本実施の形態による製造方法は、円柱素材に対して据込鍛造を実施して円形材を製造する。上記製造方法は、配置工程と、突出工程と、第1の据込鍛造工程と、格納工程と、第2の据込鍛造工程とを含む。配置工程では、互いに対向する第1及び第2の金型を備え、第1の金型は、横断形状が円である内周面を有する筒部材と、筒部材と同軸に筒部材内に配置される円形部材とを含む鍛造装置の第1及び第2の金型の間に、筒部材の内径よりも小さい外径を有する円柱素材を配置する。突出工程では、筒部材を円形部材に対して相対的に前進させて円形部材よりも第2の金型側に突き出す。第1の据込鍛造工程では、筒部材を突き出した後、円柱素材に対して据込鍛造を実施して、円柱素材を筒部材の内周面に接触させる。格納工程では、円柱素材が筒部材の内周面に接触した後、突き出された筒部材を円形部材に対して相対的に後退させて、筒部材を円柱素材から引き抜く。第2の据込鍛造工程では、筒部材を引き抜いた後、円柱素材に対して据込鍛造を実施して、円柱素材を後退後の筒部材の端面に接触させる。
本実施の形態では、筒部材を第2の金型側に突き出した後、第1の据込鍛造を実施する。この据込鍛造により、円柱素材は変形して径方向に広がる。そして、円柱素材の外周面が筒部材の内周面に接触することにより、円柱素材は筒部材に拘束される。円柱素材が筒部材に拘束されることにより、偏肉の発生が抑制される。
さらに、突き出された筒部材を後退させて筒部材を円柱素材から引き抜いた後、第2の据込鍛造を実施する。このとき、円柱素材はさらに径方向に広がり、円形部材の表面とともに、後退後の筒部材の端面にも接触する。したがって、筒部材の端面は、第2の据込鍛造において第1の金型の表面(鍛造面)として利用される。本実施形態の製造方法では、特許文献1のように、筒部材を鍛造装置から取り除く必要がない。そのため、筒部材の取り除くことによる生産効率の低下を抑制できる。さらに、筒部材の端面を第1の金型の表面(鍛造面)として利用して据込鍛造を実施するため、第1の据込鍛造において筒部材の内周面が円柱素材を有効に拘束できるように、筒部材の内径を適切なサイズにすることができる。
本明細書において「同軸」は、筒部材の中心軸が円形部材の中心軸と厳密に一致する場合だけでなく、筒部材が円形部材に対して第1の金型の軸方向にスライド(前進及び後退)可能な範囲で、筒部材の中心軸が円形部材の中心軸から多少ずれている場合も含む。
筒部材の内径は、第2の金型に向かって大きくなってもよい。
この場合、第1の据込鍛造工程後に、筒部材をスライドするときに、円柱素材が筒部材の内面から離れやすい。そのため、筒部材を円柱素材から引き抜きやすい。
筒部材の端面は、筒部材の外側に傾斜してもよい。
この場合、第2の据込鍛造工程において、変形中の円柱素材の一部が円形材と筒部材との間の隙間に入り込みにくい。さらに、第2の据込鍛造工程後の中間品の外周縁部分の肉厚が、他の部分よりも厚くなる。また、円柱素材のスケールが第1の金型の外部に除去されやすい。
筒部材を後退させる工程では、円形部材の表面の外縁が筒部材の端面の内縁よりも第2の金型側に近くなるように、筒部材の端面を配置してもよい。
この場合、第2の据込鍛造工程において、変形中の円柱素材の一部が円形材と筒部材との隙間に入り込みにくい。
本実施形態による鍛造装置は、上述の製造方法に利用される。本実施形態の鍛造装置は、円柱素材に対して据込鍛造を実施する。鍛造装置は、互いに対向して配置される第1及び第2の金型を備える。第1の金型は、筒部材と、円形部材とを含む。筒部材は、横断形状が円である内周面と、第2の金型に対向して配置される端面とを含む。円形部材は、筒部材と同軸に筒部材内に配置される。鍛造装置はさらに、スライド装置を備える。スライド装置は、第1の据込鍛造を実施する場合、筒部材を円形部材に対して相対的に前進させて筒部材を円形部材よりも第2の金型側に突き出し、第1の据込鍛造後に第2の据込鍛造を実施する場合、突き出された筒部材を円形部材に対して相対的に後退させる。第1の据込鍛造において、内周面は円柱素材と接触し、第2の据込鍛造において、後退後の筒部材の端面は円形部材の表面とともに、円柱素材と接触する。
本実施形態の鍛造装置を用いれば、上述の製造方法を実施できる。そのため、生産効率が低下しにくく、円形材に偏肉も発生しにくい。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[鍛造装置]
図1は、本実施形態による鍛造装置1の正面図である。図1を参照して、鍛造装置1は、一対の金型2及び3を備える。一対の金型2及び3の表面(据込鍛造時に円柱素材の端面と接触する面、以下、鍛造面という)は、互いに対向して配置される。金型2は、金型3と同軸に配置される。
金型2は、円盤状であり、金型3の上方に配置される。金型2では、下面21が円柱素材の端面と接触する鍛造面である。鍛造面21は、平坦であってもよいし、図1に示すように、凹凸を有してもよい。金型3は、金型2の下方に配置される。金型3の鍛造面は、金型2の鍛造面と対向して配置される。
鍛造装置1はさらに、図示しない駆動装置を備える。駆動装置は、一対の金型2及び3の少なくともいずれか一方を金型3の中心軸CLに沿って相対的に移動する。図1では、駆動装置により、金型2が昇降する。しかしながら、金型2に代えて、金型3が昇降してもよいし、金型2及び金型3がそれぞれ昇降してもよい。金型2及び金型3が相対的に移動することにより、円柱素材に対して据込鍛造が実施される。
[金型3]
図2は、図1中の金型3の平面図である。図1及び図2を参照して、金型3は、円形部材4と、筒部材5とを備える。
円形部材4の横断形状(円形部材4の中心軸と垂直な断面の形状)は円である。図1及び図2では、円形部材4は円盤状であり、円柱状の台座6上に配置される。しかしながら、円形部材4は、台座6と一体的に形成された円柱状であってもよい。円形部材4の表面41は、円柱素材の端面と接触する。したがって、表面41は鍛造面である。表面41は平坦であってもよいし、図1及び図2に示すとおり、凹凸を有していてもよい。
円形部材4は、筒部材5と同軸に配置され、筒部材5内に配置される。換言すれば、筒部材5は、円形部材4の外周面の周りに配置される。したがって、円形部材4の外径は、筒部材5の内径よりも小さい。
筒部材5は、筒状の部材であり、内周面51と、端面52とを備える。内周面51は、横断形状が円である。端面52は、内周面51の上端とつながっており、金型2の表面(鍛造面)21と対向して配置される。
図1及び図2では、筒部材5の外周面の横断形状は円である。しかしながら、筒部材5の外周面の横断形状は円でなくてもよい。筒部材5の外周面は、多角形状であってもよいし、矩形状であってもよい。筒部材5では、内周面51の横断形状が円であればよく、外周面の形状は特に限定されない。
鍛造装置1はさらに、スライド装置7を備える。スライド装置7は、筒部材5を円形部材4に対して、中心軸CL方向に相対的に前進又は後退させる。
図1では、スライド装置7は、筒部材5と接続される。具体的には、スライド装置7は、端面52と反対側の端面53に接続される。図3に示すとおり、スライド装置7は、筒部材5を中心軸CLに沿って前進させて筒部材5を円形部材4よりも金型2側に突き出す。スライド装置7はさらに、突き出された筒部材5を後退させる。
図1に示すスライド装置7はたとえば、油圧又は電動シリンダであり、シリンダロッド71を備える。しかしながら、スライド装置7は油圧及び電動シリンダに限定されない。スライド装置7は、クランク機構により筒部材5を上下にスライドしてもよいし、他の機構により筒部材5を上下にスライドしてもよい。
スライド装置7は、筒部材5を直接スライドしなくてもよい。例えば、筒部材5が別部材上に配置され、スライド装置7がこの別部材をスライドすることにより、筒部材が上下にスライドしてもよい。要するに、スライド装置7は、直接的、又は、(別部材を介して)間接的に、筒部材5をスライドする。
以上のとおり、金型3は、中心軸CLに沿ってスライド可能な筒部材5を備える。筒部材5を前進させて金型2側に突き出すことにより、内周面51が据込鍛造中の円柱素材を拘束し、偏肉の発生を抑制する。さらに、突き出された筒部材5を後退させて円柱素材から筒部材を引き抜き、かつ、後退後の筒部材5の端面52を鍛造面として利用することにより、生産効率の低下を抑制する。以下、円形材の製造方法について詳述する。
[円形材の製造方法]
以降の説明では、円形材が鉄道用車輪である場合の製造方法を説明する。しかしながら、円形材が鉄道用車輪以外のものであっても、本実施形態の製造方法は適用可能である。
円形材の製造方法は、荒地成形工程と、仕上圧延工程と、仕上鍛造工程とを備える。荒地成形工程では、円柱素材に対して複数回の据込鍛造を実施して、円形材の概略形状を有する鍛造荒地を製造する。仕上圧延工程では、周知の圧延方法(例えばホイールミルを用いた圧延)により鍛造荒地を圧延する。仕上鍛造工程では、圧延された荒地に対して周知の鍛造を実施して円形材を製造する。以下、荒地成形工程について詳述する。
[荒地成形工程]
図4は、荒地成形工程のフロー図である。荒地成形工程では、前期荒地成形工程(S100)と、後期荒地成形工程(S200)とを実施する。前期荒地成形工程(S100)では、円柱素材に対して据込鍛造を実施して、中間品を製造する。後期荒地成形工程(S20)では、前期荒地成形工程で用いた金型と異なる金型を使用して、中間品に対して据込鍛造を実施し、円形材の概略形状を有する鍛造荒地を製造する。
[前期荒地成形工程]
図4を参照して、前期荒地成形工程(S100)では初めに、加熱された円柱素材を鍛造装置1に配置する(S1、配置工程)。具体的には、図5に示すとおり、一対の金型2及び金型3の間に、加熱された円柱素材10を配置する。配置される円柱素材10の外径は、筒部材5の内径よりも小さい。したがって、円柱素材10の下端面は、表面41と接触する。円柱素材10はたとえば、周知の加熱炉により加熱される。
配置工程(S1)では、図示しないマニピュレータ等を用いて、円柱素材10の中心軸が金型3の中心軸(つまり中心軸CL)と一致するように、円柱素材10の配置位置を調整する。しかしながら、マニピュレータ等で円柱素材10の中心軸を中心軸CLと一致するように配置するのは困難である。そのため、円柱素材10の中心軸は、中心軸CLから多少ずれる場合がある。
さらに、円柱素材10の横断形状が真円でない場合もある。例えば、円柱素材10が連続鋳造法により製造された丸ビレットである場合、連続鋳造装置のピンチロールにより、製造中の円柱素材10の外周面が押される場合がある。この場合、図6に示すように、円柱素材10の外周面に平坦部15が形成される。この場合、円柱素材10は、周方向に体積が均等でない形状、つまり、偏肉を有する。この偏肉の程度を以下、「偏肉率」という。
本明細書において偏肉率(%)は次のとおり定義される。図6を参照して、円柱素材10を周方向に中心角30°ごとに12分割する。換言すれば、円柱素材10を端面から見て、中心軸O周りに等しい中心角で12分割する。分割された各領域を領域A1〜A12と称する。各領域Ai(i=1〜12)の体積を求める。求めた体積のうち、最大の体積をVmaxとし、最小の体積をVminと定義する。さらに、各領域A1〜A12の体積の平均をVaveと定義する。Vmax、Vmin、Vaveを用いて、偏肉率(%)を次の式(1)で定義する。
偏肉率=(Vmax−Vmin)/Vave (1)
円柱素材10の中心軸が中心軸CLからずれて配置されたり、円柱素材10の偏肉率が高い場合、荒地成形工程後の鍛造荒地に偏肉が発生しやすくなる。鍛造荒地に偏肉が発生すれば、最終製品である円形材にも偏肉が残る。したがって、円形材での偏肉の発生を抑制するためには、鍛造荒地での偏肉の発生を抑制するのが好ましい。本実施形態の製造方法では、以下に説明する工程により、鍛造荒地の偏肉率を抑えることができる。
配置工程(S1)で円柱素材10を一対の金型2、3の間に配置した後、筒部材5を突き出す(図4中のS2、突出工程)。具体的には、図7に示すように、スライド装置7を用いて筒部材5を前進(図7では上昇)させ、筒部材5を円形部材4よりも金型2側に突き出す。
上述のとおり、円柱素材10の外径は、筒部材5の内径よりも小さい。そのため、円柱素材10の下部は、突き出された筒部材5内に収納される。したがって、円柱素材10の下部の外周面の周りには、筒部材5の内周面51が配置される。
続いて、円柱素材10に対して据込鍛造を実施する(図4中のS3、第1据込鍛造工程)。本実施形態では、金型3(円形部材4及び筒部材5)を固定したまま、図示しない駆動装置により金型2を下方に下げる。これにより、円柱素材10は軸方向に圧縮され、径方向に広がる。その結果、図8に示すように、据込鍛造された円柱素材10の外周面が、筒部材5の内周面51と接触する。
第1据込鍛造工程(S3)では、据込鍛造により円柱素材10の外周面を筒部材5の内周面51に接触させる。そのため、据込鍛造中、筒部材5は、円柱素材10を拘束する。円柱素材10は、筒部材5に拘束されながら変形する。そのため、円柱素材10を配置するときに生じた中心軸のずれ(円柱素材10の中心軸と中心軸CLとのずれ)が改善される。さらに、円柱素材10自体に発生している偏肉も、筒部材5の拘束により改善される。筒部材5の拘束により、第1据込鍛造工程で製造される中間品の偏肉率は低くなる。
第1据込鍛造工程(S3)での据込鍛造の圧下量を、あらかじめ設定してもよい。また、円柱素材10の接触により筒部材5に作用する内圧又はスラスト力を求め、求めた内圧に応じて圧下量を調整してもよい。この場合例えば、筒部材5にひずみゲージが配置される。金型2又は金型3に係る圧下荷重により、圧下量を調整してもよい。要するに、据込鍛造時の圧下量の調整方法は特に限定されない。
好ましくは、第1据込鍛造工程終了時において、円柱素材を中心軸方向から見た場合、円柱素材10の外周全周が筒部材5の内面51に接触する。円柱素材10の外周の接触度合いは、外周部分の位置に応じて異なっていてもよい。例えば、円柱素材自体が偏肉を有する場合、体積が偏っている部分が筒部材5の内面51と強く接触し、体積が偏っている部分と反対側の部分が筒部材5の内面51とわずかに接触していてもよい。この場合、偏肉がより改善される。
突出工程(S2)における筒部材5のスライド量(移動量)は例えば、第1据込鍛造工程(S3)での据込鍛造の圧下量(金型2又は金型3の相対移動距離)に応じて設定される。第1据込鍛造工程(S3)では、据込鍛造を実施後、金型2の移動を停止(つまり、据込鍛造を一旦停止)する。
続いて、突き出された筒部材5を後退させて、円柱素材10から引き抜く(図4中のS4、収納工程)。具体的には、図9に示すように、突き出された筒部材5をスライド装置7により後退させる。筒部材5は円柱素材10と接触しているため、筒部材5を後退させることにより、筒部材5は円柱素材10から引き抜かれる。
好ましくは、図9に示すように、筒部材5が円形部材4から突き出なくなるまで、筒部材5を後退させる。より具体的には、筒部材5の端面52の内縁521が、円形部材4の表面41の外縁411と同じ位置となるか、外縁411の方が内縁521よりも金型2に近くなるように、筒部材5の端面52を配置する。この場合、次工程の第2据込鍛造工程において、変形した円柱素材10がよりスムーズに径方向に広がることができる。図9では、端面52の内縁521が表面41の外縁411と同じ位置になるまで筒部材5を後退させて、筒部材5を停止している。
筒部材5を後退させた後、2回目の据込鍛造を実施して中間品を製造する(図4中のS5、第2据込鍛造工程)。具体的には、図10に示すとおり、図示しない駆動装置により金型2を金型3に近づけるように移動して、据込鍛造を実施する。このとき、圧縮された円柱素材10は、径方向にさらに広がる。その結果、変形中の円柱素材10は、表面41だけでなく、後退後の筒部材5の端面52にも接触する。
要するに、第2据込鍛造工程(S5)では、金型3の表面41だけでなく、端面52も鍛造面として使用する。この据込鍛造により、円柱素材10は径方向にさらに広がり、端面52上にも延びて中間品11となる。
以上の工程S1〜S5を含む前期荒地成形工程(S100)で製造された中間品11では、従来の前期荒地成形工程で製造された中間品と比較して、偏肉率が低下する。この点についてはシミュレート結果を用いて後述する。
中間品11を製造した後、金型2及び金型3と異なる他の一対の金型を用いて、後期荒地成形工程を実施する(図4中のS200)。後期荒地成形工程では、周知の据込鍛造を実施する。後期荒地成形工程により、車輪の概略形状を有する鍛造荒地が製造される。
製造された鍛造荒地を用いて、周知の仕上加工を実施して、円形材である鉄道用車輪を製造する。例えば、ホイールミルを用いて荒地に対して仕上圧延を実施する。仕上圧延後、仕上鍛造を実施して、円形材を製造する。
上述の本実施形態の製造方法では、円形材での偏肉の発生を抑制できる。図11は、従来の荒地成形工程(以下、比較例という)と、本実施形態の荒地成形工程(以下、実施例という)とでの、各製造工程中の中間品の偏肉率の推移を示す図である。図11は次の方法により得られた。
実施例では、前期荒地成形工程(S100)中の第1及び第2据込鍛造工程(S3及びS5)と、後期荒地成形工程(S200)とにおいて、据込鍛造中及び据込鍛造後の中間品の偏肉率を、有限要素法により求めた。具体的には、二次元軸対称剛塑性解析に基づいたシミュレーションにより、円柱素材に対して工程S3、S5及びS200の据込鍛造を実施した。円柱素材10の外径は450mmとし、円柱素材10の偏肉率は3%とした。金型3の筒部材5の内径は500mmとした。シミュレーションのため、円形部材4の外径は、筒部材5の内径と同じとした。金型2及び金型3の鍛造面は図1に示すような若干の凹凸を有する形状とした。後期荒地成形工程S200では、前期荒地成形工程(S3及びS5)で設定した金型2及び金型3と異なる一対の金型を設定した。
以上の条件に基づいてシミュレーションを実施した。第1据込鍛造工程(S3)終了時の金型2の初期の位置からの移動量(以下、圧下量という)をD1とし、第2据込鍛造工程(S5)終了時の圧下量をD2とし、後期荒地成形工程(S200)終了時の圧下量をD3とした。工程S3、S5及びS200後の円柱素材10(中間品)の偏肉率(%)を式(1)に基づいて求めた。
比較例では、前期荒地成形工程で使用する上金型は実施例の金型2と同じ形状とした。下金型は実施例の金型3と同じ形状であるが、円形部材と筒部材とは別個の部材ではなく、一体とした。
比較例では、前期荒地成形工程での圧下量をD2として、1回の据込鍛造を実施した。その後、実施例の後期荒地成形工程と同じ金型を用いて、実施例と同じ条件で後期荒地成形を実施した。そして、前期荒地成形工程後及び後期荒地成形工程後の偏肉率(%)を式(1)に基づいて求めた。
実施例及び比較例ともに、荒地成形前の円柱素材の偏肉率を5.3%とした。このうち、円柱素材自体の形状に起因する偏肉率を3.0%とした。また、円柱素材の中心軸と金型の中心軸CLとのズレに起因する偏肉率を2.3%とした。中心軸のズレに起因する偏肉率は、次の方法で定義した。一対の金型の中心軸CLまわりに円柱素材を中心角30°ごとに12分割した。各領域Aiを用いて式(1)で定義される偏肉率を、中心軸のズレに起因する偏肉率と定義した。
以上の条件で求めた実施例及び比較例の各工程での偏肉率をプロットして図11を得た。図11中の実線は実施例の偏肉率(%)を示し、破線は比較例の偏肉率(%)を示す。図11中の横軸は圧下量(mm)を示す。縦軸は式(1)で定義される偏肉率(%)を示す。図中の丸印(黒丸及び白丸)付近に記載された数値は、各丸印位置での偏肉率(%)を示す。圧下量D1、D2及びD3での白丸は、実施例の偏肉率(%)を示し、黒丸は比較例の偏肉率(%)を示す。
図11を参照して、実施例では、第1据込鍛造工程(S3)において筒部材5で円柱素材10を拘束しながら圧縮した。そのため、圧下量D1(第1据込鍛造工程終了時)での実施例の偏肉率は比較例と比べて大幅に低下した。そのため、前期荒地成形工程後(圧下量D2)及び後期荒地成形工程後(圧下量D3)の実施例の偏肉率(1.0%及び0.3%)は、比較例の偏肉率(2.7%及び0.9%)と比較して大幅に低下した。
以上のとおり、本実施形態の製造方法では、荒地成形工程後の鍛造荒地の偏肉率を大幅に低下することができる。円形材の製造工程において、仕上圧延工程や仕上鍛造工程といった、いわゆる下工程である程度の偏肉の矯正は可能であるものの、鍛造荒地段階での偏肉は、製造する円形材の偏肉率に大きく影響する。本実施例では、製造工程中の上工程(荒地成形工程)、より具体的には、第1据込鍛造工程(S3)において、筒部材5が変形中の円柱素材10を拘束する。これにより、鍛造荒地の偏肉率を低くする。そのため、偏肉率の低い円形材を製造することができる。
本実施形態ではさらに、第2据込鍛造工程(S5)において、後退後の筒部材5の端面52を、円形部材4の表面41とともに、鍛造面として使用する。仮に、端面52を鍛造面として使用しない場合、円形部材4のみが金型3として利用される。この場合、図10のような形状の中間品11を製造しようとすれば、円形部材4の外径を大きくしなければならない。円形部材4の外径が大きくなれば、筒部材5の内径も大きくなる。筒部材5の内径が大きくなれば、第1据込鍛造工程(S3)において、筒部材5の内周面が円柱素材10と接触しにくくなる。したがって、筒部材5が変形中の円柱素材10を拘束できなくなり、偏肉が発生する。
また、適正な内径の筒部材5を用いて円柱素材10の偏肉を矯正した後(S3)、筒部材5を図10に示す位置よりもさらに降下して、第2据込鍛造工程を実施する場合(S4)、円形部材4のみが金型3として利用される。この場合、据込鍛造された円柱素材10の外縁部分は、円柱部材4の外縁から外部に向かって反るように変形する。そのため、中間品11は適正な形状にならない。
本実施形態では、筒部材5の端面52を第2据込鍛造工程時(S5)に鍛造面として使用するからこそ、筒部材5の内径を、第1据込鍛造時(S3)に円柱素材10を拘束できる適切なサイズにすることができる。そして、筒部材5を後退させることにより、速やかに第2据込鍛造工程を実施できる。そのため、生産効率の低下が抑制される。
本実施形態では、筒部材5を金型3の軸方向にスライドして円柱素材10から筒部材5を容易に引き抜く。したがって、引き抜くために、筒部材5を周方向に分割する必要もなく、筒部材5を一体的に形成することもできる。仮に、筒部材5を一体的に形成すれば、筒部材5の剛性を高くすることができ、円柱素材10をより有効に拘束できる。
好ましくは、筒部材5の内径は、対向する金型2側に向かって大きくなる。例えば、図12では、内周面51がテーパ形状(テーパ半角A1°)を有する。この場合、端面52での内径D52が、端面53での内径D53よりも大きい。この場合、収納工程(S4)において、筒部材5を円柱素材10からさらに引き抜きやすくなる。図12では、内周面51の縦断形状(中心軸CL方向の断面形状)は直線である。しかしながら、筒部材5の内径が金型2に向かって大きければ、内周面51の縦断形状は特に限定されない。たとえば、内周面51の縦断形状が曲線であってもよい。なお、図1等に示すように、筒部材5の内径が一定であっても、筒部材5を円柱素材10から引き抜くことができる。
端面52は平坦であってもよいし、凹凸を有していてもよい。端面52は表面41に対して傾斜してなくてもよく、表面41に対して略平行に配置されてもよい。
好ましくは、端面52は図12等に示すとおり、筒部材5の外側に傾斜する。より具体的には、端面52は、内周面51側から筒部材5の外周面側に向かって、金型2から離れて配置される。この場合、第2据込鍛造工程(S5)において、円柱素材10が径方向に広がるときに、円形部材4と筒部材5との隙間に、変形中の円柱素材10の一部が入りにくい。さらに、端面52が外側に傾斜しているため、第2据込鍛造工程時(S5)に円柱素材10のスケールが金型3の外部に除去されやすい。
好ましくは、収納工程(S4)において筒部材5を後退させるとき、円形部材4の表面41の外縁411(図9参照)が、筒部材5の端面52の内縁521よりも金型2側に近くなるように、筒部材5を配置する。この場合、円形部材4が、筒部材5よりも金型2側に若干突き出る。そのため、第2の据込鍛造時において、円柱素材10が径方向に広がるとき、変形中の円柱素材10の一部が円形部材4と筒部材5との隙間に入り込みにくい。
上述の実施の形態では、金型2を図示しない駆動装置により下降して、筒部材5をスライドした後の金型3を固定して、据込鍛造を実施する。しかしながら、一対の金型2及び3の一方を他方に対して相対的に移動して据込鍛造を実施すれば、金型2又は3の相対的な移動方法は特に限定されない。例えば、金型2を固定して金型3を中心軸CL方向にスライドして据込鍛造を実施してもよい。また、金型2及び金型3を中心軸CL方向にスライドして据込鍛造を実施してもよい。
上述の実施の形態では、スライド装置7が筒部材5を前進又は後退させて、筒部材5を円形部材4に対して突き出したり、元に戻したりする。しかしながら、スライド装置が円形部材4を前進又は後退させて、筒部材5を円形部材4に対して突き出させてもよい。要するに、円形部材4に対して筒部材5を相対的に前進又は後退させれば、筒部材5は円形部材4に対して突き出ることもでき、円形部材4に対して突き出ないように配置することもできる。
上述の実施の形態では、前期荒地成形工程(S100)において、初めに円柱素材10を金型2及び3の間に配置した後(S1)、筒部材5をスライドして突き出す(S2)。しかしながら、先に筒部材5を突き出した後、円柱素材10を金型2及び円形部材4の間に配置してもよい。
上述の実施の形態では、第1据込鍛造工程での据込鍛造をいったん停止した後、筒部材5を後退させて円柱素材10から引き抜く。しかしながら、据込鍛造を継続しながら、筒部材5を円柱素材10から引き抜いて、引き続き第2鍛造工程を実施してもよい。要するに、筒部材5を後退させて円柱素材10から引き抜く前に、据込鍛造を停止しなくてもよい。
上述の実施の形態では、一対の金型2及び3のうち、下金型に相当する金型3が円形部材4と筒部材5を備える。しかしながら、一対の金型2及び3のうち、少なくとも一方が円形部材及び筒部材を備えればよい。たとえば、図13に示すように、上金型に相当する金型2が円形部材23と、筒部材22とを備えてもよい。円形部材23及び筒部材22の構成は、円形部材4及び筒部材5と同様である。図13の構成を有する鍛造装置を使用しても、図4と同様の荒地成形工程を実施できる。
図14に示すとおり、金型2及び金型3ともに円形部材23,4及び筒部材22,5を備えてもよい。この場合、金型2の筒部材22と、金型3の筒部材5とを共に突き出した後、第1据込鍛造工程(S3)を実施してもよい。このような製造工程であっても、上述の実施の形態と同様に、鍛造荒地の偏肉の発生が抑制される。
図14に示す一対の金型2及び3を備えた鍛造装置を使用する場合はさらに、フランジが形成された鍛造荒地を製造することもできる。たとえば、第1据込鍛造工程(S3)において、筒部材22と筒部材5との間に隙間を設けたまま据込鍛造が終了するように、筒部材22及び筒部材5の配置を設定する。この場合、第1据込鍛造工程(S3)において、筒部材22及び5の隙間から円柱素材10の一部が突き出て、フランジ付の中間品が製造される。
上述の実施形態では、円形材が鉄道用車輪である場合の製造方法を例示した。しかしながら、円形材が車輪以外の他の部材(ギヤ、リング等)の場合であっても、上述の荒地成形工程(図4)を実施して、生産性の低下を抑制しつつ、偏肉率の低い円形材を製造することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。