本発明の製造方法では、押出機からの溶融成形により、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを得ている。本発明の製造方法は、第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムから、第2のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムへと、光学フィルムの溶融成形を止めることなく切り替える工程(I)を含む。第2のアクリル樹脂(A)は、第1のアクリル樹脂(A)とは主鎖に有する環構造が異なるとともに、第1のアクリル樹脂(A)と相溶する樹脂である。なお、光学フィルムを構成する樹脂の上記切り替えを、本明細書では単に「樹脂の切り替え」と呼ぶことがある。
樹脂について「相溶する」とは、2種以上の樹脂を均一に混合した樹脂組成物を形成したときに、当該樹脂組成物についてガラス転移温度(Tg)が1点のみ測定される状態をいう。換言すれば、「相溶していない」状態のときは、例え樹脂同士を均一に混合していたとしても、複数のTgが測定される。
環構造の種類が異なるとは、環構造の基本骨格が異なることを意味する。環構造の種類が異なることには、環構造の置換基の種類のみが異なる場合は含まれない。環構造の置換基の種類のみが異なる組み合わせは、例えば、本実施例において使用しているN−フェニルマレイミドおよびN−シクロヘキシルマレイミドの組み合わせである。これらの環構造は、いずれもN−置換マレイミド構造であり、環構造の置換基がフェニル基であるかシクロヘキシル基であるかのみが互いに異なっている。
工程(I)には、以下に説明する工程(IA)と工程(IB)とがある。
工程(IA)では:第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを溶融成形している押出機に第2のアクリル樹脂(A)の供給を開始し;当該供給の開始以後、押出機への第1のアクリル樹脂(A)の供給を停止して;押出機から溶融成形する光学フィルムを、光学フィルムの溶融成形を止めることなく、第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムから第2のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムに切り替える(樹脂を切り替える)。
工程(IB)では:第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを溶融成形している押出機に、第1および第2のアクリル樹脂(A)と相溶する第3のアクリル樹脂(A)の供給を開始し;当該供給の開始以後、押出機への第2のアクリル樹脂(A)の供給の開始と、押出機への第1のアクリル樹脂(A)の供給の停止とを行い;上記第2のアクリル樹脂(A)の供給の開始以後、押出機への第3のアクリル樹脂(A)の供給を停止して;押出機から溶融成形する光学フィルムを、光学フィルムの溶融成形を止めることなく、第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムから第2のアクリル樹脂から構成される光学フィルムに切り替える(樹脂を切り替える)。第3のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造は、第1または第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造と同一であってもよいし、第1および第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造と異なっていてもよい。環構造が同一である場合には、環構造の含有率のみが異なる場合、および環構造の置換基の種類のみが異なる場合が含まれる。光学的特性、熱的特性などの諸特性の制御の自由度を向上できる観点からは、第3のアクリル樹脂(A)が、第1および第2のアクリル樹脂(A)とは主鎖に有する環構造が異なるアクリル樹脂であることが好ましい。
工程(I)では、押出機を用いた光学フィルムの溶融成形において、当該溶融成形を止めることなく第1のアクリル樹脂(A)から第2のアクリル樹脂(A)へと樹脂を切り替える。ここで、第1のアクリル樹脂(A)と第2のアクリル樹脂(A)とは互いに相溶する。工程(IB)では、さらに第1および第2のアクリル樹脂(A)と第3のアクリル樹脂(A)とが相溶する。このため、樹脂を切り替える際に、押出機に供給していたアクリル樹脂(A)と新たに供給したアクリル樹脂(A)とが混在した状態、典型的には切り替え前後のアクリル樹脂(A)が混在した状態においても、得られたフィルムの光学的透明性は光学フィルムとしての使用に十分なほど高く、例えば低いヘイズが保たれる。
そして工程(I)では、第1のアクリル樹脂(A)および第2のアクリル樹脂(A)が、ともに主鎖に環構造を有する。工程(IB)では、さらに第3のアクリル樹脂(A)が主鎖に環構造を有する。主鎖に環構造を有するアクリル樹脂では、当該環構造の種類および含有率により、光学的特性、熱的特性をはじめとする諸特性の制御が可能になる。このことは、工程(I)での樹脂の切り替え前後における、製膜後のフィルムの特性の制御の自由度が高くなることを意味する。より具体的には、例えば、第1のアクリル樹脂(A)および第2のアクリル樹脂(A)の特性を揃えることもでき、この場合、樹脂の切り替え時においても同様の特性を有する光学フィルムを連続的に溶融成形できる。また、第1、第2および第3のアクリル樹脂(A)は互いに相溶するため、押出機に供給していたアクリル樹脂(A)と新たなアクリル樹脂(A)とが混在した状態、典型的には切り替え前後のアクリル樹脂(A)が互いに混在した状態においても、当該特性とともに光学フィルムとしての使用に十分な光学的透明性を有する光学フィルムが得られることになる。これは、樹脂の切り替え時に溶融成形したフィルム、より具体的には上記樹脂の混在した状態にあるフィルムを、切り替え前および/または後に得られる光学フィルムと同様の特性を有する光学フィルムとして使用できることを意味する。
光学的特性の一例は複屈折特性であり、例えば、フィルム製膜後の延伸により発現する位相差の正負または大きさを制御したり、延伸によっても複屈折をほぼ発現しない光学的に等方なアクリル樹脂とすることができる。一例として、第1および第2のアクリル樹脂(A)を光学的に等方な樹脂とすることによって、工程(IB)ではさらに第3のアクリル樹脂(A)を光学的に等方な樹脂とすることによって、樹脂の切り替え時においても光学的に等方な光学フィルムを連続的に溶融成形できる。また、第1、第2および第3のアクリル樹脂(A)は互いに相溶するため、押出機に供給していたアクリル樹脂(A)と新たなアクリル樹脂(A)とが互いに混在した状態、典型的には切り替え前後のアクリル樹脂(A)が互いに混在した状態においても、光学フィルムとしての使用に十分な光学的透明性を有する、光学的に等方な光学フィルムが得られる。
熱的特性の一例は、ガラス転移温度(Tg)である。一例として、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの差を小さくすることにより、工程(IB)ではさらに第1および第2のアクリル樹脂(A)のTgと第3のアクリル樹脂(A)のTgとの差を小さくすることにより、樹脂の切り替え時においてもTgがほぼ同等の光学フィルムを連続的に溶融成形できる。また、第1、第2および第3のアクリル樹脂(A)は互いに相溶するため、押出機に供給していたアクリル樹脂(A)と新たなアクリル樹脂(A)とが互いに混在した状態、典型的には切り替え前後のアクリル樹脂(A)が互いに混在した状態においても、Tgがほぼ同等の光学フィルムが得られる。
アクリル樹脂は、光学フィルムに使用可能な他の非晶性熱可塑性樹脂に比べて、フィルムとしたときに硬く脆い傾向にある。特に、アクリル樹脂が主鎖に環構造を有する場合にこの傾向が強い。硬く脆いフィルムはハンドリング性が低く、当該フィルムを組み込んだ製品の製造時および使用時に割れなどの欠陥が生じやすくなるため、溶融成形により得たアクリルフィルムを延伸して、その可とう性を向上させることが行われている。また、位相差フィルムである光学フィルムを得るには、溶融成形後のフィルムの延伸が必要である。ここで延伸温度は、フィルムを構成する樹脂のTgが基準となる。延伸温度がTgよりも過度に低くなると、フィルムの延伸性が低下して十分な延伸ができず、張力限界を超えてフィルムが破断することがある。延伸温度がTgよりも過度に高くなると、延伸中にフィルムが溶融して破断することがある。樹脂の切り替え前後においてそのTgが変化すると、延伸温度も当該変化に応じて変化させる(追従させる)ことが望まれるが、変化量が大きいと延伸温度の変化が追いつかず、延伸が不安定となる。工程(I)では、アクリル樹脂(A)のTgの制御により、例えば、樹脂の切り替え前後におけるTgの変化量を小さくすることができ、溶融成形後の光学フィルムを原フィルムとする安定した延伸が可能となる。
溶融成形後の安定した延伸を考慮したアクリル樹脂(A)のTgの制御の一例では、工程(IA)において、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの差を18℃以下とする。この差は、16℃以下が好ましく、14℃以下がより好ましい。なお、この差は絶対値で判断し、双方のTgの大小関係は問わない。
上記制御の別の一例では、工程(IB)において、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第3のアクリル樹脂(A)のTgとの差、および第3のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの差を、いずれも18℃以下とする。双方の差は、いずれも16℃以下が好ましく、14℃以下がより好ましい。これらの差も絶対値で判断し、双方のTgの大小関係は問わない。
上記制御のまた別の一例では、第3のアクリル樹脂(A)のTgが、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの間にある。この場合、樹脂の切り替え時に、間に挿入される第3のアクリル樹脂(A)が第1および第2のアクリル樹脂(A)間の緩衝材、調整材として機能する。
また、これらのTgの制御では、樹脂の切り替え時における押出機内の樹脂の溶融粘度が安定する。
このように工程(I)を含む本発明の製造方法によれば、光学フィルムの製造上、種々のメリットを実現可能である。また、このようなメリットを実現可能であることは、工程(I)を含む本発明の製造方法において光学フィルムを構成する樹脂の切り替えに要する時間を、切り替え時に押出機の内部を洗浄したり、押出機にパージ材を供給したりする場合に比べて低減できることを意味している。
工程(I)を実施する具体的な方法は限定されない。
工程(IA)では、第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを溶融成形している押出機に第2のアクリル樹脂(A)の供給を開始し、当該供給の開始以後、押出機への第1のアクリル樹脂(A)の供給を停止すればよい。第1のアクリル樹脂(A)の供給を停止するタイミングは、押出機からの光学フィルムの溶融成形を続行できる限り、第2のアクリル樹脂(A)の供給と同時であってもよい。第2のアクリル樹脂(A)の供給を開始し、その供給量を連続的または断続的に増加させながら、第1のアクリル樹脂(A)の供給量を連続的または断続的に減少させて最終的に供給を停止してもよい。この場合、例えば、樹脂の切り替え時におけるTgの変化がよりマイルドになり、Tgの変化に応じた延伸温度の追従がより確実となるため、溶融成形後の延伸をより安定させることができる。この方法は、例えば、実施例に示すように、ブレンド比が異なる第1および第2のアクリル樹脂(A)の混合物を、樹脂の切り替え時に順次押出機に供給することによっても実施できる。
工程(IB)では、第1のアクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを溶融成形している押出機に第3のアクリル樹脂(A)の供給を開始し、当該供給の開始以後、押出機への第2のアクリル樹脂(A)の供給の開始と、第1のアクリル樹脂(A)の供給の停止とを行う。そして、押出機への第2のアクリル樹脂(A)の供給の開始以後、第3のアクリル樹脂(A)の供給を停止する。この条件を満たすとともに押出機からの光学フィルムの溶融成形を連続して実施できる限り、各アクリル樹脂(A)の供給および停止は任意のタイミングで実施できる。第3のアクリル樹脂(A)の供給の開始と第1のアクリル樹脂(A)の供給の停止とを同時に行ってもよいし、第2のアクリル樹脂(A)の供給の開始と第3のアクリル樹脂(A)の供給の停止とを同時に行ってもよい。第1および第3のアクリル樹脂(A)がともに供給されている状態、第3および第2のアクリル樹脂(A)がともに供給されている状態、または第1、第3および第2のアクリル樹脂(A)がともに供給されている状態があってもよい。
工程(IB)では、供給を開始しようとするアクリル樹脂(A)の供給量を連続的または断続的に増加させながら、供給を停止しようとするアクリル樹脂(A)の供給量を連続的または断続的に減少させて最終的に供給を停止してもよい。供給を開始しようとするアクリル樹脂(A)と供給を停止しようとするアクリル樹脂(A)との組み合わせは、第3のアクリル樹脂(A)と第1のアクリル樹脂(A)、ならびに第2のアクリル樹脂(A)と第1のアクリル樹脂(A)および/または第3のアクリル樹脂(A)である。この場合、例えば、樹脂の切り替え時におけるTgの変化がよりマイルドになり、Tgの変化に応じた延伸温度の追従がより確実となるため、溶融成形後の延伸をより安定させることができる。この方法は、例えば、実施例に示すように、ブレンド比が異なる双方のアクリル樹脂(A)の混合物を、樹脂の切り替え時に順次押出機に供給することによっても実施できる。
工程(IB)では、1種または2種以上の第3のアクリル樹脂(A)を押出機に供給できる。2種以上の第3のアクリル樹脂(A)を押出機に供給する場合、当該2種以上の樹脂(A)は同時に供給しても、タイミングを変えて個別に供給してもよい。
押出機へのアクリル樹脂(A)の供給は、押出機の原料投入口への供給である。押出機に、原料投入口への樹脂の供給をより確実かつ容易にするためにホッパーが配置されていることがあるが、工程(I)における押出機へのアクリル樹脂(A)の供給は、あくまでも押出機の原料投入口への供給を意味する。溶融成形による光学フィルムの製膜を連続的に実施できる限り、アクリル樹脂(A)の押出機への供給は連続的であっても断続的であってもよい。
押出機へのアクリル樹脂(A)の供給は、アクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物(B)の供給であってもよい。
本発明の製造方法における押出機からの溶融成形は、公知の溶融成形法(溶融押出成形法)に従って実施できる。例えば、先端にTダイが接続された押出機を使用して、光学フィルムを製膜すればよい。押出機は特に限定されず、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。
ポリマーフィルタによる溶融濾過を併用した溶融成形とすることが好ましく、この場合、ゲルのような光学的欠点となる異物の量が低減された光学的特性に優れる光学フィルムが得られる。ポリマーフィルタは、例えば、押出機の先端とTダイとの間に配置される。
押出機からの溶融成形により得た光学フィルムは、基本的に帯状である。この帯状の光学フィルムは、そのまま巻き取ってロールとすることができ、その後、必要に応じてさらなる工程(例えば、延伸工程)に供することができる。溶融成形により得た帯状の光学フィルムを、そのまま連続してさらなる工程に供してもよい。また、押出機からの溶融成形により得た光学フィルムを、例えばTダイの先端から垂れ流した状態としてもよいし、これを金属板などで受けた後に、板状に切断してもよい。これらの状態も、光学フィルムを溶融成形している状態に含まれる。「溶融成形を止める」とは、樹脂の切り替え時を含め、押出機を停止した(押出機を構成するスクリュー、ギヤポンプなどの構成部品を停止した)状態を指すのではなく、押出機からの溶融樹脂の移動を止めることを指す。すなわち、押出機を停止した後に押出機内の圧力によって樹脂の移動が継続している状態、より具体的な例として、押出機内で加圧状態にある樹脂がTダイなどから吐出されている状態であれば、「溶融成形を止める」状態に含まれない。なお、押出機に接続された配管に圧抜きバルブなどがあれば、ここからの樹脂の吐出の有無を確認することによっても、溶融樹脂の移動の有無を確認することができる。
本発明の製造方法は、押出機からの溶融成形により得た光学フィルムを延伸して、延伸フィルムである光学フィルムを得る工程(延伸工程)をさらに含んでいてもよい。このとき、押出機からの溶融成形により得た光学フィルムを原フィルムとして、延伸光学フィルムを得ることになる。押出機からの溶融成形と、溶融成形により得た光学フィルムの延伸とは連続的に行うことができる。この場合においても、本発明の製造方法では安定した延伸の実現が可能である。押出機からの溶融成形と、溶融成形により得た光学フィルムの延伸とを個別に行ってもよく、この場合、例えば溶融成形により得た光学フィルム(原フィルム)を巻き取ってロール(原反ロール)とし、その後、当該ロールから原フィルムを繰り出して延伸し、延伸光学フィルムを得ることになる。
樹脂を切り替える際に延伸条件、例えば延伸温度を変化させてもよく、これにより、より安定した延伸の実現が可能となる。延伸条件は、例えば、切り替え時におけるアクリル樹脂(A)のTgの変化に応じて変化させる。より具体的には、切り替え時にアクリル樹脂(A)のTgが高くなる場合、延伸温度をこれに追従させて上昇させる;切り替え時にアクリル樹脂(A)のTgが低くなる場合、延伸温度をこれに追従させて低下させる;などの制御を行う。前者の制御により、Tgの上昇に伴うフィルムの延伸性低下によって原フィルムが張力限界を超えて破断することを抑制できる。後者の制御により、原フィルムが溶融破断することを抑制できる。延伸条件の変化は、連続的に行っても段階的に行ってもよい。延伸条件、特に延伸温度の変化および変化後の延伸条件が安定するまでに時間を要することに留意することが好ましい。例えば、新たなアクリル樹脂(A)を押出機に供給し始めるタイミングで延伸条件を変化させてもよく、この場合、押出機内にある樹脂の溶融成形が進行する間に、延伸条件が安定することが期待される。
延伸工程を実施する具体的な方法は限定されず、公知の延伸方法を適用できる。延伸は一軸延伸であっても二軸延伸であってもよいし、二軸延伸は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であってもよい。溶融成形により得た帯状の光学フィルムを連続的に逐次二軸延伸する場合、そのMD方向(流れ方向、溶融成形の方向)に縦延伸した後に、TD方向(幅方向、溶融成形の方向とはフィルム面内において垂直な方向)に横延伸することが効率的である。
延伸温度は、原フィルムのTgを基準として、Tg−10℃〜Tg+50℃が好ましく、Tg〜Tg+40℃がより好ましい。延伸倍率は、1.2〜8倍程度であり、1.5〜5倍が好ましい。
溶融成形により得た帯状の光学フィルムを連続的に延伸する場合、工程(IA)を含む本発明の製造方法は、以下の方法であるといえる。すなわち、押出機からの溶融成形と、前記溶融成形により得た原フィルムの延伸とを連続して行うことにより、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂から構成された延伸フィルムである光学フィルムを得る、光学フィルムの製造方法であって、第1の前記アクリル樹脂から構成される原フィルムを溶融成形している前記押出機に、前記第1のアクリル樹脂とは主鎖に有する環構造が異なるとともに前記第1のアクリル樹脂と相溶する第2の前記アクリル樹脂の供給を開始し、当該供給の開始以後、前記押出機への前記第1のアクリル樹脂の供給を停止して、前記押出機から溶融成形する原フィルムを、当該原フィルムの溶融成形を止めることなく、前記第1のアクリル樹脂から構成される原フィルムから前記第2のアクリル樹脂から構成される原フィルムに切り替えることにより、前記延伸後に得られる前記光学フィルムを前記第1のアクリル樹脂から構成される光学フィルムから前記第2のアクリル樹脂から構成される光学フィルムに切り替える工程を含む、光学フィルムの製造方法。
溶融成形により得た帯状の光学フィルムを連続的に延伸する場合、工程(IB)を含む本発明の製造方法は、以下の方法であるといえる。すなわち、押出機からの溶融成形と、前記溶融成形により得た原フィルムの延伸とを連続して行うことにより、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂から構成された延伸フィルムである光学フィルムを得る、光学フィルムの製造方法であって、第1の前記アクリル樹脂から構成される光学フィルムを溶融成形している前記押出機に、前記第1のアクリル樹脂と相溶する第3の前記アクリル樹脂の供給を開始し、当該供給の開始以後、前記第1のアクリル樹脂とは主鎖に有する環構造が異なるとともに前記第1および第3のアクリル樹脂と相溶する第2の前記アクリル樹脂の供給の開始と、前記押出機への前記第1のアクリル樹脂の供給の停止とを行い、前記第2のアクリル樹脂の供給の開始以後、前記押出機への前記第3のアクリル樹脂の供給を停止して、前記押出機から溶融成形する原フィルムを、当該原フィルムの溶融成形を止めることなく、前記第1のアクリル樹脂から構成される原フィルムから前記第2のアクリル樹脂から構成される原フィルムに切り替えることにより、前記延伸後に得られる前記光学フィルムを前記第1のアクリル樹脂から構成される光学フィルムから前記第2のアクリル樹脂から構成される光学フィルムに切り替える工程を含む、光学フィルムの製造方法。
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した工程以外の任意の工程を含むことができる。当該任意の工程は、例えば、溶融成形により得た光学フィルム、または延伸工程を経た光学フィルム(延伸光学フィルム)の端部をスリットにより切除する工程(スリット工程)である。溶融成形により得た光学フィルムの端部では、その厚さの均一性が低いことがある。また、延伸工程を経たフィルム、特に幅延伸を得たフィルムでは、延伸に用いたクリップの把持跡が光学フィルムの端部に残留していることがある。スリット工程においてこれら端部を除去することにより、特性の均一性が高く、ロールへの巻き取りが容易な光学フィルムとすることができる。スリット工程を実施する具体的な方法は限定されない。
また例えば、当該任意の工程は、溶融成形により得た光学フィルムまたは延伸工程を経た光学フィルムに保護フィルムを積層する工程、および/またはナーリングを行う工程である。これらの工程の実施により、光学フィルムをロールに巻き取る際の傷の発生を抑制できる。保護フィルムには公知の保護フィルムを使用でき、その積層方法は限定されない。ナーリングを行う方法も限定されず、公知の方法を適用できる。ナーリングは、例えばフィルムの端部に、好ましくはフィルムの両端部に行う。スリット工程とこれらの工程とを併せて実施してもよい。
以下、アクリル樹脂(A)について説明する。
[アクリル樹脂(A)]
アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有する。環構造は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造、および無水マレイン酸構造からなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造は、光学フィルムへの使用に適した特性、例えば、高いTgのような熱的特性、製膜後の延伸による複屈折発現性または光学的等方性のような光学的特性を、その種類および含有率に応じてアクリル樹脂(A)に与える。アクリル樹脂(A)は2種以上の環構造を主鎖に有していてもよい。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、アクリル樹脂とする。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;の各単量体の重合により形成される単位である。光学的透明性の高い光学フィルムが得られるとともに、環化反応により樹脂の主鎖に環構造を形成できることから、アクリル樹脂(A)はMMA単位を構成単位として有することが好ましい。アクリル樹脂(A)は、これらの(メタ)アクリル酸エステル単位を2種以上有していてもよい。
アクリル樹脂(A)における環構造の含有率は、例えば、2重量%以上40重量%以下である。環構造の含有率の下限は、2.5重量%以上が好ましく、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上の順により好ましい。環構造の含有率の上限は、35重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましい。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル樹脂(A)またはアクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物(B)のフィルムへの成形性(製膜性)が低下したり、溶融成形により得た光学フィルムが過度に硬くかつ脆くなることで、可とう性をはじめとする機械的特性が低下したり、延伸工程の実施が困難になったりする。環構造の含有率が過度に小さくなると、高いTgなど、主鎖に位置する環構造による特性が享受できなくなる。
以下の式(1)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。式(1)に示す構造は、当該構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)の構成単位でもある。
式(1)におけるR1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR3は存在せず、X1が窒素原子のとき、R3は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基またはベンジル基である。フェニル基およびベンジル基では、ベンゼン環の1以上の水素原子が置換されていてもよい。X1が窒素原子のとき、R3は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましい。
X1が窒素原子のとき、式(1)に示される環構造はN−置換マレイミド構造である。N−置換マレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)は、例えば、単量体としてN−置換マレイミドおよび(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を共重合して形成できる。
X1が酸素原子のとき、式(1)に示される環構造は無水マレイン酸構造である。無水マレイン酸構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)は、例えば、単量体として無水マレイン酸および(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を共重合して形成できる。
以下の式(2)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。式(2)に示す構造は、当該構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)の構成単位でもある。
式(2)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR6は存在せず、X2が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基またはベンジル基である。X2が窒素原子のとき、R6は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましい。
X2が窒素原子のとき、式(2)に示される環構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造は、例えば、アクリル樹脂をメチルアミンなどのイミド化剤により環化して(イミド化して)形成できる。
X2が酸素原子のとき、式(2)に示される環構造は無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体であるアクリル樹脂を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
以下の式(3)に、ラクトン環構造の一例を示す。式(3)に示す構造は、当該構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)の構成単位でもある。
式(3)において、R7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでもよい。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
式(3)に示すラクトン環構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと、水酸基および/またはカルボキシル基を分子内に有する(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体であるアクリル樹脂において、当該各単量体に由来する構成単位間で脱アルコール環化縮合反応を進行させて形成できる。(メタ)アクリル酸エステルは、例えばMMAであり、水酸基および/またはカルボキシル基を分子内に有する(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)である。この場合、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて、R7がHであり、R8およびR9がCH3である、式(3)に示すラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A)を形成できる。
第1のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造と、第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造とは互いに異なっている。環構造の組み合わせは特に限定されないが、「第1のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造/第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造」で表して、例えば、N−置換マレイミド構造/グルタルイミド構造、グルタルイミド構造/N−置換マレイミド構造、N−置換マレイミド構造/ラクトン環構造、ラクトン環構造/N−置換マレイミド構造、グルタルイミド構造/ラクトン環構造、ラクトン環構造/グルタルイミド構造である。
第3のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造は、第1または第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造と同じでも異なっていてもよい。異なる場合の環構造の組み合わせは特に限定されないが、「第1のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造/第3のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造/第2のアクリル樹脂(A)が主鎖に有する環構造」で表して、例えば、N−置換マレイミド構造/グルタルイミド構造/ラクトン環構造、ラクトン環構造/グルタルイミド構造/N−置換マレイミド構造、グルタルイミド構造/N−置換マレイミド構造/ラクトン環構造、ラクトン環構造/N−置換マレイミド構造/グルタルイミド構造である。
アクリル樹脂(A)が主鎖に環構造を有することにより、当該樹脂(A)から構成される光学フィルムの耐熱性が向上する。アクリル樹脂(A)のTgは、例えば、110℃以上であり、環構造の種類および含有率によっては115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上とすることができる。アクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムのTgも同様に、例えば110℃以上であり、アクリル樹脂(A)のTgおよび光学フィルムの組成によっては115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上とすることができる。このように高いTgを有する光学フィルムは、限られたスペース内で光源、電源部、回路基板といった発熱部に近接した配置を余儀なくされるLCDなどの画像表示装置への使用に適している。
第1のアクリル樹脂(A)のTgと、第2のアクリル樹脂(A)のTgとの差は18℃以下が好ましく、16℃以下がより好ましく、14℃以下がさらに好ましい。
工程(IB)を実施する場合、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第3のアクリル樹脂(A)のTgとの差、および第3のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの差が、いずれも18℃以下が好ましく、16℃以下がより好ましく、14℃以下がさらに好ましい。また、第3のアクリル樹脂(A)のTgが、第1のアクリル樹脂(A)のTgと第2のアクリル樹脂(A)のTgとの間にあることが好ましい。
主鎖の環構造により、アクリル樹脂(A)は光学的に等方な樹脂となりうる。光学的に等方な樹脂または樹脂組成物とは、当該樹脂または樹脂組成物をフィルムとし、これを原フィルムとして一軸延伸したときに、波長550nmの光に対する面内位相差Reが5nm以下であるとともに、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthの絶対値が5nm以下となる樹脂または樹脂組成物をいう。アクリル樹脂(A)が光学的に等方な樹脂である場合、光学フィルムの組成によっては、波長550nmの光に対する面内位相差Reが5nm以下であるとともに、当該光に対する厚さ方向の位相差Rthの絶対値が5nm以下である、光学的に等方な光学フィルム(未延伸フィルムまたは延伸フィルム)が実現する。光学的に等方な光学フィルムは、例えば、偏光子保護フィルムとしての使用に好適である。
フィルムの面内位相差Reは、当該フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、遅相軸方向に垂直な方向(進相軸方向)の屈折率をny、フィルムの厚さをd(nm)として、式Re=(nx−ny)×dにより表される。フィルムの厚さ方向の位相差Rthは、さらに当該フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとして、式Rth={(nx+ny)/2−nz}×dにより表される。本明細書におけるnx、nyおよびnzは、波長550nmの光に対する屈折率である。
第1および第2のアクリル樹脂(A)は光学的に等方な樹脂であってもよい。工程(IB)を実施する場合、第1、第2および第3のアクリル樹脂が光学的に等方な樹脂であってもよい。
アクリル樹脂(A)の分子量は、重量平均分子量にして、例えば3000〜100万であり、1万〜75万が好ましく、5万〜50万がより好ましい。
アクリル樹脂(A)における構成単位および環構造の種類および含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)、赤外線分光分析(IR)あるいは元素分析により評価できる。例えば、ラクトン環構造の含有率は、特開2001-151814号公報に記載の方法により求めることができる。
アクリル樹脂(A)は、本発明の効果が得られる限り、主鎖に位置する環構造および(メタ)アクリル酸エステル単位以外の任意の構成単位を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。
アクリル樹脂(A)は、公知の重合方法および環化方法により形成できる。
[樹脂組成物(B)]
本発明の製造方法では、アクリル樹脂(A)から構成される光学フィルムを得ている。「アクリル樹脂(A)から構成される」とは、主成分がアクリル樹脂(A)であることを意味する。主成分とは含有率が最も大きな成分であり、その具体的な含有率は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上であり、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上の順により好ましい。本発明の製造方法で得た光学フィルムは、アクリル樹脂(A)以外の材料、例えば、アクリル樹脂(A)以外の樹脂、低分子材料、添加剤などを、光学フィルムとして十分な光学的透明性が確保されるとともに本発明の効果が得られる範囲で含んでいてもよい。本発明の製造方法で得る光学フィルムは、アクリル樹脂(A)と、必要に応じてこれらの材料とを含む樹脂組成物(B)からなる。本発明の製造方法で得る光学フィルムは、アクリル樹脂(A)からなる光学フィルムであってもよい。
樹脂組成物(B)からなる光学フィルムは、アクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物(B)を押出機に供給し、溶融成形して得ることができる。
樹脂組成物(B)は、互いに相溶する限り、2種以上のアクリル樹脂(A)を含んでいてもよい。樹脂組成物(B)は、アクリル樹脂(A)と相溶する、アクリル樹脂(A)以外の熱可塑性アクリル樹脂を、本発明の効果が得られる範囲でさらに含んでいてもよい。
光学フィルムとして十分な光学的透明性が確保されるとともに本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(B)は、アクリル樹脂(A)以外の樹脂を含んでいてもよい。当該樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ゴム質重合体である。樹脂組成物(B)は、2種以上のこれら樹脂を含むことができる。
光学フィルムとして十分な光学的透明性が確保されるとともに本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(B)は、樹脂以外の材料、例えば添加剤を含むことができる。添加剤は、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤である。樹脂組成物(B)における添加剤の含有率は、好ましくは7重量%未満、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。
樹脂組成物(B)は、光学的に等方な樹脂組成物であってもよい。
樹脂組成物(B)は、製膜後の延伸により位相差を発現する樹脂組成物であってもよい。この場合、樹脂組成物(B)からなる位相差フィルムが得られる。位相差の発現の程度は、樹脂組成物(B)の組成および樹脂組成物(B)からなる原フィルムの延伸条件によって制御できる。
樹脂組成物(B)の形成方法は特に限定されない。アクリル樹脂(A)ならびに必要に応じて添加剤および/またはさらなる樹脂を公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。この場合、混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、および加圧ニーダーである。
[光学フィルム]
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、アクリル樹脂(A)から構成される(アクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物(B)からなる)。より具体的には、樹脂の切り替え前は第1のアクリル樹脂(A)から構成され、樹脂の切り替え後は第2のアクリル樹脂(A)から構成される。樹脂の切り替え時に得られる光学フィルム、このフィルムは上述のように光学フィルムとして十分な光学的特性を示し、実際に光学フィルムとして使用できるように制御できる、は、工程(IA)を実施する場合には第1および第2のアクリル樹脂(A)の混合物から構成される(混合物を含む)。工程(IB)を実施する場合には、各アクリル樹脂(A)の供給の開始および停止のタイミングによって、第1および第3のアクリル樹脂(A)の混合物、第3のアクリル樹脂(A)、第3および第2のアクリル樹脂(A)の混合物、または第1、第2および第3のアクリル樹脂(A)の混合物から構成される。すなわち、樹脂の切り替え時に得られる光学フィルムは、主鎖に第1の環構造を有するアクリル樹脂(A1)と、第1の環構造とは異なる第2の環構造を主鎖に有し、アクリル樹脂(A1)と相溶するアクリル樹脂(A2)とを含む。樹脂の切り替え時には、通常、光学フィルムの組成は連続的に変化する。光学フィルムの組成は、公知の組成分析法、例えば1H−NMR、IR、元素分析などにより評価できるが、樹脂の切り替え時に得られる光学フィルムは、当該組成分析法における検出限界程度から含有率にして50重量%に至るまで、主成分ではないアクリル樹脂(A)を含む。上述の説明から理解できるようにこのような光学フィルムであっても、光学フィルムとして十分な光学的特性、熱的特性を示すように本発明の製造方法を制御可能である。換言すれば、本発明の製造方法では、光学フィルムの光学的特性、熱的特性といった諸特性を保持したまま、光学フィルムを構成する樹脂を(光学フィルムの組成を)変化させることができる。なお、樹脂の切り替えの完了は、光学フィルムの組成を分析することにより確認できる。
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、樹脂の切り替え時においても、アクリル樹脂(A)間の相溶性に基づく高い光学的透明性を有する。当該フィルムの全光線透過率は、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上である。全光線透過率は、フィルムの光学的透明性の指標となる。全光線透過率が85%未満のフィルムは光学用途に適さない。フィルムの全光線透過率は、JIS K7361の規定に準拠して求めることができる。
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、樹脂の切り替え時においても、アクリル樹脂(A)間の相溶性に基づく低いヘイズを有する。当該フィルムのヘイズは、例えば、1%以下である。
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、配向複屈折の発生がない、位相差がほぼゼロである光学的に等方なフィルム(ゼロ位相差フィルム)とすることができる。樹脂の切り替え時においても同じである。光学的に等方なフィルムは、例えば、偏光子保護フィルムとして使用することができ、この場合、当該保護フィルムを偏光子と組み合わせて偏光板を形成することができる。本明細書では、波長550nmの光に対する位相差(面内位相差Re、および厚さ方向の位相差Rthの絶対値)がいずれも5nm以下である場合を、配向複屈折の発生がない光学的に等方なフィルムであるとする。ゼロ位相差フィルムは、ReおよびRthの絶対値ともに3nm以下が好ましく、1.5nm以下がより好ましく、1nm以下がさらに好ましい。
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、未延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、例えば、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム、斜め延伸フィルムである。二軸延伸フィルムは、逐次二軸延伸フィルムであっても同時二軸延伸フィルムであってもよい。
本発明の製造方法により得た光学フィルムの表面に、必要に応じて各種の機能性コーティング層を形成してもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。
本発明の製造方法により得た光学フィルムは、従来の光学フィルムと同様に、各種の光学部材として用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルム、位相差フィルムである。視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどに使用してもよい。
偏光板は、一般に、ポリビニルアルコールなどの樹脂フィルムからなる偏光子と、当該偏光子を保護するための偏光子保護フィルムとを備える。本発明の製造方法により得た光学フィルムは、例えば、偏光子保護フィルムとして偏光板に組み込まれる。
偏光板の構造は特に限定されず、偏光子の一方の面に当該光学フィルムが積層された構造であってもよいし、一対の当該光学フィルムによって偏光子が挟持された構造であってもよい。偏光板の構造の典型的な一例は、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して得た偏光子の片面または両面に、接着剤層または易接着層を介して本発明の製造方法により得たフィルムを接合させた構造である。
偏光子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子;などの公知の偏光子である。なかでも、ポリビニルアルコールを染色、延伸して得た偏光子が好ましい。偏光子の厚さは特に限定されず、一般に5〜100μm程度である。
偏光板は、偏光子および本発明の製造方法により得た光学フィルムの他に、任意の部材を有していてもよい。当該部材は、例えば、TACフィルム、ポリカーボネートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリナフタレンテレフタレートフィルムである。なかでも、偏光板としての光学特性に優れることから、アクリル樹脂フィルムが好ましい。このアクリル樹脂フィルムは、光学的に等方なフィルムであっても位相差フィルムであってもよい。
偏光板は、その表面特性、例えば耐傷つき特性の向上を目的として、ハードコート層を有していてもよい。ハードコート層は、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、紫外線硬化樹脂、ウレタン系ハードコート剤からなる。紫外線硬化樹脂は、例えば紫外線硬化アクリルウレタン、紫外線硬化エポキシアクリレート、紫外線硬化(ポリ)エステルアクリレート、紫外線硬化オキセタンである。ハードコート層の厚さは、通常0.1〜100μmである。ハードコート層を形成する前に、その下地となる層にプライマー処理を行ってもよく、当該層に、反射防止処理あるいは低反射処理などの公知の防眩処理を行ってもよい。
画像表示装置は、例えばLCDであり、当該LCDの画像表示部が、液晶セル、バックライトなどの部材とともに、本発明の製造方法により得た光学フィルムを備える。画像表示装置は、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)、有機電界発光表示装置(OLED)でありうる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。実施例では、便宜上、化合物について下記の略称を用いる。
CMI:N−シクロヘキシルマレイミド
PMI:N−フェニルマレイミド
MMA:メタクリル酸メチル
DM:n−ドデシルメルカプタン
St:スチレン
MEK:メチルエチルケトン
本実施例において作製した樹脂、樹脂組成物およびフィルムの評価方法を示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
樹脂および樹脂組成物のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量(Mw)]
樹脂および樹脂組成物のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により求めた。Mwの測定に用いた装置および測定条件は、以下のとおりである。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム:東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
・分離カラム:東ソー製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
[フィルムの厚さ]
作製したフィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて測定した。
本実施例では、溶融成形によるフィルムの製膜において、樹脂の切り替え前後におけるフィルム特性の変化を評価した。当該フィルム特性の評価方法を以下に示す。
[位相差]
作製したフィルム(延伸フィルム)の位相差は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて、波長550nmの光に対する面内位相差Re、同波長の光に対する厚さ方向の位相差Rthとして求めた。厚さ方向の位相差Rthについては、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率およびフィルムの厚さd、ならびに上記装置によりフィルムを40°傾斜させて測定した位相差値(Re(40°))および三次元屈折率nx、ny、nzを用いて、式Rth={(nx+ny)/2−nz}×dより求めた。nxはフィルムの遅相軸方向の屈折率、nyは進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)である。フィルムを傾斜させる方向について、遅相軸を傾斜軸としたRe(S40°)と進相軸を傾斜軸としたRe(F40°)とを予め測定し、Re(S40°)>Re(F40°)となる場合は遅相軸を、Re(S40°)<Re(F40°)となる場合は進相軸を、それぞれ傾斜軸とした。
位相差の測定は、フィルムの中央付近、一点に対して行った。面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthともに、絶対値にて評価した。面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthの絶対値が5nm以下の場合、当該フィルムには配向複屈折が発現しておらず、光学的に等方なフィルムであるとした。樹脂の切り替え前後において、光学的に等方なフィルムの製造が連続的に達成された場合を「○」、達成されなかった場合を「×」とした。
[ヘイズ]
作製したフィルム(延伸フィルム)のヘイズは、濁度計(日本電色工業製、NDH5000)を用いて測定した。樹脂の切り替え前後において、ヘイズ1%以下のフィルムの製造が連続的に達成された場合を「○」、達成されなかった場合を「×」とした。
[延伸安定性]
樹脂の切り替え前後において、原フィルムの安定した延伸が連続的に達成された場合を「○」、達成されなかった場合を「×」とした。
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、MMA181重量部、CMI12重量部、PMI6重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.1重量部、およびトルエン1561重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら内温を105℃まで昇温させ、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)0.206重量部を添加し、同時に、トルエン42重量部およびt−アミルパーオキシイソノナノエート0.41重量部の混合物の滴下を開始した。2時間かけて上記混合物を滴下した後、さらに6時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度10.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤溶液を0.03kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を0.01kg/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。その後、二軸押出機内の樹脂をペレット化して、N−シクロヘキシルマレイミド構造およびN−フェニルマレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A−1)のペレットを得た。
アクリル樹脂(A−1)のMwは19.3万、MMA単位の含有率は91重量%、CMI単位の含有率は6重量%、PMI単位の含有率は3重量%、Tgは123℃であった。
(製造例2〜4)
反応容器に仕込んだ単量体を、「MMA162重量部、CMI22重量部、およびPMI16重量部」(製造例2)、「MMA140重量部、CMI34重量部、およびPMI26重量部」(製造例3)、「MMA146重量部、CMI36重量部、PMI8重量部、およびSt10重量部」(製造例4)、とした以外は製造例1と同様にして、N−シクロヘキシルマレイミド構造およびN−フェニルマレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A−2)〜(A−4)のペレットを得た。
アクリル樹脂(A−2)のMwは20.0万、MMA単位の含有率は81重量%、CMI単位の含有率は11重量%、PMI単位の含有率は8重量%、Tgは134℃であった。アクリル樹脂(A−3)のMwは17.4万、MMA単位の含有率は70重量%、CMI単位の含有率は17重量%、PMI単位の含有率は13重量%、Tgは144℃であった。アクリル樹脂(A−4)のMwは20.0万、MMA単位の含有率は73重量%、CMI単位の含有率は18重量%、PMI単位の含有率は4重量%、Tgは139℃であった。
(製造例5)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、MMA30重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.05重量部、およびMEK65重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら内温を80℃まで昇温させ、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス575)0.052重量部およびMEK5重量部を添加した。添加後、窒素気流下の還流状態で、反応容器内を6時間攪拌した。
次に、得られた重合溶液をベントタイプスクリュー二軸押出機に導入してバレル温度240℃で脱揮した後、二軸押出機内の樹脂をペレット化して、PMMA(A−5)のペレットを得た。PMMA(A−5)のTgは97℃、Mwは10.1万であった。
(製造例6)
国際公開第06/129573号の製造例1および特開2011−246623号公報の実施例を参考に、製造例5で作製したPMMA(A−5)を用いて、主鎖にグルタルイミド構造を有するアクリル樹脂を製造した。具体的にはPMMA(A−5)を、バレル温度260℃に設定した、サイドフィーダーを有するベントタイプスクリュー二軸押出機に導入し、上記サイドフィーダーからPMMA(A−5)100重量部に対して5重量部のモノメチルアミンを注入することにより、PMMA(A−5)の主鎖にグルタルイミド構造(X2が窒素原子であり、R4が水素原子、R5およびR6がメチル基である式(2)に示す環構造)を形成する環化反応を進行させた。この反応は、副生成物および過剰のメチルアミンを押出機のベント口より除去するとともに、得られたアクリル樹脂におけるグルタルイミド構造の含有率(イミド化率)が5重量%となるようにPMMA(A−5)およびモノメチルアミンを連続的に押出機に供給しながら進行させた。反応後の樹脂をペレット化して、主鎖にグルタルイミド構造を有するアクリル樹脂(A−6)のペレットを得た。
アクリル樹脂(A−6)のTgは119℃、Mwは9.6万であった。
(製造例7)
主鎖にグルタルイミド構造を有するアクリル樹脂(A−7)として、市販のアクリル樹脂(ダイセル・エボニック製、プレキシイミド8813)を準備した。アクリル樹脂(A−7)は、X2が窒素原子であり、R4〜R6がメチル基である式(2)に示す環構造を主鎖に有する。アクリル樹脂(A−7)は、当該構造とMMA単位とを構成単位として有し、グルタルイミド構造の含有率は42重量%であった。
アクリル樹脂(A−7)のTgは132℃、Mwは14.3万であった。
(製造例8)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MMA229.6重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)33重量部、重合溶媒としてトルエン248.6重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.138重量部、およびn−ドデシルメルカプタン0.1925重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)0.2838重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.5646重量部およびSt12.375重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)としてリン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A−18)0.206重量部を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成する環化反応を進行させた。
次に、上記環化反応で得られた重合溶液を、240℃に保持した多管式熱交換器を通して環化反応を完結させた後、バレル温度250℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に31.2重量部/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。
その際、イオン交換水を0.47重量部/時の投入速度で第2ベントの後から、紫外線吸収剤溶液を0.59重量部/時の投入速度で第4ベントの後から、それぞれ投入した。紫外線吸収剤溶液には、0.66重量部の紫外線吸収剤(ADEKA製、アデカスタブ LA−F70)を、トルエン1.23重量部に溶解させた溶液を用いた。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A−8)のペレットを得た。アクリル樹脂(A−8)のMwは13.1万、ラクトン環構造の含有率は13.6重量%、MMA単位の含有率は81.3重量%、St単位の含有率は5.1重量%、Tgは121℃であった。
(製造例9)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MMA40重量部、MHMA10重量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部、および重合溶媒としてトルエン50重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)0.05重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)としてリン酸ステアリル(堺化学工業製、Phoslex A−18)0.05重量部を加え、約90℃〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成する環化反応を進行させた。
次に、上記環化反応で得られた重合溶液を、240℃に保持した多管式熱交換器に通して環化反応を完結させた後、バレル温度250℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に90重量部/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。
その際、イオン交換水を1.3重量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、環化触媒失活剤溶液を0.6重量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。環化触媒失活剤溶液には、1.0重量部のオクチル酸カルシウム(日本化学産業製、ニッカオクチクスカルシウム5重量%)をトルエン1.8重量部に溶解させた溶液を用いた。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより濾過しながら排出し、ペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂(A−9)のペレットを得た。アクリル樹脂(A−9)のMwは13.2万、ラクトン環構造の含有率は24.5重量%、Tgは129℃であった。
(製造例10)
二軸押出機のサイドフィーダーから市販のスチレン−アクリロニトリル樹脂(旭化成製、スタイラックAS783、スチレン単位の含有率73重量%、アクリロニトリル単位の含有率27重量%、Mw22万)のペレットを10重量部/時の投入速度でさらに投入した以外は製造例8と同様にして、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂を88重量%と、スチレン−アクリロニトリル樹脂を12重量%とを含む、樹脂組成物(A−10)のペレットを得た。樹脂組成物(A−10)のMwは14.9万、Tgは124℃であった。
(製造例11)
スチレン−アクリロニトリル樹脂(A−11)として、市販の樹脂(旭化成製、スタイラックAS783)を準備した、樹脂(A−11)におけるスチレン単位の含有率は73重量%、アクリロニトリル単位の含有率は27重量%、Mwは22万、Tgは103℃であった。
各製造例で作製した樹脂および樹脂組成物と、その評価結果を以下の表1にまとめる。
以下の実施例および比較例において、各製造例で作製した樹脂のペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させてから用いた。
(実施例1)
第1のアクリル樹脂として製造例1で作製した樹脂(A−1)を、ポリマーフィルタ(濾過精度5μm)を備えるとともに先端にTダイを備えた単軸押出機にホッパーから供給し、当該押出機を用いて成形温度270℃、成形量24kg/時で溶融成形して、第1のアクリル樹脂から構成されるフィルム(原フィルム)を連続的に製膜した。製膜した帯状の原フィルムは、引き続きオーブン縦延伸機、次いでテンター横延伸機に供給して連続的に逐次二軸延伸し、二軸延伸フィルムである光学フィルムとした。縦延伸および横延伸ともに、延伸温度を第1のアクリル樹脂(A)のTg+15℃、延伸倍率を2.2倍とした。延伸により得られた光学フィルムは、横延伸時にフィルムの両端部に形成されたクリップ跡を除去するためにシアーカッターを用いたスリットにより幅700mmにトリミングし、ポリエチレン製の保護フィルムを積層した後、巻き取り機により連続的にロールに巻き取った。
このような第1のアクリル樹脂を用いた原フィルムの製膜および延伸が安定したのを確認後、ホッパーへの第1のアクリル樹脂の供給を止め、ホッパーの内部が空になる直前に、第2のアクリル樹脂として製造例6で作製した樹脂(A−6)をホッパーから押出機に供給して樹脂を切り替え、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。なお、縦延伸および横延伸の延伸温度は、樹脂の切り替えの開始後、完了までの間に、第1のアクリル樹脂(A)のTg+15℃から第2のアクリル樹脂(A)のTg+15℃に徐々に変化させた。
(実施例2〜6)
第1のアクリル樹脂および第2のアクリル樹脂を以下の表2のようにした以外は実施例1と同様にして、押出機に供給する樹脂の切り替えを行った。
(実施例7)
実施例1と同様にして、第1のアクリル樹脂として樹脂(A−1)を用いた原フィルムの連続的な製膜および延伸を安定させた。次に、ホッパーへの第1のアクリル樹脂の供給を止め、ホッパーの内部が空になる直前に、第3のアクリル樹脂として製造例8で作製した樹脂(A−8)30kgをホッパーから押出機に供給し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。そして、ホッパーの内部が再び空になる直前に、第2のアクリル樹脂として製造例6で作製した樹脂(A−6)をホッパーから押出機に供給して樹脂を切り替え、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。なお、縦延伸および横延伸の延伸温度は、樹脂の切り替えの開始後、完了までの間に、第1のアクリル樹脂(A)のTg+15℃から第3のアクリル樹脂(A)のTg+15℃を経て、第2のアクリル樹脂(A)のTg+15℃に徐々に変化させた。
(実施例8、比較例1,2)
第1のアクリル樹脂、第2のアクリル樹脂および第3のアクリル樹脂(比較例においては中間アクリル樹脂)を以下の表2のようにした以外は実施例7と同様にして、押出機に供給する樹脂の切り替えを行った。
(実施例9)
第1のアクリル樹脂として樹脂(A−1)の代わりに製造例2で作製した樹脂(A−2)を用いた以外は実施例1と同様にして、第1のアクリル樹脂を用いた連続的な原フィルムの製膜および延伸を安定させた。次に、ホッパーへの第1のアクリル樹脂の供給を止め、ホッパーの内部が空になる直前に、第1のアクリル樹脂である樹脂(A−2)と第2のアクリル樹脂である製造例6で作製した樹脂(A−6)とのドライブレンド混合物をホッパーから押出機に供給して樹脂の切り替えを開始し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。ドライブレンド混合物は、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂とのブレンド比(重量比)が異なるものを4種類(第1のアクリル樹脂:第2のアクリル樹脂=4:1、3:2、2:3、および1:4)準備し、15kgずつ、第1のアクリル樹脂に対する第2のアクリル樹脂の重量比が次第に増加する順序で押出機に供給した。混合物の押出機への供給は、直前に供給した混合物がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に行った。そして、最後の混合物(重量比にして第1のアクリル樹脂:第2のアクリル樹脂=1:4)がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に、第2のアクリル樹脂である樹脂(A−6)をホッパーから押出機に供給して樹脂の切り替えを完了し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。縦延伸および横延伸の延伸温度は、樹脂の切り替えの開始後、完了までの間に、第1のアクリル樹脂(A)のTg+15℃から第2のアクリル樹脂(A)のTg+15℃に徐々に変化させた。
(実施例10)
第1のアクリル樹脂として樹脂(A−2)の代わりに樹脂(A−6)を用い、第2のアクリル樹脂として樹脂(A−6)の代わりに樹脂(A−2)を用いた以外は実施例9と同様にして、樹脂の切り替えを挟んで原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。
(比較例3)
実施例1と同様にして、第1のアクリル樹脂として樹脂(A−1)を用いた原フィルムの連続的な製膜および延伸を安定させた。次に、ホッパーへの第1のアクリル樹脂の供給を止め、ホッパーの内部が空になる直前に、第1のアクリル樹脂である樹脂(A−1)と中間アクリル樹脂として製造例5で作製した樹脂(A−5;PMMA)とのドライブレンド混合物をホッパーから押出機に供給して樹脂の切り替えを開始し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。ドライブレンド混合物は、第1のアクリル樹脂と樹脂(A−5)との重量比が異なるものを4種類(第1のアクリル樹脂:樹脂(A−5)=4:1、3:2、2:3、および1:4)準備し、15kgずつ、第1のアクリル樹脂に対する樹脂(A−5)の重量比が次第に増加する順序で押出機に供給した。混合物の押出機への供給は、直前に供給した混合物がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に行った。次に、最後の混合物(重量比にして第1のアクリル樹脂:樹脂(A−5)=1:4)がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に、樹脂(A−5)15kgをホッパーから押出機に供給した。
続いて、ホッパーの内部が空になる直前に、樹脂(A−5)と第2のアクリル樹脂である樹脂(A−6)とのドライブレンド混合物をホッパーから押出機に供給し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。ドライブレンド混合物は、樹脂(A−5)と第2のアクリル樹脂との重量比が異なるものを4種類(樹脂(A−5):第2のアクリル樹脂=4:1、3:2、2:3、および1:4)準備し、15kgずつ、樹脂(A−5)に対する第2のアクリル樹脂の重量比が次第に増加する順序で押出機に供給した。混合物の押出機への供給は、直前に供給した混合物がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に行った。そして、最後の混合物(重量比にして樹脂(A−5):第2のアクリル樹脂=1:4)がホッパーから捌け、ホッパーの内部が空になる直前に、第2のアクリル樹脂である樹脂(A−6)をホッパーから押出機に供給して樹脂の切り替えを完了し、そのまま原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。なお、縦延伸および横延伸の延伸温度は、樹脂の切り替えの開始後、完了までの間に、第1のアクリル樹脂(A)のTg+15℃から中間アクリル樹脂のTg+15℃を経て、第2のアクリル樹脂(A)のTg+15℃に徐々に変化させた。
(比較例4)
樹脂(A−5)の代わりに製造例11で準備した樹脂(A−11)を用いた以外は比較例3と同様にして、樹脂の切り替えを挟んで原フィルムの連続的な製膜および延伸を続行した。
各実施例および比較例の結果を、以下の表2に示す。
なお、表2の「樹脂間の相溶性」の欄には、第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂を使用しない場合、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂との相溶性を示す。互いに相溶するときは「○」、相溶しないときは「×」である。第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂を使用する場合、「/」を挟んで左側に第1のアクリル樹脂と第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂との相溶性を、右側に第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂と第2のアクリル樹脂との相溶性を示す。互いに相溶するときは「○」、相溶しないときは「×」である。
また、第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂を使用する場合、表2の「ΔTg」の欄において、第1のアクリル樹脂に対する第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂のTgの差と、第3のアクリル樹脂または中間アクリル樹脂に対する第2のアクリル樹脂のTgの差とを括弧内に示す。
表2に示すように実施例1〜10では、連続した製膜および延伸を実施しながら、樹脂を安定して切り替えることができた。具体的に、樹脂の切り替えの前後において光学的に等方でありヘイズ1%以下の延伸光学フィルムを連続して製造することができた。樹脂の切り替え時において、光学フィルムを構成する樹脂は第1のアクリル樹脂から第2のアクリル樹脂に一時に切り替わるのではなく、第1のアクリル樹脂の方が多い両者の混在状態から第2のアクリル樹脂の方が多い両者の混在状態に次第に変化し、最終的に第2のアクリル樹脂に切り替わることになる。この両者が混在した状態においても、形成したフィルムは光学的に等方かつヘイズ1%以下の二軸延伸フィルムであり、光学フィルムとして十分に使用できるフィルムであった。
一方、比較例1では、樹脂の切り替え前後でヘイズ1%以下のフィルムの形成こそ維持できたものの、延伸時にフィルムが破断し、延伸を安定して行うことができなかった。第1および第2のアクリル樹脂と中間アクリル樹脂であるPMMAとのTg差がその原因の一つと考えられた。また、PMMAの混在により、樹脂の切り替えの際に光学的に等方な光学フィルムを連続して製造することができず、樹脂の切り替え後、再び光学的に等方な光学フィルムを得るためにはPMMAの混在が完全になくなるまで長時間を(大量の第2のアクリル樹脂の供給を)要した。また、比較例3では、延伸の安定性こそ確保されたが、比較例1と同様に樹脂の切り替えの際に光学的に等方な光学フィルムを連続して製造できなかった。
比較例2では、比較例1に比べてさらに、第1および第2のアクリル樹脂と中間アクリル樹脂との非相溶性により、樹脂の切り替え前後でヘイズ1%以下のフィルムの形成が維持できなかった。すなわち、スチレン−アクリロニトリル樹脂の混在により、樹脂の切り替えの際にヘイズ1%以下および光学的に等方な光学フィルムを連続して製造することができず、再びヘイズ1%以下および光学的に等方な光学フィルムを得るためにはスチレン−アクリロニトリル樹脂の混在がなくなるまで長時間を(大量の第2のアクリル樹脂の供給を)要した。また、比較例4では、延伸の安定性こそ確保されたが、比較例2と同様に樹脂の切り替えの際にヘイズ1%以下および光学的に等方な光学フィルムを連続して製造できなかった。