JP6263950B2 - 電気−機械変換素子とその製造方法及び電気−機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ並びに画像形成装置 - Google Patents
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Description
液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室、(インク流路、加圧液室、吐出室、液室等とも称される。)と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子などの電気−機械変換素子、或いはヒータなどの電気−熱変換素子、若しくはインク流路の壁面を形成する振動板とこれに対向する電極からなるエネルギー発生手段とを備えて、エネルギー発生手段で発生したエネルギーで加圧室内インクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。圧電式(ピエゾ式)の液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッドとも称される。)には、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、ベンドモードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が既に知られている。また、後者のベンドモード圧電素子のアクチュエータを更に薄膜化した薄膜ピエゾアクチュエータは、その圧電体(ピエゾ)の結晶配向を(100)に制御することによりアクチュエータの変位特性を改善できることが既に知られており、配向を制御する技術について各種研究が行われている。
しかし、圧電素子、キャパシタ、半導体素子などの作製において白金などの電極上に強誘電体薄膜を形成する場合、ヒロック(微小な突起)が発生し、圧電特性や強誘電体としての特性が低下するという問題があり、その抑制方法や対処方法が種々提案されている(例えば、特許文献8〜特許文献15参照。)。
なお、バッファ層は、TiOxなどの金属酸化物層から構成され、配向面方位の異なる下部電極[白金電極:面方位(111)]の影響を回避して電気−機械変換膜(PZT)の結晶成長[面方位(100)]を妨げないような役割を担う。バッファ層としてはPZTの(100)結晶成長を助長する、所謂シード層としての役割を担うものが好ましい。
前述のように、良好な圧電特性を得るために圧電体の結晶配向、結晶形状を制御する方法が提案されている。例えば、特許文献2(特開平11−191646号公報)では、上部電極と下部電極間に多結晶体からなる圧電体薄膜を挟持し、下部電極の結晶粒界に圧電体の結晶の核となるチタンを島状に形成した構成により圧電特性の向上を図っている。
しかし、下部電極(例えば、白金電極)上に結晶源(Ti)を薄層(40〜60Å)形成するのみでは、Tiが下部電極に拡散し、Tiを薄層形成(酸化処理)する際に白金電極にヒロックが発生する問題がある。すなわち、結晶源(Ti→TiOx)を島状に形成した下部電極上に圧電体薄膜を形成する際に圧電特性の劣化が避けられない。電気−機械変換素子が十分な圧電定数を持っていない場合、液滴吐出ヘッドにおいて要求される吐出特性が満足できないといった問題が起こる。
つまり、電気−機械変換膜(PZT)を圧電特性に優れる面方位(100)の配向膜とするために、下部電極(Pt)上にチタン層(Ti層)を成膜し、かつTi層の電気−機械変換膜(PZT)中への拡散を防止するべく前記Ti層を熱処理(酸化処理)して金属酸化物層(TiOx)とするのが好ましい構成であるが、従来このようなTi層の酸化処理による金属酸化物層形成工程で下部電極上に微細な突起、すなわちヒロックが発生する問題があった。下部電極上にヒロックが発生している例を図1のSEM写真に示す。
下部電極にヒロックが存在すると、電圧印加時に電界の局所的集中が起こり絶縁破壊(耐圧性の低下)が起きたり、電流リーク量が増大(リーク電流の増加)したり、下部電極上部に成膜される各種層(例えば後述の、絶縁保護膜など)を貫通するなどして信頼性に悪影響を与えるという問題があった。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、振動板上に、下部電極と、電気−機械変換膜と、上部電極とを備え、前記下部電極上に金属酸化物層を有する電気−機械変換素子において、金属酸化物層の形成時に酸化処理が施されても下部電極上でのヒロックの発生が抑制され、耐圧性の低下やリーク電流の増加がなく、圧電特性の優れた電気−機械変換素子を提供することを目的とする。
問題解決のため、下部電極(Pt膜)の成膜温度を単に高める(例えば、500℃)ことで、Pt膜中の残留応力を減らしたが、このような方法では下部電極上に形成する電気−機械変換膜(PZT)の面方位(100)の結晶性が低下して圧電特性が低減してしまった。
一方、Pt膜[面方位が(111)]表面に、金属酸化物層とするためのTi層を成膜する前に、該Pt膜を急速加熱処理(RTA処理とも称する。)を施して残留応力を減らすことにより、ヒロックフリーで同時に良好な圧電特性を持つ電気−機械変換素子が得られることを見出して本発明に至った。急速加熱処理(RTA処理とも称する。)により、Pt膜の優先配向面方位(111)に由来するX線回折ピーク位置2θが、残留応力に伴う歪がないPt本来の40°近傍に回復する(本発明においては39.90°〜40.10°が好ましい)。
すなわち、上記課題は、振動板上に、下部電極と、電気−機械変換膜と、上部電極とを備え、前記下部電極上に金属酸化物層を有する電気−機械変換素子であって、
前記下部電極は成膜後に急速加熱処理(RTA処理)が施された白金膜からなり、該下部電極の優先配向面方位が(111)であり、その(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θが39.90°〜40.10°の範囲であると共に、
前記電気−機械変換膜がPZTからなり、該PZTの面方位(100)の配向率が70%以上であり、かつPZTの面方位(200)/(002)におけるロッキングカーブの半値幅が10°以下であることを特徴とする電気−機械変換素子により解決される。
前記下部電極は成膜後に急速加熱処理(RTA処理)が施された白金膜からなり、該下部電極の優先配向面方位が(111)であり、その(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θが39.90°〜40.10°の範囲であると共に、
前記電気−機械変換膜がジルコン酸チタン酸鉛(PZT)からなり、該PZTの面方位(100)の配向率が70%以上であり、かつPZTの面方位(200)/(002)におけるロッキングカーブの半値幅が10°以下であることを特徴とするものである。
PZTの面方位が(100)に優先配向した電気−機械変換素子とすれば、セラミック焼結体と同等の圧電定数(例えば、−130〜−160pm/V程度)を保持することができる。このような電気−機械変換素子を用いて液滴吐出ヘッドを構成すれば吐出安定性と耐久性に優れているため、画像各種画像形成装置に応用できる。
後述のように、前記金属酸化物層は、構成成分としてチタンを含み、該成膜したチタン層を酸化処理(例えば、650℃〜800℃)したものが好ましい。このような金属酸化物層を形成することにより、PZT形成時に金属粒子の拡散を抑制してPZTの圧電定数や電気特性の劣化を防ぐことができる。さらに、金属酸化物層の構成成分としてチタンを含むことで、圧電特性の良好なPZT(100)を成長させることができ、また電気−機械変換膜の成分元素であるチタンを用いることで拡散による圧電特性の劣化を防止することができる。このような効果から、本発明において、金属酸化物層は、バッファ層と呼称することができる。
しかし、前記チタン層を酸化処理する工程で下部電極上にヒロックが発生するため、下記のように、下部電極は成膜後に急速加熱処理(RTA処理)が必要である。
白金膜の処理温度が650℃未満であれば、応力を十分に緩和することができなくなり、850℃を超えると、Pt(111)への配向が強すぎるため、PZT形成時に(100)の成長が阻害される。
すなわち、下部電極は成膜後に急速加熱処理(RTA処理)が施された白金膜からなり、該下部電極の優先配向面方位が(111)であり、その(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θが39.90°〜40.10°の範囲とされる。
白金本来のPt(111)配向面のX線回折ピーク位置2θは40°付近に観察されるが、応力などにより結晶格子が歪むとX線回折ピーク位置2θにずれが生じる。すなわち、40°付近からの2θのずれを測定すれば結晶格子の歪を知ることができる。
本発明においては、前記RTA処理により、残留応力による結晶格子の歪を解放し、白金本来のPt(111)配向とした後、金属酸化物層(例えば、成膜したチタン層を酸化処理)を形成するので、下部電極である白金膜のヒロックの発生を防ぎ、耐圧性の低下やリーク電流の増加がなく、PZTの面方位が(100)に優先配向した圧電特性の優れた電気−機械変換素子とすることができる。
RTA処理により下部電極の残留応力を解放することで、さらに、電気−機械変換膜(PZT)を形成する際の結晶化プロセス(加熱処理)においてもヒロックの発生を防ぐことができる。
また、下部電極の表面粗さRzは50nm以下であることが好ましい。Rzが50nmを超えると、下部電極上にヒロックが存在することに対応することから、耐圧性の低下やリーク電流の増加などの問題を生ずる。Rzは原子間力顕微鏡(AFM)により測定される。
ここで、PZTの面方位(100)の配向率が70%以上であり、かつ面方位(200)/(002)におけるロッキングカーブ半値幅が10°以下であるのが好ましい。
PZTの面方位(100)に優先配向させることにより、電気−機械変換膜の圧電特性を向上させることができ、配向率が70%以上であれば、高い圧電定数が得られる。
図15は、PZTの面方位(200)/(002)付近[2θ=44.7°]におけるロッキングカーブの半値幅を説明する図である。なお、面方位(200)と面方位(002)は回折角が近いため、(200)/(002)としてまとめて表記した。
ロッキングカーブとは、試料結晶に対してX線を入射し、試料に対する前記X線の入射角をブラッグ条件を満たす近傍において、一定の速度で回転した時に測定される回折強度曲線である。前記回折曲線におけるピークでの半値幅がロッキングカーブ半値幅である。そのため、前記ロッキングカーブ半値幅は基板に対する結晶の一軸性を示している。PZTが十分な一軸性を持っていれば、すなわち(200)/(002)のロッキングカーブ半値幅が10°以下であれば、十分な劣化耐性をもたせることができる。
密着層形成工程、下部電極形成工程、金属酸化物層形成工程、電気−機械変換膜形成工程、及び上部電極形成工程を備え、
前記下部電極形成工程は、
密着層上に白金膜を形成する工程と、
形成された白金膜を昇温速度10℃/秒以上で650℃〜850℃に加熱して1分〜5分急速加熱処理(RTA処理)する工程を含み、
前記金属酸化物層形成工程は、
RTA処理された白金膜表面にチタン層を成膜し、650℃〜800℃の温度で酸化処理して金属酸化物層を形成する工程を含み、
前記電気−機械変換膜形成工程は、
金属酸化物層上にPZT前駆体溶液を塗布して積層形成する工程を含み、
前記上部電極形成工程は、金属電極膜、もしくは金属酸化物電極膜と金属電極膜により形成する工程を含む製造方法により好適に得られる。
図2は電気−機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
図2の構成では、インク滴を吐出するノズル102と、このノズルが連通する加圧室101と、下地(振動板)105と、加圧室内のインクを加圧する電気−機械変換素子109とを備えている。電気−機械変換素子109は、下部電極(白金膜)106上に、電気−機械変換膜(PZT)107と、上部電極108とを備え、前記下部電極上に図示しない金属酸化物層を有する。
すなわち、本発明の電気−機械変換素子は、複数のノズル開口(ノズル102)と、各ノズル開口に連通する加圧液室(圧力室101)を有する流路形成基板[圧力室基板(Si基板)104]と、加圧液室の一面を形成する下地(振動板)105とを有する液滴吐出ヘッドの前記振動板上に、下部電極106と、電気−機械変換膜107と、上部電極108とを備え、前記下部電極上に図示しない金属酸化物層を有する。必要により、振動板105と下部電極(白金膜)106の間に図示しない密着層[例えば、酸化チタン(TiOx)]を設けるのが好ましい。
電気−機械変換素子109はエネルギー発生手段であり、電気−機械変換素子で発生したエネルギーで圧力室101内のインクを加圧することによってノズル102からインク滴を吐出させる。なお、図2では下部電極(106)と上部電極(108)に電圧を印加して電気−機械変換膜107を振動させて前記エネルギーを発生させる。図2中、符号103はノズル板を示す。
ている。また、Si基板の他方の面には振動板を介して、圧力室が形成されている。このように構成された電気−機械変換素子は、隔壁上に形成された接合面段差(図示しない層間絶縁膜、メタル配線、パッシベーション保護膜などによって形成されている)と、サブフレーム接合面とを接着剤によって接合する構成としている。
また、ノズル基板103は周知のプレス加工あるいはNi電鋳工法等によってノズル孔が形成されており、圧力室基板(Si基板)104の圧力室101面に接着剤によって接合されている。
図3の構成では、基板401、振動板402、密着層403(a)、下部電極403、金属酸化物層403(b)、電気−機械変換膜404、上部電極405を備えている。
ここで、上部電極に関しては、電気的にも十分な比抵抗値が得られる導電層を備えることが好ましい。さらに、電気−機械変換素子をアクチュエータとして動作させた際の連続駆動時に変位等の低下を抑制するには電気−機械変換膜404と接する側の上部電極403は導電性を有する酸化物電極層を含むことが好ましい。
本発明の電気−機械変換素子において、前記下部電極は、金属酸化物層の形成前に成膜した白金膜をRTA処理が施されたものである。下部電極の優先配向面方位は(111)であって、(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θが39.90°〜40.10°の範囲に制御される。
また、電気−機械変換膜はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)からなる。PZTの面方位(100)の配向率は70%以上、かつ面方位(200)と面方位(002)の比[(200)/(002)]におけるロッキングカーブ半値幅が10°以下に制御される。
ここで、前記下部電極形成工程は、密着層上に白金膜を形成する工程と、形成された白金膜を昇温速度10℃/秒以上で650℃〜850℃に加熱して1分〜5分急速加熱処理(RTA処理)する工程を含む。また、前記金属酸化物層形成工程は、RTA処理された白金膜表面にチタン層を成膜し、650℃〜800℃の温度で酸化処理して金属酸化物層を形成する工程を含む。さらに前記電気−機械変換膜形成工程は、金属酸化物層上にPZT前駆体溶液を塗布して積層形成する工程を含む。そして、前記上部電極形成工程は、金属電極膜、もしくは金属酸化物電極膜と金属電極膜により形成する工程を含む。
特に限定されないが、図3を参照して実施形態例について説明する。
図3に示すように、基板401上に振動板402を形成する。基板401としては面方位(111)のシリコンウェハ(例えば、625μm程度)を用い、振動板402は基板(Si基板)の熱酸化膜、およびCVD法によってシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、ポリシリコン膜などが所望の構成にて形成されたものである。
次に、振動板402上に、密着層403(a)、下部電極403、金属酸化物層(例えば、チタンを含む層:TiOx)403(b)、電気−機械変換膜(PZT)404、上部電極405が形成される。
限定されるものではないが、図3のように振動板402と下部電極403の間に密着層(例えば、チタンを含む層:TiOx)403(a)が設けられるのが好ましい。密着層および金属酸化物層は、下部電極と一体のものとして捉えることができ、これらはスパッタ法によって形成することができ、必要な熱処理が施される。
電気−機械変換膜は、例えば、PZT前駆体溶液を用いゾルゲル法により所望の厚みに形成される。
電気−機械変換膜(PZT)上に、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3:SRO)層と白金層(Pt層)を積層構成して上部電極405とされる。
前述の、振動板/密着層(TiOx)/下部電極(Pt)/金属酸化物層(TiOx)/電気−機械変換膜(PZT)/上部電極(SRO層・Pt層)から構成される電気−機械変換素子構造は、圧電性の高い電気−機械変換膜、すなわち面方位(100)の配向率が70%以上に優先配向したPZT(100)を得るうえで有効な層構成である。
このような構成において、スパッタ法等により成膜した下部電極(Pt膜)上に、RTA処理を施さずそのまま金属酸化物層(TiOx)を成膜形成する工程を実施すれば、すなわちTi膜を金属酸化物層(TiOx)とする熱処理(RTA処理)を行えば、下部電極上にヒロック(図1参照)が発生する。下部電極上にヒロックが発生すれば、前述のように電界の局所的集中による耐圧性の低下、リーク電流の増加、下部電極上部に成膜される膜を貫通するなどして信頼性に悪影響を与えるという問題を生じる。
ここで、スパッタ法等によりPt膜を成膜する際に、単純にPt膜の成膜温度を上昇させることで残留応力を減少させても、Pt膜の粒径が大きくなってしまい電気−機械変換膜(PZT)の圧電特性が悪化するという問題がある。
図6に示す電気−機械変換素子では、下地(振動板)上に、密着層181(a)、第1の電極(下部電極)181、金属酸化物層181(b)、第2の電極(上部電極)182、電気−機械変換膜183が形成されている。
そして、第1の絶縁保護膜184はコンタクトホール189を有しており、第1の電極(下部電極)181と第3の電極185(a)が導通し、第2の電極(上部電極)182と第4の電極185(b)とが導通した構成となっている。このとき、第3の電極185(a)を共通電極、第4の電極185(b)を個別電極として、共通電極、個別電極を保護する第2の絶縁保護膜186が形成され、一部開口されて電極PADとして構成されている。共通電極用に作製されたものを共通電極用PAD188、個別電極用に作製されたものを個別電極用PAD187としている。
以下に、本発明の電気−機械変換素子の各構成材料、工法について具体的に説明する。
基板としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100μm〜600μmの厚みを持つことが好ましい[例えば、図2の圧力室基板(Si基板)]。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を使用した。また、図2に示すような圧力室を作製していく場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。
異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝をほることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっており本構成としては(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiO2もエッチングされてしまうということが挙げられるため、この辺りも留意して利用している。
図2に示すように電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、下地(振動板)が変形変位して、圧力室のインク滴を吐出させる。そのため、下地としては所定の強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO2、Si3N4をCVD法により作製したものが挙げられる。さらに図2に示すような下部電極、電気−機械変換膜の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、電気−機械変換膜としては、一般的に材料としてジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が使用されることから線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数として、5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等であり、これらをスパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては0.1μm〜10μmが好ましく、0.5μm〜3μmがさらに好ましい。膜厚が0.5μmより薄いと図2に示すような圧力室の加工が難しくなり、膜厚が10μmより厚いと下地が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
下部電極(図6中、第1の電極)としては、高い耐熱性と低い反応性を有する白金を用いることが好ましい。前述のように、白金(Pt)を薄膜形成法により成膜して形成され、成膜後に急速加熱処理(RTA処理)される。RTA処理により、下部電極の優先配向面方位(111)に由来するX線回折ピーク位置2θを39.90°〜40.10°の範囲に制御した後に金属酸化物層を形成する。下部電極は振動板上に形成されるが、下部電極と振動板の間に密着層を設けて剥がれ等を抑制するようにするのが望ましい。
Pt膜の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚としては、80nm〜200nmが好ましく、100nm〜150nmが好ましい。膜厚が80nmより薄いと共通電極として十分な電流を供給することが出来なくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する。さらに、膜厚が200nmより厚いと白金を使用することからコストアップとなる点や、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、その上に作製する金属酸化物層や電気−機械変換膜(PZT)の表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する。
密着層は、振動板上に金属膜を形成した後、熱処理(例えば、RTA処理)して金属酸化物からなる膜(結晶膜)とすることで形成することができる。金属としてはチタン(Ti)が好ましく用いられる。
Tiを用いる場合、振動板上にTiをスパッタ法などの薄膜形成法により成膜してチタン層とした後、RTA(Rapid Thermal
Annealing)装置を用いて、酸素(O2)雰囲気中で加熱し(例えば、昇温速度10℃/秒以上)、650℃〜800℃の温度で1〜30分間保持してチタン層を熱酸化して酸化チタン(TiOx)層に変換することで密着層が形成される。
酸化チタン層を作成するには反応性スパッタでもよいがチタン膜の高温による熱酸化法が望ましい。反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とする。さらに、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方がチタン酸化膜の結晶性が良好になる。なぜなら、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じるためである。したがって、昇温速度の速いRTAによる酸化の方が良好な結晶を形成するために有利になる。またTi以外の材料としてはTa、Ir、Ru等の材料も好ましく用いられる。
密着層の膜厚としては、10nm〜50nmが好ましく、15nm〜30nmがさらに好ましい。膜厚が10nmよりも薄いと密着性が十分に得られないに懸念があり、膜厚が50nmよりも厚いと下部電極の表面粗さが大きくなり電気−機械変換膜との密着性が低下する。これにより、電気−機械変換膜の結晶性に悪影響を及ぼして圧電特性が低下し、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する。
金属酸化物層を形成するための材料としてはチタン(Ti)を用いることが好ましい。Ti膜は、例えば、スパッタ法によりの成膜できる。Ti膜を金属酸化物層とするには酸化処理が必要であるが、その方法は前記密着層の作製と同様にRTA装置を用いて実施することができる。例えば、RTA処理された白金膜表面にチタン層を成膜し、650℃〜800℃の温度で1分〜30分、酸素(O2)雰囲気で酸化処理し、金属酸化物(TiOx)からなる結晶膜とすることで形成することができる。その理由も密着層の項で述べたものと同様である。成膜される金属酸化物層の膜厚としては5nm〜15nmであることが好ましい。膜厚が5nmより薄いと、PZT(110)/(111)の結晶成長が促進されて圧電定数が低下するためであり、15nmを超えるとPZTの配向がアモルファス状になり配向の制御が難しいためである。
また、スパッタ成膜材料として、Ti以外にもTi/Ir、PbO/TiOx、LNO、PbTiO3などが好ましく用いられる。
電気−機械変換膜としては、複合酸化物から構成される材料が挙げられるがジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を主に使用した。
PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合の場合であり、化学式ではPb(Zr0.53,Ti0.47)O3と表され、一般にPZT(53/47)と示される。
PZTをSol−gel法により作製した場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ことで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
電気−機械変換膜の膜厚としては0.5μm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜2μmである。膜厚が0.5μmより薄いと、十分な変位を発生することが出来なくなり、膜厚が5μmより厚いと、何層も積層させていくために工程数が多くなりプロセス時間が長くなる問題がある。
また、電気−機械変換膜の比誘電率としては600以上2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下になっていることが好ましい。比誘電率が600未満であると、十分な変位特性が得られず、比誘電率が2000を超えると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
上部電極(図6中、第2の電極)としては、金属により構成された金属電極膜、もしくは金属酸化物により構成された金属酸化物電極膜と金属により構成された金属電極膜とが積層構成された電極が好ましい。以下に金属酸化物電極膜、金属電極膜の詳細について記載する。
(金属酸化物電極膜)
材料としてはSrRuO3(SRO)を用いることが好ましい。左記以外にも、Srx(A)(1−x)RuyO(1−y)、[A=Ba、Ca、 B=Co、Ni、x、y=0〜0.5]で記述されるような材料についても挙げられる。成膜方法についてはスパッタ法により作製される。SRO膜の膜厚としては、20nm〜80nmが好ましく、40nm〜60nmがさらに好ましい。膜厚が20nmより薄いと、初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない。膜厚が80nmより厚いと、成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
(金属電極膜)
金属電極膜としては下部電極と同様に白金が好ましく用いられる。必要に応じてイリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜を用いることもできる。
金属電極膜の膜厚としては30nm〜200nmが好ましく50nm〜120nmがさらに好ましい。膜厚が30nmより薄いと、個別電極として十分な電流を供給することが出来なくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する。さらに膜厚が200nmより厚いと、白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる点や白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、絶縁保護膜を介して第4電極を作製する際に、膜剥がれ等のプロセス不具合が発生しやすくなる。
図6中に示した第1の絶縁保護膜としては、成膜・エッチングの工程による電気−機械変換素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を選定する必要があり、緻密な無機材料とされるのが好ましい。有機材料では十分な保護性能を得るために膜厚を厚くする必要があることから適さない。絶縁保護膜の膜厚が厚いと、振動板の振動変位を著しく阻害してしまうために吐出性能の低い液滴吐出ヘッドになってしまう。
第1の絶縁保護膜として薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化膜を用いるのが好ましいが、絶縁膜の下地となる、電極材料、電気−機械変換膜(PZT)、振動板材料と密着性が高い材料を選定する必要がある。また、成膜法も圧電素子を損傷しない成膜方法を選定する必要がある。すなわち、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は好ましくない。好ましい成膜方法としては、蒸着法、ALD法などが例示できるが、使用できる材料の選択肢が広いALD法が好ましい。好ましい材料としては、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2などのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製し、プロセス中でのダメージを抑制しようとしている。
また、第1の絶縁保護膜を2層にする構成も考えられる。この場合は、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、振動板の振動変位を著しく阻害しないように第2の電極付近において2層目の絶縁保護膜を開口するような構成も挙げられる。このとき2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができるが、半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることができる。
成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法,スパッタリング法が例示でき、電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。2層目の絶縁保護膜の膜厚は下部電極と個別電極配線に印加される電圧で絶縁破壊されない膜厚とする必要がある。すなわち絶縁膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する必要がある。さらに、絶縁膜2の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200nm以上必要であり、さらに好ましくは500nm以上である。
図6中に示した第3の電極及び第4の電極は、それぞれAg合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料であることが好ましい。第3の電極及び第4の電極の作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法等を用いて金属膜を作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
各電極の膜厚としては、0.1μm〜20μmが好ましく、0.2μm〜10μmがさらに好ましい。膜厚が0.1μmより薄いと、抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができなくなって液滴吐出ヘッドの吐出が不安定になり、膜厚が20μmより厚いと、プロセス時間が長くなるという問題がある。
また、共通電極、個別電極としてコンタクトホール部(10μm×10μm)での接触抵抗として、共通電極としては10Ω以下、個別電極としては1Ω以下が好ましく、さらに好ましくは、共通電極としては5Ω以下、個別電極としては0.5Ω以下である。接触抵抗が共通電極として10Ωを超え、個別電極としては1Ωを超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴吐出ヘッドからのインク吐出時に不具合が発生する。
図6中に示した第2の絶縁保護膜としての機能は個別電極配線や共通電極配線の保護層の機能を有するパシベーション層である。図6に示す通り、第2の絶縁保護膜は、個別電極引き出し部と図示しないが共通電極引き出し部を除き、個別電極と共通電極上を被覆する。これにより電極材料に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高い液滴吐出ヘッドとすることができる。
第2の絶縁保護膜の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料とする必要がある。無機材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が例示でき、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が例示できる。ただし有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料とすることが好ましい。特に、Al配線上にSi3N4を用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。
また、電気−機械変換素子上とその周囲の振動板上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜の個別液室領域を薄くしていることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッドとすることが可能になる。
なお、前述のような構成で作製された電気−機械変換素子はコロナ放電により発生した電荷の注入により分極処理することが好ましい。分極処理の状態については、P−Eヒステリシス曲線から判断することができる。
分極処理された電気−機械変換素子に±150kV/cmの電界強度をかけたときのP−Eヒステリシスにおいて、最大分極Pm値が30μC/cm2以上40μC/cm2以下であることが好ましい。
また図8に示すように±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定し、最初の0kV/cm時の分極をPini、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとしたときに、Pr−Piniの値を分極率として定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断することができる。
ここで分極率Pr−Piniが、6.0μC/cm2以下であることが好ましく、3.0μC/cm2以下であることがさらに好ましい。分極率Pr−Piniが6.0μC/cm2を超えると、PZTの電気−機械変換膜として連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない。
本発明の電気−機械変換素子を用いて液滴吐出ヘッドを構成すれば、セラミック焼結体と同等の駆動力によりインク滴吐出特性を保持でき、連続吐出しても安定したインク滴吐出特性を維持することができる。
本発明によれば、バルクセラミックスと同等の性能を持つ電気−機械変換素子が形成でき、その後の圧力室形成のための裏面からのエッチング除去、ノズル孔を有するノズル板を接合することで液滴吐出ヘッドができる。図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は略した。図9において、符号901は圧力室、902はノズル、903はノズル板、904は圧力室基板(Si基板)、905は振動板、906は密着層、907は電気−機械変換素子を示す。
本発明の液滴吐出ヘッドを用いれば、吐出安定性、耐久性、および画像品質が良好であるため、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFP等の画像形成装置に応用できる。
6インチシリコンウェハ(Si基板)に熱酸化膜(膜厚1μm)を形成して振動板を構成した。次いで、振動板上に密着層を形成した。密着層は、Si基板の振動板上にチタン(Ti)をスパッタ装置にて成膜(膜厚50nm)した後に、RTA装置を用いて730℃にて熱酸化して酸化チタン(TiOx)としたものである。引き続き、密着層上に下部電極形成のため、まず白金膜をスパッタ法により成膜(膜厚160nm)した。スパッタ成膜時のSi基板加熱温度は300℃に維持して成膜を実施した。形成された白金膜を、速度10℃/秒以上で昇温加熱し、下記所定温度で3分間、急速加熱処理(RTA処理)した。表1の比較例3にRTA処理を施さない例を示した。
表1(比較例1)に記載のRTA処理温度:570℃
表1(比較例2)に記載のRTA処理温度:650℃
表1(実施例1)に記載のRTA処理温度:730℃
表1(実施例2)に記載のRTA処理温度:810℃
表1(比較例3)RTA処理無し
なお、比較例と実施例の区分けは、PZTの面方位(100)の配向率が70%以上であり、かつ面方位(200)と面方位(002)の比[(200)/(002)]におけるロッキングカーブ半値幅が10°以下であるか否かを含めて判断したものである。
RTA処理された白金膜表面に金属酸化物層を形成するため、スパッタ装置によりチタン層を成膜し、RTA装置を用いて730℃で熱酸化処理して金属酸化物層(TiOx)とした。金属酸化物層の膜厚は10nmであった。図12示すフローチャートに準じて、密着層の形成、下部電極の形成、金属酸化物層の形成を逐次行った。図12のフローチャートに準じて形成された金属酸化物層を表面に有する白金膜(実施例1)について原子間力顕微鏡(AFM)で観察した像を図13示す。図13(a)はタッピングモードであり、(b)はPMモードである。
次に、金属酸化物層を有する下部電極上にPZTからなる電気−機械変換膜を形成した。すなわち、Pb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液(前駆体塗布液)を準備し、この溶液を、金属酸化物層を有する下部電極上にスピンコート法により塗布して成膜した。
例えば、図14に実施例のRTA処理前後でのXRDピーク位置2θの変化を示す。図14に示すように、RTA処理前にピーク位置2θが39.82であったものが、RTA処理後には約40にシフトしている。これは白金膜内の残留応力が解放されていることを示している。すなわち、白金膜内の残留応力が解放されることによって、金属酸化物層形成(チタン層の酸化処理)時に、ヒロックの発生を防ぐことができ、金属酸化物層を有する下部電極の表面粗さRzは24nm〜27nm程度に収まっている。そして、PZTの結晶性低下はなく優れた圧電特性を保持することが確認された。
比較例1,2の場合にもRTA処理前後でのXRDピーク位置2θの変化はみられるが、(200)/(002)におけるロッキングカーブ(RC)半値幅が10°を超え、PZTの結晶性が低下して圧電特性が低下した。
比較例3は残留応力が解放されずヒロックの発生は防げなかった。
上記のように、RTA処理温度を570℃〜810℃まで変化させた結果、特に730℃〜810℃において良好な面方位(100)の結晶性を持つPZT(電気−機械変換膜)が得られた。
実施例1、2はいずれも白金膜のヒロックの発生が抑制され、電界の局所的集中による耐圧性の低下やリーク電流の増加がなく、PZTの面方位が(100)に優先配向した圧電特性の優れた電気−機械変換素子が提供された。
実施例1の構成において、金属酸化物層の膜厚を下記のように変化させた以外は実施例1と同様にして実施例3〜実施例5、比較例4〜比較例5の電気−機械変換素子を作製した。
表2(比較例4)に記載の金属酸化物層の膜厚:5.8nm
表2(実施例3)に記載の金属酸化物層の膜厚:8.0nm
表2(実施例4)に記載の金属酸化物層の膜厚:10.2nm
表2(実施例5)に記載の金属酸化物層の膜厚:12.2nm
表2(比較例5)に記載の金属酸化物層の膜厚:14.1nm
比較例5は[(200)/(002)]におけるロッキングカーブ半値幅が10°を超え、PZTの結晶性が低下して圧電特性が低下した。
本発明の実施例3〜実施例5はいずれも、下部電極の優先配向面方位が(111)であり、その(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θは39.90°〜40.10°の範囲であり、また、前記電気−機械変換膜(PZT)の面方位(100)の配向率は70%以上であり、かつ(200)/(002)におけるロッキングカーブ半値幅も10°以下である。ただし、実施例3は金属酸化物層を有する下部電極の表面粗さRzがやや大きいが、いわゆる下部電極の残留応力に伴うヒロックと異なり、PZTの結晶性低下は限定的であった。実施例4、実施例5はPZTの結晶性低下はなかった。すなわち、金属酸化物層(TiOx)の膜厚が8.0nm〜12.2nmにおいて良好なPZT(100)の結晶性を持つ電気−機械変換膜が得られた。
金属酸化物層の膜厚としては、各種実験から総合的に5nm〜15nm程度の範囲が好ましいと判断される。
実施例3〜実施例5いずれも白金膜のヒロックの発生が抑制され、電界の局所的集中による耐圧性の低下やリーク電流の増加がなく、PZTの面方位が(100)に優先配向した圧電特性の優れた電気−機械変換素子が提供された。
実施例1の構成において、白金膜を形成する際のスパッタ成膜時のSi基板加熱温度(Pt成膜温度)を下記のようにしてPt膜を形成し、RTA処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして比較例6〜比較例8の電気−機械変換素子を作製した。
表3(比較例6)に記載のPt成膜温度:300℃
表3(比較例7)に記載のPt成膜温度:400℃
表3(比較例8)に記載のPt成膜温度:500℃
Pt成膜直後の白金膜のピーク位置、同ピーク強度、Pt粒径、金属酸化物層を有する下部電極の表面粗さRz、PZT(100)の配向率、同ピーク強度、同(200)/(002)におけるロッキングカーブ(RC)半値幅について表3に記載する。
比較例8のPt成膜温度が500℃ではヒロックが発生しなかったが、Ptの粒径が増大してPt(111)が増加するため、PZT(100)の結晶性が低下し圧電特性が低下した。
このような電気−機械変換素子を用いて液滴吐出ヘッドを構成すれば吐出安定性と耐久性に優れているため、オフィス、パーソナルで使用するプリンタ、MFP等の画像形成装置に応用できるほか、三次元造型技術などへの応用も可能である。
101 圧力室
102 ノズル
103 ノズル板
104 圧力室基板(Si基板)
105 下地(振動板)
106 下部電極
107 電気−機械変換膜
108 上部電極
109 電気−機械変換素子
(図3の符号)
401 基板
402 振動板
403(a) 密着層
403 下部電極
403(b) 金属酸化物層
404 電機−機械変換膜
405 上部電極
(図6の符号)
181 第1の電極(下部電極)
181(a) 密着層
181(b) 金属酸化物層
182 第2の電極(上部電極)
183 電気−機械変換膜
184 第1の絶縁保護膜
185(a)、(b) 第3、4の電極
186 第2の絶縁保護膜
187 個別電極PAD
188 共通電極PAD
189 コンタクトホール
(図9の符号)
901 圧力室
902 ノズル
903 ノズル板
904 圧力室基板(Si基板)
905 振動板
906 密着層
907 電気−機械変換素子
(図10、図11の符号)
81 記録装置本体
82 印字機構部
83 用紙
84 給紙カセット
85 トレイ
86 排紙トレイ
91 主ガイドロッド
92 従ガイドロッド
93 キャリッジ
94 ヘッド
95 インクカートリッジ
97 主走査モータ
98 駆動プーリ
99 従動プーリ
100 タイミングベルト
101 給紙ローラ
102 フリクションパッド
103 ガイド部材
104 搬送ローラ
105 搬送コロ
106 先端コロ
107 副走査モータ
109 印写受け部材
111 搬送コロ
112 拍車
113 排紙ローラ
114 拍車
115 ガイド部材
116 ガイド部材
117 回復装置
Claims (9)
- 振動板上に、下部電極と、電気−機械変換膜と、上部電極とを備え、前記下部電極上に金属酸化物層を有する電気−機械変換素子であって、
前記下部電極は成膜後に急速加熱処理が施された白金膜からなり、該下部電極の優先配向面方位が(111)であり、その(111)面に由来するX線回折ピーク位置2θが39.90°〜40.10°の範囲であると共に、
前記電気−機械変換膜がPZTからなり、該PZTの面方位(100)の配向率が70%以上であり、かつPZTの面方位(200)/(002)におけるロッキングカーブの半値幅が10°以下であることを特徴とする電気−機械変換素子。 - 前記金属酸化物層が、構成成分としてチタンを含むことを特徴とする請求項1に記載の電気−機械変換素子。
- 前記金属酸化物層を有する下部電極の表面粗さRzが、50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気−機械変換素子。
- 前記金属酸化物層の膜厚が、8.0nm〜12.2nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の電気−機械変換素子。
- 前記急速加熱処理が、前記金属酸化物層を形成する前に白金膜を昇温速度10℃/秒以上で730℃〜810℃に加熱したものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電気−機械変換素子。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の電気−機械変換素子の製造方法であって、
密着層形成工程、下部電極形成工程、金属酸化物層形成工程、電気−機械変換膜形成工程、及び上部電極形成工程を備え、
前記下部電極形成工程は、
密着層上に白金膜を形成する工程と、
形成された白金膜を昇温速度10℃/秒以上で730℃〜810℃に加熱して急速加熱処理する工程を含み、
前記金属酸化物層形成工程は、
急速加熱処理された白金膜表面にチタン層を成膜し、該チタン層を酸化処理して金属酸化物層を形成する工程を含み、
前記電気−機械変換膜形成工程は、
金属酸化物層上にPZT前駆体溶液を塗布して積層形成する工程を含み、
前記上部電極形成工程は、金属電極膜、もしくは金属酸化物電極膜と金属電極膜により形成する工程を含むことを特徴とする電気−機械変換素子の製造方法。 - 請求項1乃至5のいずれかに記載の電気−機械変換素子を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項7に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
- 請求項7に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。
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