図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの構成例を示す概略正面図である。この分析システムは、前処理装置1、LC(液体クロマトグラフ)100及びMS(質量分析装置)200を備えており、前処理装置1により前処理を実行した試料が、LC100及びMS200に順次導入されて分析が行われる。すなわち、本実施形態に係る分析システムは、前処理装置1に液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)が接続された構成となっている。ただし、このような構成に限らず、MS200が省略されることにより、前処理装置1により前処理を実行した試料が、LC100にのみに導入されるような構成であってもよいし、他の分析装置に導入されるような構成であってもよい。
前処理装置1は、例えば全血、血清、濾紙血、尿などの生体由来の試料に対して、試料分注、試薬分注、攪拌、濾過といった各種の前処理を行う。これらの前処理により抽出された試料は、LC100に備えられたオートサンプラ101を介してLC100に導入される。LC100には、カラム(図示せず)が備えられており、当該カラム内を試料が通過する過程で分離された試料成分が、MS200に順次導入される。MS200は、LC100から導入された試料をイオン化するイオン化部201と、イオン化された試料を分析する質量分析部202とを備えている。
前処理装置1には、例えばタッチパネルを含む操作表示部1aが備えられている。分析者は、操作表示部1aの表示画面に対する操作により、前処理装置1の動作に関する入力を行うことができるとともに、操作表示部1aの表示画面に表示された前処理装置1の動作に関する情報を確認することができる。ただし、タッチパネル式の操作表示部1aが設けられた構成に限らず、例えば液晶表示器により構成される表示部と、操作キーなどにより構成される操作部とが、別々に設けられた構成であってもよい。
図2は、前処理装置1の構成例を示す平面図である。この前処理装置1では、分離容器50と回収容器54の組からなる前処理キットを試料ごとに1組用いて、各前処理キットに対して設定された前処理項目(試料分注、試薬分注、攪拌、濾過など)が実行される。分離容器50は、試料及び試薬が注入される前処理容器を構成している。前処理装置1には、各前処理項目を実行するための複数の処理ポートが設けられており、試料が収容された前処理キットをいずれかの処理ポートに設置することで、その前処理キットに収容されている試料に対して、各処理ポートに対応する前処理項目が実行されるようになっている。
処理ポートとしては、各前処理項目に対応付けて、濾過ポート30、分注ポート32、廃棄ポート34、攪拌ポート36a、温調ポート38,40、転送ポート43及び洗浄ポート45などが設けられている。これらの各処理ポートは、複数種類の前処理をそれぞれ実行する複数の前処理部を構成している。ここで、前処理項目とは、分析者が指定した分析項目を実行するために必要な前処理の項目である。
前処理キットを構成する分離容器50及び回収容器54は、搬送部としての搬送アーム24によって各処理ポート間で搬送される。搬送アーム24の先端側には、分離容器50及び回収容器54を保持するための保持部25が形成されている。搬送アーム24の基端部側は、鉛直軸29を中心に回転可能に保持されている。搬送アーム24は水平方向に延びており、鉛直軸29を中心に回転することにより、保持部25が水平面内で円弧状の軌道を描くように移動する。分離容器50及び回収容器54の搬送先である各処理ポートや、その他のポートは、全て保持部25が描く円弧状の軌道上に設けられている。
前処理キットには、試料容器6から試料が分注される。試料が収容された試料容器6は、試料設置部2に複数設置することができ、サンプリング部としてのサンプリングアーム20により各試料容器6から試料が順次採取される。試料設置部2には、複数の試料容器6を保持するサンプルラック4が、円環状に並べて複数設置される。試料設置部2は、水平面内で回転することにより、各サンプルラック4を周方向に移動させる。これにより、所定のサンプリング位置に各試料容器6を順次移動させることができる。ここで、サンプリング位置は、サンプリングアーム20の先端部に設けられたサンプリングノズル20aの軌道上に位置しており、当該サンプリング位置においてサンプリングノズル20aにより試料容器6から試料が採取される。
サンプリングアーム20は、基端部側に設けられた鉛直軸22を中心に水平面内で回転可能であるとともに、鉛直軸22に沿って鉛直方向に上下動可能である。サンプリングノズル20aは、サンプリングアーム20の先端部において鉛直下方に向かって保持されており、サンプリングアーム20の動作に応じて、水平面内で円弧状の軌道を描く移動又は鉛直方向への上下動が行われる。
サンプリングノズル20aの軌道上で、かつ搬送アーム24の保持部25の軌道上となる位置には、分注ポート32が設けられている。分注ポート32は、未使用の分離容器50に対してサンプリングノズル20aから試料を分注するためのポートである。未使用の分離容器50は、搬送アーム24によって分注ポート32に搬送される。
サンプルラック4が円環状に並べて配置された試料設置部2の中央部には、試薬容器10を設置するための試薬設置部8が設けられている。試薬設置部8に設置された試薬容器10内の試薬は、試薬アーム26によって採取される。試薬アーム26は、その基端部が搬送アーム24と共通の鉛直軸29によって支持されており、当該鉛直軸29を中心に水平面内で回転可能であるとともに、鉛直軸29に沿って鉛直方向に上下動可能である。試薬アーム26の先端部には、試薬添加ノズル26aが鉛直下方に向かって保持されており、当該試薬添加ノズル26aは、試薬アーム26の動作に応じて、水平面内で搬送アーム24の保持部25と同一の円弧状の軌道を描く移動又は鉛直方向への上下動が行われる。
試薬設置部8は、試料設置部2とは独立して水平面内で回転可能となっている。試薬設置部8には、複数の試薬容器10が円環状に並べて配置され、試薬設置部8が回転することによって各試薬容器10が周方向に移動する。これにより、所定の試薬採取位置に所望の試薬容器10を移動させることができる。ここで、試薬採取位置は、試薬アーム26の先端部に設けられた試薬添加ノズル26aの軌道上に位置しており、当該試薬採取位置において試薬添加ノズル26aにより試薬容器10から試薬が採取される。試薬容器10内の試薬は、試薬添加ノズル26aにより吸入された後、分注ポート32に設置された分離容器50に対して分注されることにより、当該分離容器50内の試料に添加される。
分離容器50及び回収容器54は、試料設置部2や試薬設置部8とは異なる位置に設けられた容器保持部12により保持されている。容器保持部12には、未使用の分離容器50及び回収容器54が重ねられた状態の複数組の前処理キットが、円環状に並べて配置された複数(図2の例では48個)の保持位置53にそれぞれ保持される。容器保持部12には、水平面内で回転する回転部14と、当該回転部14に対して着脱可能な複数の容器ラック16とが備えられている。
各容器ラック16には、複数の前処理キットを保持することができる。複数の容器ラック16は、回転部14上に円環状に並べて設置される。円環状に並べて配置された複数の容器ラック16により、複数の前処理キットを保持する円環状の保持領域が形成される。回転部14は、水平面内で回転することにより、各容器ラック16を保持領域の周方向に変位させる。これにより、複数の前処理キットを所定の搬送位置に順次移動させることができる。ここで、搬送位置は、搬送アーム24の先端部に設けられた保持部25の軌道上に位置しており、当該搬送位置において保持部25により分離容器50又は回収容器54が保持され、搬送先のポートへと搬送される。
すなわち、容器保持部12の各保持位置53に保持されている前処理キット(分離容器50又は回収容器54)が、それぞれ搬送位置から一定の順序で搬出されて使用されることにより、前処理が順次行われる。上記一定の順序は、特に限定されるものではないが、例えば複数の容器ラック16の順序が定められているとともに、各容器ラック16において複数の保持位置53の順序が定められている。したがって、いずれかの容器ラック16の全ての保持位置53に保持されている前処理キットが搬出された後に、次の容器ラック16の各保持位置53に保持されている前処理キットが順次搬出されることとなる。図2では図示しないが、各保持位置53には、上記一定の順序に従って番号が対応付けて表示されている。
このように、複数の容器ラック16に分割して前処理キットを保持することにより、各容器ラック16を回転部14に対して個別に着脱することが可能になる。これにより、いずれかの容器ラック16に保持された分離容器50又は回収容器54に対する処理が行われている場合であっても、他の容器ラック16を着脱して別の作業を行うことができるため、前処理効率を向上させることができる。
ただし、分離容器50及び回収容器54は、容器ラック16を介して容器保持部12により保持されるような構成に限らず、例えば容器保持部12に直接保持されるような構成であってもよい。また、分離容器50及び回収容器54は、互いに重ね合せられた状態で容器保持部12により保持されるような構成に限らず、分離容器50及び回収容器54が個別に保持されるような構成であってもよい。さらに、複数の容器ラック16は、円環状に並べて配置されるような構成に限らず、例えば円弧状に並べて配置されるような構成であってもよい。この場合は、円環状ではなく、円弧状の保持領域に複数の分離容器50及び回収容器54が保持される。
容器保持部12には、異なる分離性能を有する分離層が設けられた複数種類(例えば2種類)の分離容器50を分析者が設置しておくことができる。これらの分離容器50は、試料の分析項目に応じて使い分けられ、分析者によって指定された分析項目に応じた分離容器50が容器保持部12から選択されて搬送される。ここで、分析項目とは、前処理装置1で前処理が施された試料を用いて引き続き行われる分析の種類であり、例えばLC100又はMS200により実行される分析の種類である。
図3Aは、分離容器50の構成例を示す側面図である。図3Bは、図3Aの分離容器50の平面図である。図3Cは、図3BのA−A断面を示す断面図である。図4Aは、回収容器54の構成例を示す側面図である。図4Bは、図4Aの回収容器54の平面図である。図4Cは、図4BのB−B断面を示す断面図である。図5は、分離容器50及び回収容器54が重ね合せられた状態の前処理キットを示す断面図である。
分離容器50は、図3A〜図3Cに示すように、試料や試薬を収容する内部空間50aを有する円筒状の容器である。内部空間50aの底部には、分離層52が設けられている。分離層52とは、例えば試料を通過させて特定成分と物理的又は化学的に反応することで、試料中の特定成分を選択的に分離させる機能を有する分離剤又は分離膜である。
分離層52を構成する分離剤としては、例えばイオン交換樹脂、シリカゲル、セルロース、活性炭などを用いることができる。また、分離膜としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜、ナイロン膜、ポリプロピレン膜、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜、アクリル共重合体膜、混合セルロース膜、ニトロセルロース膜、ポリエーテルスルホン膜、イオン交換膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。
試料中の蛋白質を濾過によって取り除くための除蛋白フィルタ(分離膜)としては、PTFE、アクリル共重合体膜などを用いることができる。この場合、除蛋白フィルタの目詰まりを防止するために、分離層52の上側にプレフィルタ(図示せず)を設けてもよい。このようなプレフィルタとしては、例えばナイロン膜、ポリプロピレン膜、グラスファイバー膜などを用いることができる。プレフィルタは、試料中から粒径の比較的大きい不溶物質や異物を取り除くためのものである。このプレフィルタにより、除蛋白フィルタが粒径の比較的大きい不溶物質や異物によって目詰まりするのを防止することができる。
分離容器50の上面には、試料や試薬を注入するための開口50bが形成されている。また、分離容器50の下面には、分離層52を通過した試料を抽出するための抽出口50dが形成されている。分離容器50の外周面の上部には、搬送アーム24の保持部25を係合させるための鍔部50cが周方向に突出するように形成されている。
分離容器50の外周面の中央部には、当該分離容器50が回収容器54とともに濾過ポート30に収容されたときに濾過ポート30の縁に接触するスカート部51が設けられている。スカート部51は、分離容器50の外周面から周方向に突出し、そこから下方に延びるように断面L字状に形成されることにより、分離容器50の外周面との間に一定の空間を形成している。
回収容器54は、図4A〜図4C及び図5に示すように、分離容器50の下部を収容し、分離容器50の抽出口50dから抽出された試料を回収する円筒状の容器である。回収容器54の上面には、分離容器50の下部を挿入させる開口54bが形成されている。回収容器54の内部には、分離容器50におけるスカート部51よりも下側の部分を収容する内部空間54aが形成されている。回収容器54の外周面の上部には、分離容器50と同様に、搬送アーム24の保持部25を係合させるための鍔部54cが周方向に突出するように形成されている。
図5のように分離容器50及び回収容器54が重ね合せられた状態では、回収容器54の上部がスカート部51の内側に入り込む。分離容器50の外径は、回収容器54の内径よりも小さく形成されている。これにより、回収容器54の内部空間54aに収容された分離容器50の外周面と、回収容器54の内周面との間に、僅かな隙間が形成される。容器保持部12には、分離容器50の下部が回収容器54内に収容された状態(図5の状態)で、分離容器50及び回収容器54が設置される。
回収容器54の上面の縁には、3つの切欠き54dが形成されている。したがって、図5のように分離容器50及び回収容器54が重ね合せられることにより、回収容器54の上面がスカート部51の内面に当接した状態であっても、切欠き54を介して、回収容器54の内側と外側とを連通させることができる。ただし、切欠き54dの数は、3つに限らず、2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。また、切欠き54dに限らず、例えば***が形成された構成などであってもよい。
再び図2を参照すると、濾過ポート30は、容器保持部12の内側に設けられている。すなわち、濾過ポート30の外周に並べて配置された複数の容器ラック16により、円環状又は円弧状の保持領域が形成されており、当該保持領域に複数の分離容器50及び回収容器54が保持されている。このように、分離容器50及び回収容器54の保持領域が円環状又は円弧状に形成され、その中央部の空きスペースに濾過ポート30の設置スペースを確保することによって、よりコンパクトな構成とすることができる。
特に、本実施形態では、分離容器50及び回収容器54が重ねられた状態で保持領域に保持されるため、分離容器50及び回収容器54の保持領域を別々に設ける必要がない。したがって、より多くの分離容器50及び回収容器54を小さい保持領域で保持することができる。これにより、分離容器50及び回収容器54の保持領域を小さくすることができ、さらにコンパクトな構成とすることができる。
また、円環状又は円弧状に形成された保持領域の中央部に濾過ポート30を設けることにより、保持領域に保持されている複数の分離容器50及び回収容器54と濾過ポート30の距離を比較的短くすることができる。これにより、分離容器50及び回収容器54を濾過ポート30に搬送する時間を短縮することができるため、前処理効率を向上させることができる。
濾過ポート30は、分離容器50内の試料に圧力を付与することにより分離層52で試料を分離させる濾過部を構成している。本実施形態では、例えば2つの濾過ポート30が搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて設けられている。分離容器50及び回収容器54は、図5のように重ね合せられた状態で各濾過ポート30に設置され、負圧によって分離容器50内の分離層52で分離された試料が、回収容器54内に回収されるようになっている。ただし、分離容器50及び回収容器54は、互いに重ね合せられた状態で各濾過ポート30に設置されるような構成に限らず、分離容器50及び回収容器54が個別に設置されるような構成であってもよい。また、濾過ポート30の数は、2つに限らず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
攪拌ポート36aは、容器保持部12の近傍に設けられた攪拌部36に、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて3つ設けられている。攪拌部36は、各攪拌ポート36aを個別に水平面内で周期的に動作させる機構を有している。このような機構により、各攪拌ポート36aに配置された分離容器50内の試料を攪拌することができる。ただし、攪拌ポート36aの数は、3つに限らず、2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。
温調ポート38,40は、例えばヒータとペルチェ素子により温度制御された熱伝導性のブロックに設けられており、温調ポート38,40に収容された分離容器50又は回収容器54の温度が一定温度に調節される。温調ポート38は、分離容器50用であり、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて4つ配置されている。温調ポート40は、回収容器54用であり、分離容器50用の温調ポート38と同様、例えば搬送アーム24の保持部25の軌道上に並べて4つ配置されている。ただし、温調ポート38,40の数は、それぞれ4つに限らず、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
図6Aは、濾過ポート30の構成例を示す平面図である。図6Bは、図6AのX−X断面を示す断面図である。図6Cは、図6AのY−Y断面を示す断面図である。図6Dは、濾過ポート30に前処理キットを設置した状態を示す断面図である。
濾過ポート30は、例えば凹部からなり、当該凹部が前処理キットを設置するための設置空間30aを構成している。すなわち、搬送アーム24により容器保持部12から搬送された分離容器50及び回収容器54が、図6Dに示すように、互いに重ねられた状態で設置空間30a内に設置される。このとき、設置空間30aには、まず回収容器54が収容され、その後に回収容器54の内部空間54aに分離容器50の下部が収容される。
濾過ポート30内には、回収容器54を挟み込むように保持する保持部材31が設けられている。保持部材31は、例えば上方が開放されたU字状の金属部材であり、上方に延びた2本の腕部が濾過ポート30の内径方向へ弾性的に変位可能な2本の板ばねを構成している。保持部材31の2本の板ばね部分は、例えば上端部と下端部の間の部分において、互いの間隔が最も狭くなるように内側に窪んだ湾曲形状又は屈曲形状となっている。2本の板ばね部分の間隔は、上端部及び下端部では回収容器54の外径よりも大きく、最も間隔が狭い部分では回収容器54の外径よりも小さくなっている。
上記のような保持部材31の形状により、濾過ポート30の設置空間30a内に回収容器54が差し込まれた場合には、回収容器54が下降するのに応じて保持部材31の2本の板ばね部分が開き、その弾性力によって回収容器54が設置空間30aに保持される。回収容器54は、保持部材31の2本の板ばね部分により、互いに対向する2方向から均等に押圧され、設置空間30aの中央部に保持される。保持部材31は、設置空間30a内に固定されており、回収容器54が取り出される際に回収容器54とともに浮き上がらないようになっている。
濾過ポート30の上面開口部の縁には、弾性力を有するリング状の封止部材60が設けられている。封止部材60は、例えば濾過ポート30の上面開口部の縁に設けられた窪みに嵌め込まれている。封止部材60の材質は、例えばシリコーンゴムやEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)などの弾性材料である。濾過ポート30の設置空間30a内に回収容器54及び分離容器50が設置された場合には、分離容器50のスカート部51の下端が封止部材60に当接し、スカート部51によって設置空間30aが密閉された状態となる。ただし、分離容器50における封止部材60との接触部分は、スカート部51のような形状の部材により構成されるものに限らず、例えばフランジ部などの他の各種形状の接触部により構成することができる。
設置空間30aには、濾過ポート30の底面から減圧用の流路56が連通している。流路56には、負圧負荷機構55の流路57が接続されている。負圧負荷機構55は、例えば真空ポンプを含み、設置空間30a内に負圧を負荷する負圧負荷部を構成している。濾過ポート30に分離容器50及び回収容器54が収容された状態で、負圧負荷機構55により設置空間30a内を減圧すれば、設置空間30a内が負圧になる。
負圧になった設置空間30aには、回収容器54の切欠き54d、及び、回収容器54の内周面と分離容器50の外周面との隙間を介して、回収容器54の内部空間54aが連通している。分離容器50の上面は大気開放されているため、分離容器50の内部空間50aと回収容器54の内部空間54aとの間に分離層52を介して圧力差が生じる。したがって、分離容器50の内部空間50aに収容されている試料のうち分離層52を通過することができる成分のみが、その圧力差によって分離層52で分離され、回収容器54の内部空間54a側に抽出される。
図7は、負圧負荷機構55の構成例を示す概略図である。2つの濾過ポート30は、共通の真空タンク66に接続されている。各濾過ポート30と真空タンク66との間は、それぞれ流路57により接続されており、各流路57には圧力センサ62及び3方バルブ64が設けられている。各濾過ポート30の設置空間30a内の圧力は、各圧力センサ62により検知される。各3方バルブ64は、濾過ポート30と真空タンク66との間を接続した状態、流路57のうち濾過ポート30側を大気開放した状態(図7の状態)、又は、流路57のうち濾過ポート30側の端部を密閉した状態のいずれかに切り替えることができる。
真空タンク66には、圧力センサ68が接続されるとともに、3方バルブ70を介して真空ポンプ58が接続されている。したがって、3方バルブ70を切り替えることにより、必要に応じて真空タンク66に真空ポンプ58を接続し、真空タンク66内の圧力を調節することができる。
いずれかの濾過ポート30において試料の抽出処理を実行する際には、その濾過ポート30と真空タンク66との間を接続し、当該濾過ポート30の設置空間30a内の圧力を検知する圧力センサ62の値が所定値となるように調節する。その後、流路57のうち当該濾過ポート30側の端部を密閉した状態にする。これにより、濾過ポート30の設置空間30aが密閉系となり、設置空間30a内の減圧状態が維持されることによって、試料の抽出が行われる。
再び図2を参照すると、この前処理装置1には、回収容器54に抽出された試料をオートサンプラ101側に転送するための試料転送部42が備えられている。試料転送部42は、水平面内で一方向(図2の矢印方向)に移動する移動部44を備えており、当該移動部44の上面に、回収容器54を設置するための転送ポート43が設けられている。移動部44は、例えばラックピニオン機構を有する駆動機構の動作により移動する。
オートサンプラ101側への試料の転送を行っていないときには、搬送アーム24の保持部25の軌道上(図2に実線で示されている位置)に転送ポート43が配置される。この状態で、搬送アーム24による転送ポート43への回収容器54の設置や、転送ポート43からの回収容器54の回収が行われる。
オートサンプラ101側への試料の転送を行う際には、抽出された試料を収容している回収容器54が転送ポート43に設置された後、移動部44が前処理装置1の外側方向へ移動し、転送ポート43がオートサンプラ101に隣接する位置(図2に破線で示されている位置)に配置される。この状態で、オートサンプラ101に設けられたサンプリング用のノズルにより、回収容器54内の試料が吸入される。
オートサンプラ101による試料吸入が終了すると、移動部44は元の位置(図2に実線で示されている位置)に戻され、搬送アーム24によって回収容器54が回収される。使用済みの回収容器54は、搬送アーム24によって廃棄ポート34に搬送され、廃棄される。廃棄ポート34は、搬送アーム24の保持部25の軌道上における分注ポート32の近傍に配置されており、使用済みの分離容器50及び回収容器54が廃棄される。
サンプリングノズル20aの軌道上には、当該サンプリングノズル20aの洗浄を行うための洗浄ポート45が設けられている。なお、図示は省略されているが、試薬添加ノズル26aの軌道上には、当該試薬添加ノズル26aの洗浄を行うための洗浄ポートが設けられている。
図8は、試薬添加機構27の構成例を示した概略図である。試薬添加機構27は、試料に試薬を添加するための機構であり、上述した試薬アーム26及び試薬添加ノズル26aの他に、シリンジ27a、モータ27b、バルブ27c及びポンプ27dなどを備えている。
試薬添加ノズル26aは、第1流路27eを介してシリンジ27aに接続されている。シリンジ27aは、モータ27bによって駆動される。このシリンジ27aの駆動によって、試薬添加ノズル26aの先端から液体又は気体を吸入したり、吸入した液体又は気体を試薬添加ノズル26aの先端から吐出したりすることができる。
シリンジ27aには、第2流路27fを介してバルブ27c及びポンプ27dが接続されている。バルブ27cを開いた状態でポンプ27dを駆動させれば、当該ポンプ27dによって第2流路27f内に水を吸い上げ、シリンジ27a及び第1流路27eを介して試薬添加ノズル26aの先端から水を吐出させることができる。一方、シリンジ27aを駆動させる際には、バルブ27cは閉じた状態とされる。
図9は、試薬添加ノズル26a内に試薬を吸入する際の態様について説明するための図である。
試薬添加ノズル26a内に試薬を吸入する際には、まず、バルブ27cを開き、ポンプ27dを駆動させることにより、試薬添加ノズル26aの先端から水28aを吐出させる。この動作は、例えば試薬添加ノズル26aを洗浄ポート(図示せず)に移動させた上で行われる。そして、バルブ27cを閉じると、試薬添加ノズル26aの先端から第1流路27e、シリンジ27a及び第2流路27fまで水が充填された状態となる。
その後、試薬添加ノズル26aの先端が液体に接触していない状態でシリンジ27aが駆動される。これにより、試薬添加ノズル26aの先端から少量の空気28bが吸入される。そして、試薬添加ノズル26aが、混合防止液を収容する容器(図示せず)内に移動し、その混合防止液に試薬添加ノズル26aの先端が接触した状態でシリンジ27aが駆動されることにより、少量の混合防止液28cが吸入される。
混合防止液28cは、試薬添加ノズル26a内に吸入する試薬が水28aに混合するのを防止するための液体である。混合防止液28cは、試薬添加ノズル26a内に吸入する試薬と同一の試薬であってもよいし、他の試薬又は専用の液体などであってもよい。具体的には、メタノール、アセトニトリルなどを混合防止液28cとして使用することができる。
混合防止液28cを吸入した後、試薬添加ノズル26aは、その先端が液体に接触していない状態とされた上でシリンジ27aが駆動される。これにより、試薬添加ノズル26aの先端から少量の空気28dが吸入される。そして、試薬添加ノズル26aが、試薬設置部8の試薬容器10内に移動し、その試薬容器10内に収容されている試薬に先端が接触した状態でシリンジ27aが駆動されることにより、試薬28eが吸入される。
このとき試薬添加ノズル26a内に吸入される試薬28eは、その後に吐出される試薬の量(必要量28f)に、余分量28gを加えた量の試薬である。余分量28gは、試薬の必要量28fが水28aや混合防止液28cに混合するのを防止するための液体である。 これにより、試薬添加ノズル26a内への液体及び気体の吸入処理が終了する。その後、試薬添加ノズル26aは分注ポート32に移動され、シリンジ27aが駆動されることにより上記必要量28fの試薬が分離容器50内に吐出される。試薬添加ノズル26a内に残った余分量28g、混合防止液28c、空気28b、28d及び水28aは、シリンジ27aの駆動によって廃棄される。
図10は、分析システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。以下の説明において「ポート」とは、分離容器50又は回収容器54が設置される濾過ポート30、分注ポート32、攪拌ポート36a、温調ポート38,40及び転送ポート43などの複数種類のポートのうちのいずれかを意味している。
前処理装置1に備えられている操作表示部1a、試料設置部2、試薬設置部8、容器保持部12、サンプリングアーム20、搬送アーム24、試薬アーム26、試薬添加機構27、攪拌部36、試料転送部42及び負圧負荷機構55の動作は、制御部84により制御される。制御部84は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含み、当該CPUがプログラムを実行することにより、前処理手段84a、処理状況管理手段84b、ランダムアクセス手段84c、選択受付手段84d、吸入量受付手段84f、表示制御手段84g及びパラメータ算出手段84hなどとして機能する。
制御部84には、例えばパーソナルコンピュータ(PC)や専用のコンピュータにより構成される演算処理装置90が接続されており、分析者は演算処理装置90を介して前処理装置1を管理することができる。演算処理装置90には、前処理装置1だけでなく、前処理装置1で前処理が実行された試料が導入されるLC100及びMS200や、LC100への試料の注入を行うオートサンプラ101などが接続されており、演算処理装置90により、これらの装置を連動させて自動制御することができるようになっている。
既述の通り、試料設置部2には複数の試料容器が設置されており、それらの試料容器に収容されている試料が分離容器50に順次分注され、その試料に対して実行されるべき前処理項目に対応するポートに分離容器50が搬送される。前処理手段84aは、各ポートに分離容器50又は回収容器54が設置されたときに、そのポートにおける所定の処理を実行する。
前処理手段84aには、試薬の分注に関する処理を行うための吸入処理手段84m及び吐出処理手段84nが含まれる。吸入処理手段84mは、図9を用いて説明したような態様でモータ27b、バルブ27c及びポンプ27dを駆動させることにより、試薬添加ノズル26a内に液体及び気体を吸入させる処理を行う。
すなわち、吸入処理手段84mは、試薬添加ノズル26内に水28aを満たした状態で、試薬添加ノズル26内に空気28bを吸入させた後、混合防止液28cを吸入させ、空気28dを再度吸入させてから、試薬28eを吸入させる処理を行う吸入処理部として機能する。また、吐出処理手段84nは、吸入処理手段84mの処理の後に、試薬添加ノズル26内の試薬28eを必要量28fだけ吐出させて試料に添加させる処理を行う吐出処理部として機能する。
ランダムアクセス手段84cは、各ポートにおける前処理の状況を確認し、そのポートでの前処理が終了した分離容器50を次の前処理を行うためのポートに搬送するように、搬送アーム24の動作を制御する。すなわち、ランダムアクセス手段84cは、各試料に対して次に行うべき前処理項目を確認し、その前処理項目に対応するポートの空き状況を確認し、空きがあればその試料を収容した分離容器50又は回収容器54を当該ポートに搬送させる。また、各試料に対して次に行うべき前処理項目に対応するポートの空きがない場合には、ランダムアクセス手段84cは、そのポートが空き次第、対象の分離容器50又は回収容器54を当該ポートに搬送させる。
処理状況管理手段84bは、各ポートの空き状況や各ポートでの処理状況を管理する。各ポートの空き状況は、どのポートに分離容器50又は回収容器54を設置したかを記憶することにより管理することができる。また、各ポートに分離容器50又は回収容器54が設置されているか否かを検知するセンサを設け、そのセンサからの信号に基づいて各ポートの空き状況を管理してもよい。
各ポートにおける処理状況は、そのポートに分離容器50又は回収容器54が設置されてから、当該ポートで実行される前処理に要する時間が経過したか否かにより管理することができる。転送ポート43における処理(オートサンプラ101による試料吸入)の状況については、オートサンプラ101側から試料吸入が終了した旨の信号を受信したか否かにより管理してもよい。
ここで、濾過ポート30は2つ、攪拌ポート36aは3つ、温調ポート38,40はそれぞれ4つずつ設けられているが、これらの同じ前処理を実行するポート間には優先順位が設定されており、ランダムアクセス手段84cは優先順位の高いポートから順に使用するように構成されている。例えば、試料の濾過を実行する際に、2つの濾過ポート30がいずれも空いている場合には、優先順位の高い濾過ポート30に回収容器54が設置され、その回収容器54上に分離容器50が設置される。
試料の分析を行う際には、分析者が操作表示部1aを操作することにより、試料の分析項目を選択する。分析項目は、例えばLC100やMS200における分析対象となる成分名により選択される。そして、分析者は、さらに操作表示部1aを操作することによって、選択された分析項目について、その分析項目を実行するために必要な前処理項目の設定及び選択を行うことができる。すなわち、選択された分析項目について、任意の前処理項目を1つ又は複数選択して、前処理装置1において実行されるように設定することができる。
このとき、試薬の分注処理に関しては、試料に添加させる試薬28eの必要量28gが設定される他、分析者が操作表示部1aを操作することにより、試薬添加ノズル26内に吸入される混合防止液28cの種類及び量を設定することができるようになっている。選択受付手段84dは、試薬添加ノズル26内に吸入される混合防止液28cの種類が選択された場合に、その選択を受け付ける選択受付部として機能する。また、吸入量受付手段84fは、試薬添加ノズル26内に吸入される混合防止液28cの量が設定された場合に、その量の設定を受け付ける吸入量受付部として機能する。
前処理手段84a、処理状況管理手段84b及びランダムアクセス手段84cは、前処理実行部84eを構成している。この前処理実行部84eは、選択受付手段84d及び吸入量受付手段84fにより受け付けられた設定を含む各種設定に基づいて、各ポートにより構成される前処理部、サンプリングアーム20、搬送アーム24及び試薬アーム26などを制御する。このとき、前処理実行部84eは、異なる試料についてそれぞれ設定された複数種類の前処理を同時並行的に実行するように制御を行う。
すなわち、複数種類の前処理に対応する各ポートには、それぞれ異なる試料が収容された分離容器50又は回収容器54が逐次搬送され、各試料に対する前処理が並行して実行される。前処理実行部84eは、処理状況管理手段84bによる管理に基づいて、異なる試料について同一のポートで同時に前処理が実行されることがないように制御を行う。なお、同一の前処理について複数のポートが設けられている場合には、各ポートが個別の前処理部を構成している。
このように、本実施形態では、複数のポート(前処理部)に対して、搬送アーム24により任意の分離容器50又は回収容器54を順次搬送し、各ポートにおいて同時並行的に前処理を実行させることができる。これにより、いずれかの試料に対する前処理に時間がかかった場合であっても、他の試料の前処理を先に進めることが可能となり、無駄な待ち時間の発生を抑制することができる。
また、試料ごとに複数種類の前処理、及び、各前処理のパラメータを設定することができるため、各試料に対してバリエーションに富んだ複数種類の前処理を実行することができる。このような場合であっても、複数のポートに対して、搬送アーム24により任意の分離容器50又は回収容器54を順次搬送して前処理を実行させることができるとともに、異なる試料について同一のポートで同時に前処理が実行されることがないように制御されるため、前処理の設定の自由度が高く、かつ、前処理効率を向上させることができる。
表示制御手段84gは、操作表示部1aに対する表示を制御するための表示制御部として機能する。この表示制御手段84gの制御により、操作表示部1aに各種表示画面を切り替えて表示させることができる。本実施形態では、前処理装置1の動作に関する情報を表示するための装置状態画面や、条件の設定を受け付けるための条件設定画面などが、表示制御手段84gの制御によって操作表示部1aに表示される。選択受付手段84d及び吸入量受付手段84fにより受け付けられた設定の内容も、表示制御手段84gの制御によって操作表示部1aに表示される。
パラメータ算出手段84hは、試薬添加ノズル26内に吸入される試薬28e及び混合防止液28cの組み合わせに基づいて、試薬の分注時における各種パラメータを自動で算出するパラメータ算出部として機能する。すなわち、試薬の分注時に用いられるパラメータの少なくとも1つは、選択受付手段84dにより選択が受け付けられた混合防止液28cの種類に基づいて算出される。
上記パラメータとしては、試薬添加ノズル26内への空気28b、28dの吸入量、混合防止液28cの吸入量、吸入速度、吸入後の待ち時間、吐出速度、及び、試薬28eの余分量28gなどを例示することができる。ここで、空気28b、28d及び混合防止液28cの吸入量が多いほど、試薬28eと混合防止液28cとが混合しにくくなる。また、試薬添加ノズル26における液体及び気体の吸入速度及び吐出速度が速いほど、試薬28eと混合防止液28cとが混合しやすくなる。また、試薬添加ノズル26内に試薬28e及び混合防止液28cを吸入した後の待ち時間が長いほど、試薬28eと混合防止液28cとが混合しにくくなる。パラメータ算出手段84hは、試薬28eと混合防止液28cとが最も混合しにくくなるように、これらのパラメータを算出する。なお、上記各種パラメータの全てがパラメータ算出手段84hにより算出されるような構成に限らず、少なくとも1つのパラメータが算出されるような構成であればよい。
図11Aは、操作表示部1aに表示される装置状態画面300の一例を示す図である。装置状態画面300は、前処理装置1の動作に関する情報を表示するための画面であり、この例では、前処理装置1での試料に対する前処理の実行状況が表示される。具体的には、前処理装置1の試料設置部2を表すシンボル画像301が表示され、当該シンボル画像301中に、試料設置部2における試料容器6の保持位置に対応付けて、各試料容器6の試料に対する前処理の実行状況が表示されるようになっている。
シンボル画像301は、実際の試料設置部2と同じく、円環状に並べて設定された複数のサンプルラック4に対応付けて複数の円弧状の領域に分割されており、円弧状の各領域に試料容器6に対応する切替領域302が複数設けられている。これらの各試料容器6に対応する切替領域302の表示態様(例えば色)を切り替えることにより、その表示態様に応じて各試料容器6の試料に対する前処理の実行状況が表示されるようになっている。
なお、上記実施形態では、各サンプルラック4に8個の試料容器6が保持されるような構成について説明したが、図11Aでは、各サンプルラック4に10個の試料容器6が保持される場合について示されている。このように、各サンプルラック4に保持される試料容器6の数は、任意の数に設定することができる。また、試料設置部2は、複数のサンプルラック4に分割して試料容器6が設置されるような構成に限られるものではない。
試料に対する前処理の実行状況としては、まだ前処理が実行されていない「分析待ち」、前処理は開始されているが分析結果がまだ得られていない「分析中」、分析データが正常に得られた「正常終了」、前処理中又は分析中に異常が生じた「異常終了」、得られた分析データが異常である「データ異常」などを例示することができる。この例では、10個の試料容器6に対応する切替領域302が「分析待ち」の表示態様に切り替えられ、2個の試料容器6に対応する切替領域302が「分析中」の表示態様に切り替えられ、1個の試料容器6に対応する切替領域302が「データ異常」の表示態様に切り替えられている。
シンボル画像301の中央部には、前処理装置1の動作状態が表示されている。この例では、前処理装置1が動作中であるため「分析中」と表示されているが、例えば前処理装置1が停止しているときには「停止中」などと表示される。また、シンボル画像301の上方には、分析中の各試料について実行済みの前処理の工程を表示するための前処理工程表示領域303が設けられている。
本実施形態では、装置状態画面300の一部に、前処理装置1の動作に関する情報を表示するための前処理情報表示領域304、LC100の動作に関する情報を表示するためのLC情報表示領域305、及び、MS200の動作に関する情報を表示するためのMS情報表示領域306などが設けられている。
前処理情報表示領域304に表示される情報としては、演算処理装置90に対する前処理装置1の接続状態341、濾過ポート30における圧力342、分離容器50と回収容器54のセットの数(残数や使用予定数など)343、前処理装置1の各部(試薬の保冷部や温調ポート38,40など)の温度344、洗浄時や分注時に使用する水を貯留するための純水タンクの状態345、洗浄時や分注時に使用する水を脱気するためのポンプの状態346、洗浄時に使用した水を廃液するための廃液タンクの状態347、使用済みの分離容器50及び回収容器54が廃棄される廃棄ボックスの状態348、洗浄時や分注時に使用する水を送り出すためのポンプの状態349などを例示することができる。前処理情報表示領域304には、これらの情報のうち少なくとも1つが表示されてもよいし、前処理装置1が動作する際の条件として設定された他の各種パラメータや、前処理装置1の他の各部の状態などが表示されてもよい。
LC情報表示領域305に表示される情報としては、演算処理装置90に対するLC100の接続状態351、カラムに試料と移動相を送るポンプの圧力352、カラムを加熱するオーブンの温度353などを例示することができる。LC情報表示領域305には、これらの情報のうち少なくとも1つが表示されてもよいし、LC100が動作する際の条件として設定された他の各種パラメータや、LC100の他の各部の状態などが表示されてもよい。例えば、LC100におけるオートサンプラのニードル下降ストローク、サンプル吸引速度、ニードル洗浄時間、ポンプの移動相の流量、移動相の混合比率、カラムオーブンの上限設定温度などがLC情報表示領域305に表示されてもよい。上記の中で分析データに影響が大きいパラメータとして、ポンプの移動相の圧力、流量、オーブン温度が表示されるのが好ましい。
MS情報表示領域306に表示される情報としては、演算処理装置90に対するMS200の接続状態361、MS200で使用されるガスの流量362、MS200の各部の温度363、MS200の各部の真空度364などを例示することができる。MS情報表示領域306には、これらの情報のうち少なくとも1つが表示されてもよいし、MS200が動作する際の条件として設定された他の各種パラメータや、MS200の他の各部の状態などが表示されてもよい。例えば、MS200のネブライザーガス流量、ドライイングガス流量、インターフェイス電圧/電流、DL(脱溶媒管)温度、ヒートブロック温度、検出器電圧、各真空室の真空度、CIDガス圧力などがMS情報表示領域306に表示されてもよい。上記の中で分析データに影響が大きいパラメータとして、ネブライザーガス流量、ドライイングガス流量、DL温度、ヒートブロック温度、真空度が表示されるのが好ましい。
前処理情報表示領域304、LC情報表示領域305及びMS情報表示領域306の少なくとも1つには、異常情報を表示させるための異常表示領域340,350,360が設けられている。前処理情報表示領域304には、例えば演算処理装置90に対する前処理装置1の接続状態341、洗浄時や分注時に使用する水を貯留するための純水タンクの状態345、洗浄時や分注時に使用する水を脱気するためのポンプの状態346、洗浄時に使用した水を廃液するための廃液タンクの状態347、使用済みの分離容器50及び回収容器54が廃棄される廃棄ボックスの状態348、洗浄時や分注時に使用する水を送り出すためのポンプの状態349などに対応付けて、異常表示領域340が設けられている。LC情報表示領域305には、例えば演算処理装置90に対するLC100の接続状態351に対応付けて異常表示領域350が設けられている。MS情報表示領域306には、例えば演算処理装置90に対するMS200の接続状態361に対応付けて異常表示領域360が設けられている。
各異常表示領域340,350,360は、対応する状態が異常である場合に、その異常情報を表示するためのものであり、例えば状態が正常である場合と異常である場合とで異なる色で表示されることにより、異常が表示されるようになっている。ただし、異常表示領域350,360により異常情報が表示されるLC100又はMS200の状態は、接続状態351,361に限られるものではなく、他の各種状態について異常を表示することができる。また、各異常表示領域340,350,360による異常情報の表示は、色の切替によるものに限らず、例えば点灯又は点滅の切替など、他の各種態様により行うことができる。
装置状態画面300の一部(例えば最上部)には、分析を開始させる際に選択される開始キー307、分析を一時停止させる際に選択される一時停止キー308、緊急時に警報を発して緊急停止させるために選択される警報停止キー309などの他、操作表示部1aの表示を装置状態画面300から条件設定画面に切り替える際に選択される画面切替キー310などが表示されている。分析者は、予め登録されている分析メソッドを選択した後、開始キー307を選択することにより、前処理装置1からの指示で容易に分析を開始させることができる。
図11Bは、操作表示部1aに表示される条件設定画面400の一例を示す図である。この条件設定画面400では、前処理選択領域401に任意の前処理項目(試料分注、試薬分注、攪拌、濾過、温調など)を追加することにより、試料に対する前処理の条件を設定することができる。前処理選択領域401に前処理項目を追加する際には、追加キー402が選択され、追加した前処理項目を削除する際には、削除キー403が選択される。
前処理選択領域401に追加された各前処理項目については、その前処理項目を実行する際の条件を設定することができる。各条件の設定は、前処理選択領域401内に設けられた各条件に対応する条件設定領域404に対する操作により行うことができる。
「試薬分注」の前処理項目については、例えば試薬28eの液量、試薬28eの種類、混合防止液28cの種類、及び、混合防止液28cの液量などの条件を条件設定領域404において設定することができる。この他にも、「試薬分注」の前処理項目については、空気28b、28dの吸入量などが設定できてもよい。「攪拌」の前処理項目については、例えば攪拌時間及び回転数などの条件を条件設定領域404において設定することができる。「濾過」の前処理項目については、例えば濾過時間などの条件を条件設定領域404において設定することができる。「温調」の前処理項目については、例えば温調時間などの条件を条件設定領域404において設定することができる。
この図11Bに示すような条件設定画面400で各種条件の設定を行った上で、開始キー307を選択すれば、設定された条件に基づいて自動でパラメータが算出され、その算出されたパラメータを用いて分析が開始される。例えば、「試薬分注」の前処理項目について、試薬28e及び混合防止液28cの種類が条件設定領域404で選択された場合には、それらの試薬28e及び混合防止液28cの組み合わせに基づいて、パラメータ算出手段84hによりパラメータが算出される。
本実施形態では、図9に示すように、試薬添加ノズル26内の水28aと試薬28eとの間に、空気28b,28dを挟んで混合防止液28cが吸入される。これにより、例えば有機溶媒を含む試薬28eのように、粘性及び表面張力が小さい試薬28eを試薬添加ノズル26内に吸入する場合などであっても、試薬添加ノズル26内に吸入した試薬28eが薄まりにくい。したがって、試薬28eが薄まることに起因して分析精度が低下するのを防止することができる。
特に、本実施形態では、複数種類の混合防止液28cの中から使用する混合防止液28cを選択することができる。これにより、試薬28eの種類などに応じて最適な混合防止液28cを選択することができるため、試薬添加ノズル26内に吸入する試薬28eをより薄まりにくくすることができる。
また、試薬添加ノズル26内に吸入される混合防止液28cの量を設定することができるため、試薬28eの種類などに応じて混合防止液28cの量を最適な値に設定することによって、試薬添加ノズル26内に吸入する試薬28eをより薄まりにくくすることができる。
さらに、本実施形態では、試薬28e及び混合防止液28cの組み合わせに基づいて、試薬添加ノズル26内に吸入する試薬28eが薄まりにくくなるようなパラメータを自動で算出することができる。したがって、パラメータの設定が難しい場合であっても、試薬28eを確実に薄まりにくくすることができる。このとき、上記パラメータに余分量28gが含まれていれば、当該余分量28gについても最適な値が自動で算出されるため、試薬をより確実に薄まりにくくすることができる。
図12A及び図12Bは、前処理装置1の動作の一例を示すフローチャートである。図12A及び図12Bでは、1つの試料についての前処理の流れのみを示しており、この前処理の動作は他の試料の前処理動作と同時並行的にかつ独立して実行される。「前処理が同時並行的にかつ独立して実行される」とは、ある試料について各ポートで前処理が行われている間も、別の試料を収容した分離容器50又は回収容器54が搬送アーム24により他のポートに搬送され、その試料の前処理が独立して実行されることを意味している。
まず、試料に対して分析者が予め指定した分析項目の確認が行われ(ステップS1)、その分析項目を実行するために必要な前処理項目が割り出される。そして、分注ポート32が空いているか否かが確認され、分注ポート32が空いていれば(ステップS2でYes)、その試料を収容するための未使用の分離容器50が搬送アーム24により容器保持部12から取り出され、当該分注ポート32に設置される(ステップS3)。このとき、容器保持部12には分離容器50と回収容器54が重ねられた状態(図5の状態)で設置されているが、搬送アーム24は、上側の分離容器50のみを保持部25で保持して分注ポート32へ搬送する。
その後、分注ポート32内の分離容器50に対して、サンプリングノズル20aにより試料が分注される(ステップS4)。分離容器50に試料を分注したサンプリングノズル20aは、洗浄ポート45において洗浄が行われた後、次の試料の分注に備えることとなる。試料が分注された分離容器50には、その試料に対して実行すべき前処理に応じた試薬が試薬添加ノズル26aにより試薬容器10から分注される(ステップS5)。なお、分離容器50への試薬の分注は、試料の分注の前に実行されてもよい。また、試薬を分注するための試薬分注用ポートを分注ポート32とは別の位置に設けて、その試薬分注用ポートに搬送アーム24で分離容器50を搬送し、当該試薬分注用ポートにおいて試薬の分注が行われるような構成であってもよい。
このようにして分離容器50に試料及び試薬が分注された後、攪拌ポート36aの空き状況が確認される(ステップS6)。そして、攪拌ポート36aに空きがあれば(ステップS6でYes)、分注ポート32内の分離容器50が、その空いている攪拌ポート36aへと搬送アーム24により搬送され、攪拌処理が行われる(ステップS7)。この攪拌処理は、予め設定された一定時間だけ行われ、これにより分離容器50内の試料と試薬が混合される。
攪拌処理中には、濾過ポート30の空き状況が確認される(ステップS8)。そして、濾過ポート30に空きがあれば(ステップS8でYes)、搬送アーム24により回収容器54を濾過ポート30へと搬送する(ステップS9)。このとき濾過ポート30に設置される回収容器54は、攪拌ポート36aにおいて攪拌中の分離容器50と対をなす回収容器54であり、容器保持部12において当該分離容器50と重ねた状態で設置されていた回収容器54である。なお、この攪拌処理中に、搬送アーム24により別の分離容器50や回収容器54を搬送することもできる。
攪拌部36における攪拌処理が終了すると、搬送アーム24により攪拌ポート36aから濾過ポート30へと分離容器50が搬送され、図6Dのように濾過ポート30内の回収容器54上に分離容器50が設置される(ステップS10)。このとき、分離容器50のスカート部51の下端が濾過ポート30の周囲に設けられた封止部材60の上面の高さよりも僅かに(例えば0.1mm程度)低くなるまで、分離容器50が搬送アーム24により設置空間30a側に押圧される。これにより、封止部材60がスカート部51の下端により押し潰されるため、スカート部51の下端と封止部材60との間の気密性が向上する。
分離容器50及び回収容器54が設置された濾過ポート30の設置空間30aには、負圧負荷機構55によって所定の負圧が負荷される。濾過ポート30の設置空間30aに負圧が負荷された状態で一定時間維持されることにより、分離容器50の試料が濾過され、回収容器54に試料が抽出される(ステップS11)。この濾過処理中にも、搬送アーム24により別の分離容器50や回収容器54を搬送することができる。
なお、この前処理動作には組み込まれていないが、分離容器50内の試料の攪拌処理後に、分離容器50内の試料を一定時間だけ一定温度下で維持する温調処理が組み込まれている場合もある。その場合には、攪拌処理の終了後、温調ポート38の空き状況が確認され、空きがあれば、その空いている温調ポート38に分離容器50が搬送される。そして、一定時間が経過した後、温調ポート38内の分離容器50が濾過ポート30へと搬送され、当該濾過ポート30内の回収容器54上に設置される。
試料の濾過処理が終了した後、3方バルブ64(図7参照)が切り替えられることにより、濾過ポート30の設置空間30a内が大気圧とされる。そして、使用済みの分離容器50は、搬送アーム24の保持部25により濾過ポート30から取り出され、廃棄ポート34に廃棄される(ステップS12)。
その後、転送ポート43の空き状況が確認され、転送ポート43が空いていれば(ステップS13でYes)、濾過ポート30内の回収容器54が搬送アーム24により試料転送部42へと搬送され、転送ポート43上に設置される。そして、移動部44が、隣接配置されたオートサンプラ101側の位置(図2で破線で示された位置)へ移動することにより、回収容器54がオートサンプラ101側へ転送される(ステップS14)。オートサンプラ101側では、試料転送部42から転送された回収容器54内に対して、サンプリング用ノズルによる試料の吸入が行われる。
移動部44は、オートサンプラ101における試料吸入が終了するまでオートサンプラ101側の位置で停止しており、試料吸入が終了した旨の信号をオートサンプラ101から受信すると(ステップS15でYes)、元の位置(図2に実線で示された位置)に戻る。試料の転送が終了した後、使用済みの回収容器54は、搬送アーム24により転送ポート43から回収され、廃棄ポート34に廃棄される(ステップS16)。
なお、この前処理動作には組み込まれていないが、試料の濾過処理後に、回収容器54に抽出された試料を一定時間だけ一定温度下で維持する温調処理が組み込まれている場合もある。その場合には、温調ポート40の空き状況が確認され、空きがあれば、その空いている温調ポート40に回収容器54が搬送される。そして、一定時間が経過した後、温調ポート40内の回収容器54が転送ポート43へと搬送され、試料の転送が行われる。
以上の実施形態では、図2に示すように、容器ラック16に対して前処理キットが2列で保持されるような構成について説明した。しかし、容器ラック16は、前処理キットを1列で保持するような構成であってもよいし、3列以上で保持するような構成であってもよい。また、複数の保持位置53は、円環状に並べて配置された構成に限られるものではなく、例えば円弧状又は直線状などの他の態様で並べて配置された構成であってもよい。
また、以上の実施形態では、濾過ポート30の設置空間30a内を負圧とすることにより、分離容器50内の試料が分離されるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、分離容器50内を加圧することにより、分離容器50内の試料が分離されるような構成であってもよい。
前処理装置1の制御部84と演算処理装置90は、別々に設けられた構成に限らず、1つの制御部によって分析システム全体の動作が制御されるような構成であってもよい。すなわち、演算処理装置90が省略され、前処理装置1とLC100又はMS200との間で、情報が直接送受信されるような構成であってもよい。
以上の実施形態では、余分量28gとして、必要量28fよりも多い量の試薬28eを試薬添加ノズル26内に吸入するような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、混合防止液28cによって試薬28eが薄まることを十分に防止できれば、試薬28eを必要量28fだけ吸入するような構成であってもよい。