以下、本発明に係る実施例について説明する。
図1及び図2を用いて、電磁式燃料噴射弁100の構成について説明する。図1は本発明の一実施例に係る電磁式燃料噴射弁の構造を示す断面図であり、中心軸線100aに平行な切断面を示す縦断面図である。図2は本発明の一実施例に係る電磁式燃料噴射弁の構造を示す断面図であり、中心軸線100aに平行な切断面を示す縦断面図である。
電磁式燃料噴射弁100は、燃料を供給する燃料供給部200と、燃料の流通を許したり遮断したりする弁部300aが先端部に設けられたノズル部300と、弁部300aを駆動する電磁駆動部400とで、構成される。本実施例では、ガソリンを燃料とする内燃機関用の電磁式燃料噴射弁を例にとり、説明する。本発明は、例えば圧電素子で駆動される燃料噴射弁、或いはディーゼルエンジンに用いられるような形態のような、電磁式燃料噴射弁以外の燃料噴射弁にも適用可能である。
本実施例の電磁式燃料噴射弁100では、図面の上端側に燃料供給部200が、下端側にノズル部300が構成され、燃料供給部200とノズル部300との間に電磁駆動部400が構成されている。すなわち、中心軸線100a方向に沿って、燃料供給部200、電磁駆動部400及びノズル部300がこの順に配置されている。
燃料供給部200は、ノズル部300に対して反対側の端部が図示しない燃料配管に連結される。ノズル部300は、燃料供給部200に対して反対側の端部が、図示しない吸気管或いは内燃機関の燃焼室形成部材(シリンダブロック、シリンダヘッド等)に形成された取付穴に挿入される。電磁式燃料噴射弁100は燃料供給部200を通じて燃料配管から燃料の供給を受け、ノズル部300の先端部から吸気管或いは燃焼室内に燃料を噴射する。電磁式燃料噴射弁100の内部には、燃料供給部200の前記端部からノズル部300の先端部まで、燃料がほぼ電磁式燃料噴射弁100の中心軸線100a方向に沿って流れるように、燃料通路101(101a〜101h)が構成されている。
以下の説明においては、電磁式燃料噴射弁100の中心軸線100aに沿う方向の両端部について、ノズル部300に対して反対側に位置する燃料供給部200の端部或いは端部側を基端部或いは基端側と呼び、燃料供給部200に対して反対側に位置するノズル部300の端部或いは端部側を先端部或いは先端側と呼ぶことにする。また、図1の上下方向を基準として、電磁式燃料噴射弁を構成する各部に「上」又は「下」を付けて説明する。これは、説明を分かり易くするために行うものであり、内燃機関に対する電磁式燃料噴射弁の実装形態をこの上下方向に限定するものではない。
以下、燃料供給部200、電磁駆動部400及びノズル部300の構成について、詳細に説明する。
燃料供給部200は、後述する電磁駆動部400を構成する固定鉄心401の一端部から延設された燃料パイプ201によって構成される。すなわち本実施例では、固定鉄心401と燃料パイプ201とが一つの部材で一体的に成形されている。
燃料パイプ201の上端部には燃料通路101aに連通する燃料供給口201aが開口している。燃料供給口201aに対して下方の外周面には拡径して段部を構成する拡径部201bが設けられている。この拡径部201bと燃料供給口201aとの間にOリング202が取り付けられている。さらに、Oリング202と拡径部201bとの間には、バックアップリング203が設けられている。
Oリング202は、燃料供給口201aが燃料配管に取り付けられた際に、燃料漏れを防止するシールとして機能する。また、バックアップリング203はOリング202をバックアップするためのものである。バックアップリング203は複数のリング状部材が積層されて構成される場合もある。燃料供給口201aの内側には燃料に混入した異物を濾しとるフィルタ204が配設されている。
ノズル部300は、その先端部(下端部)に弁部300aを備え、弁部300aの上流側に燃料通路101fを構成する中空の筒状体(ノズル体)300bを備えている。尚、ノズル体300bの先端部外周面にはチップシール103が設けられている。
弁部300aは、噴射孔形成部材301と、ガイド部材302と、プランジャロッド102の一端部(先端側)に設けられた弁体303とを備えている。
噴射孔形成部材301の内側には上端面301aから下方に向けて凹形状部301bが形成されている。凹形状部301bには、中心軸線100aに平行な円筒形状を成す内周面301cが上端面301aから凹形状部301bの奥側に向けて形成されている。内周面301cの下端には段部301dが形成され、段部301dの内周から凹形状部301bの奥側に向けて内周壁面301eが形成されている。段部301dには、後述するガイド部材302が載置される。内周壁面301eは奥側に向かって縮径するように形成され、燃料室301fを形成している。内周壁面301eの下端には円錐形状の弁座構成面301gが形成され、弁座構成面301gを形成する円錐形状の頂点部には、弁体303との干渉を避ける逃げ部301hが設けられている。
円錐形状の弁座構成面301gには弁体303と接触する弁座301bが環状に設けられている。弁座構成面301gと弁体303との接触幅は非常に狭く、線接触に近い。このため、弁座構成面301gと弁体303との接触幅に相当する環状部分を弁座301bと呼び、弁座301bと弁座構成面301gとを区別している。しかし、弁座301bは弁座構成面301gの上端と下端との間に構成されており、弁座構成面301gを弁座301bと呼ぶ場合もある。
噴射孔形成部材301の外側には、上端面301aから下方に向けて中心軸線100aに平行な外周面301iが円筒形状に形成されている。外周面301iの下端は端面(下端面)301jに接続されている。端面301jには、その中心部に、面から突出する曲面部(或いは球面部)301kが形成されている。
上述した構成により、噴射孔形成部材301は、内周面301cと外周面301iとによって構成される筒状部301lと、内周壁面301eと弁座構成面301gと逃げ部301hと曲面部(或いは球面部)301kを含む端面301jとによって構成される底部301mとを有しており、有底筒状に形成されている。
噴射孔形成部材301の底部301mには、底部301mを貫通するように、燃料噴射孔301nと凹部301oとが形成されている。凹部301oは、曲面部301kの外面から凹形状部301b側に向けて円筒形状に形成された内周面301oaと、平坦に形成された底面301obとを有している。燃料噴射孔301nは、その出口が凹部301oの底面301obに開口し、その入口が噴射孔形成部材301の裏面側(弁座構成面301g側)に開口している。内周面301oaの中心軸線は燃料噴射孔301nの中心軸線と一致している。底面301obは燃料噴射孔301nの中心軸線に垂直である。複数の燃料噴射孔301nのそれぞれに凹部301oが個別に設けられ、燃料噴射孔301aと凹部301oとのセットが複数設けられている。
噴射孔形成部材301は後述する加工工程により製作され、ノズル体300bの先端部に形成された凹部内周面300baに挿入されて固定されている。このとき、噴射孔形成部材301の先端面の外周とノズル体300bの先端面内周とが溶接され、燃料をシールしている。
ガイド部材302は噴射孔形成部材301の内側に配置されている。ガイド部材302の中心部には、上端面から下端面に貫通する貫通孔302aが形成されている。貫通孔302aはプランジャロッド102の先端側(下端側)のガイド面を構成し、中心軸線100aに沿う方向(開閉弁方向)におけるプランジャロッド102の移動を案内する。ガイド部材302の外周面には燃料通路101gが形成され、ガイド部材302の下端面には燃料通路101hが形成されている。
弁体303は閉弁時に弁部301aが弁座301bと接触し、弁座301bと協働して燃料をシールする。弁部300aは、燃料を噴射する主要部であり、燃料噴霧を形成する噴霧形成部を構成する。
電磁駆動部400は、固定鉄心401と、コイル402と、外周ヨーク403と、可動鉄心404と、第1ばね部材(コイルばね)405と、ばね力調整部材406と、第2ばね部材(スプリング)407と、ばね座部材408とで構成されている。
固定鉄心401は、燃料パイプ201に対して反対側の端部(下端部)に形成された下端面401aと、中心部に燃料通路101cを構成する貫通孔401bと、燃料パイプ201が延設される側の端部に径方向に張り出して形成されたフランジ部401cとを有する。固定鉄心401の外周面401dはノズル体300bに形成された拡径部300baの内周面に嵌合されている。固定鉄心401及びノズル体拡径部300baの外周側にはコイル402が巻回されている。
外周ヨーク403はコイル402の外周側を囲むように設けられ、電磁式燃料噴射弁100のハウジング部材を兼ねている。外周ヨーク403の上端側内周面403aが固定鉄心401のフランジ部401cの外周面に接続されて固定されている。また、外周ヨーク403の下端側内周面403bは、ノズル体拡径部300baの外周面に接続されて固定されている。
固定鉄心401の下端部側には、可動鉄心404が配置されている。可動鉄心404の端面404aは固定鉄心401の端面401aと対向している。また、可動鉄心404の外周面はノズル体拡径部300baの内周面と僅かな隙間を介して対向しており、可動鉄心404はノズル体拡径部300baの内側で中心軸線100aに沿う方向に移動可能に設けられている。
可動鉄心404の中央部には、上端面404a側から下端面404b側に窪んだ凹部404cが形成されている。凹部404cの底面に中心軸線100aに沿う方向に下端面404bまで貫通する貫通孔404dが形成されている。貫通孔404dを挿通するようにプランジャロッド102が設けられている。可動鉄心404とプランジャロッド102とは、中心軸線100aに沿う方向に、相対変位可能に構成されている。可動鉄心404の貫通孔404dの周囲には、凹部404cの底面に開口し、下端面404bに貫通する貫通孔により形成された燃料通路101dが設けられている。
プランジャロッド102は第1ばね405により閉弁方向(下方向)に付勢され、下端部に構成された弁体303が弁座301bに接触している。このために、第1ばね405の上端部はばね力調整部材406の下端面に当接し、第1ばね405の下端部はプランジャロッド102の上端部に形成された拡径部102aの上端面に当接している。可動鉄心404は第2ばね部材407により開弁方向(上方向)に付勢され、凹部404cの底面がプランジャロッド102の拡径部102aの下端面と接触している。このために、第2ばね部材407の上端部は可動鉄心404の下端面404bに当接し、第2ばね部材407の下端部はばね座部材408のばね座面408aに当接している。
第1ばね405の付勢力は第2ばね407の付勢力よりも大きく設定されている。このため、弁体303は弁座301bに接触した状態を維持することができる。一方、可動鉄心404はプランジャロッド102の拡径部102aによって、開弁方向への変位を規制されている。本実施例では、上述した構成により、第1ばね405の付勢力はプランジャロッド拡径部102aを介して可動鉄心404に伝達され、可動鉄心404が受ける開弁方向の付勢力、即ち第2ばね407の付勢力及び固定鉄心401による磁気吸引力は、可動鉄心404を介してプランジャロッド102に伝達される。
第1ばね405の付勢力を調整するために、燃料パイプ201の中空部201c内に、ばね力調整部材406が設けられている。また、第1ばね405は下側部分が固定鉄心401の貫通孔401b内に配置され、上側部分が燃料パイプ201の中空部201c内に配置されている。第1ばね405とばね力調整部材406とは燃料通路101a,101c内に配置され、ばね力調整部材406の中心部には燃料通路101bが構成されている。
上述した固定鉄心401、コイル402及び外周ヨーク403は、可動鉄心404に対する磁気吸引力を発生する電磁石を構成する。
上述したばね座部材408には、中心部に中心軸線100aに沿う方向に貫通する貫通孔408bが形成されている。貫通孔408bはプランジャロッド102の上端側のガイド面を構成し、中心軸線100aに沿う方向(開閉弁方向)におけるプランジャロッド102の移動を案内する。ばね座部材408には燃料通路101eが形成されている。
コイル402はボビンに巻かれた状態で固定鉄心401及びノズル体拡径部300baの外周側に組み付けられ、その周囲には樹脂材がモールドされている。このモールドに使用される樹脂材により、コイル402から引き出されたターミナル104を有するコネクタ105が一体的に成形されている。
次に、電磁式燃料噴射弁100の動作について説明する。
コイル402に通電されていない状態では、プランジャロッド102を閉弁方向に付勢する第1ばね部材の付勢力により、弁体303が弁座301bに当接して閉弁している。この状態を閉弁静止状態という。このとき、可動鉄心404は第2ばね部材407によって開弁方向に付勢され、凹部404cの底面がプランジャロッド拡径部102aと当接している。可動鉄心404は開弁方向への変位がプランジャロッド拡径部102aによって規制され、上端面404aと固定鉄心下端面401aとの間には弁体303のストロークに対応するギャップが生じている。
コイル402に通電されると、固定鉄心401、コイル402及び外周ヨーク403によって構成された電磁石により磁束が発生する。この磁束は、コイル402を囲むように構成された固定鉄心401(フランジ部401cを含む)、外周ヨーク403、ノズル体拡径部300ba及び可動鉄心404を環状に流れる。このとき、可動鉄心上端面404aと固定鉄心下端面401aとの間に磁気吸引力が作用し、可動鉄心404が固定鉄心401に向けて引き付けられる。プランジャロッド102は可動鉄心404によって引き上げられ、弁体303の弁部301aが弁座301bから離れる。これにより、弁体303と弁座301bとの間の燃料通路が開く。
可動鉄心上端面404aが固定鉄心下端面401aと当接すると、可動鉄心上端面404aは固定鉄心下端面401aに吸着された状態となって動きを止めるが、プランジャロッド102は開弁方向への移動を続ける。やがて、プランジャロッド102は第1ばね部材405の付勢力により開弁方向への移動を続けることができなくなり、第1ばね部材405により閉弁方向に押し戻される。閉弁方向に押し戻されたプランジャロッド102はプランジャロッド拡径部102aの下端面が可動鉄心凹部404cの底面に当接して静止状態となる。この状態を開弁静止状態という。また、通電を開始して閉弁静止状態から開弁静止状態に至るまでの期間を開弁動作期間という。
開弁静止状態でコイル402への通電を遮断すると、可動鉄心上端面404aと固定鉄心下端面401aとの間に磁気吸引力が小さくなり、この磁気吸引力と第2ばね部材407の付勢力との合力よりも第1ばね部材の付勢力が大きくなると、プランジャロッド102及び可動鉄心404は閉弁方向に移動を始める。弁体303の弁部301aが弁座301bに当接すると、プランジャロッド102は閉弁方向への移動を止める。この後も可動鉄心404は閉弁方向への移動を継続するが、やがて第2ばね部材407の付勢力により閉弁方向への移動を続けることができなくなる。さらに可動鉄心404は第2ばね部材407により開弁方向に押し戻され、可動鉄心凹部404cの底面がプランジャロッド拡径部102aの下端面に当接して静止状態(閉弁静止状態)となる。この閉弁静止状態では、弁体303と弁座301bとの間の燃料通路が閉じられる。
本実施例では、プランジャロッド102と可動鉄心404とが相対変位可能な電磁式燃料噴射弁について説明したが、プランジャロッド102と可動鉄心404とが固定された構造であってもよい。或いは、プランジャロッド102と可動鉄心404とが他の相対変位可能な構造であってもよい。また、固定鉄心401、コイル402及び外周ヨーク403によって構成した電磁石も、本実施例と異なる構成にしても構わない。
次に、図3乃至図12を用いて、製造方法について説明する。特に、製造方法として特徴のある、燃料噴射孔301n及び凹部301oの加工方法について説明する。図3は、噴射孔形成部材301に燃料噴射孔301nと凹部301oとを加工する工程を示すフローチャートである。図4は、燃料噴射孔301nと凹部301oとを加工するためのブランク(半加工品)を示す図である。図5は、図4のV−V断面を示す断面図である。図6は、図3に示す加工工程S2における加工状態を示す断面図である。図7は、図3に示す加工工程S3における加工状態を示す断面図である。図8は、図3に示す加工工程S3までを終了した状態の半加工品301’(噴射孔形成部材301)の外観を示す斜視図である。図9は、図8のIX−IX断面を示す断面図である。図10は、図3に示す加工工程S6までを終了した状態の噴射孔形成部材301について、図9と同様な断面を示す断面図である。図11は、燃料噴射孔301nのウォータージェットレーザー加工について説明する模式図である。図12は、図3に示す加工工程S8までを終了した完成状態の噴射孔形成部材301について、図9と同様な断面を示す断面図である。
加工工程S1で噴射孔形成部材301の半加工品301’を用意する。この半加工品301’を図4及び図5に示す。尚、図4及び図5では、図1及び図2に対して上下が逆転しているが、「上」「下」はあくまでも図1及び図2を基準とする。後述する図6乃至図11の説明も同様である。
半加工品301’には、上端面301aと、内側の凹形状部301bのうち、内周面301c、段部301d、内周壁面301e及び逃げ部301hとが形成されている。また、半加工品301’の外側では、外周面301iと、端面(下端面)301jと、曲面部(或いは球面部)301kとが形成されている。
半加工品301’では、弁座301bを構成する弁座構成面301gは完成しておらず、未完成状態の弁座構成面301g’が荒加工されている。当然ではあるが、燃料噴射孔301及び凹部301oは形成されていない。半加工品301’は、弁座構成面301gが完成していないものの、有底筒状に形成されている。このような半加工品301’は切削加工や塑性加工で製作することができる。
加工工程S2では、図6に示すように、半加工品301’をダイ401の上面に設置し、外周をコレットチャック402で強固に保持する。更に、パンチ403の切り刃部403aで曲面部301kの外周の平面部301pを押圧し、位置決め穴301qa(図8参照)をプレス加工する。同様に位置決め穴301qb、及び機種判別穴301qcを加工する。
次に、加工工程S3では、図7に示すように、半加工品301’をチャックしたままの状態で、パンチ404の切り刃部404aで曲面部301kの外面を押圧し、曲面部301k上に凹部301oを袋穴状にプレス加工する。このとき、凹部301oが袋穴状にプレス加工されることにより、未完成状態の弁座構成面301g’側に材料が押し出され、押出し部301r’が形成される。凹部301oをプレス加工することにより、凹部301oの内周面301oaは全せん断面に加工され、面粗さの小さい凹部301oを形成することができる。
凹部301oは燃料噴射孔301nの個数分プレス加工される。本実施例では、燃料噴射孔301nを6個備えているため、凹部301oを6個プレス加工する。燃料噴射孔301nの個数は1個でも6個以外の複数個でもよい。
燃料噴射孔301nの中心軸線は中心軸線100aに対して0°よりも大きな傾斜角度を有して傾斜している。凹部301oの中心軸線は燃料噴射孔301nの中心軸線と一致するため、凹部301oをプレス加工するために、パンチ404はその中心軸線404bが中心軸線100aに対して傾斜角度Apを有するようにして曲面部301kに押し付けられる。また複数個の燃料噴射孔301nの間で、中心軸線の傾斜角度は異なっている。このため、傾斜角度Apは燃料噴射孔301nごとに調整される。
加工工程S3が終了した段階では、半加工品301’は図8のような外観をしている。
次に、加工工程S4では、弁座構成面301g’を切削加工により荒加工し、加工工程S3で形成された押出し部301r’を取り除く。加工工程S4を終了した段階では、図8のIX−IX断面は図9に示すような断面形状になる。このとき、未完成状態の弁座構成面301g’’が形成されている。
次に、加工工程S5で、半加工品301’を焼き入れ加工し、硬度を高める。この焼き入れにより、完成後の弁座構成面301gの耐摩耗性が向上する。
次に、加工工程S6で、弁座構成面301g’’を仕上げ加工(切削加工)して、弁座構成面301gを完成させる。この仕上げ加工により、弁座構成面gの真円度及び面粗さが向上し、高い油密性を確保することができる。弁座構成面gは円錐形状をしており、円錐側面の上端と下端の途中に弁体303の弁部303aと当接する円環状の弁座301bが構成されている。
加工工程S6が終了した段階では、図8のIX−IX断面は図10に示すような断面形状になる。
加工工程S6が終了すると、燃料噴射孔301nの加工工程が実行される。燃料噴射孔301nの加工工程は加工工程S7と加工工程S8とで実行される。
加工工程S7は、ウォータージェットレーザー500による仕上げ加工(加工工程S8)を実行する前に、半加工品301’の燃料噴射孔301nを形成する部位に、予め貫通孔301n’を加工する工程である。特許文献1にも記載されているように、小径のウォータージェットレーザーではレーザーパワーが小さく貫通孔を形成するのが困難であり、大径のウォータージェットレーザーでは孔の真円度、円筒度などが劣化する。また、レーザーパワーを大きくすると表面粗さ(面精度)が悪化することが考えられる。このため、貫通孔301n’を形成し、貫通孔301n’の加工面を小径のウォータージェットレーザー500で仕上げ加工することにより、燃料噴射孔301nの加工精度(真円度、円筒度、表面粗さ等)を高める。
尚、本実施例では、水を使用するウォータージェットレーザー500について説明するが、水以外の液体を用いるものであっても構わない。水以外の液体を用いる場合、本明細書で用いている用語「ウォーター」は「液体」として説明される。
加工工程S7では、半加工品301’に貫通孔301n’を形成する。貫通孔301n’の加工は通常のレーザー加工(気中レーザー加工)、放電加工、ウォータージェットレーザー加工等で行う。これら以外の加工方法であってもよいが、半加工品301’に大きな応力が生じる加工方法は、上述したように、半加工品301’の剛性の制約を受けて燃料噴射孔の配置や傾斜角度の設計が簡単ではなくなるので、避けた方がよい。
次に、加工工程S8では、図11に示すように、貫通孔301n’の側壁をウォータージェットレーザーで仕上げ加工して、燃料噴射孔301nを完成する。すなわち、燃料噴射孔301nの側壁面がウォータージェットレーザー500で形成される。図示しないレーザー発生装置で発生させたレーザー光501は光ファイバー等でフォーカスレンズ502に導かれる。フォーカスレンズ502で絞られたレーザー光は水容器(液体容器)503に設けられた窓503aから水容器503内に導入される。水容器503は給水口(液体供給口)503bと高圧のウォータージェット500aを噴出するノズル503cとを備えている。水容器503内に導入されたレーザー光はウォータージェット(水柱)500aの内部に照射される。レーザー光はウォータージェット500aの内面で全反射する現象を繰り返し、ウォータージェット500aの中に閉じ込められた状態で進む。この加工方法によれば、ウォータージェット500aが平行ビームを形成するため、ウォータージェットレーザー500の平行ビームに対する半加工品301’の位置及び角度を変化させて所望の径、傾斜角度、形状を有する燃料噴射孔301nを形成することができる。また、水による冷却効果により半加工品301’に加わる熱量を抑え、燃料噴射孔301nの加工面の表面粗さを小さくすることができる。
加工工程S8が終了した段階では、図8のIX−IX断面は図12に示すような断面形状になる。
プレス加工で燃料噴射孔301nを全せん断面に加工する場合、燃料噴射孔301nを袋穴状に押出し加工した後に弁座構成面301gを切削加工で仕上げる(特許文献2参照)。このような加工手順の場合、燃料噴射孔301nの弁座構成面301gへの開口部にバリが発生するため、このバリを取り除く工程が必要になる。本実施例では、弁座構成面301gの仕上げ行う切削加工(加工工程S6)を、燃料噴射孔301nの加工を行う加工工程S7及び加工工程S8に先行して行っている。本実施例では、燃料噴射孔301nをウォータージェットレーザー500で加工することにより、燃料噴射孔301nを加工しながらウォータージェットで加工面の清掃を行うことができる。このため、加工工程S6、加工工程S7及び加工工程S8の手順により、バリ取りの工程が不要になる。
バリ取りの工程を不要にするためには、加工工程S6の後に加工工程S8を行うだけでも良い。このため、加工工程S7、加工工程S6及び加工工程S8の手順で行ってもよい。また、加工工程S7は必ずしも必要でない場合もある。この場合、加工工程S7は実行せず、加工工程S6、加工工程S8の順に実行してもよい。この場合は、燃料噴射孔301nの荒加工無しに、燃料噴射孔301nの側壁面がウォータージェットレーザー500で形成される。本実施例では、特に、加工工程S3、加工工程S6及び加工工程S8の3つの順番が入れ替わらないように実行することが重要であり、その他の加工工程は必要に応じて省略することができる。或いは、図3に記載していないその他の加工工程を加えてもよい。
本実施例の製造方法により製造された燃料噴射弁では、プレス加工により形成された凹部301oは噴射孔形成部材301の外表面に露出しているが、その加工面の表面粗さが小さく、デポジットが付着しにくい。ウォータージェットレーザー加工により形成された燃料噴射孔301nは、表面粗さが凹部301oの表面粗さよりも大きくなるが、表面粗さを小さい値にすることができ、また燃料噴射により常時洗われるため、デポジットが付着するのを防ぐことができる。
ウォータージェットレーザー加工により凹部の底面に燃料噴射孔301nを形成する際には、噴射孔形成部材301の剛性が低下した状態で噴射孔形成部材301に大きな荷重が作用せず、噴射孔形成部材301に大きな応力が発生しないため、燃料噴射孔301nの配置と傾斜角度とにおける設計自由度が高まる。
また、燃料噴射孔301nを放電加工で加工しても、プレス加工のような大きな荷重が半加工品301’に作用することは防ぐことができる。しかし、放電加工では温度が高くなりすぎて燃料噴射孔301nの加工面の表面粗さが悪化し易い。特に、本実施例の構造のように、燃料噴射孔301nが複数個形成され、さらにその出口部に燃料噴射孔301nよりも径の大きな凹部301oが形成されると、熱の逃げる経路の断面積が小さくなる。これにより、放電加工による温度上昇が増え、加工面の表面粗さの悪化につながる。また、複数の燃料噴射孔を加工する場合、半加工品301’が高温になって熱変形した状態で次々に燃料噴射孔を加工すると、燃料噴射孔の加工精度が低下する恐れがある。燃料噴射孔301nをウォータージェットレーザー加工で加工することにより、上述した課題を解決することができる。
図13乃至図15を用いて、燃料噴射孔301nの例について説明する。図13は燃料噴射孔301nの第1の例を示す。図14は燃料噴射孔301nの第2の例を示す。図15は燃料噴射孔301nの第3の例を示す。
図13に示す第1の例では、燃料噴射孔301n及び凹部301oは上述した構成と変わりない。燃料噴射孔301nは入口開口301naから出口開口301nbまで径が一定のストレートな丸孔で構成されている。
本例のような燃料噴射孔301nを形成する場合、ウォータージェットレーザー500の軸線の角度は動かさず、燃料噴射孔301nの周方向にウォータージェットレーザー500の軸線を半加工品301’に対して相対的に移動させればよい。この場合、ウォータージェットレーザー500の軸線と半加工品301’のいずれか一方を移動させてもよいし、両方を移動させてもよい。或いは、条件によっては、ウォータージェットレーザー500の軸線を固定したまま、ウォータージェットレーザー500の直径に等しい燃料噴射孔301nを形成することも可能である。
本例の燃料噴射孔301nでは、入口開口301naで燃料流れに剥離(600a,600b)が生じるため、燃料噴射孔301nの実質的な直径が実際の形状的な寸法Dよりも小さいD’(ΦD’<ΦD)になる。このため、本例の燃料噴射孔301nでは、燃料の噴射速度が速くなり、燃料噴霧の到達距離が長くなる傾向にある。
燃料噴射弁では、燃料噴霧の到達距離(ペネトレーション)をコントロールするために、燃料噴射孔の直径Dに対する長さLの比(L/D)を適切な値に調整する必要がある。特に、燃焼室内に直接燃料を噴射する場合は燃焼室を構成するシリンダ壁面やピストン表面に燃料が付着しないよう、また、吸気管内に燃料を噴射する場合は吸気管内壁面に燃料が付着しないよう、到達距離の短い(低ペネトレーションの)燃料噴霧を噴射することが求められる。図14及び図15に示す燃料噴射孔301nは、到達距離の短い燃料噴霧を実現するための燃料噴射孔の具体例である。
図14に示す第2の例では、燃料噴射孔301nは入口開口301naから出口開口301nbに向かって縮径している。凹部301oは上述した構成と変わりない。弁座構成面301gから燃料噴射孔301nへ流れ込んだ燃料は燃料噴射孔301nの中で径方向に圧縮されながら流れた後噴射される。径方向の拡がり成分はやや弱くなるが、燃料噴射孔301nの長さLを燃料が整流しきらない長さとしているため、径方向の拡がり成分は残存している。この場合、噴射速度は遅くなり、結果として噴霧の到達距離を短くすることが可能である。
本例のような燃料噴射孔301nを形成する場合、燃料噴射孔301nの中心軸線301ndに対してウォータージェットレーザー500の軸線を傾斜させる。また、ウォータージェットレーザー500の軸線に対して半加工品301’を燃料噴射孔301nの中心軸線301ndを中心として回転させることにより加工することができる。これ以外にも、半加工品301’を固定し、ウォータージェットレーザー500を動かして加工することも可能である。ただし、ウォータージェットレーザー500を動かすと、ウォータージェット500aに乱れが生じる可能性があり、燃料噴射孔301nの加工精度が悪化する可能性がある。このため、半加工品301’位置及び角度を動かしながら加工する方が現実的と考えられる。
図15に示す第3の例では、燃料噴射孔301nが楕円形状になっている。凹部301oは丸孔としてもよいが、燃料噴射孔301nに合わせて楕円形状にする方がよい。本例における燃料噴射孔の径(D)は、燃料噴射孔の入口開口301naおける楕円の面積(本例では長辺がa13、短辺がb13)と面積が等しくなる円の直径Dを採用する。この楕円の面積は燃料噴射孔301nの中で最小の面積となる。また、楕円の面積は入口301naから出口開口301nbまでは孔の断面積が次第に大きくなっている。
本例の構成によると、弁座構成面301gの上流から流入する流れに対して、入口開口301naが大きく開孔しているために、真円である場合に比べ、剥離を抑えることが可能となる。入口開口301naから流れ込んできた燃料が燃料噴射孔301nの中で径方向に広がりながら流れた後噴射される。それによって、径方向拡がり成分を大きく、噴射軸方向の噴射速度を遅くすることが可能となるため、燃料噴射弁の噴霧到達距離をさらに短くすることが可能である。
本例の燃料噴射孔301nは第2の例と同様にして、燃料噴射孔301nの中心軸線301ndに対してウォータージェットレーザー500の軸線を傾斜させて加工することができる。
なお、本実施例における噴射孔凹部は、デポジットが付きにくければ良く、一般的には、プレス加工が良い。表面処理等を行うことによりデポジットが問題にならないならば、切削加工や放電加工により凹部301oを加工してもよい。その他にプレス加工並みの性能が出る加工方法があれば、その加工方法により凹部301oを加工し、ウォータージェットレーザー加工によってオリフィス(燃料噴射孔)を加工するようにしてもよい。
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。