JP6265051B2 - 溶接継手部の疲労強度と耐低温割れ性に優れるフラックス入りワイヤ - Google Patents

溶接継手部の疲労強度と耐低温割れ性に優れるフラックス入りワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、高強度鋼の溶接を実施する際に用いられるフラックス入りワイヤに関するもので、特に溶接部の疲労強度に優れ、さらに低温割れを防止するための予熱作業が不要となる、または、予熱作業を著しく低減できるフラックス入りワイヤに関する。
近年、ショベル、クレーンなどの建設機械、橋梁、ビルなどの建築構造物などで、車体や構造物の軽量化を目的に使用される鋼材の高強度化が望まれている。
しかし、高強度鋼に対する使用の要求は高くなっているにも関わらず、使用されている鋼材は、引張強さが490MPa程度の汎用鋼が大半を占めている。
この理由は、高強度鋼を使用してもその溶接部における疲労強度は、汎用鋼とほとんど変わらないという問題があるためである。また、溶接をして構造物を作製する際には、本溶接をする前に部材の正しい寸法位置を確保するためにタック溶接が行われる。タック溶接のように溶接長の短いすみ肉溶接では、入熱量が小さく急冷されることから低温割れが発生しやすい。特に高強度鋼は溶接割れ感受性が高くなるため低温割れを防止するために予熱作業が発生し、それによって溶接効率が低下し、溶接施工コストが高くなる問題もある。そのため、疲労設計がなされる構造物においては、高強度鋼はこれまでほとんど使用されていない。
従って、490MPa級超の高強度鋼が疲労設計の構造物においても広く適用されるようになるためには、溶接部の疲労寿命を向上させ、かつ、溶接時の予熱作業を不要、または予熱作業を著しく軽減できる溶接ワイヤが強く要求される。
高強度鋼の溶接部の疲労強度を向上させるフラックス入りワイヤとしては、例えば特許文献1、2で示されるワイヤが提案されている。
特許文献1では、Si、Sなどを添加することで溶融金属の濡れ性を向上させ、溶接ビードの止端部形状を改善し、疲労強度を向上させるワイヤが提案されている。しかし、Si、Sの添加は、溶接金属の耐溶接割れ性を低下させる問題があるが、それに対する検討は十分にされていない。
特許文献2では、フラックス入りワイヤにNiを多量に添加することで溶接金属を低温域で変態させ、その変態時の体積膨張を利用して溶接部に圧縮残留応力を発生させることで、溶接部の疲労強度を向上させるワイヤが提案されている。しかし、溶接金属を低温域で変態させると、溶接金属が硬化するため、耐低温割れ性を低下させる問題がある。さらに、Niは高価な合金元素であるため、この高Niの溶接ワイヤを構造物の溶接部に多量に適用すると溶接材料コストが著しく増大する問題がある。
また、高強度鋼の溶接部の低温割れ性を向上させるフラックス入りワイヤとしては、例えば特許文献3で示されるワイヤが提案されている。
特許文献3では、490〜780MPa級高張力鋼用のフラックス入りワイヤについて、Vの添加量を最適化し、Vに拡散性水素を吸蔵させることで耐低温割れ性を改善し、溶接割れ停止予熱温度を50℃以下としたワイヤを提案している。このワイヤは、弗化物をスラグ剤として添加しているが、耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響については特に検討されておらず、さらに、高強度鋼のすみ肉溶接部の疲労特性についても何ら検討されていない。
その他、弗化物をスラグ剤としてフラックスに添加して、プライマ塗装鋼板のすみ肉溶接に使用して、優れた溶接作業性と耐プライマ性が得られるワイヤが、例えば特許文献4〜6で提案されている。
特許文献4〜6では、弗化物はプライマ塗装鋼板のすみ肉溶接の際に溶融スラグの粘性を下げることで、プライマ熱分解ガスの放出を容易にし、ピット、ガス溝の発生を抑制する目的や、溶接金属の酸素量を低減することで高靭性の溶接金属を得る目的で用いられているが、弗化物の疲労特性に及ぼす影響については全く検討されておらず、耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響についても十分な検討がなされていない。
なお、特許文献5に金属弗化物は拡散性水素を低減すると記載されているが、ワイヤ中の金属酸化物の割合が高く、その低減効果に関する定量的な分析は行われていない。また、このワイヤは、水分を含有させることが必須となっているため、ワイヤ中に金属弗化物が含有されているものの、拡散性水素が多くなり、厳しい耐低温割れ性を具備できないことが予想される。
特開2002−361480号公報 特開2007−296535号公報 特開平8−257785号公報 特開2001−205484号公報 特開平9−239587号公報 特開平3−180298号公報
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、引張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接部の疲労特性を向上することで、疲労設計がなされる構造物においても高強度鋼を適用することで軽量化を可能にし、かつ、低温割れを抑制するための予熱作業を不要、または、予熱作業を著しく低減することで溶接施工効率を著しく改善できるフラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明者らは、引張強さ490MPa超の高強度鋼のすみ肉溶接部及びタック溶接に使用されるフラックス入りワイヤにおいて、弗化物に着目して検討を進めた。
前記のように、弗化物を添加したワイヤを、張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接に使用できるようにするためには、溶接金属の疲労特性や耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響についてもさらに検討することが必要である。
そこで、まず、弗化物が主体であるスラグ成分組成において、疲労強度を向上させるために合金元素の添加について種々検討した。その結果、BiおよびNi、Crなどの合金元素を最適に添加することで、高強度鋼の溶接部の疲労特性を向上させることができることが見いだされた。
また、フラックスとして弗化物とともに添加される金属酸化物を適切に含有させることにより、溶接金属の拡散性水素を大幅に低減することができることを見出した。
これによって、引張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接部であっても優れた疲労特性が得られ、かつ、低温割れ抑制のために実施される予熱を省略、あるいは、簡略化できるフラックス入りワイヤ組成を見出し、その知見を基にさらに検討を加えて本発明に到達した。
そのようになされた本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
前記ワイヤ中に、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaF、BaF、SrF、MgF、LiFのうち1種または2種以上を合計量αとして3.1〜6.5%、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Ca酸化物のうち1種または2種以上を合計量βとして0.4〜1.4%含有し、
かつ、前記合計量αに対する前記CaFの含有量の比が0.90以上であり、前記Ca酸化物の含有量が0.2%未満であり、さらに、前記合計量βに対する前記合計量αの比が3.0以上15.0以下であるように含有し、
合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.3〜1.0%、
Mn:1.8〜3.0%、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.003〜0.05%、
Bi:0.004〜0.030%
を含有し、さらに、
Ni:0.2〜1.4%
Cr:0.1〜0.8%、
のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の(a)式で定義されるNCが0.1〜1.2%であり、かつ下記の(b)式の関係を満たすことを特徴とするフラックス入りワイヤ。
NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
100×[Bi]≧NC ・・・(b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
(2) 前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、
Cu:0.1〜0.5%、
Mo:0.1〜0.8%、
V:0.01〜0.04%、
Ti:0.01〜0.3%、
Nb:0.01〜0.1%、
B:0.0003〜0.01%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載のフラックス入りワイヤ。
(3) 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のフラックス入りワイヤ。
(4) 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のフラックス入りワイヤ。
(5) 前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のフラックス入りワイヤ。
本発明によれば、引張強さ490MPa超の高強度鋼のすみ肉溶接やタック溶接に用いられるフラックス入りワイヤにおいて、溶接部の疲労特性に優れ、かつ低温割れ抑制のために実施される予熱作業が不要となる、または、予熱作業を著しく低減できるフラックス入りワイヤを提供することができる。
NCと疲労強度の関係を示す図である。 CaO含有量と拡散性水素量の関係を示す図である。 実施例における試験片の採取位置を示す図である(JIS Z3111(2005年))。 疲労試験に使用した十字溶接継手疲労試験体を示す図である。 フラックス入りワイヤの切断断面の一例を示す図である。
従来、弗化物はプライマ塗装鋼板のすみ肉溶接において溶融スラグの粘性を下げることで、プライマ熱分解ガスの放出を容易にし、ピット、ガス溝の発生を抑制する効果があるとされてきたが、本発明者らは、溶接部の疲労特性に対する効果と溶接金属中の水素に対する効果について、フラックス入りワイヤを試作して詳細に検討した。
すなわち、フラックス入りワイヤとして、CaF、金属酸化物を含有し、さらにBiを含有させることによって溶融金属と母材との濡れ性を改善し、疲労特性を向上させ、さらに合金成分として、Ni、Crを適量含有することで疲労特性を確保させたフラックス入りワイヤであって、CaF、Bi及び合金元素の含有量を種々の割合で変化させ、このワイヤを用いて、490MPa超の高強度鋼のすみ肉溶接及びタック溶接を実施した。
その結果、CaF、Bi及び合金元素の特定の含有範囲において、高強度鋼の溶接部の疲労特性が向上し、さらに、溶接金属の拡散性水素量を大幅に低減することで、タック溶接のような低温割れに厳しい箇所においても低温割れを抑制するのに必要な予熱作業を不要、または予熱作業を著しく低減できることを見出した。
本発明は以上のような検討の結果なされたものであり、以下、本発明のフラックス入りワイヤについて、特徴とする技術要件の限定理由や好ましい態様について順次説明する。
先ず、本発明のフラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮およびフラックス中に含有される合金成分、金属脱酸成分および各成分の含有量の限定理由について説明する。
以下の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する鋼製外皮およびフラックス中の各成分の質量%の合計となる成分含有量を意味するものとする。
(C:0.03〜0.10%)
Cは、強度を向上させる元素であり、溶接する鋼板の強度レベルに応じて含有させる必要がある。引張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接部の強度を確保するためには、Cを0.03%以上含有させる必要がある。
溶接ワイヤ中のC含有量は多いほど溶接金属中のC含有量も増加し、溶接金属の強度を高めるので好ましい。しかし、多くなり過ぎると溶接部が母材に対して過剰に硬化し、靭性を低下させるのに加え、タック溶接部のような冷却速度が速くなるところでは、著しく硬化するため、低温割れ感受性が高まる。従って、靭性、耐低温割れ性を確保するために、C含有量の上限を0.10%とする。また、安定して靭性を確保するためには、Cの上限を0.085%、0.08%又は0.075%としてもよい。
(Si:0.3〜1.0%)
Siは、溶融金属の濡れ性を高めることで疲労特性の改善に効果があり、さらにSiは脱酸元素であり、溶接金属のO量を低減して清浄度を高める。これらの効果を得るには、0.3%以上の含有が必要である。ただし、高強度鋼の溶接部においては、1.0%を超えて含有させると靱性を劣化させるため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Siの上限は、0.8%、0.7%又は、0.6%としてもよい。
(Mn:1.8〜3.0%)
Mnは、溶接金属の焼入性を確保して強度を高めるために必要な元素である。その効果を確実に発揮するためには、1.8%以上含有させる必要がある。一方、3.0%を超えて含有させると、焼入性が過剰になることで、耐低温割れ性、靭性が劣化するため、これを上限とする。また、耐低温割れ性、靭性の劣化をより抑えるためには、Mnの上限を2.8%、2.6%、2.4%としてもよい。
(P:0.02%以下)
Pは不純物元素であり、耐溶接割れ性、及び靱性を劣化させるため極力低減する必要があるが、これら悪影響が許容できる範囲として、P含有量は0.02%以下とする。
(S:0.02%以下)
Sは、不純物元素であるが、溶融金属の濡れ性を向上させ、溶接ビード止端部の形状を滑らかにすることで疲労強度を向上させる目的で使用されることがある。しかし、Sが溶接金属中に過剰に存在すると耐溶接割れ性と靱性を著しく劣化させるため、極力低減することが好ましい。耐溶接割れ性、靱性への悪影響が許容できる範囲として、S含有量は0.02%以下とする。
(Al:0.003〜0.05%)
Alは脱酸元素であり、Siと同様、溶接金属中のO低減、清浄度向上に効果があり、その効果を発揮するために0.003%以上含有させる。一方、0.05%を超えて含有させると、窒化物や酸化物を形成して、溶接金属の靱性を阻害するため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を向上する効果を十分に得るには、Alの下限を0.004%又は0.005%としてもよく、また、粗大酸化物の生成抑制のため、Alの上限を、0.04%、0.03%又は、0.025%としてもよい。
(Bi:0.004〜0.030%)
Biは弗化物が主体となる溶融スラグにおいて、溶融スラグの粘性を最適にし、また、溶接止端部に発生しやすい強固な酸化スケールの発生を抑制することで、溶接止端部形状を滑らかにし、溶接部の疲労特性の向上に効果がある。その効果を得るためには、Biを0.004%以上含有させる必要がある。一方、0.030%を超えて含有させると、溶接金属内に高温割れが発生するようになるため、これを上限とする。
本発明のフラックス入りワイヤは、さらに、Ni、Crの一種または二種以上を含有させる必要がある。
(Ni:0.2〜1.4%)
Niは、溶接金属部の耐候性を高める元素であり、経年においても溶接止端部の形状を維持し、疲労特性の低下を抑制することができる。また、Niは焼入性を向上させることで強度を高め、さらに固溶靭化により靭性を向上させる。これら効果を得るためには、Niは0.2%以上含有させる必要がある。
一方、Niの含有量が1.4%を超えると焼入性が過剰となり、溶接金属が硬化するため、これを上限とする。
(Cr:0.1〜0.8%)
Crは、Ni同様、溶接金属部の耐候性を高める元素であり、経年においても溶接止端部の形状を維持し、疲労特性の低下を抑制することができる。また、Crは焼入性を向上させることで強度を高める。これら効果を得るためには、Crを0.1%以上含有させる必要がある。一方、0.8%を超えて過剰に含有させると、焼入性が過剰となり、溶接金属が硬化するため、これを上限とする。焼入性過剰を抑制するため、Crの上限を0.7%または0.5%としてもよい。
本発明のフラックス入りワイヤは、合金成分あるいは金属脱酸成分として以上の基本成分に加え、さらに、溶接する鋼板の強度レベルと靭性に応じて、Cu、Mo、V、Ti、Nb、Bの一種または二種以上を含有させることができる。
(Cu:0.1〜0.5%)
Cuは、ワイヤの外皮表面のめっき、および、フラックスに単体または合金として添加され、溶接金属の強度と靭性を向上させることができる。それらの効果を十分に得るためには、0.1%以上含有させることが好ましい。一方、含有量が0.5%を超えると靭性が低下する。そのため、Cuを含有させる場合の含有量は0.1〜0.5%とする。
なお、Cuの含有量については、外皮自体やフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面に銅めっきされる場合にはその分も含む。
(Mo:0.1〜0.8%)
Moは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.1%以上含有させるのがよい。一方で、0.8%を超えて過剰に含有させると、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Moを含有させる場合の含有量は、0.1〜0.8%とする。溶接金属の硬化を抑制し、靭性の劣化を抑制するためには、Moの上限を0.7%、0.6%または0.5%としてもよい。
(V:0.01〜0.04%)
Vは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.01%以上含有させるのがよい。一方で、0.04%を超えて過剰に含有させると炭化物が析出することで、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Vを含有させる場合の含有量は、0.01〜0.04%とする。
(Ti:0.01〜0.3%)
Tiは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。またAlと同様、脱酸元素として有効であり、溶接金属中のO量を低減させる効果がある。また、固溶Nを固定して靱性への悪影響を緩和するためにも有効である。これら効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させるのがよい。ただし、溶接ワイヤ中の含有量が0.3%を超えて過剰になると、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Tiを含有させる場合の含有量は、0.01〜0.3%とする。溶接金属の硬化を抑制し、靭性の劣化を抑制するためには、Tiの上限を0.2%、0.12%または、0.08%としてもよい。
(Nb:0.01〜0.1%)
Nbは微細炭化物を形成して、析出強化により引張強度確保に有効である。これらの効果を得るためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても0.01%以上含有させるのがよい。一方、0.1%を超えて含有させると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため好ましくない。このため、Nbを含有させる場合の含有量は0.01〜0.1%とする。また、Nbによる靱性劣化をより抑制するためにはNbの上限を0.05%、0.04%又は0.03%としてもよい。
(B:0.0003〜0.01%)
Bは、溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、固溶Nの靭性に対する悪影響を減じる効果があり、また、焼入性を高めて強度向上に寄与する効果もある。これらの効果を得るためには、溶接ワイヤ中のB含有量は0.0003%以上必要である。一方、含有量が0.01%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe23(C、B)6等のB化合物を形成して靭性を逆に劣化させるため、好ましくない。そこで、Bを含有させる場合の含有量は0.0003〜0.01%とする。また、Bによる靱性劣化をより抑制するためにはBの上限を0.008%、0.006%又は0.004%としてもよい。
本発明のフラックス入りワイヤでは、合金成分あるいは金属脱酸成分として以上のように各元素を含有するが、溶接部の疲労強度を確保するために、下記(a)式で定義される1/2倍のNiとCrの含有量の合計NC(NiまたはCrを含有しない場合は、0%として計算する。)が、0.1〜1.2%であり、且つNCが100倍のBiと下記(b)式の関係を満たすように調整する必要がある。
NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
100×[Bi]≧NC ・・・(b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
通常、鉄鋼構造物は溶接後に塗装を施してから使用することで、錆などによる経年劣化を防止するが、溶接止端部では、母材と溶接金属の不連続性から塗装が剥がれやすいため、腐食が発生しやすい。腐食が生じると、そこが応力集中部となり、疲労特性を低下させる。
これを防止するため、NiまたはCrを添加することで溶接金属の耐候性を高めることが有効である。耐候性を高めるには、NCで0.1%以上添加する。NCが1.2%を超えると溶接金属の焼入性が過剰になり、強度が高くなり過ぎるため、これを上限とする。
また、Ni、Crを含有すると溶接止端部に強固な酸化スケールが形成されるようになる。この酸化スケールは溶接止端部の形状を悪くするため、疲労特性を低下させる原因となる。Ni、Cr添加による耐候性を確保しつつ、酸化スケールによる溶接止端部形状の劣化を抑制するには、Biを100×[Bi]≧NCとなるように添加することが必要である。NCが100×[Bi]よりも高いと、この酸化スケールの発生を十分に抑制できないため、疲労特性は改善されない。
このような知見が得られた実験について図1に示す。
図1は、NCの値が異なる外は本発明の要件を満たすフラックス入りワイヤを試作し、そのワイヤを用いて後述の実施例と同様にして試験体を作成し、その試験体の疲労試験で得られた疲労強度とワイヤのNCとの関係を示したものである。図1より、NCが0.1〜1.2になるように添加し、かつ、100×[Bi]≧NCを満たすフラックス入りワイヤでは、疲労強度が160MPa以上得られていることが分かった。一方で100×[Bi]<NCのワイヤは、NCが0.1〜1.2%でも疲労強度はほとんど変化しない。
なお、以上の合金成分あるいは金属脱酸成分として含有される元素の含有量には、それらの元素が弗化物、金属酸化物、金属炭酸塩として含有される場合の含有量は含めない。
また、それらの元素は必ずしも純物質(不可避不純物の含有は可)である必要はなく、Cu−Ni等の合金の形態で含有されていても何ら問題はない。また、それらの元素は鋼製外皮中に含有されていても、フラックスとして含有されていても、その効果は同じであるため、鋼製外皮とフラックスの何れでも含有することが可能である。
続いて、ワイヤの鋼製外皮の内部に挿入されるフラックス成分について説明する。
(CaFを主成分とする金属弗化物:3.1〜6.5%)
本発明のフラックス入りワイヤでは、CaFを主成分とする金属弗化物を、合計量αで3.1〜6.5%ワイヤ中に添加する。金属弗化物として、CaFの他に、BaF、SrF、MgF、LiFのうちの1種または2種以上を必要に応じて添加することができる。その場合は、金属弗化物の合計量αに対するCaFの含有量[CaF]の比([CaF]/α)が0.90以上となるようにする。
CaF、またはCaFとBaF、SrF、MgF、LiFの1種または2種以上からなる金属弗化物をワイヤ中に上記のように含有させることで、溶融スラグの濡れ性が向上し、それに伴って溶接止端部の形状が滑らかになり、引張強さ490MPa以上の高強度鋼の溶接部の疲労特性を向上させることができる。また、金属弗化物は、溶接金属の拡散性水素量を低減することで、耐低温割れ性を改善し、高強度鋼のタック溶接のような低温割れが厳しい条件であっても、予熱を省略あるいは簡略化して溶接することを可能にする。
これらの効果を得るには、金属弗化物を3.1%以上含有させる必要がある。金属弗化物の含有量が3.1%未満では、十分な効果を得ることができず、また、6.5%を超えると、溶接ヒュームが過剰生成することでシールドガスによるシールド効果が低下し、大気が巻き込まれることや、スラグの過剰生成による巻き込みが発生するため、溶接作業性が著しく劣化し、好ましくない。
また、すみ肉溶接におけるアーク安定性確保やスパッタ抑制の観点から、金属弗化物中のCaFの含有量の比は0.90以上がよく、0.90未満では、アーク安定性が低下し、溶接止端部形状が劣化するため好ましくない。より疲労特性、耐低温割れ性を向上させるために金属弗化物の含有量の下限を3.6%又は4.1%としてもよく、溶接作業性の劣化を抑制するために、上限を6.2%、5.9%又は5.4%としてもよい。
金属弗化物が拡散性水素量を低減する作用をすることは、被覆アーク溶接棒などで知られているが、フラックス入りワイヤで拡散性水素の低減を詳細に検討した例は無く、本発明では、他のフラックス成分、溶接金属の機械特性、溶接作業性などを勘案して、拡散性水素を低減するのに最適な形態を見出した。金属弗化物が拡散性水素を低減する理由については、金属弗化物が溶接アークにより分解し、生成されたフッ素が水素と結合してHFガスとして大気中に散逸したか、あるいは、そのまま溶接金属中に水素がHFとして固定されたためと考えられる。
(金属酸化物:0.4〜1.4%)
本発明のフラックス入りワイヤでは、スラグ形成剤として、Ti酸化物(TiO)、Si酸化物(SiO)、Mg酸化物(MgO)、Al酸化物(Al)、Ca酸化物(CaO)のうち1種または2種以上からなる金属酸化物を添加する。これらは溶融スラグの濡れ性に影響を与え、ビード形状及び溶接止端部形状を良好に維持するために添加される。その適正な効果を得るためには、合計で0.4%以上添加する必要がある。しかし、金属酸化物の含有量が1.4%を超えて添加されると、ビード形状が凸状になり、それに伴って、溶接止端部形状も劣化する。
これら金属酸化物の含有量は、TiO、SiO、MgO、Al、CaOの合計量に加え、フラックスの造粒に使用されるバインダーなどに含まれる金属酸化物も合計した含有量とする。また、金属酸化物の添加によってビード形状が凸状になるのをより抑制するために、金属酸化物の含有量の上限を1.2%、1.0%としてもよい。
なお、本発明においては、金属酸化物としてCaOは添加しないことが好ましい。しかしながら、フラックスの原料にCaOが含有されている場合がある。その場合、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaOを0.20%未満に制限する。0.20%未満に制限すれば、本発明の効果は得られる。
CaOは、大気に触れることで、CaOHに変化するため、溶接金属の拡散性水素を増加させる。このような知見が得られた実験について図2に示す。
図2は、CaOの値が異なる外は本発明の要件を満たすフラックス入りワイヤを試作し、そのワイヤを用いて溶接を実施し、得られた溶接金属の拡散性水素量を後述の実施例と同様に測定して、ワイヤ中のCaO含有量と拡散性水素量との関係を示したものである。
図2から、CaOが増加するにつれて溶接金属の拡散性水素量が増加するが、0.20%まででは、1.5ml/100g以下が得られている。1.5ml/100g以下では、予熱作業を低減する効果が得られるため、CaOは0.20%未満とする。つまり、この範囲を満たすように、フラックスの原料を選定することが好ましい。
上記の金属弗化物と金属酸化物とのそれぞれの含有量に加え、質量%で表される金属酸化物の合計含有量βに対する金属弗化物の合計含有量αの比(α/β)の値が3.0以上15.0以下を満たすようにする必要がある。
α/βの値が3.0未満では、ビード形状が凸状になることで溶接部の疲労特性の向上効果が得られない。α/βの値が15.0を超えると、ビード形状が良好に維持できなくなる。必要に応じて、α/βの下限を3.5又は4.0としてもよく、その上限を14.0、13.0又は12.0としてもよい。
さらに、この比α/βの値を規制することは、拡散性水素を低減させる効果を得るためにも重要であり、上記の範囲であれば拡散性水素を低減する効果が得られる。
以上が本発明のフラックス入りワイヤの成分組成に関する限定理由であるが、その他の残部成分はFeと不可避的不純物である。Fe成分としては、鋼製外皮のFe、フラックス中に添加された鉄粉及び合金成分中のFeが含まれる。
以上の他、必要に応じてNa、Kの酸化物や弗化物(NaO、NaF、KO、KF、KSiF、KZrF)をアーク安定剤としてさらに含有させてもよい。なお、ここで例示した酸化物、弗化物は、上記の金属酸化物、金属弗化物には含めない。
続いて、フラックス入りワイヤの形態について説明する。
フラックス入りワイヤには、図5(a)に示すような鋼製外皮にスリット状の隙間が無いシームレスワイヤと、図5(b)、(c)に示すような鋼製外皮にスリット状の隙間が有るシームを有するワイヤとに大別できる。
本発明ではいずれの断面構造も採用することができるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、鋼製外皮にスリット状の隙間が無いワイヤ(シームレスワイヤ)とすることが好ましい。
また、溶接時のワイヤの送給性を向上させるために、ワイヤ表面に潤滑剤を塗布することができる。溶接ワイヤ用の潤滑剤としては、様々な種類のものを使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、パーフルオロポリエーテル油(PFPE油)を使用することが好ましい。
溶接部に侵入する水素は、溶接金属内及び鋼材側に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。この水素源は溶接材料が保有する水分、大気から混入する水分、鋼表面に付着した錆びやスケール等が上げられるが、十分に溶接部の清浄性、ガスシールドの条件が管理された溶接の下では、ワイヤ中に主として水分で含有される水素が、溶接継手の拡散性水素の主要因となる。
このため、鋼製外皮をスリット状の隙間が無い(シームレス)管とし、ワイヤ製造後から使用するまでの間に、鋼製外皮からフラックスへの大気中の水素の侵入を抑制することが望ましい。
鋼製外皮にスリット状の隙間(シーム)を有する管とした場合には、大気中の水分は外皮の隙間部からフラックス中に侵入しやすく、そのままでは、水分等の水素源の侵入を防止することはできないので、製造後使用するまでの期間が長い場合には、大気中から水素等の水素源が侵入し、溶接金属の水素量を増加させる可能性がある。これを防ぐには、ワイヤ全体を真空包装するか、乾燥した状態に保持できる容器内で保存する、あるいは、ろう付けなどの方法で隙間を埋めるなどの水素源侵入防止策をとることが望ましい。
以上のように構成される本発明のフラックス入りワイヤは、通常のフラックス入りワイヤの製造工程によって製造することができる。
すなわち、まず、外皮となる鋼帯、及び、金属弗化物、合金成分、金属酸化物、金属炭酸塩及びアーク安定剤が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備し、鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とし、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合せシーム溶接し、溶接により得られた継目無し管を伸線し、伸線途中あるいは伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有し、鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたスリット状の隙間が無い(シームレス)ワイヤを得る。また、シームを有するワイヤは、オープン管の開口部からフラックスを供給した後、シーム溶接をしないスリット状の隙間が有る管とし、それを伸線することで得られる。
突合せシーム溶接されて作ったスリット状の隙間が無いワイヤを切断した断面は、図5(a)のように見える。この断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、上記のようにシームレスと呼ぶことがある。例えば、溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、シームレスタイプと記載されている。
図5(b)にエッジ面を突き合わせた例を、図5(c)にエッジ面をかしめた例を示すが、図5(b)のように突合せてから、ろう付けしたり、図5(c)のようにかしめてから、ろう付けしたりしても、スリット状の隙間が無いワイヤが得られる。また、図5(b)、(c)において、ろう付けせず、そのままのワイヤは、スリット状の隙間が有るワイヤとなる。
本発明のフラックス入りワイヤは、溶接法がガスシールドアーク溶接であり、板厚6mm以上の厚板において、引張強度が540MPa〜690MPa級の高強度鋼板のすみ肉溶接、及び、タック溶接などに使用するのに適している。
シールドガスの条件としては、特に限定はしないが、Arと5〜30vol%CO2の混合ガスが好ましい。また、スパッタは増加するが100vol%の炭酸ガスを使用しても本発明の効果は得られる。
次に、実施例により本発明の実施可能性及び効果についてさらに詳細に説明する。
鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形し、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合わせシーム溶接することで、スリット状の隙間が無い管とし、造管したワイヤの伸線作業の途中で焼鈍を加え、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。試作後、ワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。また、一部は、シーム溶接をしない、スリット状の隙間が有る管とし、それを伸線することで、ワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。スリット状の隙間が有るワイヤの場合、溶接施工するまで、ワイヤ全体を真空包装して乾燥した状態に保持できる容器内で保存した。
試作したフラックス入りワイヤの成分組成を[表1−1、2]、[表2−1、2]に示す。
なお、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物には、それぞれTiO、SiO、MgO、Alを使用した。
このフラックス入りワイヤを用いて、JIS Z3111(2005年)に準拠して溶接金属の機械特性を評価した。すなわち、図3に示すような要領とした。板厚が20mmの鋼板1をルートギャップ16mm、開先角度20°で突き合わせ、裏当金2を用いて、1及び2層目は1又は2パス、3層目から最終層までは2又は3パスで溶接を行い、試験体を作成した。溶接条件を[表3−1、2]に示す。なお、鋼板1及び裏当金2にはSM490Aを使用したが、鋼板1の開先面及び裏当金2の表面には、試験を行うフラックス入りワイヤを用いて2層以上、かつ3mm以上のバタリングを実施して使用した。
作成した試験体から、図3に示すように、機械試験片としてJIS Z3111(2005年)に準拠したA0号引張り試験片(丸棒)(径=10mm)5とシャルピー試験片(2mmVノッチ)4を採取し、それぞれの機械特性試験を行って、溶接金属の降伏強度、引張強度及びシャルピー吸収エネルギーを測定した。得られた機械特性の測定結果と評価結果を[表4−1、2]に示す。
機械特性の評価は、引張強度が570〜780MPa、且つ靭性が、−40℃でのシャルピー衝撃試験で、吸収エネルギーが47J以上であるものを合格とした。
次に、表4の評価結果で引張強度、シャルピー吸収エネルギーの両方が合格であったフラックス入りワイヤについて疲労特性を評価した。試験に使用した高強度鋼は、溶接構造用高張力鋼板WEL−TEN540(記号:P1)、WEL−TEN590(記号:P2)、WEL−TEN690(記号:P3)(商品名:新日鐵住金株式会社製)の板厚が20mmのものを使用した。[表5]に鋼板の成分及び機械特性を示す。
鋼板の強度レベルに応じて、表1、表2に示すフラックス入りワイヤを用いて、図4に示す荷重非伝達型の十字溶接継手試験体を溶接して作製した。使用したフラックス入りワイヤ、鋼板、溶接条件を[表6−1、2]に示す。
得られた十字溶接継手試験体について溶接部は溶接ままの状態で疲労試験を実施した。疲労試験は、応力比を0.1、周波数10Hzの条件にて実施し、2×10回以上の繰り返しで破断しない応力範囲を疲労強度として評価した。この試験において溶接止端部をグラインダー処理したものと同程度に優れた疲労特性が得られる160MPa以上の疲労強度を合格とした。
次に表4の評価結果で引張強度、シャルピー吸収エネルギー、疲労強度の全てが合格であったフラックス入りワイヤについて、耐低温割れ性を評価した。耐低温割れ性の評価は、拡散性水素量の測定とy形溶接割れ試験にて評価した。
拡散性水素量の測定は、機械特性試験と同じ溶接条件でJIS Z 3118(鋼溶接部の水素量測定方法)に準拠したガスクロマトグラフ法にて実施した。拡散性測定の結果を[表4−1、2]に示す。
y形溶接割れ試験は、温度0℃−湿度60%の一定雰囲気管理下において、溶接構造用高張力鋼板WEL−TEN690(商品名:新日鐵住金株式会社製)の板厚60mmの鋼板(記号:P4)を用いて、[表3]の溶接条件でJIS Z 3158(y形溶接割れ試験)に準拠した方法で実施した。
得られたy形溶接割れ試験結果を[表4−1、2]に示す。拡散性水素が1.5ml/ml未満のものは温度が0℃と非常に低温、且つ予熱無しの条件でもy形溶接割れ試験のすべての断面において、断面割れ無し(断面割れが発生していないこと)であり、極めて高い耐低温割れ性が証明された。
この試験に使用した試験体の板厚は厚く、予熱が無いため冷却速度が極めて速く、また拘束力も高いことから、タック溶接並みの厳しい条件となっている。従って、この試験において予熱無しでも割れが発生しなかったことは、タック溶接においても予熱無しでも低温割れが抑制可能であることを示している。
[表4−1、2]の試験結果に示されるように、本発明例であるワイヤ番号A1〜A32は、強度、靭性、疲労強度、耐低温割れ性のすべてが優れ、合格であった。
一方、比較例であるワイヤ番号B1〜B34は、本発明で規定する要件を満たしていないため、強度、靭性、疲労強度、耐低温割れ性を一項以上満足できず、総合判定で不合格となった。
490MPa超の高強度鋼の溶接に際し、本発明のフラックス入りワイヤを用いることにより、疲労強度に優れる溶接部が得られることで、疲労設計の構造物であっても高強度鋼を適用することで構造物の軽量化が可能となり、さらに本発明のワイヤは、耐低温割れ性にも優れ、高強度鋼であっても低温割れを抑制するための予熱作業が不要、または、予熱作業を著しく低減することができるので、溶接施工能率を著しく向上させることができ、産業界における価値はきわめて高い。
1 鋼板
2 裏当金
3 溶接ビード
4 2mmVノッチシャルピー衝撃試験片
5 丸棒引張り試験片

Claims (5)

  1. 鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
    前記ワイヤ中に、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaF、BaF、SrF、MgF、LiFのうち1種または2種以上を合計量αとして3.1〜6.5%、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Ca酸化物のうち1種または2種以上を合計量βとして0.4〜1.4%含有し、
    かつ、前記合計量αに対する前記CaFの含有量の比が0.90以上であり、前記Ca酸化物の含有量が0.2%未満であり、さらに、前記合計量βに対する前記合計量αの比が3.0以上15.0以下であるように含有し、
    合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.3〜1.0%、
    Mn:1.8〜3.0%、
    P:0.02%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.003〜0.05%、
    Bi:0.004〜0.030%
    を含有し、さらに、
    Ni:0.2〜1.4%
    Cr:0.1〜0.8%、
    のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の(a)式で定義されるNCが0.1〜1.2%であり、かつ下記の(b)式の関係を満たすことを特徴とするフラックス入りワイヤ。
    NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
    100×[Bi]≧NC ・・・(b)
    但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
  2. 前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、
    Cu:0.1〜0.5%、
    Mo:0.1〜0.8%、
    V:0.01〜0.04%、
    Ti:0.01〜0.3%、
    Nb:0.01〜0.1%、
    B:0.0003〜0.01%
    のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
  3. 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス入りワイヤ。
  4. 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス入りワイヤ。
  5. 前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
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