本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定方法、光伝送特性補償方法、光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムについて図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。なお、以下で使用する「伝達関数」という用語は、装置、部品、伝搬路等の伝送特性を表す所定の関数に限定されず、ある2地点間の伝送特性を表す関数、数式、回路、或いは線路等であればどのようなものでもよい。また、伝達関数は線形に限らず、非線形な特性を表す関数等でもよい。更に、「伝送」と「伝達」については、本発明の範囲内では基本的に同意として捉える。また、「遠隔」は、一般的には光ファイバの敷設距離が長いことを意味するが、2つの光送受信装置を光ファイバ(光伝送路)で接続した状態であれば、装置間の距離には依存しない。同じ室内で本システムを構成し動作させる場合も本発明の範囲内である。
図1は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムを備える光送受信装置を示す図である。第1の光送受信装置1と第2の光送受信装置2が光伝送路A,Bを介して互いに接続されている。第1の光送受信装置1は遠隔に設置された第2の光送受信装置2との間で光信号を交信する。光伝送路A,Bは例えば光ファイバと光増幅器からなる。
第1の光送受信装置1は、第1の送信信号処理部3、第1の送信機補償部4、第1の送信機データバッファ5、第1の受信信号処理部6、第1の受信機補償部7、第1の受信機データバッファ8、及び第1の光送受信機9を備える。第1の光送受信機9は送信部9a及び受信部9bを含む。第1の送信信号処理部3、第1の送信機補償部4、第1の送信機データバッファ5、第1の受信信号処理部6、第1の受信機補償部7、第1の受信機データバッファ8の一部又は全部は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成できる。また、これらの一部又は全部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより機能するソフトウェアでも構成できる。
第2の光送受信装置2も第1の光送受信装置1と同様の構成を有する。即ち、第2の光送受信装置2は、第2の送信信号処理部10、第2の送信機補償部11、第2の送信機データバッファ12、第2の受信信号処理部13、第2の受信機補償部14、第2の受信機データバッファ15、及び第2の光送受信機16を備える。第2の光送受信機16は送信部16a及び受信部16bを含む。但し、両装置の各部は同じ機能を有すればよく同じ製品である必要はない。また、両装置の各部の特性もばらつきを有する。
第1の送信信号処理部3に供給されたデータは、第1の送信機補償部4、第1の送信機データバッファ5、第1の光送受信機9の送信部9aを介して、光信号として光伝送路Aに送信される。光伝送路Aから第2の光送受信機16の受信部16bが受信した光信号は、第2の受信機データバッファ15、第2の受信機補償部14、第2の受信信号処理部13を介して、データとして出力される。この時、各データバッファ及び各補償部はバイパス可能である。同様に、第2の送信信号処理部10に供給されたデータは、第2の送信機補償部11、第2の送信機データバッファ12、第2の光送受信機16の送信部16aを介して、光信号として光伝送路Bに送信される。光伝送路Bから第1の光送受信機9の受信部9bが受信した光信号は、第1の受信機データバッファ8、第1の受信機補償部7、第1の受信信号処理部6を介して、データとして出力される。この時、各データバッファ及び各補償部はバイパス可能である。上述のようにデータ通信が行われる。
また、第1の推定部17は、第1の光送受信装置1に接続され、第1の光送受信機9の受信部9bの伝達関数、及び第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数を推定する。一方、第2の推定部18は、第2の光送受信装置2に接続され、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数、及び第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数を推定する。第1の推定部17及び第2の推定部18は、後述する第1の受信機伝達関数推定部、第2の受信機伝達関数推定部、送信機伝達関数推定部、及び制御部を有する。制御部は、内部の各推定部の動作を制御したり、推定した伝達関数を転送したり補償部へ設定したりする。
第1の推定部17及び第2の推定部18は、第1及び第2の光送受信装置1,2とは独立した外部装置、例えばPC又はそれに相当する装置によって構成することができる。即ち、内在する各部の動作をソフトウェアとして実装することができる。従って、各部の動作は、適宜切り替えられながら実行される。なお、第1の推定部17及び第2の推定部18は第1及び第2の光送受信装置1,2に接続又は取り外し可能であり、手荷物レベルでの運搬が可能である。また、第1の推定部17及び第2の推定部18は第1及び第2の光送受信装置1,2と一体化することも可能である。更には第1及び第2の光送受信装置1,2内の第1の受信信号処理部6及び第2の受信信号処理部13は、それぞれ第1の推定部17及び第2の推定部18と同様の機能を有することができ、それらとの共用化も可能である。
第1の光送受信装置1、光伝送路A,B及び第2の光送受信装置2が光データ通信システムを構成する。本システムに、第1の推定部17及び第2の推定部18を適用することで、光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムを構成できる。具体的には、データ通信を行う前に、第1の推定部17及び第2の推定部18を用いることによって、第1の光送受信機9の伝達関数又は逆伝達関数、及び第2の光送受信機16の伝達関数又は逆伝達関数を推定し、第1及び第2の送信機補償部4,11及び第1及び第2の受信機補償部7,14に設定することができる。これにより、データ通信を行う前に第1及び第2の光送受信機9,16の不完全性を改善できる。従って、データ通信中は、その他の劣化要因の効率的な改善を各信号処理部によって実行できる。この結果、伝送特性が大幅に向上する。
第1の送信信号処理部3は、送信データ系列に基づいてフレームデータを生成する。フレームデータは、第1の光送受信機9において変調処理を施すための信号系列(変調対象信号系列)である。具体的には、第1の送信信号処理部3は、XIレーン(第1レーン)、XQレーン(第2レーン)、YIレーン(第3レーン)、YQレーン(第4レーン)の変調対象信号系列を生成する。
第1の送信機補償部4には、第2の推定部18が推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数が第1の推定部17により設定される。第1の送信機補償部4は、推定された伝達関数に基づいて第1の光送受信機9の送信部9aのXIレーン、XQレーン、YIレーン、及びYQレーンの伝達関数と、そのレーン間差を補償する。第1の送信機補償部4は、例えばFIR(Finite Impulse Response)フィルタ等のデジタルフィルタにより構成できるが、アナログフィルタ等により構成してもよい。また、第1の送信機補償部4は、個別に4レーン間の遅延時間差を保証する機能を持つ機能部を備えてもよい。
第1の送信機データバッファ5は、第1の送信機補償部4からのフレームデータを一時的に蓄え、第2の光送受信機16へ送信するために第1の光送受信機9に供給する。また、第1の推定部17から供給されたデータも第1の送信機データバッファ5を介して第1の光送受信機9に供給され、第2の光送受信機16へ送信される。なお、第1の送信機補償部4からのフレームデータは、第1の送信機データバッファ5を介さずに直接的に第1の光送受信機9に供給することもできる。また、第1の送信機データバッファ5は、そのバッファにデータをセットすることによって自動で第2の光送受信装置2に送信する機能を有している。その場合、データ通信を行う高い多値変調ではなく、制御信号の伝送に適した比較的耐雑音特性に優れた変調方式(BPSK、QPSK)で伝送することができる。この時、第1の光送受信機9と第2の光送受信機16の間の経路は、未校正であり、伝送特性は大きく劣化している。しかし、受信した信号を復調処理する機能は、各推定部内のプログラムによって実現できる。特に、推定部をPC等の高性能な計算機によって構成すれば、リアルタイムで処理する必要がなく必要十分な時間で、幅広い範囲まで補償を行うことができ、精度よく復調することが可能となる。このように、耐雑音特性に優れた変調方式を使用することと、PCによって十分な補償機能を実装できることから、必要なデータ(例えば、制御シーケンス用コマンドや伝達関数又は逆伝達関数)の伝送は実現可能である。これは、第2の送信機データバッファ12でも同様である。
第1の光送受信機9の送信部9aは、補償されたフレームデータで直交した直線偏光を変調することで、変調対象信号系列の光信号を生成する。送信部9aは図示していないが、ドライバアンプ、レーザモジュール(信号LD)、90°合成器、及び偏波合成器を備える。ドライバアンプは、補償されたフレームデータの電気信号を適切な振幅になるように増幅して90°合成器に送信する。90°合成器は、マッハツェンダ型ベクトル変調器であり、レーザモジュールから送信された直線偏光のCW(Continuous Wave)光を直交した直線偏光に分離し、それぞれの直線偏光に対してフレームデータで変調することで、変調対象信号系列の光信号を生成する。水平偏波による光信号と垂直偏波による光信号が、偏波合成器で合成され、光伝送路Aを介して第2の光送受信装置2に供給される。
第2の光送受信装置2で受信した光信号は、第2の光送受信機16の受信部16bに供給される。この受信部16bは、図示していないが、偏波分離器、レーザモジュール(局発LD)、偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド、フォトダイオード (PD: Photo Diode)、TIA(Transimpedance Amplifier)、及びA/D変換器を備える。レーザモジュールは、直線偏光のCW光を偏波ダイバーシティ90°ハイブリッドに送る。偏波ダイバーシティ90°ハイブリッドは受信した光信号とCW光を干渉させる。フォトダイオードがそれを光電変換する。TIAがその電流信号を電圧信号に変換する。A/D変換器がその電圧信号をA/D変換する。これらにより、受信した光信号をベースバンドのデジタル信号に変換する。
第2の受信機データバッファ15は、一般的にはメモリ回路(RAM)で構成でき、第2の光送受信機16の受信部16bで受信しA/D変換したデータを一時的に蓄えておく。第2の受信機データバッファ15に蓄えられたデータは、順次的に後段の第2の受信機補償部14と第2の受信信号処理部13へ送られる。なお、A/D変換されたデータは、第2の受信機データバッファを介さずに直接的に第2の受信機補償部14に供給することもできる。第2の受信機データバッファ15に蓄えられたデータを第2の推定部18が取得することも可能である。なお、第2の受信機データバッファ15を使用せず、第2の推定部18がA/D変換されたデータをリアルタイムで直接的に取得してもよい。以後、第2の受信機データバッファ15のデジタルデータを用いて説明する全ての例は、受信データをリアルタイムで直接的に取得する方法も含んでいる。
第2の受信機補償部14は、第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数の推定結果を第2の推定部18から取得し、その推定結果に基づいて第2の光送受信機16の受信部16bのXIレーン、XQレーン、YIレーン、YQレーンの伝達関数とそのレーン間差を補償する。第2の受信機補償部14は、例えばFIRフィルタ等のデジタルフィルタにより構成できる。また、第2の受信機補償部14は、個別に4レーン間の遅延時間差を補償する機能を持つ機能部を持っても良い。第2の受信機補償部14の詳細な例は後述する。
第2の受信信号処理部13には、第2の受信機補償部14からデジタル信号が供給される。光伝送路Aでは例えば波長分散、偏波モード分散、偏波変動又は非線形光学効果によって光信号に波形歪が生じる。第2の受信信号処理部13は光伝送路Aにおいて生じた波形歪を補償する。また、第2の受信信号処理部13は、第1の光送受信機9のレーザモジュールの周波数と第2の光送受信機16の局発光としてのレーザモジュールの周波数との差を補償する。更に、第2の受信信号処理部13は、第1の光送受信機9のレーザモジュールの線幅と第2の光送受信機16の局発光としてのレーザモジュールの線幅とに応じた位相雑音を補償する。
なお、図1では、第1の光送受信装置1の第1の送信機補償部4と第1の受信機補償部7を個別のブロックで表現しているが、第1の送信機補償部4は第1の送信信号処理部3の一部であってもよく、第1の受信機補償部7は第1の受信信号処理部6の一部であってもよい。第2の光送受信装置2の第2の送信機補償部11と第2の受信機補償部14も同様である。
続いて、本実施の形態に係る光伝送特性推定システムが光送受信機の光伝送特性を推定する方法について図面を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定方法を示すフローチャートである。光伝送特性推定方法は、推定シーケンス1及び推定シーケンス2を有する。推定シーケンス1は、第2の推定部18により第1の光送受信機9の送信部9a及び第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数又は逆伝達関数を推定するシーケンスである。推定シーケンス2は、第1の推定部17により第2の光送受信機16の送信部16a及び第1の光送受信機9の受信部9bの伝達関数又は逆伝達関数を推定するシーケンスである。推定シーケンス1と推定シーケンス2の動作は、伝送方向が逆である以外は基本的に同じである。
また、例えば、推定シーケンス1の各ステップは、第2の推定部18の制御により順次的に実行される。推定シーケンス2も同様である。一般的には、両方の推定シーケンスが実施されるが、片方のみが実施される場合もある。また、順番が逆になってもよい。また、片方の光送受信機、例えば第2の光送受信機16の伝送特性が既知であり、第2の受信機補償部14と第2の送信機補償部11の補償値(第2の光送受信機16の送信部16aと受信部16bの伝達関数又は逆伝達関数)が既に設定されている場合は、第1の送信機補償部4と第1の受信機補償部7の補償値(第1の光送受信機9の送信部9aと受信部9bの伝達関数又は逆伝達関数)を推定するシーケンスのみを実行し、第2の送信機補償部11と第2の受信機補償部14の補償値を推定するステップはスキップする。両方の推定シーケンスが実施される場合は後述の「制御シーケンス」に則る。
推定シーケンス1の動作(ステップS1〜S4)について説明する。まず、第2の推定部18が、第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS1)。次に、第2の推定部18が、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS2)。次に、ステップS2で推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数を、第2の推定部18が第2の光送受信機16から第1の光送受信機9へ伝送させる(ステップS3)。次に、第2の推定部18が、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS4)。
ステップS1では、第2の光送受信機16の受信部16bの入力端に、白色雑音に相当するASE(Amplified Spontaneous Emission)信号を入力した時に、受信部16bが取得したデジタルデータから、第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数が推定される。但し、ステップS1を省略し予め別途用意した仮の伝達関数又は逆伝達関数を使用する場合もある。これはステップS5でも同様である。
ステップS2では、第2の推定部18からの指示により、第1の推定部17から第1の光送受信機9の送信部9aを介して第2の光送受信機16に向けて第1の既知信号を伝送する。その時に第2の光送受信機16の受信部16bが取得した第1のデジタルデータと、第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数、及び共有された第1の既知信号とから、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数が第2の推定部18において推定される。推定方法としては、例えば適応フィルタを用いて推定する。適応フィルタは、例えばLMSアルゴリズムに基づくフィルタ又はRMSアルゴリズムに基づくフィルタである。
ステップS3では、第2の推定部18で推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数が、第2の推定部18から、第2の光送受信機16、光伝送路B、及び第1の光送受信機9を介して、第1の推定部17に転送される。
ステップS4では、まず、第1の推定部17において、第2の既知信号が、第2の推定部18から送られた第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数で補償され、補償された第2の既知信号が、第1の推定部17から、第1の光送受信機9及び光伝送路Aを介して第2の光送受信機16へ転送される。その時に、第2の光送受信機16の受信部16bが取得した第2のデジタルデータと、共有された第2の既知信号とから、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数が推定される。推定方法としては、例えば適応フィルタを用いて推定する。適応フィルタは、例えばLMSアルゴリズムに基づくフィルタ又はRLSアルゴリズムに基づくフィルタである。
ステップS2及びステップS4では、第1の推定部17が既知信号を生成し、XIレーン(第1レーン)、XQレーン(第2レーン)、YIレーン(第3レーン)、YQレーン(第4レーン)の変調対象信号系列にそれぞれ既知信号の系列を挿入する。既知信号の系列は第1の推定部17と第2の推定部18との間で共有されている。既知信号は、所定のビット又はシンボルで構成できる。既知信号の系列の長さは、最低限、算出するFIRフィルタ長より長いことが求められる。
推定シーケンス2の動作(ステップS5〜S8)は推定シーケンス1と同様である。即ち、まず、第1の推定部17が、第1の光送受信機9の受信部9bの仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS5)。次に、第2の光送受信機16から第1の光送受信機9に第3の既知信号を伝送した時に第1の光送受信機9が取得した第3のデジタルデータと、第1の光送受信機9の受信部9bの仮の伝達関数又は逆伝達関数、及び共有された第3の既知信号とから、第1の推定部17が、第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS6)。次に、ステップS6で推定した第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数又は逆伝達関数を、第1の推定部17が第1の光送受信機9から第2の光送受信機16へ伝送させる(ステップS7)。次に、ステップS7で伝送させた第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数又は逆伝達関数によって第2の推定部18が第4の既知信号を補償して第2の光送受信機16から第1の光送受信機9に伝送させ、補償された第4の既知信号が伝送された時に第1の光送受信機9が取得した第4のデジタルデータと、共有された第4の既知信号とから、第1の推定部17が、第1の光送受信機9の受信部9bの真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS8)。
次に、それぞれのステップの詳細な動作について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る光送受信機の受信部の仮の伝達関数を推定するステップS1の詳細なフローチャートである。まず、第2の光送受信機16の入力にASE信号を挿入する(ステップS101)。ASE信号のスペクトラムは白色雑音と同様に均一であることが既知であるため、それを通すことで周波数特性を取得することができる。次に、ASE信号を入力した状態で、第2の受信機データバッファ15が受信データを取得する(ステップS102)。次に、第2の推定部18が第2の受信機データバッファ15からデジタルデータを取得してFFT処理し、仮の伝達関数を得る(ステップS103)。次に、取得した仮の伝達関数から仮の逆伝達関数を計算する(ステップS104)。
ASE信号は光アンプから発生させることができる。ASE信号のみを出力する場合は、何も入力しない状態で光アンプを用いる。この光アンプは別途用意してもよいが、光伝送路の光アンプを用いることもできる。ASE信号のスペクトラム(周波数特性)は均一であるため、それを通すことで周波数特性を取得することができる。従って、ASE信号を入力した状態で、第2の受信機データバッファ15に保存されたデータを、第2の推定部18が取得することで、周波数特性を推定することができる。これらは、レーンごとに推定可能である。
周波数特性の推定は、デジタルデータをフーリエ変換することで伝達関数として得られる。更に逆伝達関数を求める手法としては、逆数を計算する他に、適応フィルタの解を求める方法がある。適応フィルタの解を求める方法として、一般的にウィナー解を求める方法、及び、LMS(least mean square)アルゴリズム又はRLS(recursive least square)アルゴリズム等によっても求める方法がある。ここで、伝達関数は時間的には比較的変化しないため、「適応」は時間的な対応を意味しない。以降、「適応」は、収束解を求めるためのフィードバック回路に対する適応を意味することとする。なお、上記の説明ではASE信号を使用したが、ASE信号には限定されず、スペクトラムが既知な信号であればどのような試験信号でも使用可能である。上述した周波数特性の推定は、以下に説明する第2の推定部18の第1の受信機伝達関数推定部において行われる。
図4は、本発明の実施の形態1に係る第2の推定部の第1の受信機伝達関数推定部を示す図である。ここでは、第2の光送受信装置2の受信経路が併せて示されている。なお、第1の推定部17も同様の構成を有する。第1の受信機伝達関数推定部19は、X偏波の受信信号とY偏波の受信信号をそれぞれFFT(高速フーリエ変換)処理するFFTと、それらの出力をそれぞれ(1/伝達関数)処理して逆伝達関数を計算する回路とを備える。なお、X偏波の受信信号をXI+jXQ、Y偏波の受信信号をYI+jYQとしているが、XIとXQの間、及びYIとYQの間に遅延差が無い場合を想定している。遅延差がある場合は、XI、XQ、YI、YQを個別にフーリエ変換及び(1/伝達関数)処理することが可能である。なお、フーリエ変換できればFFT処理に限定する必要はなく、その他の方法でもよい。以降の「FFT」の表記はフーリエ変換の機能を意味する。
第2の受信機データバッファ15にて取得したデジタルデータは、時間領域のデータのため、X偏波及びY偏波のレーンで、それぞれFFT処理によって周波数領域のデータに変換される。
x
R(n)は第2の受信機データバッファ15にて取得したデジタルデータ、X
R(k)はFFT処理したデータである。FFTはDFT(Discrete Furrier Transfer)の高速処理を意味する。なお、連続信号に対する一般的なFFT処理では、有限のデータ数N毎に行うが、隣接する処理との間でデータをオーバーラップして処理することは言うまでもない(オーバーラップAdd、オーバーラップSave等の方法がある)。以降のFFT処理においても同様である。X
R(k)の絶対値は振幅情報を示し、これを仮の伝達関数として得る。その逆数を計算することで仮の逆伝達関数を得ることができる。この仮の伝達関数又は逆伝達関数は、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数を第2の推定部18で推定する際に使用される。
図5は、本発明の実施の形態2に係る第2の推定部の第1の受信機伝達関数推定部を示す図である。また、ここでは第2の光送受信装置2の受信経路が併せて示されている。なお、第1の推定部17も同様の構成を有する。第2の受信機データバッファ15のデジタルデータをFFT処理し、振幅情報の伝達関数を求める処理までは図4に示した実施の形態1と同じであるが、本実施の形態では逆伝達関数を求める方法が異なる。一般的な適応フィルタを用いた適応等化と称される手法で逆伝達関数を求める。ここでは、任意波形信号に伝達関数を乗じ、再び逆伝達関数で補償し、その結果が当初の任意波形信号と同じ(実際には、二乗誤差が最小)になるように処理される。この処理によって、適応フィルタを構成するFIRフィルタのフィルタ係数を、逆伝達関数の時間応答として求めることができる。この逆伝達関数を求める手法は一般的に下記に示すウィナー解又はLMS(Least Mean Square)アルゴリズムとして知られている。
ここで、d(n)は既知信号、y(n)は適応フィルタの出力、e(n)はd(n)とy(n)の差、h(n)は適応フィルタの時間応答である。
伝達関数の逆数によって逆伝達関数を計算する実施の形態1の方法では、伝達関数のある周波数成分が非常に小さくゼロに近い場合、逆数は無限大に発散し、不安定な逆特性となる。本実施の形態の方法では、そのような不安定性を防いで、安定に逆伝達関数を求めることができる。一方、適応フィルタを用いた手法では、入力信号が非常に小さくなる場合又は帯域外で非常に小さい場合に対して、発散が生じたり解が不安定になる場合がある。その場合は、入力信号に微小なノイズを付加することで回避できる。なお、ノイズは計算上、信号に付加してもよいし、また実際に光伝送路上で信号に付加してもよい。以後の適当フィルタにおいても同様である。
図6は、本発明の実施の形態3に係る第2の推定部の第1の受信機伝達関数推定部を示す図である。また、ここでは、第2の光送受信装置2の受信経路が併せて示されている。なお、第1の推定部17も同様の構成を有する。本実施の形態は、実施の形態2と比べて任意波形信号に伝達関数を乗算する代わりにその伝達関数から逆フーリエ変換した時間応答でFIRフィルタ処理している。どちらも伝達関数を適用する動作原理は等価である。その他の回路と逆伝達関数の解法は実施の形態2と同じである。この場合も、逆伝達関数を求める実施の形態1の方法と比べて安定に逆伝達関数を求めることができる。
以上により、実施の形態1〜3に係る第1の受信機伝達関数推定部19によって第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数を求めることができる。図7は、本発明の実施の形態に係る光送受信機の受信部の仮の伝達関数の周波数応答(振幅情報)を示す図である。図8は、本発明の実施の形態に係る光送受信機の受信部の仮の逆伝達関数の周波数応答(振幅情報)を示す図である。これらは各レーン毎に求められている。
図9は、本発明の実施の形態に係る第1の光送受信機の送信部の伝達関数又は逆伝達関数を推定するステップS2の詳細なフローチャートである。まず、第2の推定部18からの指示により、第1の推定部17が、第1の既知信号を第1の光送受信機9から第2の光送受信機16へ光伝送路Aを介して光変調信号として転送する(ステップS201)。次に、第2の光送受信機16で受信した第1の既知信号を第2の受信機データバッファ15でデジタルデータとして取得する(ステップS202)。次に、第2の推定部18の送信機伝達関数推定部は、第2の受信機データバッファ15からデジタルデータを取得し、第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数、及び共有された第1の既知信号を用いて、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数を推定する(ステップS203)。続いて、推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数から逆伝達関数を算出する(ステップS204)。
ステップS201では、第2の推定部18からの信号をトリガとして、第1の推定部17が既知信号を生成し、第1の送信機データバッファ5に供給する。第1の送信機データバッファ5に供給された第1の既知信号は、第1の光送受信機9から第2の光送受信機16へ自動的に転送される。ステップS202では、第2の光送受信機16で受信した第1の既知信号が、第2の受信機データバッファ15においてデジタルデータとして取得される。
ステップS203では、第2の推定部18が、第2の受信機データバッファ15から第1の既知信号を含むデジタルデータを取得する。この時、第2の推定部18は、そのデジタルデータを第2の受信機データバッファ15を介さずに直接的に取得することも可能である。その第1の既知信号を含むデジタルデータは、第2の推定部18の送信機伝達関数推定部に供給され、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数が推定される。
図10は、本発明の実施の形態に係る第2の推定部の送信機伝達関数推定部を示す図である。ここでは、第1の光送受信装置1及び第2の光送受信装置2が併せて示されている。なお、第1の推定部17も同様の構成を有する。送信機伝達関数推定部20は、既知信号同期部20a、種々の伝送特性補償部20b、受信機補償部20c、及びFIRフィルタ20d及び二乗誤差最小化部20eを有する適応フィルタを備える。種々の伝送特性補償部20bは、波長分散補償、周波数オフセット補償、偏波分散・偏波回転補償、クロック位相補償、位相雑音補償等の伝送時の歪を補償する種々の補償回路を含む。なお、既知信号同期部20aは、デジタルデータから既知信号を抽出する機能を有し、抽出した既知信号の状態から後段の種々の伝送特性補償に設定する補償データを各種推定ブロックにて推定する。即ち、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数の推定は光伝送路Aの伝送特性を推定する処理を含む。なお、受信機補償部20cは種々の伝送特性補償部20bの前段に配置することも可能である。
波長分散補償部は既知信号同期部20aの前段に配置することも可能である。種々の伝送特性補償部の各補償部の順番は入れ替え可能である。また、偏波分散・偏波回転補償の(1TAP 2×2MIMO(Multi Input Multi Output))の意味は、フィルタのタップ数を1にして、光送受信機の帯域特性をこのブロックで補償せず、偏波回転のみ行うことを示している(一般的な複数タップの2×2MIMOフィルタでは帯域についても補償する。)。
また、送信機伝達関数推定部20は、図4の第1の受信機伝達関数推定部19と同様に、X偏波及びY偏波のそれぞれについて複素ベクトル信号として処理しているが、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。X偏波について複素ベクトル信号として処理することは、XIとXQとの間に遅延差(Skew)がゼロとみなしている。遅延差が無視できない場合はレーン毎に伝達関数の抽出及び補償を行う必要がある。Y偏波についても同様である。
既知信号同期部20aは、取得したデジタルデータから既知信号を抽出する。抽出した既知信号に対して、種々の伝送特性の補償及び光受信機補償が行われる。光受信機補償は、ステップS1で推定した第2の光送受信機16の受信部16bの仮の逆伝達関数を用いて行う。
種々の伝送特性の補償及び光受信機補償が処理された既知信号には、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数の影響が残されている。従って、その信号に、その逆特性を設定したFIRフィルタ20dを適応フィルタとして適用し、その出力と既知信号との差分の二乗が最小になるように再び逆特性を修正する。この処理によって、適応フィルタを構成するFIRフィルタ20dのフィルタ係数を、逆伝達関数の時間応答として求めることができる。この逆伝達関数を求める手法は、一般的に下記に示すウィナー解又はLMSアルゴリズムとして知られている。
ここで、s(n)は既知信号、y(n)は適応フィルタの出力、e(n)はs(n)とy(n)の差、h(n)は、適応フィルタの時間応答である。
上記の例では、適応等化の回路によって第1の光送受信機9の送信部9aの逆伝達関数を直接求めることができるため、ステップS203とステップS204は一体として処理できる。一方、一度第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数が求められる場合は逆伝達関数を計算する(ステップS204)。
以上より、送信機伝達関数推定部20によって第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数を求めることができる。図11は、送信機伝達関数推定部で求めた光送受信機の送信部の逆伝達関数の時間応答を示す図である。図12は、送信機伝達関数推定部で求めた光送受信機の送信部の逆伝達関数の周波数応答(振幅特性及び位相特性)を示す図である。
次に、ステップS3において、第2の推定部18において推定された第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数が、第1の光送受信機9へ転送される。図13は、本発明の実施の形態に係る第2の推定部で推定された第1の光送受信機の送信部の伝達関数を第1の推定部へ転送するステップS3の詳細なフローチャートである。以下、この転送の具体的なステップについて図10も使用して説明する。
まず、第2の推定部18の送信機伝達関数推定部20で推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数が、データ送信の変調フォーマットに変換され、第2の送信機データバッファ12へ供給される(ステップS301)。伝達関数のデータが第2の送信機データバッファ12に供給されると、そのデータは自動的に第2の光送受信機16の送信部16aから変調した光信号として第1の光送受信機9へ送信される(ステップS302)。第1の光送受信機9の受信部9bが光信号を受信し、そのデータを第1の受信機データバッファ8に書き込む(ステップS303)。そのデータは受信機データバッファ8から取り出して第1の推定部17によって復調され取得される(ステップ304)。上述のように、第1の推定部17は、第2の推定部18で推定された第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数を遠隔で取得することができる。
次に、ステップS4において、第1の推定部17から送られてくる第2の既知信号に基づいて、第2の推定部18において、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数が推定される。図14は、本発明の実施の形態に係る第2の光送受信機の受信部の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定するステップS4の詳細なフローチャートである。図15は、本発明の実施の形態1に係る第2の推定部の第2の受信機伝達関数推定部を示す図である。ここでは、第1の光送受信装置1及び第2の光送受信装置2が併せて示されている。なお、第1の推定部17も同様の構成を有する。
第2の推定部18の第2の受信機伝達関数推定部21は、既知信号同期部21a、波長分散補償、周波数オフセット付加、偏波分散・偏波回転付加、クロック位相付加、位相雑音付加等の伝送時の歪を模擬する回路21b、適応等化用のFIRフィルタ21c、二乗誤差最小化回路21dを有する。既知信号同期部21aは、第2の受信機データバッファ15から取得したデジタルデータから既知信号を抽出する機能を有し、抽出した既知信号の状態から後段の歪を模擬する回路に設定する付加データを各種推定ブロックにて推定する。即ち、第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数又は逆伝達関数の推定は光伝送路Aの伝送特性を推定する処理を含む。なお、波長分散補償、周波数オフセット付加、偏波分散・偏波回転付加、クロック位相付加、位相雑音付加等の伝送時の歪を模擬する回路21bの順番は入れ替え可能である。
第2の受信機伝達関数推定部21では、図4の第1の受信機伝達関数推定部19の場合と同様に、X偏波及びY偏波のそれぞれについて複素ベクトル信号として処理しているが、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。X偏波について複素ベクトル信号として処理することは、XIとXQとの間に遅延差がゼロとみなしている。遅延差が無視できない場合は、レーン毎に伝達関数の抽出及び補償を行う必要がある。Y偏波についても同様である。
ステップS4において、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する場合、まず、第1の光送受信装置1に接続された第1の推定部17において、第2の既知信号が事前に補償される。第2の既知信号は、ステップS2で使用する第1の既知信号と同じでも異なってもよい。この事前補償のために、先のステップS2及びS3にて取得した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数によって第2の既知信号の送信機補償が行われる。次に、送信機補償された第2の既知信号が、第1の推定部17によって、第1の送信機データバッファ5に供給され、第1の光送受信機9を経由して第2の光送受信機16へ転送される(S401)。
次に、第2の光送受信機16へ転送された事前補償された第2の既知信号は、第2の光送受信機16で受信される。受信された信号は、デジタルデータとして、第2の受信機データバッファ15で取得される(ステップS402)。第2の推定部18が、第2の受信機データバッファ15からそのデジタル信号を取得し、第2の受信機伝達関数推定部21において、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数を推定する(ステップS403)。第2の受信機伝達関数推定部21において、既知信号同期部21aは、取得したデジタルデータから第2の既知信号を抽出する。抽出した第2の既知信号は、適応フィルタとしてのFIRフィルタ21cに供給される。一方、第2の既知信号に対して、光伝送路歪として推定される波長分散、周波数オフセット、偏波分散・偏波回転、クロック位相、位相雑音が付加され、適応フィルタの出力と比較される。波長分散、周波数オフセット、偏波分散・偏波回転、クロック位相、位相雑音の付加量は、第2の既知信号の状態から種々の推定ブロックにて推定される。
ここで、適応フィルタの出力において、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数は第1の推定部17で補償されているとみなされる。第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数が適応フィルタによって補償されれば、適応フィルタの出力は光伝送路歪の影響のみ受ける。この信号が、光伝送路歪が付加された既知信号と比較され、その差分(二乗誤差)が最小化されることで、適応フィルタであるFIRフィルタ21cのフィルタ係数を第2の光送受信機16の受信部16bの逆伝達関数の時間応答として求めることができる。この逆伝達関数を求める手法は、一般的に下記に示すウィナー解又はLMSアルゴリズムとして知られている。
ここで、d(n)は既知信号、y(n)は適応フィルタの出力、e(n)はd(n)とy(n)の差、h(n)は適応フィルタの時間応答である。
上記の例では、適応等化の回路によって、第2の光送受信機16の受信部16bの真の逆伝達関数を直接求めることができたため、ステップS403とステップS404は一体として処理できる。一方、第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数が求められる場合は、その伝達関数の逆数から真の逆伝達関数を計算する(ステップS404)。
以上より、第2の推定部18の第2の受信機伝達関数推定部21によって第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数を求めることができる。図16は、第2の受信機伝達関数推定部で求めた光送受信機の受信部の逆伝達関数の時間応答を示す図である。図17は、第2の受信機伝達関数推定部で求めた光送受信機の受信部の逆伝達関数の周波数応答(振幅特性、位相特性)を示す図である。
図18は、本発明の実施の形態2に係る第2の推定部の第2の受信機伝達関数推定部を示す図である。図15に示した実施の形態1と比べて、図14に示すステップS401での第1の推定部17における第2の既知信号の送信機補償は行わず、そのまま第2の光送受信機16へ転送する。代わりに、第2の推定部18の第2の受信機伝達関数推定部21において、第2の既知信号に各種の光伝送路歪を付加する他に、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数による影響を付加する。その他の処理は実施の形態1と同じである。
本実施の形態では送信側での第1の推定部17における第2の既知信号の事前の送信機補償が不要となるため、第2の推定部18での計算のみで第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数と第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数又は逆伝達関数を推定することができる。従って、伝達関数の推定の計算を一つの推定部で行うことができ、送受の推定部から成る推定システムを簡易化できる。一方、前述の図15に示す送受の推定部からなる推定システムでは、送信側の補償は送信側で行えるので、受信側はより正確な補償を行うことができる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、第1の推定部17を第1の光送受信装置1に接続し、第2の推定部18を第1の光送受信装置1と離れて位置する第2の光送受信装置2に接続し、推定シーケンス1(ステップS1〜ステップS4)を実行することで、第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数及び第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数が自動的に推定できる。合わせて、推定シーケンス2(ステップS5〜ステップS8)を実行することで、第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数及び第1の光送受信機9の受信部9bの伝達関数も自動的に推定できる。
更に、推定シーケンス1及び推定シーケンス2で求められた伝達関数又は逆伝達関数を第1及び第2の光送受信装置1,2の送信機補償部及び受信機補償部にそれぞれ設定することで、第1及び第2の光送受信機9,16の補償を個別に行うことができる。
図19は、本実施の形態に係る光伝送特性補償方法を説明するフローチャートであり、図20は、本実施の形態に係る光伝送特性補償システムを示す図である。本実施の形態に係る光伝送特性補償方法は、まず、第1の推定部17が、推定した第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数を第1の送信機補償部4へ設定し(ステップS901)、第1の光送受信機9の受信部9bの伝達関数又は逆伝達関数を第1の受信機補償部7へ設定する(ステップS902)。更に、第2の推定部18が、推定した第2の光送受信機16の送信部16aの伝達関数又は逆伝達関数を第2の送信機補償部11へ設定し(ステップS903)、第2の光送受信機16の受信部16bの伝達関数又は逆伝達関数を第2の受信機補償部14へ設定する(ステップS904)。その後、第1の光送受信装置1と第2の光送受信装置2との間でデータ通信を開始する(ステップS905)。
図21は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性補償方法による補償後の周波数スペクトラムである。光送受信機の補償が無い場合、光送受信機の送信部の帯域特性によりスペクトラムの両肩が落ちている。一方、受信側周波数特性の切り分けをせずに送信側だけで補償を行った場合、周波数特性の両肩が上がっている。対して、送信部と受信部で個別に補償を行った場合、理想的な矩形スペクトルが確認できる。光伝送において、光アンプによる雑音(帯域的にフラット)が支配的となるので、光スペクトルが理想的な形状(今回のケースでは矩形)となる場合においてノイズエンハンスの影響を避けることができる。このように、送信部の伝達関数は光送受信機の送信部側で補償し、受信部の伝達関数は光送受信機の受信部側で補償することがノイズエンハンスの影響を抑制する上で重要である。本発明の実施の形態によりそれが実現可能となる。
図22は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性補償方法による補償後のQ値改善効果を示す図である。Q値は、誤り率を示す指標である。誤り率が低いほど高いQ値が得られる。OSNRは光信号対雑音比である。図21で示したスペクトラムと同様に、この場合も光送受信機の送信側と光伝送路を介して設置した光送受信機の受信側で個別に補償を行った場合の方が、広いOSNRに対してQ値の改善量が大きい。
以上説明したように、光伝送路A,Bを介して接続された第1の光送受信機9と第2の光送受信機16の伝送特性を個別に補償することができる。そのため、図21及び図22に示したように最適な伝送特性を得ることができる。また、本実施の形態に係る光伝送特性推定方法、光伝送特性補償方法、光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムはPC等で容易に構成が可能であり、光通信における校正システムとしても有用となる。
また、本実施の形態では、第1の光送受信機9と第2の光送受信機16とを接続状態にして、第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数を求め、それを利用して第1の光送受信機9の送信部9aの伝達関数又は逆伝達関数を求め、最終的に第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は真の逆伝達関数を求めた。しかしながら、第1の光送受信機9と第2の光送受信機16の一方の伝達関数又は逆伝達関数が事前に取得又は校正されている場合は、第1の光送受信機9から第2の光送受信機16に既知信号を伝送した時の受信部16bにおけるデジタルデータと、その事前に取得又は校正された伝達関数又は逆伝達関数とから、第1の光送受信機9と第2の光送受信機16の他方の伝達関数又は逆伝達関数を推定することができる。この場合、未知の伝達関数を持つ装置側のみを順次交換して、複数の装置の伝達関数又は逆伝達関数を求めることができる。事前に取得又は校正された伝達関数又は逆伝達関数は、第1の光送受信機9と第2の光送受信機16との間で伝送される。これらの方法も本発明の技術的思想の範囲に含まれる。
また、図2のフローチャートに示すステップS4で推定した第2の光送受信機16の受信部16bの真の伝達関数又は逆伝達関数をステップS1の第2の光送受信機16の受信部16bの仮の伝達関数又は逆伝達関数として用いてステップS2からステップS4を2回以上繰り返してもよい。これにより、光送受信機の伝達関数又は逆伝達関数をより精度高く推定することができる。これも本発明の技術的思想の範囲に含まれる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、遠隔に設置された光送受信装置でデータ通信を開始する前に、遠隔に設置された光送受信機の送信部及び受信部の伝達関数を効率よく推定し、かつ補償することができるため、高速かつ大容量のデータ通信を短時間に開始することができる。
以下に、本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定方法及び光伝送特性補償方法の制御シーケンスについて説明する。以下の制御シーケンスでは、第1の光送受信装置1に接続された第1の推定部17と、第2の光送受信装置2に接続された第2の推定部18との間の通信プロトコルが示されている。この通信プロトコルを用いて第1の推定部17と第2の推定部18との間でフラグを送受信し、それぞれの推定部がフラグを受信したタイミングに応じて、ステップS2〜S4の推定シーケンス1とステップS6〜S8の推定シーケンス2のどちらを先に実施するかを決める。
図23は、本発明の実施の形態1に係る光伝送特性推定方法の制御シーケンスを示す図である。実施の形態1では、第1の推定部17が送信コマンド実行側となり、第2の推定部18が受信コマンド実行側になり、図2に示した推定シーケンス1が先に実行される。
続いて、本制御シーケンスの具体的な動作について説明する。第1の推定部17及び第2の推定部18は、共にstartフラグを相手側に第1及び第2の光送受信装置1,2を介して送信する。同時に、第1の推定部17及び第2の推定部18はそれぞれ相手側のstartフラグを間欠的に受信しながら待つ。仮に、第2の推定部18が第1の推定部17からのstartフラグを受信すると、第2の推定部18は受信コマンド実行側となり、startフラグの送信を停止しackを送信する。第1の推定部17はstartフラグを受信する前にackを受信したため、第1の推定部17が送信コマンド実行側になる。上述したように、相手側のstartフラグを先に受信した方が送信コマンド実行側となる。この場合、受信するタイミングは、同期を防ぐようにランダムに設定される。
なお、startフラグを送信する前に予め受信動作を行い、対向する装置がstartフラグを送信していないことを確認してからstartフラグを送信する手順を追加しても良い。また、第1の推定部17と第2の推定部18が同時にstartフラグを送信しており、第1の推定部17と第2の推定部18が同時にstartフラグを受信し、両者が同時にackを送信した場合は、両者が受信コマンド実行側となってしまう。これを回避するためにack送信後にackを受信した場合はそれぞれランダムに発生した遅延時間をおいて、startフラグの送信に戻る手順を追加しても良い。
上述のシーケンスによって、第1の推定部17が送信コマンド実行側、第2の推定部18が受信コマンド実行側になる。これによって、第1の光送受信装置1から第2の光送受信装置2への通信方向に対して、送受信機の伝達関数の推定が行われる。具体的には、図2に示した推定シーケンス1が先に実行される。この時、推定シーケンス1のステップS1(仮の伝達関数の推定)は、事前に行われていることとする。また、図23には示していないが、通常は、上記推定シーケンス1が実行された後に続いて推定シーケンス2が実行される。最後に、それぞれのシーケンスによって推定された伝達関数によって送信機補償及び受信機補償が行われ、光送受信装置の通常運用でのデータ通信が行われる。なお、送信機補償及び受信機補償は、各推定シーケンス毎に実行してもよい。
図24は、本発明の実施の形態2に係る光伝送特性推定方法の制御シーケンスを示す図である。実施の形態2では、第2の推定部18が送信コマンド実行側となり、第2の推定部18が受信コマンド実行側になり、図2に示した推定シーケンス2が先に実行される。
続いて、本制御シーケンスの具体的な動作について説明する。第1の推定部17及び第2の推定部18は、共にstartフラグを相手側に第1及び第2の光送受信装置1,2を介して送信する。同時に、第1の推定部17及び第2の推定部18はそれぞれ相手側のstartフラグを待つ。両方の推定部とも相手側のstartフラグを受信すると、相手の推定部にackを送信する。仮に、第1の推定部17が、startフラグのackを送信中に、第2の推定部18からのstartフラグのackを受信すると、第1の推定部17が受信コマンド実行側となり、startフラグのackの受信通知を含む制御信号cntを相手側に送信する。startフラグのackを送信中に第1の推定部17からの制御信号cntを受信した第2の推定部18は、送信コマンド実行側となる。
上述したように、本実施の形態では、startフラグのack送信中に相手側のstartフラグのackを受信すると、受信コマンド実行側となる。この場合も、受信するタイミングは、同期を防ぐようにランダムに設定される。
上述のシーケンスでは、第2の推定部18が送信コマンド実行側、第1の推定部17が受信コマンド実行側になる。これによって、第2の光送受信装置2から第1の光送受信装置1への通信方向に対して、送受信機の伝達関数の推定が行われる。具体的には、図2に示した推定シーケンス2が先に実行される。この時、推定シーケンス2のステップS5(仮の伝達関数の推定)は、事前に行われていることとする。また、図24には示していないが、通常は、上記推定シーケンス2が実行されると続いて推定シーケンス1が実行される。最後に、それぞれのシーケンスによって推定された伝達関数によって送信機補償及び受信機補償が行われ、光送受信装置の通常運用でのデータ通信が行われる。この場合も、送信機補償及び受信機補償は、各推定シーケンス毎に実行してもよい。
上述したように、第1の推定部17及び第2の推定部18を第1及び第2の光送受信装置1,2に接続して推定シーケンスを実行すると、例え同時に実行が開始されても、制御シーケンスによって通信の衝突を避けてどちらかが送信コマンド実行側及び受信コマンド実行側となり、図2に示した2種類の推定シーケンスが順次的に実行できる。
また、送信側はデータを繰り返し送信し続けることで、再送制御等の複雑な通信制御シーケンスは実装しなくて済む。最終的にタイムアウト通知で完了させる。このように、本制御シーケンスは、複雑なシーケンスは使用せず、簡易なシーケンスで構成している。
また、図23の実施の形態1では、第2の推定部18からのstartフラグ送信によって第2の推定部18において伝達関数の計算が行われる。図24の実施の形態2では、第1の推定部17からのstartフラグ送信によって第1の推定部17において伝達関数の計算が行われる。しかし、第1の推定部17からのstartフラグ送信によって第2の推定部18において伝達関数の計算を行ったり、第2の推定部18からのstartフラグ送信によって第1の推定部17において伝達関数の計算を行うようにすることも可能である。
なお、上述のstartフラグの送信と受信、ackの送信と受信などは図13に示す第1の光送受信機の送信部9aの伝達関数を第2の推定部18から第1の光送受信機9に転送する場合と同様にstartフラグのデータやackのデータをデータ送信の変調フォーマットに変換し、第1の送信機のデータバッファ5または第2の送信機のデータバッファ12へ供給することで第2の光送受信装置または第1の光送受信装置に届けられる。
また、第1の送信機のデータバッファ5および第2の送信機のデータバッファ12に書き込まれたデータは第1の光送受信機の送信部9aおよび第2の光送受信機の送信部16aから繰り返し送信し続けられる。また、第1の受信機データバッファ8および第2の受信機データバッファ15のデータはそれぞれ間欠的に第1の推定部および第2の推定部に供給されることで、間欠的に受信処理がなされる。