以下、本発明に係る第1乃至第3実施形態の油圧駆動システム1,1A,1Bについて図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する油圧駆動システム1,1A,1Bは、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
[第1実施形態]
建設機械は、バケット、ローダ、ブレード、巻上機等の種々のアタッチメントを備え、油圧シリンダや油圧モータ(電油モータ)等の油圧アクチュエータによって動かすようになっている。例えば、建設機械の1種である油圧ショベルは、バケット、アーム及びブームを備えており、これら3つの部材を動かしながら掘削等の作業を行うことができるようになっている。バケット、アーム、及びブームの各々には油圧シリンダ11〜13が設けられており、各シリンダ11〜13に圧油を供給することでバケット、アーム、及びブームが動くようになっている。
また、油圧ショベルは、走行装置を有しており、更に走行装置の上には、旋回体が旋回可能に取り付けられている。旋回体には、ブームが上下方向に揺動可能に取り付けられている。旋回体には、油圧式の旋回用モータ14が取り付けられており、旋回用モータ14に圧油を供給することで旋回体が旋回するようになっている。また、走行装置には、油圧式の走行用モータ15(左走行用モータ15L及び右走行用モータ15R)が取り付けられており、走行用モータ15に圧油を供給することで前進又は後退するようになっている。
油圧ショベルには、後述する操作弁19が油圧アクチュエータ11〜15の各々に対応付けて設けられている。なお、図1には、1つの操作弁19だけを示している。油圧アクチュエータ11〜15(即ち、油圧シリンダ11〜13及び油圧モータ14,15)には、油圧供給装置16が接続されている。複数の操作弁19の操作具の何れかが操作されると、この操作弁19と対応付けられた油圧アクチュエータ11〜15に油圧供給装置16から圧油が供給され、対応付けられた油圧アクチュエータ11〜15が作動するようになっている。
更に詳細に説明すると、油圧供給装置16は、2つの油圧ポンプ17L,17Rと、油圧制御弁18と、複数の操作弁19と、2つの傾転角調整装置20とを有している。2つの油圧ポンプ17L,17Rは、1つの回転軸17aを共有しており、回転軸17aを回転させることで圧油を吐出するようになっている。油圧ポンプ17L,17Rから吐出された圧油は、油圧制御弁18に導かれるようになっている。油圧制御弁18には、複数の操作弁19が繋がっている。操作弁19は、図示しない操作具(操作レバー等)を有しており、複数の操作弁19の操作レバーの何れかが操作されると、操作された操作具に対応する油圧アクチュエータ11〜15に圧油を流すように圧油の流れを制御するようになっている。
各操作弁19は、操作具が操作されると操作具の操作量(例えば、傾倒量)に応じた圧力のパイロット油を、操作具の操作方向(例えば、傾倒方向)に応じた方向に出力するようになっている。出力されたパイロット油は、油圧制御弁18に導かれ、油圧制御弁18は、出力されるパイロット油に応じて油圧ポンプ17L,17Rから吐出される圧油の流れを制御する。即ち、油圧制御弁18は、操作される操作具に対応する油圧アクチュエータ11〜15に圧油を流してそれらを作動させるようになっている。また、油圧制御弁18は、操作具から出力されるパイロット圧に応じた流量の圧油を対応する油圧アクチュエータ11〜15に供給し、操作具の操作量に応じた速度で油圧アクチュエータ11〜15を動かすようになっている。このようにして操作具の操作量に応じた速度でバケット、アーム、及びブーム等を動かすことができるようになっている。
このように構成されている油圧供給装置16では、油圧ポンプ17L,17Rとして可変容量型のポンプ、本実施形態では可変容量型の斜板ポンプが採用されている。なお、油圧ポンプ17L,17Rは、同一の構成を有しているので、一方の油圧ポンプ17Lの構成についてだけ説明し、他方の油圧ポンプ17Rの構成の説明は省略する。
油圧ポンプ17Lは、斜板17bを有しており、傾転角を変えることで吐出容量を変えられるようになっており、油圧ポンプ17には斜板17bの傾転角を変えるべく傾転角調整装置20が設けられている。傾転角調整装置20は、パワーシフトバルブ20aとサーボ機構20bとを有している。パワーシフトバルブ20aは、例えば電磁比例弁であり、図示しないパイロットポンプに接続されている。パワーシフトバルブ20aは、後述する制御装置30から出力されるパワーシフト指令(最大出力指令)に応じたパワーシフト圧p1を出力するようになっている。パワーシフトバルブ20aは、サーボ機構20bに接続されており、出力された駆動油は、サーボ機構20bに導かれるようになっている。
サーボ機構20bは、図示しないサーボピストンを有している。サーボピストンには、斜板17bが連結されており、サーボピストンが移動することで斜板17bの傾転角を変えることができるようになっている。サーボピストンは、パワーシフト圧p1に応じてポンプ最大出力を制限するようになっている。即ち、斜板17bの傾転角は、パワーシフト圧p1に応じて調整されるようになっている。本実施形態では、サーボ機構20bは、パワーシフト圧p1が大きくなると斜板17bの傾転角を小さくし、パワーシフト圧p1が小さくなると斜板17bの傾転角を大きくするようになっている。このように傾転角調整装置20は、傾転角を調整して油圧ポンプ17Lの吐出容量を制御することによって、油圧ポンプ17Lのポンプトルクを調整するようになっている。
なお、油圧供給装置16は、ネガティブコントロール方式の油圧システムを構成しており、傾転角調整装置20にネガコン圧を出力するようになっている。サーボ機構20bでは、このネガコン圧及びパワーシフト圧p1のうち何れか高い方の油圧に応じた角度に斜板17bの傾転角を調整するようになっている。このような構成では、パワーシフト圧p1によって油圧ポンプ17L,17Rの最大吐出容量(即ち、最大ポンプ流量)を制限できるようになっている。このように構成されている油圧ポンプ17L,17Rの回転軸17aには、エンジンEが設けられている。
エンジンEは、油圧ポンプ17L,17Rの回転軸17aを回転駆動するようになっている。本実施形態において、エンジンEとしてディーゼルエンジンが採用されており、エンジンEは、エンジン回転数制御機器21を有している。エンジン回転数制御機器21は、いわゆる機械式のガバナであって、そこにアクセル開度指令が入力されるようになっている。エンジン回転数制御機器21は、ドゥループ特性に従ってエンジンEの燃料噴射量を調整するようになっている。なお、回転数制御機器21としてECUが用いられてもよい。このときECUによって燃料噴射装置の燃料噴射量が電子制御されて回転軸17aの回転速度が設定回転数指令値に調整されるようになっている。なお、エンジンEは、必ずしもディーゼルエンジンである必要はなく、ガソリンエンジンであってもよい。
また、回転軸17aには、回転数センサ22が取り付けられており、回転数センサ22は、回転軸17aの回転数に応じた信号を出力するようになっている。回転数センサ22は、制御装置30に電気的に接続されており、制御装置30は回転数センサ22からの信号に基づいてエンジンEの実際の回転数、即ち実回転数を演算するようになっている。なお、電子制御式の場合には、制御装置30は、CAN通信等の通信手段によってECUと通信可能に接続され、ECUから信号を受信するようになっている。更に、制御装置30には、アクセルダイヤル24及びモード入力装置25がCAN通信等を用いる通信手段を介して接続されている。
アクセルダイヤル24は、設定回転数のランクを設定するためのダイヤル式の回転数設定装置である。アクセルダイヤル24は、運転者が合わせた目盛りに応じた信号を制御装置30に出力するようになっている。また、モード入力装置25は、モードを入力するための装置であり、例えばパネル等によって構成される入力手段である。モード入力装置25は、運転者が前記入力手段を介して入力した指令をCAN信号として制御装置30に出力するようになっている。
制御装置30は、目標回転数計算マップを有しており、目標回転数計算マップでは、目標回転数Ntがアクセルダイヤル24及びモード入力装置25から出力される信号に対応付けられている。制御装置30は、目標回転数計算マップを用いてアクセルダイヤル24及びモード入力装置25から夫々出力される2つの信号に基づいて目標回転数Ntを算出するようになっている。また、制御装置30は、算出された目標回転数Ntに応じたアクセル開度指令をエンジン回転数制御機器21に出力し、エンジン回転数制御機器21によってエンジンEの燃料噴射量を制御するようになっている。
このように構成されている制御装置30は、傾転角調整装置20のパワーシフトバルブ20aにパワーシフト指令を出力して、油圧ポンプ17L,17Rの斜板17bのポンプ出力を調整するようになっている。制御装置30は、パワーシフト指令を出力すべく図3に示すような各種値を演算する機能部分を有しており、各種値を予め定められた間隔で演算するようになっている。以下では、各種値を演算する機能部分毎にブロックに分けて説明する。
制御装置30は、エンジンスピードセンシング制御ブロック(略称:ESS制御ブロック)31と、過渡特性スピードセンシング制御ブロック(略称:DSS制御ブロック)32と、低減量選択部33と、パワーシフト量設定部34と、パワーシフト量補正部35と、パワーシフト指令出力部36とを有している。ESS制御ブロック31は、エンジンEの実回転数Nが予め設定される設定回転数Nset未満になると、設定回転数Nsetと実回転数Nとの差である回転数差に基づいて油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を制御する(即ち、ESS制御する)ようになっている。本実施形態において、ESS制御ブロック31は、回転数差に基づいて油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量をPID制御するべく、低減すべきパワーシフト量である第1低減量を演算するようになっている。なお、ESS制御ブロック31で実行されるESS制御は、必ずしもPID制御である必要はなく、PI制御又はPD制御であってもよい。以下では、ESS制御ブロック31の構成を更に詳細に説明する。
ESS制御ブロック31は、設定回転数演算部41と、回転数差演算部42と、PID制御部43と、第1下限制限部44とを有している。設定回転数演算部41は、アクセルダイヤル24からの信号に基づいてランクを決定し、且つモード入力装置25からの信号に基づいてモードを決定するようになっている。また、設定回転数演算部41は、図3に示すような設定回転数演算マップ41aを有しており、設定回転数演算マップ41aでは、設定回転数Nsetが前記ランク及びモードと対応付けられている。設定回転数演算部41は、設定回転数演算マップ41aを用いることによって、決定されたランク及びモードに基づいて設定回転数Nsetを演算する。演算された設定回転数Nsetは、回転数差演算部42で用いられる。
回転数差演算部42は、設定回転数Nsetと実回転数Nとの差である回転数差を演算するようになっている。具体的に説明すると、回転数差演算部42は、設定回転数Nsetから実回転数Nを減算した回転数差を演算する。演算された回転数差は、PID制御部43で用いられる。PID制御部43は、PID制御の制御演算式を用いることによって回転数差に基づいて、実回転数Nを設定回転数Nsetへと近づけるために低減すべきパワーシフト量である第1低減量を演算する。なお、本実施形態のPID制御部43では、実回転数Nが設定回転数Nset以上である場合、油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を増加させるべく第1低減量が負の値として算出される。
第1下限制限部44は、実回転数Nが設定回転数Nset以上である場合にESS制御が実行されないようにするためのリミッターであり、第1低減量がゼロ未満である場合に第1低減量をゼロとするようになっている(図3の第1下限制限部44のグラフ参照)。なお、第1増減量がゼロ以上である場合、第1下限制限部44は第1低減量をそのまま値とする。このように、第1下限制限部44では、第1低減量の下限値が制限されるようになっている。制限された第1低減量は、第2低減量と共に低減量選択部33で用いられる。第2低減量は、DSS制御ブロック32で算出される。
DSS制御ブロック32は、エンジンEの実回転数Nの減速度が予め定められた値未満になると、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を制御する、即ちDSS制御をするようになっている。なお、本実施形態において、DSS制御ブロック32は、実回転数Nの微分値ΔNが予め定められた設定微分値ΔNset(制御開始閾位置)未満になると、前記微分値ΔNに基づいて油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を制御するようになっている。具体的に説明すると、DSS制御ブロック32は、実回転数Nの微分値ΔNに基づいて油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を制御するべく第2低減量を演算するようになっている。第2低減量は、実回転数Nの急激な落ち込みを防ぐために低減すべきパワーシフト量である。以下では、DSS制御ブロック32の構成を更に詳細に説明する。
DSS制御ブロック32は、フィルター部51と、微分演算部52、不感帯設定部53と、基準低減量演算部54と、第2下限制限部57とを有している。フィルター部51は、いわゆるローパスフィルターであり、回転数センサ22からの信号に基づいて演算されるエンジンEの実回転数Nの高周波成分を逓減する(即ち、フィルター処理する)ようになっている。なお、フィルター部51は、必ずしも実回転数Nの高周波成分を逓減する必要はなく、後で演算される実回転数Nの微分値ΔNの高周波成分を逓減するようにしてもよい。逓減された実回転数Nは、微分演算部52で用いられる。微分演算部52では、フィルター部51で演算された実回転数Nに基づいて実回転数Nの減速度、即ち実回転数Nの微分値ΔNを演算する。演算された実回転数Nの微分値ΔNは、不感帯設定部53で用いられる。
不感帯設定部53は、フィルタリング機能を有しており、実回転数Nの微分値ΔNがランプ関数のように演算される。具体的に説明すると、不感帯設定部53は、実回転数Nの微分値ΔNが予め定められる設定微分値ΔNset以上の場合に実回転数Nの微分値ΔNをゼロとするようになっている(図3の不感帯設定部53のブロック内のグラフ参照)。他方、実回転数Nの微分値ΔNが設定微分値ΔNset未満の場合、不感帯設定部53は、実回転数Nの微分値ΔNから設定微分値ΔNsetを減算した値である減算微分値ΔN−ΔNsetを算出する。不感帯設定部53は、このようにして実回転数Nの微分値ΔNが設定微分値ΔNset以上の場合に微分値ΔNをゼロにし、実回転数Nの微分値ΔNが設定微分値ΔNset以上の領域に不感帯を設定している。このように不感帯設定部53は、微分値ΔNに対してフィルタリングを行い、フィルタリングされた微分値ΔNfilは、基準低減量演算部54で用いられる。基準低減量演算部54は、不感帯設定部53でフィルタリングされた微分値ΔNfilに予め定められたゲインを乗算した基準低減量を演算する。なお、本実施形態において、前記ゲインは、負の値が設定されるようになっており、演算される基準低減量は正の値となっている。
第2下限制限部57は、基準低減量がゼロ未満である場合(即ち、ポンプ流量を増量させるような演算結果である場合)にDSS制御が実行されないようにするためのリミッターである。第2下限制限部57は、基準低減量がゼロ未満である場合に基準低減量をゼロとするようになっている(図3の第2下限制限部57のグラフ参照)。なお、基準増減流量がゼロ以上である場合、第2下限制限部57は第2低減量を基準低減量の値とする。このように、第2下限制限部57では、基準低減量の下限値が制限されるようになっている。制限された基準低減量は、第2低減量としてESS制御ブロック31で演算される第1低減量と共に低減量選択部33で用いられる。
低減量選択部33は、第1低減量及び第2低減量を比較し、低減量が多い方を選択するようになっている。選択された方の低減量である選択低減量は、パワーシフト量設定部34で演算される目標パワーシフト量と共にパワーシフト量補正部35で用いられる。パワーシフト量設定部34は、アクセルダイヤル24及びモード入力装置25からの信号に基づいて夫々決定されるランク及びモードに基づいて目標パワーシフト量を演算するようになっている。更に詳細に説明すると、パワーシフト量設定部34は、パワーシフト量演算マップを有しており、パワーシフト量演算マップでは、目標パワーシフト量がランク及びモードと対応付けられている。パワーシフト量設定部34は、パワーシフト量演算マップを用いることによって、決定されたランク及びモードに基づいて目標パワーシフト量を演算する。演算された目標パワーシフト量は、低減量選択部33で選択される選択低減量と共にパワーシフト量補正部35で用いられる。
パワーシフト量補正部35は、目標パワーシフト量と選択低減量とに基づいて補正パワーシフト量を演算するようになっている。更に詳細に説明すると、パワーシフト量補正部35は、目標パワーシフト量から選択低減量を減算して補正パワーシフト量を演算するようになっている。このようにして演算された補正パワーシフト量は、実回転数Nの減少が緩やかで且つ実回転数Nが設定回転数Nset以下となる場合等のように第1低減量が第2低減量より大きい場合、目標パワーシフト量から第1低減量を減算した値となる。他方、実回転数Nの減少が急激な場合等のように第1低減量が第2低減量より小さい場合、補正パワーシフト量は、目標パワーシフト量から第2低減量を減算した値となる。パワーシフト指令出力部36は、油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を演算された補正パワーシフト量にするべく前記補正パワーシフト量に応じた電流指令であるパワーシフト指令をパワーシフトバルブ20aに出力し、パワーシフトバルブ20aの動きを制御するようになっている。
このような構成を有する油圧駆動システム1は、油圧ポンプ17L,17Rの負荷が大きくなってエンジンEの回転数が低下すると、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を抑制すべく斜板17bの傾転角を調整するようになっている。以下では、操作具の何れかが操作されて油圧ポンプ17L,17Rの負荷が増大した際の制御装置30の回転数低下抑制制御の処理(即ち、回転低下抑制処理)について、図4乃至6を参照しながら説明する。油圧駆動システム1では、エンジンEが駆動されると制御装置30が回転低下抑制処理を開始し、ステップS1に移行する。
ステップS1である設定回転数演算工程では、まずESS制御ブロック31の設定回転数演算部41がアクセルダイヤル24及びモード入力装置25からの信号に基づいてランク及びモードを決定する。次に、設定回転数演算部41は、決定されたランクとモードとに基づいて設定回転数Nsetを演算する。設定回転数Nsetが演算されるとステップS2及びステップS3に移行する。ステップS2であるESS制御演算工程では、実回転数Nと設定回転数Nsetとの差である回転数差に基づいて油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を制御すべく、ESS制御演算処理が実行されて第1低減量が演算される。他方、ステップS3であるDSS制御演算工程は、実回転数Nの微分値(即ち、実回転数の減速度)に基づいてポンプ出力を制御すべく、DSS制御演算処理が実行されて第2低減量が演算される。以下では、まず図5を参照しながら、ESS制御演算工程で実行されるESS制御演算処理の詳細を説明する。
ESS制御演算処理では、処理が始まるとステップS11に移行する。ステップS11である回転数差演算工程では、実回転数Nと設定回転数Nsetとに基づいて回転数差演算部42が回転数差を演算する。回転数差を演算されると、ステップS12に移行する。ステップS12である第1低減量演算工程では、回転数差演算部42が演算した回転数差に基づいてPID制御部43が第1低減量を演算する。第1低減量が演算されると、ステップS12からステップS13に移行する。ステップS13である第1下限制限工程では、第1低減量がゼロ未満である場合(即ち、実回転数Nが設定回転数Nset以上である場合)、第1下限制限部44が第1低減量をゼロにする。他方、第1低減量がゼロ以上である場合(即ち、実回転数Nが設定回転数Nset未満である場合)、第1下限制限部44は、第1低減量をそのままの値とする。このように第1下限制限工程では、第1低減量がゼロ未満の値とならないように第1低減量を制限する。これによって、実回転数Nが設定回転数Nset以上である場合にESS制御が実行されないようになっている。第1低減量の下限制限が行われるとESS制御演算処理が終了する。次に、図6を参照しながら、ステップS3であるDSS制御演算工程で実行されるDSS制御演算処理の詳細を説明する。
DSS制御演算処理では、処理が始まるとステップS21に移行する。ステップS21であるフィルタリング工程では、フィルター部51が実回転数Nの高周波成分を逓減する。逓減されると、ステップS22に移行する。ステップS22である微分値演算工程では、低減された実回転数Nに基づいて微分演算部52が微分値ΔNを演算する。微分値ΔNが演算されると、ステップS23に移行する。
ステップS23である不感帯設定工程は、微分値ΔNが予め定められた設定微分値ΔNset以上の領域(即ち、実回転数Nが増加する又は緩やかに減少をする場合)において、不感帯設定部53が微分値ΔNをゼロにする。他方、微分値ΔNが予め定められた設定微分値ΔNset未満の領域(即ち、実回転数Nの減少が急である場合)において、不感帯設定部53が微分値ΔNから設定微分値ΔNsetを減算した値である減算微分値ΔN−ΔNsetを算出する。このように、不感帯設定工程では、実回転数Nが増加する又は緩やか減少する場合に微分値ΔNをゼロとし、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を無駄に増減させないようになっている。微分値ΔNがフィルタリングされると、ステップS24に移行する。ステップS24である基準低減量演算工程では、ステップS23でフィルタリングされた微分値ΔNfilに予め定められたゲインを乗算して基準低減量を演算する。基準低減量が演算されると、ステップS25に移行する。
ステップS25である第2下限制限工程では、第2低減量がゼロ未満である場合、第2下限制限部57が第2低減量をゼロにする。他方、第2低減量がゼロ以上である場合、第2下限制限部57は、第2低減量を基準低減量の値とする。第2低減量の下限制限が行われるとDSS制御演算処理が終了する。ESS制御演算処理と共にDSS制御演算処理が終了すると、ステップS2及びステップS3からステップS4に移行する。以下では、図4を再び戻り、ステップS4以降の手順について説明する。
ステップS4である低減量選択工程では、演算された第1低減量及び第2低減量を比較し、それらのうち低減量が大きい方を選択低減量として選択する。選択低減量が決まると、ステップS5に移行する。ステップS5であるポンプ出力決定工程では、ポンプ出力演算マップを用いることによってステップS1で決定されたランク及びモードに基づいてパワーシフト量設定部34が目標パワーシフト量を演算する。次に、パワーシフト量補正部35が演算された目標パワーシフト量から選択低減量を減算して補正パワーシフト量を演算する。このようにして演算された補正パワーシフト量が油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量として決定され、ステップS6に移行する。ステップS6であるパワーシフト量低減工程では、パワーシフト指令出力部36が補正パワーシフト量に応じたパワーシフト指令をパワーシフトバルブ20aに出力し、油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を補正パワーシフト量に調整する。油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量が補正パワーシフト量に調整されると、ステップS1に戻る。これにより、油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量の調整が繰り返し行われる。
このように油圧駆動システム1の回転数低下抑制制御では、エンジンEの実回転数Nが低下すると、目標パワーシフト量から選択低減量を減算したパワーシフト量に油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を低減して実回転数Nの低下を抑制している。これにより、操作具が操作されてエンジンEの負荷が大きくなっても実回転数Nが過度に落ち込むことを防ぐことができる。これにより、実回転数Nの変動を抑制することができ、エンジンEの燃費を向上させることができる。以下では、操作具が操作されて油圧ポンプ17L,17Rの負荷が増大した際、回転数低下抑制制御によって実回転数Nの低下が抑制する効果について、図7のグラフを参照しながら説明する。図7のグラフには、操作具の何れかが操作されて油圧ポンプ17L,17Rの負荷が増大した際のエンジンEの実回転数Nの経時変化が示されている。なお、図7では、縦軸が実回転数N、横軸が時間tを示している。また、図7の実線は、ESS制御及びDSS制御の両方を実行可能な形態、即ち本実施形態の油圧ポンプ駆動システム1の実回転数Nの経時変化である。他方、図7の二点鎖線は、ESS制御だけを実行可能な形態の場合、即ち従来技術の油圧ポンプ駆動システムの実回転数Nの経時変化である。
油圧ポンプ駆動システム1では、操作具が操作されていない状態においてエンジンEが目標回転数Ntで回転しており、操作具が操作されるとエンジンEの負荷が上がるため実回転数Nが下がる(時刻t1)。実回転数Nが下がり始めるが、ランク及びモードに基づいて決定される設定回転数Nsetより大きいのでESS制御が実行されない。しかしDSS制御処理にて第2低減量が上昇する。これにより、時刻t11以降において従来技術の油圧ポンプ駆動システムに比べて実回転数Nの落ち込みが緩和される。その後も、油圧ポンプ駆動システム1及び従来技術の油圧ポンプ駆動システム共に実回転数Nの低下は進み、やがて従来技術の油圧ポンプ駆動システムでは設定回転数Nset以下となる(時刻t12参照)。そうすると、従来技術の油圧ポンプ駆動システムでは、ESS制御が実行されて実回転数Nの落ち込みが緩和される。他方、油圧ポンプ駆動システム1では、DSS制御によって実回転数Nが設定回転数Nset以上を維持している。
更に時間が経過すると、やがて油圧ポンプ駆動システム1の実回転数Nもまた設定回転数Nset以下に低下する(時刻t2参照)。そうすると、低減量の大きさに応じてESS制御及びDSS制御の何れかが実行されるが、DSS制御によって実回転数Nの落ち込みが緩和されているので、実回転数Nが設定回転数Nset以下になっても設定回転数Nset付近で維持される。このように、DSS制御を用いることによって、従来技術の油圧ポンプ駆動システムのように実回転数が設定回転数Nsetに対して大きく落ち込むことを抑制することができ、実回転数Nが過度に低下することを抑制することができる。
その後、操作具が元の位置、即ち中立位置に戻される(時刻t3参照)と、いわゆるエンジンEの負荷抜けが生じる。これにより、エンジンEの負荷が低減するので、実回転数Nが目標回転数Ntへと復帰していく。この際、実回転数Nの微分値ΔNが正の値となるが、微分値ΔNが正の値となる領域は不感帯設定部53によって不感帯として設定されている。そのため、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力が補正されることがない、即ち余分な補正をすることがないので、実回転数Nを素早く目標回転数Ntへと復帰させることができる。
このように構成されている油圧駆動システム1は、DSS制御によって実回転数Nの減速度に応じて目標パワーシフト量から低減する量を変更するので、速度の落込みが比較的大きくな(即ち、減速度の絶対値が比較的大きくなる)って実回転数Nが設定回転数Nsetを下回る前に油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を低減させることができる。つまり、エンジンEの実回転数Nが低くなることを事前に予測してポンプ出力が低減されるので、実回転数Nが過度に低下することを防ぐことができる。また、油圧駆動システム1では、実回転数Nが緩やかに減少する際にDSS制御が実行されない場合でも、設定回転数Nset以下になるとESS制御が実行される。それ故、実回転数Nが設定回転数Nsetに対して過剰に落ち込むことを防ぐことができる。
[第2実施形態]
第2実施形態の油圧駆動システム1Aは、第1実施形態の油圧駆動システム1と構成が類似している。以下では、油圧ポンプ駆動システム1Aについて、第1実施形態の油圧ポンプ駆動システム1の構成と異なる構成についてだけ説明し、同一の構成については説明を省略する。第3実施形態の油圧駆動システム1Bについても同様である。
第2実施形態の油圧駆動システム1Aでは、図8に示すように制御装置30AのDSS制御ブロック32Aが基準低減量演算部54で演算された基準パワーシフト量を補正係数kで補正し、補正された基準低減量を第2下限制限部57でフィルタリングするようになっている。このような機能を有するDSS制御ブロック32Aは、補正係数演算部55及び低減量補正部56を有している。
補正係数演算部55は、基準低減量演算部54にて演算された基準低減量とは別に基準低減量を補正するための補正係数を演算するようになっている。更に詳細に説明すると、補正係数演算部55は、補正係数演算マップを有しており、補正係数演算マップでは、エンジンEの実回転数Nと補正係数kとが図8の補正係数演算部55のブロック内のグラフのように対応付けられている。即ち、補正係数演算マップでは、実回転数Nが制限開始回転数Nlim未満である場合、補正係数kが予め定められたA1(本実施形態においてA1=1)となる。制限開始回転数Nlimは、設定回転数Nsetに予め定められたオフセット値Nofをオフセットした値である。また、実回転数Nが制限開始回転数Nlim以上で目標回転数Nt未満である場合、補正係数kが実回転数Nに応じて線形的に減少する。本実施形態では、実回転数Nが制限開始回転数Nlimで補正係数kが第1パラメータA1(本実施形態では、A1=1)となり、実回転数Nが目標回転数Ntで補正係数が第2パラメータA2(本実施形態では、A2=0)となるように、補正係数kが線形的に減少するようになっている。なお、実回転数Nが制限開始回転数Nlim以上で目標回転数Nt未満である場合における補正係数kの減少の態様は、必ずしも線形的である必要はなく、曲線的であってもよく一次遅れを有するようにしてもよい。更に、補正係数演算マップでは、実回転数Nが目標回転数Nt以上である場合、補正係数kがA2となっている。なお、補正係数kがA2にする実回転数Nの閾値は、必ずしも目標回転数Ntに限定されず、制限開始回転数Nlimに予め定められた値NWをオフセットした回転数であってもよい。この場合、オフセットした回転数が目標回転数Nt以下であることが好ましい。補正係数演算部55は、設定回転数演算部41で算出される設定回転数Nsetに基づいて制限開始回転数Nlimを演算し、演算された制限開始回転数Nlimによって補正係数演算マップを設定する。補正係数演算部55は、設定された補正係数演算マップを用いることによって実回転数Nに基づいて補正係数kを演算する。演算された補正係数kは、基準低減量演算部54で演算された基準低減量と共に低減量補正部56で用いられる。
低減量補正部56は、補正係数kと基準低減量とに基づいて第2低減量を演算する。更に詳細に説明すると、低減量補正部56は、基準低減量を補正係数kによって補正する、即ち基準低減量に補正係数kを乗算することによって第2低減量を算出する。本実施形態において算出された第2低減量は、実回転数Nが目標回転数Nt以上の場合にゼロとなり、実回転数Nが目標回転数Ntより大きいときに油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量が低減されることを防ぐようになっている。これにより、実回転数Nを目標回転数Ntに素早く低下させることができる。他方、実回転数Nが目標回転数Nt未満の場合、第2低減量は、実回転数N及びその微分値ΔNが小さくなるにつれて大きくなるようになっている。従って、低減量補正部56は、実回転数Nが小さくなるにつれて第2低減量を大きくして、実回転数Nがそれより小さくなることを防ぐようになっている。算出された第2低減量は第2下限制限部57で用いられる。
制御装置30Aは、基準低減量演算部54で演算された基準低減量をエンジンEの実回転数Nに応じて補正するようになっている。そのため、油圧ポンプ駆動システム1では、操作具が操作されて実回転数Nが低下する際に実回転数Nが目標回転数Nt付近である場合、DSS制御によるパワーシフト量の補正量が小さくなる。これにより、操作具が操作される直後におけるパラーシフト量の低減量を抑えることができ、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を素早く上げることができる。
また、第2実施形態の油圧駆動システム1Aの制御処理は、DSS制御演算処理の点だけ第1実施形態の油圧駆動システム1と異なっている。以下では、第2実施形態の油圧駆動システム1AのDSSの制御演算処理について図9を参照しながら説明する。
第2実施形態のDSS制御演算処理では、処理が始まるとステップS21に移行する。ステップS21であるフィルタリング工程では、フィルター部51が実回転数Nの高周波成分を逓減する。逓減されると、ステップS22及びステップS26に移行する。ステップS22である微分値演算工程では、低減された実回転数Nに基づいて微分演算部52が微分値ΔNを演算する。微分値ΔNが演算されると、ステップS23に移行する。
ステップS23である不感帯設定工程は、微分値ΔNが予め定められた設定微分値ΔNset以上の領域(即ち、実回転数Nが増加する又は緩やかに減少をする場合)において、不感帯設定部53が微分値ΔNをゼロにする。他方、微分値ΔNが予め定められた設定微分値ΔNset未満の領域(即ち、実回転数Nの減少が急である場合)において、不感帯設定部53が微分値ΔNから設定微分値ΔNsetを減算した値である減算微分値ΔN−ΔNsetを算出する。このように、不感帯設定工程では、実回転数Nが増加する又は緩やか減少する場合に微分値ΔNをゼロとし、油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力を無駄に増減させないようになっている。微分値ΔNがフィルタリングされると、ステップS24に移行する。ステップS24である基準低減量演算工程では、ステップS23でフィルタリングされた微分値ΔNfilに予め定められたゲインを乗算して基準低減量を演算する。
このようにしてステップS22〜24では、基準低減量が演算される。DSS制御演算処理では、前述の通り、ステップS21からステップS22に移行すると共にステップS26にも移行するようになっており、ステップS22〜24と別にステップS26が実行される。ステップS26である補正係数演算工程では、まずステップS1で演算される設定回転数Nsetに基づいて制限開始回転数Nlimを補正係数演算部55が演算する。次に、補正係数演算部55は、演算された制限開始回転数Nlimによって補正係数演算マップを設定する。最後に補正係数演算部55は、設定された補正係数演算マップを用いることによって実回転数Nに基づいて補正係数kを演算する。このようにして基準低減量及び補正係数kが演算されると、ステップS27に移行する。
ステップS27である第2低減量演算部では、基準低減量を補正係数kによって補正する、即ち基準低減量に補正係数kを乗算することによって第2低減量を演算する。第2低減量が演算されると、ステップS25に移行する。ステップS25である第2下限制限工程では、第2低減量がゼロ未満である場合、第2下限制限部57が第2低減量をゼロにする。他方、第2低減量がゼロ以上である場合、第2下限制限部57は、第2低減量をそのままの値とする。第2低減量の下限制限が行われるとDSS制御演算処理が終了する。これ以降は、第1実施形態の制御処理と同じとなる。
このように構成されている油圧駆動システム1Aは、第1実施形態の油圧駆動システム1と同様の作用効果を奏する。
[第3実施形態]
油圧駆動システム1Bでは、図10に示すように制御装置30BがESS制御ブロック31Bと、DSS制御ブロック32Bと、制御選択部37とを有している。ESS制御ブロック31Bは、設定回転数演算部41と、回転数差演算部42と、PID制御部43と、第1下限制限部44とを有し、更にパワーシフト量設定部34と、第1低減量減算部35Bとを有している。第1低減量減算部35Bは、パワーシフト量設定部34で演算された目標パワーシフト量から第1下限制限部44で制限された第1低減量を減算して第1補正量を演算するようになっている。このようにしてESS制御ブロック39では、ESS制御を実行した際に油圧ポンプ17L,17Rに設定すべき第1補正量を演算する。
DSS制御ブロック39は、フィルター部51と、微分演算部52、制御切換判定部58と、第2低減量決定部59とを有している。制御切換判定部58は、微分演算部52で演算される微分値ΔNが予め定められる設定微分値ΔNset未満か否かを判定する。微分値ΔNが設定微分値ΔNset未満である場合、制御切換判定部58は、DSS制御を実行させるべく1の出力値を算出する。他方、微分値ΔNが設定微分値ΔNset以上である場合、制御切換判定部58は、DSS制御を実行さないようにするべく0の出力値を算出する。
また、DSS制御ブロック39では、第2低減量決定部59がフィルター部51でフィルタリングされた実回転数Nに基づいて第2低減量を決定するようになっている。更に詳細に説明すると、第2低減量決定部59では、実回転数Nを複数の帯域(本実施形態では4つの帯域)に分割し、各帯域に互いに異なる設定流量が対応付けられている。本実施形態では、実回転数Nが第1回転数N1(Nset>N1)未満の範囲が第1帯域として設定されており、第1帯域では第1設定流量Q1が対応付けられている。実回転数Nが第1回転数N1以上第2回転数N2(N2>N1)の範囲が第2帯域として設定されており、第2帯域では第2設定流量Q2(Q2<Q1)が対応付けられている。また、実回転数Nが第2回転数N2以上且つ第3回転数N3(N3>N1,N2)の範囲が第3帯域として設定されており、第3帯域では第3設定流量Q3(Q3<Q1、Q2)が対応付けられている。実回転数Nが第3回転数N3以上の範囲が第4帯域として設定されており、第4帯域では第4設定流量Q4(Q4<Q1、Q2,Q3)が対応付けられている。
なお、第1回転数N1は、図11に示すようなトルク線図に基づいて予め設定されている。図11のトルク線図は、エンジンEの出力トルクと油圧ポンプ17L,17Rのポンプトルクとの釣り合いが取れている際のエンジンEの出力トルクと実回転数Nとの関係を示すグラフである。図11では、縦軸が出力トルク、横軸が回転数を示している。第1回転数N1は、図11のトルク線図において出力トルクが最大となる回転数付近、具体的には前記回転数より少し大きく設定されている。また、第2回転数N2及び第3回転数N3は、第1回転数N1より回転数が大きい領域を3分割するように図11のトルク線図を参照しながら設定され、各帯域が決定される。
第2低減量決定部59は、このようにして決定される第1乃至第4帯域の何れの帯域に実回転数Nが収まっているかを判定し、収まっている帯域に対応付けられた設定量を第2補正量とするようになっている。このように決定された第2補正量は、ESS制御ブロック31Bで演算された第1補正流量と共に制御選択部37で用いられる。
制御選択部37は、制御切換判定部58の出力値に基づいてESS制御及びDSS制御のうち実行すべき制御を選択するようになっている。詳細に説明すると、制御選択部37は、制御切換判定部58の出力値が0である場合、実行すべき制御としてESS制御を選択する、即ち第1補正流量を補正パワーシフト量として選択する。他方、制御選択部37は、制御切換判定部58の出力値が1である場合、実行すべき制御として第1補正流量及び第2補正流量のうち小さい方の制御を選択する。このようにして選択された補正パワーシフト量は、パワーシフト指令出力部36で用いられ、パワーシフト指令出力部36は、前記補正パワーシフト量に応じた電流指令であるパワーシフト指令をパワーシフトバルブ20aに出力し、パワーシフトバルブ20aの動きを制御するようになっている。
このように構成されている油圧駆動システム1Bでは、実回転数Nの微分値ΔNが設定微分値ΔNset以上、且つ実回転数Nが設定回転数Nset未満になると、ESS制御が実行される。実回転数Nが緩やかに下降しながら設定回転数Nset未満に落ち込んだときに、実回転数Nがそれ以上落ち込むことを抑制することができる。
他方、微分値ΔNが設定微分値ΔNset未満になると、基本的にDSS制御が実行される。DSS制御では、実回転数Nに応じて段階的に補正パワーシフト量が切換えられ、第1実施形態と同様に実回転数Nが急激に落ち込んだときに油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量を減少させ、実回転数Nが過度に落ち込むことを抑制することができる。また、実回転数Nに応じて段階的に補正パワーシフト量が切換えられるので、実回転数Nの落ち込みが小さいときには油圧ポンプ17L,17Rのパワーシフト量の補正が行われない又はパワーシフト量の補正が小さい。それ故、パワーシフト量の補正によって油圧ポンプ17L,17Rのポンプ出力の上昇を妨げることを抑制できる。
また、微分値ΔNが設定微分値ΔNset未満であっても、実回転数Nが第1回転数N1未満であったり実回転数Nの設定回転数Nsetに対する落ち込みが大きくなって第1補正量が第2補正量より小さくなったりすると、ESS制御が実行される。このように実回転数Nが第1回転数N1未満であったり設定回転数Nsetに対して大きく落ち込んで回転数差が大きくなったりすると、ESS制御を実行させることができる。これにより、実回転数Nが設定回転数Nsetに対して過度に落ち込むことを抑制することができる。
その他、油圧駆動システム1Bでは、第1実施形態の油圧駆動システム1と同様の作用効果を奏する。
[その他の実施形態]
油圧駆動システム1,1A,1Bにおいて、実回転数N及びその微分値ΔNに基づいて油圧ポンプ17L,17Rの補正量を演算し、演算された補正量に基づいて傾転角調整装置20の動きを制御するようになっているが、必ずしも補正量を演算する必要はない。例えば、油圧ポンプ17L,17Rの補正トルクやパワーシフトバルブ20aに入力する指令電流を演算し、演算された補正トルクや指令電流に基づいて傾転角調整装置20の動きを制御してもよい。また、ポンプの傾転角調整機構20は、指令電流に応じて吐出容量が制御される機構であってもよい。また、本実施形態の油圧駆動システム1,1A,1Bでは、減速度として微分値ΔNを用いていたが、減速度として減速率や単位時間当たりの実回転数Nの差分を用いてもよい。
また、本実施形態の油圧駆動システム1,1A,1Bでは、2つ油圧ポンプ17L,17Rによって油圧アクチュエータ11〜15を駆動しているが、油圧ポンプは1つであってもよい。また、目標回転数を設定するための入力手段は、必ずしもアクセルダイヤルである必要ななく、アクセルペダルやアクセルレバーであってもよい。
また、油圧ポンプ駆動システム1,1A,1Bが実装される建設機械は、油圧ショベルに限定されず、クレーンやドーザ等の他の建設機械であってもよく、油圧アクチュエータを備えている建設機械であればよい。また、油圧ポンプ駆動システム1,1A,1Bでは、液圧ポンプの例として油圧ポンプを挙げたが、液圧ポンプは、油圧ポンプに限定されず水等の液体を吐出するポンプであればよい。