以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明の注入装置の一形態の模式正面図を図1に示す。注入装置1は、薬剤主送管11、並びにこれから枝分かれするように夫々接続した薬剤副送管12及び空気導入管13を有する薬剤誘導複合管10と、薬剤主送管11及び薬剤副送管12に夫々つながったメイン圧送ポンプ21及びサブ圧送ポンプ22と、空気導入管13につながったエアコンプレッサ30とを、有している。
薬剤主送管11は、それの内空に内管11eを有している(図3参照)。薬剤主送管11の先端11aに、覆工コンクリート71に開けられた削孔74に挿し込まれて空洞部73に硬化性薬剤を吐出する注入管14が螺合して接続している(図3参照)。この硬化性薬剤として、例えばイソシアネート化合物含有液、並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の混合物である発泡ポリウレタン原料液が挙げられる。注入管14から空洞部73に注入されたこの発泡ポリウレタン原料液は、化学反応を生じて8〜40倍に膨張しながら発泡・硬化し、かさ高い発泡ポリウレタンを生成する。この発泡ポリウレタンが空洞部73を充填する。
薬剤主送管11の基端11bにメインチューブ41の一端が接続している。メインチューブ41は、薬剤主送管11の内管11eに液密に連通している。またメインチューブ41の他端は、メイン圧送ポンプ21に接続している。薬剤主送管11の先端11aと基端11bとの間に空気導入管13に接続される接続部11cが、この接続部11cと先端11aとの間に薬剤副送管12に接続される分枝部11dが、夫々薬剤主送管11の管壁を貫通して開けられている。薬剤副送管12の一端はL字形に曲がっており、その先の分枝部11dで薬剤主送管11と螺合して液密に接続している(図3参照)。薬剤副送管12の他端は、サブチューブ42を介してサブ圧送ポンプ22に接続している。
空気導入管13の一端はL字形に曲がっており、その先の接続部11cで薬剤主送管11と螺合して気密に接続している(図3参照)。空気導入管13の他端は、エアチューブ43を介して圧縮空気を発生させるエアコンプレッサ30に接続している。空気導入管13にそれの内空の空気圧を表示するブルドン管13a、及び圧力センサユニット13bが、直列に取り付けられている。ブルドン管13aは、空気導入管13内のおおよその圧力を、作業者が目視によって確認するために設けられている。圧力センサユニット13bは、空気導入管13内の空気圧を計測する圧力センサ13b1と、これに電気的に接続してこの計測値を電気信号に替えてポンプユニット20に無線で送信する無線送信部13b2とを、有している。
圧力センサ13b1は、ダイヤフラムと感圧素子とを有し、空気導入管13内の圧力によって生じるダイヤフラムの歪みの量を、電気信号に変換する機器である。ダイヤフラムとしてステンレスダイヤフラムやシリコンダイヤフラムが挙げられ、感圧素子として絶縁体を電極で挟んだ静電容量型感圧素子や導電性ゴムを電極で挟んだ感圧導電性ゴム型感圧素子が挙げられる。このような圧力センサ13b1は、1.00〜2.00MPaの測定可能最大圧と、0.01MPaの分解能とを有するものが好ましい。また圧力センサ13b1は、常時圧力を計測でき、その計測時点から50×10−9秒後の値を圧力値として取得できるものであることが好ましい。それにより、極微小な圧力変化に起因するノイズを排除し、正確な圧力値を取得することができる。
無線送信部13b2として、圧力センサ13b1と電気的に接続し、そこから送信された電気信号をスイッチユニット24に無線で送信できるものであれば、汎用のものを使用できる。なお注入装置1は、無線送信部13b2を有しておらず、圧力センサ13b1とスイッチユニット24とが有線によって接続されていてもよい。
薬剤主送管11、薬剤副送管12、及び空気導入管13は、管内を開通又は閉塞するボールバルブ11f,12a,13cを夫々有している。
ポンプユニット20は、メイン圧送ポンプ21、サブ圧送ポンプ22、両圧送ポンプ21,22の動作を制御するポンプコントローラ23、及び圧力センサユニット13bから送信された電気信号を受信する無線受信部24aを備えたスイッチユニット24を有している。また、ポンプコントローラ23は、両圧送ポンプ21,22に電気的に接続しており、動作させたり停止させたり回転数を指示したりする電気信号をそれらに送信することによって両圧送ポンプ21,22を制御している。
メイン圧送ポンプ21は原料供給チューブ44を介してメインタンク51に、サブ圧送ポンプ22は原料供給チューブ45を介してサブタンク52に、夫々つながっている。ポンプコントローラ23は、両圧送ポンプ21,22の動作を制御することによって両タンク51,52に夫々投入されたイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液を、薬剤主送管11及び薬剤副送管12に、夫々送る。ポンプコントローラ23に、両圧送ポンプ21,22を動作させたり停止させたり両送液量やその比を変えたりする電気信号を発生させる手動スイッチが取り付けられている。作業者はこの手動スイッチを操作することにより、両圧送ポンプ21,22を、ポンプコントローラ23を介して操作できる。
具体的に、例えば作業者がポンプコントローラ23の手動スイッチをONにすることによって、メイン圧送ポンプ21にポンプモーターの動作を開始する電気信号が送られると、メイン圧送ポンプ21がメインタンク51内のイソシアネート化合物含有液を吸引する。それによってメイン圧送ポンプ21は、イソシアネート化合物含有液を原料供給チューブ44へ導き、さらにこれを加圧してメインチューブ41へ送り、その先の薬剤主送管11にまで送る。また、ポンプコントローラ23からポンプモーターの動作を停止する電気信号が送られると、メイン圧送ポンプ21は動作を停止し、イソシアネート化合物含有液の送液が停止する。サブ圧送ポンプ22もメイン圧送ポンプ21と同様にしてポリオール化合物及び発泡剤含有液の送液とそれの停止が制御される。
送り出したイソシアネート化合物含有液の量を積算して計測するメイン流量計21aがメイン圧送ポンプ21に、送り出したポリオール化合物及び発泡剤含有液の量を積算して計測するサブ流量計22aがサブ圧送ポンプ22に、夫々取り付けられている。両流量計21a,22aは、ポンプコントローラ23内の計器及びスイッチユニット24へ電気的に接続されている。
両流量計21a,22aとして、例えば、流体のエネルギーにより回転子を回転させ、これの回転数から流量を算出する容積流量計、単位時間内に流れる流体の質量を計測して流量を算出するコリオリ式流量計、カルマン渦の発生周波数から流量を算出する渦流量計、流体を挟んだ二つのトランスデューサ間で交互に送受信する超音波の伝播時間の差から流量を算出する超音波流量計、流体の流れと平行な軸を有するタービンの単位時間内における回転数から流量を算出するタービン流量計、及び流速センサと温度センサとを有し流れる流体によって流速センサから奪われる熱量と奪われた熱量を補うために流速センサへ加えられる電力量とから流量を算出する熱式質量流量計が挙げられる。両流量計21a,22aは、同種であっても互いに異種であってもよい。
またポンプコントローラ23に、圧力センサ13b1によって計測された圧縮空気の圧力、両流量計21a,22bによって計測されたイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の積算量や、両者の混合により調製された発泡ポリウレタン原料液の積算量や、注入すべき発泡ポリウレタン原料液総量の残存量を示す計器、及び後述するスイッチユニット24の動作状況を示すランプが取り付けられている。作業者はこれらの計器を目視することによって、裏込め注入工の進行状況を把握することができる。
ポンプコントローラ23に、スイッチユニット24が搭載されている。図2にスイッチユニット24、圧力センサユニット13b、両圧送ポンプ21,22、及び両流量計21a,22aの協働を説明するブロック図を示す。スイッチユニット24は、圧力センサユニット13bの無線送信部13b2から送信された圧力の値である電気信号を受信する無線受信部24aと、無線受信部24aが受信した圧力値を記憶する圧力記憶部24b1と、両流量計21a,22aから送られた流量値を記憶する流量記憶部24b2と、薬剤注入開始時の圧力と薬剤注入中の注入圧との差圧を算出する演算部24cと、後述する圧力判定部24d1、流量判定部24d2、出力部24e及び上記の手動スイッチとは別な停止スイッチ24fとを、有している。許容される最大の差圧である閾値が作業者によって予め圧力記憶部24b1に入力されている。また、注入すべき量の発泡ポリウレタン原料液を調製するのに要するイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の上限値が、作業者によって予め流量記憶部24b2に入力されている。スイッチユニット24の両記憶部24b1,24b2はこの閾値及び上限値を記憶・保持している。
発泡ポリウレタン原料液の注入開始直後、薬剤誘導複合管10、両圧送ポンプ21,22、及び各チューブ41,42,43,44,45に残存している発泡ポリウレタン原料液やそれの原材料液の温度変化、並びに薬剤誘導複合管10、両圧送ポンプ21,22、及び各チューブ41,42,43,44,45の内空が発泡ポリウレタン原料液やそれの原材料液で満たされるまでの圧力変動のため、ブルドン管13a及び圧力センサ13b1によって計測される圧力は一定せず、最大で±0.10MPa、少なくとも±0.05MPaの範囲で圧力変動を生じる。
その後発泡ポリウレタン原料液の注入が継続されると、薬剤誘導複合管10内、両圧送ポンプ21,22内、及び各チューブ41,42,43,44,45の内空に発泡ポリウレタン原料液やそれの原材料液が満たされる。それによりそれらの温度及び圧力が安定するため、圧力変動は収束する。具体的に、±0.03MPaの範囲、好ましくは±0.01MPaの範囲で安定する。さらに発泡ポリウレタン原料液の注入が継続されると、空洞部73への発泡ポリウレタン原料液の注入量がさらに増加する。それの注入及び発泡に伴って空洞部73を占める発泡ポリウレタンの体積が増大して徐々に注入し難くなって、発泡ポリウレタン原料液の圧縮空気による送液圧が上昇するため、ブルドン管13a及び圧力センサ13b1によって計測される空気導入管13内の空気の圧力も徐々に上昇する。
圧力センサユニット13bの無線送信部13b2は、圧縮空気の圧力値をスイッチユニット24に逐次送信し、無線受信部24aがこれを受信する。さらに圧力記憶部24b1がこの圧力値を記憶する。演算部24cは、新たな圧力値が圧力記憶部24b1に記憶される都度、その直前の圧力値との差を演算する。さらに圧力判定部24d1は、この差が±0.03MPa、好ましくは±0.01MPaにあることを少なくとも5秒間、好ましくは10秒間判定すると圧力変動が収束して安定したことを判定する。それにより圧力記憶部24b1が注入開始時の初期圧力として記憶する。無線送信部13b2は、発泡ポリウレタン原料液の注入中、圧力センサ13b1が圧縮空気の圧力値を取得する都度、これをスイッチユニット24に送信し、それが圧力記憶部24b1に蓄積される。
演算部24cは、都度送信される圧力値と発泡ポリウレタン原料液の注入開始時の初期圧力との差圧を逐次演算し、圧力判定部24d1はこの差圧と圧力記憶部24b1に予め記憶・保持された閾値とを逐次比較する。この差圧が圧力記憶部24b1に記憶された閾値に達した又は超えたことを圧力判定部24d1が判定すると、出力部24eは両圧送ポンプ21,22の動作を止める電気信号を停止スイッチ24fに送信する。停止スイッチ24fはこの電気信号を受信すると、両圧送ポンプ21,22及びエアコンプレッサ30への電力供給を止めて、それらの動作を停止させる。それにより、発泡ポリウレタン原料液の注入も停止する。
圧力記憶部24b1に入力される閾値は、0.20MPa未満であることが好ましく、0.15〜0.10MPaであることがより好ましく、0.10MPa未満であることがより一層好ましい。閾値が、例えば数kPaのように低すぎると、発泡ポリウレタン原料液の注入中に安全な施工に支障を来さないわずかな圧力上昇を生じただけで、発泡ポリウレタン原料液の注入が中断し、円滑な施工を妨げてしまう。一方閾値がこの上限を超えると、発泡ポリウレタン原料液が注入管14から薬剤主送管11に向かって逆流し、その圧力によって接続部11cや分枝部11dで薬剤副送管12及び空気導入管13が外れて発泡ポリウレタン原料液やそれの原料が飛散したり、覆工コンクリート71に掛かる過剰の圧力の所為でそれの破損を招来したりする。さらに、すでに空洞部73を充填している発泡ポリウレタンを、新たに注入された発泡ポリウレタン原料液に由来する発泡ポリウレタンが押し潰しながら空洞部73を再充填するため、不経済である。
一方両流量計21a,22aは、計測した値を逐次流量記憶部24b2に送信する。流量記憶部24b2は、両流量計21a,22aから夫々送信された積算流量値を一時的に記憶する。流量判定部24d2は、これら積算流量値、流量記憶部24b2に予め記憶されているイソシアネート化合物含有液量の上限値、並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液量の上限値を、流量記憶部24b2から読み込んで、積算流量値と上限値とを対比する。その結果、イソシアネート化合物含有液の積算流量値がそれの上限値に達している又は超えていることと、ポリオール化合物及び発泡剤含有液の積算流量値がそれの上限値に達している又は超えていることとの少なくとも一方が流量判定部24d2によって判定されると、出力部24eは両圧送ポンプ21,22の動作を止める電気信号を停止スイッチ24fに送信する。停止スイッチ24fはこの電気信号を受信すると、両圧送ポンプ21,22及びエアコンプレッサ30への電力供給を止めて、それらの動作を停止させる。それにより、発泡ポリウレタン原料液の注入も停止する。なお、圧力判定部24d1の判定に応じ出力部24eから出力される電気信号と、流量判定部24d2の判定に応じ出力部24eから出力される電気信号とは、同種であっても異種であってもよく、同一又は異なる経路を経由して停止スイッチ24fに到達する。
このように本発明の注入装置1は、空気の圧力を計測する圧力センサ13b1を空気導入管13に有しているので、これによって計測された値に基づき、安全に施工できる圧力に達した又は超えた場合に自動的に発泡ポリウレタン原料液の注入を停止できる。その結果、作業者の圧力上昇の見落としや薬剤圧送ポンプの操作ミス、さらに作業者同士の指示伝達ミスや伝達遅延のようなヒューマンエラーに起因する作業ミスを生じず、裏込め注入工を安全にかつ確実に実施することができる。
しかも発泡ポリウレタン原料液の注入を停止するのに、温度や流速によって粘性や流動性の変化を生じ易い発泡ポリウレタン原料液やイソシアネート化合物含有液やポリオール化合物及び発泡剤含有液の圧力でなく、これらに比較して安定し高精度で計測できる空気導入管13内を流れる圧縮空気の圧力を監視しているので、空洞部73を隙間なく発泡ポリウレタンで充填するのに、注入開始時圧力と注入時圧力との差圧の閾値を、従来の0.2MPaよりも低く、安全に施工できる0.10MPa(すなわち実際に計測される圧力は初期圧力+0.10MPa)としても、空洞部73に発泡ポリウレタンを過不足なく充填できる。
さらに、両流量計21a,22aがイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の積算流量を常に計測し、空洞部の体積測定の結果に基づいて算出された注入すべき発泡ポリウレタン原料液を調製するのに要する両含有液の上限値に達した又は超えたことを流量判定部24d2が判定して、自動的に両圧送ポンプ21,22の動作が停止するので、圧縮空気だけでなく両含有液の流量の監視によっても発泡ウレタン原料液の過剰注入を防止できる。また両流量計21a,22aが独立してイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の積算流量を夫々計測するので、作業者が両含有液の混合比を常に確認することができる。それにより作業者は、両圧送ポンプ21,22による送液量を、必要に応じて夫々変更できるので、裏込め注入工の施工中、常に正確な混合比を維持できる。
このように注入装置1によれば、圧縮空気の圧力と両含有液の流量との両方を計測し、それらが所定の値に達した又は超えたときに、注入を自動的に停止できるので、過剰量の発泡ポリウレタンが空洞部73に充填されない。そのため、発泡ポリウレタンの生成熱に起因する火災の恐れがなく、空洞部73内の過剰な高圧力に起因する覆工コンクリートの破損も、発泡ポリウレタン原料液の逆流による注入装置の破損及びそれによる発泡ポリウレタン原料液の飛散も生じない。その結果、例えば道路トンネルを供用に付したままそれの覆工背面に形成された空洞部73に裏込め注入工を施すことができる。
図3に薬剤誘導複合管10の模式部分断面正面図を示す。薬剤主送管11内に、これよりも縮径した内管11eが、薬剤主送管11と同軸上に固定されている。内管11eは一端に先端口11e1を有しており、この先端口11e1は、他端に接続しているメインチューブ41を通じて送られたイソシアネート化合物含有液を吐出する。先端口11e1は、先端11aと分枝部11dとの間に位置している。先端口11e1と先端11aとの間は、イソシアネート化合物含有液と分枝部11dから薬剤主送管11内に流れ込んだポリオール化合物及び発泡剤含有液とが合流して撹拌され、互いに混ざり合う混合撹拌部11gである。
注入管14が覆工コンクリート71に開けられた削孔74に挿入されており、注入管14の先端部が空洞部73内に到達している。注入管14の外周面と削孔74の壁面との隙間は、ウエスやコーキング剤のようなシール材75によって塞がれている。それにより空洞部73に注入された発泡ウレタン原料液が、注入管14を挿し込んだ削孔74から遺漏しない。
薬剤を注入管14から吐出する際の薬剤誘導複合管10の作用を説明する。ボールバルブ11f,12a,13cが開かれて薬剤主送管11、薬剤副送管12、及び空気導入管13が開通する。薬剤主送管11の内管11eを通じ、先端口11e1からイソシアネート化合物含有液が吐出する。薬剤副送管12を通じて送られたポリオール化合物及び発泡剤含有液が、分枝部11dから薬剤主送管11内に流れ込む。さらに空気導入管13を通じて送られた圧縮空気が接続部11cから薬剤主送管11内に流入し注入管14に向かって流れる。
この圧縮空気とポリオール化合物及び発泡剤含有液とが、先端口11e1に到達するまでの間に衝突混合されるので、ポリオール化合物及び発泡剤含有液は粒状の空気を多量に含んでいる。空気を含んだポリオール化合物及び発泡剤含有液は、先端口11e1に達するとそこから吐出されたイソシアネート化合物含有液と混合撹拌部11gで合流し、両者は混合・撹拌される。それにより、多量の空気を含んだ発泡ポリウレタン原料液が調製される。そのため、この発泡ポリウレタン原料液から生成する発泡ポリウレタンは、高い発泡倍率を有する。それにより、空洞部73を隙間なく充填するのに要する発泡ポリウレタン原料液が従来に比較して少量で足りるので、裏込め注入工の工費を低減することができる。
発泡ポリウレタン原料液は、空気導入管13から薬剤主送管11へ導入された圧縮空気及び両圧送ポンプ21,22(図1参照)の圧力によって注入管14へ送られて、それの吐出口から空洞部73内に注入される。注入直後に発泡ポリウレタン原料液の化学反応によって発泡ポリウレタンが膨張しながら生成し、これが空洞部73内を徐々に充填していく。
発泡ポリウレタン原料液を調製するためのイソシアネート化合物含有液に含まれるイソシアネート化合物として、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及び/又はイソホロンジイソシアネートが挙げられる。またポリオール化合物含有液に含まれるポリオール化合物として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、及びスクロースから選択される一種又は二種以上に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/又はブチレンオキシドを作用させ、重付加反応で得られるポリオール化合物が挙げられる。
発泡剤として、水;トリクロルモノフルオロメタン、トリクロルトリフルオロエタン、CHF3、CH2F2、CH3F、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのようなハイドロフルオロオレフィン;ジクロロモノフルオロエタン、クロロジフルオロメタン、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタのようなハイドロクロロフルオロカーボン化合物が挙げられる。発泡剤はポリオール化合物含有液に含まれていることが好ましい。
ポリオール化合物及び発泡剤含有液に、発泡ポリウレタンの硬化を促進する硬化剤やそれの強度を高める充填剤が含まれていてもよい。このような硬化剤として具体的に、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチレンジアミン、及びテトラメチルヘキサメチレンジアミンのようなアミン系触媒及び/又はジブチルスズジラウレートのような有機金属系触媒が挙げられる。また好ましい充填剤として、コロイダルシリカが挙げられる。
硬化性薬剤は、発泡ポリウレタンを生成する発泡ポリウレタン原料液の他、ケイ酸ナトリウム、モルタル、ベントナイトモルタル、エアミルク、エアモルタル、グラウト、ポリマーセメント、エポキシ樹脂、及びシリカレジン(ケイ酸ナトリウムとジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物)を用いることができる。複数種の原料液を混合することを要しない硬化性薬剤を用いる場合、注入装置1は薬剤副送管12、サブ圧送ポンプ22、サブチューブ42、原料供給チューブ45、及びサブタンク52を有していなくてもよい。
図4に注入装置1を用いた注入方法を実施している途中の模式部分断面側面図を示す。同図は、道路トンネル70の覆工コンクリート71の背面と地山72との間に形成された空洞部73を発泡ポリウレタンで充填する裏込め注入工を示している。
この注入装置1は無線送信部13b2を備えておらず、圧力センサ13b1とポンプコントローラ23のスイッチユニット24とがケーブル46によって電気的に接続されている。そのためスイッチユニット24は無線受信部24aを有していない。圧力センサ13b1と圧力記憶部24b1とは、有線送信部及び有線受信部(不図示)、並びにケーブル46を介した有線によって接続されている。
まず覆工コンクリート71の天面に、道路トンネル70の坑内から空洞部73に向かって、ドリルで複数の削孔74a,74b,74cを形成する。削孔74a,74b,74cからスケールを挿し込んだり、覆工コンクリート71の表面に沿って超音波を照射したりして、空洞部73の体積を計測する。この計測値に基づいて、発泡ポリウレタン原料液の注入量を計算して決定する。さらに、この注入量の発泡ポリウレタン原料液を調製するのに要するイソシアネート化合物含有液、並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液の量を夫々計算し、それらの量の上限値を決定する。
注入作業者83及びポンプ操作者84は、機器積載車82に積載されたポンプユニット20の両圧送ポンプ21,22と薬剤誘導複合管10の薬剤主送管11及び薬剤副送管12とを、メインチューブ41及びサブチューブ42によって夫々接続する。さらに両作業者83,84は、両圧送ポンプ21,22と両タンク51,52とを原料供給チューブ44,45によって夫々接続し、空気導入管13と道路トンネル70の坑外に仮に設置されたエアコンプレッサ30とをエアチューブ43によって接続する。さらにイソシアネート化合物含有液をメインタンク51に、ポリオール化合物及び発泡剤含有液をサブタンク52に、夫々投入する。
ポンプ操作者84は、薬剤注入開始時の圧力と薬剤注入中の注入圧との許容される最大差圧である閾値と、計算によって決定されたイソシアネート化合物含有液量の上限値と、ポリオール化合物及び発泡剤含有液量の上限値とを、スイッチユニット24の両記憶部24b1,b2に夫々入力する(図2参照)。
注入作業者83は、薬剤誘導複合管10のボールバルブ11f,12a,13cをすべて閉じて、薬剤誘導複合管10とともに高所作業車81のバケット81aに乗り込む。バケット81aを覆工コンクリート71の天面付近にまで上昇させる。次いで注入作業者83は、薬剤誘導複合管10の注入管14を、削孔74aに挿し込み、注入管14が削孔74aから抜けないように接着剤や、注入管14に取り付けられてこれとともに空洞部73に挿入されて覆工コンクリート71背面の削孔74aの開口部に掛かる落下防止リングによって薬剤誘導複合管10を固定し、注入管14と削孔74aとの隙間にウエスやコーキング剤のようなシール材75を詰めて、空洞部73に注入された発泡ポリウレタン原料液が漏れないようにこの隙間を塞ぐ。なお、シール材75としてウエスを用い、このウエスを詰めながら注入管14を削孔74aに挿し込むことが好ましい。
その後注入作業者83は、空気導入管13のボールバルブ13cを開き、ブルドン管13aによって示される値が0.20MPa未満であることを目視によって確認する。さらに注入作業者83は、薬剤主送管11のボールバルブ11f、及び薬剤副送管のボールバルブ12aを開き、ポンプ操作者84に発泡ポリウレタン原料液の注入開始を、口頭にて指示する。ポンプ操作者84は、ポンプコントローラ23の手動スイッチを操作して両圧送ポンプ21,22を動作させる。それによりイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液を、例えば2〜10L/分、好ましくは3〜6L/分の流速で薬剤誘導複合管10に送る。それによりイソシアネート化合物含有液並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液は、空気導入管13によって導入された圧縮空気とともに薬剤主送管11内の混合撹拌部11gで混合・撹拌され、発泡ポリウレタン原料液が調製される。この発泡ポリウレタン原料液が空洞部73へ注入される。発泡ポリウレタン原料液は、空洞部73内の覆工コンクリート71上で、削孔74aを中心として放射状に流れて広がり、発泡・膨張しながら硬化し、発泡ポリウレタンを生成する。この発泡ポリウレタンによって空洞部73が徐々に充填される。
注入開始直後から0.5〜2分間、空気導入管13内で計測される圧縮空気の圧力は、変動する。圧力センサ13b1によって計測される圧力が例えば±0.02MPaの範囲で安定した時点で、圧力記憶部24b1は、圧力センサ13b1からケーブル46を介してこの範囲の中央値を取得し、注入開始時圧力として保持する。発泡ポリウレタン原料液の注入中、逐次送信される圧縮空気の圧力値と圧力記憶部24b1に保持された注入開始時圧力との差圧を演算部24cが演算し、その都度圧力判定部24d1が圧力記憶部24b1に保持された閾値とこの差圧とを比較して、差圧が閾値に達している又は超えていることを判定する(図2参照)。
なおポンプ操作者84は、発泡ポリウレタン原料液注入中、イソシアネート化合物含有液及びポリオール化合物及び発泡剤含有液の積算量や、注入すべき発泡ポリウレタン原料液総量の残量を示す計器を監視し、この残量が所定の値、例えば5kgに達したことを確認したとき、注入作業者83にその旨を伝達することが好ましい。それにより注入作業者83は、まもなく発泡ポリウレタン原料液の注入を終了すべき旨を認識する。
なお注入装置1は、注入すべき総量と両流量計21a,22aによって計測された積算流量との差を算出する流量演算部、この差が所定の残量に達した又は下回ったことを判定する流量判定部、及びこの判定によって音声を発するブザーのような音声発生器を有していることにより(不図示)、自動的に発泡ポリウレタン原料液の注入終了間際であることを注入作業者83に知らせるものであってもよい。
スイッチユニット24の圧力判定部24d1によって差圧が閾値に達した又は超えたことが判定されると、それに応じて出力部24eが両圧送ポンプ21,22の動作を止める電気信号を停止スイッチ24fに出力し、この停止スイッチ24fによって両圧送ポンプ21,22への電力供給が遮断されてそれらの動作が停止する。それによって自動的に発泡ポリウレタン原料液の注入が終了する。
注入作業者83は、空気導入管13のボールバルブ13cを開けたまま、薬剤主送管11のボールバルブ11f、及び薬剤副送管12のボールバルブ12aを閉める。それにより、薬剤誘導複合管10内に少量残存した発泡ポリウレタン原料液、イソシアネート化合物含有液、並びにポリオール化合物及び発泡剤含有液を、薬剤誘導複合管10から排出し、これらの液の残存や逆流によって薬剤誘導複合管10が詰まったり、薬剤誘導複合管10内で発泡ポリウレタンが生成して薬剤誘導複合管10が破裂したりすることを防止する。その後ポンプ操作者84はエアコンプレッサ30の動作を止め、注入作業者83はボールバルブ13cを閉める。
注入作業者83は、薬剤主送管11から注入管14を取り外し、注入済みで未反応の発泡ポリウレタン原料液が遺漏しないように、注入管14を折り曲げたりそれの開口部を塞いだりして、発泡ポリウレタンを養生する。これらの作業をすべての削孔74a,74b,74cに対して実施する。発泡ポリウレタン原料液は、複数の削孔74a,74b,74cから夫々注入され放射状に流れるので、例えば削孔74aからの注入により生成した発泡ポリウレタンと空洞部73の壁面との間に、削孔74aからの注入完了時点で隙間が存在していたとしても、削孔74aに隣り合った別な削孔74bからの注入によってこの隙間に発泡ポリウレタン原料液が流れ込んで発泡ポリウレタンが生成する。そのため、このような隙間を残さずに、空洞部73内を発泡ポリウレタンで充填することができる。このようにして裏込め注入工が完了する。
本発明の注入方法は、図4に示すようなトンネル覆工背面の空洞の他、建造物基礎下の空洞、及び建造物構造内の一部欠損により形成された空洞、並びに廃坑、水路、防空壕、及びライフライン埋設坑のような横坑を塞ぐのに好適に用いることができる。ライフライン埋設坑とは、上下水道管、送電線、ガス管、並びに電話回線及び光回線に例示される通信回線のようなライフラインを収容し、地中に埋設されている横坑をいう。
本発明の注入方法を用いて空洞に発泡ポリウレタンを充填した実施例、及び本発明を適用外の注入方法を用いた比較例を示す。
(実施例1)
縦×横×高さ=1000×1000×300mm(容積:0.3m3)の内寸を有する直方体形の密閉可能な容器であるモールドを用意した。モールド側面に覆工コンクリートに開けられる削孔と同様の注入孔を開けた。このモールドを密閉し、水平な床面(傾斜角0°)に載置した。このモールドの容積に基づいて算出した注入すべき発泡ポリウレタン原材料液の量である計算注入量は、8.85kgであった。
スイッチユニット24の圧力記憶部24b1に、0.09MPaの閾値を入力した。40倍(規格:40±4倍)に発泡した発泡ポリウレタンを生成する発泡ポリウレタン原材料液を調製できる市販のイソシアネート化合物含有液とポリオール化合物及び発泡剤含有液とを、夫々メインタンク51及びサブタンク52に投入した。モールドの注入孔に注入管14を挿し込んでから注入装置1を動作させ、発泡ポリウレタン原材料液をモールドに7kg/分で注入した。両含有液を0.5kg送液したところで、圧力センサ13b1によって計測される圧縮空気の圧力は、0.05±0.01MPa内で10秒間継続した。スイッチユニット24の圧力判定部24d1がこの0.05MPaを初期圧力として判定し、圧力記憶部24b1がこの初期圧力を記憶したことが確認された。
空気導入管13を流れる圧縮空気の圧力が初期圧力+0.09MPaに達したところで、両圧送ポンプ21,22の動作が止まり、発泡ポリウレタン原料液の注入が停止した。直ちに両ボールバルブ11f,12aを閉めて、薬剤誘導複合管10内に残留した各液を圧縮空気によって排出した後、空気導入管13のボールバルブ13cを閉めた。両流量計21a,22aに基づいて算出された発泡ポリウレタン原料液の実施注入量は、11.5kgであり、計算注入量に対する実施注入量の比である注入量倍率は1.3であった。
モールドの蓋を開けてモールド内の発泡ポリウレタンを目視によって観察した。実施例1の結果の外観写真を図5(a)に示す。同図に示すように、発泡ポリウレタンはモールド内にほぼ隙間なく充填されていた。
この発泡ポリウレタンをモールドから取り出した。この発泡ポリウレタンの中心部を、発泡ポリウレタンの表面層であるスキン層が含まれないように所定の大きさに切り出してサンプルを作製した。サンプルの外寸と重量とに基づいて発泡ポリウレタンサンプルの密度を算出した。サンプルの密度に対する発泡ポリウレタン原料液の密度の比を計算して発泡倍率を算出したところ、39.7倍であった。
(実施例2)
モールドの底面をなす一辺に沿って、これと床面との間にコンクリートブロックを置き、モールドを30°傾斜させたこと、及び閾値を0.05MPaとしたこと以外は実施例1と同様に操作した。その結果、発泡ポリウレタンはほぼ隙間なくモールドに充填されていた。また、実施注入量は11.5kg、注入倍率は1.3、発泡倍率は39.0倍であった。
(実施例3)
閾値を0.17MPaとしたこと以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、発泡ポリウレタンはほぼ隙間なくモールドに充填されていた。実施注入量は17.5kg、注入倍率は2.0倍であった。また発泡倍率は32.6倍であり、規格の倍率である40倍に対して若干低下した。
(比較例1)
閾値を設定せずに、発泡ポリウレタン原材料液の計算注入量である8.85kgに達した時点で注入を停止したこと以外は、実施例1と同様に操作した。比較例1の結果の外観写真を図5(b)に示す。同図に示すように、モールドの内壁と発泡ポリウレタンとの間の隙間や発泡ポリウレタンの割れが観察された。このことは、発泡ポリウレタン原料液の注入不足を示している。注入倍率は1.0倍、発泡倍率は41.6倍であった。なお施工中、圧力センサ13bによって計測される圧縮空気の圧力は初期圧力から上昇せず、注入停止直前における圧力と初期圧力との差圧は、0.00MPaであった。
(比較例2)
閾値を設定せずに、圧縮空気の圧力が初期圧力から0.24MPa上昇した時点で注入を停止したこと以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、発泡ポリウレタンはほぼ隙間なくモールドに充填されていた。しかしそれの一部は押しつぶされて表面に皺が観察され、発泡ポリウレタン原料液の過剰注入を示していた。また、実施注入量は26.5kgであった。注入倍率は3.0倍にも達しており、発泡倍率は規格の40倍に対しておおよそ6割の値である24.7倍にまで低下した。
実施例1〜3、並びに比較例1及び2の結果を表1にまとめて示す。なお、評価の欄中の◎、〇、△、及び×は、下記の通りである。
◎:モールド内が完全に充填され、かつ発泡倍率が規格値範囲内(40±4倍)であった
もの
〇:モールド内が完全に充填され、かつ発泡倍率の低下分が規格下限値に対してそれの1
0%以内であったもの
△:モールド内がそれの四角を除いて充填され、かつ発泡倍率が規格値範囲内であったも
の
×:発泡倍率の低下分が、規格下限値に対してそれの10%を超えたもの
実施例1〜3によればモールドの内壁面と発泡ポリウレタンとの間に殆ど隙間が生じず、モールド内は発泡ポリウレタンで充填されていた。なかでも実施例1及び2の発泡倍率は規格内に収まっており、それらの注入倍率は1.3と、実施注入量と計算注入量との差が極めて小さかった。このように、圧縮空気の初期圧力から最大で0.20MPaとする閾値を設定することによって、裏込め注入工を適切にかつ確実に実施できることが分かった。
一方、注入量にのみ依拠して発泡ポリウレタン原料液の注入を行った比較例1は、圧力上昇を生じず、モールド内を充填できなかった。このことから注入量にのみ依拠して硬化性薬剤の注入を行う裏込め注入工は、空洞部を硬化性薬剤で充填できない可能性が極めて高いことが分かった。また初期圧力+0.24MPaという高圧力に達するまでポリウレタン原料液の注入を継続した比較例2において、注入倍率は3.0倍であり、発泡倍率は規格の40倍よりも遥かに低い約25倍であったことから、圧縮空気の圧力が初期圧力から0.20MPaを超えると、過剰注入を引き起こすことが分かった。