以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態に係る油分離器40を備える圧縮機8は、例えばヒートポンプ式給湯機に適用される。このヒートポンプ式給湯機は、ヒートポンプサイクルによって給湯水を加熱するもので、圧縮機8は、ヒートポンプサイクルにおいて冷媒を圧縮して吐出する機能を果たす。
そのヒートポンプサイクルは、圧縮機8の吐出冷媒と給湯水とを熱交換させて給湯水を加熱する水−冷媒熱交換器と、水−冷媒熱交換器から流出した冷媒を減圧膨張させる減圧装置としての可変絞り機構と、可変絞り機構にて減圧膨張された冷媒を外気と熱交換させて蒸発させる室外蒸発器と、圧縮機8とを環状に接続した蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。
さらに、このヒートポンプサイクルでは、冷媒として二酸化炭素(CO2)を採用しており、圧縮機8から吐出された高圧冷媒が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成している。また、圧縮機8内において、圧縮機8の内部の各摺動部位を潤滑する潤滑油(冷凍機油)9すなわちオイル9が圧縮前の冷媒に混入される。そして、そのオイル9は冷媒圧縮後に冷媒から分離され圧縮機8内で循環する。詳細には、圧縮機8内を循環するオイル9は、先ず、後述のケース30内の貯油部301から吸上管60によって吸い上げられ圧縮部10の潤滑およびシールを行った後、圧縮部10の吐出ポート123から冷媒と共に排出される。そして、油分離器40で冷媒から分離されて各部の潤滑を行った後、貯油部301へ戻る。なお、吐出ポート123から冷媒と共に吐出されたオイル9の大部分は冷媒から分離されるが、冷媒から分離しきれなかったオイル9は冷媒と共に圧縮機8から吐出され、ヒートポンプサイクルを循環する。
なお、ヒートポンプサイクルでは、室外蒸発器と圧縮機8との間に、冷媒の気液を分離して余剰冷媒を蓄えるとともに圧縮機8側へ気相冷媒を流出させる気液分離器が配置されてもよい。さらに、ヒートポンプ式給湯機は、ヒートポンプサイクルの他に、水−冷媒熱交換器にて加熱された給湯水を貯湯する貯湯タンク、貯湯タンクと水−冷媒熱交換器との間で給湯水を循環させる給湯水循環回路等を有して構成されている。
次に、図1により、本実施形態の圧縮機8の詳細構成について説明する。なお、図1中の上下の矢印DR1は、圧縮機8をヒートポンプ給湯機へ搭載した状態における上下の方向を示している。すなわち、図1の両端矢印DR1は上下方向DR1を示している。
圧縮機8は電動圧縮機である。圧縮機8の全体としては、圧縮機8の冷媒入口である冷媒吸入管37で冷媒流れを分岐する吸気分配孔37bがケース30の内部と連通し、その分岐された冷媒が駆動用の電動機部20を冷却する所謂内部低圧式の圧縮機である。内部低圧式の圧縮機とは、圧縮機のケース内の圧力すなわちケース内圧が圧縮機の吸入圧力と略同じ圧力になる圧縮機である。
また、圧縮機8は、圧縮機8への吸入冷媒を導く冷媒吸入管37が圧縮部10の吸入ポート114へ直結した所謂ダイレクト吸入構造になっている。これにより、圧縮機8は、冷媒吸入の際の圧損による効率低下を抑える構造となっている。本実施形態のような内部低圧方式の圧縮機8に強制潤滑を行う方式においては、圧縮機8のケース30内へ吐出ポート123側から戻される高温のオイル9によって吸入冷媒が加熱される為、上記ダイレクト吸入構造は、圧縮機8が属するシステムであるヒートポンプサイクルの効率低下抑制に有効である。
図1に示すように、圧縮機8は、流体である冷媒を吸入し圧縮して吐出する圧縮部10、この圧縮部10を駆動する電動機部20、電動機部20から圧縮部10へ回転駆動力を伝達する駆動軸としてのシャフト25、ケース30、油分離器40、間欠給油機構50、および吸上管60等を備えている。そして、この圧縮機8では、それらの圧縮部10、電動機部20、シャフト25、油分離器40、間欠給油機構50、および吸上管60等がケース30内に収容されている。
さらに、この圧縮機8では、図1に示すように、シャフト25の回転軸が鉛直方向すなわち上下方向DR1に延びている。要するに、圧縮機8は、圧縮部10と電動機部20とを鉛直方向に配置した所謂縦置きタイプに構成されている。より具体的に言えば、圧縮部10が電動機部20の下方側に配置されている。
ケース30は圧縮機8の筐体を成し、圧力容器として機能する。ケース30は、鉛直方向に延びる筒状部材31、筒状部材31の上端部を塞ぐアッパーハウジングとしての上蓋部材32、および筒状部材31の下端部を塞ぐロアハウジングとしての下蓋部材33を有し、これらを一体に接合して密閉容器構造としたものである。筒状部材31、上蓋部材32および下蓋部材33は、いずれも鉄で構成されており、これらは溶接にて接合されている。
電動機部20は、U相、V相、W相の巻線コイルを有する三相ブラシレスDCモータ、要するに三相モータである。具体的に、電動機部20は、固定子をなすステータ21と、回転子をなすロータ22とを備えている。ステータ21は、磁性材からなるステータコアと、そのステータコアに巻き付けられたステータコイルとによって構成されている。より具体的には、ステータ21では、ステータコイルのU相、V相、W相の各相に対応するステータコイルが、ステータコアに設けられた各スロットに巻き付けられている。ステータ21は、図示しないインバータ回路等を介して、ステータコイルに電力が供給されることによって、ロータ22を回転させる回転磁界を発生させる。
一方、電動機部20のロータ22は、永久磁石を有して構成されており、ステータ21の内周側に配置されている。このロータ22は回転軸方向すなわち上下方向DR1に延びる円筒状に形成され、さらに、ロータ22の軸中心穴には、回転軸方向に延びる略円筒状のシャフト25が圧入により固定されている。従って、ステータ21が電力供給により回転磁界を発生させると、ロータ22およびシャフト25が一体に回転する。
シャフト25は略円筒状に形成されている。そして、シャフト25の内部には、前述のオイル9を流通させる主給油通路25a、この主給油通路25aからシャフト25と後述する第1軸受部29との摺動部位(潤滑対象部位)29aへオイル9を導く第1副給油通路25b、および、主給油通路25aからシャフト25と後述する第2軸受部27との摺動部位(潤滑対象部位)27aへ潤滑油を導く第2副給油通路25cが形成されている。
シャフト25の内部に形成された主給油通路25aは、シャフト25の軸方向に延びてシャフト25の下端面にて開口しており、シャフト25の上端面においては上方に向けて、ケース30の内部空間へ開放されている。要するにケース30内へ開放されている。そして、主給油通路25aにはシャフト25の軸方向一端側である下端側から、間欠給油機構50からロータ給油通路115を通って流出したオイル9が流入する。
第1副給油通路25bおよび第2副給油通路25cは、シャフト25の径方向に延びて主給油通路25aとシャフト25の外表面とを連通させる連通穴として形成されている。さらに、第2副給油通路25cは、第1副給油通路25bよりも鉛直方向上方側に配置されている。
また、シャフト25は、電動機部20のロータ22よりも軸方向長さが長く形成されており、軸方向一端側である下端側(圧縮部10側)は、ロータ22の最下端部よりも下方側に延び、軸方向他端側(圧縮部10の反対側)は、ロータ22の最上端部よりも上方側に延びている。そして、シャフト25においてロータ22よりも下方側の部位には、軸方向と垂直な水平方向に突出する鍔部251が形成されている。
また、シャフト25のロータ22よりも下方側の部位のうち、ロータ22と鍔部251との間の部位は、ミドルハウジング36に形成された第1軸受部29によって回転可能に支持されている。つまり、第1軸受部29は、シャフト25の軸方向一端側である下端側を支持している。さらに、第1軸受部29は、シャフト25の軸方向から見たときに、円形状となる内周面でシャフト25の外周面を受ける、すべり軸受として構成されている。
ミドルハウジング36は、上方側から下方側に向かって階段状に外径および内径が拡大する円筒形状を有している。ミドルハウジング36では、その外径および内径が最も小さい上方側部位に第1軸受部29が形成されている。さらに、ミドルハウジング36の外径および内径が最も大きい下方側部位の外周面は、ケース30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。
一方、シャフト25においてロータ22よりも上方側の部位は、第2軸受部27によって回転可能に支持されている。つまり、第2軸受部27は、シャフト25の軸方向他端側である上端側を支持している。さらに、第2軸受部27は、シャフト25の軸方向から見たときに、その内周形状がシャフト25の外周形状と相似形の円形に形成されたすべり軸受として構成されている。
また、第2軸受部27は、介在部材28を介してケース30の筒状部材31に固定されている。介在部材28は、水平方向に拡がる環状板の外周部を上方側に向かって屈曲させた形状に形成され、その外周部がケース30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。また、第2軸受部27の上端部には水平方向に突出する鍔部271が形成されており、鍔部271が介在部材28上にボルト止めで固定されている。
圧縮部10は周知のスクロール式の圧縮機構で構成されており、それぞれ渦巻き状に形成された歯部を有する可動スクロール11および固定スクロール12を備えている。可動スクロール11は、前述のミドルハウジング36のうち内径が最も大きい下方側部位の内周側に配置され、固定スクロール12は、可動スクロール11の下方側に配置されている。
可動スクロール11および固定スクロール12は、互いに鉛直方向に対向するように配置されている。固定スクロール12の外周側は、ケース30の筒状部材31に固定されている。
可動スクロール11の上面側の中心部には、シャフト25の下端部が挿入される円筒状のボス部113が形成されている。その一方で、シャフト25の下端部は、シャフト25の回転中心に対して偏心した偏心部253になっている。可動スクロール11には、そのシャフト25の偏心部253が挿入されている。
さらに、可動スクロール11およびミドルハウジング36の間には、可動スクロール11が偏心部253周りに自転することを防止する不図示の自転防止機構が設けられている。このため、シャフト25が回転すると、可動スクロール11は偏心部253周りに自転することなく、シャフト25の回転中心を公転中心として旋回しながら公転運動する。つまり、可動スクロール11は、シャフト25を介して電動機部20から回転駆動力が供給されると、シャフト25の回転中心を公転中心として旋回しながら公転運動する。
また、可動スクロール11には、固定スクロール12側に向かって突出する渦巻き状の歯部すなわち可動側歯部が形成されている。一方、固定スクロール12には、可動スクロール11側に向かって突出すると共に上記可動側歯部に噛み合う渦巻き状の歯部すなわち固定側歯部が形成されている。
そして、両スクロール11、12の各歯部同士が噛み合って複数箇所で接触することによって、回転軸方向から見たときに三日月形状に形成される密閉された作動室15が複数個形成される。なお、図1では図示を簡潔にするため、複数個の作動室15のうち、1つの作動室だけに符号を付しており、他の作動室については符号を省略している。
作動室15は、可動スクロール11が公転運動することによって回転軸周方向に外周側から中心側へ容積を変化(減少)させながら移動する。そして、その作動室15の容積が減少することによって作動室15内の冷媒が圧縮される。
作動室15には、ケース30が有する冷媒吸入管37と圧縮部10に形成された吸入ポート114とを介して圧縮機8外部から冷媒が供給される。すなわち、冷媒吸入管37および吸入ポート114は、作動室15へ冷媒を供給する冷媒供給通路を構成している。
冷媒吸入管37は、その内部に冷媒通路37aが形成された管状の部材である。冷媒吸入管37は、ケース30の筒状部材31を径方向に貫通するように設けられ、圧縮部10の吸入ポート114をケース30外部へ連通させている。要するに、冷媒吸入管37は、ケース30の中で、圧縮部10の吸入ポート114へ向かう冷媒がケース30外から流入する吸入部として機能する。なお、圧縮部10の吸入ポート114は、両スクロール11、12の各歯部の最外周側に形成される作動室15に連通している。
また、冷媒吸入管37には吸気分配孔37bが形成されており、この吸気分配孔37bは微細な貫通孔であり、冷媒吸入管37の冷媒通路37aをケース30内に連通させる。具体的には、吸気分配孔37bは、電動機部20の冷却に必要な最低限のガス冷媒(冷媒ガスとも言う)をケース30内へ流出させる大きさに形成されている。これにより、冷媒通路37aを流れる吸入冷媒の殆どは圧縮部10の吸入ポート114へ導入されるが、その吸入冷媒の中の僅かな量は、吸気分配孔37bから電動機部20の冷却用としてケース30内へ導入される。圧縮機8のケース30内すなわちケース30の内部空間は、吸気分配孔37bが設けられているので、圧縮部10の作動中には、圧縮部10の吐出ポート123における冷媒の圧力Pdおよび吸入ポート114における冷媒の圧力Psのうち、吸入ポート114における冷媒の圧力Psに近い圧力になる。詳細には、ケース30内の圧力すなわちケース内圧は、冷媒吸入管37の冷媒通路37aの圧力よりも僅かに低く且つ吸入ポート114の圧力Psよりも僅かに高い圧力になる。なお、以下の説明では、吐出ポート123における冷媒の圧力Pdを吐出圧力Pdと呼び、吸入ポート114における冷媒の圧力Psを吸入圧力Psと呼ぶものとする。
また、固定スクロール12の径方向における中心部分には、作動室15で圧縮された冷媒が吐出される吐出ポート123としての吐出孔123が形成されている。すなわち、圧縮部10は、吸入ポート114から吸入した冷媒を圧縮すると共にその圧縮した冷媒を吐出ポート123から吐出する。
さらに、固定スクロール12の下方側にはセパレータブロック13が配置され、吐出ポート123と連通する吐出室124が、そのセパレータブロック13と固定スクロール12とによって形成されている。詳細には、吐出室124は、固定スクロール12の下面とセパレータブロック13に形成された凹部とによって区画形成されている。
さらに、吐出室124には、作動室15への冷媒の逆流を防止する逆止弁をなすリード弁19が配置されている。また、吐出室124へ流入した冷媒は、油分離器40を経て、油分離器40の気体排出管41からケース30外部へ吐出される。
吸上管60は、ケース30内の冷媒およびケース30内の貯油部301に溜まったオイル9を吸い込むオイル吸込部である。吸上管60は、その内部に吸込通路60aが形成された管状の部材である。その吸込通路60aは、ケース30内の冷媒および貯油部301に溜まったオイル9を圧縮部10の吸入ポート114へ流す。また、その貯油部301はケース30内においてオイル9が溜まる油溜りであり、ケース30はその貯油部301をケース30内の底部に備えている。詳細には、貯油部301は下蓋部材33に形成されている。
具体的に吸上管60は、固定スクロール12の下方側に設けられ、U字状に屈曲された屈曲部601を有するU字管で構成されている。吸込通路60aの一端である開放端60bは、貯油部301に溜まったオイル9の液面9aよりも常に上方で開放されている。また、吸込通路60aの開放端60bよりも更に上方に、圧縮部10が配置されている。その一方で、吸込通路60aの他端である接続端60cは吸入ポート114に接続されている。
また、吸込通路60aの開放端60bから接続端60cまでの途中には、ケース30の貯油部301に溜まったオイル9内に開口するブリードポート602が形成されている。そのブリードポート602は、吸上管60の管壁を貫通する小径の絞り孔であり、オイル9の流量を制限しつつオイル9を貯油部301から吸込通路60a内へ流入させる。言い換えれば、ブリードポート602はオイル吸込用の孔であり、開口面積が変化しない固定絞りである。詳細には、ブリードポート602は屈曲部601の下端部分に形成されており、その屈曲部601は、吸込通路60aの開放端60bおよび接続端60cよりも下方に配置され、且つ、貯油部301に溜まったオイル9に浸漬されている。
吸上管60は、圧縮部10の作動中には圧縮部10の吸入ポート114の圧力がケース30の内圧よりも低くなるので、ケース30内の冷媒を吸込通路60aの冷媒吸込口としての開放端60bから吸い込む。それと共に、吸上管60は、吸込通路60aの開放端60bから接続端60cへの冷媒の流れによってブリードポート602から貯油部301のオイル9を吸い込む。その吸上管60に吸い込まれる冷媒はケース30内の冷媒であり、例えば、間欠給油機構50にて減圧された際にオイル9の中から析出する気化冷媒、冷媒吸入管37の吸気分配孔37bからケース30内部へ流入する電動機冷却用の冷媒、および、後述するように圧縮部10の吐出ポート123から間欠給油機構50を通過するガス冷媒である。
圧縮機8の潤滑方式について以下詳細に説明する。上述した吸上管60は、吸込通路60aの通路断面積S2が一定となるように形成され、吸込通路60aの開放端60bだけが絞られている。従って、その開放端60bにおける開口面積S1は、吸込通路60aにおけるブリードポート602よりも冷媒流れ下流側の通路断面積S2に対して小さくなっている。吸込通路60aの冷媒流れは矢印FL1の通りである。なお、上記面積S1、S2は何れも吸込通路60aの軸方向に垂直な仮想面の面積であって、開口面積S1は開放端60bの開口面積であり、通路断面積S2は、開放端60bから或る程度離れて吸込通路60が絞られていない箇所の断面積である。
また、吸上管60の冷媒吸込口としての開放端60bの配置高さは、システムおよび圧縮機に含まれるオイル封入量すなわちヒートポンプサイクル全体のオイル封入量のオイル9が貯油部301に溜まったと仮定した液面9aの最高位置よりも高くなっている。また、吸込通路60aにはオイル9がブリードポート602からしか流入しないので、吸上管60は、吸上管60が吸い上げるオイル9の吸上量がブリードポート602のみで制御される構造となっている。
また、ブリードポート602からのオイル9の吸込量は、貯油部301の液面9aからブリードポート602までの油面ヘッドと、開放端60bから吸い込まれるガス冷媒が開放端60bからブリードポート602の位置へ至る間に発生する圧損とにより定まる。なお、正確に言えば、圧縮部10の吸入ポート114の吸入負圧もオイル吸上げの一要因となる。
このようにして、ケース30内の貯油部301に溜まったオイル9はブリードポート602から吸上管60の吸込通路60aへ流入する。そして、ブリードポート602から流入するオイル9は、冷媒吸入管37を通って圧縮部10の吸入ポート114へ流入する吸入冷媒によって吸引され、その吸入冷媒と共に圧縮部10へ流入する。次に、オイル9は圧縮部10へ流入した後、冷媒と共に吐出ポート123を通って吐出室124へ排出される。
吐出室124に排出された冷媒およびオイル9(以下、オイル9と冷媒が混合した流体を、混合流体という)は、遠心分離式の油分離器40に流入し、油分離器40にてガス冷媒とオイル9に分離される。
この油分離器40は、図2および図3に示すように、固定スクロール12、筒状部材31、気体排出管41、および旋回柱42を備えている。なお、固定スクロール12、筒状部材31、および気体排出管41は、本発明の油分離器ケースを構成している。
固定スクロール12と筒状部材31とによって、断面形状が円形の円柱状空間である分離室43が形成されている。この分離室43は、その軸線が水平方向になるように形成されている。なお、ここでいう「水平」および特許請求の範囲でいう「水平」は、厳密に水平である場合のみならず、水平から若干傾いた状態、すなわち、略水平をも含む意味である。
また、分離室43は、径が異なり且つ同軸上に配置された第1分離室431と第2分離室432とを備えている。より詳細には、第1分離室431の径よりも第2分離室432の径が大である。また、分離室軸方向の一端側(換言すると、圧縮機8の中心側)に第1分離室431が配置され、第1分離室431よりも分離室軸方向の他端側(換言すると、圧縮機8の径方向外側)に第2分離室432が配置されている。
固定スクロール12には、吐出室124に排出された混合流体を分離室43に導く混合流体導入通路44が形成されている。この混合流体導入通路44は、第1分離室431の外周側に配置され、より詳細には、第1分離室431の外周側における圧縮機中心に近い部位に配置されている。また、混合流体導入通路44は、混合流体が分離室43内で旋回流となるように方向が設定されている。具体的には、混合流体導入通路44は、混合流体導入通路44の軸線が分離室43の軸線に対して垂直で且つ分離室43の軸線と交差しないように設定されている。
固定スクロール12には、分離室43で混合流体から分離されたオイル9を分離室43から排出させる油排出通路45が形成されている。この油排出通路45は、第2分離室432における圧縮機径方向外側に近い部位で、且つ第2分離室432の外周側に配置されている。また、油排出通路45の軸線は、分離室43の軸線に対して直交している。
気体排出管41は、円筒状であり、分離室43内に突出している。より詳細には、気体排出管41は、ケース30の筒状部材31を径方向に貫通するように設けられている。また、気体排出管41は、その内部に気体排出通路411が形成されている。気体排出通路411は、分離室43と同軸になっている。そして、気体排出通路411における分離室43側の開口部は、第2分離室432の内側に位置している。また、気体排出通路411における分離室43側の開口部は、油排出通路45よりも圧縮機中心側に配置されている。
旋回柱42は、円柱状の円柱部421と、テーパ状のテーパ部422とを備えている。円柱部421とテーパ部422は同軸になっている。また、旋回柱42は、分離室43や気体排出通路411と同軸になっている。
円柱部421は、分離室43を形成する固定スクロール12の内壁面のうち、分離室43の圧縮機中心側の内壁面に圧入されている。円柱部421における圧入されていない部位は、分離室43における圧縮機中心側から圧縮機径方向外側に向かって(より詳細には、気体排出通路411に向かって)延びている。
テーパ部422は、円柱部421における圧縮機径方向外側の端部から、さらに圧縮機径方向外側に向かって(より詳細には、気体排出通路411に向かって)延びている。テーパ部422は、圧縮機径方向外側に向かって径が小さくなっており、テーパ部422の先端部は気体排出通路411に侵入している。
ここで、第1分離室431の径をD1、気体排出通路411の径をD2、円柱部421の径をD3とする。そして、本実施形態では、D1>D2>D3としている。
前述したように、混合流体導入通路44の軸線は分離室43の軸線と交差しないように設定されているため、混合流体導入通路44から第1分離室431に流入した混合流体は、第1分離室431内で旋回流となる。この際、旋回流は旋回柱42の周りを旋回し、確実な旋回流になるとともに、旋回が助長されてより強い旋回流になる。
そして、混合流体は、遠心力によりガス冷媒とオイル9に分離される。分離されたオイル9は、第1分離室431を形成する壁面に遠心力により押し付けられるとともに、分離室軸方向の速度成分を有するため、具体的には、気体排出通路411側に向かう速度成分を有するため、第1分離室431から第2分離室432側に移動し、第2分離室432に一端貯められる。
第2分離室432に一端貯められたオイル9は、油排出通路45を通って間欠給油機構50(図1参照)へ送られる。なお、間欠給油機構50へ送られるオイル9の量は略一定であるのに対し、油分離器40に流入するオイル9の量は圧縮機8(図1参照)の回転数等の影響で変動する。ここで、分離されたオイル9が貯められる第2分離室432の径は第1分離室431の径よりも大きくされていて、第2分離室432はオイル9を多く貯められるようになっている。したがって、第2分離室432は、油分離器40に流入するオイル9の量の変動に対しバッファ機能を発揮し、気体排出通路411へのオイル9の流入を防止することができる。
一方、分離されたガス冷媒は、旋回柱42の周りを旋回しつつ、気体排出通路411側に向かって進む。ここで、旋回柱42と気体排出通路411は同軸であり、また、気体排出通路411の径D2は円柱部421の径D3よりも大きくなっている(すなわち、D2>D3)。したがって、分離室軸方向に沿って見たときに、円柱部421の周りに気体排出通路411のドーナツ状の空間が存在する。そのドーナツ状の空間は分離されたガス冷媒の進行方向に位置しているため、分離されたガス冷媒は気体排出通路411にスムーズに流入する。また、旋回柱42にテーパ状のテーパ部422を設け、そのテーパ部422の先端部を気体排出通路411に侵入させているため、分離されたガス冷媒が気体排出通路411に流入するまでガス冷媒の旋回状態が確実に維持されるとともに、分離されたガス冷媒は気体排出通路411にさらにスムーズに流入する。そして、分離されたガス冷媒は、気体排出通路411内を通って外部のシステム例えば熱交換器等へ圧送される。
なお、気体排出通路411の径D2が第1分離室431の径D1よりも大きい場合は、分離されたガス冷媒流れの流速が低下し、ひいては遠心力が小さくなるため、気体排出通路411の径D2は第1分離室431の径D1よりも小さい方が望ましい。また、気体排出通路411の径D2を極端に小さくすると、分離されたガス冷媒が気体排出通路411に連続的に流入できなくなるため、気体排出通路411の径D2は、第1分離室431の径D1の1/2程度以上が望ましい。すなわち、D1>D2>1/2・D1が望ましい。
ただし、気体排出通路411の径D2が、第1分離室431の径D1の1/2以下の場合は、D2>D3として旋回柱42の先端部を気体排出通路411に侵入させることにより、分離されたガス冷媒を気体排出通路411にスムーズに流入させることができる。
また、気体排出通路411における分離室43側の開口部(すなわち、気体排出通路411におけるガス冷媒の入り口部)は、分離されたガス冷媒の流れと分離されたオイル9の流れが分岐する地点となる。ここで、分離されたオイル9が貯められる第2分離室432の径は第1分離室431の径よりも大きくされていて、気体排出通路411におけるガス冷媒の入り口部と第2分離室432に貯められたオイル9の位置との距離が長くなっている。したがって、気体排出通路411に流入するガス冷媒へのオイル9の巻き込みが抑制される。
次に、間欠給油機構50に関して説明すると、その間欠給油機構50は、図1に示すように、固定スクロール12の一部分に設けられた固定側絞り501と、可動スクロール11の一部分に設けられ可動側連通穴502aすなわち旋回側穴502aが形成された可動側連通部502とによって構成されている。そして、間欠給油機構50は、固定側絞り501から可動側連通部502へと間欠的にオイル9を流す。
詳細に説明すると、固定側絞り501には、油分離器40で分離されたガス冷媒の一部とオイル9とから成る二相流が流入する。そして、固定側絞り501には、その二相流が流入する絞り通路501aが形成されており、その絞り通路501aは、その二相流の流量を制限しつつ、油分離器40からの二相流を、可動側連通穴502aを介してケース30内へ流す。すなわち、間欠給油機構50は、油分離器40からの二相流を絞ってケース30内へ流す絞り部として機能する。
間欠給油機構50において、高圧側になる固定側絞り501の絞り通路501aと低圧側になる可動側連通穴502aとが可動スクロール11の公転運動により1回転に1度互いに連通する。間欠給油機構50では、この絞り通路501aと可動側連通穴502aとの連通の際に、固定側絞り501の絞り通路501a前後の高低差圧と絞り通路501aの穴径(すなわち、絞り径)に対応した通路断面積とにより定まる流量を噴出させる。
固定側絞り501はその軸方向にスライド可能であり、可動スクロール11の可動側連通部502が配設された部位の端面と摺接するので、これにより、その端面と固定側絞り501との間からのオイル洩れが防止されている。
そして、間欠給油機構50を通ったオイル9は、可動スクロール11に形成されたロータ給油通路115を通って、可動スクロール11のボス部113とシャフト25の偏心部253との摺動部位、および各軸受部27、29の摺動部位27a、29aを潤滑する。オイル9は、それらの部位を潤滑した後、シャフト25の主給油通路25aなどからケース30内へ排出されケース30内の貯油部301へと落下する。
なお、間欠給油機構50をオイル9が流れる際には高圧から低圧への減圧作用を伴うため、オイル9と共にオイル9内に含有される冷媒成分が気体となって発生するが、そのオイル9から気化した冷媒は吸上管60の開放端60bから吸引されることとなる。
次に、図1に示すブリードポート602にて吸上管60に吸引されるオイル流量Qsであるブリードポート流量Qsと、間欠給油機構50の通過可能オイル流量Qdとの関係について述べる。圧縮機8外部のシステム側へのオイル流出、要するに圧縮機8の気体排出管41からのオイル流出を防ぐためには、「Qs<Qd」となる関係を満たす必要がある。
なぜなら、オイル9はブリードポート602で吸引され圧縮部10を通過して油分離器40へ流入しその油分離器40で分離されるので、その油分離器40で分離された分離後オイル流量Qs’はブリードポート流量Qsより少なくとも小さい(Qs’<Qs)。
そして、圧縮機8が「Qs<Qd」の関係を保つ構成とされることにより、「Qs’<Qs<Qd」の関係が成立し、油分離器40で分離されたオイルの全量が間欠給油機構50を通過可能となるので、油分離器40のオーバーフローに起因した圧縮機8外部へのオイル流出現象は発生しないからである。したがって、本実施形態では、「Qs<Qd」となる関係が満たされるように設定して、圧縮機8外部へのオイル流出現象が発生しないようにしている。
以上説明したように、本実施形態によると、(a)オイル9が除去されたガス冷媒は、ターンせずに分離室43の外部に排出されるため、一端分離したオイル9の再巻き込みを抑制することができる。したがって、オイル9の分離効率を高めることができる。
(b)旋回柱42を備えているため、混合流体導入通路44から分離室43に流入した混合流体の旋回流は、旋回が助長されてより強い旋回流になるとともに、分離したオイル9の流れとオイル9が除去されたガス冷媒の流れが分岐する地点まで、旋回角速度の低下ひいては遠心力の低下が抑制される。その結果、オイル9と冷媒をより確実に分離することができるとともに、一端分離したオイル9の再巻き込みを抑制することができる。したがって、オイル9の分離効率を高めることができる。
(c)オイル9が貯められる第2分離室432の径は第1分離室431の径よりも大きいため、気体排出通路411におけるガス冷媒の入り口部と第2分離室432に貯められたオイル9の位置との距離が長くなり、気体排出通路411に流入するガス冷媒へのオイル9の巻き込みが抑制される。
(d)オイル9が貯められる第2分離室432の径は第1分離室431の径よりも大きいため、第2分離室432は油分離器40に流入するオイル9の量の変動に対しバッファ機能を発揮し、気体排出通路411へのオイル9の流入を防止することができる。
(e)分離室軸方向に沿って見たときに、円柱部421の周りに気体排出通路411のドーナツ状の空間が存在する。そのドーナツ状の空間は分離されたガス冷媒の進行方向に位置しているため、分離されたガス冷媒は気体排出通路411にスムーズに流入する。
(f)旋回柱42の先端部を気体排出通路411に侵入させているため、分離されたガス冷媒が気体排出通路411に流入するまでガス冷媒の旋回状態が確実に維持されるとともに、分離されたガス冷媒は気体排出通路411にさらにスムーズに流入する。
(g)分離室43の軸線を水平にした場合、油分離器40の上下方向寸法が短くなる。したがって、縦置きタイプの圧縮機8に対して、分離室43の軸線が水平になるようにして油分離器40を搭載した場合、圧縮機8の上下方向寸法を短くすることができる。
なお、上記実施形態においては、分離室43を径が異なる第1分離室431と第2分離室432とにより構成したが、第1分離室431と第2分離室432の径が等しくてもよい。換言すると、分離室43は、分離室軸方向の一端側(すなわち、混合流体の流入側)の径が分離室軸方向の他端側(すなわち、ガス冷媒の流出側)の径以下であればよい。
また、上記実施形態においては、分離室43は、第1分離室431と第2分離室432が段階的に径拡大しているが、第1分離室431と第2分離室432はテーパ状に接続してもよい。また、分離室43は、分離室軸方向の一端側から他端側に向かってテーパ状に径拡大しても良い。
また、上記実施形態においては、気体排出通路411の径D2を円柱部421の径D3よりも大きくしたが、気体排出通路411の径D2を円柱部421の径D3よりも小さくしてもよい。この場合でも、テーパ部422の先端部を気体排出通路411に侵入させることにより、分離されたガス冷媒を気体排出通路411にスムーズに流入させることができる。
また、上記実施形態では、油排出通路45の軸線を分離室43の軸線に対して直交させたが、油排出通路45は、その軸線が分離室43の軸線に対して垂直で且つ分離室43の軸線と交差しないようにしてもよい。これにより、旋回しつつ第2分離室432側に移動したオイル9を、油排出通路45にスムーズに流入させることができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態における油分離器40の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
図4に示すように、固定スクロール12に気体排出通路411が形成されて、気体排出管41が廃止されている。また、旋回柱42は、テーパ部422が廃止され、円柱部421のみを備えている。
そして、このような構成においても、D1>D2>1/2・D1とし、さらに、D2>D3とすることにより、分離されたガス冷媒を気体排出通路411にスムーズに流入させることができる。
なお、旋回柱42の先端部と気体排出通路411における分離室43側の開口端との距離dが長すぎる場合は、旋回柱42の先端部から気体排出通路411における分離室43側の開口端に至る間にガス冷媒の旋回流が乱れてしまうため、距離dは気体排出通路411の径D2よりも短い方が望ましい。すなわち、d<D2が望ましい。
本実施形態によると、第1実施形態の(a)〜(e)および(g)の効果を得ることができる。
また、気体排出管41およびテーパ部422を廃止しているため、油分離器40の分離室軸方向寸法を短くすることができる。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態における油分離器40の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
図5〜図7に示すように、気体排出管41はケース30の筒状部材31と一体に形成されている。気体排出管41は、旋回柱42や分離室43と同軸になっている。
気体排出通路411は、気体排出通路411における上流部位である上流気体排出通路411aと、気体排出通路411における下流部位である下流気体排出通路411bとを備え、上流気体排出通路411aでの気体の流れ方向と下流気体排出通路411bでの気体の流れ方向が異なるように構成されている。
より詳細には、上流気体排出通路411aは、旋回柱42や分離室43と同軸方向に延びている。下流気体排出通路411bは、上流気体排出通路411aの外周側に配置され、上流気体排出通路411aの軸線に対して垂直で且つ上流気体排出通路411aの軸線と交差しないように設定されている。
このようにすると、上流気体排出通路411aを流れる気体は、下流気体排出通路411bの気体の流れにより、旋回が助長されてより強い旋回流になる。その結果、上流気体排出通路411aのガス冷媒の入り口部において、ガス冷媒はその旋回状態が確実に維持されるとともにより強い旋回流となるため、ガス冷媒は上流気体排出通路411aにスムーズに流入する。
なお、上流気体排出通路411aと下流気体排出通路411bの関係は、混合流体導入通路44から分離室43に流入した混合流体の旋回流の向きと、上流気体排出通路411aを流れる気体の旋回を助長する向きが、同じになるように設定されることは言うまでもない。
旋回柱42は、テーパ部422が廃止され、円柱部421のみを備えている。また、旋回柱42は、上流気体排出通路411a内に侵入しているとともに、上流気体排出通路411aの最深部(すなわち、上流気体排出通路411aの最下流部)まで延びている。これにより、ガス冷媒が上流気体排出通路411aに流入するまでガス冷媒の旋回状態が確実に維持され、ガス冷媒は上流気体排出通路411aにスムーズに流入する。
尚、円柱部は一定の径に限らず、分離室431や排出通路411に応じて径を変えることは問題無い。
本実施形態によると、第1実施形態の(a)〜(g)の効果を得ることができる。
(他の実施形態)
上記各実施形態では、本発明をヒートポンプ式給湯機用圧縮機のの油分離器40に適用したが、本発明は、例えば自動車のエンジン内で発生するブローバイガスからオイルを分離する油分離器にも適用することができる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。
また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。