JP6425327B2 - タンパク質−磁性粒子複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従って、本発明が解決しようとする課題は、新規且つ有用なタンパク質−磁性粒子複合体を提供すること、及び、煩雑な操作を必要とすることなく該複合体を製造する方法を提供することである。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジスルフィド結合タンパク質を、酸化的環境であるペリプラズム内で発現させ、ジスルフィド結合タンパク質のドッキングパートナーであるタンパク質を、細胞質内で発現させる二重発現系を構築した。細菌培養後、細胞を破砕し、磁性細菌粒子とジスルフィド結合タンパク質とを前記ドッキングパートナーを介してドッキングさせることで、BacMPs上にジスルフィド結合タンパク質を機能的に発現した複合体を製造することができる。この方法によれば、ジスルフィド結合タンパク質と、そのドッキングパートナーであるタンパク質とを、in vitroでドッキングさせることにより複合体を形成することができるため、本明細書において「in vitro docking法」と称する。
(1)グラム陰性磁性細菌における、ジスルフィド結合タンパク質と磁性粒子との複合体の製造方法であって、
(i)前記細菌中で、
(a)結合タンパク質に融合したジスルフィド結合タンパク質を含んだ第1の融合タンパク質、及び
(b)磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合した結合パートナータンパク質を含んだ第2の融合タンパク質
を共発現させる共発現工程であって、前記第1の融合タンパク質の発現が前記細菌のペリプラズムへと誘導され、前記第2の融合タンパク質の発現が前記細菌の細胞質へと誘導される工程と;
(ii)前記第1及び第2の融合タンパク質を生産するのに充分な条件下で前記工程(i)の細菌を培養する培養工程と;
(iii)前記工程(ii)の細菌の細胞膜を破壊する工程であって、前記ジスルフィド結合タンパク質と磁性細菌粒子との複合体が形成される細胞膜破壊工程と;
を含む、製造方法である。
(2)前記工程(iii)の前記複合体を前記破壊した細胞から単離する単離工程(iv)を更に含む、上記(1)に記載の製造方法である。
(3)前記複合体から、前記ジスルフィド結合タンパク質を回収する回収工程を更に含む、上記(1)又は(2)に記載の製造方法;
(4)前記結合タンパク質が、免疫グロブリンFcドメインである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法;
(5)前記結合パートナータンパク質がStaphylococcus aureus由来のタンパク質AのZZドメインである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法;
(6)前記ジスルフィド結合したタンパク質が単鎖可変フラグメント(scFv)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法;及び
(7)前記磁性細菌粒子へ結合又は一体化され得るタンパク質が、Magnetospillum magneticum由来のMms13である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法
である。
(8)磁性粒子と;
磁性粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合し、且つ、第1の結合パートナータンパク質と第2の結合パートナータンパク質とを含んだ足場タンパク質と;
第1の結合タンパク質と、該第1の結合タンパク質に融合した第1の目的タンパク質とを含んだ第1の融合タンパク質と;
第2の結合タンパク質と、該第2の結合タンパク質に融合した第2の目的タンパク質とを含んだ第2の融合タンパク質と;
を含んだ、タンパク質と磁性粒子との複合体であって、
前記第1の目的タンパク質は、前記第1の結合タンパク質と前記第1の結合パートナータンパク質との結合を介して前記磁性粒子上に固定化され、
前記第2の目的タンパク質は、前記第2の結合タンパク質と前記第2の結合パートナータンパク質との結合を介して前記磁性粒子上に固定化されている、複合体。
(9)前記第1の目的タンパク質及び前記第2の目的タンパク質のうち一方のタンパク質の機能が、他方のタンパク質の存在により発現する、上記(8)に記載の複合体である。
(10)グラム陰性磁性細菌における、複数タンパク質と磁性粒子との複合体の製造方法であって、
(i)前記細菌中で、
(a)第1の結合タンパク質と該第1の結合タンパク質に融合した第1の目的タンパク質とを含んだ第1の融合タンパク質、
(b)第2の結合タンパク質と該第2の結合タンパク質に融合した第2の目的タンパク質とを含んだ第2の融合タンパク質、及び
(c)磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合し、且つ、第1の結合パートナータンパク質と第2の結合パートナータンパク質とを含んだ足場タンパク質を共発現させる共発現工程と;
(ii)前記第1及び第2の目的タンパク質、並びに、前記足場タンパク質を生産するのに充分な条件下で前記工程(i)の細菌を培養する培養工程であって、前記第1及び第2の目的タンパク質と該磁性細菌粒子との複合体が形成される工程と;
を含む、製造方法である。
本発明の好ましい態様は、
(11)(iii)前記工程(ii)の細菌の細胞膜を破壊する細胞膜破壊工程と;
(iv)前記工程(ii)で形成された前記複合体を、前記工程(iii)で破壊された細胞から単離する単離工程と;
を更に含む、(10)に記載の製造方法である。
<1>In vitro dockingによるタンパク質−磁性粒子複合体の創製
本発明の第1の側面は、グラム陰性磁性細菌において、ジスルフィド結合タンパク質と磁性粒子との複合体を製造する方法に関する。即ち、該製造方法では、グラム陰性磁性細菌を使用し、磁性粒子と、該磁性粒子上に固定化されたジスルフィド結合タンパク質とを含んだ、組み換えタンパク質−磁性粒子複合体を製造する。
グラム陰性磁性細菌としてはMagnetospirillum magneticum(M.magneticum) AMB−1を使用することができる。M.magneticum AMB−1は、鎖状に配列したナノサイズのBacMPsを細胞質で合成する。BacMPsは、脂質二重膜と、該脂質二重膜に囲まれた純粋なマグネタイト(直径50〜100nm)とを含み、強力なフェリ磁性を示す。同様なマグネタイトを生成する他のグラム陰性菌株も、本発明において使用可能である。
(i)共発現工程
本工程では、グラム陰性細菌中で、(a)結合タンパク質に融合したジスルフィド結合タンパク質を含んだ第1の融合タンパク質と、(b)磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合した結合パートナータンパク質を含んだ第2の融合タンパク質とを共発現させる。
単一ドメインの抗体フラグメント(sdAb、VHH又はナノボディという)を細胞質においてBacMPs上で機能的に発現させる代替的なアプローチが報告されている。sdAbは、その厳密な折り畳み及び安定性のため、体内への適用に適しているが、それらはラクダ科の動物又はサメの免疫によって調製されるため、有用性が限定される。それに対し、scFvは一般に入手可能であり、抗体様の二量化構造を形成するため、抗体及び磁性粒子錯体の開発の可能性を拡張することが予想される。
ジスルフィド結合タンパク質は、図1に示すscFvに限定されず、IgG及びIgM等の免疫グロブリン(抗体)や、これらが特異的に認識する抗原のうち細菌やウイルス等の表面抗原、インターロイキン類及びケモカイン類等の各種サイトカイン、EGF及びTG等の各種増殖因子、それらの受容体、それらの断片、並びに、それらの変異体を使用することができる。
図1に示す例では、結合タンパク質として免疫グロブリンFcドメイン(Fc)が用いられているが、結合タンパク質はこれに限定されず、Strep−tag、p53、p16、E2F、それらの断片及びそれらの変異体を使用することができる。
結合タンパク質は、結合パートナータンパク質と結合親和性を有する。結合パートナータンパク質は図1ではZZ(Staphylococcus aureus由来のタンパク質AのZZドメイン)である。
結合パートナータンパク質としては、該ZZドメインに限られず、Streptavidin、MDM2、Cyclin D、DP、それらの断片及びそれらの変異体を使用することができる。
例えば、KD値が10−12〜10−6の範囲にある組み合わせを使用することができる。具体的には、結合タンパク質と結合パートナータンパク質との組み合わせとしてStrep−tagとStreptavidinとの組み合わせ、p53とMDM2との組み合わせ、p16及びCyclin Dとの組み合わせ、E2FとDPとの組み合わせが挙げられる。なお、望むならば、結合タンパク質と結合パートナータンパク質とが相互に入れ替え可能であることを当業者は容易に理解するであろう。
磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質としては、Mms13以外にも、Mms13と同様にアンカータンパク質であるMms16及びMms24や、マグネタイト形成に関与するMms5、Mms6及びMms7や、鉄イオン輸送タンパク質MagAが挙げられる。
本工程では、前記第1及び第2の融合タンパク質、並びに、前記足場タンパク質を生産するのに充分な条件下で前記工程(i)の細菌を培養する。ここで、融合タンパク質を生産するのに充分な条件とは、例えば、温度25〜29℃、pH6.0〜7.5、微好気条件において、Magnetic spirillum growth medium(MSGM)培地を用いて3〜7日間培養を行う培養条件である。
本工程では、前記工程(ii)の細菌の細胞膜を破壊する。そしてこの工程により、ジスルフィド結合タンパク質と磁性細菌粒子との複合体が形成される。
即ち、細胞膜が破壊されることによって結合タンパク質と結合パートナータンパク質との相互作用が可能となり、ジスルフィド結合タンパク質が磁性細菌粒子上に捕捉され、ジスルフィド結合タンパク質とBacMPsとの複合体が形成される。
前記細菌の細胞膜の破壊は、当該分野で周知の方法を単独でまたは組み合わせて行ってもよい。例えば、リゾチーム等により細胞壁を破壊した時に、Triton X−100、Tween 20、Briji 35等の非イオン性界面活性剤、CHAPS、Zwittergent 3−12等の両イオン性界面活性剤、又は、SDSやN−lauroyl sarcosine等の陰イオン性界面活性剤などを添加することが好ましい。なお、本工程中、ジスルフィド結合タンパク質等の分解を防止するために、PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を存在させることも望ましい。
本発明の製造方法は、更に、前記工程(iii)で形成された、ジスルフィド結合タンパク質とBacMPsとの複合体を、前記破壊された細胞から単離する単離工程(iv)を含んでいても良い。
該製造方法は、前記工程(i)〜(iii)に加え、更に、前記複合体から前記ジスルフィド結合タンパク質を回収する回収工程を含む。
例えば、pH2〜4の酸性緩衝液、pH10〜12のアルカリ性緩衝液、3M以上の高イオン強度緩衝液、結合タンパク質もしくは結合パートナータンパク質に対する特異的競合ペプチド等を用いて、前記複合体から前記ジスルフィド結合タンパク質を回収することができる。
前記製造方法では、前記工程(ii)において、通常はベクターを導入した形質転換体が培養される。従って、本発明の範囲には、タンパク質−磁性粒子複合体の製造に使用されるベクター及び該ベクターを含んだ形質転換体も含まれる。
ここで、第1の融合タンパク質をコードする遺伝子は、結合タンパク質をコードする遺伝子とジスルフィド結合タンパク質をコードする遺伝子とを融合したものであり、第2の融合タンパク質をコードする遺伝子は、BacMPsに結合又は一体化され得るタンパク質をコードする遺伝子と結合パートナータンパク質をコードする遺伝子とを融合したものである。
ベクターは更に、タンパク質合成効率を向上させるための遺伝子を含んでいてもよい。
図1(B)に示す例では、当該プロモーターとして、恒常的に発現するmms16プロモーターが使用され、scFv−Fc融合遺伝子及びmms13−ZZ融合遺伝子は、mms16プロモーターによって制御される。
本発明のベクターは、グラム陰性磁性細菌を形質転換できるものであれば、いずれでも使用可能であるが、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクターが挙げられる。中でも、好適には、プラスミドベクターを使用することができる。
より詳細に説明すると、BacMPsが生産される磁性細菌の細胞質は、還元的環境である。従って、細胞質でジスルフィド結合タンパク質を発現させる従来の方法では、BacMPs上でのタンパク質のジスルフィド結合は形成されない。このような従来の方法では、ジスルフィド結合の形成は、BacMPsの抽出及び精製プロセス中の空気酸化に依存し、空気酸化によるジスルフィド結合形成の速度と収率は、in vivoと比較して非常に遅く、且つ、ミスフィールディング又はアンフォールディングのために、タンパク質の凝集又は分解が生ずる懸念があった。本発明の第1側面にかかる製造方法等では、磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質を含んだ第2の融合タンパク質の発現が前記細菌の細胞質へと誘導される一方で、結合タンパク質に融合したジスルフィド結合タンパク質を含んだ第1の融合タンパク質の発現は、酸化的環境にあるペリプラズムへと誘導されるため、機能を維持した状態でジスルフィド結合タンパク質を磁性粒子上に固定化させた複合体を得ることができた。
また、複合体の調製のために、ターゲットタンパク質の精製やS−S結合形成を行うための前工程等を必要としなかった。調製された複合体は、細胞から抽出後、直接利用できた。
以上の事実から、本発明の第1の側面によれば、全く新しいS−S結合タンパク質の調製法(in vivo docking法)が提供される。該方法は、抗体とBacMPsとの複合体の開発の可能性を拡張することが期待される。
また、抗体のみならず、様々なジスルフィド結合タンパク質の磁性細菌粒子上への機能発現が可能となり、創薬研究における標的リガンド又はリード化合物スクリーニングのハイスループット化を実現する画期的な方法を提供することができる。例えば、該製造方法により得られたジスルフィド結合タンパク質−BacMPs複合体は、リガンド−受容体相互作用又はアフィニティー生成の磁性キャリアとして有用であり、可能性のあるリガンド又は薬剤の効率的なスクリーニングを提供する。
<2>In vivoドッキングによる複数タンパク質−磁性粒子複合体の創製
本発明の別の側面は、複数のタンパク質と磁性粒子との複合体に関する。
該複合体について、図11を参照しながら説明する。
図11に示す例では、第1及び第2の目的タンパク質はそれぞれ、蛍光緑色タンパク質(Green Fluorescent Protein(GFP))及びmCherryとして示される。また、磁性粒子は磁性細菌粒子(BacMPs)、足場タンパク質はMms13−miniscaffoldinとして示される。この例では、磁性粒子はグラム陰性磁性細菌によって産生された磁性細菌粒子(BacMPs)として示されるが、本側面に係るタンパク質−磁性粒子複合体において、磁性粒子は磁性細菌によらずに他の公知の方法で作製した磁性粒子であってもよい。
図11の例では、磁性粒子に結合又は一体化され得るタンパク質はMms13として、第1の結合パートナータンパク質及び第2の結合パートナータンパク質はそれぞれ、CohC及びCohRとして示される。ここで、第1の結合パートナータンパク質及び第2の結合パートナータンパク質は、第1の結合タンパク質及び第2の結合タンパク質が足場タンパク質に結合するための足場の役割を果たす。典型的には、第1の結合タンパク質と第2の結合タンパク質とは異なるタンパク質である。
ペプチドリンカーとしては、例えば、(N4S)n[式中、nは整数]で示されるペプチドを使用することができる。図11に示す例で使用したペプチドリンカーは、10個のアミノ酸からなる(N4S)2ペプチドである。
また、第1の結合パートナータンパク質及び第2の結合パートナータンパク質のいずれか一方と、磁性粒子に結合又は一体化され得るタンパク質との間も、通常、ペプチドリンカーで連結されている。ペプチドリンカーとしては、当該分野で一般的に使用されるペプチドリンカーを使用することができ、5〜200個、好ましくは50〜100個のアミノ酸からなるペプチドである。図11に示す例では、第1の結合パートナータンパク質と、磁性粒子に結合又は一体化され得るタンパク質とがペプチドリンカーで連結されており、該ペプチドリンカーは、100個のアミノ酸からなる(N4S)20ペプチドである。
結合タンパク質と結合パートナータンパク質との組み合わせの具体例として、例えば、cohesinとdockerinドメインとの組み合わせ、Protein Gと抗体Fc領域ドメインとの組み合わせ、Protein Aと抗体Fc領域ドメインとの組み合わせ、塩基性ロイシンジッパーモチーフと酸性ロイシンジッパーモチーフとの組み合わせが挙げられる。
図11に示す例では、第1の結合タンパク質及び第2の結合タンパク質であるDocC及びDocRがそれぞれ、第1の結合パートナータンパク質及び第2の結合パートナータンパク質であるCohC及びCohRに結合することにより、第1及び第2の目的タンパク質(GFP及びmCherry)をBacMPs上に固定化している。
−GFP(Green Fluorescent Protein)とmCherryとの組み合わせ、
−MHC II(class II major histocompatibility complex(MHC II))とHLA−DM(Human leukocyte antigen DM)との組み合わせ、
−Tropomyosin receptor kinase Aとp75 neurotrophin receptorとの組み合わせ、
−Endoglucanaseとbeta−glucosidaseとの組み合わせ、
−EndoglucanaseとCellobiohydrolaseとの組み合わせ、
−beta−glucosidaseとCellobiohydrolaseとの組み合わせ、
−Horseradish peroxidaseとGlucose oxidaseとの組み合わせ
−Acyl−ACP reductaseとAldehyde deformylating oxygenaseとの組み合わせ
が挙げられる。
eMHC II(empty MHC II)は、ヒトの免疫機構を担う重要なタンパク質であり、関節リウマチといった自己免疫疾患や臓器移植の際の拒絶反応に関連している。そして、MHC IIは、α鎖とβ鎖から構成されるヘテロ二量体の一回膜貫通タンパク質であり、細胞膜上に発現して種々の疾患及び病原体由来の抗原タンパク質の分解産物(抗原ペプチド)と結合し、抗原ペプチド−MHC II複合体(pMHC II)を形成する。MHC IIに結合した抗原ペプチドが特異的にT細胞受容体を介してヘルパーT細胞に認識されることで、細胞が活性化する。よって、抗原ペプチドをワクチンに用いたペプチドワクチン療法の開発では、MHC IIの抗原ペプチドとの結合能の解析や該抗原ペプチドの同定が重要である。
一方、HLA−DMはMHC IIと構造が類似したタンパク質であり、eMHC IIと相互作用することで構造を安定化するシャペロン様の機能を有する他、MHC IIに結合する抗原ペプチドの選択に関与していると考えられている。
より詳細には、以下の工程(i)及び(ii)を含む。
本工程では、グラム陰性磁性細菌中で、前記第1及び第2の融合タンパク質と、前記足場タンパク質とを共発現させる。
具体的には、(a)第1の結合タンパク質と該第1の結合タンパク質に融合した第1の目的タンパク質とを含んだ第1の融合タンパク質、(b)第2の結合タンパク質と該第2の結合タンパク質に融合した第2の目的タンパク質とを含んだ第2の融合タンパク質、及び(c)磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合し、且つ、第1の結合パートナータンパク質と第2の結合パートナータンパク質とを含んだ足場タンパク質を共発現させる。
本工程では、前記第1及び第2の目的タンパク質、並びに、前記足場タンパク質を生産するのに充分な条件下で前記工程(i)の細菌を培養する。ここで、「融合タンパク質を生産するのに充分な条件」とは、本発明の第1の側面で説明したのと同様の条件である。
本工程では、前記第1及び第2の目的タンパク質とBacMPsとの複合体が形成される。即ち、第1及び第2融合タンパク質並びに足場タンパク質はいずれも、磁性細菌の細胞質で発現される。該細菌を上記条件で培養することにより、細胞質内にこれらのタンパク質が生成し、結合タンパク質と結合パートナータンパク質との結合親和力によって、第1及び第2目的タンパク質がBacMPs上に足場タンパク質を介して固定され、複数タンパク質−磁性粒子複合体が形成される。勿論、目的のタンパク質の一つ又は両方がジスルフィド結合タンパク質である、それらに対して、本発明の第1の側面を使用してもよい。つまり、その一つ又は両方の発現をペリプラズムに誘導してもよい。
本工程では、前記工程(ii)の細菌の細胞膜を破壊する。
前記細菌の細胞膜の破壊は、本発明の第1の側面の細胞膜破壊工程(iii)で説明したのと同様の方法によって行われてよい。
(iv)単離工程
該製造方法は、更に、前記工程(ii)で形成された前記複合体を、前記工程(iii)で破壊された細胞から単離する単離工程(iv)を更に含んでいてもよい。複合体の単離は、本発明の第1の側面の単離工程(iv)で説明したのと同様の方法によって行われてよい。
また、該製造方法は、更に、前記複合体から、第1及び第2の目的タンパク質を回収する回収工程を更に含んでいてもよい。該工程は第1の側面において説明した回収工程と同様の工程である。
そして、図11(B)にも示す通り、第1の融合タンパク質をコードする遺伝子と第1の融合タンパク質をコードする遺伝子との間には、リボソーム結合サイト(RBS)が含まれることが好ましい。或いは、それらの遺伝子を別々のベクター上に含ませてもよい。本発明の第2の側面で使用できるベクターも、本発明の第1の側面について記載したものである。
図11に示す例では、Mms13−miniscaffofdinの発現は、恒常的に発現するmms16プロモーターによって制御され、GFP−DocC及びmCherry−DocRの発現は、人工オペロンを構築しテトラサイクリン発現誘導システムであるPmsp1(tetO)によって制御される。
図11(B)に示す例では、発現した足場タンパク質Mms13−miniscaffoldinは、BacMPs上に局在し、その後、テトラサイクリンの添加により発現が誘導されたGFP−DocC及びmCherry−DocRが、Mms13−miniscaffoldin中のCohC及びCohRに結合する。その結果、目的タンパク質であるGFP及びmCherryが、前記Mms13−miniscaffoldinを介してBacMPs上に固定化される。
これまでに、in vivoでのオルガネラへの機能性タンパク質の固定化において、ペプチドリンカーを介して複数のタンパク質を融合し、単一の融合タンパク質として発現させることで、複数のタンパク質を固定化する方法があったが、構造の複雑なタンパク質の融合や複数のタンパク質の融合によって、凝集塊の形成、ミスフォールディング及びプロテアーゼによる分解が誘発されるという問題があった。本発明の製造方法、並びに、ベクター及び形質転換体によれば、足場タンパク質を介して複数のタンパク質を発現させているため、このような問題を伴うことなく複数のタンパク質を磁性粒子上に固定化することが可能である。
また、本発明の第2の側面にかかる複数タンパク質−磁性粒子によれば、例えば、一連の代謝反応を行う酵素群を固定化することによる反応効率の向上や、目的タンパク質の安定化を可能にすることが期待される。また、活性化にシャペロンや補因子となる特定のタンパク質が必要な目的タンパク質と、該シャペロンや捕因子とを共局在化させた複合体は、医療分野等での応用が期待される。
<実施例1>In vitro docking法による磁性細菌粒子上でのscFvの機能的発現
(1−1)試料
発現ベクター構築のためのDNA断片のPCR増幅にはPhusion DNA Polymerase(NEB)を、遺伝子クローニング用の試薬としてIn−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)及びQuick Ligation Kit(NEB)を使用した。IgG結合試験にはAP(アルカリホスファターゼ)標識donkey anti−mouse IgG(Novus Biologicals,Littleton)を、Anti−β−Galactosidase scFvの結合活性評価にはbiotin β−Galactosidase(AVIVA SYSTEMS)及びAlkaline Phosphatase Streptavidin(Vector Laboratories)を使用した。
遺伝子クローニングの宿主としては、大腸菌株TOP10(Life technologies,Carlsbad,CA,USA)を使用し、大腸菌形質転換体を、アンピシリン(100μg/ml)を含んだLuria−Bertani(LB)培地中で、37℃で培養した。
プラスミドベクターは、T.Yoshino,and T.Matsunaga.,Efficient and Stable Display of Functional Proteins on Bacterial Magnetic Particles Using Mms13 as a Novel Anchor Molecule,Society.(2006)に記載されたpUM13ZZを基にして構築した。
M..magneticum AMB−1の各Dsbタンパク質の配列はNCBIのProtein database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein)より検索した。Dsbタンパク質のシグナルペプチドについては、まずSignal Peptide Website(http://www.signalpeptide.de/)におけるデータベースを用い、実験的に確定されているか又は配列から予測されているか、或いはデータベース上にないかどうかを調べた。データベース上にないものについては、PrediSi(http://www.predisi.de/)を用いてシグナル配列の予測を行った。膜貫通領域については、文献上で予測領域が報告されている大腸菌DsbB以外はSOSUI(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui)を用いて予測を行った。
また、Dsbタンパク質の相同性解析にはClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)を使用した。
DsbAを除いたM.magneticum AMB−1由来の各Dsbタンパク質は大腸菌とは相同性がほとんどないものの、触媒部位のCXXCモチーフを有していた。また、DsbBは大腸菌と同様に、DsbAの酸化に関わるCXXCモチーフに加え、もう1組のシステインのペアを有すると予想された。膜タンパク質であるDsbB及びDsbDについては、大腸菌と同様、それぞれ4つ及び8つの膜貫通(transmembrane:TM)領域を有することがSOSUIによって予測された。
以上の解析結果から、M.magneticum AMB−1も大腸菌と同様、ペリプラズムにおけるS−S結合タンパク質の酸化とそれに伴うフォールディング機構を備えていることが示唆された。このことは、in vitro docking法が機能する前提として重要な知見である。
プラスミドを、標準的なクローニング技術(J.Sambrook,D.W.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Press,2001)又はIn−Fusionクローニング技術(Clontech,Mountain View,CA,USA)によって構築した。
抗β−ガラクトシダーゼ単鎖抗体(scFv)とヒトIgG1の定常領域(Fc)の融合遺伝子とを発現するベクター(pUM13ZZ/scFvFc)(図1(B)の(c))は、両端にNsiI部位を持ち、かつ5’末端に大腸菌ペリプラズムタンパク質であるDsbCのシグナル配列(DsbCss)およびFLAGタグをコードする配列を持つように人工合成したscFv−Fc融合遺伝子を、アンカータンパク質Mms13をコードするmms13とProtein AのIgG結合ドメイン(ZZ)の融合遺伝子を発現するpUM13ZZ(図1(B)の(a))のNsiI部位(Mms13−ZZ遺伝子の開始コドンに相当)に挿入することで構築した。なお、mms16プロモーターからscFv13R4−Fc融合遺伝子およびMms13−ZZ融合遺伝子までを単一オペロンとして発現させるために、scFv−Fc遺伝子の挿入により失われたShine−Dalgarno(SD)配列をMms13−ZZ遺伝子の上流に付加するよう人工合成遺伝子を設計した。
一方、コントロールベクターとして従来型のMms13融合タンパク質として発現するMms13−scFv発現ベクターを構築するため、SspI消化したpUM13ZZに対し、両端にSspI部位を持つようにPCR増幅したscFv遺伝子を挿入した(pUM13scFv)(図1(B)の(b))。
集菌したAMB−1野生株もしくは各形質転換体(250ml culture相当)を2.5mlのExtraction buffer A(50mM Tris−HCl,5mM EDTA,pH8.0)に懸濁したのち、リゾチーム及びPMSFをそれぞれ終濃度0.4mg/mlおよび2mMとなるよう添加し、室温で5分間静置した。続いて、0.5mlのExtraction buffer B(1.5M NaCl,0.1M CaCl2,0.1M MgCl2,0.02mg/ml DNase I)を加え、室温で5分間静置した。次にTritonX−100を終濃度0.2%加え、室温にて0〜120分間穏やかに撹拌した後、Nd−B磁石を用いて磁性細菌粒子画分を磁気回収した。その後、PBS−Tで5回洗浄し、精製磁性細菌粒子を得た。
本発明のコンセプト証明を行うため、Mms13−ZZ融合タンパク質をコードするpUM13ZZのAMB−1形質転換体を用いたIgG結合試験を行った。
AMB−1野生株もしくはpUM13ZZ形質転換体の細胞ペレット(45ml culture相当)に対し、0から2μg/mlのAP標識donkey anti−mouse IgGを加え、磁性細菌粒子を抽出した。磁性細菌粒子各50μgを50μlのPBSに懸濁したのち、Lumi−Phos530を50μl加え、室温で20分間基質反応を行った後、ルミノメーターを用いて発光強度を測定した。
その結果、IgG−APの容量依存的な結合が認められ、少なくとも16ng/mlの低濃度であっても検出することが可能であることが示された(図2)。Donkey IgGとProtein Aとの結合はヒトIgG1と比べると弱いものの、この濃度は僅か0.18μg/l cultureに相当し、機能性分子の発現量が非常に低い場合であっても本システムが機能することが示された。
AMB−1野生株もしくは各AMB−1形質転換体より得られた磁性細菌粒子0.1〜0.2mgに対し、還元の場合は10mM DTTおよび5mM EDTAを含む1%LDS溶液を、非還元の場合は5mM EDTAを含む1%SDS溶液を10〜20μl加え、95℃で15分間熱処理を行い、磁気分離により上清を回収したものを粒子膜画分とした。得られた上清をサンプルバッファーと混合しSDS−PAGEゲル(10〜20% gradient)にて泳動したのち、Transfer Buffer(48mM Tris,39mM Glycine,20% Methanol)を用いたセミドライ法でPVDF膜にブロッティングした。抗原抗体反応は2%BSAを含むPBS−T(2%BSA/PBS−T)に溶解した1μg/mlの1次抗体もしくはAP標識2次抗体を用いて行った。2次反応後、PVDF膜をPBS−Tで3回洗浄したのち、BCIP/NBT−Blueを用いてAP活性の検出を行った。
次に、モデルタンパク質である変異型ヒト抗β−Galactosidase scFv−Fc融合タンパク質とMms13−ZZの共発現ベクター(pUM13/scFvFc)のAMB−1形質転換体を用いてFcとZZとの結合に必要な時間を調べた。ここで用いた変異型scFv(scFv13R4)は、大腸菌の細胞質内において高レベルで可能性発現するように改変されたものである。
リゾチームおよびDNase Iで10分間部分的に破砕処理した細胞に対し、細胞を完全に破砕し可溶化するためにTriton X−100を加え、0、10、30及び60分後に磁性細菌粒子を分離した。その結果、予想に反しFcとZZとの結合の大部分がtime0で起こり、TritonX−100の添加後10分以降に最大レベルに達した(図3)。これらの結果から、AMB−1形質転換体からFc融合タンパク質が結合した磁性細菌粒子を得るためには、細胞を完全に破砕してから10分後の回収で十分であることが示された。
Mms13−scFv、scFv−Fc各融合遺伝子発現ベクターのAMB−1形質転換体における発現レベルを確かめるため、リニアエピトープもしくは構造エピトープの抗体をそれぞれ用いたウェスタンブロッティングを行った。
その結果、Mms13−scFvは、還元条件および非還元条件で、リニアエピトープ認識の抗FLAG抗体により予想された41kDaの単一のバンドとして検出されたが、構造エピトープ認識の抗ヒトλ light chain(VL−λ)抗体では検出されなかった(図4)。一方、scFv−Fcの単量体(52kDa)は還元条件では抗FLAG抗体で検出されたが、非還元条件では抗FLAG抗体および抗ヒトVL−λの両方で2量体(105kDa)および3量体(157kDa)に相当する2本のバンドとして検出された(図4)。
これらの結果から、Mms13−scFvは、細胞質において磁性細菌粒子上で正しくフォールディングされなかったが、一方で、ペリプラズム内に発現したscFv−FcはFcのヒンジ領域を介すると思われる2量体、又は、2量体に非共有結合が加わった3量体としてS−S結合を伴い正しくフォールディングされたものと考えられる。なお、scFv−Fc融合タンパク質の多量体形成は他のグループでも報告されている。
磁性粒子上に捕捉されたscFv−Fcが抗原結合能を持っているかどうかを確かめるため、β−Galactosidaseの結合試験を行った。
pUM13ZZ、pUM13scFvもしくはpUM13ZZ/scFvFcを導入したAMB−1から抽出した磁性細菌粒子各50μgに対し、2%BSA/PBS−Tに懸濁したbiotin−β−Galactosidase(1μg/ml)を加え、室温で15分静置した。200μlのPBS−Tで1回洗浄したのち、Alkaline Phosphatase Streptavidin(1μg/ml)を加え、室温で15分静置した。200μlのPBS−Tで3回洗浄したのち、50μlのPBSに懸濁した。これにLumi−Phos530を50μl加えて30分間反応させ、ルミノメーターにより発光強度を測定した。
ここで用いたscFv(scFv13R4)は、大腸菌の細胞質において高い可溶性とフォールディング能を持つよう機能改変された抗β−Galactosidase scFv(scFv13)の変異体である。しかしながら、高い可溶性を持つscFv13R4であっても従来の直接発現法では磁性細菌粒子上で機能発現しなかった。
<実施例2>In vivo docking法による磁性細菌粒子上でのGFP及びmCherryの共局在
本実施例では、BacMPsに固定化する複数の目的タンパク質として、GFP及びmCherryを使用した。
(2−1)試料
試薬類は全て研究用の市販特級品またはそれに準じたものを用い、試薬等の調製は蒸留水及び蒸留水をMilliQ Lab(日本ミリポア)で処理した純水を用いた。アルカリホスファターゼ(ALP)標識mouse由来anti−c−mycモノクローナル抗体は、ACRISより購入した。Mouse由来抗GFPモノクローナル抗体及び、mouse由来抗mCherryモノクローナル抗体はClontech Laboratoriesより購入した。Goat由来ALP標識抗mouse IgG抗体はSanta Cruz Biotechnologyより購入した。組み換えGFP及びmCherryはCELL BIOLABSより購入した。プレートリーダーにはSH−9000(コロナ電気)を用いた。ALPの発光基質には和光純薬株式会社のルミホス530を用いた。
また、本実施例では融合タンパク質の発現ホストとして磁性細菌M.magneticum AMB−1株のmms13遺伝子欠損株(Δmms13株)を使用した。プラスミド構築には、大腸菌TOP10(Invitrogen)を使用した。
図11(A)に、本実施例で構築したプラスミドコンストラクトpUMtetDoc−M13miniscafを示す。該プラスミドは、Pmsp1(tetO)プロモーターの下流にGFPとClostridium thermocellumのCelS由来Dockerin(DocC)の融合タンパク質(GFP−DocC)、mCherryとRuminococcus flavefaciensのScaA由来Dockerin(DocR)の融合タンパク質(mCherry−DocR)、及びPmms16プロモーターの下流にMms13、NS linker、C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、R.flavefaciens由来Cohesin(CohR)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−miniscaffoldin)の遺伝子を含む。
更に、Pmms16プロモーターの下流にGFP−DocC、mCherry−DocRの遺伝子を含むpUMtetDoc(図示せず)を構築した。
菌体培養後、遠心分離(9000g、4℃、10分間)を行い、培養液から磁性細菌を回収した。回収した磁性細菌は、1mM CaCl2を含むHEPES緩衝液(10mM、pH7.4)に懸濁し、フレンチプレス(有限会社大岳製作所,5501M)を使用して1800kg/cm2で菌体破砕を行った(3回)。破砕液をガラスの容器に移し、Nd−Fe−B(ネオジウム−鉄−ボロン)磁石を添付することにより、BacMPsを回収した。上清を取り除き、更に1mM CaCl2を含むHEPES緩衝液を加え、磁気分離することでBacMPsの洗浄を行った(10回)。BacMPsを適量のPBSに分散させ吸光度(660nm)を測定し、検量線より乾燥重量に換算した。
野生型(WT)及び各形質転換体の菌体培養液を遠心分離(8000g、10分間)し、菌体を回収した。菌体2×109 cellsに対して1%SDS溶液20μlを添加し99℃で30分間煮沸した。更に、3×SDS sample bufferを添加し、99℃で5分間加熱し、菌体サンプルとした。また、WT及び各形質転換体から得られたBacMPs25〜500μgに対し、1%SDS溶液30μlを添加後、超音波により拡散させながら煮沸した(100℃、30分間)。遠心分離(18000g、5分間)により上清を回収し、3×SDS sample bufferをサンプルに15μl加え、99℃で5分間加熱し、粒子膜画分サンプルとした。コントロールとして、組み換えGFP及び組み換えmCherryを用いた。
WT及び形質転換体由来BacMPs 50μgにALP標識抗c−myc抗体(1μg/ml、PBST)、mouse由来抗GFPモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)またはmouse由来抗mCherryモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)100μlを室温で30分間反応させた。洗浄後、mouse由来抗GFPモノクローナル抗体またはmouse由来抗mCherryモノクローナル抗体を反応させたBacMPsは、更に二次抗体としてgoat由来ALP標識抗mouseIgG抗体(1μg/ml)を反応させた。洗浄後、TBS 50μlにBacMPsを懸濁した。96穴プレートに移した後にルミホス530を50μl添加し、5分後の発光強度を測定した。
Mms13−miniscaffoldinのC末端に融合したc−myc tagに対する抗体を用いて、形質転換体におけるMms13−miniscaffoldin(57kDa)の発現確認を行った。ウェスタンブロッティングの結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、Mms13−miniscaffoldinの発現を確認することができた(図12(A)、レーン1)。
また、上記BacMPsへの抗体結合試験により、精製したBacMPs上でのMms13−miniscaffoldinの局在を確認した。その結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体から精製したBacMPsにおいて、抗c−myc抗体の結合が確認された(図12(B)、レーン1)。
以上の結果より、形質転換体内で発現したMms13−miniscaffoldinはBacMPs膜上に局在し、固定化されていることが示された。
形質転換体におけるGFP−DocC及びmCherry−DocRの発現を確認するために、ウェスタンブロッティングによるGFP−DocC(36kDa)、mCherry−DocR(38kDa)の検出を行った。その結果、形質転換体において、GFP−DocC、mCherry−DocRの発現を確認することができた(図13(A)及び(B)、レーン1)。
また、各形質転換体のGFP−DocC及びmCherry−DocRのバンドを画像解析ソフトImage Jを用いて解析し、ピクセル強度の比較を行った。pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体のGFP−DocC及びmCherry−DocRのピクセル強度を100%としたとき、pUMtetDocを保持する形質転換体において、GFP−DocCが18%、mCherry−DocRが69%であった。よって、pUMtetDocを保持する形質転換体では、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体に比べ、GFP−DocC及びmCherry−DocRの発現量が低下していることが示された。Dockerinは、Cohesinと結合していない状態では構造が不安定となり、細胞内でプロテアーゼにより分解されることが報告されている。従って、Mms13−miniscaffoldinを発現しないpUMtetDocを保持する形質転換体では、GFP−DocC及びmCherry−DocRが分解され、発現量が低下したと考えられる。
これらの結果から、足場となるMms13−miniscaffoldin及びGFP−DocC、mCherry−DocRを共発現させることで、BacMPs上にワンステップで2種類のタンパク質を固定化できることが示された。
足場であるMms13−miniscaffoldinは、それぞれDocC及びDocRと結合するCohC及びCohRを1ドメインずつ含んでいる。従って、Mms13−miniscaffoldin上にGFP−DocC及びmCherry−DocRが共局在した場合、GFP−DocC及びmCherry−DocRの結合量比が1:1になる。
BacMPs上に結合したGFP−DocC及びmCherry−DocRの固定化量を算出するために、精製したBacMPsの膜画分に含まれるGFP−DocC及びmCherry−DocR量をウェスタンブロッティングにより定量した。濃度既知のGFP及びmCherryを用いて検量線を作成し、Image Jによる解析を行った(図15)。
その結果、GFP−DocC及びmCherry−DocRの結合量はそれぞれ1mg BacMPsあたり380ng及び570ngであった。よってBacMPs上に同程度のGFP−DocC及びmCherry−DocRが固定化されていることが示された。mCherry−DocRの結合量と比較してGFP−DocCの結合量がわずかに低い理由は、GFP−DocCがプロテアーゼによる分解を受けやすいことが影響していることにあると考えられる。
形質転換体のGFP及びmCherryの蛍光顕微鏡観察を行い、細胞内での局在解析を行った。WT及び形質転換体の培養液を、2%アガロースゲルを塗布したスライドガラス上に滴下し、観察を行った。GFP蛍光の検出にはGFP検出用フィルター(励起/検出:466nm:525nm)を用いた。mCherryの検出にはCY3フィルター(励起/検出:513−556nm/570−613nm)を用いた。GFP/mCherryのFRETの観察には励起フィルター(460−495nm)及び検出フィルター(580nm)を組み合わせたFRET検出フィルター用いた。
蛍光観察の結果、pUMtetDocを保持する形質転換体においてmCherryの蛍光は検出されたが、GFPの蛍光は検出されなかった(図16(B))。これはGFP−DocCの発現量が低いことが原因であると考えられる。pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体においてはGFP及びmCherryの蛍光が検出された(図16(C))。また、それらの蛍光から、GFP及びmCherryが細胞内で同一の位置に局在していることが示された。
観察の結果、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、GFP及びmCherryの局在位置と同様の位置に、FRETによるmCherryの蛍光が検出された(図16(C)の“FRET”のレーン)。従って、GFP−DocC及びmCherry−DocRが近接に位置していることが示された。
これらの結果から、pUMtetDoc−M13miniscafを保持する形質転換体において、菌体内で発現したGFP−DocC及びmCherry−DocRは、BacMPs上に局在したMms13−miniscaffoldinに結合し共局在していることが示された。
本実施例では、BacMPsに固定化する複数の目的タンパク質として、eMHC II及びHLA−DMとを使用した。
試薬類は全て研究用の市販特級品またはそれに準じたものを用い、試薬等の調製は蒸留水及び蒸留水をMilliQ Lab(日本ミリポア)で処理した純水を用いた。アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗FLAGモノクローナル抗体はシグマアルドリッチジャパンより購入した。アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗HA tagモノクローナル抗体はabcamより購入した。N末端ビオチン標識HA306−318(PKYVKQNTLKLAT)は株式会社ベックスより購入した。ALP標識ストレプトアビジンはRocheより購入した。プレートリーダーにはSH−9000(コロナ電気)を用いた。ALPの発光基質には和光純薬株式会社のルミホス530を用いた。
また、本実施例では融合タンパク質の発現ホストとして磁性細菌M.magneticum AMB−1株のmms13遺伝子欠損株(Δmms13株)を使用した。プラスミド構築には、大腸菌TOP10(Invitrogen社製)を使用した。
プラスミドベクターは、T.Yoshino,A.Shimojo,Y.Maeda,T.Matsunaga.,Inducible Expression of Transmembrane Protein on Bacterial Magnetic Particles in Mamnetospirillum magneticum AMB−1,Appl Environ Microbiol.(2010)に記載されたpUMtOR13GFPを基にして構築した。
図17(A)に、本実施例で構築したベクターコンストラクトpUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを示す。
該ベクターは、Pmsp1(tetO)プロモーターの下流にMHC IIの細胞外ドメイン、FLAG tag、Clostridium thermocellumのCelS由来Dockerin(DocC)の融合タンパク質(MHC II−DocC)、HLA−DM、HA−tag、Ruminococcus flavefaciensのScaA由来Dockerin(DocR)の融合タンパク質(DM−DocR)、及びPmms16プロモーターの下流にMms13、NS linker、C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、R.flavefaciens由来Cohesin(CohR)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−miniscaffoldin)の遺伝子を含む。
更に、Mms13、NS linker、C.thermocellum由来Cohesin(CohC)、c−myc tagの融合タンパク質(Mms13−cohC)の遺伝子を含むベクターコンストラクトpUMMHC II−DMDoc−M13cohC(図示せず)を構築した。
また、磁性細菌の培養には、magnetic spirillum growth medium(MSGM)を培地として用い、5Lの培地に、プレカルチャーを1/1000植菌し、室温(26〜29℃)で静置することで培養を行った。植菌時には、アルゴンガスでバブリング(15分間)することにより微好気状態を作った。また、形質転換体の培養の際は終濃度5.0μg/mlアンピシリンを添加し、対数増殖期中期に終濃度500ng/ml ATcを添加し、一晩培養した。
磁性細菌粒子の調製は、上記実施例2の(2−3)で説明したのと同様の方法で行った。
WT及び各形質転換体の菌体培養液を遠心分離(8000g、10分間)し、菌体を回収した。菌体2×109cellsに対して1%SDS溶液20μlを添加し99℃で30分間煮沸した。更に、3×SDS sample bufferを添加し99℃で5分間加熱し、菌体サンプルとした。WT及び各形質転換体から得られたBacMPs200μgに対し、1%SDS溶液30μlを添加後、超音波により拡散させながら煮沸した(100℃、30分間)。遠心分離(18000g、5分間)により上清を回収し、3×SDS sample bufferをサンプルに15 μl加えて99℃で5分間加熱し、粒子膜画分サンプルとした。
各サンプルを、アクリルアミド濃度12.5%のゲルを用いてSDS−PAGEを行った。泳動後のゲルをPVDF膜へセミドライ法でブロッティングを行った。ブロッティング後のPVDF膜に対し、ALP標識抗FLAGモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)またはALP標識抗HA tagモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)を反応させた(室温、1時間)。PBS−Tを用いて10分間の洗浄を3回繰り返した後、基質としてNBT/BCIP−Blue Liquid Substateを加え、発色させた。
WT及び形質転換体由来BacMPs50μgにALP標識抗FLAGモノクローナル抗体(1μg/mL、PBST)、ALP標識抗HA tagモノクローナル抗体(1μg/ml、PBST)100μLを、室温で30分間反応させた。洗浄後、TBS50μlにBacMPsを懸濁した。96穴プレートに移した後、ルミホス530を50μl添加し、5分後の発光強度を測定した。
図17(A)に示すように、プラスミドpUMMHC II−DMDoc−M13miniscafは、eMHC−DocC及びDM−DocRはリボソーム結合サイト(RBS)を介してオペロンを構成している。また、pUMMHC II−DMDoc−M13cohC(図示せず)も同様の構成を有する。
ウェスタンブロッティングの結果から、pUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを保持する形質転換体、及び、pUMMHC II−DMDoc−M13cohCを保持する形質転換体おいて、eMHC−DocC及びDM−DocRの発現を確認した。ここでは、eMHC−DocCに導入したFLAG tag及びDM−DocRに導入したHA tagに対する抗体を用いて検出を行った。
形質転換体由来BacMPs上にeMHC II−DocC及びDM−DocRが結合していることを確認するために、抗体結合試験を行った。pUMMHC II−DMDoc−M13miniscafを保持する形質転換体由来BacMPsにおいては、eMHC II−DocC及びDM−DocRの結合を確認することができた。一方、pUMMHC I−DMDoc−M13cohCを保持する形質転換体由来BacMPsにおいては、eMHC II−DocCの結合が確認できた。
ペプチド結合アッセイを行い、eMHC II−DocCのペプチド結合能の評価を行った。具体的には、eMHC II−DocC及びDM−DocR結合BacMPs(eMHC II/DM−BacMPs)及びeMHC II−DocC結合BacMPs(eMHC II−BacMPs)に対して、インフルエンザヘマグルチニン由来抗原ペプチド(HA306−318)の結合能を評価した。
ペプチドは、DMSOを用いて5mg/mlに調整し、使用するまで−20℃で保存した。WT及び各形質転換体から得られたBacMPs50μgに0.1〜10μM(PBST)に調整したビオチン標識HA306−318100μlを加え、37℃で3時間反応させた。その後100μl PBSを用いて3回洗浄を行い、ALP標識ストレプトアビジン(ALP−SA:0.5U/ml、PBST)100μLを加え、30分間室温で反応させた。その後、Tris−HCl buffer(pH7.4)100μlを用いて2回洗浄を行い、TBS 50μlに懸濁したものをサンプルとして使用した。96−well microtiterplateに移し、ルミホス530(50μl)を加え、5分間室温で反応させた後、発光プレートリーダーを用いて発光強度を測定した。
更に、HA306−318濃度、反応時間のカイネティクスを解析した。
既に述べた通り、MHC II分子は、ヒトの免疫機構を担う重要なタンパク質であり、種々の疾患及び病原体由来の抗原タンパク質の分解産物(抗原ペプチド)と結合し、抗原ペプチド−MHC II複合体(pMHC II)を形成する。それ故、MHC IIのペプチド結合能の解析、抗原ペプチドの同定は重要である。
抗原ペプチドと結合していない状態のMHC II(eMHC II)は構造が不安定であり、凝集塊を形成する。そのため、組み換えMHC IIは、例えば、α鎖及びβ鎖を封入体として別々に生産した後、抗原ペプチドと混合しリホールディングすることにより作製されており、この方法では、煩雑な操作が必要である。また、UV分解性抗原ペプチドを導入したpMHC IIにHLA−DMを添加し、UVを照射することでペプチド結合能を有したeMHC IIを作製されることが報告されているが、この系においてペプチド結合能を有したeMHC IIを作製するためには、高濃度のHLA−DMが必要になる。即ち、従来、MHC IIの、目的の抗原ペプチド候補とのペプチド結合能を評価するためには、煩雑な実験ステップを必要とするか、又は、非常に高濃度の試料を必要としていた。加えて、親和性の高い抗原ペプチドを用いてpMHC IIを作製しなければ充分な安定性が得られなかった。このような、組み換えMHC IIの作製の煩雑さ及び困難さがMHC II研究のボトルネックとなっていた。
しかし、本実施例では、磁性細菌内でeMHC II及びシャペロンであるHLA−DMを共局在させることで、従来生産が困難であったeMHC IIを簡便且つ効率的に、またその機能を維持した状態で調製することができた。本実施例においては、磁性細菌の菌体内という限られた空間内でeMHC IIとHLA−DMとを共発現させ、且つ、足場タンパク質を介してこれらを共局在させ、eMHC IIとHLA−DMを近接した位置に配置できることから、ペプチド結合能を保持したeMHC IIを効率的に生産することが可能である。更に、eMHC II及びHLA−DMはBacMps上に固定化されていることから、外部磁場を用いて簡便に回収することが出来るため、抗原ペプチドスクリーニング技術の簡便化や応用が期待できる。
Claims (7)
- グラム陰性磁性細菌における、ジスルフィド結合タンパク質と磁性粒子との複合体の製造方法であって、
(i)前記細菌中で、
(a)結合タンパク質に融合したジスルフィド結合タンパク質を含んだ第1の融合タンパク質、及び
(b)磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質に融合した結合パートナータンパク質を含んだ第2の融合タンパク質
を共発現させる共発現工程であって、前記第1の融合タンパク質の発現が前記細菌のペリプラズムへと誘導され、前記第2の融合タンパク質の発現が前記細菌の細胞質へと誘導される工程と;
(ii)前記第1及び第2の融合タンパク質を生産するのに充分な条件下で前記工程(i)の細菌を培養する培養工程と;
(iii)前記工程(ii)の細菌の細胞膜を破壊する細胞膜破壊工程であって、前記ジスルフィド結合タンパク質と磁性細菌粒子との複合体が形成される工程と;
を含む、製造方法。 - (iv)前記工程(iii)の前記複合体を前記破壊された細胞から単離する単離工程を更に含む請求項1に記載の製造方法。
- 前記複合体から、前記ジスルフィド結合タンパク質を回収する回収工程を更に含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記結合タンパク質が、免疫グロブリンFcドメインである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 前記結合パートナータンパク質がStaphylococcus aureus由来のタンパク質AのZZドメインである、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 前記ジスルフィド結合したタンパク質が単鎖可変フラグメント(scFv)である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
- 前記磁性細菌粒子に結合又は一体化され得るタンパク質が、Magnetospillum magneticum由来のMms13である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
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