以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
<車両の構成>
図1は、本実施の形態による車両1の全体ブロック図である。車両1は、エンジン100と、第1MG(Motor Generator)200と、遊星歯車機構300と、第2MG400と、出力軸500と、駆動輪510と、PCU(Power Control Unit)600と、バッテリ700と、SMR(System Main Relay)710とを備える。さらに、車両1は、エンジンECU(Electronic Control Unit)30と、ハイブリッドECU40とを備える。
車両1は、エンジン100と第2MG400との少なくとも一方の動力を用いて走行するハイブリッド車両である。車両1は、通常走行中において、エンジン100の動力を用いずに第2MG400の動力を用いる電気自動車走行(以下「モータ走行」という)と、エンジン100および第2MG400の双方の動力を用いるハイブリッド自動車走行(以下「HV走行」という)との間で走行態様を切り替えることができる。
エンジン100は、燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。第1MG200および第2MG400は、交流の回転電機であって、モータとしてもジェネレータとしても機能する。
遊星歯車機構300は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。なお、遊星歯車機構300は、必ずしもシングルピニオン型であることに限定されず、たとえばダブルピニオン型であってもよい。
遊星歯車機構300は、サンギヤ310(以下「サンギヤS」ともいう)と、リングギヤ320(以下「リングギヤR」ともいう)と、サンギヤSとリングギヤRとに噛合するピニオンギヤ340(以下「ピニオンギヤP」ともいう)と、ピニオンギヤPを自転かつ公転自在に保持しているキャリア330(以下「キャリアC」ともいう)とを有する。
キャリアCはエンジン100に連結される。サンギヤSは第1MG200に連結される。リングギヤRは出力軸500に連結される。出力軸500は、デファレンシャルギヤを介して左右の駆動輪510に接続される。第2MG400は、出力軸500に直結される。したがって、リングギヤRと第2MG400と出力軸500と駆動輪510とは同期して回転する。
以下では、エンジン100の回転速度を「エンジン回転速度Ne」、第1MG200の回転速度を「第1MG回転速度Nm1」、第2MG400の回転速度を「第2MG回転速度Nm2」、出力軸500の回転速度を「車速V」と記載する場合がある。また、エンジン100の出力トルクを「エンジントルクTe」、第1MG200の出力トルクを「第1MGトルクTm1」、第2MG400の出力トルクを「第2MGトルクTm2」と記載する場合がある。また、エンジン100の出力パワーを「エンジンパワーPe」、第2MG400の出力パワーを「第2MGパワーPm2」と記載する場合がある。
図2は、通常運転中のエンジン100、第1MG200および第2MG400の状態の一例を遊星歯車機構300の共線図に示す図である。遊星歯車機構300の共線図は、遊星歯車機構300のサンギヤS、キャリアCおよびリングギヤRを縦線で示し、それらの間隔を遊星歯車機構300のギヤ比に対応する間隔とし、さらにそれぞれの縦線の上下方向を回転方向とし、その上下方向での位置を回転速度として示した図である。本実施の形態による遊星歯車機構300はシングルピニオン型であるため、図2の共線図において、第1MG200に連結されるサンギヤSは左端に位置する縦線で表され、エンジン100に接続されるキャリアCは中央に位置する縦線で表され、第2MG400に接続されるリングギヤRは右端に位置する縦線で表される。
エンジン100、第1MG200および第2MG400が遊星歯車機構300によって機械的に連結されることによって、第1MG回転速度Nm1(=サンギヤSの回転速度)と、エンジン回転速度Ne(=キャリアCの回転速度)と、MG2回転速度Nm2(=リングギヤRの回転速度)とは、共線図上において直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残り1つの回転速度も決まる関係、以下「共線図の関係」ともいう)を有する。
図2には、車両1がHV走行中(前進中)である場合が例示される。HV走行中においては、エンジン100は正方向のエンジントルクTeをキャリアCに出力し、第1MG200は負方向の第1MGトルクTm1をサンギヤSに出力する。これにより、第1MGトルクTm1を反力としてエンジントルクTeがリングギヤRに伝達される。第1MGトルクTm1を反力としてリングギヤRに伝達されるエンジントルクTe(以下「エンジン直達トルクTep」ともいう)は、リングギヤRに対して正方向(前進方向)に作用する。
また、第2MG200は正方向の第2MGトルクTm2をリングギヤRに出力する。そのため、エンジン直達トルクTepと第2MGトルクTm2とを合わせたトルクによって駆動輪510が回転させられる。
図1に戻って、PCU600は、バッテリ700から供給される高電圧の直流電力を交流電力に変換して第1MG200および/または第2MG400に出力する。これにより、第1MG200および/または第2MG400が駆動される。また、PCU600は、第1MG200および/または第2MG400によって発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリ700へ出力する。これにより、バッテリ700が充電される。また、PCU600は、第1MG200によって発電された電力で第2MG400を駆動することもできる。
バッテリ700は、第1MG200および/または第2MG400を駆動するための高電圧(たとえば200V程度)の直流電力を蓄える二次電池である。バッテリ700は、代表的にはニッケル水素電池やリチウムイオン電池を含んで構成される。
SMR710は、バッテリ700と、PCU600、第1MG200および第2MG400を含む電気システムとを接続したり遮断したりするためのリレーである。
さらに、車両1には、エンジン回転速度センサ10、出力軸回転速度センサ15、レゾルバ21,22、アクセルポジションセンサ31など、車両1の制御に必要なさまざまな情報をそれぞれ検出する複数のセンサが設けられる。エンジン回転速度センサ10は、エンジン回転速度Neを検出し、検出結果をエンジンECU30に出力する。レゾルバ21は、第1MG回転速度Nm1を検出し、ハイブリッドECU40に出力する。レゾルバ22は、第2MG回転速度Nm2を検出し、検出結果をハイブリッドECU40に出力する。出力軸回転速度センサ15は、出力軸500の回転速度Npを車速Vとして検出し、検出結果をハイブリッドECU40に出力する。アクセルポジションセンサ31は、ユーザによるアクセルペダル操作量を検出し、検出結果をハイブリッドECU40に出力する。
エンジンECU30およびハイブリッドECU40は、それぞれ、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行する。
ハイブリッドECU40は、エンジンECU30と通信線で接続されており、エンジンECU30との間で相互に通信することによって、エンジン100、第1MG200および第2MG400を含む車両1全体を統括的に制御する。
より具体的には、ハイブリッドECU40は、アクセルペダル操作量および車速Vなどに基づいて、ユーザが車両1に要求する駆動力(以下「要求駆動力Preq」ともいう)を算出する。ハイブリッドECU40は、要求駆動力Preqが駆動輪510に伝達されるようにエンジン指令信号、第1MG指令信号、第2MG指令信号をそれぞれ生成する。
そして、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30との通信によってエンジン指令信号をエンジンECU30に出力する。これにより、エンジンECU30は、エンジンパワーPeがエンジン指令信号で指令されたパワーとなるようにエンジン100の出力(具体的にはスロットル開度、点火時期、燃料噴射量など)を制御する。
また、ハイブリッドECU40は、第1MG指令信号および第2MG指令信号をPCU600に出力する。これにより、PCU600は、ハイブリッドECU40からの第1MG指令信号および第2MG指令信号に従って第1MG200および第2MG400の出力(具体的には通電量など)をそれぞれ調整するように動作する。
エンジンECU30は、エンジン100の状態を示す情報(たとえばエンジン回転速度センサ10で検出されたエンジン回転速度Neなど)をハイブリッドECU40に出力する。
なお、図1には、ハイブリッドECU40が1つのユニットとして表わされているが、ハイブリッドECU40を機能ごとに別々のユニットに分割することも可能である。
<ENG−HV通信異常時のフェールセーフ運転>
以上のような構成を有する車両1において、エンジンECU30とハイブリッドECU40との通信異常(以下、単に「ENG−HV通信異常ともいう」)が生じている場合、エンジン100をユーザの要求に応じて適切に制御することができない。具体的には、ハイブリッドECU40はエンジン指令信号をエンジンECU30に出力することができない。また、エンジンECU30は、エンジン指令信号をハイブリッドECU40から受け取ることができないので、エンジン100をどのように制御すればよいのかを把握することができない。
このような場合には、エンジン100の出力が過剰に高くなることを防止するために、エンジンECU30がエンジン100を一律に停止してしまうことも考えられる(従来相当)。しかしながら、エンジン100を一律に停止してしまうと、エンジン100の動力を用いた車両1の退避走行を行なうことができないという問題がある。
そこで、本実施の形態においては、ENG−HV通信異常が生じている場合、以下のようなフェールセーフ運転による退避走行が行なわれる。
エンジンECU30は、エンジン動作点(エンジン回転速度Ne、エンジントルクTe)が予め定められた固定動作点(固定回転速度Nfix、固定トルクTfix)となるようにエンジン100を運転する「固定制御」を実行する。固定回転速度Nfixは、0ではなく正の値に設定される。したがって固定制御中はエンジン100は停止されず運転される。
さらに、ハイブリッドECU40は、エンジン100が固定制御によって運転されていることを前提として、要求駆動力Preqを満たすように(要求駆動力Preqが駆動輪510に伝達されるように)第1MG200および第2MG400を制御する。
さらに、ENG−HV通信異常が生じている場合、上述の固定制御によってエンジン100が固定動作点で運転されるが、ENG−HV通信異常の影響により、エンジン停止要求がある(エンジン100を停止すべき状況である)ことをハイブリッドECU40が把握したとしても、ハイブリッドECU40はエンジンECU30にエンジン停止指令を出力することができない。
このような問題に鑑み、エンジンECU30は、固定制御中にエンジン回転速度Neが固定制御領域から外れた場合、固定制御の実行を止めてエンジン100を停止する。ここで、固定制御領域とは、固定回転速度Nfixから所定値α(α>0)を減じた下限値Nmin(=Nfix−α)から、固定回転速度Nfixに所定値αを加えた上限値Nmax(=Nfix+α)までの領域である。
そして、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30との通信に異常が生じている場合であって、かつエンジン停止要求がない場合には、エンジン回転速度Neが固定制御領域内に含まれるように第1MGトルクTm1を制御する。これにより、エンジンECU30によるエンジン100の固定制御の実行が継続される。
一方、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30との通信に異常が生じている場合であって、かつエンジン停止要求がある場合には、エンジン回転速度Neが固定制御領域から外れるように第1MGトルクTm1を制御する。これにより、エンジンECU30は固定制御の実行を止めてエンジン100を停止することになる。その結果、ENG−HV通信異常が生じている場合においても、ハイブリッドECU40が第1MGトルクTm1を用いてエンジン回転速度Neを調整することによって間接的にエンジン100を停止することが可能となる。
図3は、ENG−HV通信異常時にエンジン100の固定制御が実行される場合のエンジン100、第1MG200および第2MG400の状態の一例を遊星歯車機構300の共線図に示す図である。
上述したように、ENG−HV通信異常が生じている場合、エンジン100は固定動作点(固定回転速度Nfix、固定トルクTfix)で運転される。第1MGトルクTm1は、エンジン回転速度Neが固定制御領域内に含まれるように調整される。
第2MGトルクTm2は、エンジン100が固定動作点で運転されていることを前提として、要求駆動力Preqを満たすように制御する。そのため、エンジン100が固定制御で運転されることによってエンジンパワーPeがエンジン要求パワーよりも不足する場合には、その不足分が第2MGパワーPm2によって補われることになる。その結果、ENG−HV通信異常が生じている場合においても、エンジンパワーPeおよび第2MGパワーPm2によって要求駆動力Preqを満たしつつ車両1を退避走行させることができる。
なお、図3には示していないが、上述したように、エンジン100の固定制御中にエンジン停止要求が生じた場合、ハイブリッドECU40は、エンジン回転速度Neが固定制御領域から外れるように第1MGトルクTm1を制御する。具体的には、ハイブリッドECU40は、第1MGトルクTm1の出力を停止する。これにより、エンジントルクTeの反力がなくなるため、エンジン回転速度NeはエンジントルクTeの作用によって増加する。これによりエンジン回転速度Neが固定制御領域の上限値Nmaxを超えると、エンジンECU30がエンジン100を停止させる。
<ENG−HV通信異常時の第2MGトルク制限>
上述のように、ENG−HV通信異常に起因するフェールセーフ運転中においては、エンジン100の固定制御が実行され、エンジン回転速度Neは固定回転速度Nfixに維持される。
ところが、エンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されると、車速Vによっては、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nth(Nth>0)以下の微小値となり、第1MG200がロック状態(電流を供給しても回転せずにロックされる状態)になることが懸念される。
図4は、エンジン100の固定制御中における車速Vと第1MG回転速度Nm1との関係を遊星歯車機構300の共線図に示す図である。エンジン100、第1MG200および駆動輪510(出力軸500)が遊星歯車機構300によって連結されるため、共線図の関係により、エンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されると、第1MG回転速度Nm1は車速Vによって一意に決まる。したがって、車速Vによっては、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下となって第1MG200がロック状態になり得る。
図4に示す車速V1から車速V3(V3>V1)までの領域R1は、エンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されている状態において、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下となる車速領域である。すなわち、固定制御中に車速Vが領域R1に含まれる場合、第1MG200がロック状態になり得る。第1MG200がロック状態になると、第1MG200の特定の箇所に局所的に集中して電流が流れるため、第1MG200が過熱状態に陥ることが懸念される。
さらに、図4に示す車速V2(V1<V2<V3)を超える領域R2は、エンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されている状態において、第1MG回転速度Nm1が負の値となる車速領域である。すなわち、固定制御中に車速Vが領域R2に含まれる場合、第1MG200が負回転する。第1MG200が負回転する状態で第1MGトルクTm1を負方向に作用させるためには、バッテリ700から第1MG200に放電させる必要がある。そのため、バッテリ700の電力が早期に消費され、退避走行距離が短くなることが懸念される。
このような点に鑑み、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30との通信異常が生じている場合、エンジン回転速度Neが固定制御領域に含まれるように第1MGトルクTm1を制御するとともに、車速Vが領域R1の下限値V1を超えないように第2MGトルクTm2を制限する。より具体的には、車速Vが領域R1の下限値V1よりも低い車速V0を超えた場合に第2MGトルクTm2を制限する。これにより、車速Vの上昇が抑制され、車速Vが領域R1に含まれることが抑制される。そのため、固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されている状態において、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nth以下となること(第1MG200がロック状態になること)を抑制することができる。これにより、第1MG200の部品保護を図ることができる。
また、車速Vが領域R1の下限値V1を超えることを抑制することで、車速Vが領域R2の下限値V2(V2>V1)を超えることも抑制されるため、固定制御中に第1MG200が負回転することが抑制される。第1MG200が正回転する状態で第1MGトルクTm1を負方向に作用させる場合、第1MG200は発電状態となる。その結果、固定制御中に第1MG200を発電状態に維持することができバッテリ700の電力が早期に消費されることが抑制されるので、退避走行距離を確保することができる。
<ENG−HV通信異常時の制御フロー>
以下、上述の制御をエンジンECU30およびハイブリッドECU40が行なう際の処理手順をフロチャートを用いて説明する。
図5は、ENG−HV通信異常時にエンジンECU30が行なう処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは所定周期で繰り返し実行される。
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、エンジンECU30は、ハイブリッドECU40との通信異常が発生しているか否かを判定する。たとえば、エンジンECU30は、ハイブリッドECU40からの情報を所定時間継続して受信できない場合に、ハイブリッドECU40との通信異常が発生していると判定する。
ハイブリッドECU40との通信異常が発生していない場合(S10にてNO)、エンジンECU30は処理を終了する。この場合、エンジン100は通常運転される。すなわち、エンジンECU30は、エンジン動作点がハイブリッドECU40から受けた指令動作点となるようにエンジン100を制御する。
一方、ハイブリッドECU40との通信異常が発生してる場合(S10にてYES)、エンジンECU30は、S11以降のフェールセーフ運転を行なう。
具体的には、S11にて、エンジンECU30は、エンジン100への燃料供給を停止中(燃料カット中)であるか否かを判定する。
燃料カット中である場合(S11にてYES)、エンジンECU30は、S12およびS13にて、エンジン100の始動制御を行なう。具体的には、エンジンECU30は、S12にてエンジン回転速度Neが固定制御領域の下限値Nminよりも高いか否かを判定する。エンジン回転速度Neが固定制御領域の下限値Nminよりも高くない場合(S12にてNO)、エンジンECU30は処理を終了させる。
一方、エンジン回転速度Neが固定制御領域の下限値Nminよりも高い場合(S12にてYES)、エンジンECU30は、S13にて、エンジン100に燃料を供給してエンジン100を始動させる。エンジン100を始動させた後、エンジンECU30は、処理をS14に移す。
燃料カット中でない場合(S11にてNO)、すなわち既にエンジン100への燃料供給を行なっている場合、エンジンECU30は、S12およびS13の処理をスキップして、処理をS14に移す。
S14にて、エンジンECU30は、上述の固定制御を実行する。すなわち、エンジンECU30は、エンジン動作点(エンジン回転速度Ne、エンジントルクTe)が予め定められた固定動作点(固定回転速度Nfix、固定トルクTfix)となるようにエンジン100を運転する。
その後、エンジンECU30は、S15にて、上記の固定制御を開始してから所定時間が経過したか否かを判定する。ここで、所定時間は、上記の固定制御(およびハイブリッドECU40による第1MGトルクTm1の制御(後述の図6のS22の処理))によって、エンジン回転速度Neを固定制御領域外の値から固定制御領域内の値に変化させるのに要する時間に設定される。
固定制御を開始してから所定時間が経過していない場合(S15にてNO)、固定制御開始後にエンジン回転速度Neが一度も固定制御領域内の値に変化していない可能性があるため、エンジンECU30は、S16の処理をスキップし、S17にてエンジン100の固定制御を継続する。
一方、固定制御を開始してから所定時間が経過している場合(S15にてYES)、固定制御開始後にエンジン回転速度Neが少なくとも一度は固定制御領域内の値に変化していると考えられるため、エンジンECU30は、S16にて、エンジン回転速度Neが固定制御領域内に含まれるか否かを判定する。この処理は、ハイブリッドECU40がエンジン停止要求があると判定しているか否かを、エンジンECU30がエンジン回転速度Neをパラメータとして判定するための処理である(後述の図6のS24、S25参照)。
エンジン回転速度Neが固定制御領域内に含まれる場合(S16にてYES)、ハイブリッドECU40がエンジン停止要求があると判定していない(後述の図6のS24にてNOと判定された)と考えられるため、エンジンECU30は、処理をS17に移してエンジン100の固定制御を継続する。
一方、エンジン回転速度Neが固定制御領域内に含まれない場合(S16にてNO)、ハイブリッドECU40がエンジン停止要求がある(後述の図6のS24にてYES)と判定して第1MGトルクTm1の出力を停止した(後述の図6のS25)と考えられるため、エンジンECU30は、エンジン100の固定制御を止めて、エンジン100への燃料供給を停止する。これにより、エンジン100が停止される。
図6は、ENG−HV通信異常時にハイブリッドECU40が行なう処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは所定周期で繰り返し実行される。
S20にて、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30との通信異常が発生しているか否かを判定する。たとえば、ハイブリッドECU40は、エンジンECU30からの情報を所定時間継続して受信できない場合に、エンジンECU30との通信異常が発生していると判定する。
エンジンECU30との通信異常が発生していない場合(S20にてNO)、ハイブリッドECU40は処理を終了する。この場合、第1MG200および第2MG400は通常運転される。すなわち、ハイブリッドECU40は、エンジンパワーPeがエンジン指令信号に従ったパワー(エンジン要求パワー)であることを前提として、要求駆動力Preqを満たすように第1MG200および第2MG400を制御する。
一方、エンジンECU30との通信異常が発生している場合(S20にてYES)、ハイブリッドECU40は、S21以降のフェールセーフ運転を行なう。
具体的には、S21にて、ハイブリッドECU40は、エンジン回転速度Neが0であるか否か(エンジン100が回転していない状態であるか否か)を判定する。なお、ハイブリッドECU40は、ENG−HV通信異常が生じている場合には、エンジンECU30からエンジン回転速度Neの情報を取得することはできないが、レゾルバ21,22によってそれぞれ検出された第1MG回転速度Nm1および第2MG回転速度Nm2を用いて共線図の関係からエンジン回転速度Neを算出することができる。
エンジン回転速度Neが0でない場合(S21にてNO)、すなわちエンジン100が回転中である場合、ハイブリッドECU40は、S22にて、エンジン回転速度Neが固定制御領域(下限値Nminから上限値Nmaxまでの領域)内に含まれるように第1MGトルクTm1を制御する。ENG−HV通信異常時においては、エンジン100は固定制御によって正方向の固定トルクTfixを発生しているため、第1MGトルクTm1はエンジン回転速度Neの上昇を抑える方向、すなわち負方向に作用するように制御される(上述の図3、4参照)。
さらに、ハイブリッドECU40は、S23にて、車速Vが領域R1の下限値V1(上述の図3参照)を超えないように車速Vに応じて第2MGトルクTm2を制限する。
図7は、車速Vと第2MGトルクTm2との関係を示す図である。図7の横軸は車速Vを示し、縦軸は第2MG要求トルクに対する第2MGトルクTm2の割合(パーセント)を示す。なお、第2MG要求トルクとは、要求駆動力Preqを満たすために第2MG400が出力すべきトルクである。
車速Vが車速V0未満の範囲では、第2MGトルクTm2は100%とされる。すなわち、第2MGトルクTm2は制限されない。
車速Vが車速V0を超える範囲では第2MGトルクTm2は100%よりも小さい値とされ、車速Vが車速V1を超える範囲では第2MGトルクTm2は0%とされる。すなわち、車速Vが領域R1に近づくと第2MGトルクTm2の制限が開始され、車速Vが領域R1に達すると第2MGトルクTm2が0とされる。第2MGトルクTm2の制限によって駆動力が低下することに鑑み、突然の駆動力抜けが生じないように車速Vの増加に応じて第2MGトルクTm2が漸減するように制御される。また、突然の駆動力復帰が生じないように車速Vの低下に応じて第2MGトルクTm2が漸増するよ制御される。
このように、車速Vが領域R1に近づた場合に第2MGトルクTm2を制限し始めることによって駆動力が抑制され車速Vの上昇が抑えられるため、車速Vが領域R1の下限値V1を超え難くすることができる。これにより、固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されている状態において、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nth以下となって第1MG200がロック状態になることが抑制される。
図6に戻って、その後のS24にて、ハイブリッドECU40は、エンジン停止要求があるか否かを判定する。たとえば、ハイブリッドECU40は、要求駆動力Preqが所定値未満に低下した場合、および他の制御システムの異常が発生した場合に、エンジン停止要求があると判定する。エンジン停止要求がない場合(S24にてNO)、ハイブリッドECU40は処理を終了する。
エンジン停止要求がある場合(S24にてYES)、ハイブリッドECU40は、S25にて、エンジン回転速度Neを固定制御領域の上限値Nmaxよりも高い値にするために、S22の処理を止めて第1MGトルクTm1の出力を停止する。これにより、負方向に作用していた第1MGトルクTm1が0となりエンジントルクTeの反力がなくなるため、エンジン回転速度NeはエンジントルクTeによって増加する。そのため、エンジン回転速度Neを固定制御領域の上限値Nmaxよりも高い値にすることができる。エンジン回転速度Neを固定制御領域の上限値Nmaxよりも高い値になると、エンジンECU30がエンジン100を停止させる(上述の図5のS16、S18参照)。このように、ENG−HV通信異常が生じている場合においても、ハイブリッドECU40が第1MGトルクTm1を用いてエンジン回転速度Neを調整させることによって間接的にエンジン100を停止することができる。
一方、エンジン回転速度Neが0である場合(S21にてYES)、すなわちエンジン100の燃料供給が停止されて回転していない状態である場合、ハイブリッドECU40は、S26にて、エンジン始動要求があるか否かを判定する。たとえば、ハイブリッドECU40は、要求駆動力Preqが所定値以上に増加した場合、エンジン始動要求があると判定する。エンジン始動要求がない場合(S26にてNO)、ハイブリッドECU40は処理を終了する。
エンジン始動要求がある場合(S26にてYES)、ハイブリッドECU40は、S27にて、エンジン回転速度Neが固定制御領域の下限値Nminよりも高くなるように第1MGトルクTm1を制御する。具体的には、ハイブリッドECU40は、第1MGトルクTm1を正方向に発生させることによってエンジン100をクランキングする。これにより、エンジンECU30によるエンジン100への燃料供給が行なわれ、エンジン100が始動される(上述の図5のS12、S13参照)。その結果、ENG−HV通信異常が生じている場合においても、ハイブリッドECU40が第1MGトルクを用いてエンジン100をクランキングすることによって間接的にエンジン100を始動することができる。
以上のように、本実施の形態によるエンジンECU30は、ハイブリッドECU40との通信異常が生じている場合、エンジン100を停止するのではなく、固定制御によってエンジン100を運転する。そのため、ENG−HV通信異常によってハイブリッドECU40からエンジンECU30にエンジン指令信号を出力することができない場合においても、エンジン100の動力を用いた退避走行が可能になる。
さらに、ENG−HV通信異常に起因する退避走行中において、エンジンECU30は固定制御によってエンジン回転速度Neを固定回転速度Nfixに維持するところ、ハイブリッドECU40は、車速Vが領域R1の下限値V1を超えないように第2MGトルクTm2を制限する。ここで、領域R1は、エンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持される状態において第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下となる車速領域である。そのため、固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持される場合であっても車速Vが領域R1未満に制限されるので、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下になることが抑制される。その結果、ENG−HV通信異常が生じている場合に、エンジン100の動力を用いた退避走行を可能にしつつ、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下になることを抑制することができる。
<変形例1>
上述の実施の形態においては、ENG−HV通信異常に起因する退避走行中において、車速Vに応じて第2MGトルクTm2を制限することによって、車速Vが領域R1の下限値V1を超えることを抑制した。
しかしながら、車両1が下り坂を走行する場合は、重力加速度が進行方向に作用するため、たとえ第2MGトルクTm2を制限しても車速Vが領域R1の下限値V1を超えてしまい、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下になる場合が生じ得る。
上記の点に鑑み、第2MGトルクTm2を制限しても第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下になる場合には、ハイブリッドECU40が第1MGトルクTm1の出力を停止することによってエンジン100を停止するようにしてもよい。これにより、第2MGトルクTm2によるモータ走行によって退避走行が行われる。
図8は、エンジン100を停止してモータ走行に移行する様子を共線図上に模式的に示す図である。第2MGトルクTm2を制限しても下り坂の走行によって車速がV1を超えて領域R1に含まれる場合(実線参照)には、ハイブリッドECU40が第1MGトルクTm1の出力を停止する。これにより、エンジン回転速度Neが増加して上限値Nmaxを超える(一点鎖線参照)と、エンジンECU30がエンジン100を停止するため、エンジン回転速度Neが0に低下する(二点鎖線参照)。これに伴い、モータ走行による退避走行が行われる。モータ走行中においては、第1MGトルクTm1の出力が停止されるため、第1MG200の熱的な負荷が抑制される。また、仮に第1MG200がトルクを出力する場合であっても、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nthよりも大きいため、第1MG200がロック状態になることが回避される。
図9は、本変形例1によるハイブリッドECU40が行なう処理手順を示すフローチャートである。なお、図9のフローチャートは、上述の図6のフローチャートに対して、S30のステップを追加したものである。図6に示したステップと同じ番号を付しているステップの処理内容については既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
ハイブリッドECU40は、第2MGトルクTm2の制限中(S23)において、エンジン停止要求がない場合(S24にてNO)、S30にて、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nth以下である状態が所定時間継続したか否かを判定する。
第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下である状態が所定時間継続している場合(S30にてYES)、ハイブリッドECU40は、S25にて第1MGトルクTm1の出力を停止する。これにより、上述の図8に示したように、エンジン100が停止され、第1MG回転速度Nm1の大きさ(絶対値)が所定値Nth以下になること(第1MG200がロック状態になること)を回避することができる。
以上のように、本変形例1によるハイブリッドECU40は、第2MGトルクTm2を制限しても車速Vが領域R1の下限値V1を超えて第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下になる場合には、第1MGトルクTm1の出力を停止することによってエンジン100を停止する。これにより、第1MG200がロック状態になることを回避することができる。
<変形例2>
上述の実施の形態および変形例1においては、ENG−HV通信異常に起因する退避走行中において、エンジン100の停止中にエンジン始動要求があると、車速Vが領域R1に含まれるか否かに関わらず、エンジン100を始動させた。
しかしながら、車速Vが領域R1に含まれる場合には、仮に固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されると、第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下となり、第1MG200がロック状態となることが懸念される。
上記の点に鑑み、エンジン始動要求があったとしても車速Vが領域R1に含まれる場合には、エンジン100を始動せず、停止状態を維持するようにしてもよい。これにより、エンジン100の始動後に第1MG200がロック状態となることを未然に防止することができる。
図10は、本変形例2によるハイブリッドECU40が行なう処理手順を示すフローチャートである。なお、図10のフローチャートは、上述の図9のフローチャートに対して、S40のステップを追加したものである。図9に示したステップと同じ番号を付しているステップの処理内容については既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
ハイブリッドECU40は、エンジン100の停止中(S21にてYES)にエンジン始動要求があった場合(S26にてYES)、S40にて、車速Vが領域R1の下限値V1未満であるか否かを判定する。
車速Vが領域R1の下限値V1未満である場合(S40にてYES)、エンジン100の始動後に固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されても第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下とならないため、ハイブリッドECU40は、S27にて、第1MGトルクTm1を正方向に発生させてエンジン100をクランキングする。これにより、エンジンECU30によるエンジン100への燃料供給が行なわれ、エンジン100が始動される(上述の図5のS12、S13参照)。
一方、車速Vが領域R1の下限値V1を超えている場合(S40にてNO)、仮に固定制御によってエンジン回転速度Neが固定回転速度Nfixに維持されると第1MG回転速度Nm1の大きさが所定値Nth以下となるため、S27の処理(エンジン100のクランキング)を行なうことなく、処理を終了する。これにより、エンジン100が停止状態に維持され、第2MGトルクTm2によるモータ走行によって退避走行が行われる。
以上のように、本変形例2によるハイブリッドECU40は、エンジン始動要求があったとしても車速Vが領域R1に含まれる場合には、エンジン100を始動せず停止状態を維持する。これにより、エンジン100の始動後に第1MG200がロック状態となることを未然に防止することができる。
<変形例3>
上述の実施の形態およびその変形例1、2においては、ENG−HV通信異常に起因する退避走行中において、エンジン100を固定制御によって運転する場合には、第1MG200が第1MGトルクTm1を負方向に発生し続ける必要があり、第1MG200に熱的な負荷がかかる。
そのため、第1MG200の過熱をより適切に防止する観点から、第1MG200の温度を監視し、第1MG200が過熱が疑われる場合には第1MGトルクTm1の出力を停止してモータ走行を行なうようにしてもよい。
図11は、本変形例3によるハイブリッドECU40が行なう処理手順を示すフローチャートである。なお、図11のフローチャートは、上述の図10のフローチャートに対して、S31およびS41のステップを追加したものである。図10に示したステップと同じ番号を付しているステップの処理内容については既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
エンジン停止要求がない場合(S24にてNO)、ハイブリッドECU40は、S50にて、第1MG200の温度が第1しきい温度TH1を超えているか否かを判定する。第1MG200の温度は、第1MG200の温度を検出するセンサ(図示せず)の検出値であってもよいし、第1MG200の作動履歴から算出される推定値であってもよい。第1しきい温度TH1は、第1MG200が過熱状態であり、部品保護の観点から第1MG200の発電(負トルク出力)を停止すべき値に設定される。
第1MG200の温度が第1しきい温度TH1を超えている場合(S50にてYES)、ハイブリッドECU40は、処理をS25に移し、第1MGトルクTm1の出力を停止する。これにより、エンジン100が停止され、モータ走行が行なわれる。
さらに、ハイブリッドECU40は、エンジン100の停止中(S21にてYES)にエンジン始動要求があった場合(S26にてYES)、S51にて、第1MG200の温度が第2しきい温度TH2未満であるか否かを判定する。第2しきい温度TH2は、第1MG200の発電(負トルク出力)が可能な温度であって、S50で用いられる第1しきい温度TH1よりも所定温度低い値に設定される。
第1MG200の温度が第2しきい温度TH2よりも高い場合(S51にてNO)、ハイブリッドECU40は、エンジン100のクランキングを行なうことなく、処理を終了する。これにより、エンジン100が停止状態に維持され、第1MG200も停止状態に維持される。
一方、第1MG200の温度が第2しきい温度TH2未満である場合(S51にてYES)、ハイブリッドECU40は、車速Vが領域R1の下限値V1未満である場合(S40にてYES)に、S27にてエンジン100をクランキングする。これにより、エンジンECU30によるエンジン100への燃料供給が行なわれ、エンジン100が始動される(上述の図5のS12、S13参照)。この際、第2しきい温度TH2が第1しきい温度TH1よりも所定温度低い値に設定されているため、エンジン100の停止後に直ぐにエンジン100が始動されるといったハンチングが防止される。
以上のように、本変形例3によるハイブリッドECU40は、第1MG200の温度を監視し、第1MG200が過熱が疑われる場合には第1MGトルクTm1の出力を停止してモータ走行を行なう。そのため、第1MG200の過熱をより適切に防止することができる。
また、上述した実施の形態およびその変形例については、適宜組合せることも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。