以下、実施形態によるサスペンション制御装置について、当該サスペンション制御装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4および図5に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
図1ないし図5は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディとなる車体1の下側(路面側)には、車体1と共に車両を構成する車輪、例えば、左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪2,3が設けられている。各車輪2,3には、それぞれの車輪2,3に制動力を付与するディスクブレーキ4が設けられている。
車体1と各車輪2,3との間には、それぞれがサスペンション装置としての電磁サスペンション装置5(以下、電磁サス5という)が介装して設けられている。電磁サス5は、図示しない懸架ばね(スプリング)と、該各懸架ばねと並列関係をなして車体1側と車輪2,3側との間に設けられたそれぞれがアクチュエータとしての電磁アクチュエータ6とを含んで構成されている。各電磁アクチュエータ6は、車体1側と車輪2,3側との間で発生する力を調整可能な力発生機構となるものである。
図1に示すように、各電磁サス5(の電磁アクチュエータ6)は、動力線13を介して制御装置7と接続されている。制御装置7は、各電磁サス5、より具体的には、各電磁サス5の電磁アクチュエータ6を制御する。制御装置7は、各電磁サス5と共にサスペンション制御装置を構成している。
図2に示すように、制御装置7は、(1個の)コントローラ8と、(4個の)インバータ10と、(4組の)フェイルリレー14とを含んで構成されている。コントローラ8は、車両に設けられた各種センサ(図示せず)と接続されており、例えば、車体1の上下加速度、横加速度、前後加速度、車速、操舵角等の車両情報(車両の各種状態量)に対応する信号が入力される。
この場合、コントローラ8は、電磁サス5の各種センサとも接続されており、例えば、電磁アクチュエータ6の電流、位置(ストローク位置、相対位置、絶対位置)、コイル部材25の温度等、電磁アクチュエータ6の各種状態量に対応する信号も入力される。さらに、電磁アクチュエータ6の電流と位置に対応する信号は、インバータ10にも入力(フィードバック)される。
ここで、コントローラ8は、指令線9を介してインバータ10と接続されている。コントローラ8は、車両の乗り心地と操縦安定性を向上すべく、車両情報と特定の制御則(例えばスカイフック制御等)とに基づいて、電磁アクチュエータ6で出力すべき力となる制御力(目標推力、目標減衰力)を演算し、該制御力に対応する指令信号をインバータ10に出力する。さらに、コントローラ8は、後述するように、電磁アクチュエータ6の状態量に基づいて電磁アクチュエータ6の異常を検知する異常検知部(図4のS1の処理)と、異常の検知に基づいてフェイル時の制御であるフェイル制御(フェイルリレー14の開閉)を行うフェイル制御部(図4のS2〜S9の処理)とを有している。
インバータ10は、電力線11を介して車両の電源12と接続されると共に、動力線13を介して各電磁サス5(各電磁アクチュエータ6)と接続されている。インバータ10は、例えばトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数のスイッチング素子を含んで構成され、各スイッチング素子は、その開・閉がコントローラ8からの指令信号に基づいて制御される。
インバータ10は、コントローラ8からの指令信号と車両の電源12からの電力とに基づいて、各輪に配置された電磁サス5(の各電磁アクチュエータ6)を駆動する。電磁アクチュエータ6の力行時は、電源12からインバータ10を経由して、電磁アクチュエータ6に電力が供給される。このとき、インバータ10は、電源12から電力線11を介して供給される直流電力から3相(U相、V相、W相)の交流電力を生成し、動力線13を介して各電磁アクチュエータ6の各コイル25A,25B,25Cに電力を供給する。一方、電磁アクチュエータ6の回生時は、電磁アクチュエータ6で発電された電力がインバータ10を経由して電源12に戻る。
電磁アクチュエータ6の電源12は、例えば内燃機関であるエンジンが搭載された車両であれば、電磁アクチュエータ6専用の電源(蓄電装置)、および/または、エンジンにより回転駆動されるオルタネータにより構成することができる。オルタネータを電源12とする場合、必要に応じて、オルタネータで発電される電力を超えるピーク電力の供給(放電)と回生電力の蓄電(充電)とを行うためのキャパシタ、バッテリ等を設ける構成とすることができる。一方、エンジンと走行用の電動モータとが搭載されたハイブリッド式の車両(ハイブリッド自動車)、または、走行用電動モータのみが搭載された車両(電気自動車)では、車両駆動用の大容量バッテリを電源12とすることができる。この場合、車両駆動用の大容量バッテリから直接電力を受ける構成、または、DC/DCコンバータ等の電圧変換装置を介して昇圧または降圧された電力を用いる構成とすることができる。
フェイルリレー14は、インバータ10と電磁アクチュエータ6との間に設けられている。フェイルリレー14は、リレー信号線15を介してコントローラ8と接続されている。フェイルリレー14は、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)をフェイル制御するときに、コントローラ8からのリレー信号(リレー開閉信号、リレー切換信号)に基づいて動作する。この場合、フェイルリレー14は、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)が正常のときは、インバータ10と電磁アクチュエータ6とを導通させる。
これに対し、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)が異常(フェイル)のときは、フェイルリレー14は、インバータ10と電磁アクチュエータ6との間の動力線13(例えば、U相、V相、W相)を短絡させる。これにより、電磁アクチュエータ6のコイル部材25で、閉ループ回路が構成される。この場合、電磁アクチュエータ6は、コイル部材25と永久磁石34との相対変位(ストローク)によりコイル部材25(の各コイル25A,25B,25C)に生じる起電力によって、減衰力となる抵抗力を発生させることができる。即ち、電磁アクチュエータ6は、外部からの電力の供給を受けずに、変位速度(ストローク速度、伸長・縮小速度)に応じた減衰力(ソフト特性の減衰力)を発生させることができる。
次に、電磁サス5を構成する電磁アクチュエータ6について、図3を参照しつつ説明する。
電磁アクチュエータ6は、車体側に配置される固定子21と、車輪側に配置される可動子22とを有し、これら固定子21(のコイル部材25)と可動子22(の永久磁石34)とにより3相リニア同期モータを構成している。即ち、電磁アクチュエータ6は、車体(ばね上部材)と車輪(ばね下部材)との間に介装され、相対変位可能な同軸状の内筒(変位部材)と外筒(変位部材)とのうちの内筒に対応するロッド26にコア24を介して設けられたコイル部材25(コイル25A,25B,25C)と、外筒に対応するチューブ(ヨーク)30に設けられコイル部材25と対向する磁性部材としての永久磁石34とからなる筒状リニア電磁式アクチュエータとして構成されている。
なお、図示は省略するが、電磁アクチュエータ6は、径方向内側に配置される内筒と径方向外側に配置される外筒とのうちの外筒にコイル部材(コイル)を設け、内筒に磁性部材(永久磁石)を設ける構成としてもよい。換言すれば、電磁アクチュエータ6は、変位可能な一対の変位部材間(例えば、外筒と内筒との間)にモータを設けてなるものである。この場合、電磁アクチュエータ6は、実施形態のようなリニアモータを用いる構成の他、例えば、回転モータと回転直動変換機構(例えば、ボールナット機構)とを用いる構成とすることもできる。
車体側に配置される固定子21は、電機子23とロッド26とにより大略構成されている。電機子23は、磁性体からなるコア24と、該コア24に設けられコイル部材25を構成する複数のコイル25A,25B,25C(U相コイル25A,V相コイル25B,W相コイル25C)とにより構成されている。
コア24は、例えば圧粉磁心や積層された電磁鋼板、磁性体片より切削加工等によって形成され、その形状は、全体として略円筒状となっている。一方、各コイル25A,25B,25Cは、それぞれ所定の方向に巻かれてコア24の外周面側に収容され、可動子22(の永久磁石34)の内周面と対向して配置されている。
具体的には、コイル25A,25B,25Cは、略筒状のコア24の外周面側に位置して該コア24の周方向に配置されると共に、該コア24の軸方向の6箇所位置に軸方向に離間して配置されている。コイル25A,25B,25Cには、それぞれ動力線13が接続され、インバータ10からフェイルリレー14を介して電力が供給される。
なお、コイル25A,25B,25Cの個数は、図示したものに限らず、3個や9個、12個等、設計仕様等に応じて適宜設定することができる。また、軸方向に隣合う6個のコイル25A,25B,25Cは、例えば電気角でそれぞれ120°の位相差をもつように配置される。この場合、U相コイル25A,V相コイル25B,W相コイル25Cの配置は、図示したものに限らず、例えば、各相を(2個ずつ)連続して配置してもよい。さらに、各コイル25A,25B,25C間の配線方法も、例えば電源12側の電圧や電流仕様に応じて適宜選択することができる。コア24の形状に関しても、図示したものに限らず、例えばコイル保護用の凸部や推力脈動低減用の曲線部等を設ける構成としてもよい。
一方、内筒としてのロッド26は、略円筒状に形成され、ストローク方向となる軸方向(図2の左,右方向)に延び、基端側(図2の左端側)がコア24の内側に固定(嵌着)されている。ロッド26の先端側(図2の右端側)は、チューブ30の軸受取付部30Cから突出し、その突出端には、例えば車両のばね上部材(車体側)に取付けられるねじ部26Aが設けられている。ロッド26の内側には、可動子22の案内ロッド31が挿入され、ロッド26の基端側の内周面には、案内ロッド31の外周面と摺接する軸受、スリーブ等の摺動部材からなる第1軸受27が設けられている。
ロッド26の外周面のうち電機子23よりも一端側(図2の右端側)には、円筒状の第1ストッパ部材28と、円筒状の第2ストッパ部材29とが取付けられている。これら第1,第2ストッパ部材28,29は、チューブ30の伸びきり時に該チューブ30の軸受取付部30Cと当接するものである。
第1ストッパ部材28は、ロッド26に対し、例えばねじにより締結され、ロッド26と一体的に構成されている。一方、第2ストッパ部材29は、例えばポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ゴム等の弾性材料により形成され、チューブ30の軸受取付部30Cと当接するときの衝撃を緩和する。さらに、ロッド26内には、コイル25A,25B,25Cと接続される動力線13が配設されている。動力線13は、ロッド26を通じて外部に引き出されている。
車輪側に配置される可動子22は、界磁を構成するもので、ストローク方向となる軸方向の相対変位を可能に固定子21に組み付けられている。可動子22は、電機子23(コア24およびコイル25A,25B,25C)の外周側に配置される外筒としてのチューブ(ヨーク)30と、該チューブ30の内側に位置してストローク方向に延びる案内ロッド31と、チューブ30に設けられコイル25A,25B,25Cに対し径方向に隙間をもって対向する磁性部材としての複数の永久磁石34とにより構成されている。
チューブ30は、例えば、磁場の中に置くと磁路を形成する磁性体、例えば機械構造用炭素鋼鋼管(STKM12A)等を用いて有底円筒状に形成され、ストローク方向となる軸方向に延びている。即ち、チューブ30は、磁性体とすることにより、電磁アクチュエータ6の磁気回路(リニアモータの磁気回路)を形成すると共に、後述する永久磁石34の磁束を外部に漏らさないためのカバーとしての役目を有している。
ここで、チューブ30は、軸方向に延びる筒部30Aと、該筒部30Aの他端側(図2の左端側)を閉塞する底部30Bと、筒部30Aの開口側(一端側)に位置して固定子21のロッド26側に向けて径方向内側に全周にわたって突出する軸受取付部30Cとにより構成されている。筒部30Aの内側には、永久磁石34が軸方向に並んで配置されている。
底部30Bには、筒部30Aの内側に位置して底部30Bから電機子23の内側(ロッド26の内側)に延びる案内ロッド31が設けられている。案内ロッド31の外周面は、ロッド26内に設けられた第1軸受27が摺動する。なお、案内ロッド31は、チューブ30の底部30Bに該チューブ30と一体に形成する構成や、チューブ30とは別体の案内ロッド31を底部30Bにねじやボルト等を用いて固定する構成を採用することができる。
また、チューブ30の底部30Bのうち案内ロッド31とは反対側には、車両のばね下部材(車輪側)に取付けられる取付ブラケット30Dが設けられている。一方、軸受取付部30Cの内周面には、ロッド26の外周面と摺接する軸受、スリーブ等の摺動部材からなる第2軸受32が設けられている。また、軸受取付部30Cの内周側で、第2軸受32よりも一端側(図2の右端側)には、外部から水や埃が入るのを阻止するシール33が設けられている。
チューブ30の筒部30Aの内周面側には、磁場を生じさせる部材である磁性部材としての複数の円環状の永久磁石34が軸方向に沿って並んで配置されている。この場合、軸方向に隣合う各永久磁石34は、例えば互いに逆極性になっている。例えば、チューブ30の一端側(左側または右側)から数えて奇数個目の永久磁石34を、内周面側がN極で外周面側がS極のものとすれば、一端側から数えて偶数個目の永久磁石34は、内周面側がS極で外周面側がN極のものとなっている。
この場合、各永久磁石34は、例えば、円筒状に一体に形成されたリング磁石や、円弧状の複数の磁石素子を周方向に並べることにより円環状に構成した分割型のセグメント磁石とすることができる。なお、永久磁石34の個数は、図示の例に限るものではない。即ち、図示の例では、全部で11個ある永久磁石34のうち、コイル25A,25B,25Cと対向する永久磁石34の数は5個であり、5極6スロットの構成としている。残る6個の永久磁石34は、ストロークした際にコイル25A,25B,25Cと対向するように設けられている。実施の形態では5極6スロット構成であるが、例えば4極6スロット構成や、8極6スロット構成としてもよい。また、ストローク量に応じて必要個数の永久磁石34を並べてもよい。
なお、チューブ(ヨーク)30は磁気回路や磁気漏洩の観点から磁性体が好ましいが、第2軸受32と軸受取付部30Cのうちの少なくとも一方は、非磁性体が好ましい。この理由は、次の通りである。即ち、永久磁石34から出る磁束は、電機子23と対向する側(内周面側)では、内周面がN極の永久磁石34から電機子23のコア24を介して内周面がS極の永久磁石34に向かう径路(磁路)となる。
一方、電機子23と対向しない側(外周面側)では、外周面がN極の永久磁石34からチューブ30の筒部30Aを介して外周面がS極の永久磁石34に向かう径路(磁路)となる。ここで、例えば第2軸受32と軸受取付部30Cとの両方を磁性体とした場合、チューブ30の最も一端側(左端側)の永久磁石34の外周面から出る磁束は、該永久磁石34の外周面からチューブ30の筒部30A、軸受取付部30C、第2軸受32、ロッド26、電機子23のコア24を介して、永久磁石34の内周面に戻る径路(磁路)となる。
この場合、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の使用時に、路面からの鉄粉や砂鉄が、磁気を帯びた軸受取付部30C、第2軸受32、ロッド26に付着するおそれがある。このように付着した鉄粉や砂鉄は、容易に剥がすことができず、第2軸受32とロッド26との摺動部位に噛み込まれるおそれがある。そこで、第2軸受32と軸受取付部30Cとのうちの少なくとも一方を非磁性体とすることにより、磁気回路を遮断すれば、鉄粉や砂鉄が付着しても容易に剥がすことが可能になり、第2軸受32とロッド26とを安定して摺動させることができる。
次に、制御装置7が行うフェイル制御(フェイルセーフ制御)について説明する。
上述したように制御装置7は、演算装置(CPU:中央演算処理装置)となるコントローラ8を有している。コントローラ8は、インバータ10を介して電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の動作を制御することに加えて、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の異常(フェイル)を検知する異常検知部(図4のS1の処理)を有している。即ち、コントローラ8は、例えば電磁アクチュエータ6への電流が規定値以上流れた過電流、電流が全く流れない断線、または、過負荷によるコイル部材25の高温等を、異常検知部にて検知する。異常検知部は、検出される電流、温度等が予め設定した閾値(電流閾値、温度閾値)を上回ると、または、下回ると、電磁アクチュエータ6が異常(過電流、断線、高温)であると判定する。
コントローラ8は、異常検知部により異常を検知すると、即ち、電磁アクチュエータ6の電流、温度等が規定の正常範囲外になる(閾値の範囲から外れる)と、後述するフェイル処理を行い、所定の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)に対するフェイル制御を行う。即ち、コントローラ8は、異常検知部による異常の検知に基づいてフェイル制御を行うフェイル制御部(図4のS2〜S9の処理)を有している。この場合、フェイル制御は、インバータ10と電磁アクチュエータ6とを接続する動力線13の途中に設けられたフェイルリレー14を動作させ、電磁アクチュエータ6を構成するコイル部材25が閉ループ回路を構成するように短絡させる制御としている。短絡された(閉ループが構成された)電磁アクチュエータ6は、外部からの電力の供給を受けずに、変位速度(ストローク速度、伸長・縮小速度)に応じた減衰力を発生させることができる。
ところで、車両の左右にそれぞれ配置された電磁サス5(電磁アクチュエータ6)のうちの一方の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)で異常を検知したときに、その異常が検知された一方の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)のみフェイル制御を行うことが考えられる。このフェイル制御としては、コントローラ8からのリレー信号に基づいてフェイルリレー14を動作させ、一方の電磁サス5の電磁アクチュエータ6のみ閉ループとなるように短絡させることが考えられる。
しかし、この場合は、例えば、車両の左右で電磁アクチュエータ6の出力(減衰力)の程度(度合)が相違する(不均衡となる)ことに基づいて、乗り心地が低下するおそれがある。このような左右の一方のみでフェイル制御を行うことによるフェイル制御中の乗り心地の低下は、電磁サス5だけでなく、アクティブサスペンション装置、エアサスペンション装置等の他の種類のサスペンション装置でも生じるおそれがある。
これに対し、異常を検知した一方の電磁アクチュエータ6の制御力の低下を、正常である他方の電磁アクチュエータ6で補う制御を行うことが考えられる。しかし、この場合は、正常である他方の電磁アクチュエータ6で要求される制御力が、例えば両方が正常であるときの1.2倍に増大したと仮定すると、発熱量が推力の2乗で増える。
これにより、他方の電磁アクチュエータ6の発熱量が正常時と比べて1.44倍となる。即ち、他方の電磁アクチュエータ6で消費電力が増大し、効率が低下することに加えて、発熱量の増大に伴って他方の電磁アクチュエータ6の温度が急上昇し、この他方の電磁アクチュエータ6で異常が生じ易くなるおそれがある。換言すれば、2重故障が生じ易くなるおそれがある。
そこで、実施形態では、コントローラ8は、一の車輪の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の異常を検知した場合、一の車輪の左右隣り合う他の車輪の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を、一の車輪の異常に対応したフェイル制御を行うフェイル制御部(図4のS2〜S9の処理)を有している。以下、コントローラ8のフェイル制御部について、車両の4輪の全てに電磁サス5(電磁アクチュエータ6)が設けられている場合を例に挙げて説明する。
フェイル制御部は、4輪の電磁サス5のうちで1輪の電磁サス5のみ異常(フェイル)を検知すると、当該1輪の電磁サス5の電磁アクチュエータ6のみフェイル制御に移行し、正常な他の3輪の電磁サス5の電磁アクチュエータ6は、その後の状況(車体1の動き、他の電磁サス5の異常の検知等)に応じてフェイル制御に移行可能なフェイル制御待機状態とする。即ち、1輪の電磁サス5のみが異常の場合は、コントローラ8からのリレー信号に基づいてフェイルリレー14を動作させ、異常が検知された電磁サス5の電磁アクチュエータ6のみ閉ループとなるように短絡させ、正常な他の3輪の電磁サス5の電磁アクチュエータ6は、そのまま通常の制御を継続する。なお、異常が検知された1輪の電磁サス5の異常に応じて、正常な残り3輪の電磁サス5の電磁アクチュエータ6の制御を通常の制御とは変えてもよい(1輪の異常に対応した制御を残りの3輪で行ってもよい)。
一方、4輪中の2輪の電磁サス5で異常が検知された場合は、異常の状況に応じて、フェイル制御に移行するか通常の制御を継続する(フェイル制御待機状態とする)かが異なる。ここで、例えば、左前輪2と左後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合、正常である右前輪2と右後輪3の電磁サス5で、異常の電磁サス5の制御力の低下を補うように電磁アクチュエータ6の制御力を変更すると、発熱と消費電力の増大に繋がるおそれがある。一方、正常である右前輪2と右後輪3の電磁サス5の電磁アクチュエータ6でそのまま通常の制御を継続すると、悪路走行時の乗り心地の低下や高速走行時の操作性の低下に繋がるおそれがある。
そこで、実施形態では、コントローラ8のフェイル制御部は、左前輪2と左後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合、4輪全ての電磁サス5の電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行する。これにより、一の車輪(左前輪2および左後輪3)の電磁サス5の異常が検知された場合に、一の車輪(左前輪2および左後輪3)の左右隣り合う他の車輪(右前輪2および右後輪3)を、一の車輪の異常に対応したフェイル制御を行う構成としている。
この場合、電磁サス5の電磁アクチュエータ6では、左右同一(4輪同一)の所定のフェイル制御が行われる。即ち、コントローラ8のフェイル制御部は、左右(4輪)の電磁アクチュエータ6がそれぞれ閉ループとなるようにフェイルリレー14を動作させる制御(短絡させる制御)を行う。このとき、車両の運転者は、4輪全ての電磁サス5の電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行することによる乗り心地と操作性の変化により、車両全体の特性がフェイル状態となったことを知ることができる。この場合に、必要に応じて、アラーム、スピーカ、警告ランプ、モニタ等の報知装置により、フェイル制御に移行している旨を運転者に通知することもできる。
なお、右前輪2と右後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合、左前輪2と右後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合、右前輪2と左後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合も、4輪全ての電磁サス5の電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行する。さらに、3輪の電磁サス5で異常が検知された場合も、4輪全ての電磁サス5の電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行する。
これに対し、左右の前輪2の電磁サス5で異常が検知された場合は、その左右の前輪2の電磁アクチュエータ6はフェイル制御に移行し、残りの左右の後輪3の電磁アクチュエータ6はそのまま通常の制御を継続する(フェイル制御待機状態とする)。左右の後輪3の電磁サス5で異常が検知された場合は、その左右の後輪3の電磁アクチュエータ6はフェイル制御に移行し、残りの左右の前輪2の電磁アクチュエータ6はそのまま通常の制御を継続する(フェイル制御待機状態とする)。
このようなコントローラ8で行われる制御処理(フェイル処理)、即ち、コントローラ8が実行する電磁サス5(電磁アクチュエータ6)のフェイル制御のプログラムについて、図4の流れ図を用いて説明する。なお、図4の処理は、コントローラ8に通電している間、所定の制御周期で繰り返し実行される。
コントローラ8の起動(通電開始)により、図4の処理動作がスタートすると、S1では、前後左右の4輪それぞれの電磁サス5の異常(フェイル)を検知する。異常の検知は、例えば、それぞれの電磁サス5の電磁アクチュエータ6毎に設けられた電流センサおよび温度センサから電流および温度を検出し、その検出値が予め設定した閾値(電流閾値、温度閾値)から外れたか否かにより異常の有無を検知(判定)することができる。具体的には、電磁アクチュエータ6の電流が電流閾値よりも大きい場合は、過電流の異常が生じていることを検知できる。電磁アクチュエータ6の電流がゼロ、即ち、電流が流れていない場合は、例えば、動力線13の断線による異常が生じていることを検知できる。電磁アクチュエータ6の温度が温度閾値よりも大きい場合は、過負荷による温度上昇の異常が生じていることを検知できる。
S1で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常が検知されない場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。一方、S1で、「YES」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常が検知されたと判定された場合は、S2に進む。S2では、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が1つであるか否か、即ち、異常の電磁アクチュエータ6が4輪のうちの1輪であるか否かを判定する。
S2で、「YES」、即ち、1輪の電磁アクチュエータ6で異常(フェイル)が検知された場合は、S3に進み、1輪フェイル処理を行う。即ち、S3では、異常が検知された1輪の電磁アクチュエータ6のみフェイル制御に移行し、他の3輪の電磁アクチュエータ6は、その後の状況(車体1の動き、異常の検知等)に応じてフェイル制御に移行可能なフェイル制御待機状態とする。そして、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
一方、S2で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が1輪だけでない場合は、S4に進む。S4では、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が2つであるか否か、即ち、異常の電磁アクチュエータ6が4輪のうちの2輪であるか否かを判定する。
S4で、「YES」、即ち、2輪の電磁アクチュエータ6で異常(フェイル)が検知された場合は、S5に進む。S5では、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が左2輪であるか否かを判定する。S5で、「YES」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が左2輪である場合は、S6に進む。S6では、4輪フェイル処理を行う。即ち、S6では、電磁アクチュエータ6の異常が2輪であっても、4輪全ての電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行する。
一方、S5で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が左2輪でない場合は、S7に進む。S7では、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が右2輪であるか否かを判定する。S7で、「YES」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が右2輪である場合は、S6に進み、4輪フェイル処理を行う。
S7で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が右2輪でない場合は、S8に進む。S8では、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が対角2輪(左前輪2と右後輪3、または、右前輪2と左後輪3)であるか否かを判定する。S7で、「YES」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が対角2輪である場合は、S6に進み、4輪フェイル処理を行う。
さらに、S4で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が2輪でない場合は、3輪または4輪の異常(フェイル)であるため、この場合も、S6に進み、4輪フェイル処理を行う。
一方、S8で、「NO」、即ち、電磁アクチュエータ6の異常(フェイル)が対角2輪でない場合は、前2輪(左右の前輪2)または後2輪(左右の後輪3)の異常(フェイル)となる。この場合は、S9に進んで、2輪フェイル処理を行う。即ち、異常である前2輪(左右の前輪2)または後2輪(左右の後輪3)の電磁アクチュエータ6のみフェイル制御に移行し、正常である後2輪(左右の後輪3)または前2輪(左右の前輪2)の電磁アクチュエータ6はそのまま通常の制御を継続する(フェイル制御待機状態とする)。
次に、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の逆ぶりの異常について説明する。即ち、コントローラ8による電磁アクチュエータ6の制御ロジックが、何らかの異常で反転すると、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)が車体1を加振するように動作する逆ぶりの異常が生じる場合がある。図4のS1では、このような電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の逆ぶりの異常も検知する。具体的には、図4のS1では、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の電流および温度の異常の検知に加えて、図5に流れ図で示す処理、即ち、逆ぶりの異常の検知の処理も行われる。
図4のS1のフェイル検知の処理の1つとして、図5の処理動作がスタートすると、図5のS11では、前後左右の4輪それぞれの電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の逆ぶりの異常(フェイル)を検知する。この逆ぶりの異常は、例えば、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の位置(ストローク位置、相対位置、絶対位置)の変化と車両情報(例えば、上下加速度、横加速度等)の変化との関係(が適正範囲か否か)に基づいて検知(判定)することができる。
S11で、「NO」、即ち、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の逆ぶりが検知されない場合は、リターンを介してスタートに戻り、S11以降の処理を繰り返す。この場合、図4のS1では、逆ぶり以外の異常が検知されたか否かに応じて、次の処理に進む。一方、S11で、「YES」、即ち、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の逆ぶりが検知された場合は、S12に進む。S12では、逆ぶりが検知された電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を異常とし、リターンする。この場合、図4のS1では、逆ぶりが検知された電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を異常とし、S2以降に進む。これにより、逆ぶりの異常に基づく乗り心地の低下を抑制することもできる。
本実施形態によるサスペンション制御装置は、上述のような構成を有するもので、次にその作動について説明する。
例えば、電磁サス5を、車両のばね上部材(車体側)とばね下部材(車輪側)との間に上,下方向に縦置き状態で介在させた場合には、車両が上,下方向に振動すると、電磁アクチュエータ6にはストローク方向(軸方向)に力が作用する。この力に応じて、固定子21と可動子22とが相対移動する。このとき、コントローラ8の指令信号に基づいて、コイル25A,25B,25Cに各永久磁石34の位置に応じた所定の電流を流すことにより、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)の減衰力を調整することができ、車両の乗り心地や操縦安定性を向上できる。
一方、電磁サス5の電磁アクチュエータ6で異常(フェイル)が検知されると、即ち、コントローラ8の異常検知部で電磁アクチュエータ6の異常を検知すると、コントローラ8のフェイル制御部では、図4および図5の流れ図に沿ってフェイル制御が行われる。具体的には、コントローラ8は、例えば、左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3の電磁アクチュエータ6で異常が検知された場合、4輪全ての電磁アクチュエータ6がフェイル制御に移行する。これにより、フェイル制御を行っているときの乗り心地の低下を抑制することができる(乗り心地の低下を必要最低限に抑えることができる)。
即ち、第1の実施形態では、コントローラ8は、S1、S2、S4、S5、S7およびS8の処理により、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)の電磁アクチュエータ6で異常が検知されると、これら一の車輪の電磁アクチュエータ6でフェイル制御を行うだけでなく、これら一の車輪の左右隣り合う他の車輪(正常である右側の前後輪2,3、正常である左側の前後輪2,3、または、正常である逆対角の前後輪2,3)の電磁アクチュエータ6でも、一の車輪の異常に対応したフェイル制御を行う。このため、一の車輪と他の車輪、即ち、左右の電磁サス5(電磁アクチュエータ6)で、出力(減衰力)の程度(度合)が相違する(不均衡となる)ことを低減でき、フェイル制御中の乗り心地の低下を抑制することができる。
第1の実施形態では、各電磁サス5の電磁アクチュエータ6は、左右同一の所定のフェイル制御を行う。即ち、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)の電磁アクチュエータ6で異常が検知されると、4輪全ての電磁アクチュエータ6で同一の所定のフェイル制御が行われる。換言すれば、左側の前後輪2,3の電磁アクチュエータ6と右側の前後輪2,3の電磁アクチュエータ6で同一の所定のフェイル制御が行われる。
この場合、フェイル制御は、コントローラ8によりフェイルリレー14を動作させ、電磁アクチュエータ6を構成するコイル部材25(コイル25A,25B,25C)が閉ループを構成するように短絡させる制御としている。これにより、一の車輪と他の車輪、即ち、左右の電磁サス5の電磁アクチュエータ6の出力(減衰力、推力)を合せることができ、左右の出力が相違することに基づく乗り心地の低下を抑制することができる。
次に、図6は第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、サスペンション装置を、減衰力の調整が可能なショックアブソーバを有するアクティブサスペンション装置としたことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
車体1と各車輪2,3との間には、それぞれがサスペンション装置としてのセミアクティブサスペンション装置41(以下、セミアクティブサス41という)が介装して設けられている。セミアクティブサス41は、第1の実施形態の電磁サス5に代えて、本実施形態で用いるサスペンション装置であり、例えば、第1の実施形態と同様に車両の4輪の全てにそれぞれ設けられている。
セミアクティブサス41は、図示しない懸架ばね(スプリング)と、該各懸架ばねと並列関係をなして車体1側と車輪2,3側との間に設けられたそれぞれがアクチュエータとしてのショックアブソーバ42とを含んで構成されている。ショックアブソーバ42は、第1の実施形態の電磁アクチュエータ6に代えて、本実施形態で用いるアクチュエータである。
ショックアブソーバ42は、減衰力の調整が可能なアクチュエータとなるものである。即ち、ショックアブソーバ42は、車体1側と車輪2,3側との間で発生する力を調整可能な力発生機構となるもので、能動的に力(減衰力)を発生するアクティブダンパ、より具体的には、減衰力調整式油圧緩衝器等のセミアクティブ制御が可能なセミアクティブダンパにより構成されている。なお、ショックアブソーバ42は、セミアクティブダンパに代えて、駆動シリンダ(油圧シリンダ、エアシリンダ)等のフルアクティブ制御が可能なフルアクティブダンパにより構成してもよい(サスペンション装置をフルアクティブサスペンション装置として構成してもよい)。
制御装置43は、第1の実施形態の制御装置7に代えて、本実施形態で用いるものである。制御装置43は、各セミアクティブサス41、より具体的には、各ショックアブソーバ42を制御するものである。制御装置43は、各セミアクティブサス41と共にサスペンション制御装置を構成している。
制御装置43は、(1個の)コントローラ44と、(4個の)出力回路45とを含んで構成されている。コントローラ44は、第1の実施形態のコントローラ8と同様に、演算装置(CPU:中央演算処理装置)となるものである。コントローラ44は、車両の乗り心地と操縦安定性を向上すべく、車両情報(車体1の上下加速度、横加速度、前後加速度、車速、操舵角等の車両の各種状態量)と特定の制御則(例えばスカイフック制御等)とに基づいて、ショックアブソーバ42で出力すべき力となる制御力(目標減衰力)を演算し、該制御力に対応する指令信号を出力回路45に出力する。
出力回路45は、コントローラ44からの指令信号に基づいて、例えば、PWM信号で必要な電流を、セミアクティブサス41のショックアブソーバ42に出力する。ここで、ショックアブソーバ42は、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハード(Hard)な特性(硬特性)からソフト(soft)な特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ、ソレノイド、ステッピングモータ等からなる減衰力調整アクチュエータが付設されている。ショックアブソーバ42では、出力回路45の電流に基づいて、減衰力調整アクチュエータが動作する。これにより、ショックアブソーバ42の減衰力を調整することができ、車両の乗り心地や操縦安定性を向上できる。なお、図6では、コントローラ44と出力回路45とを別個に記載しているが、一つの基板や一つの構成部品として一体的に構成してもよい。
コントローラ44は、出力回路45を介してセミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)の動作を制御することに加えて、セミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)の異常(フェイル)を検知する異常検知部を有している。即ち、コントローラ44は、例えば出力回路45からショックアブソーバ42(の減衰力調整アクチュエータ)への電流が規定値以上流れた過電流、電流が全く流れない断線等を異常検知部にて検知する。異常検知部は、検出される電流が予め設定した閾値(電流閾値)を上回ると、または、下回ると、セミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)が異常(過電流、断線)であると判定する。
コントローラ44は、異常検知部により異常を検知すると、即ち、セミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)の電流等が規定の正常範囲外になる(閾値の範囲から外れる)と、フェイル処理を行い、所定のセミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)に対するフェイル制御を行う。即ち、コントローラ44は、異常検知部による異常の検知に基づいてフェイル制御を行うフェイル制御部を有している。この場合、各車輪2,3のセミアクティブサス41(ショックアブソーバ42)に対するフェイル制御は、第1の実施形態の図4の制御処理(フェイル処理)に基づいて行う。
コントローラ44のフェイル制御部は、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)のショックアブソーバ42の異常状態に応じて、他の車輪(正常である右側の前後輪2,3、正常である左側の前後輪2,3、または、正常である逆対角の前後輪2,3)のショックアブソーバ42の制御を変化させる。具体的には、コントローラ44は、一の車輪の異常時の減衰力と同様の減衰力に他の車輪のショックアブソーバ42の減衰力を調整するフェイル制御を行う。
例えば、ショックアブソーバ42の異常を検知すると、その異常のショックアブソーバ42の発生減衰力をソフトの特性(軟特性)にするフェイル制御を行う場合は、一の車輪のショックアブソーバ42で異常を検知すると、一の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力をソフトにすることに加えて、正常である他の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力もソフトにする。一方、ショックアブソーバ42の異常を検知すると、その異常のショックアブソーバ42の発生減衰力をハードの特性(硬特性)にするフェイル制御を行う場合は、一の車輪のショックアブソーバ42で異常を検知すると、一の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力をハードにすることに加えて、正常である他の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力もハードにする。
さらに、一の車輪のショックアブソーバ42が、その異常により発生減衰力が任意(無作為)の一定値に固定された場合は、正常である他の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力を、その固定された一定値にすることができる。また、一の車輪のショックアブソーバ42が、その異常により発生減衰力が任意に変化する場合は、正常である他の車輪のショックアブソーバ42の発生減衰力を、その変化に合せて調整することもできる。いずれの場合も、フェイル制御を行っているときの乗り心地の低下を抑制することができる。
第2の実施形態は、上述の如きショックアブソーバ42のフェイル制御を行うもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第2の実施形態では、コントローラ44のフェイル制御部は、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)のショックアブソーバ42の異常状態に応じて、他の車輪(正常である右側の前後輪2,3、正常である左側の前後輪2,3、または、正常である逆対角の前後輪2,3)のショックアブソーバ42の制御を変化させる。このため、一の車輪のショックアブソーバ42の異常を検知すると、他の車輪のショックアブソーバ42の出力(減衰力)を、一の車輪のアクチュエータの出力(減衰力)に合せることができる。これにより、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のセミアクティブサス41のショックアブソーバ42で出力(減衰力)の程度が相違することに基づく乗り心地の低下を抑制することができる。
第2の実施形態では、フェイル制御は、一の車輪の異常時の減衰力と同様の減衰力に他の車輪のショックアブソーバ42の減衰力を調整する。このため、一の車輪のショックアブソーバ42の異常を検知すると、左右の(全輪の)ショックアブソーバ42が同様の減衰力となる。これにより、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のセミアクティブサス41のショックアブソーバ42で減衰力を合せることができ、乗り心地の低下を抑制することができる。
次に、図7は第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、サスペンション装置を、車高調整装置となる空気ばね(エアばね)を有するエアサスペンション装置としたことにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
車体1と各車輪2,3との間には、それぞれがサスペンション装置としてのエアサスペンション装置51(以下、エアサス51という)が介装して設けられている。エアサス51は、第1の実施形態の電磁サス5に代えて、本実施形態で用いるサスペンション装置であり、例えば、第1の実施形態と同様に車両の4輪の全てにそれぞれ設けられている。
エアサス51は、例えば車体1側に対して車輪2,3側を浮動的に支持するアクチュエータとしての空気ばね(エアばね)52と、該各空気ばね52と並列関係をなして車体1側と車輪2,3側との間に設けられたショックアブソーバ(図示せず)とを含んで構成されている。空気ばね52は、第1の実施形態の懸架ばねに代えて本実施形態で用いるばね部材であり、ショックアブソーバは、第1の実施形態の電磁アクチュエータ6に代えて、本実施形態で用いる緩衝器である。
第3の実施形態では、空気ばね52が、車両の高さ(車高)を調整可能な車高調整装置としての機能を兼ねたアクチュエータとなっている。即ち、空気ばね52は、車体1側と車輪2,3側との間で発生する力を調整可能な力発生機構となるものである。なお、車高調整装置の機能を兼ねたアクチュエータとしては、油圧シリンダ等のアクチュエータを有する構成としてもよい。即ち、サスペンション装置を、懸架ばねと、緩衝器と、車高調整装置(アクチュエータ)としての油圧シリンダとを有する構成としてもよい。
制御装置53は、第1の実施形態の制御装置7に代えて、本実施形態で用いるものである。制御装置53は、各エアサス51、より具体的には、各空気ばね52(車高調整装置)を制御するものである。制御装置53は、各エアサス51と共にサスペンション制御装置を構成している。
制御装置53は、コントローラ54と、出力回路55と、圧縮機56とを含んで構成されている。コントローラ54は、第1の実施形態のコントローラ8と同様に、演算装置(CPU:中央演算処理装置)となるものである。コントローラ54は、車両情報(車体1の上下加速度、横加速度、前後加速度、車速、操舵角等の車両の各種状態量)、および/または、運転者が操作する車高調整スイッチの設定(例えば、車高調整のON/0FFスイッチ、低/中/高等の車高選択スイッチ)に基づいて、各空気ばね52で必要な圧力(目標圧力)を演算し、該圧力に対応する指令信号を出力回路45に出力する。
出力回路55は、コントローラ54からの指令信号に基づいて、空気ばね52に圧縮空気(エア)を供給するための圧縮エア源となる圧縮機(コンプレッサ)56を駆動するとともに、図示しない給排切換弁を切換える。圧縮機56は、給排切換弁を介して空気ばね52に必要な空気を供給することにより、空気ばね52の圧力(ストローク量、伸縮量)を調整する。これにより、車載重量の変化、車速の変化、運転者の好み等に応じて車高を適宜に調整することができ、車両の乗り心地や操縦安定性を向上できる。
なお、図7では、圧縮機56により圧縮された空気を蓄えるタンク、圧縮機56に吸込まれる外気中の粉塵等を除去するフィルタ、圧縮空気(エア)を乾燥するドライヤ、空気ばね52に対する圧縮空気の供給・排出を切換える給排切換弁等を省略して示している。また、空気ばね52から圧縮空気を排出する場合、その圧縮空気は、外気に放出してもよいし、タンクに戻してもよい。さらに、図7では、圧縮機56のブロックを4個記載しているが、これは、例えば、1台の圧縮機56と4個の給排切換弁を意味するブロックに相当する。いずれにしても、図7では、空気ばね52に対する圧縮空気の供給・排出を行うエア給排装置の構成を簡略化して示している。圧縮機56を含むエア給排装置の構成は、図示の構成に限るものではない。
コントローラ54は、出力回路55を介してエアサス51(空気ばね52)の動作を制御する(車高調整の制御を行う)ことに加えて、車高調整装置の異常、換言すれば、エアサス51(空気ばね52)の異常(フェイル)を検知する異常検知部を有している。即ち、コントローラ54は、出力回路55から圧縮機56に電流が全く流れない断線、規定値以上の電流が流れる過電流、圧縮機56および/または空気ばね52の空気圧の異常低下、異常上昇、車高異常等を異常検知部にて検知する。異常検知部は、検出される電流、空気圧、車高等が予め設定した閾値(電流閾値)を上回ると、または、下回ると、車高調整装置(空気ばね52)が異常であると判定する。
コントローラ54は、異常検知部により異常を検知すると、即ち、電流、空気圧、車高等が規定の正常範囲外になる(閾値の範囲から外れる)と、フェイル処理を行い、所定の車高調整装置(空気ばね52)に対するフェイル制御を行う。即ち、コントローラ54は、異常検知部による異常の検知に基づいてフェイル制御を行うフェイル制御部を有している。この場合、各車輪2,3の車高調整装置(空気ばね52)に対するフェイル制御は、第1の実施形態の図4の制御処理(フェイル処理)に基づいて行う。
コントローラ54のフェイル制御部は、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)の車高調整装置(空気ばね52)の異常状態に応じて、他の車輪(正常である右側の前後輪2,3、正常である左側の前後輪2,3、または、正常である逆対角の前後輪2,3)の車高調整装置(空気ばね52)の制御を変化させる。具体的には、コントローラ54は、一の車輪の異常時の車高と同様の車高に他の車輪の車高調整装置(空気ばね52)を調整するフェイル制御を行う。
例えば、車高調整装置(空気ばね52)の異常を検知すると、フェイル制御として車高を低くする場合は、一の車輪の車高調整装置(空気ばね52)で異常を検知すると、一の車輪の車高調整装置(空気ばね52)の車高を低くすることに加えて、正常である他の車高調整装置(空気ばね52)の車高も低くする。また、一の車輪の車高調整装置(空気ばね52)の車高が、その異常により任意(無作為)の一定値で固定された場合は、正常である他の車輪の車高調整装置(空気ばね52)の車高を、その固定された一定値にすることができる。
第3の実施形態は、上述の如き車高調整装置(空気ばね52)のフェイル制御を行うもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第3の実施形態では、コントローラ54のフェイル制御部は、一の車輪(左側の前後輪2,3、右側の前後輪2,3、または、対角の前後輪2,3)の車高調整装置(空気ばね52)の異常状態に応じて、他の車輪(正常である右側の前後輪2,3、正常である左側の前後輪2,3、または、正常である逆対角の前後輪2,3)の車高調整装置(空気ばね52)の制御を変化させる。即ち、一の車輪の異常時の車高と同様の車高に他の車輪の車高調整装置(空気ばね52)を調整する。これにより、フェイル制御を行っているときの乗り心地の低下を抑制することができる。
なお、上述した第1の実施形態では、車両の4輪の全てにサスペンション装置としての電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、車両の4輪のうちの前側の左右2輪(左右の前輪2)のみ、または、車両の4輪のうちの後ろの左右2輪(左右の後輪3)のみに、電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を設ける構成としてもよい。この場合、左右の一方の車輪のアクチュエータの異常を検知した場合、左右隣り合う他方の車輪のサスペンション装置(アクチュエータ)を一の車輪の異常に対応したフェイル制御(左右同一の所定のフェイル制御、または、一方の車輪のアクチュエータの異常状態に応じて他方の車輪のアクチュエータの制御を変化させるフェイル制御)を行うことができる。このことは、第2の実施形態のサスペンション装置(アクティブサスペンション装置)、第3の実施形態のサスペンション装置(エアサスペンション装置)についても同様である。
上述した第1の実施形態では、4輪の車両に電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、6輪等の4輪以上の車輪を備えた車両に電磁サス5(電磁アクチュエータ6)を設ける構成としてもよい。このことは、第2の実施形態のサスペンション装置(アクティブサスペンション装置)、第3の実施形態のサスペンション装置(エアサスペンション装置)についても同様である。
上述した第1の実施形態では、電磁アクチュエータ6を、内筒に対応するロッド26に設けられたコイル部材25(コイル25A,25B,25C)と、外筒に対応するチューブ30に設けられた永久磁石34(磁性部材)とにより構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、外筒に設けられたコイル(コイル部材)と、内筒に設けられた永久磁石(磁性部材)とにより電磁アクチュエータを構成してもよい。即ち、電磁アクチュエータは、内筒または外筒の一方の部材に設けられたコイル部材と、他方の部材に設けられた磁性部材とにより構成することができる。
上述した第1の実施形態では、電磁アクチュエータ6をリニアモータ(直動モータ)により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、電磁アクチュエータを、例えば、回転モータにより構成してもよい。この場合、サスペンション装置(電磁サスペンション装置)は、回転モータと回転直動変換機構(例えば、ボールナット機構)とを有する構成とすることができる。
上述した第1の実施形態では、固定子21を車両のばね上部材(例えば車体側)に取付けると共に、可動子22を車両のばね下部材(例えば車輪側)に取付ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、固定子を車両のばね下部材に取付けると共に、可動子を車両のばね上部材に取付ける構成としてもよい。
上述した第1の実施形態では、サスペンション装置としての電磁サス5を縦置き状態で自動車等の車両に取付ける構成とした場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、電磁サスペンション装置を横置き状態で鉄道車両等の車両に取付ける構成としてもよい。このことは、第2の実施形態のサスペンション装置(アクティブサスペンション装置)、第3の実施形態のサスペンション装置(エアサスペンション装置)についても同様である。
上述した第1の実施形態では、横断面形状が円形のリニアモータ、即ち、固定子21および可動子22を円筒状に形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、横断面形状がI字状(平板状)や矩形状、H字状のリニアモータ等、横断面形状が円形以外の筒状のリニアモータにより構成してもよい。
さらに、上述した各実施形態では、サスペンション装置として、電磁アクチュエータを有する電磁サスペンション装置(第1の実施形態)、ショックアブソーバを有するアクティブサスペンション装置(第2の実施形態)、車高調整装置(となる空気ばね)を有するエアサスペンション装置(第3の実施形態)を例に挙げて説明した。しかし、これらのサスペンション装置に限るものではなく、種々の形式のサスペンション装置、即ち、制御装置によって制御される各種のアクチュエータを有するサスペンション装置を用いることができる。
以上の実施形態によれば、フェイル制御を行っているときの乗り心地の低下を抑制すること(乗り心地の低下を必要最低限に抑えること)ができる。
即ち、実施形態によれば、制御装置のフェイル制御部は、異常検知部により一の車輪のアクチュエータの異常を検知すると、一の車輪の左右隣り合う他の車輪を、一の車輪の異常に対応したフェイル制御を行う。このため、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のサスペンション装置で出力(減衰力、車高等)の程度(度合)が相違する(不均衡となる)ことを低減でき、フェイル制御中の乗り心地の低下を抑制することができる。
実施形態によれば、各アクチュエータには、左右同一の所定のフェイル制御を有する構成としている。このため、一の車輪のアクチュエータの異常を検知すると、左右のアクチュエータで同一の所定のフェイル制御が行われる。これにより、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のサスペンション装置のアクチュエータで出力の程度が相違することに基づく乗り心地の低下を抑制することができる。
実施形態によれば、フェイル制御部は、一の車輪のアクチュエータの異常状態に応じて、他の車輪のアクチュエータの制御を変化させる構成としている。このため、一の車輪のアクチュエータの異常を検知すると、他の車輪のアクチュエータの出力を、一の車輪のアクチュエータの出力に合せることができる。これにより、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のサスペンション装置のアクチュエータで出力の程度が相違することに基づく乗り心地の低下を抑制することができる。
実施形態によれば、サスペンション装置は、変位可能な一対の変位部材間に設けたモータからなる電磁アクチュエータを有し、フェイル制御は、電磁アクチュエータを構成するコイル部材が閉ループを構成するように短絡させる制御としている。このため、一の車輪の電磁アクチュエータの異常を検知すると、一の車輪と他の車輪、即ち、左右の電磁アクチュエータのコイル部材が閉ループを構成するように短絡する。これにより、左右のサスペンション装置の電磁アクチュエータの出力(減衰力、推力)を合せることができ、乗り心地の低下を抑制することができる。
実施形態によれば、サスペンション装置は、減衰力を調整可能なショックアブソーバを有し、フェイル制御は、一の車輪の異常時の減衰力と同様の減衰力に他の車輪のショックアブソーバの減衰力を調整する構成としている。このため、一の車輪のショックアブソーバの異常を検知すると、一の車輪と他の車輪、即ち、左右のショックアブソーバが同様の減衰力となる。これにより、左右のサスペンション装置のショックアブソーバで減衰力を合せることができ、乗り心地の低下を抑制することができる。
実施形態によれば、サスペンション装置は、車高調整装置を有し、フェイル制御は、一の車輪の異常時の車高と同様の車高に他の車輪の車高調整装置を調整する構成としている。このため、一の車輪の車高調整装置の異常を検知すると、一の車輪と他の車輪、即ち、左右の車高調整装置が同様の車高となる。これにより、左右のサスペンション装置の車高調整装置で車高を合せることができ、乗り心地の低下を抑制することができる。