JP6414080B2 - リチウムイオン二次電池用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池用スラリー組成物、二次電池用電極の製造方法、および、リチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池用スラリー組成物、二次電池用電極の製造方法、および、リチウムイオン二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池用スラリー組成物、二次電池用電極の製造方法、および、リチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。リチウムイオン二次電池には、高温での使用条件においても高いサイクル特性等の性能が求められる。近年では、二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。例えば、リチウムイオン二次電池の電極活物質層の形成に用いられるスラリー組成物に、活物質、カルボキシメチルセルロース等の水溶性増粘剤、及び粒子状結着剤に加えて、架橋剤を添加することで、電池使用時の電極活物質層の膨張を抑制するなどの作用により電池の性能を高めることが検討されている(例えば、特許文献1〜2)。架橋剤は、通常、スラリー組成物を集電体に塗布した後の乾燥の工程において架橋反応を起こし、粒子状結着剤の粒子間等において架橋を形成し、かかる作用を発揮する。
また、かかるスラリー組成物の調製の便宜のため、粒子状結着剤及び架橋剤を含むバインダー組成物を予め調製し、これをスラリー組成物の他の成分と混合することにより、スラリー組成物を調製することが考えられる。
特開2011−134618号公報 国際公開第2010/114119号(対応外国公報:米国特許出願公開第2012/095131号明細書)
しかしながら、架橋剤は、場合によっては、多く添加しても効果が発現しないことがある。そのような場合において、架橋剤の効果を発現させるべく大量に架橋剤を添加すると、電極活物質層が集電体に付着する強度(ピール強度)が却って低下し、高温サイクル特性といった所望の効果が得られない場合がある。
さらに、架橋剤と粒子状結着剤とを含むバインダー組成物は、調製後使用までの貯蔵期間中に劣化し、所望の性能を発揮しない場合がある。例えば、調整後の貯蔵期間において、不所望に架橋が進行し、粘度が上昇し、架橋剤の反応性が低下するなどの現象が見られる場合がある。
そこで、本発明の目的は、貯蔵安定性が高く、リチウムイオン二次電池用電極に高いピール強度を付与することができ、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうるリチウムイオン二次電池用バインダー組成物を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、容易に製造することができ、ピール強度が高く、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうるリチウムイオン二次電池用スラリー組成物を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、容易に実施することができ、ピール強度が高く、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうるリチウムイオン二次電池用電極を製造しうる製造方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、容易に製造することができ、高い高温サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成するために検討を行った。そして、本発明者は、バインダー組成物中の粒子状結着剤の表面酸量の割合と、バインダー組成物の水相中の酸量の割合を、所定の範囲とすることにより、架橋剤の作用を良好に発現しうることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させた。即ち、本発明によれば、下記〔1〕〜〔10〕が提供される。
〔1〕 架橋剤(A)、粒子状結着剤(B)及び水を含み、水相及び固相を有する、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物であって、
前記架橋剤(A)は、カルボン酸と反応する官能基を有し、
前記粒子状結着剤(B)は、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位を含有し、
前記バインダー組成物の固形分質量全量に対する、前記粒子状結着剤(B)の表面酸量の割合が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、
前記バインダー組成物の固形分質量全量に対する、前記水相中の酸量の割合が0.01mmol/g以上1.0mmol/gであり、
前記表面酸量の割合の値を、前記水相中の酸量の割合の値で除した値が、1.0以上であるリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔2〕 前記粒子状結着剤(B)における、前記エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位の割合が、0.1質量%以上30質量%以下である、〔1〕に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔3〕 前記粒子状結着剤(B)が、さらに、エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位を、0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有する、〔1〕又は〔2〕に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔4〕 前記架橋剤(A)が、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、および、カルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔5〕 前記粒子状結着剤(B)が、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位をさらに含有する、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔6〕 前記粒子状結着剤(B)100質量部に対する前記架橋剤(A)の量が、0.001質量部以上20質量部以下である、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物、電極活物質、及び水溶性増粘剤(C)を含有するリチウムイオン二次電池用スラリー組成物。
〔8〕 前記水溶性増粘剤(C)が、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、および、これらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種である、〔7〕記載のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物。
〔9〕 〔7〕又は〔8〕に記載のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物を、集電体上に塗布、乾燥して、電極活物質層を形成することを含む、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
〔10〕 正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備える、リチウムイオン二次電池であって、
前記正極、前記負極、またはこれらの両方が、〔9〕に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法により製造された電極である、リチウムイオン二次電池。
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物は、貯蔵安定性が高く、リチウムイオン二次電池用電極に高いピール強度を付与することができ、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうる。
本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物は、容易に製造することができ、ピール強度が高く、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうる。
本発明のリチウムイオン二次電池電極の製造方法は、容易に実施することができ、ピール強度が高く、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうるリチウムイオン二次電池用電極を製造しうる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、容易に製造することができ、高い高温サイクル特性を有するものとしうる。
図1は、本願実施例及び比較例での、粒子状結着剤(B)の表面酸量およびバインダー組成物水相の酸量の測定における、添加した塩酸の累計量(mmol)と電気伝導度(mS)との関係を示すグラフである。
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
〔1.二次電池用バインダー組成物〕
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物は、架橋剤(A)、粒子状結着剤(B)及び水を含む。
〔1.1.架橋剤(A)〕
架橋剤(A)は、バインダー組成物の成分として粒子状結着剤(B)と共存し、バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて電極活物質層を形成する際に、加熱等の処理を行うことにより、スラリー組成物中の他の成分(例えば粒子状結着剤(B)及び水溶性増粘剤(C))の間に架橋構造を形成しうる成分である。架橋剤(A)は、具体的には、粒子状結着剤(B)の粒子同士、水溶性増粘剤(C)の分子同士、及び粒子状結着剤(B)と水溶性増粘剤(C)との間のいずれか一以上において、架橋構造を形成しうる。好ましくは、架橋剤(A)としては、少なくとも粒子状結着剤(B)の粒子同士において架橋構造を形成しうるものを用いうる。
電極活物質層内において、架橋剤(A)が架橋を形成することにより、弾性率、引っ張り破断強度、耐疲労性などの機械的特性や、集電体への接着性に優れ、且つ、水への溶解度が小さい(即ち耐水性に優れる)架橋構造を有する電極活物質層が得られる。
そのため、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を電極の調製に用いた場合には、架橋構造の形成により、高温の使用環境における充放電の繰り返しに伴う電極の膨れを抑制することができると共に、電極活物質層と集電体との高い密着性を確保することができる。その結果、二次電池の高温サイクル特性等を向上させることができる。
本発明のバインダー組成物における、架橋剤(A)の割合は、前記粒子状結着剤(B)100質量部に対する量として、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらにより好ましくは2質量部以上であり、一方好ましくは20質量部以下、より好ましくは12質量部以下、さらにより好ましくは8質量部以下である。架橋剤(A)の割合を前記下限以上とすることにより、高い架橋度を得て、ピール強度及び破断強度を高め、且つ極板の膨れを抑制しうる。架橋剤(A)の割合を前記上限以下とすることにより、極板のヒビ割れ、ハンドリングしやすさの低下等の不所望な現象を防ぐことができる。
〔1.1.1.架橋剤(A):構造〕
架橋剤(A)は、カルボン酸と反応する官能基を有する。カルボン酸と反応する官能基を有することにより、粒子状結着剤(B)と反応し、粒子状結着剤(B)の粒子間の架橋を効果的に形成することができる。
カルボン酸と反応する官能基の例としては、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基及びこれらの組み合わせが挙げられる。したがって、架橋剤(A)の例としては、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基及びこれらの組み合わせを有する化合物が挙げられる。架橋剤(A)の好ましい例としては、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物及びこれらの組み合わせが挙げられる。中でも、カルボジイミド化合物が好ましく、さらには水溶性のカルボジイミド化合物が好ましい。架橋剤(A)としてこれらの好ましい化合物を用いることにより、高い架橋度を得て、ピール強度及び破断強度を高め、極板の膨れを抑制し、且つバインダー組成物の貯蔵安定性を良好なものとしうる。
〔1.1.2.カルボジイミド化合物〕
架橋剤(A)としてのカルボジイミド化合物の例としては、分子中に一般式(1):−N=C=N−・・・(1)で表されるカルボジイミド基を有する架橋性化合物が挙げられる。そして、このようなカルボジイミド化合物の例としては、カルボジイミド基を2つ以上有する化合物、具体的には、一般式(2):−N=C=N−R−・・・(2)(一般式(2)中、Rは2価の有機基を示す。)で表される繰返し単位を有するポリカルボジイミドおよび/または変性ポリカルボジイミドが好適に挙げられる。本明細書において変性ポリカルボジイミドとは、ポリカルボジイミドに対して、後述する反応性化合物を反応させることによって得られる化合物をいう。
〔1.1.3.ポリカルボジイミドの合成〕
ポリカルボジイミドの合成法は特に限定されるものではないが、例えば、有機ポリイソシアネートを、イソシアネート基のカルボジイミド化反応を促進する触媒(以下「カルボジイミド化触媒」という。)の存在下で反応させることにより、ポリカルボジイミドを合成することができる。また、一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドは、有機ポリイソシアネートを反応させて得たオリゴマー(カルボジイミドオリゴマー)と、当該オリゴマーと共重合可能な単量体とを共重合させることによっても合成することができる。
このポリカルボジイミドの合成に用いられる有機ポリイソシアネートとしては、有機ジイソシアネートが好ましい。
ポリカルボジイミドの合成に用いられる有機ジイソシアネートの例としては、特開2005−49370号公報に記載のものが挙げられる。中でも、バインダー組成物及びスラリー組成物の貯蔵安定性の観点から、特に2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートが好ましい。有機ジイソシアネートとしては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、上述の有機ジイソシアネートとともに、イソシアネート基を3つ以上有する有機ポリイソシアネート(3官能以上の有機ポリイソシアネート)や、3官能以上の有機ポリイソシアネートの化学量論的過剰量と2官能以上の多官能性活性水素含有化合物との反応により得られる末端イソシアネートプレポリマー(以下、上記3官能以上の有機ポリイソシアネートと、上記末端イソシアネートプレポリマーとを併せて「3官能以上の有機ポリイソシアネート類」という。)を用いてもよい。このような3官能以上の有機ポリイソシアネート類の例としては、特開2005−49370号公報に記載のものが挙げられる。3官能以上の有機ポリイソシアネート類としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ポリカルボジイミドの合成反応における、3官能以上の有機ポリイソシアネート類の使用量は、有機ジイソシアネート100質量部当たり、通常、0〜40質量部、好ましくは0〜20質量部である。
さらに、ポリカルボジイミドの合成に際しては、必要に応じて有機モノイソシアネートを添加することもできる。有機モノイソシアネートを添加することで、有機ポリイソシアネートが3官能以上の有機ポリイソシアネート類を含有する場合、得られるポリカルボジイミドの分子量を適切に規制することができ、また有機ジイソシアネートを有機モノイソシアネートと併用することにより、比較的分子量の小さいポリカルボジイミドを得ることができる。このような有機モノイソシアネートの例としては、特開2005−49370号公報に記載のものが挙げられる。有機モノイソシアネートとしては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ポリカルボジイミドの合成反応における、有機モノイソシアネートの使用量は、得られるポリカルボジイミドに求める分子量、3官能以上の有機ポリイソシアネート類の使用の有無等にも依るが、全有機ポリイソシアネート(有機ジイソシアネートと3官能以上の有機ポリイソシアネート類)成分100質量部当り、通常、0〜40質量部、好ましくは0〜20質量部である。
カルボジイミド化触媒の例としてはホスホレン化合物、金属カルボニル錯体、金属のアセチルアセトン錯体、及び燐酸エステルを挙げることができる。これらの具体例はそれぞれ、例えば、特開2005−49370号公報に示されている。カルボジイミド化触媒としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。カルボジイミド化触媒の使用量は、全有機イソシアネート(有機モノイソシアネート、有機ジイソシアネート、および、3官能以上の有機ポリイソシアネート類)成分100質量部当たり、通常、0.001〜30質量部、好ましくは0.01〜10質量部である。
有機ポリイソシアネートのカルボジイミド化反応は、無溶媒下でも適当な溶媒中でも実施することができる。溶媒中で合成反応を実施する場合の溶媒は、特に限定されず、合成反応中の加熱により生成したポリカルボジイミドまたはカルボジイミドオリゴマーを溶解しうる溶媒を適宜選択しうる。溶媒の例としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、非プロトン性極性溶媒、及びアセテート系溶媒を挙げることができる。これらの具体例はそれぞれ、例えば、特開2005−49370号公報に示されている。これらの溶媒としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ポリカルボジイミドの合成反応における溶媒の使用量は、全有機イソシアネート成分の濃度が、通常、0.5〜60質量%、好ましくは5〜50質量%となる量である。溶媒中の全有機イソシアネート成分の濃度が高過ぎると、生成されるポリカルボジイミドまたはカルボジイミドオリゴマーが合成反応中にゲル化する虞があり、また溶媒中の全有機イソシアネート成分の濃度が低過ぎると、反応速度が遅くなり、生産性が低下しうる。
有機ポリイソシアネートのカルボジイミド化反応の温度は、有機イソシアネート成分やカルボジイミド化触媒の種類に応じて適宜選定されるが、通常、20〜200℃である。有機ポリイソシアネートのカルボジイミド化反応に際して、有機イソシアネート成分は、反応前に全量を添加しても、あるいはその一部または全部を反応中に、連続的あるいは段階的に添加してもよい。また本発明においては、イソシアネート基と反応しうる化合物を、有機ポリイソシアネートのカルボジイミド化反応の初期から後期に至る適宜の反応段階で添加して、ポリカルボジイミドの末端イソシアネート基を封止し、得られるポリカルボジイミドの分子量を調節することもできる。また、有機ポリイソシアネートのカルボジイミド化反応の後期に添加して、得られるポリカルボジイミドの分子量を所定値に規制することもできる。このようなイソシアネート基と反応しうる化合物の例としては、メタノール、エタノール、i−プロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;並びにジメチルアミン、ジエチルアミン、ベンジルアミン等のアミン類を挙げることができる。
また、カルボジイミドオリゴマーと共重合可能な単量体の例としては、2価以上のアルコール、例えば、エチレングリコールやプロピレングリコール等の2価のアルコールが好適に挙げられる。
例えば分子鎖の両末端に水酸基を有する2価のアルコールをカルボジイミドオリゴマーと既知の方法で共重合させることにより、ポリカルボジイミド構造と、2価のアルコール由来の単量体単位とを有するポリカルボジイミドを合成することができる。このように、架橋剤(A)としてのポリカルボジイミドが2価以上のアルコール由来の単量体単位、好ましくは2価のアルコール由来の単量体単位を有する場合、該ポリカルボジイミドを含むバインダー組成物から形成される電極の電解液に対する濡れ性が向上し、該電池部材を備える二次電池の製造における、電解液の注液性を向上させることができる。また、該アルコールを共重合させることは、カルボジイミド化合物の水溶化率を増加させるとともに、水中で自己ミセル化、すなわち、疎水性であるカルボジイミド構造部位の周りに親水性であるエチレングリコール鎖で覆われる構造をとるため、化学的安定性に優れる効果がある。
上述したポリカルボジイミドは、溶液としてあるいは溶液から分離した固体として、本発明のバインダー組成物又はスラリー組成物の調製に使用される。ポリカルボジイミドを溶液から分離する方法の例としては、ポリカルボジイミド溶液を、該ポリカルボジイミドに対して不活性な非溶媒中に添加し、生じた沈澱物あるいは油状物をろ過またはデカンテーションにより分離・採取する方法;噴霧乾燥により分離・採取する方法;得られたポリカルボジイミドの合成に用いた溶媒に対する温度による溶解度変化を利用して分離・採取する方法、即ち、合成直後は該溶媒に溶解しているポリカルボジイミドが系の温度を下げることにより析出する場合、その混濁液からろ過等により分離・採取する方法等を挙げることができ、さらに、これらの分離・採取方法を適宜組合せて行うこともできる。本発明におけるポリカルボジイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算数平均分子量(以下、「Mn」という。)は、通常、400〜500,000、好ましくは1,000〜200,000、特に好ましくは2,000〜100,000である。
〔1.1.4.変性ポリカルボジイミドの合成〕
次に、変性ポリカルボジイミドの合成法について説明する。変性ポリカルボジイミドは、一般式(2)で表される繰返し単位を有するポリカルボジイミドの少なくとも1種に、反応性化合物の少なくとも1種を、適当な触媒の存在下あるいは不存在下で、適宜温度で反応(以下、「変性反応」という。)させることによって合成しうる。
変性ポリカルボジイミドの合成に使用される反応性化合物としては、その分子中に、ポリカルボジイミドとの反応性を有する基(以下、単に「反応性基」という。)を1つと、さらに他の官能基を有する化合物を用いうる。この反応性化合物は、芳香族化合物、脂肪族化合物あるいは脂環族化合物であることができ、また芳香族化合物および脂環族化合物における環構造は、炭素環でも複素環でもよい。反応性化合物における反応性基は、活性水素を有する基としうる。反応性基の例としては、カルボキシル基、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を挙げることができる。そして、反応性化合物は、その分子中に、1つの反応性基に加えて、さらに他の官能基を有しうる。反応性化合物が有する、反応性基以外の官能基の例としては、ポリカルボジイミドおよび/または変性ポリカルボジイミドの架橋反応を促進する作用を有する基、及び反応性化合物1分子中における2つ目以降の(即ち、上述した反応性基とは別の)、上述の活性水素を有する基も含まれ、例えば、カルボン酸無水物基および第三級アミノ基のほか、活性水素を有する基として例示したカルボキシル基および第一級もしくは第二級のアミノ基等を挙げることができる。これらの他の官能基としては、反応性化合物1分子中に同一のあるいは異なる基が2個以上存在することができる。
反応性化合物の例としては、特開2005−49370号公報に記載のものが挙げられる。中でも、トリメリット酸無水物、ニコチン酸が好ましい。反応性化合物としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
変性ポリカルボジイミドを合成するための変性反応における反応性化合物の使用量は、ポリカルボジイミドや反応性化合物の種類、得られる変性ポリカルボジイミドに求められる物性等に応じて適宜調節しうる。ポリカルボジイミドの一般式(2)で表される繰返し単位1モルに対する反応性化合物中の反応性基の割合は、好ましくは0.01〜1モル、さらに好ましくは0.02〜0.8モルとなる量である。上記割合が0.01モル未満であると、変性ポリカルボジイミドを含むバインダー組成物やスラリー組成物の保存安定性が低下する虞がある。一方、上記割合が1モルを超えると、ポリカルボジイミド本来の特性が損なわれる虞がある。
また、変性反応においては、反応性化合物中の反応性基とポリカルボジイミドの一般式(2)で表される繰返し単位との反応は通常定量的に進行し、該反応性化合物の使用量に見合う官能基が変性ポリカルボジイミド中に導入されうる。変性反応は、無溶媒下でも実施することができるが、適当な溶媒中で実施することが好ましい。このような溶媒は、ポリカルボジイミドおよび反応性化合物に対して不活性であり、かつこれらを溶解しうる限り、特に限定されるものではなく、その例としては、上述のポリカルボジイミドの合成に使用することができるエーテル系溶媒、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また変性反応に、ポリカルボジイミドの合成時に使用された溶媒が使用できるときは、その合成により得られるポリカルボジイミド溶液をそのまま使用することもできる。変性反応における溶媒の使用量は、反応原料の合計100質量部当たり、通常、10〜10,000質量部、好ましくは50〜5,000質量部である。変性反応の温度は、ポリカルボジイミドや反応性化合物の種類に応じて適宜選定されるが、通常、100℃以下、好ましくは−10〜80℃である。本発明における変性ポリカルボジイミドのMnは、通常、500〜1,000,000、好ましくは1,000〜400,000、さらに好ましくは2,000〜200,000である。
〔1.1.5.カルボジイミド化合物の性状等〕
カルボジイミド化合物の、カルボジイミド基(−N=C=N−)1モル当たりの化学式量(NCN当量)は、好ましくは300以上、より好ましくは400以上であり、好ましくは600以下、より好ましくは500以下である。カルボジイミド化合物のNCN当量が400以上であることで、本発明のバインダー組成物やスラリー組成物の貯蔵安定性を十分に確保することができ、600以下であることで、架橋剤として架橋反応を良好に進行させることができる。
カルボジイミド化合物のNCN当量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてカルボジイミド化合物のポリスチレン換算数平均分子量を求めると共に、IR(赤外分光法)を用いてカルボジイミド化合物1分子当たりのカルボジイミド基の数を定量分析し、下記式を用いて算出することができる。
NCN当量=(カルボジイミド化合物のポリスチレン換算数平均分子量)/(カルボジイミド化合物1分子当たりのカルボジイミド基の数)
〔1.1.6.オキサゾリン化合物〕
架橋剤(A)としてのオキサゾリン化合物の例としては、その分子中に、オキサゾリン基を有する架橋性化合物が挙げられる。そして、このようなオキサゾリン化合物の例としては、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有する化合物が好適に挙げられる。オキサゾリン基の水素原子の一部又は全部は、他の基により置換されていてもよい。このような、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有する化合物の例としては、分子中にオキサゾリン基を2つ有する化合物(2価のオキサゾリン化合物)、オキサゾリン基を含有する重合体(オキサゾリン基含有重合体)が挙げられる。
〔1.1.7.2価のオキサゾリン化合物〕
2価のオキサゾリン化合物の例としては、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4'−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)などが挙げられる。中でも、より剛直な架橋構造体を形成する観点から、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
〔1.1.8.オキサゾリン基含有重合体〕
本願において、オキサゾリン基含有重合体は、2価のオキサゾリン化合物以外の化合物であって、オキサゾリン基を含有する重合体である。
オキサゾリン基含有重合体は、例えば、以下の式(I)で表されるオキサゾリン基含有単量体を重合することにより、又は当該オキサゾリン基含有単量体を含む単量体組成物を共重合することにより合成しうる。
Figure 0006414080
式(I)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、Rは、付加重合性不飽和結合を有する非環状有機基を示す。
式(I)において、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。中でも、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
式(I)において、アルキル基の例としては、炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。中でも、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
式(I)において、置換基を有していてもよいアリール基の例としては、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などの炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。そして、置換基を有していてもよいアリール基の好ましい例としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基が挙げられる。
式(I)において、前記置換基を有していてもよいアラルキル基の例としては、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよいアラルキル基が挙げられる。アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基などの炭素数7〜18のアラルキル基が挙げられる。そして、置換基を有していてもよいアラルキル基の好ましい例としては、置換基を有していてもよい炭素数7〜12のアラルキル基が挙げられる。
式(I)において、付加重合性不飽和結合を有する非環状有機基の例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素数2〜8のアルケニル基が挙げられる。中でも、ビニル基、アリル基およびイソプロペニル基が好ましい。
式(I)で表されるオキサゾリン基含有単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−ブチル−2−オキサゾリンが挙げられる。中でも、工業的に容易に入手することができることから、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。これらオキサゾリン基含有単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
オキサゾリン基含有重合体の合成のための単量体組成物は、オキサゾリン基含有重合体以外の単量体を含みうる。当該単量体としては、オキサゾリン基含有単量体と共重合しうる任意の単量体を用いうる。当該単量体の好ましい例としては、(メタ)アクリル酸単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、および、芳香族系単量体が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/又はメタクリルを意味する。
オキサゾリン基含有重合体の合成に用い得る(メタ)アクリル酸単量体の例としては、アクリル酸;メタクリル酸;アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸アンモニウムなどのアクリル酸塩;並びにメタクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸アンモニウムなどのメタクリル酸塩が挙げられる。これら(メタ)アクリル酸単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
オキサゾリン基含有重合体の合成に用い得る(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パーフルオロアルキルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物などのアクリル酸エステル;並びにメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、メタクリル酸2−アミノエチルおよびその塩などのメタクリル酸エステルが挙げられる。これら(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
オキサゾリン基含有重合体の合成に用い得る芳香族系単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスチレン系化合物が挙げられる。これら芳香族系単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの単量体を、例えば特開2013−72002号公報、特許第2644161号公報などに記載された使用割合で、同文献に記載の方法で重合することによりオキサゾリン基含有重合体を合成しうる。また、オキサゾリン基含有重合体は、例えば、オキサゾリン基を有しない重合体を重合した後、該重合体中の官能基を、オキサゾリン基に一部又は全部置換することにより合成してもよい。
〔1.1.9.オキサゾリン化合物の性状等〕
架橋剤(A)として上述のオキサゾリン基含有重合体を使用する場合、オキサゾリン基含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−20℃以上であり、好ましくは60℃以下、より好ましくは30℃以下である。
オキサゾリン化合物の、オキサゾリン基1モル当たりの化学式量(オキサゾリン当量)は、好ましくは30以上、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、好ましくは600以下、より好ましくは500以下である。このオキサゾリン当量は、オキサゾリン価(オキサゾリン基1モル当たりのグラムでの質量(g−solid/eq.))とも呼ばれる。架橋剤(A)のオキサゾリン当量が70以上であることで、本発明のバインダー組成物やスラリー組成物の保存安定性を十分に確保することができ、600以下であることで、架橋剤として架橋反応を良好に進行させることができる。
架橋剤(A)のオキサゾリン当量は、下記式を用いて算出することができる。
オキサゾリン当量=(オキサゾリン化合物の分子量)/(オキサゾリン化合物1分子当たりのオキサゾリン基の数)
ここで、オキサゾリン化合物がオキサゾリン基含有重合体の場合には、オキサゾリン化合物の分子量は、例えば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定したポリスチレン換算数平均分子量とすることができ、オキサゾリン化合物1分子当たりのオキサゾリン基の数は、例えば、IR(赤外分光法)を用いて定量することができる。
〔1.1.10.多官能エポキシ化合物〕
架橋剤(A)としての多官能エポキシ化合物の例としては、脂肪族ポリグリシジルエーテル、芳香族ポリグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテルなどの多官能グリシジルエーテル化合物を挙げることができる。オキサゾリン基を有する化合物の例としては、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4'−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、及び2,2'−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)が挙げられる。また、日本触媒(株)製エポクロス(商標名)などの高分子タイプもあげることができる。
〔1.1.11.架橋剤(A)の性状等〕
架橋剤(A)の1質量%水溶液の粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは700mPa・s以下、特に好ましくは150mPa・s以下である。1質量%水溶液の粘度が上記範囲内である架橋剤を用いることで、電極活物質層と集電体との密着性を優れたものとすることができる。架橋剤(A)の1質量%水溶液の粘度は、カルボキシメチルセルロース(塩)の1質量%水溶液の粘度と同様の方法で測定することができる。
また、架橋剤(A)は水溶性であることが好ましい。架橋剤(A)が水溶性であることで、バインダー組成物を含む水系のスラリー組成物中で架橋剤(A)が偏在するのを防ぎ、得られる電極活物質層が好適な架橋構造を形成するがことができる。従って、得られる二次電池における電極活物質層と集電体との密着強度を確保すると共に、サイクル特性を向上させ、加えて、サイクル後の抵抗上昇を抑制することができる。さらに、電極の耐水性を向上させることができる。
ここで、本明細書において、架橋剤が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり架橋剤1質量部(固形分相当)を添加し、攪拌して得られる混合物を、温度20〜70℃範囲内で、かつpH3〜12(pH調整にはNaOH水溶液及び/又はHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した架橋剤の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。上記架橋剤と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その架橋剤は水溶性であると規定する。架橋構造の形成反応を良好に進行させ、上記電極活物質層と集電体との密着強度、高温サイクル特性を向上させる観点からは、上記架橋剤と水との混合物は、二相に分離しない(一相水溶状態である)こと、即ち架橋剤は一相水溶性であることがより好ましい。
〔1.2.粒子状結着剤(B)〕
本発明のバインダー組成物が含有する粒子状結着剤(B)は、水などの水系媒体において粒子の形態で分散可能な結着剤であり、バインダー組成物及びスラリー組成物中において粒子の形態で存在する。通常、粒子状結着剤(B)は、25℃において、粒子状結着剤0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となる。
本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて電極活物質層を形成した際に、粒子状結着剤(B)は、電極活物質層において、他の成分(例えば、電極活物質)が電極部材から脱離しないように保持しうる。電極活物質層における粒子状結着剤(B)は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒子状の形状を維持し、電極活物質同士を結着させ、電極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ機能を発現しうる。また、粒子状結着剤(B)は、電極活物質層に含まれる電極活物質以外の粒子をも結着させ、電極活物質層の強度を維持する役割も果たしうる。
〔1.2.1.粒子状結着剤(B):エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位〕
粒子状結着剤(B)は、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位を含有する重合体である。本願において、単量体単位とは、当該単量体の重合により得られる構造を有する単位である。したがって、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体の重合により得られる構造を有する単位であり、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位を含有する重合体は、カルボン酸基を有する重合体である。
本願において、単量体単位は、通常、対応する単量体の重合により得られるが、当該単量体の重合により得られる単位そのものには限られない。例えば、カルボン酸基を有しない粒子状結着剤を重合した後、該粒子状結着剤中の官能基の一部又は全部を、カルボン酸基に置換することにより、カルボン酸基を粒子状結着剤に導入することができる。当該置換の操作により、粒子状結着剤を構成する重合体内に、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位が形成されうる。このようにして、粒子状結着剤(B)を調製してもよい。
粒子状結着剤(B)は、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体を含み、それ以外の任意の単量体を含みうる単量体組成物の重合により調製しうる。ここで「単量体組成物」とは、説明の便宜上、1種類の単量体のみからなる材料をも包含するが、通常は、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体及びそれ以外の任意の単量体からなる。また、通常は、単量体組成物に含まれる各単量体の割合が、得られる重合体中の各単量体単位の割合となる。
エチレン性不飽和カルボン酸基単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸およびジカルボン酸、並びに、その無水物などが挙げられる。中でも、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物の安定性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、アクリル酸及びイタコン酸が特に好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの好ましいエチレン性不飽和カルボン酸基単量体を用いることにより、粒子状結着剤(B)全体に存在するカルボン酸基のうち、表面に存在するカルボン酸基の量を高めることができ、その結果、粒子状結着剤(B)と水溶性増粘剤(C)間の界面架橋を増やすことができる。
粒子状結着剤(B)中のエチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、一方好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位の割合を、前記下限以上とすることにより、粒子状結着剤(B)に十分な量の酸基を付与することができ、貯蔵安定性を向上させることができる。また、粒子状結着剤と水溶性増粘剤との間の架橋を良好に形成することができ、良好なピール強度及び高温サイクル特性を得ることができる。一方、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位の割合を、前記上限以下とすることにより、重合反応中に粗大粒子が発生することを防ぐことができ、その結果、良好な貯蔵安定性を得ることができる。
〔1.2.2.粒子状結着剤(B):エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位〕
粒子状結着剤(B)は、任意に、エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位を含有しうる。このような粒子状結着剤(B)は、エチレン性不飽和水酸基含有単量体を含有する単量体組成物を重合することにより調製しうる。エチレン性不飽和水酸基含有単量体とは、エチレン性不飽和基を有し、且つ水酸基を有する単量体であり、従って、エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位を含有する重合体は、水酸基を有する重合体である。
エチレン性不飽和水酸基含有単量体の例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。中でも、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、及びヒドロキシエチルアクリレートが好ましく、ヒドロキシプロピルアクリレート及びヒドロキシエチルアクリレートがさらに好ましく、2−ヒドロキシエチルアクリレートが特に好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの好ましいエチレン性不飽和水酸基含有単量体を用いることにより、重合体組成物の重合に際し、水相中のエチレン性不飽和カルボン酸基単量体が、ラテックス中の粒子と重合しやすくなり、水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めることができる。
粒子状結着剤(B)中のエチレン性不飽和水酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上であり、一方好ましくは20質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらにより好ましくは2質量%以下である。エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位の割合を、前記下限以上とすることにより、水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めることができる。一方、エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位の割合を、前記上限以下とすることにより、重合反応中に粗大粒子が発生することを防ぐことができる。
〔1.2.3.脂肪族共役ジエン単量体単位〕
粒子状結着剤(B)は、任意に、脂肪族共役ジエン単量体単位を含有しうる。特に、本発明のバインダー組成物及び本発明のスラリー組成物を、負極活物質層の形成に用いる場合、粒子状結着剤(B)が脂肪族共役ジエン単量体単位を含有することが、ピール強度の付与や電極の柔軟性のため好ましい。脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体の例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。脂肪族共役ジエン単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状結着剤(B)において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、一方好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合を前記下限以上とすることで、電極の柔軟性を高めることができる。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合を前記上限以下であることで、電極活物質層と集電体との密着性を良好なものとし、また、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて得られる電極の耐電解液性を向上させることができる。
〔1.2.4.芳香族ビニル単量体単位〕
粒子状結着剤(B)は、任意に、芳香族ビニル単量体単位を含有しうる。特に、本発明のバインダー組成物及び本発明のスラリー組成物を、負極活物質層の形成に用いる場合、粒子状結着剤(B)が芳香族ビニル単量体単位を含有することが、ピール強度の付与や充放電時の電極膨れ抑制のため好ましい。芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましい。芳香族ビニル単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状結着剤(B)において、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合を前記下限以上とすることで、本発明のバインダー組成物を用いて得られる電極の耐電解液性を向上させることができる。芳香族ビニル単量体単位の含有割合を前記上限以下とすることで、電極活物質層と集電体との密着性を良好なものとすることができる。
粒子状結着剤(B)は、脂肪族共役ジエン単量体単位として1,3−ブタジエン単位を含み、芳香族ビニル単量体単位としてスチレン単位を含む(即ち、スチレン−ブタジエン共重合体である)ことが好ましい。
〔1.2.5.任意の単量体単位〕
粒子状結着剤(B)は、上に述べたものの他にも任意の単量体単位を含有しうる。それらの任意の単量体単位は、それぞれに対応する単量体を含有する単量体組成物を用いて調製しうる。
任意の単量体単位を形成しうる単量体としては、グリシジルエーテル基を有する不飽和単量体、チオール基を有する単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
グリジシジルエーテル基を有する不飽和単量体の例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。中でも、グリシジルメタクリレートが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
チオール基を有する単量体の例としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールエタン トリス(3−メルカプトブチレート)などが挙げられる。中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
シアン化ビニル系単量体の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。特に、本発明のバインダー組成物及び本発明のスラリー組成物を、正極活物質層の形成に用いる場合、粒子状結着剤(B)がシアン化ビニル系単量体単位を含有することが、電解液とバインダーの親和性向上による、リチウムイオンの移動抵抗低減のため好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。中でも、メチルメタクリレートが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。特に、本発明のバインダー組成物及び本発明のスラリー組成物を、正極活物質層の形成に用いる場合、粒子状結着剤(B)が不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含有することが、ピール強度の付与、電極の柔軟性付与、さらに電解液とバインダーの親和性向上による、リチウムイオンの移動抵抗低減のため好ましい。
不飽和カルボン酸アミド単量体の例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。中でも、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
さらに、粒子状結着剤(B)は、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの通常の乳化重合において使用される単量体により形成される単位を含有しうるこれらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
粒子状結着剤(B)が任意の単量体単位を有する場合、その含有割合は、特に限定されないが、上限は合計量で10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましく、一方下限は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。
〔1.2.6.粒子状結着剤(B)の調製〕
粒子状結着剤(B)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより調製しうる。
ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状結着剤(B)における各単位の含有割合と同様にする。
水系溶媒は、格別限定されず、粒子状結着剤(B)が粒子状態で分散可能なものを適宜用いうる。通常、常圧における沸点が通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常350℃以下、好ましくは300℃以下の水系溶媒を選択しうる。
具体的には、水系溶媒の例としては、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトンなどのケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、粒子状結着剤(B)の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。主溶媒として水を使用して、粒子状結着剤(B)の粒子の分散状態が確保可能な範囲において上記の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いうる。用いうる重合方法の例としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などが挙げられる。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明のバインダー組成物や本発明のスラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。乳化重合は、常法に従い行うことができる。
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量としうる。また重合に際しては、シード粒子を採用してシード重合を行ってもよい。また、重合条件も、重合方法および重合開始剤の種類などにより任意に選択することができる。
重合に際して、それぞれの単量体を反応系に添加する順序は、特に限定されないが、表面酸量の割合を高める観点からは、エチレン性不飽和水酸基含有単量体の添加を、ある程度以上他の単量体の重合が進んだ時点で行なうことが好ましい。エチレン性不飽和水酸基含有単量体を、重合反応の初期に添加すると、十分な効果が得られないが、エチレン性不飽和水酸基含有単量体の添加を、ある程度以上他の単量体の重合が進んだ時点で行なうことにより、表面酸量、及び水相中の酸量に対する表面酸量の割合を、容易に高めることができる。
具体的には、エチレン性不飽和水酸基含有単量体以外の単量体を含む単量体組成物の重合を開始し、重合転化率が所定の値に達した時点でエチレン性不飽和水酸基含有単量体を反応系に添加することが好ましい。エチレン性不飽和水酸基含有単量体を添加する時点の重合転化率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であり、一方好ましくは85%以下である。エチレン性不飽和水酸基含有単量体を添加する時点の重合転化率を、前記範囲内に設定することにより、反応系の水相中のエチレン性不飽和カルボン酸基単量体が、ラテックス中の粒子と重合しやすくなり、水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めることができ、また、重合反応中に粗大粒子が発生することを防ぐことができる。
ここで、上述した重合方法によって得られる粒子状結着剤(B)の粒子の水系分散体は、そのまま、又は必要に応じてpH調整及び精製の工程を経て、本発明のバインダー組成物の製造に用いうる。水系分散体のpHは、例えばアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNHClなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液を用いて、pHが通常5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整しうる。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体と電極活物質層との密着性を向上させるので、好ましい。
〔1.2.7.粒子状結着剤(B)の性状〕
通常、粒子状結着剤(B)は、非水溶性である。したがって、通常、粒子状結着剤(B)は、水を含むバインダー組成物及びスラリー組成物において粒子状となっており、その粒子形状を維持したまま、例えば二次電池用電極に含まれる。
そして、本発明のバインダー組成物及びスラリー組成物では、粒子状結着剤(B)は、個数平均粒径が、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。個数平均粒径が上記範囲にあることで、得られる電極の強度および柔軟性を良好にできる。個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡法やコールターカウンター、レーザー回折散乱法などによって容易に測定することができる。
粒子状結着剤(B)のゲル含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。粒子状結着剤(B)のゲル含有量が50質量%未満の場合、粒子状結着剤(B)の凝集力が低下して、集電体などとの密着性が不十分となる虞がある。一方、粒子状結着剤(B)のゲル含有量が98質量%超の場合、粒子状結着剤(B)が靱性を失って脆くなり、結果的に密着性が不十分となる虞がある。
粒子状結着剤(B)のガラス転移温度(T)は、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−20℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは30℃以下である。粒子状結着剤(B)のガラス転移温度が−30℃以上であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物中の配合成分が凝集して沈降するのを防ぎ、スラリー組成物の安定性を確保することができる。更に、電極の膨らみを好適に抑制することができる。また、粒子状結着剤(B)のガラス転移温度が80℃以下であることで、本発明の二次電池用バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。
粒子状結着剤(B)のガラス転移温度およびゲル含有量は、粒子状結着剤(B)の調製条件(例えば、使用する単量体、重合条件など)を変更することにより適宜調整することができる。
ガラス転移温度は、使用する単量体の種類および量を変更することにより調整することができ、例えば、スチレン、アクリロニトリルなどの単量体を使用するとガラス転移温度を高めることができ、ブチルアクリレート、ブタジエンなどの単量体を使用するとガラス転移温度を低下させることができる。
また、ゲル含有量は、重合温度、重合開始剤の種類、分子量調整剤の種類、量、反応停止時の転化率などを変更することにより調整することができ、例えば、連鎖移動剤を少なくするとゲル含有量を高めることができ、連鎖移動剤を多くするとゲル含有量を低下させることができる。
〔1.3.水及びその他溶媒〕
本発明のバインダー組成物は、水を含む。水は、バインダー組成物において溶媒及び/又は分散媒として機能する。通常、本発明のバインダー組成物では、架橋剤(A)は水に溶解しているか若しくは分散しており、粒子状結着剤(B)は水に分散している。
本発明のバインダー組成物においては、溶媒として、水以外の溶媒を水とを組み合わせて用いてもよいが、架橋剤(A)との反応を避ける観点から、水以外の溶媒を実質的に含まないことが好ましい。
本発明のバインダー組成物における溶媒の量は、バインダー組成物の固形分濃度が、スラリー組成物の製造に適した所望の範囲に収まるように設定することが好ましい。具体的なバインダー組成物の固形分濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。本願において、組成物の固形分とは、その組成物の乾燥を経て残留する物質のことをいう。
〔1.4.その他の成分〕
本発明のバインダー組成物は、上記成分の他に、導電剤、補強材、レベリング剤、電解液添加剤、セルロースナノファイバーなどの成分を含有していてもよい。これらとしては、電池反応に影響を及ぼさないものを適宜選択することができる。例えば公知のもの、具体的には国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
〔1.5.バインダー組成物の調製〕
本発明のバインダー組成物は、架橋剤(A)、粒子状結着剤(B)、水、及び必要に応じて任意成分を、任意の順序で混合することにより調製しうる。架橋剤(A)及び粒子状結着剤(B)の混合系への添加は、これらを含む溶液又は懸濁液を添加することにより行いうる。
〔1.6.バインダー組成物の性状〕
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物は、水相及び固相を有する。水相は、水及び水に溶解しうる成分からなり、固相は、粒子状結着剤(B)及びその他の水に不溶な固体の相である。
本発明のバインダー組成物においては、バインダー組成物の固形分質量全量に対する、粒子状結着剤(B)の表面酸量の割合が、0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、バインダー組成物の固形分質量全量に対する、水相中の酸量の割合が0.01mmol/g以上1.0mmol/gであり、且つ表面酸量の割合の値を水相中の酸量の割合の値で除した値が、1.0以上である。
粒子状結着剤(B)の表面酸量の割合は、好ましくは0.05mmol/g〜1.0mmol/gであり、より好ましくは0.05mmol/g〜0.8mmol/gである。水相中の酸量の割合は、好ましくは0.05mmol/g〜1.0mmol/gであり、より好ましくは0.05mmol/g〜0.8mmol/gである。また、表面酸量の割合の値を水相中の酸量の割合の値で除した値は、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.10以上であり、一方好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下である。これらの値は本明細書の実施例に記載の方法に準拠して測定しうる。
表面酸量、及び水相中の酸量が前記条件を満たすことにより、少量の架橋剤(A)を効率的に作用させることができ、粒子状結着剤(B)、及びスラリー組成物中の他の成分(水溶性増粘剤(C)等)の粒子同士、分子同士、及び/又は粒子と分子との間の架橋を効率的に達成しうる。加えて、バインダー組成物の貯蔵時に、水相中の架橋剤(A)と水相中の酸との反応を低減させることができ、貯蔵安定性を向上させることができる。その結果、貯蔵安定性が高く、リチウムイオン二次電池用電極に高いピール強度を付与することができ、リチウムイオン二次電池に高い高温サイクル特性を付与しうるリチウムイオン二次電池用バインダー組成物を提供することが可能となる。
このような、表面酸量、及び水相中の酸量が前記条件を満たすバインダー組成物を得る方法の好ましい例としては、上記、特に粒子状結着剤(B)に関する項目〔1.2.1.〕及び項目〔1.2.2.〕において説明した通り、粒子状結着剤(B)の調製に際し、表面酸量、及び水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めた重合反応物を得て、これをバインダー組成物の材料として用いることが挙げられる。表面酸量、水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高める方法を具体的に説明すると、粒子状結着剤(B)の調製に際し、エチレン性不飽和水酸基含有単量体の添加を、上で説明した通り、ある程度以上他の単量体の重合が進んだ時点で行ない、それにより表面酸量、及び水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めた重合反応物を得て、これをバインダー組成物の材料として用いることで、前記条件を満たすバインダー組成物を得ることができる。
表面酸量、及び水相中の酸量が前記条件を満たすバインダー組成物を得る方法は、上に述べた方法に代えて、又は上に述べた方法に加えて、他の方法を採用することもできる。例えば、粒子状結着剤(B)の調製の重合反応後に加熱減圧蒸留等の蒸留法により未反応の酸を除去することも可能である。但し、上記、特に粒子状結着剤(B)に関する項目〔1.2.1.〕及び項目〔1.2.2.〕において説明した方法で表面酸量及び水相中の酸量に対する表面酸量の割合を高めた重合反応物を得ることにより、少ないエチレン性不飽和カルボン酸基単量体量により、粒子状結着剤(B)の表面に効率的にカルボン酸基を付与することができ、且つ蒸留の工程を省略することが可能となり、その結果、良好な製品を効率的に製造することができる。
〔2.二次電池用スラリー組成物〕
本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物は、前記本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物、電極活物質、及び水溶性増粘剤(C)を含有する。
〔2.1.電極活物質〕
本発明のスラリー組成物を負極の製造に用いる場合、電極活物質としては、負極活物質として適切なものを適宜選択しうる。本発明のスラリー組成物を正極の製造に用いる場合、電極活物質としては、正極活物質として適切なものを適宜選択しうる。
〔2.1.1.負極活物質〕
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池の負極において電子の受け渡しをする物質として用いうる物質を適宜選択して用いうる。
リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。リチウムを吸蔵および放出し得る物質の例としては、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質が挙げられる。
炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質の例としては、炭素質材料及び黒鉛質材料が挙げられる。
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
炭素質材料の例としては、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素、及び、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素が挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素の例としては、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素の例としては、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂(PFA)焼成体、及びハードカーボンが挙げられる。
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料の例としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛の例としては、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。用いうる金属系活物質の例としては、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが挙げられる。
そして、金属系負極活物質の中でも、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
シリコン系負極活物質の例としては、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO、Si含有材料と炭素材料との混合物、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。
ケイ素を含む合金の例としては、ケイ素と、アルミニウムと、鉄とを含み、さらにスズ及びイットリウム等の希土類元素を含む合金が挙げられる。このような合金は例えば、溶融紡糸法(meltspun method)により調製することができる。そしてこのような合金の例としては、特開2013−65569号公報に記載のものが挙げられる。
SiOは、SiOおよびSiOの少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiOは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiOは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
Si含有材料と炭素材料との混合物の例としては、ケイ素やSiOなどのSi含有材料と、炭素質材料や黒鉛質材料などの炭素材料とを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で粉砕混合したものが挙げられる。炭素質材料や黒鉛質材料の例としては、炭素系負極活物質として使用し得る材料が挙げられる。
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物の例としては、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法など公知の方法を用いることができる。
ここで、炭素系負極活物質や金属系負極活物質を負極活物質として用いた場合、これらの負極活物質は充放電に伴って膨張および収縮する。そのため、これらの負極活物質を使用した場合には、通常、負極活物質の膨張および収縮の繰り返しに起因して、負極が次第に膨らみ、二次電池が変形してサイクル特性などの電気的特性が低下する可能性がある。しかし、本発明のバインダー組成物を用いて形成した負極では、架橋剤(A)、粒子状結着剤(B)及び水溶性増粘剤(C)で形成される架橋構造により、負極活物質の膨張および収縮に起因した負極の膨らみを抑制し、サイクル特性を向上することができる。
上記シリコン系負極活物質を用いれば、リチウムイオン二次電池を高容量化することはできるものの、一般に、シリコン系負極活物質は充放電に伴って大きく(例えば5倍程度に)膨張および収縮する。そこで、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を高容量化する観点からは、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いることが好ましい。
ここで、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いる場合、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、炭素系負極活物質として人造黒鉛を使用することが好ましく、シリコン系負極活物質としてSi、ケイ素を含む合金、SiO、Si含有材料と炭素材料との混合物、および、Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物からなる群より選択される一種以上を用いることが好ましく、シリコン系負極活物質として、ケイ素を含む合金、および、Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物の少なくとも一方を用いることが更に好ましく、ケイ素を含む合金、および、導電性カーボンのマトリックス中にSiOが分散した複合化物(Si−SiO−C複合体)の少なくとも一方を用いることが特に好ましい。これらの負極活物質は、比較的大量のリチウムを吸蔵および放出し得る一方で、リチウムを吸蔵および放出した際の体積変化が比較的小さい。従って、これらの負極活物質を用いれば、充放電時の負極活物質の体積変化の増大を抑制しつつ、スラリー組成物を用いて形成したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を十分に高容量化することができる。また、ケイ素を含む合金を使用した場合、リチウムイオン二次電池を十分に高容量化することができると共に、初期クーロン効率やサイクル特性も向上させることができる。
また、炭素系負極活物質とシリコン系負極活物質との混合物を負極活物質として用いる場合、負極の膨れの発生を十分に抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、負極活物質は、炭素系負極活物質100質量部当たりシリコン系負極活物質を0質量部超100質量部以下含むことが好ましく、10質量部以上70質量部以下含むことがより好ましく、30質量部以上50質量部以下含むことが特に好ましい。負極活物質がシリコン系負極活物質を含む(即ち、炭素系負極活物質100質量部当たりのシリコン系負極活物質の量を0質量部超とする)ことにより、リチウムイオン二次電池を十分に高容量化することができる。また、炭素系負極活物質100質量部当たりのシリコン系負極活物質の量を100質量部以下とすることにより、負極の膨れの発生を十分に抑制することができる。
負極活物質は、粒子状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時に、より高密度な電極が形成できる。
負極活物質が粒子である場合、その体積平均粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。具体的な負極活物質の粒子の体積平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。ここで、体積平均粒子径は、レーザー回折法で測定された粒度分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を採用する。
負極活物質の比表面積は、出力密度向上の観点から、通常0.3m/g以上、好ましくは0.5m/g以上、より好ましくは0.8m/g以上であり、通常20m/g以下、好ましくは10m/g以下、より好ましくは5m/g以下である。負極活物質の比表面積は、例えばBET法により測定しうる。
〔2.1.2.正極活物質〕
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極において電子の受け渡しをする物質として用いうる物質を適宜選択して用いうる。
正極活物質としては、特に限定されず種々の活物質が使用できる。例えば、遷移金属を含有する化合物、具体的には、遷移金属を含有する酸化物、又はリチウムと遷移金属との複合酸化物を用いることができる。このような遷移金属の例としては、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄などを挙げることができるが、本発明においては、ニッケルを含有する化合物、特に、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好適に用いられる。特に、リチウムとニッケルを含有する複合酸化物は、従来よりリチウム系二次電池の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO)と比較して、高容量であるため、好適である。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
LiNi1−x−yCo
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
正極活物質は、平均粒子径が0.01〜30μmであることが好ましく、0.02〜20μmであることがより好ましい。正極活物質の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質の導電性が低下し、二次電池とした場合における内部抵抗が大きくなる場合がある。一方、正極活物質の平均粒子径が大きすぎると、正極活物質層を形成するために、スラリー化した際に、スラリー中での分散性が低下してしまい、良好なスラリーを製造することが困難となる場合がある。
〔2.2.バインダー組成物の割合〕
本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物中の、前記本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物の割合は、所望の電池の性能が得られるよう適宜調整しうる。特に、電極活物質100質量部に対する、バインダー組成物中の粒子状結着剤(B)の割合が所望の範囲となるように、バインダー組成物の割合を適宜調整し、所望の組成物を得ることができる。電極活物質100質量部に対する、バインダー組成物中の粒子状結着剤(B)の割合は、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、一方好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。当該割合を前記下限以上とすることにより、十分なピール強度を得ることができ、当該割合を前記上限以下とすることにより、抵抗の増大を防ぐことができる。
〔2.3.水溶性増粘剤(C)〕
水溶性増粘剤(C)は、カルボキシル基を有する水溶性の増粘剤である。水溶性増粘剤(C)は、スラリー組成物の粘度調整剤として機能しうる。また本発明のスラリー組成物により得られる電極活物質層において、電極活物質層の物性を適切な状態に保ち、その結果高温サイクル特性等の特性を良好なものとしうる。
ここで本明細書において、増粘剤が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり増粘剤1質量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を、温度20〜70℃の範囲内で、かつ、pH3〜12(pH調整にはNaOH水溶液及び/又はHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した増粘剤の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。上記増粘剤と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その増粘剤は水溶性であると規定する。
水溶性増粘剤(C)としては、バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とするため、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、これらの塩、からなる群から選択される1種以上を用いうる。ポリカルボン酸の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びアルギン酸が挙げられる。これら水溶性増粘剤(C)としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
水溶性増粘剤(C)は、カルボキシメチルセルロース又はその塩(以下「カルボキシメチルセルロース(塩)」と略記することがある)を含むことが好ましい。水溶性増粘剤(C)がカルボキシメチルセルロース(塩)を含むことで、バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性をより良好とすることができる。
ここで、水溶性増粘剤(C)としてカルボキシメチルセルロース(塩)を用いる場合、用いるカルボキシメチルセルロース(塩)のエーテル化度は、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.7以上であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。エーテル化度が0.4以上のカルボキシメチルセルロース(塩)を用いることで、バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。エーテル化度が0.4未満であると、カルボキシメチルセルロース(塩)の分子内及び分子間の水素結合が強固なために水溶性増粘剤(C)がゲル状物となりうる。そして、スラリー組成物を調製する際に、増粘効果が得られにくくなり、スラリー組成物の調製時の作業性が悪化する虞がある。さらに、得られたスラリー組成物を集電体上に塗布し、架橋剤(A)を介して架橋構造を形成するにあたり、カルボキシメチルセルロース(塩)と架橋剤(A)とが反応しにくくなり、得られる電極の特性を劣化させる虞がある。また、エーテル化度が1.5以下のカルボキシメチルセルロースを用いることで、カルボキシメチルセルロース(塩)1分子当たりの水酸基の数が十分となり、後述する架橋剤(A)との反応性が良好となる。よって、カルボキシメチルセルロース(塩)が架橋剤(A)を介して良好な架橋構造を形成できるため、後に詳細に説明するように、架橋構造の形成により本発明のバインダー組成物の結着性を良好なものとすることができ、二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。
カルボキシメチルセルロース(塩)のエーテル化度とは、カルボキシメチルセルロース(塩)を構成する無水グルコース1単位当たり、カルボキシルメチル基などの置換基により置換された水酸基の数の平均値をいい、0超3未満の値を取り得る。エーテル化度が大きくなればなるほどカルボキシメチルセルロース(塩)1分子中の水酸基の割合が減少し(即ち、置換基の割合が増加し)、エーテル化度が小さいほどカルボキシメチルセルロース(塩)1分子中の水酸基の割合が増加する(即ち、置換基の割合が減少する)ということを示している。このエーテル化度(置換度)は、特開2011−34962号公報に記載の方法により求めることができる。
また、カルボキシメチルセルロース(塩)の1質量%水溶液の粘度は、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上であり、好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは9000mPa・s以下である。1質量%水溶液とした際の該水溶液の粘度が500mPa・s以上のカルボキシメチルセルロース(塩)を用いることで、バインダー組成物を含むスラリー組成物に適度に粘性を持たせることができる。従って、該スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。また、1質量%水溶液の粘度が10000mPa・s以下のカルボキシメチルセルロース(塩)を用いることで、バインダー組成物を含むスラリー組成物の粘性が高くなりすぎず、スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができ、また、バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて得られる電極活物質層と集電体との密着性を向上させることができる。カルボキシメチルセルロース(塩)の1質量%水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
水溶性増粘剤(C)は、カルボキシメチルセルロース(塩)と、ポリカルボン酸またはその塩(以下「ポリカルボン酸(塩)」と略記することがある)とを含むことがさらに好ましい。このように、水溶性増粘剤(C)として、カルボキシメチルセルロース(塩)とポリカルボン酸(塩)とを併用することで、バインダー組成物の結着性を向上させることができ、該バインダー組成物を含むスラリー組成物を用いて得られる電極活物質層と集電体との密着性を向上させつつ、水溶性増粘剤(C)を含む電極活物質層の強度等の機械的特性を向上させることができる。そして、それに伴い、該電極を用いた二次電池のサイクル特性などを向上させることができる。ここで、カルボキシメチルセルロース(塩)と併用するポリカルボン酸(塩)の好ましい例としては、アルギン酸及びアルギン酸の塩(以下、これらを総称して「アルギン酸(塩)」と略記することがある)、並びにポリアクリル酸及びポリアクリル酸の塩(以下、これらを総称して「ポリアクリル酸(塩)」と略記することがある)が挙げられ、ポリアクリル酸(塩)が特に好ましい。即ち、水溶性増粘剤(C)は、カルボキシメチルセルロースまたはその塩と、ポリアクリル酸またはその塩とを含むことが特に好ましい。アルギン酸やポリアクリル酸は、ポリメタクリル酸などと比較して二次電池の電解液中において過度に膨潤し難く、このようにカルボキシメチルセルロース(塩)とアルギン酸(塩)またはポリアクリル酸(塩)とを併用することで、二次電池のサイクル特性を十分に向上することができるからである。また、ポリアクリル酸(塩)は、カルボキシメチルセルロース(塩)と比較して架橋剤(A)と良好に反応するので、ポリアクリル酸を用いれば、架橋剤(A)を介した架橋構造の形成反応を促進することができるからである。
本発明のスラリー組成物において、水溶性増粘剤(C)がカルボキシメチルセルロース(塩)とポリカルボン酸(塩)とを含む場合、カルボキシメチルセルロース(塩)の配合量とポリカルボン酸(塩)の配合量との合計中、ポリカルボン酸(塩)の配合量の占める割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。カルボキシメチルセルロース(塩)の配合量とポリカルボン酸(塩)の配合量との合計中、ポリカルボン酸(塩)の配合量の占める割合が0.1質量%以上であることで、カルボキシメチルセルロース(塩)とポリカルボン酸(塩)を併用する効果を十分に発揮することができるので、スラリー組成物の結着性を良好に向上させることができ、スラリー組成物を用いて得られる電極活物質層と集電体との密着性を良好に向上させることができる。また、カルボキシメチルセルロース(塩)の配合量とポリカルボン酸(塩)の配合量との合計中、ポリカルボン酸(塩)の配合量の占める割合が20質量%以下であることで、スラリー組成物を用いて得られる電極活物質層が硬くなりすぎず、スラリー組成物の結着性およびイオン伝導性を確保することができる。また、スラリー組成物を用いて得られる電極活物質層と集電体との密着性を良好に向上させることができる。
水溶性増粘剤(C)の重合度は、適切な粘度を得るなどの観点から、適宜適切なものを選択しうる。水溶性増粘剤(C)の重合度は、好ましくは100〜10000であり、より好ましくは500〜3000である。
本発明のスラリー組成物における、電極活物質100質量部に対する水溶性増粘剤(C)の割合は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらにより好ましくは1.0質量部以上であり、一方好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらにより好ましくは3質量部以下である。水溶性増粘剤(C)の配合量を上記範囲内とすることにより、スラリー組成物の粘度を適度な大きさとして、スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。また、電極活物質100質量部当たり水溶性増粘剤(C)を0.5質量部以上の割合で配合することにより、良好なサイクル特性を得ることができる。また、電極活物質100質量部当たり水溶性増粘剤(C)を5質量部以下の割合で配合することにより、得られる電極の抵抗を低減することができる。
〔2.4.水及びその他溶媒〕
本発明のスラリー組成物は、水を含みうる。水は、スラリー組成物において溶媒及び/又は分散媒として機能する。通常、本発明のスラリー組成物では、架橋剤(A)は水に溶解しているか若しくは分散しており、粒子状結着剤(B)及び電極活物質は水に分散しており、水溶性増粘剤(C)は水に溶解している。
本発明のスラリー組成物においては、溶媒として、水以外の溶媒を水とを組み合わせて用いてもよいが、電極活物質層の形成前に架橋剤(A)との反応が起こることを避ける観点から、水以外の溶媒を実質的に含まないことが好ましい。
本発明のスラリー組成物における溶媒の量は、各成分を均一に分散又は溶解させることができ、またスラリー組成物の粘度等の物性が、スラリー組成物の使用に適した所望の範囲に収まるように適宜設定しうる。具体的なスラリー組成物の固形分濃度は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
〔2.5.その他の成分〕
本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物は、上記成分の他に、導電剤、補強材、レベリング剤、電解液添加剤、セルロースナノファイバーなどの成分を含有していてもよい。これらとしては、電池反応に影響を及ぼさないものを適宜選択することができる。例えば公知のもの、具体的には国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
〔2.6.スラリー組成物の調製〕
本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物、電極活物質、水溶性増粘剤(C)、及び水等の他の任意の成分を、任意の順序で混合することにより調製しうる。例えば、電極活物質、水溶性増粘剤(C)及び水を混合して、さらに水で固形分濃度を調整して混合液を得、この混合液に、本発明のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物を添加し、さらに混合し、さらに必要に応じて脱泡処理等の任意の処理を施すことにより、スラリー組成物を得ることができる。
または、本発明のスラリー組成物の調製に際しては、混合系に、バインダー組成物の成分である架橋剤(A)及び粒子状結着剤(B)を同時に又は順次添加し、それにより、本発明のバインダー組成物を含む本発明のスラリー組成物を調製してもよい。
各成分の混合は、具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて行ないうる。上記各成分の混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行うことができる。
スラリー組成物の調製に際しては、混合系に、粒子状結着剤(B)以外の、不所望な酸が混入しうる。かかる酸は、その殆どが、粒子状結着剤(B)の重合に際し残存した未反応の単量体、粒子状結着剤(B)の重合に際し生じた重合度の低いカルボン酸基を含むオリゴマー、又はこれらの両方に由来する。かかる酸は、架橋剤(A)と反応し、架橋剤(A)を消費する。したがって、かかる酸が多く存在すると、粒子状結着剤(B)等の、架橋されることが所望される物質の架橋に供される架橋剤(A)の量が相対的に減少する。そのような場合において、架橋剤(A)の効果を発現させるべく大量に架橋剤(A)を添加すると、ピール強度が却って低下し、サイクル特性等の特性が低下しうる。しかしながら、本発明のバインダー組成物を含む本発明のスラリー組成物においては、粒子状結着剤(B)に対するかかる酸の割合を低減したものとしうるため、良好な架橋を容易に得ることができる。
〔3.二次電池用電極の製造方法〕
本発明の二次電池用電極の製造方法は、前記本発明のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物を、集電体上に塗布、乾燥して、電極活物質層を形成することを含む。具体的には、本発明のスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極活物質層を形成する工程(乾燥工程)と、任意に、電極活物質層を更に加熱する工程(加熱工程)とを含みうる。
本発明の製造方法を実施した場合、例えば、乾燥工程の際に加わった熱や、加熱工程において加えた熱により、架橋剤(A)を介した架橋反応が進行する。即ち、電極活物質層中に、水溶性増粘剤(C)同士、水溶性増粘剤(C)と粒子状結着剤(B)、及び/又は粒子状結着剤(B)同士が架橋剤(A)を介して架橋した架橋構造が形成され、この架橋構造により、充放電に伴う膨れを抑制できると共に、集電体と電極活物質層との密着性を向上させ、さらに高温サイクル特性等の特性を向上させるなど、二次電池の電気的特性を向上させることができる。
〔3.1.塗布工程〕
スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的な塗布方法の例としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などが挙げられる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極活物質層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、用いうる集電体の例としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体が挙げられる。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。一方、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
〔3.2.乾燥工程〕
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥方法の例としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極活物質層を形成し、集電体と電極活物質層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。スラリー組成物を乾燥する際には、加えられた熱により、架橋剤(A)を介した架橋反応が進行しうる。
乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極活物質層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極活物質層と集電体との密着性を向上させることができる。
また、電極活物質層の形成後に、加熱工程を実施して架橋反応を進行させ、架橋構造をさらに十分なものとすることが好ましい。該加熱工程は、80℃〜160℃で、1時間〜20時間程度行うことが好ましい。
〔4.二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極、負極又はこれらの両方が、本発明のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法により製造された電極である。本発明の二次電池は、かかる電極を用いているので、電気的特性を向上させることができると共に、電極活物質層と集電体との密着性を確保することができる。本発明の二次電池は、例えば、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、パソコン、電気自動車、定置型非常用蓄電池などに好適に用いることができる。
〔4.1.電極〕
二次電池の正極及び負極のうち一方のみが本発明の製造方法により製造された電極である場合、他方の電極としては、既知の電極を用いうる。例えば、負極のみが本発明の製造方法により製造された電極である場合、正極は、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極としうる。また例えば、正極のみが本発明の製造方法により製造された電極である場合、負極は、リチウムイオン二次電池用負極として用いられる既知の負極としうる。
〔4.2.電解液〕
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどのアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチルなどの粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩の例としては、特開2012−204303号公報に記載のものが挙げられる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。
また、電解液としては、ポリマーおよび上記電解液を含有するゲル電解質であってもよく、さらには真性ポリマー電解質であってもよい。
〔4.3.セパレータ〕
セパレータの例としては、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。また、セパレータとして、非導電性粒子を本発明の二次電池用バインダー組成物で結着してなる多孔膜を備えるセパレータを使用してもよい。
〔4.4.二次電池の製造方法〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
実施例及び比較例において、バインダー組成物の貯蔵安定性試験、表面酸量および水相中の酸量測定、ピール強度および高温サイクル特性の判定は、以下のように行った。
<バインダー組成物の貯蔵安定性試験>
バインダー組成物の粘度(単位:mPa・s)をB型粘度計で測定した後、40℃に加温したオーブンに1週間貯蔵した。貯蔵後に、B型粘度計で再び粘度を測定し、粘度変化を次式で計算し、下記評価基準にて評価した。
粘度変化(%)=(貯蔵後のバインダー組成物の粘度)/(貯蔵前のバインダー組成物の粘度)×100
A:110%未満
B:110%以上120%未満
C:120%以上130%未満
D:130%以上
<粒子状結着剤(B)の表面酸量およびバインダー組成物水相の酸量の測定>
バインダー組成物の固形分1g当りの、粒子状結着剤(B)の表面酸量(mmol/g)、及びバインダー組成物の固形分1g当りの、バインダー組成物水相中の酸量(mmol/g)を、下記の操作により測定した。
容量150mlのガラス容器を、蒸留水で洗浄した。この容器に、固形分濃度4%のバインダー組成物50gを入れ、溶液電導率計(京都電子工業社製:CM−117、使用セルタイプ:K−121)にセットして撹拌した。以後、撹拌は塩酸の添加が終了するまで継続した。バインダー組成物の電気伝導度が2.5〜3.0(mS)になるように、0.1規定の水酸化ナトリウム(和光純薬社製:試薬特級)をバインダー組成物に添加した後、6分経過してから電気伝導度を測定した。この値を測定開始時の電気伝導度とした。このバインダー組成物に0.1規定の塩酸(和光純薬社製:試薬特級)を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定した。測定直後に、再び0.1規定の塩酸を0.5ml添加して30秒後に電気伝導度を測定した。このように、塩酸の添加と、30秒後の電気伝導度の測定とを、バインダー組成物の電気伝導度が測定開始時の電気伝導度以上になるまで繰り返し行なった。
一般的に、粒子状結着剤表面及び水相の両方に酸が存在するバインダー組成物についてこのような滴定を行い、得られる電気伝導度データを、縦軸を電気伝導度(mS)とし、横軸を添加した塩酸の累計量(mmol)としたグラフ上にプロットすると、図1に示す通り、3つの変化点(グラフが曲がる点)を有する塩酸量−電気伝導度曲線が得られる。3つの変化点のX座標及び塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP、P、P及びPとし、X座標が零からPまでの区分、PからPまでの区分、PからPまでの区分及びPからPまでの区分、のそれぞれの内のデータについて、最小二乗法により近似直線L、L、L及びLを求めた。LとLとの交点のX座標をA(mmol)、LとLとの交点のX座標をA(mmol)、LとLとの交点のX座標をA(mmol)とした。
バインダー組成物の固形分1g当りの粒子状結着剤(B)の表面酸量、及びバインダー組成物の固形分1g当りのバインダー組成物水相中の酸量を、それぞれ、式(a)及び式(b)から、塩酸換算したミリ当量(mmol/g)として求めた。さらに、バインダー組成物の固形分1g当りの総酸量を、式(c)から求めた。
式(a):バインダー組成物の固形分1g当りの、粒子状結着剤(B)の表面酸量(mmol/g)=(A−A)/(バインダー組成物の固形分質量(g))
式(b):バインダー組成物の固形分1g当りの水相中の酸量(mmol/g)=(A−A)/(バインダー組成物の固形分質量(g))
式(c):バインダー組成物の固形分g当りの総酸量(mmol/g)=(A−A)/(バインダー組成物の固形分質量(g))
<ピール強度>
二次電池用電極を、幅1cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、電極活物質層側の表面を上にして固定した。試験片の電極活物質層側の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がし、引き剥がすときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とした。この値が大きいほど、電極の密着強度が大きいことを示す。また、負極の評価においては、下記評価基準にて評価した。
A:5N/m以上
B:3N/m以上〜5N/m未満
C:3N/m未満
<高温サイクル特性>
5個の単層ラミセル型電池を50℃雰囲気下、1.0Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電操作を繰り返し、電気容量を測定した。5個の平均値を測定値とし、200サイクル終了時の電気容量と5サイクル終了時の電気容量の比(%)で表される充放電容量保持率を求め、下記の評価基準により判定を行った。この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
A:80%以上
B:60%以上80%未満
C:40%以上60%未満
D:40%未満
〔実施例1〕
(1−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン32部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸3部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン64部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(1−2.バインダー組成物の調製)
工程(1−1)で得た粒子状結着剤(B)の水分散液1.5部(固形分基準)と、架橋剤(A)(ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル社製 製品名「カルボジライト(登録商標)SV−02」、NCN当量429、一相水溶性)0.075部(固形分基準)とを混合し(即ち、粒子状結着剤(B)100質量部に対して、架橋剤(A)5質量部となる質量比)、水を加えて固形分割合を40%に調整し、バインダー組成物を得た。得られたバインダー組成物について、貯蔵安定性を試験し、且つ、粒子状結着剤(B)の表面酸量およびバインダー組成物水相の酸量を測定した。
(1−3.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製)
水溶性増粘剤(C)としてカルボキシメチルセルロース(略称「CMC」、ダイセル化学工業株式会社製「Daicel 2200」)を用いた。水溶性増粘剤(C)の重合度は、1700、エーテル化度は0.65であった。
また、負極活物質として人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm、黒鉛層間距離(X線回折法による(002)面の面間隔(d値)):0.354nm)を用いた。
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、人造黒鉛100部および上記水溶性増粘剤(C)の1%水溶液1部(固形分基準)をそれぞれ加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分間攪拌した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間攪拌し、混合液を得た。
この混合液に、(1−2)で得たバインダー組成物を、固形分基準で1.575部(即ち、粒子状結着剤1.5部及びポリカルボジイミド0.075部)入れ、水を加えて最終固形分濃度が50%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良いリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を得た。
(1−4.負極の製造)
工程(1−3)で得たスラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔の表面に、乾燥後の膜厚が150μmになるように塗布し、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して、負極活物質層の厚みが80μmの二次電池用負極を得た。得られた負極について、ピール強度の測定を行なった。
(1−5.リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の製造)
正極活物質としてのスピネル構造を有するLiCoOを95部に、正極活物質層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分量が3部となるように加え、さらに、アセチレンブラック2部及びN−メチルピロリドン20部を加えて、プラネタリーミキサーで混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。
(1−6.正極の製造)
工程(1−5)で得たリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極活物質を有する正極を得た。
(1−7.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。
前記工程(1−6)で得られた正極を、4.6×4.6cmの正方形に切り出し、矩形の正極を得た。
前記工程(1−4)で得られた負極を、5×5cmの正方形に切り出し、矩形の負極を得た。
単層のポリプロピレン製セパレーター(セルガード社製「セルガード2500」)を、5×5cmの正方形に切り抜き、矩形のセパレーターを得た。
矩形の正極を、その集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように、アルミニウム包材外装内部に配置した。矩形の正極の正極活物質層側の表面上に、矩形のセパレーターを配置した。さらに、矩形の負極を矩形のセパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、単層ラミセル型のリチウムイオン二次電池を得た。
得られたリチウムイオン二次電池の充放電を、レート0.1Cで3回繰り返し、所定の容量が発現することを確認した後、高温サイクル特性を試験した。
〔実施例2〜3〕
工程(1−2)のバインダー組成物の調製において、架橋剤(A)として、ポリカルボジイミド(「カルボジライト(登録商標)SV−02」)に代えて、ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社製、製品名「カルボジライト(登録商標)E−02」、NCN当量445、エマルジョン、実施例2)又は2,2’−ビス(2−オキサゾリン)(東京化成工業社製、オキサゾリン当量140、一相水溶性、実施例3)を用いた他は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例4〜5〕
下記の点を変更した他は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
・工程(1−2)のバインダー組成物の調製において、架橋剤(A)の添加量(固形分基準)を0.01部(実施例4)、又は0.15部(実施例5)とした。
・工程(1−3)のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製において、バインダー組成物を、固形分基準で1.51部(即ち、粒子状結着剤1.5部及びポリカルボジイミド0.01部、実施例4)、又は1.65部(即ち、粒子状結着剤1.5部及びポリカルボジイミド0.15部、実施例5)とした。
〔実施例6〕
(6−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン33.8部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸0.2部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン65部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(6−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(6−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例7〕
(7−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン33部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸1部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン65部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(7−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(7−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例8〕
(8−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン30部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸7部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン62部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(8−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(8−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例9〕
(9−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン32.5部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸3部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン64部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(9−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(9−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例10〕
(10−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン30部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸3部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン62部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート5部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(10−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(10−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例11〜13〕
工程(1−1)の粒子状結着剤(B)の調製において、2−ヒドロキシエチルアクリレートを加える時期を、重合転化率が50%になった時点(実施例11)、重合転化率が60%になった時点(実施例12)、又は重合転化率が85%になった時点(実施例13)とした他は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔実施例14〕
(14−1.粒子状結着剤(B)の調製)
重合缶Aに、イオン交換水74部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩)0.2部、過硫酸アンモニウム0.3部およびイオン交換水9.7部を加え、70℃に加温し30分攪拌した。次いで、上記とは別の重合缶Bに、2−エチルヘキシルアクリレート32部、アクリロニトリル64部、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてのイタコン酸3部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.3部を投入し、イオン交換水74部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。作製したエマルジョンを、約200分かけて重合缶Bから、重合缶Aに逐次添加した後、重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。約180分攪拌し、単量体消費量が97%以上になったところで冷却して反応を終了した。これにより、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(14−2.バインダー組成物の調製)
工程(14−1)で得た粒子状結着剤(B)の水分散液1.5部(固形分基準)と、架橋剤(A)(ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル社製 製品名「カルボジライト(登録商標)SV−02」、NCN当量429、一相水溶性)0.12部(固形分基準)とを混合し(即ち、粒子状結着剤(B)100質量部に対して、架橋剤(A)8質量部となる質量比)、水を加えて固形分割合を40%に調整し、バインダー組成物を得た。得られたバインダー組成物について、貯蔵安定性を試験し、且つ、粒子状結着剤(B)の表面酸量およびバインダー組成物水相の酸量を測定した。
(14−3.リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の調製)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、Li(Ni0.5Co0.3Mn0.2)O 98部、導電材としてのアセチレンブラック(デンカブラックHS−100、電気化学工業株式会社製)2部および上記水溶性増粘剤(C)の1%水溶液(実施例1の工程(1−3)で用意したものと同じもの)1部(固形分基準)をそれぞれ加え、イオン交換水で固形分濃度80%に調整した後、25℃で60分間攪拌した。次に、イオン交換水で固形分濃度70%に調整した後、さらに25℃で15分間攪拌し、混合液を得た。
この混合液に、(14−2)で得たバインダー組成物を、固形分基準で1.62部(即ち、粒子状結着剤1.5部及びポリカルボジイミド0.12部)入れ、水を加えて最終固形分濃度が50%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良いリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。
(14−4.正極の製造)
工程(14−3)で得たスラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmのアルミ箔の表面に、乾燥後の膜厚が80μmになるように塗布し、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して、正極活物質層の厚みが50μmのリチウムイオン二次電池用正極を得た。得られた正極についてピール強度の測定を行なったところ、ピール強度は30N/mであった。
(14−5.負極の製造)
工程(1−2)のバインダー組成物の調製において、架橋剤(A)を添加せず、粒子状結着剤(B)の添加量を1.575部(固形分基準)に変更した他は、実施例1の工程(1−1)〜(1−4)と同様にして、リチウムイオン二次負極を得た。
(14−6.リチウムイオン二次電池の製造)
正極及び負極として、工程(1−6)で得られた正極及び工程(1−4)で得られた負極に代えて、工程(14−4)及び工程(14−5)で得られたものを用いた他は、実施例1の工程(1−7)と同様にして、リチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔比較例1〕
(C1−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン32.5部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸3部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン64.5部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート0.09部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(C1−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(C1−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔比較例2〕
(C2−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン33部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸0.05部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン66部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(C2−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(C2−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔比較例3〕
(C3−1.粒子状結着剤(B)の調製)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン20部と、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体としてイタコン酸32部と、芳香族ビニル単量体としてスチレン47部と、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部と、イオン交換水150部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部とを入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が70%になった時点で2−ヒドロキシエチルアクリレート1部を加えた。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着剤(B)の水分散液を得た。
(C3−2.バインダー組成物、負極及びリチウムイオン二次電池)
粒子状結着剤(B)の水分散液として、実施例1の工程(1−1)で得たものに代えて、前記工程(C3−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔比較例4〜5〕
工程(1−1)の粒子状結着剤(B)の調製において、2−ヒドロキシエチルアクリレートを加える時期を、重合転化率が0%の時点(即ち重合開始と同時、比較例4)、又は重合転化率が40%になった時点(比較例5)とした他は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。
〔比較例6〕
工程(16−2)のバインダー組成物の調製において、架橋剤(A)を添加せず、粒子状結着剤(B)の添加量を1.62部(固形分基準)に変更した他は、実施例16と同様にして、バインダー組成物を得て評価し、さらに、正極、及びリチウムイオン二次電池を得て評価した。得られた正極についてピール強度の測定を行なったところ、ピール強度は8N/mであった。
実施例及び比較例の操作の概要及び評価結果を、表1〜表3に示す。
Figure 0006414080
Figure 0006414080
Figure 0006414080
表中の略号は、それぞれ以下のものを示す。
使用(A):使用した架橋剤(A)。SV−02:ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル社製 製品名「カルボジライト(登録商標)SV−02」、NCN当量429、一相水溶性。E−02:ポリカルボジイミド、日清紡ケミカル社製、製品名「カルボジライト(登録商標)E−02」、NCN当量445、エマルジョン。オキサゾリン:2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、東京化成工業社製、オキサゾリン当量140、一相水溶性。
(A)添加量:架橋剤(A)の添加量。粒子状結着剤(B)100質量部に対する割合(部)
表面酸量:粒子状結着剤(B)の表面酸量(mmol/g)
水相中酸量:バインダー組成物の水相の酸量(mmol/g)
酸量比:(粒子状結着剤(B)の表面酸量(mmol/g))/(バインダー組成物の水相の酸量(mmol/g))
イタコン酸量:粒子状結着剤(B)の調製に用いたイタコン酸の量(部)
2HEA量:粒子状結着剤(B)の調製に用いた2−ヒドロキシエチルアクリレートの量(部)
2HEA添加時転化率:2−ヒドロキシエチルアクリレートを添加する時期の、その他の単量体の重合転化率(%)
St量:粒子状結着剤(B)の調製に用いたスチレンの量(部)
Bd量:粒子状結着剤(B)の調製に用いた1,3−ブタジエンの量(部)
貯蔵安定:貯蔵安定性試験の評価結果
ピール強度:ピール強度の評価結果
サイクル特性:サイクル特性の評価結果
表1〜表3の結果から明らかな通り、本発明に規定する範囲の表面酸量、水相中酸量、及び酸量比を有するバインダー組成物を用いた本願実施例は、貯蔵安定性、ピール強度、及びサイクル特性の全てにおいてバランスのとれた高い性能を示した。
表1より、本願規定の範囲内で架橋剤(A)の種類を実施例1と異なるものに変更した実施例2及び3も、貯蔵安定性、ピール強度及びサイクル特性が優れていることが分かる。
本願規定の範囲内で架橋剤(A)の量を実施例1と異なる値に調整した実施例4及び5も、貯蔵安定性、ピール強度、及びサイクル特性の全てにおいてバランスのとれた高い性能を示すことがわかる。
本願規定の範囲内で粒子状結着剤(B)の表面酸量及び水層中酸量を実施例1と異なる値に調整した実施例6〜10も、貯蔵安定性、ピール強度、及びサイクル特性において高い性能を示すことがわかる。一方粒子状結着剤(B)の表面酸量及び水層中酸量が本願規定の範囲外である比較例2及び3は、貯蔵安定性、ピール強度、サイクル特性が劣ることがわかる。
本願規定の範囲内で粒子状結着剤(B)の表面酸量と水相酸量との割合を実施例1と異なる値に調整した実施例11〜13も、貯蔵安定性、ピール強度、及びサイクル特性において高い性能を示すことがわかる。一方粒子状結着剤(B)の表面酸量と水相酸量との割合が本願規定の範囲外である比較例1、4及び5は貯蔵安定性、ピール強度、及びサイクル特性が劣ることがわかる。
本発明のバインダー組成物を正極に適用した実施例14と、比較例6との対比から、本発明のバインダー組成物を正極に適用しても、ピール強度及びサイクル特性において有利な効果が得られることがわかる。

Claims (10)

  1. 架橋剤(A)、粒子状結着剤(B)及び水を含み、水相及び固相を有する、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物であって、
    前記架橋剤(A)は、カルボン酸と反応する官能基を有し、
    前記粒子状結着剤(B)は、エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位を含有し、
    前記バインダー組成物の固形分質量全量に対する、前記粒子状結着剤(B)の表面酸量の割合が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、
    前記バインダー組成物の固形分質量全量に対する、前記水相中の酸量の割合が0.01mmol/g以上1.0mmol/gであり、
    前記表面酸量の割合の値を、前記水相中の酸量の割合の値で除した値が、1.0以上であるリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  2. 前記粒子状結着剤(B)における、前記エチレン性不飽和カルボン酸基単量体単位の割合が、0.1質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  3. 前記粒子状結着剤(B)が、さらに、エチレン性不飽和水酸基含有単量体単位を、0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  4. 前記架橋剤(A)が、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、および、カルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  5. 前記粒子状結着剤(B)が、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  6. 前記粒子状結着剤(B)100質量部に対する前記架橋剤(A)の量が、0.001質量部以上20質量部以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物、電極活物質、及び水溶性増粘剤(C)を含有するリチウムイオン二次電池用スラリー組成物。
  8. 前記水溶性増粘剤(C)が、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、および、これらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7記載のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物。
  9. 請求項7又は8に記載のリチウムイオン二次電池用スラリー組成物を、集電体上に塗布、乾燥して、電極活物質層を形成することを含む、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
  10. 正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備えるリチウムイオン二次電池であって、
    前記正極、前記負極、またはこれらの両方が、請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法により製造された電極である、リチウムイオン二次電池。
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