JP6265051B2 - 溶接継手部の疲労強度と耐低温割れ性に優れるフラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
しかし、高強度鋼に対する使用の要求は高くなっているにも関わらず、使用されている鋼材は、引張強さが490MPa程度の汎用鋼が大半を占めている。
特許文献1では、Si、Sなどを添加することで溶融金属の濡れ性を向上させ、溶接ビードの止端部形状を改善し、疲労強度を向上させるワイヤが提案されている。しかし、Si、Sの添加は、溶接金属の耐溶接割れ性を低下させる問題があるが、それに対する検討は十分にされていない。
特許文献3では、490〜780MPa級高張力鋼用のフラックス入りワイヤについて、Vの添加量を最適化し、Vに拡散性水素を吸蔵させることで耐低温割れ性を改善し、溶接割れ停止予熱温度を50℃以下としたワイヤを提案している。このワイヤは、弗化物をスラグ剤として添加しているが、耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響については特に検討されておらず、さらに、高強度鋼のすみ肉溶接部の疲労特性についても何ら検討されていない。
特許文献4〜6では、弗化物はプライマ塗装鋼板のすみ肉溶接の際に溶融スラグの粘性を下げることで、プライマ熱分解ガスの放出を容易にし、ピット、ガス溝の発生を抑制する目的や、溶接金属の酸素量を低減することで高靭性の溶接金属を得る目的で用いられているが、弗化物の疲労特性に及ぼす影響については全く検討されておらず、耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響についても十分な検討がなされていない。
前記のように、弗化物を添加したワイヤを、張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接に使用できるようにするためには、溶接金属の疲労特性や耐低温割れ性に及ぼす弗化物の影響についてもさらに検討することが必要である。
また、フラックスとして弗化物とともに添加される金属酸化物を適切に含有させることにより、溶接金属の拡散性水素を大幅に低減することができることを見出した。
そのようになされた本発明の要旨は次のとおりである。
前記ワイヤ中に、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaF2、BaF2、SrF2、MgF2、LiFのうち1種または2種以上を合計量αとして3.1〜6.5%、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Ca酸化物のうち1種または2種以上を合計量βとして0.4〜1.4%含有し、
かつ、前記合計量αに対する前記CaF2の含有量の比が0.90以上であり、前記Ca酸化物の含有量が0.2%未満であり、さらに、前記合計量βに対する前記合計量αの比が3.0以上15.0以下であるように含有し、
合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.3〜1.0%、
Mn:1.8〜3.0%、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.003〜0.05%、
Bi:0.004〜0.030%
を含有し、さらに、
Ni:0.2〜1.4%
Cr:0.1〜0.8%、
のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の(a)式で定義されるNCが0.1〜1.2%であり、かつ下記の(b)式の関係を満たすことを特徴とするフラックス入りワイヤ。
NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
100×[Bi]≧NC ・・・(b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
Cu:0.1〜0.5%、
Mo:0.1〜0.8%、
V:0.01〜0.04%、
Ti:0.01〜0.3%、
Nb:0.01〜0.1%、
B:0.0003〜0.01%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載のフラックス入りワイヤ。
(4) 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のフラックス入りワイヤ。
(5) 前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のフラックス入りワイヤ。
すなわち、フラックス入りワイヤとして、CaF2、金属酸化物を含有し、さらにBiを含有させることによって溶融金属と母材との濡れ性を改善し、疲労特性を向上させ、さらに合金成分として、Ni、Crを適量含有することで疲労特性を確保させたフラックス入りワイヤであって、CaF2、Bi及び合金元素の含有量を種々の割合で変化させ、このワイヤを用いて、490MPa超の高強度鋼のすみ肉溶接及びタック溶接を実施した。
先ず、本発明のフラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮およびフラックス中に含有される合金成分、金属脱酸成分および各成分の含有量の限定理由について説明する。
以下の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する鋼製外皮およびフラックス中の各成分の質量%の合計となる成分含有量を意味するものとする。
Cは、強度を向上させる元素であり、溶接する鋼板の強度レベルに応じて含有させる必要がある。引張強さ490MPa超の高強度鋼の溶接部の強度を確保するためには、Cを0.03%以上含有させる必要がある。
溶接ワイヤ中のC含有量は多いほど溶接金属中のC含有量も増加し、溶接金属の強度を高めるので好ましい。しかし、多くなり過ぎると溶接部が母材に対して過剰に硬化し、靭性を低下させるのに加え、タック溶接部のような冷却速度が速くなるところでは、著しく硬化するため、低温割れ感受性が高まる。従って、靭性、耐低温割れ性を確保するために、C含有量の上限を0.10%とする。また、安定して靭性を確保するためには、Cの上限を0.085%、0.08%又は0.075%としてもよい。
Siは、溶融金属の濡れ性を高めることで疲労特性の改善に効果があり、さらにSiは脱酸元素であり、溶接金属のO量を低減して清浄度を高める。これらの効果を得るには、0.3%以上の含有が必要である。ただし、高強度鋼の溶接部においては、1.0%を超えて含有させると靱性を劣化させるため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Siの上限は、0.8%、0.7%又は、0.6%としてもよい。
Mnは、溶接金属の焼入性を確保して強度を高めるために必要な元素である。その効果を確実に発揮するためには、1.8%以上含有させる必要がある。一方、3.0%を超えて含有させると、焼入性が過剰になることで、耐低温割れ性、靭性が劣化するため、これを上限とする。また、耐低温割れ性、靭性の劣化をより抑えるためには、Mnの上限を2.8%、2.6%、2.4%としてもよい。
Pは不純物元素であり、耐溶接割れ性、及び靱性を劣化させるため極力低減する必要があるが、これら悪影響が許容できる範囲として、P含有量は0.02%以下とする。
(S:0.02%以下)
Sは、不純物元素であるが、溶融金属の濡れ性を向上させ、溶接ビード止端部の形状を滑らかにすることで疲労強度を向上させる目的で使用されることがある。しかし、Sが溶接金属中に過剰に存在すると耐溶接割れ性と靱性を著しく劣化させるため、極力低減することが好ましい。耐溶接割れ性、靱性への悪影響が許容できる範囲として、S含有量は0.02%以下とする。
Alは脱酸元素であり、Siと同様、溶接金属中のO低減、清浄度向上に効果があり、その効果を発揮するために0.003%以上含有させる。一方、0.05%を超えて含有させると、窒化物や酸化物を形成して、溶接金属の靱性を阻害するため、これを上限とする。また、溶接金属の靭性を向上する効果を十分に得るには、Alの下限を0.004%又は0.005%としてもよく、また、粗大酸化物の生成抑制のため、Alの上限を、0.04%、0.03%又は、0.025%としてもよい。
Biは弗化物が主体となる溶融スラグにおいて、溶融スラグの粘性を最適にし、また、溶接止端部に発生しやすい強固な酸化スケールの発生を抑制することで、溶接止端部形状を滑らかにし、溶接部の疲労特性の向上に効果がある。その効果を得るためには、Biを0.004%以上含有させる必要がある。一方、0.030%を超えて含有させると、溶接金属内に高温割れが発生するようになるため、これを上限とする。
(Ni:0.2〜1.4%)
Niは、溶接金属部の耐候性を高める元素であり、経年においても溶接止端部の形状を維持し、疲労特性の低下を抑制することができる。また、Niは焼入性を向上させることで強度を高め、さらに固溶靭化により靭性を向上させる。これら効果を得るためには、Niは0.2%以上含有させる必要がある。
一方、Niの含有量が1.4%を超えると焼入性が過剰となり、溶接金属が硬化するため、これを上限とする。
Crは、Ni同様、溶接金属部の耐候性を高める元素であり、経年においても溶接止端部の形状を維持し、疲労特性の低下を抑制することができる。また、Crは焼入性を向上させることで強度を高める。これら効果を得るためには、Crを0.1%以上含有させる必要がある。一方、0.8%を超えて過剰に含有させると、焼入性が過剰となり、溶接金属が硬化するため、これを上限とする。焼入性過剰を抑制するため、Crの上限を0.7%または0.5%としてもよい。
Cuは、ワイヤの外皮表面のめっき、および、フラックスに単体または合金として添加され、溶接金属の強度と靭性を向上させることができる。それらの効果を十分に得るためには、0.1%以上含有させることが好ましい。一方、含有量が0.5%を超えると靭性が低下する。そのため、Cuを含有させる場合の含有量は0.1〜0.5%とする。
なお、Cuの含有量については、外皮自体やフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面に銅めっきされる場合にはその分も含む。
Moは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.1%以上含有させるのがよい。一方で、0.8%を超えて過剰に含有させると、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Moを含有させる場合の含有量は、0.1〜0.8%とする。溶接金属の硬化を抑制し、靭性の劣化を抑制するためには、Moの上限を0.7%、0.6%または0.5%としてもよい。
Vは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.01%以上含有させるのがよい。一方で、0.04%を超えて過剰に含有させると炭化物が析出することで、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Vを含有させる場合の含有量は、0.01〜0.04%とする。
Tiは、焼入性を高めることで高強度化に有効な元素である。またAlと同様、脱酸元素として有効であり、溶接金属中のO量を低減させる効果がある。また、固溶Nを固定して靱性への悪影響を緩和するためにも有効である。これら効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させるのがよい。ただし、溶接ワイヤ中の含有量が0.3%を超えて過剰になると、溶接金属が硬化し、靭性を劣化させるため、Tiを含有させる場合の含有量は、0.01〜0.3%とする。溶接金属の硬化を抑制し、靭性の劣化を抑制するためには、Tiの上限を0.2%、0.12%または、0.08%としてもよい。
Nbは微細炭化物を形成して、析出強化により引張強度確保に有効である。これらの効果を得るためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても0.01%以上含有させるのがよい。一方、0.1%を超えて含有させると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため好ましくない。このため、Nbを含有させる場合の含有量は0.01〜0.1%とする。また、Nbによる靱性劣化をより抑制するためにはNbの上限を0.05%、0.04%又は0.03%としてもよい。
Bは、溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、固溶Nの靭性に対する悪影響を減じる効果があり、また、焼入性を高めて強度向上に寄与する効果もある。これらの効果を得るためには、溶接ワイヤ中のB含有量は0.0003%以上必要である。一方、含有量が0.01%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe23(C、B)6等のB化合物を形成して靭性を逆に劣化させるため、好ましくない。そこで、Bを含有させる場合の含有量は0.0003〜0.01%とする。また、Bによる靱性劣化をより抑制するためにはBの上限を0.008%、0.006%又は0.004%としてもよい。
NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
100×[Bi]≧NC ・・・(b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
これを防止するため、NiまたはCrを添加することで溶接金属の耐候性を高めることが有効である。耐候性を高めるには、NCで0.1%以上添加する。NCが1.2%を超えると溶接金属の焼入性が過剰になり、強度が高くなり過ぎるため、これを上限とする。
図1は、NCの値が異なる外は本発明の要件を満たすフラックス入りワイヤを試作し、そのワイヤを用いて後述の実施例と同様にして試験体を作成し、その試験体の疲労試験で得られた疲労強度とワイヤのNCとの関係を示したものである。図1より、NCが0.1〜1.2になるように添加し、かつ、100×[Bi]≧NCを満たすフラックス入りワイヤでは、疲労強度が160MPa以上得られていることが分かった。一方で100×[Bi]<NCのワイヤは、NCが0.1〜1.2%でも疲労強度はほとんど変化しない。
また、それらの元素は必ずしも純物質(不可避不純物の含有は可)である必要はなく、Cu−Ni等の合金の形態で含有されていても何ら問題はない。また、それらの元素は鋼製外皮中に含有されていても、フラックスとして含有されていても、その効果は同じであるため、鋼製外皮とフラックスの何れでも含有することが可能である。
(CaF2を主成分とする金属弗化物:3.1〜6.5%)
本発明のフラックス入りワイヤでは、CaF2を主成分とする金属弗化物を、合計量αで3.1〜6.5%ワイヤ中に添加する。金属弗化物として、CaF2の他に、BaF2、SrF2、MgF2、LiFのうちの1種または2種以上を必要に応じて添加することができる。その場合は、金属弗化物の合計量αに対するCaF2の含有量[CaF2]の比([CaF2]/α)が0.90以上となるようにする。
また、すみ肉溶接におけるアーク安定性確保やスパッタ抑制の観点から、金属弗化物中のCaF2の含有量の比は0.90以上がよく、0.90未満では、アーク安定性が低下し、溶接止端部形状が劣化するため好ましくない。より疲労特性、耐低温割れ性を向上させるために金属弗化物の含有量の下限を3.6%又は4.1%としてもよく、溶接作業性の劣化を抑制するために、上限を6.2%、5.9%又は5.4%としてもよい。
本発明のフラックス入りワイヤでは、スラグ形成剤として、Ti酸化物(TiO2)、Si酸化物(SiO2)、Mg酸化物(MgO)、Al酸化物(Al2O3)、Ca酸化物(CaO)のうち1種または2種以上からなる金属酸化物を添加する。これらは溶融スラグの濡れ性に影響を与え、ビード形状及び溶接止端部形状を良好に維持するために添加される。その適正な効果を得るためには、合計で0.4%以上添加する必要がある。しかし、金属酸化物の含有量が1.4%を超えて添加されると、ビード形状が凸状になり、それに伴って、溶接止端部形状も劣化する。
CaOは、大気に触れることで、CaOHに変化するため、溶接金属の拡散性水素を増加させる。このような知見が得られた実験について図2に示す。
図2から、CaOが増加するにつれて溶接金属の拡散性水素量が増加するが、0.20%まででは、1.5ml/100g以下が得られている。1.5ml/100g以下では、予熱作業を低減する効果が得られるため、CaOは0.20%未満とする。つまり、この範囲を満たすように、フラックスの原料を選定することが好ましい。
α/βの値が3.0未満では、ビード形状が凸状になることで溶接部の疲労特性の向上効果が得られない。α/βの値が15.0を超えると、ビード形状が良好に維持できなくなる。必要に応じて、α/βの下限を3.5又は4.0としてもよく、その上限を14.0、13.0又は12.0としてもよい。
さらに、この比α/βの値を規制することは、拡散性水素を低減させる効果を得るためにも重要であり、上記の範囲であれば拡散性水素を低減する効果が得られる。
以上の他、必要に応じてNa、Kの酸化物や弗化物(Na2O、NaF、K2O、KF、K2SiF6、K2ZrF6)をアーク安定剤としてさらに含有させてもよい。なお、ここで例示した酸化物、弗化物は、上記の金属酸化物、金属弗化物には含めない。
フラックス入りワイヤには、図5(a)に示すような鋼製外皮にスリット状の隙間が無いシームレスワイヤと、図5(b)、(c)に示すような鋼製外皮にスリット状の隙間が有るシームを有するワイヤとに大別できる。
本発明ではいずれの断面構造も採用することができるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、鋼製外皮にスリット状の隙間が無いワイヤ(シームレスワイヤ)とすることが好ましい。
また、溶接時のワイヤの送給性を向上させるために、ワイヤ表面に潤滑剤を塗布することができる。溶接ワイヤ用の潤滑剤としては、様々な種類のものを使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、パーフルオロポリエーテル油(PFPE油)を使用することが好ましい。
このため、鋼製外皮をスリット状の隙間が無い(シームレス)管とし、ワイヤ製造後から使用するまでの間に、鋼製外皮からフラックスへの大気中の水素の侵入を抑制することが望ましい。
鋼製外皮にスリット状の隙間(シーム)を有する管とした場合には、大気中の水分は外皮の隙間部からフラックス中に侵入しやすく、そのままでは、水分等の水素源の侵入を防止することはできないので、製造後使用するまでの期間が長い場合には、大気中から水素等の水素源が侵入し、溶接金属の水素量を増加させる可能性がある。これを防ぐには、ワイヤ全体を真空包装するか、乾燥した状態に保持できる容器内で保存する、あるいは、ろう付けなどの方法で隙間を埋めるなどの水素源侵入防止策をとることが望ましい。
すなわち、まず、外皮となる鋼帯、及び、金属弗化物、合金成分、金属酸化物、金属炭酸塩及びアーク安定剤が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備し、鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とし、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合せシーム溶接し、溶接により得られた継目無し管を伸線し、伸線途中あるいは伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有し、鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたスリット状の隙間が無い(シームレス)ワイヤを得る。また、シームを有するワイヤは、オープン管の開口部からフラックスを供給した後、シーム溶接をしないスリット状の隙間が有る管とし、それを伸線することで得られる。
図5(b)にエッジ面を突き合わせた例を、図5(c)にエッジ面をかしめた例を示すが、図5(b)のように突合せてから、ろう付けしたり、図5(c)のようにかしめてから、ろう付けしたりしても、スリット状の隙間が無いワイヤが得られる。また、図5(b)、(c)において、ろう付けせず、そのままのワイヤは、スリット状の隙間が有るワイヤとなる。
シールドガスの条件としては、特に限定はしないが、Arと5〜30vol%CO2の混合ガスが好ましい。また、スパッタは増加するが100vol%の炭酸ガスを使用しても本発明の効果は得られる。
鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形し、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合わせシーム溶接することで、スリット状の隙間が無い管とし、造管したワイヤの伸線作業の途中で焼鈍を加え、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。試作後、ワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。また、一部は、シーム溶接をしない、スリット状の隙間が有る管とし、それを伸線することで、ワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。スリット状の隙間が有るワイヤの場合、溶接施工するまで、ワイヤ全体を真空包装して乾燥した状態に保持できる容器内で保存した。
試作したフラックス入りワイヤの成分組成を[表1−1、2]、[表2−1、2]に示す。
なお、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物には、それぞれTiO2、SiO2、MgO、Al2O3を使用した。
機械特性の評価は、引張強度が570〜780MPa、且つ靭性が、−40℃でのシャルピー衝撃試験で、吸収エネルギーが47J以上であるものを合格とした。
鋼板の強度レベルに応じて、表1、表2に示すフラックス入りワイヤを用いて、図4に示す荷重非伝達型の十字溶接継手試験体を溶接して作製した。使用したフラックス入りワイヤ、鋼板、溶接条件を[表6−1、2]に示す。
得られたy形溶接割れ試験結果を[表4−1、2]に示す。拡散性水素が1.5ml/ml未満のものは温度が0℃と非常に低温、且つ予熱無しの条件でもy形溶接割れ試験のすべての断面において、断面割れ無し(断面割れが発生していないこと)であり、極めて高い耐低温割れ性が証明された。
この試験に使用した試験体の板厚は厚く、予熱が無いため冷却速度が極めて速く、また拘束力も高いことから、タック溶接並みの厳しい条件となっている。従って、この試験において予熱無しでも割れが発生しなかったことは、タック溶接においても予熱無しでも低温割れが抑制可能であることを示している。
一方、比較例であるワイヤ番号B1〜B34は、本発明で規定する要件を満たしていないため、強度、靭性、疲労強度、耐低温割れ性を一項以上満足できず、総合判定で不合格となった。
2 裏当金
3 溶接ビード
4 2mmVノッチシャルピー衝撃試験片
5 丸棒引張り試験片
Claims (5)
- 鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
前記ワイヤ中に、ワイヤ全質量に対する質量%で、CaF2、BaF2、SrF2、MgF2、LiFのうち1種または2種以上を合計量αとして3.1〜6.5%、Ti酸化物、Si酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Ca酸化物のうち1種または2種以上を合計量βとして0.4〜1.4%含有し、
かつ、前記合計量αに対する前記CaF2の含有量の比が0.90以上であり、前記Ca酸化物の含有量が0.2%未満であり、さらに、前記合計量βに対する前記合計量αの比が3.0以上15.0以下であるように含有し、
合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.3〜1.0%、
Mn:1.8〜3.0%、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.003〜0.05%、
Bi:0.004〜0.030%
を含有し、さらに、
Ni:0.2〜1.4%
Cr:0.1〜0.8%、
のうちの1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の(a)式で定義されるNCが0.1〜1.2%であり、かつ下記の(b)式の関係を満たすことを特徴とするフラックス入りワイヤ。
NC=[Ni]/2+[Cr] ・・・(a)
100×[Bi]≧NC ・・・(b)
但し、[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。 - 前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、
Cu:0.1〜0.5%、
Mo:0.1〜0.8%、
V:0.01〜0.04%、
Ti:0.01〜0.3%、
Nb:0.01〜0.1%、
B:0.0003〜0.01%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。 - 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス入りワイヤ。
- 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が有ることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス入りワイヤ。
- 前記鋼製外皮の表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
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