JP6478100B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

本発明は、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体表面に、組成式(AlTi1−x)N(ただし、原子比で、xは0.40〜0.65)を満足するAlとTiの複合窒化物層からなり該複合窒化物層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上であり、また、隣り合う結晶粒同士のなす角を測定した場合に、小角粒界(0<θ≦15゜)の割合が50%以上であるような結晶配列を示すAlとTiの複合窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、高速断続切削条件においても硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮することが開示されている。
ただ、この被覆工具は、物理蒸着法により硬質被覆層を蒸着形成するため、Alの含有割合xを0.65以上にすることは困難で、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
このような観点から、化学蒸着法で硬質被覆層を形成することで、Alの含有割合xを、0.9程度にまで高める技術も提案されている。
例えば、特許文献2には、TiCl、AlCl、NHの混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合xの値が0.65〜0.95である(Ti1−xAl)N層を蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−xAl)N層の上にさらにAl層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Alの含有割合xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−xAl)N層の形成によって、切削性能にどのような影響を及ぼしているかについては明らかでない。
また、例えば、特許文献3には、TiCN層、Al層を内層として、その上に、化学蒸着法により、立方晶構造あるいは六方晶構造を含む立方晶構造の(Ti1−xAl)N層(ただし、原子比で、xは0.65〜0.90)を外層として被覆するとともに該外層に100〜1100MPaの圧縮応力を付与することにより、被覆工具の耐熱性と疲労強度を改善することが提案されている。
特開2009−56540号公報 特表2011−516722号公報 特表2011−513594号公報
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用に亘ってのすぐれた耐摩耗性が求められている。
しかし、前記特許文献1に記載されている被覆工具は、(Ti1−xAl)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で蒸着形成され、硬質被覆層中のAlの含有割合xを高めることが困難であるため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性、耐チッピング性が十分であるとは言えないという課題があった。
一方、前記特許文献2に記載されている化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−xAl)N層については、Alの含有割合xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にすぐれた硬質被覆層が得られるものの、工具基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣るという課題があった。
さらに、前記特許文献3に記載されている被覆工具は、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれるものの、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えないという課題があった。
そこで、本発明は、合金鋼等の高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた靭性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述の観点から、少なくともTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、「(Ti,Al)(C,N)」あるいは「(Ti1−xAl)(C1−y)」で示すことがある)を含む硬質被覆層を化学蒸着で蒸着形成した被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
即ち、本発明者らは、硬質被覆層を構成する(Ti1−xAl)(C1−y)層の組成変化に着目し鋭意研究を進めたところ、(Ti1−xAl)(C1−y)層の立方晶結晶構造を有する結晶粒粒内にTiとAlの周期的な組成変化を形成させた場合に、立方晶結晶構造を有する結晶粒内に歪みが生じ、この歪が硬さと靭性の向上に寄与し、その結果、硬質被覆層の耐チッピング性、耐欠損性を向上させることができるという新規な知見を見出した。
具体的には、硬質被覆層が、化学蒸着法により成膜されたTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足し、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する結晶粒中にNaCl型の面心立方構造を有するものが存在し、また、複合窒化物または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内に、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)におけるTiとAlの周期的な組成変化が存在し、該周期的な組成変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒は、その工具基体表面の法線方向に沿った組成変化の周期が50〜200nmである周期層から構成され、さらに前記周期層は、平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層からなることによって、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒に歪みを生じさせ、従来の硬質被覆層に比して、硬さを向上させるとともに、異なる組成変化周期の層の存在によるクラック進展抑制効果の向上により、耐チッピング性、耐欠損性が向上し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出した。
そして、前述のような構成の(Ti1−xAl)(C1−y)層は、例えば、工具基体表面において反応ガス組成を周期的に変化させる以下の化学蒸着法によって成膜することができる。
用いる化学蒸着反応装置へは、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、Al(CH、AlCl、N、Hからなるガス群Bがおのおの別々のガス供給管から反応装置内へ供給され、ガス群Aとガス群Bの反応装置内への供給は、例えば、一定の周期の時間間隔で、その周期よりも短い時間だけガスが流れるように供給し、ガス群Aとガス群Bのガス供給にはガス供給時間よりも短い時間の位相差が生じるようにして、工具基体表面における反応ガス組成を、(イ)ガス群A、(ロ)ガス群Aとガス群Bの混合ガス、(ハ)ガス群Bと時間的に変化させることができる。ちなみに、本発明においては、厳密なガス置換を意図した長時間の排気工程を導入する必要は無い。従って、ガス供給方法としては、例えば、ガス供給口を回転させたり、工具基体を回転させたり、工具基体を往復運動させたりして、工具基体表面における反応ガス組成を、(イ)ガス群Aを主とする混合ガス、(ロ)ガス群Aとガス群Bの混合ガス、(ハ)ガス群Bを主とする混合ガス、と時間的に変化させることで実現する事が可能である。
工具基体表面に、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、例えば、ガス群AとしてNH:2.0〜3.0%、H:65〜75%、ガス群BとしてAlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、Al(CH:0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期10〜30秒、1周期当たりのガス供給時間0.5〜1.5秒、ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差0.40〜0.60秒として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚の(Ti1−xAl)(C1−y)層を成膜することができる。
前述のようにガス群Aとガス群Bが工具基体表面に到達する時間に差が生じるように供給する事により、結晶粒内にTiとAlの局所的な組成差が形成され、その結果、特に、耐チッピング性、耐欠損性が向上し、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削加工に用いた場合においても、硬質被覆層が、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し得ることを見出した。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)で表した場合、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xavgおよび複合窒化物または複合炭窒化物層のCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足し、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
(c)また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内にTiとAlの周期的な組成変化が存在し、該周期的な組成変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒は、その工具基体表面の法線方向に沿った組成変化の周期が50〜200nmである長周期層から構成され、さらに前記長周期層は、平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層における周期は3〜20nmであり、A層およびB層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均のそれぞれの差Δx、Δxは、0.02<Δx<0.1、0.02<Δx<0.1を満たし、さらに、A層とB層から構成される長周期層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均の差Δxは、0.05<Δx<0.25を満たし、かつ、Δx>(Δx+Δx)であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒の結晶方位を、前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の35%以上の割合を示すことを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlの周期的な組成変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、TiとAlの周期的な組成変化が該結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層から成る長周期層の周期は50〜200nmであり、その方位に直交する面内での短周期層A層とB層のAlのTiとAlの合量に占める含有割合平均Xo、Xoの変化はそれぞれ0.01以下であること特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、X線回折からNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の格子定数aを求め、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の格子定数aが、立方晶TiNの格子定数aTiNと立方晶AlNの格子定数aAlNに対して、0.05aTiN+0.95aAlN≦a≦0.4aTiN+0.6aAlNの関係を満たすことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について該層の縦断面方向から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒が存在し、該微粒結晶粒の存在する面積割合が30面積%以下であり、該微粒結晶粒の平均粒径Rが0.01〜0.3μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6) 前記工具基体と前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20μmの合計平均層厚を有する下部層が存在することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(7) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(8) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜ることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細に説明する。
硬質被覆層を構成する複合窒化物または複合炭窒化物層の平均層厚:
図1に、本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の断面模式図を示す。
本発明の硬質被覆層は、化学蒸着された組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)で表されるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含む。この複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1〜20μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均層厚が1μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その平均層厚を1〜20μmと定めた。
硬質被覆層を構成する複合窒化物または複合炭窒化物層の組成:
本発明の硬質被覆層を構成する複合窒化物または複合炭窒化物層は、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足するように制御する。
その理由は、Alの平均含有割合Xavgが0.60未満であると、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は耐酸化性に劣るため、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。一方、Alの平均含有割合Xavgが0.95を超えると、硬さに劣る六方晶の析出量が増大し硬さが低下するため、耐摩耗性が低下する。したがって、Alの平均含有割合Xavgは、0.60≦Xavg≦0.95と定めた。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の平均含有割合Yavgは、0≦Yavg≦0.005の範囲の微量であるとき、複合窒化物または複合炭窒化物層と工具基体もしくは下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として複合窒化物または複合炭窒化物層の耐欠損性および耐チッピング性が向上する。一方、C成分の平均含有割合Yavgが0≦Yavg≦0.005の範囲を外れると、複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下するため耐欠損性および耐チッピング性が逆に低下するため好ましくない。したがって、Cの平均含有割合Yavgは、0≦Yavg≦0.005と定めた。ただしCの含有割合には、意図的にガス原料としてCを含むガスを用いなくても含まれる不可避的なCの含有割合を除外している。具体的にはAl(CHの供給量を0とした場合の複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の含有割合(原子比)を不可避的なCの含有割合として求め、Al(CHを意図的に供給した場合に得られる複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の含有割合(原子比)から前記不可避的なCの含有割合を差し引いた値をYavgとして求めた。
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内にTiとAlの周期的な組成変化が存在し、周期的な組成変化が存在する前記立方晶構造を有する結晶粒において、図2に示すように、TiとAlの組成変化の周期は、工具基体表面の法線方向に沿った周期が50〜200nmである長周期層であり、さらに前記長周期層は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層のそれぞれにおける周期は3〜20nmであり、A層およびB層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均のそれぞれの差Δx、Δxは、0.02<Δx<0.1、0.02<Δx<0.1を満たし、周期層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均の差Δxは、0.05<Δx<0.25を満たし、かつ、Δx>(Δx+Δx)とする。
ここで、短周期層の周期が3nm未満では靭性が低下し、耐欠損性の向上が望めない。一方、その周期が20nmを超える場合は異なる組成変化周期層が存在することによるクラック進展抑制効果が低減し、耐チッピング性が低下する。また、2つの短周期層から構成される長周期層についても、その周期が50nm未満では、異なる組成変化周期層を形成することによる靱性向上の効果が小さいため、耐欠損性および耐チッピング性の向上が望めず、一方、その周期が200nmを超えるとクラック進展を抑制することができず、耐欠損性、耐剥離性が低下する。
したがって、TiとAlの組成変化の周期は、工具基体表面の法線方向に沿った短周期層は3〜20nm、また、2つの短周期層から構成される長周期層は50〜200nmとする。
また、短周期層を構成するA層およびB層のそれぞれにおけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δx、Δxが0.02以下であると組成差が小さいためクラック進展の抑制効果が小さくなり、耐チッピング性が低下する。一方、Δx、Δxが0.1以上であると、層の厚さに対して結晶粒の歪が大きくなりすぎ、格子欠陥が増加し硬さが低下する。
また、長周期層におけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δxが、0.05以下であると結晶粒の歪みが小さく十分な硬さ向上効果が見込めず、一方、Δxが0.25以上であると結晶粒の格子歪が大きくなりすぎ、格子欠陥が増加する為、硬さが低下し、さらに、Δx>(Δx+Δx)が成立しない場合には、短周期層がA層とB層の2層にわかれないため、クラック進展の抑制効果が小さい。
したがって、短周期層をA層とB層の2層から構成するとともに、A層およびB層のそれぞれにおけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δx、Δxは、0.02<Δx<0.1、0.02<Δx<0.1とし、また、短周期層のA層とB層から構成される周期層におけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δxは、0.05<Δx<0.25を満たし、かつ、Δx>(Δx+Δx)とする。
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti1−xAl)(C1−y)層)内の立方晶構造を有する個々の結晶粒結晶面である{100}面についての傾斜角度数分布:
本発明の前記(Ti1−xAl)(C1−y)層について、電子線後方散乱回折装置を用いて立方晶構造を有する個々の結晶粒の結晶方位を、その縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線(断面研磨面における工具基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角(図3(a)、(b)参照)を測定し、その傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の35%以上の割合となる傾斜角度数分布形態を示す場合に、前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる硬質被覆層は、立方晶構造を維持したままで高硬度を有し、しかも、前述したような傾斜角度数分布形態によって硬質被覆層と基体との密着性が飛躍的に向上することから、本発明の立方晶構造を有する結晶粒は、前記のような傾斜角度数分布形態を備えることが望ましい。
図5に、本発明の一実施形態である立方晶構造を有する結晶粒について上記の方法で測定し、求めた傾斜角度数分布の一例をグラフとして示す。
また、図4に示すように、TiとAlの周期的な組成変化は、立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在すると、結晶粒の歪みによる格子欠陥が生じにくく、靭性、耐チッピング性が向上して好ましい。しかしながら、平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成される長周期層の周期が50nm未満であると靭性が低下する。一方、200nmを超えると硬さの向上効果が見込めない。したがって、立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在する平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成される長周期層の周期は、50〜200nmであることが好ましい。
また、前記のTiとAlの周期的な組成変化が存在する方位に直交する面内ではTiとAlの組成は実質的に変化せず、上記直交する面内での短周期層A層とB層のAlのTiとAlの合量に占める含有割合平均Xoの変化は0.01以下である。
複合炭窒化物層内の立方晶結晶粒の格子定数a:
前記複合炭窒化物層について、X線回折装置を用い、Cu−Kα線を線源としてX線回折試験を実施し、立方晶結晶粒の格子定数aを求めたとき、前記立方晶結晶粒の格子定数aが、立方晶TiN(JCPDS00−038−1420)の格子定数aTiN:4.24173Åと立方晶AlN(JCPDS00−046−1200)の格子定数aAlN:4.045Åに対して、0.05aTiN+0.95aAlN≦a ≦ 0.4aTiN + 0.6aAlNの関係を満たすとき、より高い硬さを示し、かつ高い熱伝導性を示すことで、すぐれた耐摩耗性に加えて、すぐれた耐熱衝撃性を備える。なお、X線回折装置を用いて、測定範囲13°≦2θ≦130°、測定幅0.02°、測定時間0.5秒/stepの条件でX線回折を行い、得られた回折ピークから立方晶構造を有するTiとAlとMeの複合窒化物層または複合炭窒化物層に帰属するピークおよび結晶面を同定し、各々のピークに対して、使用するCu−Kα線の波長とピークの角度より結晶面の面間隔を算出し、面間隔の値から算出した格子定数の平均値を格子定数aとした。
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti1−xAl)(C1−y)層)内の立方晶粒界に存在する微粒六方晶:
本発明の硬質被膜層(Ti1−xAl)(C1−y)層では、柱状組織の立方晶の粒界中に六方晶構造の微粒結晶粒を含有することができるが、柱状組織の立方晶粒界に靱性に優れた微粒六方晶が存在することで粒界における摩擦が低減し、靱性が向上する。このときの六方晶構造の微粒結晶粒の面積割合が30面積%を超えると相対的に硬さが低下し好ましくなく、また、六方晶構造の微粒結晶粒の平均粒径Rが0.01μm未満であると靱性向上の効果が見られず、0.3μmを超えると、硬さが低下し、耐摩耗性が損なわれるため、平均粒径Rは0.01〜0.3μmとすることが好ましい。
なお、本発明でいう粒界中に存在する六方晶構造の微粒結晶粒は、透過型電子顕微鏡を用いて電子線回折図形を解析することにより同定することができ、また、六方晶構造の微粒結晶粒の平均粒子径は、粒界を含んだ1μm×1μmの測定範囲内に存在する粒子について、粒径を測定し、それらの平均値を算出することによって求めることができる。
下部層および上部層:
本発明の複合窒化物または複合炭窒化物層は、それだけでも十分な効果を奏するが、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20μmの合計平均層厚を有する下部層を設けた場合、および/または、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層を設けた場合には、これらの層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができる。Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層を設ける場合、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の効果が十分に奏されず、一方、20μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。また、酸化アルミニウム層を含む上部層の合計平均層厚が1μm未満では、上部層の効果が十分に奏されず、一方、25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
本発明のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を含む硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することができる。
図1には、本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の断面の模式図を示す。
本発明は、工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、硬質被覆層が、化学蒸着法により成膜されたTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足し、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する結晶粒中にNaCl型の面心立方構造を有するものが存在し、また、複合窒化物または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内に、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)におけるTiとAlの周期的な組成変化が存在し、組成変化の周期は50〜200nmであり、さらに前記周期層は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されていることによって、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒に歪みを生じさせることによって、結晶粒の硬さが向上し、高い耐摩耗性を保ちつつ、靭性が向上する。
その結果、耐チッピング性、耐欠損性が向上し、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削加工に用いた場合においても、硬質被覆層が、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するのである。
本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の断面を模式的に表した膜構成模式図である。 本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の結晶粒における、A層とB層の2層から構成される短周期層(周期:3〜20nm)と長周期層(周期:50〜200nm)からなる周期的な組成変化の概略模式図を示す。 工具基体表面の法線(断面研磨面における工具基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角が(a)0度の場合(b)45度の場合を示した模式図である。 本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の断面において、TiとAlの周期的な組成変化が存在する立方晶構造を有する結晶粒について、TiとAlの周期的な組成変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に直交する面内でのTiとAlの組成変化は小さいことを模式的に表した模式図である。 本発明の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の断面において、立方晶構造を有する結晶粒について求めた傾斜角度数分布の一例を示すグラフである。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Dを作製した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dの表面に、化学蒸着装置を用い、
表4に示される形成条件A〜J、すなわち、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、Al(CH、AlCl、N、Hからなるガス群B、およびおのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH:2.0〜3.0%、H:65〜75%、ガス群BとしてAlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、Al(CH:0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期10〜30秒、1周期当たりのガス供給時間0.5〜1.5秒、ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差0.40〜0.60秒として、所定時間、熱CVD法を行い、表6に示される(Ti1−xAl)(C1−y)層を成膜することにより本発明被覆工具1〜15を製造した。
なお、本発明被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、表5に示される下部層、上部層を形成した。
前記本発明被覆工具1〜15の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層について、透過型電子顕微鏡を用いて複数視野に亘って観察したところ、立方晶構造を有する結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造の微粒結晶粒が存在する面積割合は30面積%以下であり、かつ、六方晶構造の微粒結晶粒の平均粒径Rは0.01〜0.3μmであることが確認された。なお、本発明でいう粒界中に存在する微粒六方晶の同定は透過型電子顕微鏡を用いて電子線回折図形を解析することにより同定した。微粒六方晶の平均粒子径は粒界を含んだ1μm×1μmの測定範囲内に存在する粒子について、粒径を測定し、微粒六方晶の総面積を算出した値から面積割合を求めた。なお、粒径は六方晶と同定した粒に対して外接円を作成し、その外接円の半径を求め、その平均値を粒径とした。
また、比較の目的で、工具基体A〜Dの表面に、表3および表4に示される比較成膜工程の条件で、表7に示される目標層厚(μm)で本発明被覆工具1〜15と同様に、少なくともTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を含む硬質被覆層を蒸着形成し比較被覆工具1〜15を製造した。この時には、(Ti1−xAl)(C1−y)層の成膜工程中に、工具基体表面における反応ガス組成が時間的に変化しない様に硬質被覆層を形成することにより比較被覆工具1〜15を製造した。
なお、本発明被覆工具6〜13と同様に、比較被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、表5に示される下部層、上部層を形成した。
本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表6および表7に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層の平均Al含有割合Xavgについては、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均Al含有割合Xavgを求めた。平均C含有割合Yavgについては、二次イオン質量分析(SIMS,Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均C含有割合YavgはTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層についての深さ方向の平均値を示す。ただしCの含有割合には、意図的にガス原料としてCを含むガスを用いなくても含まれる不可避的なCの含有割合を除外している。具体的にはAl(CHの供給量を0とした場合の複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の含有割合(原子比)を不可避的なCの含有割合として求め、Al(CHを意図的に供給した場合に得られる複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の含有割合(原子比)から前記不可避的なCの含有割合を差し引いた値をYavgとして求めた。
また、硬質被覆層の傾斜角度数分布については、立方晶構造のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の工具基体表面に垂直な方向の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、工具基体表面と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向の断面に沿って膜厚以下の距離の測定範囲内の該硬質被覆層について0.01μm/stepの間隔で、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、0〜12度の範囲内に存在する度数のピークの存在の有無を確認し、かつ0〜12度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。その結果を、同じく、表6および表7に示す。
また、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧200kVの条件において複合窒化物または複合炭窒化物層の微小領域の観察を行い、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、断面側から面分析を行うことによって、前記立方晶構造を有する結晶粒内に、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)におけるTiとAlの周期的な組成変化が存在することを確認した。
さらに、周期的な組成変化が存在する前記立方晶構造を有する結晶粒について、同じく透過型電子顕微鏡を用いた微小領域の観察と、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面側からの面分析により、TiとAlの組成変化の周期を求め、TiとAlの組成変化の周期は、より周期の短い短周期層A層とB層の2層から構成されていることを確認した。また、上記A層およびB層のそれぞれにおけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δx、Δxを求めるとともに、2つの短周期層から構成される周期層におけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δxについても求めた。
具体的な測定手法は以下のとおりである。
該結晶粒について、前記面分析の結果に基づいて組成の濃淡から10周期分程度の組成変化が測定範囲に入る様に倍率を設定した上で、工具基体表面の法線方向に沿ってEDSによる線分析を5周期分の範囲で行い、TiとAlの周期的な組成変化の極大値と極小値のそれぞれの平均値の差を2つの短周期層から構成される長周期層の組成変化の極大値と極小値の差Δxとして求めた。また、2つの短周期層から構成される長周期層の組成変化の極大値側に組成の周期が存在する層をA層、長周期層の組成変化の極小値側に組成の周期が存在する層をB層とし、前記線分析を行った範囲においてA層およびB層の組成変化の極大値および極小値の平均値を算出し、その差をそれぞれΔx、Δxとして求めた。その結果を、同じく、表6および表7に示す。
また、該結晶粒について電子線回折を行うことで、TiとAlの周期的な組成変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成される長周期層であることが確認出来た試料に対しては、その方位に沿ったEDSによる線分析を長周期層の5周期分の範囲で行い、極大値の該5周期の平均間隔を長周期層のTiとAlの周期的な組成変化の周期として求め、その方位に直交する方向に沿った線分析を行い、短周期層A層とB層のTiとAlの合量に占めるAlの含有割合平均XOA、XOBの最大値と最小値の差をTiとAlの組成変化として求めた。
その結果を、同じく、表6および表7に示す。
また、前記立方晶結晶粒について、Cu−Kα線を線源としてX線回折を行って立方晶結晶粒の格子定数aを測定した。
その結果を、同じく、表6および表7に示す。






つぎに、前記各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15について、以下に示す、合金鋼の高速断続切削の一種である乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
その結果を表8に示す。
工具基体:炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、
切削試験: 乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度: 994 min−1
切削速度: 390 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
一刃送り量: 0.1 mm/刃、
切削時間: 8分、
(通常の切削速度は、220m/min)、

原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表9に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α〜γをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表10に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.09mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体δを形成した。
つぎに、これらの工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される形成条件A〜J、すなわち、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、Al(CH、AlCl、N、Hからなるガス群B、およびおのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH:2.0〜3.0%、H:65〜75%、ガス群BとしてAlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、Al(CH:0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期10〜30秒、1周期当たりのガス供給時間0.5〜1.5秒、ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差0.40〜0.60秒として、所定時間、熱CVD法を行い、表12に示される(Ti1−xAl)(C1−y)層を成膜することによりことにより本発明被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11に示される下部層、上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3および表4に示される条件かつ表13に示される目標層厚で本発明被覆工具と同様に硬質被覆層を蒸着形成することにより、表13に示される比較被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜28と同様に、比較被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11に示される下部層、上部層を形成した。
また、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表12および表13に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、前記本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜28の硬質被覆層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、平均Al含有割合Xavg、平均C含有割合Yavg、(Ti1−xAl)(C1−y)層を構成する立方晶構造を有する結晶粒の{100}面の法線が工具基体表面の法線となす傾斜角度数分布におけるピークの確認と0〜12度の範囲内に存在する度数割合を測定した。
その結果を、表12および表13に示す。
前記本発明被覆工具16〜30の硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物の立方晶結晶粒内に、TiとAlの周期的な組成分布が存在していることを透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による面分析により確認し、さらに、xの極大値の平均と極小値の平均の差Δxを求めた。
さらに、周期的な組成変化が存在する前記立方晶構造を有する結晶粒について、同じく透過型電子顕微鏡を用いた微小領域の観察と、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面側からの面分析により、TiとAlの組成変化の周期を求め、TiとAlの組成変化の周期は、より周期の短い短周期層A層とB層の2層から構成されていることを確認した。また、上記A層およびB層のそれぞれにおけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δx、Δxを求めるとともに、短周期層のA層とB層から構成される周期層におけるxの極大値の平均および極小値の平均の差Δxについても求めた。
また、該結晶粒について電子線回折を行うことで、TiとAlの周期的な組成変化が立方晶結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成される長周期層であることが確認出来た試料に対しては、その方位に沿ったEDSによる線分析を長周期層の5周期分の範囲で行い、極大値の該5周期の平均間隔を長周期層のTiとAlの周期的な組成変化の周期として求め、その方位に直交する方向に沿った線分析を行い、短周期層A層とB層のTiとAlの合量に占めるAlの含有割合平均XOA、XOBの最大値と最小値の差をTiとAlの組成変化として求めた。
また、前記立方晶結晶粒について、Cu−Kα線を線源としてX線回折を行って立方晶結晶粒の格子定数aを測定した。
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて立方晶構造を有する個々の結晶粒からなる柱状組織を、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析し、粒界部に存在する微粒結晶粒の結晶構造、平均粒径Rおよび面積割合を測定した。
これらの結果を、表12および表13に示す。



つぎに、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30について、以下に示す、炭素鋼の乾式高速断続切削試験、鋳鉄の湿式高速断続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削条件1:
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:390 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.2 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD700の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:325 m/min、
切り込み:1.2 mm、
送り:0.2 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表14に、前記切削試験の結果を示す。

原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、TiCN粉末、TiC粉末、Al粉末、Al粉末を用意し、これら原料粉末を表15に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:4GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置にて所定の寸法に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびJIS規格CNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×内接円直径:12.7mmの80°菱形)をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Zr:37.5%、Cu:25%、Ti:残りからなる組成を有するTi−Zr−Cu合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.13mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120412のインサート形状をもった工具基体イ、ロをそれぞれ製造した。

つぎに、これらの工具基体イ、ロの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、実施例1と同様の方法により表3および表4に示される条件で、少なくとも(Ti1−xAl)(C1−y)層を含む硬質被覆層を目標層厚で蒸着形成することにより、表17に示される本発明被覆工具31〜40を製造した。
なお、本発明被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、表16に示すような下部層、上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体イ、ロの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3および表4に示される条件で、少なくとも(Ti1−xAl)(C1−y)層を含む硬質被覆層を目標層厚で蒸着形成することにより、表18に示される比較被覆工具31〜40を製造した。
なお、本発明被覆工具34〜38と同様に、比較被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、表16に示すような下部層、上部層を形成した。
また、本発明被覆工具31〜40、比較被覆工具31〜40の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表17および表18に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、前記本発明被覆工具31〜40、比較被覆工具31〜38の硬質被覆層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、平均Al含有割合Xavg、平均C含有割合Yavg、(Ti1−xAl)(C1−y)層を構成する立方晶構造を有する結晶粒の{100}面の法線が工具基体表面の法線となす傾斜角度数分布におけるピークを確認するとともに0〜12度の範囲内に存在する度数割合を測定した。
さらに、実施例1に示される方法と同様な方法を用いて、立方晶結晶粒内に存在するTiとAlの周期的な組成変化におけるxの極大値の平均と極小値の平均の差Δx、また、短周期層と長周期層におけるΔx、Δx、Δx、<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在するTiとAlの長周期層の周期的な組成変化における周期と短周期層A層とB層の平均XOA、XOBの最大値と最小値の差、立方晶結晶粒の格子定数a、立方晶構造を有する個々の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に存在する微粒結晶粒の結晶構造、平均粒径Rおよび面積割合を測定した。
その結果を、表17および表18に示す。

つぎに、各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具31〜40、比較被覆工具31〜40について、以下に示す、浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
工具基体:立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体、
切削試験: 浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工、
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 260 m/min、
切り込み: 0.1 mm、
送り: 0.1 mm/rev、
切削時間: 4分、
表19に、前記切削試験の結果を示す。

表8、表14および表19に示される結果から、本発明の被覆工具は、硬質被覆層を構成するAlとTiの複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する立方晶結晶粒内において、TiとAlの組成変化が存在することで、結晶粒の歪みにより、硬さが向上し、高い耐摩耗性を保ちつつ、靱性が向上する。しかも、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、耐チッピング性、耐欠損性にすぐれ、その結果、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することが明らかである。
これに対して、硬質被覆層を構成するAlとTiの複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する立方晶結晶粒内において、TiとAlの組成変化が存在していない比較被覆工具については、高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合、チッピング、欠損等の発生により短時間で寿命にいたることが明らかである。
前述のように、本発明の被覆工具は、合金鋼の高速断続切削加工ばかりでなく、各種の被削材の被覆工具として用いることができ、しかも、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (8)

  1. 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−xAl)(C1−y)で表した場合、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xavgおよび複合窒化物または複合炭窒化物層のCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足し、
    (b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
    (c)また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層の工具基体表面の法線方向に沿って、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内にTiとAlの周期的な組成変化が存在し、該周期的な組成変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒は、その工具基体表面の法線方向に沿った組成変化の周期が50〜200nmである長周期層から構成され、さらに前記長周期層は、平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層における周期は3〜20nmであり、A層およびB層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均のそれぞれの差Δx、Δxは、0.02<Δx<0.1、0.02<Δx<0.1を満たし、さらに、A層とB層から構成される長周期層におけるAl含有量xの極大値の平均および極小値の平均の差Δxは、0.05<Δx<0.25を満たし、かつ、Δx>(Δx+Δx)であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒の結晶方位を、前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の35%以上の割合を示すことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のTiとAlの周期的な組成変化が存在するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒において、TiとAlの周期的な組成変化が該結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って存在し、その方位に沿った周期は平均Al含有量の異なる2つの短周期層A層とB層から構成されており、A層およびB層から成る長周期層の周期は50〜200nmであり、その方位に直交する面内での短周期層A層とB層のAlのTiとAlの合量に占める含有割合平均Xo、Xoの変化はそれぞれ0.01以下であること特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、X線回折からNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の格子定数aを求め、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の格子定数aが、立方晶TiNの格子定数aTiNと立方晶AlNの格子定数aAlNに対して、0.05aTiN+0.95aAlN≦a ≦ 0.4aTiN + 0.6aAlNの関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層について該層の縦断面方向から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有する個々の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒が存在し、該微粒結晶粒の存在する面積割合が30面積%以下であり、該微粒結晶粒の平均粒径Rが0.01〜0.3μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記工具基体と前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法
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