<(メタ)アクリル系樹脂組成物>
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂Aの1種又は2種以上と、この(メタ)アクリル系樹脂Aよりガラス転移温度が低く、重量平均分子量が100000以上である(メタ)アクリル系樹脂Bの1種又は2種以上とを含む樹脂組成物である。本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物によれば、靭性に劣り、従ってハンドリング性(折り曲げ性)に劣るという従来の(メタ)アクリル系樹脂フィルムの欠点を改善できるとともに、加熱収縮率が小さく耐熱性の良好な(メタ)アクリル系樹脂フィルムを形成することができる。
靭性の改善により、(メタ)アクリル系樹脂組成物を製膜するときや、製膜されたフィルムを延伸処理するときに生じ得るフィルムの割れや欠けを抑制することができるとともに、割れや欠けで生じる破片による製造工程の汚染を抑制することができる。また、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる加熱収縮率の小さい(メタ)アクリル系樹脂フィルム又はその延伸フィルムを偏光フィルムに貼合される保護フィルムとして用いることにより、偏光板の耐熱性を向上させることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル系樹脂組成物」、「(メタ)アクリル系樹脂」、「(メタ)アクリル系樹脂フィルム」における「(メタ)アクリル」とは、メタクリル及び/又はアクリルを意味しており、この点は、後述する「(メタ)アクリル系モノマー」等における「(メタ)アクリル」についても同様である。
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、ガラス転移温度のより高い(メタ)アクリル系樹脂Aとガラス転移温度のより低い(メタ)アクリル系樹脂Bとを含むものである。(メタ)アクリル系樹脂Aのガラス転移温度をTgA、(メタ)アクリル系樹脂Bのガラス転移温度をTgBとするとき、TgAとTgBとの差(TgA−TgB)は、20℃以下であることが好ましい。TgA−TgBを20℃以下にすることによって、上述の効果(靭性の改善と耐熱性の改善の両立)が発現されやすくなる。TgA−TgBが20℃を超えると、十分な耐熱性が得られなかったり、1種の(メタ)アクリル系樹脂を単独で用いるときよりも、逆に耐熱性が悪化したりすることがある。
上述の効果(靭性の改善と耐熱性の改善の両立)が発現されやすくなることから、TgA−TgBは、3℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましい。TgA−TgBが3℃未満である場合、2種類の(メタ)アクリル系樹脂を用いることの意義が低下し、製膜したときに十分な靭性が得られなかったり、十分な耐熱性が得られなかったりする傾向にある。
TgA及びTgBはそれぞれ、TgA−TgBが上記範囲内となるように選択されることが好ましく、靭性の改善と耐熱性の改善の両立の観点から、TgA−TgBが上記範囲内となるようにTgAを100℃以上の範囲から選択し、TgBを80℃以上の範囲から選択することが好ましい。TgA及びTgBはそれぞれ、通常150℃以下であり、好ましくは140℃以下である。
ガラス転移温度TgA及びTgBは、JIS K7121:1987に準拠して測定され、具体的には、後述する実施例の項に記載された方法で測定することができる。
(メタ)アクリル系樹脂Aの重量平均分子量MwAは特に制限されず、例えば10000〜1000000の範囲内であることができるが、好ましくは200000以下である。MwAが1000000を超えると、あるいは場合によっては200000を超えると、(メタ)アクリル系樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、(メタ)アクリル系樹脂Bとの溶融混練や、(メタ)アクリル系樹脂組成物のフィルムへの成形加工が容易でなくなる場合がある。
(メタ)アクリル系樹脂Bの重量平均分子量MwBは100000以上とされ、これにより、上述の効果(靭性の改善と耐熱性の改善の両立)を発現することができる。MwBは、好ましくは120000以上であり、より好ましくは150000以上である。MwBが100000未満であると、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの靭性の改善が不十分となったり、1種の(メタ)アクリル系樹脂を単独で用いるときよりも、逆に靭性が悪化したりすることがある。
またMwBは、例えば1000000以下であることができるが、好ましくは200000以下である。MwBが1000000を超えると、あるいは場合によっては200000を超えると、(メタ)アクリル系樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、(メタ)アクリル系樹脂Aとの溶融混練や、(メタ)アクリル系樹脂組成物のフィルムへの成形加工が容易でなくなる場合がある。MwBは、MwAよりも大きくてもよいし、小さくてもよく、又はMwAと同程度(例えば同じ)であってもよい。
重量平均分子量MwA及びMwBは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、メタクリル樹脂(メタクリル酸メチル)を標準試料として求められる重量平均分子量であり、具体的には、後述する実施例の項に記載された方法で測定することができる。
(メタ)アクリル系樹脂A及びBは、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を含む重合体である。(メタ)アクリル系樹脂A及びBは、典型的にはメタクリル酸エステルを含む重合体であり、好ましくはメタクリル酸エステルを主体とする、すなわち、全モノマー量を基準に、メタクリル酸エステル由来の構成単位を50重量%以上含む重合体であり、より好ましくはメタクリル酸エステル由来の構成単位を80重量%以上含む重合体である。(メタ)アクリル系樹脂A及びBはそれぞれ、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、全モノマー量を基準に、メタクリル酸エステル由来の構成単位を50重量%以上と、他の重合性モノマー由来の構成単位を50重量%以下含む共重合体であってもよい。
(メタ)アクリル系樹脂A及びBを構成し得る上記メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルを用いることができ、その具体例は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのようなアルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステルを含む。アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜4である。(メタ)アクリル系樹脂A及びBにおいて、メタクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、耐熱性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂A及びBは、メタクリル酸メチル由来の構成単位を含むことが好ましく、この構成単位を全モノマー量を基準に50重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことがさらに好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂A及びBを構成し得る上記他の重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステルや、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル以外の重合性モノマーを挙げることができる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルを用いることができ、その具体例は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルのようなアルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステルを含む。アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜4である。(メタ)アクリル系樹脂A及びBにおいて、アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル以外の重合性モノマーとしては、例えば、分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する単官能モノマーや、分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する多官能モノマーを挙げることができるが、単官能モノマーが好ましく用いられる。単官能モノマーの具体例は、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ハロゲン化スチレンのようなスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルのようなシアン化アルケニル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸のような不飽和酸;N−置換マレイミドを含む。
また、多官能モノマーの具体例は、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような多塩基酸のポリアルケニルエステル、ジビニルベンゼンのような芳香族ポリアルケニル化合物を含む。メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル以外の重合性モノマーは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル系樹脂A及びBの好ましいモノマー組成は、全モノマー量を基準に、メタクリル酸アルキルエステルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルエステルが0〜50重量%、これら以外の重合性モノマーが0〜50重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルエステルが0.1〜50重量%、これら以外の重合性モノマーが0〜49.9重量%であり、さらに好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル80〜99.9重量%、アクリル酸アルキルエステルが0.1〜20重量%、これら以外の重合性モノマーが0〜19.9重量%である。
上記のようなモノマーを含むモノマー組成物をラジカル重合させることにより、(メタ)アクリル系樹脂A及びBをそれぞれ調製することができる。モノマー組成物は、必要に応じて溶剤や重合開始剤を含むことができる。(メタ)アクリル系樹脂A及びBのガラス転移温度TgA,TgBや重量平均分子量MwA,MwBは、モノマーの種類、各モノマーの含有量比、重合条件、重合度等の調整により制御できる。
また、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度を高めるための手法として、高分子の主鎖に環構造を導入することも有効である。特に、環構造は、環状酸無水物構造、環状イミド構造、ラクトン構造等の複素環構造であることが好ましい。具体的には、無水グルタル酸構造、無水コハク酸構造等の環状酸無水物構造、グルタルイミド構造、コハクイミド構造等の環状イミド構造、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン環構造が挙げられる。主鎖中の環構造の含有量を大きくするほど(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度を高くすることができる。環状酸無水物構造や環状イミド構造は、無水マレイン酸やマレイミド等の環状構造を有するモノマーを共重合することによって導入する方法、重合後脱水・脱メタノール縮合反応により環状酸無水物構造を導入する方法、アミノ化合物を反応させて環状イミド構造を導入する方法等によって導入することができる。ラクトン環構造を有する樹脂(重合体)は、高分子鎖にヒドロキシル基とエステル基とを有する重合体を調製した後、得られた重合体におけるヒドロキシル基とエステル基とを、加熱により、必要に応じて有機リン化合物のような触媒の存在下に環化縮合させてラクトン環構造を形成する方法によって得ることができる。
高分子鎖にヒドロキシル基とエステル基とを有する重合体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルのようなヒドロキシル基とエステル基とを有する(メタ)アクリル酸エステルをモノマーの一部として用いることにより得ることができる。ラクトン環構造を有する重合体のより具体的な調製方法は、例えば特開2007−254726号公報に記載されている。
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとを含むもの((メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとを組み合わせたもの)である限り、あらゆる形態を含み得るが、所望の効果(靭性の改善と耐熱性の改善の両立)を効果的に得るために、次の形態のいずれかであることが好ましい。
〔a〕(メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとを溶融混練した後、固化してなる固体状の溶融混練物、
〔b〕(メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとを溶融混練してなる液状の溶融混練物、
〔c〕固体状又は液状の(メタ)アクリル系樹脂Aと、固体状又は液状の(メタ)アクリル系樹脂Bと混合してなる混合物。
上記〔a〕及び〔b〕の溶融混練物は、典型的には、ミクロ的にも(メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとが混合分散された溶融混練物である。なお、本発明において溶融混練物は、固体状であっても、液状であってもよい。上記〔a〕の溶融混練物は、所望の形状に成形加工した成形物であってもよいし、非成形物であってもよい。成形物の形状としては、粒状、ペレット状、フィルム状等を挙げることができる。上記〔b〕の溶融混練物は、例えばフィルム等に成形加工する際に加熱によって調製される、(メタ)アクリル系樹脂組成物の液状溶融混練物である。
上記〔c〕の混合物は、例えば、粒状又はペレット状のような固体状の(メタ)アクリル系樹脂Aと、粒状又はペレット状のような固体状の(メタ)アクリル系樹脂Bとの混合物であることができ、このような混合物は、上記〔a〕又は〔b〕の溶融混練物の原料となり得るものである。
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物において、(メタ)アクリル系樹脂Aと(メタ)アクリル系樹脂Bとの含有量比は、重量比で、90/10〜10/90であることが好ましく、80/20〜20/80であることがより好ましく、80/20〜40/60であることがさらに好ましい。含有量比をこの範囲内に調整することにより、所望の効果(靭性の改善と耐熱性の改善の両立)を効果的に得ることができる。(メタ)アクリル系樹脂Aの含有量が過度に大きいと、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの靭性が不十分となりやすい。一方、(メタ)アクリル系樹脂Bの含有量が過度に大きいと、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの加熱収縮率が大きくなりやすい。
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、必要に応じて、滑剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤等の添加剤を1種又は2種以上含有してもよい。
滑剤を含有させると、(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる(メタ)アクリル系樹脂フィルムをロール状に巻いたときの巻き締まりを防ぐことができ、それにより、巻いた状態での荷姿が改善される。滑剤は、(メタ)アクリル系樹脂フィルム表面のすべり性を向上させる機能を有するものであればよく、例えば、ステアリン酸系化合物、(メタ)アクリル系化合物、エステル系化合物等がある。中でも、ステアリン酸系化合物が、滑剤として好ましく用いられる。
滑剤であるステアリン酸系化合物の例は、ステアリン酸自体のほか、ステアリン酸メチルやステアリン酸エチル、ステアリン酸モノグリセライドのようなステアリン酸エステル;ステアリン酸アミド;ステアリン酸ナトリウムやステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムのような12−ヒドロキシステアリン酸及びその金属塩を含む。中でも、ステアリン酸が好ましく用いられる。
滑剤の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂A及びBの合計100重量部に対して、通常0.15重量部以下、好ましくは0.1重量部以下、より好ましくは0.07重量部以下の範囲である。滑剤の配合量が多すぎると、滑剤が(メタ)アクリル系樹脂フィルムからブリードアウトしたり、フィルムの透明性を低下させたりするおそれがある。
紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物である。(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる(メタ)アクリル系樹脂フィルムを偏光フィルムの保護フィルムとして用いる場合、(メタ)アクリル系樹脂組成物に紫外線吸収剤を配合することで、偏光フィルムにこの保護フィルムが貼合された偏光板の耐久性を向上させることができる。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに紫外線吸収剤を含有させることで、そのフィルムを保護フィルムとする偏光板の色調を悪化させることなく紫外線を効率的に遮断することができ、偏光板の長期使用時の偏光度低下を抑制することができる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤のような公知の紫外線吸収剤を使用することができる。
紫外線吸収剤の具体例は、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンを含む。これらの中でも、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕は、好ましい紫外線吸収剤の一つである。
紫外線吸収剤の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの波長370nm以下における光線透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。また、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの波長380nmにおける光線透過率が、25%以下、さらには15%以下、とりわけ7%以下となるように、紫外線吸収剤を配合することも好ましい。紫外線吸収剤の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの光線透過率がここに示した条件を満たすように適宜調整される。
赤外線吸収剤は、波長800nm以上の赤外線を吸収する化合物であり、例えば、ニトロソ化合物又はその金属錯塩、シアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、トリアリールメタン系化合物、イモニウム系化合物、ジイモニウム系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アミノ化合物、アミニウム塩系化合物、カーボンブラック、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、周期律表の4A族、5A族若しくは6A族に属する金属の酸化物、炭化物又はホウ化物等を挙げることができる。これらの赤外線吸収剤は、赤外線(波長約800〜1100nmの範囲の光)全体を吸収できるように選択することが好ましく、2種類以上を併用してもよい。赤外線吸収剤の配合量は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの波長800nm以上における光線透過率が10%以下となるように選択することが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂組成物に添加剤を含有させるタイミングは特に制限されない。例えば、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を製膜して(メタ)アクリル系樹脂フィルム等の成形物を作製する場合において、(メタ)アクリル系樹脂組成物が上記〔a〕の形態である場合や、上記〔c〕に属する固体状の混合物であるときには、かかる固体状の溶融混練物又は混合物に添加剤を配合し、その後、溶融混練して、溶融押出等によって製膜することができる。あるいは、上記〔a〕の形態の溶融混練物や上記〔c〕の形態の混合物の調製時に添加剤を予め配合しておいてもよい。また、(メタ)アクリル系樹脂組成物が上記〔b〕の形態であるときには、液状の溶融混練物に添加剤を配合し、その後、溶融押出等によって製膜することができる。
<(メタ)アクリル系樹脂フィルム>
本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含むフィルムであり、典型的には、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物からなるフィルムである。本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含むものであるため、靭性に優れ、従ってハンドリング性(折り曲げ性)が良好であるとともに、加熱収縮率が小さく耐熱性に優れている。(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を一般的な製膜方法で製膜することにより得ることができる。中でも、溶融押出製膜法が好ましく採用される。
溶融押出製膜法とは、通常、熱可塑性樹脂を押出機へ投入して溶融させ、Tダイからフィルム状の溶融樹脂を押し出し、そのまま冷却ロール上へ引き取り冷却固化させて連続的に長尺フィルムを得る方法をいう。Tダイのリップ間隔等を適切に制御することにより、フィルムの厚みを決めることができる。(メタ)アクリル系樹脂フィルムの厚みは、通常200μm以下であり、好ましくは40〜150μmである。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、単層フィルム、又は二層以上の多層フィルムとすることができる。多層フィルムとするには、通常、前記した溶融押出製膜法において押出機を複数台設置し、それぞれの押出機を通過した溶融樹脂がTダイの中で多層になるように押し出す共押出法が採用される。また、多層フィルムを形成するための他の方法として、複数の押出機及びTダイを連続して配置し、押し出されたフィルム状の溶融樹脂を重ねて多層フィルムとする方法、製膜された単層フィルムに、フィルム状の溶融樹脂を重ねて多層フィルムとする方法、製膜された複数の単層フィルムを圧着して多層フィルムとする方法等が挙げられる。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムが多層フィルムである場合、各層は同じ組成の(メタ)アクリル系樹脂組成物から形成されていてもよいし、異なる組成の(メタ)アクリル系樹脂組成物から形成されていてもよい。例えば、紫外線吸収剤を含有する層と、紫外線吸収剤を含有しない層との積層構造のように、層ごとに添加剤の配合組成を変えることもできる。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面の中心線平均粗さは、0.01〜0.05μm程度であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂フィルムを偏光フィルムの保護フィルムとして用いる場合、この中心線平均粗さが0.01〜0.05μm程度である面を偏光フィルムとの貼合面とすることが好ましい。中心線平均粗さは、JIS B 0601に規定される方法に従って測定される値である。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面の中心線平均粗さが0.01μm未満であると、フィルム自身を巻き形状としたときにフィルム同士がブロッキングを起こしやすく、引き出す際にフィルム同士の癒着によりフィルムが破損したりするため、ハンドリング性に劣る場合がある。また、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面の中心線平均粗さが0.05μmを超えると、その面で接着剤を用いて偏光フィルムに積層したとき、十分な接着力が得られない場合があり、また、フィルム表面の粗度による反射光の散乱が大きくなり、得られる偏光板を用いた液晶表示装置において、その画面が白化したり、コントラストが低下したりするような表示品位の劣化を招く場合がある。
(メタ)アクリル系樹脂フィルムの中心線表面粗さを上記範囲内に調節する方法は特に限定されないが、例えば、溶融押出製膜法においては、その冷却ロールの表面がそれに接するフィルム表面に転写されるため、上記範囲内の表面粗さを有する冷却ロールを用いる方法が採用される。
また、(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂A及び/又はBに残留していた溶剤や、(メタ)アクリル系樹脂組成物に必要に応じて添加される溶剤等に由来する溶剤を含有し得るが、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに含まれる残留溶剤量は、該フィルムの重量を基準に0.01重量%以下であることが好ましい。残留溶剤量は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを200℃で30分間加熱した際の重量減少値として、又はその加熱によって発生するガス量のガスクロマトグラフィー定量値として求めることができる。
残留溶剤量が0.01重量%以下であることにより、例えば、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを偏光フィルムの保護フィルムとして用いた偏光板が高温・高湿度環境下に曝される場合においても、保護フィルムの変形を防止できるとともに、保護フィルム及び偏光板の光学性能の劣化を防止することができる。
残留溶媒量が0.01重量%以下である(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、例えば、(メタ)アクリル系樹脂組成物を調製する際に用いることができる押出機、又はフィルム製膜に用いる際に用いることができる押出機の適宜な部分にベント孔を設け、その孔から押出機内部を減圧にする方法によって得ることができる。
本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、該フィルム上に積層される表面処理層を備えることができる。(メタ)アクリル系樹脂フィルムに表面処理層を付与することで、表面処理層の種類に応じた特定の機能を付与することができる。表面処理層の例を挙げれば、例えば
〔a〕表面の擦り傷防止のためのハードコート層、
〔b〕帯電防止層、
〔c〕反射防止層、
〔d〕防汚層、
〔e〕視認性向上、外光の映り込み防止、プリズムシートとカラーフィルターの干渉によるモアレ低減等を担う防眩層、
である。
(ハードコート層)
ハードコート層は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面硬度を高める機能を有し、表面の擦り傷防止等の目的で設けられる。ハードコート層は、JIS K 5600−5−4:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に規定される鉛筆硬度試験(ハードコート層を有する光学フィルムをガラス板の上に置いて測定する)でH又はそれより硬い値を示すことが好ましい。
ハードコート層を形成する材料は、一般に、熱や光によって硬化するものである。例えば、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系のような有機ハードコート材料、二酸化ケイ素のような無機ハードコート材料を挙げることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに対する接着力が良好であり、生産性に優れることから、ウレタンアクリレート系又は多官能アクリレート系ハードコート材料が好ましく用いられる。
ハードコート層は、所望により、屈折率の調整、曲げ弾性率の向上、体積収縮率の安定化、さらには耐熱性、帯電防止性、防眩性等の向上を図る目的で、各種フィラーを含有することができる。またハードコート層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤のような添加剤を含有することもできる。
(帯電防止層)
帯電防止層は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面に導電性を付与し、静電気による影響を抑制する等の目的で設けられる。帯電防止層の形成には、例えば、導電性物質(帯電防止剤)を含有する樹脂組成物を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に塗布する方法が採用できる。例えば、上述したハードコート層の形成に用いるハードコート材料に帯電防止剤を共存させておくことにより、帯電防止性のハードコート層を形成することができる。
(反射防止層)
反射防止層は、外光の反射を防止するための層であり、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面に直接、又はハードコート層等の他の層を介して設けられる。反射防止層を有する(メタ)アクリル系樹脂フィルムは、波長430〜700nmの光に対する入射角5°での反射率が2%以下であることが好ましく、波長550nmの光に対する同じ入射角での反射率が1%以下であることがより好ましい。
反射防止層の厚みは、0.01〜1μm程度とすることができるが、好ましくは0.02〜0.5μmである。反射防止層は、それが設けられる層〔(メタ)アクリル系樹脂フィルムやハードコート層等〕の屈折率よりも小さい屈折率、具体的には1.30〜1.45の屈折率を有する低屈折率層からなるもの、無機化合物からなる薄膜の低屈折率層と無機化合物からなる薄膜の高屈折率層とを交互に複数積層したもの等であることができる。
上記の低屈折率層を形成する材料は、屈折率の小さいものであれば特に制限されない。例えば、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂のような樹脂材料;樹脂中にコロイダルシリカのような無機微粒子を分散させたハイブリッド材料;アルコキシシランを含むゾル−ゲル材料等を挙げることができる。このような低屈折率層は、重合済みのポリマーを塗布することによって形成してもよいし、前駆体であるモノマー又はオリゴマーの状態で塗布し、その後重合硬化させることによって形成してもよい。また、それぞれの材料は、防汚性を付与するために、分子内にフッ素原子を有する化合物を含むことが好ましい。
低屈折率層を形成するためのゾル−ゲル材料としては、分子内にフッ素原子を有するものが好適に用いられる。分子内にフッ素原子を有するゾル−ゲル材料の典型的な例を挙げると、ポリフルオロアルキルアルコキシシランがある。ポリフルオロアルキルアルコキシシランは、例えば、下記式:
CF3(CF2)nCH2CH2Si(OR)3
で示される化合物であることができ、ここで、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、nは0〜12の整数を表す。中でも、上記式中のnが2〜6である化合物が好ましい。
ポリフルオロアルキルアルコキシシランの具体例として、次のような化合物を挙げることができる。
3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、
3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等。
低屈折率層は、熱硬化性含フッ素化合物又は活性エネルギー線硬化性含フッ素化合物の硬化物で構成することもできる。この硬化物は、その動摩擦係数が0.03〜0.15の範囲内にあることが好ましく、水に対する接触角が90〜120°の範囲内にあることが好ましい。硬化性含フッ素化合物として、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば、上記した3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等)のほか、架橋性官能基を有する含フッ素重合体を挙げることができる。
架橋性官能基を有する含フッ素重合体は、1)フッ素含有モノマーと架橋性官能基を有するモノマーとを共重合させる方法、又は、2)フッ素含有モノマーと官能基を有するモノマーとを共重合させ、次いで重合体中の上記官能基に架橋性官能基を有する化合物を付加させる方法、によって製造することができる。
上記フッ素含有モノマーとしては、例えば、フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールのようなフルオロオレフィン類;(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類;(メタ)アクリル酸の完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類が挙げられる。
上記架橋性官能基を有するモノマー又は架橋性官能基を有する化合物としては、例えば、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートのようなグリシジル基を有するモノマー;アクリル酸やメタクリル酸のようなカルボキシル基を有するモノマー;ヒドロキシアルキルアクリレートやヒドロキシアルキルメタクリレートのような水酸基を有するモノマー;アリルアクリレートやアリルメタクリレートのようなアルケニル基を有するモノマー;アミノ基を有するモノマー;スルホン酸基を有するモノマーを挙げることができる。
低屈折率層を形成するための材料は、耐擦傷性を向上させ得ることから、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、フッ化マグネシウム等の無機化合物微粒子がアルコール溶媒に分散しているゾルが含まれるもので構成することもできる。このために用いる無機化合物微粒子は、反射防止性の観点から屈折率の小さいものほど好ましい。この無機化合物微粒子は、空隙を有するものであってもよく、特にシリカの中空微粒子が好ましい。中空微粒子の平均粒径は、5〜2000nmの範囲内にあることが好ましく、とりわけ20〜100nmの範囲内にあることがより好ましい。ここでいう平均粒径は、透過型電子顕微鏡観察によって求められる数平均粒径である。
(防汚層)
防汚層は、撥水性、撥油性、耐汗性、防汚性等を付与するために設けられる。防汚層を形成するための好適な材料は、フッ素含有有機化合物である。フッ素含有有機化合物としては、フルオロカーボン、パーフルオロシラン、これらの高分子化合物等を挙げることができる。防汚層の形成方法は、形成する材料に応じて、蒸着やスパッタリングを代表例とする物理的気相成長法、化学的気相成長法、湿式コーティング法等を用いることができる。防汚層の平均厚みは、通常1〜50nm程度、好ましくは3〜35nmである。
(防眩層)
防眩層は、表面に微細な凹凸形状を有する層であり、好ましくは、上述したハードコート材料を用いて形成される。
表面に微細な凹凸形状を有する防眩層は、1)(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に微粒子を含有する塗膜を形成し、その微粒子に基づく凹凸を設ける方法、2)微粒子を含有するか、又は含有しない塗膜を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に形成した後、表面に凹凸形状が付与された金型(ロール等)に押し当てて凹凸形状を転写する方法(エンボス法とも呼ばれる)、等によって形成することができる。
上記1)の方法においては、硬化性透明樹脂と微粒子とを含む硬化性樹脂組成物を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に塗布し、紫外線等の光照射又は加熱によって塗布層を硬化させることにより防眩層を形成することができる。硬化性透明樹脂は、高硬度(ハードコート)となる材料から選定されることが好ましい。かかる硬化性透明樹脂としては、紫外線硬化性樹脂のような光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等を用いることができるが、生産性や得られる防眩層の硬度等の観点から、光硬化性樹脂が好ましく使用され、より好ましくは紫外線硬化性樹脂である。光硬化性樹脂を使用する場合、硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤をさらに含む。
光硬化性樹脂としては、一般に多官能(メタ)アクリレートが用いられる。その具体例は、トリメチロールプロパンのジ−又はトリ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールのトリ−又はテトラ−(メタ)アクリレート;分子内に水酸基を少なくとも1個有する(メタ)アクリレートとジイソシアネートとの反応生成物である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含む。これらの多官能(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で、又は必要に応じて2種以上組み合わせて用いることができる。
また、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、及び水酸基を2個以上含むアルキル基を有する(メタ)アクリルポリマーの混合物を光硬化性樹脂とすることもできる。この光硬化性樹脂を構成する多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、ポリオール、並びにジイソシアネートを用いて製造される。具体的には、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルとポリオールから、分子内に水酸基を少なくとも1個有するヒドロキシ(メタ)アクリレートを調製し、これをジイソシアネートと反応させることにより、多官能ウレタン(メタ)アクリレートを製造することができる。このようにして製造される多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、先に掲げた光硬化性樹脂自体ともなるものである。その製造にあたっては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、ポリオール及びジイソシアネートも同様に、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの一つの原料となる(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸の鎖状又は環状アルキルエステルであることができる。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート、及び、シクロヘキシル(メタ)アクリレートのようなシクロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
多官能ウレタン(メタ)アクリレートのもう一つの原料となるポリオールは、分子内に水酸基を少なくとも2個有する化合物である。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸のネオペンチルグリコールエステル、シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジオール、スピログリコール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グルコース類等を挙げることができる。
多官能ウレタン(メタ)アクリレートのさらにもう一つの原料となるジイソシアネートは、分子内に2個のイソシアナト基(−NCO)を有する化合物であり、芳香族、脂肪族又は脂環式の各種ジイソシアネートを用いることができる。具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、及びこれらのうち芳香環を有するジイソシアネートの核水添物等を挙げることができる。
多官能ウレタン(メタ)アクリレートとともに上記した光硬化性樹脂を構成するポリオール(メタ)アクリレートは、分子内に少なくとも2個の水酸基を有する化合物(すなわち、ポリオール)の(メタ)アクリレートである。その具体例としては、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオール(メタ)アクリレートは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリオール(メタ)アクリレートは、好ましくは、ペンタエリスリトールトリアクリレート及び/又はペンタエリスリトールテトラアクリレートを含む。
さらに、これらの多官能ウレタン(メタ)アクリレート及びポリオール(メタ)アクリレートとともに光硬化性樹脂を構成する、水酸基を2個以上含むアルキル基を有する(メタ)アクリルポリマーは、一つの構成単位中に水酸基を2個以上含むアルキル基を有するものである。例えば、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを構成単位として含むポリマーや、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとともに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを構成単位として含むポリマー等が挙げられる。
以上、例示したような(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂を用いることにより、(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性が向上するとともに、機械的強度が向上し、表面の傷付きを効果的に防止できる防眩フィルムを得ることができる。
上記微粒子としては、平均粒径が0.5〜5μmで、硬化後の硬化性透明樹脂との屈折率差が0.02〜0.2であるものを用いることが好ましい。平均粒径及び屈折率差がこの範囲内にある微粒子を用いることにより、効果的にヘイズを発現させることができる。この微粒子の平均粒径は、動的光散乱法等によって求めることができる。この場合の平均粒径は、重量平均粒径となる。
微粒子は有機微粒子又は無機微粒子であることができる。有機微粒子としては、一般に樹脂粒子が用いられ、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸粒子、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリイミド粒子等が挙げられる。また、無機微粒子としては、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、アルミノシリケート、アルミナ−シリカ複合酸化物、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等を用いることができる。
上記光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ベンゾインエーテル系、アミン系、ホスフィンオキサイド系等、各種のものを用いることができる。アセトフェノン系光重合開始剤に分類される化合物の例は、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(別名ベンジルジメチルケタール)、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル フェニル ケトン、2−メチル−2−モルホリノ−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オンを含む。ベンゾフェノン系光重合開始剤に分類される化合物の例は、ベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノンを含む。ベンゾインエーテル系光重合開始剤に分類される化合物の例は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルを含む。アミン系光重合開始剤に分類される化合物の例は、N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(別名ミヒラーズケトン)を含む。ホスフィンオキサイド系光重合開始剤の例は、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドを含む。ほかに、キサントン系化合物やチオキサント系化合物等も、光重合開始剤として用いることができる。
これらの光重合開始剤は市販されている。代表的な市販品の例を商品名で挙げると、ドイツのBASF社から販売されている「イルガキュア 907」、「イルガキュア 184」、「ルシリン TPO」等がある。
硬化性樹脂組成物は、必要に応じて溶剤を含むことができる。溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルのような、硬化性樹脂組成物を構成する各成分を溶解し得る任意の有機溶剤を用いることができる。2種以上の有機溶剤を混合して用いることもできる。
また硬化性樹脂組成物は、レベリング剤を含有してもよく、例えば、フッ素系又はシリコーン系のレベリング剤を用いることができる。シリコーン系のレベリング剤には、反応性シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等がある。シリコーン系レベリング剤の中でも好ましいものは、反応性シリコーン及びシロキサン系のレベリング剤である。反応性シリコーンからなるレベリング剤を用いれば、防眩層表面に滑り性が付与され、優れた耐擦傷性を長期間持続させることができる。また、シロキサン系のレベリング剤を用いれば、膜成形性を向上させることができる。
一方、上記2)の方法(エンボス法)により微細表面凹凸形状を有する防眩層を形成する場合には、微細凹凸形状が形成された金型を用いて、金型の形状を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に形成された樹脂層に転写すればよい。エンボス法により微細表面凹凸形状を形成する場合、凹凸形状が転写される樹脂層は、微粒子を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。上記樹脂層を構成する樹脂は、好ましくは、上記1)の方法において例示したような光硬化性樹脂であり、より好ましくは紫外線硬化性樹脂である。ただし、紫外線硬化性樹脂の代わりに、光重合開始剤を適宜選択することにより、紫外線より波長の長い可視光で硬化が可能な可視光硬化性樹脂を用いることもできる。
エンボス法では、紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に塗布し、その塗布層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が塗布層に転写される。より具体的には、硬化性樹脂組成物を(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に塗布し、塗布層を金型の凹凸面に密着させた状態で、(メタ)アクリル系樹脂フィルム側から紫外線等の光を照射して塗布層を硬化させ、次に、硬化後の塗布層(防眩層)を有する(メタ)アクリル系樹脂フィルムを金型から剥離することにより、金型の凹凸形状を防眩層に転写する。
防眩層の厚みは特に限定されないが、一般には2〜30μmであり、好ましくは3μm以上、また好ましくは20μm以下である。防眩層が薄すぎると、十分な硬度が得られず、表面が傷付きやすくなる傾向にあり、一方で厚すぎると、割れやすくなったり、防眩層の硬化収縮によりフィルムがカールして生産性が低下したりする傾向にある。
防眩層を有する(メタ)アクリル系樹脂フィルムのヘイズ値は、5〜50%の範囲にあることが好ましい。ヘイズ値が小さすぎると、十分な防眩性能が得られず、防眩層付き(メタ)アクリル系樹脂フィルムを備える偏光板を画像表示装置に適用したときに画面に外光の映り込みが生じやすくなる。一方、そのヘイズ値が大きすぎると、外光の映り込みは低減できるものの、黒表示の画面のしまりが低下してしまう。ヘイズ値は、全光線透過率に対する拡散透過率の割合であり、JIS K 7136:2000「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に準じて測定される。
<延伸フィルム>
本発明の延伸フィルムは、上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムを延伸処理してなるフィルムである。本発明の延伸フィルムもまた、上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含むものであるため、靭性に優れ、従ってハンドリング性(折り曲げ性)が良好であるとともに、加熱収縮率が小さく耐熱性に優れている。
延伸処理としては、一軸延伸や二軸延伸等が挙げられる。延伸方向としては、未延伸フィルムの機械流れ方向(MD)、これに直交する方向(TD)、機械流れ方向(MD)に斜交する方向等が挙げられる。二軸延伸は、2つの延伸方向に同時に延伸する同時二軸延伸でもよく、所定方向に延伸した後で他の方向に延伸する逐次二軸延伸であってもよい。
延伸処理は、例えば出口側の周速を大きくした2対以上のニップロールを用いて、長手方向(機械流れ方向:MD)に延伸したり、未延伸フィルムの両側端をチャックで把持して機械流れ方向に直交する方向(TD)に広げたりすることで行うことができる。
延伸処理による延伸倍率は、0超〜500%が好ましく、より好ましくは100〜300%である。延伸倍率が300%を上回ると、膜厚が薄くなりすぎて破断しやすくなったり、ハンドリング性が低下したりする。延伸倍率は、下記式:
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
より求められる。
延伸温度は、(メタ)アクリル系樹脂フィルム全体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定され、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂フィルムのガラス転移温度の−40℃から+40℃の範囲内であり、より好ましくは−25℃から+25℃の範囲内であり、さらに好ましくは−15℃から+15℃の範囲内である。
延伸フィルムの厚みは、通常100μm以下であり、好ましくは10〜80μmである。
<偏光板>
本発明の偏光板は、偏光フィルムと、該偏光フィルムの少なくとも一方の面に積層される上記本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は上記本発明の延伸フィルムとを含むものである。(メタ)アクリル系樹脂フィルム及び延伸フィルムは、偏光フィルムを保護する保護フィルムであることができる。本発明の偏光板においては、偏光フィルムの両面に本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムが積層されていてもよいし、偏光フィルムの一方の面に本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムが積層され、他方の面に保護フィルム又は位相差フィルムである他の透明樹脂フィルムが積層されていてもよい。これらの(メタ)アクリル系樹脂フィルム、延伸フィルム、透明樹脂フィルムと、偏光フィルムとは、接着剤を用いて貼合することができる。
(偏光フィルム)
偏光フィルムは、公知の方法に従って、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することによりその二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造されるものであることができる。こうして得られる偏光フィルムは、上記の一軸延伸された方向に吸収軸を有するものとなる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体等が挙げられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタール等を用いることもできる。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000程度であり、好ましくは1500〜5000程度である。
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が採用される。ポリビニルアルコール系原反フィルムの膜厚は特に制限されないが、例えば、10〜150μm程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色前、染色と同時、又は染色の後で行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合において、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前又はホウ酸処理中に行ってもよい。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うこともできる。
一軸延伸は、周速度の異なる離間したロール間を通すことにより行ってもよいし、熱ロールで挟むことにより行ってもよい。また、この一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、水や有機溶剤等の溶剤を用いてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法によって行うことができる。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.01〜1重量部程度である。ヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1800秒程度である。
一方、二色性色素として二色性有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10-4〜10重量部程度であり、好ましくは1×10-3〜1重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウム等の無機塩を染色助剤として含有してもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常20〜80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1800秒程度である。
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬する方法により行うことができる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常60〜1200秒程度であり、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、さらに好ましくは60〜80℃である。
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度である。また浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。
水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30〜100℃程度であり、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒程度であり、好ましくは120〜600秒である。
乾燥処理により、偏光フィルムの水分率は実用程度にまで低減される。その水分率は、通常5〜20重量%であり、好ましくは8〜15重量%である。水分率が5重量%を下回ると、偏光フィルムの可撓性が失われ、偏光フィルムがその乾燥後に損傷したり、破断したりすることがある。一方、水分率が20重量%を超えると、偏光フィルムの熱安定性が不足する傾向にある。
こうして得られる二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの厚みは、通常5〜40μm程度とすることができる。
(透明樹脂フィルム)
上述のとおり、偏光フィルムにおける本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムが貼合される面と反対側の面には、他の透明樹脂フィルムを貼合することができる。透明樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルム又は位相差フィルムであることができる。
透明樹脂フィルムは、例えば、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、(メタ)アクリル系樹脂フィルム、(メタ)アクリル系樹脂層とポリカーボネート系樹脂層との積層フィルム、オレフィン系樹脂フィルム等であることができる。中でも、オレフィン系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
オレフィン系樹脂とは、例えば、エチレンやプロピレンのような鎖状オレフィンモノマー、又はノルボルネンや他のシクロペンタジエン誘導体のような環状オレフィンモノマーを、重合用触媒を用いて重合して得られる樹脂である。
鎖状オレフィンモノマーから得られるオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が挙げられる。中でも、プロピレンの単独重合体であるポリプロピレン系樹脂が好ましい。また、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを、通常1〜20重量%の割合で、好ましくは3〜10重量%の割合で共重合させたポリプロピレン系共重合樹脂も好ましい。
プロピレンと共重合可能なコモノマーとしては、エチレン、1−ブテン又は1−ヘキセンが好ましい。中でも、透明性や延伸加工性に比較的優れることから、エチレンが好ましく用いられ、エチレンを1〜20重量%、とりわけ3〜10重量%の割合で共重合させたポリプロピレン系共重合樹脂は、好ましいものの一つである。エチレンの共重合割合を1重量%以上とすることで、透明性や延伸加工性を上げる効果が現れる。一方、その割合が20重量%を超えると、樹脂の融点が下がり、保護フィルム又は位相差フィルムに要求される耐熱性が損なわれることがある。
ポリプロピレン系樹脂は、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、株式会社プライムポリマーから販売されている「プライムポリプロ」、日本ポリプロ株式会社から販売されている「ノバテック」及び「ウィンテック」、住友化学株式会社から販売されている「住友ノーブレン」、サンアロマー株式会社から販売されている「サンアロマー」等が挙げられる。
環状オレフィンモノマーを重合させてなるオレフィン系樹脂は、一般に、環状オレフィン系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、又はノルボルネン系樹脂とも称される。ここでは環状オレフィン系樹脂と称する。
環状オレフィン系樹脂としては、例えば、シクロペンタジエンとオレフィン類とからディールス・アルダー反応によって得られるノルボルネン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;ジシクロペンタジエンと、オレフィン類又は(メタ)アクリル酸エステル類とからディールス・アルダー反応によって得られるテトラシクロドデセン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;ノルボルネン、テトラシクロドデセン、それらの誘導体類、又はその他の環状オレフィンモノマーを2種以上用いて同様に開環メタセシス共重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;上記ノルボルネン、テトラシクロドデセン及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィンと、ビニル基を有する脂肪族又は芳香族化合物とを付加共重合させて得られる樹脂等が挙げられる。
環状オレフィン系樹脂も、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、ドイツのTOPAS ADVANCED POLYMERS GmbHにて生産され、日本ではポリプラスチックス株式会社から販売されている「TOPAS」(トーパス)、JSR株式会社から製造・販売されている「アートン」、日本ゼオン株式会社から製造・販売されている「ゼオノア」及び「ゼオネックス」、三井化学株式会社から製造・販売されている「アペル」等が挙げられる。
上記の鎖状オレフィン系樹脂又は環状オレフィン系樹脂を製膜してフィルム化することにより、偏光フィルムの一方の面に貼合される透明樹脂フィルムとすることができる。フィルム化の方法は特に限定されないが、溶融押出製膜法が好ましく採用される。
オレフィン系樹脂フィルムも、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、FILMAX社から販売されている「FILMAX CPP フィルム」、サン・トックス株式会社から販売されている「サントックス」、東セロ株式会社から販売されている「トーセロ」、東洋紡績株式会社から販売されている「東洋紡パイレンフィルム」、東レフィルム加工株式会社から販売されている「トレファン」、日本ポリエース株式会社から販売されている「ニホンポリエース」、フタムラ化学株式会社から販売されている「太閤FC」等が挙げられる。また、環状オレフィン系樹脂フィルムなら、それぞれ商品名で、日本ゼオン株式会社から販売されている「ゼオノアフィルム」、JSR株式会社から販売されている「アートンフィルム」等が挙げられる。
透明樹脂フィルムには、その表面に光学機能性フィルムを積層したり、光学機能層をコーティングしたりすることもできる。このような光学機能性フィルム及び光学機能層としては、例えば、易接着層、導電層、ハードコート層等が挙げられる。
以上説明したオレフィン系樹脂フィルムを延伸し、フィルムに屈折率異方性を持たせることにより、位相差フィルムの機能を付与することができる。延伸方法は、必要とされる屈折率異方性に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、例えば、縦一軸延伸、横一軸延伸又は縦横逐次二軸延伸が採用される。
オレフィン系樹脂は、正の屈折率異方性を有し、応力が加えられた方向で最も屈折率が大きくなるので、それが一軸延伸されたフィルムは、通常nx>ny≒nzの屈折率異方性を与える。ここで、nxはフィルムの面内遅相軸方向(面内で屈折率が最大になる方向で、正の屈折率異方性を有する樹脂では延伸方向)の屈折率であり、nyはフィルムの面内進相軸方向(面内で遅相軸と直交する方向)の屈折率であり、nzはフィルムの法線方向の屈折率である。オレフィン系樹脂が逐次二軸延伸されたフィルムは、通常nx>ny>nzの屈折率異方性を与える。
また、所望の屈折率特性を付与するために、熱収縮性フィルムを目的とするフィルムに貼合し、延伸加工に代えて、又は延伸加工とともにフィルムを収縮させる方法により位相差フィルムを製造することもできる。この操作は通常、屈折率異方性がnx>nz>ny又はnz>nx≧nyとなる位相差フィルムを得るために行われる。
オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムも、市販品を容易に入手することが可能である。例えば、環状オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムなら、それぞれ商品名で、日本ゼオン株式会社から販売されている「ゼオノアフィルム」、JSR株式会社から販売されている「アートンフィルム」、積水化学工業株式会社から販売されている「エスシーナ位相差フィルム」等が挙げられる。
(接着剤)
(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムと偏光フィルムとの貼合、偏光フィルムと透明樹脂フィルムとの貼合には、上述のとおり接着剤が用いられる。貼合に先立って、(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムにおける偏光フィルムとの貼合面及び偏光フィルムにおける(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムとの貼合面のうち少なくとも一方、並びに、偏光フィルムにおける透明樹脂フィルムとの貼合面及び透明樹脂フィルムにおける偏光フィルムとの貼合面のうち少なくとも一方には、コロナ放電処理、プラズマ照射処理、電子線照射処理、その他の表面活性化処理を施しておくことが好ましい。
貼合に用いられる接着剤は、貼合するフィルムに対して接着力を発現するものの中から、任意に選択して用いることができる。典型的には、水系接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解又は接着剤成分を水に分散させたものや、活性エネルギー線の照射により硬化する成分を含む活性エネルギー線硬化性接着剤を挙げることができる。生産性の観点からは、活性エネルギー線硬化性接着剤が好ましく用いられる。
まず水系接着剤について説明すると、例えば、主成分としてポリビニルアルコール系樹脂やウレタン樹脂を用いた組成物が、好ましい接着剤として挙げられる。
水系接着剤の主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、そのポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、その接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製されることが多い。接着剤水溶液におけるポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部である。
ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザールや水溶性エポキシ樹脂のような硬化性成分又は架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンとアジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を挙げることができる。かかるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、田岡化学工業(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」及び「スミレーズレジン 675」、日本PMC株式会社から販売されている「WS−525」等があり、これらを好適に用いることができる。これら硬化性成分又は架橋剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。その添加量が少ないと、接着性向上効果が小さくなり、一方でその添加量が多いと、接着剤層が脆くなる傾向にある。
水系接着剤の主成分としてウレタン樹脂を用いる場合は、適当な接着剤組成物の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂は、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。アイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を偏光フィルムと保護フィルムとの接着に用いることは、例えば、特開2005−70139号公報、特開2005−70140号公報、特開2005−181817号公報に記載されている。
一方、活性化エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合、それを構成する活性エネルギー線の照射により硬化する成分(以下、単に「硬化性成分」と呼ぶことがある)は、エポキシ化合物、オキタセン化合物、(メタ)アクリル系化合物等であり得る。エポキシ化合物やオキタセン化合物のようなカチオン重合性の化合物を用いる場合には、カチオン重合開始剤が配合される。また、(メタ)アクリル系化合物のようなラジカル重合性化合物を用いる場合にはラジカル重合開始剤が配合される。中でも、エポキシ化合物を硬化性成分の一つとする接着剤が好ましく、とりわけ、飽和炭素環に直接エポキシ基が結合している脂環式エポキシ化合物を硬化性成分の一つとする接着剤が好ましい。また、それにオキセタン化合物を併用することも有効である。
エポキシ化合物は、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、ジャパンエポキシレジン株式会社から販売されている「エピコート」シリーズ、DIC株式会社から販売されている「エピクロン」シリーズ、東都化成株式会社から販売されている「エポトート」シリーズ、株式会社ADEKAから販売されている「アデカレジン」シリーズ、ナガセケムテックス株式会社から販売されている「デナコール」シリーズ、ダウケミカル社から販売されている「ダウエポキシ」シリーズ、日産化学工業株式会社から販売されている「テピック」等がある。
飽和炭素環に直接エポキシ基が結合している脂環式エポキシ化合物も、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、ダイセル化学工業株式会社から販売されている「セロキサイド」シリーズ及び「サイクロマー」シリーズ、ダウケミカル社から販売されている「サイラキュア」シリーズ等がある。
オキセタン化合物も、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、東亞合成株式会社から販売されている「アロンオキセタン」シリーズ、宇部興産株式会社から販売されている「ETERNACOLL」シリーズ等がある。
カチオン重合開始剤も、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、日本化薬株式会社から販売されている「カヤラッド」シリーズ、ユニオンカーバイド社から販売されている「サイラキュア」シリーズ、サンアプロ株式会社から販売されている光酸発生剤「CPI」シリーズ、ミドリ化学株式会社から販売されている光酸発生剤「TAZ」、「BBI」及び「DTS」、株式会社ADEKAから販売されている「アデカオプトマー」シリーズ、ローディア社から販売されている「RHODORSIL」シリーズ等がある。
活性エネルギー線硬化性接着剤は、必要に応じて光増感剤を含有することができる。光増感剤を用いることで、反応性が向上し、接着剤層の機械強度や接着強度をさらに向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、アントラセン系化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素等が挙げられる。
また、活性エネルギー線硬化性接着剤には、その接着性を損なわない範囲で各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤等が挙げられる。さらに、その接着性を損なわない範囲で、カチオン重合とは別の反応機構で硬化する硬化性成分を配合することもできる。
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いてフィルムの貼合を行う場合、その接着剤からなる層を介してフィルムを貼合した後、活性エネルギー線を照射して接着剤層を硬化させる。偏光フィルムの一方の面に用いる活性エネルギー線硬化性接着剤と、他方の面に用いる活性エネルギー線硬化性接着剤とは、同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよいが、両者を硬化させるための活性エネルギー線の照射は、同時に行うことが好ましい。
活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化に用いられる活性エネルギー線は、例えば、波長が1〜10nmのX線、波長が10〜400nmの紫外線、波長が400〜800nmの可視光線等であり得る。中でも、利用の容易さ、並びに活性エネルギー線硬化性接着剤の調製の容易さ、安定性及び硬化性能の点で、紫外線が好ましく用いられる。紫外線の光源には、例えば、波長400nm以下に発光分布を有する、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて得られる接着剤層の厚さは、通常1〜50μm程度であるが、特に1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
本発明の偏光板は、偏光フィルムに貼合される保護フィルムとして本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムを適用したものであるため、高温環境下においても変形や光学特性の劣化が生じにくく、耐熱性に優れる。
本発明の偏光板は、液晶表示装置に用いられる液晶パネルを構成する偏光板として好適に用いることができ、とりわけ、液晶セルの視認側に配置される偏光板として好適である。本発明の偏光板が液晶セルの視認側に配置される場合において、液晶セルの背面側に配置される偏光板は、本発明に係る偏光板であってもよいし、他の偏光板であってもよい。液晶パネルを構成する液晶セルは、この分野で使用されている各種のものであることができる。
偏光板の液晶セルへの貼合は、予め偏光板の表面に形成した粘着剤層を介して行うことができる。この粘着剤層は、偏光板が有する一方の保護フィルム上に積層させることができ、例えば、偏光フィルムの一方の面に本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムが貼合され、他方の面に他の透明樹脂フィルムが貼合された偏光板においては、透明樹脂フィルムの外面に粘着剤層を設けることができる。この偏光板を視認側偏光板として、粘着剤層を介して液晶セルに貼合すると、(メタ)アクリル系樹脂フィルム又は延伸フィルムが視認側に配置された液晶パネルとなる。
粘着剤層は、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とし、官能基含有(メタ)アクリル系単量体が共重合された(メタ)アクリル系樹脂を粘着剤成分とする(メタ)アクリル系粘着剤によって形成するのが一般的である。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量又は使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
以下の実施例及び比較例においては、(メタ)アクリル系樹脂Aとして次の〔A〕に記載の樹脂(以下、「樹脂A」と称する)を用い、(メタ)アクリル系樹脂Bとして、次の〔B1〕又は〔B2〕に記載の樹脂(以下、それぞれ「樹脂B1」、「樹脂B2」と称する)を用いた。
〔A〕アルケマ(ARKEMA)社製のメタクリル酸メチル系樹脂である「アルツグラス(ALTUGLAS) HT121」(ガラス転移温度TgA:124℃、重量平均分子量MwA:78200、数平均分子量MnA:41200、分子量分散MwA/MnA:1.9)、
〔B1〕メタクリル酸メチル由来の構成単位を80重量%以上含むメタクリル酸メチル系樹脂(ガラス転移温度TgB:110℃、重量平均分子量MwB:162000、数平均分子量MnB:84500、分子量分散MwB/MnB:1.9)、
〔B2〕メタクリル酸メチル由来の構成単位を80重量%以上含むメタクリル酸メチル系樹脂(ガラス転移温度TgB:107℃、重量平均分子量MwB:134000、数平均分子量MnB:67000、分子量分散MwB/MnB:2.0)。
<実施例1>
ペレット状の樹脂Aとペレット状の樹脂B1とを、75:25の重量比で押出機に投入して(メタ)アクリル系樹脂組成物とし、これを加熱により溶融混練して液状の溶融混練物を得た。この溶融混練した液状の混合樹脂をTダイからフィルム状に連続的に押し出しながら、冷却ロールを用いて固化させることにより、厚み120μmの長尺の(メタ)アクリル系樹脂フィルム〔未延伸品〕を作製した。
また、上記未延伸品に縦一軸延伸処理を施すことにより、厚み96μmの延伸フィルム〔縦延伸品〕を作製した。延伸温度は、未延伸品(すなわち、上記混合樹脂)のガラス転移温度+10℃とし、延伸倍率は2.2倍とした。
さらに、上記未延伸品に縦延伸処理を施した後、横延伸処理を施す逐次二軸延伸処理を施すことにより、厚み40μmの延伸フィルム〔縦横延伸品〕を作製した。延伸温度は、縦延伸及び横延伸のいずれも、未延伸品(すなわち、上記混合樹脂)のガラス転移温度+10℃とし、縦延伸及び横延伸の延伸倍率はそれぞれ2.2倍、2.0倍とした。
<実施例2〜4、比較例1〜4>
(メタ)アクリル系樹脂フィルム〔未延伸品〕の作製に用いる樹脂組成物として、表1に記載の混合樹脂(溶融混練物)又は単一の樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして(メタ)アクリル系樹脂フィルム〔未延伸品〕を作製した。また、この未延伸品を用いて、実施例1と同様にして縦延伸品及び/又は縦横延伸品を作製した。なお、比較例2において樹脂Aに配合したゴム粒子として、最内層が、メタクリル酸メチルと少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された硬質の重合体からなり、中間層が、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された軟質の弾性体からなり、最外層が、メタクリル酸メチルと少量のアクリル酸エチルを用いて重合された硬質の重合体からなる三層構造の弾性体粒子であって、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmのものを用いた。
各実施例及び比較例で用いた混合樹脂(溶融混練物)又は単一樹脂について下記の物性を測定するとともに、各実施例及び比較例で得られた未延伸品、縦延伸品、縦横延伸品について下記の評価試験を行った。結果を表1に示す。
(1)混合樹脂又は単一樹脂の重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分散
ペレット状とした混合樹脂又はペレット状の単一樹脂40mgをテトラヒドロフラン20mLに溶解させて測定試料を調製し、GPC装置を用いて溶出時間及び強度を測定した。これらの測定値から、標準試料による検量線を基準として、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnを求め、分子量分散Mw/Mnを算出した。
GPC測定条件の詳細は次のとおりである。
・GPC装置:東ソー(株)製の「HLC−8320GPC」、
・ゲル浸透クロマトグラフィーカラム:いずれも東ソー(株)製の「TSKgel−SuperHZ2500」1本と「TSKgel−SuperHRC」2本とを直列に接続したもの、
・カラム温度:40℃、
・検出器:RI検出器、
・測定試料注入量:20μL、
・移動相:テトラヒドロフラン、
・移動相の流速:1.0mL/分、
・標準試料:重量平均分子量が既知の7種の単分散メタクリル酸メチル(いずれも昭和電工(株)製)。
(2)混合樹脂又は単一樹脂のガラス転移温度
DSC装置[セイコーインスツル株式会社製の「DSC7020」]を用いて、JIS K7121:1987に基づく示差走査熱量分析法に従い、窒素流量100ml/分において、ペレット状の混合樹脂又はペレット状の単一樹脂を、昇温速度20℃/分で150℃まで昇温し、5分間保持した後、降温速度10℃/分で−50℃まで降温し、1分間保持した。次いで、昇温速度10℃/分で、−50℃から210℃まで昇温して、中間点ガラス転移温度(Tmg)を求め、これをガラス転移温度とした。この値が大きいほど、耐熱性が高いことを示す。
(3)未延伸品又は延伸品の靭性の評価
(3−1)マンドレル試験
フィルムの機械的な押出し方向(MD)を長さ方向とする長さ120mm、幅10mmの試験片をフィルムから切り出した。この試験片について、TP技研株式会社製の耐屈曲性試験機(円筒法マンドレル法)を用い、円筒状の心棒の周りに巻き付けて、試験片をその幅方向に沿って屈曲させるマンドレル屈曲試験を行い、フィルムに割れや、欠け、亀裂、破断が生じない心棒の最小直径を求めた。この最小直径の値が小さいほど、フィルムの靭性が良好であり、ハンドリング性及び加工性に優れる。マンドレル試験は、未延伸品及び縦延伸品について行った。
(3−2)シャルピー衝撃試験
JIS K 7111:2006「プラスチック−シャルピー衝撃特性の求め方−第1部:非計装化衝撃試験」に規定されているプラスチックの衝撃吸収エネルギーを測定するためのシャルピー衝撃試験に準拠して測定した。具体的にはまず、フィルムの機械的な押出し方向(MD)を長さ方向とする長さ82mm、幅10mmの試験片をフィルムから切り出した。上記JIS規格には、ノッチ付き試験片を用いる場合とノッチなし試験片を用いる場合について規定されているが、本発明ではノッチなし試験片とした。次に、ハンマーにより打ち抜くときの衝撃で試験片が動かないように試験片の長辺方向両端を支持台に固定し、株式会社安田精機製作所製のシャルピー衝撃試験機(ハンマー秤量1.0J)にて、ハンマーをその刃先長手方向が試験片の長さ方向中央部で幅方向と平行になるように打ち当てて、フィルムの破断に要するエネルギー(衝撃吸収エネルギー、mJ)を測定した。衝撃吸収エネルギーが大きいほど、フィルムに割れや、欠け、亀裂、破断が生じにくく靭性が良好であり、ハンドリング性及び加工性に優れる。シャルピー衝撃吸収エネルギーの測定は、未延伸品について行った。
(3−3)未延伸品から縦延伸品を作製する際のフィルム破断回数
長尺の未延伸品から、上述の延伸条件で一定長さ(約50m)の縦延伸品を作製する際に生じたフィルムの破断回数を集計した。破断回数が少ないほど、フィルムの靭性が良好であり、加工性に優れる。
(4)未延伸品又は延伸品の耐熱性の評価
(4−1)加熱収縮率の測定
フィルムの機械的な押出し方向(MD)を長さ方向とする長さ120mm、幅(TD方向:MDと直交する方向)120mmの試験片をフィルムから切り出し、MD方向及びTD方向のそれぞれについて、中心部から50mmの地点(2箇所)にマーキングを付した。この試験片について、100℃のオーブン内で10分間静置する加熱試験を行った。加熱試験前後におけるMD方向及びTD方向における寸法変化量(マーキング間の長さ)をデジタルノギスを用いて測定し、MD方向及びTD方向のそれぞれについて、下記式:
加熱収縮率(%)=100×(加熱前の長さ−加熱後の長さ)/(加熱前の長さ)
に従って加熱収縮率(%)を求めた。加熱収縮率が小さいほど、耐熱性に優れる。加熱収縮率の測定は、未延伸品及び縦横延伸品について行った。
(4−2)高温引張弾性率の測定
引張試験機(株式会社島津製作所製の「オートグラフ AG−1」)を用い、温度80℃の環境下で引張速度1mm/分の条件で引張試験を行い、フィルムの引張弾性率(MPa)を測定した。この引張弾性率が高いほど、耐熱性に優れる。高温引張弾性率の測定は、縦横延伸品について行った。