JP6316200B2 - サイクロフィリンaによる心血管疾患の検査方法 - Google Patents

サイクロフィリンaによる心血管疾患の検査方法 Download PDF

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Description

本発明は、主に心血管疾患の検査方法に関する。また、心血管疾患の検査キット及び心血管疾患の治療方法にも関する。
種々のリスク因子により誘発され進行する動脈硬化症は、動脈内腔の肥厚により血流が遮断され、大動脈瘤、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞等の心血管疾患の原因となる。心血管疾患が重篤化した場合は患者の死にもつながるため、早期に診断し適切な処置を施すことが望ましい。心血管疾患の患者が訴える自覚症状の一つに、胸の痛み、不快感が挙げられる。しかしながら、胸の痛み等を訴える患者のうち、極一部が実際に心血管疾患を発症または発症する可能性があるに過ぎないため、医師による鑑別診断を行う必要がある。
心血管疾患の有無の検査は、例えば心臓カテーテル検査や血管造影検査(アンギオグラフィー)により、精密に検査することができる。しかしながら、心臓カテーテル検査はカテーテルの血管への挿入を、血管造影検査は造影剤を血管へ導入をそれぞれ行う必要があり、被験者及び医療従事者の双方の負担が大きい。さらには、検査実施の費用を負担するために、国などが支出する医療費の増大へとつながってしまう。従って、自覚症状を訴えるすべての患者に対して精密検査を行うことは困難である。
そこで、精密検査に先立ち、主に問診を通じた鑑別診断が行われている。しかしながら、問診に基づく鑑別診断は、医師の経験に依存する部分が大きく、確度が十分であるとは言えない。
これまでに、心血管疾患の検査において、トロポニンT、高感度CRP(C反応性蛋白)などのバイオマーカーが有用であることが報告されている。血中のトロポニンTの上昇は、急性心筋梗塞について高い診断能を有する。しかしながら、トロポニンTを用いて重篤化していない心血管疾患の有無を検査することは困難である。また、高感度CRPは、各種の炎症性疾患でも上昇する点で非特異的であり、測定環境が整った現在でも、日常的な心血管疾患の鑑別診断に使用されるほど、信頼性の高いバイオマーカーではない。
従って、簡便かつ高い確度をもって心血管疾患を検査できる方法が求められているのが現状である。
サイクロフィリンA(CyPA)タンパク質は、サイクロスポリン(Cyclosporin)に結合するシャペロンタンパク質をコードする。ApoE‐/‐マウスにおいてアンジオテンシンIIにより誘発された腹部大動脈瘤モデルにおいて、サイクロフィリンAタンパク質は酸化ストレス産生を促進し、腹部大動脈瘤モデルの発生に必須であることが示唆されている(非特許文献1)。その他、サイクロフィリンAタンパク質については、血管狭窄症への関与(非特許文献2)、アテローム性動脈硬化症への関与(非特許文献3)、活性酸素種の増産への関与(非特許文献4、5)も報告されている。
しかしながら、サイクロフィリンAタンパク質は、上記以外にも、HIVウイルス(AIDS)の感染、C型肝炎ウイルスの複製等の多様な機能を有することも知られている。このような機能に基づき、感染学の分野での創薬が近年着目されている。さらに、サイクロフィリンAタンパク質の心血管疾患のバイオマーカーとしての有用性は、これまで知られていない。例えば、現実の心血管疾患、特にヒトの心血管疾患における、心血管疾患の存在と血液などにおけるサイクロフィリンAタンパク質の濃度との相関は一切知られていない。
Satoh K et al. Nat Med. 2009; 15(6): pp 649-656. Satoh K et al. Circulation 2008;117:3088-3098. Nigro P, Satoh K, et al. J Exp Med. 2011;208;53-66. Satoh K, et al. Antioxidants & Redox signaling 2010;12:675-682. Satoh K, Shimokawa H, et al. Circ J 2010;74:2249-2256.
本発明は、新規の心血管疾患の検査方法を提供することを主な目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定し、測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて心血管疾患の発症の可能性を判定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を包含する。
項1、被験対象に由来するヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する工程、及び
測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、被験対象において心血管疾患が発症している可能性を判定する工程
を含む、心血管疾患の検査方法。
項2、前記判定工程が、測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、あらかじめ設定したカットオフ値以上であるとき、被験対象において心血管疾患が発症している可能性が高いと判定する工程である、項1に記載の検査方法。
項2−1、前記判定工程が、測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、15 ng/mL以上であるとき、被験対象において心血管疾患が発症している可能性が高いと判定する工程である、項1に記載の検査方法。
項3、前記判定工程が、測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常な検体から取得したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合に、被験対象において心血管疾患が発症している可能性が高いと判定する工程である、項1に記載の検査方法。
項4、前記検体が、血漿である、上記項1〜3のいずれか1項に記載の検査方法。
項5、心血管疾患が、虚血性心疾患、大動脈瘤及び肺高血圧症からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜4のいずれか1項に記載の検査方法。
項6、ヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する手段を含む、心血管疾患の検査キット。
項7、被験対象に由来するヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する工程、
測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、被験対象において心血管疾患が発症している可能性を判定する工程、及び
心血管疾患が発症している可能性が高いと判定された被験対象に心血管疾患を治療及び/又は心血管疾患の進行の予防をするための処置を行う工程
を含む、心血管疾患の治療方法。
項8、被験対象に由来するヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度及び心筋トロポニンTタンパク質の濃度を測定する工程、及び
測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度及び心筋トロポニンTタンパク質の濃度に基づいて、被験対象において虚血性心疾患が発症している可能性を判定する工程
を含む、虚血性心疾患の検査方法。
項9、被験対象に由来するヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度及びC反応性タンパク質の濃度を測定する工程、及び
測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度及びC反応性タンパク質の濃度に基づいて、被験対象において虚血性心疾患が発症している可能性を判定する工程
を含む、虚血性心疾患の検査方法。
項10、被験対象に由来するヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度及び被験対象の三尖弁の圧格差(TRPG)を測定する工程、及び
測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度及びTRPGに基づいて、被験対象において肺高血圧症が発症している可能性を判定する工程
を含む、肺高血圧症の検査方法。
本発明により、新規の心血管疾患の検査方法を提供される。本願発明の検査方法により、心血管疾患を簡便かつ高い確度をもって検査でき、精密な検査や適切な処置が必要な患者を判別することが可能となる。従って、本発明の検査方法により、心血管疾患が疑われる個々の患者に適した処置を、従来に比して容易に選択することが可能となる。
サイクロフィリンA(Cyclophilin A)タンパク質の血漿中濃度(CyPAレベル)ごとの、冠動脈狭窄を有する患者(Patients with coronary stenosis)及び器質性狭窄を有さない患者(Patients with organic stenosis)について患者数の割合(Patients (%))の分布を示す。 CyPAレベルと血管造影により判別できる冠動脈疾患の重症度との相関を箱ひげプロットにより示す。(A)器質性狭窄有り(Stenosis)(血管内腔の狭窄が直径の51%以上)の患者(N = 189)と、器質性狭窄なし(No stenosis)の患者(N = 131)におけるCyPAレベルの箱ひげプロットである。CyPAレベルは、冠動脈狭窄を有する患者(P <0.001)で上昇した。(B)器質性狭窄なしの患者(No stenosis)、冠動脈1枝病変(1-VD)の患者、冠動脈2枝病変の患者(2-VD)、冠動脈3枝病変群の患者(3-VD)におけるCyPAレベルの箱ひげプロットである。1-VD、2-VD、3-VDの各群において、対照群(狭窄なし)と比較してCyPAレベルが上昇していた(すべてP <0.001)。CyPAレベルは、冠動脈狭窄ありの患者間で、病変数の増加に伴い連続的に増加した(傾向分析P <0.001)。 CyPAレベルに基づく四分位群と、狭窄冠状動脈の病変数及び心血管への治療介入が必要である症例の割合との相関を示す。各四分位群におけるCyPAレベルは以下の通りであった。第1四分位群(Q1):6.1 ng/ml以下;第2四分位群(Q2):6.2〜9.6 ng/ml;第3四分位群(Q3):9.7〜17.4 ng/ml;第4四分位群(Q4)17.5 ng/ml以上。(A)CyPAレベルに基づく四分位群(Quartiles of plasma Cyclophilin)に属する患者における、狭窄冠状動脈の病変数(Number of steotic coronary arteries)の平均値を示す。CyPAレベルは、第1四分位群(Q1)に比して、第3四分位群(Q3)(P <0.001)及び第4四分位群(Q4)(P <0.001)において上昇していた。より上位(CyPAレベルが高い)の四分位群に属する患者において、狭窄冠状動脈の数は増加した。(B)CyPAレベルに基づく四分位群に属する患者における、心血管への治療介入が必要である症例の割合(Requirement for Cardiovascular Intervention(%))を示す。心血管への治療介入が必要である割合は、第1四分位群(Q1)に比して、第3四分位群(Q3)(P <0.001)及び第4四分位群(Q4)(P <0.001)において上昇していた。 CyPAレベルと、器質性冠動脈狭窄の判定及び心血管への治療介入の必要性の判定についての受信者動作特性曲線(ROC曲線、ROC curve)及びC-統計量を示す。横軸は特異性(Specifity)を示し、縦軸は感度(Sensitivity)をそれぞれ示す。(A)ROC曲線は、標準対照における侵襲的定量的冠動脈造影(CAG)と比較して、1以上の血管での50%以上の器質性冠動脈狭窄(Coronary organic stenosis)を判定するための、CyPAレベルの判定能を表す。C-統計量(c-statistic)は0.80(95%信頼区間:0.75〜0.85)であった。(B)ROC曲線は、標準対照における侵襲的定量的冠動脈造影(CAG)と比較して、将来の心血管インターベンション(Cardiovascular intervention)を判定するための、CyPAレベルの判定能を表す。C-統計量は0.79(95%信頼区間:0.74〜0.85)であった。 CyPAの血漿中濃度と心血管疾患のリスク因子との相関を示す。高血圧(Hypertension)、糖尿病(Diabetes)、喫煙(Smoking)、高脂血症(Dyslipidemia)及び68歳以上の加齢(Age(>68 yrs))のリスク因子が存在する場合は、有意にCyPAの血漿中濃度は増加した。一方、性差(Sex、女性(female)又は男性(male))による増減は無かった。 CyPAレベル及び特定のリスク因子(Risk Factor)に基づく心血管疾患のオッズ比(Odds Ratio)を示す。ロジスティック回帰モデルは、年齢、性別、体格指数(BMI)で調整した(Adjusted with Age, Sex, and BMI)。連続変数のオッズ比は、1病変増加に対するものである。 ベースライン(Baseline)期及びフォローアップ(Follw-up)期でのCyPAレベルの変化を示す。治療患者数:n = 42、平均フォローアップ期間:273日間。 急性心筋梗塞の患者から取得した冠動脈試料における、CyPAの免疫染色図を示す。薄い繊維性皮膜(thin fibrous cap)直下でのCyPAの高発現が観察された。(B)は(A)の拡大図を示す。バー:500マイクロメートル。 CyPAレベル(Plasma CyPA)と血管造影により判別できる大動脈瘤の有無との相関を箱ひげプロットにより示す。(A)大動脈瘤(Aortic Aneurysm)が存在する患者と、対照(Control)(大動脈瘤及び心血管疾患無し(No Aneursym, No CAD))の患者におけるCyPAレベルの箱ひげプロットである。CyPAレベルは、大動脈瘤が存在する患者で上昇した(P <0.001)。(B)大動脈瘤及び冠動脈疾患無し(No Aneursym(-), No CAD(-))の患者、径55mm以下の大動脈瘤(Aortic Aneurysms (<55mm))が存在する患者、径55mm以上の大動脈瘤(Aortic Aneurysms (>55mm))が存在する患者におけるCyPAレベルの箱ひげプロットである。 CyPAレベルと、器質性冠動脈狭窄の判定及び心血管への治療介入の必要性の判定についての受信者動作特性曲線(ROC曲線、ROC curve)及びC-統計量を示す。横軸は特異性を示し、縦軸は感度をそれぞれ示す。ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)により算出されるC-統計量は0.756であった。 CyPAレベル(Plasma CyPA)と肺高血圧症の有無との相関を箱ひげプロットにより示す。肺高血圧症(PH)が存在する患者と、対照(Control)の患者におけるCyPAレベルの箱ひげプロットである。CyPAレベルは、肺高血圧症が存在する患者で上昇した(P <0.001)。 肺高血圧症患者の無再発生存率(Event-free survival ratio)を示す。横軸は、無再発期間(No event period)を日数(days)により表す。CyPAレベルが22 ng/ml以上であった患者は、22 ng/ml未満であった患者と比較して、有意に無再発生存率が高かった(P <0.001)。 (A)CyPAレベル測定の再現性を示す。患者群全体で、CyPAレベル測定の複製試行(Plasma CyPA #1及びPlasma CyPA #2)は、高い相関性を示した(R =0.92)。示されている値は、各試料の測定されたCyPA濃度の絶対値を、同様に試験した標準血漿プールの測定値で割った値を示す。(B)患者群(n =320)における、CyPAレベルと高感度CRP値のドットプロット。2者の間に相関は見られない。 高感度CRP値が高い患者群(high hsCRP)及び高感度CRP値が低い患者群(low hsCRP)のそれぞれにおける、CyPAレベルと血管造影により判別できる冠動脈疾患の重症度との相関を示す。(A)高感度CRP値が高い患者群(1 mg/L以上(hsCRP > 1m/L)、n=141)では、冠動脈1枝病変(1-VD)の患者、冠動脈2枝病変の患者(2-VD)、冠動脈3枝病変群の患者(3-VD)の各群において、器質性狭窄なし(No stenosis)の患者群と比較してCyPAレベルが上昇していた(すべてP <0.001)。(B)高感度CRP値が低い患者群(1 mg/L未満(hsCRP < 1mg/L)、n=179)では、冠動脈1枝病変(1-VD)の患者、冠動脈2枝病変の患者(2-VD)、冠動脈3枝病変群の患者(3-VD)の各群において、器質性狭窄なし(No stenosis)の患者群と比較してCyPAレベルが上昇していた(すべてP <0.001)。いずれの患者群においても、CyPAレベルは、病変数の増加に伴い連続的に増加した。 高感度CRP値に基づく四分位群(Quartile of plasma hsCRP)と、狭窄冠状動脈の病変数(Number of stenotic coronary arteries)及び心血管への治療介入が必要である症例の割合(Requirement for cardiovascular intervention (%))との相関を示す。(A)高感度CRP値に基づく四分位群に属する患者における、狭窄冠状動脈の病変数の平均値を示す。第1四分位群(Q1)と第4四分位群(Q4)との間に有意差は見られなかった(P =0.107)。(B)高感度CRP値に基づく四分位群に属する患者における、心血管への治療介入が必要である症例の割合(Requirement for Cardiovascular Intervention(%))を示す。第1四分位群(Q1)と第4四分位群(Q4)との間に有意差は見られなかった(P =0.086)。心血管への治療介入とは、経皮冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention (PCI))、冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting (CABG))を含む。 CyPAレベルに基づく四分位群ごと及び高感度CRP値に基づく四分位群ごとのGensiniスコア(Gensini score)の相関を示す。(A)CyPAレベルに基づく四分位群ごとのGensiniスコアとの相関を示す。(B)高感度CRP値に基づく四分位群ごとのGensiniスコアの相関を示す。
1.心血管疾患の検査方法
本発明は、心血管疾患の検査方法を提供する。本発明の検査方法により検査される心血管疾患は、心臓及び血管における疾患であれば特に限定されるものではない。特に、動脈硬化症(例えば、アテローム性動脈硬化症。)及び動脈硬化症に起因する狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患(冠動脈疾患ともいう。)、大動脈瘤(例えば、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤)、脳梗塞、肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症)等の肺動脈疾患などの疾患が挙げられる。動脈硬化症や動脈硬化性疾患は、種々のリスク因子(例えば、喫煙、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、糖尿病、加齢等。)によって過剰に産生される活性酸素種(reactive oxygen species、ROS)が酸化ストレスとして血管壁における炎症、肥厚を誘発することによって発症及び進行すると考えられている、血管の狭窄又は閉塞を伴う疾患である。
本明細書において、「検査」とは、被験対象における心血管疾患の有無の検査、及び、心血管疾患のリスクの検査を含む。「リスクの検査」とは、将来心血管疾患を発症する可能性の有無の検査、判定を含む。「検査」は、「判定」と換言することもできる。
本発明の検査方法は、
(i)検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する工程、及び
(ii)測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、心血管疾患の発症の可能性を判定する工程を含む。
まず、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する(工程(i))。
検体は、本発明の検査方法の被験対象に由来する。検体は被験対象に由来する血液検体を好適に使用することができ、血液検体には、例えば血液(全血)及び血液に由来する血清、血漿などが含まれる。本発明の好ましい態様の一つにおいて、検体は血漿である。
検体は、当業者に公知の方法で採取することができる。例えば、血液は、注射器などを用いた採血によって採取することができる。なお、採血は、医師、看護師などの医療従事者が行うことが望ましい。血清は、血液から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、血液から血球を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させない条件下で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。検体は、被験対象の動脈由来、静脈由来、末梢血管由来のいずれであってもよい。
被験対象は、特に限定されるものではないが、ヒトを含む哺乳類が例示される。非ヒト哺乳類としては、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマなどが挙げられる。本発明の検査方法の好ましい被験対象は、ヒトである。被験対象がヒトである場合、胸の痛みや不快感の自覚症状を有する者などの心血管疾患の存在が疑われる者が、特に好ましい被験対象である。被験対象の性別、年齢、人種は特に限定されない。
サイクロフィリンA(CyPA)タンパク質は、PPIA(Peptidylprolyl isomerase A)遺伝子座にコードされ、サイクロスポリン(Cyclosporin)に結合するシャペロンタンパク質をコードする。サイクロフィリンAタンパク質の構造は公知である。例えば、ヒトサイクロフィリンAタンパク質及びマウスサイクロフィリンAタンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトサイクロフィリンAタンパク質:NP_066953、
マウスサイクロフィリンAタンパク質:NP_032933。
ApoE‐/‐マウスにおいてアンジオテンシンIIにより誘発された腹部大動脈瘤モデルにおいて、サイクロフィリンAタンパク質は酸化ストレス産生を促進し、腹部大動脈瘤モデルの発生に必須であることが示唆されている(非特許文献1)。しかしながら、現実の心血管疾患、特にヒトの心血管疾患における、心血管疾患の存在と血液などにおけるサイクロフィリンAタンパク質の濃度との相関は一切知られていない。
検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定するための手段は、特に限定されるものではない。EIA法(Enzyme immunoassay)、ELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、ウェスタンブロッティング法、タンパク質アレイ法などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
簡便のために、市販のキットを用いて検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定することもできる。例えば、ヒト由来のサイクロフィリンAタンパク質を検出する場合、Cusabio Biotech社(Cusabio Biotech Co., Ltd、中国)が製造するCyclophilin A ELISA Kit(品番:CSB-E09920H)、マウス由来のサイクロフィリンAタンパク質を検出する場合、Cusabio Biotech社が製造するCyclophilin A ELISA Kit(品番:CSB-E09920M)を使用することができる。市販のキットを用いる場合、製造者が提供する指示書に従うことが好ましいが、これに限定されるものではない。
測定されるサイクロフィリンAタンパク質の濃度は、対照に対する相対値(対照は、当業者が任意に設定することができる。)、又は、検体の単位量あたりの重量(例えば、ng/ml)で表される絶対量のいずれであってもよい。検査方法の精度及び確度が高くなるとの観点から、測定されるサイクロフィリンAタンパク質の濃度は、絶対量であることが好ましい。
かくして、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が測定される。
次いで、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、心血管疾患の発症している可能性を判定する(工程(ii))。
本発明の態様の1つにおいて、測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合に、心血管疾患が発症している可能性があると判定する。健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度は、当業者が適宜測定することができる。通常は、0〜9 ng/ml程度、特に3〜9 ng/ml程度であると考えられる。
本発明の好ましい態様の1つにおいて、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上以上である場合に、被験者は心血管疾患が発症している可能性が高いと判定することができる。後述の実施例で示すように、サイクロフィリンAタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上である場合に、被験者において有意に心血管疾患が存在する。
上記カットオフ値は、種々の統計解析手法により求めることができる。心血管疾患の患者における中央値若しくは平均値、ROC曲線解析に基づく値などが例示される。カットオフ値を複数設定することもできる。
本発明の別の態様において、心血管疾患が虚血性心疾患である場合は、サイクロフィリンAタンパク質の濃度が約15 ng/mL以上、好ましくは約9.7 ng/mL以上である場合、特に約17.5 ng/ml以上である場合に、被験者は虚血性心疾患が発症している可能性が高いと判定することができる。本発明のまた別の態様において、心血管疾患が肺高血圧症である場合、サイクロフィリンAタンパク質の濃度が約22 ng/mL以上である場合に、治療を行った場合の予後が不良であると判定することができる。
本発明の検査方法は、他の公知の、あるいは将来的に見出される心血管疾患の検査方法と組み合わせてもよい。例えば、血圧測定、心拍数測定、心電図計測などの、心血管の状態を検査するための通常の手段と組み合わせることができる。
また、例えば、検査される心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合(特に心筋梗塞である場合)、本発明の検査方法の態様の一つは、検体中の心筋トロポニンTタンパク質の濃度を測定する工程(心筋トロポニンT検査)を含む検査方法とすることができる。心筋トロポニンT検査の具体的な手段は公知であり、通常は、検体中の心筋トロポニンTタンパク質の濃度が約0.1 ng/ml以上である場合に陽性と評価され、被験対象は虚血性心疾患を発症している可能性が高いと判定される。本発明の検査方法のこのような態様においては、心筋トロポニンT検査が陽性である場合に加えて、心筋トロポニンT検査が陰性であり、かつ、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合;特に、心筋トロポニンT検査が陰性であり、かつ、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上(例えば、約15 ng/mL以上)である場合にも、被験対象は虚血性心疾患を発症している可能性が高いと判定することができる。
検査される心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合(特に心筋梗塞である場合)、本発明の検査方法の別の態様の一つは、検体中のC反応性タンパク質(C-reactive protein、CRP)の濃度を測定する工程を含む検査方法とすることができる。CRPを測定する手段は公知である。好ましくは、微量なCRP濃度を測定することができる高感度CRP(hsCRP)検査により測定することが好ましい。通常は、検体中の高感度CRP値が1 mg/L以上である場合に、被験対象は心筋梗塞等の心血管疾患を発症するリスクがある若しくは発症している可能性があると判定される(例えば、下記文献参照:Ridker PM. Am Heart J 2004; 148: S19-S26.;Ridker PM, Cook N. Circulation 2004; 109: 1955-1959.)。本発明の検査方法のこのような態様においては、高感度CRP(hsCRP)検査が陽性(典型的には、高感度CRP値が1 mg/L以上)である場合に加えて、高感度CRP(hsCRP)検査が陰性(典型的には、高感度CRP値が1 mg/L未満)であり、かつ、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合;特に、高感度CRP値が陰性であり、かつ、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上(例えば、約15 ng/mL以上)である場合にも、被験対象は心血管疾患を発症するリスクがある若しくは発症している可能性があると判定することができる。
なお、心筋トロポニンTタンパク質及びC反応性タンパク質の構造は公知である。例えば、ヒト心筋トロポニンTタンパク質、マウス心筋トロポニンTタンパク質、ヒトC反応性タンパク質及びC反応性タンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒト心筋トロポニンTタンパク質:NP_000355、
マウス心筋トロポニンTタンパク質:NP_001123646、
ヒトC反応性タンパク質タンパク質:NP_000558、
マウスC反応性タンパク質タンパク質:NP_031794。
また、検査される肺高血圧症である場合、本発明の検査方法の別の態様の一つは、被験対象の三尖弁の圧格差(TRPG)を測定する工程を含む検査方法とすることができる。TRPGは、心臓超音波検査により測定することができる。TRGPとは、心臓から押し出された血液への圧力と、弁を通った後の血液への圧力の差を指し、心エコー法により算出することができる。通常は、TRPGが約50mmHg以上である場合に、被験対象は肺高血圧症を発症している可能性が高いと判定される。本発明の検査方法のこのような態様においては、TRPGが約50mmHg以上である場合に加えて、TRPGが約50mmHg未満であり、かつ、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合;及び、TRPGが約50mmHg以下であり、かつ、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度があらかじめ設定したカットオフ値以上(例えば、約15 ng/mL以上)である場合にも、被験対象は肺高血圧症を発症している可能性が高いと判定することができる。
かくして、心血管疾患の発症している可能性が判定される。
心血管疾患が発症している可能性があると判定された被験対象は、心臓カテーテル検査、血管造影検査法(アンギオグラフィー:X線血管造影検査法、コンピュータ断層撮影(CT)血管造影検査法、核磁共鳴(MR)血管造影検査法などが含まれる。)などの精密検査による心血管疾患の有無の精密検査及び/又は病巣部の確定を行うことが好ましい。
また、特に精密検査により心血管疾患が存在する蓋然性が高いと判定された場合に、心血管疾患を治療及び/又は進行の予防をするための適切な処置を行うことが好ましい。適切な処置としては、血管拡張剤、抗血小板剤などの投与等による心血管疾患の進行を抑制する内科的処置、バルーンやステントなどを用いた病変部の狭窄を広げるための血管内で治療を行う処置(血管内治療);病変部を除去する手術、病変部の代替措置を導入する手術(バイパス手術、人工血管の導入、自家血管の移植など。)等の外科的処置などが挙げられるが、これに限定されるものではない。心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合、経皮冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention (PCI))や冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting (CABG))が好適な例として挙げられる。また、喫煙、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、糖尿病等の心血管疾患のリスク因子を是正するための指導や医療処置を行うこともできる。
心血管疾患が発症している可能性が低いと判定された被験対象は、適度な経過観察を行い、経過に応じた処置を行うことが好ましい。
2.キット
本発明は、検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する手段を含む、心血管疾患検査用キットをも提供する。
検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定するための手段としては、例えば前述のEIA法、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、タンパク質アレイ法などにより検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する手段が例示されるが、これに限定されるものではない。
本発明のキットに含まれる検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定するための手段は、例えば、健常者由来の検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きいか小さいかを評価できる手段であること、または、測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が15 ng/mL以上であるか否かを評価できる手段であることが好ましい。測定した検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度が15 ng/mL以上であるか否かを評価できる手段であることが特に好ましい。
また、本発明のキットには、必要に応じて他の成分を含めることができる。他の成分は、例えば検体を採取するための道具(例えば、注射器。)、ポジティブコントロール試料及びネガティブコントロール試料などが挙げられるが、これに限定されない。上記検査方法を行うための手順を書き記した書面などを含むこともできる。
さらに、サイクロフィリンAタンパク質以外の心血管疾患のバイオマーカーを測定するための手段を含めてもよい。例えば、本発明のキットが検査する心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合(特に心筋梗塞である場合)、本発明のキットの態様の一つは、検体中の心筋トロポニンTタンパク質の濃度を測定する手段を含むキットとすることができる。当該手段は、検体中の心筋トロポニンTタンパク質の濃度が1 mg/L以上であるか否かを評価できる手段であることが好ましい。
本発明のキットが検査する心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合(特に心筋梗塞である場合)、本発明のキットの態様の一つは、検体中のC反応性タンパク質(C-reactive protein、CRP)の濃度を測定する測定する手段を含むキットとすることができる。当該手段は、微量なCRP濃度を測定することができる高感度CRP(hsCRP)検査を実施できる手段であることが好ましい。また、当該手段は検体中のC反応性タンパク質の濃度の濃度が1 mg/L以上であるか否かを評価できる手段であることが好ましい。
本発明のキットは、常法に従い、必要に応じて上記成分を備えることで作製することができる。
キットの使用形態は特に限定されないが、上記検査方法に用いることが好ましい。上記検査方法に用いた場合、検査を容易に行うことが可能となる。
3.治療方法
本発明は、心血管疾患の治療方法をも提供する。発明でいう「治療」とは、心血管疾患の治療、並びに、症状の軽減及び再発防止のための維持療法を包含する。
本発明の治療方法は、
(i)ヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する工程、
(ii)測定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、検体が由来する被験対象において心血管疾患が発症している可能性を判定する工程、及び
(iii)心血管疾患が発症している可能性が高いと判定された被験対象に心血管疾患を治療及び/又は心血管疾患の進行の予防をするための処置を行う工程を含む。
工程(i)及び工程(ii)は、上記「1.」欄に記載の測定工程及び判定工程を行う。
次いで、心血管疾患が発症している可能性が高いと判定された被験対象に心血管疾患を治療及び/又は心血管疾患の進行の予防をするための処置を行う(工程(iii))。工程(ii)と工程(iii)との間に、心臓カテーテル検査、血管造影検査法(アンギオグラフィー:X線血管造影検査法、コンピュータ断層撮影(CT)血管造影検査法、核磁共鳴(MR)血管造影検査法などが含まれる。)などの精密検査による心血管疾患の有無の精密検査及び/又は病巣部の確定を行うことができる。
心血管疾患を治療及び/又は心血管疾患の進行の予防をするための処置としては、血管拡張剤、抗血小板剤などの投与等による心血管疾患の進行を抑制する内科的処置、バルーンやステントなどを用いた病変部の狭窄を広げるための血管内で治療を行う処置(血管内治療);病変部を除去する手術、病変部の代替措置を導入する手術(バイパス手術、人工血管の導入、自家血管の移植など。)等の外科的処置などが挙げられるが、これに限定されるものではない。心血管疾患が虚血性心疾患(冠動脈疾患)である場合、経皮冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention (PCI))や冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting (CABG))が好適な例として挙げられる。また、喫煙、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、糖尿病等の心血管疾患のリスク因子を是正するための指導や医療処置を行うこともできる。
かくして、心血管疾患が治療される。
以下に、実施例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]
冠動脈疾患とサイクロフィリンAタンパク質の血漿中の濃度の相関を検証した。
1.方法
患者群
2007年11月から2011年10月の期間に、東北大学病院(仙台市)に選択的冠動脈造影(CAG)のために差し向けられた冠動脈疾患(CAD)の症状もしくは兆候を有する患者において、CyPAの予後値についての前向き観察研究を行った。なお、患者が複数回血管造影を行った場合、最初の血管造影研究の際に得られたデータのみに基づいて解析を行った。弁膜症又は先天性心疾患を有する患者、及び、不安定狭心症又は心筋梗塞の患者は除外した。狭心症、並びに、運動負荷心電図及び心筋の放射性核種イメージングに基づく虚血の兆候を有する320名が患者群を構成した。当該研究は倫理審査委員会の承認の元に実施され、参加しているすべての患者から書面によるインフォームドコンセントの同意を得た。
冠動脈造影
観察期(ベースライン期)に、選択的冠動脈造影検査を血管造影データシステムによる測定結果を用いて行った。患者のCyPA血漿レベルについて盲検化された二名の心臓内科医が、血管造影を評価した。冠動脈狭窄の程度は、アメリカ心臓協会策定の基準に基づき、血管内腔の狭窄が直径の51%以上である場合に、臨床的に有意に狭窄を示していると評価した。患者はCADの重症度に応じて次の通り群分けした:臨床的に有意な器質性狭窄を有さない群、冠動脈1枝病変(vessel disease、VD)群、冠動脈2枝病変群、冠動脈3枝病変群。左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝及び右冠状動脈を観察し、狭窄冠状動脈の数を0〜3-VDとして評価した。左冠動脈主幹部での狭窄は、2-VDとして評価した。血漿中のCyPAレベルと冠動脈狭窄数との相関を解析し、CADの重症度を評価した。
免疫染色
CyPA免疫染色は、既出の手法(Jin ZG et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004;24:1186-1191;Suzuki J et al., Circ Res. 2006;98:811-817;Satoh K et al., Circulation. 2008;117:3088-3098)に準じて行った。具体的には、パラホルムアルデヒド固定した凍結切片を、1次抗体(抗ヒトCyPAポリクローナル抗体、1:1000希釈;BIOMOL Research Laboratories社製)と4℃で一晩反応させた。次いで、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(1:1000 希釈;Jackson ImmunoResearch Laboratories社製, 品番016-030-084)及びNovaRed substrate キット(Vector Laboratories社製、品番SK-4800)を使用した。試料は、ヘマトキシリンを用いてカウンターステイン(対比染色)した。陰性対照として、1次抗体に替えて非特異的IgGを用いた。
ベースライン測定
ベースライン測定値は、東北大学医学部循環器内科のデータベースから、2011年12月7日に実施した機械検索により取得した。フォローアップ時点までに死亡した患者はいなかった。
すべての患者において、心筋梗塞の履歴、血管再生手術の履歴、狭心症、高血圧、脳卒中若しくは一過性脳虚血発作、糖尿病、喫煙状況を含む病歴を記録した。心血管疾患のリスク因子は、高血圧、糖尿病、喫煙、加齢及び脂質異常症について評価した。血圧が140/90 mmHg以上、又は、降圧薬の服用履歴がある患者を、高血圧のリスク因子ありと評価した。空腹時血糖値が126 mg/dl以上、又は、血糖降下薬やインスリンの服用履歴がある患者を、糖尿病のリスク因子ありと評価した。LDLコレステロール値が140 mg/dl以上、又は、脂質低下薬を服用している患者を、脂質異常症のリスク因子を有すると評価した。
空腹時の血液サンプルは、仰臥位で横たわった患者の肘静脈からCAG前に採血した。血漿サンプルは、取得後30分以内の血液サンプルをEDTA処理した後に2,500gで10分間遠心分離することで取得し、一定分量ずつ-80℃に保存した。
CyPAレベルは、Human Cyclophilin A ELISA kit(Cusabio Biotech社製、品番CSB-E09920H)を用い、製造者の指示書に従ったサンドイッチ法に基づいた免疫測定法により測定した。検出限界は0.78 ng/mlであった。分析全体にわたって、繰り返し測定間のCyPAレベルは、高度に相関していた(R = 0.92)。
高感度CRP(hsCRP)は、サンドイッチ法に基づいて測定した(Roche Diagnostics社)。他の測定値は、自動分析装置を用いて測定した試料から取得した。
統計分析
CyPAレベルに応じて群分けされた対象患者のベースライン特性は、頻度及び百分率、連続変数については平均値及び標準偏差、または、偏った分布を持つ変数については中央値と四分位数範囲として示した。ベースライン特性は、離散変数についてはカイ二乗検定を、連続変数についてはWilcoxonまたはKruskal-Wallisの順位和検定を用いて、四分位群間で比較した。
追加のCyPA分析は、血管造影の結果により定義されたサブグループ間で行った。2群間比較はスチューデントのt検定を用いて行った。多群間比較は、平均値について分散分析(ANOVA)後のDunnettの多重比較を用いておこなった。受信者動作特性(ROC)曲線は、CAG前に取得した血漿CyPA測定の感度と特異性を評価し、CADの存在と重症度を判定する能力を比較するために算出した。
ロジスティック回帰分析は、年齢、性別、喫煙状態、糖尿病の有無、高血圧の有無、又はLDLコレステロール値により調整した後、CyPAレベルとCAD状態間の関連性を推定するために用いた。調整オッズ比はCyPAレベル15 ng/ml以上と、四分位間の両方で求めた。モデル性能の評価には、ROC曲線下の面積(C-統計量)を用いて求められる識別能、及び、Hosmer-Lemeshow適合度検定によって示される校正を用いた。分析は、CyPAレベルをカテゴリカル変数として扱い、最低四分位を他の3つの四分位数の対照として用いて行った。求めたP値は両側P値であり、P値が0.05以下を統計学的に有意を示すものとした。統計分析は、SPSSバージョン19.0(シカゴ、イリノイ州、米国)とJMPバージョン9.02(ケアリー、ノースカロライナ州、米国)を用いて行った。
2.結果及び考察
図1は、サイクロフィリンA(CyPA)タンパク質の血漿中濃度(以下、単に「CyPAレベル」と記載する場合もある。)ごとの、患者における冠動脈狭窄の有無の分布を示す。CyPAレベルは、冠動脈間質性狭窄を有する患者において、狭窄のない患者と比較して、有意に高かった。
図2は、CyPAレベルと血管造影により判別できる冠動脈疾患の重症度との相関を示す。CyPAレベルは血管造影により判別できる冠動脈疾患の重症度に応じて増加した(p <0.001)。
狭窄冠状動脈の数とCyPAの血漿中濃度との相関を評価するために、CyPAの血漿中濃度により、すべての症例を4群に分けた。表1は、各四分位群に属する患者の臨床的背景及び検査値を示す。上位の(CyPAの血漿中濃度が高い)四分位群に属する患者は、高齢でありかつ臨床的に有意な冠動脈疾患の症状を有する傾向があった(p <0.001)。第4四分位群においては、高血圧及び糖尿病の有病率が高く、推定糸球体濾過率(eGFR)の僅かな減少を示した。
Figure 0006316200
図3に、CyPAレベルに基づく四分位群と、狭窄冠状動脈の病変数及び心血管への治療介入が必要である症例の割合の相関を示す。上位の(CyPAレベルが高い)四分位群に属する患者は、有意に狭窄冠状動脈の病変数が顕著に増大していた(P <0.001)。また、経皮冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention (PCI))や冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting (CABG))等の心血管への治療介入が必要である症例の割合(Requirement for PCI or CABG during follow up period (%))は、第4四分位群において、他の下位の四分位群と比べて有意に高かった。
CyPAレベルに基づき、ROC曲線及びC-統計量を算出した。結果を図4に示す。ROC曲線は、CyPAのレベルが器質性冠動脈狭窄の判定(C-統計量= 0.802)及び心血管への治療介入の必要性の判定(C-統計量= 0.793)に有用であることを示している。
図5に、CyPAレベルと心血管疾患のリスク因子との相関を示す。従来の心血管疾患のリスク因子である高血圧、糖尿病、喫煙、高脂血症及び加齢(68歳以上)が存在する患者では、CyPAレベルは上昇した(すべてP <0.001)。
CyPAレベルに基づくコホートの分割は、CyPAレベルとCADとの相関をさらに示すものとなった。年齢(age)、性別(sex)、および従来の心血管疾患のリスク因子(cardiovascular risk factor)(喫煙習慣(smoking status)、糖尿病の有無(presence or absence of diabetes)、高血圧の有無(presence or absence of hypertension)、脂質異常症の有無(presence or absence of dyslipidemia)により調整(Adjusted for Cardiovascular Risk Factors)したロジスティック回帰分析において、第2四分位群(Quartile 2)、第3四分位群(Quartile 3)及び第4四分位群(Quartile 4)は、CyPAレベルが最も低かった第1四分位群と比較して、CADのリスク増加との相関が見られた(オッズ比(Odds Ratio):1.73、9.94、10.29。傾向分析のP値<0.001)。この結果は、さらに高感度CRP値により調整した場合(Adjusted for Cardiovascular Risk Factors and hsCRP)においても有意であった。(オッズ比、1.84、10.53、および10.78。傾向分析のP値<0.001。)。結果を表2に示す。
Figure 0006316200
図6に、CyPAレベル及び既知の心血管疾患のリスク因子のロジスティック回帰モデルから求められるオッズ比を示す。いくつかの既知の心血管疾患のリスク因子は、年齢、性別、体格指数(BMI)で調整したロジスティック回帰モデルにおいて、CADと相関が見られた。糖尿病及び高血圧は、各々CADのリスク増加と相関していた。既知の既知因子の各々及びCyPAレベルを、単変量ロジスティック回帰分析に算入した。高感度CRP値が含まれていたこのモデルでは、CyPAレベルが15 ng/ml以上であることが、心血管疾患の状態と顕著に相関して残った(オッズ比= 6.20、P <0.001)。
さらに、多変量解析により、既知のリスク因子(年齢、性別、喫煙、高血圧、糖尿病およびhsCRP)に加えて、CyPAレベル15 ng/ml以上であることがが、心血管疾患の状態と顕著相関することが明らかとなった(表3)。
Figure 0006316200
CyPAレベルを算入することで、ロジスティック回帰モデルの全体的なパフォーマンスが大幅に向上した。CyPAレベルは、既知の心血管リスク因子(年齢、性別、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症)に追加されたときには、C-統計量が0.807から0.870に向上した。高感度CRP値をベースラインモデルへ算入した場合、C-統計量は0.807から0.873に向上した。適合度検定を用いた評価では、CyPAレベルの算入は、判定モデルの判定能を低減させなかった。すなわち、CyPAレベルは、性別、家族の虚血性心疾患の病歴、高血圧及び糖尿病の有無、喫煙状態、体格指数(BMI)、eGFR、並びに、血漿脂質レベル提供される以上の情報を提供する。
高感度CRPが陽性(血漿中の濃度が1 mg/L以上)である141人の患者を除いた場合でも、結果に大きな変化はなかった。高感度CRP値が1mg/L未満未満の患者において、CyPAレベルについて第4四分位群に属する患者では、CADについての調整オッズ比は、第1四分位群と比較して、13.2であった(95%信頼区間:3.2〜53.9、P <0.001)。さらに、15 ng/ml以上のCyPAレベルとした場合も、調整オッズ比が5.9(95%信頼区間:2.3〜14.8、P <0.001)である、有効性の高い予後マーカーのままであった。高感度CRP値が1.000以上である患者においても、同様の傾向が認められ、CADの予測のためのバイオマーカーとして、これらの組み合わせ有用性が示唆される。
治療結果を判定するバイオマーカーとしてのCyPAレベル
CyPAレベルは、性別、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など、アテローム性動脈硬化のリスク因子に応じて増加する(図6)。当該リスク因子は、すべてが酸化ストレスを誘導するものである。そこで、リスク因子を制御した後の治療結果のバイオマーカーとしてのCyPAレベルの有用性について検討した。
リスク要因を制御するための薬剤を添加した後のフォローアップ調査を行った。治療後の患者(n = 42)において、ベースライン期とフォローアップ期(平均フォローアップ期間:273日間)とで取得した試料でのCyPAレベルを比較したところ、治療後に有意な減少が観察された(p = 0.003)。結果を図7に示す。すなわち、アテローム性動脈硬化のリスク因子を制御する治療法が冠動脈疾患の患者におけるCyPAレベルを減少させたことから、CyPAレベルが、全身の酸化ストレスや投薬による治療効果を評価するためにも有用であることが示唆された。
CyPAとアテローム性動脈硬化不安定プラーク
冠動脈の動脈硬化性プラークにおける、CyPAの蓄積を観察した。結果を図8に示す。心筋梗塞患者の冠状動脈に、強いCyPAの発現が観察された。特に、CyPAの高発現が、アテローム性動脈硬化プラークの薄い線維性被膜直下に観察された。このことは、分泌されたCyPAが高度冠動脈の動脈硬化性プラークが蓄積されることを示唆している。
[実施例2]
大動脈瘤と疾患とサイクロフィリンAタンパク質の血漿中の濃度の相関を検証した。
1.方法
患者群
実施例1の患者群のうち、画像診断により胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤の存在が認められる患者を、大動脈瘤が存在する患者群とした(N=60)。実施例1の患者群のうち、冠動脈疾患及び大動脈瘤のいずれも存在が認められない患者を、対照群とした(N=69)。
統計分析
実施例1に記載の方法に準じて行った。
2.結果及び考察
図9は、CyPAレベルとCT等の画像診断により判別できる大動脈瘤の有無の相関を示す。CyPAレベルは、大動脈瘤が存在する患者において有意に高かった(p<0.001)。手術の必要性が高いと判定される径55mm以上の大動脈瘤が存在する患者において、CyPAレベルが特に高い傾向が見られた。
CyPAレベルに基づき、大動脈瘤の判定についてROC曲線及びC-統計量を算出した。結果を図10に示す。ROC曲線は、CyPAのレベルが大動脈瘤の判定(C-統計量= 0.756)に有用であることを示唆している。
[実施例3]
肺高血圧症と疾患とサイクロフィリンAタンパク質の血漿中の濃度の相関を検証した。
1.方法
患者群
2008年〜2011年の間に東北大学病院(仙台市)において実施された右心カテーテル検査の際に、肺高血圧の患者(N =130)及び対照患者(N =25)から取得した血漿試料を用いた。対照患者は、心エコー検査により肺高血圧症が疑われたが、右心カテーテル検査(平均肺動脈圧(mPAP) <25 mmHg)により除外された患者からなる。
ベースライン測定、統計分析
実施例1に記載の方法に準じて行った。
2.結果及び考察
図11は、CyPAレベルと肺高血圧症の有無との相関を示す。CyPAレベルは、肺高血圧症が存在する患者において有意に高かった(p<0.001)。
図12は、ベースライン期にCyPAレベルが22 ng/ml以上であった患者と、22 ng/ml未満であった患者の無再発生存率(Event-free survival ratio)を示す。CyPAレベルが22 ng/ml以上であった患者は、有意に無再発生存率が高かった(P<0.001)。
以上の結果は、CyPAレベルが、肺高血圧症の治療効果の評価及び予後の判定のバイオマーカーとしても有用であることを示唆している。
[実施例4]
サイクロフィリンAタンパク質の血漿中の濃度と高感度CRP値(hsCRP値)との相関を評価した。
1.方法
患者群
実施例1と同じ患者群において評価を行った。
測定手法、ベースライン測定、統計分析
実施例1に記載の方法に準じて行った。Gensiniスコアの算出は、下記文献に記載の方法に準じて行った:Gensini GG. Am J Cardiol 1983; 51: 606。
2.結果及び考察
結果を図13に示す。図13Aは、複数試行におけるCyPAレベル測定の再現性を示す。図13Bは、患者群(n=320)におけるCyPAレベルと高感度CRP値とのドットプロットを示す。図13Bから明らかなように、CyPAレベルと高感度CRP値との間に相関は見られなかった。
表4は、高感度CRP値及び冠動脈疾患(CAD)の有無で分類した患者の臨床的背景及び検査値を示す。高感度CRP値が高い(1 mg/L以上、n=141;すなわち陽性である)患者群及び高感度CRP値が低い(1 mg/L未満、n=179;すなわち陰性である)患者群において、CyPAレベルの有意差は観察されなかった(P = 0.511)。さらに、当該2患者群の間で、血管造影所見(angiographic findings)及び心血管への治療介入が必要である患者の割合(Requirement for PCI or CABG during follow up period (%))についても、有意差がなかった(それぞれ、P =0.602及びP = 0.348)。
Figure 0006316200
図14は、高感度CRP値が高い患者群及び高感度CRP値が低い患者群のそれぞれにおける、CyPAレベルと血管造影により判別できる冠動脈疾患の重症度との相関を示す。上記2患者群のいずれにおいても、CyPAレベルは、冠動脈疾患(CAD)の重症度と相関が見られた。高感度CRP値が高い患者群及び高感度CRP値が低い患者群のいずれにおいても、CADの重症度が高い患者においてCyPAレベルは高かった。
図15は、高感度CRP値に基づく四分位群と、狭窄冠状動脈の病変数及び心血管への治療介入が必要である症例の割合の相関を示す。狭窄冠動脈の数は、高感度CRP値の第4四分位群でわずかに増加した。しかし、P値により表されるその有意性(P =0.107)は、CyPAレベルの第4四分位群(P <0.001、図3A)と比較して小さかった。また、高感度CRP値の四分位群は、将来の心血管への治療介入が必要性とは強い相関を示さなかった。
図16は、CyPAレベルに基づく四分位群ごと及び高感度CRP値に基づく四分位群ごとのGensiniスコアの相関を示す。CyPAレベルの第4四分位群において、Gensiniスコアの有意な増加が見られた(P <0.001、図16A)。高感度CRP値の第4四分位群においても、Gensiniスコアの有意な増加が見られた(P =0.007、図16B)。CyPAレベルは、高感度CRP値と比べて、冠状動脈アテローム性動脈硬化症の重症度を評価する指標として優れていることが明らかとなった。
なお、Gensiniスコアは、CADの重症度を表す(例えば、下記の文献参照:Ozaki Y, Imanishi T, Taruya A, Aoki H, Masuno T, Shiono Y, et al. Circ J 2012; 76: 2412-2418.及びGensini GG. Am J Cardiol 1983; 51: 606.)。
高感度CRP値が低い179人の患者の中で、95人(53.1%)はCADを有していた。(表4)。これらの患者の間で、CADを有する患者ではCyPAレベルのメディアン値(17.1 ng/ ml)は、CADを有さない患者のCyPAレベルのメディアン値(7.7 ng/ml)と比べて、有意な上昇が見られた(P <0.001)。高感度CRP値が高い141人の患者の中で、94人(66.7%)がCADを有していた(表4)。これらの患者の間で、CADを有する患者ではCyPAレベルのメディアン値(16.1 ng/ ml)は、CADを有さない患者のCyPAレベルのメディアン値(8.0 ng/ml)と比べて、有意な上昇が見られた(P <0.001)。一方、CyPAレベルの四分位は、高感度CRP値と相関しなかった(P = 0.103、表1)。
[考察]
胸痛等の非特異的な症状を訴える患者のうち、心電図変化や高感度CRP値、心筋トロポニンT値等の従来の指標が陽性である患者は、心筋梗塞等の心血管疾患の蓋然性が高いとして、通常、専門施設へ緊急搬送される。また、心電図の波形に以上が見られない場合であっても、患者が典型的な胸部症状の既往歴や動脈硬化の危険因子を有する場合は、狭心症等の疾患を疑い、さらに精密検査を行うことができる。しかしながら、このような患者に該当しないが、冠動脈の完全閉塞を来す一歩手前等の重篤な症状である患者である場合もある。すなわち、従来の検査方法では高い確度をもって鑑別が行えていない現状がある。また、トロポニンT値が陽性になるためには、心筋壊死すなわち心筋梗塞が実際に発症し、しかも、発症後数時間以上経過しなければ陽性にならないため、トロポニンTを用いた検査方法では偽陰性が多いとの実情もある。
図14に示すように、高感度CRP値が1 mg/L以上である患者群と1 mg/L未満である患者群の二群に分けても、血漿中CyPAレベルはいずれの群においても、冠動脈疾患の有無及び重症度と高く相関した。従って、血漿中のCyPAレベルを用いて、冠動脈有意狭窄の有無や心筋梗塞の可能性などの心血管疾患を従来方法と比較して、高い確度をもって予測できることが強く示唆される。
血漿中のCyPAレベルを、全身の動脈硬化、心筋梗塞を発症しうる症例等の心血管疾患をスクリーニングできるバイオマーカー用いることで、今まで以上に救える命が増えることが期待される。また、血漿中のCyPAレベルは、治療効果の評価においても有用であることが期待される。

Claims (5)

  1. 器質性冠動脈狭窄、大動脈瘤及び肺高血圧症からなる群から選択される少なくとも1種の心血管疾患の検査のための方法であって、サイクロフィリンAタンパク質の濃度に基づいて、心血管疾患が発症している可能性を判定するために、ヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する工程を含む、方法
  2. 定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、あらかじめ設定したカットオフ値以上であるとき、心血管疾患が発症している可能性が高いと判定される、請求項1に記載の方法。
  3. 定したサイクロフィリンAタンパク質の濃度が、健常な検体から取得したサイクロフィリンAタンパク質の濃度に比して大きい場合に、心血管疾患が発症している可能性が高いと判定される、請求項1に記載の方法。
  4. 前記検体が、血漿である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  5. ヒト血液検体中のサイクロフィリンAタンパク質の濃度を測定する手段を含む、心血管疾患の検査キットであって、心血管疾患が、器質性冠動脈狭窄、大動脈瘤及び肺高血圧症からなる群から選択される少なくとも1種である、キット
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