以下、本発明に係る磁気記録媒体装置および磁気記録再生方法、ならびに空間光変調器およびその画素駆動方法を実現するための形態について図面を参照して説明する。本発明に係る磁気記録媒体装置および磁気記録再生方法によりデータを記録、再生される磁気記録媒体はいずれも、磁性体を細線状に形成してなる磁性細線をデータの記録(格納)領域として備え、磁性細線に電流を供給されることによる磁壁のシフト移動で、格納されたデータを磁区として磁性細線内を移動させるものである。また、本発明に係る空間光変調器は、前記磁性細線を複数本並設して、画素アレイとするものである。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体装置は、磁気記録媒体の全体に磁界を印加する磁界印加手段を備える。具体的には、図1に示すように、磁気記録媒体装置20は、磁気記録媒体10に形成された磁性細線1,1,…(図2参照)の所定の領域に対向させた磁気記録再生装置50と、磁気記録媒体10の上方と下方に配置されたコイル(磁界印加手段)80,80と、コイル80,80に電流を供給する電源(コイル電源、磁界発生電流源)9と、を備える。
(磁気記録媒体)
はじめに、本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体装置および磁気記録再生方法により、データを記録、再生される磁気記録媒体(以下、適宜、本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体と称する。第2実施形態以降も同様とする。)について説明する。本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体10は、特許文献2〜5に記載された磁気記録媒体(磁気ディスク)と同様、図2(a)、(b)に示すように、円盤(円環)形状の基板2上に、磁性体を細線状に形成してなる磁性細線1をデータの記録(格納)領域として備える。この磁性細線1には、2値のデータすなわち「0」または「1」のデータを、図3に示すように、異なる2つの磁化方向のいずれか、すなわち上向きまたは下向きの磁化方向の磁区にして記録される。なお、図2(b)は、図2(a)の部分拡大図であり、磁気記録媒体10の最外周における4本の磁性細線1の両端を含む部分を示す。
磁気記録媒体10において、磁性細線1,1,…は、平面視で互いに絶縁層4を挟んで離間して同心円状に基板2上に形成されている。詳しくは、1本の磁性細線1は、平面視で円環の一部を欠いたC字型に形成されている。さらに、磁気記録媒体10は、磁性細線1の一端と他端に、電極31と電極32(適宜、正電極31と負電極32という)を接続して備える。なお、図3においては、簡潔に示すために、磁気記録媒体10における磁性細線1の1本のみを直線状に表す。
(磁性細線)
磁性細線1は、磁性体(磁性材料)を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。具体的には、磁性細線1は、厚さ(膜厚)70nm以下、幅(細線幅)300nm以下であれば、細線方向にのみ磁区が分割され易く、好ましい。また、磁性細線1は、ピッチが狭いすなわち幅が小さい(細い)ほど、磁気記録媒体10を高記録密度化することができる。一方、データの保存(磁化の保持)のために、磁性細線1はある程度の厚さおよび幅にすることが好ましく、具体的には厚さは5nm以上、幅は10nm以上とすることが好ましい。なお、後記の他の実施形態も含めて、磁性細線の厚さとは、後記する凹部1trp(図2(b)、図3参照)のような変形箇所以外の、上下面が平坦な部分における厚さを指す。また、磁性細線は、厚さや幅が前記範囲よりも大きい場合、細線幅方向等にも磁区が分割されて複数生成する場合があるが、予め外部磁界を印加しておくことで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。
また、磁性細線1は、細線形状(平面視形状)は、屈曲していない直線、または厚さおよび幅に対して十分に緩やかな曲線とする。磁性細線1は、本実施形態のように外形が円盤形状である磁気記録媒体10においては、その外形と同心円の周に沿った形状とすることで、十分に長く緩やかな曲線となり、磁気記録媒体10の外形寸法に対しても長くすることができ、さらに磁気記録媒体10の上面全体に多数の磁性細線1を効率的に配置して記録密度を高くすることができる。したがって、磁性細線1は、磁気記録媒体10において細線長さを統一しなくてよく、外周寄りに設けられたものほど長くして、磁気記録媒体10の全体としてデータの記録可能な領域(容量)を大きくすればよい。また、磁気記録媒体は円盤形状に限らず、例えば後記変形例における磁気記録媒体10A(図4参照)のように、平面視が矩形の板状でもよく、この場合、磁性細線は互いに平行な直線状に形成すればよい。
磁性細線1は、一般的な磁気ディスクの記録層等と同様に磁性材料で形成され、特に微細化に好適な垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。また、コイル80,80から数十〜数百Oe程度の磁界を印加されても磁化方向が変化しないように、ある程度の保磁力を有する材料を適用する。このような材料として、公知の強磁性材料を適用でき、具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cuのいずれかとを交互に繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィ、ならびにエッチングまたはリフトオフ法により、前記の細線形状に成形されて磁性細線1となる。
磁気記録媒体10において、磁性細線1は、図2(b)および図3に示すように、両端(電極31,32との接続部分)近傍を再生領域1rおよび書込領域1wに設定し、領域1r,1w間がデータの格納領域となる。さらに磁性細線1は、データの格納領域をビット長(単位長さ)Lb毎に区切るように、断面視がV字型やU字型等になるように上面を局所的に薄くした凹部1trpを形成されていることが好ましい。凹部1trpにより、異なるデータ(“1”、“0”)が格納された領域(磁区)の間に生成する磁壁が係止されるため、データのシフト移動において微小なズレが生じても補正される。ここでは、上面を薄くした凹部としているが、局所的に変形させていれば同様の効果が得られ、例えば平面視で括れているように側面を凹ませてもよい。磁壁を係止させるために、磁性細線1において変形している領域の細線方向長さ、ここでは凹部1trpの溝幅(凹部1trpの開口部における細線方向長さ)は、磁壁の厚み以上、10倍以下にすることが好ましい。また、凹部1trpの溝幅が広過ぎると、磁壁の係止位置の誤差範囲が大きくなる。具体的には、凹部1trpの細線方向長さは、10〜500nm程度の範囲で、100nm以下が好ましく、磁性細線1の幅の1/10〜2倍程度、かつビット長Lbの1/2以下が好ましい。また、磁性細線1において、凹部1trpのように変形させた箇所は、磁壁を好適に係止させるために、その変化量を元(凹部1trp以外の領域)の厚さに対して2〜40%にすることが好ましい。
磁性細線1は、正電極31近傍に再生領域1rが、負電極32近傍に書込領域1wが設定され、図2(a)に示すように、それぞれすべての磁性細線1において磁気記録媒体10の径に沿って一直線上に設けられていることが好ましい。書込領域1wは、磁性細線1をこの領域に限定して当該磁性細線1に記録する1個(1bit)のデータに対応した磁化方向に変化させる(磁化する)ために設定された、細線方向に区切られた領域である。したがって、少なくともこの領域においては、磁性細線1を、上向きまたは下向きの所望の磁化方向に磁化する(適宜、書込をする、という)ことを可能にするため、磁気記録再生装置50に設けられたデータ記録部(磁化手段)5の記録(書込み)方式に対応した構造にする。ここでは、一般的な磁気ディスクへの記録方法である磁界印加方式として、データ記録部5は記録用の磁気ヘッド(図3には主磁極の部分のみを図示する)であるから、磁性細線1の書込領域1wを含む部分は、下側に非磁性層を介して軟磁性層が設けられた積層構造にする(図示省略)。書込領域1wの細線方向長さは、ビット長Lb以上であればよく、記録方式や加工精度等に対応した長さにする。同様に、データ再生部(磁気検出手段)6は、再生用の磁気ヘッドであり、磁性細線1の書込領域1wを含む部分は、当該磁性細線1の磁気を検出可能な構造にする(図示省略)。
磁性細線1は、磁気記録媒体10の製造時におけるダメージから磁性細線1を保護するために、上面に保護膜(図示省略)を積層されていることが好ましい。保護膜は、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成され、2層構造にする場合は、いずれもCuを内側(下層)にする。さらに、磁性細線1は、基板2との密着性を得るために、金属薄膜からなる下地膜の上に形成されてもよい(図示省略)。このような下地膜は、Ta,Ru,Cu,Al,Au,Ag,Cr等の非磁性金属材料を適用することができる。保護膜および下地膜は、それぞれ厚さ1〜10nmにすることが好ましい。厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えてもそれ以上に効果が向上しないためである。
(基板)
基板2は、磁性細線1を形成するための磁気記録媒体10の土台であり、広義の基板である。このような基板2として、公知の基板材料が適用でき、具体的には、表面に熱酸化膜を形成されたSi(シリコン)基板、SiO2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO(酸化マグネシウム)、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。また、基板2が、Si基板で表面に十分な厚さの酸化膜が形成されていない場合は、表面に絶縁膜を形成した上に磁性細線1を形成すればよい。すなわち基板2は、少なくとも表面(表層)が絶縁性であればよい。
(絶縁層)
絶縁層4は、磁気記録媒体10における磁性細線1,1間、あるいはさらに電極31,31間および電極32,32間、に配され、さらに基板2と磁性細線1との間や磁性細線1の上に配されてもよい。絶縁層4は、例えばSiO2,Si3N4,Al2O3等の公知の絶縁材料からなり、また磁気記録媒体10の全体で同じ材料を適用しなくてもよい。
(電極)
電極31および電極32は、一対の電極として磁性細線1にその細線方向の一方向に電流を供給するための端子であり、図3においては磁性細線1の端部下面に接続される。なお、本実施形態においては、磁気記録再生装置50の走査電流源(電流供給手段)7の+が電極31に、−が電極32に接続されることから、適宜、正電極31、負電極32という。電極31,32は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料からなり、スパッタリング法等により成膜され、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極31,32の厚さ、幅および細線方向長さは、磁性細線1,1のピッチ(トラックピッチ)、材料や供給する電圧・電流等に基づいて設定される。
(磁気記録再生装置)
本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体装置20の磁気記録再生装置50は、磁性細線1の書込領域1wを、記録するデータに対応した磁化方向に磁化するデータ記録部(磁化手段)5、磁性細線1の再生領域1rにおける磁化方向を検出するデータ再生部(磁気検出手段)6、磁性細線1の電極31,32に接続して直流パルス電流を供給する電源である走査電流源(電流供給手段)7を備える(図3参照)。このような磁気記録再生装置50は、図2(a)に示す、磁気記録媒体10の電極31,32および磁性細線1の領域1r,1wが設けられた領域に対向させて配置される(図1参照)。データ記録部5およびデータ再生部6は、一般的な磁気ディスクの記録再生装置に備えられる磁気ヘッドと同様のものが適用することができる。磁気ヘッドは、磁気記録再生装置50に内蔵された移動機構(図示省略)により磁気記録媒体10の径方向に移動して、選択された磁性細線1の領域1r,1w上に対向する。さらに磁気記録再生装置50は、磁気記録媒体10のすべての磁性細線1の電極31,32に接続する端子、磁性細線1を選択して走査電流源7を接続したりデータ記録部5やデータ再生部6(磁気ヘッド)を移動させる制御部、ならびに磁気記録媒体10を固定する支持台を備える(図示省略)。磁気記録再生装置50のこれらの要素は、公知の装置を適用することができるが、コイル80,80から磁気記録媒体10(磁性細線1)に印加される磁界を遮らない構造にする。
走査電流源7は、直流電流(走査電流Isc)をパルス電流として、磁性細線1へ細線方向に供給する電源であり、ここでは、+を電極31に、−を電極32に接続する。磁性細線1に走査電流Iscを正電極31側から負電極32側へ供給されると、その反対方向に磁性細線1中を流れる電子により、磁壁が磁性細線1中を当該磁性細線1の負電極32側から正電極31側へ細線方向に沿って移動し、磁壁に区切られた磁区、すなわちデータも共に移動する(図3参照)。直流パルス電流は、パルス幅(ピーク期間)tH:1ps〜10μs、停止時間(ベース期間)tL:10ps〜10μsの範囲で調整することが好ましく、パルス幅tHは磁区が移動速度に応じて所定の距離を移動する時間に設定し、停止時間tLはデータ記録部5による書込時間tW以上にする。
直流パルス電流における走査電流Isc(ピーク電流)は、電流密度:108〜1013A/m2の範囲で、磁性細線1の磁性材料およびコイル80,80から印加される磁界の大きさに応じて、磁壁が移動するように調整することが好ましい。例えば、磁性細線1がCo/Ni多層膜からなる場合、電流密度:4.5×1011A/m2程度以上の電流で磁壁が移動可能であるが、200Oeの磁界が印加されることで、電流密度:3.0×1011A/m2程度から磁壁を移動させることができる(非特許文献3参照)。
(コイル、コイル電源)
コイル80は、数十〜数百Oe程度の磁界を十分に小さな電流で発生させることができ、磁気記録媒体10のすべての磁性細線1に、均一な大きさかつ向きの磁界を印加するものであればよい。このようなコイルとして、例えばヘルムホルツ型のコイルが挙げられる。磁気記録媒体10の上下に配置したコイル80,80により、磁気記録媒体10(磁性細線1の膜面)に垂直な、図1では上向きの磁界(合成磁界)Hが印加される。コイル80,80のそれぞれは、図1においては簡略化して、導線8を4周巻き回したソレノイドコイルで表すが、例えば外形が円筒形状の枠体(図示省略)に収容されている。コイル電源9は、コイル80,80に一定の直流電流Iaを供給する電源である。
[磁気記録再生方法]
(記録方法)
次に、本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体装置を用いて、磁気記録媒体の磁性細線にデータを書き込む(記録する)方法を説明する。
まず、コイル電源9をON状態にして、コイル80,80間に所定の大きさの磁界を発生させて磁気記録媒体10のすべての磁性細線1に印加する。磁界の大きさは、磁性細線1の磁化方向を変化させないように磁性細線1の保磁力よりも小さく設定する。
次に、外部から入力される信号に基づき、磁気記録装置50が、磁性細線1を選択し、走査電流源7がこの磁性細線1の電極31,32に接続し、さらにこの磁性細線1の書込領域1w上にデータ記録部5(記録用の磁気ヘッド)を移動させる(選択工程)。そして、データ記録部5が、書込領域1wを外部から入力される1データに基づく磁化方向にする(磁化工程)。次に、走査電流源7から磁性細線1にパルス電流が1パルス供給される。この電流Iscの1パルスの供給により、磁性細線1に生成した磁壁がビット長Lbの距離を移動する。磁性細線1においては、磁壁の移動に伴い、当該磁壁で区切られた磁区も等距離移動(シフト移動)する(磁区移動工程)。そして、パルス電流における停止期間中に、再びデータ記録部5が書込領域1wを次の1データに基づく磁化方向にする(磁化工程)。
以下、磁区移動工程と磁化工程とを交互に繰り返し行って、選択された磁性細線1についてデータを順番に記録する。なお、磁区移動工程の1回はパルス電流におけるピーク期間であり、走査電流源7からパルス電流を供給し続ければよく、このパルス電流における停止期間のタイミングに合わせて磁化工程を行う。選択された磁性細線1に格納するデータをすべて記録したら、再び選択工程により、次の磁性細線1を選択して、1つ目の磁性細線1と同様の工程を繰り返す。すべてのデータの記録を完了したら、コイル電源9をOFF状態にして、磁界の印加を停止する。
(再生方法)
磁気記録媒体10の磁性細線1に記録されたデータを読み出す(再生する)方法は、前記の記録方法において、磁化工程に代えて、選択された磁性細線1の再生領域1rの磁化をデータ再生部6(再生用の磁気ヘッド)で検出する磁気検出工程を行えばよい。
本実施形態に係る磁気記録再生方法は、磁気記録媒体10の全データの記録または再生の間、コイル電源9をON状態にしてコイル80,80により磁気記録媒体10に磁界を印加していること以外は、特許文献2〜4に記載された方法と同様である。磁界の印加は、少なくとも、選択された磁性細線1へ、磁区移動工程の期間(パルス電流におけるピーク期間)に実行されればよい。ただし、第1実施形態に係る磁気記録媒体装置のコイル80,80は、磁気記録媒体10の全体に磁界を印加する仕様であり、また、導線8を何重にも巻き回したコイルであるため、電流供給を停止した直後にインダクタとして交流成分を発生させるので、パルス電流のようにON,OFFを短期間で行うと磁界が安定しない。そのため、本実施形態においては、コイル80,80を通電状態にして磁界を印加し続けることが好ましい。
本実施形態に係る磁気記録再生方法においては、選択工程において2本以上の磁性細線1を選択し、これらの磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区を移動させてもよい。並列にパルス電流を供給する磁性細線1の本数が多いほど、磁気記録媒体10のすべての磁性細線1における記録または再生に要する時間が短くなり、記録や再生の高速化だけでなく、コイル電源9がコイル80,80に電流Iaを供給する時間も短くなるので、使用する電流の総量を低減することができる。このとき、磁気記録再生装置50は、データ記録部5、データ再生部6を、並列にパルス電流を供給する磁性細線1の本数分備える。データの記録または再生は、選択した磁性細線1について同時に実行してもよいし、パルス電流の1回の停止期間中に1本ずつ順番に実行してもよい。また、同時に選択する磁性細線1の組は、隣り合う磁性細線1同士でもよいし、間を1本以上隔てた磁性細線1の組でもよい。
第1実施形態に係る磁気記録媒体装置20を用いた磁気記録再生方法によれば、コイル80,80から印加された磁界Hにより、磁性細線1に供給するパルス電流のピーク電流(電流Isc)を低減することができる。なお、コイル80,80に供給する電流Iaは、磁界Hによる電流Iscの低減分よりも小さくすることで、磁気記録媒体装置20全体として省電力化することができる。
(変形例)
磁気記録媒体装置20において、コイル80は、前記したように、磁気記録媒体10の全体に均一な磁界Hを印加することができれば、その種類や形状等は特に限定されず、磁気記録媒体10の上方または下方の一方のみに配置されてもよい。また、コイル80(80,80)は、記録、再生におけるデータのシフト移動のための磁界Hの印加だけでなく、磁気記録媒体10の初期化(すべての磁性細線1の磁化方向を一様に揃える)のための強い磁界を印加するために用いてもよい。
第1実施形態に係る磁気記録媒体装置20は、円盤形状の磁気記録媒体10に限られず、磁気記録媒体の全体(磁性細線1が設けられた領域)に均一な磁界Hを印加することができれば、例えば図4に示す直線状の磁性細線1を並設した矩形板状の磁気記録媒体10Aも記録・再生することができる。また、このような磁性細線1が直線状の磁気記録媒体10Aの記録、再生に適用される場合、図4に示すように、磁気記録媒体装置20Aは、磁性細線1の細線幅方向すなわち磁気記録媒体10Aにおける磁性細線1の並設方向に磁界Hを印加するようにコイル80,80が配置されてもよい。なお、磁気記録媒体装置20Aにおいては、直線状の磁性細線1の両端に走査電流源7を接続し、また、磁性細線1の一端に書込領域1wが、他端に再生領域1rが設定されているために、磁気記録媒体10Aの両縁に沿って2箇所に磁気記録再生装置50Aが備えられている。
第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録再生方法において、データの記録方法、再生方法は、前記の磁気ヘッドによる方法に限られない。データの記録方法においては、例えばスピン注入磁化反転を利用することができる。この場合、磁気記録媒体10が、磁性細線1の書込領域1wに、磁性細線1を磁化自由層とするスピン注入磁化反転素子構造とその上下に接続した一対の電極とを備えて、磁気記録再生装置50のデータ記録部5が、前記一対の電極に接続して電流を供給する電源であればよい(図示せず)。スピン注入磁化反転によれば、書込が磁気方式よりも高速な上、スピン注入磁化反転素子構造を形成した領域に限定して書込をすることができる。
データの再生方法においては、例えば光磁気方式で磁性細線1の磁気を検出することができる。この場合、磁気記録再生装置50のデータ再生部6が、一般的な光磁気ディスクの再生装置と同様に、磁性細線1の再生領域1rにレーザー光を照射するレーザー光源や、その反射光の偏光の向きを検出する偏光子等を備える(図示せず)。このような方法でデータを再生する磁気記録媒体10においては、磁性細線1の細線幅を100nm以上にし、ピッチおよびビット長Lbを200nm以上にし、さらにレーザー光の波長に応じた長さにすることが好ましい。さらに磁気記録媒体10は、磁性細線1が再生領域1rにおいて光を反射するように、磁性細線1の膜厚を30nm以上にするか、SiO2等の絶縁膜を挟んでAl,Ag等の非磁性金属からなる反射膜を設けることが好ましい。
第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録再生方法において、磁区すなわちデータのシフト移動の方向、すなわち磁性細線に供給する電流の向きをデータの記録と再生とで変えてもよい。例えばデータの記録において、電極31を走査電流源7の−に、電極32を+に接続する。このとき、データの移動方向は、図2および図3に示す向きとは逆になる。そのため、このようにデータを記録する場合は、磁性細線1において、書込領域1wを再生領域1rと共に電極31の側に設ける(図示せず)。また、データの再生される順番に合わせて、磁性細線1にデータを逆順に並び替えて記録してもよい。
(空間光変調器)
第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録再生方法は、図4に示す磁気記録媒体10Aのように直線状の磁性細線を並設して画素アレイとする空間光変調器(特許文献5参照)の画素への書込に適用することができる。すなわち、本実施形態に係る空間光変調器は、画素アレイとなる磁気記録媒体10A、磁気記録再生装置50A(図4参照)およびコイル80,80(前記第1実施形態またはその変形例に係る磁気記録媒体装置20,20A)からなる。ただし、磁性細線1は、書込領域1wのみを設定して再生領域1rを設けず、データの格納領域が細線方向に連続した画素となる。また、磁気記録再生装置50Aはデータ再生部(磁気検出手段)6を備えない構成にする。また、コイル80(80,80)は、画素アレイ(磁性細線1)への光の入出射が妨げられないように、内径(導線8を収容する枠体(図示省略)の内側)を十分に大きくしてするか、光の入出射側の反対側のみに配置する、あるいは図4に示す変形例のように、磁性細線1の細線幅方向に磁界を印加するように配置する。
以上のように、本発明の第1実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体装置、ならびにそれを用いた磁気記録再生方法、空間光変調器によれば、既存の磁気記録媒体や空間光変調器についてデータの記録や再生の際に使用する電流を低減することができ、また、磁気記録媒体や空間光変調器の磁性細線の劣化を抑えることができる。
[第2実施形態]
第1実施形態に係る磁気記録媒体装置は、磁気記録媒体装置にコイル(磁界印加手段)とその電源を備えて、磁気記録媒体の外部から磁界を印加する構成にしたが、磁気記録媒体が大型化するとその全体に均一に磁界を印加するために、磁界印加手段であるコイルが大型化したり、コイルに供給する電流が大きくなる。そこで、磁界印加手段を磁気記録媒体に内蔵することで磁性細線に近接させて、磁界印加手段に供給する電流を抑制することができる。以下、本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体装置およびそれを用いた磁気記録再生方法について、図5を参照して説明する。第1実施形態(図1〜4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
(磁気記録媒体)
第2実施形態に係る磁気記録媒体装置によりデータを記録、再生される磁気記録媒体10Bは、図5に示すように、同心円状の磁性細線1,1,…の下に、絶縁層4を挟んで、平面視渦巻き形状のコイル(磁界印加手段)80Aが設けられている。図5(a)において、磁気記録媒体10Bは、構造を簡略化して、コイル80Aの導線8Aが線状に表され、さらに磁性細線1の本数および導線8Aの巻き数がそれぞれ10前後で表されるが、平面(磁性細線1が形成された側の面)視は図2に示す磁気記録媒体10と同様の構造である。すなわち、磁気記録媒体10Bは、図2(a)に示すように磁性細線1が同心円状に多数設けられている。
コイル80Aは、図5(a)においては簡略化して表されているが、導線8Aを密に巻き回した渦巻きで形成された平面コイル(スパイラルコイル)であり、例えば記録用の磁気ヘッドに内蔵される薄膜コイルと同様の構造である。導線8Aは、磁性細線1の両端に接続される電極31,32(図2、図3参照)と同様に、Cu等の一般的な金属電極材料で形成され、各周の間を絶縁層4(図5(b)参照)で埋められている。また、コイル80Aの両端には、磁性細線1と同様に、磁気記録媒体10Bの外部端子が接続されている(図示省略)。導線8Aは、太さ(幅、膜厚)が、コイル80Aに供給される電流Iaに応じて、かつコイル80Aが十分な巻き数となるように設計される。そして、コイル80Aは、各周の間隔(隣り合う導線8A,8A間)が十分に狭く(密に巻き回して)、径方向に並設されたすべての導線8Aにより、前記径方向に沿って内側から外側へ、さらに内側へと周回する磁界Hを生成するように設計される。このようなコイル80A(導線8A)は、磁性細線1や電極31,32と同様にスパッタリング法およびエッチング、あるいは導電性インクで印刷する等、公知の方法により、基板2上に形成される。
図5(a)、(b)に示すように、コイル80Aが生成する磁界Hは、コイル80A(導線8A,8A,…)の上面と下面に沿った、磁気記録媒体10B(基板2)の径方向の磁界であるため、コイル80Aの上方に設けられた磁性細線1,1,…のそれぞれに、その細線幅方向に磁界が印加される。このように、磁界Hは、すべての導線8Aにより合成された磁界であるので、図5(b)に示すように、コイル80Aの各周における導線8Aが、磁性細線1の直下(または直上)に配置される必要はなく、また、磁性細線1に完全に平行である必要もない。したがって、コイル80Aは、磁性細線1,1,…と同様の同心円状ではなく、また磁性細線1,1,…のピッチに関係なく、1本の導線8Aからなる狭ピッチの渦巻きに形成される。このような構成にすることで、コイル80Aは、小さい電流Iaで十分な大きさの磁界Hを生成することができる。また、磁気記録媒体10Bのすべての磁性細線1に均一な磁界Hが印加されるように、コイル80Aは、平面視で磁性細線1が形成されている領域よりも内周側と外周側とに広く形成されることが好ましい。また、磁性細線1と導線8Aとの間隔(厚さ方向の距離)は、互いが層間絶縁膜(絶縁層4)で完全に絶縁されればよく、一方、コイル80Aから離れるにしたがいコイル80Aから磁性細線1に印加される磁界が小さくなるので、必要な大きさの磁界Hがより小さい電流Iaで得られるように、間隔がより短いことが好ましい。
磁性細線1は、第1実施形態に係る磁気記録媒体10の磁性細線1(図2、図3参照)と同様の構成である。すなわち、磁性細線1は、両端に電極31,32が接続され、また、再生領域1rおよび書込領域1wが設定されている(図5では省略)。磁性細線1の再生領域1rについては、第1実施形態と同様に、磁気ヘッドによる磁気方式や光磁気方式に対応した構成にすることができる。特に、磁気ヘッドの検出精度と磁界Hの大きさにもよるが、再生時においてもコイル80Aから磁界Hが印加されているので、磁気方式よりも光磁気方式が好ましい。
一方、本実施形態に係る磁気記録媒体10Bは、磁性細線1の下方にコイル80Aが設けられているので、データの記録方法として磁界印加方式を適用すると、記録用の磁気ヘッド(データ記録部5)を上方に対向させるため、磁性細線1の下に非磁性層および軟磁性層を備えて書込領域1wを設定することになる。しかし、磁性細線1の下、すなわちコイル80Aとの間に軟磁性層を設けると、この軟磁性層が磁気シールドとなって、磁性細線1の書込領域1w(軟磁性層が設けられた領域)における磁界の印加が不十分となる虞がある。さらに、通常、軟磁性層は厚さ100nm以上であり、さらに非磁性層および絶縁層4も介在するので、磁性細線1とコイル80A(導線8A)との間隔(層間距離)が長くなる。したがって、磁気記録媒体10Bに磁界印加方式を適用されると、磁界Hを確保するためにコイル80Aに供給する電流Iaを大きくする必要がある。
本実施形態に係る磁気記録媒体10Bにおいては、データの記録方法にスピン注入磁化反転を利用することができる。具体的には、磁性細線1の書込領域1wにおいて、コイル80Aの反対側の面(上面)に、中間層(障壁層)および磁化固定層を積層してスピン注入磁化反転素子構造を形成する。なお、スピン注入磁化反転素子構造の上下に一対の電極を接続すると、磁化自由層(磁性細線1)に接続する下側の電極を設けるためにコイル80Aとの層間距離を要するので、層間距離を短くするために、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子(特開2012−78579号公報参照)を適用してもよい。例えば、磁性細線1上に、書込領域1w内で細線方向に離間した2箇所のそれぞれに、中間層(障壁層)、磁化固定層、および電極を積層して、それぞれの磁化固定層の上に接続した2つの電極を一対の電極とする(図示せず)。
磁気記録媒体10Bは、例えば次の方法で製造することができる。まず、基板2上に、渦巻き形状のコイル80A(導線8A)を金属材料で形成し、その上に絶縁膜を成膜することにより導線8Aの隙間を絶縁層4で埋めた後、上面(絶縁層4)を化学的機械研磨(CMP)等で研削、研磨して、平坦化、平滑化する。その上に、磁性細線1,1,…を形成し、また、磁性細線1の書込領域1wにスピン注入磁化反転素子構造を形成し、さらに磁性細線1,1間を埋める絶縁層4を形成する。最後に、磁性細線1の両端に接続する電極31,32、書込領域1w(スピン注入磁化反転素子構造)に接続する電極、ならびにコイル80Aの両端に接続する端子を形成して、磁気記録媒体10Bが得られる。あるいは別の方法として、磁気記録媒体10Bは、基板2上に磁性細線1が形成された後、その上に絶縁層4を挟んでコイル80Aが形成されてもよい。あるいはさらに別の方法として、磁気記録媒体10Bは、磁性細線1およびコイル80Aをそれぞれ別の基板に形成した後に、貼り合わされて製造されてもよい(図示せず)。
(磁気記録媒体装置)
第2実施形態に係る磁気記録媒体装置は、第1実施形態に係る磁気記録媒体装置20の磁気記録再生装置50、およびコイル電源(磁界発生電流源)9(図1参照)を備え、コイル電源9が、磁気記録媒体10Bに内蔵されたコイル80Aの端子に接続して電流Iaを供給する。磁気記録再生装置50は、第1実施形態と同様の装置を適用することができ、さらに本実施形態においては、磁気記録媒体10Bに磁界印加手段(コイル)80Aが内蔵されているので、構造にかかわらず磁気記録媒体10Bへの磁界を遮らない。
[磁気記録再生方法]
本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体装置を用いた磁気記録再生方法は、前記第1実施形態に係る磁気記録再生方法と同様であるので、説明を省略する。本実施形態においては、図5(a)、(b)に示すように、磁気記録媒体10Bの径方向に磁界Hが生成し、すべての磁性細線1へ細線幅方向(図5(b)においては左向き)に印加される。また、第1実施形態と同様に、2本以上の磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区移動させてもよい。
(変形例)
第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bは、図5においては1つのコイル80Aを備えるが、コイル80Aの数は限定されず、絶縁層4を挟んでコイル80Aを2層以上備えて、より小さな電流Iaで磁界Hを発生させることもできる。あるいは第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bは、コイル80Aに、磁性細線1の反対側(図5では下側)にフェライト等からなる磁気シールド層を積層してもよく(図示せず)、このような構成により、より効率的に磁界Hが磁性細線1に印加される構造にすることができる。
第2実施形態に係る磁気記録媒体は、図4に示す磁気記録媒体10Aのように矩形板状の基板2に直線状の磁性細線1が並設されてもよく、複数の導線8Aが磁性細線1に平行な直線状に形成されて狭ピッチで並設され、したがって、図5(b)に示す断面図になる。このような形状の磁気記録媒体も、本実施形態に係る磁気記録再生方法によりデータを記録、再生することができる。ここで、磁界Hを発生させるためには直線状の導線8A,8A,…のすべてに同じ方向に電流Iaを供給する必要があるが、それぞれの導線8Aの両端を共通の端子に接続して並列に電流Iaを供給すると、導線8Aの本数倍の電流をコイル電源9から供給することになる。そこで、例えば、それぞれの導線8Aの下側(磁性細線1の反対側)に並行する配線を設けて、この下側の配線を経由して隣り合う導線8A,8Aを直列に接続すればよい(図示せず)。言い換えると、ソレノイドコイルを径方向につぶして偏平にした、磁性細線1に対向する側における導線が導線8A,8A,…になる。そして、このような直線状の磁性細線1を並設した磁気記録媒体および磁気記録媒体装置を、第1実施形態と同様に空間光変調器として、第2実施形態に係る磁気記録再生方法により、画素に書込をすることができる。
第2実施形態においては、コイル80A(導線8A)を磁気記録媒体10Bに内蔵しているが、磁気記録媒体装置に設けた構成にすることもできる。詳しくは、磁気記録媒体装置が、磁気記録媒体10を載置する支持台の表層にコイル80Aを備える(図示せず)。このとき、コイル80Aと磁性細線1との距離を近付けるために、それぞれの上の保護膜(絶縁膜)を十分に薄く厚さ10〜数十nm程度に形成して、磁気記録媒体10の磁性細線1を備えた側を下に向けて、支持台の上に載置することが好ましい。さらに磁気ヘッド(データ再生部6)で再生する場合には、基板2を、少なくとも磁性細線1の再生領域1rが設けられた領域(図2(a)参照)において薄肉化して、磁気検出が可能となるように磁気ヘッドを磁性細線1に近付けることが好ましい。再生用の磁気ヘッド(データ再生部6)を磁気記録媒体10の基板2の側に対向させることになるため、あるいは、基板2に光を透過する材料を適用して、光磁気方式で再生すればよい。
以上のように、本発明の第2実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体装置およびそれを用いた磁気記録再生方法、ならびに空間光変調器によれば、装置が大型化せず、また、より小さい電流で十分な磁界を印加することができるので、データの記録や再生の際に使用する電流をいっそう低減することができ、また、磁気記録媒体や空間光変調器の磁性細線の劣化を抑えることができる。
[第3実施形態]
第2実施形態に係る磁気記録媒体装置と磁気記録媒体においては、磁気記録媒体の磁性細線に印加する磁界を、当該磁性細線に平行な(または略平行な)導線が多数、巻き回されたコイルで生成する構成にしたが、1本の導線で生成した磁界を印加しても走査電流を低減することができる。以下、本発明の第3実施形態に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体について、図6および図7を参照して説明する。第1、第2実施形態(図1〜5参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
(磁気記録媒体)
第3実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体10Cは、図6(a)に示すように、基板2(図中に表面のみを示す)上に並設した磁性細線1のそれぞれに平行な導線8Bを、絶縁層4(図の空白部)を挟んで直下に備える。後記するように、磁気記録媒体10Cは、磁区移動の対象の磁性細線1(図6(a)において右から2本目の電流の向きが記載されているもの)の直下の導線8Bに限定して電流を供給して磁界Hを発生させる。なお、図6(a)においては簡潔に示すために、磁性細線1の4本のみとその直下の導線8Bを示すが、磁気記録媒体10Cは、第1、第2実施形態の磁気記録媒体10,10A,10Bと同様に、基板2上に磁性細線1を多数並設し、さらに磁性細線1のそれぞれの直下に導線8Bを備えるものである。
ここで、1本の導線8Bに流れる電流で十分な大きさの磁界Hを生成するためには、この電流を、磁性細線1に供給する走査電流Isc(ピーク電流)と比較して同程度またはより大きくする必要があり、磁界印加の効果による走査電流の低減分を差し引いても、電流の総使用量が却って増大することになる。そこで、図6(b)に示すように、磁気記録媒体10Cは、磁性細線1とその直下の導線8Bを直列に接続して、導線8Bに磁性細線1と共通の電流すなわち走査電流Iscを供給する構成にすることで、導線(磁界印加手段)専用の電源(コイル電源)を不要として、磁性細線1に印加する磁界Hを生成する。
詳しくは、導線8Bは、一端で磁性細線1の正電極31Bと接続し、その反対側の端(端部81)を、磁性細線1の負電極32と共に一対の端子として、走査電流源(電流供給手段)7に接続される。言い換えると、磁気記録媒体10Cは、正電極31Bが、磁性細線1に並走するように下側に折り曲げられて延伸している。なお、磁気記録媒体10Cは、簡潔に示すために、図6(b)においては磁性細線1の1本のみを直線状に表し、基板2および絶縁層4を省略する。磁気記録媒体10Cは、第1実施形態の変形例の磁気記録媒体10Aのように矩形板状の基板2上に直線状の磁性細線1が並設されてもよく、あるいは第1、第2実施形態の磁気記録媒体10,10Bと同様に、円盤形状の基板2上に同心円状の磁性細線1が形成されていてもよい(図4、図2参照)。また、磁気記録媒体10Cにおいては、基板2の側から導線8B、絶縁層4(図示省略)、磁性細線1の順に設けられてもよいし、反対に基板2の側に磁性細線1が設けられてもよい。
磁性細線1は、第1、第2実施形態に係る磁気記録媒体10等の磁性細線1(図2、図3参照)と同様の構成である。ただし、磁性細線1の細線長さが長くなると、磁性細線1における電極32近傍と、導線8Bの端部81近傍の間で、パルス電流の遅延によるズレが生じ、対向する磁性細線1、導線8B間の同期が不完全になる。したがって、このズレがパルス幅に対して十分に小さい範囲内となるように、磁性細線1の細線長さを設計する。また、磁性細線1の直下に導線8Bが設けられるため、書込領域1wにおける構造は、第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bと同様に、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を適用することが好ましい。
電極31B,32は、第1、第2実施形態における電極31,32と同様の構成である。図6(b)において、電極31B,32は、磁性細線1の上面に接続しているがこれに限られず、一方(ここでは正電極31B)が導線8Bに接続可能であればよい。
導線8Bは、電極31B,32と同様に、Cu等の一般的な金属電極材料で形成される。また、導線8Bは、磁性細線1と共通の電流Iscが流れるので、電流Iscの大きさに対応した太さ(厚さおよび幅)に形成される。なお、導線8Bは、第2実施形態における導線8A(コイル80A)と異なり、流れる電流がパルス電流であるので、電流の大きさに対して太く形成されなくてよいが、一方で、特に磁性細線1に伴って長い場合には、パルス電流の遅延によるズレを抑えるべく、低抵抗となる材料や太さ等に設計することが好ましい。
後記するように、磁気記録媒体10Cにおいては、1本の導線8Bに電流を流すことによりその直上の磁性細線1に印加する磁界Hを生成する。図7は、導線として磁性細線に一定の大きさ(0.5mA、1mA、2mA)の直流電流を供給した場合の、前記磁性細線から細線幅方向に離間した地点での磁界の離間距離依存性を示すグラフである。図7に示すように、導線に流れる電流により生成する磁界は、この導線からの距離に反比例して減衰する。電流Iscの大きさや磁性細線1の材料等にもよるが、磁性細線1に十分な大きさの磁界Hが印加されるために、図7より、磁性細線1とその直下の導線8Bとの間隔は、より狭いことが好ましく、具体的には40nm以下が好ましく、一方、リーク電流やトンネル電流が流れないように互いが層間絶縁膜(絶縁層4)で完全に絶縁されるために、3nm以上にすることが好ましい。
磁気記録媒体10Cは、例えば第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bと同様の手順で製造することができる。ただし、磁気記録媒体10Cの製造においては、導線8B、ならびに導線8B上および導線8B,8B間の絶縁層4を形成した後に、導線8Bの両端上における絶縁層4にコンタクトホールを形成して、金属電極材料を埋め込んで、導線8Bの一端に正電極31Bを接続し、他端に外部端子である端部81を接続する。
(磁気記録再生装置)
第3実施形態に係る磁気記録再生方法によれば、磁界発生電流源および磁気記録媒体の外部の磁界印加手段(図1、図4に示すコイル電源9およびコイル80)は不要であり、すなわち既存の磁気記録再生装置50,50A(図1、図4参照)を使用して、データを記録、再生することができる。なお、磁気記録再生装置50,50Aにおいては、走査電流源7からパルス電流を供給するための端子が、磁気記録媒体10Cの負電極32と導線8Bの端部81とに接続するように配置される。
(磁気記録再生方法)
本発明の第3実施形態に係る磁気記録再生方法は、電流Iaの供給を行わないことを除き、前記第2実施形態に係る磁気記録再生方法と同様であり、すなわち特許文献2〜4に記載された方法でデータを記録、再生することができる。本実施形態では、磁区移動工程(パルス電流におけるピーク期間)において、図6(b)に示すように、磁性細線1にピーク電流Iscが供給されているのと同時に、並走する導線8Bにも電流Iscが磁性細線1と逆向きに流れている。この電流Iscにより、図6(a)、(b)に示すように、電流Iscの電流路である導線8Bを軸に回転する向きの磁界Hが生成し、磁性細線1へ細線幅方向(図6(a)においては左向き)に印加される。また、第1、第2実施形態と同様に、2本以上の磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区移動させてもよい。
第3実施形態に係る磁気記録再生方法によれば、磁性細線1に直列に導線8Bを接続して並走させることにより、磁性細線1に、導線8Bから細線幅方向に磁界が印加されて、供給するパルス電流のピーク電流(電流Isc)を低減することができる。また、パルス電流により磁界Hを生成するので、パルス電流における停止期間である記録・再生時には磁界Hが印加されないため、磁気検出等が磁界Hに影響されない。なお、電流Iscを小さくすれば磁界Hも小さくなる。そのため、有効な大きさの磁界Hが得られる程度にしつつ、十分に低減された電流Iscとなるように、磁気記録媒体10Cは、磁性細線1の材料、太さ(幅および厚さ)、ならびに導線8Bとの間隔等を設計されることが好ましい。
第3実施形態に係る磁気記録媒体は、矩形板状の基板2に直線状の磁性細線1を並設した空間光変調器の画素アレイとすることができ、本実施形態に係る磁気記録再生方法により、前記空間光変調器の画素に書込をすることができる。本実施形態に係る空間光変調器においては、光の取出し効率を高くするために、導線8Bが、少なくとも最上層(磁性細線1に対向する側)にAl,Ag等の高反射率の導電性材料を備えることが好ましい(図示せず)。
(変形例)
前記第3実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体は、磁界を生成するための電流を流す導線を磁性細線毎に1本備えるが、2本以上の導線に電流を流して磁界を生成することにより、1本の導線よりも電流の大きさに対して大きな磁界を発生させることができる。以下、第3実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体の変形例(第3実施形態の変形例に係る磁気記録媒体)について、図8を参照して説明する。第1、第2、第3実施形態(図1〜6参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図8(a)に示すように、第3実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体10Dは、磁性細線1の直下に、磁性細線1に平行に導線8B1および導線8B2を離間して備え、磁性細線1、導線8B1、導線8B2の順に直列に接続されて、両端が磁気記録再生装置の走査電流源(電流供給手段)7(図6(b)参照)に接続される。磁気記録媒体10Dは、図8(a)においては構造を簡略化して、磁性細線1の1本およびこの磁性細線1の両端に接続する電極31,32B、ならびに導線8B1,8B2のみを表し、さらに導線8B1,8B2を線状に表すが、図2に示す第1実施形態の磁気記録媒体10等と同様に、円盤形状の基板2上に多数の磁性細線1が同心円状に形成され、磁性細線1毎に導線8B1,8B2を備え、さらにそれぞれの間に絶縁層4が設けられる。
本変形例に係る磁気記録媒体10Dにおいては、2本(2層)の導線8B1と導線8B2は同じ向きに電流が流れ、したがって、2周巻き回されたソレノイドコイルを構成するといえる。また、磁気記録媒体10Dにおいては、導線8B1,8B2は、磁性細線1に供給する電流Iscが磁性細線1と逆向きに流れるように接続されている。したがって、磁気記録媒体10Dは、第3実施形態に係る磁気記録媒体10C(図6(b)参照)の導線8Bを2倍の長さに延長したものといえる。
磁性細線1は、第1実施形態に係る磁気記録媒体10の磁性細線1(図2、図3参照)と同様の構成であり、両端に正電極31と負電極32Bが接続される。ただし、本変形例に係る磁気記録媒体10Dにおいては、磁性細線1は、両端が近接しているように、平面視において一部を欠いた環状(例えばC字型)に形成される。正電極31は走査電流源7に接続し、負電極32Bは導線8B1,8B2を経由して走査電流源7に接続する。
導線8B1および導線8B2は、それぞれ第3実施形態に係る磁気記録媒体10Cの導線8Bと同様の構成であり、磁性細線1と共通の電流Iscが流れるので、これに対応した太さ(厚さおよび幅)に形成される。導線8B1,8B2は、それぞれ磁性細線1に並走するように、平面視で磁性細線1と同じ円環の一部を欠いたC字型に形成され、また、互いに同じ向きに電流が流れるように、層間で導線8B1の一端(終端)と導線8B2の他端(始端)とが接続されている。導線8B1は、磁性細線1に負電極32Bで接続して、磁気記録媒体10Cの導線8Bと同様に、平面視で磁性細線1とほぼ重複するように形成される。一方、導線8B2は、導線8B1に接続して導線8B1と同じ向きに電流が流れるように、平面視で円環の欠けた部分が導線8B1とずれて、すなわち磁性細線1とずれて形成される。
磁気記録媒体10Dにおいて、磁性細線1、導線8B1、導線8B2の互いの間隔は、第3実施形態に係る磁気記録媒体10Cにおける磁性細線1、導線8B間と同様に、40nm以下、3nm以上にすることが好ましい。特に、導線8B1,8B2間(層間)を狭くすることで、これらの導線8B1,8B2が1つのコイルになって全体で磁界Hが生成して磁性細線1に印加される。
なお、図8(a)において、磁気記録媒体10Dは、導線8B1,8B2が磁性細線1と逆向きに電流Iscが流れるように接続されているが、同じ向きに流れるように接続されていてもよい(図示せず)。また、磁気記録媒体10Dは、導線8B1,8B2の2周のコイルに限られず、導線の本数(コイルの巻き数)を増やして、いっそう大きな磁界Hを発生させることもできる。ただし、導線に流れる電流は磁性細線1と共通のパルス電流であるため、第1実施形態において説明したように、電流供給を停止した直後に交流成分を発生させて磁界を不安定にしない程度の巻き数に設計することが好ましい。
本変形例に係る磁気記録媒体10Dの磁気記録再生方法は、前記第3実施形態に係る磁気記録再生方法による。本変形例では、磁区移動工程(パルス電流におけるピーク期間)において、図8(a)に示すように、導線8B1,8B2に電流Iscが時計周りに流れている。これにより、並列に電流Iscが流れる2本の導線8B1,8B2の束の周囲に磁界Hが生成し、磁性細線1に、磁気記録媒体10Dの径方向(図8(a)では外周から中心に向けた)すなわち細線幅方向に印加される。
第3実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体の磁気記録再生方法によれば、磁気記録媒体10Dの径方向すなわち磁性細線1の細線幅方向の磁界Hにより、磁性細線1に供給するパルス電流のピーク電流(走査電流Isc)を低減することができる。特に本変形例においては、2本の導線8B1,8B2で形成されるコイルにより磁界Hを生成するため、走査電流Iscを大きくしなくても十分な大きさの磁界Hが得られる。また、本変形例に係る磁気記録媒体の磁気記録再生方法においては、第3実施形態と同様に、2本以上の磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区移動させてもよい。
磁性細線に印加する磁界は、磁性細線の一面側からのみに限られず、両面から印加することもできる。図8(b)に示すように、第3実施形態の第2の変形例に係る磁気記録媒体10Eは、磁性細線1の直上と直下のそれぞれに、磁性細線1に平行に導線8B3、導線8B1を離間して備え、これらの導線8B3,8B1が磁性細線1の両端(電極31B,32B)に接続されている。すなわち、磁気記録媒体10Eは、導線8B3、磁性細線1、導線8B1の順に直列に接続され、両端が磁気記録再生装置の走査電流源(電流供給手段)7(図6(b)参照)に接続される。磁気記録媒体10Eは、図8(a)に示す磁気記録媒体10Dと同様に、図8(b)においては構造を簡略化して、磁性細線1の1本およびこの磁性細線1の両端に接続する電極31B,32B、ならびに導線8B3,8B1のみを表し、さらに導線8B1,8B2を線状に表すが、図2に示す第1実施形態の磁気記録媒体10等と同様に、円盤形状の基板2上に多数の磁性細線1が同心円状に形成され、磁性細線1毎に導線8B3,8B1を備え、さらにそれぞれの間に絶縁層4が設けられる。
磁気記録媒体10Eにおいては、磁性細線1の下に設けられた導線8B1には磁気記録媒体10Dと同様に逆向きに電流が流れるように、磁性細線1の上に設けられた導線8B3には磁性細線1と同じ向きに電流が流れるように、それぞれ接続される。
磁性細線1は、第3実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体10D等の磁性細線1と同様の構成であり、両端に電極31B,32Bが接続されるが、導線8B3と接続する一端側に再生領域1rおよび書込領域1wの両方が設定されている。これは、図8(b)に示すように、磁性細線1の他端近傍においては直上と直下の両方に導線8B3,8B1が設けられているので、磁気記録再生装置50のデータ記録部5やデータ再生部6を近接して対向させることが困難であるためである。ただし、記録・再生方式によっては、導線8B3,8B1越しに磁性細線1に対向させたデータ記録部5やデータ再生部6で、磁性細線1への磁化や磁気の検出が可能であれば、この限りではない。
導線8B1および導線8B3は、第3実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体10Dの導線8B1,8B2と同様の構成であり、磁性細線1と共通の電流Iscが流れる。
磁気記録媒体10Eにおいて、導線8B3、磁性細線1、導線8B1の互いの間隔は、前記第3実施形態およびその第1の変形例に係る磁気記録媒体10C,10Dと同様に、40nm以下、3nm以上にすることが好ましい。このような構造により、後記するように、導線8B3、導線8B1のそれぞれに流れる電流Iscにより生成する磁界HA,HBが共に磁性細線1に印加される。
本変形例に係る磁気記録媒体10Eの磁気記録再生方法は、磁気記録媒体10Dと同様に、前記第3実施形態に係る磁気記録再生方法による。ただし、前記した通り、磁気記録媒体10Eは、磁性細線1の一端側に再生領域1rおよび書込領域1wの両方が設定されているため、データの記録と再生とでパルス電流を逆向きに供給して、データ(磁区)の移動方向を逆にする。なお、図8(b)に示す電流Iscの向きはデータ再生時のものである。本変形例では、磁区移動工程(パルス電流におけるピーク期間)において、図8(b)に示すように、電流Iscが導線8B1に時計周りに、導線8B3に反時計周りに流れている。これにより、導線8B3,8B1のそれぞれの周囲に互いに逆向きの磁界HA,HBが生成し、その間に配置された磁性細線1へ、磁気記録媒体10Eの径方向(図8(b)では外周から中心に向けた)すなわち細線幅方向の同じ向きに印加され、合成されてより大きな磁界Hsynになる。
第3実施形態の第2の変形例に係る磁気記録媒体の磁気記録再生方法によれば、磁気記録媒体10Eの径方向すなわち磁性細線1の細線幅方向の磁界Hsynにより、磁性細線1に供給するパルス電流のピーク電流(走査電流Isc)を低減することができる。特に本変形例においては、2本の導線8B3,8B1により、磁性細線1の上下から磁性細線1において同じ向きに印加される磁界HA,HBが合成されるため、走査電流Iscを大きくしなくても十分な大きさの磁界Hが得られる。また、本変形例に係る磁気記録媒体の磁気記録再生方法においては、第3実施形態と同様に、2本以上の磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区移動させてもよい。
以上のように、本発明の第3実施形態およびその変形例に係る磁気記録再生方法および空間光変調器によれば、既存の磁気記録媒体用の記録再生装置を用いてデータの記録や再生の際に使用する電流を低減することができ、また、磁気記録媒体や空間光変調器の磁性細線の劣化を抑えることができる。
[第4実施形態]
第3実施形態に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体においては、磁性細線毎に導線を並走させて、この導線から1本の磁性細線に磁界を印加する構成にしているが、1本の導線から2本の磁性細線に磁界を印加することもできる。以下、本発明の第4実施形態に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体について、図9(a)を参照して説明する。第1、第2、第3実施形態およびその変形例(図1〜8参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
(磁気記録媒体)
第4実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体10Fは、図9(a)に示すように、基板2(図中に表面のみを示す)上に並設した磁性細線1の隣り合う2本毎に1本の平行な導線8Cを、これら2本の磁性細線1,1間における下方に備え、さらにそれぞれの間に絶縁層4(図の空白部)が設けられる。ここでは、磁性細線1の下面と導線8Cの上面とで高さが略一致するように配置される。なお、図9(a)および後記の図9(b)においては簡潔に示すために、磁性細線1の4本のみとこれに合わせて導線8Cの2本を示すが、磁気記録媒体10Fは、第1、第2、第3実施形態の磁気記録媒体10等と同様に、基板2上に磁性細線1を多数並設し、さらに磁性細線1の隣り合う2本毎に導線8Cを備えるものである。
磁性細線1は、第1、第2実施形態に係る磁気記録媒体10,10B等の磁性細線1(図2、図3参照)と同様の構成であり、平面視で直線状や円環の一部を欠いたC字型のいずれに形成されてもよい。さらに磁性細線1は、両端に電極31,32が接続され、また、再生領域1rおよび書込領域1wが設定されている(図9では省略)。本実施形態に係る磁気記録媒体10Fにおいては、磁性細線1の直上および直下に導線が配置されていないので、第1実施形態に係る磁気記録媒体10と同様に、領域1r,1wの各構造の規制が少ない。
導線8Cは、第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bの導線8Aと同様に、Cu等の一般的な金属電極材料で形成され、並走する磁性細線1の平面視形状に合わせた形状で、また、磁界Hを生成するために供給される電流Iaに対応した太さ(厚さおよび幅)に形成される。特に、本実施形態に係る磁気記録媒体10Fにおいては、導線8Cの両側に並走する磁性細線1,1間の距離が広くなり過ぎないように、導線8Cは厚く形成して幅を抑えることが好ましい。また、導線8Cの両端には、磁性細線1と同様に、磁気記録媒体10Fの外部端子が接続されている(図示省略)。
磁気記録媒体10Fにおいて、導線8Cとその両側の磁性細線1,1のそれぞれとの間隔は、前記第3実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体10C等と同様に、40nm以下、3nm以上にすることが好ましく、また、両側の2本の磁性細線1,1が導線8Cから等距離になるように配置される。このような構造により、後記するように、1本の導線8Cに流れる電流Iaにより生成する磁界Hが、両側の2本の磁性細線1,1に印加される。なお、前記した通り、図9(a)においては、磁性細線1の下面と導線8Cの上面とで高さが一致する(層間距離=0)ように配置されているが、磁性細線1と導線8Cの高さ(厚さ)方向における位置関係はこれに限られない。例えば、並設された導線8C上に絶縁層4(図示省略)の膜を設けて、その上に磁性細線1が並設されていてもよい(層間距離>0)。反対に、厚さ方向において磁性細線1と導線8Cが重複していてもよく(層間距離<0)、さらに、磁性細線1と導線8Cの厚さ方向中心が一致するように設けられていることが理想的であり、すなわち同じ層に磁性細線1と導線8Cが絶縁層4を挟んで並設される。なお、磁性細線1と導線8Cの間隔は、厚さ方向と幅方向の2次元(図9(a)に示す断面)での距離であり、図9(a)に示す配置であれば、細線幅方向(図9(a)における左右方向)の距離と一致する。
磁気記録媒体10Fは、例えば第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bと同様の手順で製造することができる。
(磁気記録媒体装置)
第4実施形態に係る磁気記録媒体装置は、第2実施形態に係る磁気記録媒体装置と同様に、磁気記録再生装置50およびコイル電源(磁界発生電流源)9(図1参照)を備える。ただし、磁気記録再生装置50は、磁気記録媒体10Fの隣り合う2本の磁性細線1,1を同時に選択して、走査電流源(電流供給手段)7が並列にパルス電流を供給する構成とする。そして、データ記録部5およびデータ再生部6が、これら2本の磁性細線1,1の両方に対向する等して、記録、再生が可能な構成とする。また、コイル電源9は、磁気記録再生装置50が選択した2本の磁性細線1,1の間の導線8Cを選択してその外部端子に接続するように制御される。
[磁気記録再生方法]
本発明の第4実施形態に係る磁気記録媒体装置を用いた磁気記録再生方法は、選択工程において磁気記録媒体の隣り合う2本の磁性細線を選択すること、そして、選択した磁性細線の組に合わせて、電流を供給する導線を切り替えること以外は、前記第1、第2実施形態に係る磁気記録再生方法と同様である。
詳しくは、まず、磁気記録装置50が、磁気記録媒体10Fの隣り合う2本の磁性細線1,1の組を選択し、次に、選択された磁性細線1,1の間の導線8Cの両端の外部端子にコイル電源9が接続し、ON状態になってこの導線8Cに電流Iaを供給する。そして、走査電流源7が選択された磁性細線1,1のそれぞれの電極31,32に接続し、これらの磁性細線1,1のそれぞれの書込領域1w,1w上にデータ記録部5(記録用の磁気ヘッド)を移動させる(記録方法の場合)。以下、2本の磁性細線1,1について並列してデータの記録を行う以外は、前記第1、第2実施形態に係る磁気記録再生方法と同様であり、また、再生も同様に並列して行う。
本実施形態に係る磁気記録再生方法によれば、図9(a)に示すように、磁気記録媒体10Fの選択された磁性細線1,1の組(図9(a)における左から1、2本目)の間に配置された導線8Cに流れる電流Iaにより、導線8Cを軸に回転する向きの磁界Hが生成する。この磁界Hが、導線8Cの両側の、すなわち選択された磁性細線1,1のそれぞれへ、略鉛直方向に印加される。詳しくは、図9(a)において導線8Cの左側の磁性細線1には略下向きに、右側の磁性細線1には略上向きに、磁界Hが印加される。導線8Cとその両側の磁性細線1,1のそれぞれとは等距離であるので、これら磁性細線1,1においては同じ大きさの磁界Hが印加され、走査電流Iscの低減効果も同等であるから、磁区移動工程(パルス電流におけるピーク期間)に小さい走査電流Iscで共にデータがシフト移動する。なお、図9(a)においては、磁性細線1,1と導線8Cとで互いに逆向きに電流Isc,Iaが供給されているが、同じ向きに供給されてもよい。また、導線8Cに供給する電流Iaは、連続電流に限られず、走査電流Isc(パルス電流)に同期するパルス電流でもよい。
本実施形態においては、1本の導線8Cに供給する電流Iaで磁界Hを生成するために、比較的大きな電流Iaを要する。そこで、隣り合う2本の磁性細線1,1について並列にデータの記録、再生をすることで、磁気記録媒体装置全体として使用する電流の総量の増大を抑えている。なお、導線8Cの片側の1本の磁性細線1のみについて、データの記録、再生をすることもできる。また、選択工程にて隣り合う磁性細線1,1の組を2以上選択して、すなわち4本以上の磁性細線1にパルス電流を並列に供給して同時に磁区移動させてもよい。このとき、それぞれの導線8Cに電流Iaが同じ向きに供給されなくてもよく、例えば隣り合う導線8C,8Cとで逆向きに供給されてもよい。したがって、例えば、磁気記録媒体10Fにおいて、導線8Cは、端で折り返して蛇行する1本で形成されてもよい(図示省略)。このような構成の磁気記録媒体10Fにおいては、選択されていないものも含めてすべての磁性細線1に同時に磁界Hが印加される。
(変形例)
前記第4実施形態に係る磁気記録媒体10Fは、1本の導線8Cに流れる電流で磁界Hを生成するが、2本以上の導線に電流を流して磁界を生成することにより、1本の導線よりも電流の大きさを抑えつつ十分な大きさの磁界Hを発生させることができる。以下、第4実施形態の変形例に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体について、図9(b)、(c)を参照して説明する。第1〜第4実施形態(図1〜8、図9(a)参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図9(b)に示すように、第4実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体10Gは、磁性細線1,1間に、上下2層の導線8C,8Cを設けて、この導線8C,8Cの組に電流Iaを同じ向きに供給する。磁性細線1と導線8Cとの位置関係および距離は、磁気記録媒体10F(図9(a)参照)と同様である。さらに、磁気記録媒体10Gにおいては、磁性細線1,1とその上方および下方のそれぞれの導線8C,8Cとが等距離になるように配置されることが好ましい。このような構成にすることにより、上方および下方のそれぞれから印加される磁界H,Hが、磁性細線1,1のそれぞれにおいて鉛直方向の磁界Hsynに合成される。
本変形例に係る磁気記録媒体10Gは、導線8Cを、例えば、2組の磁性細線1,1のそれぞれの間を端で折り返して2周するソレノイドコイルで形成することができる。詳しくは、図9(b)において、左側の組の磁性細線1,1間の下の導線8Cを端で折り返して、右側の組の磁性細線1,1間の下の導線8Cに接続し、この導線8Cを反対側の端で折り返し、さらに層間を経由して左側の上の導線8Cに接続し、下の導線8Cと同様に右側の上の導線8Cに接続する。すなわち、図9(b)に示す導線8C,8C,8C,8Cは、連続した1本で形成される。あるいは、第3実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体10D(図8(a)参照)のように、磁性細線1が平面視において一部を欠いた環状(例えばC字型)に形成されて、導線8C,8Cを、導線8B1,8B2と同様に同じ向きに電流が流れるように層間で接続した2周のソレノイドコイルで形成することができる。このような磁気記録媒体10Gは、例えば第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bと同様の手順で製造することができる。なお、図9(b)では、1組の磁性細線1,1間に2本の導線8C,8Cを設けているが、3本(3層)以上の導線を設けて、電流Iaをいっそう小さくすることもできる(図示せず)。
本発明の第4実施形態の第1の変形例に係る磁気記録媒体装置およびこれを用いた磁気記録再生方法は、上下2本の導線8C,8Cに同時にかつ同じ向きに電流Iaを供給すること以外は、前記第4実施形態と同様である。本変形例においては、上下2本の導線8C,8Cに供給された電流Iaにより合成磁界Hsynが生成するので、電流Iaを小さくすることができる。
図9(c)に示すように、第4実施形態の第2の変形例に係る磁気記録媒体10Hは、磁性細線1,1間のすべてに導線8D(8DA,8DB)が設けられ、これらの導線8Dに、1本ずつ向きを入れ替えて電流Iaが供給される。言い換えると、磁気記録媒体10Hにおいては、磁性細線1のそれぞれの両側を並走する導線8DA,8DBに互いに逆向きに電流Iaが供給される。そのために、磁気記録媒体10Hは、磁性細線1よりも1本多く導線8Dを備え、図9(c)においては、2本の磁性細線1,1と、3本の導線8DA,8DB,8DAを示す。このような構成にすることにより、磁性細線1の両側から印加される磁界HA,HBが、この磁性細線1において鉛直方向の磁界Hsynに合成される。
導線8DAと導線8DBとは同一の構造であり、電流Iaの流れる向きの違いを区別するために異なる符号を付したもので、適宜まとめて導線8Dと称する。導線8Dは、磁気記録媒体10F(図9(a)参照)の導線8Cと同様の構造であり、磁気記録媒体10Hにおける磁性細線1とその両側の導線8DA,8DBとの位置関係および距離は、磁気記録媒体10Fにおける磁性細線1と導線8Cとの位置関係等と同様である。また、磁気記録媒体10Hにおいて、導線8D(8DA,8DB)は、第4実施形態に係る磁気記録媒体10Fにおいて説明したように、端で折り返して蛇行する1本で形成することができる。このような磁気記録媒体10Hは、例えば第2実施形態に係る磁気記録媒体10Bと同様の手順で製造することができる。
本発明の第4実施形態の第2の変形例に係る磁気記録媒体装置およびこれを用いた磁気記録再生方法は、第4実施形態と同様であるが、磁気記録再生方法の選択工程においては任意の1本以上の磁性細線を選択することができ、また、この選択した磁性細線1の両側の導線8DA,8DBに互いに逆向きに電流Iaを供給する。さらに、磁気記録媒体10Hにおいて導線8Dが1本で形成されている場合は、すべての磁性細線1に合成磁界Hsynが印加されているので、電流Iaを供給する導線8Dを切り替える必要がない。以下、図9(c)を参照して、本変形例に係る磁気記録再生方法について詳細に説明する。
図9(c)に示すように、磁気記録媒体10Hにおいて、隣り合う2本以上(図9(c)においては3本)の導線8DA,8DB,8DAに交互に向きを入れ替えて電流Iaが供給されると、それぞれの導線8DA,8DB,8DAを軸に回転する向きの磁界HA,HB,HAが生成する。詳しくは、両端の導線8DA,8DAのそれぞれの周囲に磁界HAが生成し、導線8DA,8DAとは逆方向に電流Iaが供給される中央の導線8DBの周囲に磁界HBが生成する。
このとき、左(図9(c)における、以下同じ)の磁性細線1には、その左側の導線8DAから磁界HAが下向きに、右側の導線8DBから磁界HBが下向きに、それぞれ印加される。したがって、この磁性細線1には磁界HA,HBが合成された大きな合成磁界Hsynが下向きに印加される。同様に、右の磁性細線1には、その左側の導線8DBから磁界HBが上向きに、右側の導線8DAから磁界HAが上向きに、それぞれ印加され、磁界HB,HAが合成された合成磁界Hsynが上向きに印加される。
本変形例においては、磁性細線1の両側の2本の導線8DA,8DBに供給された電流Iaにより合成磁界Hsynが生成するので、電流Iaを小さくすることができる。
第4実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体は、矩形板状の基板2に直線状の磁性細線1を並設した空間光変調器の画素アレイとすることができ、本実施形態に係る磁気記録再生方法により、前記空間光変調器の画素に書込をすることができる。
以上のように、本発明の第4実施形態およびその変形例に係る磁気記録媒体装置およびそれを用いた磁気記録再生方法、ならびに空間光変調器によれば、第2実施形態と同様に、装置が大型化せず、また、データの記録や再生の際に磁気記録媒体の磁性細線に流れる電流を低減することができるので、磁性細線の劣化を抑えることができる。
[第5実施形態]
第3実施形態に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体においては、磁気記録媒体の磁性細線に、当該磁性細線と共通の電流が流れる導線を並走させて、この導線から磁界を印加する構成にしているが、磁性細線自体も導線としてこれに流れる電流で磁界が生成している。すなわち、磁性細線を磁界印加手段にすることができるといえる。以下、本発明の第5実施形態に係る磁気記録再生方法および磁気記録媒体について、図10を参照して説明する。第1〜第4実施形態(図1〜9参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
(磁気記録媒体)
第5実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体10Iは、基板2(図示省略)上に、2以上の偶数本の磁性細線1,1,…を並設して備える。磁気記録媒体10Iは、図10においては簡略化して、直線状の磁性細線1を4本のみ備える構成にし、さらに絶縁層4および基板2を省略する。磁気記録媒体10Iは、第1実施形態に係る磁気記録媒体10と同様に、基板2上に磁性細線1,1,…が並設されて、その間に絶縁層4が設けられた構造であるが、後記するように、磁性細線1,1間を狭くして並設される。また、磁気記録媒体10Iにおいて、磁性細線1は、1本ずつ向きを変えてパルス電流(走査電流Isc)が供給されるように、正電極31と負電極32Cとを入れ替えて一端と他端とに接続されている。以下、適宜、図10(a)において右手から左手へ(順方向という)電流Iscが供給される磁性細線1を磁性細線1A、その逆方向に電流Iscが供給される磁性細線1を磁性細線1Bと称する。すなわち磁気記録媒体10Iは、磁性細線1A,1B,1A,1Bと、交互に並設される。
後記するように、磁気記録媒体10Iにおいては、隣り合う2本の磁性細線1,1(1A,1B)に、同時に電流Iscを供給することにより、それぞれの磁性細線1から発生した磁界HA,HBが他方の磁性細線1に印加される(図10(b)参照)。そのために、磁性細線1,1(1A,1B)間は、第3実施形態に係る磁気記録媒体10C(図6参照)における磁性細線1、導線8B間と同様に、40nm以下、3nm以上にすることが好ましい。
磁性細線1は、第1実施形態等と同様の構成であり、両端近傍に再生領域1rおよび書込領域1wが設定される。ただし、磁気記録媒体10Iにおいては、磁性細線1(1A,1B)が1本ずつ交互に電流Iscの向きを反転させているので、それに合わせて、再生領域1r、書込領域1wはそれぞれ磁性細線1の一端側と他端側とに入れ替えて設定される。このような構成にすることにより、同時に記録や再生をする隣り合う2本の磁性細線1,1の再生領域1r、書込領域1wが両端に分かれて設定されるので、磁性細線1,1間の間隔が狭くても、それぞれに磁気ヘッド等(データ記録部5、データ再生部6、図示省略)を対向させ易い。
さらに、データの再生においては、例えば磁気方式を適用すると、選択した再生対象の磁性細線1の両隣の磁性細線1,1からの磁界で、再生用の磁気ヘッド(データ再生部6)による磁気検出の精度が低下する虞がある。このような場合、磁性細線1の再生領域1rにおいて隣の磁性細線1が対向しないように、その手前で隣の磁性細線1を負電極32Cに接続すればよい。図10(a)に示すように、磁性細線1Aの再生領域1r近傍には、磁性細線1Bに接続した非磁性の負電極32Cを延伸させて、負電極32Cに流れる電流Iscで生成した磁界HBを磁性細線1Aに印加する。これは、磁性細線1Bの再生領域1rについても同様である。あるいは光磁気方式での再生において、磁性細線1のピッチがレーザー光の回折限界以上でないと再生が困難であるので、隣の磁性細線1の、磁性細線1の再生領域1rに対向する領域に、光を吸収する遮光膜を設けたり、反射膜を設けない(あるいは再生領域1rにのみ反射膜を設ける)ことで、入射したレーザー光が磁性細線1の再生領域1rのみから反射、出射する構成にすればよい。すなわち、磁気記録媒体10Iにおいて、磁性細線1,1のピッチ(磁性細線1の幅と磁性細線1,1の間隔との和)は、第1実施形態に係る磁気記録媒体10等における下限の半分まで狭くすることができるといえる。
なお、データの記録においては、磁界印加方式であれば、例えば記録用の磁気ヘッド(データ記録部5)が、磁性細線1Aの書込領域1wに対向する隣の磁性細線1Bの領域まで一緒に磁化方向を変えても、この磁性細線1Bの領域をデータの格納領域外に設定すればよい。あるいは、記録方式にスピン注入磁化反転を適用してもよい。
磁気記録媒体10Iにおいては、磁性細線1の細線長さが長くなると、磁性細線1の両端間でパルス電流の遅延によるズレが生じ、対向する磁性細線1,1(1A,1B)間の同期が不完全となるので、このズレがパルス幅に対して十分に小さい範囲内となるように設計する。
(磁気記録再生装置)
第5実施形態に係る磁気記録再生方法によれば、第3実施形態と同様に、磁界発生電流源(図1、図4、図5(a)に示すコイル電源9)は不要である。ただし、磁気記録再生装置50(図1参照)は、図10(a)に示すように、走査電流源7を2つ備え、それぞれが、隣り合う2本の磁性細線1,1(1A,1B)に同時にかつ互いに逆向きにパルス電流を供給する構成にする。さらに磁気記録再生装置50は、データ記録部5およびデータ再生部6(図3参照)を2つずつ備えて(あるいは2箇所の磁化や磁気検出に対応して)、これら2本の磁性細線1A,1Bのそれぞれの領域1w,1rに対向させる構成にする。なお、磁気記録再生装置50は、1つの走査電流源7を、正負を互いに逆にして並列に磁性細線1,1に接続してもよい(図示せず)。
(磁気記録再生方法)
本発明の第5実施形態に係る磁気記録再生方法は、選択工程にて隣り合う2本の磁性細線1,1(1A,1B)を選択すること、さらに磁区移動工程にて、これら磁性細線1A,1Bの磁区を互いに逆方向に移動させることを除き、前記第3実施形態に係る磁気記録再生方法と同様である。本実施形態においては、これら磁性細線1A,1Bに、ピーク期間が同期するようにパルス電流を供給する。すなわち磁区移動工程において、図10(a)に示すように、1本の磁性細線1Aにピーク電流Iscが供給されているのと同時に、その隣の磁性細線1Bにも電流Iscが磁性細線1Aと逆向きに供給されている。これにより、図10(b)に示すように、磁性細線1A,1Bのそれぞれを軸に回転する向きの磁界HA,HBが生成し、磁性細線1Aには磁界HBが、磁性細線1Bには磁界HAが、それぞれ下向きに印加される。
第5実施形態に係る磁気記録再生方法によれば、狭い間隔で隣り合う2本の磁性細線1,1にパルス電流を同時に供給して、並列にデータを記録、再生することにより、磁性細線1,1のそれぞれに、他方の磁性細線1から略鉛直方向に磁界が印加されて、磁性細線1,1に供給するパルス電流のピーク電流(電流Isc)を低減することができる。なお、第3実施形態と同様に、電流Iscを小さくすれば磁界H(HA,HB)も小さくなるため、有効な大きさの磁界Hが得られる程度にしつつ、十分に低減された電流Iscとなるように、磁気記録媒体10Iは、磁性細線1の材料、太さ(幅および厚さ)、ならびに磁性細線1,1間の間隔等を設計されることが好ましい。
第5実施形態に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体10Iは、隣り合う2本の磁性細線1,1が、同じ方向にパルス電流Iscが供給されるように構成されてもよい。この場合、磁区移動工程において、隣り合う磁性細線1,1に同時に電流Iscが供給されたとき、一方の磁性細線1には上向きに、他方の磁性細線1には下向きに、それぞれ磁界Hが印加される。また、このような磁気記録媒体であれば、磁性細線1,1同士でパルス電流の遅延によるズレが生じないので、磁性細線1の細線長さを長く形成することができる。なお、隣り合う磁性細線1,1の書込領域1w,1w、再生領域1r,1rがそれぞれ近接して設定されるため、このような配置に対応可能な記録・再生方式を適用する。
磁気記録媒体10Iは、同時に選択される隣り合う2本の磁性細線1,1の組同士の間隔が広く設けられていてよく、すなわち、磁性細線1が2本毎に間隔を広くして並設されていてもよい。また、磁気記録媒体10Iは、第1、第2実施形態と同様に、磁性細線1が同心円状に形成された円盤形状でもよい(図示せず)。
第5実施形態に係る磁気記録再生方法においては、隣り合う2本の磁性細線1,1の組を2組以上同時に選択して、パルス電流を並列に供給して磁区移動させてもよい。ただし、選択する組同士の間を1組(2本)以上空けて選択する。言い換えると、等間隔で隣り合う2組以上(隣り合う4本以上)の磁性細線1に同時にパルス電流を供給しないようにする。例えば、図10に示す4本の磁性細線1(1A,1B,1A,1B)に同時に電流Iscを供給したとき、図10(b)における左から2本目の磁性細線1Bには、左側の(左端の)磁性細線1Aから磁界HAが上向きに、右側の磁性細線1Aから磁界HAが下向きに、それぞれ印加されるため、これら逆向きの磁界HA,HAが打ち消し合って実質的に磁界が印加されない。左から3本目の磁性細線1Aについても同様に磁界が印加されない。このように、両隣の磁性細線1,1が同じ方向に電流Iscを供給されるため、逆向きの磁界が打ち消し合って実質的に磁界が印加されず、低減した走査電流Iscで磁区が移動しない虞がある。これは、隣り合う磁性細線1,1に、電流Iscを同じ向きに供給する場合も同様である。なお、磁性細線1,1の組同士の間隔が広い場合は、隣の組の磁性細線1から印加される磁界の方が弱いので、この限りではない。後記変形例にて、隣り合う4本以上の磁性細線1に並列にデータを記録、再生する方法を説明する。
第5実施形態に係る磁気記録媒体は、第3実施形態等と同様に、直線状の磁性細線1を並設した空間光変調器の画素アレイとすることができ、本実施形態に係る磁気記録再生方法により、前記空間光変調器の画素に書込をすることができる。本実施形態に係る空間光変調器においては、磁性細線1,1間の間隔が入射する光の回折限界未満となるため、開口率(画素において光変調する領域の面積率)が実質的に100%となる。
(変形例)
前記第5実施形態に係る磁気記録再生方法では、隣り合う2本を超える、すなわち隣り合う3本以上の磁性細線に並列してデータを記録、再生することができないと説明した。しかし、それぞれの磁性細線について、その両隣の磁性細線同士で逆向きに電流が供給されるように構成することにより、隣り合う任意の本数の磁性細線のすべてに十分な大きさの磁界を印加することができ、これらの磁性細線に並列してデータを記録、再生することができる。以下、本発明の第5実施形態の変形例に係る空間光変調器およびその画素駆動方法について、図11を参照して説明する。第1〜第5実施形態(図1〜10参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
第5実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素駆動方法で画素に書込をされる空間光変調器10Jは、矩形板状の基板2(図示省略)上に、4以上の偶数本の直線状の磁性細線1,1,…を並設して備える。空間光変調器10Jは、図11においては簡略化して、磁性細線1を6本のみ備える構成として、図11(a)における手前から(図11(b)における左から)順に、磁性細線1DMY,1A1,1B1,1B2,1A2,1DMYの符号を付し、さらに絶縁層4を省略する。本変形例に係る空間光変調器10Jにおいては、磁性細線1を2本毎に向きを反転させてパルス電流(走査電流Isc)を供給する。すなわち、磁性細線1DMY,1A1は順方向、磁性細線1B1,1B2は逆方向、磁性細線1A2,1DMYは順方向に、電流Iscが供給される。
磁性細線1のそれぞれは、第1実施形態で説明した空間光変調器における磁性細線1と同様の構成にすることができる。ただし、空間光変調器10Jにおいて、磁性細線1の細線長さおよび磁性細線1,1間の間隔については、第5実施形態に係る磁気記録媒体10I(図10参照)の磁性細線1(1A,1B)と同様とし、供給される電流Iscの向きに応じて電極31,32が磁性細線1の両端に接続される。
並設方向(細線幅方向)における両端(以下、両縁という)の2本の磁性細線1DMY,1DMYを除いた4本の磁性細線1A1,1A2,1B1,1B2は、空間光変調器10Jの画素を構成し、負電極32の側に書込領域1wが設定される。そして、これら並設した4本の磁性細線1は、書込領域1wおよび書込領域1wと対向する端部近傍のそれぞれを除く領域、すなわち細線方向中央で画素アレイ(図11(a)に二点鎖線で表す)を構成する。本実施形態においては、それぞれの磁性細線1は、細線方向に連続して4個の画素を設けられるように、画素長(単位長さ)Lb毎に区切る凹部1trpが形成されている。すなわち、空間光変調器10Jの画素アレイは、4行×4列の16個の画素からなる。
なお、空間光変調器10Jにおいて、同じ向きに電流Iscを供給されて並列にデータの書込をされ、かつ隣り合う磁性細線1B1,1B2においては、例えば磁界印加方式としてそれぞれに記録用の磁気ヘッド(データ記録部5、図3参照)を対向させるために、それぞれの書込領域1wを細線方向にずらして距離を空けて設けてもよい(図示せず)。あるいはスピン注入磁化反転を適用して、電極等を設ける場合も同様である。このような隣り合う磁性細線1,1のそれぞれの書込領域1wを細線方向にずらして設ける場合は、それぞれの磁性細線1において書込領域1wに生成した磁区を所定の位置に移動させるために、1データ分(画素長Lb)の整数倍ずらすことが好ましい。
一方、空間光変調器10Jにおける両縁の2本の磁性細線1DMY,1DMYは、磁界を生成するための磁性細線であり、画素を構成する磁性細線1A1,1A2,1B1,1B2のすべてに、それぞれ両隣から磁界を印加するために設けられる。したがって、磁性細線1DMY,1DMYは、データを格納しないダミーであり、磁性細線1A1,1A2等と同様の構成にすることができるが、データの書込をされないので書込領域1wや凹部1trpは不要である(図11(a)に示す凹部1trpのように、形成されてもよい)。
本実施形態に係る空間光変調器10Jは、さらにデータ記録部(磁化手段)5(図3参照)および走査電流源(電流供給手段)7を備える。走査電流源7は、すべての磁性細線1のそれぞれに所定の向きにパルス電流を供給する構成にする。図11(a)においては、同じ向きに電流Iscを供給される隣り合う2本の磁性細線1,1に1つの走査電流源7を並列に接続するが、これに限られない。データ記録部5は、両縁のダミーの磁性細線1DMY,1DMYを除く磁性細線1のそれぞれの書込領域1wに対向させて備える(図11(a)においては図示省略)。
(空間光変調器の画素駆動方法)
本発明の第5実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素駆動方法は、選択工程にて隣り合う2以上の所定の本数(ここでは4本)の磁性細線1を選択すること、さらに磁区移動工程にて、これら選択した磁性細線1の組の両側の磁性細線1DMY,1DMYにも電流(パルス電流のピーク電流)を供給することを除き、前記第5実施形態に係る磁気記録再生方法と同様である。これにより、磁区移動工程(パルス電流のピーク期間)において、図11(b)に示すように、ダミーの磁性細線1DMYも含め、それぞれの磁性細線1を軸に回転する向きの磁界HA,HBが生成する。詳しくは、電流Iscが順方向に供給される磁性細線1DMY,1A1,1A2,1DMYの周囲に磁界HAが、電流Iscが逆方向に供給される磁性細線磁性細線1B1,1B2の周囲に磁界HBが、磁性細線1A2,1DMYの周囲に磁界HAが、それぞれ生成する。
このとき、磁性細線1A1には、左側(図11(b)における、以下同じ)の磁性細線1DMYから磁界HAが下向きに、右側の磁性細線1B1から磁界HBが下向きに、それぞれ印加される。したがって、磁性細線1A1には磁界HA,HBが合成された大きな合成磁界Hsynが下向きに印加される。同様に、磁性細線1B1には、左側の磁性細線1A1から磁界HAが下向きに、右側の磁性細線1B2から磁界HBが下向きに、それぞれ印加され、磁界HA,HBが合成された合成磁界Hsynが下向きに印加される。また、磁性細線1B2,1A2には、それぞれ左右から磁界HB,HAが上向きに印加され、磁界HB,HAが合成された合成磁界Hsynが上向きに印加される。
このように、磁性細線1の2本毎に向きを変えて電流Iscを同時に供給することにより、隣り合う3本以上の磁性細線1について、それぞれの両隣の磁性細線1,1同士で逆向きに電流Iscが流れるので、両側から磁界HA,HBが同じ向きに印加されて打ち消し合うことなく合成される。したがって、第5実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素駆動方法によれば、第5実施形態に係る磁気記録再生方法と同様に、並列に磁区を移動させる磁性細線1同士で磁界を印加し合うため、それぞれの磁性細線1に供給するパルス電流のピーク電流(走査電流Isc)を低減することができる。特に本変形例においては、磁性細線1へ両側から磁界HA,HBが印加されて合成されるため、走査電流Iscを大きくしなくても、磁性細線1に印加される磁界(合成磁界Hsyn)を十分な大きさにすることができる。また、両縁の磁性細線1,1を、データを格納しないダミーとすることにより、その他の磁性細線1のすべてについて、両側から磁界が印加されて同じ大きさの合成磁界になるので、低減した走査電流Iscで磁区を移動させることができる。
第5実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素駆動方法は、第5実施形態と同様に、磁気記録再生方法に適用することができる。本変形例に係る磁気記録再生方法でデータを記録、再生される磁気記録媒体は、図11(a)に示す磁性細線1(1A1,1B1,1B2,1A2)に、第5実施形態(図10(a)参照)と同様に再生領域1rを設定すればよく、また、磁性細線1を同心円状に形成してもよい。このような磁気記録媒体においては、最外周および最内周の2本をダミーの磁性細線1DMY,1DMYとする。
第5実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素駆動方法または磁気記録再生方法においては、すべての磁性細線1(ダミーの磁性細線1DMY,1DMYを除く)に並列にデータを記録、再生しなくてもよい。具体的には、隣り合うn本の磁性細線1のみに並列に記録、再生してもよく、このとき、これらn本の磁性細線1とその両外側の磁性細線1,1との隣り合う計(n+2)本に同時にパルス電流を供給する。このとき、両外側の磁性細線1,1は磁界を生成するためのダミーであり、すでにデータが記録されている(磁区が生成している)場合にはシフト移動しないように、磁界が片側のみから印加された状態では磁壁移動しない電流密度の電流Iscに調整する。あるいは、n本置きに((n+1)本あたりに1本の)ダミーの磁性細線1DMYを備える磁気記録媒体としてもよい。
なお、本変形例において、並列にデータを記録、再生することのできる磁性細線1の組の本数は、最少で2本であるが(n≧2)、さらにダミーとして両側に2本の磁性細線1にもパルス電流を供給する必要があるので、2本では使用する電流の総量が却って増大することになるため、4本以上とすることが好ましい。
以上のように、本発明の第5実施形態およびその変形例に係る磁気記録再生方法および空間光変調器によれば、データを記録される磁性細線を磁界印加手段として、データの記録や再生の際に使用する電流を低減することができ、また、磁気記録媒体や空間光変調器の磁性細線の劣化を抑えることができる。
以上、本発明に係る磁気記録媒体装置および磁気記録再生方法、ならびに空間光変調器を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。