以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
(実施の形態)
まず、蓄電素子10の構成について、説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10の外観を模式的に示す斜視図である。なお、同図は、容器内部を透視した図となっている。また、図2は、本発明の実施の形態に係る電極体400の外観を示す斜視図である。
蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。例えば、蓄電素子10は、高レートサイクルの充放電を行うハイブリッド電気自動車(Hybrid
Electric Vehicle、HEV)に使用される二次電池である。なお、蓄電素子10は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
図1に示すように、蓄電素子10は、容器100と、正極端子200と、負極端子300と、容器100内方に収容された正極集電体120と、負極集電体130と、電極体400とを備える。容器100は、上壁である蓋板110を備えている。なお、蓄電素子10の容器100の内部には電解液(非水電解質)などの液体が封入されているが、当該液体の図示は省略する。
容器100は、金属からなる矩形筒状で底を備える筐体本体と、当該筐体本体の開口を閉塞する金属製の蓋板110とで構成されている。また、容器100は、電極体400等を内部に収容後、蓋板110と筐体本体とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。容器100の材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、アルミニウム及びステンレスの積層体、及び、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。
電極体400は、正極と負極とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。具体的には、電極体400は、図2に示すように、負極と正極との間にセパレータが挟み込まれるように層状に配置されたものを全体が長円形状となるように捲回されて形成されている。なお、同図では、電極体400の形状としては長円形状を示したが、円形状または楕円形状でもよい。また、電極体400の形状は捲回型に限らず、平板状極板を積層した形状でもよい。電極体400の詳細な構成については、後述する。
図1に戻り、正極端子200は、電極体400の正極に電気的に接続された電極端子であり、負極端子300は、電極体400の負極に電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200及び負極端子300は、電極体400に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体400に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための金属製の電極端子である。また、正極端子200及び負極端子300は、電極体400の上方に配置された蓋板110に取り付けられている。
正極集電体120は、電極体400の正極と容器100の側壁との間に配置され、正極端子200と電極体400の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、正極集電体120は、電極体400の正極基材層と同様、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されている。
負極集電体130は、電極体400の負極と容器100の側壁との間に配置され、負極端子300と電極体400の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、負極集電体130は、電極体400の負極基材層と同様、銅または銅合金で形成されている。
具体的には、正極集電体120及び負極集電体130は、容器100の本体の側壁から蓋板110に亘って当該側壁及び蓋板110に沿って屈曲状態で配置される金属製の板状部材である。また、正極集電体120及び負極集電体130は、蓋板110に固定的に接続されており、電極体400の正極及び負極にそれぞれ溶接などによって固定的に接続されている。これにより、電極体400は、容器100の内部において、正極集電体120及び負極集電体130により、蓋板110から吊り下げられた状態で保持される。
次に、電極体400の構成について、詳細に説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る電極体400の構成を示す断面図である。具体的には、同図は、図2に示された電極体400の捲回状態が展開された部分をA−A断面で切断した場合の断面を示す図である。同図に示すように、電極体400は、正極410と負極420と2つのセパレータ430とが積層されて形成されている。
(正極)
正極410は、正極基材層411と、正極活物質を含み正極基材層411の表面に形成された正極合材層412とを有している。また、負極420は、負極基材層421と、負極活物質を含み負極基材層421の表面に形成された負極合材層422とを有している。
正極基材層411は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる長尺帯状の導電性の集電箔である。負極基材層421は、銅または銅合金からなる長尺帯状の導電性の集電箔である。なお、上記集電箔として、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金など、適宜公知の材料を用いることもできる。
正極合材層412は、正極基材層411の外側及び内側の両面(図3のZ軸プラス側及びマイナス側の面)に配置される、正極410に形成された活物質層である。正極合材層412は、正極活物質、正極結着材及び正極導電剤を含む。
蓄電素子10に用いる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、LixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、LixMnO3、LixNiyCo(1−y)O2、LixNiyMnzCo(1−y−z)O2、LixNiyMn(2−y)O4など)、あるいは、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fなど)から選択することができる。また、これらの化合物中の元素又はポリアニオンは一部他の元素又はアニオン種で置換されていてもよく、表面にZrO2、WO2、MgO、Al2O3などの金属酸化物や炭素を被覆されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
特に好ましい正極活物質としては、ポリアニオン化合物のリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が挙げられる。コバルト酸リチウム(LixCoO2)、ニッケル酸リチウム(LixNiO2)、及びマンガン酸リチウム(LixMn2O4)が、高温で酸素を放出し易いのに対して、ポリアニオン化合物は、リンと酸素とが共有結合しているので、高温における酸素放出を抑制する性質を有する。よって、ポリアニオン化合物のリン酸鉄リチウムを正極活物質として使用することにより、高温において、正極、負極及びセパレータからなる電極体400自体から発火することを防止でき、安全性が向上する。
また、本実施の形態に係る蓄電素子10において、セルロース繊維で形成されたセパレータ430を用いることに対応して、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いることは、さらに好適である。セルロース繊維で形成されたセパレータ430は、高耐熱性を有するため、高温で変形または溶融しない特性を有する。このため、セパレータ430は、ポリオレフィン系樹脂を用いたセパレータが80℃付近で収縮し、120℃前後で溶融することで発火を防止する、いわゆるシャットダウン機能を有さない。しかしながら、上述したように、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いることにより、セパレータ430自体にシャットダウン機能がなくとも、電極体400自体から発火することを防止できる。
なお、本実施の形態及び実施例において、高温とは80℃以上の温度範囲を示している。
正極導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛、等が挙げられる。
また、正極結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、等が挙げられる。
ここで、正極結着材には、水系及び溶剤系の2種類が存在する。水系結着材は、ポリマー微粒子やゴム材料などを水に分散させたバインダであり、適宜公知の材料を使用できる。水系結着材としては、例えば、上述したPTFEやSBRなどが挙げられる。一方、溶剤系結着材は、有機溶媒に分散させたバインダであり、適宜公知の材料を使用できる。溶剤系結着材としては、例えば、上述したPVDFなどが挙げられる。
正極410は、例えば、リン酸鉄リチウムの粉末(活物質)、アセチレンブラック(導電剤)、及びポリフッ化ビニリデン(結着材)溶液を混合したのち、正極合材層412となる当該混合物を正極基材層411となるアルミ箔上に塗布し、乾燥して作製される。
(負極)
負極合材層422は、負極基材層421の外側及び内側の両面(図3のZ軸プラス側及びマイナス側の面)に配置される、負極420に形成された活物質層である。負極合材層422は、負極活物質、負極結着材及び負極導電剤を含む。
蓄電素子10に用いる負極活物質としては、黒鉛、非晶質炭素、コークス、及びこれらの炭素材料にスズ合金、珪素または酸化珪素を含有したものが挙げられる。つまり負極420は、負極基材層421と、少なくとも炭素を含む負極合材層422で形成されている。
リチウムイオン吸蔵電位が上記炭素系材料よりも貴なチタン系酸化物及びタングステン酸化物等を負極活物質として用いた蓄電素子と比較して、上記炭素系材料を負極活物質として用いた本実施の形態に係る蓄電素子10は、エネルギー密度を向上させることが可能となる。
負極導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛、等が挙げられる。
また、負極結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、等が挙げられる。
ここで、負極結着材には、水系及び溶剤系の2種類が存在する。水系結着材は、ポリマー微粒子やゴム材料などを水に分散させたバインダであり、適宜公知の材料を使用できる。水系結着材としては、例えば、上述したPTFEやSBRなどが挙げられる。一方、溶剤系結着材は、有機溶媒に分散させたバインダであり、適宜公知の材料を使用できる。溶剤系結着材としては、例えば、上述したPVDFなどが挙げられる。
負極420は、例えば、黒鉛粉末(活物質及び導電剤)及びポリフッ化ビニリデン(結着材)溶液を混合したのち、負極合材層422となる当該混合物を負極基材層421となる銅箔上に塗布し、乾燥して作製される。
(セパレータ)
セパレータ430は、正極410と負極420との間に配置される長尺帯状のセパレータである。このセパレータ430が、正極410及び負極420とともに長手方向(Y軸方向)に捲回され複数層積層されることで、電極体400が形成される。
セパレータ430は、セルロース繊維で形成された多孔質体である。上記セルロース繊維で構成される多孔質体は、例えば、不織布または紙の状態で実現される。上記多孔質体がセルロース繊維で形成されることにより、セパレータ430の耐熱性を向上させることができる。
セルロース繊維で形成されたセパレータ430は、従来用いられているポリオレフィン系樹脂を用いたセパレータと比較して、空孔率が高いため、イオン透過性に優れセル内部抵抗を低減できる。よって、二次電池としての出力性能が向上する。さらに、セパレータ430は、毛細管現象を促進する繊維構造であるため、含浸性及び注液性に優れ、電解液を容器100内部に注液する工程を短縮化できる。
ここで、高温での発火現象を防止する目的で難燃性の高い電解液を用いることが好ましいが、当該難燃性の電解液は粘性度が高い。上記粘性度の高い難燃性の電解液を用いた場合でも、セルロース繊維をセパレータ430として用いることにより、注液効率が低下することがない。さらに、ポリオレフィン膜に比べ、紙または不織布としてのセルロース繊維は安価であるので、製造コストを低減できる。
ここで、上記セパレータ430の厚み(同図のZ軸方向の厚み)は、例えば、10〜30μmの範囲内であることが好ましい。
[第1の変形例]
上述したように、正極410、負極420及びセパレータ430が構成されるが、蓄電素子10の二次電池としての性能向上の観点から、正極410、負極420及びセパレータ430の少なくとも一つの表面に、保護層を形成してもよい。
図4は、本発明の実施の形態の第1の変形例に係る電極体の構成を示す断面図である。同図に図示された積層断面図は、図3における領域Bに対応した断面図である。本変形例に係る負極は、図3に図示された負極420と比較して、負極合材層422の表面に保護層423が形成されている点が異なる。
保護層423は、負極420の表面におけるデンドライトの析出を抑制するための保護層であり、絶縁性を有するセラミックで構成されていることが好ましい。保護層423の主材料としては、例えば、アルミナ(Al2O3)粒子またはチタニア(TiO2)粒子が挙げられる。上記主材料に、保護層結着材を混合して保護層423が形成される。保護層結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、等が挙げられる。
ここで、負極合材層422に含まれる結着材及び負極保護層に含まれる結着材に同種系の結着材を使用した場合、負極合材層の表面に保護層423を形成する際、負極合材層422の成分と保護層423の成分とが互いに混ざり合ってしまう。これにより、例えば、保護層423に負極活物質が溶け込んでしまい、保護層423の絶縁性が低下し、絶縁耐圧が低下してしまう。また、負極合材層422と保護層423とが溶け合うことにより、保護層423の塗工精度が低下してしまう。よって、負極合材層422に含まれる結着材と保護層423に含まれる結着材とは、互いに異種系の結着材が使用されることが好ましい。
さらには、溶剤系結着材を含む層は、水系結着材を含む層よりも塗工性に優れるという特徴を有する。よって、多孔質の合材層の上に均質で緻密な保護薄膜を形成するためには、保護層423に溶剤系結着材が用いられることが望ましい。つまり、負極合材層422に含まれる結着材は水系の結着材であり、保護層423に含まれる結着材は溶剤系の結着材であることが好ましい。負極合材層422に含まれる結着材として使用される水系の結着材は、例えば、SBRであり、保護層423に含まれる結着材として使用される溶剤系の結着材は、例えば、PVDFである。
ここで、保護層423の役割について、図5A及び図5Bを用いて説明する。
図5Aは、保護層が形成されていない電極体において想定されるデンドライト析出現象を説明する図であり、図5Bは、保護層が形成された電極体において想定されるデンドライト析出現象を説明する図である。なお、図5A及び図5Bにおいて、セパレータ430と正極合材層412及び負極合材層422とが接していないように表している。これは、セパレータ430と隣接する合材層との境界におけるLiデンドライトの析出状態を説明するために当該境界を拡大したものであり、実際には図3または図4のように各層は接している。
図5Aに示されるように、保護層が設けられていない電極体では、負極表面上にLiデンドライトが偏析することが想定される。これは、炭素を含む負極420の電位が卑であるために生じる現象であり、Liデンドライトがセパレータ430のピンホールに対向する負極表面上に選択的に析出する。このLiデンドライトの偏析が進行することにより、正極と負極との間で微小短絡が発生する確率が高くなる。
これに対し、図5Bに示されるように、負極合材層422の表面上に保護層423が形成されることにより、セパレータ430及び正極410の方向(図4のZ方向)へのLiデンドライトの成長を抑制でき、Liデンドライトの析出を平坦化できる。これにより、本変形例に係る蓄電素子は、電極間の短絡を防止しつつ高エネルギー密度の出力性能を確保することが可能となる。
なお、保護層は、負極上に形成する代わりに、正極410の表面、または、セパレータ430の表面に形成してもよい。これらの態様によっても、電極間の短絡を防止することが可能となる。
[第2の変形例]
図6は、本発明の実施の形態の第2の変形例に係る電極体の構成を示す断面図である。同図に図示された積層断面図は、図3における領域Cに対応した断面図である。本変形例に係る正極は、図3に図示された正極410と比較して、正極合材層412の表面に保護層413が形成されている点が異なる。
保護層413は、正極410表面で金属異物が溶解することを防止し、かつ、負極420表面で析出した金属異物及びLiデンドライトが正極410表面と接触し、正極410と負極420とが短絡することを防止するための保護層であり、絶縁性を有するセラミックで構成されていることが好ましい。保護層413の主材料としては、例えば、アルミナ(Al2O3)粒子またはチタニア(TiO2)粒子が挙げられる。上記主材料に、保護層結着材を混合して保護層413が形成される。保護層結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、等が挙げられる。
ここで、正極合材層412に含まれる結着材及び正極保護層に含まれる結着材に同種系の結着材を使用した場合、正極合材層412の表面に保護層413を形成する際、正極410の成分と保護層413の成分とが互いに混ざり合ってしまう。これにより、例えば、保護層413に正極活物質が溶け込んでしまい、保護層413の絶縁性が低下し、絶縁耐圧が低下してしまう。また、正極合材層412と保護層413とが溶け合うことにより、保護層413の塗工精度が低下してしまう。よって、正極合材層412に含まれる結着材と保護層413に含まれる結着材とは、互いに異種系の結着材が使用されることが好ましい。
さらには、溶剤系結着材を含む層は、水系結着材を含む層よりも塗工性に優れるという特徴を有する。よって、多孔質の合材層の上に均質で緻密な保護薄膜を形成するためには、保護層423に溶剤系結着材が用いられることが望ましい。つまり、正極合材層412に含まれる結着材は水系の結着材であり、保護層413に含まれる結着材は溶剤系の結着材であることが好ましい。正極合材層412に含まれる結着材として使用される水系の結着材は、例えば、SBRであり、保護層413に含まれる結着材として使用される溶剤系の結着材は、例えば、PVDFである。
ここで、保護層413の役割について、図7A〜図7Cを用いて説明する。
図7Aは、保護層が形成されていない電極体において想定される金属異物析出現象を説明する図であり、図7Bは、金属異物と正極との接触が保護層により防止されることを説明する図であり、図7Cは、Liデンドライトを介した短絡が保護層により防止されることを説明する図である。なお、図7A〜図7Cにおいて、セパレータ430と正極合材層412及び負極合材層422とが接していないように表している。これは、セパレータ430と隣接する合材層との境界における金属異物及びLiデンドライトの析出状態を説明するために当該境界を拡大したものであり、実際には図3または図6のように各層は接している。
図7Aに示されるように、保護層が設けられていない電極体では、まず、正極表面に金属異物が混入すると、正極電位により金属異物が溶解する。次に、溶解した金属異物が負極電位により析出する。析出した金属異物がセパレータ430を通って正極方向に成長し、当該成長した金属異物を介して正極と負極とが短絡する。以上が、正極に保護層が設けられていない場合の微小短絡の発生メカニズムである。
これに対し、金属異物が保護層413の形成後に混入した場合、図7Bに示されるように、正極合材層412の表面上に保護層413が形成されていることにより、金属異物が正極410と接触しないので金属異物の溶解は起こらない。よって、正極と負極との微小短絡は発生しない。
これに対し、金属異物が保護層413と正極合材層412との間に混入した場合、図7Cに示されるように、正極電位により溶解した金属異物が負極電位により析出してセパレータ430及び正極410の方向へLiデンドライトとして成長する可能性がある。この場合であっても、例えば、セラミックで構成された硬質の保護層413により、Liデンドライトと正極410との接触が防止される。
このように、正極合材層412の表面に保護層413が形成された本変形例に係る蓄電素子は、電極間の短絡を防止しつつ高エネルギー密度の出力性能を確保することが可能となる。
(非水電解質)
次に、非水電解質について説明する。
容器100の内部に封入される非水電解質(電解液)は、様々なものを選択することができる。例えば、非水電解質の有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、ジオキソラン、フルオロエチルメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジプロピオネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ジメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、アセトニトリル、フルオロアセトニトリル、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンなどのアルコキシ及びハロゲン置換環状ホスファゼン類または鎖状ホスファゼン類、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリオクチルなどのリン酸エステル類、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどのホウ酸エステル類、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノン等の非水溶媒が挙げられる。また、固体電解質を用いる場合は、高分子固体電解質として有孔性高分子固体電解質膜を用い、高分子固体電解質にさらに電解液を含有させることで良い。また、ゲル状の高分子固体電解質を用いる場合には、ゲルを構成する電解液と、細孔中等に含有されている電解液とは異なっていてもよい。但し、HEV用途のように高い出力が要求される場合は、固体電解質や高分子固体電解質を用いるよりも非水電解質を単独で用いるほうがより好ましい。
また、非水電解質に含まれる電解質塩としては、特に制限はなく、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiBOB、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のイオン性化合物及びそれらの2種類以上の混合物などが挙げられる。
蓄電素子10においては、これらの有機溶媒と電解質塩とを組み合わせて、非水電解質として使用する。なお、これらの非水電解質の中では、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートを混合して使用すると、リチウムイオンの伝導度が極大となるために好ましい。
ここで、上記非水電解質は、難燃性を有することが好ましい。これにより、上述した電極体自体が発火しなくとも、外部火種による引火を防止することが可能となる。上記非水電解質が難燃性を有するための構成としては、例えば、上記非水電解質にフッ素化合物を添加することが挙げられる。上記難燃化のためのフッ素化合物添加剤としては、例えば、フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化炭酸エステルが挙げられる。
[実施例]
まず、蓄電素子10の製造方法について説明する。具体的には、以下のようにして、後述する実施例1〜16及び比較例1〜7における蓄電素子としての電池の作製を行った。なお、実施例1〜16は、いずれも、上述した実施の形態に係る蓄電素子10に関するものである。
(1−1)正極の作製
正極活物質として、LiFePO4を用いた。
また、実施例1〜16及び比較例1〜7においては、導電剤にはアセチレンブラック、結着材には溶剤系結着材であるPVDFを用い、正極活物質が90質量%、導電剤が5質量%、結着材が5質量%となるように配合した。また、箔には、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、正極活物質、導電剤、結着材にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。
また、実施例17〜21においては、導電剤にはアセチレンブラック、結着材には水系結着材であるSBRを用い、正極活物質が90質量%、導電剤が5質量%、結着材が5質量%となるように配合した。また、箔には、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、正極活物質、導電剤、結着材に精製水を加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。
また、実施例18〜21においては、アルミナ粒子、PVDF、カルボキシメチルセルロースナトリウム、NMP及び界面活性剤を、アルミナ粒子とPVDFの比率が97:3となるように混合し、コート剤を作製した。そして、当該コート剤を正極合材層412上にグラビア法にてコートし塗工後、80℃で乾燥させることにより、保護層413を形成した。
(1−2)負極の作製
負極活物質として、黒鉛を用いた。
また、実施例1〜21及び比較例1〜7においては、結着材には溶剤系結着材であるPVDFを用い、負極活物質が95質量%、結着材が5質量%となるように配合した。また、箔には、厚み15μmの銅箔を用い、負極活物質、結着材にNMPを加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。
また、実施例22〜26においては、結着材には水系結着材であるSBRを用い、負極活物質が95質量%、結着材が5質量%となるように配合した。また、箔には、厚み15μmの銅箔を用い、負極活物質、結着材に精製水を加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。
また、実施例2〜16及び比較例2〜7においては、アルミナ粒子、SBR、カルボキシメチルセルロースナトリウム、イオン交換水及び界面活性剤を、アルミナ粒子とSBRの比率が97:3となるように混合し、コート剤を作製した。そして、当該コート剤を負極合材層422上にグラビア法にてコートし塗工後、80℃で乾燥させることにより、保護層423を形成した。
また、実施例23〜26においては、アルミナ粒子、PVDF、カルボキシメチルセルロースナトリウム、NMP及び界面活性剤を、アルミナ粒子とPVDFの比率が97:3となるように混合し、コート剤を作製した。そして、当該コート剤を負極合材層422上にグラビア法にてコートし塗工後、80℃で乾燥させることにより、保護層423を形成した。
(1−3)セパレータの作製
セパレータ430として、実施例1〜21においては、厚み20μm及び空孔率60%のセルロース繊維膜を使用した。また、比較例1〜7においては、基材層として、厚み25μm及び空孔率20%のポリオレフィン製微多孔膜を使用した。
(1−4)非水電解質の生成
非水電解質には、ECとジメチルカーボネートとの混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を添加した。また、実施例16及び比較例7においては、フッ素化合物添加剤として、フッ素化リン酸エステルを25質量%混合した。
(1−5)電池の作製
正極410、負極420及びセパレータ430を積層して捲回後、容器100に挿入し、非水電解質を注入して封口した。次に、以下の電池の評価試験を行った。
(2−1)微小短絡発生率
電池化成後に電池定格容量の20%まで充電し、25℃にて20日間保存した場合に、保存前の電池電圧と保存後の電池電圧との差(電池電圧低下)が0.1V以上であった電池の割合(%)を微小短絡発生率とする。なお、本実施例では、3.1Vの定電圧充電を3時間実施した後、5分経過後から12時間経過後までに電圧測定し、25℃にて20日間保存した後に再度電圧測定を行い、その差異を電池電圧低下とした。そして、1水準あたり50セルの試験を行い、当該割合を計算して微小短絡発生率とした。
(2−2)セル内部抵抗
保護層423の厚みを10μm、アルミナ平均粒径を0.5μm、及びセパレータ430としてセルロース繊維膜を使用した場合のセル内部抵抗を100と基準化し、各実施例及び各比較例について測定したセル内部抵抗を規格化した。
(2−3)製造性評価
上記非水電解質を注液口から容器100内へ注液するのに要する時間である注液時間、保護層のスラリー化製造性、及び保護層の製造性を評価した。
(2−4)表面抵抗
負極活物質として黒鉛を用いた負極420において、その表面に保護層423が形成されていない場合の負極420の表面抵抗を1と基準化し、保護層膜厚を変化させた場合の表面抵抗を評価した。
まず、以上のようにして取得した電池の微小短絡発生率を、以下の表1に示す。具体的には、表1では、実施例1〜5及び比較例1〜5について、負極420の表面に保護層423を形成した場合における、保護層423の厚みを変化させたときの電池の微小短絡発生率を比較している。また、実施例17〜21について、正極410の表面に保護層413を形成した場合における、保護層413の厚みを変化させたときの電池の微小短絡発生率を比較している。
図8は、保護層の厚みと微小短絡発生率との関係を表すグラフである。具体的には、同図は、表1における「保護層膜厚」を横軸とし、「微小短絡発生率」を縦軸として、グラフ化したものである。
上記の表1及び図8に示すように、比較例1〜5(ポリオレフィン微多孔膜セパレータ)では、微小短絡発生率が3%以下となっている。一方、実施例1〜5(セルロース繊維セパレータ)では、保護層423が厚いほど微小短絡発生率が減少している。これは、保護層423が、負極表面上に析出したLiデンドライトの正極方向への成長を抑制することに起因するものと考えられる。表1及び図8より、本発明に係る蓄電素子10の微小短絡発生率を、従来のポリオレフィン製セパレータを用いた蓄電素子(比較例1〜5)のそれと同等以下とするためには、本実施の形態では、保護層423の厚みを5μm以上とすることが好ましい。これにより、短絡発生率を低く維持しつつ優れたイオン透過性を有するセパレータ430及びリチウムイオン吸蔵電位が卑な負極420を反映した高出力性能が確保される。
また、実施例17〜21(セルロース繊維セパレータ)では、保護層413が厚いほど微小短絡発生率が減少している。これは、保護層413により、金属異物と正極410との接触が阻止されることに起因するものと、負極表面上に析出したLiデンドライトが成長して正極410と接触することを保護層413が阻止することに起因するものと考えられる。表1及び図8より、本発明に係る蓄電素子10の微小短絡発生率を、実用可能なレベルとするためには、本実施の形態では、保護層413の厚みを5μm以上とすることが好ましい。さらに、好ましくは、本発明に係る蓄電素子10の微小短絡発生率を、従来のポリオレフィン製セパレータを用いた蓄電素子(比較例1〜5)のそれと同等以下とするためには、本実施の形態では、保護層413の厚みを10μm以上とすることが好ましい。これにより、短絡発生率を低く維持しつつ優れたイオン透過性を有するセパレータ430及びリチウムイオン吸蔵電位が卑な負極420を反映した高出力性能が確保される。
次に、実施例1〜5及び実施例22〜26について、保護層の膜厚を変化させたときの、電極の表面抵抗を、以下の表2に示す。
また、図9は、保護層の膜厚と負極の表面抵抗との関係を表すグラフである。具体的には、同図は、表2における「保護層膜厚」を横軸とし、「表面抵抗」を縦軸として、グラフ化したものである。なお、表2及び図9に表された表面抵抗は、負極420の表面に保護層が形成されていない場合の負極420の表面抵抗を1とした規格化された値である。
上記の表2及び図9に示すように、実施例1〜5及び実施例22〜26において、保護層423の膜厚が大きいほど、負極420表面抵抗が大きくなっている。これは、保護層膜厚が大きいほど負極420表面の絶縁耐圧が高くなることを表している。
さらに、実施例2〜5及び実施例23〜26において、同じ保護層膜厚同士を比較すると、実施例23〜26の方が、表面抵抗が高くなっている。つまり、負極合材層422に含まれる結着材として溶剤系を使用し保護層423に含まれる結着材として水系を使用した実施例2〜5よりも、負極合材層422に含まれる結着材として水系を使用し保護層423に含まれる結着材として溶剤系を使用した実施例23〜26の方が、絶縁耐圧が高いことを示している。
これは、負極合材層422の成分と保護層423の成分とが混ざってしまうことを回避すべく、負極合材層422に含まれる結着材及び保護層423に含まれる結着材に異種系の結着材を使用しつつ、実施例23〜26では、塗工性に優れる溶剤系の結着材を保護層423に使用したことに起因するものである。つまり、多孔質の合材層の上に均質で緻密な保護薄膜を形成するためには、保護層423に溶剤系結着材が用いられることが望ましい。これにより、電極間の短絡を防止することが可能となる。
次に、実施例6〜14について、保護層の粒径を変化させたときの、セル内部抵抗、注液時間、スラリー化製造性及び保護層製造性を、以下の表3に示す。
また、図10は、保護層のアルミナ平均粒径とセル内部抵抗及び注液時間との関係を表すグラフである。具体的には、同図は、表3における「アルミナ平均粒径」を横軸とし、「セル内部抵抗」を縦軸(左)及び「注液時間」を縦軸(右)として、グラフ化したものである。
上記の表3及び図10に示すように、実施例6〜14において、保護層423のアルミナ平均粒径が大きいほど、非水電解質の注液時間が短くなっている。これは、保護層423表面のアルミナ平均粒径が大きいほどアルミナ粒子間へ電解液が浸潤し易いことを表している。このことから、アルミナ平均粒径が大きいほど非水電解質をセラミック粒子間へ浸潤させ易くなり、高浸潤性のセルロース繊維を用いたセパレータ430とともに、非水電解質の注液時間の短縮化に貢献できる。
一方、表3及び図10に示すように、セル内部抵抗は、アルミナ平均粒径が大きいほど低くなる。但し、保護層423の厚みが10μmの場合では、セル内部抵抗は、アルミナ平均粒径が5μm以上となると高くなる傾向を示している。これは、保護層423表面のアルミナ平均粒径が大きいほどイオン透過性が高いことを表しているが、保護層423の厚みが厚く、かつ、粒径が大きくなり過ぎるとイオン透過性が疎外されることを示唆している。
さらに、保護層423の厚みが5μm及び10μmのいずれにおいても、アルミナ平均粒径が0.01μmの場合には、保護層423の均一分散に時間がかかり、アルミナ平均粒径が0.03μm以上の場合と比較して、スラリー化製造性が劣る。
また、保護層423の厚みが5μmかつアルミナ平均粒径が3μmの場合、及び、保護層423の厚みが10μmかつアルミナ平均粒径が5μmの場合には、形成された保護層423において欠陥及び塗布欠けが見られる。
以上より、本実施の形態では、アルミナ平均粒径の範囲としては、0.03μm以上かつ3μm以下であることが好ましい。
次に、実施例15〜16及び比較例6〜7について、電解質への難燃化物の添加有無によるセル内部抵抗及び注液時間を、以下の表4に示す。
上記の表4に示すように、実施例15において、電解質へ難燃化物が添加されない場合には、セル内部抵抗は低く、また、注液時間も短い。よって、負極420の表面上に所定の保護層423が形成され、電解質へ難燃化物が添加されない場合において、イオン透過性が向上し、製造工数が短縮化される。よって、本実施の形態によれば、製造コストが低減し、短絡発生を抑制しつつ、出力性能を向上させることができる。
また、実施例16及び比較例7において、電解質へ難燃化物が添加されることによりセル内部抵抗は高くなり、また、注液時間も長くなる。これは、フッ素化合物である難燃化物が添加された非水電解質が高い粘性を有していることに起因するものと考えられる。しかしながら、セルロース繊維膜をセパレータに用い、かつ、上記難燃化物を添加した場合(実施例16)でも、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータに用い、かつ、上記難燃化物を添加しない場合(比較例6)と同等のセル内部抵抗及び注液時間が確保される。よって、本実施の形態によれば、難燃化剤を電解質に添加した場合であっても、製造コストが低減し、短絡発生を抑制しつつ、高温での安全性を向上させることができる。
なお、負極保護層ではなく、正極に保護層が配置された構成であっても、表4に示されたセル内部抵抗の相対的な関係が成立する。すなわち、電解質へ難燃化物が添加されない場合には、セル内部抵抗は低く、注液時間も短い。よって、正極410の表面上に所定の保護層413が形成され、電解質へ難燃化物が添加されない場合において、イオン透過性が向上し、製造工数が短縮化される。よって、本実施の形態によれば、製造コストが低減し、短絡発生を抑制しつつ、出力性能を向上させることができる。また、セルロース繊維膜をセパレータに用い、かつ、上記難燃化物を添加した場合でも、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータに用い、かつ、上記難燃化物を添加しない場合と同等のセル内部抵抗及び注液時間が確保される。よって、正極410に保護層413が形成された構成において、難燃化剤を電解質に添加した場合であっても、製造コストが低減し、短絡発生を抑制しつつ、高温での安全性を向上させることができる。
以上のように、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10によれば、負極420は、少なくとも炭素を含む負極活物質を有し、セパレータ430は、セルロース繊維を含む。これにより、リチウムイオン吸蔵電位が卑な炭素系材料を負極活物質として用いた蓄電素子10は、エネルギー密度を向上させることが可能となる。また、セパレータ430は、従来用いられているポリオレフィン系樹脂を用いたセパレータと比較して、空孔率が高いため、イオン透過性に優れセル内部抵抗を低減できる。よって、二次電池としての出力性能が向上する。さらに、セパレータ430は、毛細管現象を促進する繊維構造であるため、含浸性及び注液性に優れ、電解液を容器100内部に注液する工程を短縮化できる。よって、製造コストを低減しつつ出力性能を向上させることが可能となる。
また、本発明の実施の形態に係る一態様として、蓄電素子10において、正極410、負極420、及びセパレータ430の少なくともいずれかの表面に保護層が形成されている。この中で、負極420の表面に、デンドライトの析出を抑制するための保護層423が形成されていることが好ましい。また、正極410の表面に、金属異物の析出を抑制するための保護層413が形成されていることが好ましい。これらにより、電極間の微小短絡発生率を低く維持しつつ優れたイオン透過性を有するセパレータ430及びリチウムイオン吸蔵電位が卑な負極420を反映した高出力性能が実現される。
ここで、保護層413及び423は、絶縁性を有するセラミックで構成されていることが好ましい。これにより、空孔率の高いセパレータ430を介して両電極が短絡することを防止できる。また、電解液をセラミック粒子間へ浸潤させ易くなり、セパレータ430を高浸潤性のセルロース繊維とした効果が顕著となる。
また、本発明の実施の形態に係る一態様として、保護層413及び423の膜厚は、5μm以上である。さらに、好ましくは、保護層413の膜厚は10μm以上である。これにより、セパレータ430の高空孔率を維持しつつ微小短絡発生率を低減でき、優れたイオン透過性を有するセパレータ430及びリチウムイオン吸蔵電位が卑な負極420を反映した高出力性能が実現される。
また、本発明の実施の形態に係る一態様として、蓄電素子10は、さらに、難燃性の非水電解質を含む。特に、当該非水電解質は、フッ素化合物を添加することにより難燃性を示す。フッ素化合物である難燃化物が添加された非水電解質は、高い粘性を有するので、相対的にセル内部抵抗を高くし、また、注液時間も長くさせる。しかし、セルロース繊維膜をセパレータ430に用いることにより、セル内部抵抗の上昇及び注液時間の長期化を防止できる。よって、難燃化剤を非水電解質に添加した場合であっても、製造コストが低減し、短絡発生を抑制しつつ、高温での安全性を向上させることができる。
また、本発明の実施の形態に係る一態様として、正極410は、リン酸鉄リチウムを含む正極活物質を有する。非水電解質二次電池の正極として従来用いられているコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、及びマンガン酸リチウムが、高温で酸素を放出し易いのに対して、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウムは、リンと酸素とが共有結合しているので、高温における酸素放出を抑制する性質を有する。これにより、高温で電極体400自体から発火することを防止できる。
以上、本発明の実施の形態及びその変形例に係る蓄電素子について説明したが、本発明は、上記実施の形態及びその変形例に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態及びその変形例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
また、上記実施の形態及び上記変形例を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。