験で破断が起こらず、良好な、伸びと耐水素脆化特性とを備えていることが明らかである。
これに対して、比較例の試験番号10〜18の場合は、1300MPa以上という引張強さ、10%以上の伸びおよび良好な耐水素脆化特性という三つの重要な特性の同時確保ができていない。
試験番号10は、用いた鋼Aの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるものの、金属組織におけるベイナイト中での特定ベイナイトの面積率が77%であり、本発明で規定する条件から外れるので、引張強さが1300MPaに満たなかった。
試験番号11は、用いた鋼Aの化学組成は本発明で規定する範囲内にあり、旧オーステナイトのJIS粒度番号は10.6であるものの、油焼入れ−焼戻し処理によって得られた焼戻しマルテンサイト組織であるので、伸びが10%に満たなかった。
試験番号12は、用いた鋼Fの化学組成は本発明で規定する範囲内にあり、金属組織は、ベイナイトであるものの、旧オーステナイト粒はJIS粒度番号が5.4と小さい。このため、面積率で、上記ベイナイトの100%が特定ベイナイトであるが、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号13は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼JのC含有量が0.49%と少なく、本発明で規定する条件から外れるため、引張強さが1300MPaに満たなかった。
試験番号14は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼KのMn含有量が1.20%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号15は、用いた鋼LのCr含有量が0.32%と少なく、本発明で規定する条件から外れるので、焼入れ性に劣り、金属組織がフェライトとベイナイトの混合組織になって、本発明で規定する条件から外れる。このため、試験番号15は、引張強さが1300MPaに満たなかった。
試験番号16は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼MのV含有量が1.32%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号17は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼Nの不純物中のPとSの含有量がそれぞれ、0.040%および0.032%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号18は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼OのVおよびNの含有率がそれぞれ、0.18%および0.0014%と少なく、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.55%を超えて0.70%未満、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:0.30〜1.0%、
    Cr:0.5〜1.5%、
    V:0.30%を超えて1.0%以下、
    Al:0.005〜0.10%、
    N:0.0030〜0.030%、
    Mo:0〜0.30%未満、
    Ti:0〜0.10%、
    Nb:0〜0.10%、
    残部がFeおよび不純物であり、
    不純物としてのP、SおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
    金属組織が、ベイナイトで、該ベイナイトは、析出したセメンタイトがラス界面を被覆する割合が10%以下であり、旧オーステナイト粒はJIS粒度番号が6.0以上である、
    引張強さが1300MPa以上の、
    高強度低合金鋼材。
  2. 質量%で、V:0.50〜1.0%を含有する、請求項1に記載の高強度低合金鋼材。
  3. 質量%で、Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、請求項1または2に記載の高強度低合金鋼材。
  4. 質量%で、Ti:0.005〜0.10%およびNb:0.005〜0.10%から選択される1種以上を含有する、請求項1から3までのいずれかに記載の高強度低合金鋼材。

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